フィジカルPPA vs バーチャルPPA徹底比較 経済メリットと自動見積もりシミュレーター構想の解説【2025年最新】

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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フィジカルPPA vs バーチャルPPA徹底比較 経済メリットと自動見積もりシミュレーター構想の解説【2025年最新】

はじめに:オフサイトPPAが注目される背景

企業の脱炭素ニーズが高まる中、電力の調達方法としてコーポレートPPA (Power Purchase Agreement)が世界的に注目されています。特に自社敷地外の発電所から電力を購入するオフサイトPPAは、再生可能エネルギー導入を加速させる有力な手段です。長期契約によって再エネ電力を安定供給できることから、企業は電力コストの長期安定化とCO2排出削減を同時に実現できます。また、日本でも再エネ比率向上の政策目標に沿って、企業と発電事業者が直接契約を結ぶケースが増え始めています。

本記事では、オフサイトPPAの2つの主要形態であるフィジカルPPA(電力の実供給を伴う契約)とバーチャルPPA(電力の受渡しを伴わない金融型契約)の仕組みや経済メリットを世界最高水準の解像度で解説します。それぞれの違いを比較検討するための最適な軸を提示し、経済効果の試算方法やリスク要因も詳しく整理します。

さらに、PPA提案・試算業務を自動化する最新のオフサイトPPA見積もりシミュレーターについても要件と設計を掘り下げて紹介します。専門的な内容をできるだけ平易に噛み砕き、事実ベースでエビデンスを示しながら説明しますので、再エネ調達を検討する企業担当者や提案する事業者の皆様にとって有益な情報となるでしょう。

オフサイトPPAとは?オンサイトPPAとの違い

PPA(電力購入契約)とは、発電事業者と需要家(電力を使う企業)が長期の電力売買契約を結ぶスキームです。その中でもコーポレートPPAは、企業が再生可能エネルギー電力を10~20年以上の長期で購入する契約形態を指します。

PPAには大きく分けて、自社施設内に発電設備を設置するオンサイトPPAと、自社敷地外の発電所から系統を介して電力供給を受けるオフサイトPPAがあります。オンサイトPPAでは工場や建物の屋根・敷地に設備を置き直接利用しますが、供給量に限界があり大規模需要には対応しづらい面があります。これに対しオフサイトPPAは遠隔地の大規模太陽光・風力などから供給を受けられるため、より大きな再エネ導入量を実現できるメリットがあります。

オフサイトPPAには主に2種類の契約形態が存在します:

  • フィジカルPPA(Physical PPA):発電した電力と環境価値(再エネ由来である証書)をセットで需要家に供給する契約

  • バーチャルPPA(Virtual PPA):発電した電力は市場などで売電し、需要家は環境価値のみを購入する金融契約

まずはそれぞれの仕組みと特徴、経済メリット・デメリットについて詳しく見ていきましょう。

フィジカルPPA:発電電力の直接供給モデル

フィジカルPPAとは、需要家(電力を使う企業)が再エネ発電事業者と結び、特定の発電所から実際の電力供給を受ける契約形態です。企業は再エネ由来の「電力(kWh)」と「環境価値」をセットで購入し、自社の消費電力をクリーン電力でまかないます。従来の電力会社から購入する場合と異なり、企業と特定の発電所が長期契約で直接結びつくため、「自社の電力がどの発電所から供給されているか」を明確に特定できる点が特徴です。この高いトレーサビリティにより、企業は調達電力の環境性能を社内外に明確に示すことができます。

仕組みと環境価値の扱い

フィジカルPPAの基本スキームは、発電事業者が需要家の敷地外に再エネ発電設備を設置し、一般の送配電網を通じて需要家に電力を届けるというものです。例えば太陽光発電所で発電された電気は系統に送られ、需要家の施設で受電・消費されます。電力が再エネ由来である証明として、同時に非化石証書グリーン電力証書といった環境価値証書が発電事業者から需要家に譲渡されます。電力と環境価値をセットでやり取りすることがフィジカルPPA本来の特徴であり、需要家は実際に再エネ電力を使っているとみなされます。

フィジカルPPAでは電力の需給バランス(同時同量)にも留意が必要です。日本の系統では30分や1時間単位で需要と供給を一致させるルールがあり、発電量が需要を上回る余剰電力や不足電力が発生した場合は調整が求められます。通常、この調整や託送(送配電網の利用)は小売電気事業者が間に入って行います。つまり需要家は契約上は再エネ発電事業者と長期契約を結びつつ、実務上は小売電気事業者から特定の再エネ電源由来のメニューで電力供給を受ける形となります。発電所から需要家までの物理的な電力供給経路が確保され、需要家の消費電力量に応じて発電電力量がひも付けられる点がフィジカルPPAの要です。環境価値も電力量と同期して移転されるため、需要家は調達電力のCO2削減効果を直接自社の実績として計上できます。

経済メリット(フィジカルPPA)

フィジカルPPAの導入によって需要家にもたらされる主な経済的メリットは以下の通りです。

  • 長期固定価格による電気料金の安定化: PPA契約では電力単価を長期にわたり固定もしくはあらかじめ決めた算定式で設定できます。これにより、将来の市場価格変動リスクを回避し、電力コストを予見可能な水準に抑えられます。特に電力価格が高騰した場合でも契約単価で調達できるため、コスト増を回避するヘッジ手段となります。

  • 初期投資負担の不要: 一般にPPA事業者(発電事業者側または提携するファンド等)が発電設備の建設・運用コストを負担し、需要家は出来上がった電力を単価契約で買うだけです。そのため需要家企業にとっては、自社資金を設備投資に投じることなく再エネ電力を利用できます。設備のメンテナンス費用も発電事業者側が負担するケースが多く、設備保有リスクを負わずに済みます。

  • 環境価値の直接獲得: 再エネ電力の供給と同時に非化石証書等の環境価値が移転されるため、自社の電力使用に伴うCO2排出を実質ゼロにできます。これによってRE100への参加要件(消費電力100%再エネ化)や、製品ライフサイクル上のScope2排出削減目標を達成できます。また再エネ利用企業としてのブランド価値向上やESG評価アップといった効果も期待できます。

  • 需要に応じた再エネ100%調達: フィジカルPPAでは基本的に発電した再エネ電力の全量を需要家が購入・消費します。そのため契約次第では、自社消費電力の100%を対象発電所からの再エネで賄うことも可能です。つまり電力需要に見合った規模の再エネ発電所と契約すれば、事業運営を完全にクリーン電力化することも実現できます。これは環境貢献とエネルギー自給の両面で理想的な状態といえます。

デメリット・留意点(フィジカルPPA)

一方、フィジカルPPAには考慮すべき課題やリスクも存在します。

  • 契約期間が長期に及ぶ: フィジカルPPAは一般に5~20年程度の長期契約となります。その間、需要家は契約量の電力を買い取り続ける義務があります。事業環境の変化で電力需要が減少したり工場閉鎖などが起きても契約が継続するリスクがあります。長期拘束による柔軟性低下はデメリットの一つです。

  • 初期コストと託送料金: 発電事業者側で見れば大規模設備の初期投資コストが高額です。また系統を介して電力を送るため、需要家は通常の電気料金と同様に託送費用(送配電網利用料)を負担します。PPA契約の電力単価(PPA料金)に加えて、この託送料や再エネ賦課金などを含めた総支払い額が従来の電気代より割高になる可能性もあります。したがって、PPA価格と付随コストを含めたトータルで経済合理性を検証する必要があります。

  • 発電量の変動リスク: 太陽光や風力など天候に左右される発電源では、天気や季節によって発電量が変動し、必ずしも需要と一致しません。余剰電力が生じる時間帯や、発電不足で他の電源から補填する時間帯が発生します。この変動リスクは、地理的に発電所を分散したり蓄電池を併用することである程度緩和できますが、需要家にとって計画通りの再エネ供給が得られない不確実性要因となります。また日中の市場価格低下時に余剰電力を売電する場合は収入が想定以下になるリスクもあります(後述の九州エリアの例など)。

  • 特定発電所への依存: 供給源が特定の発電設備に限定されるため、その設備でトラブルや故障が起きると供給計画に支障を来します。設備故障時には代替電力を市場調達する必要があり、場合によっては高コストとなります。このように一つの電源に依存するリスクを負う点もデメリットです。契約時には予備電源の確保や保守計画について取り決めておくことが望ましいでしょう。

  • 再エネ賦課金は免れない: フィジカルPPAで供給される電力も、系統供給である以上は通常の電力と同様に再生可能エネルギー発電促進賦課金(いわゆる再エネ賦課金)の対象となります。再エネ電力を導入しても、この政府規定の賦課金コストは需要家の負担として残る点に注意が必要です。

以上のように、フィジカルPPAは「実物の電力と証書をセットで受け取る」ことで環境価値を直接享受できる反面、長期契約やコスト構造・リスク面で慎重な検討が必要な契約形態です。

バーチャルPPA:金融的ヘッジモデル

続いて、バーチャルPPAについて解説します。バーチャルPPA(または仮想PPA合成PPAとも呼ばれます)は、物理的な電力の受け渡しを伴わない金融取引型のPPA契約です。需要家は再エネ発電事業者から環境価値(非化石証書など)を購入しつつ、発電された電力そのものは市場に売却されます。需要家と発電事業者の間ではあらかじめ一定の契約価格(固定価格)を定め、その価格と実際の市場価格との差額を精算する取り決めになっています。いわばCFD(差金決済)によるヘッジ契約であり、金融派生商品的な性質を持つPPAです。需要家側から見ると、普段の電力購入契約は従来通り電力会社と継続しながら、並行して再エネ発電所との間で環境価値と価格差精算の契約を結ぶ形になります。

仕組みと環境価値の扱い

バーチャルPPAでは電力そのものは需要家に届けられません。発電事業者は発電した電力を電力市場や他の事業者に売電し、その売電収入を得ます。需要家は別途、自社の電力契約(例えば従来の小売電気事業者との契約)に基づいて電力を調達・消費します。一方で、需要家は再エネ発電の環境価値(非化石証書等)を発電事業者から買い取ります。結果として、需要家は物理的には通常の電力を使いながら、その同量分の環境価値証書を取得することで実質的に再エネ電力を利用したとみなすことが可能になります。

価格面では、需要家と発電事業者の間で「契約電力量Qあたり固定価格P」を取り決めておきます。発電事業者は市場で電力を売った際の市場価格MとPの差額を計算し、MがPを上回ったときは差額を需要家に支払い、逆にMがPを下回ったときは需要家が差額を発電事業者に支払うという契約です。例えば1kWhあたりP=10円と契約し、市場価格Mがある時刻に12円だった場合、発電側は1kWhあたり2円を需要家に支払います。Mが8円なら需要家から2円を受け取ります。これを契約期間中、定めた電力量に対して継続し、最終的に差額精算額が累積される仕組みです。金融商品のスワップ契約に近い構造であり、双方にとって電力価格変動リスクのヘッジ手段となります

日本においてバーチャルPPAを実施する場合、需要家が発電事業者と直接差額決済契約を結ぶケースもありますが、一般的には小売電気事業者が仲介する形態が多いです。需要家は小売電気事業者から通常の電気料金メニュー(市場連動や従量料金)で電力供給を受け、その料金に環境価値証書のコスト分を上乗せして支払います。一方、発電事業者と小売電気事業者の間で上述の差額精算契約を結ぶことで、実質的に需要家→発電事業者のバーチャルPPAが成立します。このように間に小売事業者を挟むのは、日本の電力法制度上、需要家が電力市場から直接調達する仕組みが未整備であるためです。そのため米国のように企業が直接発電事業者から環境価値だけを買う形式とは異なり、日本版バーチャルPPAでは小売電気事業者を通じた契約となる点に注意が必要です。もっとも需要家から見れば電力契約の切替え不要で再エネ導入が可能なスキームと言えます。

経済メリット(バーチャルPPA)

バーチャルPPAの採用によって需要家が享受できるメリットには次のようなものがあります。

  • 物理的制約がない柔軟な再エネ調達: 需要家の所在地や受電設備に制約されず、全国どこにある再エネ発電プロジェクトとも契約可能です。例えば需要家が都市部でも、日照や風況の良い地方の大規模発電所と契約できます。電力は現地で市場売電されるため、送配電網の制約による出力抑制などの影響も直接は受けません。自社設備の改造や特別な受電設備も不要で、オフィスからリモートに再エネ調達を開始できる柔軟性は大きな利点です。

  • 電力契約の変更不要・導入ハードルの低さ: フィジカルPPAのように新たな電力受給契約に切り替える必要がなく、現在の電力会社との契約を維持したまま環境価値だけ追加できます。これにより電力契約切替時の煩雑な手続きを回避できるほか、複数拠点を一括でカバーしたい場合にも有効です。特に小売事業者が差額決済を代行するスキームでは、需要家はコストが固定化され煩雑な精算業務から解放されるメリットも指摘されています。

  • 価格変動リスクのヘッジ: バーチャルPPAは電力市場価格と連動した差額決済契約であり、需要家にとっては電力価格の変動ヘッジ手段となります。例えば将来、電力市場価格が上昇した場合には発電側から需要家に差額が支払われるため、実質的に高騰分が相殺されます。逆に価格下落局面では需要家が支払う側になりますが、長期的な価格の平均値を固定化できる点で予算計画上の安定性をもたらします。特に近年の燃料価格高騰に伴う電力料金上昇リスクに備える手段として、大手企業がvPPAを活用する例が増えています。

  • 大規模プロジェクトへの参加機会: 自社単独では賄いきれない大規模な再エネ発電プロジェクトにも、バーチャルPPAなら参画しやすくなります。例えば数十MW級の太陽光・風力案件に対し、一社で全量契約するのではなく、一部の環境価値と出力をバーチャルPPAで購入することも可能です。これにより発電事業者側は複数企業からの契約を束ねてプロジェクトを成立させられ、需要家側も必要量に応じた規模で契約できます需要家は再エネ設備の部分所有的な感覚で参加でき、追加的な設備導入なしに再エネ普及に貢献できます。

  • 再エネ証書による脱炭素効果: 環境価値のみの取引ではありますが、需要家は購入した非化石証書等を自社の温室効果ガス排出削減実績に算入できます。RE100やCDP報告においても、適切に認証された再エネ証書を用いていれば消費電力に伴う排出をゼロと見なせます。すなわちバーチャルPPAでも再エネ100%電力使用の達成が可能です。フィジカルPPAとの違いは単に物理的に電気を受け取っていないだけで、環境面での効果は本質的に同等です。

デメリット・留意点(バーチャルPPA)

バーチャルPPAにも押さえておくべき課題があります。

  • 市場価格下落リスク: 差額精算契約ゆえに、市場価格が契約固定価格を長期間下回ると需要家から発電事業者への支払いが膨らみ、コスト増となるリスクがあります。特に太陽光発電が多い地域では昼間に市場価格が下がりやすく、固定価格とのギャップが大きくなる傾向があります。日本でも九州エリアなど日中の安価な市場価格が定着しつつある地域では、需要家側が長期に渡り補填を支払い続ける「一方通行」の状況になりかねません。契約前に市場価格シナリオを分析し、適切な価格設定や上限下限の仕組みを検討することが重要です。

  • 会計処理の複雑さ: バーチャルPPA契約は金融派生商品(デリバティブ)に該当する可能性があり、企業会計上の特別な処理が必要となる場合があります。原則として契約の時価評価による損益変動を四半期ごとに計上しなければならず、想定外の会計上損失が発生するリスクがあります。ただし条件を満たせばヘッジ会計の適用も検討できますが、その適格要件を証明する手間もかかります。特に上場企業などではこの会計上の不確実性が敬遠される傾向にあり、国内でバーチャルPPAが広がりにくかった一因とも言われます。

  • 契約と法務の複雑性: フィジカルPPA以上にバーチャルPPA契約書は専門的で複雑になります。市場価格連動の差額精算条件、証書の取扱い、各種想定外事象の対応条項など綿密な取り決めが必要です。また日本では契約当事者に小売電気事業者が加わる場合が多く三者契約となるため、法務コストや調整も煩雑です。これらのハードルから、国内でバーチャルPPAを導入済みの企業はまだ非常に少数に留まっています。

  • 物理的な追加性が見えにくい: 需要家は再エネ証書を得ることで環境貢献できますが、実際に自社の使う電気は従来のグリッド電力である点は変わりません。社内外のステークホルダーに対し、「どの発電所の電気を使っているのか」を直接示すことができないため、フィジカルPPAに比べると訴求力が弱いと感じる向きもあります(もっとも契約先の発電プロジェクト名などを開示すれば透明性は確保できます)。また発電量そのものは市場へ放出されるので、地域によってはローカルな再エネ電力利用を実感しにくい面もあります。環境価値の概念について社内の理解を得ておくことが必要でしょう。

  • 発電量・収入リスク: 差額精算はあくまで価格変動分の補填であり、発電事業者にとって発電量が減少した場合のカバーにはなりません。例えば日照不足で発電量そのものが落ち込めば、市場売電収入自体が減ってしまいます。固定価格部分の収入は確保されますが、それ以上の利益が得られないリスクがあります。逆に需要家側も、契約した電力量に対して発電量が少なければ想定していた環境価値(証書)を十分得られない可能性があります。発電量予測に基づいた契約量設定や、不足時の他手段での証書調達も視野に入れるべきです。

以上より、バーチャルPPAは「柔軟でハードル低い再エネ調達」として有望な反面、金融取引ゆえの価格変動リスクや会計・契約上の難易度といった課題があることがわかります。

フィジカルPPAとバーチャルPPAの比較ポイント

ここまで述べたように、フィジカルPPAとバーチャルPPAには根本的な違いがあります。両者を評価・比較する際に押さえておきたい重要な軸を整理すると以下の通りです。

  • 電力の受け渡し: フィジカルPPAは発電した電力そのものを需要家へ供給します。一方バーチャルPPAでは電力は需要家に届かず、市場などで売却されます。言い換えると、フィジカルは実物取引、バーチャルは金融取引です。

  • 環境価値の取得方法: フィジカルPPAでは電力と環境価値(非化石証書等)がセットで需要家に移転されます。バーチャルPPAでは電力と環境価値が切り離され、需要家は環境価値のみを発電事業者から購入します。したがってバーチャルでは証書購入により環境価値を得る形です。

  • 同時同量(需給一致)の要件: フィジカルPPAでは30分や1時間ごとの発電量と需要家消費量を一致させる「同時同量」の担保が求められます供給過不足は調整電源で補填が必要です。バーチャルPPAでは実際の供給がないため、この同時同量制約は課されません時間帯ごとの需給ミスマッチを気にせず契約可能なのがバーチャルの利点です。

  • 価格の決まり方: フィジカルPPAは固定単価での売買が基本です(長期契約中に見直し条項を設ける場合もあります)。対してバーチャルPPAは契約単価(P)と市場価格(M)の差額決済によって実質価格が決まります。フィジカルは価格確定性が高く、バーチャルは市場連動性があります。

  • 追加コスト(託送料・賦課金等): フィジカルPPAでは契約電力を届けるため、発電単価以外に託送料金がかかります。この託送費は需要家負担で、PPA価格に上乗せされる形です。また再エネ賦課金も通常通り請求されます。一方バーチャルPPAでは電力は現行の電気料金契約内で調達するため、別途託送費を支払う構造にはなっていません(需要家は今の電気料金に含まれる形で託送費等を払っています)。したがってバーチャルPPA契約自体に追加の託送料負担はありません

  • 契約期間の目安: フィジカルPPA・バーチャルPPAともに5~20年程度の長期契約が一般的です。大規模案件では15年以上の契約も多いです。期間に大差はありませんが、バーチャルPPAの方が比較的新しい分、柔軟な契約期間設定(例えば10年未満)も海外では見られます。

  • リスクプロファイル: フィジカルPPAは主に「発電量変動リスク」「設備故障リスク」「規制変更リスク」など物理的・運用的リスクが中心です。一方バーチャルPPAは「市場価格変動リスク」「会計上の評価損益リスク」など金融的リスクが際立ちます。またフィジカルは発電所が止まっても需要家には別電源から物理供給されますが、バーチャルは発電所停止時に差額精算額が減るものの需要家の電力自体は平常通り供給される、と影響の現れ方も異なります。

  • 法規制・契約の容易さ: フィジカルPPAは小売電気事業者を介して既存制度でも比較的実施しやすい枠組みですが、バーチャルPPAは日本ではまだ制度整備途上であり契約スキームが定型化していません。このため自社でノウハウがない場合、仲介事業者や専門知識が必要になるケースが多いです。海外では両者ともに広く行われていますが、日本ではフィジカルPPA(オンサイト含む)の方が事例が多く、バーチャルPPAはこれからという段階です。

以上のポイントを踏まえると、フィジカルPPAは「電気と環境価値を同時に手に入れる」直接モデルバーチャルPPAは「環境価値のみ取得しつつ価格ヘッジを行う」間接モデルと整理できます。それぞれの強み・弱みが明確に異なるため、企業のニーズに応じて最適な手法を選択することが重要です。

経済効果の試算方法:PPA導入によるコストメリット

PPA契約を検討する際には、「導入すると電力コストがどれだけ削減・安定化するのか?」を定量的に評価する必要があります。以下では、フィジカルPPAおよびバーチャルPPAの基本的な経済効果の算出方法と、投資評価の指標について解説します。

フィジカルPPAの経済効果試算

需要家の観点でフィジカルPPAを導入した場合の年間コスト削減効果は、シンプルに言えば「従来電気代 – PPA契約電気代」です。具体的な式で表すと:

  • 年間節約額 (AS) 年間再エネ購入量 (kWh) × (従来の電気料金単価 – PPA契約単価)

例えば年間100万kWhを従来電気料金20円/kWhで調達していた企業が、PPA契約単価15円/kWhで同量を購入できれば、年間節約額は 100万 × (20–15) = 500万円 となります(託送料や賦課金等は考慮せず単純化した例)

一方、発電事業者(PPA提供者)の視点では年間収益 (AR)は:

  • AR = 年間発電量 (kWh) × PPA単価 – 年間運営維持費(O&M費)

このARから初期投資Iを回収できるかどうかが事業採算性に関わります。プロジェクト全体の収支を評価するため、正味現在価値(NPV) を算出すると以下のようになります:

  • NPV = ∑(年度 t=1~T) [AR_t / (1+r)^t] – 初期投資額 I

ここで r は割引率、Tは契約年数(プロジェクト年数)です。NPVが正なら投資として妥当、負なら不採算となります。フィジカルPPAの場合、需要家側は初期投資していないのでこのNPVは主に発電事業者側の判断指標ですが、需要家にとってもプロジェクトの持続可能性を測る重要な値です。

バーチャルPPAの経済効果試算

バーチャルPPAでは、需要家が得る(もしくは支払う)金銭的効果は差額精算額として表されます。契約電力量Q、PPA固定価格P、市場価格Mを用いて各期間(例えば月や時間帯)の差額精算 S は:

  • S = Q × (M – P)

前述のとおり、M > P なら需要家が受け取り、M < P なら需要家が支払う値になります。契約期間全体で累積した差額精算の総額をTS (Total Settlement)とすると:

  • TS = ∑(期間 t=1~T) S_t

TSがプラスであれば需要家の純受取額(=コスト削減額)、マイナスであれば純支払額(=追加コスト)です。需要家はこのTSに加え、環境価値証書の購入コストを負担します。最終的な経済メリットは、「精算額TS + 証書取得による効果(例えば自社のカーボンプライシング回避効果など)」ですが、金銭面だけ見ればTSが主要指標となります。企業にとってはTSができるだけプラス、もしくは小さいマイナスに収まるようPPA価格を設定することが重要です。

バーチャルPPAの場合、発電事業者側は市場売電収入+TS(の逆サイン分)が収入源となり、そこから設備償却や運営費を差し引いて採算を取ります。したがって根底ではフィジカルPPA同様に発電コストとPPA価格設定が利益を左右します。需要家・発電事業者双方にwin-winとなる価格帯を見極めるため、市場価格の長期予測価格シナリオ分析が欠かせません。

電力料金の構成要素と比較

需要家の電気料金の内訳にも触れておきます。一般的な企業向け電気料金プランには以下の項目が含まれます:

  1. 基本料金(円/kW・月) – 最大需要電力に基づく定額料金

  2. 従量料金(円/kWh) – 消費電力量に比例する料金単価

  3. 再エネ発電促進賦課金 – 再エネ賦課金(kWhあたり一定額、国が定める)

  4. 燃料費調整額 – 燃料価格の変動に応じた調整費用(上下限あり)

  5. ピークカット割引等 – 特定条件達成での割引項目(ある場合)

  6. 長期契約割引 – 長期契約による割引(ある場合)

従来の電気料金(総額)はこれらの合計となります。一方、PPA導入後の電気料金は、フィジカルPPAであれば上記1~4に加えてPPA契約分の従量料金が置き換わる形、バーチャルPPAでは基本的に従来契約+証書コスト+差額精算の支払い/受取という形になります。PPAによる節約額は、「PPA導入前後の総支払額の差分」として計算できます。企業ごとの負荷パターンや契約メニューによって効果額は異なるため、詳細なシミュレーションが必要です。

投資評価指標:TCO・LCOE・IRR

PPAプロジェクトや再エネ投資の経済性を評価する指標として、TCOLCOEIRRといった概念も用いられます。それぞれの意味を簡単に押さえておきましょう。

  • TCO (Total Cost of Ownership):あるプロジェクトや設備を導入・運用する際に、開始から終了までにかかる総コストの現在価値合計です。PPAにおけるTCOには「初期投資I」「毎年の運用保守費O&M」「燃料費F(再エネなら0)」「調達資金の利息等の金融費用FC」など全てを割引現在価値で合算します。TCOを算出すれば、同じ発電量を既存電力で賄った場合のコストと比較して優位かどうか判断できます。需要家としては自前で設備導入する場合のTCOと、PPA契約で購入する場合の総支払を比較して検討することも可能です。

  • LCOE (Levelized Cost of Energy):ある発電プロジェクトにおける発電電力量1kWhあたりの生涯平均コストを表す指標です。計算式は「∑(各年の割引後コスト) ÷ ∑(各年の割引後発電量)」となります。LCOEは発電技術間の経済性比較によく使われ、PPA価格設定の目安にもなります。一般にPPA単価は発電側のLCOEより高めに設定されますが(そうでないと事業が成り立たない)、市場価格や他電源のLCOEとの兼ね合いで妥当な水準が決まります。需要家側から見ても、LCOEが既存調達単価を下回るならPPA導入に経済合理性があると言えます。

  • IRR (Internal Rate of Return):内部収益率とも呼ばれ、投資プロジェクトの収益性を評価する指標です。NPVをゼロにする割引率rを求めることで算出されます。発電事業者はPPAプロジェクトのIRRが社内基準を満たすか検証しますし、需要家としても極端にIRRが低い(=投資妙味が薄い)案件は将来的な相手方の撤退リスクなどを考える必要があります。再エネ事業では一般に5~8%程度のIRRが目標とされることが多いですが、契約条件次第で変動します。

以上のような指標も活用しつつ、フィジカルPPA・バーチャルPPAそれぞれの経済効果を定量的に見える化することが、導入判断において重要です。次節では、そうした経済効果シミュレーションを効率良く行うための自動計算ツールについて掘り下げます。

オフサイトPPA見積もりシミュレーションと自動化ツール

複雑な経済効果試算を自動化するニーズ:

前述したように、PPA導入によるコストメリットは多数の変数に依存します。需要家の拠点ごとの電力使用パターン、契約電力と発電設備容量のマッチング、季節・時間別の発電予測、市場価格シナリオ、電気料金メニューの構成要素など、考慮すべき要素は多岐にわたります。例えば「複数の需要拠点に対し、複数の再エネ発電所で賄う」「電力料金は一部を市場連動単価とする」といったケースでは、Excelで手作業計算するには限界があるほど複雑です。実際、PPA事業者や電力小売会社の中には「提案や計算が煩雑すぎて属人的になっている」「シミュレーションに非常に時間がかかる」といった課題を抱えるところもあります。

エネがえるPPAシミュレーター:

こうしたニーズに応えるソリューションが、現在開発中の「エネがえるPPA」と呼ばれるオフサイトPPA自動見積もりシミュレーターです。国産のエネルギー診断SaaSである「エネがえる」が提供を予定している新機能で、2026年上半期のリリースを目標にプロトタイプが進んでいます。このシミュレーターの特徴は以下の通りです。

  • 複数需要施設・複数発電所に対応: 1つのプロジェクト内で、需要家の複数拠点(工場やビルなど)と、複数の再エネ発電施設(太陽光発電所A+風力発電所Bなど)を組み合わせたシミュレーションが可能です。各需要拠点の負荷プロファイルと各発電所の発電プロファイルを時系列でマッチングし、全体として再エネ何%を賄えるか、余剰不足がどれだけ出るか等を詳細に計算できます。電力需要と発電量の割当比率(例えば拠点1には発電所Aの○%、Bの○%を充当)も柔軟に設定できます。

  • 多様な料金メニュー設定: 低圧・高圧・特別高圧など電圧区分ごとの主要電力会社の料金プランがあらかじめ搭載されており、毎月自動アップデートされます。また市場連動型の料金プラン(例:JEPX日々のスポット価格に連動するメニュー)にも対応しており、将来の価格予測シナリオを反映した試算が可能です。これにより、「従来プランでは◯◯円、PPA提案プランでは△△円」といった比較を正確に行えます。

  • 自動レポート・見積書作成: シミュレーション結果から、需要家向けの提案資料や見積書を自動生成する機能も備える予定です。例えば年間コスト削減額や再エネ比率の向上効果、CO2削減量などをグラフ付きでレポート化し、専門知識がない相手にも伝わりやすい資料をワンクリックで作成できます。提案営業の効率化に直結する機能です。

  • 高精度なデータ入力と分析: 過去の実測データ(需要家の30分電力使用実績や発電所の出力実績)を取り込んで分析することも可能です。実データがない場合でも、標準的な負荷曲線パターンや典型的な発電カーブを選び、カレンダー設定や月毎の使用量入力でシミュレーションできます。

この「エネがえるPPA」シミュレーターを使えば、従来は数日かかっていた複雑なオフサイトPPA提案の試算作業が飛躍的に効率化されます。現状は2026年上期リリース予定で、「すでにプロトタイプがかなり出来つつある」とのことです。開発元によれば、現在Excelで奮闘しているPPA提案担当者にぜひ試してほしいとのことで、2025年10月時点では個別にWeb商談予約で無料デモも受け付けています。こうしたツールの活用により、再エネ導入提案のスピードと精度が向上し、ひいては国内企業の再エネ普及が加速することが期待されます。

要件定義と設計上のポイント:

エネがえるPPAのようなシミュレーターを設計・実装する上で重要な要件も整理しておきます。高精度かつ実務に耐えるシステムにするためのポイントは次の通りです。

  • 時間分解能とデータ量: 発電と消費のマッチング分析には時間帯別データが欠かせません。30分や1時間ごとのデータを扱えること、年間8760時間分のシミュレーションにも耐えるパフォーマンスが必要です。クラウド上で高速計算処理を行い、大量データでも数十秒~数分で結果を出せるエンジンが求められます。

  • 現実の制度・料金体系の反映: 日本の電力市場制度(卸市場価格、非化石証書の扱い、インバランス料金など)や電気料金制度(燃料調整やピーク制料金など)を忠実にモデル化することが大切です。シミュレーター上の仮想PPA契約が、実際に導入した場合の費用と乖離しないよう設計します。また電力会社各社の料金メニュー改定情報を定期的にアップデートする仕組みも組み込みます。

  • ユーザーインターフェースの使いやすさ: エネルギーの専門家でない営業担当者でも扱えるUI/UXが重要です。プロジェクトの登録・編集から結果シナリオ比較まで、一連の操作をガイド付きで進められるようにします。必須項目の入力漏れチェックやエラーメッセージの明確化、デフォルト値の充実など、現場での入力ミス削減と効率化に配慮した設計が求められます。

  • 出力結果のビジュアライズ: 単なる数字表だけでなく、グラフやチャートで直感的に結果を示すことが有用です。例えばキャッシュフロー曲線NPV感度分析のトルネードチャート需要と発電のプロット図、CO2削減量の累積グラフなど、多面的な可視化を盛り込みます。これにより提案先企業の経営層にもインパクトを持って訴求できます。

  • API連携: 最近は脱炭素経営プラットフォーム等との連携需要もあります。シミュレーターをAPI化して、他のエネルギーマネジメントシステムや顧客向けポータルとデータ連携できるようにすると、エコシステムが拡大します。実際「エネがえる」は既に太陽光や蓄電池シミュレーションでAPI提供実績があるため、PPA版でもAPI連携が期待されます。

以上の要件を満たすシミュレーターが普及すれば、オフサイトPPAの事業構築が飛躍的に効率化し、日本全体で再エネ導入がスムーズに進むことでしょう。

日本における課題と今後の展望

国内での普及状況:

欧米では既に多くの企業がコーポレートPPAを活用しています。特に米国ではバーチャルPPA(環境価値のみ購入)が主流で、RE100加盟企業などが次々と大型契約を結んできました。一方、日本におけるコーポレートPPAの普及はまだ緒についたばかりです。2021年に三菱商事がアマゾンと国内初の大規模コーポレートPPA契約(太陽光約22MW)を締結したのを皮切りに、いくつかの先行事例は出てきましたが、数としては欧米に比べ圧倒的に少ない状況です。背景には日本固有の制度面・市場面の課題が存在します。

課題1: 制度・規制の整備不足

日本では電気事業法の制約上、企業が直接発電事業者から電力を買うことが難しく、コーポレートPPAにも小売電気事業者の関与が不可欠でした。加えて、非化石証書の仕組みも徐々に整ってきた段階で、2021年以前は再エネの環境価値取引市場も黎明期でした。バーチャルPPAに適した枠組みが整っていなかったため、企業は非化石証書を単独で買うか電力メニューの再エネオプションに頼るケースが多かったのです。しかし近年、非化石価値取引市場が拡充され、FiT/FIP制度の下で環境価値を企業が取得しやすくなってきました。今後、更なる規制緩和(例えば需要家が自ら卸市場で電力調達できるような制度改革)や標準的な契約モデルの提示が進めば、PPA普及の下地が強まるでしょう。

課題2: 経済性と市場動向

再エネ発電コスト(特に太陽光)は大幅に低下してきたとはいえ、日本では用地コストや規制コストもあり、海外ほど極端に安価ではありません。そのためPPA価格が既存の電気料金より割高になる懸念があります。実際、電力市場価格が2023~2024年に落ち着きを見せた中では、PPAで提示される長期固定価格は現行スポット価格より高めに設定されがちという指摘があります。需要家側から見ると即時のコスト増要因となるため、二の足を踏むケースもあります。今後、炭素価格の導入やエネルギー価格高騰リスクの顕在化などで長期的にはPPAが経済的に有利となる可能性がありますが、短期的経済性だけで判断すると導入が進まないジレンマがあります。これを克服するには、「再エネ調達によるブランド価値や将来リスク低減まで含めた総合的なメリット」を訴求していくことが重要です。また企業内でカーボンプライス(内部炭素価格)を設定し、再エネによるCO2削減効果に価値を見出す動きも追い風となるでしょう。

課題3: リスク管理と契約知見

前述したように、特にバーチャルPPAでは価格リスクや会計リスクがあります。さらにフィジカルPPAでも長期にわたる信用リスク(相手方の信用状況変化)や規制変更リスク(補助金制度やマーケットルールの変更)が存在します。国内ではまだ契約実績が少ないため、法務・金融・エネルギーの各専門領域を横断した知見の蓄積が不足しています。これに対処するため、環境省や経済産業省はガイドブックや事例集を公表し始めていますし、海外事例に学ぶ動きもあります。今後は金融機関や保険会社も巻き込んだリスクヘッジ商品の開発(例えば価格下落リスク補償や差額決済額キャップを付ける契約など)が期待されます。

課題4: 情報不足とマッチング

企業側にとっては「どの発電事業者とどう契約を結べば良いのか」という情報不足の問題もあります。一方、発電事業者側も「買ってくれる需要家をどう見つけるか」に苦慮している場合があります。欧米ではPPAプラットフォームや入札マーケットが整備されつつあり、企業とプロジェクトをつなぐ仕組みが発達してきました。日本でも官民連携でPPAマッチングイベントを開催したり、再エネ事業者の案件リストと企業ニーズをマッチさせるデジタルプラットフォームの構想が進んでいます。自治体主導で地域の需要と再エネを結ぶオフサイトPPAモデルを作る動きも出てきました。こうしたマッチングの場が増えることで、潜在的なPPA需要が顕在化し市場が活性化するでしょう。

将来展望:

技術革新もオフサイトPPAの未来を大きく変えようとしています。例えばAIとIoTの活用により、需要予測と発電予測の精度が飛躍的に高まりつつあります。AIが需要家の消費パターンや気象データから発電量をリアルタイム予測し、先回りして制御することで、余剰や不足を最小化できます。またブロックチェーン技術による電力のP2P直接取引の試みも進んでいます。将来、ブロックチェーン上でスマートコントラクトにより自動精算するバーチャルPPAや、小規模事業者同士が直接再エネ電力を融通し合う仕組みが実現すれば、中間コストを下げることが可能になるかもしれません。さらに蓄電池や水素等のエネルギー貯蔵技術の進化は、再エネの不安定さを克服しPPA契約をより安定・低リスクにするでしょう。例えば大容量低コストの蓄電池が普及すれば、発電事業者は夜間にも電力供給できるPPAを提案でき、需要家はピーク時でも再エネ電力を享受できます。

総じて、オフサイトPPAは日本の再エネ主力電源化に向けた重要なピースです。現在は制度・市場の過渡期にあり課題も山積していますが、事業者・需要家・政策立案者・金融機関といったステークホルダーが協力し、知見を集約していくことで持続可能なPPAモデルを構築していけるでしょう。技術と制度の両面でイノベーションを取り込み、日本の実情に適した契約スキームを標準化していくことが普及の鍵となります。例えば、日本ならではの「部分的フィジカル+バーチャル組み合わせ」のハイブリッドPPAや、複数需要家連合による共同PPAといったスキームも考えられます。これからの数年間で知見が蓄積され、成功事例が増えてくれば、PPAは特別なものではなく当たり前の選択肢として定着していくはずです。

まとめ:最適なPPAスキームを活用して脱炭素経営を推進

フィジカルPPAとバーチャルPPAそれぞれの特徴と経済メリット、さらには最新の見積もりシミュレーション技術について包括的に解説してきました。最後にポイントを整理します。

  • フィジカルPPAは、再エネ電力そのものを受け取るダイレクトな契約であり、高い環境価値と電力コスト安定化をもたらします。一方で長期拘束や託送料負担、発電量変動リスクなどの課題があります。電力を実際に受給したい、再エネ100%を明示的に達成したい企業に向いています。

  • バーチャルPPAは、環境価値の取引と差額決済による契約であり、物理的制約なく柔軟に再エネ調達が可能です。市場価格ヘッジという利点もありますが、価格下落時の支払いや会計上の懸念といった注意点があります。現行の電力契約を維持しつつ脱炭素証書を確保したい、遠隔地の大規模プロジェクトに参加したい企業に適しています。

  • 比較の軸としては、「電力供給の有無」「環境価値の扱い」「価格決定方式」「付随コスト」「リスク種類」「契約容易性」といった観点が重要です。企業は自社の方針(コスト優先か環境アピール優先か等)やリスク許容度に応じ、どちらのPPA、あるいは両者の組み合わせが適切か判断する必要があります。

  • 経済メリットの評価には、年間のコスト削減額やNPV、IRRなど定量指標を用いて綿密にシミュレーションすることが欠かせません。長期プロジェクションの下でPPA導入がもたらす電力コスト変化やCO2削減効果を見極め、社内合意形成を図ることになります。

  • シミュレーションや見積もり作成の高度化のため、最新のクラウドシミュレーター(エネがえるPPAなど)を活用するのがおすすめです。複数拠点・発電所や市場価格連動といった複雑なケースでも、高速で正確に試算し、自動で提案資料を作成できます。ツールを使いこなすことで、提案スピードと提案内容の説得力が飛躍的に向上し、市場開拓をリードできるでしょう。

  • 日本の課題として、制度整備の遅れや経済性確保の難しさ、契約ノウハウ不足などが挙げられます。しかし各方面の努力により徐々に状況は改善しており、RE100などの潮流も相まってコーポレートPPAは今後確実に増加すると見られます。先進企業の事例を追いながら、自社にとって最適なPPA戦略を練っていくことが重要です。

フィジカルPPA・バーチャルPPAはともに、企業の電力調達と脱炭素経営に革命をもたらす可能性を秘めています。それぞれの特性を正しく理解し、優れたツールや専門家の力も借りつつ、最適なスキームを構築することが肝心です。電力は企業活動の生命線であり、その調達方法を見直すことは単なるコスト削減に留まらず、企業の社会的価値向上と持続可能な未来づくりへの投資でもあります。世界最高水準の知見を踏まえたPPA活用によって、日本の再生可能エネルギー普及と脱炭素化がさらに加速することを期待したいと思います。

よくある質問(FAQ)

Q1. フィジカルPPAとバーチャルPPA、企業にとってどちらを選ぶべきですか?

A1. 一概には言えませんが、自社の状況と重視ポイントで判断します。電力そのものを再エネ化し直接利用したい場合や、供給元を明確にしたい場合はフィジカルPPAが適しています。自社施設近辺に受け入れ可能な再エネ電源がある程度必要ですが、長期安定供給と環境価値を一括で得られます。対して既存の電力契約を変えず柔軟に進めたい場合や、地理的制約を超えてプロジェクトに参加したい場合はバーチャルPPAが有力です。特に大口需要家でなくても再エネ導入できる点、価格ヘッジ効果を狙える点が魅力です。それぞれメリット・デメリットがあるため、例えば「本社はフィジカルPPAで100%再エネ化、他支社はバーチャルPPA利用」など組み合わせる戦略も考えられます。

Q2. PPA契約期間中に電力需要や市場環境が変化したらどうなりますか?

A2. PPAは原則として契約時に定めた条件で長期間継続します。ただし契約内に見直し条項や上限下限条項を設けておくことがあります。例えば市場価格が大きく構造変化した場合に双方協議で価格を改定する条項などです。また需要減少時に契約電力量を調整できるオプションを設定することも考えられます。ただ基本は契約時のコミットメントを全うする必要があります。万一需要家側が大幅需要減で電力を引き取れない場合、フィジカルPPAでは余剰を第三者に売電する処置が必要になります(契約上PPA事業者側が余剰分を引き受けるケースもあります)。バーチャルPPAでは需要減でも証書購入量は固定なので、使い切れない証書が余る可能性はあります。この場合も契約範囲外で第三者に売却するなど調整が必要です。いずれにせよ、大きな変動リスクが想定される場合は契約前にシナリオ分析しておき、契約条件へ折り込むことが重要です。

Q3. バーチャルPPAでも「自社の電力を再エネ100%にした」と言えますか?

A3. はい、適切に環境価値証書を取得していれば可能です。バーチャルPPAでは物理電力は従来通りグリッドから購入しますが、その消費量に相当する再エネ発電由来の非化石証書(CO2削減クレジット)を契約により得ています。この証書を自社のCO2排出量報告に充当することで、消費電力相当の排出をゼロと見なせます。国際イニシアチブであるRE100やCDP報告でも、バーチャルPPAを通じた調達は認められています(追加性の観点から、新規の再エネプロジェクトと結ぶことが推奨されています)。したがってバーチャルPPA契約を結び、年間消費電力量と同等の再エネ発電量の環境価値を取得すれば、「電力使用を100%再生可能エネルギーで賄った」と説明できます。ただし社内外への説明では物理電力との違いを正しく伝えることも大切です。

Q4. オフサイトPPAの経済効果シミュレーションは可能ですか?

A4. はい、専用のシミュレーションツールを使えば可能です。特に現在開発中の「エネがえるPPA」シミュレーターを活用すれば、複数需要施設・複数発電所にまたがるような複雑なオフサイトPPAでも自動で経済効果試算ができます。このクラウド型システムでは、最新の電力料金メニューや市場価格データを織り込み、需要家向けの年間コストや削減額を算出します。エクセルで手作業するより格段に精緻な計算が短時間ででき、見積書の自動作成まで行えるため、PPA提案業務を強力に支援します。2026年上期の正式リリース予定ですが、既にプロトタイプが存在しており、問い合わせすれば個別にデモ体験も可能とのことです。このようなシミュレーターを活用して、ぜひオフサイトPPA導入の費用対効果を具体的に検証してみてください。

Q5. 日本で実際にPPAを導入した事例はありますか?

A5. 徐々にではありますが、いくつか事例が出始めています。有名な例としてはAmazon社と三菱商事による22MW規模のコーポレートPPAがあります。全国約450か所の太陽光発電所で発電した再エネ電力を、Amazonが長期契約で調達するスキームで、MCリテールエナジー社(小売)やWestホールディングス社(施工)、ElectroRoute社(予測・バランシング)など複数プレイヤーが協働しました。これは日本初の大規模事例として注目されました。他にも、伊藤忠商事が自社グループ施設向けにPPA契約を結んだ例や、自治体が関与して地域の需要をまとめ再エネ電源を建設する取り組みなどが報告されています。また国内スタートアップ企業が外国企業と組んでバーチャルPPA契約を実現したケースもあります。全体としてまだ数は多くありませんが、グローバル企業や先進的な大企業を中心に導入が進みつつある段階です。今後は中堅企業や自治体、公的機関などにも広がっていくと期待されます。

ファクトチェックサマリー

  • フィジカルPPAとバーチャルPPAの定義: フィジカルPPAは電力と環境価値をセットで購入するオフサイトPPA契約、バーチャルPPAは環境価値のみを取引し市場価格との差額決済を行う金融型契約です。本記事の定義は環境省資料や専門サイトの解説と一致しています。

  • 両者の主要な違い: 電力供給の有無、同時同量要件、価格決定方式、託送料金の扱いなど6項目で違いを比較しました。これは環境省委託調査(みずほ情報総研)による整理表に準拠した内容です。同資料を参照し正確性を確認済みです。

  • メリット・デメリット: 各PPAの長所短所について、エネがえる社の専門記事やエネブリッジ社コラムと照合し、事実ベースで記載しています。例えば「バーチャルPPAの会計上の課題」は環境省報告書にも明記されている事項です

  • 経済効果試算の式: 年間節約額AS=E×(R–P)等の計算式はエネがえる社ブログに掲載されたものを引用しました。NPVやLCOEの定義式も同様です。信頼できる情報源に基づいており、単位や前提条件も確認しています。

  • シミュレーションツール「エネがえるPPA」: 開発中のシミュレーターに関する記述は、エネがえる公式FAQに基づいています。複数需要家・発電所対応や市場連動プラン対応、2026年上期リリース予定といった具体情報を出典通りに盛り込んでおり、事実確認済みです。

  • 日本での事例: Amazonと三菱商事のPPA契約は三菱商事ニュースリリースで公表された事実を要約しました。当該リリース内容と合致しています。他の一般論についても、国内メディア報道や企業発表に基づいており、確認可能な範囲で記述しています。

  • データの最新性: 本記事では2025年10月28日時点の最新情報を参照しています。環境省資料(2022年更新)や2025年の記事を引用しており、情報が古すぎないことを確認済みです。技術動向や市場トレンドについても最新の状況に即して記述しています。

以上、主要な記載内容について信頼できる出典をもとにファクトチェックを行いました。本記事の情報は客観的資料に裏付けられており、企業のPPA導入検討に資する正確性・信頼性の高い内容となっています。

参考文献・出典一覧

  1. エネがえるFAQ: 「オフサイトPPA見積もりシミュレーションは可能か?」(2025年10月更新) – 複数需要施設・発電施設や市場連動型プランに対応したシミュレーター開発

  2. エネがえる公式ブログ: 「オフサイトPPAの経済効果シミュレーション:詳細解説と最新スキーム」(2024年9月7日) – フィジカル/バーチャルPPAの仕組み・計算式・リスク分析 – 

  3. エネブリッジ (Q.ENEST) コラム: 「フィジカルPPAとは?バーチャルPPAとの違いや仕組み、メリット・デメリットを徹底解説!」(2025年6月26日) – 環境価値の扱いや託送料金など両者の比較を詳説 – 

  4. 環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ: 「オフサイトコーポレートPPAについて」報告書 (2022年3月更新版) – 海外事例、国内適用上の課題(価格リスク・会計処理等)を整理 – 

  5. アスエネ(ASUENE)メディア: 「バーチャルPPAとは?概要やメリット、導入事例を解説」(2025年3月11日) – 日本におけるバーチャルPPAの仕組み(小売電気事業者経由の契約形態)や導入状況 – 

  6. 三菱商事ニュースリリース: 「日本初のアマゾン向け再生可能エネルギーを活用した長期売電契約を締結」(2021年9月8日) – Amazonと締結した22MW規模のコーポレートPPA契約の詳細(契約内容・参画企業) – 

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著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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