2026年11月の電気料金値上げ|託送料金を9エリア試算

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業株式会社 カーボンニュートラル推進部 デジタルエネルギーグループ。再エネ設備導入効果シミュレーター「エネがえる」(ASP、Biz、EV・V2H、API、BPO)の事業開発を担当。太陽光、蓄電池、オール電化、EV・V2H、電力料金、補助金、再エネ設備の経済効果シミュレーションを専門領域とし、サービス企画、顧客提案、マーケティング、パートナー連携を横断して推進しています。エネがえるは国内700社以上で導入され、年間15万件以上の診断に利用されています。取材、登壇、協業、サービスに関するお問い合わせは、エネがえる公式お問い合わせページからお願いします。

北海道から沖縄まで9エリアの低圧・高圧・特別高圧における平均託送単価差
北海道から沖縄まで9エリアの低圧・高圧・特別高圧における平均託送単価差

著者:樋口悟|公開・最終確認:2026年8月25日|一次情報基準時:同日18:00 JST

30秒で分かる答え
2026年11月の平均託送単価差を使用量へ単純に掛けると、家庭230kWh/月は税抜で月約246~458円、年約2,953~5,492円、高圧1GWh/年は年34万~97万円、特別高圧10GWh/年は年60万~450万円の一次影響です。最大は3区分とも沖縄、最小は低圧・高圧が東京/中国、特高は東京・中部・関西です。ただし、これは小売電気料金の最終請求額ではありません。

2026年11月、電気料金を構成する「託送料金」の見直しが予定されています。家庭や工場・店舗の請求額はどの程度動くのか。過去に採算が合わず失注・保留になった屋根上オンサイト自家消費型太陽光や蓄電池の案件は、再び提案対象になるのか。数百件、数千件の見積を、担当者が一件ずつ開き直すしかないのか。

結論から言えば、やるべきことは「値上げ率を一つ決めて、全案件へ一律に掛ける」ことではありません。公式発表を、①収入見通し、②託送料金、③小売料金、④個別案件の経済性という4層に分け、改定前後の単価差を案件台帳に結び付けます。そのうえで全件を一次スクリーニングし、投資判断の閾値をまたぐ案件だけを正式料金表、請求書、30分デマンド、設備条件で詳細再計算する。この二段階方式が、精度と速度を両立します。

本稿では、2026年8月25日時点で確認できた一次情報を基準に、7月申請8社と、別途変更届出を行った中国の計9エリアについて、家庭・低圧、高圧、特別高圧、発電側の公表値を整理します。併せて、改定前後の差分を入力するだけで過去案件を一括再計算できるExcel/CSVテンプレートの使い方、案件規模・電圧・データ品質に応じた詳細診断方法、再計算体制を整えない場合の損失、11月までの90日実装計画を具体化します。

付属実務ツール過去案件一括再計算ExcelCSVテンプレート一式

最重要の読み方
「8,845億円」は、2026年7月10日に8社が申請した5年間の収入見通し増額の合計です。需要家が1年間に追加負担する金額でも、8社の年間値上げ額でもありません。個別需要家の請求差は、小売料金への反映方法、契約電力、使用量、料金メニュー、検針日、燃料費調整、再エネ賦課金などで変わります。

目次

先に結論:経営・営業・EPCが押さえるべき10点

  1. 2026年7月10日に収入見通しの変更承認を申請したのは、北海道、東北、東京、中部、関西、四国、九州、沖縄の8社です。中国と北陸はこの8社申請には含まれません。送配電網協議会の発表
  2. 8社の5年収入見通し増額は合計8,845億円。最大は東京2,516億円で全体の28.45%、次いで関西1,496億円、16.91%、中部1,374億円、15.53%、九州1,276億円、14.43%です。
  3. 8社すべてが8月24日に審査結果ベースの平均単価を公表済みです。中国の別届出を加えた9エリアでは、低圧差は+1.07~+1.99円/kWh、高圧差は+0.34~+0.97円/kWh、特別高圧差は+0.06~+0.45円/kWhです。いずれも税抜です。
  4. 月230kWhの家庭を平均単価差だけで一次計算すると、月額影響は東京+246円から沖縄+458円、年額では約2,953~5,492円です。ただし、これは請求額予測ではありません。
  5. 年1GWhを使用する高圧需要家なら、中国+34万円から沖縄+97万円/年。年10GWhの特別高圧なら、東京・中部・関西+60万円から沖縄+450万円/年です。
  6. 2026年9月使用分で政府の料金支援が終了します。低圧の最終支援3.5円/kWhは、月230kWhなら805円/月です。託送見直しとは別イベントであり、単純合算を請求予測として提示してはいけません。経済産業省の支援内容
  7. 自家消費型太陽光・蓄電池は、買電単価が上がるほど「買わずに済む1kWh」の価値が上がります。しかし、託送平均単価差の全額がそのまま小売従量単価へ乗るとは限らず、正式提案では小売料金表に置き換える必要があります。
  8. 過去案件は、平均単価差で全件を一次仕分けし、上位20%だけを請求書・正式料金表・30分値で詳細診断するのが合理的です。Excel/CSVはそのための外部ステージング台帳として使います。
  9. 付属テンプレートは、過去案件を高速に一次仕分けするためのものです。正式提案では、家庭・低圧の個別診断、高圧・特高の30分需要診断、大量案件のAPI連携、欠損データの試算代行を、案件条件に応じて選びます。
  10. 再計算体制の整備を11月まで待つと、料金マスター、案件ID、同意情報、前提の正規化が間に合いません。単価が確定する前にデータ構造と承認フローを作り、確定単価だけを後から差し替えるのが最短です。
北海道から沖縄まで9エリアの低圧、高圧、特別高圧における平均託送単価差

図1:9エリアの公表済み平均託送単価差。基準日2026年8月25日。7月申請8社は8月24日の審査結果ベースで正式な認可・届出により変動し得る。中国は同日変更届出、11月1日実施予定。

1. そもそも何が変わるのか:4層を混ぜると判断を誤る

今回のニュースを理解するには、「送配電会社の収入見通しが増える」「託送料金が変わる」「小売料金が変わる」「太陽光・蓄電池の投資回収が変わる」を分離する必要があります。

第1層:収入見通し

レベニューキャップ制度の下で、一般送配電事業者は規制期間の事業計画と収入上限を申請します。2026年7月の8社申請は、需要や工事費、設備投資などの前提変化を踏まえて収入見通しを変更しようとするものです。この段階の「増額」は、料金メニュー別の単価でも、需要家別の負担額でもありません。

第2層:託送料金

託送料金は、小売電気事業者が送配電網を利用するための料金です。低圧、高圧、特別高圧、発電側などで単価体系が異なり、基本料金と電力量料金の配分も一様ではありません。エリア平均の円/kWhは規模感をつかむには有効ですが、個別契約の請求再現性は持ちません。

第3層:小売料金

需要家が支払うのは、小売電気事業者の料金メニューです。小売事業者が託送料金差をどの項目へ、いつ、どの程度反映するかで最終的な請求は変わります。全額を従量単価へ転嫁する場合もあれば、基本料金、独自調整項、契約更新時の単価へ反映する場合も考えられます。

九州電力は2026年8月3日、託送料金見直しを全ての顧客の電気料金へ2026年11月1日から反映し、具体単価は9月頃に公表する方針を発表しました。また高圧・特別高圧について、燃料費調整に用いる平均燃料価格等の算定期間を「3~5か月前の3か月平均」から「3か月前の単月」へ変更し、契約電力500kW以上は11月分、500kW未満は12月分から適用するとしています。九州電力の発表

関西電力も2026年8月19日、低圧、高圧、特別高圧の電気料金へ託送料金見直しを11月1日から反映する方針を公表しました。高圧・特別高圧の標準メニューでは、託送要素だけでなく容量拠出金、非化石価値、燃料費・市場価格の調整方法なども見直し対象に含まれます。関西電力の発表資料

第4層:個別案件の経済性

太陽光・蓄電池案件では、買電回避額、売電収入、基本料金削減、ピークカット、補助金、運転維持費、劣化、税、資金調達条件が投資回収を決めます。託送料金見直しはその一部を動かすイベントです。だからこそ、「ニュースの値上げ率」を見積全体へ掛けるのではなく、料金差分が効く項目だけを再計算する必要があります。

2. 8社合計8,845億円の内訳――5年額、年換算、請求差を区別する

2026年7月10日の8社の申請額は次の通りです。構成比は本稿で8,845億円を分母に計算したものです。

一般送配電事業者 5年収入見通しの申請増額 8社合計に占める比率 補足 一次情報
北海道電力ネットワーク 544億円 6.15% 5年額 公式
東北電力ネットワーク 1,104億円 12.48% 17か月分の年換算表示は779億円 公式PDF
東京電力パワーグリッド 2,516億円 28.45% 8社最大 公式PDF
中部電力パワーグリッド 1,374億円 15.53% 17か月分の年換算表示は970億円 公式
関西電力送配電 1,496億円 16.91% 年換算約1,056億円 公式
四国電力送配電 378億円 4.27% 年換算267億円 公式PDF
九州電力送配電 1,276億円 14.43% 5年額 公式
沖縄電力 157億円 1.78% 年換算111億円 公式PDF
合計 8,845億円 100.00% 端数処理前の比率合計 8社申請の公式一覧

ここで注意したいのは、資料によって「5年総額」と「2026年11月から2028年3月までの17か月分を年換算した額」が併記されることです。たとえば東北の1,104億円と779億円を足してはいけません。前者は5年の収入見通し増額、後者は一部期間の影響を比較しやすくした年換算表示です。同じ意味の数字ではありません。

また、8,845億円を全国の使用電力量で割って需要家の値上げ単価を推定する手法も不適切です。8社ごとに需要、電圧構成、基本料金と従量料金の配分、損失率、発電側課金などが異なります。需要家影響へ変換するには、少なくとも「エリア×電圧×料金種別」まで落とす必要があります。

3. 2026年8月25日時点の平均託送単価――9エリア36区分

2026年8月24日に公表された審査結果ベースの資料、または変更届出資料から、税抜の平均託送単価を整理すると次の通りです。単位はすべて円/kWhです。

エリア 区分 改定前 改定後 上昇率
北海道 低圧 10.23 12.12 +1.89 +18.48%
北海道 高圧 4.69 5.51 +0.82 +17.48%
北海道 特別高圧 2.70 3.08 +0.38 +14.07%
北海道 発電側 0.64 0.79 +0.15 +23.44%
東北 低圧 10.31 12.09 +1.78 +17.26%
東北 高圧 4.40 5.06 +0.66 +15.00%
東北 特別高圧 1.90 2.05 +0.15 +7.89%
東北 発電側 0.51 0.60 +0.09 +17.65%
東京 低圧 8.58 9.65 +1.07 +12.47%
東京 高圧 3.78 4.13 +0.35 +9.26%
東京 特別高圧 2.05 2.11 +0.06 +2.93%
東京 発電側 0.50 0.57 +0.07 +14.00%
中部 低圧 9.13 10.76 +1.63 +17.85%
中部 高圧 3.49 3.93 +0.44 +12.61%
中部 特別高圧 1.76 1.82 +0.06 +3.41%
中部 発電側 0.48 0.56 +0.08 +16.67%
関西 低圧 7.82 9.04 +1.22 +15.60%
関西 高圧 4.34 4.87 +0.53 +12.21%
関西 特別高圧 2.03 2.09 +0.06 +2.96%
関西 発電側 0.57 0.67 +0.10 +17.54%
中国 低圧 9.34 10.46 +1.12 +11.99%
中国 高圧 4.62 4.96 +0.34 +7.36%
中国 特別高圧 1.75 2.11 +0.36 +20.57%
中国 発電側 0.48 0.49 +0.01 +2.08%
四国 低圧 9.22 10.74 +1.52 +16.49%
四国 高圧 4.20 4.76 +0.56 +13.33%
四国 特別高圧 1.97 2.10 +0.13 +6.60%
四国 発電側 0.46 0.54 +0.08 +17.39%
九州 低圧 9.34 10.89 +1.55 +16.60%
九州 高圧 4.19 4.79 +0.60 +14.32%
九州 特別高圧 2.32 2.53 +0.21 +9.05%
九州 発電側 0.43 0.49 +0.06 +13.95%
沖縄 低圧 11.53 13.52 +1.99 +17.26%
沖縄 高圧 6.39 7.36 +0.97 +15.18%
沖縄 特別高圧 3.95 4.40 +0.45 +11.39%
沖縄 発電側 0.43 0.50 +0.07 +16.28%

8社の一次資料は、北海道東北東京中部関西四国九州沖縄です。中国は中国電力ネットワークの変更届出です。

7月申請の8社は、第77回料金制度専門会合の審査結果を反映した公表値であり、2026年8月25日時点では正式な認可・変更届出により変動する可能性を残します。中国は需要・収入の下振れを踏まえた別ルートの見直しで、8月24日に変更届出を行い、11月1日実施予定です。中国の全体平均は5.66円/kWhから6.29円/kWhへ、資料記載の差は+0.62円/kWhです。電圧別差の単純平均とは一致しません。

北陸は7月10日の8社申請対象外です。「対象外」は値上げなしの意味ではないため、本テンプレートでは空欄の確認対象として残します。9エリアの平均単価も個別料金表ではないため、確定提案では小売料金表・約款・請求書に置き換えてください。

4. 家庭用の影響――230kWhなら月246~458円の一次試算

低圧の平均託送単価差を、月間使用量へ単純に掛けた結果が次の表です。税抜の一次スクリーニングであり、小売料金の最終請求予測ではありません。

計算式

月額影響(税抜)=月間買電量(kWh)×平均託送単価差(円/kWh)

エリア 230kWh/月 300kWh/月 400kWh/月 500kWh/月 230kWhの年額
北海道 +1.89円/kWh +435円 +567円 +756円 +945円 +5,216円
東北 +1.78円/kWh +409円 +534円 +712円 +890円 +4,913円
東京 +1.07円/kWh +246円 +321円 +428円 +535円 +2,953円
中部 +1.63円/kWh +375円 +489円 +652円 +815円 +4,499円
関西 +1.22円/kWh +281円 +366円 +488円 +610円 +3,367円
中国 +1.12円/kWh +258円 +336円 +448円 +560円 +3,091円
四国 +1.52円/kWh +350円 +456円 +608円 +760円 +4,195円
九州 +1.55円/kWh +357円 +465円 +620円 +775円 +4,278円
沖縄 +1.99円/kWh +458円 +597円 +796円 +995円 +5,492円

たとえば沖縄の230kWhは、230×1.99=457.7円/月、年額5,492.4円です。東京は230×1.07=246.1円/月、年額2,953.2円です。表は1円単位に四捨五入しています。端数処理、消費税、小売メニューの反映方法により請求書の数字とは異なります。

支援終了の「805円/月」は別レイヤー

政府の2026年7~9月使用分の支援単価は、低圧が3.5円、4.5円、3.5円/kWh、高圧が1.8円、2.3円、1.8円/kWhです。最後の9月使用分、すなわち通常は10月検針分で終了します。低圧230kWhなら最終月の支援は805円です。

「11月から託送差が表れ、同時に805円の支援がなくなる」と見せるのは、あくまで“他条件一定”の説明シナリオです。230kWhなら、単純合算は東京1,051円、関西1,086円、中国1,063円、四国1,155円、九州1,162円、中部1,180円、東北1,214円、北海道1,240円、沖縄1,263円/月です。実際には燃料費調整、小売料金反映、消費税、検針期間が重なるため、これらを請求予測として断定してはいけません。

2026年度の再エネ賦課金は4.18円/kWh

2026年度の再生可能エネルギー発電促進賦課金は4.18円/kWhです。北海道電力ネットワークの確認資料でも確認できます。これは今回の託送料金差とは別項目です。見積更新で「既存請求額に託送差を足し、さらに賦課金4.18円を足す」と、既に請求額へ含まれている賦課金を二重計上する恐れがあります。

9エリアの家庭の月額影響と産業用の年間影響を使用量別に示したマトリクス

図2:平均単価差×使用量の一次スクリーニング。税抜。基本料金差、燃料費調整、再エネ賦課金、小売反映方法は別途。

5. 産業用の影響――高圧1GWhで年34~97万円、特高10GWhで最大450万円

高圧需要家の年間影響を平均単価差だけで計算すると、次の通りです。

エリア・高圧差 0.1GWh 0.5GWh 1GWh 5GWh 10GWh
北海道 +0.82円 +8.2万円 +41.0万円 +82.0万円 +410万円 +820万円
東北 +0.66円 +6.6万円 +33.0万円 +66.0万円 +330万円 +660万円
東京 +0.35円 +3.5万円 +17.5万円 +35.0万円 +175万円 +350万円
中部 +0.44円 +4.4万円 +22.0万円 +44.0万円 +220万円 +440万円
関西 +0.53円 +5.3万円 +26.5万円 +53.0万円 +265万円 +530万円
中国 +0.34円 +3.4万円 +17.0万円 +34.0万円 +170万円 +340万円
四国 +0.56円 +5.6万円 +28.0万円 +56.0万円 +280万円 +560万円
九州 +0.60円 +6.0万円 +30.0万円 +60.0万円 +300万円 +600万円
沖縄 +0.97円 +9.7万円 +48.5万円 +97.0万円 +485万円 +970万円

特別高圧10GWh/年なら、北海道+380万円、東北+150万円、東京+60万円、中部+60万円、関西+60万円、中国+360万円、四国+130万円、九州+210万円、沖縄+450万円です。中国は低圧・高圧の差が相対的に小さい一方、特別高圧差は+0.36円/kWh、+20.57%と大きく、沖縄・北海道に次ぐ金額影響です。「エリア全体で何%上がるか」だけでは、電圧別の営業機会を見落とします。

高圧・特別高圧で平均単価方式が外れやすい理由

産業用では、年間kWhだけでなく次の変数が効きます。

  • 契約電力kWと最大デマンド
  • 基本料金の改定差
  • 力率割引・割増
  • 季節別、時間帯別の電力量単価
  • 予備線、蓄熱、休日など契約固有の料金
  • 燃料費調整、卸市場連動、容量拠出金、非化石価値
  • 自家発・太陽光・蓄電池導入後の契約電力
  • 検針期間と改定日の按分

したがって正式な年額差は、少なくとも次の形で計算します。

年間料金差=(契約kW_after×新基本単価-契約kW_before×旧基本単価)×12+Σ(時間帯別買電kWh×電力量単価差)+その他差分

平均単価方式は「優先順位を付ける」ため、契約単価詳細方式は「顧客へ提示する」ためと役割を分けるべきです。

6. 屋根上オンサイト自家消費型太陽光・蓄電池への意味

自家消費型太陽光の経済価値は、発電した1kWhのうち、系統から買わずに済んだ量に買電回避単価を掛けたものです。蓄電池は昼間の余剰を夜間へ移し、自家消費率を引き上げる一方、充放電損失、劣化、出力制約、ピークカット効果を同時に考える必要があります。

今回の改定で増える自家消費価値は、一次近似では次式です。

追加自家消費価値=年間自家消費量×買電単価差

家庭用4.5MWh発電のシナリオ

年間発電量4,500kWh、自家消費率35%なら自家消費量は1,575kWh。蓄電池併設等で65%まで高まると2,925kWhと仮定します。低圧平均単価差だけによる追加価値は次の通りです。

エリア 自家消費35%・1,575kWh 自家消費65%・2,925kWh
北海道 +1.89円 +2,977円/年 +5,528円/年
東北 +1.78円 +2,804円/年 +5,207円/年
東京 +1.07円 +1,685円/年 +3,130円/年
中部 +1.63円 +2,567円/年 +4,768円/年
関西 +1.22円 +1,922円/年 +3,569円/年
中国 +1.12円 +1,764円/年 +3,276円/年
四国 +1.52円 +2,394円/年 +4,446円/年
九州 +1.55円 +2,441円/年 +4,534円/年
沖縄 +1.99円 +3,134円/年 +5,821円/年

この数字が示すのは、「託送見直しだけで家庭用蓄電池の採算が劇的に変わる」とは限らないことです。一方で、料金支援終了、燃料費調整、時間帯別料金、停電対策価値、補助金、屋根設置太陽光のFIT/FIPを合わせて再診断するきっかけにはなります。

2026年度の屋根設置太陽光に関する初期投資支援スキームは、住宅用が最初の4年間24円/kWh、5~10年目8.3円/kWh、事業用屋根が最初の5年間19円/kWh、6~20年目8.3円/kWhとされています。経済産業省の2026年度価格資料 自家消費価値とFIT/FIP売電収入は別のキャッシュフローとして扱い、同一kWhを二重に数えないことが重要です。

500kW事業用太陽光のシナリオ

設備容量500kW、年間発電量を1,100kWh/kW・年、すなわち550MWh、うち90%の495MWhを自家消費すると仮定します。高圧平均単価差による追加自家消費価値は、北海道405,900円、東北326,700円、東京173,250円、中部217,800円、関西262,350円、中国168,300円、四国277,200円、九州297,000円、沖縄480,150円/年です。

たとえば補助金控除後投資額6,000万円、既存の年間ネット削減額600万円なら単純回収10.0年です。東北で追加価値32.67万円が全て小売買電回避へ反映される仮定なら、新しい年間ネット削減額632.67万円、回収年数は約9.48年、0.52年短縮します。顧客の社内ハードルが10年なら、保留案件が閾値をまたぐ可能性があります。

ただし、この0.52年は平均単価差の全額反映、発電量一定、設備費・O&M・劣化・税・金利を単純化したシナリオです。投資・発注判断では、30分需要と発電を重ね、契約電力、基本料金、蓄電池制御、複数年キャッシュフローまで再計算します。

7. 需要家観点:欲しいのは「値上げ解説」ではなく「自社の差額と打ち手」

家庭需要家の意思決定

家庭で最初に知りたいのは、月の電気代がいくら変わるかです。しかし、相談につながるのは数字を一つ示した時ではなく、その数字を自宅の条件へ置き換えられた時です。月間使用量、契約メニュー、昼間在宅率、屋根容量、既設太陽光、EV、給湯、蓄電池の有無を確認し、次の3ケースを並べます。

  1. 何もしない:改定・支援終了後の買電シナリオ
  2. 太陽光のみ:昼間の直接自家消費と売電
  3. 太陽光+蓄電池またはEV・V2H:自家消費率向上とレジリエンス

需要家へは「平均託送単価差による一次試算」「小売料金表を使った詳細試算」「将来単価を変えた感度分析」を区別して見せます。一本の予測線より、保守・基準・上振れのレンジの方が誠実で、投資判断にも使えます。

産業需要家の意思決定

工場、物流施設、病院、店舗、ホテル、学校などでは、月額より年間予算、原価率、投資回収、CO2、BCPが重要です。CFOや経営者には年間キャッシュフロー、設備担当には30分デマンドとピーク、サステナビリティ担当には再エネ比率とCO2、調達には前提・見積比較を提示します。

同じ+60万円/年でも、粗利率5%の事業なら追加売上1,200万円に相当し得ます。これは託送単価の事実ではなく、電力費増加÷粗利率で求める事業影響シナリオです。需要家の損益構造へ翻訳すると、太陽光・蓄電池の相談は「設備購入」ではなく「変動費ヘッジ」「利益防衛」の会話になります。

8. EPC・販売施工店観点:失注台帳を“再提案可能な資産”に変える

EPC事業者にとって最大の機会は、新規リードだけではありません。過去に「回収12年では長い」「電気代メリットが弱い」「補助金待ち」「屋根条件は良いが社内稟議が止まった」とされた案件です。料金前提が変わると、過去の結論も変わり得ます。

再提案の優先順位は、値上げ額の大きい順だけでは不十分です。少なくとも次のスコアを組み合わせます。

  • 料金改定による年間削減額の増分
  • 旧回収年数と新回収年数の差
  • 顧客のハードル回収年数をまたいだか
  • 屋根容量、負荷、自家消費率の確度
  • 前回失注理由と再接触可能性
  • 想定粗利と成約確率
  • 顧客の連絡同意、停止フラグ
  • 単価根拠の確度

本テンプレートでは、旧回収年数>社内ハードルかつ新回収年数≦社内ハードルの案件を「再提案最優先」、ハードル内だが閾値跨ぎではない案件を「再提案候補」、まだ回収が長い案件を「継続育成」、単価・品質・同意に問題がある案件を「要確認」とします。

これにより、営業は「全顧客へ一斉メール」ではなく、「当時10.4年で見送られた案件が9.8年へ短縮したため、前提を共同確認したい」という具体的な連絡ができます。誇張した値上げ訴求より、過去の意思決定条件がどう変わったかを示す方が、顧客にとって有用です。

9. 付属Excel/CSVテンプレートの設計と使い方

本稿に付属するExcelは、料金差分と過去案件を分離し、500案件を一括計算できるように設計しています。CSVは同じデータをCRM、DWH、API、BPOへ受け渡すための機械可読なステージング形式です。

Excelの9シート

シート 役割 主な出力・管理項目
00_はじめに 3ステップと注意点 4層、計算方式、免責
01_料金差分入力 料金マスター rate_key、旧・新・差、確度、適用日、URL
02_過去案件入力 案件台帳 使用量、契約kW、CAPEX、補助金、旧削減額、同意
03_一括再計算 自動計算 買電増、追加自家消費価値、新回収年数、優先度
04_感度分析 一次感度 単価差×使用量、自家消費量、支援終了参考値
05_ダッシュボード 管理KPI 品質OK、増加額、追加価値、再提案候補の期待粗利、放置コスト
06_検算 QA 重複、未登録、買電逆転、需要差、連絡停止、署名
07_出典・証拠台帳 一次情報 公表日、組織、数値、URL、証拠メモ
08_CSV項目定義 データ辞書 型、必須、単位、検証、意味

CSVパックの4ファイル

  • tariff_diff_master.csv:エリア・電圧別の単価差分、確度、適用日、出典URL
  • past_projects_input.csv:過去案件入力のサンプルと標準列
  • field_dictionary.csv:型、必須条件、単位、検証ルール
  • README_CSV.txt:利用手順、文字コード、注意事項

最短3ステップ

STEP 1:料金差分を更新
01_料金差分入力またはtariff_diff_master.csvへ、公式の改定前後単価を入力します。平均単価を使う場合は税抜円/kWh、契約単価詳細なら基本料金の円/kW・月と電力量料金の円/kWhを分けます。申請額8,845億円を単価欄へ入れてはいけません。

STEP 2:案件台帳を貼り付け
案件ID、エリア、電圧、rate_key、年間買電量Before/After、年間自家消費量、契約kW、CAPEX、補助金、旧年間削減額、O&M、ハードル回収年数、成約率、粗利、同意状態を入力します。顧客名は社内ルールによりID化・マスキングします。

STEP 3:品質ゲートを通して優先案件を出力
03_一括再計算で買電増加額、追加自家消費価値、新年間削減額、旧・新回収年数、短縮年数、再提案候補の期待粗利(成約率×粗利)を確認します。quality_flag=OKのみ顧客提示可とし、未登録単価、未公表、買電量逆転、需要差不整合を修正します。

二つの計算モード

平均単価スクリーニングでは、年間買電量×平均単価差で全件を高速仕分けします。必要データが少なく、台帳が不完全でも動きますが、個別請求の再現性は低い方式です。

契約単価詳細では、契約kW×基本料金差×12と、買電量×電力量料金差を分けます。時間帯別、段階別、季節別がある場合は列を拡張するか、30分需要対応のシミュレーター、API連携、試算代行を使って正式診断へ進みます。

必須の品質管理

料金改定対応で最も危険なのは計算式よりデータの意味が揃っていないことです。annual_purchase_kwh_beforeが太陽光導入前の系統買電なのか、総需要なのか。legacy_annual_savings_yenに売電、補助金、税が含まれるのか。tax_rateが料金マスターと案件側で二重に掛かっていないか。これらをデータ辞書で固定します。

さらに、単価のevidence_statusを「申請中」「審査結果ベース」「変更届出済」「小売反映確定」に分けます。公表前単価を本番提案へ自動反映しない承認ゲートが必要です。出典URL、確認日、版、承認者を残せば、9月に正式単価が変わっても差分だけを更新できます。

10. 案件規模・電圧・データ品質別:再計算方法の選び方

製品名から選ぶのではなく、①案件数、②低圧・高圧・特別高圧、③月別・時間帯別・30分値のどこまで必要か、④一度限りか継続更新か、⑤データ欠損と社内工数、の5条件から最小限の方法を選びます。比較対象は、Excel、個別診断シミュレーター、API連携、試算代行、自社開発です。

家庭・低圧、少数案件:Excelで絞り、個別診断

家庭用の太陽光、蓄電池、EV・V2Hでは、月別使用量、発電量、自家消費、売電、料金プランを比較します。まずExcelで「値上げ影響が大きい」「既設太陽光がある」「EV保有・予定」といった案件を絞り、上位案件だけを住宅向けシミュレーターで詳細診断すれば、全件を一件ずつ再入力する必要がありません。

サービスを比較する際は、対応料金プラン、太陽光・蓄電池・EVの同時比較、出力レポート、前提の変更履歴を確認します。候補例として、エネがえるASPは家庭・低圧案件の個別診断に利用できます。

高圧・特高、30分値・独自料金:需要曲線まで詳細診断

高圧案件では、Excelの平均単価で再診断対象を絞り、上位案件へ30分値、契約電力、料金表、太陽光・蓄電池条件を追加します。比較すべき要件は、独自料金登録、基本料金と従量料金の分離、デマンドピーク、複数年キャッシュフロー、ROI・投資回収の再現性です。

候補例として、エネがえるBizの料金・機能では、CSV需要データ入力、独自電気料金登録、主要10電力の料金更新等が案内されています。ROI機能の説明も含め、最新の価格・仕様と自社要件の適合を確認してください。

数百~数万案件、継続更新:API連携

APIが向くのは、単発の11月対応ではなく、料金マスター更新、診断実行、結果保存、優先度更新、担当者通知までを反復する場合です。案件ID、入力スキーマ、料金版、実行時刻、結果、承認状態を持たせ、未確定単価を本番配信しない、旧結果を上書きしない、エラーを再処理できることが選定条件です。

API比較では、料金・設備データの範囲、更新頻度、リクエスト上限、結果の説明可能性、版管理、障害時の運用を確認します。エネがえるAPIの公開FAQは、比較時の確認資料として利用できます。

欠損データ・短納期・担当者不足:試算代行

担当者が足りない、請求書PDFや図面しかない、30分CSVが崩れている、11月前に大量案件を処理したい場合は、データ整形・入力・試算・検算を外部化し、社内は顧客優先度と承認に集中する方法があります。

委託先の選定では、前提条件表、欠損値の扱い、検算方法、納品形式、個人情報・機密情報の管理、修正条件を確認します。参考として、エネがえるBPOの公開FAQには、掲載時点の標準レポート目安と対応範囲が示されています。実際の費用は案件条件により異なるため見積確認が必要です。

再計算方法の選定表

状況 最小限の方法 詳細化が必要になる条件
20件程度を試し、影響規模を知りたい Excel 顧客提示・投資判断へ進む案件だけ個別診断
家庭・低圧の提案品質をそろえたい Excel+住宅向け個別診断 太陽光・蓄電池・EV・料金プランを同一前提で比較
高圧・特高、30分値、独自料金を扱う Excel+30分需要対応シミュレーター 契約電力、ピーク、基本料金、独自料金まで再現
数百~数万件、CRM連携、継続更新 API連携 定期更新、CRM連携、版・監査・再処理が必要
納期が短い、データ欠損、担当者不足 試算代行 前提整理、欠損補完、検算、納品条件を合意
独自ロジックが競争優位で内製力が高い 自社開発+外部計算API 独自UI・業務フローは内製し、計算部分を連携
料金マスター更新から一括再計算、品質確認、案件条件に応じた詳細診断へ進む運用モデル

図3:値上げ対応を単発の見積修正から再提案エンジンへ変える運用。放置コストは実績ではなく、式を開示した管理シナリオ。

11. 再計算体制を整えないリスクと損失

問題は、特定のツールを採用しないことではありません。古い料金前提のまま判断する、料金改定のたびに同じ手作業を繰り返す、過去案件を再評価できないことです。損失額は会社ごとに異なるため、実績値のように断定せず式と仮定を開示します。

手作業再計算コスト

案件数×分/件×人件費/時÷60

  • 500件×30分×4,000円/時÷60=1,000,000円
  • 1,000件×45分×4,000円/時÷60=3,000,000円
  • 5,000件×60分×4,000円/時÷60=20,000,000円

ここには、レビュー、差戻し、CRM転記、顧客説明、誤計算対応の工数を含めていません。自社の完全人件費と実測時間へ置き換える必要があります。

再提案機会の逸失

過去案件数×再活性率×成約率×粗利/件

1,000件、再活性率5%、成約率10%、粗利100万円/件なら、1,000×5%×10%×100万円=500万円です。これは保守的な管理シナリオであり、将来売上の保証ではありません。重要なのは、再活性率と成約率をCRMで計測し、仮定から実績へ更新することです。

数字にしにくいが重大な損失

  • 古い電気料金で作った提案を再利用し、説明の信頼を失う
  • 担当者ごとに計算結果が違い、レビューが増える
  • 公表前単価を確定値として使い、後日全件を再修正する
  • 顧客の連絡停止を無視し、コンプライアンス事故になる
  • ノウハウが個人Excelに閉じ、退職・異動で再現できない
  • 料金改定に関する需要家の質問へ、根拠と個別差額を示して答えられない
  • 太陽光・蓄電池の案件化条件が変わったのに、失注台帳が眠ったままになる

リスクを減らす最低条件は、高価なシステムを先に買うことではありません。料金マスター、案件ID、前提辞書、確度、出典、版、承認、顧客同意を揃えることです。この土台があれば、Excel、個別診断、API連携、試算代行を必要な範囲だけ段階的に追加できます。

12. 11月までの90日アクションプラン

8月下旬~9月上旬:データを作る

  1. 過去案件をCSVへ統合し、案件IDを一意化
  2. エリア、電圧、料金メニュー、使用量、契約kWを正規化
  3. 太陽光導入前後の買電、自家消費、CAPEX、補助金、旧削減額を整理
  4. 顧客同意、連絡停止、最終接点、失注理由を追加
  5. 料金マスターへ公式URL、公開日、確度を登録

この段階では小売の正式料金表が未確定でも構いません。公表前の個別単価は空欄のまま管理し、計算へ通さないことが重要です。

9月:正式単価と小売リリースを取り込む

各送配電会社の認可・届出、小売各社の料金表を確認し、旧・新単価を更新します。平均単価と正式料金表を別列に持ち、税抜・税込、適用日、検針日の扱いを記録します。20件程度を抽出し、既存見積と照合して差分理由を説明できる状態にします。

10月:再提案を設計する

全件を一次計算し、品質OKかつ経済性が改善した上位20%を詳細診断します。営業、料金、技術、法務・個人情報のレビューを通し、顧客向けの説明文を統一します。値上げ不安をあおるのではなく、旧提案から何が変わったか、何が未確定か、共同で何を確認したいかを示します。

11月:実績を戻す

実際の請求書、受注、失注、再活性、成約、粗利、工数を収集します。平均単価の誤差、優先度スコアの精度、需要家区分別の再診断移行率を更新し、次の料金改定や補助金変更でも再利用できる運用にします。

13. 需要家・EPC・関連事業者が取り得る8つの実務策

1. 既存顧客向け「電気料金改定ヘルスチェック」

需要家は、請求書1~3か月分と設備情報を用意し、支援終了、託送見直し、小売料金変更を分けて確認します。EPC・販売施工店は、予想請求差、未確定事項、太陽光・蓄電池の再診断要否を一枚にまとめれば、設備提案の前に「再計算する価値があるか」を判断できます。

2. 失注・保留案件の再活性化プログラム

過去に回収年数や予算を理由に保留した需要家は、旧回収年数、社内ハードル、料金差を再確認します。EPC側は、結論が変わる可能性のある案件だけを抽出し、「前回から変わった前提」と「変わらない前提」を示して再連絡します。

3. 多店舗・多拠点企業のポートフォリオ診断

多店舗・多拠点企業は、エリア、電圧、負荷、屋根条件が拠点ごとに異なります。全拠点を同じ指標で一次スクリーニングし、電力費影響、自家消費余地、設備投資効率が高い拠点から詳細診断すれば、限られた投資予算の配分を比較できます。

4. EPC向け再計算BPO

EPC・販売施工店が案件CSV、請求書PDF、30分値、図面を短期間で処理できない場合は、前提整理、試算、検算、優先順位、顧客向けサマリーの一部または全部を外部委託できます。委託時は、欠損値の扱い、計算責任、顧客データ管理、再修正条件を明文化します。

5. API組み込み型の料金改定アラート

数百件以上を継続管理する事業者は、料金マスターの版が変わった時に影響案件を抽出し、再計算キューを作り、CRM担当者へ通知する仕組みを検討できます。判断すべきなのは、件数だけでなく更新頻度、誤反映時の影響、承認ログ、再処理の必要性です。

6. 金融・リース・PPA事業者向け再与信・再採算

買電単価シナリオが変わった時に、PPA単価の競争力、DSCR、回収年数、残存リスクを再評価します。確定値ではなく感度レンジを示すことが重要です。

7. 施工後顧客の実績モニタリング

設備導入後の需要家は、提案時の発電・自家消費・削減額と、実請求・発電実績を比較します。料金改定で削減額が変わった影響と、設備が設計通り動いているかを分離すれば、保守、運用改善、増設、蓄電池の要否を誤りにくくなります。

8. 営業教育と提案ガバナンス

8,845億円を需要家の年間負担と誤解しない、平均単価を請求額と断定しない、支援終了と託送を二重計上しない、といった判断ルールを、営業・設計・審査・経営で共有します。説明品質はツールだけでなく、前提と計算式の標準化で作られます。

14. 読者の立場別:次に確認すべきデータと判断資料

同じ料金改定でも、家庭、施設所有者、EPC、情報システム、経営・財務では次に解くべき問題が異なります。自分の立場に該当する行から確認してください。

立場 未解決の判断 まず用意するデータ 次の確認
家庭・低圧需要家 月額影響と太陽光・蓄電池の要否 直近12か月の使用量、料金プラン、屋根・既設設備、生活時間帯 何もしない/太陽光/太陽光+蓄電池を同じ前提で比較
工場・店舗・施設所有者 年間予算、原価、回収年数への影響 請求書12か月、契約電力、30分値、操業時間、設備更新計画 基本料金・従量料金・ピーク・自家消費価値を分けて計算
EPC・販売施工店 どの失注・保留案件を再診断するか 旧提案、失注理由、顧客ハードル、料金・使用量、連絡同意 全件一次計算後、閾値をまたぐ案件だけ詳細診断
情報システム・業務企画 Excel、API、外部委託のどこまで必要か 案件件数、更新頻度、CRM項目、承認・監査・再処理要件 20件の手動検証で欠損率と例外率を測ってから自動化
経営・財務・調達 投資順位と前提リスクをどう管理するか 年間電力費、粗利率、CAPEX、補助金、回収年数基準、感度条件 単一予測ではなく保守・基準・上振れの3シナリオで承認

判断を前へ進める順番

  • 1. 規模を知る:本稿のエリア別平均単価差と付属Excelで一次影響を確認する。
  • 2. 個別条件へ置き換える:正式料金表、請求書、契約電力、30分値、設備条件で詳細化する。
  • 3. 比較する:何もしない、太陽光、太陽光+蓄電池を同一期間・同一前提で並べる。
  • 4. 不確実性を示す:確定値、未確定値、推定値を分け、感度レンジと更新日を残す。
  • 5. 実績で更新する:改定後の請求書と予測を照合し、次回の再計算精度を上げる。

読者に必要なのは製品名の比較から始めることではなく、まず自分の未解決の判断と不足データを特定することです。その後で、Excel、個別診断、API、外部委託のどこまで必要かを決めれば、過剰なシステム投資と精度不足の両方を避けられます。

15. よくある質問

Q1. 8,845億円を8社の年間値上げ額と説明してよいですか

いいえ。8社の5年収入見通し申請増額の合計です。年額、料金収入、需要家負担は区別してください。

Q2. 平均託送単価差を使用量へ掛ければ請求額が出ますか

規模感は出ますが、請求額は確定しません。小売料金表、基本料金、契約電力、燃調、賦課金、税、検針を確認します。

Q3. 2026年11月1日に全国一斉で同じ率だけ上がりますか

いいえ。対象会社、審査・届出状況、電圧、料金構造、小売事業者の反映方法が異なります。

Q4. 中国電力ネットワークは7月の8社申請に含まれますか

含まれません。中国は8月24日に別の変更届出を行い、11月1日実施予定です。

Q5. 北陸は値上げなしですか

7月10日の8社申請対象外というだけで、別改定がないとは断定できません。継続確認が必要です。

Q6. 太陽光のメリットは単価差の分だけ必ず増えますか

必ずではありません。小売料金への反映、自家消費量、時間帯、基本料金、売電、制御で変わります。平均単価差は一次試算です。

Q7. 蓄電池は今回の値上げだけで採算が合いますか

案件次第です。追加自家消費価値は数千円~数十万円/年のケースがあり、設備費、補助金、停電価値、劣化、時間帯料金と合わせて判断します。

Q8. Excelだけで正式提案できますか

平均単価方式は一次仕分け用です。正式提案は公式料金表、請求書、30分値等で詳細再計算してください。

Q9. 何件からAPIを検討すべきですか

件数だけでなく更新頻度、CRM連携、版・承認ログ、再処理の必要性で決めます。数百件でも毎月更新ならAPI価値が高く、数千件でも一度限りならBPOが合理的な場合があります。

Q10. 顧客への再連絡で最初に確認することは何ですか

利用目的、同意、連絡停止、最終接点、失注理由です。経済性が改善しても連絡不可なら営業キューから除外します。

Q11. いつ専用シミュレーターや外部支援を検討すべきですか

Excelで20案件を試し、30分値・独自料金が必要、更新を反復する、欠損補完や検算に時間がかかる、と判明した時点です。正式単価は後から差し替えられますが、案件データの整備と運用設計には時間がかかります。

Q12. 最初の小さな成功条件は何ですか

20案件で、入力欠損率10%未満、品質OK率90%以上、再計算1営業日以内、営業が説明できる優先案件3件以上を目標例にします。これは推奨シナリオで、自社基準へ置き換えてください。

16. 実務上の最終提言

2026年11月の料金改定は、単なる「値上げニュース」ではありません。送配電投資、小売料金、支援終了、再エネ賦課金、屋根設置支援が同時期に動き、需要家が自家消費・蓄電池・省エネを再検討する意思決定イベントです。

しかし、需要家の不安をあおり、平均単価を請求額と断定すれば、短期的にリードが増えても信頼を失います。勝ち筋は、確定・未確定を分け、計算式を開示し、顧客固有データへ段階的に置き換えることです。

今すぐ行うべき最小アクションは、付属Excel/CSVへ20案件を入れることです。料金差分を仮置きし、どの列が足りないか、どの案件が閾値をまたぐか、誰が承認するかを確認します。その結果から、Excelで十分か、家庭・低圧の個別診断が必要か、高圧・特高の30分需要診断が必要か、API連携や試算代行が必要かを判断します。

「導入するか」を抽象的に議論するのではなく、「11月までに何件を、どの精度で、何時間以内に再計算し、何件の顧客と次の相互アクションを合意するか」を決める。それが、料金改定を屋根上オンサイト自家消費型太陽光・蓄電池の健全な需要創出へ変える戦略です。

次のアクションを3つから選ぶ

  1. まず自社案件で確かめる:付属の過去案件一括再計算ExcelまたはCSV一式へ20案件を入れ、欠損率、品質OK率、回収年数の閾値跨ぎを確認する。
  2. 高圧・特高の導入対効果を比較する:30分値、独自料金、基本料金、複数年キャッシュフローに対応するかを比較する。候補例として、エネがえるBizの料金・機能ROI自動計算の解説を確認できる。
  3. 大量案件や欠損データの処理方法を決める:案件数、更新頻度、欠損率、納期、社内工数を整理し、API連携と試算代行を比較する。製品・サービス資料一覧試算代行の対応範囲は比較材料として利用できる。

出典・更新ポリシー

本稿は2026年8月25日18時JSTを情報基準時とし、料金・制度は一般送配電事業者、電力小売、経済産業省の一次情報を優先し、製品・サービスに関する記述は各公式情報を確認しました。7月申請8社の8月24日平均単価は審査結果ベース、中国は変更届出済です。正式認可、変更届出、小売料金表の公表後に更新してください。

主要一次情報:

免責:本稿とテンプレートは事業判断の一次スクリーニング用です。将来の電気料金、設備効果、受注、投資回収を保証しません。顧客提示、契約、投資判断では、最新の約款・料金表・請求書・設備条件・税務会計・法務条件を確認してください。

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業株式会社 カーボンニュートラル推進部 デジタルエネルギーグループ。再エネ設備導入効果シミュレーター「エネがえる」(ASP、Biz、EV・V2H、API、BPO)の事業開発を担当。太陽光、蓄電池、オール電化、EV・V2H、電力料金、補助金、再エネ設備の経済効果シミュレーションを専門領域とし、サービス企画、顧客提案、マーケティング、パートナー連携を横断して推進しています。エネがえるは国内700社以上で導入され、年間15万件以上の診断に利用されています。取材、登壇、協業、サービスに関するお問い合わせは、エネがえる公式お問い合わせページからお願いします。

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