太陽光発電システム設計における日陰の影響と考慮のノウハウ:完全ガイド

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。お仕事・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

太陽光発電(太陽光パネル)の設置義務化とは
太陽光発電(太陽光パネル)の設置義務化とは

太陽光発電システム設計における日陰の影響と考慮のノウハウ:完全ガイド

10秒で読めるまとめ

太陽光発電では「日陰」が発電量に大きく影響します。パネルの一部に影がかかるだけで出力が半減することも。科学的根拠から簡易計算法、相場観、対策技術まで網羅的に解説。最適な設計には「影を避ける配置」「影響の定量評価」「影に強いシステム選定」が鍵。初心者からプロまで役立つ日陰対策の完全ガイドです。

日陰が発電量に与える影響:科学的根拠と数理モデル

太陽光発電システムにおいて、日陰(シャドウイング)の問題は単なる「光が当たらないから発電しない」という単純な話ではありません。その影響メカニズムと数値的根拠について詳しく見ていきましょう。

部分的な影が大きな発電低下を招く理由

ソーラーパネル(太陽電池モジュール)は複数の太陽電池セルが直列・並列に接続されて構成されています。この構造が日陰問題の核心部分です。直列回路中の一部のセルに影がかかると、その回路全体の電流が制限され、想像以上に発電量が低下します

具体的な事例で考えてみましょう。1枚のパネル内に3回路の直列セル群があるとします。この場合、一つの回路に日陰がかかるとその回路は発電をほぼしなくなり、残りの回路だけで発電する状態になります。極端な場合、パネル表面の影の面積が小さくても、影のかかり方次第では出力が半分以下に落ちることもあります。

なぜこのような現象が起きるのでしょうか?これは、日陰部分のセルが電流のボトルネックとなり、発電した電力がそこで消費されてしまう(熱となる)ためです。この現象によって、日陰の面積以上に発電量低下が大きくなることが科学的に確認されています。

バイパスダイオードの役割

こうした深刻な問題に対処するため、太陽電池モジュール内部には通常「バイパスダイオード」が組み込まれています。このデバイスは、部分的に影が生じたセルを迂回して電流を流すことで、影による極端な出力低下やセルの損傷(ホットスポット)を防止します。

バイパスダイオードが動作すると、影がかかったセル群(直列回路)は切り離され、他のセルによる発電だけで出力を維持しようとします。この仕組みにより、パネル全体が完全に機能停止するという最悪の事態は避けられます。

しかし、このシステムがあるとはいえ、影部分の出力は失われるため、日陰の発生自体を避けることが最善策である点に変わりはありません。バイパスダイオードは「損害を最小限に抑える」技術であり、発電ロスそのものをなくすわけではないのです。

数理モデルと計算例

日陰の影響を定量化するために、専門家は日陰補正係数という概念を用います。日本産業規格JIS C 8907:2005では年間発電量推定式の中で「日陰補正係数 (K_HS)」を定義し、影による発電量低下を係数で表しています。

遠方の山や地平線による日射カットのような遠距離の遮蔽物による影はパネルを点とみなして扱い、日射量ベースでの減少率を計算します:

K_HS,m = H_s / H_f

ここでH_fは影が無い場合のある期間の日射量、H_sは影がある場合の日射量です。

一方、建物や樹木など近距離の遮蔽物による影はパネルを面として扱い、発電電力量ベースで影響を評価します:

K_HS,a = E_s / E_f

E_fは影が無い場合の発電量、E_sは影がある場合の発電量です。

このように、日陰による発電損失=1-K_HSの割合で表せます。具体例として、295W出力のパネルに横方向の直線的な影がかかったケースでは、出力が198W程度まで低下し約33%の出力減少となったとの報告があります。これは、一見小さな影でもセルの直列回路全体が影響を受けるためです。

さらに電柱の影を再現した実験では、影なし2.4kWの発電が影ありでは2.3kW程度に低下し、約4%の発電量ロスとなった例もあります。以上のように、定量モデルと実例の双方から、部分的な影でも無視できない発電ロスが生じることが科学的に裏付けられています。

ワンポイント解説: 太陽光パネルでは、セルが直列につながっているため、1つのセルでも影に入ると電流がストップし、回路全体の発電にブレーキがかかります。このため「パネルの端っこに少し影があるだけなのに発電量がガクッと落ちる」現象が起こります。バイパスダイオードはそのブレーキを迂回させますが、それでも影の部分の発電は失われます。したがって**「影を作らない配置」が何より大切**です。

ツール不要の簡易試算法(手計算・Excel活用のTIPS)

専門的なシミュレーションソフトがなくても、現場で日陰の影響を概算するための実用的な方法がいくつかあります。ここでは、手計算やExcelを使った簡易な試算方法をご紹介します。

影の大きさ・角度からおおまかに評価

基本は「遮蔽物の高さと距離から太陽高度との関係をみる」ことです。例えば現場で障害物(建物や木)の高さを測り、パネルからの水平距離と比較することで、その障害物が太陽を遮る角度(仰角)を求められます。

計算式としては:

  • 遮蔽物仰角 = arctan(高さ÷距離)

一方、その地点での太陽高度は日時・緯度で決まります。太陽高度は夏至には高く冬至には低くなりますが、東京付近(北緯35度)では真南に向けたパネルに対し冬至の正午で約30°前後、夏至なら約78°程度になります。

現場では日時計アプリや太陽高度表を用いて「太陽高度が障害物仰角を上回る時間帯」を割り出し、その時間帯は直射日光が遮られる=日陰になると判断できます。例えば、遮蔽物の仰角が20°の場合、太陽高度20°以下の朝夕(冬期は特に日中でも高度が低い)に影が及ぶと推測できます。

この手法で影のかかる時間帯を予測し、その時間帯の発電寄与分をざっくり減算することでロスを試算できます。

エクセルによる簡易シミュレーション

Excelを使えば太陽の位置計算を自動化し、もう少し精度の高い予測が可能です。たとえば、任意の日時について太陽高度や方位角を計算する数式(太陽位置の近似式)をExcelに組み込みます。

具体的には、日時から太陽赤緯と時角を求め、緯度と組み合わせて高度角を算出するステップです(※これらの公式は少し専門的ですが、国立天文台などが公開するアルゴリズムを利用可能です)。

これに遮蔽物の方位・仰角データを組み合わせ、各時間ごとに「直射日光が遮られるか否か」を判定できます。そして時間別の日射量データ(後述のNEDOのMETPV-20などから取得可能な値)にその判定を掛け合わせ、影あり・なしの場合の積算発電量の差を計算することで年間ロス量を見積もることができます。

高度なシミュレーションには及びませんが、Excelベースの日影曲線描画や発電量積算は工夫次第で実現でき、手計算より精度の高い試算が可能です。

簡易係数による目安算定

現場では「影のかかる時間割合×発電量」でおおまかなロスを掴む方法も用いられます。例えば「冬場は朝9時まで隣家の陰、夏は影なし」と見積もれれば、**年間で影の影響時間がおよそ(3時間×冬の月数)/(日照可能時間×12か月)**といった割合から、年間発電量の○%ロスと推計します。

さらに、影に入ったときも完全にゼロになるわけではなく散乱光である程度発電する点を考慮し、影の間も20~30%程度は発電する(薄い影ならもっと発電)と仮定して補正します。

このような経験則を用いた係数化は精度に限界がありますが、**「およそ◯%のロス」**という感覚を掴むのに有用です。例えば「午前中いっぱい樹木の陰になるパネルなら年間ロス10~15%程度」のように、過去案件のデータから社内で係数化しておくと設計提案時の即答に役立ちます。

ワンポイント解説: 高度な日射シミュレーションが難しい場合でも、影が何時間発生するかその時間帯の日射の強さを考えれば、おおまかな影響度を計算できます。現場では**”朝夕1時間ずつ影”なら年間○%ロス**というざっくり計算法も使われています。ただし影の濃さ(薄い影か完全な影か)で発電への影響も異なるため、慣れや安全率をもって評価します。

住宅用・事業用における日陰ロスの相場観

太陽光発電システムの種類や設置状況によって、日陰による発電ロスの平均的な値には一定の傾向があります。実際の現場での相場観を把握することで、設計・施工時の目安とすることができます。

一般的な数値の目安

日陰による発電量ロスは設置環境によって大きく異なりますが、住宅用システムでは5~10%程度のロスが生じるケースが少なくありません。特に住宅街では朝夕に隣家の影が屋根にかかることが多く、年平均で見ると数%~10%前後のロスにつながる例が報告されています。

一方、広い用地に設置する産業用(事業用)や公共用の大規模システムでは、設計段階で徹底的に日陰対策(間隔確保や伐採等)を行うため日陰ロスはゼロ~数%程度に抑えられるのが通常です。NEDOのフィールドテストによる69サイトの実測データでも、**日陰損失は平均約5%**と見積もられています。

実際には住宅用でも影を極力避けて設置できればロス1~2%に留まる場合もあり、逆に樹木などで冬季ほとんど日当たりが無いような劣悪条件では発電量が半減近くになることもあります(極端なケースですが、北向き屋根で冬は終日日陰などの場合)。

季節変動の傾向

日陰によるロスは季節によって影響度が変わる点にも注意が必要です。夏場は太陽高度が高いため地上物による影はできにくい反面、真上に近い日射が多いので一旦影ができると直射成分が強い分ロスも大きくなります。

冬場は太陽高度が低く長い影が生じやすいものの、もともとの日射強度や時間が少ないため、影によるロス割合は意外と小さく年トータルでは夏季より影響が小さいこともあります。

ある試算では、年間平均で日陰等も含めた総合損失15%のシステムにおいて、季節別では夏20%、冬10%の損失割合になるという報告があります。地域特性も絡みますが、**「夏の影は発電ロス大きめ、冬の影は発電量自体少ないので影響小さめ」**と覚えておくと設計の勘所になります。

地域性の考慮

日本全国で見ると、都市部の住宅密集地では建物による日陰リスクが高くロスも大きめ、農村部や工業団地のプラントでは周囲が開けていてロス小といった傾向があります。また北日本は冬季の太陽高度が特に低いため建物影が伸びやすい一方、南日本では高度が高く比較的影が生じにくいという差があります(例えば沖縄と北海道では同じ建物でも冬至の影の長さが異なる)。

さらに北海道・東北では積雪によるパネル日陰(覆雪)リスクも大きく、冬季は雪による発電ゼロ時間が長期に及ぶ場合もあります。こうした地域要因まで含めて考えると、**「東京で5%ロス」の設計が「札幌では雪込みで10%以上ロス」**といった違いも出るため、全国対応の設計では地域係数や現地調査情報を反映することが重要です。

ワンポイント解説: 太陽光発電では、「年平均で見れば多少影があっても大勢に影響なし」というケースもあります。例えば朝夕の短時間だけ影になる場合、日中のピーク発電には影響しないのでロスは限定的です。一方、真夏の正午に影が入る場合、1時間の影でもかなり大きなロスになります。このように**「いつ影になるか」**で影響度は変わるため、単純な面積割合ではなく時間帯や季節まで考えるのがプロの設計です。

日陰ロスに関する知識・テクニック(現場で役立つポイント)

実際の設計や施工現場で役立つ、日陰対策のための実践的なテクニックや知識をご紹介します。

日陰を徹底的に避ける設計思想

太陽光発電システムは本来「影ができないように設置する」ことが大前提です。業界の設計指針でもまず「通常影ができないよう配置せよ」と強調されています。

したがって、現場では可能な限り日陰要因を排除する工夫が求められます。例えば、樹木であれば伐採や剪定、アンテナや配管であれば移設、隣接する構造物の影響が大きければパネル配置を変更するなど、影の原因そのものを取り除くかレイアウトで回避することが鉄則です。

特に太陽高度の低い時間帯に大きな影を落とす物は見落としがちなので、現地調査では季節や時間を変えて確認したり、近隣の将来的な建物計画まで情報収集するといった徹底ぶりが重要です。

影に強いハードウェアの活用

近年の技術進歩により、日陰の影響を緩和できる機器やパネルも登場しています。マイクロインバータパワーオプティマイザ(直流電力最適化デバイス)を各パネルに設置することで、影がかかったパネルだけ出力低下しても他のパネルには影響しにくいシステム構成が可能です。

従来型の一括ストリング方式では1枚の影で串刺しのように全体出力が低下するのに対し、パネル単位で最大出力点追従するマイクロインバータ方式では部分影の局所化が期待できます。

また、パネル自体も影に強いタイプを選定するテクニックがあります。例えばCIS/CIGS系の薄膜パネルは結晶シリコン系に比べ部分的な日陰による出力低下が少ないという特性があります。国内メーカーのソーラーフロンティア社(CIS薄膜)の実証でも「電柱などの影が部分的にかかる住宅環境では結晶シリコンより有利」と報告されています。

さらに、セルを細かく分割したハーフカットセル九分割セル等のモジュールは、一部陰影時でも非影部で発電を継続しやすく、従来品より出力低下を緩和できます。現場ではこうした「影に強い機材」を状況に応じて選定することで、影リスクを低減させることができます。

定期メンテナンスと運用対策

設置後の運用段階でも日陰ロスを抑える工夫が求められます。代表例が定期的な清掃・点検です。パネル表面の汚れ(ホコリや鳥のフン、落ち葉の貼り付き)は小さな「日陰」を作り発電ロスの原因になります。

特に落ち葉やフンはセルの一部を長時間覆って実質的な影と同じ状況を生み、そのままだと発電量が大きく低下します。定期点検の際にはパネル洗浄や周辺の草木の状況確認を行い、必要に応じて除去することが大切です。

また、影の動きをリアルタイムで監視する手法も有効です。発電モニター上で特定の時間帯だけ出力が急落する場合、何らかの影が発生している可能性があります。その場合は現場で原因を特定し対処(例えば新築建物ならパネル移設検討、配線影なら養生テープ対応など)します。

さらに運用上の工夫として、発電量保証制度保険を活用し、予想外の影発生による損失リスクに備えるケースもあります。例えば近隣に高層建築が建ってしまった場合など、契約でカバーできるか検討します。

ワンポイント解説: 影対策の引き出しは様々です。「影を作らない設計」が第一ですが、完全になくせない影については「影に強いシステム構成」や「影があっても壊れないメンテ」でカバーします。例えば住宅屋根なら、あえて影がかかりそうなパネルだけ別系統のパワコンに繋ぐ・出力制御デバイスを付ける、といった工夫も現場では行われています。大事なのは影の存在を見過ごさず、何らかの対策を講じることです。

日陰以外の主要な発電ロス要因とその規模・計算式

日陰によるロスだけでなく、太陽光発電システムには様々なロス要因があります。ここでは影以外の主なロスファクターをランキング形式で挙げ、それぞれの典型値や計算方法に触れます。

  1. パワーコンディショナ(インバータ)損失: パネルから得た直流電力を交流に変換する際のロスです。一般的なパワコンの変換効率は95~98%程度であり、約2~5%が電力変換ロスとなります。高効率機種を使うことで損失は減らせます。計算式は単純で、例えばカタログ上の変換効率η=95%ならロス係数=0.05(5%)として見積もります。NEDO実証ではパワコン損失は平均7%程度とのデータもあります(これは待機損失やMPPT効率低下なども含んだ値と考えられます)。

  2. 温度による出力低下: 太陽電池はセル温度が高くなると出力が下がります。シリコン系モジュールでは一般に**温度係数 -0.3~-0.5%/℃程度で、セル温度が25℃より10℃高くなると出力は約3~5%低下します。日本の年間平均をとるとこの温度ロスは無視できず、ある試算では年平均で約15%**の発電量が温度上昇により失われているとも言われます(季節別では夏季の高温時にロス増大)。計算式としては、実動作時のモジュール温度T_cellを推定し、P = P_STC×[1 + β×(T_cell – 25℃)]で補正します(β:温度係数)。例えば温度係数-0.4%/℃でセル温度が65℃なら、出力は1 + (-0.004×(65-25)) = **0.84倍(16%低下)**となります。

  3. 配線・回路の電気抵抗損失(DC/AC配線損失): パネルとパワコン、パワコンと受電点を結ぶケーブルでの抵抗損です。大きなシステムほど配線が長くなるためロスも増えますが、一般には1~3%程度に収まることが多いです。計算はオームの法則を用いて、例えば配線抵抗Rあたり電流Iが流れるとき損失P_loss=I²Rで見積もります。配線太さを上げる(抵抗を下げる)ことでロス低減できます。直流側と交流側を合わせて評価する場合、JIS計算式では配線損失係数として一括で見込むこともあります。

  4. 受光角度による損失(反射ロス): 太陽光がパネル面に斜めに当たると一部が反射してセルに届かないロスです。これはパネル表面のガラス反射特性によりますが、日射入射角が大きい朝夕ほどロス大になります。例えば垂直入射時を100%とすると、80°の浅い角度では80~90%程度しか有効利用できないなど、数%の損失が発生します(NEDOデータでは「入射角特性損失」として約3%と推計)。この効果は「IAM(入射角補正係数)」曲線として各モジュールで規定されており、詳細シミュレーションではその曲線に従い時間別に補正します。簡易には年間平均入射補正係数として0.97程度(=3%ロス)を掛けて評価します。

  5. 経年劣化: パネルの性能は経年で徐々に低下します。初年度に光照射による出力初期低下(LID)で2~3%落ち、その後は1年あたり0.3~0.7%程度の割合で劣化するのが一般的です。20年稼働すれば合計で10~15%程度出力低下すると見込まれます。これを劣化係数として設計時に考慮する場合、例えば20年間の平均劣化を見込んで**0.90倍(10%マイナス)**とする手法があります。ただし劣化は年ごとなので、年毎シミュレーションでは逐次反映します。

  6. 汚れ・埃(ソiling)による損失: パネル表面の汚染は常時薄い日陰を作るのと同じで、数%規模のロス要因です。乾燥地域で砂塵が積もる場合や、海岸地域で塩分が付着する場合などは特に注意が必要です。一般には定期的な雨である程度洗い流されますが、長期間清掃しないと5%以上の発電量低下を招くこともあります。計算上は扱いが難しいため、年間発電量の不確定要素として数%見込んでおくか、もしくは「メンテナンスで低減可能なロス」として別管理することがあります。

  7. その他のロス: 上記以外にも細かなロス要因があります。パワコンの夜間自己消費(ナイトロス)や待機電力、パネル素子間のばらつき(ミスマッチ)損失、架台による一部セル遮蔽、雪による覆雪ロス、設備停止(故障・停電)によるダウンタイムなどです。NEDOの分析では「その他」カテゴリで合計7%程度の影響があるとされます。これらは個別には小さいものの、積み重なると無視できないため、性能シミュレーション時には経験に基づき加味されます。例えばミスマッチは0.98(2%ロス)、夜間消費は年間数kWh、といった具合に引き算してゆきます。

  8. 以上をまとめると、主要ロス要因のランキングは概ね「(1)システム性能(理論最大に対する総合ロス)≒15~30%、その内訳としてインバータ効率5%前後、温度ロス数%~一割、配線損失数%、反射損失数%、日陰損失サイト次第で0~数%、汚れ数%、劣化年次で累積」という形になります。実フィールドデータから算出された損失因子の割合では、**日陰(5%)・反射損(入射角3%)・温度(4%)・インバータ(7%)・ミスマッチ等(6%)・その他(7%)**と報告されています。設計時にはこれらを踏まえ、総合損失係数Kとして0.7~0.8程度(逆に言えば20~30%ロス)を乗じて年間発電量を見積もることが一般的です。

    ワンポイント解説: カタログ値どおりに発電しないのは、「影があるから発電しない」のではなく**「影がなくても様々な損失がある」ためです。太陽光発電の性能を表す指標に「性能比(PR, Performance Ratio)」**がありますが、理想=100%に対して普通は80%前後です。これは20%分が上述のロスで失われていることを意味します。影のロスはこの中の一つに過ぎませんが、影は人間の工夫でゼロにもできる特殊なロスと言えます。他のロスと合わせてトータルで考える視点が大切です。

    発電量予測における日陰考慮:JIS式・NEDOモデルの場合

    実際の設計や発電量予測において、どのように日陰の影響を取り込むべきか、国内標準的な方法論について見ていきます。

    JIS発電量計算式と日陰係数

    日本産業規格(JIS C 8907:2005)は太陽光発電システムの年間発電量を簡易に見積もるための計算式を規定しています。基本式は次の通りです:

    E = H × K × P × 365

    ここで E は年間予想発電電力量 [kWh/年]、H は日平均日射量 [kWh/m²・日]、P は太陽電池アレイ公称出力 [kW]、K は総合設計係数です。このKが先述した各種ロス要因をまとめたもので、日陰の影響もKに含めて考慮することになっています。具体的にはKを分解すると、K = K_TD(温度)×η_inv(インバータ効率)×K_wire(配線損失)×K_HS(日陰)×K_deg(経年劣化)…といった形になります。

    この中の**日陰補正係数K_HSは、影の状況に応じて0~1の値を設定します。JIS規格内では日陰係数の求め方として、前述の遠方遮蔽時: K_HS,m=H_s/H_f、近距離遮蔽時: K_HS,a=E_s/E_f**の考え方が示されています。

    しかし、標準的な設計指針においては「日陰ができないよう設計することが通常であり、個々の影の影響を厳密に算定するのは困難で汎用性が低い」ことから、新規設置時の計画では日陰補正係数は1.0(影なし)として扱うことが多くなっています。実際、住宅用の政府支援制度などで使われる「住宅事業主判断基準」でも日陰は考慮せず計算するルールになっていました。

    要するに、JIS式は日陰を考慮できる枠組みはあるが、標準では影なし前提という扱いです。もちろん、明らかに影が避けられない場合には設計者の判断でK_HSに例えば0.95(5%ロス)等の値を入れて見積もることが推奨されます。

    NEDOの日射量データベースと日陰

    太陽光発電の設計では、地域の年間日射量データが不可欠です。日本ではNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が提供する日射量データベースが広く利用されています。代表的なものに**年間時別日射量データベース「METPV-20」と年間月別日射量データベース「MONSOLA-20」**があります。

    METPV-20は2010~2018年の気象データを基に全国835地点の毎時日射量を推計した高精度データで、MONSOLA-20は衛星データも活用して1kmメッシュで月平均日射量を提供するものです。これらのデータベースそのものにはローカルな日陰(周辺建物や木による影)までは織り込まれていません

    言い換えれば、気象庁の観測した日照時間・日射量をモデル補完しているため、基本的には「その地域で障害物がない場合の水平面日射量」です。したがって、NEDOデータを使ったシミュレーションでは日陰の影響は別途考慮する必要があります。

    例えば、ある地点のMETPV-20データから得た傾斜面日射量に対し、「午前中2時間は隣棟の影」という条件であれば、その時間帯の日射をカットして計算する、といった手順です。NEDOの提供するシミュレーションWebツール上でも、ユーザー側で影の有無を設定する欄があり、入力がなければ影なしとして計算されます(現時点でMETPV/MONSOLA自体に日陰補正機能は組み込まれていません)。

    METPV-20/MONSOLA-20モデルでの反映手法

    影の影響を正式に取り込むには、上述のように時間別日射データに影条件を掛け合わせるか、もしくは簡易には日陰補正係数K_HSを後から乗じる方法があります。例えば年平均日射量Hに対し「影で5%ロス」と見込むなら0.95を掛けて実質的なH’とします。このやり方はJIS式にも適用でき、先の式のHに日陰考慮済み値を入れるイメージです。

    一方、詳細にやるなら時刻ごとに直達日射と散乱日射を分け、直達が遮られる時は散乱分のみ残すというシミュレーションを行います。実はMONSOLA-20(月平均日射量)の算出には気象モデル上で地形の遮蔽効果(地平線による日照率)も考慮されています。ただしそれは山並み等による地平線レベルの日影であり、個々の建物等の影ではありません。

    以上より、NEDOの気象データとJIS計算法を組み合わせて発電予測する場合、日陰はユーザー側で補正するものと理解しておきましょう。

    ワンポイント解説: 「JISの計算式に日陰ってどう入れるの?」という疑問がありますが、答えは係数で減らすです。影による年間発電量の減少率がもし10%とわかったら、計算上は発電量Eを0.9倍すればOKです。同様にNEDOの日射データは「影のない屋外」の想定なので、影があるならそのぶん差し引く工夫が必要です。実務的には、何も入力しなければ影なし計算になると覚えておき、影があるときは忘れずに補正値を入れるようにしましょう。

    日陰リスク評価の推奨方針・ベストプラクティス

    以上の知見を踏まえ、太陽光発電システムにおける日陰リスクの評価と発電量見積もりに関するベストプラクティスを以下にまとめます。

    • ①影の有無を最優先で確認・対策: 設置計画段階で、まず年間を通じて影が生じないかを入念にチェックします。現地調査では方位・高度ごとに潜在的な遮蔽物(建物、樹木、地形)を洗い出し、影が予想される場合は設置位置や角度の修正、障害物の処理などを検討します。特に冬至時期の朝夕や、将来的に建ちそうな建造物も想定に入れて「影ゼロ化」できるのがベストです。どうしても解消できない影については、「○時~○時にパネル列○が影」と特定し、次のステップで定量評価します。

    • ②影の影響度を定量的に評価: 回避不能な影がある場合、その影響を発電量シミュレーションに織り込んで評価します。簡易には経験に基づく補正係数を適用し、詳細には専用ソフトで時間別の日射遮蔽を再現します。評価時は悲観的すぎず楽観的すぎず、妥当な係数設定を心掛けます。例えば「午前中ずっと影」なら大きめのロス、「夏の正午に一瞬影」なら極小のロス、といったケースバイケースの知見を反映します。また、薄い影(散乱光あり)か濃い影(完全遮蔽)かによっても発電できる割合が違うため、その点も考慮します。この評価結果は必ず発電量見積書や提案資料に明記し、発注者と共有しておくことが望ましいです。後々「思ったより発電しない」といったトラブルを防ぐ意味でも、影による減少見込みを透明化します。

    • ③影に強いシステム設計を採用: 避けられない影があると判明したら、その影響を最小化するよう機器選定・配線計画を工夫します。例えば影がかかるパネルだけ別系統のMPPTに接続する、影部分にオプティマイザを付加する、**部分影に強いパネル(CIS系等)**を使う、といった実装上の対策です。多少のコスト増にはなりますが、長期の発電ロスを考えれば有効な投資です。特に住宅などでは屋根形状的に影を完全になくせないケースも多いため、影対策機器の導入は近年一般的になっています。設置後に改善できない部分は設計段階でカバーする、という発想です。

    • ④運用時の監視とケア: 稼働後も定期的に発電データを監視し、影の影響が拡大していないか注意します。樹木の生長などで年々影が広がる可能性もあります。その際は早めに剪定交渉を行うなど手を打ちます。パネルの汚れについても、年間1~2回の清掃や点検を実施し、汚れによる”影”を除去します。雪国では冬季のパネル雪下ろしも検討します(人件費との兼ね合いですが、融雪装置や撥水コート等の手段もあります)。また、大規模案件ではドローン空撮によるIVカーブ診断で部分影の検出を行う技術も出てきています。いずれにせよ**「影を放置しない」運用管理**が重要です。

    • ⑤影リスクを織り込んだ経済評価: 最後に、発電量評価だけでなく経済性評価にも影のリスクを反映させます。例えば、影による年間◯%発電量減少が予想されるなら、その分売電収入が減ることを収支計画に織り込みます。場合によっては影を避けるためにパネル枚数を減らす決断もありえます。その際、影がある状態で無理に設置容量を増やすより、影を避けてやや容量控えめでも効率よく発電する方が投資効率が良いこともあります。特に住宅用では余剰買取だったり自家消費だったりするため、発電ロス分の経済効果も精査しましょう。影リスクが大きい場合は、パネル設置自体を見送るか他場所に切り替える判断も含め、最適な意思決定を行います。

    以上のような方針で設計・評価・運用を行えば、日陰によるリスクを適切に織り込んだ太陽光発電システムの計画が可能となります。「影を恐れて過剰設計にする」のではなく「影を直視してスマートに対策する」ことが肝要です。日本全国どの地域でも日射条件を最大限活かし、ロスを極小化する設計・運用を目指しましょう。

    まとめ:発電効率を最大化する日陰対策

    太陽光発電システムにおける日陰問題は、単なる「光が当たらないから発電しない」という単純な現象ではありません。本稿で見てきたように、セルの直列構造とバイパスダイオードの特性から、部分的な影でも発電量に大きな影響を及ぼします。このメカニズムを理解することが、効果的な対策の第一歩となります。

    最も効果的な対策は**「影をそもそも作らない」**ことですが、住宅用システムや既存環境への設置では完全に避けられないケースも多くあります。そうした場合に重要なのは以下の3つの視点です。

    1. 影の影響を正確に予測・評価する

      • 発電量への影響を過大評価も過小評価もせず、科学的に評価する
      • 簡易手法から精密シミュレーションまで、状況に応じた適切な手法を選ぶ
      • 季節変動や時間帯特性も考慮した影響評価を行う
    2. 影に強いシステム設計を採用する

      • マイクロインバータやパワーオプティマイザなどの部分影対策技術を活用する
      • 影の影響を受けにくいモジュール(CIS系や分割セル構造など)を選定する
      • 影がかかる部分と影のない部分で系統を分離するなど、配線設計を工夫する
    3. 運用段階でも継続的に日陰管理を行う

      • 定期的な点検・清掃で汚れによる発電ロスを低減する
      • 樹木の成長や周辺環境の変化による新たな影を監視する
      • 異常な発電低下がないか発電データを継続的にモニタリングする

    これらの取り組みを総合的に実施することで、日陰によるロスを最小限に抑え、システムの発電効率を最大化することができます。設計段階で影をゼロにできない場合でも、予測と対策を組み合わせることで十分な発電量を確保できます。

    最後に、日陰だけでなく温度上昇やインバータ効率、配線損失といった他のロス要因も含めた総合的な視点が重要です。太陽光発電の性能を示す「性能比(PR)」は、理想値の100%に対して実際は80%前後というのが一般的です。この20%のロスの中で、日陰は工夫次第でゼロにできる特殊なファクターです。システム全体の効率を高める視点で、最適な設計・運用を目指しましょう。

    太陽光発電は今後も再生可能エネルギーの主力として普及が進みます。設置環境の制約が厳しくなる中、日陰対策技術の重要性はますます高まっていくでしょう。本稿が、より効率的で信頼性の高い太陽光発電システムの普及に貢献できれば幸いです。

    参考文献・サイト一覧

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著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。お仕事・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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