中小企業を含むバリューチェーン全体の脱炭素経営高度化事業 徹底分析と戦略的展望 2026年

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

むずかしいエネルギー診断をカンタンにエネがえる
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目次

中小企業を含むバリューチェーン全体の脱炭素経営高度化事業 徹底分析と戦略的展望 2026年

序章:2025年11月14日、脱炭素経営の分水嶺

2025年11月14日、環境省による行政事業レビューおよび令和8年度(2026年度)予算編成の核心的な調整プロセスが進行する中で、日本企業の脱炭素戦略は不可逆的な転換点を迎えた1。この日、霞が関で議論された内容は、単なる年度予算の査定にとどまらず、今後10年間の日本産業界における競争ルールの抜本的な書き換えを意味していた。

これまで「企業の自主的な努力」や「CSR(企業の社会的責任)」の範疇で語られることが多かった脱炭素経営は、令和8年度概算要求において明確に「バリューチェーン全体の生存戦略」へと昇華された。特に、新規に要求された「中小企業を含むバリューチェーン全体の脱炭素経営高度化事業」(要求額19.01億円)2 は、大企業と中小企業の関係性を再定義する画期的な政策パッケージとして設計されている。

本レポートは、2025年11月時点での最新の公開情報に基づき、この政策の全貌を解剖する。単なる制度解説を超え、その背後にある地政学的な文脈、金融市場からの圧力、そして現場レベルでの実務的課題を包括的に分析し、企業がいかにしてこの激変する環境下で持続的な成長を遂げるかについて、実効性のあるソリューションを提示するものである。


第1章:令和8年度「脱炭素経営高度化事業」の政策的構造分析

1.1 政策パラダイムの転換:個社支援からエコシステム形成へ

環境省が令和8年度予算概算要求で打ち出した「中小企業を含むバリューチェーン全体の脱炭素経営高度化事業」は、従来の補助金政策の限界を突破するために設計された、極めて戦略的な施策である。これまでの中小企業支援策は、個別の工場や事業場における高効率機器への更新(省エネ法対応など)が主眼であり、サプライチェーン全体への波及効果は限定的であった。しかし、今回の19億円規模の新規事業は、その構造を根本から覆すものである2

この事業の核心は、「個」ではなく「面」での脱炭素化を強制力を持って推進する点にある。具体的には、サプライチェーンの頂点に位置する大企業(Tier 1)が、自社のサプライヤー群(Tier 2, Tier 3…)を束ね、一括して脱炭素化プロジェクトを組成するというアプローチが採用されている。これは、日本産業界特有の重層的な下請け構造を逆手に取り、トップダウンの支配力を脱炭素化の駆動力(ドライバー)として活用しようとする政策意図が読み取れる。

1.2 予算構成の詳細と戦略的意図

本事業の予算要求額19.01億円は、一見すると国家予算の中では小規模に見えるかもしれないが、その使途は極めて高いレバレッジ効果を狙ったものとなっている。本事業は主に以下の3つのサブコンポーネントで構成されており、それぞれが有機的に結合することで、脱炭素ドミノを引き起こすトリガーとしての機能を果たす4

【表1:令和8年度「中小企業を含むバリューチェーン全体の脱炭素経営高度化事業」構成要素分析】

事業区分 具体的内容 政策的狙いとインサイト 関連スニペット
① 新たな再エネ導入モデル構築事業 大企業がサプライヤーを束ね、PPAを一括契約・事業化するモデルの構築 信用力の低い中小企業の「与信リスク」を大企業が補完し、PPA市場への参入障壁を下げる金融工学的アプローチ。 2
② 製品・サービスの排出量見える化・削減支援 製品単位(CFP)での算定ルール策定と実証支援 欧州CBAMやバッテリー規制を見据え、「組織」単位ではなく「製品」単位での競争力(炭素競争力)を強化する。 4
③ 脱炭素経営の戦略策定・情報開示等支援 TCFD/ISSB対応、SBT認定取得支援、ガイドライン整備 国際的なESG投資資金を日本の中小企業層まで還流させるための情報パイプラインを整備する。 4

特に注目すべきは、①の「新たな再エネ導入モデル構築事業」である。これは、従来の「補助金を出して設備を買わせる」という単純なフローではなく、大企業がリスクテイクすることで中小企業の再エネ調達を可能にする「ビジネスモデルの変革」に資金を投じる点において、政策の質的転換を象徴している2

1.3 他事業との連携とシナジー

本事業は孤立して存在するのではなく、他の大型予算との強力なシナジーを前提としている。例えば、環境省エネ特会計における「地域脱炭素推進交付金」(701億円)3 や、「SHIFT事業(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業)」8 との連動が想定される。地域脱炭素推進交付金が「自治体主導」の面的な展開を担うのに対し、本事業は「産業チェーン主導」の縦の展開を担う。この縦横の糸が交差する地点において、日本全体の脱炭素化が加速するというのが、政府が描くグランドデザインである。


第2章:バリューチェーン脱炭素化を阻む構造的課題の深層

2025年現在、多くの中小企業が脱炭素経営の必要性を認識しつつも、実践のフェーズで立ち往生している。東京商工会議所の調査によれば、約7割の中小企業が省エネなどの脱炭素に取り組んでいるものの、その多くが「費用・コスト面の負担」を最大の課題として挙げている実態が明らかになっている9。ここでは、表面的なコスト問題の奥底にある、より本質的かつ構造的な課題を解き明かす。

2.1 「信用力(Creditworthiness)」の非対称性とPPAの壁

再生可能エネルギーの調達手段として主流となりつつあるPPA(電力販売契約)において、中小企業は深刻な構造的ハンディキャップを負っている。PPAは通常、10年から20年という長期にわたる電力購入契約を前提とするが、発電事業者や金融機関から見れば、中小企業の倒産リスク(信用リスク)は無視できない懸念材料となる。

そのため、中小企業単独ではPPA契約を締結できない、あるいは極めて不利な条件(高単価)を提示されるケースが後を絶たない

令和8年度事業で提示された「大企業によるバンドリングモデル」は、まさにこの「信用の壁」に対するソリューションである。大企業がアンカーテナントとなり、サプライヤー群の契約を包括的に保証、あるいは一括契約することで、発電事業者のリスクプレミアムを低減させる2。これは、金融における証券化(Securitization)の論理を脱炭素施策に応用した高度なスキームであり、中小企業支援の文脈においても画期的なアプローチと言える。

2.2 Scope 3算定における「データの分断」と「一次データの欠如」

サプライチェーン排出量(Scope 3)の算定において、多くの企業が直面しているのが「データの質の壁」である。現状では、多くの中小企業が自社の排出量を正確に計測できておらず、産業連関表などに基づく二次データ(推計値)に依存せざるを得ない状況にある10

学術的な観点からも、産業連関分析を用いたサプライチェーン上のホットスポット分析は進んでいるものの、実務レベルでは「平均値」を用いた算定が限界となっている10。これでは、個別の企業がどれだけ省エネ努力を行っても、算定結果に反映されないという「努力の不可視化」が発生する。サプライヤーにとっては、コストをかけて脱炭素投資を行っても、発注元である大企業からの評価(Scope 3削減への貢献度)につながらないため、投資インセンティブが著しく阻害される構造となっている。

2.3 報告業務の重複と「管理コストのインフレ」

もう一つの重大な課題は、報告業務の肥大化である。中小企業は、取引先である複数の大企業から、それぞれ異なるフォーマット、異なる算定基準でのデータ提出を求められている。加えて、省エネ法や温対法に基づく行政への報告義務も課せられている。これらのデータは本質的には同一のエネルギー消費データに由来するものであるが、提出先ごとに加工が必要となり、生産性の低い事務作業に膨大なリソースが割かれている

いわゆる「Excelバケツリレー」の弊害であり、これが脱炭素経営を「コストセンター」化させる要因となっている。


第3章:デジタルインフラの刷新と行政報告システムの進化

前述の「報告業務の重複」という課題に対し、環境省は2026年度に向けて、デジタルインフラの抜本的な刷新に着手している。これは地味ながらも、日本の脱炭素実務の基盤を支える極めて重要な動きである。

3.1 「省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム」の改修

環境省は令和8年度予算において、「省エネ法・温対法・フロン法電子報告システムの構築及び運用保守等」に係る委託業務を計上し、システムの機能強化を進めている11。このシステム改修は、単なる老朽化対策ではない。入札仕様書等の技術資料からは、将来的な制度変更に即応できる柔軟性と、高度なデータ連携を見据えた設計思想が読み取れる。

【表2:電子報告システム改修の技術的要件とインサイト】

改修・要件項目 詳細内容 分析・インサイト 参照元
制度変更への即応性 省エネ法・温対法・フロン法の制度変更発生時、即時の改修を行う仕様 2026年以降のGX-ETS(排出量取引)本格稼働やカーボンプライシング導入に伴う報告項目の頻繁な変更を予見している。 11
引継ぎ・保守体制 保守事業者間での知識引継ぎ(2時間×2回程度)の実施規定 システムのブラックボックス化を防ぎ、長期的な運用安定性を確保するためのベンダーロックイン排除の意図が見える。 13
セキュリティ要件 脆弱性管理、構成管理、変更管理の徹底 企業の機微情報(エネルギー消費=生産活動量)を扱うため、サイバーセキュリティ対策が強化されている。 13

3.2 GXリーグとのデータ連携と将来像

この電子報告システムの改修は、経済産業省が主導するGXリーグにおけるデータ基盤との将来的な連携を視野に入れていると考えられる。2025年5月に成立した改正GX推進法により、排出量取引の義務化や化石燃料賦課金の導入が決定事項となった今、企業が報告する排出量データの法的責任と経済的価値は飛躍的に高まっている14

これまで「行政への報告」は単なる義務であったが、今後はそのデータが「排出枠(クレジット)」という資産、あるいは「賦課金(税)」という負債の算定根拠となる。したがって、システムの信頼性とデータの完全性は、企業の財務諸表における会計システムの信頼性と同等の重要性を持つことになる。令和8年度のシステム改修は、この「炭素会計(Carbon Accounting)」の国家インフラ整備の一環と位置付けるべきである。


第4章:実効性のあるソリューションと成功モデルの構築

課題とインフラの現状を踏まえた上で、企業が採るべき具体的なソリューションを提示する。ここでは、令和8年度予算事業を最大限に活用し、競争優位性を構築するための戦略を詳述する。

4.1 「垂直統合型」再エネ調達モデル(Vertical PPA Integration)

令和8年度の目玉施策である「バリューチェーンの脱炭素化に資する新たな再エネ導入モデル構築事業」2 を活用し、大企業と中小企業が垂直統合的に再エネを調達するスキームを構築することが推奨される。

  • スキームの概要: 大企業(バイヤー)がアグリゲーターの役割を果たし、多数のサプライヤー(SMEs)の電力需要を束ねるこの需要の総量を裏付けとして、発電事業者と大規模なオフサイトPPA(バーチャルPPA等)を締結する。

  • メリット:

    • 大企業: Scope 3排出量の削減目標を確実かつ大規模に達成できる。また、サプライチェーンのエネルギーコストを固定化し、化石燃料価格変動のリスクをヘッジできる。

    • 中小企業: 大企業の信用力を利用することで、単独では不可能な低コストでの再エネ電力を調達できる。また、Tier 1企業との結びつき(エンゲージメント)が強化され、取引継続の確度が向上する。

4.2 「地域分散型」エコシステムの活用(Horizontal Collaboration)

垂直統合だけでなく、地域金融機関や自治体を核とした水平連携も有効なソリューションである。環境省の「地域ぐるみの中小企業支援体制構築事業」4 は、このアプローチを支援するものである。

  • 地域銀行の役割: 普段から中小企業の経営実態を把握している地域銀行や信用金庫が、脱炭素アドバイザーとして機能する。彼らは企業の財務データとエネルギーデータをセットで分析し、適切な融資商品(サステナビリティ・リンク・ローン等)を提案する。

  • 自治体の役割: 「地域脱炭素推進交付金」を活用し、地域内の公共施設や遊休地を再エネ発電所として開放する16。また、ゾーニング(促進区域の設定)を行うことで、開発リスクを低減し、地域企業による再エネ導入を後押しする16

  • 成功事例: 熊本県合志市や福島県福島市などの先行事例17 では、自治体が主導して地域新電力を設立し、地元の再エネ電力を地元の工場や商業施設に供給する「地産地消モデル」が確立されつつある。これにより、エネルギー代金の地域外流出を防ぎつつ、脱炭素化を達成している。

4.3 DXによる「炭素コスト」の管理会計への統合

デジタルインフラの進化に合わせ、企業内部の管理会計システムもアップデートが必要である。環境省の「DX型CO2削減対策実行支援事業」8 などを活用し、エネルギーデータをリアルタイムで収集・分析できる体制を構築する。

重要なのは、これを単なる「環境データの収集」で終わらせず、「原価計算」に統合することである。製品ごとのCO2排出量(CFP)を正確に把握し、カーボンプライシング導入時のコスト増分をシミュレーションすることで、価格転嫁の交渉材料や、製品設計の見直し(エコデザイン)へのフィードバックが可能となる。2026年以降、炭素コストを管理できない企業は、利益率の低下に直面することになる。


第5章:グローバル・コンテキストと理論的枠組み

日本国内の動きは、世界的な潮流と密接にリンクしている。ここでは、視座を広げ、海外規制や学術的な知見との整合性を確認する。

5.1 EU CSRDとダブルマテリアリティの衝撃

欧州で施行されたCSRD(企業サステナビリティ報告指令)は、日本企業にも多大な影響を及ぼしている。CSRDは、EU域内で事業を行う一定規模以上の企業に対し、財務的な影響だけでなく、環境・社会へのインパクト(インパクト・マテリアリティ)の開示を義務付け「ダブルマテリアリティ」の概念を採用している18

これは、日本の「バリューチェーン脱炭素化高度化事業」の方向性と完全に合致する。特に、Scope 3を含むバリューチェーン全体での人権・環境デューデリジェンスが求められる中で、日本の中小サプライヤーも間接的にCSRDの要求水準に晒されることになる。令和8年度事業における「情報開示等支援」4 は、このグローバルな規制圧力に対する防御策としての側面を持つ。

5.2 産業連関分析と「カーボン・ホットスポット」の特定

学術的な研究分野では、サプライチェーン上のどの工程で最も多くのCO2が排出されているか(ホットスポット)を特定するために、産業連関分析(Input-Output Analysis)が活用されている。最新の研究(2024年発表の論文等)では、木造住宅のサプライチェーンにおけるCO2排出構造などが解析されており、特定の資材や輸送プロセスに排出が集中していることが示されている10

環境省の政策が「製品・サービスの排出量見える化」6 を重視しているのは、こうした科学的知見に基づき、ホットスポットに対してピンポイントで対策を講じるためである。漠然と「会社全体」で削減するのではなく、データに基づいて「排出原単位の高い部材」を特定し、代替素材への転換やサプライヤーとの共同改善を行うことが、最も費用対効果の高いアプローチとなる。


第6章:2030年に向けた戦略的ロードマップ

最後に、2026年度以降、2030年および2050年に向けて、企業が歩むべきロードマップを描く。

6.1 カーボンプライシング本格導入への備え(2026-2028)

GX推進法の規定に基づき、2028年度からは化石燃料賦課金の徴収が開始される14。また、GX-ETS(排出量取引制度)においては、2026年度から本格的な取引市場が稼働し、参加企業の規律が強化される。これにより、CO2排出は「隠れたコスト」から「明示的な財務コスト」へと変貌する。

企業はこの期間中に、自社のインターナル・カーボンプライシング(社内炭素価格)を設定し、投資判断基準に組み込む必要がある。令和8年度の支援事業を活用して削減基盤を整備した企業は、2028年以降のコスト上昇局面において、競合他社に対して圧倒的なコスト優位性を持つことができる。

6.2 サプライチェーンの「選別」と「再編」

バリューチェーン全体の脱炭素化が進むにつれ、大企業によるサプライヤーの選別(Screening)が加速する。脱炭素データの開示に応じない、あるいは削減目標を共有できないサプライヤーは、取引から排除されるリスクが高まる。

逆に言えば、早期に脱炭素経営体制を構築した中小企業にとっては、新たなビジネスチャンスが到来する。大企業は「脱炭素対応済み」のサプライヤーを血眼になって探しており、環境価値が価格以外の強力な競争力となる。令和8年度事業は、この「選別」の波を乗り越え、「選ばれる企業」になるためのラストワンマイル支援と位置付けられる。

6.3 「2035年目標」を見据えた長期視点

政府実行計画では、2035年度に65%削減、2040年度に79%削減(2013年度比)という極めて高い目標設定が議論されている22030年目標(46%削減)の達成すら危ぶまれる現状において、この追加的な目標引き上げは、産業界に対してさらなるイノベーションと構造転換を迫るものである。

これに対応するためには、既存技術の延長線上にある「改善」レベルの取り組みでは不十分である。水素・アンモニアの活用、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)、あるいはサーキュラーエコノミー(循環経済)へのビジネスモデル転換など、非連続な変革が求められる。令和8年度予算に含まれる技術開発・実証事業(データセンターの脱炭素化や革新的触媒技術など)3 は、この長期戦を見据えた布石である。


結論:共創による脱炭素経営の新時代

2025年11月14日時点の最新情報を包括的に分析した結果、導き出される結論は明白である。脱炭素経営は「個の戦い」から「エコシステムの戦い」へと完全に移行した。

環境省が令和8年度概算要求で提示した「中小企業を含むバリューチェーン全体の脱炭素経営高度化事業」は、大企業と中小企業、中央政府と地域社会、そして金融と産業をつなぐハブとしての機能を持つ。19億円という予算額以上のインパクトを秘めたこの事業は、日本企業が直面する「信用の壁」「データの壁」「コストの壁」を突破するための戦略的なツールキットである。

経営層への提言は以下の3点に集約される。

  1. 「垂直統合」への能動的参画: 大企業主導の脱炭素コンソーシアムやPPAバンドリングスキームの組成を待つのではなく、自ら提案し、サプライチェーン内での立ち位置を確保せよ。

  2. 「デジタル資産」としてのデータ整備: 電子報告システムの改修や国際基準の厳格化を見据え、排出量データを財務データと同等の精度・頻度で管理できるデジタル基盤への投資を最優先せよ。

  3. 「外部資金」の戦略的レバレッジ: 令和8年度の新規事業や地域金融機関のESG融資を、単なるコスト補填ではなく、ビジネスモデル転換のためのリスクマネーとして活用せよ。

この変革の波を単なる「規制対応」と捉えるか、それとも「産業構造転換の好機」と捉えるかによって、企業の命運は分かれる。2026年は、その分水嶺となる年である。


補足資料・データ一覧

【表3:令和8年度 環境省 脱炭素関連予算案(GX・エネ特)ハイライト】

事業名 予算要求額 主な使途・特徴 参照スニペット
中小企業を含むバリューチェーン全体の脱炭素経営高度化事業 19億円(新規) サプライチェーン連携モデル構築、製品別排出量算定支援 2
地域脱炭素推進交付金 701億円 脱炭素先行地域の創出、重点対策加速化 3
民間企業等による再エネの導入及び地域共生加速化事業 129億円 ゾーニング支援、地域理解醸成、営農型太陽光など 3
モビリティの脱炭素化(商用車・建機等) 529億円 EV/FCVトラック・バス導入支援、インフラ整備 3
データセンター等デジタル基盤の脱炭素化技術開発 18億円(新規) 省エネ・再エネ活用型DCの技術実証 3
コールドチェーン(冷凍冷蔵機器)脱フロン・脱炭素化 70億円 自然冷媒機器への更新支援(物流・食品小売向け) 3

【表4:脱炭素経営支援事業の比較と選び方】

事業名 対象フェーズ 対象企業規模 支援内容の特徴 活用推奨シナリオ

SHIFT事業 8

実行(削減) 中小・中堅 設備更新補助、DXによる運用改善 工場の老朽設備更新、エネルギーマネジメントシステム導入時

バリューチェーン高度化事業 2

連携・モデル構築 大企業+中小群 サプライチェーン連携、共同PPA、Scope 3算定 取引先と共同で脱炭素化を進める際、再エネ比率を大幅に上げたい時

地域脱炭素推進交付金 19

地域実装 自治体+地域企業 屋根置き太陽光、地域マイクログリッド 地元自治体と連携し、地域貢献と自社脱炭素を両立したい時

 

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