目次
- 1 岩石風化促進法(ERW)とは?気候変動対策の革新的アプローチ
- 2 ERWとは:地球の自然メカニズムを活用した気候変動対策
- 3 自然と科学技術の画期的な折衷案
- 4 ERWの科学的メカニズム:岩石はどのようにCO2を吸収するのか
- 5 風化プロセスの段階
- 6 反応速度を左右する要因
- 7 ERWの実施方法:農地から鉱山まで多様な適用場所
- 8 農地への適用
- 9 その他の適用場所
- 10 ERWの効果とポテンシャル:気候変動対策としての可能性
- 11 CO2除去ポテンシャル
- 12 農業へのコベネフィット
- 13 環境へのその他の効果
- 14 ERWの経済性分析:コストと収益のバランス
- 15 コスト構造
- 16 経済性評価の具体例
- 17 ERWへの投資判断
- 18 ERWの課題と解決策:実用化に向けた障壁を乗り越える
- 19 技術的課題
- 20 環境的課題
- 21 社会経済的課題
- 22 世界のERW研究開発動向:進展する実証と実用化
- 23 主要な研究機関と企業
- 24 注目すべき実証プロジェクト
- 25 最新の技術革新
- 26 日本におけるERWの可能性と取り組み:国内条件に適した展開
- 27 日本の地理的・気候的条件とERW
- 28 日本のERW研究プロジェクト
- 29 日本企業の取り組み
- 30 企業や個人がERWに関わる方法:参入と実践のガイド
- 31 農業従事者・土地所有者
- 32 企業(カーボンオフセット購入者)
- 33 起業家・投資家
- 34 政策立案者・地方自治体
- 35 ERWの将来展望と政策提言:持続可能な実装に向けて
- 36 ERWの将来展望
- 37 政策提言
- 38 まとめと今後の展望:ERWの可能性を最大化するために
- 39 よくある質問(FAQ)
- 40 Q1: ERWは他のCO2除去技術と比べてどのような利点がありますか?
- 41 Q2: ERWに最適な岩石の種類は何ですか?
- 42 Q3: ERWによるCO2固定量をどのように測定・検証できますか?
- 43 Q4: 農家がERWを導入するメリットは何ですか?
- 44 Q5: ERWの実施にはどのくらいのコストがかかりますか?
- 45 Q6: 日本でERWを実施する場合の特有の課題は何ですか?
- 46 Q7: ERWは森林などの他の自然ベースの解決策と組み合わせることができますか?
- 47 参考文献・リンク集
岩石風化促進法(ERW)とは?気候変動対策の革新的アプローチ
気候変動対策として、大気中の二酸化炭素(CO2)を積極的に除去する技術への注目が高まっています。その中でも、岩石風化促進法(Enhanced Rock Weathering: ERW)は、自然界の地質学的プロセスを加速させることで、大気中のCO2を長期的かつ安定的に固定化する革新的な技術として脚光を浴びています。GoogleやMicrosoftなどの大手テクノロジー企業も投資を行うなど、近年急速に実用化が進んでいます。本記事では、ERWの基本原理から最新の研究動向、経済性評価、そして日本における実装可能性まで、包括的に解説します。
ERWとは:地球の自然メカニズムを活用した気候変動対策
ERWは、地球上で自然に起こっている岩石の風化作用を人為的に促進する方法です。自然界では、岩石の風化によって年間約10億トンのCO2が大気から除去されていますが、この過程は通常、千年から万年単位の時間を要します1。ERWは、岩石(主に玄武岩などのケイ酸塩鉱物を含む岩石)を細かく粉砕して表面積を増やし、農地などに散布することで、この風化プロセスを大幅に加速させます。
自然と科学技術の画期的な折衷案
ERWは、植樹などの自然ベースの炭素除去方法と、直接空気回収法(DAC)のような技術的アプローチの中間に位置しています。植樹は比較的安価ですが、樹木は生きている間だけCO2を固定するという限界があります。一方、DACは効果的ですが、多くのエネルギーを消費します。ERWは、自然の風化プロセスを科学的に加速させる方法であり、「自然と科学技術の画期的な折衷案」と言えるでしょう1。
ERWの科学的メカニズム:岩石はどのようにCO2を吸収するのか
ERWの基本的な化学反応は、岩石に含まれるケイ酸塩鉱物が水と大気中のCO2と反応することで起こります。この反応を簡略化した形で示すと、例えば透輝石(CaMgSi2O6)の場合、以下のようになります9:
CaMgSi2O6(s) + 2H2O(l) + 4H2CO3(aq) → Ca²⁺(aq) + Mg²⁺(aq) + 2H4SiO4(aq) + 4HCO3⁻(aq)
風化プロセスの段階
ERWによる炭素固定プロセスは、以下の段階で進行します:
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CO2の溶解: 大気中のCO2が雨水に溶け、炭酸(H2CO3)を形成します。
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鉱物との反応: 炭酸を含む酸性雨水がケイ酸塩鉱物と接触すると、化学反応が起こります。
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重炭酸塩の形成: 反応により、カルシウムやマグネシウムなどの塩基性陽イオンが放出され、重炭酸塩イオン(HCO3⁻)が形成されます。
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炭素の輸送と固定: これらのイオンは土壌や地下水を通じて最終的に海洋に運ばれ、約10万年という長期間、安定した形で炭素を固定します1。
反応速度を左右する要因
ERWの効率性は、いくつかの要因に依存します:
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岩石の種類: カルシウムやマグネシウムを多く含む岩石(玄武岩、かんらん石、輝石など)が最も反応性が高いです9。
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粒子サイズ: 岩石を細かく砕くほど表面積が増加し、反応速度が上がります。
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pH: 一般的に、低いpH(酸性環境)では溶解が加速されます9。
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気候条件: 高温多湿の気候では反応が促進されます。
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土壌条件: 土壌の特性(pH、微生物活動など)も反応速度に影響します。
反応速度は、アレニウスの式を用いて以下のように表現できます7:
k = A・exp(-E/RT)
ここで、kは反応速度定数、Aは頻度因子、Eは活性化エネルギー、Rは気体定数、Tは絶対温度です。温度が高いほど、反応速度が増加することがわかります。
ERWの実施方法:農地から鉱山まで多様な適用場所
ERWは様々な場所で実施可能ですが、最も一般的なのは農地への適用です。実施方法は比較的シンプルですが、効果を最大化するためには以下のポイントを考慮する必要があります。
農地への適用
農地への適用は、既存の農業機械や肥料散布システムを活用できるため、最も実用的なアプローチです。
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適切な岩石の選定: カルシウムやマグネシウムを豊富に含む玄武岩などのケイ酸塩岩が理想的です。
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粉砕と加工: 岩石は通常、直径1-2mmまたはそれ以下に粉砕されます6。粒子サイズは小さいほど反応表面積が大きくなりますが、粉砕コストとのバランスが重要です。
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散布のタイミングと方法: 通常、作物の栽培前または収穫後に実施します。既存の農業機械を使用して散布できます。
太陽光発電や蓄電池システムを導入している農家であれば、エネルギーコストの削減と組み合わせることで、ERWの経済的メリットを高められる可能性があります。エネがえるのようなシミュレーションツールを活用することで、太陽光・蓄電池の導入とERWを組み合わせた際の総合的な経済効果を評価できるかもしれません。農業分野における脱炭素化と収益向上の両立を考える上で、このような総合的アプローチは重要です。
その他の適用場所
日本では、以下のような場所でもERWの実施が検討されています20:
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休廃止鉱山・森林傾斜地: これらの場所では、主に海洋へのアルカリ化効果(OS: Ocean Sequestration)を狙います。酸性廃水の中和や地滑り防止などの副次的効果も期待できます。
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気固接触ハウス: 管理された環境下で、より効率的にCO2を固定化するアプローチです。早稲田大学の研究チームが本庄早稲田キャンパスで実証実験を行っています20。
ERWの効果とポテンシャル:気候変動対策としての可能性
ERWは、大気中のCO2を除去するだけでなく、様々な副次的効果(コベネフィット)をもたらす可能性があります。
CO2除去ポテンシャル
世界規模でのERWのCO2除去ポテンシャルは、2050年時点で年間0.5~2ギガトンCO2と試算されています19。日本のネガティブエミッション技術に関する資料によれば、ERWのTRL(技術成熟度レベル)は4程度、CO2除去ポテンシャルは2.0 GtCO2/年、コストは平均125 $/tCO2とされています19。
日本の農地に適用した場合の具体的な試算例もあります。玄武岩質の岩石を40 t/ha/年散布した場合、アルカリ性の土壌では年間約8.08 t-CO2/ha(岩石1トンあたり0.202 t-CO2/年)、ソレアイト質の土壌では年間約4.25 t-CO2/ha(岩石1トンあたり0.106 t-CO2/年)のCO2を固定できるとされています17。
農業へのコベネフィット
ERWは農業にも多くのメリットをもたらす可能性があります:
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土壌の質の向上: 岩石の風化によって放出されるミネラルは、土壌の質を高めます。
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作物の収量増加: ミネラル供給による栄養バランスの改善が期待できます。
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土壌物理性の改善: 土壌構造の改善や保水性の向上が期待できます。
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pH調整: 酸性土壌のアルカリ化により、作物の生育環境が改善します。
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有機炭素貯留の増加: 土壌中の有機炭素含有量が増加する可能性があります。
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温室効果ガス削減: メタン(CH4)や一酸化二窒素(N2O)などの高GWP(地球温暖化ポテンシャル)ガスの排出削減も期待できます20。
これらの農業的メリットは、ERWのコスト回収を助ける重要な要素となり得ます。再生可能エネルギーとERWを組み合わせた持続可能な農業モデルの構築は、今後の農業経営において重要な選択肢になる可能性があります。エネがえるBizのようなシミュレーションツールを活用することで、産業用自家消費型太陽光発電システムとERWを組み合わせた際の経済効果を包括的に評価できるでしょう。
環境へのその他の効果
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海洋のアルカリ化: 風化プロセスで生成された重炭酸塩イオンは最終的に海洋に流れ込み、海洋酸性化の緩和に寄与します。
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休廃止鉱山の酸性廃水の中和: ERWは鉱山からの酸性排水を中和する効果も期待できます20。
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石灰代替によるCO2削減: 通常の石灰散布の代わりにERWを使用することで、石灰製造に伴うCO2排出を削減できます。
ERWの経済性分析:コストと収益のバランス
ERWの実用化において、経済性は重要な課題です。コストと収益のバランスを詳細に分析する必要があります。
コスト構造
ERWの主なコスト要素は以下の通りです:
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岩石の採掘・調達コスト: 採石場からの岩石調達費用。理想的には、既存の採石場の副産物や残渣を利用することでこのコストを低減できます。
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粉砕コスト: 岩石を適切なサイズに粉砕するためのエネルギー費用。粒子サイズが小さいほど反応表面積は増えますが、粉砕コストも上昇します。
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輸送コスト: 岩石を採石場から散布地点まで運ぶコスト。このため、散布地点の近くに適切な岩石源があることが理想的です。
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散布コスト: 岩石粉末を土地に散布するための労働・機械コスト。既存の農業機械を活用できれば、追加コストを抑えられます。
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モニタリングコスト: CO2固定量を正確に測定・検証するためのコスト。カーボンクレジットとして認証を受けるには、信頼性の高いMRV(測定・報告・検証)システムが必要です。
経済性評価の具体例
ERWのコストは様々な要因によって変動しますが、一般的には55~190ドル/t-CO2と見積もられています19。ハートマンらの研究によれば、シリケート岩1トンの処理・散布にかかる平均コストは約12.50ドルとされています14。
収益面では、以下のような経済的リターンが考えられます:
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カーボンクレジット: CO2固定量に基づくカーボンクレジットの販売。例えば、GoogleやMicrosoftはテラドット社からERWによるカーボンクレジットを購入しています15。
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農業収益の向上: 作物収量の増加や品質向上による収益増。
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肥料コストの削減: 岩石から放出されるミネラルにより、一部の肥料使用量を削減できる可能性があります。
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その他のコベネフィット: 土壌改良や酸性廃水中和などの副次的効果による経済的メリット。
ERWへの投資判断
ERWへの投資を検討する際は、以下の要素を考慮する必要があります:
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岩石源へのアクセス: 適切な岩石源が近隣にあるか
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散布地の条件: 気候、土壌特性、作物の種類
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カーボンクレジット市場: 認証基準や価格動向
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補助金や政策支援: 政府や地方自治体の支援制度
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総合的な収益性: CO2クレジットと農業的メリットの合計
太陽光発電や蓄電池との組み合わせによる相乗効果も検討する価値があります。例えば、再生可能エネルギーで粉砕プロセスを動かすことでカーボンフットプリントを低減したり、ERWと太陽光発電を同時に農地に導入することで、土地利用の最適化を図ったりする可能性があります。エネがえるの経済効果シミュレーション保証のようなツールを活用することで、このような複合的な投資の効果を予測し、リスクを低減できるでしょう。
ERWの課題と解決策:実用化に向けた障壁を乗り越える
ERWの実用化には、いくつかの技術的・社会的課題が存在します。これらの課題と考えられる解決策を見ていきましょう。
技術的課題
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CO2固定量の測定・検証: ERWによるCO2固定量を正確に測定することは難しく、カーボンクレジットとしての認証に課題があります。
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解決策: 土壌や水のサンプリング、安定同位体トレーサーの活用、AIによるモデリングなど、複合的なMRV手法の開発が進められています。
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最適な岩石選定と前処理: 様々な岩石種において、CO2固定効率や環境影響が異なります。
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解決策: 岩石の鉱物組成、反応性、不純物などを詳細に分析し、データベース化する取り組みが進められています。特に日本では、A-ERWプロジェクトで国内に点在する風化ポテンシャルの高い岩石の活用が研究されています20。
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粉砕エネルギーの最適化: 岩石の粉砕には多くのエネルギーが必要で、CO2排出を伴います。
環境的課題
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土壌や水質への影響: 岩石に含まれる重金属などが溶出する可能性があります。
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解決策: 散布前の岩石の詳細な分析と、散布後のモニタリングが重要です。日本ではJIS A 1481に基づくアスベスト含有分析なども行われています17。
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生態系への影響: 土壌微生物や生物多様性への影響が不明確です。
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解決策: 長期的な生態系モニタリングと段階的な実装が必要です。小規模実験から始め、影響を確認しながら規模を拡大することが推奨されます。
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社会経済的課題
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高いコスト: 現状では、ERWのコストは他のCO2削減手段と比較して高い場合があります。
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解決策: スケールアップによるコスト削減、副産物の活用、カーボンプライシングの強化などが考えられます。また、農業的コベネフィットを経済評価に組み込むことも重要です。
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ステークホルダーの合意形成: 農家や地域コミュニティの理解と協力が不可欠です。
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解決策: 農家に対する経済的インセンティブの提供、分かりやすい情報提供と教育プログラムの展開が重要です。
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規制と標準化: ERWに関する規制フレームワークや標準化された方法論が未整備です。
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解決策: 国際的な協力による標準化の推進と、各国の状況に合わせた柔軟な規制の整備が必要です。例えば、2024年に設立されたEnhanced Weathering Alliance(EWA)は、ERWを欧州のカーボン除去の道筋に位置づけるための政策推進を目指しています4。
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世界のERW研究開発動向:進展する実証と実用化
ERWの研究開発は世界各地で急速に進展しており、特に近年は民間企業の参入も増加しています。
主要な研究機関と企業
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シェフィールド大学(英国): デビッド・ベアリング教授らのチームが2020年に発表した論文は、ERWの研究に大きな影響を与えました15。
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早稲田大学・三菱重工業(日本): 中垣隆雄教授らのチームが、「岩石と場の特性を活用した風化促進技術”A-ERW”」の研究を進めています61720。
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テラドット(米国): ERW技術のスタートアップで、2023年にブラジルでの事業を開始しました。GoogleやMicrosoftから投資を受け、カーボンクレジットの販売も行っています15。
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InPlanet、Eion、Lithos、Vesta(ERW企業): これらの企業は2024年3月に設立されたEnhanced Weathering Alliance(EWA)に参加しています4。
注目すべき実証プロジェクト
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ブラジルでのテラドットのプロジェクト: ブラジル農牧研究公社(EMBRAPA)とパートナーシップを締結し、初年度には1800ヘクタールの農地に4万8000トン以上の岩石を散布しました15。
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世界のERWプロジェクトマッピング: Enhanced Weathering Alliance(EWA)は、世界中で進行中のERW取り組みを示す詳細なマップを公開しています4。
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日本でのA-ERW実証: 早稲田大学の研究チームは、本庄早稲田キャンパスに「気固接触ハウス」を建設し、管理された環境下でのERW実証を行っています20。
最新の技術革新
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MRV(測定・報告・検証)の進展: Puro.earthが世界初のERWカーボンクレジット方法論を開発し、CO2 Removal Certificates(CORCs)の発行を開始しています2。
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AIを活用した最適化: 一部の研究ではAIを活用してERWの効果予測や最適な散布戦略の策定を行っています12。
日本におけるERWの可能性と取り組み:国内条件に適した展開
日本は、火山国として豊富な玄武岩資源を有していますが、地理的・気候的特性から、ERWの実施には独自のアプローチが必要です。
日本の地理的・気候的条件とERW
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火山岩の豊富さ: 日本には玄武岩や安山岩などの火山性岩石が豊富に存在します。これらはERWに適した鉱物組成を持っています。
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温暖湿潤な気候: 日本の気候は比較的温暖で雨量も多く、岩石の風化に適しています。ただし、地域によって気候条件は大きく異なります。
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農地の特性: 日本の農地は面積が限られていますが、集約的な管理がされており、ERWの実施とモニタリングに適しています。
日本のERW研究プロジェクト
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A-ERWプロジェクト: 早稲田大学の中垣教授らが中心となり、「岩石と場の特性を活用した風化促進技術”A-ERW”の開発」を進めています61720。このプロジェクトでは、以下の3つのアプリケーションを検討しています:
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農地への散布
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休廃止鉱山・森林傾斜地散布
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気固接触ハウス
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NEDOムーンショット型研究開発事業: 「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」という目標の下、ERWを含むネガティブエミッション技術の研究が進められています17。
日本企業の取り組み
日本企業のERWへの参入はまだ初期段階ですが、いくつかの取り組みが始まっています:
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三菱重工業: A-ERWプロジェクトに参画し、技術開発を支援しています6。
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鉱山・採石企業: 一部の鉱山・採石企業が、副産物としての岩石粉末のERW利用を検討しています。
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農業関連企業: 土壌改良剤としての側面に注目し、ERWの農業利用を研究している企業もあります。
エネルギー関連企業も、再生可能エネルギーとERWの統合に興味を示し始めています。例えば、太陽光発電と蓄電池の導入とERWを組み合わせた総合的な脱炭素ソリューションの提供は、将来有望なビジネスモデルとなる可能性があります。このような統合的アプローチの経済効果を評価するには、エネがえるのようなシミュレーションツールが役立つでしょう。特に、農業分野や産業用途において、再生可能エネルギーとERWの組み合わせは相乗効果を生み出す可能性があります。
企業や個人がERWに関わる方法:参入と実践のガイド
ERWは気候変動対策の一環として、様々な主体が関わることができる技術です。以下に、異なるステークホルダーごとの参入方法を紹介します。
農業従事者・土地所有者
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小規模試験から始める: 所有地の一部でERWを試験的に実施し、土壌や作物への影響を観察します。
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地域の研究機関と連携: 大学や研究機関と連携し、専門的知識とサポートを得ることで、効果的な実施が可能になります。
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適切な岩石源の特定: 地域で入手可能な適切な岩石(玄武岩、安山岩など)を特定します。地元の採石場や鉱山と連携することも有効です。
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コベネフィットの最大化: ERWと有機農業や再生可能エネルギー導入を組み合わせることで、総合的な持続可能性と収益性を高めることができます。
企業(カーボンオフセット購入者)
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ERWカーボンクレジットの購入: ERWプロジェクトからカーボンクレジットを購入することで、自社の排出量をオフセットしながらERWの普及を支援できます。
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長期的なパートナーシップ: ERW実施者と長期契約を結ぶことで、安定した資金提供と炭素クレジットの調達が可能になります。
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サプライチェーンの統合: 農産物のサプライヤーにERWの導入を奨励し、低炭素製品の調達につなげることができます。
起業家・投資家
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ERWスタートアップの立ち上げ: ERWの実施、モニタリング、クレジット販売などを行うスタートアップの創業が考えられます。
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技術革新への投資: ERWの効率化や測定技術の向上に寄与する技術開発への投資機会があります。
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地域特化型モデルの構築: 日本の地理的・気候的条件に特化したERWビジネスモデルの構築が考えられます。
政策立案者・地方自治体
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カーボンクレジット制度の整備: ERWによるCO2除去を認証するクレジット制度の整備を進めることで、市場メカニズムを活用した普及が可能になります。
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パイロットプロジェクトの支援: 地域での実証プロジェクトを財政的・制度的に支援し、データ収集と知見の蓄積を促進します。
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横断的な政策調整: 農業政策、気候変動政策、資源政策などを横断的に調整し、ERW推進のための包括的なフレームワークを構築します。
ERWの将来展望と政策提言:持続可能な実装に向けて
ERWは大きなポテンシャルを持つ技術ですが、その持続可能かつ効果的な実装には、適切な政策支援と技術革新が不可欠です。
ERWの将来展望
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スケールアップと経済性の向上: 現在はパイロット段階のプロジェクトが多いですが、今後のスケールアップにより経済性の向上が期待されます。特に、MRV(測定・報告・検証)技術の標準化と低コスト化が進めば、カーボンクレジットとしての価値が確立され、普及が加速するでしょう。
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統合的アプローチの発展: ERWと他の気候変動対策や農業技術を統合したアプローチが発展すると予想されます。例えば、アグロフォレストリー(森林農業)とERWの組み合わせや、再生可能エネルギーと蓄電池システムとERWの連携などが考えられます。
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国際協力の強化: 気候変動対策としてのERWは、国際的な協力が重要です。特に、熱帯・亜熱帯地域など風化に適した気候条件を持つ国々との連携が期待されます。
政策提言
ERWの持続可能な実装に向けて、以下のような政策が重要と考えられます:
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カーボンプライシングとの連携: ERWによるCO2除去を炭素税やキャップ・アンド・トレード制度と連携させることで、経済的インセンティブを強化します。
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MRV基準の国際標準化: ERWによるCO2除去量の測定・報告・検証に関する国際的な標準を確立し、クレジットの信頼性と流動性を高めます。
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研究開発への継続的支援: ERWの効率向上、環境影響評価、新たな応用法などの研究開発に対する公的資金の投入を継続します。
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セクター横断的なアプローチ: 農業政策、気候変動政策、資源政策、エネルギー政策などを横断的に連携させ、ERWの多面的な便益を最大化します。
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教育と啓発: ERWの科学的基盤や潜在的便益について、農業従事者や一般市民への教育・啓発活動を強化します。
日本においては、以下のような政策も重要です:
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国内資源の活用促進: 国内の採石場や鉱山からの副産物としての岩石粉末の有効活用を促進する制度を整備します。
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地域特性に合わせた支援制度: 日本の地域ごとの気候・土壌条件に合わせたERW実施のガイドラインと支援制度を整備します。
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関連産業との連携支援: 農業、鉱業、エネルギー産業など関連セクター間の連携を促進する支援制度を設計します。
まとめと今後の展望:ERWの可能性を最大化するために
ERWは、自然界の地質学的プロセスを活用した革新的な気候変動対策技術として、大きな可能性を秘めています。単にCO2を除去するだけでなく、土壌改良や作物収量増加などの農業的コベネフィットも期待できることから、持続可能な実装への道筋が見えてきています。
日本においても、A-ERWプロジェクトを中心に研究開発が進められており、国内の地理的・気候的条件に適したERW実施方法の確立が期待されます。特に、再生可能エネルギーとの統合や、休廃止鉱山・森林傾斜地などの特殊な場所での応用など、日本ならではのアプローチが注目されます。
ERWの持続可能な実装に向けては、技術的課題(MRV手法の確立など)、環境的課題(長期的な生態系への影響評価など)、社会経済的課題(コスト削減やステークホルダーの合意形成など)の解決が必要です。これらの課題に対して、研究機関、企業、政府、市民社会など様々な主体が協力して取り組むことが重要です。
最後に、ERWは単独の解決策ではなく、他の気候変動対策と組み合わせて実施することで、その効果を最大化できることを強調したいと思います。特に、太陽光発電や蓄電池などの再生可能エネルギー技術との統合は、相乗効果を生み出す可能性があります。エネがえるのような経済効果シミュレーションツールを活用することで、このような統合的アプローチの経済性を評価し、持続可能なビジネスモデルを構築することが可能になるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: ERWは他のCO2除去技術と比べてどのような利点がありますか?
A1: ERWの主な利点は、①実施が比較的簡単で既存の農業機械を利用できる、②土壌改良や農業収量増加などのコベネフィットがある、③CO2を長期間(約10万年)安定的に固定できる、という点です。一方、直接空気回収法(DAC)などと比べると、単位面積あたりのCO2除去量は少なく、正確な効果測定が難しいという課題もあります。
Q2: ERWに最適な岩石の種類は何ですか?
A2: 一般的に、カルシウムやマグネシウムを多く含むケイ酸塩鉱物を含む岩石が適しています。具体的には、玄武岩、かんらん石、輝石、透輝石、曹長石、灰長石、オリゴクレース、ラブラドライト、安山石、ネフェリン、リューサイトなどを含む岩石が効果的です9。日本では、玄武岩のほか、安山岩や蛇紋岩なども研究されています617。
Q3: ERWによるCO2固定量をどのように測定・検証できますか?
A3: ERWによるCO2固定量の測定・検証は難しい課題の一つです。主な方法としては、①土壌や水のサンプリング分析、②安定同位体トレーサーの使用、③地球化学モデルによるシミュレーション、④ライフサイクルアセスメント(LCA)などがあります。Puro.earthのようなプラットフォームでは、ERWのカーボンクレジット方法論を開発し、CO2除去量の認証を行っています2。
Q4: 農家がERWを導入するメリットは何ですか?
A4: 農家にとってのメリットには、①土壌の質の向上(pH調整、ミネラル供給など)、②作物収量の増加、③肥料使用量の削減の可能性、④カーボンクレジット収入の可能性、⑤気候変動対策への貢献などがあります。特に、酸性土壌の改良効果は、従来の石灰散布に代わる方法として期待されています16。
Q5: ERWの実施にはどのくらいのコストがかかりますか?
A5: ERWのコストは、岩石の種類、粉砕度、輸送距離、散布方法などによって大きく変わります。一般的には、CO2 1トンの除去あたり55~190ドルと見積もられています19。岩石1トンの処理・散布にかかる平均コストは約12.50ドルとされています14。今後のスケールアップや技術改良により、コスト削減が期待されています。
Q6: 日本でERWを実施する場合の特有の課題は何ですか?
A6: 日本特有の課題としては、①国土が狭く、大規模な農地が限られている、②農地の近くに適切な岩石源が必ずしもない、③複雑な地形や土地所有形態、④農業従事者の高齢化などが挙げられます。一方で、火山国として適切な岩石が豊富にあること、温暖湿潤な気候が風化に適していることなどの利点もあります。
Q7: ERWは森林などの他の自然ベースの解決策と組み合わせることができますか?
A7: はい、ERWは森林再生やアグロフォレストリーなど他の自然ベースの解決策と組み合わせることができます。例えば、森林再生地にERWを実施することで、樹木の成長促進と追加的なCO2固定が期待できます。また、ERWは水田や牧草地など様々な農業システムにも適用可能です。
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