ネイチャーポジティブ国内外注目スタートアップ30社

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。お仕事・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

目次

ネイチャーポジティブ国内外スタートアップ30社

ネイチャーポジティブスタートアップが世界を変える理由とは?

日本ではまだ存在しない革新的な30社の事例が示すのは、「自然を回復軌道に乗せながらビジネスで利益も生み出せる」という新たな成長モデルの可能性です。

10秒でわかる要約

世界のGDPの半分以上(約44兆ドル)が自然の損失により脅かされている中、ネイチャーポジティブ(自然再興)スタートアップが急成長中。環境DNA技術衛星モニタリング微生物活用ドローン植林など革新的な技術で自然保護と経済成長を両立。日本未上陸の30社が示す、2030年までに自然の損失を反転させる新ビジネスモデルとは?

なぜ今、ネイチャーポジティブが世界経済の新たな成長エンジンなのか

自然資本の保全と再生が世界経済の新たな成長エンジンとなる時代が到来しています。驚くべきことに、世界経済フォーラムのレポートによれば、世界のGDPの半分以上に当たる約44兆ドルが自然の損失によって潜在的に脅かされており、ビジネスと自然の関係性は今後の企業価値を大きく左右する要素となっています。

このような背景から、ネイチャーポジティブの概念に基づいたイノベーティブなスタートアップが世界各地で台頭しています。本記事では、日本にはまだ存在していないものの、将来的に大きな可能性を秘めた「ネイチャーポジティブスタートアップ」30選を詳細に紹介し、新たなビジネス創出のインスピレーションを提供します。

ネイチャーポジティブとは何か?基本概念と世界動向の完全解説

ネイチャーポジティブの定義と目標が示す革命的ビジョン

ネイチャーポジティブ(Nature Positive)は日本語で「自然再興」と訳され、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」という概念です。これは単なる環境保護のスローガンではなく、具体的には「2020年を基準として、2030年までに自然の損失を食い止め、反転させ、2050年までに完全な回復を達成する」という世界的な社会目標を指します。

この概念が革命的である理由は、3つの重要なマイルストーンを含んでいることにあります:

第1のマイルストーン:ネットゼロの達成 2020年をベースラインとし、そこから総体で自然の損失を発生させないこと(ネットゼロ)

第2のマイルストーン:プラス転換の実現 2030年までに総体でポジティブ(プラス)になること

第3のマイルストーン:完全回復への道筋 2050年までに十分な回復を達成すること

国際的な動向とネイチャーポジティブの重要性が加速度的に高まる理由

ネイチャーポジティブという言葉が国際舞台で初めて使用されたのは2020年の国連生物多様性サミットでした。この画期的な瞬間から、わずか数年でグローバルな政策フレームワークが急速に整備されてきました。

2021年のG7サミットでは「2030年自然協約」が採択され、先進国がこぞってネイチャーポジティブへのコミットメントを表明しました。さらに2022年12月のCOP15では「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」と23の行動目標が採択され、国際社会全体が動き始めました。

特に注目すべきは「#3 陸域、水域、海域の重要地域の30%を保全(30by30)」のような具体的な数値目標が設定されたことです。これにより、カーボンニュートラルサーキュラーエコノミーに次いで、ネイチャーポジティブが企業が取り組むべき重要な社会課題として認識されるようになりました。

日本でも2024年3月に「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」が環境省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の連名で策定・公表されました。この戦略は、企業や金融機関、消費者の行動変化を通じて、自然を保全する経済の実現を目指すものです。つまり、日本政府も本腰を入れてネイチャーポジティブ経済への移行を推進し始めたのです。

なぜネイチャーポジティブが重要なのか:衝撃的な数字が物語る危機と機会

世界の野生生物の個体数は1970年から2018年の間に平均69%減少し、淡水生物においては83%も減少しています。この衝撃的な数字は、私たちが地球上の生命システムを急速に破壊していることを如実に示しています。

こうした自然資本の劣化は、企業活動にとって以下の2種類の重大なリスクをもたらします:

物理的リスク:事業継続を脅かす直接的影響 自然環境の劣化による事業への直接的な影響(例:干ばつや洪水による生産低下、土壌劣化、原材料供給の不安定化など)

移行リスク:社会変化がもたらす間接的影響 自然損失に対する社会的対応から生じるリスク(例:規制要件への非対応、消費者需要の変化、投資家からの資金引き上げなど)

実際のビジネスインパクトを示す衝撃的な事例があります。あるヨーロッパの飲料会社の事例では、自然関連リスクにより年間約6,300万ユーロの損失(利益の約25%)が発生する可能性があると試算されています。このように、自然資本の保全は単なる社会貢献ではなく、ビジネスの持続可能性にとって不可欠な要素となっているのです。

ネイチャーポジティブスタートアップの分類と特徴:イノベーションの4つの方向性

ネイチャーポジティブスタートアップは、その機能や目的によって主に4つのカテゴリーに分類できます。それぞれのカテゴリーが持つ独自の価値とアプローチを理解することで、この新しいビジネス領域の全体像が見えてきます:

1. 可視化(VISUALIZATION):見えないものを見える化する技術革新 生態系の調査や分析などを通して自然資本を可視化する。従来は困難だった生物多様性の定量的評価を可能にし、企業の意思決定に必要なデータを提供する。

2. 回復(REGENERATIVE):自然を再生する直接的アプローチ 生態系の質的・量的保全や自然の能力を引き出す解決策を提供する。単なる保護ではなく、積極的に自然を回復させる技術やサービスを展開する。

3. 最適化(OPTIMIZATION):資源利用の効率化による負荷低減 資源の利用効率を向上させる技術を開発する。限りある自然資源をより効率的に活用することで、環境負荷を最小化する。

4. 代替手段(ALTERNATIVE):従来の方法を置き換える新素材・新技術 新たな資源や再生可能素材などの代替手段を提案する。自然由来の新素材開発や、環境負荷の高い従来製品を置き換えるイノベーションを創出する。

これらのカテゴリーに基づき、世界で注目されている革新的なネイチャーポジティブスタートアップの中から、日本にはまだ存在しないが将来有望な30のスタートアップを詳細に紹介します。

可視化(VISUALIZATION)カテゴリーの革新的スタートアップ8選

1. NatureMetrics(英国):環境DNAで生物多様性を「見える化」する画期的技術

ビジネスモデル: 環境DNAを活用した生物多様性モニタリングサービス

NatureMetricsは2014年に設立され、2025年1月にはジャストクライメイトが主導する2,500万ドルのシリーズB資金調達を完了しました。同社の革新性は、水や土壌サンプルから抽出した環境DNAを分析することで、特定の場所に存在する生物多様性を高精度に把握するサービスを提供していることにあります。

この技術により、従来の生物調査よりも迅速かつ包括的に生態系を評価できます。例えば、従来の調査では数週間かかっていた生物種の特定が、わずか数日で可能になります。さらに、人間の目では見逃してしまう微小な生物や夜行性の生物も検出できるため、より正確な生態系評価が実現します。

日本への適用可能性と期待される効果: 日本の生物多様性ホットスポットや自然保護区での活用、環境アセスメントの高度化、企業のESG評価への組み込みなどが期待できます。特に、水田生態系や河川環境のモニタリングなど、日本特有の生態系調査に応用できる可能性があります。また、世界自然遺産に登録されている知床や屋久島、小笠原諸島などでの継続的なモニタリングにも活用できるでしょう。

2. Restor(スイス):地球規模の生態系修復を可視化するグローバルプラットフォーム

ビジネスモデル: 生態系修復のためのグローバルデータプラットフォーム

2021年に設立されたRestorは、350万ドルの資金を調達し、地球規模での生態系修復を目指す総合プラットフォームを構築しています。高解像度の衛星画像と生態学的データを組み合わせ、世界中の生態系修復プロジェクトの進捗をモニタリングし、その効果を可視化します。

同社のプラットフォームは、自然再生、植樹、保全、アグロフォレストリーなど様々な修復活動を支援するためのネットワークも提供しています。これにより、世界中の生態系修復プロジェクトが互いに学び合い、ベストプラクティスを共有することが可能になります。

日本への適用可能性と期待される効果: 過疎化に伴う里山の管理不足や、自然災害後の生態系再生など、日本の国土保全と生物多様性回復の両立に貢献できます。特に、地方自治体や企業のESG活動と連携した森林再生プロジェクトの科学的評価に活用できるでしょう。また、東日本大震災や熊本地震などの被災地での生態系回復の進捗モニタリングにも応用可能です。

3. Spoor(イギリス):サプライチェーンの生物多様性影響を「見える化」する革新的プラットフォーム

ビジネスモデル: サプライチェーンの透明性確保と生物多様性影響追跡

Spoorは最新のリモートセンシング技術、AIと機械学習を活用して、企業のサプライチェーンにおける生物多様性への影響を追跡するプラットフォームを提供しています。特に農業や林業セクターにおいて、原材料調達が生態系にもたらす影響を詳細に分析し、サプライチェーンのリスク管理と持続可能性向上を支援します。

同社の技術は、単に現在の状況を把握するだけでなく、将来のリスクを予測し、より持続可能な調達戦略を立案するための具体的な提案も行います。これにより、企業は規制リスクを回避しつつ、消費者からの信頼も獲得できるようになります。

日本への適用可能性と期待される効果: 日本企業の海外サプライチェーンの透明性確保と、調達先の生物多様性への影響評価に活用できます。近年、特に金融機関や食品メーカーを中心に自然関連財務情報開示(TNFD)への対応が求められている中、このようなツールの需要は高まると予想されます。例えば、パーム油やカカオ、コーヒー豆などの調達における森林破壊リスクの評価や、水産物調達における海洋生態系への影響分析などに活用できるでしょう。

4. Boomitra(米国):衛星とAIが可能にする土壌炭素の革命的測定技術

ビジネスモデル: 衛星・AIによる土壌炭素測定技術

2021年6月に400万ドルの資金を調達したBoomitraは、衛星とAIを組み合わせた技術により、土壌炭素レベルを直接測定するプラットフォームを開発しました。この技術により、土壌サンプリングや実験室での検査なしで土壌炭素を測定でき、炭素除去の国際市場へのアクセスを農家に提供しています。

従来、土壌炭素の測定には高額な費用と長い時間がかかっていましたが、Boomitraの技術により、リアルタイムかつ低コストでの測定が可能になりました。これにより、農家は収入を増やしながら、持続可能な農業実践を採用することが奨励されます。

日本への適用可能性と期待される効果: 日本の農業において、再生農法の導入促進と炭素クレジット創出の両立が期待できます。特に、太陽光発電と農地の共存(ソーラーシェアリング)に取り組む農家の経済性をさらに向上させる可能性があります。エネがえるの経済効果シミュレーターと連携すれば、農地での太陽光発電と炭素クレジットの複合的な経済メリットを農家に提示できるでしょう。

5. sustainacraft(日本発グローバル):衛星リモートセンシングが実現する透明性の高い森林評価

ビジネスモデル: 衛星リモートセンシングによる森林評価技術

日本発のスタートアップであるsustainacraftは、衛星リモートセンシング技術を用いて広範囲な自然資源の炭素蓄積量をモニタリングし、カーボンクレジットの評価を行うソリューションを提供しています。透明性の高い森林評価技術でクレジットの信頼性を高め、自然保全への健全な資金循環を生み出すことを目指しています。

同社の技術は、単に森林の面積を測定するだけでなく、樹木の高さ、密度、健康状態まで評価することができます。これにより、より正確な炭素蓄積量の算定が可能になり、カーボンクレジットの品質向上に貢献しています。

日本での発展可能性と期待される成果: このようなテクノロジーをさらに発展させ、日本の森林資源の価値を国際的な炭素市場で適正に評価できるシステムの構築が期待されます。特に、林業と炭素固定の両立を図る新たなビジネスモデルへの展開が考えられます。また、森林管理の効率化により、林業従事者の高齢化問題にも対応できる可能性があります。

6. aiESG(日本発グローバル):包括的ESG分析が可能にする定量的環境評価

ビジネスモデル: 包括的ESG分析サービス

九州大学発のスタートアップであるaiESGは、独自のビッグデータを用いたAI分析により、3,200以上のESG指標について詳細な試算が可能なサービスを提供しています。生物多様性やCO2、人権、労働環境などを含め、社会面やガバナンス面を定量的に評価できます。

従来のライフサイクルアセスメント(LCA)では困難だった地理的試算にも対応しています。例えば、同じ製品でも生産地や輸送ルートによって環境負荷が大きく異なりますが、aiESGの技術により、これらの違いを詳細に分析することが可能になります。

日本での発展可能性と期待される成果: 今後、日本企業がネイチャーポジティブ経営を推進する上で、このような定量的な評価ツールの需要はさらに高まるでしょう。特に、TNFDやSBTNなどの国際的な枠組みに対応した分析機能の拡充が期待されます。また、中小企業向けの簡易版サービスの開発により、より多くの企業がESG経営に取り組めるようになることも期待されます。

7. ForestBase(スウェーデン):森林管理のためのデジタルツイン技術が拓く新たな可能性

ビジネスモデル: 森林管理のためのデジタルツイン技術

ForestBaseは、森林のデジタルツインを作成し、森林所有者が持続可能な森林管理を行うためのデータ駆動型意思決定を支援するプラットフォームを提供しています。リモートセンシング技術とAIを組み合わせて、森林資産の価値、炭素貯蔵量、生物多様性などを定量化し、最適な森林管理計画を立案できるようにします。

デジタルツイン技術により、実際の森林を訪れることなく、コンピュータ上で様々な管理シナリオをシミュレーションすることができます。これにより、長期的な視点での最適な森林管理戦略を立案することが可能になります。

日本への適用可能性と期待される効果: 日本の森林の約4割を占める人工林の持続可能な管理に活用できます。特に、高齢化が進む林業経営者の知識・経験をデジタル化し、次世代に継承するツールとしても価値があるでしょう。また、森林の多面的機能(水源涵養、土砂災害防止、レクリエーション等)を最大化する管理計画の立案にも貢献できます。

8. MORFO(チリ):衛星データと地上センサーによる高精度土地利用モニタリング

ビジネスモデル: 衛星データと地上センサーによる土地利用モニタリング

MORFOは、衛星データと地上センサーを組み合わせて、土地利用の変化と環境への影響をリアルタイムでモニタリングするプラットフォームを提供しています。特に、違法伐採や不適切な土地利用の検出、保全地域の監視などに活用されています。

同社のシステムは、異常な変化を自動的に検出し、関係当局にアラートを送信する機能も備えています。これにより、違法行為の早期発見と迅速な対応が可能になります。

日本への適用可能性と期待される効果: 国土の約7割を占める森林の効率的な管理や、自然公園の保全状況のモニタリングに応用できます。また、災害後の森林被害状況の把握や、復旧計画の立案にも有効でしょう。特に、近年問題となっている盗伐や違法な土地開発の監視に活用することで、日本の貴重な自然資源を守ることができます。

回復(REGENERATIVE)カテゴリーの革新的スタートアップ8選

9. Single Earth(エストニア):森林などの自然資産のトークン化による革新的保全モデル

ビジネスモデル: 森林などの自然資産のトークン化

2019年に設立されたSingle Earthは、790万ドルの資金を調達し、森林や湿地などの自然資産をトークン化することで、これらの生態系を保護しながら経済的価値を生み出すプラットフォームを構築しています。自然資産の所有者は、土地を開発する代わりに保全することで収益を得ることができます。

このビジネスモデルの革新性は、「保護することが経済的に合理的になる」という新たなインセンティブ構造を作り出したことにあります。企業は、これらのトークンを購入することで生物多様性オフセットに貢献でき、同時に投資リターンも期待できます。

日本への適用可能性と期待される効果: 日本の里山や湿地などの保全価値の高い生態系の経済的評価と保全資金調達メカニズムとして活用できます。特に、過疎地域における新たな土地活用モデルとして期待されます。例えば、耕作放棄地をそのまま森林に遷移させることで、土地所有者に収益をもたらすスキームの構築が可能になります。

10. Pivotal(カナダ):AIによる生態系修復計画最適化が実現する科学的アプローチ

ビジネスモデル: AIによる生態系修復計画最適化

Pivotalは、AIと機械学習を活用して、生態系修復プロジェクトの設計と実施を最適化するソリューションを提供しています。気候データ、土壌条件、生物多様性情報などを統合分析し、特定の地域に最も適した植物種の選定や植栽パターンを提案します。

同社のAIシステムは、過去の成功事例と失敗事例から学習し、継続的に予測精度を向上させています。これにより、生態系修復の成功率と効率を大幅に向上させることができます。

日本への適用可能性と期待される効果: 東日本大震災後の沿岸生態系の再生や、放棄された農地の森林への転換など、日本の様々な生態系修復プロジェクトの成功率向上に貢献できるでしょう。特に、日本固有種の保全や外来種対策を考慮した修復計画の立案に有効です。

11. FullDepth(日本発グローバル):産業用水中ドローンが切り拓く海洋生態系保全の新境地

ビジネスモデル: 産業用水中ドローンによる海洋生態系探索

筑波大学発のスタートアップであるFullDepthは、最大深度300mまで潜行可能な産業用水中ドローン「DiveUnit300」を開発しています。水中インフラの維持・管理をはじめ、漁礁の調査や定置網の点検、海底資源や深海生物の探査など、幅広く利用できます。

水中ドローンの自動航行による海底マッピングにも取り組んでおり、人間が直接潜水することが困難な環境でも、詳細な海洋生態系データを収集することができます。

日本での発展可能性と期待される成果: 水産資源管理や海洋生態系の保全をさらに高度化するため、AIを活用した自動判別システムとの統合や、サンゴ礁再生プロジェクトへの応用などが考えられます。特に、ブルーカーボン(海洋生態系による炭素固定)の定量評価にも活用でき、新たな環境価値創造につながる可能性があります。

12. イノカ(日本発グローバル):環境移送技術が実現する「海の未来」の再現

ビジネスモデル: 海の生態系を水槽中に再現する環境移送技術

日本のスタートアップであるイノカは、日本有数のサンゴ飼育技術とIoT・AI技術を組み合わせることで、任意の生態系を水槽内に再現する環境移送技術の研究開発を行っています。2022年2月には、完全人工環境下での真冬のサンゴの産卵に世界で初めて成功しました。

環境移送技術を応用して、企業の事業活動が海の生態系に与える影響を調査・分析する取り組みも推進しています。これにより、実際の海洋環境を破壊することなく、様々な実験や検証が可能になります。

日本での発展可能性と期待される成果: この技術をさらに発展させ、世界のサンゴ礁保全への貢献や、海洋環境の変化予測モデルの構築、海洋生物の飼育・繁殖技術の高度化などが期待されます。また、気候変動が海洋生態系に与える影響をシミュレーションし、適応策を検討するツールとしても活用できるでしょう。

13. Rainforest Connection(米国):音響センサーが実現する森林保護の革新的アプローチ

ビジネスモデル: 音響センサーによる森林保護システム

Rainforest Connectionは、再利用された携帯電話を改造した音響センサーを森林に設置し、違法伐採や密猟の音を検出するシステムを開発しています。リアルタイムで異常を検知し、森林保護当局に通報することで、違法活動を迅速に阻止することができます。

また、収集された音響データは生物多様性のモニタリングにも活用されています。鳥や昆虫、霊長類などの鳴き声を分析することで、生態系の健全性を評価することができます。

日本への適用可能性と期待される効果: 日本の国立公園や保護区における密猟防止や希少種モニタリング、さらには自然災害の早期検知などへの応用が考えられます。クマやシカなどの獣害対策への活用も期待できるでしょう。特に、人口減少により監視体制が手薄になりつつある山間部での活用が有効です。

14. Dendra Systems(英国):ドローンとAIによる大規模生態系修復の革命

ビジネスモデル: ドローンと AI による大規模生態系修復

Dendra Systemsは、ドローンとAIを組み合わせた技術により、大規模な生態系修復を効率的に実施するソリューションを提供しています。特殊設計されたドローンが最大150種の種子を含むペレットを地形に合わせて正確に散布し、従来の手法に比べて最大60倍のスピードで植栽を実現します。

また、AIによる生態系分析で修復の進捗をモニタリングし、必要に応じて追加の介入を行うことができます。これにより、修復プロジェクトの成功率が大幅に向上します。

日本への適用可能性と期待される効果: 日本の急峻な地形を持つ森林再生や、アクセスが困難な山間部の植生回復に活用できます。特に、近年増加している災害後の斜面安定化と生態系再生を同時に実現するツールとして期待できます。

これは太陽光発電施設の設計にも関連し、エネがえるのようなシミュレーターと連携することで、自然災害リスクを考慮した最適な再エネ施設配置の検討にも貢献できるでしょう。例えば、エネがえるのシミュレーションでは、斜面地における太陽光発電施設の設置の経済効果と安全性を両立させる最適設計を提案しています。

15. Biome(日本発グローバル):市民科学が実現する生物多様性ビッグデータの構築

ビジネスモデル: 生き物図鑑アプリによる生物分布データ収集

Biomeは、身近な公園や散歩道で見つけた動植物や昆虫など多種多様な生物の情報を蓄積・共有できる生き物図鑑アプリ「biome」を運営しています。地方自治体や民間企業とタイアップした企画も推進しています。

リアルタイムで大量の生物分布データを収集し、絶滅危惧種の調査や密猟対策など、生態系保全のためのデータ活用ビジネスを展開しています。市民が楽しみながら科学研究に貢献できる仕組みを構築したことが、同社の大きな強みです。

日本での発展可能性と期待される成果: 市民科学(シチズンサイエンス)の手法をさらに発展させ、学校教育や企業の生物多様性活動との連携強化、収集データの科学研究や政策立案への活用などが期待されます。また、AIによる画像認識技術の向上により、誰でも簡単に生物種を同定できるようになることで、参加者がさらに増加することが見込まれます。

16. Coral Vita(バハマ):陸上サンゴ育成が変える海洋生態系回復の未来

ビジネスモデル: 陸上でのサンゴ育成による海洋生態系回復

Coral Vitaは、陸上の施設でサンゴを育成し、損傷したサンゴ礁の回復を支援する革新的なアプローチを開発しています。従来の方法に比べて最大50倍速くサンゴを成長させる技術を用いて、気候変動に対してより耐性のあるサンゴを育成しています。

このサンゴ礁修復サービスの費用は、沿岸保護、観光、漁業などの恩恵を受ける政府、ホテル、保険会社などのステークホルダーが負担します。つまり、サンゴ礁がもたらす経済的価値を認識し、その保全に投資するビジネスモデルを確立しています。

日本への適用可能性と期待される効果: 沖縄や奄美地域のサンゴ礁保全に応用でき、観光業と連携した新たな海洋保全ビジネスモデルとして発展が期待できます。特に、環境省の自然再興推進施策との連携や、ダイビング産業との協働による資金調達メカニズムの構築が考えられます。また、サンゴ礁保全に関する環境教育プログラムとの連携により、次世代の海洋保全人材育成にも貢献できるでしょう。

最適化(OPTIMIZATION)カテゴリーの革新的スタートアップ7選

17. Optimal Cities(オーストラリア):都市計画に生物多様性を組み込む革新的アプローチ

ビジネスモデル: 都市の生物多様性向上のためのデータ分析プラットフォーム

Optimal Citiesは、都市計画者や開発者が都市の生物多様性を向上させるためのデータ分析プラットフォームを提供しています。衛星画像、生態学的データ、都市計画情報を統合し、緑地ネットワークの最適化や生態系サービスの向上につながる意思決定を支援します。

同社のシステムは、単に緑地の量を増やすだけでなく、生物の移動経路(生態系回廊)や、都市の熱島効果緩和など、複合的な環境効果を考慮した最適な都市デザインを提案します。

日本への適用可能性と期待される効果: 日本の都市再開発や、コンパクトシティ計画における生物多様性の統合に活用できます。特に、人口減少に伴う都市のリデザインにおいて、生態系サービスを最大化する計画立案に貢献するでしょう。例えば、空き家や空き地を活用した都市内緑地ネットワークの構築や、都市型農園との組み合わせなど、新たな都市デザインの可能性を開きます。

18. ピリカ(日本発グローバル):ごみ拾いSNSから始まる海洋プラスチック問題解決への道

ビジネスモデル: ごみ拾いSNSと流出ごみ計測技術

ピリカは、120以上の国・地域で利用されているごみ拾いSNSを運営しています。流出ごみを計測する世界共通の基準づくりに向けた取り組みを行っており、特に海洋プラスチック汚染問題の解決に貢献しています。

ユーザーがごみ拾い活動を投稿することで、世界中のごみ問題の実態が可視化されます。また、独自開発した計測技術により、河川や海岸におけるプラスチックごみの流出量を定量的に把握することができます。

日本での発展可能性と期待される成果: 収集されたごみデータを活用したAI予測モデルの開発や、企業や自治体と連携した海洋ごみ削減のためのシステム構築など、データ駆動型の環境保全ソリューションへの発展が期待されます。特に、ごみの発生源を特定し、効果的な対策を立案するためのプラットフォームとしての活用が見込まれます。

19. BioCarbon Engineering(英国):ドローン植林システムが実現する森林再生の加速

ビジネスモデル: ドローン植林システム

BioCarbon Engineeringは、ドローンを活用した大規模植林システムを開発しています。まず地形をスキャンし、AIが植林に最適な場所を特定します。次に特殊設計されたドローンが、発芽のための栄養素や保護剤を含む「苗木ポッド」を正確に散布します。

従来の手法に比べて10倍の速さでの植林が可能で、アクセスが困難な地域でも効率的に森林再生を進められます。また、植林後のモニタリングも同じドローンで行うことができ、苗木の生存率を正確に把握できます。

日本への適用可能性と期待される効果: 日本の林業において後継者不足が深刻化する中、人手に頼らない森林再生技術として有望です。また、災害後の斜面安定化のための緑化事業にも活用できるでしょう。特に、急傾斜地や土砂崩れ跡地など、人間が作業するには危険な場所での植林に効果を発揮します。

20. Terrafuse(米国):気候リスク予測AIが導く自然を活用した解決策

ビジネスモデル: 気候リスク予測AI

Terrafuseは、AIと気候科学を組み合わせて、洪水、山火事、干ばつなどの気候関連リスクを高精度に予測するプラットフォームを開発しています。これにより、リスク地域の特定や、自然を活用した解決策(Nature-based Solutions)の最適配置を支援しています。

同社のAIは、過去の気候データ、地形情報、植生データなどを統合分析し、将来のリスクをシミュレーションします。また、グリーンインフラ(緑地、湿地、森林など)の配置が災害リスクにどのように影響するかを評価することもできます。

日本への適用可能性と期待される効果: 気候変動に伴い増加する自然災害に対応するため、都市計画や農地管理、インフラ開発などにおけるリスク予測と自然を活用した対策立案に利用できます。特に、日本の複雑な地形と集中豪雨リスクを考慮した防災・減災計画の高度化に貢献するでしょう。

21. バイオーム(日本発グローバル):微生物の力で実現する持続可能な農業

ビジネスモデル: 微生物活用による土壌再生と農薬代替

バイオームは、農業における有用微生物の活用に関する研究開発を行っています。土壌微生物の多様性を高めることで、化学農薬や肥料の使用を削減しながら、作物の生産性と品質を向上させるソリューションを提供しています。

同社の技術により、土壌の健康状態を改善し、作物の病害虫抵抗性を高めることができます。また、微生物が生産する天然の抗菌物質や成長促進物質を活用することで、化学薬品への依存を大幅に減らすことが可能です。

日本での発展可能性と期待される成果: 環境保全型農業の普及や、耕作放棄地の土壌再生などへの応用が期待されます。また、微生物解析技術を活用した土壌診断サービスなど、データ駆動型の農業支援ビジネスへの展開も考えられます。特に、有機農業への転換を希望する農家への技術支援サービスとしての需要が見込まれます。

22. Aker Technologies(米国):精密農業が実現する農薬使用量の革命的削減

ビジネスモデル: 精密農業用AIモニタリングシステム

Aker Technologiesは、ドローンと地上センサーを組み合わせたAIモニタリングシステムを開発し、農作物の健康状態や病害虫の発生をリアルタイムで検出します。これにより、農薬の適正使用と作物収量の最大化を同時に実現します。

特に、予防的ではなく対処的な農薬散布を可能にすることで、農薬使用量を大幅に削減できます。AIが病害虫の初期症状を検出し、影響を受けた部分だけにピンポイントで農薬を散布することで、従来の一律散布に比べて農薬使用量を最大80%削減できます。

日本への適用可能性と期待される効果: 高齢化が進む日本の農業において、少ない労力で効率的な栽培管理を実現するツールとして期待されます。また、農薬使用量削減による環境負荷低減と、安全・安心な農産物の生産に貢献できます。特に、減農薬栽培や特別栽培農産物の認証取得を目指す農家への技術支援として活用できるでしょう。

23. シンク・ネイチャー(日本発グローバル):生態系ビッグデータが切り拓く生物多様性評価の新時代

ビジネスモデル: 生態系ビッグデータによる生物多様性評価サービス

琉球大学理学部久保田研究室発のスタートアップであるシンク・ネイチャーは、世界の陸・淡水・海を網羅した野生生物の時空間分布や遺伝子、機能特性、生態特性などのビッグデータを構築しています。AIを用いた予測やシナリオ分析を行い、2023年4月には、企業や金融機関を対象に生物多様性への事業インパクトの評価サービスの試験的提供を開始しました。

同社の強みは、学術研究で蓄積された膨大な生態系データを、ビジネスで活用可能な形に変換したことにあります。これにより、企業が自社の事業活動が生物多様性に与える影響を科学的に評価することが可能になりました。

日本での発展可能性と期待される成果: TNFDなどの国際的な開示フレームワークに対応した、日本企業向けの生物多様性評価・報告ツールとしての発展が期待されます。特に、サプライチェーン全体での生物多様性影響評価や、投資判断における生物多様性リスク分析への活用が見込まれます。

代替手段(ALTERNATIVE)カテゴリーの革新的スタートアップ7選

24. Biomason(米国):微生物が作り出す二酸化炭素固定セメントの革命

ビジネスモデル: 微生物による二酸化炭素固定セメント

Biomasonは、微生物の力を活用して、従来のセメント製造プロセスに代わる環境負荷の低い建材生産技術を開発しています。特殊な微生物がカルシウムとカーボン、栄養素を組み合わせてバイオセメントを生成するプロセスを用い、従来のセメント製造に比べて二酸化炭素排出量を最大100%削減できます。

セメント産業は世界の二酸化炭素排出量の約8%を占めており、この技術が普及すれば気候変動対策に大きく貢献することができます。また、常温で生産できるため、エネルギー消費も大幅に削減されます。

日本への適用可能性と期待される効果: 日本のコンクリート産業における脱炭素化技術として、また、自然共生型の建築材料として活用できます。特に、海岸構造物や河川工事における生態系との調和を高める建材としての応用が期待されます。また、災害復旧時の迅速な建材供給や、地域資源を活用した建材生産にも適しています。

25. Notpla(英国):海藻が切り拓くプラスチックフリーの未来

ビジネスモデル: 海藻由来の生分解性包装材

Notplaは、海藻から作られた完全に生分解可能な包装材を開発しています。従来のプラスチックに代わる素材として、食品包装、化粧品容器、飲料カプセルなど様々な用途に展開しています。使用後は数週間で自然に分解され、海洋プラスチック問題の解決に貢献します。

同社の製品は、食べることも可能なほど安全で、堆肥化も容易です。また、海藻の栽培には肥料や淡水が不要で、むしろ海洋の栄養塩を吸収して海の富栄養化を防ぐ効果もあります。

日本への適用可能性と期待される効果: 包装材料の大量使用国である日本において、持続可能な包装ソリューションとして大きな市場があります。特に、日本の豊富な海藻資源を活用したローカル生産モデルへの発展が考えられます。コンビニエンスストアや外食産業での使い捨て包装材の代替品として、また、イベントやフェスティバルでの環境配慮型包装材としての需要が見込まれます。

26. ANEMONEコンソーシアム(日本発グローバル):環境DNAが切り拓く生物多様性観測の民主化

ビジネスモデル: 環境DNAによる生物多様性観測ネットワーク

東北大学大学院生命科学研究科教授の近藤倫生が立ち上げた、環境DNAを利用した生物多様性観測ネットワーク構築プロジェクトです。環境DNAとは、水中や土壌など環境のなかに存在する生物由来のDNAのことで、バケツ一杯から存在する生物の種類や分布を調べることができます。

2022年6月には、生き物の天気図を示すオープンデータを世界で初めて公開しました。これにより、誰でも日本各地の生物多様性の状況をリアルタイムで把握することができるようになりました。

日本での発展可能性と期待される成果: この技術を基盤とした生態系モニタリングビジネスの展開や、環境アセスメント、生態系保全計画立案などのサービス提供への発展が期待されます。特に、河川管理者や漁業協同組合、自然保護団体などとの連携により、持続可能な水域管理システムの構築が可能になります。

27. Algiknit(米国):海藻繊維が織りなすサステナブルファッションの未来

ビジネスモデル: 海藻由来の持続可能な繊維素材

Algiknitは、海藻から持続可能な繊維素材を生産し、ファッション産業向けに提供しています。この素材は生分解性が高く、従来の繊維生産に比べて水使用量と炭素排出量を大幅に削減できます。

繊維産業は世界的に環境負荷が高い産業ですが、この技術により持続可能な素材への転換が期待されています。海藻繊維は、綿や合成繊維に比べて柔らかく、吸湿性や通気性にも優れており、着心地の良い衣類を作ることができます。

日本への適用可能性と期待される効果: 日本のアパレル産業やファッションブランドとの協業による、サステナブル素材を用いた製品開発が期待できます。また、日本の伝統的な海藻利用技術と組み合わせた新素材開発なども考えられるでしょう。特に、和装産業との連携により、環境配慮型の和服素材開発という新たな市場を開拓できる可能性があります。

28. Loliware(米国):海藻ストローが実現する使い捨てプラスチックからの脱却

ビジネスモデル: 海藻ベースの生分解性ストロー

Loliwareは、海藻から作られた100%生分解性のストローを開発しています。従来のプラスチックストローや紙ストローの代替として、飲料体験を損なわずに環境負荷を大幅に削減できる製品です。使用後は24時間以内に分解を始め、60日以内に完全に分解されます。

紙ストローの課題であった耐久性の問題を解決し、プラスチックストローと同等の使用感を実現しています。また、海洋に流出しても魚が食べても安全で、むしろ栄養源になるという画期的な特性を持ちます。

日本への適用可能性と期待される効果: プラスチック削減政策が進む日本において、飲食店や小売業向けの持続可能なソリューションとして、また海藻資源の新たな活用方法として期待できます。特に、観光地や自然公園での利用など、環境保全と事業活動の両立が求められる場面での活用が考えられます。

29. Pond Biomaterials(カナダ):微細藻類が実現する炭素ネガティブ素材の革命

ビジネスモデル: 微細藻類を活用した生分解性バイオプラスチック

Pond Biomaterialsは、微細藻類を原料とした生分解性プラスチックの開発と製造を行っています。二酸化炭素を吸収して成長する微細藻類を活用することで、製品のライフサイクル全体で炭素ネガティブを実現する革新的な素材です。

従来のバイオプラスチックに比べて耐久性や加工性に優れ、様々な用途に適応可能です。また、微細藻類の培養には廃水や排気ガスを利用できるため、環境浄化と素材生産を同時に行うことができます。

日本への適用可能性と期待される効果: 日本のプラスチック製品メーカーとの連携による新素材開発や、「海洋プラスチック問題」の解決に貢献する製品としての普及が期待されます。また、国内の遊休施設を活用した微細藻類の生産拠点整備など、地域創生との連携も考えられます。特に、工業地帯での二酸化炭素削減と新素材生産の両立という新たなビジネスモデルの構築が可能です。

30. Living Carbon(米国):遺伝子最適化樹木が切り拓く炭素吸収の新たな可能性

ビジネスモデル: 炭素吸収能力を強化した遺伝子組換え樹木

Living Carbonは、光合成効率と炭素固定能力を高めるよう遺伝子を最適化した樹木を開発しています。この技術により、通常の樹木に比べて成長速度が50%以上速く、より多くの炭素を吸収・固定することができます。森林再生プロジェクトや炭素クレジット創出を目的とした植林事業に活用されています。

同社の技術は、単に成長速度を速めるだけでなく、樹木の環境ストレス耐性も向上させています。これにより、従来は植林が困難だった環境でも森林再生が可能になります。

日本への適用可能性と期待される効果: 厳格な規制環境の中での適用には課題がありますが、管理された植林地での実証実験や、生分解性のある環境修復植物としての応用などが考えられます。特に、工業地帯周辺の緩衝緑地や、環境負荷の高い地域の修復プロジェクトでの活用が期待されます。また、カーボンニュートラル目標達成のための革新的手法として、政策的な検討対象となる可能性もあります。

ネイチャーポジティブスタートアップへの投資動向と市場機会の詳細分析

グローバル投資トレンドが示す成長の加速

ネイチャーテック分野への投資は着実に拡大しており、2024年上半期(H1)には前年同期比51%増の8億7,800万ドルの投資が記録されました。取引件数も37%増加し、96件に達しています。この急激な成長は、投資家がネイチャーポジティブビジネスの可能性を本格的に認識し始めたことを示しています。

特に「MRVと生物多様性」カテゴリーでは急激な投資増加が見られ、2024年上半期の投資額は2億2,400万ドルで、2023年の年間総額2億4,800万ドルにほぼ匹敵する水準に達しています。これは、生物多様性の定量的評価技術への需要が急速に高まっていることを示唆しています。

事業機会が拡大する背景:4つの重要な推進要因

ネイチャーポジティブビジネスの拡大は、以下のような要因によって加速されています:

1. 国際的な政策フレームワークの整備による市場創出 「昆明・モントリオール生物多様性枠組」や「30by30」などの国際的な目標設定により、各国政府による規制強化や支援策が進展しています。これにより、企業にとってネイチャーポジティブへの取り組みが義務化されつつあり、新たな市場が生まれています。

2. 企業の自然関連リスク認識の高まりによる需要増加 自然資本の劣化が企業の物理的リスクと移行リスクを増大させるという認識が広がり、対応策への投資が拡大しています。多くの企業が、自然関連リスクを財務リスクとして認識し始めたことで、リスク管理ツールやサービスへの需要が急増しています。

3. 金融機関の評価基準変化による資金流入 TNFDなどの開示フレームワークの普及により、投資・融資判断において自然資本への影響評価が重視されるようになっています。これにより、ネイチャーポジティブな企業への資金が流入しやすくなり、逆にネイチャーネガティブな企業からは資金が引き上げられる傾向が強まっています。

4. 消費者意識の変化による市場機会の拡大 特に若年層を中心に、生物多様性に配慮した製品・サービスへの選好が強まっています。この消費者意識の変化により、ネイチャーポジティブな製品・サービスにプレミアム価格を設定できる可能性が高まっています。

日本市場の特徴と機会:政策と市場が生み出す新たな可能性

日本市場では、2024年3月に策定された「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」が企業の取り組みに大きな影響を与えると予想されます。この戦略では、「ネイチャーポジティブ経営」への移行の必要性や、企業が押さえるべき要素、新たに生まれるビジネス機会の具体例などが示されています。

特に日本市場で有望なネイチャーポジティブビジネス領域としては以下が挙げられます:

1. 環境DNA技術の社会実装による新市場創出 生物多様性モニタリングの効率化と高度化により、環境アセスメント市場の革新が期待されます。従来の生物調査に比べて低コストかつ高精度な評価が可能になることで、市場規模の拡大が見込まれます。

2. 里山・森林の経済的価値評価による新たな収益モデル 適切な管理による生態系サービスの向上と新たな収益源の創出が期待されます。特に、炭素クレジットだけでなく、生物多様性クレジットなどの新たな環境価値の創出により、森林所有者の収益機会が拡大します。

3. 再生可能エネルギーと生物多様性の共存ビジネス 太陽光発電などの再エネ開発と生態系保全の両立が新たなビジネスチャンスを生み出しています。エネがえるのような経済効果シミュレーターを活用することで、太陽光発電や蓄電池の導入が経済面と環境面の両方でもたらす効果を定量的に示すことができます。

たとえば、ある産業用施設への太陽光発電導入を検討する際に、エネがえるBizでは自家消費型太陽光発電による経済効果だけでなく、CO2削減量も定量化します。これにより、企業はネイチャーポジティブへの貢献を具体的な数値で示すことができるのです。

4. 自然を活用した防災・減災(Eco-DRR)市場の拡大 気候変動によるリスク増大への対応として、グリーンインフラへの投資が加速しています。従来のグレーインフラ(コンクリート構造物)に比べて、長期的なコスト効率と環境価値の両立が可能なことから、公共投資の方向性が変化しています。

5. 環境配慮型農業の拡大による新たな食品市場 化学農薬・肥料の低減と生産性向上の両立により、プレミアム農産物市場が拡大しています。消費者の環境意識の高まりと相まって、環境配慮型農産物への需要が急増しています。

ネイチャーポジティブスタートアップの成功要因と課題:実践的な分析

成功するネイチャーポジティブスタートアップの5つの条件

ネイチャーポジティブ領域でスタートアップが成功するためには、以下のような条件が重要です:

1. 強固な科学的基盤による信頼性の確保 生態学や環境科学に基づく技術・サービスの開発が不可欠です。科学的根拠のない「グリーンウォッシング」は、かえって企業の信頼を損なうことになります。成功するスタートアップは、大学や研究機関との連携により、確かな科学的基盤を構築しています。

2. 測定可能なインパクトの実現による価値の可視化 生物多様性への寄与を定量的に示せるメトリクスの確立が重要です。投資家や顧客は、具体的な成果を求めています。成功企業は、独自の評価指標を開発し、その効果を数値で示すことができます。

3. 複数の収益源の構築による事業の安定化 政策依存だけでなく、多様な顧客価値提供による安定した収益モデルが必要です。成功するスタートアップは、B2B、B2C、B2Gなど複数の顧客セグメントに価値を提供し、リスクを分散しています。

4. 既存産業との協業による市場浸透の加速 既存の価値チェーンへの統合による市場浸透の加速が重要です。革新的な技術も、既存のビジネスプロセスに組み込まれなければ普及しません。成功企業は、大手企業との戦略的パートナーシップを構築しています。

5. グローバルとローカルの両立による適応性の確保 国際的な枠組みへの適合と地域特性への対応の両立が必要です。生態系は地域ごとに異なるため、グローバルな標準化と地域適応のバランスが重要です。

一般的な課題と対応策:5つの主要な障壁とその克服方法

ネイチャーポジティブスタートアップは以下のような課題に直面しています:

1. 定義の曖昧さと評価基準の未整備への対応 課題: 「ネイチャーポジティブ」の明確な定義や普遍的な評価基準がまだ確立されていない

対応策: 透明性の高い独自評価手法の開発と、国際的な標準化への積極的な参画。業界団体や研究機関との連携により、デファクトスタンダードの確立を目指す。

2. 政策環境の不確実性への適応 課題: ネイチャーポジティブに関する政策・規制は発展途上であり、変化が予測困難

対応策: 政策依存だけでなく多様なユースケースを想定した商品開発。規制がなくても価値を提供できるビジネスモデルの構築。

3. 計測・検証技術の限界の克服 課題: 生物多様性の計測・評価技術はまだ発展途上であり、精度や信頼性に課題がある

対応策: 科学コミュニティとの協働による技術の継続的改善。複数の評価手法の組み合わせによる信頼性向上。

4. 資金調達の困難さへの対処 課題: カーボンニュートラル関連と比較して、資金調達のエコシステムが未成熟

対応策: インパクト投資家とのネットワーク構築、公的支援制度の活用。炭素クレジットなど既存の環境価値との統合による収益化。

5. スケーリングの課題への戦略的アプローチ 課題: 生態系は地域特性が強く、単一ソリューションのグローバル展開が困難

対応策: 基盤技術の標準化と地域適応のバランスのとれたビジネスモデル構築。フランチャイズやライセンスモデルの活用。

日本企業がネイチャーポジティブスタートアップとの協業を進めるための実践的5ステップ

1. 自社の自然資本依存・影響の把握:現状認識から始める戦略立案

まずは自社のビジネスがどのように自然資本に依存し、影響を与えているかを把握することが出発点となります。これには以下のような手法が有効です:

自然資本会計の導入 自然資源のストックとフローを計算する方法で、企業活動が自然資本に与える影響を定量化します。これにより、リスクと機会を財務的な観点から評価できます。

No Net Loss (NNL)評価 生物多様性への影響と相殺のバランスを評価する手法で、企業活動による生物多様性の純損失をゼロにすることを目指します。

ネイチャーポジティブ経済移行戦略のフレームワーク活用 環境省等が提供するガイドラインの活用により、体系的な評価が可能になります。日本企業に適した評価手法が示されています。

2. 物理的リスクと移行リスクの評価:リスクマネジメントの高度化

次に、自然資本に関連する2種類のリスクを評価します:

物理的リスクの特定と評価 自然環境の劣化による事業への直接的影響(例:干ばつや洪水による生産低下、原材料供給の不安定化、水資源の枯渇など)を特定し、その影響度を評価します。

移行リスクの分析と対策 自然損失に対する社会的対応から生じるリスク(例:規制要件への非対応、消費者需要の変化、レピュテーションリスクなど)を分析し、対応策を検討します。

これらのリスク評価に基づき、優先的に対応すべき領域を特定します。

3. 適切なパートナーの選定と協業戦略の立案:戦略的アライアンスの構築

リスクと機会の分析に基づき、自社に最適なネイチャーポジティブスタートアップパートナーを選定します。協業形態としては以下が考えられます:

技術・ソリューションの導入 自社のサプライチェーンや事業プロセスへの統合により、即効性のある改善を実現します。

共同研究開発 業界特有の課題解決のための技術開発により、競争優位性を構築します。

コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)投資 有望スタートアップへの戦略的投資により、将来的な技術獲得オプションを確保します。

買収・M&A 重要技術の内製化により、差別化された競争力を獲得します。

4. パイロットプロジェクトの実施と効果検証:段階的な展開戦略

選定したパートナーとのパイロットプロジェクトを実施し、効果を検証します:

明確なKPIの設定 生物多様性への影響、事業効率、コスト削減などの指標設定により、成果を定量的に評価します。

段階的な展開 限定的な範囲での実証から始め、効果確認後に拡大することでリスクを管理します。

継続的な改善 結果に基づいた技術・プロセスの改善により、効果を最大化します。

5. 社内体制の整備とケイパビリティ構築:持続的な取り組みのための基盤整備

ネイチャーポジティブへの取り組みを持続的なものとするために、社内体制を整備します:

担当部署の設置 ネイチャーポジティブ戦略を推進する専門チームの編成により、組織的な推進力を確保します。

人材育成 自然資本・生物多様性に関する専門知識を持つ人材の育成により、内部能力を向上させます。

評価指標の組み込み 事業評価やKPIにネイチャーポジティブ指標を統合することで、日常業務への定着を図ります。

トップコミットメント 経営層による明確なコミットメントと長期ビジョンの提示により、全社的な取り組みを推進します。

未来展望:日本発ネイチャーポジティブイノベーションの可能性

日本の強みを活かした独自のアプローチ:5つの競争優位性

日本には以下のような強みがあり、これらを活かしたネイチャーポジティブイノベーションが期待されます:

1. 里山管理の伝統知:人と自然の共生モデルの世界展開 人と自然の共生モデルとして世界的に注目される日本の里山管理ノウハウを現代技術と融合することで、新たな生態系管理モデルを創出できます。

2. 繊細な工業技術:高精度環境モニタリングデバイスの開発 精密機械製造などの技術を活かした高精度の環境モニタリングデバイス開発により、世界市場での競争優位性を確立できます。

3. 高度な材料科学:革新的バイオマテリアルの創造 バイオマテリアルや生分解性素材の開発での強みを活かし、プラスチック代替材料の世界的リーダーとなることができます。

4. 国民的な自然への親和性:市民参加型プラットフォームの構築 市民参加型の生物多様性モニタリングや保全活動の土壌を活かし、大規模な環境データ収集プラットフォームを構築できます。

5. デジタル技術の普及:スマート環境管理システムの社会実装 IoT、AI、ビッグデータ解析技術を活用した環境管理システムの社会実装により、効率的な自然資本管理を実現できます。

2030年に向けた日本のネイチャーポジティブエコシステム予測

2030年までに、日本のネイチャーポジティブエコシステムは以下のように発展すると予測されます:

1. 産官学連携の深化による innovation ecosystem の成熟 大学発スタートアップと大企業、政府機関による共同プロジェクトの増加により、革新的なソリューションが次々と生まれる環境が整備されます。

2. 地域循環型のネイチャーテックハブ形成 各地域の特性に合わせたネイチャーテックイノベーション拠点の形成により、地域経済の活性化と環境保全の両立が実現します。

3. 国際標準への影響力拡大 日本発の測定・評価手法が国際標準に採用される事例の増加により、グローバルな環境政策への影響力が強化されます。

4. インパクト投資の主流化 ネイチャーポジティブをテーマとする専門ファンドの設立と資金流入により、スタートアップの成長が加速します。

5. 越境型ソリューションの展開 日本発の技術・サービスがアジア太平洋地域全体に展開され、地域全体の生物多様性保全に貢献します。

結論:ネイチャーポジティブ革命が切り拓く持続可能な未来への道筋

ネイチャーポジティブスタートアップは、単なる環境保護の取り組みを超えて、経済的な価値を生み出しながら自然資本の回復に貢献する革新的なビジネスモデルを実現しています。これら30のスタートアップ事例が示すように、テクノロジーとイノベーションを活用することで、これまで対立的に捉えられがちだった「経済成長」と「自然保護」を同時に実現できる可能性が広がっています。

日本には、生物多様性国家戦略ネイチャーポジティブ経済移行戦略などの政策フレームワークが整備され、ネイチャーポジティブビジネスが成長する土壌が形成されつつあります。しかし、その実現には政府だけでなく、企業、起業家、研究機関、市民社会など、様々なステークホルダーの協力が不可欠です。

ネイチャーポジティブは、単に自然を損なわないという消極的な目標ではなく、積極的に自然の質と量を向上させる未来志向の概念です。私たちの社会や経済システムを再設計する大きな契機となり、持続可能で豊かな未来への道筋を示すものとなるでしょう。

特に日本においては、再生可能エネルギーの普及自然資本の保全・再生を両立させるアプローチが重要であり、エネがえるのようなシミュレーションツールを活用した科学的な意思決定が、エネルギー転換と自然再興の同時達成に貢献していくと考えられます。

生物多様性の回復と経済的繁栄の両立は決して夢物語ではありません。今回紹介したようなイノベーティブなスタートアップの事例を参考に、日本企業が自然資本を基盤とした新たな価値創造にチャレンジしていくことで、持続可能な成長を実現していくことが期待されます。

2030年のネイチャーポジティブ目標達成に向けて、今こそ行動を加速するときです。私たち一人一人が、企業が、そして社会全体が、自然と調和した新たな経済システムの構築に向けて歩みを進めることで、次世代により豊かな地球を引き継ぐことができるのです。

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著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。お仕事・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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