目次
- 1 BCPの総経済価値(Total Economic Value of BCP: TEV-BCP)は?事業継続計画をコストからプロフィットへ変革する決定版ガイド(2025年版)
- 2 はじめに:レジリエンスにおけるパラダイムシフト—義務的コストから戦略的投資へ
- 3 第1章 防御価値の定量化—損失回避価値(LAV)モデル
- 4 第2章 攻撃価値の発見—付加価値創造(VAV)モデル
- 5 第3章 統合フレームワーク—TEV-BCPモデルと高度なROI
- 6 第4章 カスタマイズモデリング—TEV-BCPフレームワークの応用
- 7 第5章 家庭向けレジリエンスモデル(H-BCP価値)
- 8 第6章 理論から実践へ—BCP投資意思決定シミュレーター
- 9 結論:確実性への投資—企業と社会のレジリエンスの未来
- 10 付録
BCPの総経済価値(Total Economic Value of BCP: TEV-BCP)は?事業継続計画をコストからプロフィットへ変革する決定版ガイド(2025年版)
はじめに:レジリエンスにおけるパラダイムシフト—義務的コストから戦略的投資へ
中核となる問題
事業継続計画(BCP)は、収益を生まない保険、すなわち純粋なコストセンターとして広く認識されている。
この認識が、特に中小企業における慢性的な投資不足と低い策定率の根本原因となっている。
事実、中小企業のBCP策定率は依然として低迷しており
本レポートの主題
本レポートは、この課題に対する独創的な解決策としてBCPの総経済価値(Total Economic Value of BCP: TEV-BCP)モデルを提示する。これは、BCPの持つ「防御的価値(コスト回避)」と「攻撃的価値(価値創造)」の両側面を科学的に定量化するために設計された包括的なフレームワークである。
その目的は、BCPを単なるコストではなく、高いリターンをもたらす戦略的投資であり、競争優位性の源泉として再定義するための、厳密かつエビデンスに基づいた方法論を提供することにある。
本レポートの構成
本レポートは、BCPの価値を分析し、それを統一モデルへと統合、様々な状況における実践的応用、そして最終的には意思決定支援ツールとしての運用構想へと読者を導く。
まず、BCPの伝統的な防御的価値を定量化し、次に、これまで見過ごされてきた攻撃的な価値創造の側面を明らかにする。そして、これらを統合したマスター方程式を提示し、企業規模別・業種別のカスタマイズモデル、さらには一般家庭向けのモデルへと展開する。
最終的に、この理論を実践に移すためのシミュレーター構想を提示し、BCP投資の意思決定を加速させるための具体的な道筋を示す。
第1章 防御価値の定量化—損失回避価値(LAV)モデル
本章では、BCPの伝統的かつ防御的な価値を体系的に分析し、抽象的なリスクを、効果的な計画によって回避される定量化可能な財務的損失へと変換する。
1.1 損失回避価値(LAV)の概念
損失回避価値(Loss Aversion Value: LAV)とは、企業がBCPを導入することによって回避できる、あらゆる潜在的な財務的損失の総和と定義する。
これはBCPの「保険」としての側面であるが、本モデルでは単純な保険料と支払金の関係を超え、動的かつ多変数的な計算を行う。
1.2 事業停止・中断による損失回避()の算定式
LAVの中で最も直接的かつ計算可能な要素が、事業停止に伴う損失である。ここでは時間単位(1時間/1日)のダウンタイムコストに基づいた、詳細な複合算定式を提示する。
1.2.1 逸失収益()
事業停止による売上機会の損失を計算する。
この式は、事業停止がトップラインに与える直接的な影響を示す。例えば、Apple社が1分あたりに生み出す収益などを例に挙げることで、その規模の大きさを具体的に理解できる 3。
1.2.2 総人件費コスト()
従業員が稼働できないことによるコストを、詳細な内訳に基づいてモデル化する
-
直接コスト: 平均時間あたり人件費 × 影響を受ける従業員数 × 事業停止時間
-
付随コスト: 直接コスト × 非効率係数(例:50%) (従業員の待機時間などアイドルタイムを表す)
-
復旧コスト: 直接コスト × キャッチアップ係数(例:75%) (インシデント後の残業や業務の遅れを取り戻すためのコスト)
1.2.3 最終算定式
これらの要素を統合し、事業停止・中断による総損失回避額を算出する。ここで、は当該事業中断イベントの発生確率を示す。
1.3 サプライチェーン寸断による損失回避()モデル
このモデルは、しばしば直接的な損害額を上回る、連鎖的かつ間接的なコストに対処する
直接的な被害がなくとも、サプライヤーの被災によって生産停止に追い込まれるケースは少なくない
現代のサプライチェーンは、特定の中小企業が停止すると業界全体が麻痺する「ダイヤモンド構造」を持つことが露呈しており、このリスクの可視化は困難である
この課題に対し、本モデルではサプライチェーン依存度乗数(Supply Chain Dependency Multiplier: SCDM)という概念を導入する。
SCDMは、産業連関表、業界データ、そして過去の事例(例:ある災害による自動車業界の約17,000台の減産 5)から導出される。このモデルは、特定サプライヤーへの依存度(集中リスク)を重要な変数として組み込む。
このアプローチは、BCP投資の優先順位が自社の拠点強化だけでなく、サプライチェーン全体の脆弱性評価と緩和策(取引先の多様化、連携BCPなど)にあるべきことを明確に示す。
1.4 評判・顧客離反による損失回避()フレームワーク
このフレームワークは、無形でありながら事業の存続を左右するコストを扱う。サービスの停止は顧客の信頼を著しく損ない、顧客離反(チャーン)を引き起こす。競争の激しい市場では、一度失った顧客を取り戻すことは極めて困難である
この損失は、顧客生涯価値(Customer Lifetime Value: CLV)を用いて定量化できる。
「顧客離反率増加係数」は、業界の特性やサービス停止期間の長さに応じて設定される推定変数である。
1.5 損失回避価値(LAV)の総計
これら全ての防御的価値を統合することで、BCPが持つ損失回避価値の全体像が明らかになる。
この統合算定式は、BCPが回避する潜在的損失の総額を包括的に示すものである。
第2章 攻撃価値の発見—付加価値創造(VAV)モデル
本章では、本レポートの中心的な発明である、BCPが災害の発生とは無関係に生み出す、積極的かつ測定可能な便益を定量化するフレームワークを提示する。これにより、BCPを利益創出活動へと転換させる。
2.1 付加価値創造(VAV)の概念
付加価値創造(Value Added Value: VAV)とは、BCPの策定・運用プロセス自体が、災害発生の有無にかかわらず生み出す、測定可能な経済的便益、効率性、および事業機会の総和と定義する。
2.2 業務効率・生産性の向上価値()
BCPは単なる計画書ではなく、日常業務に利益をもたらす詳細な業務プロセス分析の機会である。BCP策定に不可欠な事業影響度分析(BIA)は、企業に重要業務の特定と合理化を促す
この計算には、人的資本ROIなどのフレームワークが参考になる 10。
2.3 信用力向上と財務的価値()
認定されたBCPは、金融機関に対する低リスクのシグナルとなる。銀行や保険会社は、BCP認定企業をより好意的に評価し、融資条件の緩和、保険料の割引、さらには「BCP特別保証制度」のような特別な金融支援へのアクセスを可能にする
2.4 ESG評価と企業価値の向上()
BCPは、ESG(環境・社会・ガバナンス)評価における「ガバナンス」および「社会」の柱の根幹をなす要素である。強固なBCPは、レジリエンスと責任ある経営体制の証明であり、MSCIやFTSEといったESG評価機関によって明確に評価される
ここで$\Delta$(デルタ)は、BCP関連のESGスコア向上に起因すると推定される改善幅を示す。
2.5 政府インセンティブの収益化()
政府は、特に中小企業を対象に、具体的な金銭的インセンティブを通じてBCP策定を積極的に奨励している。「事業継続力強化計画」の認定を受けることで、税制優遇(特別償却)、補助金(例:ものづくり補助金の加点)、その他の支援策を利用できる
例えば、1,000万円の設備投資に対して16%の特別償却が適用されれば、160万円の直接的かつ計算可能なVAVが生まれる 20。
このVAVモデルは、特に中小企業にとって画期的な視点を提供する。多くの場合、BCP策定にかかる初期コストは、V_GIM
やV_FIN
といった即時的かつ具体的な金銭的メリットによって相殺、あるいはそれを上回る可能性がある。つまり、災害発生確率がゼロであっても、BCPは利益を生む投資となり得るのである。
この事実は、BCPソリューションベンダーが「恐怖(LAV)」を売るのではなく、「確実な利益(VAV)」を提案するという、営業戦略の根本的な転換を可能にする。
第3章 統合フレームワーク—TEV-BCPモデルと高度なROI
本章では、前章までで分析した防御的価値と攻撃的価値を、単一の強力なマスター方程式に統合し、さらにBCPの持つ戦略的価値の全体像を捉えるために高度な金融理論を導入する。
3.1 マスター方程式:BCPの総経済価値(TEV-BCP)
本レポートが提示する中核的な発明は、以下のマスター方程式で表される。
ここで、
-
:定量化された全ての損失回避価値の合計(第1章より)
-
:定量化された全ての付加価値創造の合計(第2章より)
-
:BCPプログラムの総所有コスト(初期コンサルティング、ハードウェア・ソフトウェア、訓練、維持管理費用)
この方程式は、BCPプログラムが特定の期間にわたって生み出す包括的な金銭的価値を単一の指標で示す。
3.2 BCP-ROIの算定式
このTEV-BCPを用いて、動的な投資収益率(ROI)を算出する。
この算定式は、単純なROI計算 23 を超え、我々が定量化した無形の便益を含む全てのコストとベネフィットを組み込むことで、投資効果をより正確に可視化する。
3.3 高度な価値評価:リアル・オプション分析(ROA)
伝統的なDCF(割引キャッシュフロー)法やNPV(正味現在価値)法などの評価手法は、未来が静的であるという前提に立つため、BCPがもたらす「不確実性の中での戦略的柔軟性」という価値を捉えることができない。
BCPへの投資は、金融オプションの購入に類似していると捉えることができる
-
プット・オプションとしてのBCP: 災害発生時に、損失を一定額(行使価格)に限定する「権利(ただし義務ではない)」を企業に与える。これはダウンサイドリスクをヘッジする防御的なオプションである。
-
コール・オプションとしてのBCP: これが最も強力な視点である。BCPは、危機的状況から生まれる事業機会を捉えるための「権利(ただし義務ではない)」を企業に与える。例えば、経営難に陥った競合の買収、機能不全に陥ったライバルからの市場シェア奪取
、あるいはCOVID-19の際に見られたような、新たな需要に応えるための生産ラインの転換5 などがこれにあたる。26
この戦略的柔軟性の価値は、ブラック・ショールズ・モデルのような金融工学の手法を応用し、市場のボラティリティ(不確実性の代理変数)や機会の推定価値などを変数として評価することが可能である。
この分析は、BCPに関する議論を、単なるコスト管理からCFOや取締役会レベルの戦略的対話へと昇華させる。BCPが持つ価値は静的なものではなく、不確実性に直面した際の柔軟性の価値そのものである。
リアル・オプション分析は、この動的な価値を評価するための理論的言語と数学的ツールを提供し、BCPを未来の成長機会への戦略的投資として位置づけることを可能にする。
第4章 カスタマイズモデリング—TEV-BCPフレームワークの応用
本章では、TEV-BCPモデルを企業規模や業種ごとに調整し、実践的な応用プレイブックを提供することで、その実用性を示す。
4.1 中小企業向けモデル
-
焦点: シンプルさ、低コスト、そして政府支援の最大活用。
-
重要変数: モデルは
V_GIM
(政府インセンティブ)とV_FIN
(財務的価値)を特に重視する。LAVの計算は、単純な事業停止コストに焦点を当てる。 -
推奨アクション: 「事業継続力強化計画」の認定取得
、クラウドバックアップや安否確認システムのような低コストソリューションの導入18 、そして他のSMEとの水平連携(共同BCP)27 が中心となる。1
4.2 大企業向けモデル
-
焦点: サプライチェーンのレジリエンス、グローバルな事業継続性、ブランド評価、ESG。
-
重要変数: モデルは
L_SC
(サプライチェーン損失)、L_RC
(評判損失)、V_ESG
(ESG価値)を特に重視する。 -
推奨アクション: AIを活用した高度なサプライチェーンリスク監視
、グローバルな危機管理体制の構築、そして投資家向けにBCPの取り組みをサステナビリティ報告書に統合すること28 が重要となる。16
4.3 業種別プレイブックとTEV-BCP重み付けマトリクス
主要なセクターごとに、具体的な事例を参照しながらパラメータを調整したモデルを提示する。
-
製造業:
L_SC
が極めて高い。サプライヤーの多様化、代替生産拠点の確保、生産設備の保護に注力する 。11 -
小売・物流業:
L_DI
とL_SC
が高い。在庫管理、配送ルートの多様化、バックアップとしてのオンライン販売チャネルの強化が鍵となる 。30 -
建設業:
L_DI
(工期の遅延)が高い。現場の安全確保、資材の確保、下請け業者との連携体制の構築が重要である 。30 -
金融・IT業:
L_DI
とL_RC
が極めて高い。データの完全性、システムの稼働率(「ファイブナイン」の可用性 )、サイバーセキュリティ対策、リモートワーク体制の確立が最優先課題となる4 。7
以下の表は、複雑なTEV-BCPモデルを即座に実践的なツールへと変換するためのクイックガイドである。利用者は自社の業種を確認することで、どの価値要素に注力してBCPを構築すべきかを直感的に理解できる。
表1:業種別TEV-BCPモデル重み付けマトリクス
価値要素 | 製造業 | 小売・物流業 | 金融・IT業 | 建設業 | 中小企業(一般) | 大企業(一般) |
LAV(損失回避価値) | ||||||
(事業停止損失) | 4 | 5 | 5 | 4 | 4 | 4 |
(サプライチェーン損失) | 5 | 4 | 2 | 3 | 3 | 5 |
(評判・顧客離反損失) | 3 | 4 | 5 | 2 | 3 | 5 |
VAV(付加価値創造) | ||||||
(業務効率向上) | 4 | 3 | 4 | 3 | 4 | 4 |
(財務価値向上) | 3 | 2 | 3 | 3 | 5 | 3 |
(ESG評価向上) | 4 | 3 | 4 | 2 | 2 | 5 |
(政府インセンティブ) | 4 | 4 | 3 | 4 | 5 | 1 |
注:重み付けは1(低い)から5(非常に高い)の5段階評価。 |
第5章 家庭向けレジリエンスモデル(H-BCP価値)
本章では、企業向けに開発した中核概念を、社会の基本単位である一般家庭向けに、シンプルで分かりやすいモデルとして応用する。
5.1 モデルの論理的根拠
レジリエンスの概念を企業から社会の礎である家庭へと拡張し、個人の防災意識と行動を経済的合理性の観点から促進する。
5.2 家庭における損失回避価値(H-LAV)
個人の災害時に回避可能なコストを定量化する。
この計算には、政府が公表する避難生活関連の統計データ 31 や、一般的な防災セットの費用などが用いられる。
5.3 家庭における付加価値創造(H-VAV)
積極的な防災対策がもたらす便益を定量化する。
住宅の耐震化(耐震化)に対する補助金制度は、この価値を具体的に示す好例である 33。「安心感」は定性的な価値であるが、意思決定における重要な動機付けとなる。
5.4 シンプルな費用便益分析
家庭が自身のH-BCP価値を簡単に計算できるワークシートを提示することで、「防災準備は単なる負担ではなく、経済的にも賢明な判断である」ことを示す。
第6章 理論から実践へ—BCP投資意思決定シミュレーター
本章では、TEV-BCPモデルを実用化し、BCPベンダー向けの営業支援ツールとして機能するソフトウェアの具体的な構想を提示する。
6.1 ビジョンと目的
複雑なTEV-BCPモデルを、シンプルかつ視覚的で、説得力のあるアウトプットに変換すること。これにより、企業は自社のデータが明確なROI予測に反映されるのを確認でき、BCP導入の意思決定サイクルを劇的に短縮する。
6.2 コンセプトアーキテクチャ
-
モジュール1:入力・ビジネスプロファイル: ユーザーが自社のデータ(業種、規模、売上、従業員数、所在地、主要依存先など)を入力する。
-
モジュール2:シナリオエンジン: ユーザーが関連するリスクシナリオ(例:「72時間の停電」「主要サプライヤーが2週間停止」「地域的な地震」)を選択、または提示される。エンジンは、第4章の業種別重み付けマトリクス(表1)や地理的データを用いて発生確率を自動設定する。AIを活用して、より動的なシナリオを生成することも考えられる
。28 -
モジュール3:ソリューション構成: ベンダー(またはユーザー)が、様々なBCPソリューションパッケージ(例:「基本クラウドバックアップ」「包括的DRaaS」「完全なサプライチェーン・レジリエンス・プログラム」)を選択する。各ソリューションには関連する
TCO_BCP
が設定されている。 -
モジュール4:計算・出力ダッシュボード: シミュレーターが、シナリオとソリューションの組み合わせごとにTEV-BCP計算を実行する。
6.3 ダッシュボード—主要な可視化機能
-
リカバリーカーブ: 災害後の事業稼働レベルの推移を示すグラフ。「BCPなし」の場合の急落と緩慢な回復に対し、「BCPあり」の場合の迅速な回復を対比させることで、効果を視覚的に訴える
。36 -
TEV-BCP内訳:
LAV
とVAV
の構成要素を円グラフや棒グラフで表示し、BCPの価値が防御と攻撃の両面から生まれることを明確に示す。 -
ROIダッシュボード: BCP-ROIのパーセンテージ、投資回収期間、5年間の総創出価値などを分かりやすく表示する。
-
「What-If」スライダー: 「事業停止期間」や「収益への影響」といった主要な変数をユーザーがリアルタイムで動かし、前提条件の感応度分析(ストレスチェック)を行えるインタラクティブな機能。
以下の表は、このシミュレーターを開発チームが構築するための具体的な技術仕様の青写真となる。
表2:BCP投資意思決定シミュレーター—機能要件
モジュール | 機能 | ユーザー・ストーリー | 主要な入出力データ | 技術的注記 |
入力 | 業種選択ドロップダウン | 営業担当者として、顧客の業種を選択し、業界特有のリスクプロファイルを自動で適用したい。 | 入力:業種、出力:リスク重み付け | 業種別重み付けマトリクス(表1)をデータベース化 |
シナリオエンジン | リスクシナリオ・ライブラリ | 経営者として、自社に最も関連性の高い災害シナリオ(地震、水害、パンデミック)を選択し、その影響をシミュレーションしたい。 | 入力:シナリオ選択、出力: | 外部APIと連携し、地理情報に基づくリスクデータを取得 |
ソリューション構成 | BCPソリューション選択 | BCPベンダーとして、複数のサービスプラン(Basic, Pro, Enterprise)を提示し、それぞれの投資対効果を比較したい。 | 入力:ソリューション選択、出力: | 各ソリューションのコストデータをパラメータとして管理 |
出力ダッシュボード | リカバリーカーブ可視化 | 経営者として、BCP投資が事業の復旧速度にどれだけ貢献するかを一目で理解したい。 | 入力:計算結果、出力:時系列グラフ | D3.jsなどのライブラリを活用したインタラクティブな描画 |
出力ダッシュボード | What-Ifスライダー | CFOとして、売上減少率などの変数を動かし、BCPの価値が様々な経済状況下でどう変動するかを分析したい。 | 入力:ユーザー操作、出力:リアルタイム再計算 | フロントエンドで計算ロジックを実装し、高速なフィードバックを実現 |
結論:確実性への投資—企業と社会のレジリエンスの未来
本レポートの総括
本レポートは、BCPがTEV-BCPというレンズを通して見るとき、それは単なる経費ではなく、効率性を高め、財務基盤を強化し、企業価値を向上させ、そして決定的な競争優位性をもたらす、高いリターンを期待できる戦略的投資であることを論証した。BCPの価値を「損失回避」という防御的な側面だけでなく、「付加価値創造」という攻撃的な側面からも定量化することで、その真の経済合理性が明らかになる。
パラダイムシフトの再確認
BCPをコストセンターと見なす旧来の思考から、プロフィットセンターとして積極的に活用する新しい思考への転換は、もはや選択肢ではなく必須である。リアル・オプションとしてのBCPは、不確実な時代を生き抜くだけでなく、危機を好機へと転換するための戦略的な武器となる。
行動喚起
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ビジネスリーダーへ: BCP導入の先延ばしをやめ、本レポートで提示した定量的フレームワークを用いて、情報に基づいた賢明な投資判断を行うべきである。
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BCPソリューションベンダーへ: この価値ベースの販売アプローチを採用し、提案するシミュレーターのようなツールを活用して、自社の価値提案をより明確に、かつ説得力を持って顧客に伝えるべきである。
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政策立案者へ: 特に中小企業におけるBCPの体系的な経済的重要性を認識し、
V_GIM
のようなインセンティブを継続・拡充することで、BCPの普及を促進し、経済エコシステム全体の強靭化を図るべきである。
付録
A. FAQ(よくある質問)
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Q1: BCPとDR(災害復旧)の違いは何ですか?
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A: DRは主にITシステムの復旧に焦点を当てた技術的な計画です。一方、BCPはより広範で、ITだけでなく、人材、拠点、サプライチェーン、顧客とのコミュニケーションなど、事業全体を継続させるための戦略的な計画です。DRはBCPの重要な一部と位置づけられます。
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Q2: 予算のない中小企業は、どこからBCPを始めればよいですか?
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A: まずは経済産業省の「事業継続力強化計画」の認定を目指すことを推奨します
。この計画は比較的簡易に策定でき、認定を受けることで税制優遇や補助金の加点といった金銭的メリット(VAV)が得られるため、初期投資を相殺できる可能性があります。安否確認システムの導入や重要データのクラウド化など、低コストで始められる対策も多数あります18 。27
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Q3: TEV-BCPモデルは、単純なROI計算とどう違うのですか?
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A: 単純なROIは、主に「回避できた損失」と「直接的なコスト」を比較する傾向があります。TEV-BCPモデルは、それに加えて「業務効率化」「信用力向上」「ESG評価」「政府インセンティブ」といった、BCPが平時にもたらす積極的な付加価値(VAV)を定量的に組み込んでいる点が根本的に異なります。これにより、BCPの価値をより包括的かつ正確に評価できます。
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Q4: リアル・オプション分析とは何ですか?なぜBCPにとって重要なのですか?
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A: リアル・オプション分析は、不確実な状況下での「戦略的な柔軟性」の価値を評価する金融工学の手法です
。BCPは、災害時に損失を限定する権利(プット・オプション)と、競合が脱落した市場でシェアを拡大するなどの機会を捉える権利(コール・オプション)を企業に与えます。この「柔軟性の価値」は従来のROI計算では見過ごされており、リアル・オプション分析はBCPの真の戦略的価値を明らかにするために不可欠です。24
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Q5: 「事業継続力強化計画」の認定にはどのくらいの時間がかかりますか?
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A: 計画の内容や申請時期によりますが、一般的には申請から1〜2ヶ月程度で認定されることが多いです。申請は電子申請システムを通じて行われ、中小企業庁のウェブサイトで詳細な手引きが公開されています。
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Q6: BCPは本当に自社の株価に影響しますか?
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A: はい、影響する可能性が高いです。強固なBCPは、企業のレジリエンスを示すものとして、投資家やESG評価機関から高く評価されます
。高いESG評価は企業価値(株価)と正の相関があることが学術研究で示されており12 、災害発生時にはBCPを持つ企業と持たない企業とで株価の回復力に差が出ることが予想されます。15
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B. ファクトチェック・サマリー
本レポートで引用した主要な事実とデータは、公開されている信頼性の高い情報源に基づいています。以下にその要約を記載します。
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BCP策定済みの中小企業は、未策定企業に比べて災害からの事業復旧が著しく速い。策定済み企業の約9割が1週間以内に操業を再開したのに対し、未策定企業ではその割合は約6割にとどまる
。37 -
東日本大震災後の関連倒産のうち、直接的な被害による「直接型」は約1割、サプライチェーンの寸断などを原因とする「間接型」が約9割を占めた
。1 -
「事業継続力強化計画」の認定を受けた中小企業は、設備投資に対する16%〜18%の特別償却、ものづくり補助金などの加点措置、低利融資といった複数の金銭的支援を受けることができる
。20 -
BCP策定は企業の信用力を向上させ、静岡県信用保証協会の「BCP特別保証制度」のような特別な金融支援へのアクセスを可能にする事例が報告されている
。11 -
学術研究によると、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、長期的に企業価値(トービンのqで測定)と統計的に有意な正の相関関係にあることが確認されている
。15 -
ある災害事例では、BCP未策定の部品メーカーの被災により、自動車メーカー12社の生産ラインが停止し、最終的に15億円の特別損失を計上する事態となった
。37 -
ダウンタイムコストの計算において、従業員コストは直接的な給与だけでなく、非効率な待機時間(付随コスト)や事後のキャッチアップ業務(復旧コスト)も考慮に入れる必要がある
。4 -
COVID-19の経験から、危機的状況は新たな価値創造の機会となり得ることが示された。生産ラインを転換して需要の高い製品を製造したり、顧客との新たなデジタル接点を構築したりする企業が見られた
。26
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