太陽光余剰電力活用戦略: 2026-2028年における地域別・用途別アイデア

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。お仕事・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

導入前に知っておきたい「太陽光発電の今後はどうなる?」
導入前に知っておきたい「太陽光発電の今後はどうなる?」

目次

太陽光余剰電力活用戦略: 2026-2028年における地域別・用途別アイデア

10秒で読める要約

2026-2028年を想定し、太陽光発電の余剰電力を地域別・用途別に活用する具体的戦略を紹介。北海道から沖縄まで各地域の特性に応じた活用法と、モビリティ、デジタル、農林水産、産業など分野別のイノベーションを解説。変動需要を巧みに制御し経済性を確保する方策を提案している。

1. 再生可能エネルギー急増時代の課題と機会

1.1 日本の太陽光発電の現状

日本の太陽光発電は急速に拡大しており、2023年度の累積導入容量は約7384万kW(AC)に達しました。2014年から2023年までの10年間で導入容量は3倍以上に拡大し、FIT制度開始(2012年)の効果が大きく貢献しています。2023年度の太陽光発電による発電電力量は約921億kWhに達し、全国発電量の9%を占めるようになりました。

地域別に見ると、東京エリアが全体の29%、中部が17%、九州15%、東北12%を占めており、関東から東海、九州にかけて発電分布が偏っている状況です。このような急速な拡大に伴い、晴天時の日中には発電量が地域需要を上回る「余剰電力」が増加するという新たな課題が生じています。

1.2 電力システムの転換期

従来の電力系統は「需要に合わせて供給する」方式でしたが、太陽光発電などの再生可能エネルギーの増加により、天候に左右される変動性電源が急増しています。このため、需給バランス調整の仕組みを需要側にも組み込む必要が出てきました。

工場や家庭などの蓄電池、EV、デマンドレスポンス(DR)といった分散型エネルギー資源をIoTで束ねて制御する「バーチャル発電所(VPP)」は、負荷平準化や再エネ余剰の吸収など需給調整に活用できると期待されています。

1.3 本記事の目的と構成

本記事では、2026~2028年の近未来を想定し、日射量特性や都市・地方差を踏まえた地域別の分析と、モビリティ・デジタル・農林水産など用途別のアイデアを整理します。余剰電力を活用しやすい「変動需要」に着目し、既存需給とは異なる新規需要創出も含めた多様なソリューション例を提示します。

2. 地域別展望:特性を活かした太陽光余剰電力活用

2.1 北海道・東北地方の戦略

北海道・東北地方は冬期の冷涼・寒冷地帯で暖房需要が高い一方、夏は日射量が比較的長くPVの発電量も増えます。この地域での余剰電力活用の主なポイントは以下の通りです:

2.1.1 陸上養殖施設への電力供給

東北の宮城県石巻などでは、陸上養殖施設への再エネ活用が研究されています。12%効率の太陽電池で1m²当たり1日約0.45kWh発電する試算があり、例えば養殖施設の稼働に必要な電力をPVで賄うには約27~28m²のパネルが必要と見積もられています。施設用小規模太陽光発電による自家消費が可能なレベルであることが示唆されています。

2.1.2 データセンター・AIサーバーの設置

北東北・北海道では冷涼な気候を利用して大規模データセンターやAIサーバーを設置し、昼間PV発電時に計算負荷を処理するアイデアがあります。冷房コストが低減できる気候を活かしながら、余剰電力を効率的に活用する方策として注目されています。

2.1.3 農業分野での電動化・自動化

ロボットトラクターや灌漑ポンプの電動化・自動化で昼間シフト型の運用を図ることが考えられます。農業機械のバッテリー充電や自動灌漑システムを太陽光発電ピーク時に合わせて運用することで、効率的な余剰電力活用が可能になります。

2.1.4 家庭用ヒートポンプ給湯器の昼間シフト

実証例としては、東北電力管内で家庭用ヒートポンプ給湯器(エコキュート)の沸き上げタイミングを昼間にシフトし、再エネ余剰を吸収する取り組みが始まっています。寒冷地の暖房・給湯需要を活用し、地元PVの余剰吸収に結びつける施策が期待されます。

2.2 関東地方(首都圏)の戦略

関東圏は人口・産業集積が最も高く電力需要も大きい一方、各地の屋根やメガソーラーでPV導入も進んでいます。東京エリアは既にPV発電量の約30%を占めるほどで、昼間余剰の発生も無視できません。この地域での主な活用戦略は:

2.2.1 情報通信・デジタルインフラの需要創出

AI研究・データセンターでは、大規模演算処理(ディープラーニング、シミュレーション)をPVピーク時に集中的に実行することで、昼間余剰を活用できます。IEA報告によれば、データセンター需要は2030年までに約9450億kWh(現行の国内需要に匹敵)まで増大すると予測されており、この大部分を再エネで賄う取り組みが求められます。

2.2.2 EVカーシェアリングと自動運転タクシー

輸送分野ではEVカーシェアリングや自動運転タクシーが普及すると想定され、これらの車両充電を昼間のPVピークに合わせる運用や、V2G/V2B技術で余剰電力をEVバッテリーに蓄える仕組み(需要ピークカット)も有効です。

2.2.3 都市型農業・養殖の展開

都市農業として屋上・地下の植物工場や都市型養殖(小型水産養殖)はエネルギー集約型ですが、LED照明や温熱制御を太陽光発電と組み合わせてコスト低減を図れます。都市の限られたスペースを有効活用しながら、食料生産と再エネ活用を両立させる新たな産業モデルとして期待されています。

2.2.4 スマートホーム・ビルの普及

多数の家庭・ビルがある関東では、スマートホーム・ビル向けにIoT家電制御や蓄電池の時間シフト運用を普及させ、エコキュートの昼間沸き上げや洗濯機稼働、空調プレクーリングなどで余剰吸収を促します。

2.3 中部・北陸地方の戦略

中部圏(愛知・静岡など)は製造業・自動車産業が集積し、需要の大半は産業用電力に支えられています。同時に、地域によっては日照条件も良好です。

2.3.1 製造業のスケジュール制御

トヨタ自動車をはじめとする自動車工場群は、ロボット・AIによる自動化が進行中であり、製造プロセスの稼働シフトやピークシフトで太陽光余剰を吸収できます。電気炉や大型モーター駆動の重機稼働を昼間に集中させるほか、産業用蓄電池と連携して需要を平準化します。

2.3.2 農業分野での自動化

農業分野では、果樹・野菜の温室園芸や自動灌漑システムにより、日射時の給水・空調を活用します。自動化されたハウス栽培システムと太陽光発電を連携させることで、効率的な農業生産と余剰電力活用を両立させます。

2.3.3 スマートコミュニティの構築

中部はスマートコミュニティの先駆け地域でもあり、地域新電力事業者が地元PVを束ねて供給したり、企業誘致で計画的に分散型発電(地元PV+VPP)を構築したりするモデルが考えられます。地域内でのエネルギー自給率を高めながら、効率的な余剰電力活用を実現します。

2.3.4 水素・次世代電池産業への展開

名古屋近郊などでは水素ステーションや次世代電池(電気自動車向け)工場の集積地が期待され、再エネ余剰を利用した水電解水素製造や製造プロセスへの直接利用が想定されます。

2.4 近畿地方(大阪・京都・兵庫)の戦略

近畿圏は商業・サービス業および製造業が共存する地域です。大阪・神戸には大規模データセンターや工場があり、昼間のPV余剰を活かせます。

2.4.1 産業プロセスの時間調整

家電・半導体・化学工場はスケジュール制御で生産時間を調整し、エネルギー集約工程(例えば化学合成の加熱・攪拌や、半導体エッチングのプラズマ駆動)を日中に行うことで余剰を吸収します。エネルギー消費が大きいプロセスを太陽光発電ピーク時に集中させる運用が効果的です。

2.4.2 都市型電動輸送の発展

都市部では電動輸送(EVバスや電動フォークリフト)の導入拡大が進むので、日中ピークシフト充電が可能です。公共交通機関の電動化と合わせて、充電インフラの整備と太陽光発電との連携を強化します。

2.4.3 都市型植物工場の展開

京都・神戸の一部では都市型植物工場が実例として稼働しており、LED照明負荷をPV発電と連動させる取り組みが研究されています。都市の限られたスペースを有効活用しながら、食料生産と再エネ活用を両立させる新たな産業モデルとして注目されています。

2.4.4 エネルギーパーク構想の推進

公共インフラでは、大阪湾岸の工場立地と連携したエネルギーパーク構想(工場廃熱+再エネ複合利用)など、企業間のエネルギー連携による需給バランス制御が期待されます。異業種間でのエネルギー融通を促進し、地域全体でのエネルギー効率化を図ります。

2.5 中国・四国地方の戦略

中国・四国地方では四国山地を中心に日射量が長い地域があり、発電ポテンシャルが高い一方、人口・産業集積は比較的小規模です。四国(特に高知・愛媛)や中国山地山裾では太陽光が豊富で、メガソーラーも点在します。

2.5.1 農山村での利用創出

柑橘類・野菜の施設園芸を制御電力でまかなうほか、漁村では陸上養殖(マグロ・ハマチなど)で水槽温度・水質管理用ポンプの電力をPV運転に合わせます。四国には古い水田を利用した養殖・水耕農業のプロジェクトもあり、昼間にろ過・曝気設備を稼働させることで余剰を吸収できます。

2.5.2 風力発電との連携

瀬戸内海沿岸では風力発電も多く、これらと連携したハイブリッド型需要(例えば風時は生産、風無し日は蓄電放出)により変動を平準化します。異なる再生可能エネルギー間の相互補完を促進し、安定的なエネルギー供給を実現します。

2.5.3 観光・サービス業での活用

地域経済的には観光・サービス業(温泉施設、ホテルなど)が多いので、夜間中心の稼働を昼間にシフトする省エネ技術導入や、観光客向け自動運転モビリティ(ドローン遊覧、E-バスツアー)の電力需要を太陽光ピークに合わせるサービス展開も考えられます。

2.6 九州・沖縄地方の戦略

九州・沖縄地方は全国有数の日射量を誇り、PV導入ポテンシャルが極めて高い地域です。既に九州地方の一部(宮崎・鹿児島など)はメガソーラーが多数設置され、実際に日中過剰になった場合の出力制御も経験しています。

2.6.1 離島・観光需要への活用

南九州や沖縄では観光業が盛んであり、ホテルやテーマパークの空調・照明を昼間のPV発電に連動させる省エネシステム導入が有効です。例えば、客室のエアコンやプール加温を昼間に事前稼働させ、夜間負荷を軽減する需要創出が可能です。

2.6.2 農業の電動化・自動化

農業では甘藷(サツマイモ)や茶畑の自動化(ロボット収穫・灌漑)に太陽光電力を充当します。農業機械のバッテリー充電や自動灌漑システムを太陽光発電ピーク時に合わせて運用することで、効率的な余剰電力活用が可能になります。

2.6.3 島内完結型エネルギーシステム

マイクログリッドによる島内完結型エネルギーシステムが検討されており、余剰PVを利用した水素製造・貯蔵や電力貯蔵による系統連系の補完、VPP連携による本土との需給融通も視野に入ります。離島の特性を活かした自立型エネルギーシステムの構築を目指します。

2.6.4 水素インフラの構築

実証例として、九州では再エネ余剰を直接活用する水素インフラ構築の検討が進められています。太陽光発電の余剰電力を水素製造に活用し、長期的なエネルギー貯蔵と活用の仕組みを構築します。

3. 用途・ユースケース別イノベーション

3.1 モビリティ・輸送分野での活用

自動運転車やドローン社会の進展に伴い、移動分野は有力な電力需要候補です。

3.1.1 EV/PHEVの充放電最適化

EV/PHEVは充電時期を自由に選べるため、昼間のPVピークに合わせて自動充電・放電(V2G/V2B)することで系統安定化に寄与できます。たとえば、ニチコンのV2Hシステムでは「PV余剰充電設定」により太陽光余剰をEVに自動切り替えできます。

3.1.2 企業の社用車EVを活用した需要平準化

企業の社用車EVを活用し、昼間に余った再エネを車に蓄え、夕刻や需要ピーク時に建物へ放電する需要平準化(ピークカット)も注目されています。オフィスビルの電力需要ピークを抑制しながら、再生可能エネルギーの有効活用を促進します。

3.1.3 自動運転タクシー・バスの運行最適化

自動運転タクシー・バスは運行スケジュールの自由度が高く、需要に応じて昼間の便を増便して充電タイミングを最適化できます。人の移動需要に合わせながらも、充電タイミングを太陽光発電ピーク時に調整することで、効率的なエネルギー利用を実現します。

3.1.4 ドローン物流の充電スケジュール最適化

ドローン物流でも、郊外基地局でソーラー充電ステーションを構築し、配送スケジュールを余剰時間帯に集中させる案が考えられます。これらはいずれも需要量そのものを増やすというより、「いつ需要を生むか」を変えることで余剰を吸収する需要シフト型の活用です。

3.2 デジタル・ICT分野での活用

デジタル技術の進化により、柔軟な電力需要制御が可能になっています。

3.2.1 データセンター・スーパーコンピュータの演算スケジュール調整

データセンター・スーパーコンピュータは計算タスクの実行時期を柔軟に制御できるため、太陽光ピーク時に重い演算処理(学術研究のシミュレーション、企業のAI学習など)を集中させることで余剰を利用できます。IEA予測ではデータセンター電力需要は2030年までに倍増し、国内需要超のレベルになるため、この新規負荷の再エネ化は重要です。

3.2.2 AIエージェント・デジタルツインの学習時間最適化

AIエージェントやデジタルツインの普及により、常時稼働するサーバー負荷が増えますが、これらもアイドル時(深夜など)ではなく日中に学習・訓練処理を移すことでPV余剰吸収につなげられます。AIの学習プロセスは大量の電力を消費するため、再生可能エネルギーが豊富な時間帯に合わせて実行することが効果的です。

3.2.3 IoTエージェントによる家電制御

家庭・ビル向けにはIoTエージェントによる電力制御サービスが発展し、太陽光予測に応じて家電の動作タイミングを最適化するエネルギーマネジメントが広がるでしょう。例えば市場連動型の電気料金プランで蓄電池や家電を制御し、73%以上の家庭で余剰電力を活用する意識変化が報告されています。このようなICT技術による需要制御は、情報通信と電力需給の融合を促進します。

3.3 農林水産・食料生産分野での活用

食料生産は電力需要と供給の両面で重要な役割を果たします。

3.3.1 都市農業・植物工場のエネルギー最適化

都市農業・植物工場(垂直農法)は、人工照明と温度制御に大量の電力を必要とします。例えば、東京都心の銀座では商業施設屋上に垂直農場を設置する企業が現れていますが、エネルギー消費が高く課題となっています。そこで、都市農場では屋上にPVパネルを配置し、昼間余剰でLED照明や空調を稼働させる設計が有効です。

3.3.2 陸上養殖施設の電力効率化

陸上養殖では、水槽の撹拌や曝気、水温制御などに連続的な電力が必要です。宮城県石巻の検討では、日射量の長い地域では陸上養殖施設の消費電力の一部をPVで賄う自家消費型が想定されており、実際に1m²当たり約0.45kWh/日を発電できることが示唆されています。

3.3.3 農業ロボット・スマート温室の自動化

農業ロボット・スマート温室では、EV型農機具やセンサーネットワークを昼間充電することで余剰電力を活用できます。これら農林水産分野は増大する人口高齢化・労働力不足への対応としても注目されており、ロボット化と合わせて変動需要を引き出せます。

3.4 産業・製造分野での活用

工場や製造業での電力需要は大きく、効率化の余地も大きいです。

3.4.1 工場自動化による需要調整

工場・製造業では自動化・電化・高度情報化が進む中で、従来は難しかった時間帯の需要調整が可能になります。ロボット・AI活用による工場自動化ではエネルギー効率が飛躍的に向上するとともに、ピーク時以外のシフト運転が容易になります。例えば、金属鋳造やセメント製造といったエネルギー集約型工程を昼間に集約し、夜間は省力化・待機とすることでPV発電を直接活用できます。

3.4.2 水素製造・アンモニア合成プラントの運用

水素製造・アンモニア合成といった電力大量消費プラントは、本来ピークシフト可能な余剰吸収需要です。実際、広域系統のマスタープラン検討では、再エネ余剰を平準化する需要として水素製造・DACを再エネ発電所近傍に配置する案が議論されています。一方で、現行の出力制御が必要な再エネ領域では、これら化学プラントを可制御負荷(ピークカット可能な荷重)として設計する想定も示されています。

3.4.3 製造現場の間接電力需要の最適化

製造現場の照明や空調など間接的な電力需要においても、電動フォークリフト・AGV(自動搬送車)の充電を昼間に集中させるなど、産業全体で需給調整市場(BDM/DRM)への参画が期待されます。工場内の様々な電力需要を柔軟に制御することで、再生可能エネルギーの効率的な活用を促進します。

3.5 住宅・商業・公共サービス分野での活用

一般消費者の日常生活においても、余剰電力活用の余地は大きいです。

3.5.1 電気給湯器の需要シフト

家庭・ビルや公共施設では、電気給湯器(エコキュート)や蓄電池を活用したDRが進んでいます。実際、全国の大手電力会社が参加する実証では、エコキュートの沸き上げタイミングを翌日の市場価格予測に応じて昼間にシフトし、余剰再エネを消費する需要創出DRが行われます。これにより家庭でのCO₂排出も低減され、経済性も評価されています。

3.5.2 スマート家電・蓄電池の普及

スマート家電・蓄電池の普及も重要で、市場価格連動制御型の家庭用蓄電池は参加者の73%で家電利用パターンの変化(余剰活用志向)を促したと報告されています。例えば、夕食時の炊飯や洗濯・乾燥を日中に前倒しするなど、ライフスタイルの転換による利便性訴求が鍵となります。

3.5.3 公共インフラの電力需要最適化

公共インフラでは、V2G対応EVバスやPVシェア街路灯などの導入で地域全体をVPP化し、時間帯別料金プランを設定することで余剰電力を有効利用します。都市ガス・給湯業者によるヒートポンプ・スマート給湯サービス(例:電力状況に応じて給湯タイミングを最適化)は、そのまま余剰吸収DRとなります。

3.6 その他インフラ・需給調整技術

地域全体でのエネルギーマネジメントも重要な視点です。

3.6.1 バーチャルパワープラント(VPP)の活用

バーチャルパワープラント(VPP)や電力需給調整市場を活用した需要制御は、地域全体での需給バランス巧み化に不可欠です。小規模なPV・蓄電池・EVといった需要側リソースをアグリゲーションして一括制御し、送配電事業者に対して調整力やインバランス解消力を提供します。

3.6.2 地域新電力事業の展開

国内では需給調整市場(長期・日中・即時での容量市場やDR市場)に参入しやすい大口需要の形成が課題ですが、地域新電力事業による地産地消型電力契約や、P2P(個人間融通)取引の実験も進んでいます。地域内でのエネルギー自給率を高めながら、効率的な余剰電力活用を実現します。

3.6.3 蓄電池・蓄熱インフラの整備

蓄電池・蓄熱インフラは基本ですが、例えば民間物流拠点での冷凍冷蔵設備をVPPで制御して日中に冷却氷蓄熱し、夜間負荷を平準化するなど、工夫した運用が可能です。電力を直接貯蔵するだけでなく、熱エネルギーとして貯蔵することで、効率的なエネルギー利用を促進します。

3.6.4 エネルギーDAOとESCO事業の推進

地方自治体主導のエネルギーDAOやESCO事業として、余剰PV電力を使うサービスモデル(例:データセンター・温室栽培の低廉料金提供)を設計すれば、利用者・提供者双方に経済メリットが生じます。これらすべてを総合制御するエネルギーIoTプラットフォームは、高度な情報通信技術(AI需要予測、デジタルツインなど)を活用し、経済性とバランス調整を同時に最適化します。

4. 経済性と需給バランスの確保

4.1 経済的インセンティブの設計

各地域・用途で新需要を創出する際には、経済的持続可能性と需給バランス制御を考慮する必要があります。例えば家庭用蓄電池やEVを使ったピークシフトは電気代抑制につながり、長期的には機器投資回収に寄与します。また地域新電力やPPAでは、地域内完結型需給を強化して送電損失・卸電力コストを低減できます。

自治体や電力会社による需給シミュレーションを通じ、PV導入量に応じた最適な料金プランやDR報酬を設計することも重要です。これらにより、余剰電力吸収が事業者や住民にとって「得(お得)」であることを示し、行動変容を促します。将来の規制面では、エリア間連系線強化や系統運用ルール(再エネ全量受入)も進むため、柔軟な地域間融通と合わせて需給バランスの高度化が図られます。

4.2 需給バランス技術の高度化

総じて、再エネ余剰をいかに地域内で価値化するかがポイントとなり、事業モデル・サービスモデル(EV充放電のサブスク、農業アグリゲーター、データセンターとの定額契約など)を通じた投資回収の仕組みづくりが肝要です。

IoTやAIを活用した予測技術の精度向上により、太陽光発電の出力予測と需要予測を組み合わせた高度な需給バランス制御が可能になります。これにより、余剰電力の発生をより正確に予測し、需要側のリソースを最適に制御することができます。

4.3 地域間連携と広域運用

地域ごとの特性を活かしながらも、広域的な電力融通を促進することで、全体としての需給バランスを最適化することが重要です。例えば、九州の余剰電力を関東の需要ピーク時に送るなど、地域間連携による効率的な電力利用を促進します。

また、異なる再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力など)の特性を組み合わせることで、より安定した電力供給を実現することができます。例えば、太陽光が豊富な日中は太陽光発電を最大限活用し、夜間は風力発電や水力発電を活用するなど、時間帯や気象条件に応じた最適な運用を目指します。

5. 地域別・用途別総合戦略:具体的アクションプラン

5.1 北海道・東北モデル

寒冷地特性と広大な土地を活かした総合戦略として、以下のアクションプランが考えられます:

  1. データセンター集積地域の形成:冷涼な気候を活かした低冷却コストのデータセンター誘致と、太陽光余剰時間帯に計算負荷を集中させる運用体制構築
  2. 農業スマート化の推進:電動農機具のバッテリー充電や自動灌漑システムの稼働を太陽光発電ピーク時に合わせた運用システムの導入
  3. 陸上養殖クラスターの形成:自家消費型太陽光発電を活用した持続可能な陸上養殖産業の育成と、電力需給連動型の水質管理システムの導入
  4. 冬季暖房・給湯の需要シフト化:エコキュートなど電気給湯器の普及と、日中沸き上げを自動化するスマートコントロールシステムの導入

5.2 首都圏モデル

人口・産業集積を活かした高効率エネルギー利用モデルとして、以下のアクションプランが有効です:

  1. 商業施設・オフィスビルのエネルギーマネジメント高度化:ビル管理システムと連携したデマンドレスポンス導入と、太陽光余剰時間帯の空調プレクーリング運用の標準化
  2. EVカーシェアリングの充放電最適化:カーシェア・配車サービスとV2G/V2B技術の連携により、太陽光発電ピーク時の充電と需要ピーク時の放電を自動制御するシステムの構築
  3. 都市型スマート農業の推進:屋上・地下空間を活用した植物工場の電力需要を太陽光発電と連動させる制御システムの開発と実装
  4. 家庭向けHEMS普及と行動変容促進:市場価格連動型料金プランの拡大と、太陽光余剰時間帯に家電利用を促すインセンティブシステムの導入

5.3 中部・東海モデル

製造業集積地における産業プロセス最適化モデルとして、以下のアクションが考えられます:

  1. 製造工程のスケジューリング高度化:エネルギー集約型工程の稼働を太陽光発電ピーク時に集中させる生産管理システムの導入と標準化
  2. 産業用蓄電池・蓄熱システムの普及:工場内の熱需要と電力需要を統合管理し、太陽光余剰を効率的に吸収するエネルギーバッファシステムの構築
  3. 次世代モビリティ産業との連携強化:EVや水素自動車の製造工程と充電・水素製造インフラを連携させ、余剰電力を効率的に活用する統合システムの開発
  4. 企業間エネルギー連携の推進:工業団地単位でのエネルギーマネジメントシステム導入と、企業間の余剰電力融通を促進する地域マイクログリッドの構築

5.4 西日本・九州モデル

日射量に恵まれた地域における再エネ最大活用モデルとして、以下のアクションプランが有効です:

  1. 観光施設のエネルギーシフト促進:ホテルやレジャー施設の空調・給湯システムを太陽光発電と連動させる需要シフト技術の普及
  2. 農水産業の電動化・自動化推進:果樹園や茶畑の自動灌漑・防霜システムを太陽光発電ピーク時に稼働させる制御システムの導入
  3. 島嶼部におけるマイクログリッド構築:離島単位でのエネルギー自給システム導入と、余剰電力を水素や蓄電池で貯蔵する技術の実証・普及
  4. 地域VPPプラットフォームの整備:家庭、企業、公共施設の分散型エネルギーリソースを統合制御するVPPプラットフォームの構築と、系統安定化サービスの事業化

6. イノベーション推進に向けた課題と提言

6.1 技術開発・実証の加速

太陽光余剰電力活用のためのイノベーション推進には、以下の技術開発と実証が必要です:

  1. AI予測・制御技術の高度化:発電量予測と需要予測を組み合わせた高精度なエネルギーマネジメントシステムの開発
  2. 需要側機器のスマート化:家電、産業機器、EV充電器などの需要側リソースを柔軟に制御できるIoT対応デバイスの普及
  3. 地域実証プロジェクトの推進:各地域の特性に応じた余剰電力活用モデルの実証と、成功事例の横展開促進
  4. セクターカップリング技術の開発:電力・熱・モビリティなど異なるエネルギーセクターを統合的に管理する技術とシステムの開発

6.2 制度・ルールの整備

技術開発と並行して、以下の制度・ルール整備が必要です:

  1. 電力市場制度の改革:時間帯別・地域別の柔軟な電力料金設定を可能にする市場制度の整備
  2. DRプログラムの標準化:需要創出型DRの評価方法や報酬体系の標準化と、参入障壁の低減
  3. 分散型リソース活用の規制緩和:家庭用蓄電池やEVなど小規模リソースが系統安定化に参画しやすい仕組みの整備
  4. データ連携基盤の構築:エネルギー需給データと気象データ、社会活動データなどを連携させる情報プラットフォームの整備

6.3 社会受容性の向上と行動変容

技術と制度の整備だけでなく、社会全体の意識改革と行動変容も重要です:

  1. わかりやすいメリットの提示:太陽光余剰活用が経済的メリットにつながることを実感できる情報提供と可視化
  2. 教育・啓発活動の推進:学校教育や社会人教育を通じた再生可能エネルギーと需給バランスへの理解促進
  3. コミュニティ参加型プロジェクトの推進:地域住民が主体的に参加できるエネルギーシェアリングやP2P電力取引の普及
  4. ライフスタイル変革の促進:太陽光発電に合わせた生活リズムへの転換を支援するサービスやアプリの開発と普及

7. 2026-2028年に向けたロードマップ

7.1 短期(~2026年前半):基盤整備フェーズ

2026年前半までに取り組むべき基盤整備として、以下のアクションが重要です:

  1. 地域別ポテンシャル評価の実施:地域ごとの太陽光発電余剰電力量の予測と、活用可能性の詳細分析
  2. パイロットプロジェクトの立ち上げ:各地域・用途別の代表的なユースケースにおける実証プロジェクトの開始
  3. 制度設計の見直し:時間帯別料金やDR報酬など、余剰電力活用を促進する制度の設計と試行
  4. 標準化・ガイドライン策定:機器間通信プロトコルやデータ形式の標準化など、相互運用性を確保するための基盤整備

7.2 中期(2026年後半~2027年):普及拡大フェーズ

基盤整備の成果を活かし、以下の普及拡大策を推進します:

  1. 成功モデルの横展開:パイロットプロジェクトの成果を評価し、効果的なモデルを他地域や他用途に展開
  2. インセンティブ制度の本格導入:余剰電力活用に対する経済的インセンティブを本格的に導入し、幅広い参加を促進
  3. デジタルプラットフォームの構築:需給予測、制御、取引を一元管理するデジタルプラットフォームの全国展開
  4. 人材育成・技術移転の推進:余剰電力活用に関する技術やノウハウを普及させるための教育・研修プログラムの実施

7.3 長期(2028年~):社会実装・定着フェーズ

2028年以降は、以下の取り組みにより社会全体への定着を図ります:

  1. 自律分散型エネルギーシステムの確立:地域ごとに最適化された余剰電力活用モデルが自律的に機能する体制の構築
  2. 国際展開・標準化への貢献:日本のベストプラクティスを国際標準化し、アジア諸国など海外への技術輸出を促進
  3. 次世代技術への展開:AI・量子コンピューティングなど次世代技術を活用した更なる高度化と最適化の追求
  4. 社会システム全体の変革:エネルギー需給に合わせた社会活動全体のリデザインと、持続可能な循環型社会への移行

8. まとめ:変動性を許容する新たな社会システムの構築に向けて

2026~2028年に向け、太陽光余剰電力の活用には多様なイノベーションが求められます。地域特性と最先端技術を組み合わせ、ローカルな需給バランスを巧みにとることで、再エネ拡大の障壁を低減できます。

重点施策としては、①需要側機器・システムの時刻制御(需給連動型HEMS/家電、V2X、DR)②地域連携型エネルギーマネジメント(VPP、地域新電力、マイクログリッド)③新規需要の社会実装(データセンター誘致、農業・養殖のスマート化、観光モビリティ)を挙げられます。

これらを組み合わせた実証事業・標準化・補助制度の整備を通じ、国内トップレベルの技術・知見で地域ごとの余剰活用モデルを構築すれば、日本全体の電力システム革新に寄与できるでしょう。

さらに重要なのは、この変革が単なるエネルギーシステムの技術的改良にとどまらず、社会全体の在り方を再考する契機となることです。「変動性を許容できる新たな需要」の創出は、エネルギー供給側に合わせて需要側が柔軟に対応する社会への転換を意味します。

このパラダイムシフトは、持続可能なエネルギーシステムの構築だけでなく、時間や場所に縛られない働き方の促進、地域資源を活かした経済活性化、災害時のレジリエンス向上など、多面的な社会的価値を生み出すでしょう。

太陽光発電の余剰電力活用は、単なる技術的課題ではなく、未来社会をどう設計するかという創造的チャレンジなのです。地域特性を活かしながら変動性と共生する社会システムの構築に向け、産学官民の連携による総合的取り組みが求められています。

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著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。お仕事・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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