目次
蓄電池の総合ガイド:科学的原理から実用的応用まで
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1. はじめに
蓄電池は現代社会のエネルギー基盤を支える重要な技術です。本記事では、蓄電池の科学的原理から実際の応用、さらには未来の展望まで、包括的に解説します。エネルギー貯蔵の重要性が増す中、蓄電池技術の理解は、持続可能な未来を築く上で不可欠です。
本記事の目的は以下の通りです:
- 蓄電池の基本原理と種類を科学的に説明する
- 蓄電池技術の歴史的発展と最新の研究動向を紹介する
- 蓄電池の実用的応用と環境への影響を分析する
- 蓄電池に関する重要な用語と概念を整理する
2. 蓄電池の歴史
蓄電池の歴史は、人類のエネルギー利用の進化と密接に関連しています。以下に、主要な歴史的マイルストーンを時系列で紹介します。
2.1 初期の発見(18世紀末〜19世紀初頭)
- 1780年:イタリアの物理学者ルイージ・ガルヴァーニが「動物電気」を発見
- 1799年:アレッサンドロ・ボルタがボルタ電池(最初の電気化学電池)を発明
- 1836年:ジョン・フレデリック・ダニエルがダニエル電池を発明
2.2 実用化への道(19世紀中期〜後期)
- 1859年:ガストン・プランテが鉛蓄電池を発明
- 1866年:ジョルジュ・ルクランシェがルクランシェ電池(現代の乾電池の原型)を発明
- 1881年:カミーユ・フォールが改良型鉛蓄電池を開発
2.3 近代化と多様化(20世紀)
- 1899年:ワルデマー・ユングナーがニッケル・カドミウム電池を発明
- 1901年:トーマス・エジソンがニッケル・鉄電池を発明
- 1947年:アルカリマンガン電池の商業化
- 1970年代:リチウムイオン電池の基礎研究開始
- 1991年:ソニーがリチウムイオン電池を商業化
2.4 現代の発展(21世紀)
- 2000年代:リチウムポリマー電池の実用化
- 2010年代:全固体電池の研究加速
- 2020年代:次世代蓄電池(リチウム硫黄電池、ナトリウムイオン電池など)の開発進展
この歴史的発展を通じて、蓄電池技術は constantly進化し、エネルギー密度、安全性、寿命、コストなどの面で大幅な改善を遂げてきました。現代社会におけるモバイル機器の普及や再生可能エネルギーの拡大は、この技術進歩なくしては実現不可能でした。
3. 蓄電池の基本原理
蓄電池の動作原理を理解するには、電気化学的プロセスの基本を把握することが重要です。以下に、蓄電池の基本構造と動作メカニズムを詳細に解説します。
3.1 基本構造
一般的な蓄電池は以下の主要コンポーネントで構成されています:
- 陽極(アノード):酸化反応が起こる電極
- 陰極(カソード):還元反応が起こる電極
- 電解質:イオンの移動を可能にする媒体
- セパレーター:陽極と陰極を物理的に分離し、内部短絡を防ぐ膜
3.2 動作メカニズム
蓄電池の動作は、酸化還元反応(レドックス反応)に基づいています。この過程は以下のように説明できます:
3.2.1 充電時
- 外部電源から電気エネルギーが供給される
- 陰極で還元反応が起こり、電子を受け取る
- 陽極で酸化反応が起こり、電子を放出する
- 電解質中のイオンが移動し、電気的中性を保つ
3.2.2 放電時
- 外部回路に電流が流れる
- 陽極(充電時の陰極)で酸化反応が起こり、電子を放出する
- 陰極(充電時の陽極)で還元反応が起こり、電子を受け取る
- 電解質中のイオンが逆方向に移動する
3.3 電気化学ポテンシャル
蓄電池の性能は、使用される材料の電気化学ポテンシャルの差に大きく依存します。この電位差は、ネルンストの式を用いて理論的に計算できます:
E = E° – (RT/nF) ln Q
ここで、
- E:実際のセル電位
- E°:標準電極電位
- R:気体定数
- T:絶対温度
- n:反応に関与する電子の数
- F:ファラデー定数
- Q:反応指数(活量の比)
3.4 エネルギー密度と出力密度
蓄電池の性能を評価する重要な指標として、エネルギー密度と出力密度があります。
- エネルギー密度:単位質量または体積当たりの貯蔵可能なエネルギー量(Wh/kg or Wh/L)
- 出力密度:単位質量または体積当たりの瞬間的な出力能力(W/kg or W/L)
これらの値は、蓄電池の用途によって重要性が異なります。例えば、電気自動車では高いエネルギー密度が求められますが、ハイブリッド車では高い出力密度が重要となります。
3.5 クーロン効率とエネルギー効率
蓄電池の効率を示す指標として以下があります:
- クーロン効率:放電可能な電気量 / 充電に要した電気量
- エネルギー効率:放電可能なエネルギー / 充電に要したエネルギー
理想的な蓄電池では、これらの値は100%に近づきますが、実際には内部抵抗や副反応などにより、100%を下回ります。
4. 主要な蓄電池の種類
蓄電池技術は多岐にわたり、それぞれ特徴的な性質を持っています。以下に、主要な蓄電池の種類とその特性を詳細に解説します。
4.1 鉛蓄電池
鉛蓄電池は最も古くから使用されている蓄電池の一つで、現在でも広く利用されています。
4.1.1 基本構造h4>4.1.1 基本構造
- 陽極:二酸化鉛(PbO2)
- 陰極:スポンジ状の鉛(Pb)
- 電解質:希硫酸(H2SO4)
4.1.2 特徴
- 低コスト
- 高い信頼性
- 大電流を供給可能
- 低温性能が比較的良好
- リサイクル技術が確立されている
4.1.3 主な用途
- 自動車用のスターター電池
- 無停電電源装置(UPS)
- 産業用バックアップ電源
4.2 リチウムイオン電池
リチウムイオン電池は、高エネルギー密度と長寿命を特徴とし、現代の携帯電子機器や電気自動車に不可欠な技術となっています。
4.2.1 基本構造
- 陽極:一般的にグラファイト
- 陰極:リチウム金属酸化物(例:LiCoO2, LiNiMnCoO2)
- 電解質:有機溶媒中のリチウム塩
4.2.2 特徴
- 高エネルギー密度(100-265 Wh/kg)
- 低自己放電率
- メモリ効果がない
- 充放電サイクル寿命が長い(500-1000サイクル以上)
- 急速充電が可能
4.2.3 主な用途
- スマートフォン、ノートパソコンなどの携帯電子機器
- 電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)
- 家庭用蓄電システム
- 産業用大規模蓄電システム
4.3 ニッケル水素電池(Ni-MH)
ニッケル水素電池は、ニッケルカドミウム電池の後継として開発され、環境負荷の低減と高エネルギー密度を実現しています。
4.3.1 基本構造
- 陽極:ニッケル酸化水酸化物(NiOOH)
- 陰極:水素吸蔵合金
- 電解質:アルカリ性水溶液(通常はKOH)
4.3.2 特徴
- 中程度のエネルギー密度(60-120 Wh/kg)
- 安全性が高い
- 比較的低コスト
- メモリ効果が少ない
- 急速充電が可能
4.3.3 主な用途
- ハイブリッド自動車(HEV)
- 携帯電子機器(特に高出力が必要な機器)
- 電動工具
4.4 ナトリウムイオン電池
ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池の代替技術として注目を集めています。ナトリウムの豊富な資源量と低コストが主な利点です。
4.4.1 基本構造
- 陽極:ハードカーボンなどの炭素材料
- 陰極:ナトリウム含有遷移金属酸化物
- 電解質:有機溶媒中のナトリウム塩
4.4.2 特徴
- リチウムイオン電池に比べて低コスト
- 資源的制約が少ない
- 安全性が高い(熱暴走のリスクが低い)
- 低温性能が比較的良好
- エネルギー密度はリチウムイオン電池より低い(現状)
4.4.3 主な用途(将来的な可能性)
- 大規模定置用蓄電システム
- 電力系統の安定化
- 電気自動車(特に低価格帯)
4.5 レドックスフロー電池
レドックスフロー電池は、液体電解質を用いる大規模蓄電システムで、長寿命と独立したパワー・容量設計が特徴です。
4.5.1 基本構造
- 電解質タンク:正極液と負極液を別々に貯蔵
- セルスタック:電解質を循環させ、電気化学反応を行う部分
- 膜:正極液と負極液を分離するイオン交換膜
4.5.2 特徴
- 容量とパワーを独立して設計可能
- 長寿命(20年以上)
- 深い充放電が可能
- 安全性が高い(可燃性電解液を使用しない)
- エネルギー密度が低い(主に定置用途に適する)
4.5.3 主な用途
- 大規模電力貯蔵システム
- 再生可能エネルギーの出力平準化
- 電力系統の周波数調整
5. 蓄電池の応用分野
蓄電池技術の進歩により、その応用範囲は急速に拡大しています。以下に主要な応用分野を詳しく解説します。
5.1 モバイル機器
スマートフォン、タブレット、ノートパソコンなどのモバイル機器は、高エネルギー密度のリチウムイオン電池によって長時間の使用が可能になっています。
5.1.1 要求される特性
- 高エネルギー密度
- 小型・軽量
- 急速充電能力
- 長寿命(多数回の充放電サイクル)
5.1.2 技術的課題と展望
- さらなる高容量化(シリコン系負極材料の開発など)
- 安全性の向上(全固体電池の実用化)
- 充電時間の短縮(新型電極材料、充電アルゴリズムの最適化)
5.2 電気自動車(EV)
電気自動車の普及には、高性能な蓄電池が不可欠です。現在、多くのEVがリチウムイオン電池を採用しています。
5.2.1 要求される特性
- 高エネルギー密度(長距離走行)
- 高出力密度(加速性能)
- 急速充電能力
- 長寿命(車両の使用年数に対応)
- 安全性(衝突時の信頼性)
- 広い動作温度範囲
5.2.2 技術的課題と展望
- 航続距離の延長(高エネルギー密度化)
- 充電インフラの整備と充電時間の短縮
- コスト低減(材料開発、生産効率の向上)
- リサイクル技術の確立
- 新技術の導入(全固体電池、リチウム硫黄電池など)
5.3 再生可能エネルギーの統合
太陽光発電や風力発電などの変動性再生可能エネルギーの普及には、大規模蓄電システムが重要な役割を果たします。
5.3.1 主な用途
- 出力変動の平準化
- 余剰電力の貯蔵
- 電力系統の安定化(周波数調整、電圧調整)
- ピークシフト・ピークカット
5.3.2 使用される蓄電池技術
- リチウムイオン電池(高エネルギー密度、応答性が高い)
- レドックスフロー電池(長寿命、大規模化が容易)
- ナトリウムイオン電池(将来技術、低コスト化が期待される)
- 鉛蓄電池(既存インフラでの利用)
5.3.3 技術的課題と展望
- 大規模システムのコスト低減
- 長期間(季節間)の電力貯蔵技術の開発
- システム制御技術の高度化(AI・機械学習の活用)
- 環境負荷の低減(リサイクル、材料の持続可能性)
5.4 産業用途
産業分野では、様々な用途で蓄電池が活用されています。
5.4.1 主な応用例
- 無停電電源装置(UPS)
- フォークリフトなどの産業用車両
- 通信基地局のバックアップ電源
- 工場のエネルギーマネジメントシステム
5.4.2 要求される特性
- 信頼性と耐久性
- 高い安全性
- メンテナンス性
- コスト効率
5.4.3 技術的課題と展望
- 長寿命化(特に過酷な使用環境下での性能維持)
- 高温・低温環境での性能向上
- リモートモニタリングと予測保全技術の高度化
- 産業用途に特化した新型蓄電池の開発
6. 蓄電池技術の未来
蓄電池技術は急速に進化を続けており、将来的にはさらなる革新が期待されています。以下に、主要な研究開発の方向性と将来展望を詳述します。
6.1 全固体電池
全固体電池は、液体電解質の代わりに固体電解質を用いる次世代蓄電池技術です。
6.1 全固体電池
全固体電池は、液体電解質の代わりに固体電解質を用いる次世代蓄電池技術です。安全性と高エネルギー密度の両立が期待されています。
6.1.1 特徴
- 高い安全性(可燃性電解液を使用しない)
- 高エネルギー密度の可能性
- 広い動作温度範囲
- 長寿命(副反応の抑制)
6.1.2 技術的課題
- 固体電解質のイオン伝導度向上
- 電極/電解質界面の抵抗低減
- 大規模生産技術の確立
6.2 リチウム硫黄電池
リチウム硫黄電池は、理論的に非常に高いエネルギー密度を持つ次世代蓄電池として注目されています。
6.2.1 特徴
- 超高エネルギー密度(理論値:2500 Wh/kg以上)
- 軽量(硫黄は軽元素)
- 資源的制約が少ない(硫黄は豊富)
6.2.2 技術的課題
- サイクル寿命の向上(多硫化物シャトル反応の抑制)
- 充放電効率の改善
- 体積エネルギー密度の向上
6.3 金属空気電池
金属空気電池は、空気中の酸素を活物質として利用する革新的な蓄電池システムです。
6.3.1 種類と特徴
- リチウム空気電池(超高エネルギー密度)
- 亜鉛空気電池(安全性が高い、低コスト)
- アルミニウム空気電池(資源豊富、環境負荷が低い)
6.3.2 技術的課題
- 充放電効率の向上
- 空気極の性能改善(酸素還元反応の触媒開発)
- 金属極の可逆性向上(デンドライト成長の抑制)
- 実用的な充電システムの開発
6.4 ナノ材料技術の応用
ナノテクノロジーの進歩により、蓄電池の性能を飛躍的に向上させる可能性が開かれています。
6.4.1 主な研究方向
- ナノ構造電極材料(高表面積、高反応性)
- ナノコンポジット電解質(イオン伝導性の向上)
- ナノカーボン材料(導電性向上、構造安定化)
6.4.2 期待される効果
- エネルギー密度の向上
- 充放電速度の向上
- サイクル寿命の延長
- 新しい反応メカニズムの実現
6.5 AIと機械学習の活用
人工知能(AI)と機械学習技術の発展は、蓄電池の研究開発と運用に革新をもたらしています。
6.5.1 応用分野
- 新材料探索と設計(マテリアルズインフォマティクス)
- 電池管理システムの最適化
- 劣化予測と寿命推定
- 充放電制御の高度化
6.5.2 期待される効果
- 研究開発の加速
- 電池システムの性能向上
- 運用コストの低減
- 安全性の向上
7. 環境への影響と持続可能性
蓄電池技術は、持続可能なエネルギー社会の実現に不可欠ですが、同時に環境への影響も考慮する必要があります。
7.1 原材料の持続可能性
蓄電池の主要原材料の中には、希少金属や環境負荷の高い物質が含まれているため、その持続可能な調達と使用が課題となっています。
7.1.1 主な課題
- リチウム、コバルト、ニッケルなどの希少金属の安定供給
- 採掘に伴う環境破壊と社会的影響
- 地政学的リスク(資源の偏在)
7.1.2 対策と展望
- リサイクル技術の高度化と普及
- 代替材料の開発(例:コバルトフリー電池)
- サプライチェーンの多様化と透明性の確保
- 環境負荷の少ない採掘技術の開発
7.2 製造プロセスの環境影響
蓄電池の製造過程では、エネルギー消費や有害物質の使用など、環境への負荷が懸念されています。
7.2.1 主な環境影響
- 製造時のCO2排出
- 有機溶媒や重金属の使用
- 水資源の消費と汚染
7.2.2 改善に向けた取り組み
- 製造プロセスの効率化とクリーン化
- 再生可能エネルギーの利用拡大
- 水使用量の削減と水処理技術の向上
- 環境負荷の少ない材料への転換
7.3 使用後の処理とリサイクル
蓄電池のライフサイクル全体での環境負荷を低減するために、使用済み電池の適切な処理とリサイクルが重要です。
7.3.1 リサイクルの現状と課題
- 回収システムの整備
- リサイクル技術の効率向上
- 経済性の確保
- リサイクル材の品質管理
7.3.2 将来展望
- 設計段階からのリサイクル考慮(Design for Recycling)
- 新しいリサイクル技術の開発(例:直接リサイクル法)
- 規制とインセンティブの整備
- 国際的な協力体制の構築
7.4 ライフサイクルアセスメント(LCA)
蓄電池技術の環境影響を総合的に評価するために、ライフサイクルアセスメントが重要な役割を果たします。
7.4.1 LCAの主な評価項目
- 温室効果ガス排出量
- エネルギー消費量
- 資源枯渇
- 水質汚染
- 生態系への影響
7.4.2 LCAの活用と課題
- 異なる蓄電池技術の比較評価
- 製品設計の最適化
- 政策立案への活用
- データの信頼性と標準化
8. 蓄電池の経済学
蓄電池技術の普及と発展には、経済的な観点からの分析と戦略が不可欠です。
8.1 コスト構造
蓄電池のコストは、材料費、製造コスト、研究開発費などで構成されています。コスト低減が普及の鍵となります。
8.1.1 主なコスト要因
- 原材料コスト(特に希少金属)
- 製造プロセスコスト
- 研究開発投資
- 設備投資
- 輸送・流通コスト
8.1.2 コスト低減の方策
- スケールメリットの追求(大量生産)
- 製造プロセスの効率化
- 材料の最適化と代替材料の開発
- サプライチェーンの最適化
- 技術革新(新型電池の開発)
8.2 市場動向
蓄電池市場は急速に拡大しており、今後も成長が見込まれています。
8.2.1 主要市場セグメント
- モバイル機器用蓄電池
- 電気自動車用蓄電池
- 定置用蓄電システム
- 産業用蓄電池
8.2.2 市場成長の要因
- 電気自動車の普及
- 再生可能エネルギーの拡大
- エネルギー安全保障への関心
- 環境規制の強化
- 技術革新と性能向上
8.3 政策と規制
政府の政策や規制は、蓄電池技術の発展と普及に大きな影響を与えます。
8.3.1 主な政策手段
- 研究開発補助金
- 税制優遇措置
- 導入補助金(例:電気自動車購入時の補助金)
- 規制基準の設定(安全性、性能、環境基準など)
- インフラ整備支援(例:充電ステーション)
8.3.2 国際的な動向
- パリ協定に基づく温室効果ガス削減目標
- 各国のエネルギー政策(脱炭素化、エネルギー自給率向上)
- 国際標準化の動き(性能評価方法、安全基準など)
8.4 ビジネスモデルの革新
蓄電池技術の進歩は、新しいビジネスモデルの創出にもつながっています。
8.4.1 新たなビジネスモデルの例
- 電池リース・シェアリング
- Vehicle-to-Grid (V2G) サービス
- 仮想発電所(VPP)
- 蓄電池を活用したデマンドレスポンス
- 蓄電池を活用したデマンドレスポンス
- 電池の二次利用ビジネス(例:EV用電池の定置用転用)
8.4.2 ビジネスモデル革新の意義
- 蓄電池の付加価値向上
- 導入コストの低減(初期投資の分散)
- エネルギー市場の効率化
- 新たな収益源の創出
8.5 経済的課題と展望
蓄電池技術の経済性向上には、技術的進歩だけでなく、市場環境や制度設計も重要な役割を果たします。
8.5.1 主な経済的課題
- 初期投資コストの高さ
- 原材料価格の変動リスク
- 技術の急速な進歩による既存設備の陳腐化
- 規模の経済達成までの時間
- 競合技術との競争(例:燃料電池との競争)
8.5.2 将来展望
- 継続的なコスト低減(学習曲線効果)
- エネルギー市場の制度改革(蓄電池の価値の適切な評価)
- 循環経済モデルの確立(リサイクル、再利用の経済性向上)
- 国際協力の強化(技術開発、標準化、サプライチェーン最適化)
9. 蓄電池のメンテナンスと寿命
蓄電池の効果的な運用と長寿命化には、適切なメンテナンスと管理が不可欠です。
9.1 蓄電池の劣化メカニズム
蓄電池の性能劣化は様々な要因によって引き起こされます。主な劣化メカニズムを理解することが、効果的なメンテナンスの基礎となります。
9.1.1 主な劣化要因
- サイクル劣化(充放電の繰り返しによる劣化)
- カレンダー劣化(時間経過による自然劣化)
- 温度ストレス(高温・低温環境での使用)
- 過充電・過放電
- 化学的副反応(SEI膜の成長、電解液の分解など)
9.1.2 劣化の影響
- 容量の減少
- 内部抵抗の増加
- 自己放電率の上昇
- 安全性の低下
9.2 効果的なメンテナンス方法
適切なメンテナンスにより、蓄電池の寿命を延ばし、性能を最大限に引き出すことができます。
9.2.1 日常的なメンテナンス
- 適切な充放電管理(深い放電を避ける)
- 温度管理(極端な高温・低温を避ける)
- 定期的な点検(外観、接続部の確認)
- 清掃(端子の腐食防止)
9.2.2 高度なメンテナンス
- バッテリー管理システム(BMS)の活用
- 定期的な性能診断(容量測定、内部抵抗測定)
- バランシング(セル間の電圧均等化)
- ソフトウェアアップデート(BMSの最適化)
9.3 寿命予測と管理
蓄電池の寿命を正確に予測し、適切に管理することは、システムの信頼性向上とコスト最適化に寄与します。
9.3.1 寿命予測手法
- 統計的手法(ワイブル分布など)
- 物理化学モデルに基づく手法
- 機械学習を用いた予測(データ駆動型アプローチ)
- 加速劣化試験
9.3.2 寿命管理戦略
- 状態監視(State of Health: SOH)の継続的評価
- 使用条件の最適化(温度管理、充放電パターンの制御)
- 予防保全(劣化予測に基づく計画的な交換)
- リスク管理(バックアップシステムの準備)
9.4 リユースとリサイクル
蓄電池の寿命が尽きた後も、適切な処理により資源の有効活用が可能です。
9.4.1 リユースの可能性
- 電気自動車用電池の定置用蓄電システムへの転用
- 容量低下した電池の低負荷用途への活用
- 電池パックの再構成による新たな用途開発
9.4.2 リサイクルプロセス
- 解体と分別
- 材料回収(熱処理、化学処理、機械的処理)
- 精製と再生
- 新電池材料への再利用
10. 安全性と規制
蓄電池の安全性確保は、技術の信頼性と社会受容性の観点から極めて重要です。
10.1 主な安全リスク
蓄電池には様々な安全リスクが存在し、適切な対策が必要です。
10.1.1 物理的リスク
- 過熱・発火
- 爆発
- 電解液漏れ
- 機械的損傷(衝撃、振動による)
10.1.2 化学的リスク
- 有害ガスの発生
- 腐食性物質の漏洩
- 環境汚染
10.1.3 電気的リスク
- 感電
- 短絡
- 過充電・過放電
10.2 安全対策技術
蓄電池の安全性を高めるために、様々な技術的対策が開発・実装されています。
10.2.1 セルレベルの安全対策
- セパレータの改良(熱暴走防止)
- 安全弁の設置
- 難燃性電解液の使用
- 電極材料の最適化
10.2.2 パック/システムレベルの安全対策
- バッテリー管理システム(BMS)による監視と制御
- 熱管理システム(冷却・加熱)
- 絶縁設計
- 耐火・防爆設計
10.3 規制と標準化
蓄電池の安全性を確保するため、各国・地域で様々な規制や標準が設けられています。
10.3.1 主な国際規格
- IEC 62133(携帯機器用リチウム電池の安全規格)
- UN 38.3(リチウム電池の輸送に関する規格)
- ISO 12405(電気自動車用リチウムイオン電池の安全性試験)
- UL 1642(リチウム電池の安全規格)
10.3.2 安全性評価試験
- 熱暴走試験
- 過充電試験
- 短絡試験
- 落下試験
- 振動・衝撃試験
- 環境試験(高温・低温、湿度)
10.4 事故事例と教訓
過去の事故事例を分析し、教訓を活かすことが安全性向上の重要な要素となります。
10.4.1 主な事故事例
- スマートフォンのバッテリー発火事故
- 電気自動車のバッテリー火災
- 航空機搭載リチウムイオン電池の発火事故
- 大規模蓄電システムの火災事故
10.4.2 事故からの教訓
- 設計段階からの安全性考慮の重要性
- 製造品質管理の厳格化
- 使用環境を考慮した安全対策の必要性
- ユーザー教育と適切な使用方法の周知
- 事故時の対応策(消火方法など)の確立
11. 最新の研究動向
蓄電池技術は急速に進化を続けており、様々な新しいアプローチが研究されています。
11.1 材料科学の進展
新材料の開発は、蓄電池性能の飛躍的向上をもたらす可能性があります。
11.1.1 電極材料の研究
- シリコン系負極材料(高容量化)
- 高ニッケル系正極材料(高エネルギー密度化)
- コンバージョン反応を利用した電極材料
- ナノ構造化電極(高速充放電、長寿命化)
11.1.2 電解質の研究
- 高イオン伝導性固体電解質
- 不燃性液体電解質
- イオン液体の応用
- ポリマー電解質の高性能化
11.2 新型電池システム
従来のリチウムイオン電池を超える性能を目指し、様々な新しい電池システムが研究されています。
11.2.1 主な研究対象
- 全固体電池
- リチウム硫黄電池
- リチウム空気電池
- ナトリウムイオン電池
- 多価イオン電池(マグネシウム、亜鉛、アルミニウムなど)
- レドックスフロー電池の高性能化
11.3 ナノテクノロジーの応用
ナノスケールでの材料制御により、蓄電池の性能向上が期待されています。
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