日本の蓄電池市場分析:2024年から2030年までの展望

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

日本の蓄電池市場分析:2024年から2030年までの展望

*予測数値はエネがえる運営事務局の仮説に基づく予測です。蓋然性は担保しておりませんのでご留意ください

はじめに

日本の蓄電池市場は、再生可能エネルギーの普及、エネルギー安全保障の重要性の高まり、そして電力系統の安定化ニーズの増大により、急速に成長しています。本分析では、JEMAの統計データと業界動向を基に、2024年から2030年までの市場展望を多角的に考察します。

市場概況

JEMAの統計によると、2023年度の蓄電システム出荷台数は15.6万台、出荷容量は136.9万kWhに達し、前年比125%の成長を記録しました。これは、家庭用および産業用蓄電システムへの需要が着実に増加していることを示しています。

出荷台数の推移

年度 単年度出荷台数(万台) 累積出荷台数(万台)
2014 1.8 3.1
2015 2.7 5.8
2016 2.8 8.6
2017 4.2 12.9
2018 6.3 19.2
2019 10.5 29.7
2020 11.5 41.5
2021 12.3 53.5
2022 13.2 66.8
2023 15.6 82.4

この表から、市場が持続的に成長していることが明確に見て取れます。特に、2019年以降、年間出荷台数が10万台を超え、成長が加速している点が注目されます。

・出典:JEMA 蓄電システム自主統計 2023 年度出荷実績
https://www.jema-net.or.jp/Japanese/data/jisyu/pdf/libsystem_2023.pdf

市場予測(2024-2030)

過去のデータトレンドと、今後の影響要因を考慮し、2024年から2030年までの市場予測を行います。

予測モデル

本予測では、過去10年間の成長率を基に、ロジスティック成長モデルを適用します。このモデルは、初期の急速な成長後、市場が成熟するにつれて成長率が緩やかになることを想定しています。

2024年の市場規模推定

2023年の成長率(前年比125%)と、市場の成熟度を考慮すると、2024年の出荷台数は約19.5万台、出荷容量は約170万kWhと予測されます。

2024-2030年の予測出荷台数

予測出荷台数(万台) 累積出荷台数(万台)
2024 19.5 101.9
2025 23.4 125.3
2026 27.6 152.9
2027 31.7 184.6
2028 35.5 220.1
2029 38.7 258.8
2030 41.3 300.1

この予測によると、2030年までに年間出荷台数は40万台を超え、累積出荷台数は300万台を突破する可能性があります。これは、日本の全世帯数(約5,400万世帯)の約5.5%に相当します。

※あくまでもエネがえる運営事務局の推計ですので蓋然性等を担保しておりません。ご留意ください。

影響要因分析

1. エネルギー政策

2024年以降、日本政府は「2050年カーボンニュートラル」目標の達成に向けて、再生可能エネルギーの導入をさらに加速させる政策を実施すると予想されます。特に注目すべき政策として:

  • 2024年:改正温対法に基づく促進区域の設定開始
  • 2026年:発電側課金制度の導入
  • 2030年:再生可能エネルギー比率36-38%達成目標

これらの政策は、再生可能エネルギーの不安定性を補完する蓄電池の需要を直接的に高める効果があると予想されます。

2. 人口動態

日本の人口減少と高齢化は、住宅市場に大きな影響を与えます。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると:

  • 2025年:総人口1億2,254万人(65歳以上の割合30.0%)
  • 2030年:総人口1億1,913万人(65歳以上の割合31.2%)

人口減少により新築住宅需要は減少する一方で、高齢化に伴う既存住宅のリノベーション需要が増加すると予想されます。これは、既存住宅への蓄電池導入機会の増加につながる可能性があります。

3. 住宅建設市場規模

国土交通省の建築着工統計調査によると、新設住宅着工戸数は減少傾向にあります:

  • 2020年:81.5万戸
  • 2021年:86.3万戸
  • 2022年:85.5万戸

この傾向が続くと、2030年には年間70-75万戸程度まで減少する可能性があります。しかし、新築住宅への蓄電池標準装備率の上昇が、市場縮小の影響を一部相殺すると予想されます。

4. 電力システムの変革

2024年以降、以下の変革が予定されています:

  • 2024年:送配電網の次世代化に向けた設備投資の本格化
  • 2026年:容量市場の運用開始
  • 2028年頃:ノンファーム型接続の全国展開完了

これらの変革により、分散型電源としての蓄電池の価値が高まると予想されます。特に、ノンファーム型接続の普及は、再生可能エネルギーの出力変動を吸収する蓄電池の需要を押し上げる可能性があります。

5. 燃料費と電気料金の動向

化石燃料価格の上昇と、それに伴う電気料金の値上げは、家庭用蓄電池の需要を押し上げる主要因となっています。今後の動向予測:

  • 2024-2026年:化石燃料価格の高止まりが続く可能性が高い
  • 2027-2030年:再生可能エネルギーの普及により、徐々に電気料金の安定化が進む

電気料金の上昇率は年平均2-3%程度と予想されますが、この上昇傾向は蓄電池システムの投資回収期間短縮につながり、需要を後押しする要因となります。

6. 技術革新

蓄電池技術の進歩は市場拡大の重要な要因です:

  • 2024-2026年:リチウムイオン電池の高性能化・低コスト化が進展
  • 2027-2030年:全固体電池の商用化が本格化し、安全性と容量密度が向上

これらの技術革新により、蓄電システムの性能向上とコスト低下が加速し、市場拡大を後押しすると予想されます。

課題と機会

課題

  1. 原材料供給の不安定性: リチウムなどの希少金属の供給不足が、生産拡大の制約となる可能性があります。
  2. 電力系統への影響: 蓄電池の大量導入が電力系統の安定性に与える影響の評価と対策が必要です。
  3. サイバーセキュリティ: IoT化が進む蓄電システムのセキュリティ対策が重要課題となります。
  4. リサイクル体制の整備: 使用済み蓄電池の適切な処理とリサイクル体制の構築が急務です。

機会

  1. VPP(仮想発電所)市場の拡大: 蓄電池をネットワーク化し、電力需給調整に活用するVPPビジネスの成長が期待されます。
  2. 電気自動車との連携: V2H(Vehicle to Home)システムの普及により、EV蓄電池の家庭用電源としての活用が進むでしょう。
  3. 災害対策需要: 気候変動に伴う自然災害の増加により、非常用電源としての蓄電池需要が高まると予想されます。
  4. 産業用途の拡大: データセンターや製造業など、安定した電力供給が必要な産業分野での大型蓄電システムの導入が進むでしょう。

結論

日本の蓄電池市場は、2024年から2030年にかけて着実な成長を続けると予測されます。この成長を牽引する主な要因は以下の通りです:

  • 再生可能エネルギーの普及拡大に伴う需要増
  • 電力料金の上昇と電力系統の不安定化への対策ニーズ
  • 技術革新による性能向上とコスト低下
  • 災害対策や電力の自給自足志向の高まり

2030年までに、年間出荷台数は40万台を超え、累積設置台数は300万台を突破するという予測(*エネがえる運営事務局の予測)は、日本の住宅・産業分野における蓄電システムの普及が新たな段階に入ることを示唆しています。

一方で、原材料供給の不安定性、電力系統への影響、サイバーセキュリティ、リサイクル体制の整備など、克服すべき課題も多く存在します。これらの課題に適切に対応しつつ、VPP市場の拡大やEVとの連携など新たな機会を活かすことが、持続可能な市場成長の鍵となるでしょう。

蓄電池技術は、日本のエネルギー転換と脱炭素化を支える重要な基盤技術です。政府、企業、消費者が一体となって取り組むことで、2030年に向けて蓄電池市場は大きく発展し、より持続可能でレジリエントな社会の実現に貢献すると考えられます。


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コメント

  1. 本記事では、「系統連結型」の定置用リチウムイオン蓄電システムの数字を参照しておりますが、こちら(https://www.enegaeru.com/stats-lib#2030JEMAVer71)の記事では、単純な定置用リチウム蓄電システムの数字を参照されています。
    ”家庭用の蓄電池”に関する数字を把握したいのですが、どちらの方が適切でしょうか?

    1. コメントありがとうございます。JEMAの資料等での「系統連携型」という表現は、系統用蓄電所のことではなく、系統連系された家庭用蓄電システムという定義となります。また通常の定置型蓄電システムの中には、Amazonで買えるような非系統連系型(10-30万円前後で買えるタイプのポータブル蓄電池等)が含まれております。

      そのためご質問にある「家庭用の蓄電池」(いわゆる太陽光の余剰電力や系統からの深夜電力を充電できる系統連系タイプ)の数字を把握したい場合は、JEMA出荷統計における「系統連携型の定置型蓄電池」の欄をご参照いただくのがよいです。よろしくお願いいたします

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