ガス料金の知られざる歴史:江戸の明かりからカーボンニュートラルまで

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。お仕事・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

目次

ガス料金の知られざる歴史:江戸の明かりからカーボンニュートラルまで

― 読者の常識を覆す、エネルギーと価格の200年ドラマ ―

第1章:都市ガスの誕生は「夜の安全保障」だった ― ガス料金の始まりは、犯罪と光の戦いだった ―

◆1-1 ガスの起源:エネルギーとしての「副産物」

19世紀初頭、イギリスでは石炭の乾留(蒸し焼き)によって得られる副産物として「石炭ガス(コークス炉ガス)」が登場しました。これは現在のような目的別生産物ではなく、“意図せざる発明”でした。

  • 石炭ガスは本来、コークスを製鉄用に生産する過程で偶然発生したもの。

  • 「臭いが強い」「危険」「持ち運べない」などの欠点を抱えていた。

  • しかし“よく燃える”という一点に着目し、「都市照明用エネルギー」として着眼された。

このとき、ガスの価値とは「燃焼によって得られる可視光」であり、熱や圧力ではありませんでした。つまり、都市の“夜”に革命を起こす装置として登場したのです。

◆1-2 ロンドンに灯が灯る:ガス灯と防犯の結びつき

1812年、世界初の都市ガス事業者「Gas Light and Coke Company」がロンドンに誕生します。
彼らの最初の顧客は――

「ロンドン市当局」

つまり、ガス事業は“公共治安政策の一環”として生まれたのです。

当時のロンドンは、夜間の犯罪が多発していました。街灯はまだろうそくや油ランプで、不均一で暗く、管理が困難。
そこに現れたのが、定常的に燃え続けるガス灯。しかも、中央制御が可能!

その結果、ロンドンの街路に次々と光が灯り、防犯効果が向上。これは「エネルギーによる社会インフラ整備」の最初期例とされます。

◆1-3 料金は“何と比べるか”から始まった:灯油とのベンチマーク

では、ガスの料金はどうやって決まったのでしょうか?
答えは意外にシンプルで――

「灯油より少し安く、でも会社が儲かる程度に」。

この価格戦略は現在の「競合ベンチマーク型価格設定」の元祖です。

当時のガス料金の決定要因:

  • 灯油の市場価格

  • ガス灯の初期設置費用(管工事、ランプの製作)

  • ガス製造装置(ガスホルダー)の建設費

  • 労働者賃金、メンテナンス費用

  • 投資家への配当金

この構造が、やがて「総括原価方式」や「費用準拠方式」として世界中に輸出されていきます。

◆1-4 ガス料金と“都市経営”:公私の境界線が曖昧だった時代

都市ガスが民間企業によって供給されながらも、その設置・敷設には行政の認可が必要でした。

  • ガス導管を地下に埋設するためには、通行権(Easement)が必要。

  • 市議会や町議会が「公益性」や「安全性」などを審査。

  • しばしば、料金の上限(Maximum Price Cap)も行政が決定した。

つまり、民間による“疑似公共事業だったのです。

さらに、ガス会社が独占企業化すると、市民から「高すぎる!」「危ない!」という批判が集まり、ガス料金の透明性・公共性が早くも問題視され始めます。

◆1-5 面白い逸話:ガス料金値上げに暴動が起きた

1830年、英国の地方都市リーズでは、ガス会社が基本料金を値上げしたことをきっかけに――

街中のガス灯が一斉に破壊されるという事件が発生します。

これにより、当局は「料金値上げには市議会の同意が必要」という条例を制定。

これは、「ガス料金=社会的合意」という認識の始まりでもあります。

◆1-6 日本への伝播:文明開化のガス灯は“防火”と“帝国の象徴”

1872年(明治5年)、日本にもガス灯がやってきます。
東京・銀座の煉瓦街に、西洋式のガス灯が整備されました。

これは「近代化」「西洋化」の象徴であり、エネルギーインフラによる“国威発揚そのものでした。

ところがここでも、ガス料金の問題が浮上します。

  • 初期のガス灯設置は官費(政府の補助)

  • 民間への拡大時に「だれがいくら払うのか」問題が起きる

  • 結局、東京瓦斯(現在の東京ガス)が設立され、株式資本+料金徴収で事業化

このように、近代日本のガス料金制度は、国家的近代化プロジェクトから生まれたのです。

◆まとめ:この時代の料金は「光の値段」だった

この章で押さえるべきキーワードは以下のとおりです:

キーワード意味
ガス灯都市の治安・公共政策のツール
ベンチマーク価格他の燃料との相対価格設定
公益性と収益性ガス会社の社会的責任と投資家リターンの両立
行政規制通行権、料金上限などを通じた市民保護

次章では、こうした「照明ガス」がやがて「料理用」「暖房用」へと進化し、
ガス料金も二部料金制へと変貌していく物語を追っていきます。

第2章:ガス料金の制度化 ― 公益独占と「公平な支払い」の誕生― なぜ“誰もが同じ料金でガスを使える”ようになったのか? ―

◆2-1 「ガスがあるのが当たり前」になった時代の到来

19世紀末、ロンドン、パリ、ニューヨーク、東京の都市部では、ガス灯が街の顔になっていました。
だがここで、都市が直面する意外な新問題が生まれます。

「このまま、全部ガス会社に任せていいのか?」

  • 料金がバラバラ

  • 危険物の取り扱いが不透明

  • 設備の老朽化や火災事故も

結果、住民や行政がガス会社に求めたのは――

「もっとちゃんと、安全に、わかりやすく運営してくれ」

こうして、世界中の都市で「ガス事業=公益事業」とみなす機運が高まり、
行政による制度化・監督が始まるのです。

◆2-2 公益事業化のエッセンス:「Rate of Return Regulation」の誕生

1900年代初頭、米国の公営ユーティリティ制度では、ある“数式”が登場します。
それが現在の都市ガス料金制度の基盤となる――


公正利潤=帳簿資産×認可利率\text{公正利潤} = \text{帳簿資産} \times \text{認可利率}

これが「費用準拠主義(Cost-of-Service Regulation)」であり、
事業者に対して「過度な利潤を求めず、必要なだけ回収しなさい」というルールでした。

これは「必要経費+適正利潤」という、“ガス料金の公式”です。

利点:

  • 投資家が安心してインフラに資金を投入できる

  • 消費者は高騰を避けられる

  • 設備投資インセンティブを与える

欠点:

  • 効率性が低下(Averch-Johnson効果)

  • 過剰設備のリスク

  • 技術革新が遅れる傾向

◆2-3 料金制度の進化:「従量制」から「二部料金制」へ

この時期、ガス料金にも構造的な進化が見られます。
従来の“使った分だけ支払い”から、「設備維持費+使用料」という思想が導入されました。

二部料金制(Two-Part Tariff)の基本式:


請求額=基本料金+(単価×使用量)\text{請求額} = \text{基本料金} + (\text{単価} \times \text{使用量})

項目意味
基本料金メーター管理費・保安管理費・設備償却など
従量料金燃料費・LNG輸送・気温変動による需給費など

このモデルは現在の電気・水道・通信など、ほぼすべてのユーティリティに採用されており、
インフラサービスの料金体系としては“完成形”とされています。

◆2-4 地方自治体が“ガス会社”になる:公営化の流れ

イギリス、ドイツ、日本では、20世紀初頭に「地方公営ガス会社」が登場します。

なぜ自治体がガスを運営する必要があったのか?

理由は明快です:

  • ガスが「生活インフラ」になった

  • 子どもや高齢者にも届く公平性が必要

  • 競争ではなく“持続性”が重視された

その結果、自治体が料金を決め、自治体が運営し、自治体が安全を担保するという構造に。

日本でも「水道局+ガス事業部」という編成が全国に広がりました(例:横浜市水道局など)。

◆2-5 東京瓦斯(東京ガス)の料金表:100年前はこうだった!

大正8年(1919年)、東京瓦斯の料金表をご紹介しましょう:

使用量帯単価(銭/m³)備考
~10m³8銭最も高い
11~50m³6銭徐々に割引
51m³~5銭大口ユーザーは割安になる

つまり、「使えば使うほど割安」というブロック料金制が採用されていました。
これは、家庭でも工場でもガスを普及させるための戦略です。

◆2-6 料金=社会設計:なぜ貧しい家庭ほど基本料金が重く感じるのか?

二部料金制には大きな課題がありました。それは――

「使用量が少ない家庭ほど、単価が高く見える」

たとえば:

  • 使用量3m³:基本900円+(300円×3)=1,800円 → 単価600円/m³

  • 使用量30m³:基本900円+(300円×30)=9,900円 → 単価330円/m³

このように、少量使用者にとっては不公平感があるのです。
ここに登場したのが「生活弱者向け割引」「ソーシャルタリフ」などの新しい発想でした。

◆まとめ:「公平な料金」とは、単なる計算式ではない

この章で伝えたいのは、以下のような“ガス料金の本質”です:

  • 料金=費用+利潤+公共性

  • 公共性=命と生活を支える責任

  • ガス料金は、社会がどうあるべきかの表現

次章では、このように制度化されたガス料金が、電気という“新たなライバル”の登場で揺れ動き始める様子を描いていきます。

 

第3章:電気という脅威と、ガスの価値“再発明”戦略― 明かりを奪われたガスが、「炎の哲学」で逆襲を始めた ―

◆3-1 電気がガスを襲った日:「照明戦争」勃発

1879年、エジソンが白熱電球の実用化に成功。
以降、世界中の都市でガス灯 vs 電灯”の照明戦争が始まります。

  • 電気:瞬時点灯、明るい、安全、臭くない

  • ガス:常時燃焼、メンテナンス必須、火災リスクあり

特に商業施設・官公庁・鉄道駅など“信頼性重視の場所”から、次々と電気に移行。
東京でも1900年代初頭には、銀座の目抜き通りが「銀ブラ」から「銀電」へ

ガス業界は問います:「火は消されたままでいいのか?」

◆3-2 「光」から「熱」へ:ガスのリブランディング戦略

照明という主戦場を失ったガス業界は、新たな市場を模索。
そこで見出したのが――

「熱こそガスの本質だ」

  • 調理(ガスコンロ・ガス炊飯器・業務用厨房)

  • 暖房(ガスストーブ・浴室乾燥機)

  • 給湯(瞬間湯沸かし器・ガス風呂)

これがいわゆる、“炎の価値”リブランディング戦略
言い換えれば、ガスの主役交代=「明かりから暮らしへ」というパラダイムシフトです。

◆3-3 ガス業界の“炎の逆転劇”:広告・教育・主婦層攻略

ガスの逆襲は、テクノロジーだけではありませんでした。
戦ったのは、主婦の心です。

  • 1950年代:都市ガス協会が「クッキングスクール」設立

  • 1960年代:ガス会社主催の「料理コンクール」が各地で人気に

  • 1970年代:「ガス炊飯器は米が立つ!」という文化訴求

つまり、「炎=美味しさ」「料理のプロ=ガス」というイメージ戦略が功を奏し、
電気炊飯器やIHに先んじて、「調理=ガス」の文化的定着を実現したのです。

◆3-4 二部料金制の進化:設備と需要のジレンマ

この時期、ガス会社は料金制度の微調整を行います。

二部料金制の応用形:


請求額=基本料金+(従量単価×使用量)\text{請求額} = 基本料金 + (\text{従量単価} \times 使用量)

しかしここで新たな問題が発生:

ガスを“あまり使わない人”ほど「割高」に感じてしまう…

これは需要家からすると「なんで使ってないのに高いの?」という疑念であり、
事業者からすると「固定費を回収できない」という焦燥。

この「少量使用者問題」は、後の定額制導入・ガス自由化後の乗り換え促進障壁にまで続く
料金設計の根本課題”になります。

◆3-5 IH調理 vs ガス調理:21世紀も続く「熱の戦い」

IHの登場により、再び“ガス vs 電気”の戦場が浮上します。

消費者からの視点:

比較項目ガスIH
立ち上がり早い(直火)やや遅い(誘導加熱)
火力調整微妙な火加減が可能段階式のためやや粗い
鍋の自由度どんな鍋でもOKIH対応の平底鍋のみ
掃除のしやすさ×(凹凸・五徳)◎(フラット)
停電時の安心感○(電気に依存しない)×(完全依存)

「熱の質」という感覚的価値は、ガスが唯一持つ“物語の武器”です。

◆3-6 社会的な意味:「火と暮らす文化」を守る料金設計

ガス会社は、単にエネルギーを売っているのではなく、
「火と共にある生活」という文化体験を提供しているとも言えます。

そのため、料金は「単なるコスト」ではなく、
ユーザーが生活スタイルを選ぶ“ライフスタイル選択料”の性格を持ってきました。

◆まとめ:ガスの生き残りは「熱と文化の融合」だった

  • 照明を電気に奪われても、ガスは「熱で暮らしを包む」という新価値を創出。

  • 料金制度は、文化と設備と経済性のトリレンマに挑戦してきた。

  • ガス料金とは、「火のありがたみ」を価格に翻訳する装置である。

 

第4章:国家統制と社会料金──「ガスは国民の命綱だ」という発想 ― 戦時と福祉が“ガス料金”を社会の心臓にした ―

◆4-1 「戦争」と「公共料金」は表裏一体だった

1930年代、日本を含む各国が戦争に突入する中で、都市ガスは国家の戦略資源とされました。

  • 工場での金属加工・暖房・乾燥

  • 病院・防空壕・兵舎での調理・給湯

  • 生活インフラとしての重要性の急上昇

するとガス料金は、単なる経済的サービス価格ではなく、
「国家が許容できる負担額」として“政治価格”に変化していきます。

価格=安全保障
供給=忠誠
値上げ=反逆

とすらみなされたのです。

◆4-2 ガス料金は「凍結」され、コストは民間がかぶった

例えば日本では、1939年の物価統制令により、ガス料金は凍結されます。

その影響:

項目状況
原材料価格石炭や重油価格が高騰(2〜3倍)
為替レート輸入コストが増加
人件費軍需産業に人材流出で賃上げ圧力
設備保守部品不足、修理もままならない
ガス会社の損益赤字続き、資産毀損、倒産の危機

にもかかわらず、料金は変えられない。

なぜなら、戦時下の庶民の怒りを招けば「内乱の火種」になるから。

このように、ガス料金は国家の“統治コスト”の一部として扱われたのです。

◆4-3 ドイツの「社会料金」──国民の忠誠と引き換えに光熱を守る

ドイツでは「Sozialtarif(社会的料金)」が導入されました。

  • 一人暮らしの高齢者 → 基本料金50%割引

  • 失業者 → 一定使用量まで無料

  • 戦争未亡人 → 従量単価の低減

つまり、光熱費を“社会的弱者の福祉ツール”として運用し始めたのです。

これは日本でも戦後の「生活保護世帯のガス料金免除」などに引き継がれています。

◆4-4 「料金=暴動の火種」だった事例:チリ・ボリビアのガス戦争

これは少し現代寄りの話ですが重要です。

チリ(2005年):

  • LPGの補助金削減 → 即日デモ → 負傷者100名超

ボリビア(2003年):

  • 天然ガス輸出と国内料金改定 → 暴動 → 大統領辞任

これらの例が示すのは――

ガス料金は「政治の心拍数」である。

という事実です。
価格改定のわずかな揺れが、政府の正統性を揺るがす時代に突入したのです。

◆4-5 日本の“国民感情”と「値上げ=悪」の構造

日本でも、戦後復興期のガス料金改定には激しい反発がありました。

「光熱費が上がるのは、庶民を切り捨てることだ」

  • 1970年代のオイルショック時、都市ガス会社が値上げを申請

  • 一部報道が「企業の儲け主義」と叩く

  • 電話・ガス・水道は“許されざる値上げ”として社会に認識される

結果、政治家も官僚も“値上げ”に極端に慎重になり、
その遺伝子は現在の「認可料金制」にも深く根付いています。

◆4-6 現代の「社会料金」の系譜:ガス会社の福祉責任とは?

現在、日本の大手都市ガス会社では、以下のような措置を行っています:

  • 冬季の料金支払猶予制度(生活困窮者向け)

  • 災害被災地への減免措置

  • 高齢者の“見守り”を兼ねたガス検針訪問

つまり、ガス料金はもはや「物の値段」ではなく、
社会への配慮・福祉・連帯のプライシングへと進化しているのです。

◆まとめ:「値段」というより「責任」だった時代

この章で伝えたい核心は、以下の通りです:

項目意味
統制価格戦時下で国が物価を固定化し、混乱回避を狙う制度
社会料金社会的弱者や生活困窮者を考慮して設定される料金
福祉プライシングガス会社が“エネルギー福祉”を担う時代
政治価格政権支持と国民感情を見越して設定される戦略価格

 

 

第5章:復興とLPガスの時代──「配管がなくても火が来る」革命 ― 戦後の仮設住宅と自由価格が生んだ、日本独特のガス文化 ―

◆5-1 導管が壊れた国で「タンクを持ってくる」発想

終戦直後、日本中の都市では、爆撃によってインフラが壊滅していました。
都市ガス管も同様で、多くの地区で復旧が困難。

そんな中、「ボンベに詰めたガスを持ってくる」という発想が登場します。

それが、LPガス(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)

  • 石油の副生物であるプロパン・ブタンを加圧・液化

  • ボンベで運搬し、個別家庭に直接設置

  • 都市ガス網がない地方や山間部にも展開可能

「火がないなら、タンクで持ってこい」
→ これが、戦後の“仮設エネルギー”としてのLPガスの誕生です。

◆5-2 最強の機動力:「どこでも使える」が革命を起こした

LPガスの最大の特長は、その柔軟性と即応性です。

  • 家庭の玄関先にタンクを1本置けばOK

  • 簡単な配管でコンロ・給湯器と接続可能

  • 電気よりも火力が強く、料理用途に最適

  • 災害時には最も早く復旧するエネルギー(阪神淡路・東日本大震災でも証明)

つまり、都市ガスが「大動脈」なら、LPガスは「毛細血管」あるいは「救急車」。
戦後の日本でエネルギー格差を埋め、地方に火を灯した立役者となったのです。

◆5-3 自由価格制とは何か?──市場原理と地域差の爆誕

ここで驚くべき点が1つあります。それは:

LPガスの料金は“自由価格制”である。

つまり:

  • 事業者が、地域事情・配送コスト・保守費用を加味して自由に設定

  • 国や自治体による料金上限・認可制度なし

  • 競合がいれば価格は下がる。いなければ…?

この制度は、自由競争と非効率が共存する珍しい公共料金モデルです。

実例:同じ県内でも…

  • A市:1m³=500円

  • B市:1m³=800円

  • C村:1m³=1,200円(業者1社のみ、山間地配送)

この価格差の正当化は可能ですが、利用者には“なぜ高いのか”が見えないのです。

◆5-4 LPガスの料金構成:見えにくい“隠れコスト”の構造

LPガス料金は、通常次のような構成です:


請求額=基本料金+従量料金(単価×使用量)+容器費・保安費など\text{請求額} = \text{基本料金} + \text{従量料金(単価×使用量)} + \text{容器費・保安費など}

でも実際は…?

  • 配送車両や人件費、災害対応費用が“暗黙のうちに”料金に反映

  • メーターや調整器の貸与料が“含まれている”ことが多い

  • 契約書に明示されない「囲い込み条件」(例:給湯器無料設置の代わりに高料金)も

つまり、価格の内訳がブラックボックスになりやすい構造があるのです。

◆5-5 なぜ「囲い込み営業」が成立したのか?──機器貸与の罠

1990年代以降、LPガス業界で広まった営業手法に「無償貸与」があります。

「給湯器・コンロ・風呂釜を無料で設置します」
→ でも、その後のガス料金が20年間契約で割高というケースが多発。

これは次のようなビジネスモデルです:

  • 機器原価:10万円

  • ガス料金:毎月+500円(上乗せ)

  • 利用期間:20年 → 合計12万円回収

この仕組みは法的には違法ではありませんが、長期的に割高になりやすいため、
2017年の消費者庁ガイドラインで「透明な説明義務」が課されるようになりました。

◆5-6 LPガスと防災:地味にすごい“最強インフラ”

災害時に最も復旧が早いのは、都市ガスでも電気でもなく、実はLPガスです。

理由:

  • 個別供給だから、地域全体の復旧を待たなくてよい

  • ボンベ交換で対応できる

  • 一時的な仮設住宅や炊き出しにも応用が利く

→ 実際、阪神淡路・東日本・熊本すべての大地震で、LPガスが“最初に火を灯した”記録があります。

◆まとめ:LPガスは「弱者の味方」か「価格の迷路」か?

この章で伝えたい本質は、以下に集約されます:

視点意味
インフラ補完都市ガスが届かない地域を支えた
自由価格制民間の創意と格差の源泉となる
不透明な料金ユーザーにとっては「納得の難しい支出」
災害対応危機時に最も信頼できるエネルギー

第6章:天然ガス革命と価格の国際化 ― ガス料金は、湾岸戦争や為替相場にも揺さぶられる時代へ ―

◆6-1 ガスは「石炭の残りカス」から、世界の主役へ

1970年代以前、世界のエネルギーの主役は石炭と石油だった。
天然ガスは文字通り「邪魔な副産物」であり、油田の近くで燃やして捨てられていた

しかし、2つの出来事がこの評価を一変させます。

  1. 冷戦構造下の欧州で、エネルギーの多様化が必要に

  2. 1973年と1979年のオイルショックで、石油への依存リスクが表面化

つまり天然ガスは「使いにくくて捨てられていた燃料」から、
「リスク分散と国際交渉の切り札」へと進化したのです。

◆6-2 LNGとはなにか?──液化という“魔法”がガスを海に出した

LNG(液化天然ガス)は、天然ガスを-162℃に冷却して液化したもの。
気体の600分の1の体積になるため、タンカーで長距離輸送が可能になります。

日本はこのLNG技術によって、ガスを“輸入できるエネルギー”に変えた世界初の国です。

日本のLNG導入スケジュール:

出来事
1969年アラスカから日本へ世界初のLNG船が到着(大洋石油→東京ガス)
1972年マレーシア・ブルネイと長期契約締結
1980年代オーストラリア、インドネシア、カタールなどから調達拡大

結果、日本の都市ガス供給の95%以上がLNGに依存する構造が完成しました。

◆6-3 JCCフォーミュラ:「なぜガス料金は原油価格で決まるのか?」

ここからが日本のガス料金の最大の謎にして核心です。

LNG契約の価格式(通称:JCCフォーミュラ)


PLNG=a×JCC+bP_{\text{LNG}} = a \times \text{JCC} + b

  • JCC(Japan Crude Cocktail):日本が輸入した原油の平均価格

  • a(スロープ):原油価格の変動に対する感応度(0.14~0.17程度)

  • b:輸送費、利潤などの固定コスト

つまり、日本のガス料金は、
「原油を輸入した月の平均価格」で上下するという仕組みなのです。

「なんでガスの値段なのに原油を見るの?」という問いには、以下の事情が絡みます。

◆6-4 なぜJCC連動になったのか?──日本特有の“安定主義”

1970年代、LNGを開発するためには、上流(ガス田・液化プラント)への莫大な投資が必要でした。

  • LNGプロジェクトは20年単位で回収する事業。

  • 投資家や銀行が「価格が安定しないと融資できない」と渋る。

  • 原油価格は当時、唯一の安定した国際価格指標。

こうして、**「原油価格に連動すれば金融機関が安心する」**という思惑が一致。

この安定志向が、日本のエネルギー輸入契約を**「長期固定+原油リンク」**に固定化させ、
その結果が、都市ガス料金の「燃料費調整制度」に組み込まれていきます

◆6-5 燃料費調整制度とは?──国際価格と請求書がつながる時代へ

日本の都市ガス料金は、次の構造で設定されます。


請求額=基本料金+(従量単価+燃料費調整額)×使用量\text{請求額} = \text{基本料金} + (\text{従量単価} + \text{燃料費調整額}) \times \text{使用量}

燃料費調整額とは:

  • 過去3ヶ月の平均LNG輸入価格に基づいて、従量単価に上乗せ・減額

  • 1ヶ月ごとに更新される(例:毎月の東京ガスのプレスリリース)

つまり、カタールで起きた政変が、3ヶ月後にあなたのガス代に跳ね返るのです。

◆6-6 価格のブラックボックス化:誰が“適正”を決めるのか?

都市ガス料金は「原価+適正利潤」で構成される「総括原価方式」が基本ですが、
ここに国際価格連動の「燃料費調整」が加わることで、“中身が見えにくくなる”構造が強化されます。

  • 為替の影響(1ドル=140円→160円になれば、LNGコストも上昇)

  • 契約スロープ(a)が非公開で、ガス会社間で異なる

  • 複数ソースのLNGをブレンドしているため、単価の算出根拠が複雑化

→ 結果として、**「なぜ値上がりしたかが説明されても納得できない」**という状態になりがちです。

◆6-7 変化の兆し:JCCからTTF/JKMへ、価格指標の覇権争い

2022年のロシア・ウクライナ戦争以降、世界のLNG契約は急激にJCC離れを始めています。

  • 欧州ではオランダのTTF(Title Transfer Facility)を基準とするスポット契約へ移行

  • アジアではPlatts JKM(Japan Korea Marker)が新たな指標として台頭中

現在、日本のLNG契約も、JCCリンク→JKMリンクや複合フォーミュラへの移行が進行中。

これはつまり、ガス料金が「原油」から「ガス自身」の市場へと自立していく過渡期を意味します。

◆まとめ:ガス料金は「世界のニュースと連動する請求書」になった

視点意味
LNG化ガスを輸入できる国にした技術革命
JCC連動金融機関に安心されるための“原油リンク”
燃料費調整国際情勢とガス代が1ヶ月ズレでつながる制度
指標の多様化TTF・JKM時代への移行と透明性の模索

 

第7章:ガス自由化と料金プランの多様化 ― 「ガスは選べない」常識が、ある日突然崩れた ―

◆7-1 電力自由化の“ついで”じゃない:ガス市場が解き放たれた日

2016年、日本では電力小売全面自由化が実施されました。
そしてその翌年、2017年4月1日――

日本の都市ガス市場がついに“開放”されました。

それまでの都市ガスは「認可料金制」、つまり
“政府のお墨付き”がないと値段を変えられない世界だったのです。

自由化とはつまり、こういうこと:

Before(規制時代)After(自由化後)
地域独占(東京ガスなど)競争参入(電力・石油会社も)
認可料金(国の承認制)自由料金(企業ごとの設計)
ユーザーは選べない自由に契約変更できる

「ガスは“使わせてもらってるもの”」から、
「自分で“選ぶもの”」へと意識が変わった歴史的転換点です。

◆7-2 驚きの事実:自由化1年目の乗り換え率は…わずか3%!?

自由化で市場が爆発すると思いきや――
乗り換えた世帯はたったの3%。

なぜ人々は動かなかったのか?

  • 電気のようにスマートメーターがまだ普及していない

  • 「ガス会社変えたらガス漏れとか怖くない?」という不安

  • 金額が月数百円単位 → 行動コストに見合わない

  • 「えっ、そもそも選べるって知らなかった…」

ガスは生活の“基底層”すぎて、あまりにも“空気”だった

この心理的障壁は、ガス自由化の最大の敵でした。

◆7-3 自由化後の料金プラン:ポイント、セット割、固定、変動…

自由化後に登場したのは、かつてないガス料金の“フルコース”

主なプランタイプ:

タイプ概要
従来型(従量+基本)従量単価+基本料金東京ガス、東邦ガスなど
ポイント付与型使用量に応じてTポイント・dポイントなどが貯まるニチガス、ENEOS都市ガスなど
電気とのセット割電気・ガスを同時契約で割引、請求も一本化Looopでんき+ガス、東急パワーサプライ
定額制月額固定で一定使用量まで使い放題(過剰使用時加算)一部プロパン事業者、実証中
市場連動型卸価格(JKMやTTF)に連動し、月ごとに価格が変動業務用LNG・一部VPP用途

◆7-4 契約書のワナ:よく見ると「●●年縛り」あり?

自由化で参入した多くの事業者は、ガスの料金プランに最低契約期間を設けました。

「●年間契約を途中解約すると違約金が発生します」

これは、電気・携帯電話と同じ「サブスク縛り」モデルですが、
日常のガス供給に紐づいているだけに、心理的な圧力が強い

さらに問題なのは:

  • 違約金額が分かりにくい

  • 特典とのバーターになっていて、注意書きが埋もれている

  • 自動更新で継続されるパターンが多い

契約の透明性が消費者保護の論点になり、2020年以降、
消費者庁・経産省が複数回にわたりガイドラインを更新しています。

◆7-5 実質的な価格競争は“セット割”と“心理戦”

ガス単体での価格差は月数十円〜数百円レベル。
そこで主戦場となったのが:

  • 電気とのセット割

  • ポイント経済圏への組み込み

  • 「安心・信頼感」ブランド戦略

つまり、ガス自由化とは「価格戦争」ではなく、
“誰にライフラインを預けるか”という信用戦争でもあるのです。

例:ガス自由化後に選ばれやすい事業者の特徴

  • すでに電気を提供していてワンストップで手続き可能

  • サポートがLINEでできる・チャットボット対応

  • 災害時の対応力(実績アピール)を重視

◆7-6 料金比較サイトも登場:でも「意味がわからない」という声多数

現在では、以下のようなサイトで料金シミュレーションが可能です:

しかし、実際に使ってみたユーザーの声は――

「計算式がよくわからない」
「結局どれがお得かピンとこない」
「乗り換えるほどの金額差じゃない」

→ これは、ガス料金の構造が複雑すぎる上に、見せ方が悪いことを意味しています。

◆まとめ:ガス自由化とは、“見えない競争”との戦いである

テーマ本質
自由化の意義料金競争より「選べること」そのものが革新だった
最大の障壁ユーザーの「何が変わるの?」という心理的無関心
本当の競争価格ではなく、「安心・信頼・サポート品質・ブランド」戦争
今後の課題情報開示の透明性、複雑な契約条件、行動促進のデザイン

第8章:地方ガスと地域密着型料金設計の真価 ― 価格だけじゃない。“うちのガス屋さん”が生き残る理由とは? ―

8-1 「地方ガス」とは何者か?──“顔が見えるインフラ”の正体

まず、地方ガス=小規模ガス事業者、というのは誤解です。

日本には現在、約200の都市ガス事業者がありますが、そのうち大手3社(東京・大阪・東邦)を除く
約9割が中小規模で、かつ地域密着型なのです。

地方ガスの特徴:

  • 一市町村内でしか展開していない(独自導管)

  • 顧客数:数千〜数万件規模

  • 供給量:1日数万m³前後

  • 大都市ガスからLNGを購入して地域内に再供給(いわゆる“二次供給”)

つまり、ガス自由化で競争が始まっても、**競争相手は“全国企業”ではなく“隣町のガス屋さん”**なのです。

◆8-2 料金表だけでは語れない、地方ガスの“地域モデル”

地方ガス事業者の強さは、**料金単価だけで比較できない“信頼・物語・顔の見える関係性”**です。

典型的なエピソード:

  • 「おばあちゃんのガスが止まってたら、体調が悪いサインかも」と検針員が自治体に連絡

  • 災害時、ガス会社のトラックが避難所でボンベ貸出・炊き出しサポート

  • 正月に地元消防団と一緒に“ガス火災予防回覧板”を持って地域巡回

このように、地方ガス=インフラ+コミュニティデザインという二重構造で機能しているのです。

◆8-3 料金プランの構造:安さより「納得感」が価値

地方ガス料金の主な構成:


請求額=基本料金(800〜1,200円)+(単価(200〜400円/m³)×使用量)\text{請求額} = \text{基本料金(800〜1,200円)} + (\text{単価(200〜400円/m³)} \times \text{使用量})

しかし重要なのは“数字”よりも“説明”です。

  • 年1回、料金改定の理由を手紙で全顧客に説明

  • 原価構成(LNG価格、保守費用など)を回覧板で告知

  • 顧客アンケートをとって単価スロープ(逓減率)を毎年微調整

→ このような“料金透明性と参加型設計”が信頼の源泉になります。

◆8-4 「点検と安心の一体提供」がガス屋の本分

地方ガスのもうひとつの柱は、「供給だけで終わらない」こと。

サービスメニュー:

  • ガス機器の無料点検・掃除(年1回)

  • 高齢者宅の“ガス漏れ検知器”の取り付けと定期確認

  • トイレ・浴室・給湯器などの修理・交換にも即日対応

つまり、ガス=住まいの保守屋さんでもあるのです。

LPガスと違い、導管を引いたガス会社は「ガスが出るか出ないか=命綱」の責任を持ちます。
そこには、単なるエネルギー供給ではない“家族的責任”が生まれます。

◆8-5 自由化の衝撃:顧客を守るのか?奪い返すのか?

2017年の都市ガス自由化により、楽天・ENEOS・Looopといった新興勢が各地に参入。
地方ガスも例外ではなく、「自分の町の顧客が外資系企業に奪われる」現象が起き始めました。

地方ガスの対抗策:

  • 「地元応援割」:地元商店街で使えるポイント還元

  • 「災害復旧保証」:災害で供給が止まっても基本料金免除

  • 「顔が見える無料相談窓口」:電気・水道との切替も一緒に相談可能

これにより、多くの地域では**“防衛的囲い込み”ではなく、“信頼ベースの選ばれる戦略”**が実施されています。

◆8-6 “消滅可能都市”におけるガス事業の未来

地方ガスにとって最大の試練は、人口減少と高齢化です。
「ガスの需要が減る」のではなく、**「ガスを使う人がいなくなる」**という根本的問題。

対策として動いていること:

  • 小中学校の家庭科授業で「ガス調理体験」実施

  • ガス管延伸より“集落移転計画”に参加して住宅密集地再編

  • 他インフラ(下水道、通信)との統合維持管理体制を検討中

地方ガスは今、エネルギー事業者から**“地域プラットフォーム”事業者**への進化を目指しているのです。

◆まとめ:「料金」は“地元を守る約束”でもある

視点意味
地方ガスの本質エネルギー供給+暮らしの安心パートナー
料金の設計納得感・参加感・持続性のトリレンマ構造
自由化対応全国企業との価格勝負ではなく、信頼戦略
今後の挑戦地域の縮小と向き合いながら新たな価値を創出すること

第9章:LPガス料金の謎と構造的不平等 ― なぜ同じ日本で、1m³あたり300円と1,200円が共存するのか? ―

◆9-1 「自由価格制」なのに、なぜ価格が高止まりするのか?

日本のLPガス(プロパンガス)は、都市ガスと異なり完全自由価格制です。
つまり、国や自治体の「認可」がなくても料金は自由に設定できる。

ならば、普通は競争が働いて価格は下がるはず。
しかし――

なぜか、地方では「1m³あたり1,000円を超える」ような高額料金が横行している。

この謎に迫るには、まずLPガス業界の供給構造を見てみましょう。

◆9-2 LPガスの流通構造:見えない“多重マージン”の世界

LPガスの供給は、複数の階層で成り立っています。

LPガスの典型的な流通ルート:

  1. 海外(中東・米国)→ LPG輸入元売会社(ENEOSグローブ、Astomosなど)

  2. 卸売事業者(地域大手)

  3. 二次卸・代理店(地方中小商社)

  4. 販売事業者(ガスボンベを家庭に届ける)

  5. ユーザー(家庭・飲食店・施設)

→ この間にマージンが4〜5段階積み重なる構造に。

問題点:

  • ユーザーは「誰がどこでいくら取ってるか」を知ることができない

  • メーカーから販売会社までの価格が非開示(=情報の非対称性)

◆9-3 料金が“自由”すぎて、「同じ通り」で2倍差も

LPガスの料金は、販売事業者が自由に設定できます。
そのため、同じ町内会でもこうした事例が起きます:

家庭契約事業者1m³あたり料金コメント
Aさん地場A社360円地域最安、自家配送
Bさん全国系B社580円広告付きで参入
Cさん小規模代理店1,050円給湯器を無料設置された契約

→ 料金の違いが、契約条件、配送距離、商習慣、設備貸与などに埋もれて
「比較できない状態」が放置されているのです。

◆9-4 「機器無償貸与」の実態:無料じゃなかった無料

LPガス業界で頻繁に使われる営業手法が、「無償貸与」。

「ガス給湯器、コンロ、風呂釜を無料で設置します」
→ 実際は、その費用がガス料金に“毎月500円ずつ”乗ってくる。

これは長年、業界内では“常識”でしたが、一般消費者には知られておらず――

  • 契約書に明記されないことが多い

  • 一度契約すると「解約費」や「撤去費」が数万円かかる

  • ガス会社を乗り換えようとしても「設備が他社対応していない」

消費者庁の見解(2020):

  • 十分な説明なく継続課金されている場合は「不当表示」

  • 「無償」と言うには料金への影響を明示すべき

  • 適正料金に関するガイドラインの整備を推奨

◆9-5 「料金を下げたい」と思ったら、まず確認すべき3つのこと

LPガスユーザーが料金を見直す際、以下のステップが重要です:

  1. 検針票の単価をチェック(1m³あたり)

    • 400〜600円が全国的な相場。800円を超えていたら要注意。

  2. 「基本料金」+「容器使用料」+「警報器リース料」などの項目有無を確認

    • 分割されて記載されている場合も多く、合算で1,500円以上になっていないか?

  3. 機器貸与の契約内容を確認

    • 無償貸与が継続されているか?買い取りできるか?

◆9-6 業界の反論と改善の動き:「価格が高いには理由がある」

LPガス業界にも事情があります。

よくある反論:

  • LPガスは個別配送(人件費+車両コスト)で固定費が高い

  • 地方山間部では配送効率が悪く、都市ガスよりコストが3倍以上

  • 保安管理(定期点検・警報器)も全て事業者負担

  • 配送員が“見守り”を兼ねているという社会的機能

改善の動き:

  • 2022年より「料金透明化ガイドライン」改定

  • 検針票に“総合単価”の明示を義務づける動き

  • 一部地域では“LPガス料金比較”Webポータルも誕生(例:プロパンガス料金消費者協会

◆まとめ:LPガス料金は「構造的に見えにくい公共価格」である

視点本質
自由価格制市場原理が働く“はず”が、実は構造上働きにくい
複層流通多段階マージンと非開示が価格透明性を損ねる
貸与契約無償の名を借りた長期的囲い込み
改善の兆しガイドラインとデジタル情報開示が希望の鍵

第10章:脱炭素時代のガス料金戦略  ― ガスの“ぬくもり”が炭素排出とどう向き合うのか? ―

◆10-1 「天然ガス=クリーン」はもう古い?

かつて、天然ガスは「石炭よりクリーン」「石油よりCO₂が少ない」エネルギーとして、
**地球にやさしい“橋渡し燃料”**と称されていました。

しかし今――

「そもそも燃やせばCO₂が出る」
「メタン漏れはCO₂の25倍の温室効果がある」
「気候変動対策として“ガスでさえ”排除されつつある」

という認識が世界中に広がり、天然ガスは一気に“炭素課税対象”へと押し出されつつあります。

◆10-2 カーボンプライシングとは何か?──炭素に“値段”をつける時代

脱炭素時代における最重要概念の一つが、カーボンプライシングです。

代表的な制度:

制度概要
炭素税CO₂排出量1トンあたりに固定の課税(例:2,000円/t)
排出量取引(ETS)国が企業に排出枠を割り当て、取引可能に(EU ETSが代表)
燃料別課税石炭>石油>ガス のように燃料ごとに税率設定

→ ガス料金にも、「排出に応じた炭素価格」が乗る日が来るということです。

◆10-3 都市ガス料金に炭素コストをどう組み込むか?

仮に炭素価格がt-CO₂あたり3,000円に設定されたと仮定すると、
天然ガス(LNG)は1m³あたりCO₂約2.2kgを排出するため、


炭素コスト=2.2kg×3円/kg=6.6/m3\text{炭素コスト} = 2.2 \text{kg} × 3 \text{円/kg} = 約6.6円/m³

→ これは、現在の都市ガス単価(150〜250円/m³)の約3%〜4%に相当。
たったこれだけと思うかもしれませんが、全世帯・全業務用に課されると莫大な総額になります。

料金に組み込む方式:

  • 基本料金に「炭素対策費」として上乗せ

  • 従量料金の中に「環境調整額」として吸収

  • CO₂排出係数ごとに段階課税(例:合成メタンは非課税)

◆10-4 “炭素差別化”の時代:ガスにも「緑・青・灰色」がある

今後は「どのガスか」によって、料金構造が変わる時代になります。

ガスの種類説明炭素価格課税の対象か?
灰色ガス(グレー)通常の天然ガス。CO₂排出あり◎ 課税対象
青ガス(ブルー)CO₂回収(CCS)を組み合わせたガス◯ 課税軽減・補助対象
緑ガス(グリーン)バイオガス・合成メタンなど再生可能ガス△ 非課税または優遇

実務的インパクト:

  • ユーザーが「どの色のガスを使っているか」で料金が変動

  • 小売ガス会社がガス原料を分別管理し、料金体系に反映する必要あり

  • 今後、“ガスの成分表示”が当たり前になる可能性も

◆10-5 ガス会社の生き残り戦略は「脱ガスではなく再定義」

脱炭素の波が「ガス業界終了論」を煽るなか、
本当に必要なのは、“脱”ではなく再定義です。

戦略的方向性:

  1. グリーンガスの仕入れ・混合・販売体制の構築

    • バイオメタンの地産地消モデル

    • 下水汚泥・食品廃棄物由来ガス

  2. 需要家との“CO₂コミュニケーション”

    • 「あなたの家庭のCO₂排出量は月○○kg」

    • 「低炭素ガスに切り替えると年間○○円+○kg削減」

  3. 炭素スコア連動料金メニューの開発

    • CO₂排出量を“見える化”して還元(例:Eポイント、カーボンバウチャー)

◆10-6 料金制度の未来形:「エネルギー+気候コスト+社会貢献」の三重構造

将来的には、ガス料金は以下のような“多層化構造”になると考えられます:


請求額=供給コスト+炭素コスト+レジリエンス・地域貢献費\text{請求額} = \text{供給コスト} + \text{炭素コスト} + \text{レジリエンス・地域貢献費}

構成要素目的
供給コスト実際の燃料・配送・管理費
炭素コストCO₂排出に応じた環境負担
レジリエンス加算費用災害対応、見守り、地域雇用維持等

これにより、ガスは単なる“熱源”から、生活の価値選択そのものへと進化していきます。

◆まとめ:「ガス料金=熱+責任+未来」の時代へ

テーマ本質
カーボンプライシングガスの“隠れたコスト”を価格に反映させる仕組み
ガスの多色化成分と起源で価格が変わる新しいガス市場
料金の再構成燃料費だけでなく「社会的責任コスト」も見える化
顧客との共創料金は生活者と地球の対話になる

第11章:よくある誤解とガス料金の新常識 ― 「ガスは高い」「プロパンはぼったくり」…その“思い込み”、根拠ありますか? ―

◆11-1 「LPガスは高い」って本当? → 一概には言えません

多くの人が「プロパンは都市ガスより高い」と言います。
確かに、単価だけを比べれば、1.5~2倍というのは珍しくありません。

でも、ここが誤解:

  • 都市ガスは導管工事ができる人口密度と地形が前提

  • LPガスは山間地・離島・新興住宅など“都市ガスが来ないところ”が守備範囲

  • 配送・保安・設置まで一体の「訪問型インフラ」であり、料金に“人件費と柔軟性”が含まれている

つまり、「プロパンは高い」というより、**“届けるのにお金がかかる場所でしか使われない”**という現実のほうが大きいのです。

◆11-2 「自由化でガス料金は安くなった」→ 本当にそうでしょうか?

都市ガスの自由化(2017年)で、「料金が安くなる」と思った人は多いはず。

でも実際は:

  • 平均的な乗り換え世帯での節約額は月100〜300円程度

  • 比較サイトがあっても「従来料金より何円安いのか」がわかりにくい

  • そもそも「乗り換えたことを覚えていない」人も多い

→ 自由化は選べるようになっただけで、劇的な料金変化を約束する制度ではないのです。

◆11-3 「うちは昔からこのガス会社だから安心」→ それ、見直す価値あります

「親の代からずっと契約してる」「地域の付き合いだから…」という理由で、
料金の見直しをしていない世帯が圧倒的に多いのがLPガス。

でも:

  • 同じ事業者でも「契約した年・タイミング」で料金がまるで違う

  • 最近契約した近隣住宅の方が1m³あたり300円安いことも

  • 古い契約には「無償貸与」「縛り」「解除料」など不利な条件が残っている可能性も

→ 地元愛は大切。でも、料金が“その価値に見合っているか”は別問題です。

◆11-4 「ガス会社を変えるのは危ない」→ 技術的には安全に設計されています

「ガス会社を変えるとガス漏れが心配」「つなぎ替えのときに事故が起きそう」
そういう不安をよく耳にします。

しかし、実際には:

  • 都市ガス:切替時も同じ導管網を使う(供給事業者は変わらない)

  • LPガス:容器交換・調整弁付け替えは国家資格保有者が実施

  • 切替には「閉栓確認」「漏えい試験」「再点火確認」が義務化されている

→ 技術的には乗り換えは“給湯器のメーカーを変える”よりも安全にデザインされているのです。

◆11-5 「ガス代が高いのは冬だから」→ 実は“単価”が上がっていることも

冬は使用量が増えるので、請求額が上がるのは当然。
しかし、実は**“従量単価”自体が上がっている**ことも珍しくありません。

その仕組み:

  • ガス会社はLNG・LPガスの仕入れ価格を毎月見直している

  • 原油価格や為替の影響で仕入れコストが変動

  • それに応じて「燃料費調整額」が加算されている

→ だから、「同じ使用量でも請求額が違う」ことは十分あり得る。
重要なのは“使用量”だけでなく“単価”を見ることです。

◆11-6 「どこまでがガス代?」→ ガス料金の“見えにくい内訳”に注意

特にLPガスでは、請求書の記載が不透明なことが多いです。

見逃されがちな費用項目:

  • 基本料金:契約時に一律でかかる固定費(800〜1,500円)

  • 容器リース料:毎月300円前後が別名目で記載

  • 保安サービス料:点検・検知器使用料など(500円前後)

  • 設備更新協力金:名目は様々だが実質上乗せ

→ これらをすべて含めると、「1m³あたりの実質単価」が跳ね上がっているケースも。
検針票に記載されていない料金の存在にこそ、最大の“ガス料金の落とし穴”があります。

◆まとめ:ガス料金の“新常識”10ヶ条

No新常識解説
1単価だけでなく“請求構造”を見よう隠れ費用が実質単価を押し上げる
2プロパンは高いのではなく“条件が違う”自由価格+配送+保安含みの価格
3長年契約=安心とは限らない古い契約には不利な条件が残ることも
4自由化で安くなるとは限らない利便性や安心が選択基準になる時代
5安全性は“構造的に担保”されている切替時の法定検査が整備されている
6セット割に騙されない電気+ガスでもトータルで本当に安い?を見極めよう
7比較サイトだけで決めないシミュレーション条件に注意
8月ごとに“燃料調整費”が変動している原油・為替で単価が動く時代
9問い合わせの対応品質も重要困った時にすぐ対応してくれる事業者か?
10「生活とガスの関係」を再定義しよう価格だけでなく、安心・快適・災害対応も含めて考える

第12章:未来のガス料金をつくる ― 再エネ・AI・地域社会とつながる「脱カロリー経済」の価格設計 ―

◆12-1 「カロリー単価」だけでは、これからの価値は測れない

ガス料金の基礎単位は「円/m³」、つまり燃やして得られる熱量あたりの価格です。
だが、未来の社会では単に「熱を供給する」だけでは、価値を評価しきれない

なぜか?

  • 同じ1m³でも「CO₂を出さないガス」と「出すガス」がある

  • 同じエネルギーでも「高齢者を見守る配送型ガス」と「無人の供給」では意味が違う

  • 家庭のエネルギー選択が“生活の意思表示”になる時代が来る

よって、未来のガス料金は“カロリー × 倫理 × サービス品質”で決まるようになるのです。

◆12-2 再エネ由来の「グリーンガス」はプレミアムなのか?スタンダードなのか?

「バイオメタン」や「合成メタン(e-Methane)」などの再生可能ガスが実用化され始めています。
これらはCO₂排出が実質ゼロまたは極小であり、将来的には都市ガス網に直接注入する構想も進行中。

料金制度上の選択肢:

モデル説明利点課題
プレミアム課金型通常ガスより高価だが選択できる購入者が脱炭素貢献可能普及に時間
全量グリーン化&一律料金全利用者に一律で転嫁普及が早い高額負担に反発リスク
ハイブリッド選択型一部グリーンを選択可能にし報奨(P2P連携等)柔軟性がある認証制度が必要

最も重要なのは、“ユーザーが選べる”こと。
未来のガス料金は**「炭素と選択の履歴書」**になるでしょう。

◆12-3 AIとスマートメーターが「時間帯別・家庭別の価格」を実現する

既に電気料金では始まっている「時間帯別料金(TOU)」や「需要連動価格(DR)」は、
ガスにも波及する可能性があります。

近未来のイメージ:

  • 夜間:給湯器や床暖房の“お得な時間”通知がスマホに届く

  • 冬のピーク時:一時的な価格上昇 → 避けた家庭にはポイント還元

  • AIが天気・気温・家族の在宅状況を分析して“最適ガス使用パターン”を提案

これは単に節約だけではなく、都市全体の負荷平準化と脱炭素にも貢献するインセンティブデザインです。

◆12-4 未来の料金モデルは“エネルギーのサブスク化”か?

「ガスは使った分だけ払う」という“従量課金モデル”は、不安定な時代に向かないという指摘もあります。

次世代のモデル案:

モデル内容利点課題
月額定額制月●円で使い放題(上限あり)家計予測がしやすい過剰使用の可能性
二段階制基本使用量まで定額+超過分課金予算に合うシミュレーションが必要
ライフスタイル別一人暮らし・共働き・高齢者向けなど利用実態に合う運用が複雑

→ AI・スマート家電との連携が進めば、“自動最適料金プラン”が毎月提案される世界が現実になります。

◆12-5 ガス料金は「地域社会」への貢献値も含むようになる

ガスは火力・暖かさ・料理…という“家庭の温度”だけでなく、
地方では「見守り」「災害対応」「コミュニティ支援」という**“社会的インフラ”**として機能しています。

だからこそ、将来のガス料金は:

  • 単なる使用量に応じた対価ではなく、

  • 地域レジリエンスや雇用支援を反映した**「共助料金モデル」**へ進化する

未来の請求書には、こう書かれているかもしれません:

「あなたの今月のガス使用によって、町内の高齢者見守り支援が2件行われました」

◆12-6 未来を“つくる”ユーザーになる:選ぶ・応援する・変える

最後に、ガス料金の未来を本当に形づくるのは、私たち一人ひとりの選択です。

これから私たちにできること:

  • 今の契約内容を見直し、「なぜこの料金なのか」を知る

  • カーボンニュートラルなガスを選ぶ意志を持つ

  • 「安さ」だけでなく「安心・環境・地域貢献」でガス事業者を選ぶ

◆まとめ:未来のガス料金は、「社会と暮らしの再設計料」である

視点意味
再エネとの統合ガスは“電気と対抗”ではなく“連携”の時代へ
サブスク化家計の不安定さに対応する“安心料金設計”
地域連携ガス料金に“災害対応・見守り”の社会価値を加算
炭素透明性家庭単位でのCO₂“見える化”と報酬化

この教科書シリーズを読んだあなたへ

ガス料金は、単なる「光熱費の1項目」ではありません。
それは、エネルギーと地域、テクノロジーと文化、そしてあなたの選択と未来をつなぐ「社会の値札」です。

スピンオフ①:《図解版・未来のガス料金マップ》

対象:経営者、政策担当者、ガス事業戦略責任者

構成案:

  1. ガス料金の構造図(現行 → 準未来 → 完全脱炭素型)

  2. 「燃料費」から「社会的共益費」へ変化する料金モデル

  3. カーボンプライシング × グリーンガス × サブスク制の三軸マトリクス

  4. 国内外の料金モデル比較(日本/欧州/北米/ASEAN)

  5. 未来料金設計のユースケース(世帯、事業所、自治体)

特徴:
マンダラチャート/レーダーチャート/料金分解図などを多用し、戦略検討に即活用可能。

スピンオフ②:《業種別・法人向け脱炭素型ガス料金戦略ブック》

対象:工場、商業施設、自治体、病院、ビルオーナー

構成案:

  1. ガス使用業種別CO₂排出実態と料金傾向(厨房/ボイラー/給湯/冷暖房)

  2. グリーンガス切替によるCO₂削減メリットと収益化(JCM、排出権)

  3. 炭素価格が年間コストに与える影響シミュレーション

  4. 契約形態別(託送供給/オンサイトLNG/共同調達)コスト最適化戦略

  5. 【事例】地域連携型のゼロカーボンモデル(小売+法人+行政連携)

特徴:
IR資料・助成金申請・入札書類に活用できる論理設計。CO₂単価とエネ単価の“二重最適化”を解説。

スピンオフ③:《小学生にも伝わる!ガスと社会の大冒険》

対象:子ども、親子、学校、教育系メディア

構成案(ストーリー形式):

  • 主人公「プロくん(プロパン)」「ナチュ(天然ガス)」「ソウくん(合成メタン)」がガスの世界を旅する

  • 戦争中にガスが国を支えた時代、自由に選べるようになった今、そしてカーボンニュートラルの未来へ…

  • 「どうしてガスの値段は変わるの?」「なぜガス会社が地域を守っているの?」など疑問に答える

  • 最後に“未来のガス会社社長”になるミッションを体験(読者参加型)

特徴:
脱炭素教育、エネルギーリテラシー、地域社会理解を子ども視点で学べる教材型ブログや絵本にも展開可能。

 

図解版・未来のガス料金マップ ― カロリー単価から「社会契約型料金設計」へ ―

対象読者:

ガス事業者/経営戦略担当/地域エネルギー政策設計者/脱炭素計画責任者


第1章:イントロダクション──ガス料金は社会の“再分配”インフラである

🔍 本章の主張:

  • ガス料金は単なる熱量あたりの価格ではない

  • 地域・環境・災害・高齢化に対応した再分配設計機能を担い始めている

  • 将来の料金モデルは、「誰が」「どこで」「なぜ」使うかを織り込む社会契約型料金へ進化する

📌 キーメッセージ:

  • エネルギーの価値=「供給+倫理+共助+レジリエンス」

  • ガス料金は「金額」ではなく「設計思想」として再定義される

  • 本書はその設計と実装のための「視覚言語化マップ」である

第2章:現行料金モデルのマッピング ― 都市ガス、LPガス、そして制度の“暗黙の設計思想”を可視化する ―

2-1 なぜまず「構造を図解する」必要があるのか?

ガス料金を未来型にデザインするには、まず
「今のガス料金が何で構成されているか」を、誰もが理解できるレベルで見える化する必要があります。

  • 単価の裏にはどんなコストがあるのか?

  • どの部分が自由で、どこが規制なのか?

  • なぜ“同じガス”なのに世帯で料金が違うのか?

答えは、「料金の見た目は似ていても、“制度思想”が根本的に違う」から。

都市ガスモデル(都市部の大手事業者)の料金構成

💡図解:都市ガス料金のレイヤー構造(概念マップ)

都市ガス料金(請求額) =
  基本料金 +
  { 従量料金単価
    + 燃料費調整額
    + 炭素コスト(予定)
    + 輸送損失補正(地域変動)
  } × 使用量

【特徴】

項目内容
総括原価方式設備・人件費・減価償却費に基づいた“事業者の原価回収”が主目的
認可制料金改定には経産省や自治体の審査・認可が必要
燃料費調整制度LNGの仕入れ価格に応じて従量単価が毎月変動
炭素コスト(未実装)将来的にはCO₂排出1トンあたり数円~数百円の加算が検討されている

2-3 LPガスモデル(自由価格)の料金構成

💡図解:LPガスの典型的な請求構成

LPガス料金(請求額) =
  基本料金(メーター・保安含む)+
  { 従量料金単価
    + 配送コスト(暗黙)
    + 機器貸与費(上乗せ)
    + 見守り・検針費(内包)
  } × 使用量

【特徴】

項目内容
完全自由価格制ガス会社が自由に単価を設定可能(国の認可不要)
機器貸与モデル給湯器・コンロを無償設置 → 料金に長期で分割上乗せ
配送型供給個別配送・訪問点検・災害時バックアップが料金に反映
不透明構造利用者に価格設定根拠や内訳が伝わりづらいケースが多い

2-4 比較マップ:都市ガス vs LPガス vs 未来型モデル

比較項目都市ガスLPガス未来型構想モデル(案)
料金制度方式総括原価+認可自由価格制ハイブリッド(炭素+地域連携+社会コスト)
コスト開示性可視化・ダッシュボード連携型
CO₂排出表示未対応一部業者で試行全契約で可視化+スコア課金
地域連携/共助設計一部(災害時減免)高(見守り・配送連携)レジリエンス加算・SDGs割引など対応
価格の決定主体行政+事業者完全に事業者事業者+ユーザー選択制+AI介入

2-5 現行モデルを見直す3つの視点

  1. 構造の「透明性」

    • 単価の裏に何があるか?何に支払っているか?が利用者にわかる設計か

  2. 意思反映の「自由度」

    • 契約者が「脱炭素ガスにしたい」「災害対応力を評価したい」など選べるか

  3. 社会的価値の「内包」

    • ただの供給料金だけでなく、地域・気候・ケアへの貢献要素が入っているか

第3章:未来モデル1 – 脱炭素スコア連動型料金設計 ― CO₂排出量が“価格”になる時代の、ガス料金とは何か? ―

◆3-1 なぜ「脱炭素スコア連動型料金」が必要なのか?

日本のガス料金制度はこれまで、主に「原価回収+需要量+制度安定性」の3要素で組み立てられてきました。
しかし、脱炭素・2050年ネットゼロの社会においては、これに**第4の軸「炭素責任」**を加える必要があります。

これからは「何m³使ったか」ではなく、「何kgのCO₂を排出したか」で価格が決まる。

◆3-2 基本ロジック:CO₂排出係数 × カーボンプライス = 炭素価格

例)都市ガスの1m³あたりのCO₂排出量:約2.2kg

仮に炭素価格(カーボンプライス)が1kg-CO₂あたり4円と設定されると…


炭素加算額=2.2kg×4円/kg=8.8円/m³\text{炭素加算額} = 2.2 \text{kg} × 4 \text{円/kg} = 8.8 \text{円/m³}

この加算を料金体系に組み込むことで、排出量の多いユーザーほど負担が増える
排出を抑える努力にインセンティブが働くという構造になります。

◆3-3 モデル案:3段階の脱炭素スコア連動課金モデル

スコア帯排出量基準(CO₂/m³)説明課金イメージ
グリーン帯≦ 1.0kg再生可能・バイオガス中心免除または報酬型還元(-5円)
ノーマル帯1.0~2.5kg通常LNG利用層炭素価格加算(±0円)
ハイカーボン帯≧ 2.5kg排出多・旧式設備中心加算(+8〜12円/m³)

◆3-4 ユーザーインターフェースの未来像

  • 月々の請求書に「今月のCO₂排出量」と「炭素評価スコア」が記載

  • アプリで前年同月比、地域平均との比較が可視化

  • 排出量が少ないほど「CO₂ポイント」が貯まり、地域通貨や寄付に還元可能に

ガス代は「CO₂家計簿」としての役割を担うようになる。

図解案①:脱炭素スコア連動型料金マップ(円/m³の構造分解図)

┌──────────────┐
│ 請求額(円/m³)         │
├────┬────┬────┤
│ 基本従量単価 │ 燃料費調整 │ 炭素スコア加算│
├────┴────┴────┤
│ グリーン帯:マイナス還元        → 145円/m³    │
│ ノーマル帯:現状維持           → 150円/m³    │
│ ハイカーボン帯:加算            → 162円/m³    │
└──────────────┘

図解案②:ユーザー別炭素スコア分布 × 単価変動グラフ

Y軸=円/m³
X軸=月間CO₂排出量
3色でゾーン化(緑・青・赤)し、料金がどのように変動するか可視化
→ 企業説明/自治体向けプレゼン/事業者マニュアルに活用可

PPTレイアウト案(3スライド構成)

スライドタイトル内容案
Slide 1なぜ“炭素連動型”料金が必要なのか?カーボンプライス導入背景、国際動向、法制度の近未来性を整理
Slide 2スコア連動料金モデルの構造上記3帯制モデルをグラフィック+具体料金で説明
Slide 3実装の流れと期待効果料金の透明化/CO₂削減効果/利用者意識改革の可能性をストーリーボード化

第4章:未来モデル2 – 選択可能グリーンガス・オプション設計 ― 「CO₂ゼロの火を選ぶ」という新しいライフスタイル提案 ―

◆4-1 再生可能ガスの時代、「選べること」が価値になる

グリーン電力と同じように、ガスにも**再生可能エネルギー由来のガス(グリーンガス)**が登場しています。

  • 下水処理場由来のバイオメタン

  • 食品廃棄物や家畜糞尿由来のリサイクルガス

  • 再エネ由来の水素+CO₂から合成されるe-methane(合成メタン)

これらは燃やしても“実質CO₂ゼロ”とみなされ、
脱炭素時代の新しい選択肢として脚光を浴びています。

◆4-2 オプション設計の基本構造:グリーン率選択+プレミアム加算

サービスモデル例(選択式):

オプション名称グリーン比率月額追加料金効果
エコライト10%+100円意識表明レベル。子育て・学生層向け
エコベーシック30%+280円平均的な家庭のCO₂20%削減
エコプレミアム100%+800円完全脱炭素家庭用パッケージ(企業CSRにも)

補足:

  • プレミアム料金はバイオメタン仕入れ+原産地証明管理+J-クレジット活用費を含む

  • 証明書(Green Gas証書)をアプリやWebで閲覧可能

◆4-3 ユーザーにとっての心理的・実利的メリット

心理的メリット:

  • 「環境にいいことをしている」という納得と誇り

  • 子どもや友人にも“伝えたくなる行動”としての社会的選択

  • 節約だけでなく「価値で選ぶ生活」へのシフト

実利的メリット:

  • 自治体によってはグリーン選択者に地域ポイント還元

  • 企業や賃貸住宅では「環境配慮アピール」要素として活用可

  • 将来の炭素税に先んじた対応として、コストを予測可能化

◆4-4 導入の鍵は「可視化」と「証明性」

実装時の必須設計項目:

  1. グリーンガス由来証明(デジタル)

    • 供給元情報(例:○○市下水バイオガス)

    • 対象期間・使用量に応じた紐づけ

  2. ユーザー通知

    • 請求書/アプリに「今月は○%が脱炭素ガス」と明記

  3. 外部連携(任意)

    • 電力グリーン証書/自治体ポイント/脱炭素型住宅評価等と連携可

図解案①:グリーンガス選択モデル – 料金構成のレイヤー表示

[従来料金]
┌────────────┐
│ 基本料金+従量単価(燃料費連動)     │
└────────────┘

[選択式]
┌────────────┐
│ +グリーンガス料金(任意オプション) │
│ +地域還元ポイント(利用実績による)  │
└────────────┘
→ 合算請求へ

図解案②:グリーン比率 × 料金加算 × CO₂削減量 相関チャート

| X軸:グリーン比率(%)
| Y軸左:月額プレミアム料金(円)
| Y軸右:CO₂削減量(kg/月)

→ 「10%でこれだけ減る」「100%だと年間CO₂ 120kg減」など、
脱炭素スコアと価格の“見える化”ツールに。

PPTレイアウト案(3スライド構成)

スライドタイトル内容案
Slide 1再エネ時代の「選べるガス」構想なぜガスも脱炭素型オプション化が必要かをストーリーで提示
Slide 2グリーンガス料金設計の3モデル実装例+課金構造+スコア制(図解)
Slide 3ユーザー体験と証明性UI・証書・アプリ通知などのUXイメージを含むビジュアル構成

第5章:未来モデル3 – 地域・災害・共助対応型ガス料金設計 ― ガス料金は“もしも”の時に守ってくれる社会保険になれるか? ―

◆5-1 ガス事業者は“地域の守護者”だった

災害が起きたとき、最初に避難所にガスコンロやLPボンベを運び込むのは――
多くの場合、「地元のガス会社」です。

実際のエピソード:

  • 東日本大震災後、LPガス事業者が避難所300箇所以上に炊き出し支援

  • 熊本地震では、都市ガスが止まった地域でLPガスが仮設住宅へ“火のライフライン”を供給

  • 地方ガス会社が高齢者の異変を検知し、救命に貢献(検針ルートでの気づき)

これらの活動は、**ガス料金に含まれていない“無償の公共価値”**だったのです。

◆5-2 共助型ガス料金とは「災害・福祉・防災・雇用」の投資ファンドである

料金構成の見直し案:


ガス料金=燃料費+供給管理費+炭素価格+共助支援費\text{ガス料金} = \text{燃料費} + \text{供給管理費} + \text{炭素価格} + \text{共助支援費}

構成要素内容
炭素価格脱炭素行動のインセンティブ
共助支援費災害復旧・避難所対応・検針による高齢者見守り・地域貢献人件費など

加算額イメージ(家庭向け):

  • 月50〜100円程度(使途明示)

  • 地域ポイント/災害時優先支援/CSR証明などと連動可能

◆5-3 利用者にとっての“価値”をどう可視化するか?

UI・UXでの実装イメージ:

  • 請求書に「今月あなたが支えた共助活動」表示

    • 「○○市での避難所支援(ガス供給)に貢献しました」

    • 「高齢者宅の見守り検針を○件実施」

  • Webアプリで“地域貢献レポート”が月次で届く

  • SNSで「わが家のガス料金は、まちを支えている」キャンペーン展開

◆5-4 災害時に機能する“レジリエンス特約”設計案

追加設計例:

  • 「災害時ガス供給優先権(緊急トレーラー供給)」

  • 「一時避難所用ポータブルLPセット提供」

  • 「再建支援割引(自宅全壊時に3ヶ月基本料金免除)」

  • 「災害時電源なし対応キット(自家着火ガスコンロ)」提供

→ これらは“災害保険型ユーティリティ”として、料金に組み込まれることで共助の安心を制度化できます。

💡図解案①:共助料金構造のレイヤーマップ

[従来料金構成]
┌──────────────┐
│ 基本料金+従量料金+燃料費調整         │
└──────────────┘

[共助モデル]
┌──────────────┐
│ +地域レジリエンス支援費(例:月70円) │
│ +災害時特典(割引・物資支援・ポイント)│
└──────────────┘

図解案②:料金から地域へ“お金と支援が流れる”図式(関係者マップ)

利用者料金 → ガス会社 → 用途振分け:
①燃料原価  
②設備維持  
③共助活動(見守り/防災訓練/復旧応援) → 地域へ循環

PPTレイアウト案(3スライド構成)

スライドタイトル内容案
Slide 1なぜガス料金が「共助の設計費」になるのか?災害・高齢化・地域縮小におけるインフラの役割をストーリーボードで説明
Slide 2共助料金構造とユーザー価値月額50円が生む安心・CSR・地域支援を可視化(図解+UX)
Slide 3実装と連携のステップ自治体/NPO/防災拠点/地元事業者との連携マップと導入フェーズを提示

第6章:未来ガス料金の3軸マトリクス設計 ― 炭素 × 供給 × 社会的価値を可視化し、設計へ変える ―

◆6-1 なぜ「3軸化」なのか?

これまでのガス料金は、「使った分に応じた単価」だけで完結していました。
しかし、これからの時代には以下の3要素が加わります:

  1. 脱炭素責任(Carbon)

  2. 供給インフラの設計(Infrastructure)

  3. 社会的貢献・レジリエンス(Community)

この3つの“見えなかった価値”を見える化して、反映するのが未来料金設計の中核です。

◆6-2 料金構成マトリクスのベースモデル

意味反映方法
炭素(Carbon)CO₂排出の程度と低減努力炭素価格加算/スコア還元
供給(Infrastructure)都市ガス/LP配送/自己託送等の供給経路・設備投資原価+燃料費調整+託送料
社会的価値(Community)防災/見守り/地域雇用等への間接貢献地域共助費/還元ポイント/証明表示

◆6-3 3軸マトリクス:タイプ別ユースケースマッピング

ユーザータイプ炭素軸供給軸社会軸料金特徴
都市マンション△(従来LNG)都市ガス大手基本構成+燃料費調整型
地方一戸建て+LP◯(配送効率高)LP個別配送保安・見守り型、共助費含む
サステナブル志向家庭◎(合成メタン)都市ガス網グリーンプレミアム加算型
商業施設+災害拠点契約独自LNG託送優先供給特約+レジリエンス課金

図解案①:3軸マトリクスマップ(立体構造/スライド用)

  • X軸=炭素スコア(低〜高)

  • Y軸=供給インフラ(都市ガス~自営配送)

  • Z軸=社会貢献(レジリエンス・雇用・防災)

→ 料金はこの空間内で“ポジショニング”され、将来はダッシュボードで可視化/提案される時代に。

◆6-4 将来の「ダッシュボード型料金選択」UXイメージ

利用者はアプリで「自分の価値観でプランを設計」できる。

例:家庭のガス料金プラン選択ダッシュボード

カスタマイズ項目スライダー設定例
炭素排出を減らしたい★★★★★(e-methane選択)
料金の安定性を優先したい★★★(従量制+定額制ハイブリッド)
地域に貢献したい★★★★★(月100円の共助費)

→ これにより、ガス契約が“ライフスタイルの設計”になる


◆6-5 ガス事業者・政策設計者向けテンプレート

未来料金設計テンプレート(BtoB活用例):

項目設計オプション例
炭素連動単価CO₂/t単価×排出量
グリーン選択比率0/30/70/100%
共助加算費月額0/50/100円
UI提供方式紙・Web・アプリ
外部証明連携J-クレ/RE100/地方ポイント連携

PPTレイアウト案(3スライド構成)

スライドタイトル内容案
Slide 1なぜ「3軸料金設計」が必要か?従来型料金の限界と脱炭素・地域対応への圧力をマップ化
Slide 23軸構造モデルと料金可視化図料金の構成をCarbon/Infrastructure/Communityの3要素で分解
Slide 3ユーザー向け/事業者向けテンプレートUX設計と価格政策の提案テンプレート(法人営業・政策説明用)

第7章:導入フェーズ別・未来型ガス料金制度構築ガイド― 小さく始めて、大きく変える。「料金制度」から社会を変革する方法 ―

7-1 なぜ“段階的導入”が不可欠なのか?

ガス料金は「社会インフラ×日常生活×信頼」の複雑系。
どれほど優れた脱炭素・共助型制度でも、いきなり全面導入は逆効果です。

  • 現行契約との整合性

  • システム改修(検針・請求)

  • ユーザーへの説明と納得

  • 法制度との整合(総括原価・自由価格制)

  • 炭素スコアや共助費の評価と報告

だからこそ必要なのは――
「段階的に、実験的に、しかし確実に」制度を育てる3ステップ導入ガイドです。

7-2 3フェーズ導入モデル(Light → Fit → Shift)

フェーズ概要到達目標
Phase 1:Light可視化+情報提供のみ意識喚起。「あなたのガス、どこから来て何を排出してるか?」
Phase 2:Fitオプション型サービスの選択制導入グリーンオプション・共助費などの“任意選択”モデル
Phase 3:Shift自動最適化+炭素・共助スコア連動制度化全契約にスコア・証明・還元設計を統合した未来料金体系

7-3 ステークホルダー別マイルストーン

立場初期導入(Light)実装拡張(Fit)制度化(Shift)
ガス事業者情報開示/既存契約者説明プラン設計・アプリUI実装スコア反映・全契約者適用管理
地方自治体パートナー認定/後援表示共助支援認定制度/ポイント連携料金制度への地域税・防災費反映
消費者排出量通知の閲覧/意識醸成自主選択・支援プラン加入スコアベース自動料金+行動還元

7-4 導入時の主なリスクと対策

リスク対応策
利用者の混乱・反発段階的導入・料金据え置き選択可・説明動画提供
システム対応の遅れUI/課金システムはPoC単位で切り出し実装
価格競争力の低下「価格」より「価値」で勝つ戦略設計。地域貢献を“見せる化”すること
炭素・共助スコアの不正操作認証スキーム(RE100/バイオガス証明/第三者評価)の導入

7-5 PoC設計テンプレート(事業者向け)

1. 対象セグメントの設定
例:都市部マンション/災害拠点/公共施設/学校給食センター

2. 実証する機能選定
・CO₂排出通知
・月額グリーン選択
・見守りサービス費加算
・炭素ポイント還元

3. 評価指標

  • 顧客満足度/変更率/サポート問い合わせ件数

  • CO₂削減量/地域団体連携数/再契約率

7-6 インセンティブ設計の黄金比:「1円=1貢献」を演出せよ

利用者を動かすのは「納得感」と「物語性」。

具体例:

  • 月70円の共助加算 →「この町の避難所にコンロと鍋が1セット届く」

  • CO₂排出10kg削減 →「子ども未来ポイント100ptと交換」

  • グリーンプラン利用者 →「次世代認定家庭マークを自宅に掲示」

金額を“物語”に変換すれば、料金は「支払い」から「投資」に変わる。

第8章:未来型ガス会社の設計図 ― 料金 × サービス × データで再定義される「エネルギー事業者」 ―

8-1 “ガス販売会社”という枠組みは終わる

これまでのガス事業者の定義:

「ガスを仕入れて、安全に届けて、請求する会社」

しかし、これからはまったく異なる定義が求められます。

「暮らしのインフラと、地域の安心と、脱炭素をつなぐプラットフォーム業者」

なぜ?

  • 単価勝負の時代は限界(自由化の壁)

  • エネルギー単独では差別化できない

  • Scope3や地域防災に貢献する“共通基盤”が社会に求められる

8-2 新しい事業構造:「3層型ガス会社」モデル

───────────────────────
【第1層】ベースレイヤー(熱・供給)
・ガスの調達、配送、保守、安全管理

【第2層】サービスレイヤー(選択と体験)
・グリーンガス選択、見守り、スマート料金、ポイント還元

【第3層】価値レイヤー(データと社会)
・CO₂可視化、災害レジリエンス貢献、地域資源の価値化、JCM連携
───────────────────────

8-3 営業・顧客接点も「体験と共創」へ

従来未来
「請求書を出す」「苦情に対応する」「ライフスタイルを提案する」「選択の喜びを演出する」
アナログ検針・紙明細アプリ連携・CO₂通知・ダッシュボード付き契約
顧客=契約番号顧客=行動スコア・共助参加者・地域アクター

8-4 収益モデルの多角化

項目新たな収益源
グリーンガス利用料プレミアム課金(CO₂排出権活用も)
共助費用地域連携費・防災支援費・自治体からの委託金
情報サービス排出レポート、脱炭素スコア提供(法人・金融機関向け)
ESGスコア化脱炭素実績による金融インセンティブ(融資レート等)

8-5 “ガス”から“暮らしの選択肢”へ

未来のガス会社が提供するのは、単なるエネルギーではありません。

「どんな火を使うか?」=「どんな未来を選ぶか?」

サービスパッケージ例:

プラン名内容
くらしエコPlusグリーンガス+災害対応+見守りセット(+月300円)
サステナHome炭素排出スコア+ポイント連携+家庭内ダッシュボード提供
わがまちガス地域還元型プラン:収益の一部を自治体と地域NPOに循環

総括:未来型ガス会社の戦略5原則

  1. 選ばれる料金設計:価値・信頼・行動変容を織り込むこと

  2. サービスレイヤー強化:暮らしと地域をつなぐ提案型UXへ

  3. データ資産の活用:CO₂・地域連携・見守りの統合プラットフォーム

  4. ガバナンス連携:自治体・金融・教育・医療との共創

  5. ブランド再定義:火と暮らす文化を次世代へ受け継ぐ旗手に

このガス会社像に“魂”を入れるなら:

  • Web UI/スマホアプリ:料金×スコア×行動ポイントを可視化する

  • ダッシュボードテンプレート:家庭も自治体も「今月のガスと社会」を把握できる

  • 共助証書/地域貢献証書:見える化と評価・換金が可能な証明設計

 

 

 

 

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著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

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