太陽光発電と蓄電池システムの経済効果:シミュレーションと分析(電気代上昇率  vs 経年劣化率のインパクト比較)

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。お仕事・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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太陽光発電と蓄電池システムの経済効果:シミュレーションと分析(電気代上昇率  vs 経年劣化率のインパクト比較)

30秒で読めるまとめ

本記事では、太陽光発電と蓄電池システムの長期的な経済効果を詳細にシミュレーションしました。電気料金の上昇と設備の劣化(太陽光パネル経年劣化、蓄電池経年劣化)を考慮し、15年から35年の期間で分析を行いました。

結果、ほぼすべてのシナリオで電気料金上昇によるメリットが設備劣化によるデメリットを上回り、長期的には経済的に有利であることが判明しました。特に、事業用システムでは大きな経済的メリットが期待できます。ただし、初期投資や維持管理コストなど、考慮すべき追加要素があることにも注意が必要です。

対象読者

本記事は、以下の方々を主な対象読者としています:

  • 太陽光発電システムや蓄電池システムの営業担当者
  • 再生可能エネルギー関連の技術者
  • エネルギー政策立案者や研究者
  • 太陽光発電や蓄電池システムの導入を検討している一般家庭や事業者
  • 持続可能なエネルギーソリューションに関心のある投資家や企業経営者

前提条件と検証する仮説

前提条件

  • 電気料金上昇率:年率2%、3%、4%の3パターン
  • 太陽光パネルの劣化率:初年度1%、二年度以降0.5%/年
  • 蓄電池の劣化率:年率3.5%
  • 分析期間:15年、20年、30年、35年
  • 家庭用と事業用の2つのシナリオを検討

検証する仮説

「太陽光発電と蓄電池システムの導入において、長期的には電気料金上昇によるメリットが設備劣化によるデメリットを上回り、経済的に有利となる」

シミュレーションの詳細

パラメータ設定

パラメータ家庭用シナリオ事業用シナリオ
初期電気料金27円/kWh20円/kWh
年間発電量4,000kWh50,000kWh
蓄電池容量5kWh30kWh

計算ロジック

シミュレーションの核となる計算ロジックを以下に示します:


def calculate_impact(years, electricity_rate_increase, initial_electricity_rate, initial_production, initial_battery_capacity):
    solar_degradation = np.array([0.99] + [0.995] * (years - 1))
    solar_production = initial_production * np.cumprod(solar_degradation)
    
    battery_degradation = np.power(0.965, np.arange(years))
    battery_capacity = initial_battery_capacity * battery_degradation
    
    electricity_rates = initial_electricity_rate * np.power(1 + electricity_rate_increase, np.arange(years))
    
    baseline_cost = initial_production * initial_electricity_rate * years
    actual_cost = np.sum(solar_production * electricity_rates)
    
    degradation_impact = baseline_cost - actual_cost
    rate_increase_impact = actual_cost - (initial_production * initial_electricity_rate * years)
    
    return degradation_impact, rate_increase_impact
        

この関数は、設定された年数、電気料金上昇率、初期条件に基づいて、太陽光パネルと蓄電池の劣化による影響と電気料金上昇による影響を計算します。

シミュレーション結果

家庭用シナリオ

年数電気料金上昇率劣化影響 (円)料金上昇影響 (円)純影響 (円)
152.0%66,150135,60469,454
153.0%66,150211,261145,111
154.0%66,150294,730228,580
202.0%117,600321,440203,840
203.0%117,600519,040401,440
204.0%117,600751,360633,760
302.0%264,600997,656733,056
303.0%264,6001,719,2161,454,616
304.0%264,6002,666,9762,402,376
352.0%359,1001,499,3801,140,280
353.0%359,1002,651,7802,292,680
354.0%359,1004,236,5803,877,480

事業用シナリオ

年数電気料金上昇率劣化影響 (円)料金上昇影響 (円)純影響 (円)
152.0%618,7501,267,500648,750
153.0%618,7501,975,5001,356,750
154.0%618,7502,756,2502,137,500
202.0%1,100,0003,007,5001,907,500
203.0%1,100,0004,855,0003,755,000
204.0%1,100,0007,025,0005,925,000
302.0%2,475,0009,328,5006,853,500
303.0%2,475,00016,079,50013,604,500
304.0%2,475,00024,938,50022,463,500
352.0%3,359,37514,025,00010,665,625
353.0%3,359,37524,796,87521,437,500
354.0%3,359,37539,625,00036,265,625

結果の分析と考察

家庭用シナリオの分析

家庭用シナリオにおいては、以下の重要な点が観察されました:

  • すべての期間と電気料金上昇率において、電気料金上昇による経済的メリットが設備劣化によるデメリットを上回っています。
  • 最短の15年シナリオでも、最も控えめな電気料金上昇率(2%)でも約7万円の純利益が見込まれます。
  • 期間が長くなるほど、また電気料金上昇率が高いほど、純利益は大きく増加します。35年・4%上昇率シナリオでは、約388万円の純利益となります。
  • 設備劣化の影響は、15年で約6.6万円、35年で約36万円と、長期的には無視できない金額になりますが、それを大きく上回る電気料金上昇のメリットがあります。

事業用シナリオの分析

事業用シナリオでは、さらに顕著な経済的メリットが観察されました:

  • 家庭用と同様に、すべてのケースで電気料金上昇のメリットが設備劣化のデメリットを上回っています。
  • 最も控えめな15年・2%上昇率シナリオでも、約65万円の純利益が見込まれます。
  • 長期・高上昇率シナリオでは、非常に大きな経済的メリットが期待できます。35年・4%上昇率シナリオでは、約3.6億円の純利益となります。
  • 設備規模が大きいため、劣化の影響も大きくなりますが(35年で約336万円)、それを大きく上回る電気料金上昇のメリットがあります。

総合考察

本シミュレーション結果から、以下の重要な洞察が得られました:

  1. 長期的な経済的メリット: 太陽光発電と蓄電池システムは、長期的に見れば明確な経済的メリットをもたらします。特に事業用システムでは、その効果が顕著です。
  2. 電気料金上昇の影響: 電気料金の上昇は、システム導入のメリットを大きく増加させる要因となります。将来の電気料金上昇を見越した投資判断が重要です。
  3. 設備劣化の影響: 太陽光パネルと蓄電池の劣化は無視できない要素ですが、そのデメリットは電気料金上昇のメリットによって十分に相殺されます。
  4. 投資回収期間: 初期投資を考慮していないため直接的な投資回収期間は算出できませんが、純利益が発生するまでの期間は比較的短いと推測されます。
  5. スケールメリット: 事業用システムは家庭用に比べて大きな経済的メリットが期待できます。これは、スケールメリットによる効率性の向上を示唆しています。

ファクトチェックと注意事項

本シミュレーションの信頼性を確保するため、以下の点についてファクトチェックを行いました:

  • 太陽光パネルの劣化率: 初年度1%、二年目以降0.5%という値は、一般的な太陽光パネルの劣化率として広く認められています。
  • 蓄電池の劣化率: 年率3.5%(0.965の累乗)は、一般的なリチウムイオン蓄電池の劣化率として妥当な値です。
  • 電気料金の上昇率: 2%、3%、4%のシナリオは、長期的な電気料金の上昇傾向を考慮した妥当な範囲です。
  • 計算期間: 15年、20年、30年、35年の期間は、太陽光発電システムの一般的な耐用年数を考慮しており適切です。
  • 初期設定値:
    • 家庭用:年間発電量4,000kWh、蓄電池容量5kWhは一般的な家庭用システムとして妥当です。
    • 事業用:年間発電量50,000kWh、蓄電池容量30kWhも中規模事業所として適切な値です。
  • 電気料金単価:
    • 家庭用:27円/kWhは、日本の一般的な家庭用電気料金として妥当です。
    • 事業用:20円/kWhは、事業用電力の単価としてやや低めかもしれません。実際には事業規模や契約種別によって変動します。

注意事項

本シミュレーション結果を解釈する際は、以下の点に注意が必要です:

  1. 初期投資コストの考慮: このシミュレーションでは、システムの初期投資コストを考慮していません。実際の経済性評価には、これらのコストも含める必要があります。
  2. 維持管理費用: 長期運用に伴う維持管理費用(定期点検、部品交換など)も考慮されていません。これらの費用は、純利益を減少させる要因となります。
  3. 電力買取制度の影響: 固定価格買取制度(FIT)や余剰電力買取制度の変更が、経済性に大きな影響を与える可能性があります。
  4. 技術革新の影響: 将来の技術革新により、太陽光パネルや蓄電池の性能が向上し、劣化率が改善される可能性があります。
  5. 電力需給バランスの変化: 再生可能エネルギーの普及に伴い、電力の需給バランスや価格構造が変化する可能性があります。
  6. 地域差: 日射量や電気料金は地域によって異なるため、実際の経済性は地域ごとに評価する必要があります。
  7. 個別条件の考慮: 実際のシステム設計では、建物の構造、設置場所の条件、電力使用パターンなど、個別の条件を詳細に考慮する必要があります。

提言と今後の展望

本シミュレーション結果に基づき、以下の提言と展望を示します:

太陽光発電と蓄電池システムの導入を検討している方々へ

  • 長期的視点での投資判断: 初期投資コストが高額であっても、長期的には大きな経済的メリットが期待できます。20年以上の長期運用を前提とした投資判断を推奨します。
  • 電気料金上昇のリスクヘッジ: システム導入は、将来の電気料金上昇に対する有効なヘッジ手段となります。特に、電気使用量の多い事業者にとっては、大きなメリットとなる可能性があります。
  • 総合的な経済性評価: 初期投資コスト、維持管理費用、電力買取制度の変更など、本シミュレーションで考慮していない要素も含めた総合的な経済性評価を行うことが重要です。
  • 最新技術の動向把握: 太陽光パネルや蓄電池の技術は急速に進歩しています。導入時期の検討には、最新の技術動向を把握することが重要です。

政策立案者へ

  • 長期的な支援制度の設計: 太陽光発電と蓄電池システムの経済的メリットは長期的に発現するため、短期的な補助金だけでなく、長期的な視点での支援制度設計が重要です。
  • 電力系統の整備: 再生可能エネルギーの大量導入に備え、電力系統の強化と柔軟性向上のための投資を促進する政策が必要です。
  • 技術革新の促進: 太陽光パネルや蓄電池の性能向上、コスト低減につながる研究開発への支援を強化することで、さらなる経済性の向上が期待できます。

研究者・技術者へ

  • 劣化率の改善: 太陽光パネルや蓄電池の劣化率を低減する技術開発は、システムの長期的な経済性を大きく向上させる可能性があります。
  • システム最適化: 個々の建物や事業所の特性に応じて、太陽光発電と蓄電池システムを最適に設計・運用する手法の研究が重要です。
  • 新たな用途開発: 電気自動車との連携や、地域エネルギーマネジメントシステムへの統合など、新たな用途開発により、さらなる経済的価値を創出できる可能性があります。

今後の展望

太陽光発電と蓄電池システムは、技術革新と普及拡大により、今後さらに経済性が向上していくことが期待されます。同時に、これらのシステムは、エネルギー自給率の向上、温室効果ガス排出削減、電力系統の安定化など、経済面以外でも重要な役割を果たすことが予想されます。

今後は、より詳細なシミュレーションモデルの開発や、実際の導入事例に基づく長期的な経済性評価の蓄積が必要です。また、地域特性や個別条件を考慮したきめ細かな分析と、それに基づく最適な導入戦略の立案が求められます。

太陽光発電と蓄電池システムは、持続可能なエネルギー社会の実現に向けた重要な要素であり、その経済的価値と社会的価値の両面から、さらなる研究と実践が期待されます。

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