2026年 働き方改革の再定義  人間の「注意資本」を価値創出へ還流させる社会OSの改修 ― 脱炭素と経済再生のミッシングリンク

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、全国地方自治体、トヨタ自働車、スズキ、東京ガス、東邦ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所、大和ハウス工業、エクソル、ELJソーラーコーポレーションなど国・自治体・大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上が導入するシェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)を提供。年間15万回以上の診断実績。エネがえるWEBサイトは毎月10万人超のアクティブユーザが来訪。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・出版・執筆・取材・登壇やシミュレーション依頼などご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp) ※SaaS・API等のツール提供以外にも「割付レイアウト等の設計代行」「経済効果の試算代行」「補助金申請書類作成」「METI系統連系支援」「現地調査・施工」「O&M」「電力データ監視・計測」などワンストップまたは単発で代行サービスを提供可能。代行のご相談もお気軽に。 ※「系統用蓄電池」「需要家併設蓄電池」「FIT転蓄電池」等の市場取引が絡むシミュレーションや事業性評価も個別相談・受託代行(※当社パートナー紹介含む)が可能。お気軽にご相談ください。 ※「このシミュレーションや見積もりが妥当かどうか?」セカンドオピニオンが欲しいという太陽光・蓄電池導入予定の家庭・事業者の需要家からのご相談もお気軽に。簡易的にアドバイス及び優良・信頼できるエネがえる導入済の販売施工店等をご紹介します。

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目次

2026年 働き方改革の再定義  人間の「注意資本」を価値創出へ還流させる社会OSの改修 ― 脱炭素と経済再生のミッシングリンク

序章:2026年、日本の労働市場が迎える「静かなる革命」

2026年、日本社会は一つの巨大な転換点(シンギュラリティ)を迎えようとしている。それは、2019年から段階的に施行されてきた「働き方改革関連法」の最終フェーズとも言うべき、労働基準法の抜本的な改正と、それに呼応する社会システムの強制的なアップデートである。これまで、日本の働き方改革は「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」といった、いわば労働の「量」と「対価」の不均衡を調整するプロセスとして認識されてきた。しかし、2025年を経て2026年に至る現在、我々が直面している課題は、そうした表層的な調整では到底解決し得ない、より深層の構造的欠陥に起因している。

それは、日本という国家を駆動させてきた「社会OS(Social Operating System)」そのものの制度疲労と、それによって引き起こされる「人間の注意資本(Attention Capital)」の深刻な浪費である。

1.1 問題の所在:生産性パラドックスと「見えない税金」

日本生産性本部が2024年12月に公表したデータによれば、日本の時間当たり労働生産性は60.1ドル(5,720円)であり、OECD加盟38カ国中28位に沈んでいる 1。これはG7(主要先進7カ国)の中で最下位という定位置を更新し続けているだけでなく、ドルベースで見れば2018年のピークから約18%も低下しているという衝撃的な事実を突きつけている 2。なぜ、日本人はこれほどまでに勤勉であり、技術革新(DX)に巨額の投資を行いながらも、生産性という果実を手にできないのか。

本稿では、この「生産性パラドックス」の正体を、組織や社会の内部に蓄積された「プロセス負債(Process Debt)」と、それが引き起こす「配分効率性(Allocative Efficiency)」の欠如に見出す 3。我々の社会OSには、過去の成功体験に基づく古いコード(慣習、規制、暗黙知)が残存しており、これが現代の経済活動において巨大な「摩擦税(Friction Tax)」として機能している 5

1.2 リサーチ・クエスチョン:二項対立の解消へ向けて

本論考では、以下の3つのリサーチ・クエスチョン(RQ)を設定し、従来の「労働者保護 vs 企業利益」あるいは「経済成長 vs 脱炭素」という二項対立を解消する、新たな視座を提供する。

  • RQ1(構造的問い): 2026年の労働基準法改正(13連勤禁止・インターバル義務化)は、企業のコスト増要因ではなく、組織内の「プロセス負債」を可視化・清算し、労働密度(Work Density)を高めるための強制的な監査プログラムとして機能し得るか?

  • RQ2(経済的問い): 「注意資本(Attention Capital)」の概念を用いることで、見えないコスト(探索時間、調整コスト、待機時間)を定量化し、それを再生可能エネルギー普及などの「価値創出工程」へ再配賦する具体的なメカニズムとは何か?

  • RQ3(未来的問い): 生成AIと人間が共創する「ヨシミOS(YOSHIMI OS)」のような次世代型社会OSにおいて、日本の「現場力」や「ハイコンテキスト文化」は負債ではなく、新たな競争優位の源泉として再評価され得るか?


第1章:概念定義 ― 「社会OS」と「注意資本」の政治経済学

本章では、本稿の核となる理論的枠組みを提示する。労働時間を単なる「コスト」として管理する従来の管理会計的視点から脱却し、労働者の「認知資源(Cognitive Resource)」を投資可能な「資本」として捉え直すことで、働き方改革の本質を浮き彫りにする。

1.1 社会OS(Social OS)の構造的理解

「社会OS」とは、コンピュータのOSがハードウェアとアプリケーションを仲介するように、社会のハードウェア(人口、インフラ、資源)とアプリケーション(経済活動、文化、生活)を仲介・制御する「見えざるルール群」の総称である 7

1.1.1 旧来型OS(バージョン1.0:工業化モデル)

高度経済成長期に完成された日本の社会OSは、「均質な労働力」「終身雇用」「年功序列」をカーネル(核)としていた。このシステムにおいては、長時間労働と滅私奉公がシステム最適化の要件であり、情報の非対称性を前提としたピラミッド型組織が最も効率的であった。しかし、このOSは物理的なモノの生産効率(Technical Efficiency)を最大化することには成功したが、変化の激しい現代において資源を最適な分野に振り向ける「配分効率性(Allocative Efficiency)」においては、著しい機能不全を起こしている 4

1.1.2 次世代型OS(バージョン2.0:注意資本モデル)

2026年に求められるOSは、「注意資本の最大化」をカーネルに据える。ここでは、労働時間は「拘束された時間」ではなく、「注意を投下した総量と質」で評価される。DXやAIは、このOS上で動作するミドルウェアとして機能し、人間が本来注力すべき「創造的課題」や「対人関係構築」にリソースを集中させるためのフィルターとなる 8

1.2 注意資本(Attention Capital)の理論的背景

「注意経済(Attention Economy)」の概念は、情報の爆発的な増加に伴い、相対的に希少化した「人間の注意」を経済的価値の中心に据えるものである。

1.2.1 希少資源としての「注意」

ノーベル経済学賞受賞者ハーバート・サイモンは、「情報の豊かさは注意の貧困を生む」と指摘した 11現代において、情報は無限に近いが、それを処理し、意味を見出す人間の「注意」は極めて希少な有限資源である。フランク(Franck)らは、この注意を引きつけ、保持し、配分する能力を「注意資本」と定義し、経済的資本や社会関係資本と並ぶ重要な資産とした 12

1.2.2 価値密度(Value Density)と労働密度(Work Density)

生産性を測る新たな指標として、「価値密度(Value Density)」13「労働密度(Work Density)」14 の概念を導入する。

  • 労働密度(Work Density): 単位時間あたりの業務の純粋な「濃さ」。日本の職場は長時間拘束される一方で、実質的な作業密度が低い(待機時間、手戻り、無意味な会議)傾向にある。

  • 価値密度(Value Density): 投下された注意がどれだけの付加価値に転換されたかの比率。AI時代には、膨大なデータを処理すること(労働強度)よりも、意味のある洞察を抽出すること(価値密度)が重要となる。


第2章:2026年問題の本質 ― 規制強化という名の「強制デフラグ」

2026年は、労働基準法改正をはじめとする大規模な法制度変更が予定されており、企業にとっては「2024年問題」以上の衝撃となる「2026年問題」が到来する 16。これは、旧来型OSの延命を許さず、強制的にシステムをアップデートさせる「デフラグ(断片化解消)」処理として機能する。

2.1 2026年労働基準法改正の全貌と衝撃

厚生労働省の労働基準関係法制研究会報告書に基づき、2026年度に施行が見込まれる改正案は、以下の7つの主要項目から成り、企業の労務管理に不可逆的な変更を迫る 17

改正項目 現行制度(~2025) 改正案(2026~) 影響度
1. 連続勤務制限 4週4休(理論上48連勤可) 14日以上の連勤禁止(上限13日) ★★★★★
2. 勤務間インターバル 努力義務 義務化(原則11時間) ★★★★★
3. 法定休日の特定 週1日(特定義務なし) 特定義務化(例:日曜と明記) ★★★★☆
4. 週44時間特例廃止 小規模事業所は週44時間可 全事業所 週40時間に統一 ★★★☆☆
5. つながらない権利 規定なし ガイドライン策定・ルール化推奨 ★★★☆☆
6. 副業・兼業管理 労働時間を通算して管理 割増賃金の通算不要(分離管理) ★★☆☆☆
7. 有給休暇賃金 平均賃金等も可 「通常の賃金」原則化 ★★☆☆☆

2.1.1 「13連勤の壁」とシフト制崩壊の危機

最大のインパクトは「14日以上の連続勤務禁止」である 17現行の「4週4休」制を利用し、変則的なシフトで現場を回していた宿泊業、介護、建設、小売業界は、根本的な人員配置の見直しを迫られる。これは過労死防止の観点からは不可欠だが、予備人員を持たない中小企業にとっては、オペレーションの破綻(システムクラッシュ)を招きかねない。

2.1.2 勤務間インターバル「11時間」の義務化

EU諸国では一般的である勤務間インターバル(11時間)の義務化は、日本の「残業ありき」の業務設計を根底から覆す 18例えば、夜23時まで残業した場合、翌朝の始業は10時以降でなければならない。これにより、始業時間の繰り下げや、深夜残業の物理的禁止が常態化する。これは「時間」という資源の供給量に絶対的なキャップ(上限)をはめる行為であり、生産性を上げない限り、企業のアウトプットは純減する。

2.2 2026年度税制改正と賃上げのドライバー

労働法制と並行して、税制面でも強力なインセンティブが付与される見込みである。2026年度税制改正においては、「年収の壁」解消に向けた基礎控除等の大幅な引き上げ(103万円から178万円への議論含む)や、賃上げ促進税制の要件厳格化と支援強化が焦点となっている 21

  • 基礎控除等の引上げ: 物価上昇に対応し、基礎控除や給与所得控除を引き上げることで、労働者の手取りを増やし、労働供給を刺激する狙いがある 22

  • 賃上げ促進税制の改組: 大企業向けには要件を厳格化(マルチステークホルダー方針の重視など)する一方、中堅・中小企業に対しては、赤字であっても賃上げを実施した場合に繰越控除を認めるなどの措置が維持・強化される見込みである 24


第3章:セクター別影響分析 ― 脱炭素(GX)を阻む「人」の壁

働き方改革の停滞は、単なる労働問題にとどまらず、日本の国家戦略である「グリーントランスフォーメーション(GX)」や「再エネ普及」における最大のボトルネックとなっている。ここでは、建設、物流、医療の3業界におけるクライシスと、それが脱炭素に及ぼす影響を構造的に整理する。

3.1 建設業:再エネ普及を阻む「倒産ドミノ」

3.1.1 過去最悪の倒産ペースと「トリプルパンチ」

2025年上半期、建設業の倒産件数は986件に達し、前年同期比7.5%増、過去10年で最多のペースを記録している 25。その背景には、①資材高騰、②深刻な人手不足、③2024年問題(残業規制)による工期長期化という「トリプルパンチ(三重苦)」が存在する 26

3.1.2 再エネプロジェクトへの波及

特筆すべきは、この労働危機が再生可能エネルギー事業を直撃している点である。2025年12月には、再生可能エネルギー事業を手掛ける「株式会社WIND-SMILE」が民事再生法を申請し、負債総額は70億円に上った 26。太陽光パネルや風力発電設備の設置工事は建設業に分類されるが、職人不足と労務費の高騰により、採算割れを起こすプロジェクトが続出している。つまり、「働き方改革の遅れ」が「脱炭素社会の実現」を物理的に不可能にしているという因果関係が成立しているのである。

3.2 物流業:サプライチェーンの寸断と炭素排出

3.2.1 荷待ち時間という「注意の窃盗」

物流業界では、ドライバーの拘束時間の多くが「荷待ち時間」に費やされている 27。これは荷主企業が物流事業者の「時間」と「注意」を対価なしに占有している状態であり、経済的な「窃盗」に等しい。全ト協の調査によれば、荷待ち時間の削減は進んでおらず、これが実質的な輸送能力(稼働率)を低下させ、積載効率の悪化(=CO2排出増)を招いている 29

3.2.2 2026年法改正の影響

2026年の法改正により、長時間労働によるカバーが不可能になれば、輸送能力はさらに低下する。これは、再エネ設備の部材輸送やバイオマス燃料の輸送といった、脱炭素サプライチェーンの動脈硬化を引き起こすリスクがある。

3.3 医療業界:地域医療の崩壊と経営の岐路

3.3.1 医師の働き方改革の余波

2024年4月から適用された医師の時間外労働上限規制により、すでに地域医療の現場では「救急の縮小」や「派遣医師の引き上げ」といった影響が出ている 31

3.3.2 2025年・2026年の展望

2025年には団塊の世代が後期高齢者となり、医療需要がピークを迎える一方で、2026年のインターバル規制強化が供給力をさらに制約する。病院経営は、労働集約型から知識集約型への転換を迫られており、これが進まなければ地域医療という社会インフラが維持できなくなる 32


第4章:日本病の解剖 ― プロセス負債と配分効率性の欠如

なぜ、日本の組織はこれほどまでに「変われない」のか。その原因を、精神論ではなく、システム工学的および経済学的視点から解明する。

4.1 プロセス負債(Process Debt):見えない成長阻害要因

ソフトウェア開発における「技術的負債(Technical Debt)」と同様に、組織には「プロセス負債」が蓄積している 3プロセス負債とは、過去には最適であったが、環境変化により不適合となったにもかかわらず、慣習として維持されている業務フローやルールのことである。

4.1.1 プロセス負債のメカニズム

  • 過剰な承認プロセス: ハンコ文化の名残である多層的な承認フローは、意思決定速度を低下させるだけでなく、承認者の「注意」を浪費させる。

  • レガシーなシステム: 分断されたITシステム(サイロ化)は、データの再入力を人間に強いる。これは人間を「システム間のAPI(インターフェース)」として安価に利用しているに過ぎない。

  • 形骸化した会議: 目的の曖昧な定例会議は、参加者の時間を同期的に拘束し、非同期で可能な業務を阻害する。

4.1.2 摩擦税(Friction Tax)としての損失

これらの負債は、企業活動において「摩擦税」として徴収される 5。Cleverbridgeのレポートによれば、ECにおけるフリクション(摩擦)は収益の20-30%を損なう「税金」として機能する 6。組織内部においても、従業員は業務時間の約20%(週1日分)を「情報を探す時間」に費やしているというデータがある 34。日本において、ビジネスマンが探し物に費やす時間は年間150時間とも言われる 35。これは、日本経済全体に対して課された巨大な「見えない税金」である。

4.2 IMFが指摘する「配分効率性(Allocative Efficiency)」の欠如

IMF(国際通貨基金)の2025年対日審査報告書(Article IV Consultation)は、日本の生産性低迷の主因として「配分効率性の低さ」を明確に指摘している 4

4.2.1 ゾンビ企業と資源の膠着

日本は、生産性の低い企業が市場から退出せず、生産性の高い企業が十分に成長できない構造にある。超低金利政策と手厚い中小企業支援策が、本来淘汰されるべき企業の延命(ゾンビ化)を助長し、労働力や資本といった希少資源が低生産性部門に塩漬けにされている 39

4.2.2 サービス業におけるミスマッチ

特にサービス産業において、資源配分の歪みが顕著である。製造業と比較して、サービス業では高生産性企業へのリソース集中が進んでいない 9。これは、日本特有の「おもてなし文化」が過剰品質を生み出し、価格転嫁を阻害していること、および労働市場の硬直性が人材の移動を妨げていることに起因する。

4.3 労働密度と「見せかけの仕事」

SlackとQualtricsの調査(2023年)によれば、日本のデスクワーカーは勤務時間の37%を「生産性のない仕事(Performative Work:やってる感のある仕事)」に費やしており、これはインドに次いで世界で2番目に高い水準である 41

  • Performative Workの内容: 会議への出席(発言なし)、メールの即レス、長時間在席すること自体のアピール。

  • 原因: メンバーシップ型雇用における「評価の曖昧さ」が、成果ではなく「頑張っている姿勢」への評価を助長している。この「見せかけの仕事」こそが、注意資本の最大の浪費先である。


第5章:社会OS改修の処方箋 ― 注意資本の再配賦プロトコル

第3章と第4章で浮き彫りになった課題に対し、2026年以降の企業が取り組むべき具体的な解決策(ソリューション)を提示する。これは、単なるツール導入(DX)ではなく、組織のOS自体を書き換えるエンジニアリングである。

5.1 プロセス・マイニングによる「ファクト・ベース」の業務診断

プロセス負債を解消するためには、まず現状を正確に可視化する必要がある。主観的なヒアリングではなく、システムログから業務の実態を再現する「プロセス・マイニング(Process Mining)」技術が不可欠である 42

5.1.1 ログデータの活用と手戻りの特定

Celonisなどの最新プラットフォームを活用し、ERPやCRMのログを解析することで、以下のような「病巣」を特定する。

  • 手戻りの可視化: どの工程で承認が差し戻されているか、どの部署で処理が停滞しているかを定量的に特定する。

  • バリアント解析: 標準プロセスから逸脱した「例外処理」がどれだけ発生しているかを把握する。建設や物流の現場においても、受発注プロセスや配車計画のログを解析することで、リードタイム短縮とコスト削減を実現した事例が登場している 44

5.2 「コンテキスト・エンジニアリング」による情報の整流化

従業員の注意を断片化させないために、情報の流れ(コンテキスト)を設計する。

5.2.1 探索コストの撲滅

「探し物」による年間150時間の損失 35 をゼロにするため、シングル・ソース・オブ・トゥルース(SSOT)を確立する。

  • 社内版RAG(Retrieval-Augmented Generation): 社内文書をAIに学習させ、「〇〇の申請方法は?」と自然言語で問えば即座に回答が得られる環境を構築する。

  • 情報のフロー化からストック化へ: チャット(フロー)で流れてしまう情報を、NotionやConfluence(ストック)へ体系的に蓄積する文化を醸成する。

5.3 AIとの共創:「ヨシミOS」的アプローチと「同位体」モデル

AIを単なる効率化ツールとしてではなく、組織の認知能力を拡張するパートナーとして捉える視点が重要である。ここで参照すべきは、中根芳美氏が提唱する「YOSHIMI OS」における「同位体(Isotope)」としてのAI活用モデルである 8

5.3.1 鏡(Mirror)から同位体(Isotope)へ

従来のAI活用は、人間のデータを学習し、人間を模倣する「鏡」としての利用に留まっていた。しかし、これからの社会OSでは、AIを独自のパラメータと論理構造を持つ「同位体」として扱い、人間と対等な立場で共鳴(Resonance)し合う関係を構築する。

  • レゾナンス・ループ: 人間が「意図(Intent)」を投げかけ、AIがそれを増幅・構造化し、人間が最終判断する。このサイクルにより、個人の認知限界を超えた価値密度(Value Density)の高いアウトプットが可能となる。

5.4 60兆円投資と省力化への誘導

政府は、中小企業の生産性向上に向けて5年間で60兆円規模の官民投資を計画している 45

  • 省力化投資補助金: 12兆円規模の予算が投じられ、人手不足が深刻な12業種(建設、物流含む)に対し、ロボットやAI機器の導入を支援する。これを活用し、人間が行うべきでない「単純作業」や「危険作業」を徹底的に機械化することが、脱炭素インフラの構築力を回復させる鍵となる。


第6章:政策提言とロードマップ ― 日本再生への道筋

最後に、政府および企業経営者が取るべき具体的なアクションを提言する。

6.1 配分効率性を高める労働市場改革(IMF提言への応答)

IMFは、日本の成長には「労働市場の流動性向上」と「ゾンビ企業の退出」が不可欠であると指摘している 39

  • 解雇規制の予見可能性向上: 金銭解決ルールの整備を含め、労働移動を円滑にするための法的フレームワークを明確化する。

  • リスキリング支援の強化: 衰退産業から成長産業(GX、DX、医療)への労働移動を支援するため、公的職業訓練と給付金を拡充する。特に、シニア層のAIリスキリングや、女性の労働参加を阻む「年収の壁」の撤廃が急務である 22

6.2 脱炭素と働き方改革の統合戦略

「働き方改革」と「GX(脱炭素)」を別個の課題として扱わず、統合された国家戦略として推進すべきである。

  • 公共調達のグリーン&ホワイト化: 公共工事や物流の入札において、脱炭素への取り組み(GX)だけでなく、適正な労働環境(ホワイト物流、週休2日確保)を評価項目として加点する。これにより、労働環境の悪い企業を市場から退出させ、健全な企業にリソースを集中させる。

6.3 経営者へのメッセージ:OSアップデートの決断

2026年の法改正は、経営者に対する「最後通牒」である。これまでのやり方(長時間労働依存、低賃金、アナログ管理)は、法的に、そして経済合理的に維持不可能となる。

  • Step 1: 可視化(現状把握) プロセス・マイニングやサーベイを用いて、自社のプロセス負債と注意の漏洩箇所を特定する。

  • Step 2: デフラグ(負債解消) 2026年改正を好機と捉え、無駄な会議、過剰な承認、レガシーシステムを廃棄する。

  • Step 3: インストール(新OS導入) AIを前提とした業務フローを再設計し、従業員の注意を「価値」に変換する仕組みを構築する。

結語

2026年、働き方改革は「第2章」へと突入する。それはもはや「休み方改革」ではなく、日本という国家、そして個々の企業と個人の「生き方改革」であり、社会OSの根本的な書き換えである。建設や物流の現場で働く人々の「注意」が、不毛な待機時間や手戻りから解放され、再生可能エネルギー設備の建設や効率的な配送ネットワークの構築へと注がれるとき、初めて日本は「生産性パラドックス」を克服し、脱炭素と経済成長を両立させる「注意の豊かな国」へと再生するだろう。


ファクトチェック・サマリー

本稿の論点を支える主要な事実とエビデンスを以下に要約し、その信頼性を担保する。

  1. 労働生産性: 日本の時間当たり労働生産性は60.1ドル、OECD38カ国中28位(2024年版)であり、G7最下位が継続している 1

  2. 2026年改正: 14日以上の連続勤務禁止、勤務間インターバル(11時間)の義務化等が、厚生労働省の研究会報告書にて提言され、検討が進んでいる 17

  3. 倒産動向: 2025年上半期の建設業倒産は986件で過去10年最多。人手不足と資材高が主因であり、再エネ企業(WIND-SMILE等)の大型倒産も発生している 26

  4. 注意の浪費: 日本のデスクワーカーは勤務時間の37%を「生産性のない仕事」に費やしており、探し物には年間約150時間を費やしている 36

  5. IMF勧告: 日本の成長阻害要因として「配分効率性の低さ」を指摘し、労働移動の促進とゾンビ企業の退出を推奨している 4

  6. 投資計画: 政府は中小企業の生産性向上に向け、5年間で官民60兆円の投資を計画している 45


参考文献(出典リンク集)

労働生産性・経済指標

2026年 労働基準法改正・法制度・税制

注意経済・プロセス負債・組織論

業界動向・実態調査

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