家庭用太陽光+蓄電池+DR/VPP+AI制御による経済効果シミュレーション設計(構想)

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

再エネ 太陽光 蓄電池 環境学習,教育
再エネ 太陽光 蓄電池 環境学習,教育

家庭用太陽光+蓄電池+DR/VPP+AI制御による経済効果シミュレーション設計(構想)

はじめに: 新しい要素を加えた家庭エネルギーの経済効果とは

家庭用の太陽光発電と定置型蓄電池の導入効果を考える際、近年登場している DR(デマンドレスポンス)やVPP(バーチャルパワープラント)からの収益、およびAIによる蓄電池最適制御の効果を加味することが重要になっています。従来は太陽光+蓄電池による自家消費・電気代削減効果や余剰売電収入が主な経済メリットでした。しかし2025年以降、電力制度や技術トレンドが変化し、電力系統と連携した新たな収益源が家庭向けにも本格化しつつあります。例えば、固定価格買取制度(FIT)の新スキーム導入により住宅用太陽光の売電単価は初期4年間24円/kWh、その後6年間8.3円/kWhと段階制になりました。さらに各種電力市場(容量市場や需給調整市場)への小規模リソース参加、アグリゲーターによる調整力サービス提供など、蓄電池を単なる自家消費のためだけでなく電力市場で価値化する動きが始まっています。

本記事では、家庭用太陽光+蓄電池システムの投資対効果(ROI)を従来より高解像度にシミュレーションするためのロジックを設計します。特に、新たな収益要素として DR/VPP参加収入AI充放電最適制御 によるメリットを織り込んだ場合の経済効果に注目します。最小の手間で最大の成果を引き出すシミュレーターを構想し、必要なパラメータや計算式、データについて詳しく解説します。これにより、需要家(家庭)の意思決定を容易にし、販売施工店が提案しやすいツールの設計指針を示すことが目的です。

注意事項と前提条件

エネがえるでは、家庭用や産業用の太陽光・蓄電池の経済効果シミュレーションが可能です。現状は家庭用が月別・時間帯別の解像度、産業用が365日・時間帯別の解像度でのシミュレーションです。そのため現在は、DR/VPPの付加価値やAI蓄電池充放電最適制御の追加効果の試算機能は未対応です。ただし、現在、エネがえるの試算解像度をすべて30分値・365日での高解像度での試算にバージョンアップを検討しています。そのうえで、ご要望の多い、DR/VPP対応やAI蓄電池充放電最適制御の追加メリットの試算機能などを検討する予定です。本ブログ記事はそれを前提としたAIを活用した机上のシミュレーション結果となります。予めご留意ください。

シミュレーションの対象と前提条件

まずはシミュレーションの前提条件と対象範囲を定義します。どの家庭をモデルにし、どのような期間・地域・制度を想定するかによって結果が大きく異なるため、以下の点を明確にしておきます。

  • 対象とする住宅タイプ: 原則として 戸建て住宅(持ち家)を中心にシミュレーションします。戸建ては屋根に太陽光パネルを設置し蓄電池を据え置くケースが典型的です。将来的に増加が見込まれるマンションなどの集合住宅についても触れますが、主眼は戸建てモデルです。集合住宅の場合は各住戸ごとの太陽光・蓄電導入はまだ限定的ですが、マンション全体での太陽光・蓄電池共用や、各戸のエネルギーリソースをまとめて管理するケースも視野に入れ、必要に応じシミュレーターの拡張性を考慮します。

  • ROI(投資対効果)を評価する期間: 短期5年から超長期35年まで幅広く検討します。特に10年と15年を重視します。この理由は、住宅用蓄電池の多くが10年保証であり、最近では15年保証モデルも登場しているためです。蓄電池は経年劣化がありますが、保証期間内であれば性能維持が約束されます。そこで10年・15年時点で元が取れるかが一つの目安となります。さらに20年、25年、30年、35年といった長期スパンでもキャッシュフローを追跡し、追加の電池交換投資が必要か、あるいは長期では利益がどこまで伸びるかを評価できる設計にします。

  • 地域条件: 日本全国を対象とし、地域差も考慮します。日本は南北に長く、日照条件や気象条件が地域で大きく異なります。例えば年間予想発電量は全国平均で1kWあたり約1,215kWhですが、地域によって1,095〜1,339kWh/kW程度の差があります。実際、日照が豊富な内陸部では5kWあたり6,500kWh/年以上発電するケースもあれば、日照の少ない地域では5,000kWh/年以下しか発電できない場合もあります。シミュレーションでは都道府県またはエリア(例:関東、関西、北海道、九州など)を指定することで、その地域の年間日射量データや電力会社の料金メニューを自動反映する設計とします。例えば、東京エリアであれば東京電力の料金単価、日射量は関東平野基準、北海道なら北電の単価と積雪を考慮した発電量、といった具合です。

図: 戸建住宅に設置された家庭用蓄電池(Tesla Powerwallの例)。 太陽光発電と連携した蓄電池は、自家消費向上だけでなく、近年では仮想発電所(VPP)の構成要素としても活用が期待されている。

  • 電力料金と売電制度の前提: 2025年6月時点での最新制度・価格を基準に置きます。具体的には:

    • FIT売電単価: 2025年度下期より導入された住宅用太陽光の初期投資支援スキームを適用します。このスキームでは最初の4年間は24円/kWh、5年目以降(5〜10年目)は8.3円/kWhという2段階の売電単価が設定されています。10年間の平均では従来の15円/kWhに近似しますが、前半に高く後半に低いことで初期回収を助ける設計です。シミュレーションでは年次ごとにこの単価を適用し、たとえば設置1〜4年目の余剰売電収入は24円で計算、5年目以降は8.3円で計算します。11年目以降(FIT期間終了後)は現状では市場連動型の買取や新たなFIP契約等になりますが、ひとまず8.3円程度で据え置きか、または卒FIT後プラン(例えば地域新電力等が提示する8〜10円程度の買取)を想定します。複数シナリオ比較も可能にし、将来の買取価格変動(例:市場価格上昇で買取単価上振れ等)も試算できる柔軟性を持たせます。

    • 小売電気料金: 家庭向け電気料金は地域の電力会社の従量電灯プラン、もしくは時間帯別メニューを選択可能とします。例えば東京なら「従量電灯B(単価約30円/kWhの3段階制)」や、夜間が安い「夜トクプラン」等があります。蓄電池導入時には時間帯別契約に変更するケースが多いため、昼高・夜安の料金体系も考慮します。また燃料費調整単価再エネ賦課金も2025年時点の値(賦課金3.98円/kWh等)を反映します。将来的な電気料金上昇リスクもシナリオ分析可能です(例えば10年後に単価○円上昇した場合の経済効果など)。

    • FIP等の将来制度: 本シミュレーション設計では基本シナリオを現行制度準拠としつつ、将来のFIP(プレミアム買取制度)や電力市場価格連動の売電も扱えるようにします。たとえばダイナミックプライシング(JEPX市場連動型料金プラン)メニューを選択すれば、時間ごとのJEPX市場価格に応じた売電・買電をシミュレートできます。※エネがえるでは2025年秋から2026年春にかけて市場連動型料金プランに対応した電気料金シミュレーションや太陽光・蓄電池シミュレーション機能をリリースすべく開発中です。

  • DR・VPP収益モデル: 2025〜2028年頃の近未来を想定し、既存の大手アグリゲーターのサービス動向を踏まえた汎用的な収益モデルを組み込みます。具体的には、東京電力や関西電力、エナリス、東邦ガスなどが実施・検討している家庭用蓄電池のVPPサービスを参考に、以下のような収益要素をモデル化します。

    1. アグリゲーター契約収入(基本報酬): 蓄電池を一定期間(例えば年間または数年契約)VPPリソースとして提供することへの基本報酬。これは蓄電池容量1kWあたり年○円、または1台あたり年一律○円という形式が考えられます。実例として、あるVPP実証では蓄電池参加者に年間1〜2万円程度の報酬を支払ったケースがあります(補助金とは別に)。シミュレーションではパラメータ「基本VPP参加収入」として例えば年額2万円(仮)をデフォルト設定します。

    2. DRイベント報酬(出来高払い): アグリゲーターからの指令でピーク時に放電したり充電したりすることで得られる出来高報酬。たとえば「○月△日17時〜18時に〇kWh放電提供→報酬◇円/kWh」という形です。2024年5月には実際に卸電力市場価格が33.75円/kWhに達した時間帯もあり、これは従来のFIT売電単価より高額でした。高騰時に蓄電池からグリッドへ売電すれば高単価収入を得られることになります。シミュレーションでは、年間で何回イベントがあり何kWh供出するかを設定して計算します(例:年5回×各5kWh×報酬100円/kWh = 年2,500円など)。ただし一般家庭では逆潮流させず需要抑制(下げDR)で貢献するケースも多いので、需要カットによる節約額=収入とみなすこともできます。

    3. 容量市場連携収入: 低圧領域のVPP資源でも、容量市場(供給力確保のための市場)にアグリゲーター経由で提供し報酬を得るビジネスが始まります。これは蓄電池の出力を待機予約する対価として、1kWあたり年◯◯円といった収入が得られる可能性があります。現状試算では数千円/kW・年程度とも言われますが、シミュレーション上は上記基本報酬に包含して扱います。

以上のように、DRイベントや容量提供による追加収入をモデルに入れることで、従来は見えなかった蓄電池の付加価値を数値化します。これらは将来変動し得るため、パラメータとしてオン/オフや金額調整をできるようにします(ユーザーが「VPP参加する/しない」を選べば収入の有無を比較できる)。

  • AI蓄電池制御モデル: 蓄電池のAI最適制御については特定メーカーの proprietary なアルゴリズムではなく汎用モデルを設定します。現在、多くの家庭用蓄電池メーカーがクラウドを介したAI充放電制御サービスを提供し始めています。それらに共通する目的は電気代節約効果の最大化であり、典型的には:

    • 太陽光発電の予測に基づく充電最適化: 翌日の天気や過去の発電実績データから日中の発電余剰を予測し、それに合わせて前夜に蓄電池残量を調整します。晴天が見込まれるときは前夜にできるだけ放電(または深夜電力で充電しない)して空きを作り、逆に雨なら深夜にグリッドから充電しておく、といった判断です。

    • 需要(負荷)予測に基づく放電最適化: 過去の生活パターンから、いつ電力需要が多いかを学習します。例えば夕方18〜20時に家族が帰宅して消費が跳ね上がるなら、その時間帯に十分な蓄電池残量が残るよう日中の放電をセーブし、ピーク時間帯にまとめて放電するなどの戦略を取ります。

    • 時間別料金や市場価格の活用: 電力プランがピークシフト型であれば夜間安価時に充電→昼ピーク時に放電、ダイナミックプライシングなら価格が安い時間帯に充電し高騰時に放電・売電、といったアービトラージ(裁定取引)も行います。AIはリアルタイムで価格情報を取得し、自動的に利益が出る充放電を実行します。

これらAI制御の経済メリットとして、年間1〜1.5万円程度の追加効果が見込まれます。実際、ある試算では蓄電池のメリットが「自家消費のみ」だと年約6.9万円なのに対し、AI的なダイナミックプライシング活用で8.3万円に増加したとの報告があります(約1.4万円アップ)。

同様にAI制御でVPPにも参加すればさらに増えて年10.3万円のメリットとなりました。シミュレーションでは、「AI最適制御あり/なし」を切り替えできるようにし、ありの場合は電力料金メニューに応じた最適充放電アルゴリズムを適用します。例えばAIあり=深夜電力を用いた最適運用ONAIなし=PV余剰充電と停電時バックアップ優先の固定運用といった差別化をします。

なお、本記事のシミュレーター設計自体はあくまで汎用モデルですが、パラメータを事前設定することでメーカー毎の個別特性を反映できる柔軟性を持たせます。例えば:

  • パナソニックやニチコンなど一部機種では「グリッド充電を制限する」設定が可能ですが、AI制御ON時にはそれを解除する等。

  • 一部メーカーのAIは気象協会の予測APIと連携し精度が高い、など特徴がありますが、そうした差異は「予測精度○○」のパラメータで調整。

  • 蓄電池ごとの効率(例:95% vs 90%)、定格出力(大出力タイプならピークカット効果増)、容量(kWh)、サイクル寿命(保証サイクル数)などもメーカーにより異なるため、製品プリセットを用意して選択すると自動で反映されるようにします。例えば「SmartStar L (伊藤忠) = 9.8kWh, 5kW, LFP6000サイクル保証」「POWER DEPO H (住友電工) = 12.8kWh, 4.95kW」等。

以上がシミュレーションの前提条件です。次章以降、この枠組みに沿って必要なパラメータとデータ、計算ロジックを詳細に設計していきます。

必要なパラメータと入力データの整理

効果的なシミュレーションを行うには、入力すべきパラメータと使用するデータを適切に設定する必要があります。ここでは、シミュレーターに取り込むパラメータ類を整理し、高解像度の計算に耐えうる諸元データについて説明します。

1. 家庭の消費電力プロファイル(需要側データ)
シミュレーションの基本となるのが、家庭の電力消費パターンです。少なくとも月別・日別の消費電力量、可能なら時間帯ごとの負荷カーブを用意します。具体的なパラメータ・データは:

  • 年間消費電力量 (kWh/年): 世帯人数や住宅形態によって大きく異なります。例として4人家族・オール電化郊外戸建てなら5000〜7000kWh/年程度、一人暮らしマンションなら2000kWh/年程度が目安です。

  • 月別消費傾向: 冬季に増える(暖房や給湯)、夏場にエアコンで増える、など季節変動を反映します。気候帯によって差異があるため、地域パラメータと連動させます。

  • 平日/休日の差: 平日は昼間不在で消費少なめ、休日は日中も在宅で多め、といった傾向を反映する比率(例: 平日:休日 = 66%:34%の電力消費)。

  • 時間帯別負荷曲線: 理想的には24時間の需要パターンを1~2時間刻みで与えます。例えば夜間深夜帯(23:00〜5:00)低、朝(6:00〜8:00)中、日中(9:00〜17:00)低、夕方(18:00〜22:00)ピークといった典型プロファイルです。オール電化か否か、共働きか在宅か等でカーブは変わるため、モデルケースを数種類用意(例:「郊外4人家族(共働き)」「都市夫婦共働き」「地方高齢夫婦」など)し、ユーザーが近いものを選べるようにします。さらに詳細なユーザー向けには電気代請求情報やスマートメーター実績値から需要データを自動取得・設定するインターフェースも考えられます。

2. 太陽光発電システムの仕様と発電量データ
次に供給側である太陽光発電のパラメータです。

  • パネル容量 (kW): 典型的な住宅では3〜7kW程度です。シミュレーション入力として容量値を受け取り、その値に応じて発電量をスケールします(発電量は容量にほぼ比例)。

  • 設置方位・傾斜: 真南向き・傾斜30度が理想ですが、東西向き設置や浅い傾斜など条件で発電ロスが発生します。シミュレーターでは設置条件係数として、南向き水平面を1.0とした係数を掛けるか、NEDOの日射量データベースから条件を指定して取得します。例えば真南30度なら1.0、真東30度なら0.85程度などの補正を行います。

  • 年間日射量データ: 前述の通り地域毎に異なる年間発電量を計算します。システム標準仕様としては全国平均1215kWh/kW/年、地域係数として例えば北海道0.9、関東1.0、中部1.1、九州1.1などを掛けます。またNEDOの「日射量データベース閲覧システム」から緯度経度ごとの年・月別日射量を取得し、パネル容量・効率を掛け合わせることで精度高く見積もれます。シミュレーターでは裏側でこれを行い、月別発電量(kWh)データを生成します。

  • パネル変換効率・ロス係数: モジュールの変換効率は製品によりますが、発電シミュレーション上はシステム効率(総合ロス込み)として15〜20%程度のロスを見込みます。温度ロス・配線ロス等で年間5〜10%程度減少するため、NEDOデータなどは既に実績ベースなら込みですが、簡易計算時には0.85の係数を掛けるなど対応します。

  • 経年劣化率: パネルは毎年0.5〜1%出力が落ちます。長期シミュレーション(20年以上)では劣化を考慮します。たとえば毎年0.8%ずつ発電量減衰と設定し、30年時点では初年度比80%程度になる計算です。ただしその頃にはパワコン交換(15年目など)が必要で、それにより効率回復やコスト追加も発生します。本設計では劣化は精度向上のため組み込みますが、ユーザー説明時にはシンプルさを優先し必要に応じてオン/オフ可能とします。

3. 蓄電池システムの仕様
蓄電池の特性はシミュレーション結果に直結します。主なパラメータ:

  • 蓄電容量 (kWh): 現在の住宅用蓄電池平均は約11.8kWhです。製品ごとに5kWh程度(小型)から16kWh以上(大型)まで幅があります。容量は実効容量(実使用可能容量)で指定します。一部電池は80%放電深度(DOD)までしか使えない場合がありますが、最近はリチウムイオン(LFP系中心)で90〜100%使える製品が多いです。シミュレーターでは「定格容量」「実効容量」を分け、例えば10kWh・DOD90%なら9kWh有効として計算します。

  • 定格出力 (kW): 蓄電池が一度に出力できる最大電力です。一般的に3kW〜5kW程度が多いです。これが小さいと同時に多くの家電を支えられず、ピークカット効果が限定的になります。停電時の給電可能負荷にも影響します。シミュレーションでは、負荷が定格を超える場合は不足分をグリッドから買電するといった制約をモデルに組み込みます。また瞬時最大出力(パルス供給能力)も周波数調整サービス等には影響しますが、家庭用途では通常定格で近似して問題ありません。

  • 充放電効率: 蓄電池のラウンドトリップ効率(充電→放電のエネルギー損失)です。蓄電池とパワーコンディショナを含めて85%〜98%程度です。シミュレーションでは例えば0.90と設定し、「蓄電池から取り出した1kWhは実際には1/0.9 ≈ 1.11kWhのPV発電or買電を要した」としてエネルギー収支を調整します。効率は温度や出力率で変動しますが、詳細まではモデル化せず定数とします。

  • 寿命・サイクル数: 経済性評価には寿命も重要です。現在は6,000〜10,000サイクル保証が主流で、10,000サイクル保証モデルなら1万回の充放電に耐える=約30年の毎日サイクルでも大丈夫という水準です。シミュレーション上は期間内は容量一定とし、期間終了(例えば15年相当でサイクル尽きる)で追加投資(電池交換)を入れるかどうか選択肢を提供します。たとえばROI30年を評価する際、15年目に蓄電池を新品に交換すると仮定するか、しないなら15年以降は徐々に容量低下(劣化率モデルを入れる)かを選べるようにします。

  • 蓄電システム価格: 投資回収計算には初期費用が不可欠です。2025年前半時点での平均システム費用は約214.2万円(税込)です(容量11.79kWh平均なので1kWhあたり18.2万円)。製品によっては15万円/kWh程度(例: Tesla Powerwall 13.5kWh 212.5万円)から20万円/kWh近いものもあります。シミュレーターではユーザーが見積もりした価格を入力できるようにし、デフォルト値も用意します。また国や自治体の補助金適用も考慮します。例えば国のDR補助金では蓄電池導入費用の1/3または容量1kWhあたり3.7万円の低い方(上限60万円)が支給されます。補助金額を入力すれば初期投資から減額される仕組みにします。補助金利用有無でROIが大きく変わるため、補助なし vs ありの比較もボタン一つで切替表示できると良いでしょう。

4. 電力料金プランおよび単価
前提で述べたように、電気料金プランは重要なパラメータです。主な要素:

  • 基本料金: 一般的な従量電灯では契約容量(アンペア)に応じた基本料金があります(例: 30A契約で月858円@東電)。蓄電池導入自体は基本料金に直接影響しませんが、オール電化プランでは基本料金割引があったり、またピークシフトプランでは基本料金が高めな代わりに単価が時間別だったりします。シミュレーターでは代表的なプランをプリセット(例: 従量電灯B、スマートライフプラン、など)し、それぞれの時間帯別単価基本料金テーブルを内部に持たせます。

  • 従量単価: 単一単価制または段階制の場合、昼夜問わず一律(段階的に高くなるが時間帯差はない)なので、蓄電池の充放電で電力量料金の節約額は単価×削減kWhで求まります。一方、時間帯別単価制の場合、例えば「昼間30円/kWh・夜間15円/kWh」というプランなら、蓄電池AI制御ありの場合は夜間15円で1kWh充電→昼間1kWh放電して30円分節約という風に、1kWhシフトごとに差額15円のメリットが出ます(効率90%なら正味13.5円メリット)。このようにプラン別の計算ロジックを持たせます。動的価格プランの場合は、例えば過去1年の時間別市場価格データを読み込んで適用するなど高度になりますが、当面は代表日パターンなどで対応します。

  • 売電単価: FIT期間中は前述の通り固定(24円/8.3円)ですが、卒FIT後やFIPは市場連動です。蓄電池がある場合、余剰売電を蓄電して自家消費に回すため売電量そのものは少なくなります。ただしVPP参加だと敢えて余剰を売電せず貯めておき、高値時にまとめて放出=売電する戦略も考えられます。この場合、売電単価は例えば高騰時33円/kWhに相当し、通常の8円に比べ大幅な収入増になります。シミュレーター上は、AI制御+VPP参加モードでは「高騰時放電売電」を実施するロジックとし、一定割合の発電を高値売電できるようにします(詳細は次章のロジックで触れます)。

以上が主な入力パラメータ類です。これらをユーザーに全て一から入れさせると大変ですので、最小努力で最大成果という観点から、デフォルト値やプリセットを充実させます。例えば:

  • 地域を選ぶ→その地域の平均日射量データ・電力会社プラン・地域補助金情報まで自動設定。

  • 世帯人数・住宅タイプを選ぶ→典型的な年間消費電力量と負荷曲線を自動セット(後から微調整可)。

  • 蓄電池メーカーを選ぶ→容量・出力・効率・寿命を自動セット。

  • 太陽光容量は屋根サイズから自動提案(坪数や屋根形状からおおよそ何kW載るかを計算するモジュールを持たせる)。

このようにユーザー入力を極力シンプルにしつつ、内部では細かなパラメータまで決まるようにします。もちろん上級者向けに全詳細を手入力・上書きできるモードも用意するとよいでしょう。

シミュレーションロジックの詳細設計

では、具体的に計算ロジックを構築していきます。シミュレーションは大きく分けて(A)エネルギー収支シミュレーション(B)経済性計算2段階があります。順に説明します。

(A) エネルギー収支シミュレーション

エネルギー収支のシミュレーションでは、「いつ、どれだけの発電があって、どれだけの需要があり、蓄電池をどう制御した結果、系統からの買電・系統への売電がいくらになるか」を求めます。時間スケールは、精度を上げるなら1時間単位ですが、計算量とのバランスで1時間または30分刻み程度にします。(エネがえるは2026年中には30分値でのシミュレーションにバージョンアップ予定)

ステップ1: 時間別の太陽光発電量を計算
まず、地域・容量・条件から得られた月別発電量データを、日・時間帯に分配します。典型的には「その月の総発電量を、各日の天候(晴れ/曇り/雨)パターンによって配分」し、さらに日中の時間帯(例: 6~18時)でおおよその発電曲線に沿って振り分けます。高度な方法では、気象データ(気温・雲量)から正確な発電カーブを再現できますが、シミュレーターでは代表的な晴天日・曇天日の発電曲線を用意し、それらの組み合わせで年間を構成します。出力としては時間別PV発電量 [kWh]の配列(8760時間分)です。

ステップ2: 時間別の家庭消費負荷を設定
前述の負荷プロファイルに従って、こちらも8760時間の消費電力データを作ります。平日・休日の比率、季節変動、時間帯変化を組み合わせます。可能であればユーザーから1ヶ月分のスマートメーター実績CSVをアップロードしてもらい、代表日を生成することも考えられます。いずれにせよ時間別消費 [kWh]配列が得られます。

ステップ3: 蓄電池の充放電シミュレーション
いよいよ蓄電池の制御アルゴリズムを適用していきます。モードとして「AI最適制御あり」「なし(標準制御)」2つを考え、それぞれで充放電ルールが異なります。

  • 標準制御(AIなし):
    基本的なルールは、

    1. 日中PV余剰があれば蓄電池充電: その時点の発電量が消費を上回っていれば差分を可能な限り蓄電池へ充電。ただし蓄電池が満充電に近づいたら、残りは売電へ回す。

    2. 需要が発電を上回れば蓄電池放電: 太陽光で賄えない需要があり蓄電池残量もあれば、不足分を放電で補う。蓄電池残量が尽きたら系統から買電する。

    3. 夜間は蓄電池放電優先: 太陽光が無い時間帯は蓄電池残量を使って需要を賄う(停電対策モードの場合は一定容量を残す設定も可)。残量が無くなれば系統から調達する。

    4. グリッドからの充電は基本しない: 標準では電力を買って蓄電池に充電することはせず、あくまでPV余剰のみ充電に使う。これはFIT期間中は売電と充電のトレードオフで損益が決まるのと、ルール上も売電優先・系統充電不可設定になっているケースがあるためです。

    このルールで時間ごとに蓄電池の状態(充電量SOC)を更新しつつ、系統への売電量・系統からの買電量を計算します。結果として年間の自家消費量(PV発電のうち蓄電池経由含めて自宅で使われた量)、売電量買電量が集計できます。例えば蓄電池無しだと自家消費率30%だったのが、蓄電池有りで約70〜80%に向上する、といった結果が得られます。

  • AI最適制御(あり):
    上記基本ルールに以下のような高度判断を加えます。

    1. 前夜〜早朝のグリッド充電: 翌日の天気と電力単価を考慮し、夜間電力を蓄電池に充電するか決めます。例えば翌日が雨でPV発電が見込めない場合、深夜安価電力で満充電しておきます。一方翌日快晴予報なら深夜には充電せず蓄電池を空に近い状態で朝を迎え、日中の余剰を余さず受け入れます。時間帯料金プランの場合、この充電は夜間◯円/kWhで買っていることになるので、昼にその分放電して節約できる額との差額が利益となります。

    2. ピーク時間帯への照準: 夕方以降の高負荷・高単価時間帯(例: 17〜21時)に残量を使えるよう制御します。AIは過去データから夕方の消費量を予測します。仮に「平均して18時に3kWhの需要ピークが来る」なら、その時間までに少なくとも3kWh蓄えておくよう、日中早めに放電しすぎない制御をします。結果、夕ピーク時の買電をゼロに近づけ、最大需要電力をカットできます。これは電力会社によってはピーク電力課金(デマンドチャージ)の削減にも寄与します(家庭向けでは稀ですが、一部契約であり得る)。

    3. 需給調整イベント対応: アグリゲーターから「◯時に放電せよ」「充電せよ」と指令が来ることを想定します。AI制御下ではこれを受け入れ、例えば17時から1時間2kWh放電すると決まれば、その分を事前に残量確保し、時間になったら放電を実行します。放電先は自宅負荷の代替または系統売電ですが、いずれにせよ通常シミュレーションとの差分として扱い、イベント報酬を計上します。イベント中は一時的に通常制御を上書きするイメージです。

    4. リアルタイム価格反映: ダイナミックプライシング契約の場合、AIはスポット価格を見ながら運転します。価格が著しく安い(例:深夜2時に0円に近い)なら躊躇なく充電、高騰(例:夕19時に50円/kWh)なら全力放電・節電、といった動きをします。これもシミュレーション内で再現します。たとえば過去データから平均して年間○○kWh分を高騰時売電できた、といった統計を用いて概算する方法もありますが、ここでは代表日の繰り返しで1年シミュレートし、価格も代表的な揺れを与えて近似するのが現実的でしょう。

AI制御アルゴリズムの反映により、蓄電池はより戦略的に使われます。期待される結果としては、年間メリット額が数万円上乗せされることです。前述の例では通常6.9万円→AI制御込8.3万円→AI+VPP10.3万円と段階的に増えました。この差分を生む要因は「安い電気を買って高い電気を節約/売る」ことであり、AIがそれを実現した形です。シミュレーションでもそのメカニズムを数式化して実現します。

<エネルギー収支計算の数式イメージ>(簡略化したものを示します):

各時間 $t$ について、

  • 発電量: $P_t$ [kWh]

  • 消費負荷: $L_t$ [kWh]

  • 蓄電池充電量: $C_t$ [kWh](正の値は充電、負は放電とする)

  • グリッドからの買電量: $G^{buy}_t$ [kWh]

  • グリッドへの売電量: $G^{sell}_t$ [kWh]

基本的なエネルギーバランスは:

Pt+Gtbuy=Lt+Ct+GtsellP_t + G^{buy}_t = L_t + C_t + G^{sell}_t

ここで、$C_t > 0$は充電、$C_t < 0$は放電。蓄電池の容量制約:

0SOCtSOCmax0 \le SOC_t \le SOC_{max}


SOCt=SOCt1+ηchCtcharge1ηdisCtdischargeSOC_{t} = SOC_{t-1} + \eta_{ch} \cdot C_t^{charge} – \frac{1}{\eta_{dis}} \cdot C_t^{discharge}

($\eta_{ch}, \eta_{dis}$は充放電効率。効率は充電時と放電時で対称と仮定して$\eta_{ch}=\eta_{dis}=\sqrt{\text{round-trip効率}}$とすることもあります。)

制御ルール(標準の場合):

  • もし $P_t > L_t$ (余剰発電)かつ $SOC_t < SOC_{max}$ なら、余剰の一部または全部を充電:
    $C_t = \min(P_t – L_t,; SOC_{max}-SOC_{t-1})$ (充電)
    残りは売電: $G^{sell}_t = P_t – L_t – C_t$.

  • もし $L_t > P_t$ (発電不足)かつ $SOC_{t-1} > 0$ なら、蓄電池放電で補填:
    $C_t = -( \min(L_t – P_t,; SOC_{t-1},; P_{discharge}^{max}) )$ (放電、負値)
    不足残りは買電: $G^{buy}_t = L_t – P_t – (-C_t)$.

  • 蓄電池が空 ($SOC_{t-1}=0$)なら全不足を買電: $G^{buy}_t = L_t – P_t$.

AI制御ではさらに:

  • もし夜間安価時間帯(例えば23:00-5:00)かつ翌日の予報から充電が有利と判断したら、$C_t =$ 目標SOCまで一気に or 時間分散充電。

  • もしピーク時間帯近づきかつ現在SOC不足なら、平常時でも放電控えめに(例えばルールを「$SOC_{t-1}$のうち一定割合以上は維持」と設定)。

  • DRイベント時間$t \in [t_{ev_start}, t_{ev_end}]$には強制的に $C_t = -P_{ev}$(決められた放電出力)など。

以上のアルゴリズムを実装すると、1時間ごとに蓄電池SOCや系統売買電力が更新され、1年分シミュレーションできます。得られる年間累積値(または月別集計)は、

  • 総発電量 $P_{\text{year}} = \sum_t P_t$

  • 自家消費量(蓄電池経由含む) $= \sum_t (L_t – G^{buy}_t)$

  • 売電量 $= \sum_t G^{sell}_t$

  • 買電量 $= \sum_t G^{buy}_t$

  • 蓄電池年間充放電量 $= \sum_t C_t^{charge}$ (≒ $-\sum_t C_t^{discharge}$)

などが計算できます。

(B) 経済性(収支)計算

エネルギー収支が出れば、あとは経済効果を計算します。以下の項目を算出します。

1. 年間電気代削減額の算出
太陽光・蓄電池導入によって削減できた電気代、および売電収入を合算した年間メリット額を計算します。基準となるのは「導入前(もしくは蓄電池無し)の電気代」と「導入後の電気代・収入」の差額です。

  • 導入前の年間電気料金: これはシミュレーションした消費データ $L_t$ を用い、全量を電力会社から買ったと仮定して計算します。料金メニューに従い、時間帯別単価×消費 or 従量段階計算をして積算します。例えば従量電灯Bなら月ごとに使用量を3段階単価で計算し12ヶ月合計、時間帯プランなら各時間 $L_t \times \text{単価}(t)$ を合計します。これが年間電気代(導入前)です。

  • 導入後の年間電気代: シミュレーション結果の系統買電量 $G^{buy}_t$をもとに同様に料金計算します。ただし太陽光自家消費により購入量が減っているので大幅に減額されます。また、もし蓄電池で夜間充電して昼消費などしている場合、割安な時間帯にシフトした分は安い単価で計算されますので、これも反映されます。

  • 売電収入: シミュレーション結果の売電量 $\sum_t G^{sell}_t$に、適用される売電単価を掛けて算出します。FIT期間中は単純に24円または8.3円を掛けます。期間途中でレートが変わる場合は年ごとに計算します。もしFIPや卒FITで市場連動なら、各時間 $G^{sell}_t \times \text{価格}(t)$ の積算になります(シミュレーションで価格も扱っていれば可能)。

  • VPP/DR報酬: こちらは上記とは別に収入項目となります。基本報酬は年額定数を足し、イベント報酬はイベントごとに例えば「○kWh放電×100円」と計算して合計します。シミュレーターでは年メリットに+◯◯円として加算します。

年間メリット額 = (導入前電気代) – (導入後電気代) + (売電収入) + (VPP収入)

この年間メリット額が、先ほど例示した6.9万円、8.3万円、10.3万円…といった値に相当します。蓄電池無し+太陽光のみの場合はもっと大きく、あるいは小さくなるでしょう(太陽光容量次第)。蓄電池単体導入(太陽光なし)の場合も算出できますが、その場合売電収入はゼロで、電気代削減が夜間充電→昼使用の差額分のみになるためメリットが限定的になります。「蓄電池単体では元が取れない」と言われるのはこのためで、シミュレーションで明確に示すことが可能です。

2. 投資対効果(ROI)の評価
年間メリットが出れば、それと初期投資額を比較してROIを評価します。ここでROIの定義をいくつか考えられます。

  • 単純回収年数(Payback Time): 初期投資(-補助金差し引き後)を年間メリットで割った値です。例えば総費用214万円・補助無しで年6.9万円メリットなら約31年AI+VPPで年10.3万なら約20年となります。補助金40万円使えば初期投資174万円となり年10.3万メリットなら約17年、さらに今後電気代上昇でメリット10%増などなら15年程度になるかもしれません。シミュレーターでは、指定した各想定期間(5,10,15,…35年)の中で投資回収が完了するかを判定し、完了するならその年を「○年で元が取れる」と表示します。完了しない場合は「35年時点で◯◯円不足」等と表示します。

  • 正味現在価値(NPV): 将来キャッシュフローの現在価値合計から投資額を引いた値です。電気代節約・収入を毎年のキャッシュフロー、割引率(例えば年2〜3%)を設定して計算します。NPVが0以上なら投資妥当となります。一般消費財の検討ではあまりNPVまでは見ないかもしれませんが、長期プロジェクトとして感度分析する際には有用です。シミュレーターでは高度モードで計算可能とします。

  • 内部収益率(IRR): これも投資指標で、NPV=0に対応する割引率です。例えばIRR=5%なら電気代削減という見えない利息が年5%利回りに相当するということです。蓄電池の場合IRRは低めになりがちですが、補助金や電気代上昇を組み込むと上がるでしょう。

  • 費用対効果比: 投資額1円あたり何円のメリットか(例えば15年累計メリット / 初期費用)。これもROIの一形態です。

本シミュレーターでは主に単純回収期間をわかりやすく示しますが、補足としてNPVやIRRも算出します。見込みとしては、AI+VPP活用+補助金という好条件なら10〜15年での回収も十分現実的であることを示せます。逆に何も活用しない場合は30年でも回収困難という結果も出ます。下表は一例です。

シナリオ 年間メリット額 想定回収年数 (初期214万)
太陽光+蓄電池 (自家消費のみ) 6.9万円 31年程度
+ ダイナミックプライシング対応 8.3万円 26年程度
+ VPPネガワット収入 10.3万円 20年程度
+ 補助金40万円適用 13〜15年程度 (上記条件併用時)

※上記はある試算例です。シミュレーションではユーザー個別の条件でこれら指標が再計算されます。例えば中国電力管内で電気代が高ければメリット額はもう少し増え、回収が早まるでしょう。逆に日射の少ない地域では発電量が減りメリットも減ります。

3. その他の効果
経済効果以外にも、蓄電池には環境価値レジリエンス(防災)価値があります。シミュレーターのメインは経済性ですが、レポート出力時に以下のような情報も付記すると、ユーザーの意思決定を後押しできます。

  • CO₂削減効果: 太陽光+蓄電池の導入で年間どれだけCO₂排出を削減できるか。例えば年間◯◯kg-CO₂削減(◯本の杉の木を植樹したのに相当)など。蓄電池の製造時CO₂を考慮しても運用次第では15〜25%削減可能とのデータもあります。

  • 停電備蓄電力量: 蓄電池が満充電なら○日分の電力を賄える、といった指標です。Powerwallなら13.5kWhで4人家族の1日分に相当といわれます。シミュレーションから最悪ケース時(冬季など)の1日消費を割り出し、「あなたのご家庭なら満充電で約△△時間バックアップできます」と提示します。

  • 電力自給率: 年間の消費電力量のうち何割を自宅の再エネで賄えたか。再エネ自給率○%=エネルギー自立度の指標になります。これをステージ目標のように示すのも有効です(例:Stage1では50%、Stage5究極自立では100%)。

こうした付随情報は「経済メリット以外のメリット」として提案資料中に盛り込みます。ユーザーにとって金銭以外の価値(安心感や環境貢献)が見える化されることで、購買判断の後押し材料になります。

集合住宅や将来拡張への言及

本シミュレーターの中心は戸建て住宅ですが、将来的なニーズとしてマンション等集合住宅や、EV・V2Hとの連携にも触れておきます。

  • 集合住宅への適用: 現状ではマンション各戸に太陽光パネルを設置するのは難しいですが、建物全体で太陽光・蓄電池を導入し各戸にメリットを配分するケースが考えられます。例えばマンションのデベロッパーが共用部に大容量蓄電池を設置し、各住戸のピークカットや非常用電源に利用するモデルです。その場合、シミュレーターの基本枠組みは同じですが、需要パターンが「ビル全体の負荷」となり、複数世帯分を合算した大きな需要曲線になります。太陽光もマンション屋上に例えば50kW設置し共用部&各戸に供給、という形になります。シミュレーションエンジン自体は需要データと設備容量を変えれば対応可能なので、例えば「全24戸マンションモデルケース」などを登録し、集合住宅モードとして利用できるようにします。ただし経済効果の分配(電気代節約が家主か各入居者か)などは複雑なので、主に事業者向けシミュレーションになります。

  • V2H・EVとの連携: 将来は電気自動車(EV)が蓄電池の一部となります。EVの大容量バッテリーを住宅と繋ぐV2H(Vehicle to Home)はすでに一部実用化されています。シミュレーターとしては、EVの走行による電力消費(充電量)や余剰バッテリー容量を家庭に供給する動きも入れると、より包括的なエネルギーシミュレーションになります。例えば「平日日中はEVを職場で充電、夜帰宅して家庭に放電」という使い方をすれば家庭の買電を減らせるかもしれません。このようなマルチリソース連携も視野に入れて、将来拡張できるデータ構造にしておきます。具体的にはEVの電池容量・走行消費・充放電スケジュールをパラメータ追加し、蓄電池と同様のロジックでシミュレーション可能にします。2028〜2030年には「EV+V2H運用」が本格化すると想定されます。

以上、集合住宅やEV連携は本記事の範囲を超えますが、シミュレーター設計段階で拡張性に配慮することで、長期的にも有用なプラットフォームとなるでしょう。

メーカー毎の特性反映とシミュレーターの柔軟性

既に述べた通り、本シミュレーションモデルは汎用的なものですが、主要メーカー各社の蓄電池システムの個別特性をパラメータ調整で再現できるようにします。ここではいくつかの違いと、その反映方法をまとめます。

  • グリッド充電可否: 一部の蓄電池は、契約上またはシステム上の理由で系統からの充電を禁止/制限している場合があります(特にFIT売電が高単価の場合、安い夜間電力を充電して高値で売る「抜け道」を防ぐためのルールがあった)。例えばパナソニックの旧モデルではグリッド充電はしない設定が標準でした。この違いは、シミュレーター上で「グリッド充電許可」のフラグを持たせON/OFFできます。AI制御ONの場合は基本ONとし、OFFなら夜間充電のロジックをスキップする仕様です。

  • 停電時優先モード: メーカーによっては「非常時モード」では蓄電池容量の一定割合を常に残す設定ができます。たとえばシャープのクラウド蓄電池は停電備蓄用に20%残量キープなど可能です。これもパラメータで「停電用予備枠○%」を設定すれば、平常時でもそれ以下に放電しないようシミュレーションします。これを設定すると経済効果は若干下がりますが、安心感は上がるというトレードオフが示せます。

  • 蓄電池の化学特性: LFP(リン酸鉄リチウム)は長寿命・高安全だがエネルギー密度低め、NMC(コバルト系)は高エネルギー密度だが寿命短め等の差があります。これらは主に寿命(サイクル数)やコストに現れます。シミュレーターでは製品データベースに寿命サイクル数とコストを持たせていますので、それを引く形です。例えば「メーカーA: LFP10,000サイクル保証・価格18万円/kWh、メーカーB: NMC6,000サイクル保証・価格15万円/kWh」といった風にです。

  • エネルギー管理システムの高度さ: AI制御の巧拙は各社で差があります。とはいえ公開情報では性能比較は難しいため、仮に「AI制御効率○%」のようなパラメータで表現することも考えられます。例えば最適制御が完璧なら100%、やや非効率で無駄充放電があるなら90%などとし、その値を年間メリット計算に乗じることで差異を表現します。しかし実際そこまで精緻には困難なので、ここは一律としておいても良いでしょう。

  • 製品保証とメンテナンス費: メーカーによって保証内容が違います(10年フル保証、15年長期保証有償オプション等)。またパワコンは15年目に交換必要とか、遠隔監視サービス料がかかる等もあり得ます。これらはシミュレーション後にライフサイクルコストとして計上できるようにします。例えば「15年目パワコン交換費用△万円を別途見込む」と設定でき、ROI計算に含めます。保証が切れた後のリスク(修理費など)は数値化難しいですが、将来キャッシュフローに一定額のリスク費用を入れることもできます。

要するに、シミュレーターはユーザーの任意調整が可能なパラメータを豊富に持つ一方、普通の利用時にはメーカーやプランの選択に応じて自動的に最適値がセットされるように設計します。これにより、販売施工店の担当者は煩雑な設定をしなくても「◯◯メーカー蓄電池+〇〇プラン」でシミュレーションとボタンを押すだけで、その組み合わせのシナリオが立ち上がります。もちろん詳細を詰めたい専門家にも対応でき、汎用性と簡便性を両立するのが理想です。

最小の手間で最大の訴求効果を上げるために

最後に、需要家が意思決定しやすく、販売施工店が成約しやすいシミュレーターとするための工夫について述べます。

1. 分かりやすいアウトプットの提供:
ユーザーが一目でメリットを理解できるよう、グラフや指標の見せ方にこだわります。例えば:

  • 年間収支グラフ: 導入前後の電気料金の差を棒グラフで表示。青いバーが「買電費用」、黄色いバーが「売電収入」として、導入後は青が縮み黄色が増える様子を視覚化します。

  • 累積キャッシュフロー曲線: 年数経過とともに累積メリットが初期投資を上回るタイミング(ペイバックポイント)を折れ線グラフで示します。10年、15年と縦線を引き、「ここでまだマイナス、ここでプラス転化」と視認できます。例えばVPP無しだと20年でもマイナスだが、ありなら15年でプラスになる、といった比較が一目瞭然になります。

  • 主要指標のハイライト: 回収期間○年、初期費用○万円、補助金△万円適用後、電気代削減率○%、CO₂削減△%などを箇条書きで強調します。

2. シナリオ比較の容易さ:
ワンクリックでシナリオ切替・比較ができるUIにします。例えば「AI制御なし vs あり」「VPP参加なし vs あり」「補助金なし vs あり」「期間10年 vs 15年」など、比較したい要素についてチェックボックスで選択し、結果画面では2つの棒グラフや折れ線を並べて表示します。人間は相対比較により理解が深まります。販売店から見ても、お客様に「こちらが普通の蓄電池、こちらがAI+VPP対応の蓄電池の場合です」と2パターン見せて、「ほら、こんなに差が出ます」と提案できるのは成約率向上につながります。

3. 専門的な裏付けと信頼感:
シミュレーターの算出根拠を透明にしつつ、信頼できるデータソースを参照することも重要です。例えばFIT単価や補助金額は経産省公式発表に基づき、電力料金は各電力会社公表値を使用、太陽光発電量推計は環境省データに準拠、といった記述や出典を明示します。さらにバッテリーのサイクル寿命データ等はメーカー公称値や実証研究を基にしており、「世界トップクラスの精度」とうたっても差し支えないレベルにします。これによりユーザーが「本当にこの通りになるのか?」という不安に対し、ファクトベースで説得できる資料となります。

4. 販売・施工プロセスへの組み込み:
販売施工店にとっては、このシミュレーターを使うことで提案業務が効率化し、成約率が上がることが理想です。従って、シミュレーターは単独の計算ツールに留まらず、提案書作成機能営業支援フローに組み込みます。例えば計算結果を基に自動で提案書PDFを生成し、グラフやメリット説明、製品カタログ情報まで一体化して出力する機能です。営業担当はそれを印刷してお客様に説明するだけで良くなります。また、社内で複数プラン(例: A社蓄電池 vs B社蓄電池)を比較検討する際にも、共通フォーマットで一覧できるようにします。さらに、クラウドサービス化しておけば最新の制度変更(補助金や売電単価改定など)にも即座に反映できますので、常に最新の提案が可能になります。


以上、本記事では家庭用太陽光・蓄電池+DR/VPP+AI制御まで含めた経済効果シミュレーションの論理と設計を詳細に解説しました。ポイントは、最新制度(FIT24円→8.3円)や新ビジネスモデル(VPP)を取り入れて、従来「回収が難しい」とされた蓄電池の投資対効果を大きく改善できることを示すことです。実際、試算では工夫次第で回収期間が従来の半分以下に短縮し得ることが分かっています。重要なのは、そのシミュレーションを誰でも簡単に回せるツールとして提供し、需要家の不安や誤解を解消しつつ、販売側も効率よく提案できるようにすることです。

太陽光・蓄電池・DR・AIと聞くと難しく感じるかもしれませんが、本シミュレーターはそれらを噛み砕いて「見える化」します。読者の皆様も、ぜひこのシミュレーション設計を参考に、最先端のエネルギーソリューション提案に役立てていただければ幸いです。家庭のエネルギー自給が進み、さらにそれが集まって社会全体のエネルギーインフラを支える――そんな未来像を、データに裏付けられたシミュレーションから現実のものにしていきましょう。

参考資料・出典: 最新のFIT/FIP制度情報、家庭用蓄電池市場動向・価格データ、蓄電池活用時の経済効果試算、太陽光発電量の地域差データ、VPPサービス動向などを本文中に引用しました。これら公的資料や業界データに基づき、シミュレーションロジックを構築しています。各数値は2025年時点のものですが、市場や制度の変化に応じて常にアップデートを図ります。

参考:再エネ導入の加速を支援する「エネがえるAPI」をアップデート 住宅から産業用まで太陽光・蓄電池・EV・V2Hや補助金を網羅 ~大手新電力、EV充電器メーカー、産業用太陽光・蓄電池メーカー、商社が続々導入~ | 国際航業株式会社 

参考:「エネがえるEV‧V2H」の有償提供を開始~無料で30日間、全機能をお試しできるトライアル実施~(住宅用太陽光発電+定置型蓄電池+EV+V2Hの導入効果を誰でもカンタン5分で診断/クラウド型SaaS) | 国際航業株式会社 

参考:「自治体スマエネ補助金データAPIサービス」を提供開始 ~約2,000件に及ぶ補助金情報活用のDXを推進し、開発工数削減とシステム連携を強化~ | 国際航業株式会社 

参考:国際航業、エコリンクスと提携し、再エネ導入・提案業務を支援する 「エネがえるBPO/BPaaS」を提供開始 経済効果の試算・設計・補助金申請・教育研修を1件単発から丸ごと代行まで柔軟に提供 ~経済効果試算は1件10,000円から 最短1営業日でスピード納品~ | 国際航業株式会社 

無料30日お試し登録
今すぐエネがえるASPの全機能を
体験してみませんか?

無料トライアル後に勝手に課金されることはありません。安心してお試しください。

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

コメント

たった15秒でシミュレーション完了!誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!
たった15秒でシミュレーション完了!
誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!