カーボンインテリジェント・コンピューティングとは?GAFAMの戦略から日本の24/7カーボンフリーへの道筋を探る

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

むずかしいエネルギー診断をカンタンにエネがえる
むずかしいエネルギー診断をカンタンにエネがえる

カーボンインテリジェント・コンピューティングとは?GAFAMの戦略から日本の24/7カーボンフリーへの道筋を探る

エグゼクティブサマリー

本レポートは、現代のデジタル社会を支えるデータセンターの持続可能性を追求する上で不可欠な技術パラダイム、「カーボンインテリジェント・コンピューティング(Carbon-Intelligent Computing: CIC)」について、その技術的深層からGAFAM(Google, Amazon, Facebook/Meta, Apple, Microsoft)による戦略的実装、そして日本における24/7カーボンフリーエネルギー(24/7 CFE)への示唆までを網羅的かつ高解像度に解説するものである。CICは、コンピューティング需要をクリーンエネルギー供給と動的に整合させることで、電力消費に伴う炭素排出量を能動的に削減するアプローチである。

GAFAM各社の戦略を比較分析した結果、顕著な戦略的分岐が明らかになった。GoogleとMicrosoftは、電力消費を時間単位でクリーンエネルギーと整合させる「時間単位マッチング(Hourly Matching)」を追求し、次世代のグリッド技術開発を牽引する「インパクト」重視のアプローチを採っている。一方、AmazonとMetaは、年間総消費電力量を再生可能エネルギー購入量で相殺する「年間単位マッチング(Annual Matching)」を早期に達成したが、これはグリッドの脱炭素化への直接的な貢献度が限定的であるという課題を内包する「アカウンティング」重視のアプローチと言える。

この背景には、エネルギー需要を爆発的に増大させる主要因であると同時に、データセンター運用から電力網全体の最適化までを実現する最も強力なツールでもあるという、人工知能(AI)が持つ二律背反の性質、「AIパラドックス」が存在する。AIのエネルギーフットプリントを管理しつつ、その最適化能力を最大限に活用することが、持続可能なコンピューティングの成否を分ける鍵となる。

日本の状況に目を向けると、30分単位で価格が変動する日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場は、計算負荷を時間的にシフトさせる「テンポラルシフト」を導入するための絶好の機会を提供する。しかし、そのポテンシャルを最大限に引き出すには、各電力系統の炭素強度(Carbon Intensity: CI)をリアルタイムで予測・提供するデータ基盤の欠如という根本的な障壁が存在する。

本レポートは、これらの分析に基づき、日本が24/7 CFEへの移行を加速するための戦略的ロードマップを提示する。その要点は、①政府主導による炭素強度データの透明化と市場改革、②電力事業者による時間単位マッチングを前提とした電力商品開発と多様なクリーン電源への投資、③データセンター事業者による即時可能なテンポラルシフトの実装と政策提言である。

24/7 CFEへの対応は、もはや単なる環境問題ではなく、AI時代における日本のデジタルインフラ投資と国際経済競争力を左右する喫緊の戦略的課題であると結論付ける。


第1部 カーボンインテリジェント・コンピューティングのパラダイム

本章では、カーボンインテリジェント・コンピューティングを構成する基本的な技術原理を確立する。広範な概念から始め、炭素を意識した運用を可能にする具体的なメカニズムへと掘り下げていく。

1.1. 基礎原理:エネルギー効率から炭素認識へ

「グリーン」コンピューティングの進化

データセンターの持続可能性に関する議論は、その焦点を大きく進化させてきた。初期の段階では、「電力使用効率(Power Usage Effectiveness: PUE)」のような静的なエネルギー効率指標が中心であった。PUEは、データセンター全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った値であり、冷却や配電などIT機器以外で消費される電力の割合を示す。PUEが1.0に近いほどエネルギー効率が高いとされるが、この指標は消費される電力の「源泉」については全く考慮しない。つまり、石炭火力発電由来の電力であっても、効率的に使われていればPUEは良好な値を示す 1

この限界を克服するために登場したのが、「炭素認識(Carbon Awareness)」という新しいパラダイムである。これは、単にエネルギー消費量を削減するだけでなく、電力が「いつ」「どこで」消費されるかという時間的・空間的側面を重視するアプローチである 2。電力網のエネルギーミックスは常に変動しており、再生可能エネルギーの発電量が多い時間帯や地域では、電力の炭素排出原単位(炭素強度)が低くなる

カーボンインテリジェント・コンピューティングは、この変動性を積極的に利用し、コンピューティング負荷を炭素強度の低い時間帯や地域にシフトさせることで、総炭素排出量を最小化することを目指す。

炭素強度(CI)の定義

カーボンアウェアシステムの核心的な指標が「炭素強度(Carbon Intensity: CI)」である。これは、1 kWhの電力を消費する際に排出される温室効果ガスの量を二酸化炭素換算で示したものである。CIを理解する上で、二つの異なる概念を区別することが重要である。

  1. 平均運用排出係数(Average Operating Emissions Rate: AOER): 特定の時間において、電力網で稼働している全ての発電所の排出量を、その発電量で加重平均したもの。これは、その瞬間にグリッドから電力を受け取った場合の「平均的な」炭素フットプリントを示す 4

  2. 限界運用排出係数(Marginal Operating Emissions Rate: MOER): 電力需要が1単位増加した際に、その追加需要を満たすために稼働する「限界的な」発電所(通常は最もコストが高い、調整が容易な発電所、多くの場合化石燃料発電所)からの排出率。負荷をシフト(増減)させることによる実際の排出量への「影響」を測定するには、MOERがより正確な指標となる 4

CIは、時刻(太陽光発電の有無)、季節(冷暖房需要の変動)、そして地理的な場所(地域の電源構成)によって大きく変動する 2。例えば、日中は太陽光発電によりCIが低下し、夜間は化石燃料への依存度が高まりCIが上昇する。

この変動こそが、カーボンインテリジェント・コンピューティングが利用する最大の機会である。

グリーンソフトウェア・エンジニアリングの原則

カーボンインテリジェントなアプリケーションを根本から実現するためには、ソフトウェア開発の段階から炭素排出を意識する必要がある。これが「グリーンソフトウェア・エンジニアリング」であり、その主要な原則は以下の通りである。

  • 炭素認識(Carbon Awareness): アプリケーションが電力網の炭素強度を感知し、それに応じて動作を変更できる能力。例えば、炭素強度が高い時間帯には低データモードに切り替える、あるいはユーザーに通知するといった機能が考えられる 7

  • 需要形成(Demand Shaping): コンピューティングのワークロードを、炭素強度の低い時間帯に積極的にシフトさせること。これはカーボンインテリジェント・コンピューティングの中核をなす概念である 7

  • エネルギー比例性(Energy Proportionality)とハードウェア効率: アイドル時の電力消費を最小限に抑え、使用率に比例してエネルギーを消費するハードウェアを選択し、ソフトウェアを設計すること。サーバーが何も処理していない時でも電力を消費するため、この「静的消費電力」を削減することが重要である 7

  • エンボディドカーボン(Embodied Carbon): ハードウェアの製造、輸送、廃棄の過程で排出される炭素。運用時の排出量(オペレーショナルカーボン)だけでなく、このエンボディドカーボンも考慮に入れることで、サーバーのライフサイクル全体での環境負荷を評価し、ハードウェアの更新頻度や利用率向上に関する意思決定に影響を与える 7

1.2. 中核メカニズム:時空間ワークロードシフト

カーボンインテリジェント・コンピューティングの具体的な実行手段が「ワークロードシフト」である。これは、計算タスクの実行タイミングや場所を、電力網の炭素強度に応じて動的に変更する技術であり、主に「テンポラルシフト」「スペーシャルシフト」に大別される。

テンポラルシフト(時間シフト)

テンポラルシフトは、カーボンアウェアコンピューティングの最も一般的で基本的な形態である。これは、緊急性のない「時間的に柔軟な(temporally flexible)」ワークロードの実行を、地域の電力網のCIが低い時間帯まで遅延させる手法である 2

  • 対象となるワークロード: この手法に適しているのは、即時の応答を必要としないが、特定の期限内(例えば24時間以内)に完了すればよいタスクである 2。具体的な例としては、バッチ処理、YouTube動画のエンコーディング、Googleフォトの新しいフィルター機能の生成、機械学習モデルのトレーニング、データ分析パイプラインなどが挙げられる 10

  • 実装例:Google CICS (Carbon-Intelligent Compute System): Googleが自社のハイパースケールデータセンターで大規模に展開しているCICSは、テンポラルシフトの先進的な実装例である。このシステムは、翌日のCI予測とワークロード需要予測を入力として、リスクを考慮した最適化計算を実行する。その結果として生成されるのが「仮想キャパシティカーブ(Virtual Capacity Curves: VCCs)」である。VCCは、データセンタークラスターごとに設定される時間単位のリソース(CPUなど)使用上限値として機能する。CIが高い時間帯にはVCCが低く設定され、時間的に柔軟なワークロードの実行が抑制される。逆に、CIが低い時間帯(再生可能エネルギーが豊富な時間帯)にはVCCが高く設定され、保留されていたワークロードの実行が許可される。これにより、データセンター全体の電力消費プロファイルが、グリッドの炭素強度プロファイルに追従するように「形成(shape)」される 2

スペーシャルシフト(空間シフト)

スペーシャルシフトは、地理的に分散したデータセンター間でワークロードを移行させ、その時点で最もCIが低い地域で実行する技術である 13

  • 基本原理: この手法は、異なる電力網が異なる電源構成を持ち、相関性の低い気象パターン(例えば、ある地域では風が吹いているが、別の地域では晴れている)に依存しているという事実を利用する 11。これにより、グローバルなデータセンターフリート全体で常にどこかの「グリーンな」場所を見つけ出すことが可能になる。

  • 対象となるワークロード: 主に、状態を持たない(stateless)で、低遅延を要求されないアプリケーションが対象となる。データの局所性(data locality)やデータ主権(data sovereignty)に関する制約が厳しいワークロードには適用が難しい 9

時空間シフト(Spatio-Temporal Shifting)

時間と空間の両方を同時に最適化する、最も高度なワークロードシフト形態である。システムは、現在の場所でグリッドがクリーンになるのを「待つ」べきか、それとも既にクリーンな別の地域にワークロードを即座に「移動」させるべきかを判断する 16。これにより、最適化の自由度が最大化され、さらなる炭素排出削減が期待される。Googleは、この時間と空間の両方での負荷シフトが将来の目標であると公言している 12

カーボンインテリジェント・コンピューティングのパラダイム全体は、本質的に、詳細かつ信頼性の高い予測データが入手可能であることに依存している。高度なスケジューリングアルゴリズムも、行動の指針となる高品質なデータシグナルがなければ意味をなさない。このシステムの根幹は、まず第一に、ワークロードを炭素強度に基づいてシフトさせるという原則にある 2。これを先を見越して行うために、GoogleのCICSのようなシステムは、翌日の炭素強度の「予測」を必要とする 2WattTimeやElectricity Mapsといった商用サービスが、まさにこのデータをAPI経由で提供しており、世界中の電力網のリアルタイム、過去、そして予測CIデータを、しばしば5分や15分といった高い粒度で提供している 4。したがって、CICの台頭は単なるアルゴリズムの革新ではなく、「グリッドデータ」産業の成熟と直接的に結びついている。これは依存関係を生み出し、CICの精度は、基礎となるCI予測モデルの精度によって制限されることを意味する。

一方で、理論と現実の間には大きな隔たりが存在する。理想的な条件下での学術モデルは、ワークロードシフトによってほぼ完全な炭素削減(最大96%)が可能であることを示唆しているが、現実世界の制約は、達成可能な削減量を大幅に減少させる。

例えば、全てのグローバルワークロードを世界で最もクリーンな電力網を持つスウェーデンに移行させれば、理論的には排出量を96%削減できる 25。しかし、実際のシステムは厳しい制約に直面する。インタラクティブなワークロードは遅延に敏感であり、遠くへシフトすることはできない 9。また、データプライバシーや主権に関する法律が国境を越えたデータ移動を妨げる可能性もある。

より制約を考慮した近年の分析では、理想と現実の間に大きなギャップがあることが示されている 16。ある2024年の論文では、理論上の最大値は96%削減であるものの、現実世界の要因がその効果を劇的に低下させると明確に述べている 9。さらに悲観的な2025年の分析では、現実的なシナリオをモデル化し、地理的シフトによる削減は5%程度と小さい可能性が高いと結論付けている 13。これは、ワークロードシフトが、特にAIによる指数関数的な需要増加に直面する中で、万能薬ではなく漸進的な最適化手法であることを示唆する重要な反論である。

1.3. アルゴリズムエンジン:炭素認識スケジューリングとオーケストレーション

カーボンアウェアな意思決定を実行するためには、データを取り込み、分析し、実行を指示するアルゴリズムエンジンが必要である。

データパイプライン

カーボンアウェアスケジューラが必要とする典型的なデータフローは以下の通りである。

  1. データ収集(Ingestion): Electricity MapsやWattTimeのようなAPIから、リアルタイムおよび予測CIデータを収集する 21

  2. 予測(Forecasting): 機械学習モデルを用いて、将来のワークロード需要や、自社が所有または契約している再生可能エネルギー源の発電量を予測する 2

  3. 最適化(Optimization): CI予測、ワークロード予測、ビジネス上の制約(締め切り、サービスレベル目標(SLO))、電力契約の詳細などを入力として受け取る中核的な最適化エンジンが、最も炭素排出量が少なくなるようなワークロードの実行計画を計算する 2

炭素認識Kubernetesスケジューリング

業界標準のコンテナオーケストレーションツールであるKubernetesは、その拡張性を活かしてカーボンアウェアなスケジューリングに対応する動きが活発化している。

  • デフォルトスケジューラの限界: Kubernetesの標準スケジューラは、CPUやメモリといったリソース使用量に基づいてPod(コンテナの集合)をどのNode(物理または仮想マシン)に配置するかを決定する。エネルギー消費や炭素強度という概念は持っていない 28

  • Kubernetesの拡張: この限界を克服するため、いくつかの実践的な手法が開発されている。代表的なのが「スケジューラエクステンダ(Scheduler Extender)」やカスタムスケジューラである。これらは、Kubernetesのスケジューリングプロセスに介入し、外部の炭素データAPIを照会する。その結果得られたCIデータを用いて、各Nodeまたはクラスタに「カーボンスコア」を付与し、スケジューリングの優先順位付けに加える。これにより、KubernetesはCIが低い地域のNodeにPodを優先的に配置することが可能になる 29

  • 最新の研究動向: 学術界では、より高度なスケジューリングアルゴリズムの研究が進められている。例えば、データ処理ジョブにおけるタスク間の依存関係(先行制約)を考慮する「PCAPS」 32 や、分散ウェブサービスのSLOを遵守しつつ炭素フットプリントを最小化する「CASPER」 30 などが提案されており、より複雑な現実のワークロードに対応しようとする試みがなされている。


第2部 AIと先進技術の役割

本章では、持続可能なコンピューティングの探求において、AIが主要な課題であると同時に重要な解決策でもあるという、その複雑で二元的な役割を探る。

2.1. イネーブラーとしてのAI:データセンター運用の最適化

AIは、その膨大な計算能力とパターン認識能力を活かして、データセンターの運用効率を前例のないレベルにまで引き上げる可能性を秘めている。

  • インテリジェントなワークロード管理: AIアルゴリズムは、運用データを分析してエネルギー消費の激しいプロセスを特定し、リアルタイムの需要に基づいてリソースを動的に割り当てる。これにより、アイドル期間中にサーバーを低電力状態に移行させることが可能となり、無駄な電力消費を削減する 34

  • 予測冷却と環境制御: AI駆動システムは、サーバーの温度、ワークロードのパターン、さらには外部の天気予報までを分析し、冷却システムを予測的かつ動的に調整する。これにより、過剰な冷却を防ぎ、熱が集中する「ホットスポット」に冷却リソースを的確に振り向けることができ、PUEを大幅に改善する 34

  • 再生可能エネルギーとの統合: AIは、オンサイト(自家消費型)または地域の再生可能エネルギー源の利用可能性に合わせてデータセンターの運用を最適化し、その利用率を最大化することができる 35

  • 予知保全: AIモデルは、冷却システムやサーバーなどの機器の状態を監視し、故障を予測する。これにより、予期せぬダウンタイムを防ぎ、機器を常に最適な効率で稼働させることができる 35

2.2. AIパラドックス:エネルギー需要の急増への対処

AIがデータセンターの効率化に貢献する一方で、AI自体、特に大規模言語モデル(LLM)などの生成AIは、そのトレーニングと推論に莫大な電力を消費し、データセンターのエネルギー需要を爆発的に増加させるという矛盾を抱えている。

  • 問題の規模: 国際エネルギー機関(IEA)などの報告によると、データセンターの電力需要はAIの普及を主因として、2022年から2026年の間に倍増する可能性がある。2030年までには、世界の総電力需要の最大21%をデータセンターが占めるようになるとの予測もある 37。単一の巨大AIモデルをトレーニングするだけで、相当な量の炭素が排出される。

  • ハードウェアレベルでの緩和策:

    • カスタムシリコン: GoogleのTensor Processing Unit(TPU)のような、AIモデルと協調設計された専用のAIアクセラレータの開発。これらは、汎用のCPUやGPUと比較して、ワット当たりの性能(performance per watt)を最大化するように作られている。Googleの最新世代のTPUは、旧世代や他のプロセッサと比較して大幅にエネルギー効率が向上している 39

    • 先進的な冷却技術: 従来の空冷から、より効率的な「チップ直接液体冷却(direct-to-chip liquid cooling)」への移行。これは、現代のAIハードウェアが発する高密度の熱を管理するために不可欠であり、同時に水の使用量を削減する効果もある 42

  • ソフトウェア・モデルレベルでの緩和策:

    • モデル効率化: 「専門家混合(Mixture-of-Experts: MoE)」モデル、量子化(quantization)、投機的デコーディング(speculative decoding)といった技術。MoEは、クエリに応じて巨大モデルのごく一部のみを活性化させることで計算量を削減し、投機的デコーディングは、より小さな高速モデルで初期予測を行い、それを大きなモデルが検証することで、大きなモデルが逐次的に多くの予測を行うよりも効率的に処理を進める 41

    • 効率的なトレーニング: モデルのトレーニング初期段階で最終的な精度を予測し、有望でないトレーニングを早期に打ち切るアプローチ。これにより、計算リソースの最大80%を節約できる場合がある 37

2.3. システムレベルのインテリジェンス:グリッド近代化のためのAI

大手テック企業は、自社のAI専門知識をデータセンターの壁を越えて、より広範なエネルギーシステム全体の課題解決に応用し始めている。これにより、彼らは単なる電力消費者から、電力網の安定化と脱炭素化に貢献する「グリッドパートナー」へと変貌しつつある。

  • ケーススタディ:GoogleのTapestry: このAlphabet傘下のプロジェクトは、AIと大規模計算能力を用いて、電力網の非常に詳細で統一されたデジタルモデルを構築する。北米最大の送電系統運用機関であるPJMとの提携では、TapestryのAIツールを用いて、新規の再生可能エネルギープロジェクトの系統連系承認プロセスを自動化・高速化することを目指している。このプロセスは現在、数年を要することもあり、脱炭素化の大きなボトルネックとなっているが、Tapestryはこれを数ヶ月に短縮することを目指している 39

AIによるエネルギー需要の巨大な増加は、強力なフィードバックループを生み出している。すなわち、問題そのもの(AIのエネルギーフットプリント)が、解決策(AIを用いたエネルギーシステムの前例のない規模での最適化)を推進する主要な原動力となっているのである。

この力学は、一種の「効率化の軍拡競争」を生み出している。まず、IEAをはじめとする機関は、特にAIに起因するエネルギー需要の指数関数的な成長を予測している 38。これは、データセンター事業者にとって、緊急かつ大規模なビジネス上の問題を引き起こす。この問題を解決するために、これらの企業は、リアルタイムでの冷却最適化 35 から、国家レベルの電力網計画プロセスの再設計 46 に至るまで、あらゆる場面でAIを導入している。問題を引き起こしているまさにその技術が、それを管理するための最も強力なツールとして展開されているのだ。

この事実は、将来のデータセンターの持続可能性が、最適化のためのAI技術の進歩と不可分に結びついていることを示唆している。しかし同時に、効率化による利益が、常により強力な新しいAIモデルによって消費され続けるという、終わりのない追跡のリスクも内包している。この競争において、AIによる効率化の進展が、AIによる需要増加のペースを上回ることができるかどうかが、極めて重要な問いとなる。


第3部 GAFAMによる24/7カーボンフリーエネルギーの追求

本章では、分析の焦点を技術的な「方法」から戦略的な「目的」へと移し、究極の目標である24/7 CFEを分析し、主要なテック企業がどのようにその達成に取り組んでいるかを比較する。

3.1. 究極の目標の定義:24/7 CFEの原則

年間単位マッチングを超えて

多くの企業が掲げる「再生可能エネルギー100%」という目標は、そのほとんどが「年間単位マッチング(Annual Matching)」に基づいている。これは、1年間の総電力消費量を、同量以上の再生可能エネルギー証書(REC)などの購入によって相殺する手法である。しかし、Google自身が指摘するように、これは「不完全な解決策」である 47

なぜなら、この方法では、企業は再生可能エネルギーが豊富で安価な地域や時間帯に発電された電力の証書を購入し、自社の施設が実際には化石燃料由来の電力で稼働している時間帯(例えば、太陽光発電が停止する夜間)の消費を「帳消し」にすることができてしまうからだ。会計上はカーボンニュートラルを達成していても、物理的には化石燃料への依存が続いているという現実が存在する。

24/7 CFEの定義

この年間単位マッチングの限界を克服するために提唱されたのが、24/7 CFEである。その定義は、「全ての場所で、1日24時間、1年365日、全ての1時間において、消費される全ての1キロワット時の電力が、同じ電力網の炭素フリーエネルギー源によって供給されること」である 48。これは、電力消費の現場で、リアルタイムに脱炭素化を達成することを目指す、より厳格で物理的な現実に基づいたアプローチである。

5つの基本原則(国連エナジー・コンパクト)

24/7 CFEの概念は、国連が主導する「24/7 Carbon-Free Energy Compact」によって、以下の5つの基本原則として体系化されている。

  1. 時間整合調達(Time-matched procurement): 電力消費と炭素フリー電力の発電を、時間単位またはそれ以下の粒度で一致させる 51

  2. 地域内調達(Local procurement): 電力消費が発生している地域と同じ、または隣接する電力網から炭素フリー電力を調達する 51

  3. 技術中立性(Technology-inclusive): 太陽光、風力だけでなく、水力、地熱、原子力、グリーン水素など、全ての炭素フリー技術の活用を認める 51

  4. 新規発電への貢献(Enabling new generation): 「追加性(Additionality)」を重視し、自社の調達が新たな炭素フリー電源の建設につながることに焦点を当てる 51

  5. システムインパクトの最大化(Maximizing system impact): 電力網が最も化石燃料に依存している「最も汚れた」時間帯の脱炭素化に貢献する投資や需要形成を優先する 51

実現のためのメカニズム

24/7 CFEを実現するためには、新たな契約形態や市場メカニズムが必要となる。

  • 時間単位電力購入契約(Hourly PPAs): 従来のPPAが単一の電源(例えば太陽光発電所)との契約であったのに対し、時間単位PPAは、太陽光、風力、蓄電池、地熱など、複数の多様なクリーンエネルギー資産を組み合わせたポートフォリオから電力を調達する。これにより、1日を通してより安定したクリーン電力の供給を目指す 54

  • 時間ベースのエネルギー属性証明書(Time-based Energy Attribute Certificates: T-EACs): 発電された時間を1時間単位で追跡・証明する新しい粒度の高い証書。これにより、24/7 CFEの主張を検証可能にするための会計フレームワークが提供される。従来の年間単位のRECでは不可能だった時間単位のマッチングを可能にする、24/7 CFEの基盤技術である 49

3.2. GAFAMの実装戦略分析

GAFAM各社は、データセンターの脱炭素化に向けて巨額の投資を行っているが、その戦略と目標設定には明確な違いが見られる。

  • Google: 24/7 CFEの明確なパイオニアであり、2030年までに全てのデータセンターとオフィスで100%の24/7 CFEを達成するという最も野心的な目標を掲げている 57。2023年にはグローバル平均で64%、2024年には66%のCFEスコア(時間単位マッチング率)を達成したと報告している 40。その戦略は、前述のカーボンインテリジェント・コンピューティングによる需要側の最適化、蓄電池を含む多様なポートフォリオPPA、そして次世代技術である拡張地熱や先進原子力への投資という、供給・需要・技術革新の三本柱に支えられている 55

  • Microsoft: 2030年までにカーボンネガティブ(排出量が除去量を下回る状態)を達成し、同時に2030年までに電力消費の100%をゼロカーボンエネルギー購入で賄うという、24/7 CFEに非常に近い目標を設定している 42。ブルックフィールドとの10.5 GWという記録的なPPA契約や、原子力エネルギー、炭素除去技術への大規模な投資が特徴である 44。また、国連の24/7 CFE Compactの署名企業でもある 62

  • Amazon (AWS): 2040年までにネットゼロカーボンを達成するという目標(The Climate Pledge)を掲げている 63。2023年には、当初の目標より前倒しで、年間単位での再生可能エネルギー100%マッチングを達成した 64。世界最大の再生可能エネルギー購入企業であるが、その戦略は歴史的に年間単位マッチングに依存してきた。ただし、最近では広範な太陽光・風力ポートフォリオを補完するために原子力への投資も開始しており、戦略の転換を示唆している 63。このアプローチは、真の時間単位マッチングに比べてグリッドへのインパクトが小さいと批判されることもある 68

  • Meta (Facebook): 2030年までにバリューチェーン全体でネットゼロ排出を目標としている 70。Amazonと同様、2020年以降、自社事業において年間単位での100%マッチングを達成している 71。再生可能エネルギーへの大規模な投資家であるが、24/7 CFEという言葉を前面に出すことには比較的慎重であった。しかし、近年の地熱や原子力への投資は、彼らもまた時間単位での安定供給の重要性を認識し、戦略をシフトさせつつあることを示している 71

  • Apple: 2030年までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げている 73。Appleの戦略は独自性が高く、製造サプライチェーン(サプライヤークリーンエネルギープログラム) 74 や製品ライフサイクル(リサイクル素材の使用) 75 に深く踏み込んでいる点が特徴である。自社事業の電力については、燃料電池を含む自家発電 76 と電力調達を組み合わせてカーボンニュートラルを達成しているが、GoogleやMicrosoftのように明確な24/7 CFE目標を公には掲げていない。

表1:GAFAMのカーボンフリーエネルギー目標と進捗の比較

企業 公表目標 目標年 目標タイプ 最新の進捗状況 主要技術・戦略
Google 全事業所で24/7 CFEを達成 2030 時間単位

66% CFE (2024年) 59

カーボンインテリジェント・コンピューティング、多様なPPAポートフォリオ、地熱、原子力
Microsoft カーボンネガティブ、電力消費100%をゼロカーボンで調達 2030 時間単位に近い

Scope 1&2排出量を29.9%削減 (2020年比) 44

大規模PPA、原子力、炭素除去技術、サプライヤーエンゲージメント
Amazon ネットゼロカーボン(The Climate Pledge) 2040 年間単位

100%再エネマッチング達成 (2023年) 65

世界最大の再エネPPA、最近では原子力への投資も開始
Meta バリューチェーン全体でネットゼロ排出 2030 年間単位

100%再エネマッチング達成 (2020年以降) 71

大規模な再エネPPA、地熱、原子力への投資を開始
Apple バリューチェーン全体でカーボンニュートラル 2030 バリューチェーン

2015年比でGHG排出量を60%以上削減 74

サプライヤークリーンエネルギープログラム、リサイクル素材、燃料電池

年間単位マッチング(Amazon, Meta)時間単位マッチング(Google, Microsoft)の違いは、単なる会計手法の差ではなく、企業の戦略的意図における根本的な分岐を示している。それは、炭素排出を「会計上」で相殺することを目指すアプローチと、電力網の物理的な脱炭素化に「インパクト」を与えることを目指すアプローチとの間の隔たりである。

年間単位マッチングは、ある場所の安価な太陽光発電の証書を購入して、別の場所で夜間に石炭火力発電を利用した事実を帳簿上で「相殺」することを可能にする 47。会計は成立するが、データセンターが物理的に石炭で稼働していた事実は変わらない。一方、24/7 CFEは、地域内での時間単位のマッチングを要求することで、企業にその「夜間の時間帯」に対する解決策を見つけることを強制する。これは、蓄電池、地熱発電、先進原子力など、24時間365日電力を供給できる技術の開発者に対して、強力な市場シグナルと資金的インセンティブを生み出す 49

したがって、24/7 CFEを追求する企業は、次世代のグリッド技術のための「市場創出者」として機能しているのに対し、年間単位マッチングに留まる企業は、主に第一世代の技術(太陽光と風力)に資金を提供していると言える。この二次的な効果は、世界のエネルギー転換のペースと方向性に深遠な影響を与える。

3.3. 障壁の克服:真の24/7 CFE達成に向けた主要課題

24/7 CFEの実現は、単純な道のりではなく、技術的、経済的、そして制度的な多くの障壁が存在する。

  • 技術的課題: 太陽光や風力といった変動性再生可能エネルギー(VRE)の断続性が最大のハードルである。これを克服するには、発電容量の大規模な過剰建設、または、クリーンでディスパッチャブルな(出力調整可能な)電源や長時間エネルギー貯蔵技術の導入が不可欠となるが、これらの多くはまだ技術的に未成熟であったり、大規模導入にはコスト競争力がなかったりする 53

  • 経済的課題: 24/7 CFEの達成率を100%に近づける最後の数パーセントを埋めるためのコストは、指数関数的に増大する。ある分析によれば、100%の時間単位マッチングを達成するコストは、単純な年間単位マッチングの200%から1200%も高くなる可能性があり、これを義務化すれば、企業の自発的なクリーンエネルギー調達意欲そのものを削いでしまいかねないという懸念も示されている 80

  • 市場・政策的課題:

    • 市場設計: 現在の電力市場や証書システム(RECなど)は、年間または月間の会計処理を前提に設計されており、時間単位の粒度には対応していない。T-EACsのような新しい市場メカニズムと標準の確立が急務である 49

    • 送電網インフラ: 送電容量の不足は、クリーンエネルギーが需要地に到達するのを妨げるボトルネックとなり得る 79

    • 社会的・政治的課題: 必要な技術、特に原子力発電の導入は、安全性や放射性廃棄物処理に関する懸念から、大きな社会的・政治的ハードルに直面する 83


第4部 日本への示唆と戦略的提言

最終章では、これまでの分析を統合し、日本の特有の状況に合わせた具体的な洞察と行動喚起的な提言を提示する。

4.1. 日本の現状:エネルギーミックス、市場構造、データセンター分布

  • エネルギーミックスと目標: 福島第一原子力発電所事故以降、日本の電源構成はLNGや石炭といった化石燃料への依存度が高い状態が続いている 84。政府は、2030年のエネルギーミックスにおいて再生可能エネルギー比率を36〜38%に引き上げる目標を掲げているが、依然として化石燃料が大きな割合を占める見通しである 86

  • 電力市場構造(JEPX): 日本卸電力取引所(JEPX)は、日本で唯一の卸電力取引市場である。特に重要なのが、翌日受け渡しの電力を取引するスポット市場であり、これは1日を30分単位の48コマに区切って取引が行われる 89。この時間単位での価格決定メカニズムは、カーボンインテリジェント・コンピューティングを適用する上で非常に重要な特徴となる。

  • データセンターの立地: 日本のデータセンターは、東京圏と大阪圏という二大都市圏に極度に集中している 92。電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、AIの普及に伴いデータセンターの電力需要が今後爆発的に増加し、国の総電力消費量のかなりの部分を占めるようになると予測している 93

  • 系統制約: 日本の電力系統は、地域ごとに電力会社が分かれており、地域間を結ぶ連系線の容量が限られている。これは、大規模な電力融通、すなわちスペーシャルシフトの物理的な障壁となっている。

4.2. 日本におけるカーボンインテリジェント・コンピューティングの適用:機会と障壁

  • 機会:テンポラルシフトの即時性: JEPXスポット市場が持つ30分単位の価格変動は、炭素強度と一定の相関を持つ強力な価格シグナルとして機能する。データセンター事業者は、この価格シグナルを利用して、柔軟なワークロードを価格の安い時間帯(多くの場合、再エネ発電量が多くCIが低い時間帯)にシフトさせることで、現行制度の中でもコスト最適化と炭素排出削減を同時に追求することが可能である 89

  • 障壁:詳細な炭素データの欠如: 真に炭素を意識したテンポラルシフトを実現するための最大の障壁は、日本の各電力系統エリアにおけるリアルタイムおよび予測CIデータの公開されたフィードが存在しないことである。このデータがなければ、最適化はあくまでコストベースに留まり、炭素排出量を直接の目的関数とすることはできない

  • 障壁:スペーシャルシフトの限界: データセンターの地理的集中と電力系統の分断という二重の制約により、日本におけるスペーシャルシフトのポテンシャルは極めて限定的である。東京エリア内のデータセンター間でワークロードを移動させても、同じ電力網と気象条件を共有しているため、CIにほとんど差はない 92東京から九州へといった大規模なシフトは、地域間連系線の容量不足によって物理的に制約される。

  • 機会:国内企業の動向: JERAや三菱電機といった日本の主要企業が24/7 CFE Compactに加盟し、実証プロジェクトを開始するなど、国内でも需要と技術開発の機運が高まりつつある 96。これは、将来的な市場形成に向けた重要な萌芽である。

表2:カーボンインテリジェント・コンピューティング技術と日本における適用可能性

CIC技術 日本での適用可能性 主要な実現要因 主要な障壁 日本への推奨アクション
テンポラル・ワークロードシフト 高い JEPXの30分単位市場 リアルタイム・予測CIデータの欠如 政府によるCIデータAPIの整備。事業者はJEPX価格を代理指標として即時実装。
スペーシャル・ワークロードシフト 低い データセンターの地理的集中、地域間連系線の容量不足 再エネが豊富な地域へのデータセンター立地誘導(ウェルカムゾーンマップ)、連系線増強。
AI駆動の冷却最適化 高い AI技術と運用データ 初期投資コスト、専門人材の不足 データセンター事業者による積極的な導入、ベストプラクティスの共有。
時間単位PPA 中程度 国内企業の関心向上 市場制度の未整備(T-EACsの不在) 政府・JEPXによる時間単位証書(T-EACs)の標準化と市場創設。
クリーンな安定電源への投資 中程度 高い地熱ポテンシャル コスト、社会的受容性(原子力)、技術的成熟度 地熱開発の規制緩和と促進、次世代エネルギー技術への戦略的投資。
AIによるグリッド近代化 高い 高度なAI技術力 既存の電力システムとの統合、データ共有の壁 OCCTOとテック企業間の連携強化、Tapestryのような共同プロジェクトの推進。

4.3. 日本の24/7 CFE移行への戦略的ロードマップ

グローバルな潮流と日本の現状を踏まえ、24/7 CFEへの移行を加速するために、以下の戦略的アクションを提言する。

提言1(政府・規制当局:経済産業省・環境省向け)

  • データ透明性の最優先: 日本の各電力系統エリアについて、リアルタイムおよび予測炭素強度をAPI経由で公開するデータフィードの構築を、国の事業として主導または資金提供する。これは、日本でカーボンアウェアコンピューティングを普及させるための最も重要かつ不可欠なインフラである。

  • 市場改革の断行: JEPXや系統運用者と連携し、時間ベースのエネルギー属性証明書(T-EACs、または「時間単位非化石証書」)を標準化し、24/7 CFE調達のための信頼性の高い市場を創設する 97。これにより、企業が時間単位でのクリーン電力調達を取引できる環境を整備する。

  • 戦略的立地誘導と系統投資: 経済産業省が推進する「ウェルカムゾーンマップ」 82 などの政策ツールを活用し、再生可能エネルギーのポテンシャルが高く、系統容量に余裕のある地域への新規データセンター建設を強力に誘導する。これにより、東京一極集中を緩和し、限定的ながらもスペーシャルシフトの可能性を拓く。同時に、地域間連系線の増強への投資を加速する。

提言2(電力事業者・発電事業者向け)

  • 24/7 CFE商品の開発: JERAが実証を開始しているように 96時間単位マッチングを前提とした電力料金メニューや、多様な電源を組み合わせたPPAポートフォリオを積極的に開発し、法人顧客に提供する。これは、グローバルなハイパースケーラーを誘致する上での重要な競争優位性となる。

  • 多様なポートフォリオへの投資: これらの商品を支えるため、太陽光や風力だけでなく、電力需給のバランスを取るために不可欠な蓄電池、日本が大きなポテンシャルを持つ地熱、そしてクリーンな安定電源を確保するための次世代エネルギー技術(次世代原子力などを含む)への投資を加速する。

提言3(データセンター事業者・テック企業向け)

  • テンポラルシフトの即時実装: JEPXの30分単位の価格シグナルを炭素強度の代理指標として用い、テンポラル・ワークロードシフトを直ちに実装する。将来、公式な炭素シグナルが利用可能になった際に即座に切り替えられるよう、ソフトウェアとオーケストレーション能力を構築しておく。

  • データと市場改革の提言: 主要な電力消費者として、上記のデータ透明化や市場改革を実現するよう、政府や電力事業者に対して積極的に働きかける。彼らの集合的な声は、政策決定プロセスにおいて極めて重要である。

  • 柔軟性のための設計: 新規のデータセンター建設やソフトウェアアーキテクチャ設計において、ワークロードの柔軟性を最大限に考慮する。時間的にシフト可能なタスクの割合を最大化することが、カーボンインテリジェント・コンピューティングの効果を決定づける

最終的に、GAFAMが主導する24/7 CFEへのグローバルな移行は、クリーンエネルギーを単なる企業の社会的責任(CSR)の指標から、デジタルインフラ投資における必須要件へと変貌させている。

AI経済の根幹をなす次世代データセンターを誘致し、国内に保持する日本の能力は、真に時間単位で整合性のとれたカーボンフリーエネルギーへの信頼できる道筋を提供できるかどうかに直接かかっている。日本の電力需要は、AIによって今後急増することが予測されている 93。この需要を牽引するのは、Google、Microsoft、Amazonといったグローバルなハイパースケーラーである 92。これらの企業は、もはや年間単位のオフセットではなく、24/7 CFEをますます強く要求しており、クリーン電力の利用可能性に基づいて数十億ドル規模の投資判断を下している 44

日本の電力網は現在、炭素集約的であり、データセンターは制約の多い地域に地理的に集中している 84。したがって、24/7 CFEを可能にするための迅速かつ協調的な国家戦略がなければ、日本は将来のデータセンター投資先として、よりクリーンな電力網を持つ地域に比べて魅力が低いと見なされるリスクがある。これはもはや単なる環境問題ではなく、デジタル時代における日本の産業・経済戦略の中核をなす課題なのである。

無料30日お試し登録
今すぐエネがえるBizの全機能を
体験してみませんか?

無料トライアル後に勝手に課金されることはありません。安心してお試しください。

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

コメント

たった15秒でシミュレーション完了!誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!
たった15秒でシミュレーション完了!
誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!