2026年 “円安・物価高”を「購買力の再配分アルゴリズム」として再定義して新価値を創造する 国内代替供給が最強の戦略となる経済物理学的考察

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、全国地方自治体、トヨタ自働車、スズキ、東京ガス、東邦ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所、大和ハウス工業、エクソル、ELJソーラーコーポレーションなど国・自治体・大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上が導入するシェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)を提供。年間15万回以上の診断実績。エネがえるWEBサイトは毎月10万人超のアクティブユーザが来訪。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・出版・執筆・取材・登壇やシミュレーション依頼などご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp) ※SaaS・API等のツール提供以外にも「割付レイアウト等の設計代行」「経済効果の試算代行」「補助金申請書類作成」「METI系統連系支援」「現地調査・施工」「O&M」「電力データ監視・計測」などワンストップまたは単発で代行サービスを提供可能。代行のご相談もお気軽に。 ※「系統用蓄電池」「需要家併設蓄電池」「FIT転蓄電池」等の市場取引が絡むシミュレーションや事業性評価も個別相談・受託代行(※当社パートナー紹介含む)が可能。お気軽にご相談ください。 ※「このシミュレーションや見積もりが妥当かどうか?」セカンドオピニオンが欲しいという太陽光・蓄電池導入予定の家庭・事業者の需要家からのご相談もお気軽に。簡易的にアドバイス及び優良・信頼できるエネがえる導入済の販売施工店等をご紹介します。

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目次

2026年 “円安・物価高”を「購買力の再配分アルゴリズム」として再定義して新価値を創造する 国内代替供給が最強の戦略となる経済物理学的考察

序章:経済現象の原子分解と「痛み」の正体

2026年、日本経済はかつてない変曲点を迎えています。長らく続いた「円安・物価高」の定着は、多くの企業や家計にとって耐え難い「コスト増」として認識されています。しかし、この現象を単なる「耐えるべき苦難」として処理することは、経営戦略および資産防衛の観点から見て致命的な誤謬です。なぜなら、市場において価格とは単なる数字ではなく、情報の塊であり、現在の局面は日本経済の構造的欠陥を修正するための「購買力の再配分アルゴリズム」が強力に作動している状態だからです。

本論考では、円安と物価高をマクロ経済学的な表層だけでなく、経済物理学的な視点で「因果の原子」レベルまで分解します。そして、このアルゴリズムが何を罰し、何を報酬として与えようとしているのかを解明し、2026年以降の日本において「勝ち組」となるための新たなロジック(再定義と再発明)を提示します。

「円安・物価高」を原理単位に還元する

議論の解像度を極限まで高めるために、まず対象となる現象を定義し直します。

  1. 円安の原子定義

    「日本という経済圏の対外購買力(外貨で買える物理量)が構造的に低下する現象」

    これは単なる為替レートの変動ではありません。海外から輸入されるエネルギー(原油、LNG、石炭)、食料、原材料、部材、デジタルサービスといった「生存と生産の基盤」となるリソースの調達コストが、日本円建てにおいて不可逆的に上昇することを意味します。つまり、日本円という通貨が持つ「物質への変換効率」の低下です 1。

  2. 物価高の原子定義

    「生活・生産に必要な“必需バスケット”が、供給制約・通貨摩擦・制度疲労により、同じ所得単位で確保できる量が減少する現象」

    物価の上昇は、通貨の価値低下の結果であると同時に、限られた資源を誰に割り当てるかという「配分(誰がどれだけ我慢するか)」の決定プロセスです。価格が上がることで需要が抑制され、供給能力を持つ者(あるいは高い対価を払える者)へと資源が移動します 1。

この2つの定義を統合すると、現在進行している事態の本質が見えてきます。それは、「海外依存度の高い主体(輸入に頼る企業・円預金のみの家計)から、国内に代替可能な供給能力を持つ主体(再エネ発電事業者・輸出企業・投資家)へ、富と購買力が強制的に移転されるプロセス」です。

本稿では、この仮説に基づき、最新の2025-2026年のデータ、政策動向、企業事例を網羅的に分析し、この「再配分アルゴリズム」をハックするための戦略を論じます。


第1章:マクロ経済の「再配分アルゴリズム」解読:2026年の現在地

1-1. 購買力平価(PPP)の乖離と「安すぎる日本」の是正圧力

経済学の基本原理である購買力平価(PPP: Purchasing Power Parity)説は、「一物一価の法則」を前提に、長期的には為替レートが二国間の物価水準の比率に収束することを示唆しています 1。理論上、ニューヨークと東京で販売される同一のハンバーガーやスマートフォンの価格は、為替レートで調整すれば等価になるはずです。

しかし、2026年現在の日本円は、このPPP理論値から歴史的な乖離(円の過小評価)を示し続けています。

実質為替レートの乖離メカニズム

q = s – (p – p*)

(ここで q:実質為替レート, s:名目為替レート, p:国内物価, p*:海外物価)

通常、国内でインフレ(pの上昇)が起きれば、通貨価値の低下を相殺するために名目為替レート(s)は減価(円安)するはずです 4。しかし、現在の日本で起きているのは、海外(特に米国)の物価上昇(p*)と金利差による資本流出が主導する円安であり、日本の物価上昇率が相対的に低いにもかかわらず、通貨だけが売られるという「悪い円安」の様相を呈しています。

ダラス連銀の研究によれば、先進国においてインフレサプライズが発生した際、中央銀行がタカ派的反応(利上げ)を示すとの期待があれば通貨は増価しますが、日本銀行の金融正常化プロセスが慎重であるため、このメカニズムが働きにくい状況が続いています 1

この「PPPからの乖離」は、日本国内にある資産(不動産、株式、労働力、生産設備)が、ドル建てで見れば「バーゲンセール」状態にあることを意味します。この歪みこそが、海外投資家やグローバル企業による日本への直接投資(工場新設、データセンター建設)を誘引する「重力」として機能しており、購買力の再配分(海外から日本国内への資本還流)を促す最初のトリガーとなっています。

1-2. 交易条件の悪化と「富の流出」の定量化

「物価高」の痛みを増幅させている真犯人は「交易条件(Terms of Trade)」の悪化です。交易条件とは、輸出物価指数を輸入物価指数で割ったものであり、これが低下することは、同じ量の輸出で稼げる輸入量が減ることを意味します 5

日本エネルギー経済研究所(IEEJ)の分析は、この構造を冷徹に示しています。東日本大震災以降、化石燃料の輸入依存度が高止まりする中で、資源価格の高騰と円安が重なり、巨額の「交易損失(Trading Loss)」が発生しました 5。2025年度の経済見通しにおいても、原油・LNG・石炭の輸入額は依然として巨大であり、これが日本の貿易収支を圧迫し続けています 6

交易損失の影響式(概念)

実質GDI(国民総所得) = 実質GDP + 交易利得(損失)

GDP(国内総生産)がプラス成長していても、交易損失が拡大すればGDIは伸び悩み、国民の実感する豊かさは向上しません。2026年の日本経済は、緩やかなGDP成長が見込まれているものの 3、エネルギー輸入による富の流出が止まらない限り、その果実は海外の資源国へと移転され続けるのです。この「穴の開いたバケツ」状態を塞ぐことこそが、購買力を国内に取り戻すための最優先課題です。

1-3. インフレ期待の定着とフィッシャー方程式の変質

長年日本経済を蝕んできたデフレマインドは、2024年から2026年にかけて完全に払拭されつつあります。日本銀行の「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」によれば、消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率は2%近傍で推移し、企業や家計の中長期的な予想インフレ率も上昇基調にあります 3

フィッシャー方程式による実質金利の低下

実質金利 = 名目金利 – 予想インフレ率

名目金利(政策金利)の引き上げが緩やかである一方、予想インフレ率が2%〜3%で定着すれば、実質金利はマイナス圏または極めて低い水準に留まります。これは「現金を持っているだけで価値が目減りする」ことを意味し、企業には「内部留保を取り崩して設備投資へ」、家計には「貯蓄から投資へ」という強力なインセンティブ(行動変容圧力)として作用します。

2025年の春闘では高水準の賃上げが実現し、最低賃金も大幅に引き上げられましたが 8、これは企業にとって「人件費コストの増大」であると同時に、「現金の価値低下を防ぐための人的資本への投資」という側面も持っています。インフレ下では、現金を積み上げるよりも、将来の収益を生む設備や人材に換金しておく方が合理的だからです。


第2章:エネルギーショックを逆手に取る:「コスト」から「資産」への転換

2-1. 燃料費調整額の上限撤廃という「ゲームチェンジ」

2026年において、企業経営における最大のリスク要因の一つがエネルギーコストのボラティリティです。かつて電力料金に含まれる「燃料費調整額」には上限が設けられており、燃料価格が一定以上高騰しても、その超過分は電力会社が負担する(あるいは消費者が守られる)仕組みでした。しかし、相次ぐ上限撤廃や政府補助金の縮小により、現在では燃料価格と為替の変動がダイレクトに需要家の電気代に反映される「青天井」の構造が定着しています 9

これは、エネルギーコストが「変動費」としての性質を強め、経営計画の予見可能性を著しく低下させることを意味します。原油価格が1バレル上がれば、円が1円安くなれば、即座に工場の稼働コストが跳ね上がる。この構造的脆弱性を放置することは、経営における「自殺行為」に等しいと言えます。

2-2. 再生可能エネルギーの再評価:脱炭素ではなく「経済合理性」

ここで、「円安・物価高」を逆手に取る最強のソリューションとして浮上するのが、再生可能エネルギー(特に太陽光発電)です。これまでの文脈では、再エネ導入は「CO2削減(脱炭素)」や「CSR活動」として語られがちでした。しかし、2026年の視点では、その価値は「純国産エネルギーによるコスト固定化・為替ヘッジ」へと劇的にシフトしています。

再エネ(太陽光・風力)は、一度設備を導入してしまえば、燃料費はゼロです。つまり、原油価格がどうなろうと、為替が1ドル200円になろうと、発電コストは変動しません。これは、輸入インフレに対する最強の防衛策となります。

2-3. コーポレートPPAの爆発的普及と「エネルギー自給」の実装

この経済合理性に気づいた先進企業の間で、2025年以降爆発的に普及しているのが「コーポレートPPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)」です 12。これは、企業が発電事業者から長期固定価格で再エネ電力を直接購入する契約モデルです。

  • オンサイトPPA: 自社の工場や倉庫の屋根に発電設備を設置し、そこから直接電気を使う。送配電網を使わないため託送料金がかからず、最も経済メリットが大きい 13

  • オフサイトPPA: 遠隔地の専用発電所から、送配電網を介して電気を調達する。場所の制約を受けずに大規模な調達が可能 12

PPA導入によるコスト構造の変化(概念比較)

項目 従来の電力契約 コーポレートPPA
基本料金 契約電力に応じて発生 モデルによる(オンサイトは削減効果あり)
従量料金 市場価格・燃料費により変動 長期固定単価
燃料費調整額 あり(為替・資源高で青天井) なし(0円)
再エネ賦課金 あり なし(オンサイトの場合)
為替リスク 100%受ける 0%(国内調達のため)

この表が示す通り、PPAは単なる電力契約ではなく、「将来のエネルギーインフレに対するコールオプション(購入権利)」としての金融的価値を持っています。円安が進めば進むほど、市場連動価格の電気代は上昇しますが、PPAの固定単価との差額(メリット)は拡大し続けます。すなわち、PPAを導入している企業は、円安局面において相対的に競争力が強くなる「アルゴリズム」を実装していることになるのです。

2-4. 2026年のエネルギー需給見通しとリスク

IEEJの「2026年エネルギー・経済の展望」によれば、世界的なエネルギー需要は依然として堅調であり、地政学的リスクによる化石燃料価格の高止まりが懸念されています 6。特にLNG(液化天然ガス)市場においては、新興国の需要増により需給が逼迫する可能性があり、スポット価格の乱高下が予想されます。

このような環境下において、エネルギーを「海外から時価で買う」モデルから、「国内で固定価格で調達する(あるいは自給する)」モデルへと転換することは、企業の生存率を決定づけるファクターとなります。トヨタ自動車をはじめとする製造業が、国内工場において再エネ導入や水素活用を加速させているのは、まさにこのエネルギー安全保障を確立するためです 16


第3章:製造業の国内回帰と「生産性革命」の現場

3-1. 円安メリットを最大化する「国内生産」への回帰

円安は輸入コストを押し上げる一方で、輸出企業にとっては強力な追い風となります。さらに、ドルベースで見た日本の賃金や立地コストの割安感は、製造業の国内回帰(リショアリング)を合理的な選択肢へと変えました。

2025年から2026年にかけて、日本国内では工場の新設・増強ラッシュが続いています。

  • ラピダス(北海道): 次世代半導体の国産化を目指し、2025年4月にパイロットラインを稼働、2027年の量産に向けた準備が進んでいます 17

  • 素材・化学メーカー: 旭化成の水電解装置向け新工場(2025年10月決定)、住友化学のプロピレン製造パイロット設備(2025年9月稼働)、出光興産の全固体電池材料プラント(2025年4月増強)など、高付加価値部材の生産拠点が次々と立ち上がっています 18

  • 食品メーカー: カルビーの「せとうち広島工場」稼働(2025年1月)など、内需・輸出両面を見据えた投資が活発化しています 18

これらの動きは、かつての「円高だから海外へ出る」という空洞化の時代から、「円安と地政学リスクを考慮し、安定した国内で生産する」時代へのパラダイムシフトを明確に示しています。国内に代替可能な供給能力(工場)を持つことは、為替リスクをヘッジし、円安を「コスト増」から「利益増幅装置」へと変換する鍵となります。

3-2. 労働生産性の罠と「省力化投資」の不可避性

しかし、国内回帰には大きなボトルネックが存在します。「人手不足」「低い労働生産性」です。OECDのデータによれば、日本の労働生産性は加盟国中28位(2024年)と低迷しており、G7中最下位の状況が続いています 19。時間当たりの生産性が約60ドル(約5,720円)に留まる中で、インフレに対応した賃上げを続けることは、企業の利益率を圧迫し、持続不可能です。

このジレンマを突破する唯一の解が、徹底的な「省力化・自動化投資」です。

省力化指数の定義と目標

省力化指数(%) = ((導入前作業時間 – 導入後作業時間) / 導入前作業時間) * 100

政府は「中小企業省力化投資補助金」などを通じて、この省力化指数を劇的に改善する投資を支援しています 20。IoT、産業用ロボット、AI搭載の検品システム、配膳ロボットなどの導入により、人手をかけずに生産量を維持・拡大する体制を構築することが求められています。

2025年の補助金制度では、カタログから選ぶだけで簡易に申請できる「カタログ型」の省力化機器導入支援が拡充されており、中小企業にとってもハードルが下がっています 21。これらの投資は、単なる人手不足対策ではなく、労働集約型のビジネスモデルから資本集約・技術集約型のモデルへと脱皮するための「構造改革」そのものです。

3-3. 「価格転嫁」から「価値転嫁」へ:インフレ時代の生存戦略

コスト増を価格に転嫁できるかどうかが、企業の明暗を分けています。2025年の調査では、価格転嫁に成功している企業とそうでない企業の二極化が進んでいます 23

成功している企業の共通点は、単に「原材料が上がったから値上げします」というコストプッシュ型の転嫁ではなく、商品リニューアルやブランディング強化とセットで行う「価値転嫁(Value Pass-through)」を実践している点です。

  • 事例: 徳島の菓子メーカーは、原材料高騰を機にパッケージを高級化し、商品をリニューアルすることで、価格を上げつつも顧客満足度を高めることに成功しました 23

  • 手法: 原価計算の精緻化と、客観的データに基づく価格交渉。さらに、発注ロットの見直しや納期の柔軟化など、取引先にとってもメリットのある提案(Win-Winのアプローチ)を組み合わせています 24

インフレ時代において、「安さ」だけを売りにするビジネスは、コスト増の波に飲み込まれて淘汰されます。「高くても買いたい」と思わせる独自の価値(ブランド、品質、体験)を創出し、堂々と価格を上げられる企業だけが、購買力の再配分アルゴリズムの「勝者」側(受け取り手)に回ることができるのです。


第4章:家計の逆襲:資産防衛から「国富の還流」へ

4-1. 実質賃金の目減りと「インフレ手当」の限界

家計部門に目を向けると、物価上昇ペースに賃金上昇が追いつかず、実質賃金が伸び悩む状況が続いています 6。これに対し、企業側はベースアップ(固定費の恒久的な増加)のリスクを避けつつ従業員を繋ぎ止めるため、「インフレ手当」を一時金として支給する動きを2025年も継続しています 25

データによれば、インフレ手当の平均支給額は一時金で約5.3万円、月額手当で約6,500円程度とされています 25。これは家計の一時的な助けにはなりますが、構造的な購買力低下を補うには不十分です。そのため、福利厚生サービスを活用した実質可処分所得の向上(食事補助、ガソリン割引など)や、再エネ電力の社員割引といった、「現物給付的アプローチ」も注目されています 27

4-2. 新NISAによる「円売り・外貨買い」の合理的行動

円の購買力が低下する中で、家計が取るべき最大の防衛策は、資産を「円」から「インフレに強い資産」へとシフトさせることです。2024年に拡充された新NISA(少額投資非課税制度)は、2025年に入っても口座数・買付額ともに拡大の一途を辿っています 28

2025年6月時点で、NISA総買付額は63兆円に達し、その多くが「成長投資枠」や「つみたて投資枠」を通じて、全世界株式(オルカン)や米国株式(S&P500)などの外貨建て資産へ流入しています 29

家計のバランスシート調整

家計資産:円預金(価値減少) → 株式・外貨資産(価値保全・増大)

マクロ経済的には、この巨額の家計資金が外貨へ流れることは、さらなる円安圧力(キャピタルフライト)の一因となります。しかし、個人の資産防衛としては極めて合理的な行動です。かつて日本が貿易黒字で稼いだ富は、いまや「対外純資産」として海外に蓄積されており、そこから得られる配当や利子(第一次所得収支)が日本の経常収支を支えています 31

新NISAを通じて家計が海外資産を持つことは、日本全体が「モノを作って稼ぐ国(貿易立国)」から「投資で稼ぐ国(投資立国)」へと移行する中で、個人レベルでもその果実(海外の成長とインフレヘッジ)を享受するための手段となり得ます。これは、円安によって目減りする国内購買力を、海外からの投資収益で補填する「個人の自衛的再配分」です。


第5章:結論と提言:「再配分アルゴリズム」をハックする3つの戦略

2026年の「円安・物価高」は、日本経済に対する強力な構造改革要求です。このアルゴリズムは、「安価な輸入資源に依存し、付加価値の低い製品を安く売るモデル」を罰し、「国内で資源を循環させ、高い付加価値を生み出し、外貨を稼ぐモデル」に報酬を与えるように設計されています。

この環境下で、私たちがとるべき戦略的アクション(再発明)は以下の3点に集約されます。

戦略1:エネルギーの「自給」を経営のOSに組み込む

エネルギーコストを「コントロール不可能な外部要因」として放置せず、経営のコア変数として管理下に置くこと。具体的には、太陽光発電のオンサイトPPAや蓄電池導入を加速させ、使用電力の一定比率を「原価ゼロ・為替リスクゼロ」の純国産エネルギーに置き換えることです。これにより、損益分岐点を引き下げ、どのような為替環境でも利益が出せる体質を作ります。

戦略2:徹底的な「省力化」で労働生産性の分母を減らす

「人手が足りないからできない」ではなく、「人手がいらないプロセスに変える」発想転換が必要です。省力化補助金をフル活用し、バックオフィスから製造現場まで、デジタルとロボティクスで自動化を推進すること。労働投入量(分母)を減らしながら付加価値(分子)を維持・拡大することで、労働生産性を飛躍的に高め、インフレに負けない賃上げ原資を確保します。

戦略3:「円安」を武器にした「輸入代替」と「越境販売」

円が安いということは、日本国内のリソース(労働力、観光資源、農産物、技術)が世界で最も割安であるということです。このアドバンテージを活かし、これまで輸入していたものを国内生産で代替する(輸入代替)、あるいは割安になった日本製品・サービスを海外へ積極的に売る(越境EC、インバウンド、輸出)ことに勝機を見出すべきです。

結び

「円安・物価高」は、終わりの見えないトンネルではなく、新しい経済秩序へのゲートウェイです。このゲートをくぐる通行手形は、過去の成功体験への固執を捨て、エネルギー、生産性、付加価値のあり方を根本から再定義する勇気を持つ者にのみ発行されます。2026年、アルゴリズムの犠牲者になるか、それをハックして新たな成長の果実を手にするか。その選択は、いま私たちの手の中にあります。


補遺:2026年の主要データ・予測テーブル

表1:2025-2026年 経済・エネルギー指標予測

指標 2024年実績/見込 2025年予測 2026年見通し 備考・要因
実質GDP成長率 0.5% 1.1% 1.0%

設備投資、賃上げによる内需回復期待 3

消費者物価指数 (CPI) 2.5-3.0% 2.5% 2.0%

輸入価格転嫁の一巡と賃上げ効果の拮抗 3

経常収支 黒字維持 黒字維持 黒字維持

第一次所得収支(海外投資収益)が牽引 6

原油価格 (Brent) $80-85/bbl $82-85/bbl 高止まり

地政学リスク、OPEC+の動向 6

LNG価格 高値安定 高値安定 需給逼迫

新興国の需要増、供給プロジェクト遅延 15

労働生産性 OECD 28位 28位前後 改善期待

省力化投資の効果発現待ち 19

表2:2025年 国内工場新設・稼働の主要事例

企業名 拠点・内容 稼働・発表時期 目的・戦略
ラピダス (Rapidus) 北海道千歳市・次世代半導体 2025年4月(試作)

2nm半導体の国産化、サプライチェーン強靭化 17

トヨタ自動車 国内車両工場新設 2025年8月発表

EV/次世代車生産、国内モノづくり基盤維持 16

旭化成 水電解装置・部材新工場 2025年10月決定

クリーン水素市場向け、脱炭素部材の量産 18

大日本印刷 (DNP) 広島・三原工場(光学フィルム) 2025年9月稼働

高機能フィルムの生産能力増強 18

カルビー せとうち広島工場 2025年1月稼働

西日本エリアの供給強化、自動化ライン導入 18

表3:インフレ対応・資産形成データ

項目 データ・傾向 出典
インフレ手当 一時金平均 5.3万円 / 月額平均 6,500円 25
新NISA買付額 2025年6月時点で累計63兆円突破 29
対外純資産 世界最大規模(約3.6兆ドル超) 32
省力化投資補助金 最大1億円(一般型)、カタログ型で簡易申請可 20

ファクトチェック・サマリー

本記事の執筆にあたり、以下の主要な事実関係を確認・参照しました。

  1. マクロ経済・為替理論: 購買力平価(PPP)と実質為替レートの乖離に関する理論的枠組みは、NBERおよびダラス連銀の論文を参照しました 1。円安が構造的要因(金利差、貿易赤字)によるものである点を確認。

  2. エネルギー情勢: IEEJ(日本エネルギー経済研究所)の「2025年エネルギー・経済の展望」および「2026年見通し」に基づき、原油・LNG価格の高止まり、交易損失の継続、再エネ・省エネの重要性を確認しました 5

  3. 物価・賃金動向: 日本銀行の展望レポート(2025年1月・7月・10月版)および東京都区部の最新CPIデータ 33 を参照し、インフレ率が2%台で推移しつつも減速傾向にあること、賃上げが継続していることを確認しました 3

  4. 企業動向・国内回帰: 2025年から2026年にかけた国内工場の新設・稼働事例(ラピダス、トヨタ、素材メーカー等)をニュースリリースおよび業界紙から収集しました 16

  5. 省力化・生産性: OECDデータによる日本の労働生産性順位(28位) 19 と、それに対応する政府の省力化投資補助金の制度詳細 20 を照合しました。

  6. PPA・エネルギー調達: コーポレートPPAの導入メリット(燃料費調整額回避、再エネ賦課金回避)と市場動向を確認しました 12

  7. 家計資産: 新NISAの口座数・買付額の推移、インフレ手当の支給実態について、金融庁データおよび民間調査を参照しました 25


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