目次
- 1 今さら聞けない!再生可能エネルギーに関する最重要な30のFAQ 【2025年最新版】
- 2 はじめに
- 3 第1部:基本と3大核心的課題「コスト・安定性・設置場所」
- 3.1 Q1: なぜ日本の電気代や「再エネ賦課金」は高いのですか?その仕組みは?
- 3.2 Q2: 再エネは本当に不安定で、大規模停電の原因になりますか?
- 3.3 Q3: 国土の狭い日本に、再エネを大量に導入する場所はあるのですか?
- 3.4 Q4: なぜ日本は世界の流れから遅れ、再エネの導入が進まないのですか?
- 3.5 Q5: 使い終わった太陽光パネルは、将来大量のゴミ問題になりませんか?
- 3.6 Q6: 再エネにはどんな種類がありますか?それぞれの仕組みは?
- 3.7 Q7: 再エネのメリット・デメリットを改めて整理してください。
- 3.8 Q8: メガソーラーが森林を伐採し、環境破壊や災害の原因になっていると聞きますが、本当ですか?
- 3.9 Q9: 風力発電の風車に鳥が衝突する事故(バードストライク)は、生態系に深刻な影響を与えませんか?
- 3.10 Q10: 再エネ100%の社会は、本当に実現可能なのでしょうか?
- 4 第2部:深掘りする論点「政策・技術・経済」
- 4.1 Q11: 日本の再エネコストはなぜ高い?国際比較と構造的な要因を徹底解説。
- 4.2 Q12: 「FIT/FIP制度」とは何ですか?2025年度以降の買取価格はどう変わりますか?
- 4.3 Q13: 「出力制御(カーテイルメント)」とは何ですか?なぜ再エネをわざわざ捨てるのですか?
- 4.4 Q14: 再エネの不安定さを解決する「蓄電池」の導入は、今どうなっていますか?
- 4.5 Q15: 送電網の空き容量がない「系統制約」とは何ですか?「日本版コネクト&マネージ」で解決できますか?
- 4.6 Q16: 「VPP(仮想発電所)」や「DR(デマンドレスポンス)」とは、どのような技術ですか?
- 4.7 Q17: 再エネの導入は、日本の経済や雇用にどのような影響を与えますか?
- 4.8 Q18: 再エネの切り札「洋上風力発電」の現状と将来性を教えてください。
- 4.9 Q19: 原発と再エネは、どちらが安くて、どちらを優先すべきですか?
- 4.10 Q20: 再エネのライフサイクル全体で見たCO2排出量は、本当に少ないのですか?
- 5 第3部:未来を拓くイノベーションと世界の視点
- 5.1 Q21: 日本発の次世代技術「ペロブスカイト太陽電池」はいつ実用化されますか?
- 5.2 Q22: 風力発電の最新技術には、どのようなものがありますか?
- 5.3 Q23: 農業と発電を両立する「ソーラーシェアリング」の現状と課題は何ですか?
- 5.4 Q24: 再エネの電気だけを買うことはできますか?
- 5.5 Q25: 再エネを導入すると、災害に強くなるというのは本当ですか?
- 5.6 Q26: 日本のエネルギー自給率はどのくらいですか?再エネは自給率向上にどう貢献しますか?
- 5.7 Q27: 企業が再エネを導入するメリットは何ですか?CSRやESG投資とどう関係しますか?
- 5.8 Q28: IEA(国際エネルギー機関)の最新レポートから、日本が学ぶべきことは何ですか?
- 5.9 Q29: 再エネと自然保護は両立しますか?
- 5.10 Q30: 日本のエネルギー政策は、今後どうなりますか?
- 6 結論:日本のエネルギーの未来を共に創るために
- 7 ファクトチェック・サマリー
今さら聞けない!再生可能エネルギーに関する最重要な30のFAQ 【2025年最新版】
2025年7月21日(月) 最新版
はじめに
2025年は、日本のエネルギー政策が歴史的な岐路に立つ年です。脱炭素社会への移行、ウクライナ情勢以降の化石燃料価格の高騰が突きつけるエネルギー安全保障の確保、そして国民生活と産業競争力に直結する経済性の追求。この「トリレンマ」は、国際的な脱炭素競争の激化も相まって、かつてないほど先鋭化しています。この複雑で不確実な状況を読み解き、未来への道筋を見出すための「羅針盤」として、本稿は再生可能エネルギー(以下、再エネ)に関する30の最重要質問に、2025年7月時点の最新データと専門的な洞察をもって答えるものです。
「再エネはコストが高い」「天候に左右されて不安定だ」「国土の狭い日本には向かない」といった、かつて広く語られたイメージは、もはや今日の技術革新と政策の進化を正確に捉えていません。一方で、課題が全て解決されたわけではなく、無条件の楽観論も許されないのが現実です。本稿では、感情論や思い込みを排し、信頼できるデータとファクトに基づき、日本の再エネが直面する「本当の課題」と、そこに眠る「真の可能性」を構造的に解き明かしていきます。
この記事を読み終える頃には、日本のエネルギーの未来を左右する論点が明確になり、私たち一人ひとりが、そして社会全体が、どのような選択をすべきかの判断材料を手にしているはずです。
第1部:基本と3大核心的課題「コスト・安定性・設置場所」
Q1: なぜ日本の電気代や「再エネ賦課金」は高いのですか?その仕組みは?
A1: 電気代高騰の主な原因は輸入化石燃料の価格上昇ですが、「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」も国民負担の一因となっています。これは、再エネを普及させるための国の制度(FIT/FIP制度)の費用を、電気を使うすべての人が負担する仕組みです。
再エネ賦課金の仕組みとは?
再エネ賦課金は、日本の再エネ普及の根幹をなす「FIT制度(固定価格買取制度)」および「FIP制度」と密接に関連しています。
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電力の買取: 電力会社は、太陽光や風力などで発電された電気を、国が定めた価格(FIT)や市場価格に補助額を上乗せした価格(FIP)で、一定期間買い取ることが法律で義務付けられています
。1 -
費用の回収: 電力会社がこの買取に要した費用は、送配電ネットワークなどを通じて回収されます。
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国民による負担: その費用の一部を、全国の家庭や企業が、毎月の電気使用量に応じて「再エネ賦課金」という形で負担しています。つまり、電気を使うすべての人で、日本の再エネ導入を支えている構図です
。1
2025年度の最新動向と負担額
2025年度の再エネ賦課金単価は、1kWhあたり3.98円に決定されました
標準的な家庭(月間使用量260kWh)の場合、2025年度の賦課金による月々の負担額は1,034円(税込)、年間にすると12,408円(税込)となります
この賦課金が増大してきた背景には、FIT制度の開始(2012年)以降、特に太陽光発電を中心に再エネの導入が着実に進んだ結果、電力会社が買い取る電気の総量が増え、支払う費用も増加したことがあります。2017年までの賦課金の累計総額は約6兆円に達し、現在では年間約2兆円規模の支出となっています
この制度は、再エネという新しい産業を立ち上げるための重要な役割を果たしました。しかし、そのコストが国民負担として跳ね返ってきているのも事実です。この賦課金は、単なるコストではなく、日本のエネルギー転換に向けた「国民による先行投資」と捉えることができます。問題の本質は、この投資が、海外で見られるような劇的なコストダウンや技術的な自立に十分結びついていない日本の構造的な課題にあります(Q11で詳述)。今後の政策は、この投資をいかに真の産業競争力やエネルギー自立に繋げていくかが問われています。
Q2: 再エネは本当に不安定で、大規模停電の原因になりますか?
A2: 再エネに「不安定さ(変動性)」があるのは事実ですが、それが直ちに大規模停電に繋がるわけではありません。現代の電力システムは、この変動性を管理する多様な技術と仕組みを前提に構築されつつあります。
再エネの「不安定さ」とは?
再エネの不安定さには、2つの側面があります。
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変動性: 太陽光は夜間や曇り・雨の日には発電できず、風力も風が吹かない(または強すぎる)と発電できません。このように、自然条件によって出力が大きく変わる性質を指します
。4 -
不確実性: 天候の急変などにより、発電量を正確に予測することが難しい側面もあります
。6
電力システムは、電気の需要(消費量)と供給(発電量)を常に寸分の狂いなく一致させる(同時同量)必要があります。このバランスが崩れると、周波数が乱れ、最悪の場合は大規模な停電(ブラックアウト)に至る可能性があります。再エネの変動性は、この需給バランスを保つ上で大きな課題となります
変動性を管理する4つの解決策
この課題を克服するため、以下のような対策が組み合わせて用いられています。
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蓄電池の活用: 発電量が需要を上回る時間帯(昼間の太陽光発電など)に電気を蓄電池に貯めておき、需要が増える夕方や発電できない夜間に放電します。これにより、時間的なズレを吸収できます。近年、電力系統に直接接続する大規模な「系統用蓄電池」の導入が国策として進められており、その導入量は急増しています(Q14で詳述)
。5 -
調整力としての火力発電: 再エネの出力が急に落ち込んだ場合などに、火力発電所が出力を素早く上げて不足分を補います。逆に再エネの出力が多すぎる場合は、火力の出力を下げてバランスを取ります。このように、柔軟に出力を調整できる電源は「調整力」と呼ばれ、現在の電力システム安定化に不可欠な役割を担っています
。1 -
VPP(仮想発電所): 工場や家庭にある蓄電池、電気自動車(EV)、太陽光パネルなどの小規模なエネルギー源(DER)を、IoT技術を使ってインターネット上で束ね、あたかも一つの大きな発電所のように遠隔制御する技術です。これにより、社会全体で効率的に需給バランスを調整できます(Q16で詳述)
。9 -
出力制御(カーテイルメント): 上記の対策をすべて行ってもなお電気が余ってしまう場合に、電力会社が再エネ発電事業者に対して一時的に発電を停止するよう指示する、いわば「最後の手段」です。これは停電を防ぐための安全装置であり、実際に九州エリアなど再エネ導入が進む地域では頻繁に実施されています(Q13で詳述)
。1
日本の電力安定供給における真の課題は、再エネの「変動性」そのものよりも、国際送電網を持たない「系統の孤立性」にあります。陸続きの欧州では、国境を越えて電力を融通し合うことで、ある国で天候が悪くても他の国から電気を買うなど、広域で変動を吸収できます
Q3: 国土の狭い日本に、再エネを大量に導入する場所はあるのですか?
A3: 「場所がない」というのは誤解です。山林を大規模に切り開かなくても、建物の屋根や耕作放棄地といった既存の土地や空間を有効活用するだけで、日本の電力需要を賄うのに十分なポテンシャルが存在します。
眠っている膨大な導入ポテンシャル
「日本は国土が狭いから再エネは増やせない」という意見を耳にしますが、データを見ると実態は異なります。例えば、WWFジャパンの試算によると、環境への影響が大きい山林などでの新規開発を考慮しなくても、日本には膨大な再エネの導入ポテンシャルが眠っています
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太陽光発電: これまでの導入量(約87GW)に対し、建物の屋根や壁、耕作放棄地、ため池などに導入できるポテンシャルは約2,380GWと、実に約27倍にものぼります。現在の導入ポテンシャルのうち、わずか3.6%しか活用できていないのが現状です
。11 -
風力発電: 陸上・洋上を合わせると約711GWのポテンシャルがあるとされています。これまでの導入実績(約4.5GW)は、そのポテンシャルのわずか**0.6%**に過ぎません
。11
未来を拓く3つのフロンティア
さらに、技術革新によって、これまで利用が難しかった場所が新たな「発電所」に変わろうとしています。
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洋上風力発電: 四方を海に囲まれた日本の広大な排他的経済水域(EEZ)は、風力発電の宝庫です。特に、海底に基礎を固定する「着床式」が難しい遠浅の海が少ない日本にとって、海に風車を浮かべる「浮体式洋上風力発電」は、再エネの主力電源化に向けた「切り札」とされています(Q18で詳述)
。5 -
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電): 農地の上部空間に太陽光パネルを設置し、下では農業を継続する一石二鳥の取り組みです。農業収入に加えて売電収入を得られるため、農業従事者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加といった課題の解決策としても期待されています(Q23で詳述)
。13 -
ペロブスカイト太陽電池: 「薄い・軽い・曲がる」という特徴を持つ次世代の太陽電池です。従来の重いパネルでは設置できなかったビルの壁面や、工場の屋根、さらには車のボディなど、あらゆる場所が発電設備に変わる可能性を秘めています。日本の「土地の制約」を克服するゲームチェンジャーとして、2025年頃からの実用化が期待されています(Q21で詳述)
。15
このように見ていくと、日本の再エネ導入における本当のボトルネックは、「物理的な土地の不足」ではなく、「社会的な土地利用の合意形成の難しさ」と「制度設計の遅れ」にあることがわかります。過去に一部のメガソーラー事業者が利益のみを追求し、景観破壊や土砂災害のリスクを高めた事例がありました
欧州で導入されている「ゾーニング」のように、あらかじめ土地の価値を評価し、開発に適した場所と守るべき場所を明確に区分する計画的な土地利用の仕組みが、日本ではまだ十分ではありません
Q4: なぜ日本は世界の流れから遅れ、再エネの導入が進まないのですか?
A4: 日本の再エネ導入が遅れているのは、単一の理由ではなく、「高いコスト」「地理的制約」「系統の制約」「制度的課題」といった複数の要因が複雑に絡み合い、互いに悪影響を及ぼし合う「システム的な課題」に陥っているためです。
日本の立ち位置:データで見る「遅れ」
まず現状を確認すると、2023年の日本の総発電電力量に占める再エネの割合(水力含む)は速報値で**22.7%**です
導入を阻む複合的な要因
日本の再エネ導入が思うように進まない背景には、以下の複合的な要因が存在します。
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高いコスト構造: 日本の再エネ発電コストは国際的に見て割高です。特に、設備費や工事費が海外の1.5倍から2倍に達することが指摘されており、これが導入の大きな足かせとなっています(Q11で詳述)
。1 -
地理的・自然的制約:
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地形: 国土の約75%を山地が占め、太陽光や風力発電に適した平地が少ないため、造成コストがかさみます
。4 -
自然災害: 地震や台風が頻発するため、より頑丈な設備が必要となり、建設コストやメンテナンス費用が上昇します
。25 -
孤立した系統: 島国であるため、欧州のように隣国と電力を融通し合うことができず、再エネの変動性を国内だけで吸収しなければならないため、対策コストが割高になります
。1
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電力系統の制約: 発電所を電力網に接続しようにも、送電線に空き容量がない「系統混雑」が各地で問題となっています。送電網の増強には多大な時間とコストがかかるため、再エネ導入のボトルネックとなっています(Q15で詳述)
。1 -
政策・制度的課題: 開発に伴う環境アセスメントや各種許認可のプロセスが複雑で時間がかかることや、地熱開発における温泉事業者との調整など、地域との合意形成が難しいケースが多く存在します
。14 -
エネルギー政策の方向性: 日本のエネルギー政策は、再エネを主力電源化しつつも、安全性確保を大前提とした原子力の活用や、調整力としての高効率火力の維持も掲げており、再エネだけに資源を集中させる欧州の一部諸国とは戦略が異なります
。22
これらの要因は独立しているわけではなく、相互に連関し、一種の負のスパイラルを生み出しています。例えば、地理的制約が建設コストを押し上げ、高いコストが導入ペースを鈍化させます。導入が進まなければ、関連機器の量産効果が働かず、国内のサプライチェーンも未成熟なままとなり、さらなるコスト高を招きます。このシステム的な課題を断ち切るには、個別の問題への対症療法だけでなく、これら全体を一つのシステムとして捉え、好循環を生み出すための包括的な国家戦略、例えば洋上風力のような大規模市場を創出してサプライチェーン全体を育成するようなアプローチが不可欠です。
Q5: 使い終わった太陽光パネルは、将来大量のゴミ問題になりませんか?
A5: 課題ではありますが、解決可能な問題です。太陽光パネルの95%以上はリサイクル可能であり、すでに技術は確立されています。さらに、不法投棄などを防ぐための法的な仕組み(廃棄費用の積立制度)も整備されています。
パネルの廃棄は「問題」ではなく「管理すべき課題」
2012年のFIT制度開始以降に導入が急増した太陽光パネルは、2030年代後半から寿命(一般的に20〜30年)を迎え、大量廃棄時代が到来すると予測されています。これを「将来のゴミ問題」と懸念する声もありますが、実態は異なります。
-
リサイクル可能な構造: 太陽光パネルの主成分は、重量ベースでガラスが約75%、アルミフレームが約10%、そして発電を担うセルや配線、樹脂フィルムなどです。このうち、ガラスやアルミはもちろん、セルを構成するシリコンもリサイクル可能であり、パネル全体の95%以上が再資源化できるとされています
。17 -
確立されたリサイクル技術: パネルを構成する各素材を分離し、再利用する技術はすでに確立されています。日本はこの分野で世界トップレベルの技術力を有しており、年間1,000トン程度のリサイクル処理実績もすでにあるのです
。17 -
有害物質のリスク管理: パネルの主成分であるシリコンは、砂の主成分であるケイ素と同じ元素であり、基本的に無害です
。一部のパネルには、はんだなどに微量の鉛やカドミウムといった有害物質が含まれていますが、これらはリサイクル工程で適切に分離・管理・処理されるため、環境中に流出するリスクは管理可能です。17
確実な処理を担保する「積立金制度」
最大の懸念は、発電事業者が倒産したり、責任の所在が不明になったりして、パネルが山中などに不法投棄されることでした。この問題に対処するため、2022年7月から廃棄等費用積立制度が義務化されました
この制度は、発電事業者がFIT/FIP制度による売電収入の一部を、国の機関(電力広域的運営推進機関)に外部積立てすることを義務付けるものです。これにより、将来の廃棄費用が確実に確保され、事業者が倒産した場合でも、その積立金を使って適正な解体・処理が行われる仕組みが整いました。
このように、太陽光パネルの廃棄問題は、「どうやってリサイクルするか」という技術的な課題の段階から、「誰が、いつ、どこで、いくらで」大量のパネルを効率的に回収・運搬・処理するか、という社会的な物流(ロジスティクス)と経済性の課題へと移行しています。積立金制度はその第一歩ですが、本質的な解決策は、リサイクルされた素材に価値を見出し、リサイクル事業そのものが経済的に自立するような「循環経済(サーキュラーエコノミー)」のモデルを確立することです。これは単なる廃棄物処理ではなく、新たな静脈産業を創出する大きなビジネスチャンスとも捉えられます。
Q6: 再エネにはどんな種類がありますか?それぞれの仕組みは?
A6: 日本で主に利用されている再エネは「太陽光」「風力」「水力」「地熱」「バイオマス」の5種類です。それぞれ自然界の異なるエネルギーを利用して電気や熱を生み出します。
法律(エネルギー供給構造高度化法)では、これらに加えて「太陽熱」や「雪氷熱利用」なども再エネとして定義されています
1. 太陽光発電
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仕組み: 太陽の光エネルギーを、半導体でできた「太陽電池(ソーラーパネル)」に当てることで、直接電気に変換する方式です。「光起電力効果」という物理現象を利用しており、燃料を必要とせず、稼働中にCO2を排出しません
。家庭の屋根から大規模なメガソーラーまで、幅広い規模で導入されています。30 -
特徴: 設置場所の自由度が高い一方、夜間や悪天候時には発電できないという変動性があります
。30
2. 風力発電
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仕組み: 風の力で巨大な風車(ブレード)を回し、その回転エネルギーを発電機に伝えて電気を起こします。風が持つ運動エネルギーを電気エネルギーに変換するものです
。山間部や沿岸に設置される「陸上風力」と、海の上に設置される「洋上風力」があります30 。31 -
特徴: 太陽光と異なり夜間でも発電可能ですが、風の強さや向きに左右されるため、安定した風況の場所が適しています
。31
3. 水力発電
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仕組み: ダムなどに貯めた水を高所から低所へ落とし、その水の勢いで水車を回して発電します。水が持つ位置エネルギーを電気エネルギーに変換する、古くからある発電方法です
。30 -
特徴: 一度建設すれば長期間にわたり安定した電力を供給でき、出力調整も容易なため、電力システムの安定化に重要な役割を果たします。近年では、農業用水路などを活用した「中小水力発電」も注目されています
。13
4. 地熱発電
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仕組み: 地球の内部に存在するマグマの熱を利用します。地下に浸透した雨水がマグマで熱せられてできた高温の蒸気や熱水を取り出し、その力でタービンを回して発電します
。30 -
特徴: 天候や昼夜に左右されず、24時間安定して発電できるベースロード電源として期待されています。一方で、開発可能な場所が火山地帯に限られ、温泉地と重なることが多い、開発に時間とコストがかかる、といった課題があります
。18
5. バイオマス発電
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仕組み: 木くず(間伐材など)、家畜の糞尿、食品廃棄物といった生物由来の資源(バイオマス)を燃料として燃やしたり、発酵させてメタンガスを発生させたりして、タービンを回し発電します
。30 -
特徴: 燃焼時にCO2を排出しますが、原料となる植物が成長過程で光合成によってCO2を吸収しているため、全体として大気中のCO2を増やさない「カーボンニュートラル」なエネルギーと見なされています
。廃棄物の有効活用や林業・農業の活性化にも繋がりますが、燃料の収集・運搬・管理にコストがかかる点が課題です30 。31
表1: 主要な再生可能エネルギーの発電方法と特徴
種類 | 発電の仕組み | メリット | デメリット |
太陽光発電 | 太陽光を太陽電池で直接電気に変換 | 設置場所の自由度が高い、災害時の非常用電源になる | 天候や日照時間に左右される、夜間は発電不可 |
風力発電 | 風の力で風車を回し発電 | 夜間も発電可能、エネルギー変換効率が高い | 風況に左右される、景観や騒音、バードストライクの問題 |
水力発電 | 水の位置エネルギーで水車を回し発電 | 安定した電力供給、長期的な運用が可能、出力調整が容易 | 大規模ダムは建設コストが高い、環境への影響が大きい |
地熱発電 | 地下の蒸気や熱水でタービンを回し発電 | 24時間安定供給が可能(ベースロード電源) | 開発可能な場所が限定的、開発コストとリスクが高い |
バイオマス発電 | 生物資源を燃焼・ガス化して発電 | カーボンニュートラル、廃棄物の有効活用、天候に左右されない | 燃料の安定確保と輸送コストが課題、食料との競合懸念 |
Q7: 再エネのメリット・デメリットを改めて整理してください。
A7: 再エネの最大のメリットは「CO2を排出しない環境性」と「国産エネルギーである安全性」です。一方、最大のデメリットは「発電コストの高さ」と「自然条件に左右される不安定さ」に集約されます。
脱炭素社会の実現に向けて、再エネの導入は世界の潮流となっています。そのメリットとデメリットを正しく理解し、課題を克服していくことが重要です。
再エネ導入の5つの主要なメリット
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温室効果ガスの排出削減: 太陽光や風力などの再エネは、発電時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)をほとんど排出しません
。これは、化石燃料を燃やす火力発電との最大の違いであり、気候変動対策の切り札とされています。6 -
エネルギー源が枯渇しない: 太陽光、風、水、地熱といった自然界に常に存在するエネルギーを利用するため、石油や石炭、天然ガスのような化石燃料と違い、資源が枯渇する心配がありません。永続的に利用可能なエネルギーです
。6 -
エネルギー自給率の向上: 日本はエネルギー資源に乏しく、一次エネルギーの供給の約9割を海外からの輸入に頼っています(2021年度の自給率は13.3%)
。これは、国際情勢の変動によってエネルギーの安定供給が脅かされるリスクを常に抱えていることを意味します。国内で生産できる再エネを増やすことは、エネルギー安全保障の強化に直結します4 。34 -
新たな産業と雇用の創出: 再エネ関連設備の製造、建設、メンテナンスといった分野で新たな産業が生まれ、雇用を創出する経済効果が期待されます
。実際に、世界では再エネ分野の雇用者数が増加し続けています21 。35 -
災害時の非常用電源: 太陽光発電や蓄電池を導入している家庭や施設は、大規模な災害で電力網が寸断された場合でも、自立して電気を確保できる可能性があります。分散型電源として、地域の防災力向上にも貢献します
。18
再エネ導入の4つの主要なデメリット(課題)
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発電コストが高い: 日本における再エネの発電コストは、火力発電や原子力発電に比べて依然として高く、国際的に見ても割高な水準にあります(Q11で詳述)
。設備導入の初期投資が高額であることや、後述する不安定さへの対策費用などが要因です。6 -
発電量が自然環境に左右される: 太陽光や風力は天候次第で発電量が変わるため、電力の安定供給が難しいという課題があります
。電力は需要と供給を常に一致させる必要があり、この変動性を管理するための蓄電池や調整力電源が別途必要になります。4 -
設置に適した場所が限られる: 大規模な太陽光発電や風力発電には広大な土地が必要です。平地が少なく山がちな日本では、開発に適した場所が限られます
。また、地熱発電は国立公園や温泉地、洋上風力発電は漁業権など、既存の土地利用や権利との調整が必要になるケースが多くあります4 。5 -
エネルギー変換効率が低い: 投入した自然エネルギーを電気に変換する効率が、従来の発電方法に比べて低い傾向があります。例えば、一般的な太陽光発電の変換効率は約20%程度、風力発電が約20〜40%であるのに対し、最新の火力発電では40〜50%以上に達します
。同じ量の電気を得るためにより多くの設備や土地が必要となり、コスト高の一因にもなっています。5
これらのデメリットは、技術開発や制度改善によって克服が進められています。例えば、不安定さに対しては蓄電池の導入(Q14)、適地の問題に対しては洋上風力(Q18)やペロブスカイト太陽電池(Q21)といった新しい技術が解決策として期待されています。
Q8: メガソーラーが森林を伐採し、環境破壊や災害の原因になっていると聞きますが、本当ですか?
A8: 過去に一部でそうした問題があったのは事実ですが、現在は法規制が強化され、問題のある事業は抑制されています。また、今後の太陽光発電の主戦場は、山林の新規開発ではなく、建物の屋根など既存のスペース活用に移っています。
問題が発生した背景
2012年のFIT制度開始当初、太陽光発電に非常に高い買取価格が設定されたため、一部の事業者が利益を最優先し、ずさんな計画で山林などを大規模に開発するケースが発生しました
現在の対策と状況
こうした問題を受け、国や自治体は規制の強化を進めています。
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事業規律の強化: 現在では、林地開発許可の取得などがFIT/FIP制度の認定要件となっており、法令に違反した場合は認定が取り消されるなど、事業規律が厳格化されています
。経済産業省は、認定計画通りに事業が行われているか、安全対策が講じられているかなどを確認するため、定期的に現地調査も実施しています11 。37 -
促進区域制度の導入: 「再エネ促進区域制度」が導入され、市町村が地域と協議の上、自然環境や地域社会に配慮した再エネ導入に適した区域をあらかじめ設定する取り組みも始まっています。これにより、無秩序な開発を防ぎ、地域と共生する形での導入が促されます
。11
また、そもそも大規模な森林開発を伴うメガソーラーは、太陽光発電全体から見ればごく一部です。2024年3月末時点でのFIT新規認定件数のうち、設備容量1,000kW以上のメガソーラーが占める割合は、わずか1.2%程度に過ぎません。これらの多くはすでに開発済みであり、今後、同様の問題が多発する可能性は低いと考えられます
今後の太陽光発電のあり方
前述の通り(Q3参照)、今後の太陽光発電導入のポテンシャルは、山林の新規開発ではなく、建物の屋根や壁面、耕作放棄地、ため池、駐車場といった、すでに存在するスペースにあります
地球温暖化そのものが最大の環境破壊であるという視点に立てば、再エネの導入は不可欠です。その上で、過去の教訓を活かし、環境破壊を最小限に抑えながら、エネルギー自給率の向上や地域の活性化といったメリットを最大化する。何が社会全体にとってより良い選択なのかを、冷静に議論し、合意形成を図っていくプロセスが重要です
Q9: 風力発電の風車に鳥が衝突する事故(バードストライク)は、生態系に深刻な影響を与えませんか?
A9: バードストライクは風力発電が抱える重要な課題の一つであり、対策が必要です。しかし、適切な調査と対策を講じることで、その影響を最小限に抑えることは可能です。
バードストライクの現状と課題
風力発電の回転するブレードに鳥が衝突する事故は「バードストライク」と呼ばれ、特に渡り鳥のルートや猛禽類の生息域に発電所が建設された場合に、生態系への影響が懸念されます
影響を回避・低減するための対策
バードストライクのリスクを低減するため、環境アセスメント(環境影響評価)の段階から、以下のような様々な対策が講じられています。
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事前の詳細な調査: 事業計画地の鳥類の生息状況や渡りのルートなどを、年間を通じて詳細に調査します。これにより、リスクの高い場所を特定し、風車の配置を工夫したり、場合によっては計画そのものを見直したりします。
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風車の視認性を高める工夫:
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ブレードの塗装: 風車のブレードのうち1枚を黒く塗るだけで、鳥が風車を認識しやすくなり、バードストライクの発生率を大幅に(70%以上)低減できるという研究結果がノルウェーで報告されており、世界的に注目されています。
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紫外線(UV)塗装: 鳥は人間には見えない紫外線を認識できるため、UV光を反射する特殊な塗料を塗ることで、鳥に風車の存在を知らせる研究も進んでいます。
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稼働の制御(シャットダウン): 渡り鳥の群れが接近した場合などに、レーダーやカメラでそれを検知し、一時的に風車の稼働を停止させるシステムも開発・導入されています。これにより、リスクが特に高い時間帯の衝突を能動的に回避します。
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立地の配慮: そもそも鳥類の重要な生息地や渡りのルートを避け、影響の少ない場所に発電所を立地させることが最も基本的な対策となります。
これらの対策を適切に組み合わせることで、バードストライクのリスクはゼロにはできないものの、社会的に受容可能なレベルまで低減することは可能と考えられています。再エネ開発は、地域の自然環境や生態系に最大限配慮しながら進めることが大前提であり、事業者には法令遵守はもちろん、地域社会や専門家と連携し、科学的知見に基づいた最善の対策を講じ続ける責任があります
Q10: 再エネ100%の社会は、本当に実現可能なのでしょうか?
A10: 技術的には可能ですが、実現には経済的コスト、社会制度の変革、国民の合意形成など、極めて高いハードルが存在します。2050年カーボンニュートラルという目標に向けて、「再エネを主力電源とする社会」を目指すのが現実的な方向性です。
「再エネ100%」のシナリオ
「2050年までに電力の100%を再エネで賄う」というシナリオは、一部の研究機関や団体によって提唱されています。例えば、自然エネルギー財団は、2050年の総発電量のうち、太陽光と風力で84%を賄うというシナリオを提示しています
技術の進歩により、これらの要素技術は個々に存在し、理論上は100%の実現可能性を示唆しています。しかし、その実現には乗り越えるべき巨大な壁があります。
実現に向けた3つの巨大な壁
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天文学的なコストと国民負担:
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再エネ100%を達成するために必要な設備投資額は、数十兆円から百兆円規模に達すると試算されています。これには、発電設備だけでなく、送電網の大規模な増強や、長期のエネルギー貯蔵を可能にする水素インフラの整備なども含まれます。
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これらのコストは、最終的に電気料金への上乗せ(再エネ賦課金の大幅な増加など)という形で国民が負担することになり、社会的な合意を得ることは極めて困難です。
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社会・制度の大変革:
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膨大な土地利用が必要となり、Q3で述べたような土地利用の合意形成の問題がさらに深刻化します。特に、大規模な洋上風力開発や送電網の敷設には、漁業関係者や地域住民との高度な調整が不可欠です。
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電力市場の仕組みそのものも、変動する再エネを前提とした形に抜本的に作り変える必要があります。
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エネルギー安全保障上のリスク:
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太陽光と風力という変動性の高い電源に極端に依存することは、数週間から数ヶ月にわたる異常気象(長期間の日照不足や無風状態など)が発生した場合の供給リスクを増大させます。
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これを補うための蓄電池や水素にも限界があり、エネルギー供給の冗長性(バックアップ)をどう確保するかが大きな課題となります。
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現実的な目標:「再エネの主力電源化」
こうした背景から、日本政府が掲げる現在のエネルギー政策は、「再エネ100%」ではなく、**「再エネの主力電源化」**を目指すものです
2030年度の目標では、電源構成に占める再エネ比率を36〜38%とすることが示されています
第2部:深掘りする論点「政策・技術・経済」
Q11: 日本の再エネコストはなぜ高い?国際比較と構造的な要因を徹底解説。
A11: 日本の再エネコストが高いのは、設備費や工事費といった「資本費」が国際水準より著しく高いことが最大の要因です。これには、日本の地理的条件、厳しい自然災害への対策、複雑な規制、未成熟なサプライチェーンといった構造的な問題が根深く関わっています。
データで見る日本の高コスト構造
まず、客観的なデータで日本の立ち位置を確認します。発電方法ごとの経済性を評価する国際的な指標に「均等化発電原価(LCOE: Levelized Cost of Electricity)」があります。これは、発電所の建設から運転、廃棄までの総費用を、その発電所が生涯にわたって発電する総電力量で割ったもので、1kWhあたりのコストを示します。
経済産業省の最新の「発電コスト検証ワーキンググループ」のとりまとめ(2024年)によると、2023年時点の日本のLCOE(政策経費込み)は、事業用太陽光で10.9円/kWh、陸上風力で16.3円/kWhと試算されています
高コストを生む4つの構造的要因
日本の発電コストを押し上げている要因を、コストの内訳に沿って分解すると、その構造が見えてきます。
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資本費(設備費・工事費)の高さ:
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設備費: 太陽光パネルや風車といった主要機器は国際的に取引されていますが、日本の調達価格は海外より高い傾向にあります。これには、国内の流通構造の複雑さや、商習慣の違いなどが影響していると指摘されています
。グローバルな価格低下の恩恵を十分に享受できていないのです。1 -
工事費: これが日本のコストを押し上げる最大の要因です。
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地形的要因: 平野が少なく山がちな地形のため、発電所を建設するための土地造成に多額の費用がかかります
。25 -
自然災害対策: 頻発する地震や台風に耐えうるよう、基礎や架台をより頑健に設計する必要があり、これが資材費と工事費を押し上げます
。25 -
人件費・その他: 諸外国に比べて高い労務費や、複雑な許認可プロセス、長期化する環境アセスメントなどが、プロジェクト全体の間接的なコストを増大させています。結果として、工事費が海外の1.5倍から2倍に達するケースも珍しくありません
。1
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運転維持費の高さ:
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ここでも人件費の高さや、厳しい自然環境下でのメンテナンス頻度の増加などがコストを押し上げる要因となります
。25
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系統接続コスト:
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発電に適した場所(日照や風況が良い場所)が、必ずしも電力需要の大きい都市部の近くにあるとは限りません。需要地から遠く離れた場所に発電所を建設する場合、送電網まで電気を送るための長い自営の送電線(自営線)を敷設する必要があり、これが数億円単位の追加コストとなることがあります
。41
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市場規模とサプライチェーン:
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これまでの導入ペースが欧米や中国に比べて緩やかだったため、国内の再エネ市場規模が十分に大きくならず、関連機器の「量産効果」が働きにくい状況にあります
。また、建設やメンテナンスを担う国内のサプライチェーンも未成熟で、競争が十分に働かず、コストが下がりにくいという側面もあります41 。42
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このように、日本の再エネコスト問題は、単に「パネルが高い」といった単純な話ではなく、「技術」の問題以上に「国土・社会システム」の問題であると言えます。世界的な技術革新という「追い風」を、日本の特異な国土・社会条件という「向かい風」が相殺してしまっているのです。この構造を打破しない限り、日本の再エネは「高コスト」という足かせから逃れることはできません。解決策は、技術開発と並行して、土地利用規制の合理化、許認可プロセスの迅速化、建設・施工方法の標準化といった、社会システム全体の変革が不可欠です。
表2: 日本の発電コスト(LCOE)国際比較(円/kWh)
電源 |
日本 (2023年実績) |
日本 (2040年予測) |
世界平均 (2022年) |
備考 |
事業用太陽光 | 10.9 | 7.0~8.9 | 7.5 | 日本のコストは将来も国際水準を上回る予測(基本ケース) |
陸上風力 | 16.3 | 13.5~15.3 | – | 日本の地理的条件がコストを押し上げ |
着床式洋上風力 | 30.9 | 14.4~15.1 | – | 将来的なコスト低減ポテンシャルは大きい |
LNG火力 | 16.8~22.9 | 16.7~24.2 | – | 燃料費とCO2対策費の変動リスクが大きい |
石炭火力 | 13.9~26.6 | 17.5~31.3 | – | CO2対策コストにより将来的に大幅上昇 |
原子力 | 12.9~ | 14.6~ | – | 安全対策費やバックエンド費用が課題 |
注: 日本のコストは政策経費込みの試算値。2040年予測は基本ケース(国際水準に収斂しない場合)の値。為替レートや算定の前提条件により単純比較は困難な点に留意。
Q12: 「FIT/FIP制度」とは何ですか?2025年度以降の買取価格はどう変わりますか?
A12: FIT制度は再エネ電気を「固定価格」で買い取る制度、FIP制度は市場価格に「補助額(プレミアム)」を上乗せする制度です。日本の再エネ政策は、導入量を増やすFITから、市場との統合を目指すFIPへと移行しており、2025年度の価格設定もこの流れを反映して、より複雑で精緻なものになっています。
FIT制度からFIP制度へ:政策の大きな転換
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FIT制度 (Feed-in Tariff / 固定価格買取制度):
-
仕組み: 再エネで発電した電気を、国が定めた「固定価格」で、電力会社が「長期間(例: 太陽光10kW以上は20年)」買い取ることを保証する制度です
。1 -
目的: 発電事業者にとって、売電収入が長期間安定するため、初期投資の回収見通しが立てやすくなります。これにより、再エネ市場への新規参入を促し、導入量を増やすことを最大の目的としていました
。1
-
-
FIP制度 (Feed-in Premium / フィードインプレミアム):
-
仕組み: 発電事業者は、発電した電気を卸電力市場などで自ら販売します。その市場価格に加えて、国が定めた「プレミアム(補助額)」が上乗せして支払われます
。43 -
目的: FIT制度と違い、売電価格が市場価格に連動するため、発電事業者は市場価格が高い時間帯に多く売電しようというインセンティブが働きます。これにより、再エネ事業者が電力の需給バランスを意識するようになり、再エネが自立した電源として電力市場に統合されていくことを目指しています
。25
-
現在、大規模な太陽光発電や風力発電は、原則としてFIP制度の対象となっており、FITからFIPへの移行が進んでいます。この政策転換は、日本の再エネ政策が、とにかく量を増やす「導入拡大」フェーズから、コスト効率や電力システムへの貢献度といった「質の向上と市場統合」フェーズへと移行したことを象徴しています。
2025年度の最新買取価格と注目ポイント
2025年度の買取価格は、この「質の向上」という方針を反映し、設置場所や導入時期によって細かく設定されています。
注目ポイント:
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屋根設置の優遇: 地上設置に比べて、建物の屋根に設置する太陽光発電の買取価格は高く設定されています。これは、新たな土地開発を伴わず、地域との軋轢も生じにくい屋根置きの導入を促進する狙いがあります
。43 -
初期投資支援スキームの導入(2025年10月〜): 屋根設置の太陽光発電を対象に、導入初期の数年間の買取価格を大幅に引き上げ、その後の価格を下げるという新しい仕組みが導入されます。これにより、初期投資の回収を早め、導入のハードルを下げることが目的です
。2 -
入札制度の継続: 大規模な太陽光や風力は、買取価格を競争入札で決める方式がとられています。これにより、事業者間のコスト競争を促し、国民負担(賦課金)を抑制します
。43
表3: 2025-2026年度 FIT/FIP制度 買取価格・基準価格一覧(抜粋)
電源種別 | 規模 | 2025年度価格 (円/kWh) | 2026年度価格 (円/kWh) | 備考 |
太陽光発電 | 住宅用 (10kW未満) | 15円 (~9/30) | 24円(1-4年), 8.3円(5-10年) | 2025/10/1から初期投資支援スキーム適用 |
事業用屋根設置 (10kW以上) | 11.5円 (~9/30) | 19円(1-5年), 8.3円(6-20年) | 2025/10/1から初期投資支援スキーム適用 | |
事業用地表設置 (10-50kW未満) | 10円 | – | 地域活用要件あり | |
事業用地表設置 (50-250kW未満) | 8.9円 | – | FIPも選択可 | |
事業用地表設置 (250kW以上) | FIP入札制 | FIP入札制 | ||
陸上風力発電 | 50kW未満 | – | 12円 | 2027年度は11.8円 |
50kW以上 | 入札制 (上限13円) | – | ||
中小水力発電 | 200kW未満 | 34円 | 34円 | 既設導水路活用型は25円 |
地熱発電 | 1,000kW未満 | 40円 | 40円 | |
バイオマス発電 | 未利用材 (2,000kW未満) | 40円 | 40円 |
出典: 資源エネルギー庁発表資料
Q13: 「出力制御(カーテイルメント)」とは何ですか?なぜ再エネをわざわざ捨てるのですか?
A13: 出力制御とは、電力の供給が需要を上回り、大規模停電のリスクが高まった際に、電力会社が再エネ発電事業者に対して一時的に発電を止めるよう指示することです。これは、貴重な電気を「捨てる」のではなく、電力システム全体を守るための「安全装置」として不可欠な措置です。
なぜ出力制御が必要なのか?
電力システムは、需要(消費量)と供給(発電量)のバランスを常に保つ必要があります。このバランスが崩れ、供給が需要を大幅に上回ると、電力の品質(周波数)が維持できなくなり、最悪の場合、発電所が次々と停止してエリア全域が停電する「ブラックアウト」を引き起こす恐れがあります
春や秋の過ごしやすい休日など、電力需要が少ないにもかかわらず、晴天で太陽光発電の出力が最大になるような状況では、供給過剰に陥りやすくなります。この需給バランスを保つため、電力会社はあらかじめ定められた優先順位に従って、発電所の出力をコントロールします。
出力制御の優先順位(優先給電ルール)
電気が余りそうになった場合、以下の順番で対策が講じられます。これが「優先給電ルール」です
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火力発電の出力抑制: まず、LNGや石炭などの火力発電の出力を可能な限り下げます。
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揚水発電の活用: 揚水発電所がポンプで水をくみ上げ、意図的に電力を消費することで需要を創出します。
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地域間連系線の活用: それでも電気が余る場合、他の電力エリアに電気を送ります(ただし、送れる量には上限があります)。
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バイオマス発電の出力抑制: 長時間安定して運転するタイプのバイオマス発電の出力を下げます。
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太陽光・風力発電の出力制御: ここまでの対策をすべて行ってもなお供給過剰が解消されない場合に、最後の手段として太陽光・風力発電事業者に出力停止を指示します。
このように、出力制御は、火力発電の抑制や他エリアへの送電など、あらゆる手段を尽くした上で最後に行われる措置です。
出力制御の現状と今後の課題
再エネの導入が進んでいる九州電力エリアでは、すでに出力制御が頻繁に実施されています。今後、全国的に再エネが増えれば、他のエリアでも出力制御の機会は増えていくと予想されます。
出力制御は、発電事業者にとっては売電機会の損失に直結します。この損失が大きくなりすぎると、再エネへの投資意欲を削いでしまう可能性があります。そのため、出力制御をできるだけ回避するための対策が重要になります。具体的には、
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蓄電池の導入促進: 余剰電力を吸収する蓄電池を増やす(Q14参照)。
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地域間連系線の増強: 他のエリアに送れる電気の量を増やす(Q15参照)。
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デマンドレスポンス(DR)の活用: 電気料金を安くするなどして、需要家側に電力消費を促す。
など、社会全体で再エネの変動を吸収する能力を高めていく必要があります。出力制御は「もったいない」ことではありますが、再エネを大量導入していく過程では避けられない現象であり、その発生をいかに最小化していくかが、今後のエネルギー政策の大きな課題です。
Q14: 再エネの不安定さを解決する「蓄電池」の導入は、今どうなっていますか?
A14: 蓄電池の導入、特に電力系統の安定化を担う「系統用蓄電池」は、国の強力な後押しを受けて、現在爆発的に増加しています。2030年には現在の数倍から十数倍の市場規模になると予測されており、再エネ普及の鍵を握る最重要技術となっています。
なぜ今、蓄電池が重要なのか?
蓄電池は、再エネの「変動性」という最大の弱点を補うための切り札です
急増する「系統用蓄電池」
蓄電池には、家庭に設置する「家庭用」と、工場やビルに設置する「産業用」、そして電力系統に直接接続して需給バランスを調整する大規模な「系統用蓄電池」があります。今、最も注目されているのが、この系統用蓄電池です。
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接続契約の急増: 経済産業省の資料によると、系統用蓄電池の電力網への接続契約申込件数は、直近1年間で約3倍に急増しています
。これは、蓄電池ビジネスへの期待の高まりを明確に示しています。8 -
国の強力な支援策: この背景には、国の手厚い支援策があります。
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補助金: 2021年度から導入支援の補助金が始まり、2024年度からはGX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債を活用した総額400億円規模の事業が予定されています
。8 -
長期脱炭素電源オークション: 蓄電池を「脱炭素電源」と位置づけ、長期的な収入を保証する新しい市場メカニズムの対象としました。2024年に行われた第1回の入札では、募集量の4分の1以上にあたる約109万kW分を蓄電池が落札し、大きな存在感を示しました
。8
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2030年に向けた市場予測
こうした動きを受け、日本の蓄電池市場は今後、飛躍的な成長が見込まれています。
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JEMA(日本電機工業会)の統計では、2023年度の蓄電システム(家庭用・産業用)の出荷容量は前年比125%の成長を記録しました
。45 -
2030年の市場規模予測では、家庭用蓄電池の累積出荷台数は300万台を突破し、全世帯の約5.5%に普及するとの推計もあります
。45 -
系統用蓄電池については、経済産業省が2030年の国内導入見通しを累計14.1〜23.8GWhと設定しており、これは現在の導入量をはるかに上回る規模です
。8
世界的に見ても、IEA(国際エネルギー機関)は、世界のエネルギー貯蔵能力が2030年には2023年の6倍に増加すると予測しており
Q15: 送電網の空き容量がない「系統制約」とは何ですか?「日本版コネクト&マネージ」で解決できますか?
A15: 「系統制約」とは、発電所を電力網に接続したくても、送電線に電気を流す余裕(空き容量)がないため、接続できない問題です。この問題を緩和し、既存の送電網を最大限有効活用する取り組みが「日本版コネクト&マネージ」であり、再エネ導入拡大の鍵の一つとされています。
なぜ送電網に「空き」がなくなるのか?
送電線には、安全に流せる電気の量に上限(運用容量)があります。この容量は、従来、非常に保守的な考え方で計算されてきました
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N-1基準: 1回線の送電線が故障やメンテナンスで停止しても、残りの健全な送電線だけで電気を送り続けられるよう、常に予備の容量を確保しておくという国際的な原則です。これにより、実際の送電線の能力の半分程度しか使えない計算になっていました
。48 -
先着優先ルール: 空き容量は、基本的に「早い者勝ち」で確保されてきました。一度確保されると、たとえその発電所が実際にはあまり稼働していなくても、容量は占有されたままでした。
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最大想定での計算: 空き容量の計算は、その送電線に接続されている全ての発電所が同時にフル稼働するという、現実にはほとんど起こり得ない最悪のケースを想定して行われてきました
。48
これらの要因が重なり、多くの地域で送電網の「空き容量ゼロ」という事態が発生。新たに再エネ発電所を建設しようとしても、接続できずに計画が頓挫したり、送電網を増強するために莫大な追加費用と長い年月が必要になったりするケースが多発しました
既存の送電網を賢く使う「日本版コネクト&マネージ」
この問題を解決するため、欧州の事例を参考に導入されたのが「日本版コネクト&マネージ」です。これは、送電網を物理的に増強するだけでなく、運用ルールを見直して、既存の設備を最大限効率的に使おうという考え方です。主に以下の3つの手法から構成されます。
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想定潮流の合理化: 全ての発電所がフル稼働するという非現実的な想定をやめ、実際の発電実績や天候などを考慮して、より現実に近い電気の流れ(潮流)を予測します。これにより、これまで「空いているはずがない」と思われていた「隠れた空き容量」を見つけ出すことができます。この取り組みはすでに全国で適用され、約590万kWもの空き容量拡大効果があったと報告されています
。48 -
N-1電制(でんせい): 従来は予備として空けていたN-1故障時用の容量も、平時は利用可能とします。その代わり、万が一故障が発生した際には、瞬時に一部の発電所の出力を遠隔で遮断(電気を制限=電制)することで、システム全体の安定を守ります。これにより、送電線の利用効率が大幅に向上します
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ノンファーム型接続: これまでは、発電所の出力が送電線の容量を絶対に超えない「ファーム(確固とした)」接続が原則でした。ノンファーム型接続は、「送電線が混雑した際には、出力を抑制されることを許容する」という条件付きで、空き容量がない系統にも接続を認める新しい方式です。これにより、発電事業者は増強工事を待たずに事業を開始できます。2028年頃には全国での展開が完了する予定です
。45
これらのコネクト&マネージの手法は、系統制約を緩和する上で大きな効果を発揮しています。しかし、再エネが今後さらに大量に導入されれば、これらの工夫だけでは追いつかなくなる可能性もあります。中長期的には、北海道や東北の豊富な再エネを大消費地である首都圏に送るための地域間連系線の大規模な増強など、物理的なインフラ投資も並行して進めていくことが不可欠です
Q16: 「VPP(仮想発電所)」や「DR(デマンドレスポンス)」とは、どのような技術ですか?
A16: VPPは、各地に散らばる小さなエネルギー源を束ねて一つの大きな発電所のように制御する「技術」です。DRは、そのVPPなどを活用して、電力の需要(消費)パターンを変化させる「手法」です。両者は、再エネ時代の電力システムを支える重要な概念です。
VPP(バーチャルパワープラント)とは?
VPP(Virtual Power Plant)は、直訳すると「仮想発電所」。その名の通り、物理的な発電所を建設するのではなく、情報通信技術(ICT)やIoTを活用して、仮想的に発電所のような機能を生み出す仕組みです
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何を束ねるのか?: VPPが束ねるのは、工場やオフィス、家庭などに設置されている小規模なエネルギー設備(DER: Distributed Energy Resources / 分散型エネルギーリソース)です。具体的には、
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太陽光発電設備
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蓄電池
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電気自動車(EV)
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コージェネレーションシステム(熱電併給)
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企業の自家発電機 など
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どうやって制御するのか?: これらのDERをインターネットで結び、アグリゲーターと呼ばれる事業者(VPP事業者)が、全体の状況を見ながら遠隔で一括制御します
。10 -
どんな機能を持つのか?: 例えば、電力需要がピークに達しそうな時に、アグリゲーターが各家庭の蓄電池から一斉に放電させたり、工場の自家発電機を稼働させたりすることで、電力不足を補います。逆に電気が余りそうな時には、EVに一斉に充電を開始させるなどして需要を創出します。これにより、あたかも一つの巨大な発電所が需要に応じて出力を調整しているかのような効果が得られるのです
。9
VPPのメリットは、大規模な発電所を新たに建設することなく調整力を確保できる点や、需要地に近い場所で需給調整を行うため送電ロスが少ない点、災害時にもエネルギー供給源が分散しているため強靭である点などが挙げられます
DR(デマンドレスポンス)とは?
DR(Demand Response)は、「需要応答」と訳されます。これは、電力の需給バランスを調整するために、発電側(供給)を調整するだけでなく、需要家(消費側)の電力使用パターンを変化させるアプローチです。
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上げDR: 電力供給が余っている時に、電気料金を安くするなどのインセンティブを与え、需要家(工場や家庭)に電力消費を促すこと。例えば、「昼間の電気料金が安いプラン」は、太陽光発電が豊富な昼間にEVの充電やエコキュートの稼働を促す「上げDR」の一種です。
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下げDR: 電力供給が逼迫している時に、節電に協力してくれた需要家に対価を支払うなどして、電力消費を抑制してもらうこと。夏の夕方のピーク時などに、工場に生産ラインの一部停止をお願いしたり、オフィスに空調の設定温度を上げるよう要請したりするのが「下げDR」です。
VPPは、このDRを実現するための強力なツールとなります。アグリゲーターがVPPを通じて多数のDERを制御することで、効果的な上げDRや下げDRを電力会社にサービスとして提供する。これが「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」と呼ばれる新しいビジネスモデルです
Q17: 再エネの導入は、日本の経済や雇用にどのような影響を与えますか?
A17: 再エネの導入拡大は、関連産業への投資を通じて新たな市場を創出し、建設、製造、メンテナンスなどの分野で多くの雇用を生み出す大きな経済的ポテンシャルを持っています。一方で、化石燃料産業からの円滑な労働移動など、公正な移行(Just Transition)への配慮も不可欠です。
世界で拡大するグリーン雇用
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)と国際労働機関(ILO)の共同報告書によると、世界の再エネ分野の雇用者数は年々増加しており、2022年には1,370万人に達しました。これは10年間でほぼ倍増したことになります
-
牽引役は太陽光発電: 最も多くの雇用を生み出しているのは太陽光発電で、2022年には約490万人の雇用を創出し、再エネ分野全体の3分の1以上を占めています
。36 -
アジアが中心: 雇用の約3分の2はアジアに集中しており、特に中国が世界全体の42%を占めるなど、大きな存在感を示しています
。35
この背景には、各国政府が気候変動対策とエネルギー安全保障の観点から、国内のサプライチェーン強化と雇用創出を目的とした産業政策を推進していることがあります
日本における経済効果と雇用創出の可能性
日本においても、再エネへの移行は大きな経済的チャンスとなり得ます。
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投資による経済波及効果: 政府は2050年カーボンニュートラル実現に向け、官民合わせて150兆円超のGX(グリーン・トランスフォーメーション)投資を掲げています。この巨額の投資は、再エネ設備の製造、建設、送電網の増強、蓄電池の導入といった分野に回り、関連産業の生産を拡大させ、経済全体にプラスの波及効果をもたらします。ある試算では、欧州のグリーンディール政策に関連する投資が、関連産業の生産拡大を通じて大きな雇用創出効果を持つことが示唆されています
。52 -
新たな雇用機会の創出:
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建設・工事: 洋上風力発電所の建設や、全国での太陽光パネル設置工事など、労働集約的な分野で多くの雇用が必要です。
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製造: 風車や次世代太陽電池(ペロブスカイトなど)の国内製造拠点が育てば、研究開発から製造ラインまで、質の高い雇用が生まれます。
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O&M(運用・保守): 発電所は20年以上にわたって稼働するため、その間の点検・修理といったメンテナンス業務で、長期にわたる安定した地域雇用が期待できます。
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化石燃料輸入額の削減: 日本は現在、年間20兆円以上の化石燃料を輸入しています。再エネの導入でこの輸入額を削減できれば、その分の資金を国内の投資や消費に回すことができ、国富の流出を防ぐ効果があります
。34
課題:「公正な移行(Just Transition)」
一方で、エネルギー転換は負の側面も持ちます。火力発電所の閉鎖や、ガソリン車の需要減少などにより、従来の化石燃料関連産業では雇用が失われる可能性があります。これらの労働者が、スキルを再習得(リスキリング)し、円滑に成長分野である再エネ産業などに移行できるよう支援する政策、すなわち「公正な移行(Just Transition)」が極めて重要になります。エネルギー転換を社会全体で成功させるためには、誰一人取り残さないという視点が不可欠です
Q18: 再エネの切り札「洋上風力発電」の現状と将来性を教えてください。
A18: 洋上風力発電は、大規模な電力供給が可能で、日本の再エネ主力電源化の「切り札」と位置づけられています。現在は導入黎明期ですが、政府は2040年までに最大45GWという野心的な目標を掲げており、特に日本の地理的条件に適した「浮体式」の技術開発とコスト低減が今後の鍵を握ります。
なぜ洋上風力は「切り札」なのか?
洋上風力発電には、陸上風力や太陽光にはない大きな利点があります。
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大規模・高効率な発電: 陸上よりも強く安定した風が吹くため、大型の風車を設置することで、一つの発電所で原子力発電所1基分に相当するような大規模な発電が可能です。設備利用率も高く、効率的に電力を生産できます。
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広大な設置ポテンシャル: 四方を海に囲まれた日本にとって、広大な排他的経済水域(EEZ)は未開拓のエネルギー資源です。土地の制約や、景観・騒音といった周辺住民との合意形成の問題も、陸上に比べて少ないという利点があります。
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大きな経済波及効果: 発電所の建設から運転・保守まで、事業規模が非常に大きく、部品点数も多いため、造船、鉄鋼、建設、金融など、裾野の広い産業への経済波及効果と雇用創出効果が期待されています
。12
「着床式」から「浮体式」へ
洋上風力には、風車の支持構造物によって2つのタイプがあります。
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着床式: 海底に基礎を直接固定するタイプ。比較的水深の浅い(~50m程度)海域に適しています。欧州では遠浅の北海を中心に導入が進み、コストも大幅に低下しています
。53 -
浮体式: 巨大な浮体構造物の上に風車を設置し、鎖などで海底に係留するタイプ。水深の深い海域にも設置できるため、大陸棚が狭く、急に深くなる日本の海域に適しています
。5
日本の洋上風力開発は、まず着床式から始まりましたが、今後の大規模導入の鍵を握るのは浮体式です。政府は、この浮体式の技術開発とコスト低減を国家戦略として強力に推進しています。
日本の導入目標と現在の取り組み
政府は「洋上風力産業ビジョン」の中で、以下の野心的な導入目標を掲げています
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2030年までに10GW
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2040年までに30GW~45GW(浮体式も含む)
この目標達成に向け、様々な取り組みが進められています。
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セントラル方式の導入: 国が主導して、有望な海域の風況・地盤調査や、系統確保の調整を行うことで、事業者の初期段階のリスクと時間を低減し、案件形成を加速させています
。12 -
浮体式の実証事業: グリーンイノベーション(GI)基金を活用し、浮体式の商用化に向けた大規模な実証事業が始まっています。2024年6月には、秋田県南部沖と愛知県田原市・豊橋市沖の2海域で、15MW超の超大型風車を用いた実証事業を行う事業者が選定されました
。54 -
コスト目標: 産業界は、着床式の発電コストを2030~2035年までに8~9円/kWhまで低減させる目標を掲げています
。浮体式についても、実証事業を通じてコスト低減を目指します。53
課題は、欧州に比べてまだ高いコスト、巨大な風車や浮体式構造物を製造・設置するための国内サプライチェーンの構築、そしてそれを支える港湾インフラの整備です。これらの課題を官民一体で克服し、洋上風力を日本の新たな基幹産業へと育て上げることができるか、日本のエネルギーの未来を占う上で極めて重要な挑戦となります。
Q19: 原発と再エネは、どちらが安くて、どちらを優先すべきですか?
A19: コスト比較は前提条件によって大きく変動し、単純な優劣はつけられません。政府のエネルギー政策は、どちらか一方を優先するのではなく、再エネの最大限の導入を基本としつつ、安全性が確認された原子力を「脱炭素のベースロード電源」として活用する、両者を組み合わせた現実的なアプローチを目指しています。
発電コストの複雑な比較
「原発と再エネ、どちらが安いか」という問いへの答えは、非常に複雑です。発電コスト(LCOE)は、建設費や燃料費だけでなく、安全対策費、事故リスク対応費用、放射性廃棄物の処理費用(バックエンド費用)、そして再エネの場合は変動性を補うための系統安定化費用(統合コスト)など、どこまでをコストに含めるかによって大きく変わるためです。
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資源エネルギー庁の試算(2024年)では、2023年時点のLCOEは、原子力(安全対策費込み)が12.9円/kWh以上、事業用太陽光が10.9円/kWh、陸上風力が16.3円/kWhとなっています
。この数字だけ見れば、太陽光が最も安いように見えます。24 -
しかし、この試算には、再エネの不安定さを補うための蓄電池や調整力火力のコスト(統合コスト)は完全には含まれていません。また、原子力のコストは、今後の安全対策費の増大やバックエンド費用の見積もりによって、さらに上昇する可能性があります。
「原発再稼働の安全対策費を再エネに回せば、もっと導入が進むのでは?」という意見もあります
政策における位置づけ:「優先順位」ではなく「役割分担」
現在の日本のエネルギー政策(第6次エネルギー基本計画)は、両者を二者択一の競争相手としてではなく、それぞれの特性を活かして役割分担する、という考え方に立っています
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再生可能エネルギー:
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位置づけ: 主力電源化を徹底し、最優先の原則で最大限の導入を目指す。
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役割: CO2を排出しないクリーンなエネルギー源として、脱炭素化の主役を担う。
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課題: 国民負担の抑制、地域との共生、そして変動性に対応するための系統安定化が課題。
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原子力発電:
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位置づけ: 実用段階にある重要なベースロード電源(安定して24時間稼働できる電源)であり、脱炭素化の選択肢の一つ。
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役割: 天候に左右されず安定的に大量の電力を供給できるため、エネルギー安全保障と電力システムの安定化に貢献する。
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課題: 福島第一原発事故の教訓を踏まえた安全性の確保が絶対的な大前提。国民・立地地域の信頼回復、バックエンド問題の解決に向けた道筋の明確化が不可欠。
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政府は、安全審査に合格した既存原発の再稼働を進めるとともに、運転期間の延長や、次世代革新炉の開発・建設にも取り組む方針を示しています
結局のところ、エネルギー政策は、安全性(Safety)、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)という4つの価値(S+3E)を同時に達成するという、極めて難しいバランスの上に成り立っています
Q20: 再エネのライフサイクル全体で見たCO2排出量は、本当に少ないのですか?
A20: はい、発電時にCO2を排出しないだけでなく、設備の製造から廃棄までのライフサイクル全体で評価しても、再エネのCO2排出量は火力発電に比べて圧倒的に少ないです。
ライフサイクルアセスメント(LCA)という考え方
ある製品やサービスが環境に与える影響を評価する際には、使用時だけでなく、原料の採掘、製造、輸送、使用、そして廃棄・リサイクルに至るまでの全段階(ライフサイクル)を総合的に評価する「ライフサイクルアセスメント(LCA)」という手法が用いられます。
再エネ発電も、発電時(使用時)にはCO2を排出しませんが、太陽光パネルや風車を製造する工場では電力を消費し、建設現場では重機が燃料を燃やすため、ライフサイクル全体で見れば一定量のCO2を排出します。この排出量を、その発電設備が生涯にわたって発電する総電力量で割った値(g-CO2/kWh)を比較することで、真の環境性能を評価できます。
発電方法別のライフサイクルCO2排出量
環境省や電力中央研究所などの複数の調査機関が、日本の条件下でのライフサイクルCO2排出量を評価しています。値は前提条件により多少異なりますが、傾向は明確です。
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火力発電:
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LNG火力: 約430 g-CO2/kWh
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石油火力: 約738 g-CO2/kWh
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石炭火力: 約900~1000 g-CO2/kWh
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排出量の大部分(90%以上)は、燃料の燃焼による発電時の直接排出です
。56
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再生可能エネルギー・原子力:
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原子力: 約20~25 g-CO2/kWh(ウラン燃料の濃縮工程で多くの電力を消費するため)
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地熱: 約15 g-CO2/kWh
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水力(ダム式): 約11 g-CO2/kWh
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陸上風力: 約28 g-CO2/kWh
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事業用太陽光: 約59 g-CO2/kWh
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これらの電源では、排出量の多くが設備の建設・製造段階で発生します。例えば、太陽光ではパネル製造時、風力や水力では鉄やコンクリートといった資材の製造・建設時にCO2が排出されます
。56
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この比較から明らかなように、再エネのライフサイクルCO2排出量は、火力発電の10分の1から数十分の1以下であり、地球温暖化対策として極めて有効であることがわかります。
将来的なさらなる削減ポテンシャル
再エネのライフサイクルCO2排出量は、今後さらに削減される可能性があります。
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技術革新と効率向上: 太陽光パネルの発電効率が向上すれば、同じ量の電気を作るのに必要なパネルの枚数が減り、製造時のCO2排出量も削減されます。
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リサイクルの推進: 使用済みの太陽光パネルをリサイクルし、その材料で新しいパネルを製造すれば、新たに原料を採掘・精製する必要がなくなり、CO2排出量を20%~40%近く削減できるという評価もあります
。56 -
製造工程の脱炭素化: パネルや風車を製造する工場で使われる電力が、化石燃料由来から再エネ由来に切り替わっていけば、製造時のCO2排出量も大幅に削減されます。
このように、再エネはそれ自体がクリーンであるだけでなく、社会全体の脱炭素化が進むにつれて、その「クリーン度」がさらに高まっていくという好循環を生み出すポテンシャルも秘めているのです。
第3部:未来を拓くイノベーションと世界の視点
Q21: 日本発の次世代技術「ペロブスカイト太陽電池」はいつ実用化されますか?
A21: 2025年頃から一部で商用化が始まり、本格的な普及は2030年以降と見込まれています。この日本発の革新技術は、従来の太陽電池の弱点を克服し、日本の再エネ導入ポテンシャルを飛躍的に拡大する「ゲームチェンジャー」として大きな期待が寄せられています。
ペロブスカイト太陽電池とは?
ペロブスカイト太陽電池は、桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が2009年に発明した、日本発の次世代太陽電池です。「ペロブスカイト」という特殊な結晶構造を持つ材料をインクのように基板に塗って作ることができます。この製法により、従来のシリコン系太陽電池にはない、以下のような画期的な特徴が生まれます
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薄い・軽い: ガラス基板だけでなく、薄いフィルム上にも製造できるため、シリコン系に比べて厚さは100分の1、重さは10分の1程度にできます。
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曲げられる(フレキシブル): フィルム状にできるため、曲面にも貼り付け可能です。
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弱い光でも発電: 曇りの日や、室内のような弱い光でも比較的高い効率で発電できます
。16 -
低コスト製造の可能性: 印刷技術を応用できるため、大規模な設備が不要で、将来的には低コストでの量産が期待されています。
実用化の見通しと先行事例
この革新技術の実用化に向け、世界中で開発競争が激化していますが、日本企業も先行しています。
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商用化の時期: 積水化学工業や東芝などの企業が、2025年頃の事業化・商用化を目指して開発を進めています
。当初は限定的な生産から始まり、街中で広く見かけるような16 本格的な普及には2030年以降、10年程度の期間が必要との見方もあります
。16 -
先行事例:
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JR西日本 うめきた(大阪)駅: 2025年開業予定の駅の広場に、積水化学製のフィルム型ペロブスカイト太陽電池が設置され、実証実験が行われています
。60 -
東京都庁: リコーが開発した製品が都庁の展望室などに設置され、実装検証が進められています
。60 -
メガソーラー高層ビル: 東京都心で計画中の再開発ビルでは、壁面にペロブスカイト太陽電池を設置し、世界初のメガソーラー級(1MW超)の発電機能を持つ高層ビルとなる予定です
。16
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日本の「弱み」を「強み」に変えるポテンシャル
ペロブスカイト太陽電池は、日本のエネルギーにおける積年の課題を解決する可能性を秘めています。日本の弱みは「平地が少なく、太陽光発電の適地が限られる」ことでした
ビルの壁面、耐荷重の低い工場の屋根、湾曲した建造物、さらには自動車のボディやテント、衣類など、都市のあらゆる空間を「発電所」に変えることができます
これは、国土の狭い日本にとってまさに福音であり、電力需要の大きい都市部で発電する「エネルギーの地産地消」を促進し、送電ロスや系統への負担を軽減する効果も期待できます
克服すべき課題と国際競争
実用化にはまだ課題も残っています。
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耐久性: シリコン系(20年以上)に比べて寿命が短い(当初5~10年)ことが最大の課題でしたが、積水化学が10年相当の耐久性を実現するなど、封止技術の改良で克服されつつあります
。15 -
有害物質(鉛): 主な材料に微量の鉛が含まれるため、環境への影響が懸念されています。鉛を使わない材料の研究も進んでいますが、発電効率との両立が課題です
。15 -
大面積化: 面積を大きくすると性能が不安定になる問題がありましたが、東芝やパナソニックが実用サイズで高い変換効率を達成するなど、技術開発は着実に進んでいます
。16
かつてシリコン太陽電池で世界シェアの半分を占めながら、その地位を失った日本の製造業にとって、この日本発技術で再びグローバル市場の主導権を握れるかは、単なるエネルギー技術の問題ではなく、日本の産業競争力の未来を左右する重要なテーマです。政府もグリーンイノベーション基金などで国内サプライチェーンの構築を強力に支援しています
Q22: 風力発電の最新技術には、どのようなものがありますか?
A22: 風力発電の最新技術は、より多くの風を捉えるための「風車の大型化」と、信頼性を高めメンテナンスコストを削減するための「ギアレス(ダイレクトドライブ)化」という2つの大きな潮流に集約されます。
1. 風車の大型化・高効率化
風力発電の発電量は、風車のブレード(羽根)が回転する面積(受風面積)に比例します。つまり、ブレードを長くし、風車を大きくすればするほど、より多くの風を捉えて効率的に発電できるようになります。
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陸上風力: かつては数百kW級が主流でしたが、現在では1基あたり3,000kW(3MW)~5,000kW(5MW)級の大型風車が一般的になっています。
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洋上風力: 陸上よりもさらに大型化が進んでおり、現在開発されているモデルでは、1基で14MW~18MWクラスという、かつては考えられなかったほどの超大型風車が登場しています
。これらの風車のブレードの長さは100メートルを超え、回転時の直径(ローター径)は240メートルにも達します。これは東京タワーの先端部が回転するのに匹敵するスケールです。63
この大型化により、発電コストの大幅な低減が可能となり、特に洋上風力の主力電源化を後押ししています。
2. ギアレス(ダイレクトドライブ)技術
従来の風車の多くは、ブレードのゆっくりとした回転を、歯車を組み合わせた「増速機(ギアボックス)」を使って高速回転に変換し、発電機を回していました。しかし、この増速機は多くの可動部品からなる複雑な機械であり、故障のリスクが高く、定期的なメンテナンスが不可欠でした。特に、アクセスが困難な洋上風力発電所では、メンテナンスコストが事業性を左右する大きな課題となります。
そこで主流となりつつあるのが、「ギアレス(ダイレクトドライブ)技術」です
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仕組み: 増速機をなくし、ブレードの回転軸に直接、多極の大型発電機を接続する方式です。ブレードのゆっくりとした回転をそのまま電気に変換します
。64 -
メリット:
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高い信頼性: 故障の原因となりやすい増速機がないため、システムの信頼性が格段に向上します。
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メンテナンスコストの削減: 部品点数が少なく、定期的なメンテナンスの頻度やコストを大幅に削減できます。
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高い効率: 増速機でのエネルギー伝達ロスがないため、発電効率も向上します。
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静粛性: ギアの噛み合う音がないため、騒音も低減されます。
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このギアレス技術は、高い信頼性と低メンテナンス性が求められる洋上風力で特に急速に普及しており、シーメンス・ガメサ社やGE社といった世界の主要メーカーが開発する最新の大型モデルの多くがこの方式を採用しています
これらの技術革新により、風力発電はますます信頼性が高く、コスト競争力のある電源へと進化を続けています。
Q23: 農業と発電を両立する「ソーラーシェアリング」の現状と課題は何ですか?
A23: ソーラーシェアリングは、農業の担い手不足や耕作放棄地といった課題を解決し、地方創生にも貢献する有望な取り組みです。しかし、高額な初期費用や融資の受けにくさ、地域ごとの規制の違いといった課題があり、本格的な普及には制度的な支援の強化が不可欠です。
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とは?
ソーラーシェアリングとは、農地の上部空間に支柱を立てて太陽光パネルを設置し、その下で農業を継続する仕組みです。「営農型太陽光発電」とも呼ばれます
この取り組みには、以下のような大きなメリットがあります。
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農業収入の安定化: 農作物の収穫による収入に加えて、発電した電気を販売することによる「売電収入」という、天候不順などに左右されない安定した収入源を確保できます。これにより、農業経営のリスクを分散し、農家の経営基盤を強化できます
。66 -
耕作放棄地の再生: 農業の後継者不足などにより増加している耕作放棄地を、ソーラーシェアリングによって再生し、再び農地として活用するきっかけになります。
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地域エネルギーの創出: 地域にある農地でエネルギーを生み出す「エネルギーの地産地消」を実現し、地域の脱炭素化に貢献します。
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作物への好影響も: パネルが適度に日差しを遮ることで、夏場の強い日差しによる作物の「葉焼け」を防いだり、土壌の乾燥を緩和したりする効果が報告されているケースもあります
。67
自然エネルギー財団の報告書では、千葉県匝瑳市をはじめ、北海道から沖縄まで全国各地で、地域の特性に合わせた多様な作物を栽培する先進的な事例が紹介されており、農業再生と地方創生に貢献する有効な手段として提言されています
普及に向けた3つの大きな課題
多くのメリットがある一方で、ソーラーシェアリングの普及にはいくつかの課題が存在します。
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高額な初期投資と資金調達の難しさ:
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農作業の邪魔にならないよう、支柱を高くしたり、間隔を広くしたりする必要があるため、通常の地上設置型太陽光発電に比べて、架台などの建設コストが20~30%程度高額になります
。50kW規模で1,000~2,000万円程度の初期投資が必要です67 。68 -
これに加え、ソーラーシェアリングは金融機関からの融資が降りにくいという大きな問題を抱えています
。その理由は、農地を農業以外の目的で利用するための「一時転用許可」が、原則として3年ごとに更新が必要なためです。金融機関から見ると、3年後に事業が継続できなくなるリスクがあると判断され、長期の融資をためらう傾向があるのです。68
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継続的な営農の義務:
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ソーラーシェアリングは、あくまで農業の継続が前提です。一時転用許可を更新するためには、パネル下の農地での収穫量が、同じ地域の平均的な収穫量の8割以上を維持していることなどを毎年報告する必要があります
。発電事業に気を取られて農業がおろそかになると、事業自体が続けられなくなるリスクがあります。69
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制度運用とノウハウ共有の課題:
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一時転用許可の審査基準や運用が、自治体によって異なり、地域差があることが普及の障壁となっています
。14 -
どのような作物が適しているか、どのようなパネル配置が最適かといった実証データやノウハウが、事業者間で十分に共有されておらず、新規参入者が手探りで始めなければならない状況があります
。14
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これらの課題を解決するためには、融資制度の改善や、一時転用許可期間の延長といった国の推進策の強化、そして成功事例や栽培ノウハウを共有するプラットフォームの構築などが求められています。
Q24: 再エネの電気だけを買うことはできますか?
A24: はい、できます。多くの電力会社が、再エネ由来の電気だけを供給する料金プランを提供しています。また、企業や自治体向けには、より多様な調達方法があります。
個人や企業が、自ら発電設備を持たなくても、使用する電力を再エネ由来のものに切り替えることは、脱炭素社会に貢献する重要なアクションです。そのための方法はいくつかあります。
1. 個人(家庭)向けの選択肢
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再エネ電力プランへの切り替え:
電力自由化により、私たちは自由に電力会社や料金プランを選べるようになりました。現在、大手電力会社から新電力まで、多くの事業者が「再エネ100%プラン」や「実質再エネプラン」といったメニューを提供しています。
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再エネ100%プラン: 発電方法を再エネに限定した電気を供給するプランです。
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実質再エネプラン: 火力発電なども含んだ通常の電気に、「非化石証書」という「環境価値」を組み合わせることで、実質的にCO2排出量ゼロとみなすプランです。
これらのプランは、通常のプランに比べて電気料金が割高になる場合がありますが、電力会社を切り替えるだけで、手軽に環境貢献ができます。環境省のポータルサイト「再エネ スタート」などで、各社のプランを比較検討できます 72。
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2. 企業や自治体向けの多様な選択肢
企業や自治体は、RE100(事業活動で消費する電力を100%再エネで賄うことを目指す国際イニシアチブ)などの目標達成のため、より多様な方法で再エネ電力を調達しています。
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再エネ電力プランの契約: 個人向けと同様に、小売電気事業者から再エネメニューを購入する最も手軽な方法です。
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電力購入契約(PPA: Power Purchase Agreement):
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オンサイトPPA: PPA事業者が、企業の敷地(屋根など)に太陽光発電設備を無償で設置・所有し、発電した電気をその企業に販売するモデル。企業は初期投資ゼロで再エネを導入できます。
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オフサイトPPA: 遠隔地にある再エネ発電所と長期の電力購入契約を結び、送電網を通じて電気の供給を受けるモデル。大規模な電力を安定的に確保したい場合に適しています。
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自己託送: 自社で遠隔地に発電所を所有し、発電した電気を送電網を使って自社の工場やオフィスに送る方法です。
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証書の購入: 「グリーン電力証書」や「J-クレジット」、「非化石証書」といった、再エネの「環境価値」を証書化したものを購入し、自社が使用した電力と組み合わせることで、再エネを利用したとみなす方法です。
これらの多様な選択肢の中から、自社の状況や目的に合わせて最適な方法を選ぶことが重要です。自然エネルギー財団などが、企業や自治体向けに具体的な調達方法を解説した「
Q25: 再エネを導入すると、災害に強くなるというのは本当ですか?
A25: はい、本当です。特に、太陽光発電と蓄電池を組み合わせた「分散型電源」は、大規模災害で電力網が停止(停電)した際にも、自立して電気を確保できるため、個人の生活維持や地域の防災拠点機能の強化に大きく貢献します。
集中型電源システムの脆弱性
日本の従来の電力システムは、大規模な火力発電所や原子力発電所で発電し、それを広域の送電網で需要地に送る「集中型電源システム」でした。このシステムは効率的ですが、大規模な自然災害(地震、台風など)によって発電所や送電網がダメージを受けると、広範囲で長期間の停電が発生するという脆弱性を抱えています
分散型電源としての再エネの強み
これに対し、再エネ、特に太陽光発電は、需要地の近くに小規模な電源が多数存在する「分散型電源」としての側面を持ちます。この分散型電源は、災害時に大きな強みを発揮します
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個人のレジリエンス(強靭性)向上:
自宅の屋根に太陽光パネルと家庭用蓄電池を設置している場合、電力会社からの電気が止まっても、日中に太陽光で発電した電気を蓄電池に貯めておくことで、夜間でも照明やスマートフォンの充電、最低限の家電製品などを使用し続けることができます 23。災害時の情報収集や家族の安全確保において、電気が使えるか否かは死活問題であり、個人の生活を守る上で非常に有効です。
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地域の防災拠点機能の維持:
学校や公民館といった地域の避難所に太陽光発電と蓄電池が導入されていれば、停電時にも照明や通信機器、医療機器などへの電力供給を維持できます。これにより、避難所の運営を支え、地域の防災拠点としての機能を強化することができます。
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システム全体の強靭性向上:
VPP(仮想発電所)の技術(Q16参照)が進展すれば、災害時に被災を免れた地域の多数の太陽光発電や蓄電池、EVなどを束ねて、被災エリアの重要施設(病院など)に電力を融通するといった、より高度なレジリエンスの確保も可能になると期待されています 10。
もちろん、太陽光パネル自体が台風で破損したり、豪雨で浸水したりするリスクはありますが、エネルギー源が地理的に分散しているため、集中型システムのように一つの拠点の被災がシステム全体のダウンに繋がるリスクは低減されます。日本のように自然災害が多い国にとって、再エネの導入は、脱炭素化だけでなく、社会全体の防災力とレジリエンスを高める上でも重要な意味を持っているのです。
Q26: 日本のエネルギー自給率はどのくらいですか?再エネは自給率向上にどう貢献しますか?
A26: 2022年度の日本の一次エネルギー自給率は12.6%と、OECD諸国の中でも極めて低い水準です。これはエネルギーのほとんどを海外からの輸入に頼っていることを意味します。国内で生産できる再エネは、この脆弱なエネルギー構造を改善し、自給率を向上させるための最も有力な手段です。
危機的な日本のエネルギー自給率
エネルギー自給率とは、国が必要とする一次エネルギー(石油、石炭、天然ガス、原子力、再エネなど、加工される前のエネルギー)のうち、どれだけを国内で生産・確保できているかを示す指標です。
-
日本の現状: 経済産業省の発表によると、2022年度の日本のエネルギー自給率は12.6%(原子力を国産エネルギーとして計算に含めた場合)です
。これは、エネルギーの約9割を海外からの輸入に依存していることを意味します。この数値は、OECD加盟38カ国の中でも37位と、極めて低い水準です22 。4 -
輸入依存のリスク: エネルギーの大部分を輸入に頼る構造は、深刻なリスクをはらんでいます。
-
地政学リスク: 石油の90%以上を中東に、石炭・天然ガスの70%以上をアジア・オセアニアに依存しており
、産出地域の政情不安や紛争が起これば、エネルギーの安定供給が直接脅かされます。4 -
価格変動リスク: ウクライナ危機後のように、国際的な需給の逼迫は化石燃料価格の高騰を招き、日本の電気料金や物価の上昇、貿易赤字の拡大に直結します
。33
-
再エネが自給率向上の切り札である理由
この脆弱な状況を打開する上で、再エネは決定的に重要な役割を果たします。なぜなら、太陽光、風力、水力、地熱といった再エネは、すべて**日本国内に存在する「国産エネルギー」**だからです
-
燃料輸入が不要: 再エネは、自然の力を利用するため、化石燃料のように海外から燃料を買い続ける必要がありません。一度設備を建設すれば、燃料費ゼロでエネルギーを生み出し続けます
。6 -
国富の流出を抑制: 現在、化石燃料の輸入のために、年間数十兆円もの国富が海外に流出しています。再エネを増やすことでこの流出を抑制し、その資金を国内の経済成長のために使うことができます
。34 -
エネルギー安全保障の強化: 海外情勢に左右されない国産エネルギー源を確保することは、日本のエネルギー安全保障を根本から強化することに繋がります
。34
政府のエネルギー基本計画でも、再エネの最大限の導入は、脱炭素化と並んで、エネルギー自給率の向上という安全保障上の観点から、最重要課題の一つとして位置づけられています
Q27: 企業が再エネを導入するメリットは何ですか?CSRやESG投資とどう関係しますか?
A27: 企業が再エネを導入するメリットは、単なる環境貢献(CSR)に留まりません。エネルギーコストの削減・安定化、企業価値の向上による資金調達の有利化(ESG投資)、そして新たなビジネス機会の創出といった、経営戦略そのものに直結する多岐にわたる利点があります。
かつて、企業の環境への取り組みは、企業の社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)の一環として、コストをかけて行う慈善活動のような側面がありました。しかし現在、再エネの導入は、企業の持続的な成長に不可欠な「経営課題」として認識されています。
企業にとっての再エネ導入の4大メリット
-
エネルギーコストの削減と安定化:
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コスト削減: 自社の屋根などに太陽光発電を設置(オンサイトPPAなど)すれば、電力会社から買う電気の量を減らし、電気料金を削減できます。
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コスト安定化: 化石燃料価格の変動や再エネ賦課金の上昇といった、将来の電気料金の値上がりリスクを回避できます。再エネの発電コストは燃料費がかからないため、長期的に安定しています。これにより、事業計画におけるコストの予見性が高まります
。7
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企業価値の向上とESG投資の呼び込み:
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ESG投資とは: 近年、投資家が企業を評価する際に、従来の財務情報だけでなく、**環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)**への取り組みを重視する「ESG投資」が世界の潮流となっています
。7 -
再エネ導入の効果: 再エネの導入は、ESGの「E(環境)」に対する最も分かりやすく、評価されやすい取り組みです。脱炭素経営に積極的に取り組む姿勢を示すことで、ESGを重視する投資家からの評価が高まり、資金調達が有利になったり、株価が向上したりする効果が期待できます。サプライチェーン全体での脱炭素化を求めるAppleやGoogleのようなグローバル企業との取引においても、再エネの利用は必須条件となりつつあります。
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ブランドイメージの向上と人材獲得:
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環境問題への意識が高い消費者や顧客からの支持を得やすくなり、製品やサービスのブランドイメージが向上します。
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また、持続可能な社会への貢献を重視する優秀な人材、特に若い世代にとって、企業の環境への姿勢は就職先を選ぶ際の重要な判断基準となっており、人材獲得競争においても有利に働きます。
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事業継続計画(BCP)の強化:
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太陽光発電と蓄電池を導入しておくことで、災害による停電時にも事業活動を継続するための非常用電源を確保できます。これにより、事業のレジリエンス(強靭性)が高まります
。18
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このように、再エネの導入は、コスト削減、資金調達、ブランディング、リスク管理といった、企業経営のあらゆる側面にプラスの影響をもたらす戦略的な一手となっているのです。
Q28: IEA(国際エネルギー機関)の最新レポートから、日本が学ぶべきことは何ですか?
A28: IEAの最新レポートは、世界のエネルギー転換が「後戻りできない歴史的なペースで加速している」という厳然たる事実を突きつけています。この潮流から取り残されれば、日本の産業競争力とエネルギー安全保障が深刻な危機に瀕するという「警告」と、化石燃料依存から脱却する「好機」の両面を、日本は真摯に受け止める必要があります。
IEA(国際エネルギー機関)は、世界のエネルギー動向に関する最も権威ある分析機関であり、その年次報告書「世界エネルギー見通し(World Energy Outlook)」や「Renewables」は、各国のエネルギー政策の羅針盤とされています。2024年に発表された最新レポート群が示すキーメッセージと、日本への示唆は以下の通りです。
IEAが示す世界のエネルギー潮流
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再エネ導入は歴史的ペースで加速: 世界の再エネ設備容量は、2023年に過去最高の560GWが追加され、驚異的なペースで拡大しています
。IEAの予測では、現在の政策のままでも、2030年までに世界の再エネ容量は2.7倍に達し、COP28で合意された「3倍」目標に肉薄する勢いです76 。39 -
主役は「中国と太陽光」: この急拡大を牽引しているのが、中国と太陽光発電です。中国は、世界の新規導入量の約60%を占める圧倒的なリーダーであり、その巨大な製造能力によって太陽光パネルの価格は世界的に記録的な低水準となっています
。39 -
すべての化石燃料需要が2030年までにピークアウト: 再エネとEVの普及により、世界の石炭、石油、天然ガス(LNG)の需要は、すべて2030年を迎える前にピークに達するという歴史的な転換点が予測されています
。76 -
最大の課題は「送電網(グリッド)と投資の偏り」: 再エネの導入スピードに、送電網の増強や蓄電池への投資が追いついていません。また、クリーンエネルギーへの投資が先進国に偏り、途上国では資金調達コストの高さが導入の障壁となっています
。77
日本への3つの重い示唆
この世界の潮流は、日本にとって以下の3つの重要な示唆を与えています。
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「現状維持」は「衰退」を意味する: 世界が再エネを軸とした新しいエネルギーシステムと産業構造へ猛スピードで移行する中、日本が変化のペースに乗り遅れることは、エネルギーコスト、技術標準、金融(ESG投資)などあらゆる面で不利になることを意味します。もはや「様子見」や「漸進主義」は許されず、大胆な政策転換がなければ、国際的な産業競争から「取り残される」という厳しい現実を直視しなければなりません。
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コスト構造改革は待ったなし: 世界的な太陽光パネル価格の低下という絶好の「追い風」を、日本の高コストな工事費や複雑な規制といった「国内の足かせ」が相殺しています(Q11参照)。この恩恵を最大限に活かすため、国内の非効率な構造を改革することは、もはや環境問題ではなく、経済問題として緊急の課題です。
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エネルギー安全保障の再定義: IEAのレポートは、もはや「化石燃料を安定的に確保すること」だけがエネルギー安全保障ではないことを示しています。価格変動の激しい化石燃料への依存を続けること自体がリスクであり、「クリーンエネルギーを国内で生み出す能力」こそが、新しい時代のエネルギー安全保障であるという、発想の転換が求められています。化石燃料需要のピークアウトは、エネルギー自給率が極端に低い日本にとって、輸入依存から脱却する最大の好機なのです
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IEAのデータは、再エネへの大胆なシフトが、環境だけでなく、経済合理性とエネルギー安全保障の観点からも不可欠であることを客観的に示しています。日本の政策決定の遅れは、もはや国益を損なうリスクをはらんでいるのです。
Q29: 再エネと自然保護は両立しますか?
A29: 両立は可能であり、また両立させなければなりません。再エネは気候変動という最大の自然破壊を防ぐための手段ですが、その導入プロセスが地域の自然環境を損なっては本末転倒です。重要なのは、開発ありきではなく、科学的評価に基づき「守るべき自然」を明確にし、それを避けて開発を行う「賢明な配置(スマートシッティング)」です。
再エネ開発と自然保護は、時として緊張関係に陥ります。Q8で述べたメガソーラーによる森林伐採や、Q9のバードストライク問題、Q18の洋上風力が海洋生態系に与える影響、Q6の地熱開発が国立公園や温泉地の景観に与える影響などがその例です。
しかし、これらの問題は「再エネか、自然か」という二者択一で語られるべきではありません。気候変動がこのまま進行すれば、生態系の破壊、生物多様性の損失、自然災害の激甚化など、地球規模で取り返しのつかない自然破壊がもたらされます。その最大の原因である温室効果ガスの排出を抑制するために、再エネの導入は不可欠な手段です。
問題の本質は、**「どこに、どのようにして導入するか」**というプロセスにあります。持続可能な形で再エネを導入し、自然保護と両立させるためには、以下の原則が重要です。
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ゾーニング(土地利用の計画的区分):
開発に着手する前に、科学的なデータに基づいて、生態学的に重要なエリア、災害リスクの高いエリア、優れた景観を持つエリアなどを「保全ゾーン」として明確に指定します。そして、再エネ開発はそれ以外の、環境への影響が比較的小さい「促進ゾーン」に誘導します。このような計画的な土地利用の仕組み(ゾーニング)を法制度として確立し、無秩序な開発を防ぐことが最も重要です 17。
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環境アセスメントの徹底:
個別の事業計画においては、環境影響評価(環境アセスメント)を厳格に行い、専門家や地域住民の意見を十分に反映させることが不可欠です。事業者は、環境への影響を回避・低減するための最善の策を講じる義務を負います。
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既存の人工空間の最大限の活用:
Q3で詳述したように、まずは森林などの自然空間ではなく、建物の屋根や壁、駐車場、耕作放棄地、道路の上部空間といった、すでに人間の手が加わっている場所(ブラウンフィールド)を最大限に活用すべきです。技術革新(特にペロブスカイト太陽電池)は、この可能性を大きく広げます。
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地域との合意形成と利益共有:
開発プロセスを透明化し、計画の初期段階から地域住民や関係者との対話を重ね、合意形成を図ることが重要です。さらに、発電事業の利益の一部を地域に還元する仕組み(例えば、地域の基金を設立したり、地元企業がメンテナンスを請け負ったりする)を構築することで、再エネが地域にとって「迷惑施設」ではなく「恵み」となり、自律的な導入が進む好循環が生まれます 17。
WWFなどの環境保護団体も、再エネの無条件な反対ではなく、こうした「自然と共生する形での導入」を強く求めています
Q30: 日本のエネルギー政策は、今後どうなりますか?
A30: 現在、政府は2030年以降を見据えた次期「エネルギー基本計画」の策定作業を進めており、2025年中にもその方向性が示される見込みです。論点は、再エネの導入目標のさらなる引き上げ、原子力の具体的な役割、そして脱炭素化された火力発電の位置づけという、エネルギーの未来を左右する根源的なテーマに集約されます。
日本のエネルギー政策の根幹をなすのが、数年ごとに改定される「エネルギー基本計画」です。現行の第6次計画(2021年閣議決定)は、2030年度のエネルギーミックス(電源構成)の目標値を示したものですが、現在はその次、第7次計画の策定に向けた議論が本格化しています
次期エネルギー基本計画の3大論点
専門家の間での議論や政府の審議会での動向から、次期計画における主要な論点は以下の3つに整理できます
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再生可能エネルギー:導入目標のさらなる引き上げと課題解決
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論点: 現行の「2030年度に36~38%」という目標を、さらに高い水準に引き上げるかどうかが最大の焦点です。世界の潮流や国内のポテンシャルを踏まえ、より野心的な目標設定を求める声がある一方、コスト負担の増大や系統制約といった課題の解決が先決という慎重な意見もあります。
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方向性: 目標引き上げの是非と同時に、洋上風力や次世代太陽電池といった特定の電源を重点的に推進する戦略や、系統増強、地域共生を具体的にどう進めるか、より踏み込んだ政策が盛り込まれる見込みです。
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原子力発電:具体的な役割とバックエンド問題
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論点: 「安全神話」の崩壊後、原子力をエネルギー源としてどの程度、どのように活用していくのか。既存原発の再稼働や運転期間延長に加え、次世代革新炉の開発・建設を具体的にどう進めるかが問われます。
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方向性: 政府はGX推進戦略の中で、原子力の持続的な活用方針を明確にしています
。次期計画では、その方針をより具体化し、国民の信頼をいかに再構築するか、そして最大の課題である高レベル放射性廃棄物の最終処分(バックエンド問題)への道筋をどう示すかが焦点となります。26
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火力発電:脱炭素化への道筋
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論点: 再エネの変動性を補う調整力として、当面は不可欠な火力発電を、いかにして脱炭素化していくか。燃料を水素やアンモニアに転換する技術や、排出されたCO2を回収・貯留・利用する「CCUS」技術の社会実装に向けた具体的なロードマップが求められます。
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方向性: これらの次世代技術はまだコストが高く、実用化には課題も多いのが実情です。化石燃料への依存をどの程度のスピードで、どのような技術で低減していくのか、その現実的なシナリオが示されることになります。
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結論として
次期エネルギー基本計画は、2050年カーボンニュートラルという壮大な目標と、足元のエネルギー危機という厳しい現実との間で、極めて難しい舵取りを迫られます。確実なのは、再エネが日本のエネルギー供給の中心的な役割を担っていくという大きな方向性は変わらないということです。その導入スピード、他の電源との最適な組み合わせ(エネルギーミックス)、そしてそれを支える社会システムの変革。これらの具体的な設計図が、日本の未来の豊かさと安全を大きく左右することになります。私たち国民一人ひとりも、この重要な議論の動向を注視し、自らの問題として考えていくことが求められています。
結論:日本のエネルギーの未来を共に創るために
本稿では、再生可能エネルギーに関する30の最重要質問を通じて、日本のエネルギーが直面する複雑な現実と未来への選択肢を解き明かしてきました。最後に、そこから浮かび上がる本質的な結論を再確認し、私たちが進むべき道のりを展望します。
第一に、日本の再エネ導入を阻む根本的な課題は、技術や資源の不足ではなく、コスト、系統、規制といった「社会システム」の側に根深く存在しているという事実です。世界的な技術革新によるコスト低下という追い風を、日本の特異な地理的条件や、長年続いてきた規制・商習慣が相殺してしまっている。この構造的な問題を解決しない限り、再エネは「高くて使いにくい電源」という足かせから逃れることはできません。
第二に、日本のエネルギー政策は、FIT制度による「量の拡大」フェーズを終え、FIP制度や入札制を通じて**「質の向上と市場統合」を目指す新しいフェーズ**へと明確に移行しています。しかし、その変革のスピードは、世界の再エネ導入の歴史的な加速には追いついていません。「現状維持」は、国際的な産業競争力とエネルギー安全保障における「相対的な後退」を意味するという厳しい現実を直視する必要があります。
第三に、暗い現実ばかりではありません。ペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力発電といった革新的な技術は、日本の「弱み(国土の狭さ、遠浅の海の少なさ)」を「強み」に変える大きなポテンシャルを秘めた希望の光です。これらの日本が得意とする可能性のある技術を、いかに社会実装し、国際競争を勝ち抜くか。それは、単なるエネルギー問題に留まらず、日本の製造業と経済の未来を左右する国家的な挑戦です。
これらの課題を乗り越え、持続可能で強靭なエネルギー社会を築くためには、特定の誰かの努力だけでは不十分です。政府には、長期的な視点に立った揺るぎない国家戦略と、規制改革を断行する強力なリーダーシップが求められます。産業界には、短期的な利益追求に留まらない、未来への果敢な投資と技術革新が期待されます。
そして何よりも、私たち国民一人ひとりの理解と参加が不可欠です。再エネは、私たちの生活と経済を支える社会インフラそのものです。その選択には、コスト負担や、地域の景観・環境との共存といった、痛みを伴うトレードオフが常に存在します。エネルギーの未来は、誰かが与えてくれるものではありません。そのメリットとデメリット、可能性と課題を正しく理解し、対話し、時には痛みを分かち合いながら、社会のすべての構成員が「当事者」として共に創り上げていくものなのです。
ファクトチェック・サマリー
本記事の正確性を担保するため、主要な数値データとその出典を以下に明記します。各データの詳細は、本文中の引用箇所およびリンク先の公的資料をご参照ください。
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日本の再エネ比率(2023年速報値、発電電力量ベース): 約22.7%(水力含む)
。環境エネルギー政策研究所の推計では26.7%4 。82 -
日本の一次エネルギー自給率(2022年度): 12.6%
。22 -
再エネ賦課金単価(2025年度): 3.98円/kWh
。2 -
発電コスト(LCOE、2023年時点、政策経費込): 事業用太陽光 10.9円/kWh、陸上風力 16.3円/kWh、原子力 12.9円/kWh以上(出典:経済産業省 資源エネルギー庁「発電コスト検証ワーキンググループ」)
。24 -
FIT買取価格(2025年度): 住宅用太陽光(10kW未満)15円/kWh、事業用太陽光(地上設置10-50kW未満)10円/kWhなど、規模や設置形態により異なる(出典:経済産業省 資源エネルギー庁)
。2 -
世界の再エネ導入目標: 2030年までに設備容量を3倍にすることがCOP28で合意。IEAの予測では、現状政策で2.7倍に達する見込み
。39 -
系統用蓄電池の国内導入見通し(2030年): 累計14.1~23.8GWh(出典:経済産業省)
。8 -
洋上風力の国内導入目標: 2030年までに10GW、2040年までに30~45GW(出典:経済産業省、国土交通省)
。12
主要出典機関:
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経済産業省 資源エネルギー庁 (
)https://www.enecho.meti.go.jp/ -
環境省 (
)https://www.env.go.jp/ -
国際エネルギー機関(IEA: International Energy Agency) (
)https://www.iea.org/ -
自然エネルギー財団 (
)https://www.renewable-ei.org/ -
環境エネルギー政策研究所(ISEP) (
)https://www.isep.or.jp/
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