目次
- 1 銀行・リース担当者必見 太陽光・蓄電池事業計画の「第二の目」。エネがえる全製品活用による融資審査高度化マニュアル
- 2 序章:再生可能エネルギーファイナンスの新時代 – なぜ昨日のデューデリジェンスはリスクの温床となるのか
- 3 第1章 2025年の再エネ市場を俯瞰する:金融担当者のためのマクロ環境ブリーフィング
- 4 第2章 事業計画書の解体新書:金融担当者のためのデューデリジェンス・チェックリスト
- 5 第3章 戦略的セカンドオピニオンツール「エネがえる」:金融専門家のための徹底活用術
- 6 第4章 実践的応用:金融審査におけるユースケース分析
- 7 第5章 数字の先へ:エネがえるを統合的リスク管理フレームワークに組み込む
- 8 結論:データ駆動型アプローチが拓く、再エネファイナンスの未来
- 9 付録:金融担当者のためのFAQ
- 10 ファクトチェック・サマリー
銀行・リース担当者必見 太陽光・蓄電池事業計画の「第二の目」。エネがえる全製品活用による融資審査高度化マニュアル
序章:再生可能エネルギーファイナンスの新時代 – なぜ昨日のデューデリジェンスはリスクの温床となるのか
再生可能エネルギーを巡る事業環境は、根本的な構造変化の只中にあります。かつて、固定価格買取制度(FIT制度)は、政府保証による安定的かつ予測可能な収益源を提供し、金融機関にとって比較的リスクの低い投資対象でした
この変化を加速させているのが、企業の脱炭素化への強い要請です。RE100などの国際的なイニシアチブに後押しされ、多くの企業が再生可能エネルギーの導入を経営戦略の中核に据えています
しかし、金融機関が直面する最大の課題は、提出される事業計画の「信頼性の欠如」という根深い問題です。ある調査によれば、実に75.4%もの需要家が、提示された経済効果シミュレーションの信憑性を疑った経験があると回答しています。さらに深刻なのは、提案を行う営業担当者の83.0%自身が、自社のシミュレーション精度に不安を感じているという事実です
本稿の主題は明確です。この新しい事業環境において、データに基づいた標準化された「セカンドオピニオン」は、もはや贅沢品ではなく、現代の融資審査における不可欠な構成要素である、ということです。本レポートでは、国際航業株式会社が提供するエネルギー診断クラウドサービス「エネがえる」の全プロダクト群が、いかにしてこの重要な検証レイヤーを提供し、金融機関の融資・リース判断を高度化・低リスク化するための戦略的ツールとなり得るかを、具体的かつ網羅的に解説します。
第1章 2025年の再エネ市場を俯瞰する:金融担当者のためのマクロ環境ブリーフィング
個別のプロジェクトを評価する前に、その背景となるマクロ環境、すなわちエネルギー政策、市場構造、そして新たなビジネスモデルを理解することが不可欠です。これらの外部要因は、プロジェクトの長期的な収益性を左右する重要な変数となります。
2025年2月決定「第7次エネルギー基本計画」の解読
2025年2月に決定された第7次エネルギー基本計画は、2040年度までを見据えた日本の中長期的エネルギー政策の羅針盤です
FIP制度の現実:市場連動型収益のナビゲーション
FIP制度は、再生可能エネルギー発電事業者が卸電力市場などで売電した際に、その売電価格に一定のプレミアム(補助額)を上乗せする制度です。2024年3月末時点で認定量は約1,761MWに達し、着実に活用が進んでいます
新市場の台頭:容量市場と需給調整市場がもたらす機会と引受リスク
2024年度から全ての調整力商品が市場取引を開始した需給調整市場や、将来の供給力を取引する容量市場は、特に産業用蓄電池を併設したプロジェクトにとって新たな収益機会となり得ます
コーポレートPPAモデル:新たなカウンターパーティリスクへの対応
企業の脱炭素化ニーズを背景に、特定の企業が発電事業者から長期にわたり電力を購入するコーポレートPPAモデルが急増しています
この市場環境の変化は、金融機関の審査プロセスに根本的な変革を迫っています。FIT時代のリスクが主に「建設・系統連系リスク」であったのに対し、現代のリスクは「運用・経済パフォーマンスリスク」へとシフトしました。発電量が予測を5%下回った場合、それは単に収益が5%減少することを意味するだけではありません。利益率の薄いプロジェクトでは、債務不履行を引き起こす致命的な打撃となり得ます。この文脈において、初期段階における発電量と経済効果のシミュレーション精度こそが、プロジェクトファイナンスにおける最も重要な変数となったのです。
第2章 事業計画書の解体新書:金融担当者のためのデューデリジェンス・チェックリスト
事業者が提出するきらびやかな事業計画書。しかし、その数字の裏に潜むリスクを見抜くことが、金融担当者の責務です。本章では、典型的な提案書を解剖し、特に注意深く検証すべき項目と、そのための客観的な視点を提供します。
第1部 発電量シミュレーション – 物理的現実の精査
全ての経済効果の源泉は、発電量です。この予測が甘ければ、計画全体が砂上の楼閣となります。
日射量データ:予測の土台となる最重要パラメータ
事業者が用いる日射量データは、どこから来ているでしょうか。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のような信頼性の高い機関が提供する、長期にわたるデータベースに基づいているか、それとも特定の好天が続いた短期的なサンプルデータで水増しされていないか。この入力値が誤っていれば、後続の計算はすべて無意味になります。NEDOは「再生可能エネルギー技術白書」などを通じて、信頼性の高い技術情報を提供しています
損失係数(System Loss Coefficient):現実的な「目減り」の考慮
太陽光パネルが生み出した直流電力は、家庭や工場で使える交流電力に変換される過程や、配線、温度上昇など様々な要因で損失します。太陽光発電協会(JPEA)のガイドラインによれば、実際の発電量はパネルの公称最大出力の70~80%程度になるのが一般的です
経年劣化率:避けられない性能低下の織り込み
全ての太陽光パネルは時間と共に性能が低下します。NEDOの研究では、年間0.5%の劣化率がひとつのベンチマークとして示されています
温度・環境要因:地域特性の無視は禁物
一般的なシミュレーションでは見過ごされがちですが、地域の気候条件は発電量を大きく左右します。例えば、夏場の高温はパネルの発電効率を著しく低下させます。また、積雪地帯では冬場の発電がほぼゼロになる期間も考慮しなければなりません。提案されているシミュレーションが、こうした地域固有の環境要因を適切に反映しているかを確認することが重要です。
第2部 経済性分析 – お金の流れを追う
発電量予測が物理的な現実であるならば、経済性分析はその現実を金融言語に翻訳するプロセスです。ここでの仮定の妥当性が、プロジェクトの成否を分けます。
ROIと投資回収期間:結論ではなく、前提を疑う
ROI(投資収益率)や投資回収期間は、あくまで計算の「結果」です。金融担当者が検証すべきは、その結果を導き出した「入力値(前提条件)」です。
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電気料金上昇率の仮定: これは最も感応度が高い変数の一つです。事業者は将来の電気料金が年率5%で上昇すると仮定しているかもしれませんが、過去の実績や政府のエネルギー政策は年率2%程度の上昇を示唆しているかもしれません
。この前提の違いは、投資回収期間を数年単位で変動させます。7 -
メンテナンス費用(O&Mコスト): パワーコンディショナの交換費用(10~15年周期)、定期的なパネル洗浄、除草費用などが現実的に予算化されているか。ROIを良く見せるために、これらのコストが意図的に過小評価されていないか、精査が必要です。
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補助金の適用: 計画に盛り込まれている補助金は、既に採択が決定しているものか、それとも競争率の高い公募にこれから応募するものか。不確実な補助金を収益予測に織り込むことは、重大なリスク要因です
。20
キャッシュフロー・ストレステスト:一点予測の危険性
単一のシナリオに基づくキャッシュフロー予測は、ほとんど意味を持ちません。金融機関としては、複数の悲観シナリオを想定したストレステストを実施すべきです。例えば、「発電量が想定を10%下回った場合」「O&Mコストが20%上振れした場合」「電気料金の上昇がゼロだった場合」など、複数の変数を組み合わせて、それでもなおプロジェクトが債務返済能力を維持できるか(Debt Service Coverage Ratio: DSCRが基準値を満たすか)を確認する必要があります。
第3部 技術・環境コンプライアンス – 非財務リスクの洗い出し
財務的な実現可能性だけでなく、技術的な安全性や環境・社会への配慮も、プロジェクトの長期的な安定性を担保する上で不可欠です。
技術基準への準拠
NEDOが策定する設計・施工ガイドラインや安全確保に関する指針は、システムの長期信頼性を確保するための業界標準です
環境・社会(ESG)リスクの評価
環境省は、事業規模に応じた環境配慮ガイドラインを公表しており、地域社会との共生を重視しています
融資担当者がこれらの複雑な技術的変数を迅速に評価できるよう、以下のチェックリストは、事業者の主張を業界や政府のベンチマークと比較するための実践的なツールとなります。
表1:重要シミュレーション・パラメータ チェックリスト&ベンチマーク
パラメータ | 事業者の主張(例) | 業界ベンチマーク/ガイドライン | 出典 | 要注意フラグ |
経年劣化率(年率) | 0.3% | 0.5% |
NEDO |
0.4%未満(Tier1パネル保証書がない場合) |
システム損失係数 | 15% | 20~30% |
JPEA |
18%未満(特別な技術的根拠がない場合) |
電気料金上昇率(年率) | 4% | 過去実績、エネ庁見通しを確認 | 資源エネルギー庁等 | 3%超(保守的な評価を推奨) |
O&Mコスト(kW単価/年) | 500円/kW | 1,000~2,000円/kW | 業界ヒアリング | 800円/kW未満 |
PCS交換費用 | 計上なし | 15年目に初期投資の5-10% | 業界標準 | 20年間の計画で計上なし |
このチェックリストは、金融担当者がエンジニアでなくとも、データに基づいた的確な質問を投げかけることを可能にします。「貴社の経年劣化率の想定は、NEDOのベンチマークより40%も楽観的ですが、その根拠は何ですか?」といった具体的な対話は、単に数字を受け入れるだけの審査プロセスとは一線を画します。これにより、一次審査のプロセスが標準化され、リスク評価の質が飛躍的に向上するのです。
第3章 戦略的セカンドオピニオンツール「エネがえる」:金融専門家のための徹底活用術
前章で詳述した事業計画の脆弱性やリスク要因に対し、「エネがえる」は直接的な解決策を提供します。このツールは単なる計算機ではなく、乱立する個別のシミュレーションを共通の土俵で評価するための「標準化プラットフォーム」として機能します。
融資審査の核となる「エネがえるBiz」
「エネがえるBiz」は、産業用の自家消費型太陽光発電および蓄電池システムの経済効果を診断するために特化されたクラウドサービスです。金融機関がこのツールを導入する最大の意義は、事業者が用いる様々な計算ロジックや前提条件を一旦リセットし、一貫したアルゴリズムの下で再評価できる点にあります
金融担当者向け機能ディープダイブ
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豊富な業種別ロードカーブ(11業種55パターン以上): 中小企業(SME)向けの融資審査で頻繁に直面するのが、30分ごとの詳細な電力使用量データ(デマンドデータ)が存在しないという課題です。この「データ欠損問題」は、正確な自家消費率の算出を困難にし、融資判断の大きな障壁となります。「エネがえるBiz」が提供する業種別の標準ロードカーブテンプレートは、この問題を解決する画期的な機能です
。例えば、「金属加工工場」や「食品スーパー」といったテンプレートを選択することで、月々の電気料金明細しかない企業でも、信頼性の高い需要プロファイルを構築し、妥当な経済効果を試算できます。21 -
30分デマンドデータのインポート機能: 大規模な需要家からCSV形式で30分デマンドデータが提供された場合、この機能を用いることで極めて高精度な検証が可能になります
。事業者のシミュレーション結果と、「エネがえるBiz」に同じデータをインポートして算出した結果を比較することで、計算ロジックの違いや意図的なパラメータ操作を即座に見抜くことができます。21 -
カスタマイズ可能なパラメータ入力: 金融機関は、前章の「表1」で示したような、NEDOやJPEAのガイドラインに基づく保守的なパラメータ(経年劣化率0.5%、システム損失係数25%など)を独自に設定できます
。事業者の「楽観的シナリオ」と、これらのベンチマークを入力した「金融機関ベースケースシナリオ」の双方を「エネがえるBiz」で実行し、その結果(ROI、投資回収期間など)を比較します。この差分こそが、事業計画に内在する「楽観バイアス」の定量的な指標となります。20 -
標準化されたExcelレポート出力: 診断結果は、ROI、投資回収期間、長期収支計画などがまとめられた、分かりやすいExcel形式のレポートとして出力されます
。これにより、稟議書やクレジットコミッティへの提出資料の作成が効率化されるだけでなく、全ての再エネ案件で報告フォーマットが統一され、案件ごとの比較検討が容易になります。20
金融機関にとっての費用対効果
「エネがえるBiz」の導入には初期費用30万円、月額費用18万円(Lightプラン)といったコストが発生します
「エネがえるAPI」による審査ワークフローの自動化
先進的なITインフラを持つ金融機関にとって、「エネがえるAPI」は審査プロセスの大幅な効率化を実現します
「エネがえるの経済効果シミュレーション保証」:性能リスクの保険化
これは、金融機関にとってまさにゲームチェンジャーとなり得るオプションサービスです。日本リビング保証株式会社との提携により提供されるこの保証は、万が一、実際の経済効果が「エネがえる」のシミュレーション結果を下回った場合に、その差額を補填するものです
金融機関は、この保証の付帯を融資実行の条件(コベナンツ)とすることができます。これにより、プロジェクトの性能リスクという、これまで評価が難しかった不確実性を、保険という形で第三者に移転させることが可能になります。これは、貸し手のリスクを劇的に低減させると同時に、事業者にとっても、計画の信頼性を客観的に証明する強力な武器となります。
この一連のプロセスを通じて、融資審査は、担当者の経験や勘、事業者との信頼関係といった主観的な要素に依存する「アート」から、データに基づき、誰が評価しても同じ結論に至る、監査可能で一貫性のある「サイエンス」へと変貌を遂げるのです。クレジットコミッティに対して、「事業者のROIと、当行の標準モデルによるROIにはこれだけの乖離があり、その要因はこのパラメータの違いです」と定量的に説明できることは、審査プロセスの透明性と信頼性を格段に向上させます。
第4章 実践的応用:金融審査におけるユースケース分析
理論を理解した上で、次はその実践です。本章では、金融機関が日常的に遭遇するであろう4つの典型的なシナリオを取り上げ、「エネがえる」を具体的にどのように活用してリスクを評価し、適切な融資判断を下すかを示します。
ユースケース1:高負荷率の製造工場(ベースライン案件)
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シナリオ: 24時間365日、安定して高い電力需要を持つ製造工場が、大規模な自家消費型太陽光発電の導入を計画。事業者からは、30分デマンドデータに基づいた詳細な事業計画書が提出されている。
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金融機関の課題: 非常に高い自家消費率(95%以上)が謳われているが、その数値の妥当性を検証したい。また、計画されている年間の定期メンテナンスによる工場停止期間の影響が、シミュレーションに正しく反映されているかを確認したい。
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「エネがえる」活用法:
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まず、事業者から提供された30分デマンドデータを「エネがえるBiz」にインポートします
。21 -
次に、事業者が提示したパラメータ(低めの経年劣化率、低い損失係数など)をそのまま入力し、「事業者シナリオ」としてシミュレーションを実行します。
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続いて、第2章の「表1」で示した、NEDOやJPEAのガイドラインに基づく保守的なパラメータ(経年劣化率0.5%など)を入力し、「金融機関ベースケースシナリオ」を実行します。
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両者の結果(ROI、投資回収期間、20年間の総削減額)を比較します。この差が、事業計画の楽観バイアスを定量的に示したものとなります。この乖離幅を基に、融資額や金利の調整、あるいは追加担保の要求といった具体的な交渉が可能になります。
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ユースケース2:需要変動の激しい商業施設(複雑案件)
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シナリオ: 平日と週末、季節によって電力需要が大きく変動する大型ショッピングモールが、太陽光発電と蓄電池の併設を計画。
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金融機関の課題: 事業者のシミュレーションは、年間の平均需要に基づいて単純計算されており、発電量と需要のタイミングのズレ(ミスマッチ)を考慮していない可能性がある。これにより、自家消費率が過大評価され、経済効果が実態とかけ離れている恐れがある。
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「エネがえる」活用法:
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このケースでも、詳細な30分デマンドデータのインポートが鍵となります。
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「エネがえるBiz」の365日・時間単位のシミュレーションエンジンは、需要と発電のミスマッチを正確に捉えます。例えば、電力需要が少ない平日の昼間に発電した余剰電力がどれだけ発生し、その電力を蓄電池にどれだけ充電して、需要がピークとなる夕方から夜間にかけて放電できるかを精密に計算します。
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これにより、単純な平均計算では見えてこなかった、現実的な自家消費率と、蓄電池導入による経済効果の上乗せ分を正確に評価できます。蓄電池の容量が需要パターンに対して最適かどうかの判断材料にもなります。
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ユースケース3:データが乏しい中小企業(市場開拓案件)
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シナリオ: 地域の中規模食品加工会社が、脱炭素経営の一環として太陽光発電の導入を希望。しかし、保有しているデータは月々の電気料金請求書のみ。
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金融機関の課題: 30分デマンドデータがないため、自家消費率の正確な予測が不可能。不確実性が高すぎるため、通常であれば融資を謝絶するか、非常に高いリスクプレミアムを乗せた金利を提示せざるを得ない。
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「エネがえる」活用法:
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これこそが、「エネがえるBiz」の業種別ロードカーブテンプレートが真価を発揮する場面です
。21 -
テンプレートの中から「工場 – 食品加工」を選択し、月々の電力使用量を入力します。
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これにより、業界標準に基づいた信頼性の高い30分単位の需要プロファイルが自動的に生成されます。
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この合成された需要プロファイルを用いて経済効果シミュレーションを実行することで、これまで「評価不能」だった案件を、「評価可能」な土俵に乗せることができます。
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この機能は、単なる技術的な特徴に留まりません。日本のエネルギー転換は、データ管理体制の整った大企業だけでは成し遂げられません。経済の屋台骨である中小企業が、データ不足という障壁によってプロジェクトファイナンスから排除されてしまう現状は、大きな社会課題です。「エネがえる」のロードカーブテンプレートは、この情報格差を埋めることで、これまで融資対象と見なされなかった広大な市場への扉を開く、一種の「金融包摂ツール」としての役割を果たすのです。
ユースケース4:蓄電池による市場取引を企図する先進案件(将来案件)
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シナリオ: 大規模な物流倉庫が、屋根に設置した太陽光パネルに加え、大型蓄電池システムを導入。事業計画には、電気料金削減効果だけでなく、需給調整市場への参加による将来的な収益も見込んでいる。
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金融機関の課題: 需給調整市場からの収益は、市場価格の変動に大きく左右されるため、極めて投機的で不確実性が高い。この不確実な収益を、どこまで融資審査上のキャッシュフローとして認めるべきか。
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「エネがえる」活用法:
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この場合、「エネがえるBiz」を用いて、まずは「ベース収益」を確定させます。つまり、需給調整市場からの収益を一切含めず、純粋な自家消費による電気料金削減効果と、余剰電力の売電収入(FIPプレミアムを含む)のみを計算します
。8 -
この「ベース収益」だけで、プロジェクトが最低限の債務返済能力(DSCR > 1.0)を持つかどうかを評価します。
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もしベース収益だけでプロジェクトが成立するのであれば、需給調整市場からの収益は、債務返済に必須ではない「アップサイドシナリオ」として位置づけることができます。これにより、プロジェクトのリスク構造が明確になり、より安全な融資判断が可能になります。
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表2:ユースケース別 シナリオサマリー
プロジェクト類型 | 主要な金融課題 | 「エネがえる」による主要な解決策 | 関連情報 |
大規模工場 | 高い自家消費率の主張の妥当性検証 | 30分デマンドデータ取込とベンチマーク比較 | |
商業施設 | 不規則な需要パターンの正確なモデル化 | 時間単位のシミュレーションエンジンによる需給ミスマッチ分析 | |
中小企業(データ無) | データ不足による高い不確実性 | 業種別ロードカーブテンプレートによる需要プロファイル生成 | |
太陽光+蓄電池 | 投機的な市場収益の評価 | 「ベースケース」の収益を分離・確定し、リスクを切り分け |
この表は、融資担当者が新規案件に直面した際の思考の羅針盤となります。案件の特性をこの類型に当てはめることで、直ちに最も有効な分析アプローチと、「エネがえる」のどの機能に焦点を当てるべきかを判断できるようになります。
第5章 数字の先へ:エネがえるを統合的リスク管理フレームワークに組み込む
「エネがえる」の活用は、単一案件の評価に留まりません。その標準化されたアウトプットと客観的な分析プロセスは、金融機関全体の統合的なリスク管理フレームワークを強化し、より高度なガバナンス体制の構築に貢献します。
稟議書の客観性と説得力の強化
融資判断の最終的な成果物である稟議書(クレジットファイル)において、「エネがえる」のレポートは極めて強力な客観的証拠となります。事業者の提出資料に加え、「当行の標準パラメータを用いた第三者ツールによる検証結果」を添付することで、稟議の説得力は飛躍的に高まります。これは、内部監査や金融庁検査においても、デューデリジェンスプロセスが適切かつ厳格に行われたことを示す重要な証跡となります。
リスク管理委員会・経営会議への明確な報告
融資の可否を最終判断するリスク管理委員会や経営会議では、複雑な技術的詳細よりも、明確で定量的なリスク評価が求められます
金融機関のESG方針との整合性
多くの金融機関は、赤道原則(エクエーター原則)への署名や、独自のサステナビリティ方針を通じて、環境・社会リスクへの配慮を表明しています
事業者との建設的な対話の促進
「エネがえる」を導入する目的は、単に案件を否決することではありません。むしろ、より良いプロジェクトを組成するための建設的な対話を促進するツールとなります。漠然と「リスクが高い」と伝えるのではなく、「貴社の計画は素晴らしいですが、当行の基準では、このパワーコンディショナの保証期間が短いため、15年目の交換費用を考慮する必要があり、その結果、期待利回りがわずかに基準を下回ります。もし、より長期保証の製品に変更可能であれば、この案件は承認可能です」といった、具体的でデータに基づいたフィードバックが可能になります。これは、事業者との信頼関係を構築し、金融機関が地域における再エネ普及を主導する、健全なエコシステムを育むことに貢献します。
結論:データ駆動型アプローチが拓く、再エネファイナンスの未来
本稿では、FIT制度後の新たな時代における再生可能エネルギーファイナンスの課題と、それに対する戦略的ソリューションとしての「エネがえる」活用法を詳述してきました。事業者が提出する不透明なスプレッドシートの世界から、標準化され検証可能なセカンドオピニオンの世界へ。市場が性能ベースの収益モデルへと移行した今、この進化はもはや選択肢ではなく、必然です。
このアプローチがもたらす影響は、個別の金融機関のポートフォリオ健全化に留まりません。審査プロセスが高度化され、プロジェクトのリスクが正確に評価されるようになれば、優良なプロジェクトに対しては、より低いリスクプレミアム、すなわち低い資本コストでの資金供給が可能になります。これは、日本全体の再生可能エネルギー導入を加速させ、2050年カーボンニュートラルという国家目標の達成に大きく貢献するものです
金融セクターは、このエネルギー転換において、単なる受動的な観察者ではありません。資本のゲートキーパーとして、どの技術が、どの事業者が、そしてどのプロジェクトが未来を担うに値するかを決定する、能動的な役割を担っています。データ中心の厳格なデューデリジェンスを実践することによって、融資・リースの担当者は、単なる資金の貸し手から、持続可能な未来を共創する戦略的パートナーへと進化することができるのです。
付録:金融担当者のためのFAQ
Q1: 「エネがえるBiz」で一つの案件のシミュレーションを実行するのに、どれくらいの時間がかかりますか?
A1: 操作に慣れれば、必要なパラメータが揃っている場合、わずか10分程度で需要家向けの提案書レベルのレポートを作成することが可能です 20。金融機関向けのより詳細なシナリオ分析でも、30分~1時間程度で完了することが一般的です。
Q2: 事業者が提案してきた太陽光パネルや蓄電池が、「エネがえる」のデータベースに登録されていない場合はどうなりますか?
A2: 「エエがえるBiz」では、設備費用や効率、劣化率といった主要なパラメータをマニュアルで入力・編集することが可能です 20。したがって、特定の製品がデータベースに未登録でも、その製品の仕様書(スペックシート)があれば、問題なくシミュレーションに反映させることができます。
Q3: 日本国内の地域による日射量の違いは、どのように考慮されますか?
A3: 「エネがえる」は、NEDOが提供する全国837地点の日射量データベースと連携しており、設置場所の郵便番号を入力するだけで、その地点の気象データに基づいた高精度な発電量予測を自動で行います。
Q4: 余剰電力をFIP制度で売電しつつ、自家消費も行うプロジェクトのモデル化は可能ですか?
A4: はい、可能です。「エネがえるBiz」は、まず自家消費量を時間単位で計算し、残りの余剰電力量を算出します。その余剰電力量に対して、別途想定する市場価格とFIPプレミアムを乗じることで、売電収入を計算し、自家消費による電気料金削減額と合算した、プロジェクト全体の経済性を評価することができます。
Q5: 「経済効果シミュレーション保証」の法的拘束力や保証範囲について教えてください。
A5: この保証は、国際航業株式会社が直接提供するものではなく、提携先である日本リビング保証株式会社が提供する保険商品です 5。保証の適用条件、保証期間、免責事項などの詳細については、個別の契約内容を確認する必要があります。金融機関としては、融資条件とする際に、保証契約書の内容を精査することが重要です。
Q6: 電気料金プランのデータベースや、国・自治体の補助金情報はどのくらいの頻度で更新されますか?
A6: 全国の電力会社(新電力を含む)100社3,000プランの料金単価は、原則として月1回更新されます。また、全国の都道府県・市区町村別の再生可能エネルギー関連補助金についても、参照機能が搭載されており、定期的に情報がアップデートされます 21。
ファクトチェック・サマリー
本レポートの分析は、以下の主要な公開情報およびデータに基づいています。
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パネル経年劣化率のベンチマーク: 年率0.5%(出典: NEDO
)19 -
システム損失係数の標準値: 20~30%が一般的(出典: JPEA
)17 -
FIP制度認定容量: 2024年3月末時点で約1,761MW(出典: 経済産業省
)2 -
「エネがえるBiz」の費用: 初期費用30万円、月額18万円(Lightプラン)(出典: 国際航業
)20 -
シミュレーションの信頼性に関する調査: 営業担当者の83%が自社シミュレーション精度に不安(出典: 国際航業調査
)5 -
第7次エネルギー基本計画: 対象期間を2040年度とし、「S+3E」を堅持(出典: 日本総合研究所
)6
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