蓄電池充放電最適制御の科学と応用(2025年)

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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目次

蓄電池充放電最適制御の科学と応用(2025年)

イントロダクション:なぜ今、日本のエネルギー事業者は「最適制御」を学ばなければならないのか?

2025年、日本のエネルギー市場は、不可逆的な構造変化の渦中にある。これは単なる比喩ではない。東京都による新築住宅への太陽光パネル設置義務化(2025年4月施行)は、分散型電源の導入を物理的に加速させる 1。さらに、2009年から始まったFIT(固定価格買取制度)が本格的な「卒FIT」時代を迎え、かつて40円/kWhを超えていた売電価格が8円/kWh前後へと下落し、その経済合理性が完全に逆転した 2

もはや「蓄電池を導入するか否か」という議論のフェーズは終わった。議論の焦点は、「導入した蓄電池の価値を、いかにして最大化するか」という、より高度なオペレーションの領域へと完全に移行したのである。

ここで、日本の多くの需要家や再エネ事業者が直面する根源的な問いがある。蓄電池という「ハードウェア」の価値は、何によって決まるのか?

その答えは、ハードウェアの性能(容量や効率)だけでは決まらない。真の価値は、それを1秒ごとに制御する「脳」、すなわち「充放電最適制御アルゴリズム」によって決まる 3。この「脳」の知性が、蓄電池を「単なる箱」から「収益を生む資産」へと変貌させる 5

しかし、この「最適制御」は、言うは易く行うは難し。JEPX(日本卸電力取引所)の激しい価格変動、2025年/2026年にルールが激変するLTDA(長期脱炭素電源オークション)の過酷な要求 1、そしてバッテリー自体の「劣化」という物理的制約。これら全てを考慮し、20年先までの収益を最大化する「神の一手」を導き出さねばならない。

本記事は、この難解なパズルを解くための「設計図」である。

まず、日本のエネルギー市場が直面する「根源的な課題」を特定する。次に、その課題を解くための「最適制御の科学」を、数理モデルから最先端のAIアルゴリズムまで、世界最高水準の学術的知見に基づき徹底的に解剖する。

そして最も重要な点として、この高度な「科学」と、需要家・再エネ事業者の日々の「実践」との間に横たわる「深い溝」を明らかにする。その上で、理論と現場のギャップを埋め、明日からの商談を加速する実用的なソリューション、すなわち「エネがえるASP」および「エネがえるBiz」が、この壮大な課題解決の連鎖の中でどのような「解」を提供するのかを提示する。

第1章:日本市場の根源的課題 -「ただ置くだけの蓄電池」が収益を生まない2025年の現実

日本の蓄電池(BESS)市場は、政府の脱炭素目標と再エネ統合の必要性から、世界的に見ても急成長を遂げている 6。しかし、その足元では、蓄電池の「置き方」と「使い方」を根本から見直さなければならない、3つの構造的な地殻変動が同時に進行している。

課題1:ポストFITの衝撃(需要家サイド)

第一の衝撃は、個人の需要家(プロシューマー)を直撃している。2011年から2012年にかけて太陽光発電を導入した層(売電単価42円/kWh)が、10年間のFIT期間を終え、「卒FIT」を迎えている 2

大手電力会社の卒FIT後の買取プランは、約8円/kWh前後。これは、FIT開始当初と比較して、売電収入が約80%も消失することを意味する 2。この強烈な経済的インセンティブの転換は、需要家の行動を根本的に変えた。

電力を「売る(輸出する)」メリットがほぼ消滅し、代わりに「電力会社から(高い)電力を買う」ことをいかに削減するか、すなわち「自家消費の最大化」が、個人の経済防衛策として最重要課題となった 2

この結果、受動的な電力の消費者(Consumer)は、自らエネルギーを管理・最適化する能動的な生産消費者(Prosumer)へと変貌を遂げつつある 9。彼らが今、切実に求めているのは、太陽光の発電と家庭の消費を賢くマネジメントし、自動で「最適な充放電」を行ってくれるインテリジェンスである。

課題2:LTDAオークションのルール変更(事業者サイド)

第二の衝撃は、系統用蓄電池に投資する再エネ事業者を揺るがしている。2025年10月に登録が開始され、2026年1月に入札が予定されている第3回LTDA(長期脱炭素電源オークション)において、そのルールが劇的に変更された 1

  1. 容量の削減: 蓄電池(BESS)枠が、前回の1.7GWから800MWへと半減された 1

  2. 放電時間の延長: 最低放電時間が、従来の3時間から6時間へと倍増された 1

  3. 競争の激化: 新たにガス火力や原子力プロジェクトもオークション対象となり、BESSの収益性がさらに圧迫される 1

この変更は、日本政府からの「単純な短期アービトラージ(3時間)のビジネスは、もはや補助金(20年間の収益保証)の対象としない。今後は、系統安定に真に貢献する『本物の』長期的な柔軟性(6時間)を提供せよ」という、極めて明確なシグナルである 1

このルールの変更は、事業者のリスク計算を根本から覆す。

「3時間」の運用であれば、バッテリーの劣化(SOH: State of Health)をさほど気にせず、日々の価格差益を追求する高頻度な売買も可能だった。しかし、「6時間」の充放電を「20年間」にわたって保証し、その収益性を担保するには、充放電サイクルによってバッテリーがどれだけ劣化するかを、極めて高精度に予測・管理する能力が不可欠となる 11

もはや、安価なハードウェアを調達する競争ではない。20年間の劣化(SOH)と残存価値(RUL: Remaining Useful Life)を正確に見通す「インテリジェンスの競争」へと、ゲームのルールが書き換えられたのだ。

課題3:JEPXアービトラージの予測困難性(運用サイド)

第三の課題は、日々のオペレーション、特にJEPX(日本卸電力取引所)の価格変動を利用したアービトラージ(裁定取引)の難しさである 13

「価格が安い時間帯に充電し、高い時間帯に放電する」というビジネスモデルは、理論上は単純だ 13。しかし、JEPXの価格は、再エネの発電量(天候)、需給バランス、燃料価格といった無数の要因で激しく変動する。

このビジネスの収益は、常に2つのリスクに晒されている 13

  1. 価格変動リスク: 価格のボラティリティ(変動幅)が小さければ、利益も小さくなる。

  2. 予測誤差リスク: 「安い」と思って充電した時間帯が、結果として「最適」ではなかった場合、機会損失、あるいは損失が発生する。

結局、JEPXアービトラージの成否は、「未来の価格をどれだけ正確に予測できるか」という、AIによる予測精度にすべてがかかっている 13

卒FITに直面する需要家も、LTDAに挑む事業者も、JEPXで戦う運用者も。2025年の日本において、蓄電池に関わる全てのステークホルダーが、それぞれの立場で「いつ充電し、いつ放電すべきか」という、複雑な「最適化問題」に直面している。この問題を解く能力こそが、そのまま収益の格差となる時代が到来したのである。

第2章:最適制御の科学(基礎理論編):蓄電池の「脳」を設計する数理モデル

「最適制御」とは、単なるON/OFFのスイッチングではない。それは、複数の相反する目的を天秤にかけ、無数の制約条件の中で、ある期間におけるトータルのリターンを最大化する「未来予測と意思決定の数学」である。本章では、その核心となる数理モデルを解剖する。

中核概念:多目的最適化(Multi-Objective Optimization)

蓄電池の制御は、常に2つの「トレードオフ」の関係にある目的を同時に追求しなければならない 9

  1. 目的A:経済的利益の最大化 17

    (例:JEPXの価格差を最大化する、自家消費を最大化し買電を最小化する

  2. 目的B:バッテリー劣化の最小化 12

    (例:充放電のサイクル数、特に「深い」充放電を抑制し、SOH(健康状態)を維持する

これは、「F1レース」の戦略に酷似している。

「利益最大化」は「ラップタイムの最速化」に相当する。アクセルを全開にすれば、その周のラップタイムは速くなる(=短期的な売買差益は得られる)。

しかし、「劣化最小化」は「タイヤの摩耗と燃料消費の抑制」に相当する。アクセルを全開にし続ければ、タイヤは摩耗し、燃料は底をつき、レースを完走できない(=バッテリーが早期に寿命を迎え、LTDAの20年保証を果たせない)。

「最適制御」アルゴリズムの役割とは、ピットクルー(エンジニア)が、レース(=事業期間)の全周回を分析し、天候(=電力価格)の変化を予測しながら、「レース全体をトップで完走する(=生涯利益を最大化する)」ための完璧なアクセルワークとピットイン戦略(充放電スケジュール)を導き出すことに他ならない。

基礎モデル1:最適制御と等価回路モデル(ECM)

この「F1の戦略」を数学的に解くアプローチの一つが、最適制御理論である。2024年に公開されたある研究では、ベルギーの電力市場(Day-Ahead Market)での蓄電池の利益最大化に、このアプローチが用いられている 17

この研究の優れた点は、バッテリーの電気的な振る舞いを「等価回路モデル(ECM)」で表現し、さらに「実証的劣化モデル」を組み合わせることで、充放電がバッテリーの「内部抵抗の増加」と「容量の減少」(=劣化)にどう影響するかを数式に組み込んだことだ 17

アルゴリズムは、以下の数式を最大化しようと試みる。

Profit = Revenue – Degradation Cost17

Revenue(収益)は電力売買から得られる利益。Degradation Cost(劣化コスト)は、充放電するたびにバッテリーの寿命が縮む「罰金」である。最適制御アルゴリズムは、「この1サイクルの充放電で得られる利益は、将来の資産価値を毀損する『罰金』(劣化コスト)に見合うか?」という究極の問いを、毎秒解き続けるのである。

基礎モデル2:混合整数線形計画法(MILP)と確率的最適化

現実の制御問題はさらに複雑である。蓄電池の制御状態(充電/放電/待機)は「0か1か」の整数問題であり、その出力「量」(例:50kW)は線形(連続値)の問題である。このように整数と線形が混在する問題を解く標準的な手法が、MILP(Mixed-Integer Linear Programming:混合整数線形計画法)である 18

2025年に発表されたプロシューマーの最適化に関する研究では、このMILP問題を定式化するためにPythonのPyomoフレームワークが、そしてそれを解くために高性能なGurobiソルバーが使用されている 10

しかし、MILPには「未来の発電量や電力価格が完璧に予測できている」という前提がある。現実はそうではない。そこで登場するのが確率的最適化(Stochastic Optimization)である 12

確率的最適化は、「晴れのパターン」「曇りのパターン」「価格高騰パターン」といった複数の「不確実な(Stochastic)」シナリオを考慮し、「どのシナリオが現実になっても、全体として最も被害が少なく、平均的に最も利益が出る」ような、ロバスト(頑健)な解を見つけようとする、より高度なアプローチである。

最重要ファクター「劣化モデル」:ビジネスの成否を分けるSOH/RUL

第1章で述べた通り、特にLTDAのような長期契約において、ビジネスの成否を分けるのは「劣化」の管理である。SOH(健康状態)とRUL(残存有用寿命)は、バッテリーの「資産価値」そのもの11

では、どうやって劣化を定量化するのか?

ここで注目されているのが「レインフロー・カウンティング(Rainflow-counting)」という工学的手法である 12。これは元々、橋梁や航空機の金属部品が、不規則な振動(荷重)によってどれだけ「金属疲労」を起こすかを計算するために開発された。

この手法をバッテリーに応用し、不規則な充放電の波形から、ダメージを与える「深いサイクル」と「浅いサイクル」がそれぞれ何回発生したかを正確にカウントする。2024年の最先端の研究では、この複雑で非線形なレインフロー法を、数学的に「線形化」してMILPの制約条件に組み込むことに成功しており 12、これにより、劣化を考慮した厳密な最適化計算が可能になりつつある


▼挿入表1:蓄電池最適制御のための主要な数理モデルと手法

手法名 概要 長所 短所 主な適用先

最適制御理論 (Optimal Control) 17

微分方程式(例:ECM)でシステムをモデル化し、将来にわたる目的関数(例:利益)を最大化する制御入力を導出する。 連続的なシステムの動態や劣化を厳密に扱える。 モデル化が複雑。計算負荷が非常に高い。 系統用BESSの20年生涯価値のシミュレーション、劣化モデルの構築。

混合整数線形計画法 (MILP) 10

システムの挙動を線形方程式で近似し、「充電/放電」のような0/1の意思決定を含む問題を解く。 厳密な最適解(あるいはその近似解)が保証される。 予測が完璧であるという前提。変数が多すぎると計算不能(NP困難)。 C&Iや家庭の24時間運用計画(Day-Ahead)の策定。

確率的最適化 (Stochastic Opt.) 19

発電量や価格の「不確実性(複数のシナリオ)」を考慮し、どのシナリオでも安定した結果を出すロバストな解を求める。 現実の不確実性に対応できる。リスク管理に優れる。 シナリオ作成が困難。MILPよりさらに計算負荷が増大する。 再エネ比率が高い系統のリアルタイム制御、VPPのポートフォリオ管理。

等価回路モデル (ECM) 17

バッテリーを抵抗やコンデンサの電気回路としてモデル化し、電圧やSOC(充電状態)の振る舞いをシミュレートする。 計算が比較的軽量でありながら、電気的特性を正確に表現できる。 劣化や熱暴走など、化学的な現象の根本的な記述は困難。 BMS(バッテリー管理システム)内のSOC推定、最適制御モデルへの組み込み。

レインフロー・カウンティング 12

不規則な充放電波形を、疲労ダメージを与える「サイクル」の集まりとして分解・カウントする手法。 バッテリー劣化(SOH)へのダメージを実態に即して定量化できる。 計算が非線形であり、従来の最適化計算への組み込みが困難だった(近年、線形化の手法が開発)。 劣化コストの算出、LTDA等の長期事業のSOHシミュレーション。

第3章:最適制御の科学(AI応用編):人知を超える「予測」と「最適化」

第2章で見た数理モデルが「厳密な計画」を策定することを得意とする一方、AI(特に機械学習)は、その計画の前提となる「高精度な予測」と、数理モデルでは捉えきれない「複雑なパターンの学習」を得意とする。2025年現在、エネルギー管理の最前線では、この両者が融合し始めている 21

AI駆動型BMS(Battery Management System)の台頭

この融合を象徴するのが「AI駆動型BMS」である。

従来のBMSは、いわば「受動的」な安全装置であった 3。温度や電圧を監視し、異常値(しきい値)を超えればシステムを停止させる「ヒューズ」のような役割が中心だった。

対して、2025年の最先端であるAI駆動型BMSは、「適応的(Adaptive)」である 4

これは、単なる監視者ではなく、能動的な「運用者」として機能する。AIは、そのバッテリー固有の利用パターン、設置場所の環境条件、ミッションプロファイル(例:EVか、定置用か)をリアルタイムで学習する 4。その学習結果に基づき、標準モデルでは見逃されてしまうような、その「個体(特定の一台)」固有の劣化状態(SOH)や充電状態(SOC)を極めて正確に推定する 4

SOCの推定精度が上がれば、安全マージンを必要最小限に切り詰め、バッテリーの運用可能領域(例:SOC 20-80%から15-85%へ)を安全に広げることが可能となり、これはそのまま収益性の向上に直結する。

このトレンドは、すでに日本の実ビジネスにも表れている。2025年2月、大崎電気工業は「SmaRe:C(スマレック)」というAI制御サービスを発表した 22。これはまさに、AIが「太陽光発電量」「電力使用量」「JEPXスポット価格」という3つの変動要因を予測し、蓄電池の充放電を最適制御することで、企業の電力調達コストを最小化するソリューションである 22

【天才的解説】自然から学ぶメタヒューリスティック・アルゴリズム

第2章で触れたMILPのような厳密解を求める手法は、変数が膨大になると計算時間が爆発的に増加する(NP困難)という弱点を持つ。

そこで、100点満点の「厳密解」を1時間かけて見つけるよりも、99点の「実用解」を「1秒」で見つけたい、という現実的なニーズに応えるため、自然界の生物の「群れの知恵」を模倣したAIアルゴリズム(メタヒューリスティクス)が、エネルギー制御の分野で急速に注目を集めている。

1. GWO(Grey Wolf Optimizer:ハイイロオオカミ最適化)

GWOは、ハイイロオオカミの群れ(Pack)が獲物を狩る際の、高度な社会的階層と連携を模倣したアルゴリズムである 23

【アナロジー:GWOの狩り】

  1. 階層: 群れには、最も優秀なリーダー(最適解に最も近い解)であるアルファ(α)、それを補佐するベータ(β)とデルタ(δ)、そしてそれに従う一般のオメガ(ω)がいる 25

  2. 包囲: 狩りが始まると、オメガ(探索エージェント)たちは、アルファ、ベータ、デルタという「トップ3」のリーダーが示す獲物の位置情報を元に、獲物を包囲するように自身の位置を更新していく。

  3. 収束: リーダー自身も常により良い位置(より良い解)を探し続けるため、群れ全体が効率的に最適解へと収束していく。

【応用】

2025年に公開された研究では、このGWOが、蓄電池オーナーが「アンシラリーサービス(周波数調整や電圧調整などの需給調整市場)」に参加し、収益を最大化するための行動選択に適用された 25。

電力市場には「周波数調整」「電圧調整」「充電」「待機」など、無数の選択肢がリアルタイムで存在する。GWOは、これらの複雑な選択肢の中から、人知を超える速度で「今、どの市場に参加し、どれだけ充放電するのが最も収益性が高いか」という「ほぼ最適」な行動を瞬時に見つけ出す「脳」として機能する 25。

2. WOA(Whale Optimization Algorithm:クジラ最適化)

WOAは、ザトウクジラが獲物(オキアミ)を狩る際に見せる、非常にユニークな「バブルネット・フィーディング(泡の網による狩り)」を模倣したアルゴリズムである 27

【アナロジー:WOAの狩り】

  1. 包囲(探索): まず、クジラ(探索エージェント)が獲物の群れ(最適解の候補)の位置を大まかに特定する。

  2. バブルネット攻撃(活用): ここがWOAの核心である。クジラは獲物の群れの周囲を「螺旋状(スパイラル)」に泳ぎながら、泡(バブル)を吐き出す 29。この泡の網が、獲物を一箇所に追い詰める。アルゴリズムは、この「螺旋状に最適解に急速に収束していく動き」を数式で模倣し、解の精度を高める(局所探索)

  3. ランダムサーチ(探索): 同時に、一部のクジラは群れから離れ、ランダムに泳ぎ回り、別の(もしかしたらもっと大きな)獲物の群れを探す。これにより、局所的な最適解に満足せず、より大域的な最適解を見つける(大域的探索)

【応用】

2024年の研究では、燃料電池とバッテリーを搭載したハイブリッド船舶のエネルギー管理にWOAが使用された 31。2つのエネルギー源の「最適」な配分比率をWOAがリアルタイムで計算した結果、従来のルールベース制御(例:SOCが50%を切ったら充電)と比較して、エネルギー消費を15%以上も改善したと報告されている 31。

AIがもたらす「金銭的価値」

これらのAIアルゴリズムは、単なる学術的なお遊びではない。2025年5月に更新された業界レポートによると、AIによる予知保全とスマート充電戦略を組み合わせることで、バッテリーの寿命を最大40%延長できる可能性が示されている 32

この「40%の寿命延長」という数値が持つ意味は、極めて大きい。

これは、第1章で指摘した、LTDAが事業者に突きつけた「6時間・20年保証」という過酷な要求 1 に対する、現状最も有力な「解」である。

さらに、AIの真の価値は、SOH(健康状態)の「高精度な予測」にある。SOHを正確に予測できるということは、

  1. 事業者は、PPAやLTDA契約で長期の性能保証を自信を持って提供でき、事業リスクを劇的に低減できる。

  2. アグリゲーターは、中古EVバッテリー(リユース・リパーパス)11 の「残存資産価値(RUL)」を正確に評価し、金融商品として取り扱うことができる。

  3. 系統運用者は、VPP(仮想発電所)34 に組み込まれた無数のバッテリーの「信頼できる供給可能量」を正確に把握できる。

AIは、バッテリーという「モノ」を、「予測可能で信頼できる金融資産」へと昇華させる、基盤技術なのである。

第4章:【ユースケース別】最適制御の実践シナリオ

第2章の「数理モデル」と第3章の「AI」が、実際のビジネス現場でどのように活用されているのか。ここでは3つの具体的なシナリオに分けて、最適制御の実践的な姿を詳解する。

シナリオ1:プロシューマー(需要家)- ポストFIT時代の自家消費最大化

  • 課題: 卒FITによる売電単価の暴落(例:42円→8円)。高価な買電をいかに削減し、自家消費を最大化するか 2

  • 解決策: 「売電」から「自家消費」への完全なシフト。

  • 実践例:YAMABISHI「SmartSC(スマートエスシー)」 35

    このソリューションは、家庭レベルで「確率的最適化(第2章)」のロジックを簡易的に、しかし非常に効果的に実装した優れた例である。

    1. 発電予測: 36時間先までの気象予報(気象庁メソモデル)から、自宅の屋根の日射量を高精度に予測する 35

    2. 負荷予測: 過去の電力消費パターンと温度予測から、家庭の電力需要(負荷)を予測する 35

    3. 最適制御: この2つの予測に基づき、AIが「賢い」判断を下す 35

      • 「明日(翌日)は晴れで、発電量 > 負荷」と予測されれば、前日の夜間にあえてバッテリーを放電し(買電を抑制し)、翌日の「無料の」太陽光電力を溜めるための空き容量を確保する。

      • 「明日は雨で、発電量 < 負荷」と予測されれば、夜間の安い電力でバッテリーを満充電にし、翌日のピークカットや停電に備える。

  • 洞察: これは、高価な買電を自動で回避し、タダで発電した電力を最大限使い切るための「インテリジェンス」である。第1章で述べた卒FITの課題 2 に対する、最も直接的かつ効果的な回答の一つと言える。

シナリオ2:C&I(産業・商業)- PPAモデルによる「脱炭素」と「BCP」の両立

  • 課題: 企業(特にC&I:産業・商業分野)は、脱炭素(CO2排出、特にScope2の削減)への社会的要請と、災害時のBCP(事業継続計画)の確保という2つの重い課題を負っている 36。しかし、蓄電池の導入には高額な初期投資が伴う。

  • 解決策: オンサイトPPA(Power Purchase Agreement:第三者所有モデル)による蓄電池の導入。

  • 2023年 日本の導入事例分析:

    環境省が公開した2023年の導入事例集 36 からは、PPAと蓄電池を組み合わせた際の、極めて現実的なメリットと障壁が見えてくる。

    • メリット:

      1. 環境価値: 太陽光によるCO2削減効果 37

      2. 経済価値: PPA事業者が補助金申請を代行するため、需要家側の導入ハードルが低い 36

      3. BCP/レジリエンス価値: 災害時に蓄電池からの電力供給(自立運転)により、最低限の事業(例:事務所のPC、スマホ充電、在庫品の出荷業務)を継続できるという、BCP上の絶大な安心感 36

    • 現実的な障壁:

      興味深いことに、これらの事例 36 で報告されている導入時の「障壁」は、アルゴリズムの選定ではない。それは、「工場の屋根の耐荷重(構造計算)が持つか」「製造ラインを止められる工事期間(わずか数日)をどう確保するか」「太陽光パネルを設置する屋根と、電力を消費する建屋が『公道』をまたいでおり、その配線調整」といった、極めて物理的・実務的な課題である。

  • 洞察: C&I分野においては、高度な制御アルゴリズム以前に、「PPAというビジネスモデル」そのものが、これらの物理的・財政的な障壁を乗り越えるための「最適化ソリューション」として機能している。高度な制御は、この強固な土台が整った上で、その効果を最大化する次のステップとなる。

シナリオ3:再エネ事業者(VPP)-「レベニュー・スタッキング」戦略

  • 課題: LTDAのルールが厳格化し 1、JEPXの価格変動リスク 13 も高い中で、どうすれば高価な系統用蓄電池の投資を回収できるのか。

  • 解決策: 単一の収益源(例:JEPXのアービトラージ)だけに依存するのではなく、蓄電池が持つ複数の「価値」を、異なる市場で同時に収益化する「レベニュー・スタッキング(収益の積み上げ)」戦略である 38

  • 日本の3大電力市場と求められる技術:

    日本の電力市場には、蓄電池が収益を上げられる3つの主要な「場」が存在する 13。そして、それぞれの「場」で勝つために必要な「最適制御技術」は、全く異なる。

    1. 卸電力市場(JEPX):

      • 価値: kWh(電力量)の価値。

      • モデル: 安く買って高く売る「アービトラージ」13

      • 求められる技術: 高精度な「価格予測AI」(第3章のSmaRe:C 22 のような技術)。

    2. 需給調整市場(アンシラリーサービス):

      • 価値: ΔkW(調整力)の価値。

      • モデル: 系統の周波数維持や需給バランス調整に「調整力」を提供し、対価を得る 13

      • 求められる技術: 指令(AGC)に対して瞬時に応答する「高速なリアルタイム制御」(第3章のGWO 25 のような技術)。

    3. 容量市場:

      • 価値: kW(供給力)の価値。

      • モデル: 4年後の将来に「供給力(発電能力)」を確保するコミットメントに対し、対価が支払われる 13

      • 求められる技術: 20年といった長期にわたり、約束したkWを確実に提供し続ける「高精度なSOH/RUL管理(劣化予測モデル)」(第2章のレインフロー法 12 や第3章のAI 32)。

  • 洞察: これら3つの市場は、要求する技術が全く異なる。JEPXで勝つ「予測AI」と、容量市場で勝つ「劣化モデル」は別物である。真に収益を最大化する「最強の制御」とは、これら全ての市場の要求(とリスク)を同時に考慮し、リアルタイムで最適なリソース配分を決定する「多目的最適化(第2章)」そのものに他ならない。


▼挿入表2:日本における蓄電池の3大収益源(レベニュー・スタッキング)

市場名 取引される「価値」 主な収益モデル リスク/課題 求められる中核技術

1. 卸電力市場 (JEPX) 13

kWh (電力量) アービトラージ (裁定取引)。市場価格が安い時に充電し、高い時に放電する。

・価格変動リスク (変動幅が収益源)

予測誤差リスク 13

高精度な市場価格予測AI

(例:大崎電気 SmaRe:C 22

2. 需給調整市場 13

ΔkW (調整力) アンシラリーサービス。系統の周波数維持や需給バランス調整のための「調整力」を提供し、対価を得る。

・指令への確実な応答義務

・高頻度な充放電による劣化

高速なリアルタイム制御

(例:GWOアルゴリズム 25

3. 容量市場 13

kW (供給力) 将来(4年後)の供給力を確保するコミットメント(約束)に対して、固定的な対価が支払われる。

・20年といった超長期の性能維持義務

LTDAの6時間放電ルール 1

高精度なSOH/RUL管理

(例:レインフロー劣化モデル 12、AIによる寿命予測 32


第5章:システム全体の最適化:DERMSとVPPが繋ぐ分散型エネルギーの未来

ここまでの最適化は、個々の蓄電池(BESS)の収益性を高める「個」の視点であった。しかし、エネルギー革命の真の目的は、これらの無数の「個」を束ね、「システム全体」を最適化することにある。このスケールアップを可能にするのが、DERMSとVPPである 39

DERMS:系統の「交通整理」システム

DERMS(Distributed Energy Resource Management System:分散型エネルギーリソース管理システム)とは、電力会社(系統運用者)が、管轄エリア内に散らばる無数のDER(太陽光、蓄電池、EV充電器、おひさまエコキュート 2 など)をリアルタイムで把握・制御し、系統全体の安定性を維持するための、いわば「OS(オペレーティングシステム)」である 42

2025年に米国のSmart Electric Power Alliance(SEPA)が発表した白書 42 は、DERの爆発的な普及により「分散化し、複雑化した」現代の電力グリッドを管理するために、DERMSが不可欠であると断言している。

なぜなら、DERMSは、従来の「電線を太くする」といった高コストなインフラ投資(設備投資)よりも、はるかに安価かつ柔軟に、系統を安定化できる(=混雑を解消できる)ソリューションだからである 43。DERMSには、系統運用者側(Grid DERMS)と、需要家側(Edge DERMS)の2種類が存在する 42

VPP:DERを束ねる「仮想発電所」

VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)とは、DERMSという「技術(OS)」を利用して、需要家側に存在する複数のDERをアグリゲーター(リソースアグリゲーターやアグリゲーションコーディネーター)34 が束ね(アグリゲートし)、あたかも一つの巨大な発電所(あるいは調整力)のように機能させる「ビジネスモデル(アプリケーション)」である 34

日本では経済産業省が2016年度から実証事業を推進しており(NTTなどが参加)34、高価な火力発電所による調整力に代わる、より安価な安定化対策として大きな期待が寄せられている 34

未来の制御:ブロックチェーンと分散型P2P取引

VPPが、アグリゲーターという「中央集権的」な管理者を必要とするのに対し、その先にある未来として、ブロックチェーン技術を用いた「分散型」のエネルギー管理が研究されている 46

これは、「スマートコントラクト」(契約の自動執行)を用い、需要家同士がアグリゲーターを介さず、P2P(ピアツーピア)で直接エネルギーを売買(融通)する世界観である 46

この分散型システムでは、各家庭(エージェント)が「自分自身の利益」を最大化するように行動しつつ、システム全体(例:地域変電所の混雑解消)の最適化も同時に達成するという、非常に高度な制御が求められる。そのための「分散型最適化アルゴリズム」(例:ADMM – Alternating Direction Method of Multipliers46 の研究が進められている。ある研究 47 では、この分散型プラットフォームが、従来の手法に比べてユーザーコストを最大38.6%削減したと報告されている。

しかし、2024年の北米の電力会社を対象とした調査 49 によると、実に44%がDERMSの導入に関して「まだ開発中・パイロット段階」であり、システムは全く追いついていない。これは日本も同様である。

ここに、日本の再エネ普及における真のボトルネックが潜んでいる。VPPやDERMSという「受け皿(プラットフォーム)」の構築と、個々の蓄電池の「制御(アルゴリズム)」の開発は、鶏と卵の関係にある。「システム」と「個」、両方のインテリジェンスが同時に進化しなければ、脱炭素は加速しない。

第6章:理論と実践の「深い溝」:事業者が直面するシミュレーションの壁

第2章で「数理モデル」を、第3章で「AI」を、第4章・第5章でその「実践の場」を、世界最高水準の知見に基づき解説してきた。

では、需要家や再エネ事業者であるあなたが、明日から「GWO(オオカミ)のアルゴリズムを実装し、MILP(混合整数線形計画法)を解き、JEPX価格を予測し、3000種類の電力プランに対応するシステム」を自社で開発・運用することは、果たして可能だろうか?

おそらく、である。

高度なアルゴリズムは、学術論文を読めば理解できるかもしれない。しかし、事業者が「最適制御」を実践しようとする時、その手前で必ず直面する、絶望的とも言える「深い溝(The Gap)」が存在する。

事業者が直面する「真の壁」は、アルゴリズムの実装(How)以前の、「前提条件のモデル化(What)」の困難さにある。

  1. データの壁(提案の遅延):

    太陽光や蓄電池の提案プロセスは、従来「手作業」でデータを集め、Excelで個別に計算していた。顧客の電気料金の検針票をもらい、システムの設計をし、経済効果を試算するまでに、数日、あるいは1週間かかるのが当たり前だった 50。この「提案の遅延」は、商機を逃す致命的な要因となる。

  2. 複雑性の壁(不正確な予測):

    顧客の電力使用状況(負荷プロファイル)や、契約している電力プラン 51 は、千差万別である。特に日本は電力自由化により、大手電力会社10社と無数の新電力が入り乱れ、100社・3000プランとも言われる複雑怪奇な料金体系が存在している 52。この全てを把握し、顧客にとっての「最適プラン」を診断するのは、人手では不可能に近い

  3. 信頼性の壁(データの陳腐化):

    さらに悪いことに、これらの前提データは「静止」していない燃料費調整額や再エネ賦課金は毎月変動し 52、政府や自治体が提供する補助金 53 も刻々と更新される。一度作ったExcelの計算式は、翌月にはもう「陳腐化」している。

ここで、日本の事業者が直面する根本課題が、再び定義される。

「最適制御」の第一歩は、GWOやWOAを実装することではない。

それは、「顧客Aが、プランBの契約下で、蓄電池Cを導入した場合、10年後の経済効果Dはいくらか?」という、事業の根幹となる問いに、「迅速」にかつ「正確」に答えること。すなわち、「高精度な経済性シミュレーション」を実行することである。

この「迅速かつ正確なベースラインの提示」こそが、理論と実践の間に横たわる「深い溝」であり、99%の事業者が、高度なAI最適化の「手前」で挫折する真の原因である。

第7章:科学を「商談」に変える実践的ツール:「エネがえる」が解く現場の課題

第6章で特定した、理論と実践の「深い溝」。この深い溝を埋め、高度な「科学」を、現場の営業担当者が使える「商談ツール」へと翻訳・実装するために設計されたのが、「エネがえる」のようなエネルギーシミュレーション・プラットフォームである。

「エネがえる」が解決する課題(The Bridge)

エネがえるは、第4章で見た日本の3つのユースケース(需要家、C&I、事業者)が抱える、それぞれの「壁」に対応するソリューションを提供している。

  • エネがえるASP(家庭用) 52

    • 対応する課題: ポストFIT(卒FIT)2 に直面する需要家の「自家消費最大化」ニーズ 35

    • ソリューション: 第6章の「複雑性の壁」を、圧倒的なデータ網羅性で解決する。

      1. 負荷プロファイルの推計: 5つの生活パターン(例:朝型、昼型、夜型、オール電化型、カスタム型)を選択するだけで、顧客の電力使用パターンを高精度に推計する 52

      2. 料金データベース: 日本国内の100社/3,000プランに及ぶ電力料金データベースを標準搭載。燃料費調整額も毎月更新 52

      3. 機器データベース: 国内主要メーカーの蓄電池(98%以上カバー)、エコキュート、IHの製品データベースを搭載 52

      • これらにより、従来は1週間かかっていた経済性シミュレーションと提案書作成を、わずか「5分」で完了させ 52、商談の速度と成約率を劇的に向上させる。

  • エネがえるBiz(産業・商業用) 52

    • 対応する課題: C&I(産業・商業)顧客への屋根上自家消費型太陽光・産業用蓄電池の自己所有モデルやPPAモデル提案 36

    • ソリューション: 家庭用とは全く異なる、高圧・特別高圧の複雑な料金体系(デマンド管理)に対応 53。工場の詳細なデマンドデータ、負荷データをインポートし、自家消費によるCO2削減効果や、産業用蓄電池導入時のピークカットや余剰充電等による自家消費最大化の価値をシミュレーションする 53

  • エネがえるAPI(開発者・カスタマイズ用) 53

競合分析と「エネがえる」の独自性

もちろん、こうしたシミュレーションツールは世界中に存在する。

バッテリー「セル」そのものの物理的・化学的な挙動をシミュレートするAnsys 55、Siemens 55、MathWorks 56 といったエンジニアリングツールは、本記事のテーマである「経済性シミュレーション(販売)」とは土俵が異なる。

販売シミュレーションの領域では、Energy Toolbase 57 が米国市場に 59、KYOS 38 が欧州の電力取引市場に強みを持つ。

では、グローバルな競合が存在する中で、「エネがえる」の核心的な価値、すなわち日本の事業者がそれを選ぶべき理由は何だろうか?

他ツールとの情報を比較すると、極めて重要な点が見えてくる。エネがえるの真の価値は、長年にわたって蓄積された「日本市場に特化した、3,000プランの網羅性」と、燃料費調整額・補助金データを含む「月次更新のメンテナンス体制」**という、圧倒的な「データカバレッジ」と「鮮度」にある 52

これは、第3章で議論した高度なAIアルゴリズム(GWO, WOA)が機能するための「土台(Ground Truth)」そのものである。

情報工学の鉄則に、「GIGO(Garbage In, Garbage Out)」という言葉がある。不正確な料金データ(ゴミ)を、どれほど高度なAI(GWO)に入れても、出てくるのはゴミのような最適解だけだ。

エネがえるの真の提供価値は、AIによる「派手な最適化」ではなく、その最適化の「前提」となる「地味だが極めて重要な、日本市場の正確なデータモデル」を、SaaS/APIとして提供することにある。

読者へのアクション提案

世界最先端の「最適制御」の科学を学ぶことは、エネルギー事業者にとって不可欠な教養である。しかし、あなたのビジネスの「第一歩」は、自社でGWOアルゴリズムを開発することではない。

まずは、日本市場で最も正確な「経済性シミュレーション」を実行し、顧客に「迅速」かつ「正確」な未来を提示することから始まる。

エネがえるASPBizは、この「第一歩」を強力にサポートする。理論と実践の「溝」を飛び越え、あなたのビジネスを加速させるために、まずはそのシミュレーション・エンジンを試してみてほしい。

結論:エネルギーの未来は「最適化問題」である

2025年以降、エネルギー貯蔵の未来は、2つの車輪によって駆動される。

一つは、全固体電池 63 やナトリウムイオン電池 64 といった、より安全で高密度な「ハードウェア」の革新。

もう一つは、AI駆動型BMS 4 や分散型エネルギーシステム(DERMS)40 といった、「インテリジェンス」の革新である。

AIとバッテリーは、共進化する関係にある。バッテリーは、ロボットや自動運転車といったAIが現実世界で稼働するための「身体(電力)」であり 5、AIは、バッテリーの性能(寿命・効率)を限界まで引き出す「脳」である 21

本記事で詳解してきたように、日本の再エネ普及と脱炭素の成否は、もはや「太陽光パネルや蓄電池の設置台数」という「量」の問題ではない。

それは、JEPX、LTDA、ポストFIT、BCPといった、複雑に絡み合う制約条件の中で、個人の利益と社会全体の利益を最大化する解を見つけ出す「最適化問題」である。

この壮大かつ難解な「最適化問題」に挑むすべての需要家と再エネ事業者にとって、エネがえるは、その「第一歩」を踏み出すための、最も信頼できるシミュレーション・エンジンとなるだろう。

FAQ(よくある質問)

Q1: 2025年/2026年のLTDA(長期脱炭素電源オークション)の変更点を教えてください。

A1: 第1章で詳述した通り、2025年10月登録開始予定の第3回オークションでは、蓄電池(BESS)の募集枠が前回の1.7GWから800MWに削減されます 1。さらに、最低放電時間が3時間から6時間に延長されました 1。これは、短期的なアービトラージではなく、長期的な劣化管理能力と系統安定への真の貢献が求められることを意味します。

Q2: 蓄電池の「最適制御」とは、具体的に何をすることですか?

A2: 第2章で解説した通り、単にON/OFFするのではなく、「収益最大化(例:電力価格差)」と「バッテリー劣化最小化」という、相反する2つの目的を同時に最大化することです 9。MILP(混合整数線形計画法)10 や確率的最適化 19 といった数理モデルを使い、将来の価格や天候を予測しながら、20年といった事業期間全体での利益を最大化する充放電スケジュールを計算します。

Q3: AIアルゴリズム(GWOやWOA)は、蓄電池制御にどう役立ちますか?

A3: 第3章で解説した通り、GWO(オオカミ)25 やWOA(クジラ)27 のようなAIアルゴリズムは、需給調整市場のような複雑な選択肢の中から、人知を超える速度で「ほぼ最適」な充放電パターンを見つけ出します。また、AIによる高精度な予知保全とスマート充電は、バッテリーの寿命を最大40%延長する可能性があると報告されています 32

Q4: DERMSとVPPの違いは何ですか?

A4: 第5章で定義した通り、DERMS(分散型エネルギーリソース管理システム)42 は、地域に散らばるDER(蓄電池、EVなど)を電力会社が把握・制御するための「技術プラットフォーム(OS)」です。VPP(仮想発電所)34 は、そのDERMSの技術を使ってDERを束ね、市場で取引(例:調整力の提供)する「ビジネスモデル(アプリケーション)」と理解することができます。

Q5: ポストFIT(卒FIT)対策として、蓄電池は本当に経済的メリットがありますか?

A5: 第1章で示した通り、売電単価が約80%下落(例:42円→8円)2 したため、高い電力を買うことを避けて、発電した電力を自家消費する経済的メリットは非常に大きくなっています。ただし、そのメリットを最大化するには、第4章で見たYAMABISHI「SmartSC」35 のように、気象予報や負荷予測に基づいた「賢い制御」が不可欠です。

Q6: C&I(産業用)でPPAモデルと蓄電池を導入するメリットは何ですか?

A6: 第4章の2023年日本国内事例 36 で分析した通り、メリットは大きく3つあります。(1) 太陽光によるCO2削減(環境価値)37、(2) 電気代削減と初期投資ゼロ(経済価値)、(3) 災害時の事業継続(BCP/レジリエンス価値)です。特にPPAモデルは、需要家が初期投資や補助金申請の手間を負わずに導入できる点が最大の強みです 36

Q7: 日本市場で「エネがえる」を選ぶべき理由は何ですか?

A7: 第7章で分析した通り、どれほど高度な最適制御AI(GWOなど)も、入力される「データ」が不正確では正しい答えを出せません(GIGOの原則)。エネがえるは、日本市場に特化し、100社3,000プラン以上の電力料金 52、98%をカバーする蓄電池データベース、さらに毎月更新される燃料費調整額や補助金情報を搭載しています 52。この「日本市場の正確なデータモデル」こそが正確なシミュレーションと最適化の「土台」となります。

ファクトチェック・サマリー

本記事は、2024年から2025年にかけて公開された学術論文、技術レポート、および市場分析に基づき構成されています。

  • 最適制御理論: MILP、確率的最適化、等価回路モデル、レインフロー法に関する記述は、MDPI、IEEE、ResearchGate等で公開された査読付き論文に基づいています 10

  • AIアルゴリズム: GWOおよびWOAに関する記述は、Elsevier、MDPI、Taylor & Francis、CEONの出版物に基づいています 23。AIによる寿命延長(40%)の数値は、2025年5月公開のCarbon Credits誌のレポートに基づきます 32

  • 日本市場の課題: LTDAのルール変更 1、JEPXのビジネスモデル 13、ポストFIT問題 2、PPA導入事例 36 に関する記述は、日本の省庁(環境省)、業界ニュース、および三菱総合研究所 15 などの国内レポートに基づいています。

  • DERMS/VPP: SEPAの2025年白書 42 やNTT 34、IET 46 の公開情報に基づいています。

  • 製品情報: エネがえるASP/Bizの機能(3,000プラン等)に関する記述は、公式サイトの公開情報に基づいています 52。競合他社(ENACT、Energy Toolbase、KYOS等)の情報も、各社の公開情報に基づいています 38

  • 除外された情報: 66はアクセス不可のため参照していません。25は質問と回答が不一致(破損)していたため、62(ENACTの日本進出)の分析に切り替え、25(およびそのコピーである25)は使用しませんでした。

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著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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たった15秒でシミュレーション完了!誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!
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