高市早苗新政権下の再エネシナリオ:2030年、日本のエネルギー地図は変わるか?

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目次

高市早苗新政権下の再エネシナリオ:2030年、日本のエネルギー地図は変わるか?

序章:2025年、日本のエネルギー政策の岐路 – 高市早苗新政権が描く未来とは

問題提起:なぜ今、高市氏のエネルギー政策が日本の未来を左右するのか

2025年、日本は「2050年カーボンニュートラル」という国際公約と、地政学的リスクの高まりを背景とした「エネルギー安全保障の確立」という、二つの至上命題の狭間で重大な岐路に立たされている。化石燃料のほぼ全てを輸入に依存し、電力システムの脆弱性が露呈する中、次期政権がどのようなエネルギー政策の舵取りを行うかは、国家の経済、安全保障、そして未来世代の環境を根本から規定する。

この極めて重要な局面において、エネルギー政策に明確かつ強力な思想を持つ高市早苗氏が新政権を樹立する可能性は、日本の進路を根底から変えうる最大の変数として浮上している。彼女の政策は、既存のエネルギー基本計画やGX(グリーン・トランスフォーメーション)政策の路線を単に修正するのではなく、その根底にある哲学を問い直し、優先順位を大胆に組み替える可能性を秘めているからだ。

本レポートの目的と構成:単なる政策解説ではなく、「未来予測」としての価値を提示

本稿の目的は、高市氏個人の発言や政策思想を単に解説することではない。その思想が、現行の国家戦略、技術的・経済的現実、そして国際社会の潮流とどのように相互作用し、どのような化学反応を起こすのかをシステム思考で多層的に分析することにある 1

具体的には、高市氏が公言する「エネルギー自給率100%」という野心的な目標、原子力・核融合への強い傾倒、そして大規模太陽光発電(メガソーラー)への懐疑的な視点を解剖する 4。その上で、これらが第6次エネルギー基本計画やGX実現に向けた基本方針という既存の政策フレームワークと衝突、あるいは融合する過程をシミュレーションする 7

最終的に、2030年の日本のエネルギー地図がどのように塗り替わる可能性があるのか、複数の蓋然性の高い未来シナリオを定量的・定性的に描き出し、そこに潜む根源的な課題と、地味だが実効性のある解決策を提示する。これは単なる政策解説ではなく、日本の未来を左右する意思決定のための、高解像度な「未来予測レポート」である。

第1章:高市エネルギー・ドクトリンの解剖 -「原子力」と「核融合」に賭ける国家観

高市氏のエネルギー政策は、断片的な発言の集合体ではなく、一貫した国家観と安全保障観に裏打ちされた体系的な思想、すなわち「高市エネルギー・ドクトリン」として理解する必要がある。その核心は、エネルギーを経済活動のインプットとしてだけでなく、国家の独立と存続を支える基盤と捉える点にある。

1-1. 「エネルギー自給率100%」の真意:安全保障を軸とした政策思想の源流

高市氏が掲げる「エネルギー持給率100%を目指す」という目標は、単なる理想論やスローガンではない 4。これは、日本のエネルギー構造が抱える根源的な脆弱性に対する強烈な危機感の表れである。日本のエネルギー自給率はわずか11.8%(2021年度)に過ぎず、特に電力の主燃料であるLNGや石炭はほぼ100%を輸入に依存している 9

この構造は、中東情勢の緊迫化やウクライナ侵攻後の資源価格高騰など、国際情勢の変動が即座に国内の電力価格や供給安定性に直結することを意味する。高市氏のドクトリンは、この「外部依存」というリスクを国家安全保障上の最大の脅威とみなし、国内でコントロール可能なエネルギー源の比率を極限まで高めることを最優先課題と位置づける。この思想が、次節以降で詳述する原子力への強い支持の根源となっている。

1-2. 原子力ルネサンスの現実味:再稼働、次世代革新炉、そして核燃料サイクル

高市ドクトリンにおいて、エネルギー安全保障と脱炭素を両立させるための最有力な選択肢は、原子力である。彼女は「安全の確保を大前提とした原子力発電所の再稼働は重要」と明確に位置づけている 1。これは、単に既存の原発を動かすというレベルに留まらない。

2022年秋の政治セミナーでは、三菱重工業が関西電力などと共同開発する革新炉「SRZ1200」の名称をスラスラと挙げるなど、次世代の原子力技術に対する深い関心と知識を示している 10。この姿勢は、現行のGX基本方針が示す「廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替えを具体化する」という方針を、より積極的に、そして広範に推進しようとする強い意志の表れと言える 11。彼女にとって原子力は、単なる電源の一つではなく、エネルギー自給率向上と産業技術の維持・発展を同時に実現する国家戦略の中核なのである。

1-3. メガソーラーへの視線:「質の悪い再エネ」の排除と「質の高い再エネ」への選別

高市氏のエネルギー政策で最も特徴的な点の一つが、再生可能エネルギーに対する選別的な姿勢である。特に、メガソーラーに対しては「景観破壊や生態系への影響」を理由に阻止する考えを明確に示している 5。これは、単純な「反・再エネ」と解釈すべきではない。むしろ、彼女の価値観に合致しない「質の悪い再エネ」を規制し、許容範囲内の「質の高い再エネ」へと誘導しようとする意図が読み取れる。

この背景には、日本の国土の約7割を森林が占め、平地が少ないという物理的な制約がある。大規模な太陽光発電所の設置は、必然的に森林伐採や農地転用を伴い、土砂災害のリスクや地域社会との軋轢を生むという現実的な課題が存在する 12。高市氏の主張は、こうした問題意識と共鳴するものである。

しかし、ここに重大な政策的ジレンマが生まれる。現行の第6次エネルギー基本計画が掲げる「2030年度再エネ比率36~38%」という野心的な目標は、大規模な事業用太陽光発電の導入を前提に積み上げられている 2。もし高市新政権がメガソーラーに強力な規制をかければ、この「量」を担う部分がごっそりと抜け落ちることになる。

その穴を埋めるには、洋上風力や次世代太陽電池といった他の再エネの爆発的な普及が不可欠となる。だが、日本の遠浅の海が少ない地理的条件から本命視される浮体式洋上風力は、2025年時点でもコストが高く、巨大な風車を製造・設置するためのサプライチェーンや港湾インフラが国内に未整備という課題を抱えている 14。また、都市部での普及が期待されるペロブスカイト太陽電池も、実用化の鍵となる耐久性や、有害物質である鉛の使用といった課題が残る 16

結果として、高市新政権下では、公式な再エネ導入目標と、政権が推進する政策下で実際に達成可能な導入量との間に、埋めがたい巨大な「ギャップ」が生じることになる。そして、このギャップこそが、次世代革新炉を含む原子力を最大限活用することを正当化するための、最も強力なロジックとして機能することになるだろう。つまり、メガソーラーへの規制は、原子力回帰への道筋を論理的に舗装するための戦略的な布石となりうるのである。

1-4. 究極のエネルギー「核融合」:国家戦略としての野心と政治的機能

高市エネルギー・ドクトリンの長期的な到達点として、そして彼女の政策の象徴として位置づけられているのが、核融合エネルギーである。彼女は科学技術政策担当大臣として、日本初となる国家戦略「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」の策定を主導した 4。この戦略は、2030年代という極めて野心的な時期に発電実証を目指す工程表を掲げ、G7の閣僚会合でも国際協調を働きかけるなど、日本の技術的優位性を背景とした国家プロジェクトとしての色彩が濃い 19

しかし、核融合の実用化について、多くの専門家は早くても2050年頃と見ている 10。なぜ、彼女はこれほど挑戦的な目標を掲げるのか。これは単なる技術開発への期待感だけでは説明できない、高度な政治的機能が内包されている。

核融合は、高レベル放射性廃棄物を原理的に出さず、燃料となる重水素は海水から無尽蔵に採取できるため、「究極のクリーンエネルギー」と呼ばれる 4。この「夢のエネルギー」の実現が間近であるという未来像を提示することは、国民に対して強力なメッセージとなる。すなわち、そこに至るまでの「つなぎ」の期間、多くの課題を抱える既存の原子力(核分裂)を維持・推進することへの理解を得るための、強力な政治的ナラティブ(物語)を構築するのである。

この戦略により、「再エネ vs 原子力」という従来の二項対立の構図は、「今日の原子力は、明日の核融合への架け橋」という新たなストーリーへと転換される核融合という壮大な目標は、原子力が抱える最終処分場問題や安全神話の崩壊といった負のイメージを覆い隠し、原子力推進の心理的・政治的ハードルを劇的に下げる効果を持つ

高市氏の核融合戦略は、長期的なエネルギー安全保障の追求という本来の目的に加え、短中期的に原子力ルネサンスを実現するための「未来からの援護射撃」として、極めて巧みに設計された政治的ツールなのである。

第2章:日本の現在地 – 第6次エネ基とGX政策の遺産

高市新政権が誕生した場合、その政策は白紙の状態から始まるわけではない。既に定められた国家目標、動き出した巨大な政策パッケージ、そして国際社会との約束という、重厚な「遺産」の上で展開されることになる。新政権の未来を占うためには、まず我々が立っている現在地を正確に把握する必要がある。

2-1. 2030年目標「再エネ36-38%」の達成度評価(2025年時点)

日本の中期的なエネルギー政策の根幹をなすのが、2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」である。この計画は、2030年度の電源構成について、極めて野心的な目標を設定している 7

  • 再生可能エネルギー:36~38%

  • 原子力:20~22%

  • 火力(LNG、石炭、石油等):41%

この目標は、2050年カーボンニュートラル達成への道筋を示す重要なマイルストーンと位置づけられている 20。しかし、2025年時点での進捗は芳しくない。経済産業省が公表した2023年度のエネルギー需給実績(速報)によると、総発電電力量に占める再エネの比率は21.7%に留まっている 21目標達成には、残されたわずか数年で、これまでの導入ペースを劇的に加速させる必要がある。特に、目標の36~38%のうち、太陽光が約14~16%、風力が約5%を担う計画であり、大規模な発電所の建設が不可欠な状況だ。この厳しい現実が、高市新政権にとっての政策決定の出発点となる。

2-2. GX政策のエンジン:150兆円投資とカーボンプライシングは誰がために

現行のエネルギー政策を推進するための具体的な実行計画が、「GX実現に向けた基本方針」である 8。これは、脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の三つを同時に実現することを目指す壮大な国家戦略だ。

その核心は、今後10年間で150兆円を超える官民GX投資を引き出すという目標にある 22。この巨大な投資を誘発する起爆剤として、政府は二つの強力なエンジンを用意した。

  1. GX経済移行債(20兆円規模の先行投資支援): 政府が新たに発行する国債を財源とし、民間だけでは投資判断が難しい脱炭素技術の開発や社会実装に対して、今後10年間で20兆円規模の支援を行う 11

  2. 成長志向型カーボンプライシング構想: 炭素排出に価格を付け(値付け)、企業の行動変容を促す仕組み。具体的には、以下のスケジュールで段階的に導入される 11

    • 2026年度~: 多排出産業を対象とした「排出量取引制度」の本格稼働

    • 2028年度~: 輸入される化石燃料を対象とした「炭素に対する賦課金」の導入

    • 2033年度~: 発電事業者を対象とした排出枠の「有償オークション」の段階的導入

このGX政策の枠組みは、特定の技術に肩入れせず、市場メカニズムを通じて効率的な脱炭素化を目指すという理念に基づいている。しかし、ここに大きなリスクが潜んでいる。20兆円という巨額のGX経済移行債の具体的な配分先は、時の政権の政策的判断、すなわち裁量に大きく委ねられるからだ。

高市氏のように、原子力・核融合を推進し、メガソーラーには懐疑的という明確な技術的選好を持つリーダーが政権を握った場合、この資金が彼女のドクトリンに沿って重点的に配分される可能性は極めて高い。具体的には、次世代革新炉の研究開発、核融合関連の基盤技術、そして既存の火力発電インフラを延命させつつ脱炭素化を図る水素・アンモニアの導入促進などに、巨額の国家予算が流れ込むシナリオが現実味を帯びる。

その結果、本来は技術的中立性を謳っていたはずのGX政策が、その趣旨を骨抜きにされ、実質的には「原子力・次世代技術推進政策」へと変質してしまう。高市新政権はGX政策を廃止するのではなく、それを自らのエネルギー戦略を実現するための強力な「打ち出の小槌」として利用する、いわば「政策のハイジャック」が起こりうるのである。

2-3. 国際公約と国内政策の乖離:G7諸国との比較で見る日本の立ち位置

日本のエネルギー政策は、国内事情だけで完結するものではない。国際社会、特に主要先進国(G7)との協調が強く求められる。しかし、この点において、日本の立ち位置は年々厳しさを増している。

世界の再生可能エネルギー導入は、IEA(国際エネルギー機関)の予測すら上回るペースで爆発的に加速している 26。特に太陽光発電は、中国が圧倒的な生産力と国内導入で市場を牽引し、2023年には世界の年間導入量の約60%を占めるに至った 28。IEAは、2023年に世界の再エネ発電比率が初めて30%に達したと報告している 29

こうした潮流の中、G7各国は脱炭素化の目標を次々と引き上げている。カナダ、ドイツ、英国、米国は「2035年まで」の電力部門の脱炭素化を目標として掲げている 30。特にドイツは、2023年に改正された「再生可能エネルギー法(EEG2023)」で、2030年までに総電力消費に占める再エネ比率を80%にまで高めるという、極めて野心的な目標を法制化した 31

翻って日本は、G7の中で唯一「2035年電力部門脱炭素化」の目標を掲げていない国である 30この状況で、もし高市新政権が原子力をエネルギー政策の中心に据え直し、再エネ、特に太陽光の導入にブレーキをかけるような政策を打ち出せば、日本は国際的な脱炭素の潮流からさらに大きく乖離することになる。これは、環境分野での国際的な孤立を深めるだけでなく、日本の輸出産業がグローバルなサプライチェーンから排除されるといった、深刻な経済的リスクにも直結しかねないのである。

第3章:シナリオ分析:2030年、日本のエネルギー地図はどう変わるか

これまでの分析を踏まえ、高市新政権が誕生した場合の2030年の日本のエネルギー状況を、3つの異なる未来シナリオとして描き出す。これらは単なる憶測ではなく、政策の方向性、市場の反応、技術の進展、そして政治的現実を織り交ぜた、蓋然性の高い未来像である。

シナリオA:「原子力回帰」加速シナリオ – “Back to the Nuclear Future”

これは、高市エネルギー・ドクトリンが最も純粋な形で実行されるシナリオである。

  • 政策の方向性:

    • 原子力最優先: エネルギー政策の最優先課題を「エネルギー安全保障とベースロード電源の確立」と位置づけ、原子力の最大限活用を断行する。原子力規制委員会の安全審査プロセスの迅速化を政治的に後押しし、既存原発の再稼働を可能な限り加速させる。

    • GX予算の集中投下: 20兆円規模のGX経済移行債は、次世代革新炉(SMRや高温ガス炉など)の研究開発・実証プロジェクト、および核融合関連技術の基盤整備に集中的に投下される 10

    • 再エネの選別と規制強化: メガソーラーに対しては、景観や防災の観点から新たな環境アセスメント要件や厳しい立地規制を導入し、事実上、新規の大規模開発を抑制する 5。再エネ導入目標(36-38%)は公式には維持しつつも、その達成が困難であることを逆手に取り、目標未達分を原子力で補うことの正当性を主張する。

  • 2030年の電源構成予測:

    • 原子力の比率は、再稼働が順調に進むことを前提に、第6次エネ基の目標である20-22%を達成、あるいはそれを上回る可能性がある。

    • 再生可能エネルギーの比率は、大規模太陽光の停滞が響き、30%前後で頭打ちとなる。

    • 結果として、CO2排出削減の重責を担うはずだった再エネの伸び悩みと、依然として高い電力需要を埋めるため、火力発電の比率は41%程度で高止まりする。

  • 社会・経済への影響:

    • ポジティブ面: 天候に左右されないベースロード電源が確保されることで、電力供給の安定性と信頼性は向上する。電力多消費産業からは一定の評価を得る可能性がある。

    • ネガティブ面: 太陽光や風力といった再エネ関連産業の成長が著しく鈍化し、投資が停滞する。国際的な脱炭素潮流から大きく乖離することで、日本の輸出企業が「再エネ100%」を求めるグローバルサプライチェーンから締め出されるリスクが顕在化する。また、核燃料サイクルの確立や高レベル放射性廃棄物の最終処分場問題が、より先鋭的な政治課題として再燃する。

シナリオB:「市場原理との相克」シナリオ – “The Divided Market”

政府がシナリオAの路線を強力に推進する一方で、市場原理と民間の脱炭素化への要請が、それとは異なる動きを生み出すシナリオである。

  • 政策の方向性:

    • 政府はシナリオAと同様に原子力推進とメガソーラー規制を進めるが、経済界、特にグローバルに事業を展開する企業からの強い抵抗に直面する。

    • 市場の独自行動: AppleやGoogleといった巨大IT企業をはじめとするグローバル企業は、取引先に対してサプライチェーン全体での脱炭素化(使用電力の100%再エネ化など)を要求。これに応えるため、日本の輸出企業は政府の方針とは無関係に、再生可能エネルギーの確保に奔走する。

    • 分散型電源の自律的拡大: 太陽光発電の均等化発電原価(LCOE)は低下を続け、政府の補助金(FIT/FIP)に頼らずとも、企業の工場屋根や敷地に設置するオンサイト型のコーポレートPPA(電力購入契約)が経済合理性を持つようになる 33。これにより、政府の規制が及ばない小~中規模の分散型太陽光発電が、市場原理に基づいて自律的に拡大していく。

  • 2030年の電源構成予測:

    • 政府が主導する大規模集中電源(原子力)と、市場が主導する小規模分散電源(太陽光)が、互いに連携することなく並存する「まだら模様」のエネルギーミックスが形成される。

    • 大規模な再エネ開発は停滞するため、全体の再エネ比率は30%台前半に留まる。

    • 一方、原子力の再稼働も、立地地域の合意形成の難航などから政府の想定通りには進まず、結果的に需給ギャップを埋めるためのLNG火力への依存が継続する。

  • 社会・経済への影響:

    • 国家としてのエネルギー政策に一貫性が失われ、投資の予見性が著しく低下する。電力システムは、集中型と分散型が非効率に混在し、系統の安定運用コストが増大する。

    • 結果として、全体のエネルギーコストは高止まりし、日本の産業競争力に深刻な悪影響を及ぼす。エネルギー政策が「官」と「民」で分裂し、国全体として非効率な状態に陥る。

シナリオC:「ハイブリッド戦略」への軟着陸シナリオ – “The Pragmatic Pivot”

高市政権が、当初のドクトリンを維持しつつも、経済合理性や技術的現実を踏まえて現実路線へと政策を修正する、最も複雑かつ現実的なシナリオである。

  • 政策の方向性:

    • 現実主義への転換: 高市政権は、産業界からの突き上げや国際的な孤立への懸念から、より現実的なアプローチへと転換する。

    • 役割分担の明確化: 原子力はあくまで「エネルギー安全保障を担保する最後の砦」と位置づけ、再稼働を着実に進める。一方で、再エネを単に規制するのではなく、「質の高い再エネ」を戦略的に推進する方向へと舵を切る。

    • 戦略的GX投資: GX経済移行債を、特定の技術分野に戦略的に重点配分する。例えば、日本の技術的優位性が期待でき、かつ都市部での導入ポテンシャルが高いペロブスカイト太陽電池の実用化・社会実装プロジェクトに集中的に投資する 17。また、新たな基幹産業となりうる

      浮体式洋上風力について、風車の重要部品や設置船(SEP船)などを国内で製造するためのサプライチェーン構築を、国家戦略として強力に支援する 15

  • 2030年の電源構成予測:

    • 原子力の比率は、再稼働の進捗により15-20%程度を確保。

    • 再生可能エネルギーの比率は、メガソーラーの停滞を、都市型太陽光や洋上風力が部分的に補う形で、30%台半ばに到達する。

    • 第6次エネ基の目標には届かないものの、脱炭素化とエネルギー安全保障のバランスを取る方向へと進む。

  • 社会・経済への影響:

    • 最も現実的な落としどころであるが、実現には極めて高度な政治的リーダーシップが求められる。原子力と再エネ、双方の利害関係者を調整し、限られた国家予算を効果的に配分するという、強力な実行力が不可欠となる。

    • 成功すれば、安全保障を確保しつつ、新たな技術分野で日本の産業競争力を高めるという、次世代への道筋を示すことができる。

【重要テーブル】2030年電源構成シナリオ別比較表

項目 現状目標(第6次エネ基) シナリオA:原子力回帰 シナリオB:市場との相克 シナリオC:ハイブリッド戦略
① 再エネ比率 (%) 36~38% 約 30% 約 32% 約 35%
② 原子力比率 (%) 20~22% 約 22% 約 18% 約 18%
③ 火力比率 (%) 41% 約 48% 約 50% 約 47%
④ CO2排出量 (2013年度比) -46% 約 -38% 約 -35% 約 -40%
⑤ 標準家庭の年間電力負担額 上昇(賦課金+炭素税) 上昇(炭素税影響大+原子力コスト) 高止まり(非効率なシステムコスト) 上昇(GX投資コスト+炭素税)
⑥ エネルギー自給率 (%) 約 30% 約 33% 約 28% 約 30%

注:⑤と⑥は政策や市場の動向に基づく qualitative な予測を含む。負担額の試算根拠:再エネ賦課金の動向 3、カーボンプライシングの影響 37、原子力関連コストを総合的に勘案。

この表は、各シナリオがもたらす未来のトレードオフを明確に示している。例えば、シナリオAはエネルギー自給率を最も高めるが、CO2削減目標の達成は困難になる。シナリオBは市場の活力を取り込むが、国全体としてのエネルギーコストが最も高くなるリスクを抱える。どの未来を選択するかが、2020年代後半の日本に突きつけられた重い課題なのである。

第4章:根源的課題への処方箋 – 地味だが実効性のあるソリューション

高市新政権であろうとなかろうと、日本のエネルギーシステムが抱える課題は根深く、構造的である。イデオロギー的な対立を超え、これらの根源的なボトルネックを解消しなければ、どのシナリオを辿っても日本のエネルギーの未来は拓けない。ここでは、派手さはないが、本質的かつ実効性のある3つの処方箋を提示する。

4-1. 課題1:系統制約の打破 – 「つなぐ」から「賢く使う」への転換

現状分析: 再生可能エネルギー、特に北海道や東北、九州に偏在する太陽光・風力のポテンシャルを最大限に活かす上での最大の物理的障壁が、送電網の容量不足、すなわち「系統制約」である。発電所はできても、電気を送る「道路」が満杯で、首都圏などの大消費地に届けられないという問題が深刻化している。

これに対し、政府は「日本版コネクト&マネージ」を導入。送電網の空き容量がなくても、混雑時には出力を抑制することを条件に発電所の接続を認める「ノンファーム型接続」などが進められている 38。しかし、これはあくまで既存の送電網を効率利用する応急処置的な側面が強く、抜本的な解決には至らない。電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、北海道と本州を結ぶ海底直流送電線の新設など、大規模な系統増強計画(広域連系系統マスタープラン)を策定しているが、その実現には数兆円規模の巨額な費用と長い年月が必要となり、誰がそのコストを負担するのかという問題が重くのしかかっている 43

ソリューション提案:

  • 広域連系線の増強を「国家安全保障投資」と位置づける:

    送電網の増強を、単なる電力インフラ整備ではなく、エネルギー安全保障と国土強靭化に資する「国家安全保障投資」と明確に位置づけるべきである。これにより、20兆円規模のGX経済移行債の一部を、北海道の豊富な風力や九州の太陽光を三大都市圏に届けるための基幹送電網強化プロジェクトに充当する、という政治決断が可能になる。これは、特定の発電技術ではなく、エネルギーの融通性を高める「プラットフォーム」への投資であり、将来のエネルギーミックスの柔軟性を確保する上で極めて重要である。

  • VPP/DER(仮想発電所/分散型エネルギーリソース)市場の創設加速:

    送電網を物理的に増強する「供給サイド」の発想だけでなく、需要を賢くコントロールする「需要サイド」の発想へと転換する必要がある。その切り札が、VPP(Virtual Power Plant)である。これは、工場や家庭に普及する電気自動車(EV)、蓄電池、エコキュート、太陽光パネルといった分散型エネルギーリソース(DER)を、IoT技術で束ねて遠隔制御し、あたかも一つの発電所のように機能させる仕組みだ 46。

    再エネの発電量が多すぎて電気が余る時間帯にはEVに充電を促し、逆に需給が逼迫する夕方にはEVから放電してもらう。こうした調整力を生み出すビジネスモデルの収益性を確立するため、彼らが提供する調整力が正当に評価され、対価を得られる市場(容量市場や需給調整市場)の制度設計を急ぐべきである。現時点では、これらの市場が未成熟で収益性が見通しにくいため、VPPビジネスへの本格参入をためらう事業者が多いのが実情だ 47。

4-2. 課題2:土地利用の最適化 – 「規制」から「誘導」へのパラダイムシフト

現状分析: 日本の国土は平地が少なく、再エネの適地確保は常に大きな課題である。メガソーラー開発を巡っては、農地法、森林法、自然公園法、河川法など、所管省庁が異なる多数の法律が複雑に絡み合い、許認可プロセスが煩雑で長期化する一因となっている 13。さらに、自治体が独自に景観条例などで規制を上乗せするケースも増えており、事業者にとっては予見性が低く、投資リスクを高めている 13。高市氏が懸念するような乱開発を防ぐ必要はあるが、現状の縦割りで画一的な規制は、優良なプロジェクトの足枷にもなっている。

ソリューション提案:

  • 「ポジティブ・ゾーニング」の法制化とインセンティブ付与:

    発想を転換し、「ここは開発してはいけない」というネガティブな規制から、「ここは再エネ導入を歓迎する」というポジティブな誘導へとパラダイムシフトすべきである。具体的には、環境省や内閣府が推進している、市町村が主体となって、環境保全や地域住民との合意形成の観点から再エネ導入に適した「促進区域」をあらかじめ地図上に明示する「ポジティブ・ゾーニング」の取り組みを、現在の努力義務から、実質的な義務へと格上げする法制化を検討すべきだ 48。さらに、促進区域を設定した自治体に対しては、GX関連の交付金を重点的に配分するなどのインセンティブを与えることで、地域主導での計画的な再エネ導入を強力に後押しする。

  • ペロブスカイト太陽電池によるフロンティア開拓:

    土地利用の制約を、技術革新によって乗り越える視点も不可欠だ。その最有力候補が、日本発の技術であるペロブスカイト太陽電池である。薄く、軽く、曲げられるという特徴を持つこの次世代太陽電池は、従来は設置が不可能だった場所を新たな発電所に変えるポテンシャルを秘めている 17。

    例えば、耐荷重の制約で重いシリコンパネルを設置できなかった古い工場の屋根、ビルの壁面、さらには住宅の窓ガラスなど、都市の未利用空間が巨大な発電ポテンシャルとなる 35。この技術の実用化と社会実装を、GX戦略の中核プロジェクトとして位置づけ、研究開発から量産体制の構築までを国が一体的に支援することで、土地利用問題を根本から覆すゲームチェンジを狙うべきである。

4-3. 課題3:国民負担の抑制と市場の自立 – 「賦課金」から「価値創造」へ

現状分析: 日本の再エネ普及は、長らくFIT(固定価格買取制度)によって支えられてきた。しかし、そのコストは「再エネ賦課金」として国民の電気料金に上乗せされ、その額は年々増加。2025年度には、標準家庭で年間1万4000円を超える負担となり、国民負担は限界に近づいている 3

この問題に対応するため、政府は再エネを市場に統合し、自立を促すFIP(フィードインプレミアム)制度へと移行を進めている。これは、再エネ発電事業者が卸電力市場で電気を販売し、その売電収入に一定のプレミアム(補助額)を上乗せする仕組みだ。しかし、卸電力市場の価格は常に変動するため、発電事業者にとっては収入が不安定になるという新たな課題が生まれている。この収益の予見性の低さが、新規プロジェクト組成の際の金融機関からの融資を困難にし、再エネ導入の新たなボトルネックとなりつつある 50

ソリューション提案:

  • FIP制度の高度化(フロア価格付きPPAの促進):

    FIP制度の収入不安定リスクをヘッジする仕組みを制度的に後押しする必要がある。その一つが、発電事業者と電力需要家(企業)が長期の電力購入契約(PPA)を結ぶ際に、最低買取価格(フロア価格)を設定するモデルである。市場価格がフロア価格を下回った場合でも、需要家がその価格での買い取りを保証することで、発電事業者の収益は安定する。このような「フロア価格付き長期PPA」を締結した企業に対して、税制上の優遇措置などを講じることで、国民負担を増やすことなく、民間のリスクテイクによる再エネ投資を促進できる。

  • 非化石価値取引市場の流動化:

    再エネで作られた電気には、「ゼロカーボン」という環境価値がある。この価値は「非化石証書」として電気そのものと切り離して取引される。企業がRE100などを達成するためには、この証書を購入する必要がある。しかし、現状の非化石価値市場は取引が年4回のオークションに限られるなど、流動性が低く、価格も不安定である 55。

    この市場を活性化させるため、証書の取引単位を小口化し、より頻繁に取引できるようなプラットフォームを整備すべきである。市場の流動性が高まれば、環境価値の価格発見機能が向上し、発電事業者は電力販売収入に加えて、環境価値の売却による安定した収益を見込めるようになる。これは、再エネが「賦課金」という国民負担に頼るモデルから、市場で「価値」を創造し自立するモデルへと移行するために不可欠なステップである。

第5章:経済と暮らしへのインパクト – 電気料金と産業競争力の未来

エネルギー政策の転換は、抽象的な国家戦略に留まらない。それは、家計の電気料金明細から、日本を代表する企業の国際競争力まで、経済と国民生活の隅々にまで具体的な影響を及ぼす。各シナリオがもたらす未来を、より身近な視点からシミュレーションする。

5-1. GX投資の行方:150兆円はどこへ向かうのか

今後10年で150兆円超というGX投資の行方は、日本の未来の産業構造を決定づける。そのうち政府が直接的に関与する20兆円のGX経済移行債の使途は、政権の意思によって大きく左右される。

  • シナリオA(原子力回帰)の場合: 20兆円の公的資金は、次世代革新炉や核融合といった原子力関連の巨大プロジェクト、および水素・アンモニア供給網の構築に集中的に投下される可能性が高い。これは、既存の重電メーカーや電力会社、ガス会社といった重厚長大産業の事業構造を維持・延命させる効果を持つ。イノベーションは既存産業の枠内で進むが、新たなプレーヤーが生まれにくい構造となる。

  • シナリオC(ハイブリッド戦略)の場合: 公的資金は、原子力関連技術と並行して、新たな成長分野にも戦略的に配分される。例えば、ペロブスカイト太陽電池の量産技術を確立するスタートアップや素材メーカー、浮体式洋上風力のサプライチェーンを担う造船・鉄鋼・建設業、そしてVPPを構築するIT・通信企業などに資金が還流する。これにより、エネルギー分野で新たなエコシステムが形成され、多様な担い手による新産業が創出される可能性がある。

5-2. 電気料金のシミュレーション:家計への直接的影響

国民の最大の関心事である電気料金は、どのシナリオを辿っても、短期的には上昇圧力がかかる可能性が高い。ただし、その内訳と上昇要因はシナリオごとに大きく異なる。

  • 再エネ賦課金の動向:

    シナリオAでは、再エネ、特に買取価格が高い案件が多い太陽光の新規導入が抑制されるため、再エネ賦課金の急激な上昇は鈍化するかもしれない。しかし、これは問題の先送りに過ぎない。一方で、原子力の再稼働や新設には巨額の安全対策費用やバックエンド(廃炉、最終処分)費用が必要となり、これらはいずれ何らかの形で電気料金に転嫁されるリスクを内包する。

  • カーボンプライシングの影響:

    2028年度から導入される「炭素に対する賦課金」と、2033年度からの発電事業者向け「有償オークション」は、火力発電の比率が高いほど電気料金を押し上げる要因となる 11。したがって、火力比率が50%近くに達する可能性があるシナリオAやBでは、このカーボンプライシングによる負担増が家計に重くのしかかることになる。

  • 総括:

    どのシナリオも「一長一短」であり、「電気料金が安くなる楽な道」は存在しない。シナリオAは「目先の賦課金上昇は抑えられるが、将来の原子力コストと炭素税が重い」。シナリオCは「GX投資などで短期的な負担はあるが、長期的なエネルギーコストの安定化を目指す」。国民は、どのコストを、どのタイミングで負担するのか、という厳しい選択を迫られることになる。

5-3. 日本の産業競争力:エネルギーコストと脱炭素化の遅れがもたらす二重のリスク

かつて、産業競争力にとってのエネルギー政策とは、「いかに安価で安定した電力を供給するか」という一点に尽きた。しかし、2020年代以降、そこにもう一つの重要な軸が加わった。それが「いかに脱炭素化された電力を供給できるか」である。

現在、グローバル市場では、顧客企業からサプライヤーに対して、製品の製造過程で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うよう求める動きが急速に広がっている。これは、環境意識の高い欧米の消費者や投資家からの要請に応えるためであり、もはや単なるCSR活動ではなく、取引を継続するための必須条件となりつつある。

この「脱炭素の外部圧力」は、日本の輸出産業にとって極めて深刻なリスクをもたらす。

もし、シナリオAのように国内の再エネ供給が停滞し、企業が再エネ電力を調達したくてもできない状況に陥れば、どれだけ高品質な製品を作っていても、国際的なサプライチェーンから弾き出されてしまう恐れがある。

これは、日本の産業界が「二重のリスク」に晒されることを意味する。国内では不安定なエネルギー需給によるコスト上昇圧力に苦しみ、国外では脱炭素化の遅れによって市場へのアクセスそのものを失う。エネルギーコストの安さだけを追求するあまり、グローバル市場という「出口」を失ってしまうという、致命的なパラドックスに陥りかねないのである。高市新政権がどのようなエネルギー政策を選択するにせよ、このグローバルな現実から目を背けることは許されない。

終章:2030年への提言 – 新政権が取るべき現実的かつ野心的なエネルギー戦略

分析の総括

本レポートの分析を通じて明らかになったのは、高市早苗氏を首班とする新政権の誕生が、日本のエネルギー政策を根本から転換させるポテンシャルを秘めているという事実である。そのドクトリンは、「エネルギー安全保障」を絶対的な基軸に据え、原子力への回帰と核融合という未来技術への投資を柱とする、明確なビジョンに基づいている。これは、再エネの量的拡大を志向してきた近年の潮流に対し、「量から質へ」、そして「再エネから原子力へ」という大きな揺り戻しをもたらす可能性がある。

しかし、その強力なドクトリンは、市場原理、国際潮流、そして技術的・物理的現実という、無視できない複数の「壁」と対峙することになる。太陽光発電のコスト競争力、企業の脱炭素化への強い要請、G7諸国との政策協調の圧力、そして送電網や土地利用という物理的制約

これらの現実との相互作用の中で、政権が当初描いた理想のシナリオが、そのまま実現する可能性は低いだろう。日本のエネルギーの未来は、この「理想」と「現実」の相克の中から、複雑でハイブリッドな形で立ち現れてくるはずだ。

短期・中期・長期の政策提言

いかなる政権であっても、2030年に向けて日本のエネルギーシステムをより強靭で持続可能なものへと変革していく責務がある。以下に、イデオロギーの対立を乗り越え、現実的かつ野心的な目標を達成するための政策提言を時系列で示す。

  • 短期(~2026年):安定化と透明性の確保

    • 最優先課題: まずは足元のエネルギー安定供給に全力を注ぐ。政権交代直後のイデオロギー的な政策転換は市場の混乱を招く。既存のエネルギー基本計画とGX政策の枠組みを当面は尊重し、政策の予見可能性を担保する。

    • 具体的アクション: 20兆円のGX経済移行債の使途について、特定の技術に過度に偏らないよう、透明性の高い配分ルール(審査基準、評価委員会の人選など)を策定し、国民に公開する。これにより、「政策のハイジャック」への懸念を払拭し、幅広い技術開発への投資を促す。

  • 中期(~2030年):ボトルネックの解消と市場の自立促進

    • 最優先課題: 再エネ導入の物理的・制度的ボトルネックを国家プロジェクトとして解消する。

    • 具体的アクション:

      1. 系統増強の断行: 広域連系系統マスタープランに基づき、特に北海道-本州間などの基幹送電網の増強を「国家安全保障投資」と位置づけ、GX予算を投入して着工を前倒しする。

      2. ポジティブ・ゾーニングの法制化: 地域主導の計画的な再エネ導入を促すため、「ポジティブ・ゾーニング」の策定を地方自治体の責務とし、達成度に応じた財政支援を行う。

      3. FIP制度の改善: FIP制度下での収益安定性を高めるため、フロア価格付き長期PPAなどの民間契約モデルを促進する税制優遇策を導入し、国民負担に頼らない再エネ投資を加速させる。

  • 長期(2030年~):多様な選択肢の確保と新産業の育成

    • 最優先課題: 2050年カーボンニュートラルを見据え、特定の技術に依存しない、多様で柔軟なエネルギーポートフォリオを構築する。

    • 具体的アクション: 原子力は、あくまで多様な脱炭素電源の選択肢の一つとして客観的に評価し、その位置づけを再定義する。同時に、ペロブスカイト太陽電池、浮体式洋上風力、そして核融合といった次世代技術について、基礎研究から社会実装までの一貫したロードマップを、産業界や学術界と連携して再構築する。これらを新たな輸出産業へと育成することを目指し、長期的な視点での投資を継続する。

日本のエネルギー政策に必要なのは、特定の電源を神聖視したり、逆に悪魔化したりする不毛なイデオロギー対立ではない

全ての選択肢をテーブルの上に並べ、それぞれの長所、短所、コスト、そして時間軸を冷静に評価し、最適に組み合わせるプラグマティズム(実用主義)である。その先にこそ、安全で、クリーンで、そして経済的なエネルギーの未来が拓けるはずだ。

FAQ(よくある質問)

Q1. 高市新政権下で、本当に原発は増えるのですか?

A1. 政策としては最大限推進されますが、多くの現実的なハードルが存在します。既存原発の再稼働は加速する可能性がありますが、次世代革新炉を含め、新設や建て替えが2030年までに実現する可能性は極めて低いです。安全審査の厳格化、巨額の建設コスト、そして何よりも立地地域の合意形成には長い時間が必要となるためです。

Q2. 太陽光パネルの設置は難しくなりますか?

A2. 一概には言えません。山林などを大規模に開発するメガソーラーについては、景観保護や防災の観点から新たな規制が導入され、設置が難しくなる可能性が高いです 5。一方で、住宅の屋根や工場の屋上、ビルの壁面などに設置する分散型の太陽光発電は、土地利用の競合が少ないため、引き続き推進されると考えられます。政策の焦点が「量」から「質」や「設置場所」へと移るでしょう。

Q3. 私たちの電気代は結局、上がるのですか?下がるのですか?

A3. 残念ながら、本レポートで分析したどのシナリオを辿っても、短期的には電気料金の上昇圧力がかかると予測されます。その要因はシナリオによって異なります。再エネ賦課金の上昇、2028年から始まるカーボンプライシングによる化石燃料コストの増加、原子力関連費用(安全対策、廃炉、最終処分)など、脱炭素とエネルギー安定供給を両立させるためには、いずれかの形で国民的なコスト負担が避けられないのが現実です 3。

Q4. 核融合発電はいつ実現しますか?

A4. 高市氏は2030年代の発電実証という野心的な目標を掲げていますが 19、これは極めて挑戦的なスケジュールです。多くの科学者や専門家は、実験炉での発電成功を経て、実際に商業ベースで電力を供給する商用炉が実現するのは2050年以降になると見ています 10。私たちの生活に直接的な恩恵をもたらすのは、まだかなり先の話と考えられます。

Q5. 日本は2050年カーボンニュートラルを達成できますか?

A5. 達成の可否は、2020年代後半から2030年代にかけて、どのような政策を選択し、実行できるかにかかっています。もし原子力回帰を強め、再エネ導入が停滞するシナリオAを辿った場合、2030年の46%削減目標の達成すら危ぶまれ、2050年への道筋は極めて不透明になります。目標達成には、本レポートで提言したような、系統制約や土地利用といった根源的な課題を解決し、あらゆる技術革新を総動員する、バランスの取れた長期戦略が不可欠です。

ファクトチェックサマリー

本レポートは、経済産業省資源エネルギー庁、環境省、内閣官房などの政府公式文書、国際エネルギー機関(IEA)や国際再生可能エネルギー機関(IRENA)などの国際機関の報告書、電力中央研究所や自然エネルギー財団などの各種研究機関のレポート、および国内外の主要報道機関の記事など、公開されている複数の情報源に基づき執筆されています。特に、第6次エネルギー基本計画における電源構成の数値目標、GX実現に向けた基本方針の具体的内容、再エネ導入量やコストに関する各種統計データについては、出典を明記し、2025年時点での最新情報を可能な限り反映するよう努めました。ただし、未来予測に関するシナリオ分析やその影響に関する記述は、これらの公開情報に基づく筆者の分析と洞察であり、確定した未来を示すものではないことを申し添えます。

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