目次
- 1 日本「再エネ安全保障」の脆弱性 ホルムズ・南シナ海・バルト海 地政学リスクの深層分析
- 2 序章:幻想の終わり — エネルギー転換が隠蔽する新たな地政学リスク
- 3 第1章:古傷の痛み — 化石燃料の生命線とチョークポイントの地政学
- 4 第2章:脱出の罠 — 再エネ・サプライチェーンの地政学的脆弱性
- 5 第3章:新たな戦場 — 次世代エネルギーインフラの物理的脆弱性
- 6 第4章:リスクの定量化とエネルギー安全保障の再定義
- 7 第5章:日本のエネルギー・トリレンマ — 脱炭素化の隘路
- 8 第6章:ありそうでなかった処方箋 — 動的強靭性を構築する国家戦略
- 9 結論:地政学リスクは消滅しない、ただ変質するだけだ
- 10 FAQ(よくある質問)
- 11 ファクトチェック・サマリー
日本「再エネ安全保障」の脆弱性 ホルムズ・南シナ海・バルト海 地政学リスクの深層分析
序章:幻想の終わり — エネルギー転換が隠蔽する新たな地政学リスク
2025年、世界はエネルギー安全保障の新たな岐路に立たされている。かつて、再生可能エネルギー(再エネ)への転換は、化石燃料を巡る地政学的変動からの脱却を意味する希望の道と見なされていた。中東の紛争や産油国の思惑に一喜一憂する時代は終わり、太陽光や風力といった遍在するエネルギー源を活用することで、国家は真のエネルギー自立を達成できる—。この楽観的なシナリオは、脱炭素化を目指す多くの国々にとって、強力な推進力となってきた。
しかし、その理想の裏で、新たな、そしてより複雑な地政学的リスクが静かに顕在化している。エネルギー転換はリスクを消滅させるのではなく、その性質を「変質」させ、バリューチェーンの異なる部分へと「転移」させているに過ぎない。この冷厳な現実を直視することなくして、日本の真のエネルギー安全保障は確立できない。シェル社が提示する2025年のエネルギーシナリオは、資源、国境、貿易の安全保障に対する世界的な懸念が技術開発を妨げる可能性を示唆しており、これは再エネへの移行が一直線に進むという単純な物語を根底から覆すものである
本稿の核心的命題は、ホルムズ海峡や南シナ海といった海上交通の要衝、すなわち「チョークポイント」が、化石燃料時代と同様、あるいはそれ以上に、再エネ時代の日本の急所となりつつあるという点にある。これらの海峡は、もはや原油や液化天然ガス(LNG)を運ぶだけの動脈ではない。風力タービンを構成する特殊合金、電気自動車(EV)のモーターを駆動させる強力な磁石、そして太陽光パネルそのもの—これらグリーン経済の根幹をなす重要鉱物(クリティカルミネラル)や製品が、同じ航路を通過している。
この構造的変化は、日本が直面するリスクの質を根本的に変えた。従来のリスクが、タンカーの航行妨害といった「フロー(流量)の途絶」に主眼を置いていたのに対し、現代のリスクは、特定国による鉱物輸出禁止などの「サプライチェーンの兵器化」、そして海底ケーブルや洋上風力発電所への破壊工作といった「インフラの物理的破壊」という、より多層的な脅威へと進化している。
再エネによるエネルギー自立の追求が、結果として、化石燃料時代と同じチョークポイントを通過する、より複雑で脆弱な新たな依存関係を生み出している—このパラドックスこそが、2025年における日本のエネルギー転換が直面する最大の課題である。日本は中東の石油への依存を減らすために再エネ導入を加速させているが
つまり、日本はホルムズ海峡を経由するペルシャ湾の石油への依存を、南シナ海を経由する中国の再エネ部品への依存へと「交換」しているに過ぎない。リスクの地理的拠点は移動したが、海上チョークポイントの途絶に対する根本的な脆弱性は残り、サプライチェーンにおける一国(中国)の圧倒的な支配力により、その複雑性はむしろ増している。
本稿では、ホルムズ海峡、南シナ海、そしてバルト海という三つのチョークポイントをレンズとして、再エネ転換がもたらす地政学リスクの深層を解剖する。
そして、この新たな挑戦に対し、日本が構築すべき真に強靭なエネルギー安全保障戦略—「動的強靭性(Dynamic Resilience)」—の輪郭を提示することを目的とする。
第1章:古傷の痛み — 化石燃料の生命線とチョークポイントの地政学
再生可能エネルギーへの移行が加速する中でも、日本の経済と社会は依然として化石燃料に深く依存しており、その供給を支える海上交通路(シーレーン)の脆弱性は、国家安全保障上の恒久的な課題であり続けている。特に、ホルムズ海峡と南シナ海は、その重要性と潜在的リスクの高さから、日本のエネルギー安全保障を論じる上で避けては通れない二大チョークポイントである。
ホルムズ海峡:恒久的なアキレス腱
ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶホルムズ海峡は、世界のエネルギー供給における「アキレス腱」としての地位を揺るぎないものにしている。最新のデータは、その重要性を改めて浮き彫りにする。2024年から2025年第1四半期にかけて、世界の海上輸送される石油の4分の1以上、そしてLNGの約5分の1がこの狭い海峡を通過した
この地理的脆弱性は、常に地政学的リスクと隣り合わせである。2025年6月に発生したイラン、イスラエル、米国間の軍事的緊張は、海峡封鎖の悪夢を再び現実のものとして想起させた
完全かつ持続的な海峡封鎖は、イラン自身にとっても経済的な自傷行為となるため、その可能性は低いと見る向きもある
南シナ海:新たなグレートゲームの舞台
南シナ海は、単なるエネルギー輸送路から、大国間の地政学的競争が繰り広げられる「グレートゲーム」の主戦場へと変貌を遂げた。日本にとって、この海域は中東からの石油・LNGだけでなく、オーストラリアや東南アジアからのLNGを運ぶ生命線でもある。
この戦略的に重要な海域で、中国は近年、その影響力を急速に拡大している。人工島の軍事拠点化は、単なる領有権の主張に留まらない。これらの島々は、情報収集、監視、偵察(ISR)の拠点として機能し、有事には戦力投射のプラットフォームとなり、地域の戦略的バランスを根本から覆す力を持つ
この動きは、中国の国家戦略に裏打ちされている。2025年に発表された中国の国家安全保障白書は、地域の安定に関するこれまでの楽観的な表現を削除し、「争う余地のない主権」を強調、海洋権益の保護を「中華民族の偉大な復興」という大目標の中核に位置づけた
リスクの変質:「グレーゾーン」という恒常的脅威
ホルムズ海峡と南シナ海におけるリスク分析は、もはや「封鎖されるか、されないか」という二元論では捉えきれない。現代のリスクは、武力紛争に至らない低強度ながら、継続的に行われる「グレーゾーン事態」という形で常態化している。
過去の分析は、ホルムズ海峡の完全封鎖という劇的なシナリオに焦点を当てがちだった
これは、日本のエネルギー輸入に対する一種の「地政学的税」として機能する。この絶え間ない低レベルの摩擦は、日本の経済的競争力を徐々に蝕み、海上自衛隊や海上保安庁に恒常的な警戒態勢を強いることで、防衛リソースを消耗させる
表1:主要海上チョークポイントの地政学リスク・マトリクス
項目 | ホルムズ海峡 | マラッカ海峡/南シナ海 | バルト海 |
主要通過物資 | 原油、LNG | 原油、LNG、コンテナ貨物、重要鉱物、再エネ製品 | LNG、コンテナ貨物、穀物 |
推定通過量/価値 |
石油:日量約2,100万バレル LNG:世界シェアの約20% 6 |
石油:日量約2,370万バレル 世界貿易の約3分の1 6 |
地域経済に不可欠 |
主要関係国 | イラン、米国、サウジアラビア、UAE、オマーン | 中国、米国、ASEAN諸国(特にフィリピン、ベトナム)、日本 | ロシア、NATO加盟国(特にフィンランド、スウェーデン、バルト三国、ポーランド) |
主要リスク形態 | 国家主導の海峡封鎖、機雷敷設、テロ、非対称攻撃(高速艇) | グレーゾーン事態(海警による威嚇・妨害)、領有権紛争の激化、航行の自由作戦に伴う偶発的衝突 | ハイブリッド戦争、重要インフラ(海底ケーブル、パイプライン)への破壊工作 |
日本への影響 | エネルギー供給の生命線を直接脅かす。原油・LNG価格の急騰。 | エネルギー・食料輸入、製品輸出の主要ルート。再エネサプライチェーンの途絶リスク。 | 直接的影響は限定的だが、欧州のエネルギー危機がLNG市場等を通じて間接的に波及。インフラ防衛のモデルケース。 |
第2章:脱出の罠 — 再エネ・サプライチェーンの地政学的脆弱性
化石燃料への依存から脱却し、エネルギー自立を達成するための切り札とされた再生可能エネルギー。しかし、そのサプライチェーンを深く掘り下げると、そこには「脱出の罠」とも言うべき、新たな地政学的脆弱性が口を開けている。日本は石油という一つの依存対象から逃れるために、より複雑で、特定の一国に生殺与奪の権を握られた新たな依存構造へと足を踏み入れてしまった。
クリティカルミネラル:21世紀の石油
再エネ技術は、その根幹を「クリティカルミネラル(重要鉱物)」と呼ばれる特定の鉱物資源に依存している。これらは21世紀の「石油」とも言える戦略物資であり、その供給網は極めて偏在し、脆弱である。
-
蓄電池の心臓部:EVや大規模電力貯蔵に不可欠なリチウムイオン電池は、リチウム、コバルト、ニッケル、そしてグラファイトなくしては製造できない
。20 -
強力なモーターの源泉:風力タービンの発電機やEVの高性能モーターには、ネオジム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウムといったレアアース(希土類)から作られる永久磁石が必須である
。4 -
太陽光発電の基盤:太陽光パネルの半導体ウェハーは、高純度のポリシリコンから作られる
。22
これらの鉱物資源のサプライチェーンを地図上で追うと、一つの国の名が圧倒的な存在感をもって浮かび上がる—中国である。
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圧倒的な支配:中国は、レアアースの採掘段階で世界の約60%を占めるが、問題はさらに深刻な「精錬・分離」という加工段階にある。ここでは、中国のシェアは約90%に達し、事実上の独占状態を築いている
。太陽光パネルの世界生産の80%23 、ポリシリコンの79%以上を中国が供給しており25 、日本もレアアースの約6割を中国からの輸入に頼っているのが現状だ22 。この極端な供給集中は、偶然の産物ではなく、中国の長期的な国家産業戦略の成果であり、輸入国にとっては致命的な脆弱性となっている26 。27 -
サプライチェーンの兵器化:中国は、この支配的な地位を外交カードとして利用することを躊躇しない。2010年、尖閣諸島沖での漁船衝突事件への対抗措置として、日本向けのレアアース輸出を事実上停止したことは、日本の産業界に激震を走らせた
。この悪夢は過去のものではない。2025年には、米中対立の激化を背景に、中国は特定のレアアースや関連技術に対する輸出管理をさらに強化し、輸出許可制を導入した。これは世界中のサプライチェーンに混乱をもたらし、中国が供給網を「兵器化」する能力と意思を明確に示した24 。これはもはや仮説上のリスクではなく、現在進行形の脅威なのである。29
地理的リスクの再生産
最も深刻な問題は、この新たな再エネ・サプライチェーンが、旧来の化石燃料サプライチェーンと同じ地理的リスクを共有している点にある。中国から日本へ、これらの重要鉱物や太陽光パネル、風力タービン部品を運ぶ海上ルートは、第1章で論じた地政学的火薬庫、すなわち南シナ海を通過せざるを得ない
つまり、日本はホルムズ海峡を通過する中東の石油への依存を減らす代わりに、南シナ海を通過する中国の再エネ部品への依存を深めるという、リスクの再生産に陥っている。しかも、新たな依存は、複数の産油国に分散されていた旧来の依存よりも、中国という単一の国家に集中している分、より危険性が高いと言える。
見過ごされる脆弱性:「精錬」というボトルネック
中国の支配力に対する一般的な対抗策として、オーストラリアやアフリカなど、中国以外の国々での鉱山開発が挙げられる。事実、日本のJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)も、こうした海外鉱山への投資を積極的に進めている
真のボトルネックは、鉱石を掘り出す「上流(採掘)」ではなく、使用可能な金属へと加工する「中流(精錬・分離)」に存在する。特にレアアースの精錬プロセスは、高度な技術とノウハウを要し、環境負荷も大きい。中国が長年にわたって築き上げてきたこの分野での優位性は、一朝一夕に覆せるものではない
仮に日本が友好国で新たな鉱山開発に成功したとしても、掘り出された鉱石は、精錬のために結局中国へ運ばれ、加工された後に再び日本へ輸出される、という非効率で危険なルートを辿る可能性が高い。これではサプライチェーンの脱リスク化にはならず、むしろ物流コストと複雑性を増大させるだけである。真の脆弱性は、鉱山そのものではなく、精錬という工程にこそ潜んでいる。この「中流」の支配を打ち破らない限り、日本の再エネ・サプライチェーンは、中国の掌の上で踊り続けることになる。
表2:日本の「二重依存」構造 — サプライチェーン脆弱性の比較分析
項目 | 化石燃料時代 | 再生可能エネルギー時代 |
主要戦略物資 | 原油、LNG | レアアース(ネオジム等)、リチウム、コバルト、ポリシリコン |
主要供給国・地域 | サウジアラビア、UAE、カタール、オーストラリア等(複数国に分散) | 中国(精錬・加工段階で圧倒的シェアを保持) |
中流工程のボトルネック | 消費国(日本国内)での精製が主流 | 中国国内での精錬・分離・部品製造に集中 |
海上輸送チョークポイント | ホルムズ海峡、マラッカ海峡 | 南シナ海、東シナ海 |
主要な地政学リスク | 産油国の政情不安、海峡封鎖、テロ | サプライチェーンの兵器化(輸出規制)、通商摩擦、海上輸送路の緊張 |
主要な対抗戦略 | 国家備蓄(石油)、供給源の多角化 | 技術開発(代替・削減)、リサイクル(都市鉱山)、フレンドショアリング |
第3章:新たな戦場 — 次世代エネルギーインフラの物理的脆弱性
エネルギー転換は、供給源やサプライチェーンだけでなく、エネルギーインフラそのものの形態を大きく変えつつある。陸上の大規模な発電所や製油所から、広大な海域に展開される洋上風力発電所や、国境を越えてエネルギーを運ぶ海底ケーブル網へ。この変化は、エネルギー安全保障における「戦場」が、陸上から海洋へ、そして物理空間からサイバー空間へと拡大していることを意味する。バルト海で起きた一連の事件は、この新たな脅威がすでに現実のものであることを示している。
バルト海の教訓:インフラ戦争の序曲
2022年9月、バルト海に敷設された天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」が何者かによって爆破された事件は、世界に衝撃を与えた
この脅威は、ガスパイプラインに留まらない。エネルギー転換の主役である洋上風力発電所や、それらと陸上を結ぶ送電ケーブル、国際通信を支えるデータケーブルもまた、同様の危険に晒されている。事実、2023年10月以降、バルト海ではフィンランドとエストニアを結ぶガスパイプライン「バルチックコネクター」や、スウェーデン、ドイツなどを結ぶ通信ケーブルなど、少なくとも11本の海底インフラが損傷する事件が相次いで発生した
これらのインフラは、その性質上、極めて脆弱である。
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広大で無防備な領域:洋上風力発電所は広大な海域に分散して設置され、数百キロメートルに及ぶ海底ケーブルは無防備なまま海底に横たわっている。これら全てを24時間体制で監視・防護することは物理的に不可能に近い
。35 -
致命的な一点:発電所全体を破壊する必要はない。陸上へと電力を送る基幹の送電ケーブル(輸出ケーブル)を1本切断するだけで、数千億円を投じた巨大な発電所は機能不全に陥る。ある分析では、高圧直流(HVDC)ケーブルに一つの障害が発生しただけで、最大140万kW(1.4GW)の電力が瞬時に系統から脱落し、大規模な停電を引き起こす可能性があると指摘されている
。39 -
容易な攻撃と困難な特定:攻撃は、偽装した民間船が錨を引きずるという単純な方法から、無人潜水機(UUV)を用いた高度な破壊工作、さらには制御システムへのサイバー攻撃まで多岐にわたる
。攻撃の実行は比較的容易である一方、その実行者を特定し、国家の関与を証明することは極めて困難である。35
未来のエネルギー運搬船:水素とアンモニアの脆弱性
エネルギー転換がさらに進むと、新たなエネルギーキャリアとして水素やアンモニアの国際的な海上輸送が本格化する。日本も、オーストラリアや中東など、再生可能エネルギーのポテンシャルが高い地域で製造されたグリーン水素・アンモニアを輸入する国家戦略を掲げている
これにより、エネルギー供給国は多様化し、特定の産油国への依存は低減するかもしれない
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新たな海上生命線:水素・アンモニアを運ぶ専用船が新たな「タンカー」となり、その航路は新たな「シーレーン」となる。これらの船舶や航路もまた、海賊行為、テロ、国家による妨害活動の標的となり得る。
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インフラの危険性:特にアンモニアは、毒性が極めて高く、輸送船や港湾の貯蔵タンクへの攻撃や事故は、周辺地域に壊滅的な被害をもたらす大惨事につながりかねない
。液化水素の超低温貯蔵施設や、アンモニアの分解プラントといった新たなインフラは、テロリストや敵対国家にとって価値の高い新たな標的(High-Value Target)となる。44
防衛概念の転換:「要塞防衛」から「広域監視」へ
このインフラ形態の変化は、安全保障の概念に根本的な転換を迫る。従来のエネルギー安全保障は、製油所、LNG基地、原子力発電所といった、比較的少数の大規模で集中した施設を防護する「要塞防衛」の考え方が中心であった。これらの施設は、物理的な障壁や厳重な警備によって固く守ることが可能だった。
しかし、洋上風力のような分散型エネルギー源は、この前提を覆す。何百基ものタービンと、それらを結ぶ何千キロメートルもの海底ケーブルは、点ではなく線と面で構成される「分散型ネットワーク」である。この広大で浸透しやすい攻撃対象領域(Attack Surface)は、従来の防衛手法では守りきれない。
敵対者にとって、これは非常に有利な非対称な戦いとなる。低コストな手段(例えば、1隻の工作船やUUV)で、国家経済とエネルギー供給に不釣り合いなほど大きな損害を与えることが可能になるからだ。これは、防衛計画における費用対効果の計算を根本から覆す。もはや、重要な拠点を固守するだけでは不十分であり、広大な海域を常時監視し、不審な活動を早期に探知・識別し、迅速に対応する「広域監視・即応」体制の構築が不可欠となる。これは、海上自衛隊や海上保安庁にとって、従来のシーレーン防衛とは質的に異なる、新たな、そしてより困難な挑戦である
第4章:リスクの定量化とエネルギー安全保障の再定義
地政学リスクが日本の再エネ転換に与える影響は、もはや漠然とした懸念ではない。それは、経済モデルや国際的なフレームワークを用いて定量的に分析し、具体的な政策へと落とし込むべき喫緊の課題である。本章では、地政学リスクを数値化する指標と、エネルギー安全保障を多角的に評価する枠組みを導入し、日本の置かれた状況を客観的に分析する。
地政学リスク(GPR)インデックス:不確実性の可視化
地政学的な緊張が経済活動に与える影響を測定するツールとして、カルダラ氏とイアコビエッロ氏が開発した「地政学リスク(GPR)インデックス」が注目されている
GPRインデックスを用いた複数の計量経済学的分析は、地政学的リスクと投資行動の間に明確な相関関係があることを示している。
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投資への負の影響:GPRの上昇は、企業の設備投資を抑制し、特に「グリーン投資」を減退させる効果を持つことが確認されている
。不確実性の高まりは、長期的な視点と巨額の初期投資を必要とする再エネプロジェクトにとって、大きな逆風となる。47 -
複雑な相互作用:一方で、異なる示唆を与える研究も存在する。地政学的リスクの高まりが、エネルギー輸入依存国における国産再エネへの移行を促す、つまり再エネ消費を増加させるという正の相関関係が見られる場合もある
。しかし、高所得国においては、GPRの上昇がエネルギー安全保障全体を不安定化させ、結果的に再エネへの移行を遅らせる可能性も指摘されている49 。50
これらの分析が示すのは、地政学リスクと再エネ転換の関係が単純な線形関係ではなく、国の経済状況やエネルギー構造によって影響が異なる、複雑で非線形なものであるという事実だ。日本のような高所得のエネルギー輸入大国にとって、GPRの上昇は、再エネへの移行を加速させる圧力となる一方で、投資環境の悪化やサプライチェーンの混乱を通じて、その足枷にもなり得るというジレンマを突きつけている。
IEAの「4A」フレームワークによるエネルギー安全保障の再評価
エネルギー安全保障の概念は、単にエネルギーが途絶えないこと(安定供給)だけを指すのではない。国際エネルギー機関(IEA)などが採用する「4A」フレームワークは、より包括的な視点からエネルギー安全保障を評価するための有効なツールである
4Aフレームワークの構成要素:
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Availability(供給安定性):エネルギーが物理的に中断なく供給されること。
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Affordability(価格手頃性):エネルギー価格が安定的で、国民や企業が負担可能な水準にあること。
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Accessibility(入手可能性):エネルギー資源や技術へのアクセスが確保されていること。
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Acceptability(社会受容性):エネルギー利用が環境面や社会面で受け入れ可能であること。
このフレームワークを日本の状況に適用すると、再エネ転換がもたらす光と影が鮮明になる。
表3:IEA「4A」フレームワークによる日本のエネルギー安全保障変容の分析
フレームワーク | 化石燃料中心のエネルギー構成 | 再生可能エネルギーへの転換 |
Availability (供給安定性) | リスク:地政学リスクによる輸入途絶(チョークポイント封鎖など)。 強み:確立された供給網と備蓄制度。 | 強み:国産エネルギー源の活用による輸入依存度低下。 リスク:電源の変動性、重要インフラ(洋上風力、海底ケーブル)の物理的脆弱性、サプライチェーン途絶。 |
Affordability (価格手頃性) | リスク:国際市況の変動(オイルショックなど)に直接的に影響される。 強み:成熟した市場と多様な調達先。 | 強み:燃料費ゼロによる長期的な価格安定性。 リスク:重要鉱物価格の高騰(グリーンフレーション)、巨額な初期投資コスト、系統安定化コストの増大。 |
Accessibility (入手可能性) | リスク:資源の偏在と産油国の政治動向。 強み:グローバルな資源市場へのアクセス。 | 強み:国内に遍在する自然エネルギーへのアクセス。 リスク:重要鉱物・先端技術のサプライチェーンが特定国(中国)に集中し、アクセスが政治的に制限される危険性。 |
Acceptability (社会受容性) | リスク:地球温暖化の原因となるCO2排出、大気汚染。 強み:社会インフラとして広く受容されている。 | 強み:CO2排出削減による気候変動対策への貢献。 リスク:大規模開発に伴う環境・景観への影響、立地を巡る地域社会との合意形成。 |
この分析から明らかになるのは、再エネ転換は「Acceptability(社会受容性)」を劇的に改善する一方で、「Availability(供給安定性)」「Affordability(価格手頃性)」「Accessibility(入手可能性)」の各側面で、従来とは質的に異なる新たな、そして深刻な課題を生み出すという構造である。IEAは、日本の省エネ努力が化石燃料輸入の削減に貢献していると評価する一方で、依然として高い化石燃料依存が課題であると指摘しており、このトレードオフの管理が極めて重要となる
変質する価格変動リスク:「オイルショック」から「グリーンフレーション」へ
この構造変化は、日本経済が直面する価格変動リスクの性質そのものを変質させる。
かつて、日本経済を揺るがす最大の脅威は、中東の戦争などを引き金とする原油価格の急騰、すなわち「オイルショック」であった
再エネ時代において、このリスクは消滅しないものの、新たなる脅威が加わる。それは、再エネ関連技術に必要な重要鉱物や素材の価格高騰、いわゆる「グリーンフレーション」である
これは、日本経済の脆弱性が新たな領域へと拡大したことを意味する。原油価格が1バレル80ドルから120ドルに上昇することへの耐性は高まるかもしれないが、その代わりに、北京での一つの政策決定によって、ネオジム酸化物やバッテリー級リチウムの価格が2倍になるという新たな経済的ショックに対して、極めて脆弱になる。これは、従来のエネルギー安全保障モデルでは想定されてこなかった、新しい経済的脆弱性の形なのである。
第5章:日本のエネルギー・トリレンマ — 脱炭素化の隘路
これまでの分析で明らかになったのは、日本のエネルギー政策が深刻な「トリレンマ」—エネルギーの安定供給、経済性、そして環境適合性という三つの相克する目標—に直面しているだけでなく、その構造が再エネ転換によってより複雑化しているという現実である。化石燃料への依存から脱却する試みは、皮肉にも、新たな依存構造を生み出し、日本の安全保障戦略における根本的な課題を浮き彫りにしている。
「二重依存」という戦略的ジレンマ
日本の核心的な戦略的ジレンマは、「二重依存(Double Dependency)」という言葉で要約できる。すなわち、化石燃料の輸入依存から逃れるための努力が、結果として、再エネ・サプライチェーンにおける対中依存という新たな、そしてより集中度の高い依存関係へと直結してしまったことである。
日本のエネルギー自給率は、近年の再エネ導入や原子力発電所の再稼働により改善傾向にあるものの、直近の確報値でも依然として15.3%という低い水準に留まっている
現行戦略の評価とその限界
この困難な状況に対し、日本政府は多岐にわたる戦略を展開してきた。しかし、それぞれが部分的な有効性を持ちつつも、全体として見れば、新たな地政学的リスクの全体像に十分対応できているとは言い難い。
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資源獲得戦略(JOGMEC)の限界:JOGMECは、オーストラリア、カナダ、ASEAN諸国など、中国以外の国々における鉱山開発への投資や探査協力を積極的に進めている
。これは供給源の多角化に向けた必要不可欠な一歩である。しかし、第2章で詳述した通り、このアプローチは「上流(採掘)」の問題に焦点を当てているに過ぎない。真のボトルネックである「中流(精錬・加工)」における中国の支配を崩さない限り、根本的な解決には至らない。これは必要条件ではあるが、十分条件ではない。32 -
技術開発戦略(NEDO)の時間的制約:NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)を中心に、ジスプロシウムなどの重希土類を使用しない高性能磁石の開発や、代替材料の研究が進められている
。これは、長期的に日本の技術的自立性を高めるための極めて重要な取り組みである。しかし、これらの革新的技術が研究室から市場へと投入され、産業規模で普及するまでには、長い年月と莫大な投資を要する。これは2030年代、あるいはそれ以降の未来に向けた解決策であり、2020年代に直面している喫緊のサプライチェーン・リスクに対する即効薬にはなり得ない。60 -
水素・アンモニア戦略の新たな脆弱性:日本は、世界に先駆けて「水素基本戦略」を策定し、オーストラリアなどとの連携による国際的な水素・アンモニア・サプライチェーンの構築を目指している
。これは脱炭素化の切り札として期待されるが、第3章で論じたように、新たなエネルギーキャリアは新たな脆弱性を伴う。液化水素やアンモニアを輸送する専用船、貯蔵・供給を行う港湾インフラは、物理的な破壊工作やテロの新たな標的となり、海上輸送に伴う地政学リスクを根絶するものではない。40
シーレーン防衛の新たな次元
日本の防衛政策の根幹をなす「海洋基本計画」や防衛大綱は、伝統的に、原油タンカーやコンテナ船といった移動する船舶の航行の安全を確保する「シーレーン防衛」に重点を置いてきた
しかし、エネルギーインフラが海洋へと拡大する新時代は、この防衛概念に根本的な見直しを迫る。防衛対象は、動的な「フロー」から、静的な「ストック」へと拡大する。すなわち、広大な海域に固定された洋上風力発電所や、海底に敷設された何千キロメートルものケーブル網が、新たな防衛対象となる。これらを、第3章で述べたような非対称かつハイブリッドな脅威からいかにして守るのか。これは、従来の艦艇による護衛や哨戒活動とは全く異なる、より複雑で高度な能力を海上自衛隊と海上保安庁に要求する、新たな挑戦である。
省庁縦割りの壁という構造的欠陥
日本の国家安全保障戦略における最も深刻な問題の一つは、これらの複合的なリスクに対応する上での省庁間の「縦割り」である。
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経済産業省とその外局(資源エネルギー庁、JOGMEC、NEDO)は、資源確保、技術開発、産業育成といった経済・産業安全保障の側面に注力している
。彼らが用いる手段は、投資、補助金、研究開発支援である。21 -
防衛省と海上保安庁は、日本の領土・領海とシーレーンの物理的な安全保障を担っている
。彼らの手段は、艦船、航空機、監視システムである。19
脅威の核心は、これら二つの領域が交差する部分に存在する。例えば、中国製の風力タービン部品(経産省の管轄)が、南シナ海を通過する民間商船(防衛省・海保の防衛対象)で運ばれ、日本の排他的経済水域(EEZ)に建設される洋上風力発電所に設置された後、国家が背後で関与するハイブリッド攻撃(両省庁にまたがる問題)の標的となる—。
このような連鎖するリスクに対し、現在の縦割り構造では効果的な対応が困難である。ある省庁が「何を」調達するかを考え、別の省庁が「それがどう運ばれてくるか」を守るという分業体制は、もはや通用しない。「何を」調達するか、その調達物自体がリスクの源泉となり、「どう運ばれてくるか」の過程が常に脅威に晒されている現代において、経済政策と防衛政策を一体として捉える、真に統合された国家安全保障戦略の構築が急務である。この構造的欠陥を克服しない限り、日本のエネルギー安全保障は砂上の楼閣であり続けるだろう。
第6章:ありそうでなかった処方箋 — 動的強靭性を構築する国家戦略
これまでの分析で明らかになった多層的かつ複合的なリスクに対し、従来の延長線上にある政策では対応できない。求められるのは、システム思考とラテラル思考に基づき、これまでありそうでなかった、しかし実効性のある解決策を組み合わせた、新たな国家戦略である。本章では、日本のエネルギー安全保障に「動的強靭性(Dynamic Resilience)」を実装するための、4つの具体的な政策提言を行う。
提言1:「資源外交2.0」— 戦略的バリューチェーン・パートナーシップの構築
現状の課題:日本の資源確保戦略は、JOGMEC等を通じた海外鉱山への権益投資に重点を置いているが、これは「上流(採掘)」の多角化に留まり、真のボトルネックである「中流(精錬・加工)」における対中依存を解決できない。
処方箋:単に鉱山に資金を出す「資源外交1.0」から脱却し、バリューチェーン全体を対象とした「資源外交2.0」へと進化させるべきである。具体的には、JOGMECや国際協力銀行(JBIC)の資金を活用し、オーストラリア、カナダ、米国といった価値観を共有する同盟国・友好国と連携して、中国国外にレアアースの分離・精錬施設やバッテリー素材の加工工場を共同で建設・運営する。これは、デロイトが指摘する「フレンドショアリング」戦略の具現化であり
提言2:「技術主権の確立」— 代替技術開発と都市鉱山を国家ミッションに
現状の課題:レアアース代替技術の研究開発は進められているものの、そのスピードと規模は喫緊の脅威に対して十分ではない。また、国内に存在するリサイクル資源(都市鉱山)の活用も、ポテンシャルを最大限に引き出せているとは言えない。
処方箋:重要鉱物からの自立を、アポロ計画に匹敵する国家戦略ミッションとして位置づけるべきである。第一に、NEDOが主導する重希土類フリー磁石や次世代電池材料の研究開発に対し、予算と権限を集中投下し、開発を加速させる
提言3:「動的備蓄とサプライチェーンの可視化」— Just-in-TimeからJust-in-Caseへ
現状の課題:日本の国家備蓄は石油が中心であり、再エネ・サプライチェーンを構成する重要鉱物や部品は対象外である。また、サプライチェーンは複雑かつ不透明で、リスクの兆候をリアルタイムで把握することが困難である。
処方箋:備蓄の概念を拡張し、「動的備蓄(Dynamic Stockpiling)」制度を導入する。これは、単にリチウムやコバルトといった原材料を保管するだけでなく、永久磁石、インバーター、特殊な海底ケーブルといった、代替が効かずリードタイムの長い重要「部品・素材」までを備蓄対象とするものである。これにより、サプライチェーンの一部が途絶しても、国内での生産活動を一定期間維持することが可能となる。さらに、この動的備蓄と連動させ、AIを活用した「国家サプライチェーン情報プラットフォーム」を構築する。このプラットフォームは、世界中の鉱山、精錬所、工場、港湾、そして航行中の船舶に至るまで、サプライチェーンのあらゆるノードを地図上に可視化し、地政学リスク、自然災害、需給逼迫などの情報を統合分析する。これにより、リスクの予兆を早期に検知し、備蓄の放出や代替調達先の確保といった先制的な対応を可能にする。これは、従来の「ジャスト・イン・タイム」から、不確実性の時代に対応する「ジャスト・イン・ケース」への転換を意味する。
提言4:「重要インフラの強靭化」— 官民防衛協定の締結
現状の課題:洋上風力発電所や海底ケーブルといった重要インフラの防衛責任の所在が曖昧である。民間企業が所有するインフラを、国家がどのレベルまで防衛するのか、官民の役割分担が明確になっていない。
処方箋:「重要エネルギーインフラ防衛に関する官民協定(Public-Private Defense Compact)」を法制化する。これにより、まず、全ての重要インフラに対して、物理的・サイバー的なセキュリティ基準を厳格化する。例えば、基幹送電ケーブルの海底への埋設やコンクリート防護の義務化、制御システムへの特定国産機器の使用制限などが考えられる
これらの処方箋は、それぞれが独立した政策でありながら、相互に連携することで、日本のエネルギー安全保障を飛躍的に向上させる。それは、特定の脅威に対する静的な防御壁を築くのではなく、変化し続けるリスク環境に柔軟に適応し、回復する能力、すなわち「動的強靭性」を国家システムに組み込むための設計図なのである。
結論:地政学リスクは消滅しない、ただ変質するだけだ
2025年、日本が直面するエネルギー安全保障の現実は、かつての楽観論がもたらした幻想の終わりを告げている。再生可能エネルギーへの転換は、地政学リスクからの解放を約束するものではなく、我々を新たな、そしてより複雑な地政学的競争の舞台へと導く扉であった。ホルムズ海峡の石油タンカーを脅かす旧来のリスクは、南シナ海を渡る重要鉱物の輸送船、そしてバルト海の海底に横たわるエネルギーインフラを標的とする、より巧妙で非対称な脅威へとその姿を変えた。リスクは消滅したのではなく、ただ変質したのである。
本稿で明らかにしたのは、この「リスクの変質と転移」という構造的変化である。
第一に、日本は化石燃料の輸入依存という課題を、再エネ・サプライチェーンにおける対中依存という、より集中度が高く、政治的に利用されやすい新たな依存関係へと置き換えてしまった。この「二重依存」構造は、日本のエネルギー政策におけるアキレス腱であり続ける。
第二に、脅威の対象は、エネルギーの「フロー(流れ)」から、エネルギーを生み出す「ストック(インフラ)」へと拡大した。広大な海域に分散する洋上風力発電所や海底ケーブル網は、従来の集中型エネルギー施設とは比較にならないほど広範で脆弱な攻撃対象領域を形成し、国家の防衛概念に根本的な転換を迫っている。
第三に、この新たなリスク環境は、経済産業政策と防衛政策の垣根を無意味化する。重要鉱物のサプライチェーン、先端技術の覇権、そして物理インフラの防護は、もはや別個の問題としてではなく、一体の国家安全保障戦略として扱われなければならない。省庁の縦割りという旧来の統治構造は、この複合的脅威の前では機能不全に陥る危険性をはらんでいる。
この厳しい現実を前に、日本が目指すべきは、特定の国や技術への依存から完全に脱却するという非現実的な「静的な自立」ではない。目指すべきは、変化し続ける脅威を予見し、衝撃を吸収し、そして迅速に回復・適応する能力、すなわち「動的強靭性(Dynamic Resilience)」の獲得である。
本稿で提言した「資源外交2.0」「技術主権の確立」「動的備蓄とサプライチェーンの可視化」「重要インフラの強靭化」という4つの柱は、この動的強靭性を構築するための具体的な設計図である。それは、外交、産業、技術、防衛という国家のあらゆる政策ツールを統合し、官民の知恵と資源を結集して初めて実現可能な、壮大かつ不可欠な国家プロジェクトである。
地政学の重力から逃れることはできない。しかし、その法則を深く理解し、巧みに航行する術を身につけることは可能である。2025年は、日本がエネルギー転換の理想と地政学の現実との間で、賢明かつ強靭な針路を選択できるかどうかが問われる、真の分岐点となるだろう。
FAQ(よくある質問)
Q1. 再生可能エネルギーは、中東へのエネルギー依存から脱却する鍵ではないのですか?
A1. はい、その通りです。再生可能エネルギーは、石油や天然ガスの輸入依存度を低下させる上で極めて重要です
Q2. 重要鉱物を中国に依存する具体的なリスクとは何ですか?
A2. リスクは大きく二つあります。第一に、政治的な意図による供給途絶のリスクです。中国は過去に、尖閣諸島を巡る対立の際に日本へのレアアース輸出を事実上停止した実績があり、近年も輸出管理を強化するなど、サプライチェーンを外交カードとして利用する姿勢を明確にしています
Q3. 日本の技術力でレアアースの問題は解決できないのでしょうか?
A3. 日本は、重希土類を使わない高性能磁石の開発など、代替技術の研究において世界をリードしています
Q4. 水素やアンモニアといった未来の燃料は、地政学的に安全ですか?
A4. 水素やアンモニアは、オーストラリアや中東、南米など、再生可能エネルギーのポテンシャルが高い様々な国で製造できるため、エネルギー供給国を多様化させる効果が期待できます
ファクトチェック・サマリー
本報告書の信頼性を担保するため、主要なデータとその出典を以下に要約します。
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世界の海上輸送石油の4分の1以上がホルムズ海峡を通過するという統計は、米国エネルギー情報局(EIA)の2025年6月の分析に基づいています
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中国がレアアースの精錬・加工段階で約90%のシェアを占めるというデータは、Kearney社のレポートや英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の分析など、複数の情報源によって裏付けられています
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中国が世界の太陽光パネルの80%を生産しているという事実は、世界経済フォーラム(WEF)の報告によるものです
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2022年のノルドストリーム・パイプラインの破壊工作以降、バルト海で少なくとも11本の海底ケーブルが損傷したという記述は、アトランティック・カウンシルの報告に基づいています
。37 -
日本のエネルギー自給率が15.3%であるという数値は、経済産業省が公表した最新のエネルギー需給実績(確報)に基づいています
。58 -
地政学リスク(GPR)インデックスの概念と手法は、Caldara氏とIacoviello氏による米国連邦準備制度理事会(FRB)のワーキングペーパーに準拠しています
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エネルギー安全保障の「4A」フレームワークは、国際エネルギー機関(IEA)やアジア太平洋エネルギー研究センター(APERC)などが用いる国際的に認知された分析枠組みです
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