国富の防衛 約26兆円の化石燃料輸入コストと再エネ賦課金の構造的非対称性 — 経済的再評価レポート

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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目次

国富の防衛 約26兆円の化石燃料輸入コストと再エネ賦課金の構造的非対称性 — 経済的再評価レポート

第1章: 序論 — 「コスト」と「負担」の再定義

1-1. 本レポートの核心的視座

日本のエネルギーコストに関する公的言説は、多くの場合「国民負担」という単一の尺度に収斂し、二つの本質的に異なる経済活動を危険な形で混同している。本レポートは、この混同を解きほぐし、日本の「国富(National Wealth)」の観点から、エネルギーコストに関する「ものの見方」を科学的・経済的に再構築することを目的とする。

本レポートが分析対象とする二つのコストは、2023年に約26兆円に達した「化石燃料輸入費」1と、2025年度に標準世帯で月額1,592円となる「再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、再エネ賦課金)」2である。

これらは表面的にはともに「国民が支払うコスト」であるが、その経済的本質、すなわち「支払われた資金の最終目的地(Destination of Funds)」は根本的に異なる。この「資金の行先」の違いこそが、日本の国富に与える影響を決定づける。

1-2. 構造的非対称性の提示

本レポートの核心的論点は、二つのコストが持つ「構造的非対称性」である。

  1. 化石燃料輸入費(国富の対外流出)

    2023年に約26兆円1に達したこの支出は、その対価として国内に恒久的な資産を形成しない、純粋な「消費」である。これは、海外の資源産出国に対する「国富の恒常的かつ不可逆的な流出(Outflow of National Wealth)」であり、日本の経済的脆弱性の根源である。

  2. 再エネ賦課金(国富の国内移転)

    2025年度に標準世帯で月額1,592円2となるこの支出は、その資金が国内の再生可能エネルギー発電設備という「実物資産(Asset)」の建設に投下される「国内投資」である。これは「国富の国内移転(Domestic Transfer of National Wealth)」であり、本質的に国富の総量を減ずるものではない。

したがって、本レポートの主題は、この「対外流出(Liability)」「国内投資(Asset)」構造的非対称性を、最新のデータに基づき超高解像度で論証することにある。前者は日本が抱える構造的「疾患」であり、後者はその疾患を根治するために支払う「対価(Insurance Premium)」である。この二つを「国民負担」として同列に論じることは、国家の経済安全保障戦略における根本的な誤謬であると言える。

第2章: 化石燃料輸入費の超高解像度分析(国富の流出)

2-1. 26兆円の構造的脆弱性(2023年)

日本の経済構造は、根幹的な欠陥を抱えている。2023年のデータによれば、日本は自動車や半導体製造装置といった高付加価値製品の輸出によって約28兆円の外貨を稼ぎ出している1。しかし、その稼ぎ出した価値の大半に匹敵する約26兆円を、同年に原油・天然ガスなどの化石燃料の輸入に充てることで、そのまま海外の資源国に流出させている1

この経済構造は、日本の産業界が技術革新と労働によって生み出す付加価値が、エネルギー調達という「穴」から恒常的に漏れ出している状態を意味する。この26兆円という支出は、国内のいかなる資産形成にも寄与せず、ただ消費され消滅する「国富の流出」そのものである。

2-2. 悪夢の記憶:2022年の価格高騰と過去最大の貿易赤字

この構造的脆弱性が最も破壊的な形で顕在化したのが2022年である。ロシアのウクライナ侵攻などに端を発する世界的な燃料価格の高騰と、急激な円安の同時進行(ダブルパンチ)により、日本の化石燃料輸入額は2020年からのわずか2年間で22.4兆円という異常な増加を記録した3

その結果、日本の貿易収支は2022年に年間20兆円超という、比較可能な統計史上、過去最大の赤字となった3。これは、日本が自国の「稼ぐ力」を、化石燃料の「支払う力」が完全に凌駕したことを示す明確な証左であり、短期間で莫大な国富が国外に強制的に移転させられたことを意味する。

2-3. 最新(2025年10月)の価格シグナルと「一時的緩和」の罠

2025年10月28日現在の最新の価格動向を見ると、市場は2022年の危機的状況から一定の落ち着きを取り戻している。JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)によれば、2024年11月時点の全日本平均原油輸入CIF価格(JCC)は1バレルあたり78.14米ドル、LNG(全日本平均)は100万Btuあたり12.07米ドルである4

さらに、IEEJ(日本エネルギー経済研究所)による2025年度(FY2025)の価格見通しは、2024年度(FY2024)の見通し(JCC $80/bbl、LNG $11.8/MBtu)からさらに低下し、JCCが$67/bbl、一般炭が$153/t、LNGが$10.6/MBtuになると予測されている5

この価格低下5を「問題の鎮静化」や「化石燃料依存の正当化」と捉えるのは、表層的かつ極めて危険な誤解である。むしろ、2022年の異常な高騰3と2025年度の低下予測5という激しい価格変動(Volatility)それ自体が、日本のエネルギー調達が完全に自国のコントロール下にない(=他律的である)ことの動かぬ証拠である。

価格が高騰することも、下落することも、等しく日本が国際市場の「プライス・テイカー」であり続け、国富の流出額(2023年:26兆円)1の決定権を海外に握られていることを示している。価格が鎮静化している(と予測される)今こそ、この構造的欠陥から脱却するための「国内投資」を加速させる好機であり、この「一時的緩和」を放置することは、次の価格高騰危機(=国富の流出)を予約しているに等しい。


表1:日本の化石燃料輸入額と主要指標価格の推移

目的: 国富の流出額(マクロ)と、その源泉である国際価格変動(ミクロ)を一覧化し、経済の脆弱性を視覚的に示す。

年度 化石燃料輸入総額 貿易収支 JCC価格 LNG価格 一般炭価格 出典
2022年度 (2年で22.4兆円増) 過去最大 (▲20兆円超) (高騰) (高騰) (高騰) 3
2023年度 約 26兆円 (改善傾向) (低下傾向) (低下傾向) (低下傾向) 1
2024年度 (見通し) $80 /bbl $11.8 /MBtu $154 /t 5
2025年度 (予測) $67 /bbl $10.6 /MBtu $153 /t 5

(注:価格は出典5に基づくCIF価格。2022-23年度の価格は傾向を示す)


第3章: 再エネ賦課金の構造分析(国富の国内移転)

3-1. 2025年度賦課金(3.98円/kWh)の精密解剖

2025年5月検針分から適用される再エネ賦課金単価は、1kWhあたり3.98円に設定された2。これにより、標準的な世帯(月の電力使用量400kWh)の負担額は、月額1,592円、年額では19,104円となる2

この単価は、一見すると国民から徴収される「コスト」であるが、その算定根拠を精査する必要がある。2025年度の想定内訳は、以下の計算式に基づいている2

  1. 買取費用等(投資の原資): 4兆8,540億円

  2. 回避可能費用等(化石燃料費の相殺): 1兆7,906億円

  3. 販売電力量(分母): 7,708億kWh

賦課金単価 (3.98円) ≒  (① 買取費用 48,540億円 – ② 回避可能費用 17,906億円) ÷ ③ 販売電力量 7,708億kWh

ここで注目すべきは、賦課金の総額が「買取費用(約4.8兆円)」そのものではなく、そこから「回避可能費用(約1.8兆円)」という巨大なマイナス項目が差し引かれている点である。

3-2. 賦課金の核心的メカニズム:「回避可能費用」という名の”ヘッジ機能”

「回避可能費用」とは、電力会社がFIT制度によって再生可能エネルギーを買い取ることにより、本来調達するはずだった(主に化石燃料による)発電を回避し、その結果として支出を免れたとみなされる費用である7

このメカニズムの核心は、回避可能費用が「JEPX(日本卸電力取引所)の市場価格(スポット価格と時間前市場価格の加重平均)」に連動して算定される点にある7JEPXの市場価格は、化石燃料の輸入価格に強く影響される。

したがって、ここに再エネ賦課金制度に内蔵された、極めて合理的な「構造的ヘッジ機能」が存在する。

  • (A) 化石燃料価格が高騰する

  • (B) JEPXの市場価格が高騰する

  • (C) 「回避可能費用」が(市場価格連動で)増加する 7

  • (D) 賦課金の原資(買取費用 – 回避可能費用)が減少する

  • (E) 結果として、国民が負担する賦課金総額の上昇が抑制される

実際に電力広域的運営推進機関(OCCTO)の報告7によれば、「2022年度(市場高騰時)は市場高騰を受け回避可能費用が増加したことから交付金が減少した」と明確に記述されている。

これは、国民が「化石燃料高騰による電気料金本体の上昇」と「再エネ賦課金の上昇」という二重苦(ダブルパンチ)を受けることを防ぐ、強力なセーフティネットが制度に内蔵されていることを示している。再エネ賦課金は、化石燃料高騰リスクに対する「保険料」であり、リスクが顕在化した2022年には、賦課金(交付金)が減少するという形で「保険金」が支払われたと解釈できる。

3-3. 投資の新たなフェーズ:調整力確保費用(1,200億円)の評価

賦課金の算定根拠には、再エネ導入拡大に伴う「システム統合コスト」も含まれ始めている。具体的には、再エネの予測誤差を補うための「調整力確保費用」である2

2023年度の三次調整力②(再エネ予測誤差対応)の交付見込額は、全国合計で約1,207億円であった8。これは、2022年の取引実績に基づく全国平均調達単価6.2円/ΔkW・h(デルタキロワット時)に基づき算出されている8

この約1,200億円というコストは、再エネを電力系統に安定的に統合するために不可欠な、新たな「国内投資」である。このコストを「国富」の文脈で評価する必要がある。

  • (A) 国富の対外流出(化石燃料輸入費): 年間 約26兆円 1

  • (B) 国富の国内投資(再エネ安定化費用): 年間 約1,200億円 8

両者を比較すれば、(B) ÷ (A) ≒ 0.0046

すなわち、再エネを安定化させるための国内投資(調整力コスト)は、不安定な海外への国富流出(化石燃料費)のわずか0.46%(1%未満)に過ぎない。この「0.46%の国内投資」によって、将来的に「26兆円の対外流出」を恒久的に削減できるのであれば、これは国富の観点から見て、極めて効率的かつ戦略的な投資であると評価できる。

第4章: 科学的・学術的分析(見えざる国富の毀損)

4-1. 「真のコスト」の可視化:ライフサイクルCO2排出係数

経済的コスト(円)の比較に加え、科学的コスト(CO2排出量)の比較が不可欠である。IEA(国際エネルギー機関)の最新の燃料ライフサイクル排出係数データベース(2024年版)は、発電技術ごとの科学的コストを明確に示している。

このデータによれば、発電における燃料サイクル(上流工程)の排出係数の中央値は、石炭(Coal)が 170 gCO2eq/kWh、天然ガス(Natural gas)が 72 gCO2eq/kWh である9。これに対し、原子力(Nuclear)は 10 gCO2eq/kWh と極めて低い9太陽光や風力は、このIEAの上流工程データには含まれていないが、他のIPCCなどの包括的なライフサイクル評価(19の参照先など)によれば、これらと同等かそれ以下(数十g)の低い排出係数であることが一般的に知られている。

4-2. 外部コストの貨幣価値換算:「炭素の社会的費用(SCC)」

排出されたCO2は、気候変動による災害の激甚化、健康被害、生産性の低下などを通じて、経済全体に甚大な損害をもたらす。この「外部コスト(見えざるコスト)」を貨幣価値に換算した学術的尺度「炭素の社会的費用(Social Cost of Carbon: SCC)」である。

米国EPA(環境保護庁)は、最新の科学的知見に基づき、2022年11月にSCCの推定値を大幅に引き上げるドラフト報告書を公表した。そこでは、従来の中心的推定値(1トンあたり51ドル)から約4倍増となる、1トンあたり190ドル(2020年ドル価値、2%割引率)が新たな中心的推定値として提示されている10

4-3. 学術的試算:日本の化石燃料が隠れ持つ「国富毀損コスト」

第2章で分析した26兆円1は、あくまで海外に支払う「購入費用」である。第4章の科学的知見(9)に基づき、それとは別に、国内で見えざる形で発生している「社会的費用(=国富の毀損)」を試算する。

試算A:国富毀損の総額(年間)

  1. 日本の総販売電力量: 7,708億kWh (2025年度想定)2

  2. 化石燃料発電比率: 約70% (仮定)

  3. → 化石燃料による発電量: 7,708億kWh * 70% 5,400億kWh

  4. 平均排出係数: 120 gCO2eq/kWh (仮定:石炭 170g 9 とガス 72g 9 の加重平均)

  5. 総排出量: 5,400億kWh * 120 g/kWh 6,480万トン-CO2eq

  6. 炭素の社会的費用(SCC): 190ドル/トン 11

  7. 為替レート: 150円/ドル (仮定)

  8. 社会的費用(国富毀損額): 6,480万トン * 190ドル * 150円 年間 1兆8,468億円

この試算は、日本が化石燃料の「購入費」として年間26兆円を対外的に支払うと同時に、その燃料を燃焼させることで、それとは別に年間約1.85兆円の「社会的費用(将来世代への負債)」を国内で(見えない形で)発生させていることを示唆している。

試算B:1kWhあたりの隠れコスト

この「社会的費用」を、1kWhあたりのコストとして再計算する。

  • 石炭火力(170 g/kWh 9):

    0.000170 トン/kWh * 190 ドル/トン * 150 円/ドル = 約 4.85 円/kWh

  • 天然ガス火力(72 g/kWh 9):

    0.000072 トン/kWh * 190 ドル/トン * 150 円/ドル = 約 2.05 円/kWh

この試算が示す事実は衝撃的である。石炭火力の発電(上流工程のみ)に伴う「隠れた社会的費用(約4.85円/kWh)」は、それ自体で、国民が「負担」として認識している「再エネ賦課金(3.98円/kWh)」2を既に上回っている可能性が極めて高い

再エネ賦課金による国内投資は、この「年間1.85兆円の隠れコスト」を恒久的に削減する役割も担っている。

第5章: 構造的分析と洞察(「負担」から「戦略的投資」への視点転換)

5-1. 本質的対比:国富の流出 vs 国富の国内形成

本レポートのここまでの分析は、二つのコストが「国富」の観点から全くの別物であることを示している。

比較項目 A. 化石燃料輸入費 B. 再エネ賦課金
経済的性質 消費、負債 (Liability) 投資、資産 (Asset)
規模(年間) 約 26兆円 (流出額) 約 3兆円 (ネット投資額)
資金の行先 海外(国富の対外流出 国内(国富の国内移転
国内資産形成 ゼロ 国内の発電設備(恒久的資産)
価格変動

他律的・ハイリスク 3

化石燃料高騰時のヘッジ機能 7

外部コスト 発生 (年間 約1.85兆円の毀損) 削減 (1.85兆円のコストを回避)
調整コスト (輸入コストに内包)

年間 約1,200億円 (国内投資) 8

(出典:1, 第4章試算)

5-2. 提示する「ものの見方」:賦課金は「病気(依存症)」の「治療費」である

この構造的非対称性に基づき、本レポートはエネルギーコストに対する新たな「ものの見方」を提示する。

日本の経済は、年間26兆円を費やす「化石燃料依存症」という構造的疾患を抱えている。この疾患は、平時においては国富を流出させ1、有事(2022年)においては国家の貿易収支を破綻させる3。さらに、そのプロセス(燃焼)において年間約1.85兆円もの「社会的費用」という形で、自らの経済基盤を毀損し続けている(第4章試算)。

この文脈において、再エネ賦課金(標準世帯 月額1,592円)2は、この「依存症」を根治するための治療費」である。

「再エネ賦課金が高い」という議論は、「依存症の治療費が高い」と嘆く議論に等しい。しかし、真に問題とすべきは「治療費(ネット約3兆円の国内投資)」ではなく、「依存症そのもののコスト(年間26兆円の対外流出+年間1.85兆円の社会的費用)」である。

治療(国内の再エネ資産形成)を中断すれば、短期的には「治療費」を節約できるかもしれない。しかし、根本にある「依存症(化石燃料への依存)」は悪化し、次の価格高騰危機3が再来した際に、日本経済はより深刻なダメージ(国富の流出)を受けることになる。

したがって、国富に寄与する真の「ものの見方」とは、「再エネ賦課金負担の抑制」を最上位の政策目標とすることではない。そうではなく、「化石燃料輸入費(対外流出)の恒久的削減」国家の最上位の政策目標(KPI)として設定することである。その目標達成において、再エネ賦課金は「負担」や「コスト」ではなく、国富を防衛するための最も効率的かつ不可欠な「戦略的投資」であると結論付けられる。

第6章: 政策的示唆と日本の針路(2025年分岐点)

6-1. 外部からの圧力:G7「石炭火力廃止」合意の衝撃

本レポートが示す構造転換の必要性は、純粋な経済合理性だけでなく、国際的な政治的要請によっても加速されている。2024年4月にイタリア・トリノで開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合は、日本のエネルギー政策にとって重大な分岐点となる合意を採択した。

コミュニケは、「1.5℃目標と整合的なスケジュール」に沿って、「2030年代前半」までに排出削減対策が取られていない(unabated)既存の石炭火力発電を段階的に廃止することで、G7として初めて合意した12

これは、石炭火力に依然として(2023年時点で)高く依存する日本に対し、第2章で論じた「化石燃料への依存(=国富の流出)」からの脱却を、国際公約として明確に迫るものである。

6-2. 内部からの変革:GX政策の始動とカーボンプライシング

この国際的要請と、国内の脆弱性(第2章)に対応するのが、日本政府が推進するGX(グリーン・トランスフォーメーション)政策である。

GX政策の中核を成す「成長志向型カーボンプライシング構想」は、本レポートの論理(「対外流出」にコストを課し、「国内投資」を促す)を、そのまま政策として具現化するものである。

  1. GX-ETS(排出量取引制度): 2026年度から「第2フェーズ」として本格稼働する15。これは、CO2排出という「外部コスト(第4章)」を、企業間の取引価格として「内部化」する試みである。

  2. 化石燃料賦課金(炭素賦課金): 2028年度から導入される17。これは、化石燃料の輸入事業者などに対し、輸入時にCO2排出量に応じた金額を課すものであり、第2章で論じた「国富の流出」そのものに直接的なコスト(価格)を付ける政策である。

6-3. 結論的示唆:二つの「賦課金」の戦略的統合

本レポートの分析は、日本が現在、二つの「賦課金」を同時に推進しているという戦略的構図を明らかにする。

  • A. 再エネ賦課金(既存)2:

    国内の「クリーンな資産(再エネ設備)」を増やすための「投資(Pull型インセンティブ)」。

  • B. 化石燃料賦課金(新設)18:

    国外への「ダーティな流出(化石燃料)」を減らすための「ペナルティ(Push型インセンティブ)」。

これら二つの政策は、本レポートが分析した「国富の防衛」という一点において、完全に整合的かつ相補的である。

GX政策18によって化石燃料賦課金(Push)として徴収された資金が、「GX経済移行債」という形で国内の脱炭素投資(再エネや調整力(Pull)など)に還流する18。このメカニズムは、まさに「国富の対外流出」を「国富の国内投資」に強制的に転換するプロセスそのものである。

最終提言:

日本のエネルギー政策に関する議論の焦点は、「再エネ賦課金(月額1,592円)が高い」という短期的な国民負担のミクロな議論から、「化石燃料輸入費(年間26兆円)という恒常的な国富流出をいかにゼロにするか」という長期的・戦略的な国家経済防衛のマクロな議論へと、直ちに移行されなければならない。

その移行の鍵こそが、既存の「再エネ賦課金」と新設の「化石燃料賦課金」の両方を、「国富の国内循環と資産形成」のための不可欠な戦略的ツールとして最大限に活用することである。

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