目次
ガソリン暫定税率廃止へ 50年ぶりの大転換がもたらす影響と課題の超分析レポート
はじめに:ガソリン暫定税率とは何か
ガソリン暫定税率とは、ガソリンにかかる税金に「一時的な措置」として上乗せされている部分を指します。1974年のオイルショック後、道路整備の財源確保を目的に導入され、当初は期限付きの増税でした。しかしその後延長と引き上げを重ね、実に50年以上にわたり継続してきました。現在ガソリンには、国税の揮発油税と地方税の地方揮発油税あわせて1リットルあたり53.8円の税金が課せられています。このうち25.1円が暫定税率分(現在は「当分の間税率」と呼称)で、残り28.7円が本則税率です。
なお、この暫定税率はかつて道路特定財源として道路整備に充てられ、受益者負担の原則(道路を使う自動車ユーザーがその維持費用を負担)に沿うものでした。2009年に道路特定財源が一般財源化されて以降も暫定税率は存続し、事実上恒久化してきた経緯があります。長年「暫定」と言いながらも維持されてきたことから、ドライバーにとって半世紀の重い負担となっていました。またガソリン税には消費税も上乗せされるため「税金に税金がかかる」二重課税も問題視されていました。
2025年末に廃止決定:合意の経緯と概要
2025年10月31日、ガソリン税の旧暫定税率を今年末(12月31日)に廃止することで与野党6党が正式合意しました。自民党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、公明党、共産党の主要政党が足並みを揃え、同税率の撤廃に踏み切る異例の決断です。関連法案は臨時国会で速やかに成立される見込みとなっています。
今回の決定に至るまでの政治的な背景には、新内閣の発足と物価高対策の急務があります。2025年10月、高市早苗氏が内閣総理大臣に就任した直後から、ガソリン価格高騰への対策として暫定税率廃止の機運が一気に高まりました。実際、物価高に苦しむ国民への目に見える形の支援を優先し、与野党が協議を急ピッチで進めた経緯があります。野党側はもともと2025年内の早期廃止を強く主張し、8月には野党7党共同で11月1日付の暫定税率廃止法案を提出していました。一方、与党自民党は当初「恒久的な代替財源の確保なくして安易な減税は困難」と慎重姿勢で、廃止時期を2026年2月に先送りする案も検討していました。しかし新政権の支持率アップや野党の結束圧力もあり、最終的に年内廃止で妥協が成立した形です。
今回の与野党合意のポイントは次の通りです。
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ガソリン税暫定税率(25.1円/L)の廃止時期:2025年12月31日付で廃止。これによりガソリン税の税率は本則分のみとなり、1リットルあたり25円程度の恒久減税となります。
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軽油引取税暫定税率(17.1円/L)の扱い:軽油(ディーゼル燃料)に関しても、2026年4月1日に暫定税率を廃止することで合意しました。軽油引取税は都道府県税であり当初は廃止対象から外れていましたが、地方負担に配慮しつつ段階的措置を講じることで数ヶ月遅れの撤廃が決まりました。
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関連法案の手続き:2025年11月中旬までに正式に協議内容を各党が了承し、臨時国会で関連法案を可決・成立させる予定です。
段階的な補助金引き上げで価格を緩やかに調整
急な減税はガソリンスタンドや消費者に混乱を招く恐れがあります。そのため政府・与野党は、廃止までの移行措置としてガソリン補助金を段階的に増額し、価格を穏やかに引き下げる対策を講じます。
具体的には、現在政府が実施しているガソリン価格抑制策(1リットルあたり10円の補助金)を2025年11月13日から2週間ごとに5円ずつ積み増し、12月11日には補助額を25.1円にまで引き上げる計画です。これにより年末時点で補助金が暫定税率と同額となり、ガソリン小売価格は税率廃止前後でも急激な変動が起きないよう調整されます。消費者にとっては徐々に価格が下がっていき、年明けにいきなり大幅値下がりすることで生じる“駆け込み給油”や“買い控え”の混乱を避ける狙いです。年明け以降は補助金支給を終了しつつ税そのものが無くなるため、補助金から減税へスムーズにバトンタッチする形になります。
軽油についても同様で、2025年11月13日以降、ガソリンと並行して軽油補助金も段階的に引き上げられます。11月27日には軽油1リットルあたり補助17.1円(暫定税率と同額)に引き上げられ、2026年4月の税率廃止まで軽油価格を実質的に引き下げておく措置が取られます。
ガソリン価格への影響:どれくらい安くなる?
価格は実質15円前後の値下げ見込み
暫定税率廃止後、ガソリン小売価格は理論上1リットルあたり25円程度安くなります。例えば税抜き価格や原油価格が同じであれば、現行のガソリン価格(補助金適用前の全国平均:約183円/L前後)が約158円/L前後に下がる計算です。また暫定税率分にも消費税(10%)がかかっていたため、その分の軽減効果も加わり、実質の値下げ幅は約27.6円(25.1円×1.1)となります。ただし現状はすでに補助金10円が出て価格抑制されているため、「今の価格」から単純に25円下がるわけではありません。補助金が最終的に増額された状態から税が外れる形になるため、現行補助金込み価格(例:170〜173円/L)に比べて15円前後安くなるとの見込みです。実際、10月下旬時点のレギュラーガソリン全国平均価格は173.5円/L(この中に補助金10円を含む)であり、暫定税率廃止後は約158円/Lに下がる計算だと報じられています。
このように年末にかけて徐々に値下がりし、最終的に現在より1リットルあたり15円程度安い水準で落ち着く見通しです。これは消費税を除いたガソリン税部分だけで見ると25.1円の減税効果ですが、補助金施策との組み合わせで緩和されるためです。補助金終了も考慮した実質の値下げ幅については、政府の調整次第で多少前後する可能性があります。
家計への恩恵:年1万円前後の負担減に
ガソリン税の暫定税率廃止によって、自家用車ユーザーの家計負担は大きく軽減されます。総務省の家計調査によれば、2人以上世帯の平均的なガソリン消費量は年間約430リットル(2024年時点)です。仮にリッターあたり15〜25円程度の値下がりが実現すれば、年間で約7,000円〜10,000円超のガソリン代節約になる計算です。特に地方で車移動が欠かせない世帯や、通勤・営業で長距離運転する方ほど恩恵は大きく、場合によっては数万円規模の負担減になる家庭もあるでしょう。
また燃料費は物流コストや公共交通の運営経費にも直結します。トラック運送業では経費の約2割が燃料費とも言われ、ガソリン・軽油価格の低下は運送会社やバス・タクシー事業者の負担軽減につながります。燃料コストが下がれば運賃や商品の価格を抑制する効果も期待でき、消費者物価全体に好影響を及ぼす可能性があります。実際、暫定税率廃止による燃料安はインフレ対策として政府が位置づけており、物価高騰に苦しむ生活者や中小事業者にとって朗報と言えます。
消費者・業界へのメリットまとめ:ガソリン暫定税率廃止は直ちに家計を潤し、経済を下支えする効果が期待されます。
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一般家庭:平均で年約1万円のガソリン代節約(車利用量に応じ負担軽減)
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地方・車通勤世帯:車依存度が高く、恩恵がより大きい
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運送・物流業界:燃料コスト減で経営改善、運賃値下げ余地も
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バス・タクシー等:公共交通機関の経費圧縮、サービス維持に寄与
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物価全般:輸送コスト低下による商品価格への波及でインフレ抑制効果
暫定税率廃止の背景:なぜ今、25円の減税が必要だったのか
原油高と物価高騰によるガソリン価格急騰
2022年以降の世界的な原油価格高騰と円安の進行により、日本のガソリン小売価格は歴史的水準に達していました。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー市場の混乱も重なり、レギュラーガソリンは一時全国平均で180円/Lを超える高値となりました。これはリーマンショック前の2008年並み、あるいはそれ以上の負担感を国民に与えています。特に地方では200円/L近い価格報告もあり、ガソリン代の高騰は家計直撃の深刻な物価高要因となっていました。
こうした状況を受け、日本政府は2022年からガソリンや軽油、灯油など燃料に対する激変緩和措置(補助金)を開始しました。当初は一時的措置のはずが、エネルギー価格高が長期化する中で補助金支出は膨張し、これまでに総額8兆円以上もの予算が費やされています。しかし補助金はあくまで財政負担であり、原油価格が下がらない限り終われない「泥沼化」の様相を呈していました。
そこで新政権は補助金ではなく税そのものを下げる恒久策にかじを切ったのです。ガソリン税暫定税率を廃止すれば、価格抑制効果は補助金と同等ながら国費からの持ち出しを減らせるメリットがあります(表面的には税収減ですが、補助金に充てていた予算を削減できる可能性があるため)。また、「目に見える減税」として国民の実感を伴いやすいことも政治的判断に影響しました。補助金は政府が価格に介入している間接的な措置でしたが、税廃止はレシートや価格看板に直接「○○円値下げ」と表れます。高市首相は物価高対策を政権の最優先課題に掲げており、その第1弾として国民にアピールしやすいガソリン減税を断行した格好です。
超党派の異例合意
もう一つの背景は政治状況の変化です。通常、与党と野党で政策スタンスが異なる減税策がここまで広範な党派の賛同を得るのは異例です。与党・自民党は長年「道路維持や財政健全化のため」として暫定税率維持を主張し、過去に民主党政権が期限切れを狙った際も激しく抵抗した歴史があります。しかし2025年時点では、各地の補選や世論の動向から減税を求める民意が強いことが読み取れました。野党は有権者受けの良い「ガソリン値下げ」で一致団結し与党を攻勢。一方の与党自民も、参議院での多数確保や連立運営のためには野党協力が不可欠な事情があり、苦渋の譲歩に踏み切ったとされています。
結果として、自動車ユーザーの負担軽減について保守から革新まで利害が一致し、7月の与野党協議で一度は「年内廃止」で合意に至りました。その後、財源論を巡って与党内から異論が出て合意が揺らいだものの、最終的に先送りは避け年内実施を優先する方針が固まったのです。自民党税調会長の小野寺五典氏も「6党それぞれ違う考えがある中で一致できたのは大きな意義がある」と述べ、今回の超党派合意を評価しています。政治的には、新首相の出だしを飾る国民向けの目玉施策となり、高市政権のリーダーシップをアピールする狙いもうかがえます。
1.5兆円の減収インパクト:財源穴埋めはどうする?
年間1兆~1.5兆円の税収減に
ガソリンと軽油の旧暫定税率を廃止することで、国と地方合わせ年1.5兆円規模の税収減が生じます。内訳はガソリン税で約1兆円、軽油引取税で約0.5兆円(5千億円)と見られます。これまでこの税収は道路を含むインフラ整備や一般財源として活用されてきただけに、恒久減税による財政へのインパクトは甚大です。
従来、ガソリン税収の一部は地方自治体にも配分され、道路特定財源だった時代の名残として道路整備や補修の財源になってきました。そのため地方側からは「急に税収が減ればインフラ維持がおろそかになるのでは」と不安の声も上がっています。特に軽油引取税は都道府県の重要な自主財源であり、簡単に無くすと地方財政に大穴が開くことから、当初軽油税の暫定廃止は見送られそうでした。最終的には軽油も廃止する代わりに、地方への配慮措置(地方交付税の増額など)を検討していく方向で決着しています。
代替財源の確保はこれからの課題
最大の懸案は、この消える1.5兆円の穴をどう埋めるかという問題です。合意文書でも「税収減を補う安定財源の確保」が重要課題として明記され、2025年末までに結論を出す方針が示されました。しかし現時点で確たる代替財源策は決まっておらず、議論は先送り状態です。与党は当初「安定財源なき減税は無責任」としていましたが、結局具体策の詰めは今後に持ち越されました。
政府・与党内で候補に挙がっている財源策としては、以下のようなものがあります:
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租税特別措置の見直し:企業向けの各種税優遇(租特)を整理し、減税余地を財源化する。具体的には大企業の減税措置や中小企業優遇策の一部見直しなど。
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金融所得課税の強化:富裕層が恩恵を受けているとされる株式譲渡益や配当への軽減税率を是正する(いわゆる「1億円の壁」問題の解消)。超富裕層への課税強化で歳入増を図る。
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新たな税収源の検討:環境関連税(カーボンプライシング)や走行距離に応じた課税など、新しい税制度の導入可能性も含め検討。
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税外収入の活用:過去の予算余剰金や政府保有資産の売却益など、一時的な収入で当面凌ぐ。
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国債発行に頼らない:不足分を安易に赤字国債で穴埋めしない方針を強調(一時的な財源措置は検討するが恒久財源には国債は避ける)。
現実には、いずれの案も一長一短で調整は難航が予想されます。企業優遇措置の縮小は産業界の反発を招きかねず、富裕層増税も資本市場への影響が議論になります。環境税導入はまた別の政治的ハードルがあります。一方、「税収が自然増した分でカバーする」といった期待もありますが、安定財源とは言えません。政府は当面は剰余金など税外収入や予備費でしのぎ、国債増発は避ける方針を示しています。しかし恒久的な減税には恒久的な財源が不可欠であり、高市政権はまさに「責任ある積極財政」の試金石としてこの課題に取り組むことになります。
インフラ維持への懸念
税収が減ることで、道路をはじめとしたインフラ維持への財源確保にも課題が生じます。ここ数年、全国で老朽化した道路や橋梁の事故・損傷が相次ぎ、メンテナンス需要が高まっています。ガソリン税は本来道路利用者が負担する合理的な仕組みで、道路整備の貴重な財源となってきました。暫定税率廃止後はその大きな財源が失われるため、「道路の陥没事故など安全面に支障が出ないか」といった声もあります。合意文書ではインフラ保全に配慮し「今後1年程度をめどに安定財源を具体策検討し結論を得る」と明記されました。
今後、政府は地方交付税などで地方の減収を補填しつつ、道路特定財源制度の復活に代わる新たな枠組みを模索する可能性もあります。例えば自動車重量税など他の自動車関連税収を道路維持に重点配分する案や、将来的には走行距離に応じた課金制度(ロードプライシング)なども議論の俎上に載るかもしれません。電気自動車(EV)の普及でガソリン消費そのものが減る長期トレンドを考えると、道路財源の確保方法を抜本的に見直す契機とも言えます。
脱炭素への逆行?環境面での影響と懸念
CO2排出増加:温室効果ガス削減目標に影を落とす
ガソリン暫定税率の撤廃は、燃料価格を引き下げることで消費量を増加させ、結果としてCO2排出量を増やす可能性が高いと指摘されています。国立環境研究所が試算したところ、暫定税率を廃止すると2030年時点で日本全体のCO2排出量が約610万トン増加すると見込まれます。これは日本の2030年度排出目標(2013年度比▲46%)に照らし、エネルギー起源CO2排出量の約1%分に相当する量です。中でも自動車など運輸部門からの排出増が約360万トンと大半を占め、運輸部門排出の2.5%分にあたります。このままでは政府が掲げる2030年温室効果ガス削減目標や2050年カーボンニュートラル目標の達成に黄信号が灯りかねません。
環境省もこうした試算を踏まえ、同等以上の環境保全効果を確保する措置が必要だと訴えています。具体策は今後の検討課題ですが、例えば他のカーボンプライシング(炭素税や排出量取引)で補うことや、自動車の燃費規制強化、EV転換の促進策などが考えられます。いずれにせよ、ガソリン減税の裏で増える排出を放置すれば、日本の気候変動対策が後退するのは避けられません。
EV普及とエネルギー転換への影響
燃料価格の高さは、電気自動車(EV)など脱炭素型モビリティへの移行を促す大きな要因でした。欧米では「電気で走った方がガソリンより安上がり」という経済性がEV普及を後押ししてきた側面があります。日本でも政府が2035年までに新車販売を電動車100%(ハイブリッド含む)とする目標を掲げていますが、足元のEV普及率はまだ数%に留まります。その中で今回ガソリン価格を下げることは、EVを買うインセンティブを損なう恐れがあります。消費者にとって「ガソリン代が安くなったなら、当面ガソリン車でいいや」となる可能性があるからです。
実際、環境団体は「ガソリン安はEV普及停滞につながり、長期的には気候変動による光熱費や健康被害で国民生活をさらに圧迫しかねない」と懸念を表明しています。また、日本のガソリン価格は元々G7諸国で米国・カナダに次ぐ安さであり(税負担額もOECDで4番目に低い水準)、これ以上の負担軽減は世界の脱化石燃料の流れに逆行すると指摘されています。COP30(国連気候変動枠組条約締約国会議)が間近に迫るタイミングでの化石燃料減税決定は、日本の気候変動対策への姿勢に疑問を投げかけるものでもあります。
環境面での課題を整理すると以下の通りです。
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CO2排出増:2030年までに+610万トンCO2の排出増加が予測され、日本の削減目標達成を困難にする。
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モーダルシフト後退:ガソリン価格低下で公共交通・自転車・徒歩から自家用車へのシフトが進み、交通部門の脱炭素化が停滞する懸念。
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EV競争力低下:燃料費の安さでEVの経済的メリットが縮小し、EV購入意欲やメーカーのEV戦略にマイナス影響。
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再エネ転換機運への影響:化石燃料利用を助長する政策シグナルにより、再生可能エネルギーや省エネへの投資意欲が削がれる可能性。
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国際的評価:日本が化石燃料補助を恒久化したと受け止められ、国際社会での気候リーダーシップが低下するリスク。
もちろん生活支援は重要ですが、短期的な価格対策が中長期の脱炭素政策と矛盾しないよう、両立策を講じることが不可欠です。環境団体からは「むしろ炭素税を導入し、その税収で所得減税や消費減税を行うなど、脱炭素と生活安定を両立する現実策を検討すべき」との提案も出ています。例えば燃料に価格上乗せする代わりに、その分を国民に減税や給付で返すカーボンプライシングの手法です。ガソリン暫定税率廃止は一旦決まったことですが、今後日本がどう気候目標と整合させていくのか、真価が問われるでしょう。
今後の展望:残された課題と日本のエネルギー政策のゆくえ
今回のガソリン暫定税率廃止は、約50年続いた制度の大転換であり、多くの国民に歓迎される措置です。しかし、その裏側にはエネルギー政策・財政政策上の大きな宿題が積み残されています。
第一に、前述の恒久財源の確保です。年間1兆円超の減収を埋める措置について、政府は2025年末までに結論を出すとしていますが、減税実施が先行する形だけに確実な手当てが求められます。仮に景気が悪化すれば税収増も見込めず、財政赤字の拡大圧力となりかねません。高市政権は「安易に国債には頼らない」としていますが、有権者に痛みを伴う増税策を示せるかどうか、政治的ハードルは高いでしょう。各党間でも意見の隔たりが大きく、与党は企業減税の見直しなどに慎重、一方野党は富裕層増税を主張するなど、合意形成は難航が予想されます。
第二に、インフラ維持と地方財政への配慮です。道路網の安全確保は国民生活の基盤であり、その予算が細る事態は避けねばなりません。政府は当面、地方交付税措置などで自治体財政を下支えするでしょう。同時に、EVシフト等で将来的にガソリン税収そのものが逓減していくのは世界共通の課題です。日本もこの機会に、走行距離課税やロードプライシングの導入検討、あるいは自動車関連税制全体の再構築を視野に入れるべきかもしれません(2025年度は自動車税制抜本見直しの議論年でもあります)。持続可能な形でインフラ維持と公平なコスト負担を両立する仕組みづくりが必要です。
第三に、エネルギー転換と環境目標の両立です。安価なガソリンは短期的には経済にプラスですが、長期的にはカーボンニュートラルへの移行を鈍らせるリスクがあります。政府は今回の減税による排出増を相殺するため、これまで以上に強力な脱炭素策を講じる責任があります。例えば発電部門での再エネ導入拡大や、省エネ投資促進策、ZEV(ゼロエミ車)普及のための補助・規制強化などです。また気候変動対策への姿勢について国際社会から厳しい目が向けられる可能性があり、COP会合などでの説明責任も生じます。日本はエネルギー安全保障上も再生可能エネルギーや代替燃料の拡大が急務であり、化石燃料への恒久減税を行った以上、それに見合う代替策を示すことが求められます。
最後に、政治との関係では今回、物価高対策としての減税が優先されましたが、本質的な問題は「国民負担の限界」と「気候政策の整合」をどう両立させるかです。生活が苦しい中で環境のための負担増は支持を得にくく、かといって気候目標を後退させれば将来世代へのツケとなります。政治の果断な舵取りと国民的議論が必要な局面と言えるでしょう。高市首相は「責任ある積極財政」「国民負担軽減」を掲げていますが、その責任には将来の地球環境も含まれるはずです。今回の決断を単なるバラマキに終わらせず、日本のエネルギー転換と経済再生の両立への道筋を示せるかどうか——これからの政策運営が注目されます。
よくある質問(FAQ)
Q: ガソリン暫定税率はいつ廃止され、ガソリン価格はどれくらい下がりますか?
A: 2025年12月31日をもってガソリン税の旧暫定税率(1リットルあたり25.1円)が廃止されます。価格への影響は、現在の補助金政策との兼ね合いもあり、年明け時点でガソリン小売価格が今より約15円程度安くなる見込みです。例えば全国平均レギュラー価格は補助金適用後で約173円/Lですが、廃止後は約158円/L前後になる計算です。補助金を段階的に増額していくため、急激な値下がりではなく徐々に価格が下がっていく形になります。
Q: ガソリン税の「旧暫定税率」とは何ですか?なぜそんなに長く続いていたのですか?
A: ガソリン税の旧暫定税率とは、1974年に道路整備財源確保のため「一時的な措置」として導入された増税分です。本来は期限付きでしたが、道路網拡充や財政需要のため延長が繰り返され、実質的に恒久増税化していました。2009年に税収の使途が一般財源化された後も税率自体は維持され、名称も「当分の間税率」と変えて継続されました。歴代政権が財源不足や道路老朽化対策を理由に廃止を見送ってきたため、結果的に50年もの間ドライバーに重い負担がのしかかっていたのです。
Q: 暫定税率廃止によるメリットとデメリットは何ですか?
A: メリット: ガソリン価格が恒久的に下がるため、家計負担の軽減につながります。平均的な家庭で年7千円~1万円、車の使用が多い世帯なら数万円の節約効果もあります。また運送業や公共交通の燃料コストも減り、運賃や物価の抑制、地域経済の下支え効果が期待できます。一方、デメリット: 政府財政にとっては年1兆円超の減収となり、恒久財源をどう確保するか課題です。道路維持などインフラ投資に影響が及ぶ懸念もあります。さらに燃料が安くなることでガソリン消費量が増え、CO2排出が増加してしまう問題があります。脱炭素の流れに逆行し、電気自動車への切り替えが進みにくくなるなど長期的な環境・エネルギー面でのデメリットも指摘されています。
Q: 減収となる1.5兆円の穴埋めはどうするのですか?新たな増税がありますか?
A: 現時点では具体的な代替財源は決まっておらず、2025年末までに検討する方針です。案としては、企業向け税優遇(租税特別措置)の見直しや超富裕層への金融所得課税強化などが挙がっています。また、環境目的の新税導入や既存税目の活用も議論されるでしょう。政府は「当面は余剰金など一時的財源で対応し、国債増発には頼らない」方針です。いずれにせよ増税に近い形で誰かが負担を負う可能性はあります。ただし、具体策が決まるまでは国の予算繰りや基金の活用などでつなぐ見通しです。国民への新たな増税があるかは今後の税制改正議論次第ですが、政治的ハードルは高いため簡単には進まないと見られます。
Q: 脱炭素や再生可能エネルギーの普及に逆行するとの指摘がありますが、どう対応するのでしょうか?
A: ガソリン減税が気候変動対策に逆行するのは事実上避けられません。政府も排出増加を相殺する対策の必要性は認識しています。今後、同等のCO2削減効果を生む措置として、例えば新たな炭素税や自動車の環境性能割強化など環境税制のテコ入れ、EV購入補助の拡充、公共交通投資などが検討される可能性があります。環境省は暫定税率廃止による2030年排出増を約610万トンと試算し、これを埋め合わせる政策を求めています。具体策はこれからですが、「炭素税を導入してその分を他の減税に回す」といった暮らしと脱炭素の両立策も一案として提言されています。再エネ普及については直接の関係は薄いものの、化石燃料が安くなると相対的に再エネ投資の旨味が減る懸念があります。したがって政府は引き続き再エネ導入目標(2030年電源構成36-38%など)達成に向けた支援策や規制改革を進め、今回の減税によるマイナス影響を最小限に抑えていく必要があります。
本記事のファクトチェック・出典
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「2025年末でガソリン税暫定税率を廃止する与野党合意」 – 2025年10月31日に自民・立民・維新・国民・公明・共産の6党協議で、ガソリン税の旧暫定税率を12月31日付で廃止することで正式合意。軽油暫定税も2026年4月に廃止予定。各種報道(日本経済新聞、朝日新聞など)で確認。
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「ガソリン価格は年明けに約15円/L下がる見込み」 – ガソリン補助金を段階増額しつつ暫定税廃止を迎えるため、現行価格(補助金10円込み)から実質15円程度の値下げになると報じられている。経済産業省発表の価格(10月末173.5円/L)と廃止後試算158円/Lという日経報道に基づく。
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「平均的世帯で年1万円前後の負担減」 – 総務省家計調査の平均ガソリン消費約430L/年から算出。補助金適用後価格との比較では7千~9千円超の軽減との税理士事務所試算。1Lあたり25円の減税効果では約1.1万円の軽減となる。
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「暫定税率廃止で税収年間1.5兆円減」 – ガソリン約1.0兆円、軽油約0.5兆円の減収規模と日経新聞が報道。国地方合計の概算値で、政府発表や有識者試算と概ね一致。
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「CO2排出が2030年に610万トン増加の試算」 – 国立環境研究所試算(2025年)で、暫定税率廃止により2030年排出量+610万トンCO2(運輸部門+360万トン)と環境省が公表。政府の2030年目標に対し約1%増に相当し、環境省は同等の排出削減策の検討を要望。
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「ガソリン価格の国際比較とEV普及への影響」 – 日本のガソリン小売価格はOECDで米国に次ぐ低水準、税負担も4番目に低い(2025年時点)と日経新聞。グリーンピースは「ガソリン安はEV購入インセンティブを損ない普及を阻害」との声明を発表g。欧米で燃料税一時減税は短期で終了しており、日本の恒久減税は脱炭素に逆行との指摘。
参考文献・情報ソース一覧(全て2025年11月1日時点の最新情報)
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日本経済新聞 (2025年10月31日) 「ガソリン暫定税率12月31日廃止、1リットル25円 与野党6党合意」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA3116G0R31C25A0000000/
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日本経済新聞 (2025年10月31日) 「ガソリン減税で遠のく脱炭素 COP直前の逆行、家計負担年1万円減も」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA30CRT0Q5A031C2000000/
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朝日新聞デジタル (2025年10月31日) 「ガソリン旧暫定税率、12月末に廃止決定 15円ほど安くなる見込み」 https://www.asahi.com/articles/ASTB0153QTB0ULFA036M.html
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環境省 報道資料 (2025年7月2日) 「揮発油税等の当分の間税率の廃止の影響試算について」〔PDF〕(国立環境研によるCO2排出増試算を公表) https://www.env.go.jp/content/000334522.pdf
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グリーンピース・ジャパン (2025年9月3日) プレスリリース「ガソリン暫定税率廃止が招く長期的な負担 ーー ガソリン安でCO2排出増、BEV普及停滞の懸念も」 https://www.greenpeace.org/japan/news/pr_20250903_drivingchange/
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寺田税理士事務所 (2025年10月24日) ブログ「【2025年最新】ガソリン暫定税率廃止はいつ?25.1円減税の影響と今後の見通し」 https://taxlabor.com/gasoline-zantei-zeiritsu-haishi-2025/
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共同通信(沖縄タイムス) (2025年11月1日) 「ガソリン暫定税率、2025年末に廃止 与野党が合意、段階的に値下げ 減収の代替財源は先送り」 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1704313
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時事通信 (2025年10月22日) 「ガソリン補助金増額で合意 年内に暫定税率上乗せ分」(高市政権・維新合意) https://www.jiji.com/jc/article?k=2025102201057
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経済産業省 資源エネルギー庁 「石油製品価格調査(ガソリン小売価格)」※最新のガソリン価格統計 https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum/retail/



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