自家消費提案で使える需要家からデマンドデータを素早く入手する30のアイデア

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

エネがえるキャラクター
エネがえるキャラクター

需要家からデマンドデータを素早く入手する30のアイデア(低圧/高圧)

電力需要データ(デマンドデータ)とは、電力消費量を時間帯ごと(通常30分間隔)に記録した詳細データのことです。自家消費型太陽光発電システムの導入提案では、このデータが不可欠です。

なぜなら需要家(お客様)の電力使用パターンを把握しないと、太陽光でどれだけ電力を賄えるか、ピーク電力をどれだけ削減できるか、といった効果を正確に試算できないからです。しかし実際には、このデマンドデータの入手が提案業務における大きなボトルネックになっています。

実際、産業用太陽光・蓄電池の販売担当者への調査では、「電力需要データ(30分値デマンド)の入手」に時間や労力がかかると感じている人が37.3%に上り、「ヒアリングや現地調査」(41.8%)に次ぐ課題となっています。さらに業界全体では人材不足やノウハウ不足も深刻で、太陽光販売会社の約8割が「提案書作成の負担で顧客対応が遅れる」と感じている状況です。つまり、需要家の電力データをスムーズに取得し迅速に提案に反映することが、営業効率の向上と再エネ普及の加速において極めて重要なのです。

では、需要家はこのデータ提供に協力的なのでしょうか?

国際航業の調査によれば、太陽光導入を検討する企業の担当者の約7割が「初期段階からある程度具体的な数値」を提示してほしいと考えています。半数以上(53.2%)は「ざっくりでも正確な数字がないと社内で議論を始めづらい」と感じており、社内稟議を通すためにも根拠ある数値データの提示が求められています。

一方で「多少精度が粗くても早めに概算を出してほしい」という層も34.2%存在し、スピードも重視されています。このように提案初期のスピードと精度のバランスが導入意欲を高めるカギになるため、できる限り早く信頼性の高いデータを入手し提示することが重要です。

そこで本記事では、需要家からデマンドデータを上手に素早く入手するためのアイデア30選を、低圧契約の場合と高圧・特別高圧契約の場合に分けてご紹介します。

現場で蓄積された知見や最新テクノロジー、そしてちょっとした工夫まで網羅し、提案業務の生産性向上と再エネ普及の加速につながるヒントをまとめました。どれも実践しやすく効果的なものばかりです。「データ取得に時間がかかって提案が遅れる…」といった課題を感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。

参考:デマンドデータがなくてもシミュレーションできますか?業種別ロードカーブテンプレートはありますか? | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え) 

参考:エネがえるBiz 30分値デマンドデータ自動変換機能とは? | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え) 

参考:低圧施設向け自家消費提案に使えますか? | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え) 

低圧需要家(契約50kW未満)からデマンドデータを得る15の工夫

  1. 電気使用量の「検針票」(請求書)を提出してもらう
    – 最も手軽な方法は、需要家に過去1年分程度の電気料金請求書や検針票を用意してもらうことです。低圧契約の場合、検針票には月ごとの使用電力量(kWh)が記載されています。この月次使用量データから年間の消費電力量季節変動を把握できます。細かな30分値データではないものの、最低限のベースライン情報として活用できます。まずは「直近1年間の電力使用量がわかる資料があればご提供ください」と依頼しましょう。複数月分をまとめて提示することで、季節ごとの負荷変動年間の消費傾向を把握できます。

  2. 需要家の電力会社Webサービスからデータをダウンロード
    – 多くの電力会社や新電力では、契約者向けにWeb上で電力使用量を確認できるサービスを提供しています。需要家がその会員サイトにログインすれば、日別あるいは30分ごとの使用実績をCSVファイル等でダウンロードできる場合があります。例えば関西電力の「はぴeみる電」など、各社が提供するWebサービスの利用を案内しましょう。「○○電力のWEBサービスに30分ごとのデータがありますのでダウンロード方法をご存知ですか?」と尋ね、必要ならダウンロード手順をサポートします。需要家自身にWebから取得してもらうことで、迅速かつ正確にデータが入手できます。

  3. スマートメーターのデータ提供サービスを活用
    – 全家庭・事業所へのスマートメーター設置が進む中、低圧需要家でもスマートメーター経由で30分値データを取得可能です。電力会社によってはスマートメーターBルートサービス(需要家本人がID発行を申請し、データを取得する仕組み)を提供しています。例えば、需要家にスマートメーターのBルート通信サービス利用申請を行ってもらい、発行されたID/パスワードを用いて専用サイトからデータをダウンロードする方法があります。手続きは多少手間ですが、一度設定すれば最新の30分単位データが手に入ります。「スマートメーターの詳細データ取得サービスを利用すれば、30分ごとの電力使用状況が把握できます。一緒に手続きしてみませんか?」と提案してみる価値があります。

  4. ヒアリングで営業日・営業時間・主要機器を把握し負荷パターンを推定
    – 詳細データがすぐ得られない場合は、需要家へのヒアリングによって営業パターンを把握し、典型的な負荷プロファイルを推定する手法があります。例えば「営業時間は何時から何時までですか?定休日はありますか?空調は常に稼働していますか?生産設備の稼働時間帯は?」といった質問をして、日内変動曜日変動の傾向を聞き出します。また「夏場と冬場で電力使用量は大きく違いますか?」など季節変動も確認します。これらの情報から、「昼間はエアコンで消費が増える」「夜間はほぼ照明のみ」「繁忙期の夏は全体的に使用量が多い」等、おおまかな負荷曲線を描けます。ヒアリング内容に基づき業種別の標準負荷パターン(例えばオフィスなら昼間ピーク、飲食店なら夕方ピークなど)を当てはめることで、30分値データがなくとも需要家に合ったモデル負荷を仮定できます。このような聞き取りによる推定はあくまで概算ですが、提案初期段階で「ざっくりとした効果」を示すには有効です。

  5. 「電気の使い方チェックシート」で自己申告してもらう
    – 需要家自身に電力使用状況を整理してもらうためのヒアリングシートやアンケート用紙を用意しましょう。項目例として「契約アンペア(または契約容量)」「主な電気機器と台数(例:○○kWモーターが何台、エアコン何台)」「営業時間帯と各時間帯の稼働機器」「季節ごとの操業スケジュール」などを一覧できるようにします。需要家に記入してもらうことで、口頭で聞き漏らしがちな情報も文書で把握できます。特に工場などでは「何時から何時に大型機械○台稼働」など詳細に書いてもらえるケースもあります。このセルフチェックシートの記入は多少手間ですが、需要家自身が電力使用を見える化する機会にもなり、後日の提案時に「ご記入いただいた内容をもとにシミュレーションしました」と説得力を高めることができます。

  6. 簡易測定器を短期間設置する
    – 小規模な需要家であれば、簡易な電力測定器を一時的に設置してデータを取る方法もあります。例えばクランプ式の電力ロガーIoT電力センサーを分電盤に取り付け、1週間~1か月程度測定させてもらいます。最近では通信機能付きでクラウドにデータを送れるIoTデバイスもあり、貸し出しておけば遠隔で需要パターンを把握できます。短期間でも営業時間帯の負荷推移日毎の変動が捉えられるため、「平日と週末でこれだけ負荷が違う」「お昼休み時間帯に消費が落ちる」など具体的な話ができるようになります。需要家にとっても自社の電力使用状況が見える化できるメリットがあり、「データ計測サービス」として提案すれば協力を得やすいでしょう。ただし機器設置には許可と安全配慮が必要なので、事前に十分説明し承諾を得てください。

  7. 既存の電力量モニターを活用
    – 需要家によっては既に簡易的な電力モニターやスマートメーター連携の見える化機器を導入している場合もあります。例えば店舗オーナーが節電目的で市販のモニターを付けている、工場でエネルギー管理用にデマンド警報装置を使っている、などです。そのような場合は既存のモニターデータを見せてもらえないかお願いしましょう。リアルタイム表示だけでなく、機種によっては過去データを遡って閲覧・エクスポートできるものもあります。「もし店内の電力モニターで1日の推移が見られるようでしたら、写真に撮って送ってください」と依頼したり、直接訪問時に画面を確認させてもらったりします。既存ツールがある場合はそれを活かすのが一番手軽で、需要家に新たな負担をかけずに生のデータを入手できるチャンスです。

  8. 需要家に「電気使用量レポート」を取得してもらう
    – 一部の電力会社では、契約者からの依頼に応じて詳細な電力使用実績レポート(30分ごとのデータなど)を提供してくれるサービスがあります。低圧契約では対応していない場合もありますが、新電力会社などでは顧客サービスとして過去データの提供を行っていることもあります。「契約している電力会社に、過去の時間帯別使用実績データを問い合わせていただけませんか」とお願いしてみましょう。電力会社からCSVやPDFでデータが提供されれば、公式データとして信頼性も高くなります。需要家側の手間にはなりますが、「正式なデータがあればより正確に効果試算できます」とメリットを強調して協力を仰ぐと良いでしょう。

  9. シンプルな委任状で代理取得
    – 需要家にお願いしてもデータ取得が難航する場合、委任状による代理取得の手を提案します。需要家から一筆の委任状をもらえれば、提案側(施工業者など)が電力会社に直接依頼してデマンドデータを取り寄せることが可能です。例えば「○○株式会社の過去1年間の30分電力使用データ一式を、株式会社△△(提案者)に提供してください」という内容の委任状を作成し、社判・署名をいただきます。そしてそれを添えて電力会社に問い合わせれば、正式手続きを経てデータを入手できます。委任状のひな型をこちらで用意しておき、署名押印するだけで良い状態にして渡すのがポイントです。「こちらで電力会社に申請しますので、この委任状にご署名お願いします」と進めれば、需要家の手間を最小限に正式データを取得できます。

  10. 需要家の設備担当者やエネルギー管理担当者と直接連携
    – ビルや工場などでは、設備管理担当者やエネルギー管理者(エネルギー管理士)が電力使用状況を把握しているケースがあります。経営層や事務担当者に依頼するよりも、現場の設備担当者に話を通すとスムーズな場合があります「エネルギー管理ご担当の方とお話しできますか?」と尋ね、その方にデータ提供の意義を直接説明しましょう。技術担当者であれば太陽光提案のために負荷データが必要なことを理解しやすく、「◯◯の制御盤で計測しているデータをCSVで出せます」「デマンド監視装置の記録があります」といった情報を提供してくれることもあります。社内の誰に依頼するかで反応が変わることも多いため、適切なキーマンにアクセスするのも一つの戦略です。

  11. チェーン展開先は本部からデータ収集
    – 飲食店や小売店など多数の店舗を展開する企業では、本部が各店の電力使用量を管理している場合があります。各店舗個別 に聞くより、本部の施設管理部門やエネルギー管理部署に問い合わせた方が全店のデータ一括でもらえる可能性があります。「御社全体でエネルギー管理をされている部署から、対象店舗の使用電力量データをご提供いただくことは可能でしょうか?」と打診します。本部側は電力コスト管理のために月次の使用量や電気代をまとめて把握しているケースが多く、協力が得られれば精度の高い提案につながります。特に複数拠点への一括提案をする際は、本部を巻き込んでデータ提供を仰ぐことで、店舗間比較や総合効果も示せるメリットがあります。

  12. 過去の省エネ診断結果や監査レポートを活用
    – 需要家が過去に省エネ診断やエネルギー監査を受けている場合、その報告書に電力使用状況の分析が含まれている可能性があります。例えば自治体の省エネ診断事業やESCO提案の資料などで、「月別消費電力量グラフ」「日負荷パターンの例」等が載っていないか確認します。需要家に「以前エネルギー診断や電力の監査を受けたことはありますか?その資料があれば参考にしたいのですが」と尋ねてみましょう。過去レポートが入手できれば、電力データだけでなく省エネ施策の提案履歴ボトルネックも把握できます。それらを踏まえて「前回の診断では〇〇が課題と指摘されていますが、太陽光を入れればここが改善できます」といった踏み込んだ提案が可能になります。過去資料は宝の山なので、見逃さず活用しましょう。

  13. 簡易な需要パターン予測ツールを使う
    – 最近では、限られた入力情報から負荷パターンAIが予測してくれるツールも登場しています。例えば事業所の業種・延床面積・設備情報・営業時間などを入力すると、平均的な30分値負荷パターンを自動生成するプロンプトを設計して活用できます。これらを活用すれば、需要家から得た基本情報だけで疑似的なデマンドデータを作成できます。「AI需要予測ツール」で得た負荷曲線をもとに太陽光シミュレーションを行い、需要家には「データがないため生成AIを駆使した標準的な使用モデルに準じた擬似的デマンドデータに基づく試算」と断った上で提示します。完璧ではないにせよ、それでも全くの勘より格段に精度の高い試算となります。需要家から細かなデータ提供が難しい場合の次善策として、テクノロジーの力を借りるのも有効です。

  14. 需要家自身が入力できるオンライン診断ツールを提供
    – データ取得を円滑にするには、需要家に自ら情報を入力してもらう仕組みを用意するのも効果的です。例えばウェブ上の簡易シミュレーションフォームを作成し、「月毎の電気代」や「契約容量」「業種」など数項目を需要家自身に入力してもらいます。すると自動でおおまかな経済効果を試算し、その結果を需要家と共有できます。国際航業のクラウドサービス「エネがえる」のAPIを利用すれば、こうしたWebシミュレーターを自社サイト上に構築することも可能です。需要家からすれば自分でデータを入力する手間=メリット(すぐ結果が見られる)がありますし、提案者側は正確なデータ入力を待たずとも概算効果を示せる利点があります。実際、エンドユーザーがWeb上で5分程度の診断を行い、そのデータを営業担当者が後から精査・追客する、といったハイブリッド型の営業手法も広がっています。

  15. データ提供のメリットを丁寧に伝える – 最後に基本に立ち返って、需要家にデータ提供をお願いする際はそのメリットを具体的に伝えることが大切です。ただ「データをください」ではなく、「〇〇様の電力データをいただければ、自家消費太陽光の投資対効果を精度高く算出できます。具体的な削減額や回収年数が示せるので、社内での検討材料としても有用です」といった具合に、データ提供が需要家自身の利益につながると説明しましょう。国際航業の調査でも、太陽光導入に踏み切らなかった企業の過半数が「投資回収できるか不安」だったことが判明しています。逆に言えば、投資回収の見通しをデータに基づきクリアに示すことができれば、不安を解消し導入意欲を高められます。データ提供のお願いは丁寧に、かつ提供後のアウトプット(診断レポートや提案書)のイメージも示しつつ行いましょう。「データをご共有いただいたお礼に、○○様向けの無料の省エネ診断レポートをご提出します」と約束するのも効果的です。需要家にとって「データを渡す→有益なレポートがもらえる」というWin-Winを感じてもらえれば、協力も得やすくなります。

以上が低圧需要家の場合に使える15のアイデアです。では次に、高圧以上の契約ではどのようなアプローチが有効か、見ていきましょう。

高圧・特別高圧需要家からデマンドデータを得る15の工夫

  1. 電力使用量報告書や需給明細の提出を依頼
    – 高圧契約(契約電力50kW以上)の需要家には、毎月の電力使用量や契約電力が記載された電力需給明細書(検針票に相当するもの)が発行されています。まずはそれを提出してもらいましょう。高圧需要家の明細には、月ごとの総使用電力量(kWh)に加え、最大需要電力(デマンド値)が記載されています。例えば「今月の最大デマンド100kW、力率◯◯%」等の情報です。これによりピーク電力水準が把握でき、太陽光導入時のピークカット効果の概算に役立ちます。また契約プランによっては昼夜間の使用量内訳が出る場合もあります。需要家に「電力会社から毎月届く使用量報告書をご用意いただけますか?」とお願いし、最低1年分程度を入手できれば、季節変動も含め需要の全体像をつかむことができます。

  2. 電力会社から30分データを正式に取り寄せ
    高圧・特別高圧契約では、電力会社(一般送配電事業者または小売電気事業者)が需要家の30分ごとの電力使用データを蓄積しています。需要家から依頼すれば、そのデータを提供してもらえるケースが多くあり、過去1年間の30分値データをCSV等で入手可能です。需要家に正式依頼してもらうか、前述の委任状を利用して公式データを取り寄せましょう。提供までに多少日数がかかる場合もありますが、一度取得すれば精密なシミュレーションに活用できます。特に特別高圧ともなると負荷パターンが複雑ですから、公式データによる分析が極めて重要です。「電力会社から頂いたデータに基づき〇〇様向けの詳細シミュレーションを行いました」と言えれば、提案の信頼性も格段に増します。

  3. 需要家のエネルギー管理システム(EMS/BEMS)からデータ抽出
    – 大規模な工場やビルでは、独自のエネルギー管理システム(EMS/BEMS)を導入していることがあります。中央監視システムやデマンド監視装置が常時館内の電力使用をモニタリングしており、画面上でリアルタイムの負荷曲線が見られるようなケースです。もし需要家にBEMS担当者がいるなら、「システムから過去データをCSVで抽出できますか?」と相談しましょう。多くのBEMSは日別・月別レポート機能を持っており、30分または1時間値の履歴データをエクスポートできます。必要な範囲(例:直近1年間)のデータを出力いただければ、それをそのままシミュレーションソフトに取り込むことも可能です。BEMSデータは現場計測に基づく非常に正確な情報なので、これ以上ない材料となります。昨今は建物のカーボンマネジメントのためにデータ蓄積している企業も多いため、社内の宝のデータを共有してもらうイメージです。

  4. SCADAや生産管理システムのログを活用
    工場の場合、電力以外にも生産設備の稼働データなどがSCADA(産業制御システム)に記録されている場合があります。例えばライン全体の稼働率や主要設備の電流値ログなど、生産管理システム側から間接的に電力トレンドを推定できることもあります。需要家のエンジニアと話す中で、「設備ごとの電力モニターは付いていますか?」など掘り下げてみましょう。大型モーターや電気炉などでは専用の電力計器が付属してデータ取得している例もあります。それら部分データでも、全体の負荷と相関関係がわかれば重要なヒントになります。例えば「○時にこの炉がオンになると一気に数百kW跳ね上がる」と分かれば、太陽光や蓄電池でどう緩和できるか具体的に議論できます。SCADAのデータを全てもらうのは難しくとも、一部でも数値を共有してもらえればピーク発生要因の特定に役立ちます。

  5. デマンド監視装置の記録を確認
    – 多くの高圧需要家は契約電力超過によるペナルティを避けるため、デマンド監視装置」を設置しています。需要電力が一定値に近づくとアラームが鳴る仕組みで、表示盤に過去の最大デマンド値やその時刻などが記録されていることがあります。現地調査の際には受変電設備室などにその装置がないか確認し、あれば担当者に「直近の最大デマンドはいつ頃何kWでしたか?」と尋ねてみましょう。装置によってはデマンド値の履歴一覧を表示・印刷できるものもあります。最大デマンドの発生時刻が昼なのか夜なのか、季節はいつか、といった情報だけでも設計の指針になります。例えば「昨年8月の14時台に最大200kWを記録していますね。太陽光を導入すればこのピークをどこまでカットできるか試算しましょう」という具合に、ピークカット効果のシナリオを具体的に示せます。

  6. 需要家の電力見える化サービスにアクセス
    – 新電力会社やESCO事業者から電力供給を受けている需要家の場合、契約先が専用の見える化ダッシュボードを提供していることがあります。オンラインで負荷曲線や電力コストを閲覧できるサービスで、需要家はそれを日々チェックしているかもしれません。もし「○○エナジーと契約している」「過去データはWebで見られる」といった情報があれば、その画面を共有してもらうようお願いしましょう。可能ならその場でログインしてもらい、こちらで必要なグラフや数値をメモ・スクリーンショットします。多くの場合1時間値や30分値のグラフが表示できるはずなので、「昨年◯月◯日のピークはこのくらいですね」と会話しながら情報を得られます。需要家が日常的に使っているツールであれば抵抗感も少なく、リアルタイムに近いデータが入手できるチャンスです。

  7. 複数契約電力の統合把握
    – 大きな事業所では、高圧受電を複数契約している場合や、高圧と特別高圧の混在建物ごとに別契約になっている場合などがあります。提案に当たってはすべての契約分のデータを集約して検討する必要があります。「構内に受変電設備が2か所ありますが、両方合わせた消費データを出してみましょう」のように提案し、それぞれについてデータ提供を受けます。その上で合算負荷曲線を作成し、太陽光のカバー率やピークシフト効果をシミュレーションします。もし一方は特別高圧でもう一方は非常用バックアップ程度の小容量高圧、といったケースなら主要側に注力すべきですが、見落とし契約がないよう全貌をヒアリングで確認することが重要です。また敷地内テナント等で電力契約が分かれている場合、導入スキーム次第で全体最適を見る必要もあります。契約が複数にまたがる場合は、全体像の把握と統合データ化を意識しましょう。

  8. データ取得~提案作業をアウトソーシング
    – 自社で需要家データを集め分析するリソースが足りない場合、思い切って専門サービスにアウトソーシングするのも一案です。例えば国際航業とエコリンクスが提供する「エネがえるBPO/BPaaS」では、太陽光提案に必要な経済効果試算や設計、補助金調査などを1件から代行してもらえます。必要最低限の情報さえ伝えれば、需要家へのヒアリングからデータ整理、シミュレーション結果レポート化まで専門チームが迅速に対応してくれる仕組みです。調査によると、太陽光・蓄電池販売企業の約8割が提案書作成の負担を感じており人材不足も深刻ですが、こうしたBPOサービスを使えば繁忙期や専門人材不足を外部で補完できます。場合によっては、需要家との連絡も含めて代行してくれるプランもあるため、「データ取得が大変なのでプロに任せてしまおう」という割り切りも時には有効でしょう。コストはかかりますが成約率向上や提案スピードアップと天秤にかけ、トータルの投資対効果を考えてみてください。

  9. 需要家の協力を得るためのNDA締結
    – 特に大企業やセンシティブな業種では、自社のエネルギーデータを外部に渡すことに慎重なケースがあります。そうした場合、機密保持契約(NDA)をこちらから提示し、データを厳重に管理することを約束しましょう。「ご提供いただくデータは提案目的以外には使用せず、秘密情報として取り扱います」という文言を盛り込んだ簡易NDAに署名いただければ、需要家も安心して情報提供しやすくなります。実際に契約するか否かに関わらず提案段階からNDAを結ぶのは、信頼関係構築にも有効です。「データをいただければ御社向けに最適な提案をいたします。その際、秘密保持契約も締結させていただきますのでご安心ください」と一言添えるだけで、相手の心証は大きく違います。データ提供への心理的ハードルを下げる工夫として、NDAはぜひ活用しましょう。

  10. ピーク時の操業状況ヒアリング
    – 高圧需要家では毎月のピーク需要(デマンド値)が記録されていますが、そのピーク発生時に何が起きていたかを聞き出すことも大切です。例えば「昨年8月の最大デマンド200kWは、全設備フル稼働+空調フル運転の日でした」など、現場ならではの状況があります。これを把握することで、「太陽光で日中の空調負荷分をまかなえばピークをどれだけ抑制できるか」「ピーク発生要因が短時間の機器同時起動なら蓄電池併用でカバーできるか」等、具体的な提案に繋がります。データの裏側にあるストーリーを把握するイメージです。ヒアリングでは「最大デマンドはいつ頃発生していますか?その時どんな設備が動いていましたか?何か特別なイベントやトラブルがありましたか?」と質問してみます。需要家にとっても「あの日は猛暑で工場フル稼働でしたね」といった会話になり、提案側が現場理解に努めていることが伝わります。数字だけでなく文脈をセットで得ることで、提案の説得力が増すでしょう。

  11. 産業分野別のベンチマークと比較
    – 需要家から提供されたデータを分析したら、業界平均との比較も試みましょう。経済産業省やエネルギー関連団体が公表している産業分野別のエネルギー消費効率指標(いわゆるエネマネのベンチマーク)が参考になります。「同規模工場の平均エネルギー原単位は○○ですが、御社は△△で効率的ですね/やや高めです」といった会話ができれば、需要家は自社の立ち位置を認識できます。その上で「太陽光を導入すれば業界トップクラスの省エネ水準になります」とか「まだ余地があります」といった示唆が可能です。また、同業種の太陽光導入事例データ(可能ならデマンド削減実績など)も用いれば、需要家データと定量比較できます。「同じ食品工場A社ではピーク時400kWのうち100kWを太陽光発電でまかない、デマンド契約を10%引き下げました【例】」など具体例を示せれば、需要家データの活用価値が一層高まります。自社データだけでなく外部データとの比較分析も取り入れてみましょう。

  12. 金融機関向け資料としてデータを整備
    – デマンドデータを得たらそれを金融機関向けの提案資料にも活用する視点を持ちましょう。太陽光や蓄電池の導入では金融機関の融資審査が絡む場合がありますが、その際に需要家の電力使用実績データがあると信用力が増します。たとえば「過去1年間の詳細な負荷データに基づき精緻に試算した結果、投資回収期間◯年と算出されており、その根拠データを提示できます」と説明できれば、金融機関も安心です。「データに基づく提案」は融資担当者への説得材料にもなるため、需要家には「御社の電力データがあれば銀行提出用の効果資料も作れます」と付加価値を伝えておくと良いでしょう。事実、国際航業の調査では営業担当者の84.2%が「シミュレーション結果に対する保証があれば成約率が上がる」と期待しており、データ裏付けされた保証付き提案が求められています。需要家データ+客観的な保証(または融資資料)という組み合わせは、提案の信用力を飛躍的に高めます。

  13. ROI・回収期間シミュレーションを即実施
    – データ入手後は一刻も早く具体的な投資対効果(ROI)と回収期間の算出結果を需要家にフィードバックしましょう。なぜなら、需要家の最大の関心事は「結局いくら得をするのか、投資は回収できるのか」という点だからです。最近では、クラウド型シミュレーションツール「エネがえるBiz」に新機能が追加され、従来数日かかっていたROI・回収期間の計算がわずか10分で完了するようになりました。このようなツールを活用すれば、取得したデマンドデータを即座に入力してその日のうちに提案書ドラフトを作成できます。実際、「エネがえるBiz」でバージョンアップした診断レポートを用いれば、販売施工店やEPC事業者が抱える「迅速に信頼性の高い投資対効果提案書を作成する」という課題を解決でき、営業生産性が大幅に向上すると報告されています。データを得たらその価値を最大化するため、素早く結果に落とし込むことを心がけましょう。早ければデータ提供後翌日には試算レポート提出というスピード感が、競合他社との差別化にもつながります。

  14. 需要家とデータを共有し「見える化」を実感してもらう
    – 取得したデマンドデータは提案者側だけで分析するのではなく、ぜひ需要家本人にも共有してあげましょう。多くの企業では自社の詳細な負荷データを見たことがない担当者も多く、「こんな風に電気を使っていたのか」と新たな発見があります。例えば取得データから負荷曲線グラフを作成し、需要家に提示して説明します。「ここが昼休み時間帯で消費が下がっていますね」「このピークは空調と生産設備が重なった時間ですね」と、一緒に分析するスタンスです。需要家は自社のエネルギーの使われ方が視覚化されることで課題を認識し、「このピークを太陽光で減らせれば電気代がかなり下がりそうだ」と具体的なイメージを持てます。国際航業の調査では、CO2可視化ツールを導入する企業のうち削減行動に移せているのは3社に1社に留まるという結果もありますが、肝心なのは見える化から次のアクションへの橋渡しです。データ共有によって需要家自身が省エネ意識を高め、「ぜひ導入を前向きに検討したい」というモチベーションアップにつなげましょう。

  15. 海外の事例にならいデータ活用環境を提案
    – 最後に、世界最高水準のデータ活用事例から学ぶ視点です。例えば米国ではGreen Buttonという業界標準の仕組みが普及しており、電力会社のサイトからワンクリックで自分のエネルギー使用データをダウンロードし、第三者に提供できるようになっています。Green Buttonにより、商業・産業ユーザーは複数の電力会社間でも統一フォーマットのデータを容易に取得でき、太陽光事業者や金融機関に提出してもプロジェクト評価を迅速かつ高精度に行ってもらえます。日本でも将来的にこうした標準APIが整備されれば理想的ですが、現状では各社バラバラです。そこで、提案段階で「御社内でもエネルギーデータの一元管理や見える化を進めてみては」と働きかけるのも有意義です。具体的には、太陽光導入後も含めてエネルギーデータを継続的に記録・分析できるシステム導入を提案したり、需要家のDX推進部門に協力を求めたりします。データ利活用が進めば、需要家自身が省エネ効果をモニタリングできるようになり、再エネ設備の価値最大化にもつながります。提案者として単に太陽光を売るだけでなく、「データを制する者がエネルギーコストを制する」時代を見据えた包括的なソリューションを示せれば、需要家からの信頼も厚くなるでしょう。

以上、高圧・特別高圧需要家向けの15のポイントを挙げました。低圧・高圧それぞれアプローチは異なりますが、共通して言えるのは「データ取得の迅速化=提案スピード・精度の向上」だということです。実際、営業現場の調査では経済効果シミュレーションを活用している営業担当者ほど目標達成率が高いとの結果も出ています。裏を返せば、的確なシミュレーションには的確なデータが必要であり、そのデータをいかに早く揃えるかが営業成果を左右します。

おわりに:デマンドデータ活用が再エネ提案の未来を変える

デマンドデータを素早く入手し活用することは、単なる営業効率化にとどまらず、日本の再生可能エネルギー普及における根源的な課題解決につながります。

太陽光や蓄電池の導入を検討する需要家の多くが感じる不安は「本当に投資回収できるのか?」という点です。この不安の裏には、「提示された効果試算は自社の実態に合っているのか?」というシミュレーション結果への半信半疑があります。実際、導入検討企業の4割以上が提案時に示された経済効果を十分に想像できなかったと回答しており、精度への疑念が導入見送りの一因となっています。だからこそ、実測データに裏打ちされた信頼性の高いシミュレーションをいち早く提示することが求められます。

幸いにも、技術とサービスの進歩によりこの課題は解決しつつあります。クラウド型シミュレーターの登場で、データさえ揃えば10分程度で需要家ごとにカスタマイズされた提案書を自動作成できるようになりました。またBPOサービスの活用で、1件わずか1万円・最短即日というスピードで専門家による試算代行も可能になっています。これらを組み合わせれば、デマンドデータの取得から効果提示までのリードタイムを飛躍的に短縮できるでしょう。提案が迅速化すれば需要家の意思決定プロセスも加速し、ひいては再エネ設備導入のスピードアップに直結します。

さらに、将来的には業界全体でエネルギーデータの標準化・共有化が進むことが望まれます。米国のGreen Buttonのように、ワンクリックで自社データを第三者に安全提供できる仕組みが日本にも広がれば、データ取得のハードルは劇的に下がります。現状でも一部の新電力やプラットフォーム企業がAPI提供を開始しており、国際航業の「エネがえるAPI」のように電力料金プランや補助金情報まで網羅したデジタル連携基盤も登場しています。こうしたDXの流れに乗り遅れず、営業担当者も「データ×テクノロジー」で提案力を強化していくことが重要です。

最後に、本記事でご紹介した30のアイデアはどれも現場の工夫と最新ソリューションから生まれたものです。一朝一夕に全て実践するのは難しいかもしれませんが、気になるものからぜひトライしてみてください。需要家との信頼関係構築にも、データに基づく丁寧な提案は大きな武器になります。デマンドデータを制する者が、これからの再エネ営業を制すると言っても過言ではありません。データ取得の壁を乗り越え、迅速かつ的確な提案で需要家の心をつかみ、共に脱炭素への一歩を踏み出していきましょう。


ファクトチェック・出典一覧

  • 提案業務の負担ポイント: 太陽光・蓄電池販売担当者の 37.3% が「電力需要データ(30分値デマンド)の入手」に時間・労力がかかると回答。提案時のヒアリングや現地調査も 41.8% と上位。

  • 提案書作成遅延の要因: 業界調査で約 8割 が「提案書作成の負担で顧客対応が遅れる」と感じている。また約9割が技術人材不足に悩む。

  • 需要家が求める初期提案精度: 導入検討企業の 66.7% が「提案初期でもある程度の具体数値が必要」と回答。53.2% は「そこそこ正確な数値がないと社内で議題に上げづらい」と実感している。

  • 迅速提案と成約率: 初回提案で「早めに概算提示」を受けた企業(46.3%)と「最初から詳細見積提示」を受けた企業(53.7%)が拮抗。34.2% は「多少粗くても早く概算を」と希望。スピード重視派の理由トップは「詳細情報を揃える負担・コストを抑えたい」(55.3%)。

  • 顧客の不安要因: 導入しなかった需要家の過半数が「投資回収できるか不安だった」と回答。ROIや回収期間の不明瞭さが再エネ導入の主要なボトルネック。

  • シミュレーション活用の効果: 2024年調査で、営業目標達成者の 48.2% が商談時に経済効果シミュレーションツールを活用しており、未達成者より 21.3ポイント 多かった。シミュレーション活用が営業成功に寄与。

  • エネがえるBizの迅速試算: クラウド型経済効果シミュレーターでROI・回収期間の自動計算が可能となり、従来数日かかった計算が約10分で完了。提案書作成の迅速化によって営業生産性向上に寄与。

  • Green Button標準の効果: 米国のGreen Buttonはエネルギーデータ取得の手作業バリアを除去し、商業ユーザーが複数の電力会社にまたがる使用データを一括取得可能に。その結果、太陽光事業者はプロジェクト評価をより速く高精度に行えるようになっている。

各出典元のデータは信頼できる調査結果や公式発表に基づいており、記事内容の裏付けとなっています。不明点があれば出典リンクをご参照ください。データに基づく提案で信頼性と説得力を高め、再エネ導入の促進に繋げていきましょう。

無料30日お試し登録
今すぐエネがえるBizの全機能を
体験してみませんか?

無料トライアル後に勝手に課金されることはありません。安心してお試しください。

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

コメント

たった15秒でシミュレーション完了!誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!
たった15秒でシミュレーション完了!
誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!