目次
世界の再エネ・脱炭素の知見 – 政策立案者・経営層が知るべき50の欧米・北欧・ASEAN・中東の研究機関・シンクタンクまとめ
序章:2025年、エネルギー地政学の変曲点と日本の針路
2021年10月に日本の「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定されて以来、世界を取り巻くエネルギー情勢は、我々の想像を絶する速度と規模で変貌を遂げました。2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、欧州のエネルギー安全保障の脆弱性を露呈させ、世界のLNG市場価格を歴史的な高値へと押し上げました。同時に、中東情勢は依然として緊迫の度を増しており、原油の約9割を同地域に依存する日本のエネルギー供給における地政学的リスクは、かつてなく高まっています
このような供給サイドの激変に加え、需要サイドでも構造的な変化が起きています。データセンターや半導体工場の新増設といった「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の潮流、そして産業電化や電気自動車の普及を伴う「GX(グリーントランスフォーメーション)」の進展は、長らく減少傾向にあった日本の電力需要を増加へと転じさせる見込みです
世界は、2023年のCOP28を経て、「世界の気温上昇を1.5度に抑える」という野心的な目標を維持しつつも、画一的な理想論から、各国の事情に応じた多様かつ現実的なアプローチを模索する新たなフェーズへと移行しています
この新たな世界地図の中で、日本の現在地は決して安泰ではありません。エネルギー自給率の低さ、化石燃料への構造的な依存、そして再生可能エネルギー(以下、再エネ)導入における地理的・制度的障壁といった根源的な課題は、依然として我々の前に重く横たわっています
本稿は、この不確実性と変革の時代において、日本のエネルギー政策と企業戦略が拠るべき「知の羅針盤」となることを目指します。第1部では、世界のエネルギー・脱炭素に関する議論をリードする50のインテリジェンス・ハブ(研究機関、シンクタンク、コンサルティング会社)を網羅的にマッピングします。第2部では、そこで生み出される最先端の知見を、日本の政策立案者や経営層が直面する具体的な課題(ユースケース)に沿って構造的に深掘りします。そして最終第3部では、これらの分析を通じて日本の本質的な課題を特定し、ありそうでなかった、しかし実効性のある具体的な処方箋を提示します。これは、単なる情報の羅列ではなく、日本の未来を切り拓くための戦略的インテリジェンスの体系化に他なりません。
第1部:世界のエネルギー・脱炭素インテリジェンス・マップ:注目すべき50機関
世界のエネルギー・脱炭素に関する議論は、一部の著名な国際機関だけで動いているわけではありません。政策の方向性を決定づける詳細な分析や、市場のルールを変える革新的なアイデアは、世界中に点在する多様な「頭脳」から生み出されています。このセクションでは、欧米の権威ある機関から、ASEAN・中東の地域ハブ、さらには特定のニッチ分野で世界最先端の分析を提供する「エッジの効いた」専門家集団まで、日本のリーダーが注目すべき50のインテリジェンス機関を地図として提示します。
以下の表は、本レポートで取り上げる50機関の全体像を一覧にしたものです。これは、読者が自身の関心領域に応じて、関連する世界の知見に素早くアクセスするためのインデックスとして機能します。各機関の性格(学術的か、政策志向か、ビジネス志向か)や専門性の核を把握することで、本稿を単なる読み物から、実務で繰り返し参照される「リファレンス・ツール」として活用いただくことを意図しています。
表1:世界のエネルギー・脱炭素インテリジェンス機関 50選
No. | 機関名 | 拠点 | 種別 | 主要専門分野 | 注目レポート/活動例 |
欧州 | |||||
1 | Agora Energiewende | ドイツ | シンクタンク | 電力システム改革、再エネ政策、産業脱炭素 | Europe’s energy security on the path to climate neutrality |
2 | Bruegel | ベルギー | シンクタンク | 欧州グリーンディール、経済政策、サステナブルファイナンス | Convergence, not alignment: EU-China climate relations ahead of COP30 |
3 | Ember | 英国 | シンクタンク | データ駆動型の電力セクター分析、石炭フェーズアウト | Global Electricity Mid-Year Insights 2025 |
4 | Institut français des relations internationales (Ifri) | フランス | シンクタンク | エネルギー地政学、欧州エネルギー政策、化石燃料市場 | Geopolitics of Fossil Fuels, European Energy Policy research |
5 | Neon Neue Energieökonomik | ドイツ | コンサルティング | 電力市場設計、動的系統料金、系統柔軟性 | Studies on dynamic grid fees, demand-side flexibility |
6 | Centre for European Policy Studies (CEPS) | ベルギー | シンクタンク | EU政策全般、エネルギー・気候変動規制 | – |
7 | European Policy Centre (EPC) | ベルギー | シンクタンク | EU政治・政策分析、エネルギー連合 | – |
8 | Chatham House | 英国 | シンクタンク | 国際関係、エネルギー・環境・資源ガバナンス | – |
9 | European Energy Research Alliance (EERA) | ベルギー | 研究連合 | 低炭素技術(CCS, 水素, 蓄電等)の共同研究 | 18 Joint Research Programmes |
10 | Institute for European Environmental Policy (IEECP) | オランダ | シンクタンク | エネルギー効率、建物改修、エネルギー貧困 | Evidence-based climate and energy policies |
北欧 | |||||
11 | AFRY | スウェーデン | コンサルティング | エネルギー経営戦略、洋上風力、水素、バイオエネルギー | Fuelling the transition (Podcast), AFRY Insights magazine |
12 | Nordic Energy Research | ノルウェー | 政府間機関 | 北欧エネルギーシステム統合、グリーン移行政策 | – |
13 | Nordic Energy Advice | デンマーク | コンサルティング | 風力・太陽光プロジェクト開発・運営支援 | Project development and management services |
14 | Nordic Green Solutions | デンマーク | コンサルティング | 企業のエネルギー最適化、気候会計、ESGレポーティング | Energy mapping, Life Cycle Assessment |
15 | Nordic Climate Advisory Group | 北欧 | 連合体 | 炭素会計(GHGプロトコル)手法の標準化 | Joint statement on harmonising carbon accounting |
北米 | |||||
16 | Center for Strategic and International Studies (CSIS) | 米国 | シンクタンク | エネルギー安全保障、地政学、気候変動政策 | AI for the Grid: Opportunities, Risks, and Safeguards |
17 | Scripps Institution of Oceanography, UC San Diego | 米国 | 大学研究機関 | 気候科学、海洋学、気候変動の影響と適応 | Keeling Curve, Center for Climate Change Impacts and Adaptation |
18 | MIT Climate Project | 米国 | 大学研究機関 | 気候変動ソリューション(技術、行動、政策) | Research on ammonia decarbonization, AI for renewables |
19 | Greentown Labs | 米国 | インキュベーター | クライメートテック・スタートアップ支援、エコシステム構築 | Greentown Go partnership programs |
20 | Institute for Innovative Climate Solutions, U of Idaho | 米国 | 大学研究機関 | 気候変動の緩和・逆転ソリューション | Multidisciplinary, collaborative research programs |
21 | Climate Change Institute, U of Maine | 米国 | 大学研究機関 | 自然気候変動、人間と自然の相互作用 | Global climate change research from poles to tropics |
22 | Center for Climatic Research, U of Wisconsin-Madison | 米国 | 大学研究機関 | 気候モデリング、気候変動インパクト評価 | Wisconsin Initiative on Climate Change Impacts (WICCI) |
23 | Climate Adaptation Science Centers (CASC), USGS | 米国 | 政府研究機関 | 気候適応科学、自然資源管理 | Partnership-driven program with 9 regional centers |
24 | Wilkes Center for Climate Science & Policy, U of Utah | 米国 | 大学研究機関 | 水資源、気候極端現象、自然ベースの解決策 | Climate modeling tools (e.g., Carbon Futures) |
25 | Columbia Climate School, Columbia University | 米国 | 大学研究機関 | 気候科学、持続可能な開発、エネルギー政策 | Center for Climate Systems Research (CCSR), Lenfest Center |
26 | Boston Consulting Group (BCG) | 米国 | コンサルティング | エネルギー産業戦略、脱炭素化、電力・ユーティリティ | Energy Transition, Renewables and Low-Carbon Solutions |
27 | Environmental Resources Management (ERM) | 英国/米国 | コンサルティング | 再エネプロジェクト開発・投資、企業脱炭素戦略 | Renewable energy consulting (Generate, Transact, Transform) |
28 | Arup | 英国/米国 | コンサルティング | エネルギーシステム設計、再エネ、水素、CCUS | Whole-system perspective on green energy solutions |
29 | OWC (an ABL Group company) | 英国/米国 | コンサルティング | 洋上風力を中心とした再エネ専門コンサルティング | Technical Due Diligence, Owner’s Engineering for renewables |
ASEAN | |||||
30 | Economic Research Institute for ASEAN and East Asia (ERIA) | インドネシア | 国際機関 | 持続可能な開発、経済統合、移行ファイナンス | Decarbonising Southeast Asia’s Hard-to-Abate Sectors |
31 | ASEAN Centre for Energy (ACE) | インドネシア | 政府間機関 | ASEANエネルギー政策・計画、地域エネルギー統計 | ASEAN Energy Outlook, ASEAN Energy Statistics Leaflet |
32 | Institute for Essential Services Reform (IESR) | インドネシア | シンクタンク | インドネシアのエネルギー・気候政策、石炭フェーズアウト | Analysis on Just Energy Transition Partnership (JETP) |
33 | Stockholm Environment Institute (SEI) Asia | タイ | シンクタンク | 公正なエネルギー移行、気候適応、水資源管理 | Energy transition policies in southeast Asia and China |
34 | Clean, affordable and secure energy for Southeast Asia (CASE) | 地域 | 国際協力 | 東南アジアのエネルギー移行支援、政策対話 | Southeast Asia Information Platform for Energy Transition (SIPET) |
35 | Brookings Institution – Center for Asia Policy Studies | 米国 | シンクタンク | アジアの政治・安全保障・経済、エネルギー安保 | Research on pressing issues facing Asia |
36 | Central European Institute of Asian Studies (CEIAS) | スロバキア | シンクタンク | アジアの地経学・エネルギー・テクノロジー | Transnational think tank focused on Asia in Central Europe |
37 | Policy Center for the New South | モロッコ | シンクタンク | グローバルサウスの視点からの地政学・エネルギー移行 | Geopolitics of the energy transition from a Global South perspective |
38 | Elcano Royal Institute | スペイン | シンクタンク | グローバルなエネルギー需要シフトの地政学 | The geopolitics of the global energy demand shift |
39 | Southeast Asia Energy Transition Collaborative Network (SETC) | 地域 | 連合体 | 東南アジアのシンクタンク・CSOによる協働ネットワーク | Initiated by IESR to foster regional collaboration |
中東 | |||||
40 | King Abdullah Petroleum Studies and Research Center (KAPSARC) | サウジアラビア | シンクタンク | エネルギー経済・政策、循環炭素経済(CCE) | From Metrics to Markets: Evaluating the Role of ESG Ratings |
41 | Hydrogen Council | ベルギー | 産業団体 | 水素技術の普及促進、市場分析 | Hydrogen Insights 2024 |
42 | Mitsubishi Research Institute (MRI) Middle East | UAE | コンサルティング | 湾岸諸国の脱炭素化、JCM(二国間クレジット制度) | Gulf States’ Decarbonization Efforts and Japan’s role |
43 | Advanced Power and Energy Center (APEC), Khalifa University | UAE | 大学研究機関 | 未来の電力システム技術(AI、ハイブリッド送電網) | Research on seamless integration of high capacity renewables |
44 | Masdar | UAE | 国営企業 | クリーンエネルギー投資・プロジェクト開発 | A key player and indicator of regional energy transition |
45 | Carnegie Middle East Center | レバノン | シンクタンク | 中東の政治・経済、気候変動と市民社会 | Research on climate activism and civil society in MENA |
46 | Saudi Green Initiative (SGI) | サウジアラビア | 政府イニシアチブ | サウジアラビアの気候変動対策、国際連携 | Cross-border collaboration on climate action |
47 | Strategy& (PwC) Middle East | UAE | コンサルティング | 中東のエネルギー・化学・ユーティリティ戦略 | Integrated national energy strategies, regulatory reforms |
48 | GE Vernova Consulting | UAE | コンサルティング | 電力システム分析、脱炭素化経路、グリッド安定性 | Reaching net zero carbon in the UAE (study) |
49 | Grand View Research | 米国 | 市場調査 | 中東グリーン水素市場の分析・予測 | Middle East Green Hydrogen Market Report |
50 | Gulf Cooperation Council Interconnection Authority (GCCIA) | サウジアラビア | 政府間機関 | GCC諸国間の電力系統連系・運用 | Though not a think tank, its operations are key to regional grid stability |
1.1 欧州:政策と市場設計の実験場
欧州は、脱炭素に向けた野心的な政策目標(欧州グリーンディール)を掲げ、その実現に向けた制度設計と技術導入において世界の最前線を走っています。特にドイツは、エネルギー転換(Energiewende)の経験を通じて、再エネ大量導入に伴う課題の先行事例を世界に提供しています。
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Agora Energiewende(アゴラ・エナギーヴェンデ)
は、その中心的存在です。科学的根拠に基づき、政治的に実行可能な戦略を策定することに長けており、電力システム改革や再エネ拡大策に関する詳細な分析は、各国の政策担当者から高い評価を得ています。注目すべきレポート「Europe’s energy security on the path to climate neutrality」では、ウクライナ危機後の新たな安全保障環境を踏まえ、化石燃料輸入への依存から脱却し、国内の再エネと効率化に投資することこそが真のエネルギー安全保障に繋がると主張し、議論のパラダイムを転換させました6 。6 -
ブリュッセルに拠点を置く Bruegel(ブリューゲル)
は、経済政策の観点からエネルギー・気候変動問題を分析する欧州屈指のシンクタンクです。サステナブルファイナンスの制度設計や、地政学的に重要性を増すEU-中国間の気候変動協力を巡る力学など、マクロな視点からの鋭い分析を提供しています8 。9 -
Ember(エンバー)
は、オープンデータを駆使して世界の電力移行を可視化する、新進気鋭の独立系シンクタンクです。特に、毎年発表される「Global Electricity Review」やその中間報告である「Global Electricity Mid-Year Insights 2025」は、世界の電力構成の変化を最も早く、かつ分かりやすく提示する資料として必読です。2025年上半期には、太陽光と風力の伸びが世界の電力需要の伸びを初めて上回り、再エネ全体の発電量が石炭を抜いたという歴史的な転換点をデータで示しました10 。11 -
そして、この分野で最も注目すべき「エッジの効いた」機関が、ベルリンのブティックコンサルティング会社 Neon Neue Energieökonomik(ネオン・ノイエ・エナギーエコノミック)
です。彼らは電力市場の経済学に特化し、動的系統料金、市場ベースの再給電、インバランス(需給不均衡)価格設定といった、極めて専門的かつ定量的な分析で、ドイツ政府や送電系統運用者(TSO)に具体的な制度設計の助言を行っています。彼らのレポートは、再エネが主力電源となる未来の電力市場がどのように機能すべきか、その技術的・経済的詳細を解き明かしており、日本の電力システム改革の次のステップを考える上で計り知れない価値を持ちます12 。12
1.2 北欧:システム統合と脱炭素社会のフロントランナー
北欧諸国は、豊富な水力・風力資源と国家間の強力な連系線(インターコネクター)を活かし、世界で最もクリーンで統合された電力システムを構築しています。この地域からは、個別の技術だけでなく、システム全体を最適化するための知見を学ぶことができます。
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AFRY(アフリ)
は、500人以上の専門家を擁する欧州有数のエネルギー経営コンサルティング会社です。熱供給から洋上風力、水素、E-Mobilityまで、エネルギー移行の全領域をカバーする包括的な知見は、企業のGX戦略策定に不可欠です。14 -
Nordic Energy Research は、北欧閣僚理事会の下で、持続可能なエネルギーに関する研究協力を推進する政府間機関であり、北欧のエネルギーシステム統合やグリーン移行に関する政策研究を主導しています。
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また、Nordic Climate Advisory Group
のような新しい動きも重要です。これは、AFRYやSouth Poleといった北欧の主要な気候コンサルが結集した連合体で、企業のGHG排出量算定・報告の国際基準であるGHGプロトコルの解釈の統一など、より実務的かつ具体的な課題に取り組んでおり、企業の脱炭素経営の実効性を高める上で参考になります。15
1.3 北米:技術革新と政策インセンティブの震源地
米国は、シェール革命を経て世界最大の産油国・産ガス国となった一方で、インフレ抑制法(IRA)に代表される強力な政策インセンティブと、世界をリードするイノベーション・エコシステムを両輪に、クライメートテック(気候変動対策技術)分野で覇権を握ろうとしています。
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ワシントンD.C.の Center for Strategic and International Studies (CSIS)
は、エネルギー安全保障と気候変動を地政学の文脈で捉える分析に定評があります。最新のレポートでは、電力網の安定化・効率化におけるAIの役割16 や、船舶用の低炭素燃料を巡る国際競争力16 など、エネルギー移行がもたらす新たな戦略的課題に焦点を当てています。16 -
学術分野では、気候変動研究の歴史そのものと言える Scripps Institution of Oceanography
が基礎研究をリードする一方、MIT Climate Project17 は、マサチューセッツ工科大学の総力を結集し、アンモニア製造の脱炭素化やAIを用いた再エネ最適化など、具体的な技術的・政策的ソリューションの創出に取り組んでいます。18 -
北米の強みは、こうした研究成果を社会実装に繋げるエコシステムにあります。Greentown Labs
は、北米最大のクライメートテック・インキュベーターとして、数百社のスタートアップを支援し、大企業との協業を促進するハブ機能を担っています19 。大学発の研究(シーズ)を、スタートアップ(担い手)と大企業(市場)に繋ぎ、政府が政策(インセンティブ)で後押しするこのエコシステムの構造を理解することは、日本の技術開発戦略にとって極めて重要です。19
1.4 ASEAN:エネルギー移行の現実解を模索する成長市場
著しい経済成長に伴いエネルギー需要が急増するASEAN地域は、脱炭素と経済発展の両立という困難な課題に直面しています。この地域からは、先進国とは異なる文脈での「公正なエネルギー移行(Just Energy Transition)」の現実解を学ぶことができます。
-
Economic Research Institute for ASEAN and East Asia (ERIA)
と ASEAN Centre for Energy (ACE)20 は、それぞれASEANの経済統合とエネルギー政策を担う中核的な国際機関です。ERIAは、鉄鋼やセメントといった「削減困難セクター」の脱炭素化に不可欠な移行ファイナンスのあり方について、アジア開発銀行(ADB)と共に提言を行っています22 。ACEは、地域のエネルギー需給に関する最も信頼性の高いデータと見通し(ASEAN Energy Outlook)を提供しています24 。25 -
各国レベルでは、インドネシアの Institute for Essential Services Reform (IESR)
が注目に値します。同国で進められているJETP(公正なエネルギー移行パートナーシップ)について、その進捗と課題を詳細に分析・発信しており、大規模な石炭火力からの移行に伴う政治的・経済的・社会的な複雑さを理解する上で不可欠な情報源です26 。27 -
バンコクに拠点を置く Stockholm Environment Institute (SEI) Asia
も、東南アジアと中国のエネルギー移行政策における「公正さ」の側面を分析したレポートを発表するなど、社会的な側面からのアプローチに強みを持っています。28
1.5 中東:化石燃料から水素・再エネへの大転換
世界の化石燃料供給の中心地である中東、特にサウジアラビアとUAEは今、国家の存亡をかけた壮大なエネルギー転換に乗り出しています。豊富な太陽光資源とオイルマネーを武器に、世界最大のグリーン水素・再エネ輸出国へと変貌を遂げようとしています。
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サウジアラビアの King Abdullah Petroleum Studies and Research Center (KAPSARC)
は、エネルギー経済、政策、環境に関する世界レベルの研究を行う独立系機関です。同国が推進する「循環炭素経済(Circular Carbon Economy: CCE)」の概念を理論的に支え、中東の視点からグローバルなエネルギー問題を分析しています29 。29 -
Hydrogen Council
は、水素社会の実現を目指すグローバルな産業界の連合体ですが、その最新レポート「Hydrogen Insights 2024」は、世界の水素インフラへの確定投資額の実に45%が中東に集中していることを明らかにしており、この地域が水素供給サイドのゲームチェンジャーであることをデータで裏付けています30 。31 -
UAEでは、国営クリーンエネルギー企業の Masdar
が世界中で再エネプロジェクトに投資する一方、Khalifa UniversityのAdvanced Power and Energy Center (APEC)32 では、AIの電力システムへの応用やハイブリッドAC/DC送電網といった未来の電力システムに関する最先端の研究が行われています。33
世界の知見の構造変化:ニッチな専門家集団と地域ハブの台頭
ここまで50の機関を概観して見えてくるのは、エネルギー・インテリジェンスの世界における構造的な変化です。かつては、CSISやBCG、Ifriといった世界的に著名な総合シンクタンクやコンサルティングファームが議論を主導していました。しかし、エネルギー移行という課題が、単一の戦略論から、地域ごと、技術ごとに異なる極めて複雑で専門的な課題群へと深化・細分化するにつれて、状況は変わりつつあります。
例えば、電力系統の柔軟性という課題を深く理解するには、Agora Energiewendeの政策分析だけでは不十分で、Neon Neue Energieökonomikが手掛ける動的料金の経済モデルまで踏み込む必要があります
これは、「エネルギー知」の断片化と専門化を意味します。もはや単一の機関が全てをカバーすることは不可能であり、代わりに、特定の専門領域や地域に深く根差した「専門ノード(結節点)」がネットワーク状に連携する時代が到来しているのです。
この変化は、日本の政策立案者や企業経営者にとって重要な示唆を与えます。もはや、いくつかの「御用達」の海外機関のレポートをフォローするだけでは、世界の高解像度な実像を捉えることはできません。自らが直面する課題に応じて、これらのニッチな専門家集団や地域ハブを能動的に探し出し、ネットワークを構築していく、より洗練されたインテリジェンス収集戦略が求められているのです。
特に、ASEANや中東といった、これまでの欧米中心の視点では見過ごされがちだった地域固有の深い洞察を欠いては、グローバルなエネルギー戦略を描くことはできないでしょう。
第2部:【ユースケース別】注目レポート深掘り分析と日本への示唆
第1部でマッピングした世界の知のネットワークは、それ自体が価値を持つものですが、その真価は、日本の具体的な課題解決に活かされてこそ発揮されます。このセクションでは、日本の政策立案者や経営層が日々直面しているであろう4つの喫緊の課題(ユースケース)を取り上げ、世界の最先端の知見がそれに対してどのような答えや示唆を与えてくれるのかを深掘りします。各機関のレポートから得られる洞察を、日本の文脈に翻訳し、次なる一手、すなわち行動に繋がるインサイトを抽出します。
2.1 ユースケース1:電力システム改革の深化 —「繋げない」から「賢く繋ぐ」へ
日本の課題: 日本における再エネ普及の最大のボトルネックの一つが、送電網の空き容量不足、いわゆる「系統制約」です
世界の知見と分析:
-
ドイツの経験(課題の先行事例): 再エネ比率が50%を超えるドイツは、変動性との戦いの最前線にいます
。連邦ネットワーク庁(Bundesnetzagentur)は、送電網の増強に加え、デジタル化、蓄電池、そして変動を補うための柔軟なバックアップ電源(当面はガス火力)の重要性を強調しています37 。この文脈で、前述の Neon Neue Energieökonomik の分析は極めて示唆に富みます。彼らが提言する「動的系統料金(Dynamic Grid Fees)」38 は、送電網の混雑状況に応じて託送料金(送電網の利用料)を時間帯やエリアごとに変動させる仕組みです。これにより、系統が混雑している時間・場所での電力消費や発電を抑制し、逆に空いている時間・場所での利用を促す価格シグナルが生まれます。これは、日本の全国ほぼ一律の託送料金制度とは全く異なる思想であり、巨額の送電網投資をある程度抑制しながら、既存の系統を最大限賢く活用するための強力なツールとなり得ます。13 -
スペインの教訓(制度設計の妙と罠): Ember のレポート「Decoupled」は、スペインが再エネ(特に風力と太陽光)の大量導入によって、かつて電力価格を支配していた天然ガス価格との連動を断ち切ることに成功した事例を鮮やかに分析しています
。これは、再エネがエネルギー安全保障と経済性の両方に貢献しうる強力な証拠です。しかしその一方で、2022年に行われた再エネの入札が、政府が設定した「秘密の価格上限」が低すぎたために、応札がほとんどなく不調に終わったという失敗事例もあります11 。これは、いくら再エネのコストが下がっても、投資家が予見可能性を持てないような不透明な制度設計は、導入の急ブレーキになりかねないことを示す重要な教訓です。日本のFIP(Feed-in Premium)制度や、複雑さが指摘される非化石価値取引市場の設計においても、透明性と予見可能性がいかに重要かを物語っています39 。40 -
北欧の理想形(広域連系の力): 電力市場 Nord Pool を擁する北欧諸国は、国境を越えた電力取引の理想形を示しています。豊富な水力を持つノルウェー、風力のデンマーク、原子力のスウェーデン・フィンランドといった、電源構成の異なる国々が強力な連系線で結ばれ、一つの巨大な電力市場として機能しています
。これにより、ある国で風が吹かなくても、別の国で水力発電を増やすなど、国家間で再エネの変動性を吸収し合うことが可能となり、システム全体の安定性と経済性を劇的に向上させています。これは、国内の地域間連系線の増強が長年の課題である日本にとって、将来構想されるアジア・スーパーグリッドの実現可能性と便益を示す、重要なプロトタイプと言えるでしょう。42
日本への洞察と提言:
これらの世界の事例を俯瞰すると、一つの本質的な結論が浮かび上がります。それは、未来の電力市場の設計は、送電網の「物理法則」に従わなければならない、ということです。Neonの動的料金、Agoraの柔軟性への着目、Nord Poolのゾーン別価格設定は、すべて同じ原理に基づいています。すなわち、電力はどこで発電されても同じ価値を持つわけではなく、送電網が混雑している場所で発電された電気の価値は、需要地に近い場所で発電された電気よりも低い、という物理的な現実を価格に反映させるべきだという思想です。
現在の日本の電力卸売市場は、基本的に全国で単一の価格(エリアプライス)が形成され、託送料金も地域内でほぼ均一です。この制度は、送電網の物理的な制約を価格メカニズムから覆い隠してしまいます。その結果、日照条件は良いものの送電網が脆弱な遠隔地に大規模な太陽光発電所が建設され、案の定、送電しきれずに大規模な出力抑制(発電の強制停止)が発生するという、非効率な投資を誘発してきました。
日本の電力システム改革の次なる一手は、この「市場と物理の乖離」を埋めることにこそあります。具体的には、送電網の混雑状況を価格に反映させる「混雑管理(congestion management)」、例えばゾーン別価格やノーダル価格(送電網の地点ごとに価格を設定)といった仕組みの導入を本格的に検討すべきです。これは、単なる市場ルールの変更ではなく、「いつ、どこで発電・消費される電気に価値があるのか」という電力の価値概念そのものを転換するパラダイムシフトです。巨額の送電網増強投資だけに頼ることなく、再エネの導入を経済合理的に最大化する道は、ここにしかありません。
2.2 ユースケース2:エネルギー安全保障の再構築 —「脱炭素」こそが最大の安全保障
日本の課題: 日本のエネルギー政策の根幹には、常に「S+3E」(安全性+安定供給、経済効率性、環境適合)の原則が据えられてきました。特に、二度の石油危機を経験した日本では、エネルギーの安定供給、すなわち安全保障が最優先課題とされてきました
世界の知見と分析:
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欧州のパラダイムシフト: ロシアのウクライナ侵攻は、欧州にエネルギー安全保障の概念を180度転換させました。Agora Energiewende の前掲レポート「Europe’s energy security on the path to climate neutrality」
は、この新しい安全保障観を象徴しています。その核心は、「化石燃料の輸入に費やしてきた巨額の資金を、国内の再生可能エネルギーと省エネルギーへの投資に振り向けることこそが、エネルギー主権の確立、経済の活性化、そして気候変動対策の『トリプルウィン』をもたらす」という主張です。もはや、安価なロシア産ガスに依存することは安全保障ではなく、最大のリスクであると認識されたのです。これにより、安全保障と脱炭素は二律背反(トレードオフ)の関係ではなく、ほぼ同義の目標として統合されました。6 -
米国の競争力戦略: 米国の視点は、さらに戦略的です。CSIS の分析は、エネルギー安全保障を単なる「供給確保」から、「次世代エネルギー技術とサプライチェーンにおける主導権の確保」へと拡張しています。「AI for the Grid」
は、スマートグリッド技術による国内電力網の強靭化がサイバー攻撃などへの防衛力に直結することを示唆し、「Charting U.S. Competitiveness in Low-Carbon Maritime Fuels」16 は、e-fuelやグリーンアンモニアといった次世代燃料の国際標準や供給網を誰が握るかが、21世紀の地政学的なパワーバランスを左右すると論じています。エネルギー移行そのものが、新たな国家間競争の主戦場となっているのです。16 -
アジアの地政学: ドイツの SWP Berlin による分析
は、エネルギー移行の重心がアジアに移りつつあり、そこではバッテリーやモーターに不可欠な重要鉱物のサプライチェーンを巡る競争(特に中国による独占の動き)や、新たなエネルギー同盟の形成が水面下で進んでいると警告しています。また、スペインの Elcano Royal Institute46 は、世界のエネルギー需要の中心が先進国(グローバルノース)から途上国(グローバルサウス)へシフトすることの地政学的意味合いを深く考察しており、日本がアジア地域内でどのようなエネルギー外交を展開すべきかを考える上で重要な視点を提供しています。47
日本への洞察と提言:
日本のエネルギー安全保障の議論は、今こそ根本的な転換を遂げるべきです。我々は、エネルギー安全保障を測るKPI(重要業績評価指標)を、石油の備蓄日数やLNGの輸入元多角化率といった旧来の指標から、「エネルギー自給率(国産再エネ+原子力の比率)」や「電力システムのレジリエンス(災害やサイバー攻撃への耐性)」といった新しい指標へとシフトさせる必要があります。
そして何よりも重要なのは、政策的ナラティブの転換です。国内の再エネや省エネへの投資は、単なる環境対策コストではありません。それは、海外の不安定な情勢から国民生活と経済を守るための、防衛費と同様の「安全保障コスト」であるという国民的合意を形成すること。このナラティブの転換こそが、脱炭素に向けた大規模な国内投資を正当化し、加速させるための最も強力な推進力となるでしょう。
2.3 ユースケース3:次世代エネルギー技術の社会実装 — 夢と現実の見極め
日本の課題: 2050年カーボンニュートラルという壮大な目標に向け、日本は水素・アンモニア、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)、次世代革新炉、核融合といった多様な次世代エネルギー技術の研究開発に多額の投資を行っています
世界の知見と分析:
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水素(中東の野心と世界の現実): 水素、特にグリーン水素の未来を占う上で、中東の動向は決定的に重要です。サウジアラビアやUAEは、豊富な太陽光資源と国家的な資金力を背景に、世界最大のグリーン水素輸出国となることを目指し、NEOMの巨大プラント
に代表されるギガスケールのプロジェクトを次々と立ち上げています49 。Hydrogen Council のレポート50 が示すように、世界の水素インフラへの確定投資額の実に45%が中東に集中しているという事実は、供給サイドにおける彼らの圧倒的な存在感を物語っています。しかし、同レポートや他の分析31 は同時に、世界的に需要側の政策やインフラ整備が追いついておらず、「供給」と「需要」のミスマッチが水素市場立ち上がりの大きな障壁となっていることも指摘しています。30 -
クライメートテック(米国のエコシステム): 革新的な技術をいかにして生み出し、社会実装に繋げるか。その答えは、米国のクライメートテック・エコシステムにあります。MIT Climate Project
のようなトップ大学が基礎研究から応用研究までをシームレスに繋ぎ、そこで生まれた技術の種を、Greentown Labs18 のようなインキュベーターがスタートアップとして育て、大企業との協業や資金調達を支援します。さらに、米国エネルギー省(DOE)のEPICプログラム19 のように、政府がリスクマネーを供給し、初期の市場創出を後押しします。個別の技術開発だけでなく、この「イノベーションが次々と生まれる生態系」そのものをベンチマークすることが、日本の技術開発戦略にとって不可欠です。52 -
公正なエネルギー移行(ASEANの挑戦): インドネシアやベトナムで進むJETP(公正なエネルギー移行パートナーシップ)は、先進国からの資金・技術支援をテコに、石炭火力発電からの脱却を目指す壮大な社会実験です
。しかし、IESR や RMI (Rocky Mountain Institute) の詳細な分析53 は、その道のりが決して平坦ではないことを示しています。巨額の資金をいかに効果的に配分するかというファイナンスの課題、石炭産業に関わる人々の雇用を守るという社会政策的な課題、そして何より、安価な石炭に依存してきた経済構造を変えることへの国内の政治的抵抗など、複雑な現実が浮き彫りになります。これは、日本が今後、アジア諸国の脱炭素化を支援していく上で、技術や資金の提供だけでなく、相手国の社会・政治的な文脈を深く理解することの重要性を示唆しています。26
日本への洞察と提言:
これらの分析から、日本の次世代技術戦略に関する2つの重要な示唆が導かれます。第一に、水素戦略については、「国内製造」への過度な固執から脱却し、よりグローバルな視点を持つべきです。中東などから安価なグリーン水素・アンモニアを長期安定的に確保するための「水素外交」を強化すると同時に、国内のリソースは、産業プロセスでの利用(製鉄など)や発電、船舶燃料といった「利用技術」の開発とインフラ整備に集中投下する「選択と集中」が賢明です。
第二に、技術開発を個別のプロジェクトとして捉えるのではなく、米国のような「イノベーション・エコシステム」を国家戦略として構築する視点が不可欠です。大学への長期的な基礎研究投資、スタートアップへのリスクマネー供給、新技術の導入を阻む規制のサンドボックス的な緩和、そして政府自身が最初の顧客となる「政府調達」の活用などを、一体的な政策パッケージとして推進する必要があります。
2.4 ユースケース4:脱炭素ファイナンスと投資促進 —「政策」が最大の投資環境
日本の課題: 2050年カーボンニュートラル達成には、官民合わせて150兆円を超える巨額のGX投資が必要とされています。しかし、再エネ導入の現場では、高い初期投資コストが依然として障壁となっています
世界の知見と分析:
-
欧州のルールメイキング: Bruegel の分析
は、EUがサステナブルファイナンスに関する詳細な規則(EUタクソノミーなど)を策定している背景には、単なる環境保護だけでなく、脱炭素を巡る世界の投資基準を自らが設定することで、産業競争上の優位性を確保しようという戦略的な意図があることを示唆しています。これは、「ルールを作る者が市場を制する」という地経学的な思想の表れです。9 ※とはいえ、最近のドイツのニュースを見ていると、ルール作りながらも市場を制していないやないかいと思わざるを得ませんが・・
脱エンジン車に急ブレーキ、ドイツ首相がEU規制方針に反対 – 日本経済新聞ASEANの移行ファイナンス: ERIA とADBの共同レポート
は、鉄鋼やセメントといった「削減困難セクター(Hard-to-Abate Sectors)」の脱炭素化には、100%グリーンな事業にしか資金を供給しない「グリーンファイナンス」だけでは不十分であり、既存の化石燃料を利用した設備を段階的に低炭素化していく取り組みに資金を供給する「移行(トランジション)ファイナンス」が不可欠であると力説しています。これは、既存の資産を座礁させることなく、現実的な道筋で脱炭素を進めるための重要なアプローチであり、同様に重厚長大産業を多く抱える日本にとって極めて示唆に富みます。24 -
ESG評価の功罪: KAPSARC のレポート「From Metrics to Markets」
は、ESG(環境・社会・ガバナンス)評価が、企業の持続可能性への取り組みを促し、投資の流れを変える一定の役割を果たしていることを認めつつも、評価機関による基準のばらつきや、実態が伴わないのに環境への配慮を装う「グリーンウォッシング」といった深刻な課題を指摘しています。ESG投資を万能薬と見なすのではなく、その限界と課題を冷静に理解した上で活用する必要があります。29
日本への洞察と提言:
多様な地域の事例を横断して見えてくる、投資促進に関する最も本質的な教訓は何か。それは、「投資家にとって、予見可能性こそが最も価値のある通貨である」という事実です。スペインの再エネ入札の失敗は、予見不可能なルールが原因でした 39。ASEANのJETPが苦戦している一因は、政権交代による政策の揺らぎです 54。Hydrogen Councilも、規制の不確実性がプロジェクトを遅延させていると指摘しています 30。
エネルギー関連のプロジェクトは、初期投資が巨額で、投資回収に10年、20年という長期間を要します。このような事業にとって、技術的なリスクや市場のリスク以上に恐ろしいのが、政府の気まぐれによる「政治・規制リスク」なのです。事業の前提となる法律や制度が数年で変わってしまえば、投資計画は根底から覆ります。そして、資本コスト(資金調達の金利)は、この認識されるリスクの大きさに正比例します。
この観点から見れば、日本がGX投資を呼び込むために最も効果的な政策は、必ずしも補助金の増額ではありません。むしろ、炭素価格(カーボンプライシング)の導入スケジュール、送電網の利用ルール、再エネの支援制度などについて、今後15年から20年にわたる長期的かつ法的に裏付けられた、安定した政策ロードマップを提示することです。
明確で、安定的で、予見可能な政策こそが、投資家にとってのリスクを劇的に低減させ、結果として資本コストを引き下げ、民間からの巨額の投資を解き放つ、最も強力な呼び水となるのです。
第3部:日本の再エネ普及・脱炭素における根源的課題の特定と処方箋
第2部までの分析を通じて、世界のエネルギー潮流と日本の課題を多角的に検証してきました。その結果、日本のエネルギー問題の根源は、個別の技術の遅れや資源の欠如といった「点」の問題ではなく、それらが相互に関連し合う「システム」全体の問題であることが明らかになりました。この最終部では、システム思考に基づき、日本の根源的な課題を再定義し、これまでの議論では見過ごされがちだった、しかし実効性の高い具体的なソリューションを提示します。
3.1 根源的課題の再定義
日本の再エネ普及と脱炭素化を阻む真の障壁は、以下の3つのシステム的な課題に集約されます。
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課題1:電力システムの「中央集権的」思想: 日本の電力システム、特に送電網は、歴史的に大規模な火力・原子力発電所から大都市の需要地へ一方向に電気を送る「中央集権型」モデルを前提に設計・運用されてきました。しかし、太陽光や風力といった再エネは、本質的に小規模・分散型であり、全国各地に点在します。この根本的な思想のミスマッチが、再エネを送電網に繋ごうとする際のあらゆる場面で摩擦を生み、導入の障壁となっています
。5 -
課題2:市場と物理の「乖離」: 第2部ユースケース1で詳述した通り、日本の電力市場は、全国一律の卸電力価格と画一的な託送料金制度によって、送電網の混雑状況といった「物理的」な制約を価格に反映できていません。その結果、系統に余裕のない場所に発電所が計画されるといった非効率な投資を誘発し、貴重な再エネのポテンシャルを無駄にしています。これは、市場メカニズムが本来果たすべき資源の最適配分機能を果たせていない、深刻な「市場の失敗」です。
-
課題3:「部分最適」の罠: 日本のエネルギー政策は、経済産業省、環境省といった省庁間の縦割りや、発電、送電、小売といった事業者間のサイロ化により、システム全体としての最適化が著しく困難になっています
。例えば、発電部門は再エネ電源の確保に注力し、送電部門は系統の安定維持に固執し、需要家サイドの省エネやデマンドレスポンス(電力需要の調整)といった柔軟性(フレキシビリティ)をシステム全体の資源として活用する視点が欠如しています。各プレイヤーが自身の領域での「部分最適」を追求した結果、システム全体として「全体不整合」に陥っているのです。34
3.2 地味だが実効性のあるソリューション提案
これらの根源的課題を解決するためには、小手先の補助金政策ではなく、システムの根幹にメスを入れる、構造的な改革が必要です。以下に、世界の知見を参考に、日本が今すぐ着手すべき3つの実効性のあるソリューションを提案します。
-
提案1:送電網利用ルールの抜本的改革 —「コネクト&マネージ」の本格導入と「動的系統料金」の実証実験:
現在の「空き容量がなければ繋がない(先着優先)」という送電網の利用ルールを、「まず接続を認め、混雑が発生した際には制御する(コネクト&マネージ)」へと根本的に転換します。これにより、多くの「塩漬け」になっている再エネプロジェクトを解放できます。さらに、その制御を経済合理的に行うため、ドイツのNeon Neue Energieökonomikの知見 13 を参考に、特定のエリア(例:再エネ導入が集中する北海道や九州)で「動的系統料金」の実証実験を開始します。系統が混雑する時間帯やエリアの託送料金を高く、空いている時間帯・エリアを安く設定することで、発電事業者や需要家が自律的に系統の安定化に貢献するインセンティブを生み出します。これは、巨額の系統増強投資を必要とせずに、既存のインフラを最大限に活用する、費用対効果の極めて高い改革です。
-
提案2:地方創生と一体化した「エネルギー自立特区」の創設:
再エネのポテンシャルが高い一方で、人口減少や産業の衰退に悩む地域を「エネルギー自立特区」として指定します。特区内では、地域マイクログリッドの構築、工場排熱などを活用した熱電併給、地域新電力の設立やPPA(電力販売契約)モデルの展開などに関する規制(電気事業法など)を、サンドボックス制度を活用して時限的・限定的に緩和します。これにより、地域内でエネルギーを地産地消するモデルを創出し、エネルギーコストの削減とレジリエンス(災害耐性)の向上を図ります。さらに、生み出されたクリーン電力を活用したデータセンターやグリーン水素製造プラントの誘致など、新たな産業創出にも繋げます。これは、エネルギー政策と地方創生政策を統合し、地域の経済活性化と国の脱炭素目標達成を同時に実現するアプローチです。
-
提案3:官民連携による「エネルギーデータ連携基盤」の構築:
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、エネルギー分野においてもゲームチェンジャーとなり得ます。CSISが指摘するように、AIを活用すれば、電力網の運用を劇的に効率化・強靭化できます 16。しかし、そのためにはデータが不可欠です。電力会社が持つ需給データ、気象庁が持つ日射・風況データ、自動車メーカーが持つEVの充電データ、そして各家庭や工場が持つエネルギー消費データなどを、個人のプライバシーや企業の営業秘密を厳格に保護した上で、安全に連携・分析できる「エネルギーデータ連携基盤」を、官民連携で構築します。この基盤は、スマート充電、VPP(仮想発電所)、デマンドレスポンスといった新たなエネルギーサービスを創出するイノベーションの土壌となり、日本の産業競争力の新たな源泉となり得ます。
3.3 2050年に向けたロードマップの再考
日本のエネルギー政策は、しばしば2050年や2030年といった遠い未来の目標(エネルギーミックス)をまず設定し、そこから逆算して現在の施策を考える「バックキャスティング」のアプローチが主流でした。しかし、エネルギー情勢がこれほど不確実な時代において、固定的な目標は硬直性を生み、かえって最適な経路から遠ざかるリスクを孕みます。
今求められるのは、バックキャスティングの長期ビジョンと、足元の制度改革を着実に進める「フォアキャスティング」のアプローチを組み合わせることです。今回提案した3つのソリューションのような、システムのOSを書き換える改革を実行すれば、市場とイノベーションが自律的に最適なエネルギーミックスを見つけ出していく可能性が高まります。政策の役割は、未来の電源構成を詳細に規定することから、イノベーションと効率的な投資を促進する「公正で予見可能なルール」を設計・維持することへとシフトしていくべきです。
結論:日本のエネルギー・リーダーシップへの道
本稿では、世界のエネルギー・脱炭素を巡る最先端の知見を体系的に整理し、日本の進むべき道を考察してきました。その結論は明確です。世界のエネルギー潮流は、もはや単なる環境問題ではなく、①エネルギー安全保障の概念そのものを再定義する地政学のダイナミクス、②再エネの変動性を吸収し経済価値を最大化する市場設計の競争、そして ③次世代技術の覇権を巡るイノベーション・エコシステムの競争 という3つの軸で、構造的な地殻変動を起こしています。
この新たな世界において、日本が直面する課題の本質は、太陽光パネルを設置する土地の不足や特定の技術の遅れといった表層的な問題ではありません。それは、大規模集中電源を前提とした時代遅れの電力「システム」、市場と物理が乖離した「市場設計」、そして縦割りで部分最適に陥った「ガバナンス」にこそあります。
この根源的な課題を克服するために、我々は発想の転換を迫られています。政策立案者には、既存の制度への小手先の修正ではなく、電力システム全体の設計思想そのものを転換する勇気が求められます。それは、痛みを伴う改革かもしれませんが、先送りすればするほど、将来の世代が支払うコストは増大します。
同様に、エネルギー企業の経営層には、規制の変更をただ待つ受動的な姿勢から脱却し、新たな市場ルールの中でいかにして競争優位を築くか、そのためのビジネスモデルを主体的に構想し、実現に向けて政府や社会に積極的に政策提言を行う能動的なリーダーシップが求められます。
世界の知の潮流は、日本が「課題先進国」から、課題解決の「フロントランナー」へと飛躍する好機が到来していることを示唆しています。本稿で提示した50の知の拠点と、そこから導き出された洞察が、その変革の一助となることを切に願います。日本の未来は、このシステム変革を成し遂げられるかどうかにかかっているのです。
FAQ(よくある質問)
Q1. 日本の再エネ導入が欧米に比べて遅れている根本的な原因は何ですか?
A1. 日照時間が短い、平地が少ないといった地理的制約も一因ですが、より根本的な原因は「制度的障壁」にあります。特に、大規模・集中型電源を前提に作られた送電網の運用ルールや、再エネの価値を時間帯や場所に応じて柔軟に評価できない電力市場の設計が、分散型電源である再エネの導入を阻んでいます。詳細は本稿第3部をご参照ください。
Q2. 水素社会は本当に実現可能なのでしょうか?コスト面の課題は?
A2. 技術的には可能ですが、経済合理性が最大の課題です。中東などでは豊富な再エネを利用した低コストのグリーン水素製造プロジェクトが進行中ですが、それを日本まで運ぶ輸送コスト、そして国内での利用インフラの整備コストが大きな負担となります。当面は、代替が難しい製鉄や化学などの産業部門や、大型の商用車など、特定の分野での限定的な利用から始まると考えられます。詳細は本稿第2部ユースケース3をご参照ください。
Q3. 次のエネルギー基本計画で最も重視すべき点は何ですか?
A3. 「エネルギー安全保障の再定義」と「電力システムの柔軟性向上」の2点です。第一に、化石燃料の輸入依存から脱却し、国内の再エネや省エネへの投資こそがエネルギー主権の確立に繋がるという、安全保障観の転換が不可欠です。第二に、導入が拡大する再エネを最大限に活用するため、送電網の運用や市場制度を抜本的に改革し、システム全体の柔軟性を高めることが鍵となります。詳細は本稿第2部ユースケース1および2をご参照ください。
Q4. 中小企業が脱炭素経営に取り組む上で、どのような支援策が考えられますか?
A4. 省エネ設備などへの直接的な投資補助金も重要ですが、それだけでは不十分です。多くの中小企業は、何から手をつけて良いか分からないという「知見・ノウハウ不足」に直面しています。したがって、専門家によるエネルギー診断の提供、サプライチェーン全体での脱炭素化を目指す大手企業とのマッチング支援、ESG情報開示の簡素化されたガイドラインの策定、地域の新電力会社との連携による安価な再エネ電力調達の支援などが有効です。IESRのホワイトペーパー 27 も、中小企業のグリーン化に関する示唆に富んでいます。
ファクトチェックサマリー
本記事は、2025年10月10日時点で公開されている各機関の公式レポート、ウェブサイト、および信頼できる第三者の報道機関や学術論文の情報を基に執筆されています。記事内で引用されている主要なデータ(例:Emberによる世界の電力構成比率、Hydrogen Councilによる水素関連投資額など)は、引用元の公開データと一致することを確認済みです。各機関の分析や提言の解釈については、筆者の専門的知見に基づき、その主旨を正確に、かつ日本の文脈において有益となるよう努めました。ただし、各機関の見解は常に更新される可能性があるため、最新かつ詳細な情報については、末尾の出典一覧に記載された各機関の公式サイトを直接ご参照ください。
出典一覧
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