目次
- 1 建設3Dプリンター 建設業界イノベーションの最前線と未来展望
- 2 建設3Dプリンターの基本と仕組み
- 3 建設3Dプリンターとは
- 4 主要な種類と特徴
- 5 使用材料と特性
- 6 世界と日本の市場動向
- 7 グローバル市場の成長予測
- 8 日本市場の特徴と最新動向
- 9 主要プレイヤーと技術比較
- 10 グローバル企業の最新動向
- 11 日本企業の取り組み
- 12 技術・スペック比較
- 13 導入メリットと成功事例
- 14 工期短縮効果
- 15 コスト削減と経済効果
- 16 人手不足対策と技能伝承
- 17 デザインの自由度向上
- 18 環境負荷低減効果
- 19 日本特有の課題と対応
- 20 建築基準法対応の現状
- 21 耐震性・災害対応の取り組み
- 22 狭小地・既存市街地での活用
- 23 実用例と用途別特徴
- 24 住宅建設の事例
- 25 インフラ・土木構造物
- 26 商業・産業施設
- 27 特殊用途(災害復興・宇宙建設)
- 28 導入検討のためのガイドライン
- 29 導入判断の基準
- 30 機種選定のポイント
- 31 導入プロセスと準備
- 32 課題と将来展望
- 33 現状の技術的課題
- 34 経済面の課題
- 35 技術発展の方向性
- 36 建設業界への長期的影響
- 37 FAQ:よくある質問と回答
- 38 Q: 建設3Dプリンターの価格帯はどれくらいですか?
- 39 Q: 建設3Dプリンターの操作には特別な資格が必要ですか?
- 40 Q: 日本で建設3Dプリンターを使った住宅は建築確認を取得できますか?
- 41 Q: 3Dプリンター住宅の耐久性はどうですか?
- 42 Q: 建設3Dプリンターではどのような材料が使えますか?
- 43 Q: 建設3Dプリンターによる施工の工期はどれくらい短縮できますか?
- 44 Q: 建設3Dプリンターで電気・水道などの設備はどうするのですか?
- 45 Q: 建設3Dプリンターの市場規模はどれくらいですか?
- 46 Q: 建設3Dプリンターの将来性はどうですか?
- 47 結論:建設3Dプリンターが切り拓く建設の未来
- 48 出典
建設3Dプリンター 建設業界イノベーションの最前線と未来展望
建設業界は今、深刻な人手不足、工期短縮の要求、環境負荷削減の必要性など、多くの課題に直面しています。こうした中で、建設3Dプリンターという革新的技術が建設業界に新たな可能性をもたらし、世界中で急速に普及が進んでいます。本記事では、建設3Dプリンターの基本から最新動向、導入メリット、課題、将来展望まで、包括的に解説します。
建設3Dプリンターの基本と仕組み
建設3Dプリンターとは
建設3Dプリンターとは、3次元データを基にモルタルやコンクリートなどの建設材料を層状に積み上げて、建築物や構造物を造形する革新的な建設技術です。従来の建設工法では必要だった型枠作業や人手による施工を大幅に削減し、効率的な建設を可能にします。
基本的な仕組みは以下の通りです:
設計データの作成: 3DCADソフトウェアで建築物の設計データを作成
スライス処理: データを水平方向に薄く「スライス」し、層ごとの施工経路を生成
材料準備: セメント系材料を流動性や硬化時間を調整して準備
積層造形: ノズルから材料を連続的に吐出し、一層ずつ積み上げる
後処理: 必要に応じて表面処理や設備工事を実施
建設3Dプリンターの最大の特徴は、デジタルデータから直接建築物を造形できる点にあります。これにより、従来工法では実現困難だった複雑な形状や、高度にカスタマイズされた建築が可能になりました。
主要な種類と特徴
建設3Dプリンターは、構造や使用方法によっていくつかのタイプに分類されます:
ガントリー型
門形のフレーム構造を持ち、ノズルが三次元的に移動
大型の構造物を現場で直接造形するのに適している
清水建設の大型プリンター(最大造形幅6m、装置寸法25m×7.2m×12.5m)などが該当
安定した造形が可能だが、移動には解体・組立が必要
ロボットアーム型
産業用ロボットアームの先端にノズルを取り付けたタイプ
細かいデザインや複雑な形状の造形に適している
比較的小型で、様々な角度からの造形が可能
造形サイズはアームのリーチに制限される
モバイル型
車両や台車に搭載され、現場内を移動可能なタイプ
プツマイスターの「カーロス」などが代表例
現場間の移動や狭小地での使用に適している
EV電源で駆動するものもあり、環境性能に優れる
最近では、COBODの「BOD3」のように、地面に設置されたトラックシステムを延長可能な構造として搭載し、連続的に建設物をプリントできる技術も登場しています。この技術により、プリンターの再配置なしに複数の建物を連続して建設できるようになりました。
使用材料と特性
建設3Dプリンターで使用される材料は、一般的なコンクリートとは異なる特殊な性質を持っています:
モルタル・特殊コンクリート
一般的なコンクリートより細かい骨材(最大粒径8mm程度)を使用
高い流動性と形状保持性のバランスが必要
チキソトロピー性(せん断力で流動性が変化する性質)が重要
特殊配合材料
ICONの「lavacrete」など独自開発された材料
プリント適性と構造強度を両立
6,000psi(約42MPa)程度の高強度を実現
環境配慮型材料
ジオポリマーなどCO₂排出量を削減した材料
リサイクル建設廃材を活用した材料
COBODの「D.fab」のような現地調達資材99%+添加剤1%の配合
材料には「圧送時は流動的で、吐出後は速やかに形状を保持し、適切な強度で硬化する」という相反する性質が求められます。これを実現するために、特殊な添加剤や配合技術が開発されています。
世界と日本の市場動向
グローバル市場の成長予測
建設3Dプリンティング市場は急速に成長しており、今後さらなる拡大が予測されています:
2024年: 19億米ドル
2025年: 29億3000万米ドル
2033年: 936億7000万米ドル(予測)
2025年から2033年にかけての年平均成長率(CAGR)は**54.23%**と予測されており、建設業界の中でも特に高い成長率を示しています。
この成長を牽引する主な要因としては:
世界的な住宅危機と手頃な価格の住宅ニーズ
建設コストと工期の削減ニーズ
建設廃棄物削減などの環境問題への対応
デザインの自由度向上への要求
地域別では、アジア太平洋地域が最大の市場規模を持ち、ヨーロッパが最も急成長している市場とされています。中国、UAE、シンガポールなどのアジア・中東諸国では特に積極的な導入が進んでいます。
日本市場の特徴と最新動向
日本市場は、建築基準法などの規制対応の必要性から、グローバル市場と比較してやや遅れていましたが、近年急速に発展しています:
2023年4月: 大林組が国内初の建築基準法に基づく3Dプリンター建物「3dpod」を完成
2023年11月: Polyuse(ポリウス)の建設用3Dプリンティングが国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)に登録(登録番号:KT-210020-A)
2024年9月: Polyuseが国産建設用3Dプリンター「Polyuse One」の一般向け販売を発表(価格3300万円、2025年4月から量産化予定)
日本市場の特徴としては、高い技術力を持つ大手ゼネコンによる独自技術開発と、Polyuseのようなスタートアップ企業の台頭が挙げられます。また、NETISへの登録により公共工事での活用が容易になり、土木分野での応用も進んでいます。
主要プレイヤーと技術比較
グローバル企業の最新動向
世界の建設3Dプリンター市場における主要プレイヤーとその特徴を紹介します:
COBOD International(デンマーク)
世界最大級の建設用3Dプリンターメーカー
最新モデル「BOD3」(2024年発表)は連続プリントに対応
PERIグループとの協業などアメリカでの展開を強化
ICON(アメリカ)
テキサス州オースティンに本拠地を置く2017年設立の企業
「Vulcan II」で高さ2.6m、幅8.5mの造形が可能
アメリカで初の建築許可を取得した3Dプリント住宅を建設
独自の混合セメント「lavacrete」と自動材料供給システム「Magma」を開発
Apis Cor(アメリカ/ロシア)
NASAの3D Printing Habitat Competitionで優勝
24時間で38㎡のワンルーム住宅を約1万ドルで建設
分解・運搬・1時間での組立が可能な実用性
ACCIONA(スペイン)
スペインの大手インフラ企業
2019年にドバイに建設3Dプリントセンターを開設
6×3×2メートルの大型3Dプリンターを導入
日本企業の取り組み
日本企業も独自の技術開発を進めています:
Polyuse(ポリウス)
建設用3Dプリンターを開発する日本のスタートアップ
「Polyuse Zero」から改良を重ね、「Polyuse One」を開発
国内で53件以上の施工実績(2023年11月時点)
折りたたみ可能で、展開時の寸法は幅3980mm×奥行き3590mm×高さ2650mm
造形サイズは3000mm×2500mm×1900mm
大林組
2014年から建設用3Dプリンターの研究を開始
3Dプリンター実証棟「3dpod」を完成(2023年3月)
セメント系材料を用いた3Dプリンターによる建築物として、国内初の建築基準法に基づく国土交通大臣の認定を取得
特殊モルタル「スリムクリート」を開発
清水建設
ガントリー型の大型3Dプリンターを開発
最大造形幅6m、プリンタ装置寸法25m×7.2m×12.5m
最大造形速度150mm/s、造形物の出来形精度±5mm
技術・スペック比較
主要な建設3Dプリンターのスペックを比較します:
メーカー/モデル | タイプ | 造形サイズ | 造形速度 | 精度 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|
清水建設 | ガントリー型 | 20m×4.5m×4.3m | 最大150mm/s | ±5mm | 大型構造物向け |
COBOD BOD3 | ガントリー型 | 可変(延長可能) | – | – | 連続プリント対応 |
Polyuse One | – | 3000mm×2500mm×1900mm | – | – | 折りたたみ可能、現場移動容易 |
ICON Vulcan II | – | 高さ2.6m、幅8.5m | 毎秒5~7インチ | – | レール延長で無制限拡張可 |
デルタWASP 3MT | – | Ø1000×1000(H)mm | 最大200mm/s | – | コンパクトサイズ |
各メーカーは使用目的や現場条件に応じた特徴を持ち、大型の現場施工向けから小型のプレハブ部材製造向けまで様々な製品が開発されています。
導入メリットと成功事例
工期短縮効果
建設3Dプリンターの最大のメリットの一つが工期の大幅な短縮です:
24時間連続施工が可能: 人手による作業と異なり、夜間や悪天候でも稼働可能
型枠工程の省略: 従来必要だった型枠の製作・設置・解体工程が不要
並行作業の実現: 基礎工事と部材製造を同時に進行可能
実際の事例では:
Polyuseと建築士事務所の事例では、従来2ヶ月かかる工期を約1カ月に短縮
Apis Corは24時間で38㎡の住宅を建設
建設用3Dプリンターを使用することで、従来工法と比較して50~80%の工期短縮が報告されています
コスト削減と経済効果
建設3Dプリンターによるコスト削減効果は多方面で見られます:
人件費削減: 作業員数の大幅削減(一部の事例では50~70%減)
材料費削減: 無駄な材料使用の抑制(従来比20~30%減)
型枠コスト削減: 型枠材料・労務費が不要
間接コスト削減: 工期短縮による現場管理費・仮設費の削減
初期投資(3Dプリンター導入費用)は高額ですが、複数プロジェクトでの活用により償却が可能です。特に人件費高騰や人材不足が進む日本においては、長期的な経済効果が期待できます。
太陽光・蓄電池経済効果シミュレーションソフト「エネがえるBiz」を活用すれば、建設3Dプリンター稼働に必要な電力コストと再生可能エネルギー導入による経済効果を正確に試算することができます。大型の建設3Dプリンターは消費電力が大きいため、自家消費型太陽光発電との組み合わせによるコスト削減も検討する価値があるでしょう。
人手不足対策と技能伝承
深刻化する建設業界の人手不足に対する有効な対策となります:
少人数での施工: 従来多数の作業員が必要だった工程を機械化
熟練技能の依存度低減: デジタルデータに基づく正確な施工
若手の即戦力化: 建設用3Dプリンターは3日間のトレーニングで操作可能
危険作業の削減: 高所作業や重労働の削減による安全性向上
中部土木の事例では、新入社員でも3日間程度の短期トレーニングで公共土木工事に使用可能な重力式擁壁を造形することができました。建設3Dプリンターは比較的作業における危険性や重労働の回数が少ないことから、「キツい、汚い、危険」と言われる建設業界の課題解決にも貢献しています。
デザインの自由度向上
建設3Dプリンターは従来工法では困難だった複雑な形状の実現を可能にします:
曲線・有機的フォーム: 直線や直角に縛られない自由な造形
トポロジー最適化: 構造的に最適な形状の実現
カスタマイズ: コストを大幅に上げずに個別設計の実現
複雑なテクスチャ: 表面の複雑なパターン形成
大林組の「3dpod」は、3Dプリンターの特長を活かした有機的なデザインを採用しています。建物の平面形状がピーナッツの「さや」のような形をしていることや、外観が3Dプリンター建築ならではの球状の「繭」のような形状を実現しています。
環境負荷低減効果
建設3Dプリンターは環境面でも多くのメリットをもたらします:
廃棄物削減: 必要な分だけの材料使用により建設廃棄物を削減(従来比50~80%減)
CO₂排出量削減: 型枠削減、材料最適化によるCO₂排出量削減
環境配慮型材料: ジオポリマーなど従来のセメントより環境負荷の少ない材料の使用
エネルギー効率: プツマイスターの「カーロス」などEV電力のみで駆動する環境配慮型モデル
Construction Diveによると、世界の建設廃棄物の総量は年間10億トンを超え、2025年までに倍増すると予想されています。3Dプリンティングは、この建設廃棄物の削減に大きく貢献します。
日本特有の課題と対応
建築基準法対応の現状
日本では建築基準法対応が建設3Dプリンターの普及における最大の課題です:
現行法規の制約:
建築基準法は「木造・鉄筋コンクリート造・鉄骨造・鉄骨鉄筋コンクリート造」などの従来構法を前提
3Dプリント構造は新しい構造形式として認定取得が必要
材料認定の課題:
3Dプリント用モルタルは国土交通大臣が定める指定建築材料(建築基準法第37条)に該当せず
個別に大臣認定を取得する必要がある
本来の利点が活かせない状況:
法規対応のために不要な補強(鉄筋など)を追加せざるを得ない
コスト・工期面でのメリットが減少
大林組の「3dpod」は、セメント系材料を用いた3Dプリンターによる建築物として、国内で初めて建築基準法に基づく国土交通大臣の認定を取得しましたが、これは先進的な事例であり、一般的な普及には基準法の改正または特別な認定制度の整備が望まれます。
耐震性・災害対応の取り組み
地震大国である日本では、耐震性の確保が特に重要です:
耐震性能の検証:
3Dプリント構造物の地震時挙動の研究
層間の結合強度や靭性能の確保
災害時の活用可能性:
災害後の迅速な仮設住宅建設への応用
被災地での運用に適した小型・モバイル3Dプリンターの開発
日本の地震環境に適した3Dプリント構造の研究開発が進められています。建設3Dプリンターで迅速に災害時住居が建築できるようになれば、被災地での生活環境改善に大きく貢献できる可能性があります。
狭小地・既存市街地での活用
日本特有の狭小地に対応する技術も課題です:
コンパクトな装置開発:
狭い敷地でも使用可能な小型プリンター
折りたたみ可能な装置(Polyuse Oneなど)
現場条件への適応:
既存建物に囲まれた環境での施工方法
狭隘地での資材搬入・機械設置
Polyuse Oneは折りたたみ可能な設計となっており、折りたたんだ時の寸法は4300mm×1220mm×1310mmとコンパクトになります。これにより現場への搬入が容易になり、日本の狭小地での活用に適しています。
実用例と用途別特徴
住宅建設の事例
建設3Dプリンターによる住宅建設は、最も注目されている応用分野の一つです:
海外事例:
ICON(アメリカ):テキサス州オースティンで建築許可を取得した3Dプリント住宅を建設。工期24時間以内、コスト約1万ドルを実現。
Apis Cor(アメリカ/ロシア):24時間で38㎡のワンルーム住宅を建設。コストは約1万ドル。
COBOD & BIG(デンマーク):100棟規模の3Dプリント住宅開発プロジェクト。
日本事例:
Polyuse & MAT一級建築士事務所:群馬県渋川市に17㎡の建築物を建設。建築基準法に準拠した日本初の3Dプリント建築物。
セレンディクス:93平方メートルの3Dプリント住宅「serendix50」を開発・販売。
住宅分野では特に工期短縮とコスト削減効果が注目されており、手頃な価格の住宅供給手段として期待されています。
インフラ・土木構造物
橋梁や土木構造物などのインフラ分野でも建設3Dプリンターの活用が進んでいます:
海外事例:
MX3D(オランダ):アムステルダムに世界初の3Dプリント鋼橋を建設。
ACCIONA(スペイン):アルコベンダス市内の公園にスペイン初の3Dプリント歩道橋を建設。
日本事例:
Polyuse:国土交通省中部地方整備局の工事で重力式擁壁を3Dプリンターで施工。
JR東日本・東京大学:駅舎に設置するベンチを3Dプリンターで造形するプロジェクト。
土木分野では特に、型枠製作が困難な複雑形状の構造物や、人手不足が深刻な現場での活用が進んでいます。
商業・産業施設
商業施設や産業施設の建設にも3Dプリンターが活用されています:
海外事例:
WinSun(中国):ドバイに世界最大の2階建て3Dプリント施設を完成。
COBOD(デンマーク):ヨーロッパ最大の3Dプリント建築を建設。
日本事例:
大林組:3Dプリンター実証棟「3dpod」を完成。壁や床といった地上構造物の全ての部材に3Dプリンターを使用。
商業施設では特に、デザイン性の高い空間創出や、短期間での施工が求められる仮設店舗などでの活用が期待されています。
特殊用途(災害復興・宇宙建設)
建設3Dプリンターの特殊な応用分野も開発されています:
災害復興住宅:
被災地での迅速な仮設住宅建設
現地材料を活用した持続可能な建設
宇宙・月面建設:
NASAの3D Printing Habitat Challengeでの取り組み
月面・火星での居住施設建設の研究
現地の土壌(レゴリス)を利用した建設技術
これらの特殊用途では、極限環境下での建設や資源制約下での効率的な建設が求められており、3Dプリンターの特性が活かされています。
導入検討のためのガイドライン
導入判断の基準
建設3Dプリンターの導入を検討する際の判断基準として、以下のポイントが重要です:
事業内容との適合性
扱う建築・構造物のタイプ(住宅、商業施設、土木構造物など)
求められるデザイン性・複雑さ
年間施工量・稼働率の見込み
経済性評価
初期投資額(3,000万円~1億円程度)
ランニングコスト(メンテナンス費用、材料費など)
投資回収期間の試算
工期短縮・人件費削減効果
技術的フィット
必要な造形サイズ
精度要求
材料の適合性
現場条件への適応性
組織的準備
運用人材の確保・育成
デジタル設計体制の整備
メンテナンス体制
品質管理体制
特に施工現場でのエネルギー効率を考慮する場合には、産業用自家消費型太陽光・蓄電池経済効果シミュレーションソフト「エネがえるBiz」を活用することで、建設3Dプリンターのエネルギーコストを試算し、太陽光発電・蓄電池との組み合わせによる経済効果を事前に把握することができます。実際に蓄電池のクロージングまでにかかる時間が1/2〜1/3になったという成果も報告されています。
機種選定のポイント
機種選定にあたっては、以下のポイントをチェックすることが重要です:
用途に応じたタイプ選択
ロボットアーム型:細かいデザイン、小〜中規模構造物
ガントリー型:大型構造物、現場施工
モバイル型:現場移動が多い用途
スペック確認
造形サイズ(最大幅、高さ)
造形速度
精度
使用可能材料
運用面の考慮
設置・移動の容易さ
操作性・UIの使いやすさ
メンテナンス性
アフターサポート体制
拡張性・将来性
ソフトウェアアップデート対応
新材料への対応可能性
モジュール追加による機能拡張
実績・評判
導入実績
ユーザーレビュー
メーカーの信頼性・継続性
日本国内では、Polyuse Oneのような国産機種が建築基準法対応などの面で有利な場合があります。
導入プロセスと準備
建設3Dプリンターを導入するためのプロセスと準備は以下の通りです:
事前調査・計画
市場調査・ベンチマーク
自社ニーズ分析
導入計画策定
予算確保
体制整備
プロジェクトチーム編成
担当者選定・教育
設計プロセス改革
データフロー整備
設備・環境整備
設置スペース確保
電源・ユーティリティ整備
材料保管スペース
試験・検証環境
導入・運用開始
機器搬入・設置
トレーニング実施
試験運用
本格運用開始
継続的改善
運用データ収集・分析
課題抽出・改善
新技術・新材料の情報収集
定期的な技術アップデート
導入にあたっては、メーカーやコンサルタントとの連携も重要です。特に、エネがえる経済効果シミュレーション保証などのサービスを活用することで、導入効果の正確な予測と保証を得ることができます。これにより、経営判断の確実性を高めることができるでしょう。
課題と将来展望
現状の技術的課題
建設3Dプリンターにはいくつかの技術的課題が存在します:
材料の制約:現状では主にセメント系材料に限定される
造形サイズの制限:一度に造形できるサイズに制約がある
積層痕:層状に積み上げるため表面に積層痕が残る
配筋・補強方法:鉄筋等の配置方法に課題がある
品質の安定性:材料特性や環境条件による品質のばらつき
これらの課題に対して、材料開発や造形技術の改良が進められています。例えば、大林組の「3dpod」では、壁を複数層構造にして間に配管スペースを設けるなどの工夫がなされています。
経済面の課題
経済面での主な課題は以下の通りです:
高額な初期投資:プリンター本体価格は数千万円~1億円程度
Polyuse Oneの価格:3300万円(税込、送料込)
海外製品はさらに高額なものも
運用コスト:メンテナンス費用、専用材料のコスト
大型機器の輸送・設置コスト:現場への搬入・設置に関わるコスト
投資回収期間:十分な稼働率確保の必要性
これらの課題に対して、リース・シェアリングモデルや、複数企業による共同所有など、初期投資を抑える仕組みの検討が進められています。
技術発展の方向性
建設3Dプリンターは今後も技術発展が続くと予想されます。主な方向性は以下の通りです:
複合材料・機能性材料の開発
強度と軽量性を両立する複合材料
断熱性能や蓄熱性能を持つ機能性材料
自己修復機能を持つスマート材料
マルチマテリアル化
異なる材料を同時に積層可能な技術
構造部と断熱部を一体成形する技術
設備配管・配線の埋め込み技術
AI・ロボティクスとの融合
AIによる最適造形経路の生成
自律型建設ロボットの開発
複数ロボットによる協調作業
オンサイト・リアルタイムモニタリング
センサーによる造形品質のリアルタイム監視
欠陥検知と自動修正機能
デジタルツインとの連携
建設業界への長期的影響
建設3Dプリンターの普及は建設業界の産業構造にも大きな影響を与えると予想されます:
職種構成の変化
現場作業員から機械オペレーター・データ技術者へのシフト
デジタル設計スキルの重要性増加
材料エンジニアの需要拡大
バリューチェーンの変化
設計・施工の一体化
材料メーカーとの直接連携強化
下請け構造からプラットフォームビジネスへの変化
新たなビジネスモデル
3Dプリンターのリース・シェアリング
プリントデータのマーケットプレイス
オンデマンド建設サービス
このような変化に対応するため、建設会社はデジタル技術への投資と人材育成が必要です。
FAQ:よくある質問と回答
Q: 建設3Dプリンターの価格帯はどれくらいですか?
A: 建設3Dプリンターの価格は機種・サイズによって大きく異なります。小型のプリンターで数千万円、大型のものでは1億円を超えるものもあります。日本製のPolyuse Oneは3300万円(税込、送料込)とされています。海外製の大型プリンターはさらに高額になる場合が多いです。
Q: 建設3Dプリンターの操作には特別な資格が必要ですか?
A: 現時点では建設3Dプリンター専用の法定資格はありませんが、機械の操作技術や3Dデータの取り扱いスキルが必要です。多くのメーカーはトレーニングプログラムを提供しており、Polyuseの事例では3日間のトレーニングで操作が可能になるとされています。
Q: 日本で建設3Dプリンターを使った住宅は建築確認を取得できますか?
A: 建築基準法に適合する証明が必要です。大林組の「3dpod」のように、国土交通大臣の認定を取得した事例もありますが、一般的には従来の構造方法と組み合わせるなどの対応が必要です。建築確認申請の際は、構造計算や材料強度などについて専門家や行政との事前協議が重要です。
Q: 3Dプリンター住宅の耐久性はどうですか?
A: 適切な材料と施工方法を用いれば、従来の建築物と同等以上の耐久性を持たせることが可能です。ICONの「lavacrete」のような材料は6,000psiの強度を持ち、通常のコンクリートと同等以上の耐久性を示しています。ただし、層間の接着性や経年変化については継続的な研究が進められている段階です。
Q: 建設3Dプリンターではどのような材料が使えますか?
A: 主にセメント系材料(特殊配合モルタル)が使用されます。通常のコンクリートより細かい骨材(最大粒径8mm程度)を使用し、流動性と形状保持性のバランスを取るための添加剤が配合されています。一部のプリンターでは繊維補強材料(繊維長30mm程度まで)も使用可能です。
Q: 建設3Dプリンターによる施工の工期はどれくらい短縮できますか?
A: 従来工法と比較して50~80%の工期短縮が報告されています。例えば、Polyuseと建築士事務所の事例では、従来2ヶ月かかっていた建築を約1ヶ月で完成させています。Apis Corは24時間で38㎡の住宅を建設した実績があります。
Q: 建設3Dプリンターで電気・水道などの設備はどうするのですか?
A: 設備配管・配線は現状では従来工法で後施工するケースが多いですが、先進的な取り組みでは壁を複数層構造にして間に配管スペースを設けたり、プリント中に配管を埋め込む方法も開発されています。大林組の「3dpod」では壁に輻射空調設備を組み込む実験も行われています。
Q: 建設3Dプリンターの市場規模はどれくらいですか?
A: 2024年の世界市場規模は約19億米ドル、2025年に29億3000万米ドル、2033年には936億7000万米ドルに達すると予測されています。年平均成長率は54.23%と非常に高い成長が見込まれています。
Q: 建設3Dプリンターの将来性はどうですか?
A: 建設業界の課題(人手不足、工期短縮、環境負荷低減)に対応できる技術として大きな期待が寄せられています。技術の進化に伴い、マルチマテリアル化、AI・ロボティクスとの融合など新たな展開も予想され、災害復興や宇宙建設など応用分野も広がると見られています。
結論:建設3Dプリンターが切り拓く建設の未来
建設3Dプリンターは、建設業界に革命をもたらす可能性を秘めた技術です。工期短縮、人手不足対策、デザインの自由度向上、環境負荷低減など、建設業界が直面する多くの課題に対するソリューションとなりうるものです。
世界市場は今後10年で急速な成長が予測されており、すでに欧米や中国では多くの実用例が登場しています。日本でも、大林組、清水建設、Polyuseなどの企業が技術開発を進め、実証プロジェクトを展開しています。
一方で、特に日本においては建築基準法対応や高額な初期投資、技術的制約など、克服すべき課題も多く残されています。これらの課題解決には、技術開発だけでなく、規制の見直しや新たな基準の整備、人材育成などの総合的なアプローチが必要です。
建設業界のデジタル化・自動化の流れの中で、建設3Dプリンターは単なる施工技術ではなく、設計から施工、さらには建物のライフサイクル全体を変革する可能性を持っています。それは同時に、建設業の働き方や産業構造にも大きな変化をもたらすでしょう。
建設3Dプリンターは今後も進化を続け、より高度な機能、より広い応用範囲、より高い経済性を実現していくことでしょう。それは単に建物を作る方法を変えるだけでなく、私たちの住環境や都市のあり方さえも変える可能性を秘めています。
建設業に関わるすべての人々にとって、この革新的技術の動向を注視し、自らのビジネスや組織にどう取り入れていくかを考えることが、今後ますます重要になっていくでしょう。
出典
建設用3Dプリンティング技術の紹介
3Dプリンティング建設市場の規模、シェア、レポート、2033年まで
大型モバイルコンクリート3Dプリンターを販売開始
日本初? Polyuseが国産建設用3Dプリンターを一般向け発売へ!
大林組、3Dプリンターで建築基準法に基づく建物 国内初
【国内初】Polyuse(ポリウス)「建設用3Dプリンティング」がNETISに登録
中部地方初、建設用3Dプリンタの公共土木工事を実施|Polyuse
COBOD、新型3D建設プリンタ「BOD3」発表
ICONが3Dプリント技術で目指す住宅革命
NASAも認めた!Apis Corが実現する3Dプリンティング住宅!
ACCIONAがドバイに建設3Dプリントセンターを開設
【コンクリート3D プリンタ】デルタWASP 3MT(ワスプ)
全世界の建設3Dプリンティング市場が2030年に5233億ドル規模へ
今さら聞けない 建設3Dプリンターのイロハ
建設用3Dプリンターを利用した建築物に関する規制の在り方
フロリダ大学がCOBODインターナショナルの最新建設3Dプリンターを導入
建設業界で3Dプリンターを活用する方法やメリットについて
ついに登場!日本初の建築基準法に準拠した3Dプリント建設
建設業界における3Dプリンターの可能性
3Dプリンター住宅は日本の住宅業界にどんな影響を与える
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