出力制御とは何か?2025年の見通しと太陽光発電所の対応策

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

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太陽光・蓄電池提案ツール「エネがえる」
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出力制御とは何か?2025年の見通しと太陽光発電所の対応策

はじめに:太陽光発電投資と「出力制御」の台頭
かつて安定した利回りが期待できる投資先として注目された太陽光発電所ですが、近年「出力制御」(出力抑制)の問題が表面化し、多くの発電事業者の収益に影響を与えています。

出力制御とは電力の需給バランスを保つために発電設備の出力を抑える措置のことで、太陽光や風力など再生可能エネルギーの急増に伴い日本各地で実施例が増えています。

本記事では出力制御の仕組みと必要性2025年時点の最新動向と今後(2025~2035年)の見通し、そして太陽光発電所オーナーが取るべき対応策について、図表データや最新政策を交えて分かりやすく解説します。再エネ普及拡大と脱炭素を進める上での本質的な課題にも踏み込み、今後の解決策を探ります。

出力制御とは?需給バランス維持のための発電出力抑制措置

出力制御(出力抑制)とは、電気の供給量が需要量を大きく上回った場合に、電力会社が一部の発電設備の出力を一時的に停止・削減して供給過剰を調整する制度です。

電気は需要(消費)と供給(発電)の量が常に一致していなければ、周波数や電圧が乱れ最悪の場合は大規模停電につながる恐れがあります。特に太陽光発電は天候により出力が急増減し、春の休日など需要が少ない時間帯に供給過多が生じがちです。その余剰電力をそのまま流せば周波数上昇などから設備故障や停電を招くため、供給側を絞る最後の手段として出力制御が行われます

優先給電ルールと出力制御の優先順位: 日本では再エネ(太陽光・風力)を可能な限り優先的に発電させる「優先給電ルール」がありますが、それでも需給逼迫時には段階的に発電抑制が行われます。一般的な優先順位は以下の通りです。

  • ①火力発電の出力調整: まず火力発電(石油・LNG・石炭など)の出力をできる限り下げて需要に合わせます。それでも余剰が出る場合、最低出力まで絞った状態でそれ以上減らせない「ベースロード電源」(一部の石炭火力や原子力など)が残ります。

  • ②揚水発電による余剰吸収: 次に、揚水式水力発電所をポンプ動作させ、余剰電力でダムの水を汲み上げてエネルギーを貯蔵(可能なら最大限)します。これにより余った再エネ電力をできるだけ無駄にしないようにします。

  • ③再生可能エネルギーの出力制御: 上記を行ってもなお供給過多が解消しない場合、太陽光・風力など再エネ側の出力をカット(発電抑制)します。地域間連系線に空き容量があれば他エリアへ送電して余剰を消化しますが、連系線容量の制約で送りきれない場合や、全エリア同時に余剰となる場合は各地で再エネ抑制が避けられません。太陽光は日中に出力が集中するため特に対象になりやすく、需要が低迷する春秋の昼間に実施例が多発します。

なぜ太陽光が止められるのか: 出力制御自体は安定供給上やむを得ない措置ですが、再エネ事業者にとっては「発電できたはずの電気を買い取ってもらえない時間」を意味し、売電収入の減少に直結します。

特に日本では原子力発電所が出力一定で運転されるケースが多く、需要が少ない時間帯に太陽光を優先させる余地を圧迫しているとの指摘もあります。実際、九州エリアでは2023年4月に原発4基(出力計約4.14GW)がフル稼働する中、正午頃に過去最大の5.9GWもの太陽光・風力の出力カットが行われました(その時間帯、原発出力は一切調整されませんでした)。このように他電源の柔軟性不足も相まって、太陽光発電所はしばしば最終的な調整弁として出力制御を強いられるのです。

出力制御の急増:全国拡大と過去最大規模の発生状況

九州から全国へ拡大: 日本で最初に本格的な再エネ出力制御が行われたのは2018年、九州電力管内でのことでした。以降、太陽光導入量の多い地域を中心に晴天日の出力抑制が常態化し、2021年度までは九州エリア限定だった抑制が、2022年度から北海道・東北・中国・四国エリアにも広がりました。さらに2023年度には中部・北陸・関西でも初めて実施され、東京エリア以外のほぼ全国で出力制御が発生する事態となったのです。

2023年度に過去最大の抑制量: 資源エネルギー庁の推計によれば、2023年度(2023年4月~2024年3月)の太陽光・風力に対する出力制御量は約17億6,000万kWh(17.6億kWh、沖縄除く)と過去最大に達する見通しです。これは前年度(2022年度)の約5億7,500万kWhから3倍以上という急増で、全国の再エネ発電量の約1.8%に相当します。特に九州では、同年度の太陽光・風力発電量の約6.7%がカットされる見込みとされ、他地域に比べ突出して高い割合となりました。これは九州の再エネ比率が全国平均より高い一方で、需要の伸び悩みや他エリアへの送電制約があるためです。また2023年度に出力抑制が激増した主因として、①原子力発電の再稼働増加(供給過剰の一因)と②電力需要の減少(省エネや電気料金高騰に伴う需要減)という2点が指摘されています。

豆知識:出力制御率(カット率)とは – 発電可能であった再エネ電力量のうち、出力制御によりカットされた割合を示す指標です。たとえば九州の出力制御率6.7%とは、本来発電できた再エネ電力量の6.7%が制御で失われたことを意味します。計算式は 「出力制御率 = 出力制御量 ÷ (発電量 + 出力制御量) × 100」 です。なお日本では10kW未満の住宅用太陽光は従来制御対象外でしたが、統計上はそれらの発電量も分母に含めて算出しているため、実際に制御指示を受けうる設備だけで計算した場合はこの数値より高くなります。

海外との比較: 再エネ先進地域では大量導入に伴う一定の出力抑制は発生しますが、日本の状況は必ずしも効率的とは言えません。例えば南オーストラリア州やカリフォルニア州は九州の2倍以上の再エネ比率を持ちながら、出力抑制率は九州の半分以下(2~3%程度)にとどまっています。これはこれら地域が経済原則に基づく電力市場メカニズム(後述のエコノミック・ディスパッチや負の電力価格導入など)により、需要家の需要調整や蓄電池活用が進み無駄な抑制を抑えているためです。日本でも同様の仕組みを整えることで、出力制御をより最小化できる可能性があります。

2025年度の出力制御見通し:やや改善の兆しと各地域の状況

全国合計では抑制量20%減の予測: 各電力会社が公表したデータによると、2025年度の再エネ出力制御量は全国合計で約20億kWh(20億kWh=2,000,000,000kWh)と見込まれています。これは前年度見通し(2024年度の約24億kWh)から約4億kWh減少しており、全体で約20%の抑制量削減になる予測です。抑制率で見ても多くの地域で2024年度より低下する見込みとなっており、再エネ大量導入による抑制増加に歯止めをかける対策の効果が現れ始めたといえます。

地域別の予測値: 2025年度の主な電力エリア別「年間出力制御率」と想定抑制電力量は次の通りです(カッコ内は予測される出力制御量)。

  • 北海道エリア: 0.3% (約0.20億kWh) – 前年度比やや増加。風力増加などで一部余剰見込み。

  • 東北エリア: 2.2% (約3.8億kWh) – 前年度比微減。送電網活用改善により抑制低減。

  • 東京エリア: 0.009%(約0.03億kWh) – 前年度0%から僅かに発生予測。依然需要規模大きく抑制はほぼ発生せず。

  • 中部エリア: 0.4% (約0.7億kWh) – 前年度比低下。需給調整策で改善傾向。

  • 北陸エリア: 2.1% (約0.4億kWh) – 前年度比上昇(約1.0ポイント増)。2025年は揚水発電所の点検停止等で一時的に調整力低下が影響。

  • 関西エリア: 0.4% (約0.4億kWh) – 前年度比低下。

  • 中国エリア: 2.8% (約2.8億kWh) – 大幅低下(前年度5.8%→2.8%)。本州側への送電余地拡大など効果。

  • 四国エリア: 2.4% (約1.3億kWh) – 大幅低下(前年度4.5%→2.4%)。中国・近畿との連系線活用向上で改善。

  • 九州エリア: 6.1% (約10.4億kWh) – 前年度と同水準(依然突出して高い)。依然太陽光過剰状態が続き大幅改善には至らず。

  • 沖縄エリア: 0.2% (約0.01億kWh) – 前年度比増加も依然小規模。小電力系統ゆえ出力制御は稀だが、太陽光増で若干発生か。

こうした予測から、2024年度が全国的に出力抑制のピークとなり、2025年度は抑制量がやや縮小に転じる可能性が示唆されています。特に東北・中国・四国などでは対策により抑制率が半減する見通しで、逆に北陸のように一時的悪化が見込まれる地域もあります。九州は残念ながら抜本的な改善策に乏しく高止まりですが、後述の需要喚起策や揚水活用強化でわずかながら抑制圧縮を図る計画が進められています。

予測値の不確実性: なお上記の数値はあくまで現時点でのシミュレーション予測値であり、実際の抑制量・率は天候や需給動向で変動し得ます。例えば想定以上に新たな太陽光が増設されれば余剰電力が増え抑制増となる可能性がありますし、逆に猛暑で需要が伸びたり大容量蓄電池が普及すれば抑制は減るかもしれません。また春先の異常気象(例:日照時間が平年より長い、気温低迷で需要減など)でも予測超の抑制が発生し得ます。したがってエリア予測値は目安と捉え、引き続き状況に応じた柔軟な対策が必要となります。

出力制御増加の背景:根本原因と本質的な課題

なぜこれほど出力制御が増えているのでしょうか。その背景には以下のような構造的課題があります。

  • (1) 再エネ導入量の急拡大: 太陽光発電を中心に再エネ設備容量がこの10年で飛躍的に増大し、一部地域では需要規模を上回る発電ポテンシャルがある状況です。特に昼間需要が小さい週末・祝日などは地域内消費では賄いきれないほどの余剰電力が発生し、結果として抑制が必要になる頻度が高まっています。言い換えれば、**「出力制御を行わなければ太陽光の接続可能量が著しく制限されてしまう」**ため、多少の無駄を前提に大量導入を進めてきたともいえます。出力制御は再エネ導入拡大の安全弁として機能してきた側面があり、その反面で実際に導入量が増えれば増えるほど抑制量も増加する傾向にあります。

  • (2) 電力系統・インフラの制約: 地域ごとの送電インフラ容量の不足も大きな要因です。再エネ発電が余った際、本来は他地域へ融通できれば抑制せずに済みます。しかし日本の系統は長年地域ごとに独立性が高く、周波数も東日本50Hz・西日本60Hzに分断され大量電力の広域融通が難しい構造でした。連系線容量は徐々に増強されていますが、緊急時用の予備枠を平時には遊ばせていた運用もあり、必ずしも**「全国で余剰なく活用する」仕組みにはなっていませんでした。最近になりこの運用見直しで北海道~本州、東北~東京間などの送電融通が拡大し、東北・北海道エリアの抑制見通しが大幅低減する効果を上げています。とはいえ根本的な送電網増強(大容量連系線の新増設)は時間がかかり、2030年頃まで断続的に計画されています。それまでの間、既存網のボトルネック解消**が大きな課題です。

  • (3) 需要側の受け皿不足: 余剰電力を吸収する新たな需要創出の遅れも指摘できます。電化やデジタル化が進む欧米では、電力余剰時に価格を下げて需要を喚起する市場設計や、EV・蓄電池を利用した調整が進んでいます。一方日本は長年、需要家の電力使用は固定料金で変動価格シグナルがなく、需要側調整力が活かされてきませんでした。加えて電力卸市場では長らく取引価格の下限が0円で、欧州のような**ネガティブ・プライス(マイナス価格)**が存在しないため、供給過多時に価格がマイナスに振れて需要を増やす・供給側が自発的に出力ダウンする、といった経済メカニズムが働きにくい状況です。結果として余剰電力があっても需要家側がその恩恵を受けられず、行き場を失った電気を物理的にカットせざるを得なくなっています。

  • (4) 他電源の柔軟性不足: 前述した通り、日本では原子力や一部火力発電が出力調整を行わず一定出力で運転されています。再エネ優先とはいえ、これらベース電源が残った上で太陽光が大量に出ると結局余剰となり抑制が必要になります。海外では経済メリットを優先するエコノミック・ディスパッチにより、柔軟性のない発電所には経済的なペナルティ(不利な低価格)が科されます。例えば米カリフォルニアでは需給超過時に卸価格がマイナスとなり、Diablo Canyon原発は出力を下げないために負の価格分の損失(ペナルティ)を被ります。その代わり蓄電池はマイナス価格の時に余剰電力を充電して報酬を得るなど、市場原理で調整が進みます。日本でも将来的に原子力・火力を含めた柔軟な供給調整を促す仕組みづくりが課題と言えるでしょう。現状では再エネ側を止めるしかないケースが多く、「脱炭素のため導入した再エネを別の脱炭素電源(原子力)が押しのけてしまう」という本末転倒な現象も起きています。

  • (5) ルール・補償体系の問題: 出力制御の実施ルールそのものも課題です。特に**「どの発電所からどれだけ止めるか」というルールは発電事業者の公平性に関わります。日本では原則として系統にオンライン遠隔制御装置をつけた発電所には個別に制御指示(必要最小限の抑制)、オフラインの発電所(遠隔装置なし)には一律割合でカットする「代理制御」が行われます。後者の場合、本来より多めに収入が減るケースもあり不公平感があります。またFIT契約時期によって「年30日まで無補償」「年360時間まで無補償」「無制限無補償」と補償ルールが異なり、特に新しい発電所ほど無補償かつ無制限で止められる厳しい条件になっています。旧ルール(30日)の設備は31日目以降の抑制に対し売電補償がありますが、新ルール(360時間)は太陽光の発電時間帯を考えると実質補償に達しにくく、無制限ルールではどれだけ止められても一切補償がありません。このように後発組ほどリスクが高い制度**であるため、新規投資の心理的な妨げにもなっています。今後、より市場連動型のFIP電源は極力抑制せず旧FIT電源を優先的に抑制する新ルールが2026年度以降段階的に導入予定ですが、それでも根本的な公平性や投資インセンティブの課題は残ります。

以上のように、出力制御増加の背景には再エネ大量導入と需給調整力不足とのギャップが横たわっています。日本の再エネ普及を加速し脱炭素を実現するには、このギャップを埋めるシステム改革が不可欠です。

出力制御を抑えるための施策:対策パッケージと最新の取り組み

こうした事態を受け、国や電力各社は「再エネ出力制御抑制に向けた対策パッケージ」を2023年末に取りまとめ、需要側・供給側・系統側から総合的な抑制低減策を進めています。主な施策は以下の通りです。

  • 需要面の対策: 抑制が必要な時間帯に需要を底上げする取り組みです。具体的には、大口需要家(工場や商業施設)の稼働シフトを余剰電力時間帯に誘導したり、家庭向けに日中の安価な電力プランを提供してEV充電やエコキュート稼働を促すなどの需要家の行動変容があります。2024年には環境省主導で、春秋の日中に電気料金を無料またはマイナス料金に設定して家庭の消費増を実証するプロジェクトも行われました。また、新サービス創出として余剰電力を利用したデータセンター稼働や、水素製造(Power-to-Gas)なども検討されています。「使えるときに使ってもらう」仕組み作りは、需要面最大の課題かつ潜在力です。

  • 供給面の対策: 火力発電等のさらなる出力調整力向上と、蓄電技術の活用強化です。前者では、石炭火力の最低出力制限を下げる改修や、可能な限り火力停止(日停)を増やす取り組みが進められています。後者では、揚水発電所のフル活用に加え、大型蓄電池の導入支援や、電気自動車の系統蓄電池的な活用(V2G)実証も始まりつつあります。特に揚水発電は既設設備の有効活用策として重視され、例えば北陸電力エリアでは一部揚水設備の点検停止で調整力が落ちた影響で2025年度抑制率が上昇すると分析されています。可能な限り火力を止め再エネ優先し、それでも余るときは蓄える——この方針を徹底することで再エネの無駄を削減します。

  • 系統(グリッド)面の対策: 地域間連系線の運用見直し・増強による広域融通力アップです。従来、連系線容量の一部は緊急時用に空けて平時は使われないことがありましたが、これを見直し「平時から最大限活用する運用にシフトしています。その結果、北海道~本州間や東北~東京間で融通電力が増え、北海道・東北エリアでは2024→2025年度に抑制見通しが大幅低減しました。同様に中国・四国と本州間でも送電容量拡大が進み、両エリアの抑制率低減に寄与しています。加えて今後は大規模な連系設備増強(例:北海道本州間の新HVDC増設や東北~東京間の容量拡大、東西周波数変換設備の増強など)が2030年前後に計画されており、これらが実現すれば抜本的な融通力向上が期待できます。

  • オンライン制御の推進: 遠隔制御(オンライン化)対応の発電所を増やすことも重要です。従来、遠隔装置未設置のオフライン発電所には画一的な代理制御(一定割合カット)が行われていましたが、現在はオンライン制御方式が普及しつつあります。オンライン化が進めば必要なときに必要な分だけピンポイントで抑制でき、エリア全体の抑制量を大幅に削減できます。実際、試算では「全発電所がオンライン対応なら抑制率を半減近くまで下げられる」というデータも示されています。経産省や電力各社も旧ルール時代に運転開始したオフライン発電所へ遠隔制御機器の設置を強く促しており、補助金等も活用しつつオンライン化率の向上が図られています。

これら需要+供給+広域融通+オンライン化の多面的対策により、2025年度は多くの地域で抑制減少の見込みを得るまでになりました。特に送電網改善の効果が大きかった北海道・東北では予測上かなり抑制が減っていますし、中国・四国も広域融通で改善しています。九州も抜本解決には至りませんが、一部で揚水の追加運用や需要喚起策が講じられています。もっとも、これらは現状の再エネ導入量前提での効果であり、今後さらなる導入拡大時には継続的な対策強化が必要です。

今後の制度変更: 2025年度以降、制度面でもいくつか重要な変更が予定されています。例えば「優先給電ルールの見直し」として、2026年度から段階的にFIT電源を優先的に抑制し、FIP電源(市場連動型)は極力抑制しない方針が導入される予定です。これにより市場価格に従って出力調整するインセンティブが働くFIP発電所は従来より抑制リスクが下がる見通しです。また卸電力市場へのネガティブプライス導入も議論されています。価格がマイナスとなれば需要家は安価な電力を得るチャンスとなり、発電側も採算悪化を避けるため自主的に出力を絞るようになります。欧米主要国では既に導入済みであり、日本でも蓄電投資を促進し出力制御低減に資するとの提言がなされています。制度・市場の両面から、経済原理を活用した再エネ調整への転換が進みつつあります。

太陽光発電所オーナーが取るべき対応策

出力制御の現状と今後の見通しを踏まえ、太陽光発電所(主に事業用の地上設置型)を所有するオーナーが検討すべき対策をまとめます。収益への影響を最小限に抑えリスクに備えるため、以下のポイントを押さえておきましょう。

1. 発電所のオンライン化対応

まずは遠隔出力制御に対応したオンライン化です。前述の通りオフライン型発電所では抑制発生時に一律割合で売電額が差し引かれる代理制御となるため、実際より収入減が多くなる恐れがあります。一方、オンライン制御対応であれば必要なときに必要な分だけピンポイントで抑制指示がされるため、無駄なカットを最小限にできる利点があります。実際「オンライン化率が上がれば抑制率が大幅低減する」というシミュレーション結果も示されており、多少の設備投資は必要ですが長期的な安定運用のため早めの対応が望ましいでしょう。経産省および各送配電会社も旧ルール(30日)の既存設備に対しオンライン制御機器の後付け設置を推奨しているため、未対応の場合は早急に遠隔制御装置の導入を検討してください。

オンライン化された発電所では、リアルタイムの制御状況を確認できるWEBサービスや通知が提供される場合もあります。これにより「いつどれだけ抑制されたか」を把握しやすく、必要に応じて運用計画の見直しや設備追加(例:蓄電池の検討)など次の対策につなげやすくなります。

2. 蓄電池の併設とFIPへの移行

出力制御の頻発地域では、思い切って売電モデルを転換する選択肢もあります。一つの有力な方法が蓄電池を設置してFITからFIP(市場連動のフィードインプレミアム)へ移行することです。蓄電池を併設すれば日中の余剰電力を蓄えておき、電力需要が高まり価格が上昇する夕方~夜間帯に放電・売電することが可能になります。FIPに転換すれば市場価格 + プレミアムで売電できるため、価格が高い時間帯に売電する運用によって収益性を大幅に向上できる可能性があります。タイナビ発電所によれば、九州エリアの低圧・高圧太陽光で残FIT期間が10年以上かつFIT単価32円以上の案件では、蓄電池設置+FIP転換で収益が約2倍に改善したケースもあるといいます。もちろん蓄電池導入には初期投資が必要ですが、自治体や国の補助金(例:「需要家主導型太陽光発電・再エネ電源併設型蓄電池導入支援事業」)が利用できる場合もあります。

さらに制度面でも前述のように2026年度以降はFIP電源が抑制されにくくなる方向でルール変更が予定されています。市場連動型であれば卸市場の価格シグナルによって発電抑制が自主的に行われるため、系統側から強制的に止められるリスクが減る効果が期待できるからです。したがって、現在FIT契約中でも条件が整えばFIPへの転換を検討する価値は十分あります(実際、2024~25年にかけて実証目的でFIT→FIP移行を進める事業者が増えています)。特に出力制御率が高止まりする九州や将来的に懸念のある中国・四国エリアでは、蓄電池併設FIP型への転換が有力な打開策となるでしょう。

3. リスクヘッジとしての売却や再投資

どうしても出力制御リスクが高い地域・案件の場合、発電所を売却して投資回収することも一つの戦略です。九州を中心に、抑制頻発エリアでは発電所を手放すオーナーが増えており、中古太陽光発電所の売買市場が活発化しています。今後さらに出力制御が増加すれば資産価値が下がりかねないため、値下がりする前に売却するのは合理的判断とも言えます。実際、不動産同様に早期に売却したほうが高値がつくケースもあるため、長期保有に固執せず状況によっては売却益確定も視野に入れましょう。

一方で、出力制御リスクの低い地域への再投資や分散投資も検討できます。例えば東京・東海エリアなど需要地に近いエリアや、既に送電増強計画があるエリアでは今後抑制率が低く抑えられる可能性があります。そうした地域で新たな発電所案件に投資したり、あるいは自家消費型太陽光(工場・施設の電力需要と直結し余剰を出さない)へのシフトも有効な戦略です。再エネ投資を継続しつつポートフォリオ全体でリスク分散を図ることが、これからの時代の賢明な立ち回りと言えるでしょう。

4. 保険・ファイナンス面の見直し

出力制御そのものを補償する保険商品は一般的ではありませんが、長期の収支変動リスクに備え余裕をもった資金計画を組むことが重要です。金融機関とのプロジェクトファイナンス契約では、想定以上の抑制で収入が減った場合の対策(例:DSCR〔債務サービスカバレッジ比率〕悪化時の手当て)について事前に協議しておくと安心です。また発電事業に特化した保険では、自然災害だけでなく事業中断補償を含むものもあります。これは主に設備故障等に備えるものですが、万一広域停電や予期せぬ規制変更等で発電不能になった場合の救済策にもなり得ます。直接的に出力制御損失を埋めることは難しいものの、全体としてリスクマネジメントを強化する観点で保険・保証の見直しを図りましょう。

5. 小規模分散エネルギーへの参加

今後、住宅用や小規模太陽光も含めた分散型エネルギーリソース(DER)の統合が進むと予想されます。すでに2024年度から一部の住宅用太陽光発電(出力制御対応機器を備えたもの)は出力制御の対象に含まれるようになりました。また、VPP(バーチャルパワープラント)やアグリゲーターを通じて、小口の太陽光・蓄電池・EVが需給調整に貢献し収益を得る仕組みも動き始めています。こうした新サービスに参加すれば、たとえ出力制御で余剰が出ても蓄電池に充電して後で放電したり、需給調整市場で調整力提供することで収益チャンスに変えることも可能です。家庭用や低圧のオーナーであれば、自宅の蓄電池やEVを活用したデマンドリスポンスプログラムへの参加を検討すると良いでしょう。例えば「昼間の余剰太陽光を利用したお得な電力メニュー」に加入し、日中の電力消費を増やすことで電気代を節約しつつ再エネ活用に貢献するといった取り組みです。

要は、「止められて捨てるしかなかった電気」を何らかの形で有効活用する道を探ることが肝心です。技術の進歩により、それが個々の発電所レベルでも実現可能になってきています。

2025年以降(~2035年)の見通しと展望

最後に、2025年から2035年にかけての出力制御の発生予測と、再エネ大量導入時代における展望について述べます。

ピークアウトへの期待: 2023~2024年にかけて出力制御量は急増しましたが、対策の強化により2025年前後で一旦ピークアウトし、その後は再エネ導入拡大と対策効果のせめぎ合いになると予想されます。政府は2030年度の再生可能エネルギー電源比率36~38%を目標としており、特に太陽光発電の累積導入は現在の約7,000万kWから2030年に1億kW超(場合によっては1.5億kW近く)まで増えるシナリオも取り沙汰されています。これだけの増設が行われれば、対策なしでは出力制御量も今の倍以上に膨れあがる可能性があります。しかし前述したような需給調整力の強化策がフルに実施され、市場設計も刷新されれば、導入量拡大に対して抑制量の伸びを極力抑え込むことが可能です。実際、欧米の事例は**「システム改革次第で高い再エネ比率でも抑制率を低く維持できる」**ことを示しています。日本も遅ればせながら電力システム改革に本腰を入れ始めており、2030年頃までに **「出力制御は必要最小限に、余剰電力は最大限有効活用する」**新常態への転換が期待されます。

2030年代の課題と機会: 2030年代に入ると、洋上風力の大規模導入(特に東北・北海道沖)や太陽光のさらなる拡大により、新たな地点での余剰問題が顕在化するでしょう。同時に、電気自動車の普及やヒートポンプ電化、水素需要の拡大など新たな電力需要が生まれ、これらが余剰再エネ電力の吸収先となる可能性があります。理想的には、余った再エネで水素を製造し産業燃料に転用したり、EVを走る巨大な蓄電池群として制御したりすることで、余剰分をほぼ丸ごと社会で利活用できるようになることです。そうなれば出力制御は技術的なバックストップ措置として残るのみで、頻繁に発動されることはなくなるでしょう。2035年頃には、電力の需要と供給を柔軟にマッチングさせるAI制御や高度な予測システムも普及していると見込まれます。デジタル技術+蓄電+広域ネットワーク+需要創出の総力戦で、かつて問題だった出力制御が「過去の課題」となる未来も十分描けます。

もっとも、技術や制度改革が思ったように進まなかった場合、依然として二桁%以上の出力制御率に悩まされる地域が残るかもしれません。特に再稼働が進む原子力との調整や、大量導入された再エネ同士(太陽光と風力の同時大量発電)の調整は難題です。最終的には送電網の大規模増強需給を超えた電力融通先(例えば周辺国との電力取引)まで含めた検討も必要になるでしょう。日本の電力システムが真に次世代型へ脱皮できるか否か——出力制御問題の帰趨は、この転換にかかっています。

まとめ:課題克服に向けて

「出力制御」は再生可能エネルギー時代における避けて通れない課題ですが、同時にイノベーションの余地が大きい分野でもあります。需給バランス維持のため最小限必要な措置である一方、可能な限り抑制量を減らして再エネ導入拡大の障害としないことがこれからの鍵です。2025年時点では各種対策の効果が出始め、一部地域で抑制のピークアウトが見えてきました。しかし本質的な解決には電力システム全体の構造改革が必要です。業界の常識にとらわれず、「余った電気をどう活かすか」を軸に発想を転換することが求められます。

幸い、蓄電技術やデジタルグリッド、需要側の柔軟化などソリューションの芽は出揃っています。あとはそれらを総動員し、政策の後押しと市場原理の導入によって実行に移すだけです。例えば負の電力価格の導入は、再エネ余剰問題を経済の力で解決する斬新な一手となるでしょう。また、企業や自治体レベルでも余剰電力を地域の新ビジネス(データセンターや水素製造など)に活用する動きが出てきています。発電所オーナーも受け身にならず、蓄電池やFIP移行など自ら打てる手を打つことで、不安を成長の機会に変えていけます。

再エネ大量導入は脱炭素社会への大前提であり、出力制御問題はその「壁」のように見えます。しかしその壁を乗り越えることで、より賢く持続可能なエネルギーシステムが実現するはずです。日本のエネルギー転換の正念場として、官民挙げた知恵と創意でこの課題克服に挑み、真に再エネを主力電源化できる未来を切り拓きましょう。


ファクトチェック・重要データまとめ(2025年6月時点):

  • 2023年度、日本国内の再エネ出力制御量は**約17.6億kWh(過去最大)**に達した。これは前年度比3倍以上の急増で、主因は原発稼働増と需要減による供給過剰。

  • 2023年度の**九州エリア出力制御率は約6.7%**と見込まれ、国内で突出して高い(他エリアは1~3%台)。海外の類似地域と比べても依然高水準。

  • 2024年度の全国出力制御見通しは約24億kWh(約2.4TWh)で、更なる増加が懸念されたが、各種対策により**2025年度は約20億kWh(前年比▲20%)**に減少する予測となった。九州6.1%、四国2.4%、中国2.8%など、多くの地域で抑制率低下の見込み。

  • 出力制御の優先順位は「火力抑制→揚水活用→再エネカット」であり、太陽光は可能な限り最後まで発電させるが、それでも余剰時に制御される。原子力等は基本的に出力調整されていないため、太陽光側の抑制につながっている。

  • 出力制御に関する補償ルールは3種類(旧30日、新360時間、無制限無補償)あり、近年の案件ほど「無制限・無補償」適用が多い。旧30日ルールでは31日目以降の抑制に売電補償あり、新360時間ルールでは361時間目以降補償、無制限ルールでは一切補償なし。

  • 国の出力制御抑制策パッケージ(2023年末策定)で、需要喚起(余剰時の需要シフト)や火力の最小出力引下げ・揚水活用、連系線の運用見直し・増強、発電所オンライン化推進等が実施中。これにより北海道・東北・中国・四国で2024→2025に抑制大幅低減の見通し。

  • オンライン制御化の効果:全発電所が遠隔制御対応すれば抑制率を約半減可能との試算あり。経産省も旧ルール設備への遠隔装置後付けを推奨し、オンライン化が進展中。

  • FIPへの移行策: 蓄電池併設でFITからFIPに転換し、夜間高値時に売電することで収益が約2倍に向上した例が報告されている。2026年度以降はFIP電源の出力制御優遇策も導入予定。

  • 出力制御低減の市場改革: 専門家は経済原理に基づくエコノミック・ディスパッチとネガティブ価格の導入が有効解決策と指摘。海外ではマイナス価格で蓄電投資が進み、余剰電力が有効利用されている。日本でも同様の市場改革検討が進む。

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著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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