高金利・コスト高騰時代に太陽光・蓄電池PPA事業は成立するか?必要な金融スキームを徹底検証

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

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高金利・コスト高騰時代に太陽光・蓄電池PPA事業は成立するか?必要な金融スキームを徹底検証

イントロダクション:

金利が上昇し資材費用や人件費が高騰する現在、再生可能エネルギー業界にはかつてない逆風が吹いています。太陽光発電や蓄電池を活用した電力購入契約(PPA)モデルは、初期費用ゼロで長期にわたり安価なクリーン電力を提供できる画期的なスキームとして注目されてきました。しかし10~20年に及ぶ長期契約が基本のPPA事業は、超低金利と安価な設備コストを前提に成り立っていた面があります。

果たして今のような「金利のある時代」、そして資材・労務費の高騰する時代において、太陽光・蓄電池のPPA事業は採算に合うのでしょうか? 

本記事では最新のデータや事例をもとに、PPAモデルの現状と課題を高解像度の知見で解析し、持続可能なビジネスとするための金融スキーム上の創意工夫を探ります。日本の再エネ普及加速と脱炭素における根源的な課題を洗い出し、従来の常識にとらわれない解決策を構造的に提示します。

金利上昇・コスト高騰が再エネPPAに突きつける現実

まず直面している現実として、インフレと金利上昇が再エネ事業の採算を大きく圧迫しています。欧米では近年のインフレやサプライチェーン寸断、金利上昇により、大型再エネ案件のコストが軒並み急騰しました。例えば洋上風力発電では設備コストが40~50%上昇し、本来期待された事業性が失われつつあります。

英国では2023年の洋上風力の政府入札に応札ゼロという事態に陥り、大手事業者が「コストが4割高騰している」と価格見直しを訴える状況です。米国でも金利上昇による資金調達コスト増が重くのしかかり、開発大手オーステッド社は「金利が3%上がると大型洋上風力の利益が全て吹き飛ぶ」と分析しています。実際、欧米の複数プロジェクトで事業断念や契約条件の再交渉が相次ぎました。このようにマクロ経済環境の変化は再エネ事業に直接的な打撃を与え、PPAモデルも例外ではありません。

日本も他人事ではありません。これまで長く超低金利に支えられてきた日本ですが、日銀政策修正などで金利上昇圧力が高まりつつあります。加えて、ウクライナ危機以降の資材価格高騰や円安によるモジュール・機器輸入コスト増、建設・施工の人件費高騰が重なり、太陽光発電設備のコストダウン傾向は足踏み状態です。太陽光発電のLCOE(均等化発電原価)は日本政府が掲げる2030年目標7円/kWhに向け下げるどころか、2020年に12.8円だったものが2023年には13.0円/kWh程度に上昇してしまいました。これは2021年以降のインフレと円安で設備費・維持費が上昇したためで、コスト低減のトレンドが一時的に逆行しています。

当然ながら、PPA契約価格(売電単価)にも上昇圧力がかかっています。自然エネルギー財団の調査によれば、日本国内のコーポレートPPA契約単価は需要増に伴って上昇し、2023年には平均で20円台半ばに達しました。実際、2023年10月運開の太陽光オフサイトPPA案件では小売電気料金換算で24.1円/kWhという契約価格となり、同時期の従来電力料金(19.1円/kWh前後)を上回っています。つまり燃料市況の落ち着きにより電力会社から買う電気代が下がる一方で、再エネPPA電力の方が割高になるケースすら出てきたのです。この企業は環境価値など付加価値を認めてあえて締結したと考えられますが、純粋な経済メリットだけで売り込むことが難しくなっている現状が伺えます。

加えて、電力市場制度の変化もPPA事業者の収支に影響を及ぼします。日本では2024年度から送配電網使用料の一部を発電側が負担する「発電側課金」や、供給力確保のため小売側が負担する「容量拠出金」制度が始まりました。これはオフサイト型PPAにもコスト増要因となりえます(逆に自家消費型・オンサイトPPAは対象外のため相対的優位性が高まる)。このように、市場環境や制度の変動によってPPAの経済性は日々変動しており、高コスト時代に入った今、その影響はこれまで以上に深刻です。

PPAモデルの仕組みと長期契約のメリット・リスク

そもそもPPA(Power Purchase Agreement)モデルとは何でしょうか? PPAは発電設備を第三者(事業者)が所有・設置し、需要家(利用者)は初期費用負担なく再エネ電力を一定期間購入する契約スキームです。

太陽光発電のPPAでは、事業者が需要家の屋根や敷地に太陽光パネルを設置して維持管理し、需要家はそこから生まれる電力を契約単価で買い取ります。契約期間は15~20年程度が一般的で、契約満了後は設備の譲渡や契約延長も可能です。需要家にとっては初期投資ゼロかつ電気料金の変動リスクヘッジになる点がメリットで、PPA事業者にとっても長期固定の売電収入が得られるためプロジェクトファイナンスを組みやすい利点があります。まさに「需要家は安定価格のクリーン電力を享受し、事業者は長期にわたり投資回収する」ウィンウィンの関係が成り立つよう工夫された契約なのです。

従来、このモデルが成り立ってきた背景には、設備コストの大幅低下と低金利による資金調達環境の良さがありました。太陽光パネルは過去10年以上にわたり価格が下落し続け、蓄電池も量産化で安くなると期待されてきました。また日本のように長らく金利がゼロ近辺で安定している市場では、長期の借入を行っても利息負担が小さく、20年先まで固定価格で売電しても十分利ザヤが取れる構造でした。そのためPPA事業者は契約単価を電力会社の現行料金より低く設定することも可能で、需要家は経済メリットを即享受しながら脱炭素に貢献できるという図式です。実際、2023年初めに供給開始したあるオフサイトPPA契約では単価21.6円/kWhとなり、当時の旧一般電気事業者の料金25.5円/kWhを下回っていました。このようにPPAモデルは低コスト時代・低金利時代には「初期費用ゼロで電気代も下がる魔法の契約」として企業に受け入れられてきたのです。

しかし、長期契約であることは裏を返せばリスク要因にもなります。契約期間中の需要家側リスクとして、事業戦略の変化や拠点閉鎖による電力需要減少、倒産などにより契約が維持できなくなる恐れがあります。一方、事業者側リスクとしては、設備の故障や発電量変動に加え、電力市場価格の変動による機会損失・損失リスクがあります。長期にわたる契約ゆえに予測不能な事態が起こりうるため、保険の活用や契約条項でのリスクヘッジが重要と指摘されています。つまりPPAは長期安定収入の反面、長期に背負うリスク管理も必要なビジネスなのです。

金利上昇局面ではこの「長期固定」の強みが一転して重荷になる場合もあります。契約当初に想定していた資金調達コストよりも途中で金利が上がってしまうと、事業者の収益が圧迫されます。固定金利で調達していれば直ちに影響は出ないものの、新規プロジェクトの採算計算には高い割引率(要求収益率)を適用せざるを得なくなり、以前ほど低い単価ではPPA契約を提示できなくなります。需要家側もまた、長期固定契約によって将来の電力市場価格下落の恩恵を逃すリスクを懸念し始めています。契約期間が長いほど先の見通しが不透明になり、双方にとって心理的ハードルが上がるわけです。

高コスト時代に顕在化するPPA事業の課題

上述のような環境変化により、「PPA事業は本当に成立するのか?」という問いが現実味を帯びてきました。ここでは高金利・コスト高騰時代に露呈している具体的課題を整理します。

  • 課題1:採算ラインの逆転と環境価値の評価問題
    再エネPPAの売電単価が従来電力の料金より高くなる逆転現象が起きています。この場合、企業がPPAを導入する動機はコスト削減から環境価値(CO₂排出削減やRE100達成)へシフトせざるを得ません。環境への貢献を定量化し社内で正当化できる企業でないと、高い電気代を容認してまでPPAを結ぶことは難しくなります。日本企業は欧米に比べ環境投資に対する費用対効果にシビアとも言われ、純粋なCSR目的でコスト上昇を許容する企業ばかりではありません。この環境価値の経済評価が定まっていないことが、PPA普及のブレーキとなる恐れがあります。カーボンプライシング(排出量取引や炭素税)のような仕組みで見える化しない限り、環境メリットに価格差分の価値を感じない企業も多いでしょう。

  • 課題2:資金調達コストとインフレリスク
    発電事業は初期投資が命です。再エネは燃料費が不要な分、建設コストと資金調達コストが発電原価の大半を占めます。洋上風力では資本コスト比率が8割以上にもなり、高金利は致命傷となりえます。太陽光も規模によりますが、設備費と金融費用が占める割合が非常に高く、金利1%の差がPPA料金を大きく左右します。さらに日本はパネルや蓄電池を輸入に頼るため、円安による調達価格上昇リスクも内在しています。インフレ下での工期遅延もリスクです。欧米ではサプライチェーンの混乱で部品調達が遅れ、その間に物価が上がって予算超過…という例が続出しました。日本でも同様のことが起これば、契約時点の想定を超えるコスト増に見舞われ、事業利益を圧迫します。要するに、高インフレ・高金利時代では「時間=コスト」であり、資金調達や設備調達の遅れそのものが損失を膨らませる構図です。

  • 課題3:長期契約への慎重姿勢(需要家側の心理的ハードル)
    不確実性が高まる中、20年契約への抵抗感が需要家側で強まっています。特に中小企業やサプライチェーンの末端では、自社の経営見通しすら数年先まで不透明な場合も多く、「脱炭素のためとはいえ20年縛られるのは怖い」という声が上がります。これまでは主に大企業が脱炭素目標達成の手段としてPPAを活用してきましたが、中小にも広げていくには契約期間のハードルを下げる必要があります。長期契約がネックで導入を見送ってきた層を取り込まないと、裾野の拡大=再エネ普及の加速は望めません。このギャップを埋めるソリューションは後述するようにいくつか登場し始めています。

  • 課題4:政策支援の不確実性
    日本ではFIT(固定価格買取制度)からFIP(市場連動プレミアム)へと制度移行が進み、再エネ事業は市場原理にさらされています。一方で企業がPPAで再エネ調達する動きを促進する政策は限定的で、欧米のような大規模補助や税額控除(例:米国IRA法のクリーン電力税控除)の恩恵は乏しいのが実情です。もし景気悪化などで政府が脱炭素政策の手綱を緩めたり、支援策を縮小すれば、民間資金だけでこの先やっていけるのか不安が残ります。逆に欧州で議論されるような差額決済契約(CfD)など収益を下支えする仕組みが普及すれば、価格変動リスクが抑制され事業の安定度が増すとの指摘もあります。現状、日本の政策は試行錯誤段階であり、長期投資に必要な予見可能性が十分とは言えません。

  • 課題5:電力インフラ・系統制約
    PPAそのものの課題ではありませんが、本質的な障害として系統接続問題も看過できません。いくら優れた金融スキームやビジネスモデルを用意しても、発電した再エネ電力を送る先(系統容量)が無ければオフサイトPPAは成立しません。日本では送電網への接続申込みが急増し、一部地域で受け入れ保留(無制限な接続契約の停止)が発生しています。系統強化には時間と莫大な投資が必要で、国や電力会社の対応は追いついていません。この問題はPPA市場の成長ペースにも影を落とす可能性があります。「発電は最短1-5年でできるが、送電網整備は5-15年かかる」との指摘もあり、電力系統整備の遅れがクリーン電力普及のボトルネックになりつつあります。

以上の課題をまとめると、高コスト・高リスク環境において従来型のPPAモデルをそのまま続けるのは難しく、事業者も需要家も新たな対応策を求められているということです。では、こうした状況下でPPA事業を成立させ、再生可能エネルギーの導入拡大を進めるには、どのような創意工夫が必要なのでしょうか? 次のセクションで具体策を検証します。

金融スキームの創意工夫:PPA事業を持続可能にする処方箋

厳しい環境でもPPA事業をあきらめる必要はありません。世界や国内では既に様々な工夫が生まれ、問題解決へのチャレンジが始まっています。金融スキームや契約モデルの観点から、有望なソリューションをいくつか紹介しましょう。

1. 公的支援・ブレンデッドファイナンスの活用で資金調達コストを低減

民間だけでは採算が取りにくいプロジェクトでも、政府や公的金融機関が一部リスクを肩代わりすることで成立するケースがあります。いわゆる「ブレンデッド・ファイナンス」の手法で、具体的には以下のような支援策が考えられます:

  • 低利・長期の譲許的融資:市場より有利な金利や返済条件で政府系金融機関が融資を行う。金利負担を軽減し事業IRRを確保。日本でも政策投資銀行や商工中金による低利融資枠が作られる可能性があります。

  • 信用保証やリスク保険:民間金融機関からの融資について政府系機関が部分保証し、プロジェクト債務の信用力を高める。あるいは発電量変動や価格変動リスクに対する保険商品を公的支援で整備し、銀行融資を引き出しやすくする。

  • 設備導入補助金・税制優遇:初期費用そのものを補助金で圧縮したり、減税措置で投資負担を軽減する。環境省や経産省の補助事業では自治体施設へのPPA導入に補助金を出すケースもあります。また、再エネ設備の即時償却やグリーン投資減税など税制面の優遇も資本コスト低減に寄与します。

こうした公的支援策によってプロジェクトの資金調達コストを引き下げられれば、高金利下でも事業性を確保しやすくなります。ただし日本では、欧州のような市場規模での公的関与(例えば欧州投資銀行による大規模融資)や、米国IRA法のような直接的な税額控除はまだ限定的です。今後、日本版グリーンバンクの創設やトランジション・ファイナンス拡充といった政策が進めば、PPA事業の金融面の追い風となるでしょう。

2. 契約条件の柔軟化・リスク共有:インデックス連動や期間調整

PPA契約自体に柔軟性を持たせる工夫も検討されています(短期PPA)。固定価格・長期一辺倒だった契約条件を見直し、発電事業者と需要家がリスクとリターンを適切に分かち合う発想です。

  • インフレ連動・スライド条項の導入:契約電力価格に年数%のエスカレーター(逓増)を予め組み込む方法です。米国では年間2~3%の価格上昇を見込んだPPAも一般的で、インフレに伴うコスト増をある程度反映できます。日本でも契約期間中に一定の調整を許容する条項を織り込めば、事業者は将来の金利上昇やコスト増リスクを転嫁でき、需要家も将来の電力料金上昇を緩やかにヘッジできます。極端なインフレ時には価格見直し交渉ができるリオープナー条項を設けることも一案です。

  • 契約期間の延長・短縮オプション:想定より採算が悪化した場合に契約期間を延長して回収期間を伸ばす(年あたり負担を下げる)策も考えられます。逆に需要家側には一定期間経過後に早期終了や再交渉のオプションを与えるなど、お互いに身動きを取りやすくする仕組みです。実際に欧米のクリーン電力事業者の中には、近年のコスト高騰を受けてPPA契約期間を従来より長めに設定したり、契約更新を柔軟に認める提案を行う例も出ています。日本でも自治体向け事業で25年→35年に運転期間を延長しコスト低減を図る検討がなされています。

  • 契約形態そのものの工夫(バーチャルPPA等):物理的に電力を届けず環境価値だけ取引するバーチャルPPAは、市場価格連動型であるため価格変動リスクは需要家が負いますが、その分事業者は固定価格に縛られず融通が利きます。需要家にとっても市場価格が大きく下落した際には安値恩恵を受けられるメリットがあります。両者の折衷案として、一定範囲内で市場連動し極端な変動時のみ差額決済で穴埋めするハイブリッド型契約も考えられます。CfD(Contract for Difference)的な発想で、例えば上限・下限価格帯を設定し、そのレンジ内では市場価格で精算、逸脱したら調整金支払いとすることで双方のリスクを限定する方法です。契約形態を工夫しリスクの分担を見直すことで、従来なら不成立だった価格でも合意点を見出せる可能性があります。

3. ビジネスモデルの革新:蓄電池併用や短期PPAモデルで付加価値創出

金融面だけでなく、技術やビジネスモデル側の工夫によってPPAの価値を高め、コスト高を相殺するアプローチも重要です。

  • 蓄電池併設によるサービス高度化:太陽光発電に蓄電池を組み合わせることで、単なる電力供給以上のメリットを需要家に提供できます。例えばグローバルエンジニアリング社は太陽光+蓄電池のPPAサービスを開始し、蓄電池の制御によって需要家の契約電力ピークを1割以上削減することに成功しました。日中は太陽光を自家消費しつつ、夜間や雨天のピーク時には蓄電池から放電することでデマンドを平準化し、基本料金(契約電力制)を引き下げています。また電力市場価格が安い深夜に充電し高い時間帯に放電するエネルギー・マネジメント(デマンドレスポンス)も一括して事業者が請け負い、トータルの電気料金を低減する仕組みです。このように蓄電池併用PPAなら、単にkWh単価で比較した電気代だけでなく需要契約容量の削減やレジリエンス強化といった付加価値を提供でき、多少PPA料金が高めでも導入メリットを訴求できます。「太陽光単体ではピークカット効果が限定的だが、蓄電池と組み合わせれば大幅削減が可能」と事業者も胸を張っています。蓄電池価格自体も将来低減が見込まれるため、普及が進めばこのモデルはより強力になるでしょう。

  • 短期更新型PPA(サブスクリプション型):長期契約への不安を払拭するため、1年単位で更新可能な短期コーポレートPPAという画期的なモデルも登場しました。Q.ENESTホールディングス社は自社保有の太陽光発電所で発電した電力を使い、中小企業向けに年度ごとの契約更新が可能なサービスを2025年から開始しています。通常は20年程度の長期契約が前提ですが、発電所を自社所有している強みを活かし需要家とは1年契約・更新型を実現しました。これにより「とりあえず1年間試してみる」という参入ハードルの低いプランが提供され、中小企業でもリスク少なく脱炭素経営を始められます。契約期間中でもバーチャルPPAからフィジカルPPAへの切り替えが可能など柔軟性も備えており、需要家の事情や市場の状況変化に応じてプランをカスタマイズできる点が特徴です。短期型は一見すると事業者側のリスク(契約終了リスク)が高まりますが、ポートフォリオ全体で需要家を確保し続ける工夫や、未契約分は市場売電に回す仕組みで対応している模様です。「PPAは必ずしも○年縛りでなくてもよい」という大胆な発想転換は、潜在需要の掘り起こしにつながるでしょう。

  • 需要家の共同出資・市民ファンディング:需要家企業自ら発電事業に一部出資してハードルレート(必要利回り)を下げたり、地域住民からの市民出資によって低コスト資金を調達する手法も出始めています。環境省の補助事業事例では、自治体施設へのPPA導入においてPPA事業者が設置費用の一部を市民出資で調達し、地域と利益をシェアするモデルが紹介されています。出資者には配当等で一定のリターンを返すものの、地域貢献や環境貢献を志す個人投資家の資金を呼び込むことで、純粋な金融マーケットよりも低い期待利回りでの資金確保が可能になる場合があります。需要家企業が自ら出資する場合も、単なる電気料金支払いだけでは得られない投資リターンと環境価値の二重のメリットを享受できます。いわば需要家を「顧客」兼「投資家」にしてしまう発想で、契約上の信用リスク低減にもつながります。もっとも出資を募るには事業計画の透明性やファンド組成の手間も伴うため、今後プラットフォーム化などで簡便になっていけば有効なスキームとなるでしょう。

  • グリーンボンド・証券化による低コスト資金調達:事業者サイドの工夫として、完成後の複数PPA案件をまとめて証券化(アセットバック証券発行)し、機関投資家から低利の資金を募る手法も考えられます。実際、米国では太陽光発電のリース・PPA債権をまとめた証券が市場で売買され、年金基金など長期投資家の資金が流入しています。日本でもインフラファンド市場などを通じて投資家に安定利回り商品として提供できれば、銀行融資より低コストで資金を調達し、新規案件の初期投資に再投入する循環が期待できます。鍵となるのは、投資家にとってリスクの低い高信用格付けの商品に仕立てることです。前述の信用保証など公的サポートと組み合わせ、証券化商品に保証を付けるなどすれば、一層低金利での資金調達も夢ではありません。

4. コスト構造そのものへのアプローチ:国内サプライチェーン強化

最後に、金融スキームからは少し離れますが根源的なコスト低減策として、日本の再エネ産業構造の課題にも触れておきます。設備コスト増大の背景には、多くの機器を海外から輸入している構造があります。円安による逆風もそのために直接影響しました。しかし見方を変えれば、歴史的な円安は国内製造業にとって追い風でもあります。現在1ドル=150円前後と割安な日本は、中国よりも人件費換算で有利な生産拠点となりつつあります。この機会に再エネ設備の国内生産ラインを拡大し、太陽光パネルや蓄電池を国産化・大量生産できれば、中長期的に設備コストの大幅低減と価格変動リスク低減が期待できます。政府もGX実行戦略の中で「太陽電池の国内製造支援」を掲げ、数千億円規模の投資支援を行い始めました。国産品シェアが増えれば為替リスクにも強くなり、輸送コスト高騰など外的要因の影響も緩和されます。さらに国内製造が軌道に乗れば技術革新も進み、より高効率で安価な次世代モジュール開発など好循環が生まれるでしょう。このような産業政策的アプローチも、結果的にはPPA事業の持続可能性を根底で支える重要な柱となります。

日本の再エネ普及加速に向けた根源的課題

以上見てきたように、高金利・高コスト時代におけるPPA事業成立の可否は、単なる一ビジネスモデルの話に留まらず日本の再エネ普及全体の課題と密接に関わっています。ここで改めて、再生可能エネルギー導入拡大・脱炭素化を進める上で日本が直面する根源的な論点を整理し、本質的な解決策を考えてみます。

  • (1) 資本コストの高さとリスクテイクの問題: 再エネは設備への先行投資型ビジネスであり、資本コスト(調達金利や要求収益率)が高いと導入拡大のブレーキになります。日本ではこれまで国がFITで買取保証することでプロジェクトの銀行融資を下支えしてきました。しかし民間主導のPPAモデルでは、金融機関や投資家が長期の価格・信用リスクを直接負います。現状、民間だけでは負いきれないリスクが多く、事業化が進まないケースもあります。このリスクマネー不足をどう補うかが課題です。解決には前述した公的関与(信用補完)や、ESG投資による低利資金の動員、投資家側の脱炭素への理解促進が必要でしょう。「次世代に及ぶ利益のため低い割引率で評価する」という社会的割引率の考え方も重要で、将来価値を正当に評価できる投資環境づくりが急務です。

  • (2) 再エネ電力の価値評価と制度設計: 再生可能エネルギーによる電力は、その環境価値(非化石価値)と調達コストのギャップをどう埋めるかがポイントです。現状では環境価値は非化石証書などとして数円/kWh程度で取引されていますが、炭素価格として十分とは言えません。カーボンプライシングの本格導入や電力市場でのグリーン電力プレミアムの明示化など、再エネ電力の付加価値を適正に市場に織り込む仕組みが求められます。幸い2026年から国内排出量取引制度が本格稼働予定であり、将来的にCO₂排出コストが企業経営に反映されれば、再エネ電力の相対的価値は向上するでしょう。同時に、従来化石燃料に与えられてきた優遇(補助金など)を縮小することも市場のメッセージとして重要です。環境価値の内部化が進めば、需要家が再エネを選ぶ経済的インセンティブが強まり、PPA普及にも追い風となります。

  • (3) 中小企業・地域への普及策: 日本の経済構造上、中小企業や地方自治体などリソースの乏しい主体にも再エネを普及させなければ、脱炭素の裾野拡大は進みません。現状では大企業(RE100企業など)が中心でしたが、今後は**「オールターゲット」でセグメント別の戦略が必要です。例えば中小企業には前述の短期PPAモデルや共同利用型のオンサイトPPA(工業団地で共同太陽光利用など)、自治体には市民出資型やリース型のモデルなど、対象に合わせた柔軟なスキームを展開することが重要です。加えて、マッチングプラットフォームの整備も課題です。潜在需要家と発電事業者を効率よく結びつける場を作り、契約交渉や手続きを標準化・簡素化することで、中小でも気軽に参加できる環境を用意する必要があります。政府や業界団体が主導してPPAマッチングプラットフォーム**を構築する動きも始まっています。

  • (4) 技術革新と電力システム改革: 太陽光・蓄電池の性能向上や新技術の導入も根本的解決策の一つです。蓄電池コストの低減や次世代型電池の実用化、需要側のエネルギーマネジメント技術の進歩により、再エネの不安定さや夜間供給課題は徐々に解消されつつあります。またデジタルグリッドやVPP(仮想発電所)技術の普及で、分散電源を柔軟に制御し需給バランスを取ることも可能になってきました。これらは結果的にPPA事業のリスク低減(安定供給の担保)につながります。さらに送配電ネットワークの改革・増強も必須です。再エネ大量導入には系統増強やノンファーム接続の拡大、地域間連系の強化が避けて通れません。政府の「次世代送電網構想」に期待したいところですが、電力会社任せにせず新規事業者参入も含めた抜本策が求められます。技術面・制度面双方のイノベーションなくして、再エネ普及の加速とPPA市場の飛躍的拡大は難しいでしょう。

以上の課題に取り組むことで、単にPPA事業が成立するか否かという問題を超え、日本全体のエネルギー転換を軌道に乗せることができます。言い換えれば、PPA事業の困難さは日本の脱炭素移行の難しさの縮図でもあり、その克服策は脱炭素社会への処方箋となり得るのです。

まとめと今後の展望:創意工夫で乗り越える高金利時代

結論として、金利上昇・コスト高騰という逆風下でも太陽光・蓄電池のPPA事業は工夫次第で成立し得ると言えるでしょう。ただし従来と同じやり方では難しく、金融スキームの工夫、契約設計の改善、ビジネスモデルの革新、政策支援の強化――これらハイブリッドな対策を講じて初めて道が開けます。高金利という状況は、「ただ安くクリーン電力を供給する」だけでは不十分で、付加価値の創出リスクの適切な配分を求めているのです。

幸い、日本でも企業や自治体、金融機関が知恵を絞り始めています。PPA市場は2025年度に約350億円、2030年度には700億円規模に拡大すると予測されており、競争激化とともにサービスの高度化・多様化が進むでしょう。「脱炭素の流れに大企業も中小企業も乗り遅れまい」という機運が高まれば、市場はさらに成長し、新規参入も増えて技術革新や価格競争が促進されます。需要家主導の再エネ導入が進めば、日本全体のエネルギー転換にも弾みがつきます。

一方で、政府の役割も重要です。電力システム改革の推進送電網への投資カーボンプライシングの着実な実行など、民間の努力を後押しする政策の一貫性が求められます。「アクセルとブレーキを同時に踏む」ような不安定な政策運営では投資家に予見性を与えられず、事業者は萎縮してしまいます。幸い脱炭素はもはや不可逆的な大きな潮流であり、日本も2050年カーボンニュートラルをコミットしています。長期的視野に立って、今は多少コストが高くても社会全体で支えるという覚悟が必要でしょう。それは将来的なエネルギー自給や環境リスク低減という大きな果実を得るための先行投資でもあります。

最後に、本稿で取り上げたデータや事例は最新の信頼できる情報源に基づいています。以下に主要なファクトの出典をまとめました。高金利・高コストの時代は一時的かもしれませんが、これを機に再生可能エネルギー事業の基盤をより強靭に作り変えることが、日本のエネルギー転換成功の鍵となるでしょう。創意工夫とシステム思考でこの難局を乗り越え、真の持続可能な社会への道筋をつけていくことが期待されます。

ファクトチェック・参考情報まとめ

  • 太陽光発電コストとPPA単価の上昇: 2020年に12.8円/kWhだった太陽光のLCOEは、インフレや円安で2023年には13.0円/kWhに上昇。オフサイトPPA契約単価も2023年10月には24.1円/kWhとなり、同時期の従来電気料金19.1円/kWhを上回った。

  • 洋上風力のコスト急騰と入札不調: インフレや金利上昇で設備価格が約40%高騰。英国の2023年再エネ入札では洋上風力の応札ゼロとなり、事業者が条件見直しを要求。欧米各国で落札案件からの撤退や中止の動きが相次いでいる。

  • 金利上昇の利益圧迫効果: 資本集約型の再エネ事業では金利上昇が直撃。**「金利3%上昇は大型洋上風力の利益を全て打ち消す」**との分析が示された(デンマークØrsted社)。供給網遅延による工期延長もインフレ下ではさらなるコスト増を招き、経済性悪化に拍車をかける。

  • PPA市場規模の拡大予測: 日本国内のPPAサービス市場は成長を続け、2025年度350億円、2030年度700億円規模に達すると予測。企業のエネルギー直接調達ニーズ拡大やFITからの移行が背景。参入事業者も50社以上に増え競争激化が進んでいる。

  • 蓄電池併用PPAの効果: 太陽光発電と蓄電池を組み合わせたPPAサービスの導入事例では、蓄電池充放電の最適制御により需要家の契約電力ピークを1割以上引き下げ、基本料金を削減する効果を確認。安価な時間帯に充電・高価な時間帯に放電する運用で電力コストも抑制。

  • 短期契約型PPAの登場: 2025年、日本で初めて1年単位更新型のコーポレートPPAサービスが開始。従来20年超だった契約期間のハードルを下げ、中小企業でも脱炭素経営に取り組みやすくした。自社保有の発電所を活用し1年契約を実現、長期契約への不安を払拭する新たな選択肢となっている。

  • 政府系支援策とリスク緩和: 再エネ移行資金のバンカビリティ向上策として、低利・長期融資、債務保証、補助金などの公的金融手段を組み合わせる「ブレンデッド・ファイナンス」が有効。オフテイク契約(PPA)や差額決済契約(CfD)で事業収益を安定化させると参入者が増え、市場が安定との指摘もある。

  • 円安と国内製造のチャンス: 円安基調により日本は生産拠点として割安になっており、再エネ設備の国内生産拡大の好機となっている。国内製造ラインの増強が成功すれば、技術革新と量産効果で再エネコスト問題を解決し、将来的にエネルギーの輸入依存低減につながると期待される。

出典: 各種報告書・ニュースリリース・専門機関データより作成など.

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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