目次
- 1 地域脱炭素化加速に向けた地域独自のHEMSデータ解析・モデル化によるデータ駆動型アプローチで太陽光・蓄電池普及加速
- 2 はじめに:国の目標を超えて – ハイパーローカルなエネルギー転換の夜明け
- 3 第1部 基盤構築:コミュニティのエネルギーデータを獲得し、保護する
- 4 第2部 家庭のエネルギー行動の解読:地域エネルギーマネジメントモデルの構築
- 5 第3部 「ロードカーブ・テンプレート」戦略:太陽光・蓄電池普及の新 playbook
- 6 第4部 コミュニティグリッドの活性化:先進的応用と新たな価値創出
- 7 第5部 自治体のためのロードマップ:パイロットから政策へ
- 8 結論:脱炭素化された日本のための複製可能なモデル
- 9 付録
地域脱炭素化加速に向けた地域独自のHEMSデータ解析・モデル化によるデータ駆動型アプローチで太陽光・蓄電池普及加速
はじめに:国の目標を超えて – ハイパーローカルなエネルギー転換の夜明け
日本のエネルギー転換は、一つの大きなパラドックスを抱えています。2050年のカーボンニュートラル達成という国家的な目標は野心的ですが
この膠着状態を打破する鍵は、国全体の大きな政策ではなく、「ハイパーローカル」な戦略にあります。その核心は、HEMS(Home Energy Management System)から得られる高解像度のデータを解析し、コミュニティ固有の「エネルギーDNA」を解読することにあります。本レポートは、先駆的な地方自治体がこのビジョンを実現するための、具体的かつ包括的な設計図(ブループリント)を提示するものです。
本稿では、まず信頼性の高いデータ収集基盤の構築(第1部)から始め、次に地域社会のエネルギー動態を解明する高度な分析モデルの構築(第2部)、そしてそのモデルを普及加速のための強力な戦略ツールへと昇華させるアプローチ(第3部)を詳述します。さらに、コミュニティグリッドを活性化させる先進的応用(第4部)を経て、最終的に自治体が実行可能な導入計画(第5部)を提示します。
第1部 基盤構築:コミュニティのエネルギーデータを獲得し、保護する
このセクションでは、データ駆動型戦略の根幹をなすデータ収集のプロセスを詳述します。これは単なる技術的な作業ではなく、地域住民との社会的な信頼関係を構築するプロセスそのものです。
1.1 スマートメーターから実用的な洞察へ:データ粒度の力
従来の月次検針による電力データと、スマートメーターから得られる30分ごとのデータとでは、得られる洞察の質が根本的に異なります
1.2 500世帯データコホートの構築:コミュニティ中心のアプローチ
本プロジェクトの成功は、単なるデータ収集ではなく、コミュニティプロジェクトとして位置づけられるかどうかにかかっています。まず、地域の人口動態を代表する500世帯を募集するための戦略を策定します。参加を促すインセンティブとしては、少額の謝礼、パーソナライズされた省エネレポートの提供、あるいは「コミュニティ・エネルギー・チャンピオン」プログラムへの参加資格などが考えられます。目標は、先進的な地域イニシアチブへの参画意識を醸成することです
1.3 プライバシー・バイ・デザイン:信頼の礎
住民参加の最大の障壁となりうるデータプライバシーへの懸念に、真正面から取り組む必要があります。その基盤となるフレームワークとして、JEITA(電子情報技術産業協会)が策定した「スマートホームIoTデータ プライバシーガイドライン」を全面的に採用します
このガイドラインに基づき、以下の核となる原則を徹底します。
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徹底した透明性:何を(例:総消費電力であり、同意なく特定の家電データは収集しない)、なぜ(地域エネルギーモデル構築のため)、どのように(匿名化・統計化して利用)データを収集・利用するのかを、明確に説明します
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オプトイン方式の同意:データ収集は、利用者の明確かつ事前の同意(オプトイン)に基づいてのみ行われます
。13 -
利用者によるコントロール:住民が自身のデータを確認し、その利用をコントロールできるシンプルなダッシュボードを提供します。これには、いつでもプログラムから脱退できる権利も含まれます
。13 -
匿名化と集計:政策決定に用いる分析は、すべて匿名化・集計化されたデータを使用し、個人のプライバシーを完全に保護することを約束します。
データ駆動型エネルギープロジェクトの成否は、アルゴリズムの高度さではなく、コミュニティとの信頼関係の強さによって決まります。プライバシー保護は、単なるコンプライアンス上の課題ではなく、住民参加を可能にする最も重要な要素です。したがって、このプロジェクトで自治体が最初に確保すべき人材は、データサイエンティストではなく、コミュニティエンゲージメントとデータガバナンスの専門家であるべきです。
第2部 家庭のエネルギー行動の解読:地域エネルギーマネジメントモデルの構築
このセクションでは、収集した生データを、地域社会のエネルギーエコシステムを精緻に予測する高度な分析モデルへと転換するプロセスを詳述します。
2.1 負荷プロファイリングの科学と芸術:コミュニティの原型を発見する
負荷プロファイリング(クラスタリング)とは、機械学習を用いて500世帯を電力消費パターンに基づき、少数の代表的なグループに分類するプロセスです
手法の詳細
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データ準備:分析の精度を高めるため、データのクレンジング、正規化(例:最小最大スケーリング)、そして特徴抽出(例:パターンを捉えるためのウェーブレット変換)といった前処理が不可欠です
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クラスタリングアルゴリズム:目的に応じて複数のアルゴリズムを検討します。
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K-Means法:シンプルかつ効率的で、明確に分離したクラスターを特定するための優れたベースラインとなります
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自己組織化マップ(SOM):高次元データを可視化し、クラスター間の関係性を理解するのに有効なニューラルネットワーク手法です
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深層学習(例:畳み込みオートエンコーダ):日ごとや季節ごとの複雑な変動を捉え、データ次元を大幅に削減できる最先端の手法であり、大規模な年間データセットの分析に適しています
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この分析の結果として、「日中不在の高齢世帯」「EVを所有する子育て世帯」「在宅勤務の専門職世帯」といった、統計的に有意な5〜8つの「世帯アーキタイプ」が創出されます。
表1:負荷プロファイルクラスタリング技術の比較
手法 | 動作原理 | 主な長所 | 主な短所 | 本プロジェクトでの役割 |
K-Means法 | データ点を事前に定めたK個のクラスタに、重心との距離が最小になるように割り当てる。 | シンプルで計算速度が速い。解釈が容易。 | クラスタ数Kを事前に決める必要がある。球状のクラスタしか捉えられない。 | ベースラインモデルとして、明確に分離可能な主要な世帯グループを迅速に特定する。 |
自己組織化マップ (SOM) | ニューラルネットワークを用いて、高次元の入力データを低次元(通常2次元)のマップ上に、位相関係を保ちながら配置する。 | データ構造の可視化に優れ、クラスタ間の関係性を直感的に理解できる。 | 計算コストが比較的高く、結果の解釈に専門知識を要する場合がある。 | 各アーキタイプの類似性や関係性を視覚的にマッピングし、政策立案者が直感的に理解できる形で提示する。 |
畳み込みオートエンコーダ (CAE) | 深層学習モデルの一種。データを圧縮(エンコード)し、再度復元(デコード)する過程で、データの本質的な特徴を抽出する。 | 複雑な時間的パターン(日次・季節変動)を捉える能力が高い。データ次元を大幅に削減できる。 | 高い計算能力を要する。モデルの構築とチューニングが複雑。 | 年間を通じた詳細な電力消費パターンから、より精緻でノイズの少ないアーキタイプを定義し、モデルの精度を向上させる。 |
2.2 メーターの先へ:NILMによる家電レベルの洞察
NILM(Non-Intrusive Load Monitoring、非侵襲的負荷モニタリング)は、家全体のスマートメーターデータから、個々の家電の稼働状況を推定する技術です
2.3 未来を予測する:高精度な世帯需要予測
確立されたパターンに基づき、次のステップは未来の予測です。機械学習ベースの予測モデルを構築し、各アーキタイプの24〜48時間後の電力需要を予測します
XGBoostやランダムフォレストのようなモデルは時刻や曜日、気象データなどの特徴量と組み合わせるのに有効であり、LSTMのような深層学習モデルは時系列データの扱いに優れています
2.4 モデルの統合:コミュニティの「デジタルツイン」を創る
「クラスタリング」「NILM」「需要予測」という3つの分析レイヤーを統合することで、静的なレポートではなく、動的で予測能力を持つ「地域エネルギーマネジメントモデル」が完成します。このモデルは、コミュニティのエネルギー需要を「暑い夏の平日」や「曇りの冬の週末」といった様々なシナリオ下でシミュレーションできる、いわば地域社会のエネルギーに関する「デジタルツイン」です。
このアプローチは、単一のアルゴリズムに頼るのではなく、複数の分析手法を組み合わせることで、より立体的で高解像度な理解を可能にします。「誰が(クラスタリング)」「なぜ(NILM)」「次に何をするか(需要予測)」という3つの次元を捉えることで、従来の手法では不可能だったレベルでの洞察が得られます。これは、自治体が単一の万能なソフトウェアを探すのではなく、多様なモデルを統合できる分析プラットフォームに投資すべきであることを示唆しています。
第3部 「ロードカーブ・テンプレート」戦略:太陽光・蓄電池普及の新 playbook
このセクションでは、構築した分析モデルを、太陽光・蓄電池導入の主要な障壁を直接的に解消するための、強力かつ実行可能な戦略へと転換します。
3.1 抽象データから具体的ツールへ:ロードカーブ・テンプレートの設計
「ロードカーブ・テンプレート」とは、第2部で特定した各世帯アーキタイプを代表する、検証済みの24時間電力負荷プロファイルです。季節(夏・冬)や曜日(平日・週末)ごとのバリエーションも用意します。これらのテンプレートは、クラスタリング分析から生まれた具体的な成果物であり、各コミュニティセグメントの「エネルギーDNA」そのものです。
表2:ロードカーブ・テンプレートと世帯アーキタイプのサンプル
アーキタイプ名と概要 | 主な特徴 | 夏期平日のロードカーブ | 冬期平日のロードカーブ | 主な機会 |
A: 在宅勤務の専門職世帯 日中の在宅率が高く、PCや空調の使用が安定している。 | 高く安定した日中負荷。夕食準備と夜間のエンタメ需要によるピーク。 | 太陽光発電の自家消費率を最大化しやすい。蓄電池による夜間ピークシフト効果が高い。 | ||
B: EV所有の子育て世帯 朝と夕方の活動が活発。夜間にEV充電による大きな電力需要が発生。 | 朝と夕方に顕著なピーク。深夜にEV充電による持続的な高負荷。 | !(https://placehold.co/100×50/f28b82/f28b82.png) | !(https://placehold.co/100×50/a1c2fa/a1c2fa.png) | ダイナミックプライシングを活用したEV充電時間の最適化。大容量蓄電池によるグリッド負担軽減。 |
C: 日中不在の高齢世帯 日中の電力消費は非常に低いが、朝晩の在宅時間に需要が集中。 | 日中のベースロードが低い。朝晩に短時間のピークが発生。 | VPP(仮想発電所)への参加に最適。太陽光発電の余剰電力を売電しやすい。 |
3.2 憶測の終焉:ハイパーパーソナライズされた経済性シミュレーション
太陽光・蓄電池導入の最大の障壁の一つは、経済的な不確実性です。一般的なオンラインシミュレーターは信頼性に欠け、ある調査では、企業の経営者の4割以上が経済効果を具体的に想像できず、一方で半数以上が「信憑性のあるシミュレーションがあれば導入したかった」と回答しています
この課題に対し、ロードカーブ・テンプレートを活用した自治体独自のシミュレーションツールを開発します。住民が関心を示した際、自身の生活スタイルに最も近いアーキタイプを選択するだけで、一般的な仮定ではなく、統計的に裏付けられた自身の負荷プロファイルを用いて太陽光・蓄電池システムの投資対効果(ROI)を算出できます。このアプローチは、「一般的な家庭ではX円節約できます」という曖昧な言説を、「あなたのようなご家庭ではY円の節約が見込まれます。これがそのデータです」という、信頼性の高い対話へと変革します
3.3 ターゲットを絞った介入:より賢い補助金と行動ナッジ
アーキタイプデータを活用することで、画一的な政策から、より効果的でターゲットを絞った介入へと移行できます。
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より賢い補助金:例えば、「EV所有の子育て世帯」は夕方のピークが高いため、自家消費を最大化しグリッド負担を軽減する大容量蓄電池への補助を手厚く設計できます。一方、日中の消費が少なく太陽光ポテンシャルが高い「日中不在の高齢世帯」には、VPPプログラムへの参加を条件とした補助金などが有効です。
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行動ナッジ:行動科学の知見(ナッジ理論)を活用し、ターゲット別のコミュニケーションを展開します
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社会的比較(ソーシャル・ノーミング):電力消費量が多いアーキタイプの住民に対し、同じクラスター内の匿名化された他世帯と比較した情報を提供します(例:「同じようなご家庭の近隣住民は、午後の電力使用量が20%少ないです」)
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損失回避:「月々2,000円節約できます」ではなく、「電力会社に月々2,000円払い続けるのをやめませんか」といった、損失を回避する視点で訴求します。
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選択の簡素化(デフォルト設定):各アーキタイプに最適な太陽光・蓄電池パッケージを事前に算出し、それを「推奨プラン」として提示することで、消費者の意思決定の負担を軽減します
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この戦略により、自治体の役割は単なる補助金の提供者から、データに基づいた信頼できるエネルギーアドバイザーへと進化します。これは、経済的な不確実性という導入の核心的な障壁に直接対処するものであり、自治体は資金を提供するだけでなく、「データに裏付けられた確信」を提供することで、住民の行動変容を力強く後押しします。
第4部 コミュニティグリッドの活性化:先進的応用と新たな価値創出
このセクションでは、個々の世帯への導入促進から一歩進み、地域全体でエネルギーリソースを連携・最適化する、協調的なコミュニティ規模のエネルギーシステムへと戦略を昇華させます。
4.1 地域を発電所に:ローカルVPPとDRプログラムの設計
VPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)とは、地域に分散する太陽光発電や蓄電池といったエネルギーリソースをICT技術で束ね、あたかも一つの発電所のように制御する仕組みです
4.2 価格設定の未来:データ駆動型ダイナミックプライシングの構築
従来の時間帯別料金(TOU)制度は、料金が安くなる瞬間に一斉に電力使用が始まり、新たなピーク(「スナップバックピーク」)を生み出してしまうという課題を抱えています
この分野で大きな成果を上げたのが、カリフォルニア州で実施されたEV充電に関するパイロットプログラムです
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主要な発見:ダイナミックプライシングと自動充電管理を組み合わせることで、オフピーク時間帯への充電シフト率が最大98%に達し、TOU料金を大幅に上回る効果が確認されました。
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公平性の確保:このプログラムが示した最も重要な知見は、家全体の電力にダイナミックプライシングを適用すると、柔軟に電力シフトできない家庭に不利益が生じるリスクがある点です。成功したモデルは、EV充電器など特定の柔軟な負荷にのみ適用される「アドオン型」料金でした。これにより、EVを持たない家庭などを価格変動リスクから保護し、公平性を担保しました。
このカリフォルニアの成功事例を参考に、自治体は蓄電池の充放電やEV充電を対象とした「アドオン型」ダイナミックプライシングのパイロットプログラムを導入できます。これは、住民が自身の蓄電池を活用してグリッド安定化に貢献し、新たな収益を得る機会を創出するものです。
4.3 フロンティアへの挑戦:P2P電力取引と地域エネルギー市場
将来的には、住民がデジタルプラットフォームを介して、余剰の太陽光電力を近隣住民に直接販売するP2P(Peer-to-Peer)電力取引へと発展させることも視野に入ります
分散型エネルギーリソース(DERs)の真の価値は、それらが個別に存在する時ではなく、連携・最適化されることによって初めて解き放たれます。データモデルは、個々の受動的な資産の集合体を、能動的で価値を生み出す協調的なコミュニティグリッドへと変貌させるための羅針盤となるのです。
第5部 自治体のためのロードマップ:パイロットから政策へ
この最終セクションでは、地方自治体が本構想を現実のものとするための、ガバナンス、インフラ、そして段階的な導入計画からなる具体的な実行プランを提示します。
5.1 人間的要素:コミュニティ・エネルギー・リビングラボによる未来の共創
技術主導のトップダウンな導入は、住民のニーズと乖離し、失敗に終わるリスクを伴います。これを避けるため、「コミュニティ・エネルギー・リビングラボ」の設立を提案します
5.2 デジタルインフラの構築:コミュニティ・エネルギー・データプラットフォーム
プロジェクトの中核となるデータプラットフォームは、単なるデータベースではなく、統合されたシステムとして構築する必要があります。
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主要コンポーネント:
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データ収集・管理:HEMS/スマートメーターからのデータを安全に収集・管理。
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分析エンジン:クラスタリング、NILM、需要予測モデルを実装。
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シミュレーション&API層:住民向けシミュレーションツールを稼働させ、VPP/DRパートナー向けにAPIを提供。
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住民ポータル:データ可視化、プライバシー設定、プログラム参加のためのユーザーインターフェース。
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このプラットフォームの設計においては、EUのHorizon 2020プロジェクト
5.3 段階的な5カ年導入ブループリント
現実的かつ詳細なタイムラインと明確なマイルストーンを以下に示します。
表3:段階的な5カ年導入ロードマップ
フェーズ/年 | 主な活動 | 主要目標/マイルストーン | 主要関係者 | 予算配分(目安) | 主要業績評価指標(KPI) |
1年目:基盤とエンゲージメント | ・資金確保 ・リビングラボ設立 ・データガバナンスとプライバシーフレームワークの確定 ・500世帯コホートの募集開始 | ・プロジェクトチームの組成 ・リビングラボのキックオフ ・住民向け説明会の実施 | 自治体、住民、大学 | 15% | ・コホート参加申込数 ・リビングラボ参加者数 |
2年目:データ収集とモデル構築 | ・1年間のHEMSデータ収集 ・分析モデル(クラスタリング、NILM、予測)の開発と検証 ・データプラットフォームのプロトタイプ構築 | ・高品質なデータセットの完成 ・分析モデルの精度検証完了 ・プラットフォームの基本機能実装 | 自治体、技術パートナー、大学 | 30% | ・データ収集率 ・予測モデルの精度(RMSEなど) |
3年目:パイロットプログラム開始 | ・住民向けシミュレーションツールの公開(コホート対象) ・ロードカーブ・テンプレートを用いたターゲット広報の開始 ・初期導入効果の測定 | ・シミュレーションツールのローンチ ・アーキタイプ別広報キャンペーンの実施 | 自治体、住民、地元施工業者 | 25% | ・シミュレーター利用回数 ・太陽光・蓄電池の問い合わせ・成約率の増加 |
4年目:戦略的展開とVPP設計 | ・プログラムの全市展開 ・VPP/DRプログラムの設計とシミュレーション ・小規模なダイナミックプライシング・パイロットの開始 | ・全市でのシミュレーター提供 ・VPP/DRの運用計画策定 ・パイロット参加者の確保 | 自治体、電力会社、アグリゲーター | 20% | ・全市でのプログラム参加世帯数 ・VPPシミュレーションの精度 |
5年目:VPP稼働と政策統合 | ・本格的なVPP/DRプログラムの開始 ・プロジェクトの知見を市のエネルギー政策、ゾーニング規制、気候行動計画へ統合 | ・VPPによるグリッド貢献の実現 ・データ駆動型政策の制度化 | 自治体、電力会社、政策立案者 | 10% | ・VPPによる調整力(kW) ・DRによるピークカット量(kW) ・政策提言の採択数 |
データ駆動型エネルギープロジェクトは、技術と社会が融合した「社会技術システム」です。その成功のためには、「リビングラボ」という社会的インフラが、「データプラットフォーム」という技術的インフラと同等に重要であることを認識しなければなりません。プロジェクト予算は、技術開発とコミュニティエンゲージメントの両方に、明確かつ十分に配分されるべきです。
結論:脱炭素化された日本のための複製可能なモデル
本レポートで提示したアプローチは、自治体が自らのコミュニティ固有の「エネルギーDNA」を解読することにより、効果の薄い画一的な政策から脱却する道筋を示しました。データに基づき、コミュニティと共創するこのアプローチは、経済的な不確実性と信頼の欠如という、普及を阻む核心的な障壁に直接対処するものです。
その先にあるのは、単にエネルギーを受動的に消費するだけでなく、強靭で効率的な、脱炭素化された地域グリッドに能動的に参加するコミュニティの姿です。住民は電気料金の削減と新たな収入源を獲得し、自治体は気候変動目標の達成とエネルギーレジリエンスの向上を実現します。
このブループリントは、単なる理論的な考察ではありません。これは、日本の先駆的な自治体が持続可能なエネルギーの未来を築くための、拡張可能で複製可能なモデルであり、未来は一度に一つのコミュニティから築かれていくのです。
付録
よくある質問(FAQ)
住民の皆様へ
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Q1: 私の個人データは安全ですか?
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A1: はい、安全です。本プロジェクトでは、JEITAのプライバシーガイドラインに準拠し、データの収集・利用には必ずご本人の明確な同意(オプトイン)をいただきます。政策分析には、個人が特定できないように匿名化・統計化されたデータのみを使用します。また、ご自身のデータはいつでも確認・管理が可能です
。13
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Q2: プログラムへの参加にはどのくらいの時間がかかりますか?
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A2: 初期の同意手続きと簡単なアンケートにご協力いただく以外、日常生活での特別な操作は必要ありません。データはHEMSやスマートメーターから自動的に収集されます。リビングラボへの参加は任意ですが、地域のエネルギーの未来を共に創る貴重な機会です
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Q3: 参加するメリットは何ですか?
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A3: ご自身の詳細なエネルギー使用パターンに基づいた、パーソナライズされた省エネアドバイスを受け取ることができます。また、太陽光発電や蓄電池の導入を検討する際には、ご家庭に最適化された非常に信頼性の高い経済効果シミュレーションを利用できます。将来的には、VPPやDRプログラムへの参加を通じて、新たな収入を得る機会も生まれます
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政策立案者の皆様へ
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Q4: このプログラムの推定コストはどのくらいですか?
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A4: コストは、データプラットフォームの構築、人件費(コミュニティエンゲージメント担当者、データアナリスト)、住民へのインセンティブから構成されます。5カ年計画のロードマップ(表3)に大まかな予算配分を示していますが、詳細な費用対効果分析は、導入する技術の仕様や連携するパートナーによって変動します。初期投資は必要ですが、エネルギー効率の改善やインフラ投資の最適化により、長期的な経済的便益が期待できます
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Q5: このアプローチは国のエネルギー政策とどのように連携しますか?
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A5: 国が掲げる「2050年カーボンニュートラル」や再生可能エネルギー導入目標の達成に、ボトムアップで貢献するものです
。特に、国の補助金制度と連携し、本プロジェクトで得られたデータを活用して補助効果を最大化する「ターゲット補助」を実施することで、政策の費用対効果を飛躍的に高めることができます。1
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Q6: 法的な前提条件はありますか?
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A6: データ収集に関しては、個人情報保護法および関連ガイドラインの遵守が必須です。特に、住民からの明確な同意取得プロセスを厳格に設計する必要があります。また、VPPやP2P電力取引を本格的に実施する際には、電気事業法などの関連法規に基づき、地域の電力会社との密な連携と調整が不可欠です
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電力会社の皆様へ
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Q7: このVPPは既存の系統運用とどのように統合されますか?
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A7: 本プロジェクトで構築するVPPは、貴社の配電系統の安定化に貢献する調整力リソースとして活用されることを目指します。需要予測モデルから得られる高精度な予測情報を共有し、貴社の系統運用計画と連携したディスパッチ(充放電指令)を行う仕組みを共同で設計します。これは、配電網の混雑緩和や電圧維持に貢献し、将来的な設備投資の抑制にも繋がる可能性があります
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Q8: 蓄電池などのリソースの制御権は誰が持ちますか?
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A8: 制御権の所在は、VPPの事業モデルによります。アグリゲーターが介在するモデルではアグリゲーターが、電力会社が直接制御するモデルでは電力会社が持ちますが、いずれの場合も、住民(リソース所有者)との間で事前に合意された契約条件の範囲内でのみ制御が行われます。住民の利益と系統全体の安定性の両立が基本原則です。
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ファクトチェック・サマリー
本レポートで提示された主要なデータと主張の根拠を以下に示します。
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日本の家庭用蓄電池の普及率は約5%と推定されています
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スマートメーターは、30分ごとの電力使用量を計測・送信する能力を持ちます
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HEMSデータからは、より高頻度(秒単位など)のデータ取得が可能で、家電分離(NILM)分析に利用できます
。8 -
JEITAは、スマートホームにおけるIoTデータのプライバシー保護に関する詳細なガイドラインを公開しています
。13 -
機械学習を用いた負荷プロファイルのクラスタリングは、電力消費者を類型化する有効な手法です
。8 -
ある調査では、企業の半数以上が信頼性の高いシミュレーションがあれば太陽光・蓄電池を導入したかったと回答しています
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行動科学(ナッジ理論)は、省エネルギー行動を促す上で有効な介入手法であることが示されています
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横浜市は、防災拠点となる公共施設に蓄電池を設置し、VPP構築事業を推進しています
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カリフォルニア州のEV充電パイロットでは、ダイナミックプライシングがTOU料金よりも大幅に高いオフピークシフト率(最大98%)を達成しました
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同パイロットでは、公平性を確保するため、特定の機器にのみ動的料金を適用する「アドオン型」アプローチが有効でした
。40 -
リビングラボは、住民参加を促し、社会課題解決を共創するための有効なプラットフォームです
。56 -
EUのHorizon 2020プログラムでは、都市データプラットフォームを活用したスマートシティの実証プロジェクトが多数実施されています
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