目次
2025~2035年 日本の光熱費料金予測:47都道府県別動向とシナリオ分析
10秒で読める要約
2025~2035年の日本のエネルギー料金(電気・都市ガス・LPガス)を分析。現在は北海道で最も高く北陸で安い電気料金、大都市で比較的安い都市ガス、地方で割高なLPガスという地域格差がある。将来はベースラインシナリオで横ばいから微減、悲観シナリオで大幅上昇(電気料金1.7倍など)、楽観シナリオで技術革新により価格低下という3パターンが予測される。脱炭素政策、再エネ普及、原発再稼働、AI需要拡大が料金動向の鍵を握る。
はじめに
日本におけるエネルギー料金(電気料金・都市ガス料金・LPガス料金)は、地域や契約形態によって大きく異なります。2020年代前半には世界的なエネルギー価格高騰や地政学リスクの影響も受け、国内の電気・ガス代が急上昇しました。
本記事では、2025年時点の47都道府県別エネルギー料金の現状を詳細に解析し、その地域差の構造要因を洗い出します。また、2035年までの将来を見据え、ベースライン・悲観・楽観の3つのシナリオを設定して各ケースでの料金推移を年度別に予測します。
専門家向けの深度ある分析を行いつつ、要所では一般の方にもわかりやすいように用語や背景を補足し、エネルギー料金の将来像を総合的・体系的に描き出します。
2025年現状:地域別に見る電気・ガス料金の差異
まずは2025年時点における日本国内の電気料金・都市ガス料金・LPガス料金の単価(※単位あたり価格)について、地域別の違いを見ていきましょう。電気料金は一般家庭向けの低圧契約(低圧電灯など)と企業向けの高圧・特別高圧契約で料金体系が異なり、都市ガス・LPガスもそれぞれ地域の供給網や事業者によって単価が異なります。
電気料金:低圧・高圧で異なる地域差
日本の電気料金(従量電灯契約)は、地域別に見ると北海道電力エリアが最も高く、北陸電力エリアが最も安い傾向があります。例えば標準的な家庭(月300kWh利用)の電気代は、北海道では月額約9,420円と全国で最も高く、対照的に北陸では約6,778円と最も安くなっています。
これは**約2,600円(約38%)**もの差で、電力会社の管内による基本料金や従量料金単価の違いが主因です。北海道は寒冷地ゆえ暖房需要が大きく設備維持費もかかるため単価が高めであり、北陸は水力発電比率が高く燃料費調整額が低めなことなどから単価が安いといった背景があります。
一般家庭向け(低圧・従量制)の平均的な単価は、2024年時点で全国平均約36.7円/kWh(税込)に達しています。実は電力自由化後も地域間の料金差は残っており、例えば関東エリア(東京電力など)の標準的な電気代は九州より高い傾向があります。
一方、大口需要家向けの高圧電力では単価が低めで、2023年7月の大手電力会社の高圧供給平均単価は約21.4円/kWhでした。これは家庭向けより約4割安く、工場やビル向けにはボリュームディスカウント的な料金体系になっているためです(※電気料金は一般に、大口需要ほど1kWhあたり単価が安くなる傾向があります)。
近年、電気料金は急激に上昇しています。東日本大震災以降、燃料費増加や原発停止で2010年代に大幅値上げがありましたが、2022年~2023年にかけてロシアのウクライナ侵攻に伴う燃料価格高騰で再び大きく上がりました。
政府は緊急措置として家庭向けに2023年1月以降1kWhあたり7円の電気代補助を実施し、同年9月からは3.5円に縮小、2024年も一部期間で補助継続するなど対応しました。補助があってもなお値上げ分を賄いきれず、2023年には大手電力各社が規制料金の約30~40%の値上げ申請を行い、多くが承認されています。
例えば東京電力管内の家庭用従量電灯Bでは、標準家庭で約30%の値上げが6月に適用されました。このように近年の電気料金はかつてない上昇を見せており、地域差も基本的な構造は維持しつつ全体水準が上がっている状況です。
ワンポイント解説:電気料金の仕組み
電気料金は「基本料金」+「従量料金(使った分)」で計算されます。基本料金は契約容量(アンペア数)等で一定額請求され、従量料金は使用量に応じて段階的に単価が上がるブロック制です。
また燃料費の変動に応じて燃料費調整額が毎月加算/減算され、再生可能エネルギー普及のための再エネ賦課金も別途上乗せされます(後述)。
都市ガス料金:地域事業者による単価の違い
都市ガス料金も地域によって単価に差があります。大都市圏では天然ガスの調達規模が大きく経済的なメリットが働くためか、東京ガスや大阪ガスなど大手の供給エリアでは比較的単価が安い傾向です。一方、供給エリアが限られる北海道ガス(札幌市など)や沖縄ガス(那覇市など)などではコスト高から単価が高めとされています。
具体例を見てみましょう。東京ガスの一般契約(東京地区等)の場合、2024年時点の基準単価では月30㎥使用で約4,970円(基本料金1,056円+従量単価約130円×30㎥)となる計算ですが、実際には燃料費調整による上乗せで平均月額7,035円ほどに達しています。これは原料となるLNG価格が高騰した影響を反映したものです。
一方、例えば北海道や東北地方では、暖房に都市ガス以外の燃料(灯油など)を使う家庭が多いこともあり、1世帯あたりのガス代平均は関東より低いという統計もあります。ただしこれはガス利用量自体が少ないためで、必ずしも単価が安いわけではありません。
都市ガス料金は各社が毎月燃料費調整を行っており、輸入LNG価格や為替レートに連動して単価が変動します。また2017年のガス小売全面自由化により新規参入が進みましたが、地域独占的なインフラ(パイプライン網)の制約もあって電力ほど劇的な料金競争は起きていません。
それでも都市ガス大手各社はできるだけ効率化を図り、安価なLNG調達や経費削減で料金抑制に努めています。現状の都市ガス従量単価は平均すると150~170円/㎥前後(燃料費調整込)ですが、地域によって20~30円ほどの差があるとみられます。
LPガス料金:地域差が大きくクラスター化
LPガス(プロパンガス)料金は地域差が特に大きいのが特徴です。都市ガスのような配管網がなく、各戸にボンベ配送されるLPガスは、販売事業者ごとの料金設定に幅があり、都市部と地方で価格格差が生じています。一般に都市部ほど競争が激しく料金が安めで、地方ほど事業者数が限られ料金が高めになる傾向があります。
2023年初頭のデータを例に具体的な地域差を見てみましょう。家庭用LPガスの平均料金(エネ研・石油情報センター調べ)によると、10㎥使用時の請求額は関東地域で約8,320円だったのに対し、北海道では約10,864円と3割以上も高く、東北も約9,756円と全国平均を上回っています。
関西(近畿)は8,551円、中国地方は9,313円と、やはり地域差が顕著です。同様に20㎥使用時で比較すると、関東が約14,519円に対し北海道は18,748円、東北17,096円、中国15,946円という具合で、寒冷地や地方ほど高額になる傾向が読み取れます。このようにLPガス料金は地域ごとに最大で30~40%もの差があるのです。
こうした差異から、都道府県を料金水準でクラスター分類すると、おおむね次のようになります:
低価格クラスター(首都圏・近畿圏・四国など大都市圏)
LPガス大手会社が多く競争が激しい地域。関東・関西・四国は10㎥8千円台前半、20㎥1.45万円前後と全国でも安い水準。例えば東京や大阪では都市ガスとの競争もあり、LPガス事業者も価格を抑える傾向があります。
中価格クラスター(中部・九州など)
地方都市圏で比較的事業者数が多い地域。中部(愛知・静岡など)や九州は10㎥8千円台後半~9千円弱、20㎥1.5万円前後。都市部ほどではないものの一定の価格競争や流通効率化が進んでいます。
高価格クラスター(北海道・東北・中国山間部など)
寒冷地や離島・山間地を含む地域。北海道・東北は突出して高く、北海道では20㎥で1.8万円超と首都圏の1.3倍。中国地方の一部や過疎地域も流通コストが高く価格が上昇しがちです。
このクラスター分けの背景には、LPガス事業者の規模と流通構造があります。首都圏や都市部にはガス大手や商社系の**上位会社(伊藤忠エネクス、TOKAI、岩谷産業など)**が多数参入し、輸入調達や配送のスケールメリットから比較的安価な料金を提示できます。
一方、地方では地元中小のLPガス販売店が多く、競争が限定的なため価格が割高に設定されるケースが多いのです。また配送距離が長く物流コストが高い地域ほど料金に上乗せされる傾向もあります。
実際、2022年度まで15か月連続でLPガス料金が過去最高値を更新する中、政府もLPガス配送効率化への補助金を計上するなど対策に乗り出しました。
ワンポイント解説:都市ガス vs LPガス
同じガスでも都市ガス(主成分:メタン)とLPガス(プロパン)は熱量当たりの単価に大きな差があります。一般的にLPガスは都市ガスの2~3倍の単価と言われます。その理由は、LPガスは輸送や貯蔵にコストがかかる反面、都市ガスは大規模パイプライン網で効率的に供給されるためです。
実際、前述の例ではLPガス20m³の請求額(関東で約1.45万円)は、都市ガス30m³の請求額(東京ガスで約7,035円)の2倍以上に相当します。熱量換算ではLPガス1m³は都市ガスの約2.23倍のエネルギーを持ちますが、それを考慮に入れても依然LPガスの方が割高です。このため、ガス代節約の観点では可能な地域では都市ガスの方が有利と言えます。
エネルギー料金に影響を与える主な構造要因
電気・ガス料金の変動には、様々な構造要因が影響します。ここでは現状までの動向を踏まえ、主要な要因を洗い出して整理します。
国際エネルギー市場価格
電気やガスの料金は、原燃料となるLNG(液化天然ガス)・石油・石炭などの国際価格に大きく左右されます。日本はエネルギー自給率が低く、多くを輸入に頼るため、世界的な原燃料価格の高騰は国内料金に直結します。
実際、2022年にはLNG価格が急騰し、都市ガス料金や火力発電コストが大幅上昇しました。また為替レートも影響し、円安になると調達コスト増から電気・ガス代が値上がりしやすくなります。
地政学リスク
中東情勢やロシア・ウクライナ戦争など地政学的なリスクはエネルギー供給を不安定にし、価格を乱高下させます。2022年のウクライナ侵攻では欧州向け天然ガス供給が逼迫し、代替需要でアジア向けLNG価格も高騰、日本の発電燃料費も増大しました。
また将来、仮に台湾海峡有事などが起きれば、燃料の海上輸送が滞り大きな供給不安・価格高騰を招く恐れがあります。エネルギー安全保障上、このリスクへの対応策(例えば備蓄拡大や輸入先多様化)が料金にも影響します。
政策(規制・補助金等)
政府のエネルギー政策や規制も料金決定の大きな要素です。電力・ガスの小売自由化(電力は2016年、ガスは2017年)は、新規参入や料金メニューの多様化をもたらしましたが、一方で大手の寡占や不正(カルテル)問題も指摘されています。
また料金そのものに対する政府の補助政策も影響します。前述の通り、政府は2023~2024年に電気・ガス料金の一部を補填する補助金措置を講じました。将来も激変緩和措置として補助や料金規制が入れば、実質的な価格は政策次第で上下します。さらに炭素税・カーボンプライシングなど新たな政策導入も料金に跳ね返ります(後述)。
供給網・インフラ
電力やガスの供給インフラもコスト構造に影響を与えます。例えば電力は地域ごとの送配電網容量や連系線の有無が、広域融通や電力卸価格(エリアプライス)に影響します。北海道と本州間の連系容量が限られることが北海道電力のコスト高要因になる、といった指摘もあります。
また都市ガスはパイプライン網の敷設コストが地域差を生み、LPガスはボンベ配送の物流効率が価格に反映されます。老朽化したインフラ更新費用や災害対策費も広く需要家の料金負担として平準化されるため、地域によってインフラ維持費が高ければ料金にも跳ね返る構造です。
需給バランスと気候要因
エネルギーの需要と供給のバランスも価格決定に直結します。需要が供給能力を上回ると市場価格が急騰し、逼迫警報や計画停電の懸念も出ます。例えば2021年1月には寒波で電力需要が想定を上回り、卸市場価格が高騰して新電力が調達難に陥る事態が生じました。
猛暑・厳寒といった気候要因も電力需要を大きく増減させ、スポット市場の価格変動要因となります。一方、需要が減少傾向であれば価格抑制要因となります。日本では人口減少で家庭部門需要は長期的には減る可能性がありますが、逆に電化の進展(EVやヒートポンプ普及)で電力需要が増加する見通しもあり、不確実性があります。
再生可能エネルギー導入
太陽光や風力など再生可能エネルギーの拡大も料金に多面的な影響を与えます。一つは、再エネの発電コスト自体は低減傾向にあり、**運用時の燃料費がゼロ(ゼロ燃料費)**のため、長期的には卸電力価格の低下要因となり得ます。
実際、欧州などでは太陽光発電の大量導入で昼間の電力価格がゼロ近くになる現象も出ています。しかし一方で、日本では再エネを普及させるための固定価格買取制度 (FIT)により再エネ賦課金が全需要家に課されています。
2025年度の再エネ賦課金単価は3.98円/kWhと過去最高水準に達しており、標準家庭(月260kWh)で月1,034円もの負担増になる計算です。このように再エネは**「安い電源」でもあり「追加コスト」でもある**という二面性を持ち、導入拡大ペースと政策設計次第で電気料金に与える影響が変わります。
カーボンプライシングと脱炭素政策
気候変動対策として導入が検討されている**カーボンプライシング(炭素に価格をつける制度)**も重要です。これは石炭火力やガソリンなどCO2排出源に課金するもので、導入されれば化石燃料由来の電力やガスのコストが上昇します。
日本政府は2030年までにカーボンプライシングを本格導入する方針を示しており、試行的な排出量取引市場も開始されています。仮に2030年前後に1トン当たり数千円規模の炭素税が導入されれば、石炭火力発電や都市ガス・LPガスの料金に上乗せされる可能性があります。
また脱炭素政策全般として、燃費規制によるEV化・電化推進や、省エネ設備導入補助などもエネルギー需要構造を変え、ひいては料金に影響します。例えば今後ガソリン車がEVに代替すれば電力需要が増え、電気料金に影響するでしょうし、建築物の断熱基準強化で暖房需要が減ればガス代が下がるかもしれません。
脱炭素への舵取りは長期的にエネルギーコスト削減を目指すものですが、移行期には負担増となる側面もある点に留意が必要です。
原子力発電の稼働状況
日本の電源構成に占める原子力発電の比率も料金に大きな影響を与えます。原発は一度動かせば燃料費が安く大量の電力を安定供給できるため、再稼働が進めば火力燃料費の圧縮につながり得ます。
政府は2030年に電源比率で20~22%を原子力で賄う目標を掲げ、老朽原発の60年超運転や新型炉の開発も模索しています。逆に原発が全く動かない場合、火力への依存度が高まり料金上昇圧力になります。
ある試算では、2030年に原発比率0%の場合と15%以上維持した場合で、電気料金に月3,000円(1.3万円→1.6万円)の差が生じるとの結果もあります。東日本大震災後の2010年代前半、原発停止で電気料金が急騰した(全国平均で約2割上昇)ことは記憶に新しく、今後も原発政策の行方が料金に直結するでしょう。
AI・データセンター需要の増加
最後に、デジタル化による電力需要増も見逃せません。近年急速に普及した生成AI(例:ChatGPT)やクラウドサービスを支えるデータセンターは、大量の電力を消費します。国内外で大型データセンターの建設が相次いでおり、日本全体の電力需要に占めるデータセンターの割合は今後飛躍的に高まる見通しです。
日本総研の試算によれば、国内電力需要は現在約9,000億kWhですが、将来データセンター需要が+1,000~2,000億kWh(全体の10~20%増)に達する可能性があります。これは関西電力管内や中部電力管内の需要に匹敵する規模で、日本の電力市場に非常に大きなインパクトを与えます。
さらに半導体工場の新増設も重なれば、2030年代の電力需給は従来予測を上回るタイトさになるでしょう。AIやデータ経済の発展自体は社会に恩恵をもたらしますが、電力インフラ拡充が追いつかなければ需給逼迫と価格高騰要因となり得るため、この点も将来シナリオに織り込む必要があります。
以上のような構造要因が複雑に絡み合い、今後の電気・ガス料金を左右します。次章では、これら要因を踏まえて2025年から2035年までの料金推移を3つのシナリオ別に予測します。
2025~2035年 将来料金シナリオ予測
将来予測にあたって、以下の3つのシナリオを設定します。
- ベースラインシナリオ(現状政策維持):現状の政策方針が概ね維持され、大きな外的ショックがないケース。再生可能エネルギー導入や原発再稼働は政府計画通り進み、燃料市場も2020年代後半には安定化すると想定。
- 悲観シナリオ(地政学リスク悪化・供給制約強化):世界的な紛争やエネルギー危機が続き、燃料価格が高止まりまたはさらなる高騰をするケース。国内でも脱炭素移行が遅れ、原発稼働も進まず、供給制約が深刻化。
- 楽観シナリオ(再エネ普及拡大・電力供給安定):技術革新と国際協調でエネルギー市場が安定、再エネ大量導入や省エネによりコストが低減していくケース。原発も一定稼働し、革新的蓄電や水素活用で安定供給が実現。
それぞれのシナリオについて、電気料金・都市ガス料金・LPガス料金の推移を年度別に予測します。以下は各シナリオでの料金単価の見通しです(2025年を100%として増減傾向を示しています)。なお、数値は現時点で得られた情報や傾向に基づく推計であり、不確実性を含む点にご留意ください。
電気料金のシナリオ別予測(低圧・家庭向け)
電気料金について、シナリオ別の推移を予測したのが上のグラフです。ベースラインシナリオでは、2025年をピークにその後は横ばいからやや下落に転じる緩やかな動きを想定しています。
既に燃料価格高騰の反映で2025年前後に料金水準は高まっていますが、2030年にかけて再エネ拡大や原発再稼働で供給コストが緩和され、2030年頃を境に安定化するシナリオです。
具体的な単価イメージは、2025年に約30円/kWhだったものが2030年に33~34円程度で頭打ちとなり、その後2035年には31円前後まで若干低下すると見ます。実質的には2020年代後半で上昇が止まり、横ばいから小幅下落へ転ずる見通しです。
一方、悲観シナリオでは、2030年にかけて急激な上昇が続く展開を想定します。地政学リスクの長期化や円安進行で燃料調達費が高騰し、原発比率も上がらず火力コストが増大するため、2030年には家庭用単価が約45円/kWhに達し、その後2030年代前半も50円近くまで上昇し続ける可能性を示しています。
この場合、2025年比で約1.6~1.7倍(5割増)の水準となり、家庭の電気代負担は非常に重くなります。極端なケースでは「2030年に電気料金が1.8倍になる」との試算も過去になされており、悲観シナリオはそれに近い厳しい見通しです。
最後に楽観シナリオでは、再エネと技術革新の力で電気料金が徐々に低減に向かう未来を描いています。再生エネのコスト低下と供給拡大で2030年頃には値上がりにブレーキがかかり、その後は安価な電源構成に置き換わっていく結果、2035年には単価が20円/kWh程度まで低下すると想定しました。
2025年比では▲30%以上の大幅な低下で、電気代が2020年代初頭の水準に回帰するイメージです。もっとも、ここまで楽観的に進むには飛躍的な再エネ大量導入と電力貯蔵技術の進展が必要であり、実現には政策と投資の後押しが前提となります。
以上をまとめると、電気料金はベースラインでは現状水準で頭打ち~微減、悲観ケースでは大幅上昇、楽観ケースでは緩やかな低下という三者三様の結果となりました。一つ確かなのは、燃料価格と電源構成(再エネ・原発)が今後の電気料金を決定づける重要因であるという点です。
都市ガス料金のシナリオ別予測(家庭用)
次に、都市ガス(天然ガス)料金の将来予測です。都市ガス料金は電気と同様に燃料価格の影響が大きく、また2030年に向けた契約ガス田の価格動向や為替にも左右されます。ベースラインシナリオでは、現状高止まりしているガス料金が2020年代後半にはやや落ち着き、2030年前後は微増に留まり、その後ほぼ横ばいになると予測しました。
2025年における平均単価(家庭用)は約160円/㎥とし、2030年頃に170円前後、2035年でも175円程度と、10年間で1割強の上昇にとどまる見通しです。これはLNG調達価格が徐々に安定しつつ、需要自体もオール電化の進行などで大きく伸びないとの想定に基づきます。
一方、悲観シナリオは、燃料費とカーボンプライス負担が重なり大幅上昇するケースです。仮に国際LNG価格が高騰し続け、加えて2030年前後に炭素税が導入されれば、2030年の都市ガス単価は230円/㎥超(現在比+約40%以上)に達し、その後も2035年にかけて260円/㎥近くまで上昇する可能性があります。
これは現状の1.6倍強の水準で、ガス代月額に換算すると現在5,000~7,000円の家庭が将来8,000~10,000円にもなる計算です。悲観ケースではガス需要自体は減少するかもしれませんが、需要減で販売量が落ち込むと1㎥あたりの供給コストが却って上がる(スプレッドの悪化)懸念もあり、需要減=料金減には直結しない点も注意が必要です。
楽観シナリオでは、世界的なLNG需給の緩和や安価な代替エネルギー普及で、都市ガス単価が徐々に低下に向かうと想定しました。例えば米国のシェールガス増産や豪州などからの安定調達で調達価格が下がり、さらに大口産業部門でのガス需要が水素等にシフトすれば、市場価格は下押しされるでしょう。
また高効率機器の普及で家庭のガス消費量自体が減れば、単価競争力を維持するため事業者が値下げに動く可能性もあります。このシナリオでは、2025年に160円/㎥だったものが2030年に148円前後、2035年には135円/㎥程度まで下がると試算しました。約2割の単価低下ですが、これは2010年代前半(LNG安価だった頃)の水準に近く、かなり理想的なケースと言えます。
総じて、都市ガス料金は電気料金ほど極端な変動は想定していませんが、悲観シナリオでは高騰、楽観シナリオでは緩和と方向性は明確に分かれます。特に日本の都市ガスはLNG依存度が高いため、国際ガス市場の行方が鍵となるでしょう。
加えて政策面では、脱炭素に向けてメタンに水素を混ぜる「ガスの脱炭素化」施策が料金に影響し得ます(仮に水素コストが高いと料金上昇要因、技術革新で安価なら逆に低下要因)。その意味で都市ガスの未来は燃料市場と技術の両面で注意深く見ていく必要があります。
LPガス料金のシナリオ別予測
最後にLPガス料金の将来シナリオ予測です。他のエネルギーに比べ、LPガスは原油価格に連動する部分が大きく、また地域間格差も将来残ると予想されます。ベースラインシナリオでは、現状のLPガス価格がほぼこのまま維持されるケースを描いています。
2025年時点で全国平均約600円/㎥(税込)とし、その後は石油価格がやや上昇基調の下で推移するため、年数円ずつ上がるものの大きな変動はなく、2035年でも680円/㎥前後としています。これは10年で約13%の上昇で、年平均1%強のインフレ程度の伸びです。
背景には、LPガス需要が徐々に縮小傾向(オール電化や都市ガス化の進展で需要減)となり、市場価格転嫁力が限定的になるとの見立てもあります。
悲観シナリオは、原油価格高騰・円安・災害等でLPガス供給が逼迫し、価格が大幅に上昇するケースです。例えば中東情勢が悪化して原油が高騰し、LPG(液化石油ガス)輸入価格が上昇し続けた場合、2030年頃には800円/㎥近くに達し、2035年には900円/㎥(現在比+50%)に迫る可能性があります。
この水準では、今まで月1万円だった家庭が1万5千円を超えるようなインパクトが出てきます。さらに悲観ケースでは、需要減による販売競争力低下で地方の小規模事業者が価格据え置きや値上げで収益確保を図ることも考えられ、地域格差が拡大する懸念もあります。すなわち都市部ではまだ安価なLPガスが、地方では一段と高嶺の花になる、といった状況です。
一方、楽観シナリオでは、原油価格が低迷または代替エネルギーへの転換でLPガス需要が減り、競争が促進されて価格低下に向かう未来を想定しました。例えば世界的に電化やバイオ燃料が普及して石油需要が構造的に減少すれば、2030年頃にはLPG価格も下落傾向となるでしょう。
また日本国内でもLPガス業界の再編・効率化が進み、大手による一括仕入れのスケールメリットでコスト削減が図られることも期待できます。この場合、LPガス単価は徐々に下がり、2030年に550円程度、2035年には**500円/㎥**前後まで低下すると試算しました。
これは2020年頃(コロナ禍で原油安だった時期)の水準に近く、LPガス利用者にとっては恩恵の大きいシナリオです。ただし、LPガス業界の特殊性(地域独占や価格慣行)があるため、たとえ国際価格が下がっても国内小売価格への反映が鈍い可能性もあります。
この点、近年は東洋経済などの報道で不透明な価格慣行の是正が求められており、業界自ら競争環境を高めていくことが楽観シナリオ実現のカギとなるでしょう。
主要都道府県別の将来料金予測
ここまで全国平均的な数値でエネルギー料金の将来を見てきましたが、前述の通り地域差は大きく、今後もこの傾向は続く見通しです。ここでは主な都道府県別に、どのような料金水準になるかをベースラインケースで見ていきます。
電気料金の都道府県別動向予測
ベースラインシナリオにおける2030年時点の低圧電灯(家庭用)料金の水準を主要都道府県別に予測すると、大まかに以下のような傾向が見られます:
高額グループ(35円/kWh超)
- 北海道:寒冷地で需要変動が大きく、設備維持コストも高い
- 沖縄:島嶼部で独立系統のため燃料費高
- 東京・神奈川:大都市圏で需要が多く、遠隔地からの電力融通コストが発生
中間グループ(32~35円/kWh)
- 大阪・愛知・福岡など:地方都市圏で一定の需要密度があり効率的
低額グループ(32円/kWh未満)
- 富山・石川・福井:北陸電力管内で水力発電比率が高く燃料費が低め
- 新潟・山梨:水力資源や原発立地で発電コスト低め
注目すべきは、現在の地域格差構造が基本的に維持されつつも、再エネ立地が進む県では相対的に料金水準が下がる可能性があることです。例えば九州や東北の日照条件が良い県では太陽光発電が普及し、北海道や東北・北陸の風況の良い地域では風力発電が増えれば、地産地消で料金メリットが出てくる可能性があります。
逆に、データセンター集積地域(例えば千葉・茨城・栃木など関東の一部)では電力需要が急増するため、供給が追いつかなければ局所的に料金上昇圧力がかかるケースも考えられます。
都市ガス料金の地域別見通し
都市ガスについても2030年時点のベースライン予測を見ると、都市部と地方、大手事業者と中小事業者の格差が明確です:
相対的に安価な地域(単価160~170円/㎥)
- 東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県(東京ガスエリア)
- 大阪府・京都府・兵庫県(大阪ガスエリア)
- 愛知県・三重県(東邦ガスエリア)など大都市圏
中間的な地域(単価170~190円/㎥)
- 北関東・中部地方・中国地方の都市部など
高めの料金地域(単価190円超)
- 北海道・東北の一部
- 四国・九州・沖縄の一部
注目すべきは、都市ガス管網の拡大状況によって地域の位置づけが変わる可能性があることです。例えば大都市周辺部でガス管網が拡充されれば、そのエリアは比較的安価なガス供給を受けられるようになります。
一方、人口減少が進む地方では、既存インフラの維持コストを少ない需要家で負担することになり、相対的に料金水準が上がる懸念もあります。
LPガス料金の地域クラスターごとの予測
LPガスについては、前述の通り地域によるクラスター化が顕著です。2030年時点でのベースラインシナリオでは:
低価格クラスター(650円/㎥前後)
- 東京・大阪・愛知・福岡など大都市圏
中価格クラスター(700円/㎥前後)
- 茨城・栃木・静岡・広島など準大都市圏
高価格クラスター(750円/㎥以上)
- 北海道・青森・秋田・島根・高知・鹿児島など地方部
このクラスター構造は、LPガス供給・流通の特性(ボンベ配送)と地域事業者の競争状況を反映したものですが、今後はデジタル技術を活用した配送効率化やカートラスト規制強化によって、地域格差が少しずつ縮小していく可能性も期待されます。
家計への影響:シナリオ別の試算
各シナリオが実際の家計にどの程度のインパクトをもたらすか、具体的な数字で検証してみましょう。
3人世帯の標準的な家庭のケース(2035年時点)
【ベースラインシナリオ】
- 電気料金(月250kWh使用):約7,750円/月(31円/kWh)
- 都市ガス料金(月30㎥使用):約7,250円/月(175円/㎥+基本料金)
- LPガス料金(月20㎥使用):約15,600円/月(680円/㎥+基本料金)
- 合計(都市ガス使用の場合):約15,000円/月
- 合計(LPガス使用の場合):約23,350円/月
【悲観シナリオ】
- 電気料金(月250kWh使用):約12,500円/月(50円/kWh)
- 都市ガス料金(月30㎥使用):約9,800円/月(260円/㎥+基本料金)
- LPガス料金(月20㎥使用):約21,000円/月(900円/㎥+基本料金)
- 合計(都市ガス使用の場合):約22,300円/月
- 合計(LPガス使用の場合):約33,500円/月
【楽観シナリオ】
- 電気料金(月250kWh使用):約5,000円/月(20円/kWh)
- 都市ガス料金(月30㎥使用):約5,550円/月(135円/㎥+基本料金)
- LPガス料金(月20㎥使用):約12,000円/月(500円/㎥+基本料金)
- 合計(都市ガス使用の場合):約10,550円/月
- 合計(LPガス使用の場合):約17,000円/月
この試算から見えてくるのは、悲観シナリオでは月々の光熱費がベースラインから7,000~10,000円も増加する可能性があり、これは家計にとって非常に大きな負担増となることです。特にLPガス使用世帯は都市ガス世帯よりも絶対額が大きく、負担感も強くなります。
一方、楽観シナリオでは月々4,500~6,300円の負担軽減となり、可処分所得の増加につながる可能性があります。
世帯タイプ別の影響(2035年・ベースラインシナリオ)
単身世帯(東京・マンション住まい)
- 電気(月180kWh):約5,600円
- 都市ガス(月15㎥):約4,000円
- 合計:約9,600円
4人世帯(郊外・一戸建て)
- 電気(月350kWh):約10,850円
- LPガス(月25㎥):約18,500円
- 合計:約29,350円
高齢夫婦世帯(地方都市)
- 電気(月220kWh):約6,820円
- 都市ガス(月25㎥):約6,250円
- 合計:約13,070円
この比較からわかるのは、都市部のマンション住まいで都市ガスが使える単身世帯は比較的光熱費負担が軽い一方、郊外や地方の一戸建てでLPガスを使う多人数世帯は3倍近い負担になり得るということです。このような地域・住宅タイプ・世帯構成による格差は今後も継続し、場合によっては拡大する可能性もあります。
企業への影響:業種別の見通し
エネルギー料金の変動は家計だけでなく企業活動にも大きな影響をもたらします。ここでは主要業種別に2030年時点でのベースラインシナリオにおける影響を整理します。
製造業
電力多消費型産業(鉄鋼・化学・セメント等)
- 高圧・特別高圧電力単価の上昇により製造コスト増加
- 自家発電導入や省エネ投資の加速
- 製品価格への転嫁が進まなければ収益圧迫要因に
中小製造業
- エネルギーコスト増により製品コスト上昇
- 価格転嫁力の弱い中小企業は収益悪化リスク
- 省エネ設備投資の遅れが競争力低下につながる懸念
食品製造業
- 冷蔵・冷凍用電力、加熱用ガスのコスト増
- 省エネ・熱回収技術導入が進む一方、新たな投資負担も
サービス業
小売・飲食業
- 照明・空調・冷蔵用電力コスト増
- 24時間営業モデルの採算悪化
- 省エネ型店舗への改装投資が進むが、中小事業者は負担大
データセンター・IT関連
- 運営コストに占める電力比率が高く(30~50%)、料金上昇は直接的に収益圧迫
- 効率化・省電力化投資が加速
- 地方の再エネ豊富地域への立地シフトも
宿泊・観光業
- 館内空調・給湯などエネルギーコスト増
- 料金への転嫁が進まなければ収益悪化
- 高効率設備導入がサバイバルの鍵に
輸送・物流業
陸上輸送
- EV化進展で燃料(軽油)からの転換が進むが、電気代上昇も
- 総合的な運行コスト増
- 効率的な配送ルート最適化技術への投資加速
業種を問わず、エネルギーコスト上昇は企業にとって大きな課題となりますが、省エネ技術への投資や事業モデル変革を進める契機にもなります。特に悲観シナリオでは、エネルギー集約型ビジネスの事業継続性にも関わる問題となる可能性があります。
電気・ガス料金に関する最新トレンドと対策
最後に、エネルギー料金に関する最新の動向と、家庭・企業が取るべき対策について整理します。
最新トレンド
1. エネルギー自家調達の拡大
- 家庭や企業による太陽光発電・蓄電池の導入加速
- VPP(バーチャルパワープラント)など分散型電源の活用
2. 料金プラン多様化
- 時間帯別料金(TOU)の精緻化
- 再エネ100%プランの増加
- デマンドレスポンス型料金の普及
3. エネルギーマネジメント高度化
- HEMS/BEMSによる自動制御の普及
- AIを活用した需要予測と最適制御
- ブロックチェーンによるP2P電力取引実験
4. 脱炭素×省エネのダブル推進
- ZEH/ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー住宅/ビル)の標準化
- 高効率機器の導入支援制度拡充
- カーボンニュートラル実現に向けた補助金・税制優遇
家庭での対策
短期的対策(料金上昇に備える)
- 料金プラン見直し・スイッチング
- 省エネ行動の徹底(不要照明オフ、適切な冷暖房温度設定)
- 高効率家電への買い替え(LED照明、省エネ冷蔵庫、ヒートポンプ給湯器など)
中長期的対策(構造的に対応)
- 住宅の断熱性能強化(窓改修、断熱材追加など)
- 太陽光発電・蓄電池の導入
- オール電化検討(特にLPガス地域)
- スマートホーム化(HEMS導入、IoT家電との連携)
企業での対策
短期的対策
- 契約見直し(デマンド管理、料金プラン最適化)
- 運用改善(空調温度適正化、照明LED化、不要電源オフ)
- エネルギー使用状況の見える化と分析
中長期的対策
- 高効率設備への更新投資
- 自家発電・コージェネレーション導入
- 事業所立地の見直し(電力料金の低い地域への移転検討)
- ビジネスモデル自体の省エネ化(EC強化、テレワーク推進など)
おわりに:将来への展望と課題
以上、日本全国の電気・ガス料金の現状分析から将来予測まで、包括的に見てきました。ベースラインシナリオでは現在の延長線上で2020年代後半以降はいくらか安定に向かうものの、悲観シナリオではエネルギー価格の高止まりや供給制約から高コスト時代が続く可能性が浮き彫りになりました。一方で技術革新や政策次第では楽観シナリオのようにコスト低減と安定供給を両立できる未来もあり得ます。
大切なのは、これらシナリオは人間の選択と行動によって変えられるということです。再生可能エネルギーの導入拡大や省エネの推進、分散型エネルギーインフラの整備など、私たちが今取る行動が将来のエネルギー料金を左右するとも言えます。
また、仮に悲観シナリオ的な状況に陥った場合でも、適切な政策介入(補助や価格メカニズム改革)によって需要家の負担を緩和しつつ持続可能なエネルギー移行を進めることが重要です。
エネルギー料金の将来予測は不確実性を伴いますが、本記事で洗い出した構造要因やシナリオ分析は、今後の備えや政策立案に役立つ視座を提供できるでしょう。専門家の方には詳細なデータと分析を、一般の方にはエネルギー料金の行方を考える材料を提供できたのであれば幸いです。
日本そして世界のエネルギーを取り巻く環境は日々変化しています。最新の情報をウォッチしつつ、論理的かつ柔軟にシナリオを見直していく姿勢が、これからの10年間を乗り切る鍵となるでしょう。
そして何より、私たち一人ひとりがエネルギーの使い方や選択について関心を持ち、省エネや効率的なエネルギー利用に努めることが、長期的には需給バランスの改善と料金安定につながります。未来のエネルギーコストを左右するのは決して他人事ではなく、私たち自身の手にも委ねられているのです。今後も状況に応じて最適な判断を行い、日本のエネルギーと経済の持続可能性を高めていきましょう。
コメント