目次
- 1 2026年徹底予測 金利、エネルギー、そして日本の脱炭素が迎える「運命の交差点」
- 2 序章:ゼロ金利世界の終焉がもたらす地殻変動
- 3 第1章 2026年の世界経済:政策の乱高下に揺れる、脆弱な回復
- 4 第2章 金融政策の転換点とその市場への影響
- 5 第3章 世界エネルギー市場のリセット:供給の奔流と需要の変化
- 6 第4章 2026年、日本のエネルギー・トリレンマ:需要急増、政策論争、そして系統の行き詰まり
- 7 第5章 核心的課題:高金利環境下における日本の再エネ経済性
- 8 第6章 実効性ある解決策:日本のエネルギー転換を加速させるための具体的戦略
- 9 結論:2026年の岐路を乗り越えるために
- 10 FAQ(よくある質問)
- 11 ファクトチェック・サマリー
2026年徹底予測 金利、エネルギー、そして日本の脱炭素が迎える「運命の交差点」
序章:ゼロ金利世界の終焉がもたらす地殻変動
2026年は、過去のトレンドの延長線上にある年ではない。むしろ、世界経済と日本のエネルギー政策が、根本的な移行期へと突入する、極めて重要な年として記憶されるだろう。本稿では、2026年を形作る三つの巨大な潮流が衝突する様相を、高解像度で分析する。
-
金融政策の「大分岐」: 20年以上にわたった日本の超低金利時代が終焉を迎え、奇しくも欧米の先進国が金融緩和へと舵を切り始める。この歴史的な逆転現象は、為替市場と国内の資本コストに構造変化をもたらす。
-
エネルギー市場の「リセット」: 原油と液化天然ガス(LNG)が世界的な供給過剰に陥り、エネルギー安全保障とコストの構図を根底から覆す。これはエネルギー輸入大国である日本にとって、恩恵と新たな課題を同時にもたらす。
-
日本の産業電力需要の「急騰」: データセンターと半導体工場という、これまで経験したことのない規模の電力を消費する産業群が、日本国内で一斉に稼働を開始する。
本稿の中心的な論点は、これら三つの力が、日本の再生可能エネルギー(以下、再エネ)セクターにとって一種の「パーフェクトストーム」を生み出しているという点にある。これまで再エネの成長を支えてきた金融・経済環境が逆転する一方で、新たな電力需要の出現が、再エネが持つ構造的な限界を露呈させる。
2026年における最大の問いは、日本の政策と市場構造が、エネルギー転換の失速を防ぐために十分な速さで適応できるか否かである。
第1章 2026年の世界経済:政策の乱高下に揺れる、脆弱な回復
1.1. 世界経済成長予測:脆弱でばらつきのある回復
2026年の世界経済は、緩やかな成長が見込まれる一方で、その足取りは極めて不透明である。国際通貨基金(IMF)は、2025年に3.0%、2026年に3.1%という控えめな世界経済成長率を予測している
これらの数字は一見安定しているように見えるが、その背後には大きな変動性と頻繁な予測修正が隠れている。例えば、2025年7月のIMFの更新では、ドル安と想定より低い関税率を理由に成長率が上方修正されたものの、その水準は貿易摩擦が本格化する前の予測には及ばない
この状況を深く分析すると、現代の世界経済が「政策の乱高下(Policy Whiplash)」経済とでも言うべき特異な状態にあることがわかる。現在の景気変動は、通常のビジネスサイクルではなく、米国の関税政策をはじめとする各国の政策発表に大きく左右されている。企業は関税発動を回避するために輸出を「前倒し」する行動に出ており、これが人為的な需要の急増とその後の落ち込みを生み出している
これは持続可能な成長ではなく、政治的な不確実性によって引き起こされる、非効率な資源配分に他ならない。IMFのチーフエコノミストは、「貿易摩擦は世界経済に損害を与えている」と明言し、貿易交渉の決裂といった「下方リスクに傾いている」と警告している
予測修正の主因が経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)ではなく、貿易政策の不確実性にあるという事実が、この経済の特異性を浮き彫りにしている。このような環境は、生産性向上のために不可欠な長期的かつ安定的な設備投資を阻害する。したがって、2026年の最大のリスクは、単に成長率の低さではなく、その成長の「質」の低さにある。それは脆く、予測不可能で、非効率であり、日本の多国籍企業を含む世界の企業にとって、戦略的な計画立案を極めて困難にしている。
1.2. インフレと中央銀行のジレンマ
世界のインフレは鎮静化に向かう見通しだ。IMFによれば、世界全体のインフレ率は2025年に4.2%、2026年には3.6%まで低下すると予測されている
この米国の「粘着質」なインフレは、金融政策の舵取りを複雑化させる。世界的な大局はディスインフレ(インフレ率の鈍化)であるものの、目標である2%への最後の道のりは困難を極めており、中央銀行は性急な金融緩和に対して慎重な姿勢を崩せない。この状況は、世界の金融環境や為替レートに直接的な影響を及ぼす。
さらに深く見ると、インフレの性質が世界的に非対称化していることがわかる。一部の地域では明確なディスインフレが進む一方で、米国は根強い物価上昇圧力に直面している。その一因は、皮肉にも貿易政策の手段であるはずの関税そのものにある。OECDは、米国のインフレが「例外(outlier)」であり、4%近くまで上昇する可能性があると指摘している
経済問題の相違は、政策対応の相違へと繋がり、2026年の世界の資本フローと為替レートに大きな交差流を生み出すことになるだろう。
第2章 金融政策の転換点とその市場への影響
2.1. 大いなる分岐:米国の緩和 vs 日本の正常化
2026年は、日米の金融政策が歴史的な分岐点を迎える年となる。米国では金融緩和サイクルへの移行が予測されている。
ゴールドマン・サックスは2025年後半に利下げが始まり、2026年にはさらに2回の利下げが行われ、政策金利は3.0~3.25%のレンジに達すると予測
対照的に、日本銀行は金融引き締めの道を歩む。日銀自身は2026年度の消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)が2%程度で推移すると予測しており
日銀は、経済成長には「下振れリスク」を認めつつも、物価リスクは「概ね上下にバランスしている」とし、緩やかな政策正常化を正当化している
これは、一世代ぶりの歴史的な金融政策の分岐である。日米の金利差は、正反対の政策ベクトルによって、劇的に縮小することになる。
この金利差の縮小は、投資家が低金利の円を借りて高金利のドル資産に投資する、いわゆる「円キャリー取引」の魅力を失わせ、構造的な円高圧力となる。しかし、より深刻な影響は国内で生じる。
日本のゼロ金利政策の終焉は、日本経済全体の資本コストの根本的な再評価を意味する。数十年にわたり、日本のビジネスモデル、投資のハードルレート、プロジェクトファイナンスは、事実上ゼロコストの資金調達を前提に構築されてきた。その時代が終わりを告げるのだ。
この衝撃は、初期投資が巨額で投資回収期間が長いセクター、すなわち再エネプロジェクトのような資本集約型産業で最も深刻に感じられるだろう。米国の政策金利が低下し、日本の金利が上昇する [9, 14]
ことで、円キャリー取引のインセンティブが薄れる。同時に、国内ではあらゆるプロジェクトの借入コストの基準がゼロから1%以上に上昇する
。これは投資採算の計算に用いる割引率を直接押し上げ、プロジェクトファイナンスの金利負担を増大させる。マクロ金融政策の転換が、再エネという特定セクターの存続可能性を直接脅かす、重要な連鎖がここにある。
2.2. 為替レートと長期金利の予測
市場のコンセンサスは明確だ。歴史的な円安局面は終わりを告げる可能性が高い。JPモルガンは、ドル円レートが2026年第2四半期までに1ドル=139円まで下落(円高が進行)すると予測
表1:2026年の主要マクロ経済・市場予測
指標 | 2026年予測 | 主要な情報源 / 根拠 |
世界GDP成長率 | 約3.0% |
IMF: 3.1% |
米国政策金利 | 3.00% – 3.25% |
ゴールドマン・サックス |
日本政策金利 | 約1.25% |
OECD |
ドル円為替レート | 139 – 144円 |
JPモルガン: 139円 |
ブレント原油価格 | 約51ドル/バレル |
EIA予測 |
ヘンリーハブ天然ガス価格 | 約4.30ドル/MMBtu |
EIA予測 |
第3章 世界エネルギー市場のリセット:供給の奔流と需要の変化
3.1. 原油の新常識:買い手市場への回帰
エネルギー市場は劇的な転換期を迎えている。米国エネルギー情報局(EIA)は、ブレント原油のスポット価格が大幅に下落し、2026年には1バレルあたり平均約51ドルで推移するという厳しい予測を発表した
この価格下落の背景には、供給の急増がある。OPECプラスが増産に踏み切ると見られるほか、米国を中心とした非OPEC諸国の供給も堅調に推移する
日本のような主要なエネルギー輸入国にとって、持続的な原油価格の下落は強力なデフレ圧力となる。輸送コスト、石油火力発電の燃料費、石油化学製品の原料費が低下し、家計や企業の負担を軽減する。
これはマクロ経済全体にとっては朗報であり、日銀の金融引き締め政策にも時間的な余裕を与えるだろう。しかし、このプラスの効果は、脱炭素化というミクロ経済的な課題にとっては逆風となる。安価な石油は、既存の火力発電所のコスト競争力を高める。
これは、まさに再エネの資金調達コストが上昇しているタイミングで、再エネへの転換を進める経済的なインセンティブを弱めることになる。
つまり、世界の原油市場の動向が、日本の国内再エネ投資の相対的な魅力を直接的に損なうという構図が生まれるのだ。
3.2. 来るべきLNG供給過剰とアジアへの影響
LNG市場もまた、ウクライナ侵攻後の価格高騰から一転、劇的な供給過剰の時代を迎えようとしている。国際エネルギー機関(IEA)は、米国、カナダ、カタールでの新規プロジェクト稼働により、2026年の世界のLNG供給量が7%(400億立方メートル)増加し、これは2019年以来最大の伸びになると予測している
エネルギーコンサルティング会社のウッドマッケンジーも、2026年から2028年にかけての「LNG供給の急増」が市場を均衡させると指摘する
この供給の波は市場の逼迫を緩和し、特に価格に敏感なアジアの新興国において「より力強い需要の伸びを促進する」と期待されている
LNG価格の下落は、日本のエネルギー安全保障と経済にとって明確なプラス要因である。
主要な電源であるガス火力発電のコストが低下し、より有利な条件で長期供給契約を確保する戦略的な好機が生まれる。しかし、ここにも二律背反の課題が潜んでいる。原油と同様、安価なLNGはガス火力発電の競争力を高める。さらに重要なのは、天然ガスと二酸化炭素回収・貯留(CCS)を組み合わせる「ブルー水素」の製造コストをも引き下げる点だ。
これにより、再エネ由来の電力で水を電気分解して作る「グリーン水素」よりも、ブルー水素の方が経済的に優位に立つ可能性が出てくる。
この力学は、日本の長期的な脱炭素戦略の方向性を微妙に変化させかねない。グリーン水素製造のための国内再エネ導入を加速させるよりも、ブルー水素・アンモニアのインフラ整備を優先する動きが強まる可能性があり、一度選択されれば長期的な経路依存性を生むことになるだろう。
3.3. 世界の電力転換:再エネが王座へ
世界全体を見渡せば、再エネの躍進は続いている。
IEAは、再エネが「遅くとも2026年までに」石炭を抜き、世界最大の電源になると予測している
これは、世界のエネルギー転換における画期的な瞬間である。しかし、世界が再エネへの移行を加速させる中で、2026年の日本が直面する特有の経済的逆風(金利上昇、化石燃料価格の下落)は、日本の再エネ導入ペースが世界の潮流から「取り残される」リスクを生む。
もし新規プロジェクトの経済性が著しく悪化すれば、日本は他国に遅れをとり、グローバルなサプライチェーンにおいて競争力を失う可能性がある。AppleやGoogleのようなグローバル企業が、サプライヤーに対して100%再エネ電力の使用をますます強く要求するようになっているからだ。
世界のトレンドは、日本の進捗(あるいはその欠如)を測る重要なベンチマークとなる。再エネ導入の遅れは、もはや環境問題だけでなく、長期的な産業競争力に関わる問題なのである。
第4章 2026年、日本のエネルギー・トリレンマ:需要急増、政策論争、そして系統の行き詰まり
4.1. 新たな需要ショック:データセンターと半導体工場
日本は今、電力需要の構造的な大変動の入り口に立っている。IEAの予測によれば、データセンター、AI、暗号資産による世界の電力消費量は、2022年の460 TWhから2026年には1,000 TWh超へと倍増する
これは、もはや漸進的な需要増ではない。質的にも量的にも、全く新しい次元の「需要ショック」である。この需要は特定の地域に集中し、かつ「ベースロード型」、つまり常時安定した高品質の電力を要求する。これは、従来の家庭用や産業用の需要とは根本的に異なる挑戦を、日本の電力システムに突きつけている。
表2:日本の新たな電力需要プロファイル(概念図)
プロジェクト種別 / 事例 | 立地 | 想定電力需要 | 主要な電力要件 |
半導体工場(例:TSMC熊本) | 九州、北海道 |
大規模工場あたり70~90 MW |
24時間365日ベースロード、超高信頼性 |
AI/ハイパースケールデータセンター | 東京・大阪圏、北海道 |
世界のDC需要は2026年までに倍増 |
24時間365日ベースロード、高信頼性 |
新規需要の合計(2026-2030年) | 全国 | 数GW規模(詳細な積算が必要) | 主にベースロード、非変動性 |
4.2. 第7次エネルギー基本計画:政策の岐路
日本のエネルギー政策の羅針盤となる「第7次エネルギー基本計画」の策定に向けた議論が、2024年5月に開始された
日本原子力産業協会のような業界団体は、ベースロード電源の確保と投資の予見性向上のため、再稼働、運転期間延長、そして新設・リプレースの明確な工程表を含む、原子力の最大限の活用を強く求めている
政策決定者は、エネルギー安全保障、脱炭素化、そして経済競争力の維持という「トリレンマ」のなかで、この新たな需要ショックにいかに対応するかという難しい判断を迫られている。現行の2030年のエネルギーミックス目標は、もはや急速に時代遅れになりつつある。
この新しい24時間稼働の産業需要は、エネルギー政策論争の力学を根本から変える。これまでのように、変動性のある再エネの比率を徐々に高めていくというシナリオだけでは、もはや不十分だ。新たな需要の巨大さとベースロード性という性質は、政策決定者に厳しい選択を突きつける。
すなわち、膨大かつ高コストな再エネと大規模蓄電池の組み合わせを構築するのか、あるいは、安定的で調整可能なゼロカーボン電源に再びコミットするのか、という選択だ。この文脈において、原子力発電を巡る議論は、過去の政治的な遺物から、未来の産業戦略の根幹をなす要素へと変貌する。第7次エネルギー基本計画は、ハイテク産業を国内に誘致・維持するための「選択肢」としてではなく、もはや「必要条件」として、原子力の新設・リプレース問題と正面から向き合わざるを得なくなるだろう。
4.3. 送電網のボトルネック:「行き場のない電力」
日本の送電網は、すでに深刻な制約に直面している。再エネのポテンシャルが高い九州のような地域では、発電した電力を送電しきれずに出力を抑制する「出力制御」が常態化している
日本のエネルギー構造は、最良の再エネ資源(北海道、東北、九州)と主要な電力需要地(大都市圏)が地理的に乖離しているという根本的な問題を抱えている。送電網の大規模な拡張と高度化なくして、潜在的な再エネ電力の多くは事実上「行き場のない電力(Stranded Electrons)」となってしまう。
日本の再エネ拡大における真の律速段階は、もはや土地や技術の有無ではなく、送電容量の不足である。既存の「接続検討・事業者負担」というアプローチは限界に達している。送電網増強の長いリードタイムと莫大なコストを考えれば、たとえ2026年に直面する資金調達の課題を克服できたとしても、2030年までに再エネを3倍にするための物理的なインフラは到底間に合わない。
この現実が示唆するのは、国が主導して戦略的な送電網幹線への先行投資を行うことが、エネルギー転換を可能にする唯一かつ最も重要な鍵であるということだ。OCCTOの長期計画 [37]
は正しい方向性を示しているが、その実行速度こそが決定的な変数となる。
第5章 核心的課題:高金利環境下における日本の再エネ経済性
5.1. 資金調達の隘路:金利上昇はいかにLCOEを押し上げるか
再エネプロジェクトは、その性質上、資本集約型である。デンマークの洋上風力大手オーステッド社の分析によれば、金利が3%上昇すると、大規模洋上風力プロジェクトの利益がすべて吹き飛ぶ可能性があるという
これは、プロジェクトの事業性を測る最重要指標である「均等化発電原価(LCOE)」を直接的に押し上げる。
第2章で分析したマクロ経済動向と、エネルギープロジェクトファイナンスの現実が、ここで結びつく。
国内金利の上昇(第2章)と世界的な化石燃料価格の下落(第3章)の組み合わせは、日本の新規再エネプロジェクトにとって「事業性のギャップ(Viability Gap)」を生み出す。
金利0.5%、原油価格100ドルの世界では採算が取れたプロジェクトも、金利1.5%、原油価格50ドルの世界では全く事業化できない可能性がある。
これは、日本の長期目標達成に不可欠とされながらも、最も資本集約的で金利感応度が高い大規模洋上風力などのプロジェクト群の停滞を招く恐れがある [42, 43]
、日本の金利上昇
はLCOEを押し上げる。一方で、化石燃料価格の下落 [19, 24]
は競合する火力発電のコストを引き下げる。
この「挟み撃ち」が、新規再エネプロジェクトの収益性を圧迫し、開発の遅延や中止、金融機関の融資姿勢の硬化を招き、2026年以降のプロジェクトパイプラインを凍結させる可能性がある。
5.2. PPAモデルの試練
企業の電力購入契約(PPA)は、市場メカニズムを通じて再エネ導入を牽引する仕組みとして期待されている。日本のコーポレートPPA市場は成長が見込まれ、2025年度には350億円規模に達すると予測されている
ここには「PPAのパラドックス」とでも言うべきジレンマが存在する。企業がPPAに魅力を感じる理由(価格安定性、脱炭素化への貢献)そのものが、経済環境の変化によって損なわれつつあるのだ。
金利や建設コストの上昇は、開発事業者がプロジェクトの採算を確保するために、より高いPPA価格を要求せざるを得ない状況を生む。同時に、化石燃料価格の下落は、系統電力の価格を引き下げる可能性がある。
もしPPAの「グリーンプレミアム」があまりに大きくなれば、企業はPPAを締結する財務的なインセンティブを失い、この重要な市場の成長が鈍化してしまう。民間のリスクテイクに依存するPPAモデルは、資本コストとリスクの上昇に対して特に脆弱なのである
第6章 実効性ある解決策:日本のエネルギー転換を加速させるための具体的戦略
6.1. 投資リスクの低減:民間のリスクから官民連携へ
-
特定された課題: 資本コストの上昇と価格の不確実性が、プロジェクトの資金調達を困難にしている。
-
提案する解決策: 純粋な市場主導型アプローチからの脱却。公的資金が民間投資のリスクを低減する「ブレンデッド・ファイナンス」を本格的に導入する。具体的には、政府系金融機関による低利融資の拡充、債務保証の提供、そして最も重要なのは、英国の成功モデル
[44]
に倣い、洋上風力に対する差額決済契約(CfD)制度を改革し、長期的な収益安定性を確保することである。これは、変動の激しい環境下における民間金融のリスク回避的な姿勢に直接応えるものである 。42
6.2. 戦略的な系統整備:未来へのエネルギー・スーパーハイウェイの建設
-
特定された課題: 送電網の混雑が物理的な最大のボトルネックとなり、再エネ資源を有効活用できていない。
-
提案する解決策: 受動的な「早い者勝ち・事業者負担」の系統接続モデルから、能動的・戦略的な計画モデルへと転換する。政府はOCCTOと連携し、「再エネ重点導入エリア」を指定し、プロジェクトが開発される「前」に、そのエリアへの大規模送電網幹線への公的投資を迅速に進めるべきである。これはOCCTO自身のマスタープラン
に基づくものだが、資金と政治的意思決定の加速が不可欠だ。この「インフラを先に整備すれば、投資は後からついてくる」アプローチは、プロジェクトの遅延と不確実性の最大の原因を取り除くことで、民間投資を劇的に解き放つだろう。37
6.3. サプライチェーンの国内回帰:エネルギー自給のための産業政策
-
特定された課題: 円安によって悪化する、再エネ関連機器の高い輸入コスト。
-
提案する解決策: 円安と、予測される化石燃料価格の低下を、国内の再エネ製造拠点を構築するための戦略的好機として捉える。特に、日本が競争優位を持つ可能性のある次世代技術、例えばペロブスカイト太陽電池に焦点を当てるべきだ。日本はペロブスカイトの主要原料であるヨウ素の世界的な生産国であり
[45]
、技術開発も急速に進んでいる[46, 47]
。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による研究開発支援、補助金、需要側インセンティブを組み合わせた的を絞った産業政策は、輸入依存度を下げ、長期的なコストを低減し、イノベーションの好循環を生み出すことができる 。42
6.4. スマートな需要統合:需要と供給の近接配置
-
特定された課題: 変動する再エネ供給と、新たな産業施設(データセンター等)の24時間安定需要との間のミスマッチ。
-
提案する解決策: 新たな大規模電力消費者(データセンター、半導体工場)と、再エネ発電設備および蓄電池を一体的に配置(co-location)することを奨励・誘導する政策枠組みを導入する。これには、ハイブリッドプロジェクトに対する許認可の迅速化、税制優遇、優先的な系統アクセスなどが考えられる。このアプローチは、24時間クリーン電力を供給するコストを事業者に内包させるものであり、GoogleやAmazonのような巨大IT企業がデータセンターの電力を賄うために、新規の再エネプロジェクトと直接PPAを締結する米国の成功事例
[48, 49, 50]
を参考にしている。これにより、新たな電力需要を「問題」から「統合型クリーンエネルギーソリューションの触媒」へと転換させることが可能になる。
結論:2026年の岐路を乗り越えるために
本稿で示してきたように、2026年は、低成長と政策の不確実性が漂う世界、円高を促す歴史的な金融政策の分岐、化石燃料価格の下落、そして国内電力需要の急騰という、四つの巨大な力が交差する年となる。
これらの力が同時に作用することで、日本のエネルギー転換は過去10年で最も重大な挑戦に直面する。その核心にあるのは、新規再エネプロジェクトの経済的な実行可能性そのものが侵食されるという、根源的な問題である。
最終的なメッセージは、行動を促す呼びかけである。目標を掲げるだけでは成功は保証されない。求められるのは、民間投資のリスクを積極的に低減し、戦略的に送電網を構築し、国内製造業を育成し、そして新たな需要を賢く統合するという、現実的かつ緊急の政策転換である。
2026年は、日本がこれらの経済的現実に正面から向き合うか、あるいは脱炭素化の目標が長年にわたって停滞するリスクを冒すかを決定する、運命の年となるだろう。
FAQ(よくある質問)
-
Q1. 2026年に電気料金は下がりますか?
-
A1. 複雑な要因が絡み合います。世界的な原油・LNG価格の下落
[19, 23]
は、火力発電の燃料費を押し下げ、料金の引き下げ要因となります。しかし、国内の再エネ導入を支えるための賦課金や、大規模な送電網投資のコストが料金に転嫁される可能性もあり、最終的な影響を一概に予測するのは困難です。家計や企業が実感する料金は、これらの要因の綱引きによって決まります。
-
-
Q2. 日本の2030年気候目標達成における最大のリスクは何ですか?
-
A2. 本稿の分析によれば、最大のリスクは「経済性の悪化による新規再エネ投資の停滞」です。国内金利の上昇
と化石燃料価格の下落14 [19]
が、再エネプロジェクトの採算性を著しく悪化させます
。物理的なボトルネックである送電網の制約42 [37]
と相まって、目標達成に必要なペースでの導入が困難になる可能性があります。
-
-
Q3. 日本の脱炭素化に原子力発電は必要ですか?
-
A3. データセンターや半導体工場のような、24時間365日稼働する大規模な「ベースロード需要」の急増
が、この問いの重要性を高めています。変動する再エネだけでこの需要を安定的に満たすには、莫大な量の蓄電池が必要となります。そのため、安定供給可能なゼロカーボン電源として、原子力の役割を再評価する議論が第7次エネルギー基本計画の策定過程で中心的な論点の一つとなることは避けられないでしょう33
。34
-
-
Q4. なぜ円高が進むと予測されているのですか?
-
A4. 最大の理由は、日米の金融政策の方向性が逆転し、金利差が縮小するためです
。米国が利下げサイクルに入る18 [9, 10]
一方で、日本は利上げ(金融正常化)を進める[14, 15]
と見られています。これまで円安の主因であった「円を借りてドルで運用する」動きの魅力が薄れるため、構造的に円が買われやすくなる(円高になる)と予測されています。
-
ファクトチェック・サマリー
本レポートの分析は、以下の主要な定量的予測に基づいています。
-
世界経済成長率(2026年): 3.1%(IMF予測)
1 -
ブレント原油価格(2026年): 平均約51ドル/バレル(EIA予測)
19 -
米国政策金利(2026年): 3.00% – 3.25%のレンジ(ゴールドマン・サックス予測)
9 -
日本政策金利(2026年): 約1.25%(OECD予測)
14 -
ドル円為替レート(2026年): 139円~144円のレンジ(JPモルガン、野村予測)
[17, 18]
-
世界のデータセンター等電力需要: 2022年から2026年にかけて倍増以上(IEA予測)
29 -
世界の再エネ発電: 2026年までに石炭を抜き世界最大の電源となる見込み(IEA予測)
25 -
日本のPPA市場規模: 2025年度に350億円に達する見込み
42
コメント