電力・エネルギービジネスの「土地勘」とは?採用担当者も注目

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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目次

電力・エネルギービジネスの「土地勘」とは?採用担当者も注目

次世代エネルギー経済の完全解析

電力・エネルギービジネスにおける「土地勘」とは、単に電気を売買する感覚以上の、エネルギー産業全体を俯瞰する複合的なビジネス理解力を指します。本研究では、再生可能エネルギーの主力電源化、電力市場の自由化、デジタル変革、脱炭素政策の4つの大きな潮流が電力ビジネスの構造を根本的に変革していることを明らかにします。従来の規制業界から競争市場への転換期において、成功する事業者はメリットオーダーモデルによる価格予測1リスクコントロール経営7コーポレートPPAやデマンドレスポンスといった新しいビジネスモデル1214の3つの軸を統合的に理解する必要があります。

電力ビジネスの基本構造と市場メカニズム

電力産業の三層構造とバリューチェーン

電力ビジネスは、発電事業送配電事業小売事業の三層に分離された構造を持ちます3。この分離は2016年の電力システム改革によって法的に確立され、それぞれ異なる規制体系と収益モデルを持っています。

発電事業者は電力を生産し、卸電力市場または相対取引を通じて販売します。送配電事業者は電力のインフラを管理し、託送料金という規制料金で収益を得ます。小売事業者は最終消費者に電力を販売し、販売価格と調達価格の差額から収益を生み出します2

この構造において重要なのは、各層での限界費用の概念です。発電事業における限界費用は主に燃料費で構成され、送配電では設備の保守・運用費、小売では電源調達費用と販売管理費が該当します14

卸電力市場の価格決定メカニズム

電力価格の中核となる卸電力市場では、メリットオーダーモデル6が価格形成の基本原理となっています。このモデルでは、30分を1コマとして、各コマの電力需要を最も安い発電コストの電源から順番に充足していきます。

価格決定の数式は以下の通りです:

市場価格 = 需給バランス点における限界発電機の入札価格

メリットオーダーの順序は概ね以下のようになります:

  1. 再生可能エネルギー(限界費用≒0円)

  2. 原子力発電(限界費用≒2-3円/kWh)

  3. 石炭火力(限界費用≒6-8円/kWh)

  4. LNG火力(限界費用≒10-12円/kWh)

  5. 石油火力(限界費用≒15円以上/kWh)

この価格決定メカニズムが示すのは、再生可能エネルギーの導入拡大が市場価格を構造的に押し下げる効果を持つことです1。2012年度以降の市場価格低下傾向は、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの大量導入の直接的な結果といえます。

小売電気事業の収益構造

小売電気事業の基本的な収益モデルは以下の公式で表現されます2

利益 = 販売電力単価 × 販売電力量 – 電源調達単価 × 調達電力量 – 託送料金 – 販売管理費

このモデルにおいて、粗利(販売価格-電源調達価格-託送料金)の最大化が事業成功の鍵となります。東京電力の標準的な家庭向け電気料金(月300kWh使用)が約24円/kWhである一方、卸電力市場の平均価格は10-12円/kWh程度であることから、理論的には10円以上の粗利を確保できる計算になります2

しかし実際には、30分ごとの需給調整によるインバランス料金、予測精度の限界、顧客獲得コスト、システム運用費用などが収益を圧迫します9。新電力事業者の経営破綻が相次ぐ背景には、この理論値と実際の収益性のギャップがあります。

再生可能エネルギーが変える電力経済学

FIT制度からFIP制度への転換と市場統合

日本の再生可能エネルギー政策は、固定価格買取制度(FIT)による導入促進から、フィード・イン・プレミアム(FIP)制度による市場統合へと転換しています1。この変化は、再生可能エネルギーを電力市場の価格シグナルに露出させ、より効率的な運用を促進することを目的としています。

FIP制度下では、再生可能エネルギー発電事業者の収益は以下の式で決まります:

収益 = 市場価格 + プレミアム単価 – バランシングコスト

この変化により、再生可能エネルギー事業者は市場価格リスク出力予測リスクを負担することになり、電力ビジネス全体の事業性評価が複雑化しています。

コーポレートPPAの台頭と新しい電力調達モデル

企業の脱炭素経営の進展に伴い、コーポレートPPA(Power Purchase Agreement)が急速に普及しています12。日本でも2020年代に入り、イオン、ヒューリック、村田製作所などの先進事例が登場し、多様な業種での導入が進んでいます。

コーポレートPPAには以下の3つの形態があります:

  1. オンサイトPPA:需要地内に発電設備を設置

  2. フィジカルPPA:需要地外の発電設備から物理的に電力を調達

  3. バーチャルPPA:発電設備の環境価値のみを調達

各形態の経済性は以下の要素で決まります:

オンサイトPPA価値 = 電気料金削減効果 + 基本料金削減効果 + 環境価値 + BCP価値

オフサイトPPA価値 = 長期価格安定効果 + 環境価値 + CSR価値

太陽光・蓄電池・EV・V2Hの統合システムにおける経済性シミュレーションでは、これらの価値を定量化することが重要です。特に、住宅用太陽光・蓄電池経済効果シミュレーター「エネがえる」産業用自家消費の投資回収期間・ROI計算ツール「エネがえるBiz」ようなツールは、複雑な価値算定を精緻に行うことで、意思決定の高度化に貢献しています。

蓄電池とV2Hの経済価値算定

蓄電池とV2H(Vehicle to Home)システムの経済価値は、複数の価値源泉から構成されます16。基本的な価値算定式は以下の通りです:

年間経済価値 = 電気料金削減効果 + ピークカット効果 + 災害時BCP価値 + 調整力提供価値

電気料金削減効果は、時間帯別料金や太陽光余剰電力の自家消費により実現されます:

電気料金削減 = (夜間充電電力量 × (昼間電力単価 – 夜間電力単価)) + (太陽光余剰活用量 × 昼間電力単価)

V2Hシステムの場合、電気自動車の大容量バッテリー(40-60kWh)を活用することで、一般的な家庭の3-4日分の電力を供給可能です16。この防災価値を定量化するには、停電発生確率と停電時の経済損失を考慮する必要があります。

電力事業の投資判断と経済性評価

発電事業の投資採算性指標

発電事業の投資判断では、均等化発電原価(LCOE)10プロジェクトIRR(PIRR)11が主要な評価指標となります。

LCOEの計算式は以下の通りです:

LCOE = Σ(設備投資費 + 運転維持費 + 燃料費)÷ (1+割引率)^n ÷ Σ(年間発電量)÷ (1+割引率)^n

一方、PIRRは以下の式で求められます11

初期投資額 = Σ(n年後のフリーキャッシュフロー ÷ (1+PIRR)^n)

再生可能エネルギー発電事業では、設備利用率が事業性に大きく影響します。太陽光発電の設備利用率は約14-17%、風力発電は20-25%、原子力発電は80-90%程度となっており10、この違いが投資採算性の差となって現れます。

小売電気事業の事業性評価モデル

小売電気事業の事業性評価では、顧客獲得コスト(CAC:Customer Acquisition Cost)と顧客生涯価値(CLV:Customer Lifetime Value)の関係が重要です:

CLV = 月次平均収益 × 粗利率 × 平均継続期間 – 月次サービス費用

投資回収期間 = 顧客獲得コスト ÷ 月次収益

新電力事業者の多くが経営破綻する原因の一つは、この投資回収期間の見積もりの甘さにあります39。電力市場価格の上昇局面では、固定価格での販売契約を結んでいる事業者ほど損失リスクが高まります。

産業用自家消費型太陽光・蓄電池の経済性評価においては、より複雑なパラメータが必要となります。産業用自家消費型太陽光・蓄電池経済効果シミュレーションソフト「エネがえるBiz」のような専門ツールは、デマンド料金の削減効果、CO2排出削減量など環境価値などを総合的に評価する機能を提供しています。

電力ビジネスのリスクマネジメント戦略

新たなリスク要因と対応策

電力業界の自由化により、従来の燃料価格リスク需要変動リスクに加えて、市場価格リスク競争リスク規制変更リスクなどの新しいリスク要因が登場しています7

アビームコンサルティングの分析によると、電力事業者が直面する新たなリスクは以下のように分類されます7

  1. 市場リスク:卸電力価格の変動、燃料価格の変動

  2. 信用リスク:取引相手の信用悪化、倒産

  3. オペレーショナルリスク:システム障害、需給調整の失敗

  4. 規制リスク:制度変更、政策転換

リスクコントロール経営の実装

総合商社で実践されているリスクコントロール経営7を電力業界に適用する場合、以下の要素が重要となります:

リスク・リターン指標 = EBITDA ÷ リスクアセット

ここでリスクアセットは、VaR(Value at Risk)やストレステストによって算定されます。電力事業では、以下のようなリスク指標が活用されます:

  • 価格リスク:電力価格の日次変動率の標準偏差

  • ボリュームリスク:需要予測誤差の標準偏差

  • 信用リスク:取引相手の信用格付けに基づく信用コスト

デマンドレスポンスとVPPによるリスク軽減

デマンドレスポンス(DR)14バーチャルパワープラント(VPP)15は、需給調整リスクを軽減する重要な手段として注目されています。

DRの経済価値は以下の式で算定されます:

DR価値 = 節約電力量 × 卸電力価格 + インセンティブ料金

VPPのビジネスモデルは4つに類型化されます15

  1. 売電最適化:発電事業者の代理として卸市場で売電

  2. ネガワット取引:需要抑制による調整力提供

  3. 周波数調整力提供:系統安定化サービスの提供

  4. 送配電投資費用抑制:地域の送配電設備投資の代替

これらの新しいビジネスモデルは、従来の発電・送配電・小売の枠を超えた価値創出を可能にしています。

数理最適化による電力事業の高度化

電力消費量ピーク平準化の数理モデル

電力事業の効率化において、数理最適化5が重要な役割を果たしています。電力消費量のピーク平準化問題は、以下の最適化問題として定式化できます:

目的関数:minimize Σ(電力使用量の30分ピーク値)

制約条件:

  • 各ワークの納期制約

  • 設備の利用可能時間制約

  • 工程順序制約

  • 段取り替え時間制約

この最適化により、電力使用量の30分ピーク値を25%削減できる事例が報告されています5。契約電力の削減は、基本料金の大幅な削減につながるため、製造業における重要な省エネ施策となります。

電力価格予測とポートフォリオ最適化

電力事業者の調達戦略では、ポートフォリオ最適化理論を適用した電源構成の決定が重要です。リスクとリターンのトレードオフを考慮した最適化問題は以下のように定式化されます:

目的関数:maximize (期待収益 – λ × ポートフォリオリスク)

ここで、λはリスク回避度を表すパラメータです。電源別のリスク・リターン特性は以下のように整理できます:

  • 太陽光発電:高リターン・高リスク(天候依存性)

  • 風力発電:中リターン・中リスク(風況変動)

  • 火力発電:低リターン・低リスク(燃料価格変動)

  • 水力発電:安定リターン・低リスク(渇水リスク除く)

ダイナミックプライシングの価格最適化

電力小売業におけるダイナミックプライシング13では、需要予測と価格弾性を組み合わせた価格最適化が行われます:

最適価格 = 限界費用 + マークアップ

マークアップ = 1 ÷ (価格弾性係数 + 1)

需要予測の精度向上には、気象データ、人流データ、過去の需要実績などの多様なデータを活用したAI/機械学習アプローチが有効です13。特に人流データは、地域別・時間帯別の電力需要変動パターンの把握に重要な情報を提供します。

技術革新が創る新しい電力ビジネス

DXによる電力業界の変革

電力業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、従来のアナログ的な業務プロセスを根本的に変革しています。特に以下の領域で大きな進展が見られます:

スマートメーターとIoTの活用により、30分値データから1時間値、さらには1分値や1秒値といった高頻度データの取得が可能になりました。これにより、従来は不可能だった詳細な需要パターン分析と予測が実現しています。

AI・機械学習による需要予測では、従来の回帰分析モデルから、深層学習やアンサンブル学習を活用した高精度予測モデルへの移行が進んでいます。予測精度の向上は、インバランス料金の削減に直結するため、小売電気事業者の収益性改善に大きく貢献します。

ブロックチェーン技術を活用した電力取引プラットフォームの実証実験も各地で行われており、P2P(Peer to Peer)電力取引の実現可能性が検証されています。

エネルギーマネジメントシステムの高度化

HEMS(Home Energy Management System)、BEMS(Building Energy Management System)、FEMS(Factory Energy Management System)の高度化により、需要側の柔軟性(Demand Side Flexibility)の活用が本格化しています。

統合型エネルギーマネジメントの価値算定式は以下のようになります:

統合価値 = 電力コスト削減 + デマンド料金削減 + 調整力提供収益 + 環境価値 + レジリエンス価値

特に、太陽光発電、蓄電池、EV、V2Hを統合したシステムでは、これらの要素を最適制御することで、従来の単体システムを大幅に上回る経済価値を実現できます。エネがえる経済効果シミュレーション保証のような精緻なシミュレーションツールと保証スキームの組み合わせは、このような複雑なシステムの経済性を正確に評価し、導入判断を支援する重要な役割を果たしています。

水素・アンモニア燃料の経済性評価

脱炭素化の進展に伴い、水素・アンモニア燃料による発電が注目されています。これらの新燃料の経済性評価では、従来の化石燃料とは異なる評価フレームワークが必要です:

水素発電LCOE = (水素調達費 + 発電設備費 + 運転維持費) ÷ 発電量

水素の調達方法(グリーン水素、ブルー水素、グレー水素)により、コスト構造が大きく異なります:

  • グリーン水素:再エネ電解水素(100-200円/Nm³)

  • ブルー水素:CCS付き化石燃料改質(30-50円/Nm³)

  • グレー水素:既存化石燃料改質(20-30円/Nm³)

電力ビジネスの投資戦略と資金調達

プロジェクトファイナンスとグリーンファイナンス

再生可能エネルギー事業の資金調達では、プロジェクトファイナンスの活用が一般的です。プロジェクトファイナンスの調達コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital)は以下の式で算定されます:

WACC = (負債比率 × 負債コスト × (1-税率)) + (株主資本比率 × 株主資本コスト)

近年、ESG投資の拡大に伴いグリーンファイナンスの活用が急速に拡大しています。グリーンボンドの金利は、従来の事業債より0.1-0.3%程度低い水準で調達可能であり、プロジェクトの採算性向上に寄与しています。

設備投資と税制優遇措置

再生可能エネルギー設備への投資では、以下の税制優遇措置が活用できます:

  1. 中小企業投資促進税制:取得価額の30%特別償却または7%税額控除

  2. グリーン投資減税:取得価額の100%特別償却

  3. 固定資産税減免:自治体により3-5年間の減免措置

これらの優遇措置を考慮した実効IRRの算定式は:

実効IRR = 税引前IRR × (1 – 実効税率 × (1 – 税制優遇効果))

リアルオプション理論による投資判断

不確実性の高い電力事業投資では、リアルオプション理論の適用が有効です。投資プロジェクトを金融オプションと類似のものと捉え、以下のブラック・ショールズ型の評価式を適用します:

プロジェクト価値 = NPV + オプション価値

オプション価値 = S₀ × N(d₁) – K × e^(-rT) × N(d₂)

ここで、S₀は現在のプロジェクト価値、Kは投資額、rは無リスク金利、Tは投資タイミングの選択期間を表します。

規制環境の変化と事業戦略

制度設計と事業機会

電力システム改革の進展により、新たな制度設計が電力ビジネスに多様な機会を提供しています。容量市場需給調整市場非化石価値取引市場の創設により、従来の電力量取引だけでは得られなかった収益機会が生まれています。

容量市場での収益は以下の式で算定されます:

容量市場収益 = 落札容量 × 容量価格 × 実効率

需給調整市場では、一次調整力二次調整力三次調整力の3つのカテゴリーで調整力が取引されており、それぞれ異なる技術要件と価格体系を持ちます。

エネルギー基本計画と長期戦略

政府のエネルギー基本計画では、2030年度の電源構成目標として再生可能エネルギー36-38%が設定されています。この目標達成に向けた政策措置は、電力ビジネスの事業環境に大きな影響を与えます。

特に、洋上風力発電の導入拡大、地域マイクログリッドの構築、セクターカップリング(電力・熱・ガス・輸送の統合)の推進など、従来の電力業界の枠を超えた統合的なエネルギーシステムの構築が進められています。

カーボンプライシングの影響

2030年代の本格的なカーボンプライシング(炭素税・排出権取引制度)の導入は、電力事業の収益構造を根本的に変える可能性があります。

炭素コスト = CO₂排出量 × 炭素価格

国際的な炭素価格は50-100ドル/tCO₂程度で推移しており、これを発電コストに換算すると:

  • 石炭火力:+5-10円/kWh

  • LNG火力:+3-6円/kWh

  • 再生可能エネルギー:影響なし

このコスト増加は、化石燃料発電の競争力を大幅に低下させ、再生可能エネルギーへの投資インセンティブを高めます。

グローバル展開と国際競争

海外市場への展開戦略

日本の電力事業者の海外展開では、アジア太平洋地域での再生可能エネルギー事業が中心となっています。海外投資の評価では、為替リスク、カントリーリスク、規制リスクを考慮した調整NPVの算定が重要です:

調整NPV = 基本NPV – 為替リスク調整 – カントリーリスク調整 – 規制リスク調整

技術輸出とライセンスビジネス

日本の高効率火力発電技術、送配電技術、エネルギーマネジメント技術の海外展開では、ライセンス料収入やエンジニアリング収入が重要な収益源となります。

技術ライセンスの価値評価は、技術の経済的寿命と市場規模に基づいて算定されます:

ライセンス価値 = Σ(市場規模 × 市場シェア × ライセンス料率) ÷ (1+割引率)^n

国際標準化と競争優位性

IEC(国際電気標準会議)、IEEE(米国電気電子学会)等での国際標準化活動は、技術の競争優位性確保の重要な手段です。標準技術の採用により、グローバル市場でのシェア拡大と収益性向上が期待できます。

電力ビジネスの未来展望

2030年代の電力産業像

2030年代の電力産業では、以下の構造変化が予想されます:

分散型エネルギーシステムの主流化:大規模集中型発電から、地域分散型の再生可能エネルギーシステムへの移行が加速します。これにより、従来の発電事業者・送配電事業者・小売事業者の境界が曖昧になり、エネルギーサービス事業者としての統合的なビジネスモデルが主流となります。

セクターカップリングの進展:電力セクターと、熱供給、ガス供給、輸送セクターとの統合が進み、総合的なエネルギーサービスの提供が一般化します。この統合により、従来の電力事業の概念を超えた価値創出が可能になります。

デジタルプラットフォームの台頭:エネルギー取引、機器制御、データ管理を統合したデジタルプラットフォームが電力ビジネスの中核となります。プラットフォーム事業者は、従来の物理的なインフラ投資を必要とせず、高い収益性を実現する可能性があります。

新技術による事業機会

次世代太陽電池(ペロブスカイト太陽電池、タンデム太陽電池)の実用化により、変換効率40%超の太陽光発電システムが実現し、発電コストの大幅な低下が期待されます。

次世代蓄電池(全固体電池、レドックスフロー電池)の大容量化・低コスト化により、グリッドスケール蓄電システムの経済性が大幅に改善されます。

人工光合成技術の実用化により、太陽光から直接水素を製造する新しいエネルギーチェーンが構築される可能性があります。

ビジネスモデルの進化

従来の「電力を販売する」ビジネスから、「エネルギーサービスを提供する」ビジネスへの転換が加速します。この変化により、以下のような新しい価値提案が重要になります:

エネルギー・アズ・ア・サービス(EaaS):設備投資不要でエネルギーサービスを利用できるサブスクリプションモデルが普及します。顧客は従来の設備購入から、サービス利用へと移行し、事業者は継続的な収益を確保できます。

エネルギーデータビジネス:電力使用データを活用した付加価値サービス(設備診断、最適運用提案、省エネコンサルティング等)が新たな収益源となります。

レジリエンス・アズ・ア・サービス:災害時のエネルギー確保を保証するサービスが、特に企業顧客において重要な価値提案となります。

これらの新しいビジネスモデルの経済性評価には、従来のキャピタル集約的な評価手法から、サービス収益とカスタマーエクスペリエンスを重視した評価手法への転換が必要です。

成功する電力ビジネスの条件

技術力とマーケティング力の融合

電力ビジネスにおける「土地勘」の核心は、技術的専門性マーケティング感度の高度な融合にあります。従来の電力業界では技術力が重視されてきましたが、自由化後の競争環境では、顧客ニーズの理解と価値提案力が事業成功の鍵となっています。

成功する事業者は、以下の能力を統合的に持っています:

技術的差別化能力:既存技術の組み合わせによる独自価値の創出、新技術の早期実用化、システム最適化による効率向上

顧客価値創造能力:顧客の潜在ニーズの発見、カスタマイズされたソリューションの提供、継続的な関係構築

データ活用能力:大量データの収集・分析による洞察の獲得、予測精度の向上、意思決定の高速化

パートナーシップとエコシステム構築

電力ビジネスの成功には、単独企業での事業展開よりも、戦略的パートナーシップエコシステム構築が重要です。特に以下の連携が効果的です:

技術補完型パートナーシップ:自社の弱い技術領域をパートナー企業で補完し、総合的なソリューション提供を実現

顧客基盤共有型パートナーシップ:異業種企業との連携により、新しい顧客層へのアプローチを実現

リスク分散型パートナーシップ:大型プロジェクトのリスクを複数企業で分散し、投資リスクを軽減

継続的学習と適応能力

電力業界の急速な変化に対応するには、継続的学習適応能力が不可欠です。特に以下の学習領域が重要です:

規制・政策動向の理解:制度変更の影響を正確に評価し、事業戦略に反映する能力

技術動向の把握:新技術の動向を継続的に監視し、事業機会を見極める能力

市場分析とトレンド予測:市場データの分析により、将来のビジネス機会を予測する能力

これらの学習を効率的に行うためには、社内外の専門家ネットワークの構築、継続的な市場調査の実施、競合企業の動向分析などが重要です。

結論:電力ビジネス成功の新しいパラダイム

電力ビジネスにおける真の「土地勘」とは、従来の規制業界の常識を超えて、急速に変化するエネルギー産業の新しいルールを理解し、適応する能力です。本研究を通じて明らかになったのは、成功する電力事業者は技術的専門性市場理解力リスク管理能力パートナーシップ構築力の4つの能力を統合的に発揮していることです。

特に重要なのは、メリットオーダーモデルに基づく価格予測コーポレートPPAやデマンドレスポンスなどの新しいビジネスモデル数理最適化による運用効率化を組み合わせた統合的なアプローチです。これらの要素を理解し、実践することで、電力ビジネスの複雑性を克服し、持続可能な競争優位性を構築することが可能になります。

2030年代に向けて、電力産業は分散型エネルギーシステム、セクターカップリング、デジタルプラットフォームという3つの大きな変革軸を中心に進化していきます。この変化の中で生き残り、成長するためには、従来の電力業界の枠組みを超えた新しい視点と能力の獲得が不可欠です。

電力ビジネスの「土地勘」を科学的に分析することで、この複雑で急速に変化する産業における成功法則が見えてきます。技術革新、規制変更、市場競争、社会的要請の4つの力学を理解し、それらを統合的に活用する能力こそが、次世代の電力ビジネスにおける真の競争力となるのです。


出典・参考文献

1 再エネ主力電源化による電力市場変化と電力ビジネスの今後 – みずほリサーチ&テクノロジーズ

2 電力小売事業のビジネスモデル – 三ッ輪ホールディングス

3 電力自由化に伴う新電力会社の資格や条件 – エコライフプラザ

4 再エネ主力電源化による電力市場変化と電力ビジネスの今後(PDF) – みずほリサーチ&テクノロジーズ

5 数理最適化による電力消費量ピーク平準化 – Trans Simulation

6 メリットオーダー – 日経クロステック

7 変わる電力経営のリスクとは? – 電気新聞

8 知らないと割りを食う?電力自由化のメリットとデメリット – Biblion

9 購入電力はどのように選べば良いか – キャリアップ

10 均等化発電原価(LCOE)とは – IBM

11 導入ポテンシャルの定義(PDF) – 環境省

12 日本におけるコーポレートPPAの先行事例3選 – ソーラージャーナル

13 注目されている電力のダイナミックプライシング – ブログウォッチャー

14 デマンドレスポンスとは?基礎知識から種類、仕組み – 伊藤忠エネクス

15 VPP・アグリゲーターに関する海外調査(PDF) – 産総研

16 V2H – TEPCO ホームテック

17 電力小売市場に関する調査を実施(2025年) – 矢野経済研究所

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