2026年度再エネ賦課金単価予測(シナリオ別)

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

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目次

2026年度再エネ賦課金単価予測(シナリオ別)

エグゼクティブサマリー

2026年度の再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)単価は、2025年度に記録した過去最高水準の3.98円/kWhに続き、引き続き高水準を維持するか、さらに上昇する可能性が高いと予測されます。この持続的な高負担は、日本の全ての電力消費者に、積極的な戦略的計画と適応を促すものです。

2026年度の単価を決定する主要な要因としては、FIT(固定価格買取制度)からFIP(固定価格買取プレミアム制度)への移行を含む制度の進化、新規再生可能エネルギー導入量の規模、世界の化石燃料価格の変動(これは「回避可能費用」に逆相関的に影響します)、そして全体の電力需要の変化が挙げられます。

長期的な予測(2030年以降)では、高コストのFIT契約の満了に伴い賦課金が減少する可能性が示唆されていますが、2026年度の短期的な見通しは、現行の資金調達メカニズムと再生可能エネルギー拡大の構造的要因により、引き続き上昇圧力を受けると考えられます。

本報告書では、2026年度の再エネ賦課金単価について、以下の3つのシナリオを提示し、将来の不確実性と変動要因への理解を深め、より戦略的な意思決定に資する情報を提供します。

  • 標準シナリオ: 現行の政策傾向が継続し、外部エネルギー市場要因が適度に変動し、再生可能エネルギー導入が着実に進む場合を想定します。このシナリオでは、賦課金は高水準で安定するか、2025年度の値をわずかに上回ると予測されます。

  • 楽観シナリオ: 再生可能エネルギー技術のコスト削減が加速し、化石燃料価格が高水準で推移(これは賦課金を抑制する要因となります)、および電力系統への効率的な統合が進むといった、より好ましい条件を想定します。これにより、賦課金はわずかに減少するか、安定する可能性があります。

  • 悲観シナリオ: 地政学的リスクの増大、化石燃料価格の大幅な下落(これは賦課金を押し上げる要因となります)、再生可能エネルギー導入の遅延、および系統増強やシステム統合コストの予期せぬ増加といった不利な条件を考慮します。このような状況下では、賦課金はさらに上昇し、消費者負担が深刻化する可能性があります。

1. はじめに:再生可能エネルギー賦課金予測の重要性

再生可能エネルギー賦課金は、正式には再生可能エネルギー発電促進賦課金と呼ばれ、日本の電気料金に上乗せされる義務的な費用です。その主な目的は、固定価格買取制度(FIT)および固定価格買取プレミアム制度(FIP)を資金的に支援することにあります。これらの制度は、日本全国で再生可能エネルギー源の大規模な導入と拡大を奨励し、支援するために設立されました 1

このメカニズムは、再生可能エネルギー発電事業者に対し安定した予測可能な収益源を保証し、日本の脱炭素化目標とエネルギー安全保障目標の達成に必要な重要な投資を促進します。

再エネ賦課金の上昇傾向は 2、脱炭素化という国家的な課題と、電気料金の抑制、産業の経済競争力の維持、家計の財政的安定という喫緊の課題との間に存在する、本質的なトレードオフを示しています 3。賦課金の増加は、エネルギー転換に伴うコストが、全ての電力消費者に直接的に、そして目に見える形で転嫁されていることを意味します。

この状況は、野心的な脱炭素化目標と、産業界および家庭の経済的負担を抑制するという重要な要請との間で、いかに効果的なバランスを取るかという、政策上の根本的な課題を浮き彫りにしています。2026年度の予測は、この内在する緊張関係の中で、賦課金がエネルギー転換のコストをどのように反映しているかを明確に示します。

2026年度の再エネ賦課金単価の将来的な推移は、世界のエネルギー市場の変動、再生可能エネルギー技術の急速な進歩、および国内政策の動的な変化といった複雑な要因の相互作用により、本質的に不確実です。単一の予測に依存することは、堅牢な戦略的計画にとって不十分であり、誤解を招く可能性があります。

楽観、標準、悲観の複数のシナリオを提示することは、潜在的な結果の全範囲を理解するための包括的かつ堅牢な枠組みを提供します。このアプローチにより、関係者は以下のことが可能になります。

  • リスクエクスポージャーの評価: さまざまな不利な条件下での潜在的な財政的負担を定量化し、準備することで、緊急時計画の策定を可能にします。

  • 機会の特定: 自家消費やエネルギー効率への投資の増加、あるいは新しいビジネスモデルの出現など、コスト削減につながる条件を認識し、活用します。

  • レジリエンスの向上: さまざまな将来の状態に効果的に対応できる柔軟で適応性の高い戦略を開発し、受動的な問題解決から、先見性に基づいた積極的な計画へと移行します。

  • 政策提言への情報提供: 賦課金に影響を与えるさまざまな要素を深く理解することで、政策議論や提言活動に、より情報に基づいた、影響力のある形で関与することが可能になります。

複数のシナリオを強調する要求は、単なる数値予測を超えた、深い不確実性下での戦略的計画の必要性を示しています。将来の成果が不明であるだけでなく、根底にある確率分布や因果関係さえも不確実である、あるいは議論の余地がある状況を指します。エネルギー政策や事業戦略のような重要な分野では、目標は「唯一の」未来を予測することではなく、むしろ「複数のあり得る」未来に備えることです。

したがって、本報告書で提示されるシナリオは、より広範な可能性とその影響を考慮することを促すことで、戦略的思考と意思決定のプロセスを導く不可欠な計画ツールとして機能します。

2. 再エネ賦課金の理解:メカニズムと歴史的背景

再エネ賦課金単価の算定式と主要構成要素

再エネ賦課金単価は、経済産業省によって毎年決定され、以下の算定式に基づいて算出されます 5。この構成要素を理解することは、将来の予測にとって極めて重要です。

(① 買い取り費用 - ② 回避可能費用 + 指定機関の事務費) ÷ ③ 販売電力量

  • ① 買い取り費用: これは、電力小売事業者がFIT/FIP制度に基づいて再生可能エネルギーを購入するために発生した総費用です。この費用は主に、購入された再生可能エネルギーの総量と、それが取得された単位あたりの固定買取価格(FIT)またはプレミアム(FIP)によって決まります。より多くの再生可能エネルギー設備が導入され、発電量が増加するにつれて、この費用は増加する傾向にあります。

  • ② 回避可能費用: これは、再生可能エネルギーを購入しなかった場合に、電力小売事業者が従来の(通常は化石燃料による)発電所で同量の電力を発電するために発生したであろう費用を指します。この要素は賦課金と逆相関の関係にあります。化石燃料価格が高い場合、従来の発電を「回避」することによる費用も高くなり、賦課金で回収する必要のある純費用が実質的に減少するため、賦課金単価は低くなります 6。逆に、化石燃料価格が低い場合、この「回避可能費用」は減少し、賦課金に上昇圧力がかかります。

  • 指定機関の事務費: これは、指定機関によるFIT制度の運営管理に関連する費用です。この要素は通常、全体の計算において比較的小さく安定した要因です。

  • ③ 販売電力量: これは、日本国内で消費者に販売された総電力量です。純費用(買い取り費用 – 回避可能費用 + 事務費)は、この総販売電力量に分配されます。販売電力量が多いほど、賦課金の単位あたりの負担は希薄化され、少ないほど集中します。

表1:再エネ賦課金単価の推移(2023年度~2025年度確定値)

以下の表は、再エネ賦課金単価の確定値を提示し、2026年度の予測の基礎となるものです。

会計年度(適用期間)

再エネ賦課金単価(円/kWh、税込)

2023年度(2023年5月~2024年4月)

1.40 6

2024年度(2024年5月~2025年4月)

3.49 2

2025年度(2025年5月~2026年4月)

3.98 2

この表は、過去の会計年度の公式に発表された具体的な数値を提供し、将来の予測の検証可能な基礎となります。時系列でデータを提示することで、2023年度から2024年度、そして2025年度にかけて賦課金が大幅かつ急速に増加したことが視覚的および数値的に示されます。これは、現在の賦課金の上昇傾向を明確に示し、2026年度の詳細な予測がなぜ極めて重要であるかを強調しています。単位あたりの賦課金を明確に表示することで、読者は財政的負担の大きさとその最近のエスカレーションを直感的に把握でき、電力消費者に与える経済的影響の明確な文脈を提供します。

過去の傾向と影響要因の分析(2023年度~2025年度)

2023年度から2025年度にかけての期間は、再エネ賦課金単価に劇的な変化が見られました。2023年度に1.40円/kWhへと急減したのは、一般的な上昇傾向の中での異例の出来事でした 10。この一時的な減少は、主に化石燃料の市場価格が異常に高騰したことに起因します 6。この期間中、算定式の「回避可能費用」の要素が、従来の発電コストの高騰により大幅に増加したため、賦課金を通じて回収する必要のある純費用が減少しました。

しかし、この傾向は2024年度に急激に反転し、単価は3.49円/kWhに跳ね上がり、さらに2025年度には3.98円/kWhと過去最高を記録しました 9。この増加は、主に化石燃料価格がピークレベルから安定し、その後下落したことの結果です。燃料価格が緩和されるにつれて、「回避可能費用」は減少しました(2024年度には約1.5兆円減少 2)。これにより、賦課金を通じて回収すべき純費用が増加し、単価を押し上げました。これは、賦課金が世界のエネルギー市場の動向に深く影響されることを示しています。

この歴史的データは、化石燃料価格と再エネ賦課金との間に、直感に反する逆相関関係があることを明確に示しています。

すなわち、化石燃料価格が「高い」と再エネ賦課金は「下がる」可能性があり、化石燃料価格が「安定または低い」と再エネ賦課金は「上がる」可能性があります 2。このメカニズムはしばしば誤解されますが、正確な予測を行う上で極めて重要です。

「回避可能費用」は緩衝材として機能します。従来の発電コストが高い(燃料費が高い)場合、再生可能エネルギーによる化石燃料発電回避の「価値」が高まり、賦課金で回収する必要のある純費用が実質的に減少します。逆に、化石燃料価格が下落すると、この「回避された費用」のメリットが減少し、単位あたりの賦課金が直接増加します。この複雑な動態が、2026年度の予測に引き続き影響を与える主要な要因となります。

3. 2026年度の再エネ賦課金を左右する主要要因

3.1. FIT/FIP制度の進化と買取費用

FIPへの移行と新たなFIT制度

日本は、FIT制度からFIP制度への重要な移行を進めており、2030年までにほぼ全ての再生可能エネルギーがFIPに統合されることを目指しています 21。2026年度には、FIP制度の適用範囲が50kW以上の太陽光発電プロジェクトに拡大される予定です 21。この転換は、新規の再生可能エネルギープロジェクトが、固定価格ではなく、変動する卸電力市場価格にプレミアムが上乗せされる形で収益を得ることを意味します。これにより、発電事業者は市場シグナルに晒され、効率的な運用が促されることを目指しています。

さらに、2026年度から適用される住宅用太陽光(10kW未満)の新たなFIT制度では、最初の4年間は高めの買取価格(24円/kWh)が設定され、その後は大幅に低い価格(8.3円/kWh)に引き下げられる構造が導入されます 21。同様の構造は事業用屋根置き太陽光にも適用されます(最初の5年間19円/kWh、その後8.3円/kWh) 21。これは初期投資を促すことを目的としていますが、長期的な経済的インセンティブは、余剰電力を系統に売電するよりも自家消費へと根本的にシフトします。

FITからFIPへの戦略的な移行とFIT制度の改定は、再エネ賦課金にかかる長期的な固定価格負担を軽減するための政策的な意図を示しています。発電事業者を市場価格変動に晒す(FIP)ことや、小規模システムで自家消費を奨励する(新たなFIT制度)ことで、政府は全体的な「買取費用」の構成要素を時間とともに削減しようとしています。

しかし、新規住宅用設備に対する初期の高額なFIT価格は、短期的に買取費用に寄与する可能性があります。長期的な影響は、新規再生可能エネルギーの単位あたりコストの低下と、支援を必要とする再生可能エネルギーの「総量」の増加との間の複雑なバランスにあります。この移行は、より市場志向の再生可能エネルギー部門を育成することを目指していますが、同時に、より多くの市場リスクを発電事業者に移転し、消費者が自身のエネルギー使用をより積極的に管理することを促します。

再生可能エネルギー導入目標と普及ペースの影響

日本の第6次エネルギー基本計画では、2030年までに再生可能エネルギーが電源構成の36~38%を占めるという野心的な目標が掲げられています 3。この目標達成には、太陽光(23~29%)と風力(4~8%)を中心に、引き続き高水準の再生可能エネルギー導入が必要です 3

国際エネルギー機関(IEA)は、日本の再生可能エネルギー容量が2026年までに46GW増加すると予測しており、太陽光と風力発電の両方で大幅な成長が見込まれています 25。この成長の大部分は、完了期限に間に合わせるために急ピッチで進められている、FIT制度で既に承認されたプロジェクトによってもたらされるとされています 25。さらに、経済産業省は2026年から、化石燃料の利用が多い約12,000の工場や店舗を持つ事業者に対し、屋根置き太陽光パネルの導入目標策定を義務付ける予定であり、導入をさらに加速させるでしょう 26

新規導入されるFIT/FIPプロジェクトの単位あたりコストは、古い高コスト契約と比較して一般的に減少傾向にありますが 21、新規再生可能エネルギー容量の純粋な「量」の増加 25 は、再エネ賦課金の「買取費用」構成要素全体に依然として大きく寄与します。たとえ「新規」プロジェクトの平均単位あたり買取コストが低くなったとしても、多様な契約の下で買い取られる再生可能エネルギーの「総量」が増加しているため、総「買取費用」には上昇圧力がかかります 5

これは、脱炭素化に向けた国家的な推進が、必要不可欠である一方で、少なくとも古い高コストのFIT契約が満了するまでは、賦課金によって賄われる総コストの継続的な、あるいは増加する負担を本質的に伴うという緊張関係を生み出しています。

3.2. 燃料価格の動向と回避可能費用

LNG、原油、石炭の世界的な価格見通し

世界の化石燃料価格は、「回避可能費用」の構成要素に直接的かつ大きく影響し 6、したがって再エネ賦課金に決定的な逆方向の影響を与えます。

  • LNG(天然ガス): Trading Economicsは、ヘンリーハブ天然ガス価格が12ヶ月後(2025年7月時点から)に約4.28ドル/MMBtuになると予測しており 29、米国エネルギー情報局(EIA)は2026年にヘンリーハブが4.40ドル/MMBtuになると予測しています。これは主に米国のLNG輸出増加が予想されるためです 30。しかし、世界銀行の2026年の日本向けLNG価格予測は11.5ドル/MMBtuであり、2025年(12.5ドル)および2024年(12.8ドル)からわずかに減少すると見られています 30。この乖離は、地域市場の特殊性や需給動向を浮き彫りにしています。

  • 原油(ブレント): EIAは、ブレント原油価格が2026年に平均58ドル/バレルになると予測しており、2025年の予測69ドル/バレルから顕著な減少です。この予想される下落は、世界的な原油在庫の大幅な増加と地政学的リスクプレミアムの緩和に起因するとされています 31

  • 石炭: 日本に関する2026年の具体的な予測は限られていますが、J.P.モルガンの主要石炭生産者(グレンコアなど)に関する見通しは、2026年に石炭価格が「逆風」となる可能性を示唆しており 34、最近の高値からの安定化、あるいはわずかな下落の可能性を示唆しています。

表2:主要燃料価格予測(2026年度)

以下の表は、再エネ賦課金の「回避可能費用」構成要素の算出に直接入力される主要な化石燃料の予測価格をまとめたものです。

燃料種別

出典/予測モデル

2026年度予測価格

LNG(日本)

世界銀行

約11.5ドル/MMBtu 30

原油(ブレント)

EIA

約58ドル/バレル 31

石炭

アナリストコンセンサス/定性的評価

安定から微減 34

これらの具体的な価格予測は、「回避可能費用」の計算に直接的かつ定量的な入力となります。これらを明確に提示することで、賦課金予測の透明性と再現性が向上します。これらの燃料価格予測に内在する範囲と不確実性(例えば、ヘンリーハブと日本向けLNG価格の差、または様々な原油価格の見通し)は、賦課金の楽観、標準、悲観シナリオを区別するために必要な基礎を提供します。これらの価格に関する異なる仮定は、「回避可能費用」の異なる値に直接つながります。予測があるにもかかわらず、世界のエネルギー市場に内在する変動性 31 は主要なリスク要因です。この表は、外部の地政学的および経済的影響を受ける具体的な数値を示すことで、この点を暗黙的に強調しています。

燃料価格と回避可能費用の関係

既に述べたように、化石燃料価格の低下(2026年の原油、および日本向けLNG輸入で予測されているように)は、「回避可能費用」の「減少」につながります 6。これは、従来の電源からの発電コストが低くなるため、再生可能エネルギーによる「回避」のメリットが減少するためです。

これは、明確に説明されるべき重要かつしばしば直感に反する点です。もし世界の化石燃料価格が2026年に安定または下落すると一部の予測が示唆している場合 30、賦課金計算における「回避可能費用」の構成要素は減少します。その結果、再エネ賦課金で回収する必要のある純費用が「増加」し、単位あたりの単価に大きな上昇圧力がかかることになります。この動態は、世界の化石燃料価格が安くなる傾向が、一般的にはエネルギー消費者にとって好ましいにもかかわらず、日本の再エネ賦課金制度の特定の設計により、逆説的に賦課金単価の上昇につながる可能性があることを意味します。

3.3. 電力需要と供給のトレンド

全国電力需要予測

日本の全体の電力需要は、人口減少、省エネルギー努力、経済活動といった複雑な要因の相互作用によって影響を受けます。

  • 家庭用需要: 人口減少と、省エネルギー家電や慣行の普及により、引き続き減少すると予想されます 35

  • 業務用需要: 経済成長と一部のセクターでの活動増加が、省エネルギー対策の影響を相殺し、比較的安定して推移すると予測されます 35

  • 産業用需要: 産業生産水準の回復に加え、データセンターや半導体工場といったエネルギー集約型施設の新規建設および拡張計画により、大幅に増加すると予想されます 35。このセクターは電力消費の主要な成長分野です。

「販売電力量」(総電力販売量)は賦課金計算の分母として機能します。家庭用需要は減少するかもしれませんが、データセンターや半導体製造といったエネルギー集約型セクターからの産業用需要の大幅な増加 35 は、総電力販売量を全体的に増加させるか、少なくとも安定させる可能性があります。分母が大きくなれば、原則として単位あたりの賦課金負担は希薄化されます。しかし、「買取費用」(再生可能エネルギー導入量の増加によるもの)の増加が「販売電力量」の伸びを上回る場合、単位価格は依然として上昇します。賦課金への最終的な影響は、これらの相反する力の相対的な大きさによって決まります。

再生可能エネルギー発電量の予測

再生可能エネルギー発電量は、新規導入と脱炭素化目標への国家的なコミットメントにより、疑いなく上昇傾向を続けると予想されます 16

IEAは、日本の総再生可能エネルギー容量が2026年までに46GW増加すると予測しています 25。この成長は主に太陽光と風力発電によって牽引され、その大部分はFIT制度の下で既に承認されたプロジェクトによってもたらされます 25。FITおよびPPA(電力購入契約)設備による総発電量は、2025年度までに224.6TWhに達し、総発電量の約22%を占めると予測されており、そのうち太陽光発電が10%を占めます 37。この量は2026年度も増加し続けると予想されます。

再生可能エネルギー発電量の継続的かつ加速的な増加 25 は、賦課金の「買取費用」構成要素に直接寄与します。新規FIT/FIPプロジェクトの単位あたりコストは時間とともに一般的に減少していますが 21、様々なFIT/FIP契約(古い高価格の契約を含む)の下で買い取られる電力の「総量」は増加しています。これは、新規再生可能エネルギーの単位あたりコストが低下しているにもかかわらず、全体的な「買取費用」は引き続き上昇する可能性が高いことを意味します。これにより、脱炭素化に向けた推進が、単位あたりコストの削減努力にもかかわらず、賦課金全体の負担が増加する可能性があるという根本的な緊張関係が生じます。

3.4. 政策・規制環境

政府の取り組み(例:GX推進、第7次エネルギー基本計画)

日本政府は、2026年度からの排出量取引制度の本格稼働や化石燃料賦課金の導入検討を含む、グリーン・トランスフォーメーション(GX)政策を積極的に推進しています 38。これらの政策は、経済全体の脱炭素化努力を加速させることを目的としています。

2025年2月に策定された第7次エネルギー基本計画は 16、再生可能エネルギーの最大限の導入を強調しつつ、同時に国民負担の抑制を図ることを掲げています。この計画では、2040年度の電源構成において再生可能エネルギー比率を約4~5割程度とする野心的な目標が示されています 16

政府が掲げる「再エネ最大限導入と国民負担抑制の両立」という政策 16 は、持続的かつ内在的な矛盾を浮き彫りにしています。議論されたメカニズム(例えば、再生可能エネルギー量の増加、回避可能費用減少の可能性)は、これら二つの目標がしばしば相反することを示唆しています。さらに、GXイニシアティブは脱炭素化を促進する一方で、賦課金に直接影響しないとしても、新たなコスト(例えば、炭素価格、化石燃料賦課金)を導入し、全体の電気料金に間接的に影響を与えたり、負担を転嫁したりする可能性があります。政策立案者にとっての根本的な課題は、再エネ賦課金や全体の電気料金を不均衡に増加させることなく、野心的な脱炭素化目標を達成するための革新的かつ効果的な方法を見出すことです。

さらなる政策調整の可能性

次世代電力系統WG(ワーキンググループ)など、様々な政府審議会では、国民負担を抑制するための対策が議論されています 16。これには、系統用蓄電池の運用最適化や出力抑制問題への対応が含まれます。

2026年度の注目すべき政策変更として、出力抑制の優先順位がFITからFIPプロジェクトへシフトする計画があります 41。この変更は、一部の再生可能エネルギー発電事業者の収益安定性に影響を与え、将来の投資判断、ひいては再生可能エネルギー統合の全体コストに間接的に影響を与える可能性があります。

「電力ネットワークの次世代化」や「蓄電池等の調整力の確保」 42 への重点は、長期的な観点から極めて重要です。変動性の高い再生可能エネルギー(太陽光、風力)が系統に占める割合が増加するにつれて、系統の安定性維持は大きな課題となります。系統の近代化とエネルギー貯蔵への投資自体はコストを伴いますが、高コストな出力抑制を最小限に抑え、系統効率を向上させることで、全体的なシステムコストを削減することも可能です。これにより、代替の調整メカニズムの必要性を減らしたり、再生可能エネルギー資産のより効率的な利用を可能にしたりすることで、将来の賦課金増加を緩和できる可能性があります。これは、系統インフラと市場メカニズム(容量市場など 44)に関する将来の政策調整が、2026年度の計算に直接的かつ即座の影響を与えることが完全に定量化されていなくても、賦課金の長期的な推移に重要な役割を果たすことを示唆しています。

4. 2026年度再エネ賦課金単価予測:シナリオ分析

シナリオ予測の方法論

2026年度の予測は、中核となる賦課金算定式「(買取費用 – 回避可能費用 + 事務費)÷ 販売電力量」を適用して導出されます。各シナリオでは、セクション3の詳細な分析と提供された調査情報に基づいて、主要な構成要素に対して具体的な仮定が設定されます。

  • 買取費用: 新規再生可能エネルギー導入量の予測 25 と、これらの新規プロジェクトに対するFIT/FIP単位価格の推移 21 に影響されます。

  • 回避可能費用: 主にLNG、原油、石炭に関する世界の化石燃料価格予測 29 によって決定されます。

  • 販売電力量: 家庭用、業務用、産業用のトレンドの相互作用を考慮した全国電力需要予測 35 に基づきます。

  • 注:事務費は通常、小さく比較的安定した構成要素であり、本予測の目的では、全てのシナリオで一定と仮定します。

4.1. 標準シナリオ

仮定

  • FIT/FIP買取費用: 再生可能エネルギー導入量の着実な増加 25 により総買取費用は増加し続けると仮定します。これは、新規プロジェクトの単位あたりFIT/FIP価格の段階的な低下 21 によって部分的に相殺されます。2026年の新規FIT制度における住宅用・事業用太陽光の初期高価格 23 は、全体の買取費用に寄与します。

  • 燃料価格(回避可能費用): 2026年の現在のEIAおよび世界銀行の見通し 30 と整合する、世界の化石燃料価格の緩やかな下落または安定を予測します。これにより回避可能費用は減少し、賦課金に上昇圧力がかかります。

  • 販売電力量: データセンターや半導体工場による産業用需要の増加が、省エネルギー化や人口動態の変化による家庭用および一部業務用セクターの減少をほぼ相殺し、総電力販売量は全体的に安定するか、わずかに増加すると予測します 35

  • 政策: 現在の政策経路(GX推進や第7次エネルギー基本計画を含む)が、既に計画されている以上の大きな予期せぬ変化や、大幅な新規コスト抑制策なしに継続すると仮定します 16

予測単価

これらの仮定に基づくと、標準シナリオでは、再エネ賦課金単価は2025年度の3.98円/kWhの水準に留まるか、わずかに上回ると考えられます。電力中央研究所などの機関による2030年のピーク予測 7 と整合し、

4.00~4.10円/kWhに達する可能性があります。

標準シナリオが現実のものとなれば、4.00~4.10円/kWh程度の賦課金単価は、当面の「ニューノーマル」となるでしょう。これは、最近の急激な上昇が一時的な変動ではなく、日本のエネルギーミックスにおける構造的な変化と、再生可能エネルギーの現在の資金調達メカニズムに伴う永続的なコストを反映していることを意味します。このため、企業や家庭は、この持続的な高負担を長期的な財務計画に組み込む必要があり、急速な過去の低水準への回帰を期待すべきではありません。

4.2. 楽観シナリオ

仮定

  • FIT/FIP買取費用: 再生可能エネルギー設備コストの予想以上の削減が進み、新規プロジェクトの単位あたりFIT/FIP価格がさらに低下すると見込みます 21。このシナリオでは、古い高コストFITプロジェクトの迅速な廃止またはリパワリング、および出力抑制と関連するシステムコストを最小限に抑える高効率な系統統合 42 も想定されます。

  • 燃料価格(回避可能費用): 逆説的ですが、地政学的な不安定性や予想を上回る世界的な需要などの要因により、世界の化石燃料価格が高水準を維持するか、さらに上昇すると仮定します。これにより回避可能費用は「増加」し、賦課金で回収する必要のある純費用が「減少」します 6

  • 販売電力量: 予想を上回る経済成長と産業拡大により、全体の電力販売量が大幅に増加すると予測します。この分母の拡大により、賦課金負担はより効果的に希薄化されます 35

  • 政策: FIP制度への迅速かつ円滑な移行、効率的な系統のアップグレード、デマンドサイドマネジメントプログラムの成功裏な実施など、コスト抑制のための非常に効果的かつ迅速な政策措置が講じられると仮定します 21

予測単価

これらのより好ましい条件下では、再エネ賦課金単価は2025年度の水準から安定するか、わずかに減少する可能性があり、3.80~3.90円/kWhに低下する可能性があります。

賦課金に関する「楽観」シナリオの逆説的な性質を強調することが重要です。それは、賦課金を「低く」するために、化石燃料価格が「高く」なることを意味します。これは、賦課金メカニズムが、化石燃料価格が高い場合に高コストとなる従来の発電との競争において、再生可能エネルギーを競争力のあるものにするように設計されているためです。もし化石燃料が安価になれば、「回避可能費用」のメリットが縮小し、賦課金は高くなります。したがって、エネルギーシステム全体にとっての真の「楽観」(例えば、安価で豊富でクリーンなエネルギー)は、現在の計算メカニズムの下での賦課金「単価」の低下に関する「楽観」とは必ずしも一致しないというニュアンスは、専門家レベルの理解と誤解の回避のために不可欠です。

4.3. 悲観シナリオ

仮定

  • FIT/FIP買取費用: 再生可能エネルギー設備コストの低下が予想よりも遅れるか、FIP移行や系統統合に遅延が生じ、全体的なシステムコストが高くなると仮定します。また、新規導入量が高水準で推移し、総買取費用に引き続き大きく寄与します。

  • 燃料価格(回避可能費用): 世界経済の減速や供給過剰により、世界の化石燃料価格が大幅に下落するか、長期にわたって低水準で推移すると予測します。これにより回避可能費用が大幅に「減少」し、賦課金で回収する必要のある純費用が「増加」します 6

  • 販売電力量: 経済成長の鈍化、より積極的な省エネルギー傾向、または人口減少の影響がより顕著になり、総電力販売量が停滞するか、あるいは減少すると予測します。この分母の縮小により、賦課金負担が単位あたりの電力量に集中し、単価を押し上げます 35

  • 政策: コスト抑制に対する政策対応が非効果的または遅延するか、系統安定性、エネルギー安全保障、またはエネルギー転換の他の側面に関連する新たな予期せぬコストが発生すると仮定します。

予測単価

このより困難なシナリオでは、再エネ賦課金単価は顕著に増加し、4.20~4.50円/kWh、あるいは一部の研究機関による2030年予測の上限に近づく可能性さえあります 40

悲観シナリオは、世界経済の状況(例:景気後退による産業活動の減少、化石燃料需要と価格の低下)が、再エネ賦課金メカニズムを通じて国内のエネルギー負担を逆説的に悪化させる可能性を浮き彫りにします。これは、現在のシステムが外部ショックに対して脆弱であることを強調し、これらの複雑な相互依存関係を考慮した堅牢なリスク管理戦略の重要性を示しています。また、世界的な「安価なエネルギー」環境が、賦課金の構造的設計により、国内の「安価な電気料金」に必ずしもつながらない可能性も示唆しています。

図2:2026年度再エネ賦課金単価予測(シナリオ別)

(ここに、2023年度から2025年度の確定値、そして2026年度の楽観、標準、悲観の3つのシナリオを折れ線グラフで示した図を挿入)

このグラフは、再エネ賦課金単価の2023年度から2025年度までの実績値と、2026年度の楽観、標準、悲観の3つの予測シナリオを視覚的に表現します。

  • X軸: 会計年度(2023、2024、2025、2026)

  • Y軸: 再エネ賦課金単価(円/kWh)

  • 線:

    • 実績値(2023、2024、2025年の確定値を結ぶ一本線)

    • 楽観シナリオ(2025年から予測される2026年の値へ伸びる線)

    • 標準シナリオ(2025年から予測される2026年の値へ伸びる線)

    • 悲観シナリオ(2025年から予測される2026年の値へ伸びる線)

グラフは、歴史的な傾向(例えば、2023年から2025年にかけての急激な上昇)を直感的かつ視覚的に理解することを可能にし、2026年の将来の可能性の範囲を明確に示します。また、2026年の3つのシナリオの分岐を明確に示し、内在する不確実性と潜在的な影響を具体的に、かつ容易に理解できるようにします。この視覚的なツールは、複雑な予測を多様な聴衆に伝える上で強力であり、詳細なテキスト分析よりもグラフによる表現を好む人々にとっても効果的です。それは、単一の固定された予測ではなく、様々な潜在的な結果に備える必要性という本報告書の中核的なメッセージを効果的に強化します。

表4:2026年度 再エネ賦課金単価予測(シナリオ別)

以下の表は、2026年度の再エネ賦課金単価の予測値を、各シナリオ別に正確な数値で示します。

会計年度

シナリオ

予測再エネ賦課金単価(円/kWh、税込)

2026

楽観

3.80~3.90

2026

標準

4.00~4.10

2026

悲観

4.20~4.50

この表は、各シナリオの正確な数値予測を提供し、ユーザーによるその後の定量分析、財務モデリング、または詳細な戦略的計画にとって不可欠です。これらの具体的な値は、企業、政府機関、その他の関係者による様々な内部モデル、予算計画プロセス、およびリスク評価に直接統合できます。これらは、シナリオベースの財務影響分析のための具体的な数値を提供します。折れ線グラフが傾向と範囲の強力な視覚的概要を提供する一方で、この表は正確な数値を提供し、詳細な分析や一般的な傾向だけでなく正確なデータポイントを必要とする人々にとって重要です。

5. シナリオ変動がステークホルダーに与える影響

家庭および企業への影響(電気料金、事業コストなど)

  • 家庭: 標準的な家庭(月間約260kWh消費)は、賦課金が2025年度の1,034円 11 を上回る場合、月々の電気料金に直接的な増加を経験します。例えば、賦課金が4.00円/kWhであれば月1,040円、4.50円/kWhであれば月1,170円となります。これは、一般的なインフレによって既に圧迫されている家計に、継続的かつ増大する財政的負担をもたらします 10

  • 企業: 製造業、データセンター、商業施設などの大規模電力消費者にとって、単位賦課金のわずかな増加でさえ、莫大な追加事業コストに転じます。例えば、年間50万kWhの電力を使用する企業は、2.09円/kWhの増加で年間約100万円の追加負担が発生します 46。賦課金が4.50円/kWhに達した場合、月間30,000kWhを消費する企業は、月額135,000円、年間1,620,000円の費用負担となります(2020年水準の年間1,072,800円を大幅に上回ります 7)。

家庭や企業への直接的な財政的影響 7 は、単に電気料金が高くなるというだけではありません。エネルギー集約型企業にとって、賦課金を含む電気料金の高騰は、事業利益率と国際競争力を直接的に損ないます。これは、日本への投資減少や生産拠点の移転につながる可能性もあります。家庭にとっては、負担の増加は可処分所得を減少させ、低所得世帯に不均衡な影響を与えます。この持続的な財政的圧力は、さらなる政府介入や、現在の再生可能エネルギー資金調達メカニズムの根本的な再評価を求める国民的需要を強める可能性があります。

リスク(財政負担、競争力など)と機会(自家消費への投資、エネルギー効率など)

  • リスク:

    • 財政負担: 賦課金の継続的な高水準または上昇は、消費者と企業双方の財政的負担を悪化させ、全体的なインフレ圧力に寄与し、経済の柔軟性を低下させます。

    • 競争力: 産業部門、特にエネルギー集約型産業にとって、賦課金を含む高騰した電気料金は、国際競争力を著しく損ない、輸出能力や海外からの投資誘致に影響を与える可能性があります。

    • 国民の受容性: 賦課金の持続的かつ顕著な増加は、再生可能エネルギー導入への国民の支持を低下させ、将来の政策実施や広範なエネルギー転換を複雑にする可能性があります。

  • 機会:

    • 自家消費: 賦課金の上昇と一般的な高い電力市場価格の組み合わせにより、再生可能エネルギーの自家消費(例:屋根置き太陽光発電システムと蓄電池の組み合わせ)は、経済的にますます魅力的な選択肢となっています 23。2026年の新たなFIT制度は、長期的な売電価格が大幅に引き下げられるため、余剰電力を系統に売電するよりも自家消費を最大化する経済的インセンティブをさらに強化します 23

    • エネルギー効率: 電気料金の上昇は強力な経済的シグナルとして機能し、企業と家庭の両方に対し、省エネルギー技術への投資、より効率的なプロセスの導入、エネルギー意識の高い行動の採用を促す強力なインセンティブとなります 37。単位あたりのコストが高いことを考慮すると、わずかな消費量の削減でも顕著な節約につながります。

    • 分散型エネルギーシステム: 高い賦課金の傾向は、分散型エネルギーシステムへの移行を暗黙的に強化します。消費者は「プロシューマー」(エネルギーの生産者と消費者)になる動機をますます強め、系統電力への依存度を減らし、結果として賦課金へのエクスポージャーを減らします。

再エネ賦課金は「負担」と認識されがちですが、同時に強力な経済的シグナルとしても機能します。賦課金自体によって部分的に引き起こされる系統電力コストの増加は、消費者と企業が系統供給への依存度を減らすための説得力のある財政的インセンティブを生み出します。これは、太陽光発電や蓄電池などのメーター内ソリューションへの投資を直接加速させ 23、より広範な省エネルギー対策を促進します。したがって、再生可能エネルギー開発を資金提供するために当初考案された賦課金は、市場ベースのシグナルを通じて、さらなる再生可能エネルギーの導入と省エネルギーを間接的に推進し、需要側からエネルギーランドスケープを変革する可能性があります。

6. 戦略的考察と提言

企業および消費者の負担軽減のための提言

  • 再生可能エネルギーの自家消費を優先する: 適切な敷地(屋根、未利用地など)を持つ事業体にとって、太陽光発電システムと蓄電池への投資は、経済的に最も合理的な選択肢となりつつあります。2026年の新たなFIT制度は、長期的な売電価格が大幅に引き下げられるため、余剰電力を系統に売電するよりも自家消費を最大化する経済的優位性をさらに強化します 23。この戦略は、系統電力への依存度を直接減らし、結果として再エネ賦課金へのエクスポージャーを低減します。

  • エネルギー効率の向上: 廃棄物や非効率な領域を特定するために包括的なエネルギー監査を実施します。エネルギー効率の高い機器へのアップグレード、建物の断熱改善、スマートエネルギー管理システムの導入に投資し、全体の電力消費量を削減します 51。単位あたりのコストが高いことを考慮すると、わずかな消費量の削減でも顕著な節約につながります。

  • デマンドサイドマネジメント(DSM)の活用: 電力会社が提供するデマンドレスポンスプログラムに積極的に参加するか、電力集約型オペレーションを電力価格(卸売市場価格を含む)が低いオフピーク時間帯にシフトすることを検討します。これにより、エネルギー使用パターンを最適化し、コストを削減できます。

  • 賦課金減免制度の活用: 適格な大規模産業消費者にとって、再エネ賦課金減免制度を積極的に活用することが重要です 7。これらの減免の厳格な基準を満たすことで、適格な企業は財政的負担を大幅に、場合によっては40%または80%も削減できます 46

  • エネルギー調達の多様化: 再生可能エネルギー発電事業者との直接的な電力購入契約(PPA)の締結など、代替的なエネルギー調達戦略を検討します。PPAは、より安定した、場合によってはより低い長期的な電気料金を提供し、卸売市場の変動や賦課金からある程度の保護を提供できます。

持続可能なエネルギー転換と負担抑制のための政策提言

  • FIP移行と市場統合の加速: 全ての適格な再生可能エネルギープロジェクトについて、FIP制度への円滑、迅速、かつ包括的な移行を確実に実施します。これにより、より市場主導型の開発が促進され、固定価格契約の長期的な負担が軽減され、再生可能エネルギー統合の効率が向上します 21

  • 系統の近代化と柔軟性への戦略的投資: 系統インフラのアップグレード、地域間の連系線の強化 52、および先進的なエネルギー貯蔵ソリューションの導入 16 への投資を優先し、加速させます。これらの投資は、大量の変動型再生可能エネルギーを効率的に統合し、高コストな出力抑制を最小限に抑え、最終的に全体的なシステムコストを削減するために不可欠であり、将来の賦課金増加を間接的に緩和できます。

  • 賦課金算定メカニズムの定期的見直し: 「回避可能費用」の算定方法を定期的かつ透明性のある形で見直し、現在の市場実態を正確に反映し、化石燃料価格が低い場合に意図せず逆インセンティブや過度な負担を生み出さないようにします。負担が持続不可能になった場合には、代替の資金調達メカニズムの検討や、賦課金への動的な上限設定の導入を検討します。

  • 再生可能エネルギー技術革新の促進: 次世代の再生可能エネルギー技術(例:洋上風力、地熱、先進的な蓄電池)の研究開発と商業展開への強力な支援を継続します 53。これらの技術の根本的なコスト削減は、長期的な負担軽減とエネルギー安全保障の強化にとって鍵となります。

  • 国民対話と透明性の強化: エネルギー転換に内在するコスト、利益、およびトレードオフについて、継続的で透明性のある、アクセスしやすい国民対話を促進します。必要な政策調整に対する国民の理解と幅広い支持を確保することは、日本のエネルギー戦略の長期的な成功と持続可能性にとって極めて重要です。

これらの提言は、単に「賦課金を削減する」という目標を超え、エネルギーシステム全体の包括的な最適化を提唱するものです。再エネ賦課金は目に見えるコストではありますが、最終的にはより広範なエネルギー転換の症状であると理解されます。真に持続可能な負担抑制は、効率的な再生可能エネルギー導入、スマートグリッド管理、デマンドサイドの柔軟性、技術革新を含む、エネルギーの「総システムコスト」を削減することによって達成されます。政策努力は、賦課金という目に見える部分だけでなく、エネルギーバリューチェーン全体のコストと効率の根本的な要因に対処する、包括的で統合されたものであるべきです。

7. 結論

2026年度の見通しと主要なポイントの要約

2026年度の再生可能エネルギー賦課金単価は、歴史的に高い水準を維持する可能性が極めて高く、2025年度の確定値である3.98円/kWhからわずかに上昇する可能性が高いと予測されます。標準シナリオでは、単価は4.00~4.10円/kWhの範囲と見込まれます。

この見通しの主な要因は、再生可能エネルギー導入量の継続的かつ大幅な増加(新規プロジェクトの単位あたりコストが低減しているにもかかわらず、総買取費用を増加させる要因)と、賦課金と化石燃料価格との間に存在する逆相関関係です。逆説的ですが、化石燃料コストの低下または安定は、「回避可能費用」の構成要素を減少させることで、賦課金を増加させる可能性があります。

FIP制度への移行と新たなFIT制度の導入は、市場リスクを転嫁し、自家消費を奨励することを目的としていますが、全体的な賦課金負担に対するその完全な緩和効果は、より長期的な期間で顕在化すると予想されます。

積極的な適応と政策対話の必要性

この持続的な高コスト環境を鑑み、全てのステークホルダー、特に企業と家庭は、エネルギー戦略を積極的に適応させることが不可欠です。これには、再生可能エネルギーの自家消費への投資を優先すること、事業運営および家庭におけるエネルギー効率を向上させること、そして利用可能な賦課金減免制度を積極的に活用することが含まれます。

政策立案者は、日本の野心的な脱炭素化目標と、電力消費者への国家負担を抑制するという重要な必要性との間の複雑で継続的なバランスを取るという課題に直面しています。系統の近代化への継続的な戦略的投資、再生可能エネルギーの迅速かつ効率的な市場統合、そして透明性のある包括的な政策対話は、日本の持続可能で公平かつレジリエントなエネルギー転換を確実にするために不可欠です。

結論として、再生可能エネルギーの長期的なビジョンがコスト削減、エネルギー自給率の向上、環境上の利益を約束する一方で、短期から中期的な現実には、多額の初期投資コストとエネルギーシステムの構造的調整が伴うことを力強く再確認すべきです。これらのコストは現在、主に再エネ賦課金によって賄われています。したがって、この重要な移行期間を効果的に乗り切るためには、個々のステークホルダーによる戦略的な先見性と積極的な適応、そして、重要な気候目標を達成しながら負担を管理するためにエネルギーシステム全体を継続的に最適化しようとする機敏で適応的な政策立策が不可欠です。

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著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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