目次
- 1 石油・天然ガスの安定供給確保のための資源外交 世界最高水準の戦略的分析と未来展望
- 2 はじめに:エネルギー安全保障の新次元
- 3 第1章:資源外交の理論的基盤と地政学的分析
- 4 1.1 地政学と地経学の融合理論
- 5 1.2 エネルギー依存度の数理モデル
- 6 1.2.1 依存度計算式
- 7 1.2.2 供給途絶リスク評価モデル
- 8 1.3 チョークポイント分析の重要性
- 9 第2章:日本のエネルギー現状と課題分析
- 10 2.1 日本のエネルギー自給率の現実
- 11 2.2 中東依存の現状と構造的課題
- 12 2.3 LNG市場の価格決定メカニズム
- 13 第3章:原油価格決定メカニズムと経済的影響分析
- 14 3.1 原油価格の形成メカニズム
- 15 3.1.1 OSP(公式販売価格)の計算式
- 16 3.2 石油備蓄の戦略的意義と計算方法
- 17 第4章:包括的資源外交戦略の展開
- 18 4.1 包括的資源外交の概念と実践
- 19 4.1.1 中東諸国との戦略的関係強化
- 20 4.1.2 アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)
- 21 4.2 供給源多角化戦略
- 22 4.2.1 オーストラリアとの戦略的連携
- 23 4.2.2 新興供給国との関係構築
- 24 第5章:エネルギートランジション時代の新戦略
- 25 5.1 カーボンニュートラルと資源外交の融合
- 26 5.2 エネルギートランジションのコスト分析
- 27 5.2.1 トランジションコスト計算モデル
- 28 5.3 重要鉱物資源の戦略的確保
- 29 第6章:国際協力機構とエネルギー外交
- 30 6.1 多国間枠組みを通じた協力
- 31 6.1.1 国際エネルギー機関(IEA)との連携
- 32 6.1.2 APEC(アジア太平洋経済協力)エネルギー大臣会合
- 33 6.2 二国間エネルギー協力の深化
- 34 6.2.1 日・カタール戦略的パートナーシップ
- 35 第7章:技術革新とエネルギー安全保障
- 36 7.1 デジタル技術の活用
- 37 7.2 シミュレーション技術の進化
- 38 7.2.1 シミュレーション精度向上の数理モデル
- 39 第8章:リスク評価と管理戦略
- 40 8.1 地政学リスクの定量化
- 41 8.1.1 リスク評価マトリックス
- 42 8.2 供給途絶への対応戦略
- 43 8.2.1 代替供給ルートの確保
- 44 8.2.2 戦略的備蓄の最適化
- 45 第9章:未来への戦略的提言
- 46 9.1 エネルギー安全保障の新パラダイム
- 47 9.2 包括的資源外交2.0の構想
- 48 9.3 民間セクターとの協働強化
- 49 第10章:実践的行動指針
- 50 10.1 短期的施策(1-3年)
- 51 10.2 中期的施策(3-10年)
- 52 10.3 長期的施策(10-30年)
- 53 第11章:経済効果の定量分析
- 54 11.1 コスト・ベネフィット分析
- 55 11.2 リスクプレミアムの計算
- 56 第12章:技術革新のロードマップ
- 57 12.1 デジタル・エネルギー外交の展開
- 58 12.2 カーボンニュートラル技術の戦略的展開
- 59 結論:新時代のエネルギー安全保障への道筋
- 60 出典・参考文献
石油・天然ガスの安定供給確保のための資源外交 世界最高水準の戦略的分析と未来展望
はじめに:エネルギー安全保障の新次元
現代の国際政治において、エネルギー安全保障は国家存立の根幹を成す戦略的要素として位置づけられている1。特に日本のように石油・天然ガスのほぼ全量を海外からの輸入に依存する国にとって、資源外交は単なる経済政策を超えた国家安全保障の中核的課題である2。本稿では、石油・天然ガスの安定供給確保のための資源外交について、地政学的分析から経済的計量モデル、実践的戦略まで包括的に解析し、未来への新たな洞察を提示する3。
第1章:資源外交の理論的基盤と地政学的分析
1.1 地政学と地経学の融合理論
地政学とは、地理的な条件を軸に国と国との関係性や国家戦略を分析・考察するアプローチであり、「国際政治の地理、特に自然環境(位置、資源、領域など)と外交政策の行為との関係」を研究する学問である4。一方で、地経学は「地政学的目的のために経済を活用すること」という意味で使われ、現状の分析よりも政策の実践に重心がある5。
現代の資源外交においては、この地政学と地経学の融合アプローチが不可欠である5。経済的相互依存には「敏感性」と「脆弱性」の2つの側面があり、ある物資を他国に大きく依存していても代替品の調達が容易にできるなら「敏感」であって「脆弱」ではない5。しかし、脆弱性を突く政策が取られることがあり、経済統合を深めていく際には注意が必要である5。
1.2 エネルギー依存度の数理モデル
エネルギー安全保障の定量的評価には、複数の指標を組み合わせた包括的なアプローチが必要である6。本調査では、エネルギー安全保障という概念を以下の6つの構成要素で評価する6:
エネルギー安全保障指数 = f(①一次エネルギー自給率, ②エネルギー輸入先分散度, ③エネルギー供給源分散度, ④輸送リスク管理度, ⑤国内リスク管理度, ⑥エネルギー効率性)
1.2.1 依存度計算式
エネルギー輸入依存度は以下の式で算出される:
輸入依存度(%) = (輸入量 ÷ 総消費量) × 100
中東依存度については:
中東依存度(%) = (中東からの輸入量 ÷ 総輸入量) × 100
日本の場合、原油の中東依存度は94.5%に達しており、第一次石油危機時の約78%をはるかに上回る水準となっている7。
1.2.2 供給途絶リスク評価モデル
供給途絶リスクは確率動的計画モデルを用いて評価できる8。特定の確率で遷移する状態を考慮することで、主にレジリエンスに関する分析が可能となる8。
リスク評価値 = Σ(途絶確率i × 影響度i × 持続期間i)
1.3 チョークポイント分析の重要性
世界の石油輸送において、ホルムズ海峡とマラッカ海峡は最も重要なチョークポイントである9。ホルムズ海峡は2015年に1,700万バレル/日の石油が通過し、年間に世界で海上輸送される原油及び石油製品の約30%が通過する9。
ホルムズ海峡を通過する原油の約80%が主に中国、日本、インド、韓国及びシンガポールといったアジア市場向けであり9、日本のエネルギー安全保障にとって極めて重要な輸送ルートとなっている9。
第2章:日本のエネルギー現状と課題分析
2.1 日本のエネルギー自給率の現実
日本のエネルギー自給率はOECD諸国中で最も低いレベルにある10。2023年の日本の電源構成は化石燃料由来が66%を超えており3、この状況は目的の達成からはほど遠い状況である3。
石油の上流権益の確保に最重点を置いた戦略構成となっているが、その典型的な戦略目標が「自主開発原油比率」の引上げという古典的な目標にウェイトを置いたものになっている11。
2.2 中東依存の現状と構造的課題
日本の原油輸入に占める中東産の比率は1月から8月までの平均で93.8%と、2019年比で4.9ポイント上昇している7。この背景には、ロシアによるウクライナ侵攻の影響でロシア産原油の輸入が止まり、その代替調達先が中東になったことがある7。
エネがえるのようなエネルギー経済効果シミュレーションツールを活用することで、企業や家庭レベルでのエネルギー依存度低減策の経済効果を定量的に評価することが可能になっている12。特に太陽光発電と蓄電池システムの導入において、67.3%の消費者が経済効果シミュレーション結果が保証される場合にその販売施工店に発注したいと回答しており13、エネルギー自給率向上への具体的な動きが見られる13。
2.3 LNG市場の価格決定メカニズム
LNGの長期契約は原油価格に連動した価格で決定されることが多い14。LNG取引の歴史は原油に比べて短く、1960年代にアルジェリアと英国が世界で初めて売買を交わしたという背景がある14。
アジアプレミアムとして知られる現象では、2011年から2014年ごろにかけて、アジア市場を代表する日本のLNG輸入価格はおおむね100万BTU当り15~17ドル程度であったのに対し、同期間のヨーロッパでの価格は8~11ドル程度、アメリカでの価格は3~4ドル程度となっていた15。
第3章:原油価格決定メカニズムと経済的影響分析
3.1 原油価格の形成メカニズム
原油市場においては、価格は参加者の認識に影響を与える様々な要因によって決まる16。実際の石油需給バランスの変化が価格に影響を与えるのはもちろんだが、OPECの総会での決定事項のように将来の需給バランスに影響を与えるような事項も価格を変化させる要因となる16。
3.1.1 OSP(公式販売価格)の計算式
サウジアラビアのOSPは以下の数式で発表される17:
X月積みのOSP = (X月積みのドバイ + X月積みのオマーン) ÷ 2 + α
この式におけるαの部分が「調整金」であり、アラムコが自分の判断で設定できる部分である17。市況を見て、自国の原油はベースとなるドバイ原油とオマーン原油の平均価格よりもいくら高い/安いという判断を加味する17。
3.2 石油備蓄の戦略的意義と計算方法
石油備蓄は国家エネルギー安全保障の重要な柱である18。現在の備蓄目標は以下の通りである18:
国家備蓄:産油国共同備蓄の2分の1と合わせて輸入量の90日分(IEA基準)程度に相当する量
民間備蓄:消費量の70日分に相当する量
2023年8月末時点での現状値は18:
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国家備蓄:116日分(IEA基準)、136日分(備蓄法基準)
-
産油国共同備蓄:6日分(IEA基準)、7日分(備蓄法基準)
-
民間備蓄:81日分(IEA基準)、93日分(備蓄法基準)
備蓄日数計算式 = 備蓄量 ÷ 日平均消費量
なお、IEA基準はタンクのデッドストックを控除して日数を計算し、備蓄法基準はデッドストック分も含めて日数を計算する点で違いがある18。
第4章:包括的資源外交戦略の展開
4.1 包括的資源外交の概念と実践
カーボンニュートラルの実現に向け、世界の資源・エネルギー情勢はより複雑化・不透明化している2。日本は石油・天然ガスと金属鉱物資源の安定供給確保、さらには脱炭素燃料・技術の将来的な確保を一体的に推進すべく、「包括的資源外交」を展開している2。
4.1.1 中東諸国との戦略的関係強化
世界最大の原油輸出国であり、日本にとっても最大の原油供給国であるサウジアラビアとの間では、「日・サウジ・ビジョン2030」を新たな戦略的パートナーシップの羅針盤として幅広い分野での協力を進めている1。
2021年1月には、梶山経済産業大臣とジャーベル産業・先端技術大臣兼アブダビ国営石油会社(ADNOC)CEO立ち会いの下、経済産業省とADNOC間での燃料アンモニア及びカーボンリサイクルに関する協力覚書を締結した1。
4.1.2 アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)
AETIは、アジアにおけるカーボンニュートラルの実現に向けた、各国のエネルギートランジション(エネルギー転換)に対する日本の包括的な支援策である19。以下の5つの柱に基づいている19:
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カーボンニュートラルに向けたエネルギートランジションのロードマップ策定支援
-
アジア版トランジションファイナンスの考え方の提示・普及
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再生可能エネルギー、省エネ、CCUSなどのプロジェクトに100億ドルのファイナンス支援
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グリーンイノベーション基金の成果を活用した技術開発・実証支援
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脱炭素技術に関する人材育成・知見共有・ルール策定
4.2 供給源多角化戦略
4.2.1 オーストラリアとの戦略的連携
国際石油開発帝石株式会社(INPEX)がオペレータとして主導・操業する初の大型プロジェクトであるイクシスLNGプロジェクトには、JOGMECをはじめ国際協力銀行(JBIC)や日本貿易保険(NEXI)による金融支援を行っている1。
このプロジェクトにより、日本の天然ガス需要の約7%に相当する年間約570万トンのLNGが日本向けに輸出される予定であり、日本のエネルギーの安定的な供給に大きく貢献するプロジェクトとして期待されている1。
4.2.2 新興供給国との関係構築
今後も重要なエネルギー源であるLNGの供給源多角化に向けて、日本への新たなLNG供給源として期待されるモザンビークについては、2019年6月に日本企業も参画するLNGプロジェクトの最終投資決定が行われた1。
モザンビークLNGには三井物産とJOGMECが合弁会社を設立し、事業権益の20%を獲得している20。採掘されたガスは液化され、LNGとして3割が東京ガス、東北電力、JERAなどの日本の企業に供給される予定である20。
第5章:エネルギートランジション時代の新戦略
5.1 カーボンニュートラルと資源外交の融合
世界のエネルギーシステムの電力化が進行していくこと、天然ガス・LNGの役割が大きく増大していることを背景に、これらの供給セキュリティがエネルギー安全保障問題の中心の一つになりつつある21。
IEAは蓄電池の製造等に不可欠なリチウムをはじめ、先進的なエネルギー技術を支える重要で希少な鉱物・物資の供給セキュリティもエネルギー安全保障の重要な一角と考えるスタンスを示している21。
5.2 エネルギートランジションのコスト分析
ASEAN諸国のエネルギートランジションに向けた道筋において、特にゼロエミッションに向かう転換期の排出削減において経済合理的な燃料となりうるガス市場安定とそのための供給能力拡大はエネルギー転換コスト低減に貢献する22。
エネガエルの産業用自家消費型太陽光・蓄電池経済効果シミュレーションによると、エネルギートランジションの実現には精密な経済効果分析が不可欠であり、導入後3ヶ月で自家消費型太陽光案件を受注し、提案リードタイムを1/6に短縮できる事例も報告されている13。
5.2.1 トランジションコスト計算モデル
エネルギートランジションの総コストは以下の式で表現できる:
総トランジションコスト = 新技術導入コスト + 既存設備廃棄コスト + 系統安定化コスト + 社会的調整コスト
期間内(2021-2060年)累積の費用では、最適で10.7兆ドル、さらにRE80(再エネ高位)で2.5兆ドル、ガス上限で1.3兆ドルが追加で必要とされている22。
5.3 重要鉱物資源の戦略的確保
再生可能エネルギーの地政学リスクにおいて、再エネ開発に欠かせない重要鉱物の供給不安と中国の影響力の高まりが課題となっている23。脱炭素化で誘発される保護貿易主義のリスクも新たな地政学リスクとして浮上している23。
第6章:国際協力機構とエネルギー外交
6.1 多国間枠組みを通じた協力
6.1.1 国際エネルギー機関(IEA)との連携
IEAは1974年11月、第一次石油ショックを契機として米国の提唱により石油消費国間の協力組織として設立された24。現在では低炭素技術の開発促進・省エネ、国際石油市場の見通し策定、新興国・産油国等との協力関係の構築など幅広い活動を展開している24。
日本に対する詳細国別審査が2020年2月に実施され、2021年3月に公表された報告書では、東日本大震災以降の日本のエネルギー政策の進捗や2050年カーボンニュートラル宣言を評価するとともに、その実現に向けた提言がなされた24。
6.1.2 APEC(アジア太平洋経済協力)エネルギー大臣会合
第9回会合(2010年6月、福井)では、日本が議長を務め、エネルギー安全保障の強化、省エネルギーの促進、及び低炭素排出エネルギーの導入促進について議論が行われた25。石油供給途絶等の緊急時対応能力の強化のため、石油備蓄や緊急時対応訓練の重要性が確認された25。
6.2 二国間エネルギー協力の深化
6.2.1 日・カタール戦略的パートナーシップ
2023年7月、岸田首相はカタールのタミーム首長と会談し、両国の包括的パートナーシップを戦略的パートナーシップに格上げすることで一致した26。両国がエネルギー市場安定化のために協力を続けることで合意し、LNGがアジア地域のエネルギートランジションに重要な役割を果たすと理解した上で、その実現に向けてLNGインフラの整備や資金提供、制度設計支援を行っていることが説明された26。
第7章:技術革新とエネルギー安全保障
7.1 デジタル技術の活用
世界エネルギーモデルは、世界全体の長期的なエネルギー需給などを大規模数理計画問題としてモデル化することで、各種のエネルギー供給技術の導入可能性や、エネルギー安全保障の評価、地球温暖化対策などの政策評価について分析できる8。
最適電源構成(OPGM)モデルは、風力や太陽光といった再生可能エネルギー、電力貯蔵装置、コージェネレーションシステムなどの分散電源の大量導入が電力系統の運用や設備構成に与える影響を分析できる8。
7.2 シミュレーション技術の進化
エネルギー分野において、精密なシミュレーション技術の重要性が高まっている。エネがえるの経済効果シミュレーション保証では、太陽光発電システムの導入における投資回収リスクを軽減し、85.9%の営業担当者が保証により成約率が高まると予想している13。
7.2.1 シミュレーション精度向上の数理モデル
シミュレーション精度は以下の要素で決定される:
精度 = f(気象データ精度, システム特性パラメータ, 劣化率設定, 運用条件設定)
最新のシミュレーションソフトウェアでは、3D CAD上で影の影響の考慮や、瞬時計算の積算によって電力量を計算するなど機能満載のシミュレーションが可能になっている27。
第8章:リスク評価と管理戦略
8.1 地政学リスクの定量化
地政学リスクとは、地理的な関係による政治的、軍事的、経済的な緊張の高まりが、その地域や世界全体に悪影響を与えうるリスクのことである4。主な地政学リスクとして、英国のEU離脱、シリア問題、北朝鮮の核・ミサイル問題などが挙げられる4。
8.1.1 リスク評価マトリックス
地政学リスクの評価には、以下のマトリックスが有効である:
リスク値 = 発生確率 × 影響度 × 継続期間
国際協力銀行(JBIC)の調査では、対象企業の85%が「地政学リスクが重要」と回答しており5、ウクライナ侵攻の影響に絞った質問でも90%程度がマイナスの影響を指摘している5。
8.2 供給途絶への対応戦略
8.2.1 代替供給ルートの確保
経済的相互依存には「敏感性」と「脆弱性」の2つがある5。ある物資を他国に大きく依存していても、代替品の調達が容易にできるなら「敏感」であって「脆弱」ではない5。
8.2.2 戦略的備蓄の最適化
確率動的計画法を用いることで、特定の確率で遷移する状態を考慮した、災害等によるエネルギー供給途絶の発生を考慮した分析が可能である8。停電など偶発的に発生するリスクを考慮したレジリエンスの評価は、特に東日本大震災以降、重要度が増している8。
第9章:未来への戦略的提言
9.1 エネルギー安全保障の新パラダイム
従来の「3E+S」(安定供給Energy security、環境適合Environment、経済効率性Economic efficiency、安全性Safety)に加えて、デジタル化とレジリエンスの観点を組み込んだ「3E+S+D+R」の新たなフレームワークが必要である3。
9.2 包括的資源外交2.0の構想
次世代の資源外交では、以下の要素を統合したアプローチが求められる:
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デジタル・ツイン技術による供給チェーン可視化
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AI予測モデルによる需給変動予測
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ブロックチェーン技術による取引透明性向上
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サーキュラーエコノミーとの連携強化
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ESG投資との整合性確保
9.3 民間セクターとの協働強化
エネルギートランジションの実現には、政府の取り組みだけでなく、民間企業の積極的な参画が不可欠である。特に、エネがえるのような先進的なシミュレーション技術を活用することで、企業や自治体レベルでのエネルギー効率化を推進し、国全体のエネルギー安全保障向上に貢献することが可能である28。
第10章:実践的行動指針
10.1 短期的施策(1-3年)
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緊急時対応能力の強化:石油備蓄の最適配置と運用効率化
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供給源多角化の加速:アフリカ、南米等の新興産油国との関係強化
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デジタル技術の導入:AIによる需給予測システムの構築
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人材育成の強化:エネルギー外交専門人材の育成プログラム策定
10.2 中期的施策(3-10年)
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包括的資源外交の制度化:省庁横断的な推進体制の確立
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技術協力の深化:水素・アンモニア技術の国際展開
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金融連携の強化:グリーンファイナンスとの統合
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地域協力の拡大:アジア太平洋エネルギー共同体の構築
10.3 長期的施策(10-30年)
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カーボンニュートラル資源外交:脱炭素技術を軸とした新たな協力関係
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宇宙太陽光発電:革新的エネルギー技術の実用化
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核融合技術:究極のエネルギー源の実現
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グローバル・エネルギー・ガバナンス:新たな国際秩序の構築
第11章:経済効果の定量分析
11.1 コスト・ベネフィット分析
エネルギー安全保障投資の経済効果は以下の式で評価できる:
純便益 = Σ[t=1 to n] (便益t – コストt) / (1 + r)^t
ここで、便益には以下が含まれる:
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供給途絶回避による経済損失の軽減
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価格安定化による産業競争力向上
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技術革新による新産業創出
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雇用創出効果
11.2 リスクプレミアムの計算
エネルギー供給の不安定性によるリスクプレミアムは:
リスクプレミアム = 標準偏差 × リスク回避係数
日本の場合、エネルギー輸入依存度の高さにより、このリスクプレミアムは年間GDP比で0.5-1.0%程度と推定される。
第12章:技術革新のロードマップ
12.1 デジタル・エネルギー外交の展開
次世代のエネルギー外交では、デジタル技術の活用が鍵となる:
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IoTによる供給チェーン監視
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ビッグデータ解析による市場予測
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AI交渉支援システムの開発
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デジタル・ツインによる仮想シミュレーション
12.2 カーボンニュートラル技術の戦略的展開
水素・アンモニア技術を中心とした新たな資源外交の展開:
水素経済規模予測 = 技術コスト削減率 × 需要拡大率 × 国際協力深化度
2030年までに水素コストを1/3に削減し、2050年までに2兆円規模の市場を創出する目標が設定されている。
結論:新時代のエネルギー安全保障への道筋
石油・天然ガスの安定供給確保のための資源外交は、単なる経済政策を超えた国家戦略の中核として位置づけられる。本稿で分析した通り、現代の資源外交には地政学と地経学の融合、デジタル技術の活用、カーボンニュートラルとの調和、そして民間セクターとの協働が不可欠である。
特に重要な洞察として、以下の3点を強調したい:
第一に、エネルギー安全保障の概念拡張である。従来の「3E+S」から「3E+S+D+R」(デジタル化とレジリエンス)への進化が求められる。第二に、包括的資源外交2.0の実現である。脱炭素技術を軸とした新たな協力関係の構築が、従来の化石燃料依存からの脱却と安全保障の両立を可能にする。第三に、民間セクターの戦略的活用である。エネガエルのような先進的なシミュレーション技術の普及により、企業・自治体レベルでのエネルギー効率化を通じた国家レベルの安全保障向上が実現できる。
今後30年間のエネルギー情勢を展望すれば、技術革新とデジタル化の進展により、従来の資源外交の概念は根本的に変革される。日本が持続可能なエネルギー安全保障を実現するためには、本稿で提示した戦略的枠組みに基づき、官民一体となった包括的な取り組みを推進することが急務である。
出典・参考文献
1 第1節 資源供給国との関係強化と上流進出の促進
2 第1節 資源供給国との関係強化と上流進出の促進 – 資源エネルギー庁
3 カーボン・ニュートラルとエネルギー安全保障を両立させる方策を
11 第7章 資源エネルギーから見る戦略的日本外交
29 ロシア・CISにおけるパイプライン地政学
10 日本のエネルギー自給の課題とリスク
24 第1節 エネルギー国際協力体制の拡大・深化
25 APEC(アジア太平洋経済協力)エネルギー大臣会合
30 日本のエネルギー安全保障に絶対欠かせない論点
7 原油輸入、高まる中東依存 供給途絶リスクに警戒
9 石油輸送の2大チョークポイント、ホルムズ海峡とマラッカ海峡
21 再認識される電力及びガス・LNG供給セキュリティの重要性
31 炭素中立社会に向けたクリーンエネルギー転換ロードマップ策定
5 地政学は「リアリズム」、地経学は「その経済的手段」
4 地政学とはなにか 自然環境に与えるリスクと影響を確認し
8 研究内容 – 藤井・小宮山研究室
22 ASEAN諸国のエネルギートランジションに向けた道筋
14 第200回 ~燃料価格の算出方法~の巻
23 再生可能エネルギーの地政学
26 日・カタール首脳会談、エネルギー市場安定化へ協力継続を確認
32 訂正-ライト米エネルギー長官が中東訪問へ、サウジなど約2週間
33 日・カタール関係とLNG争奪戦-FIFAワールドカップを機に考える
20 日本の金融機関が多額の支援ーモザンビークLNG事業に潜む深刻な
34INPEX イクシスLNGプロジェクト紹介動画
19 「AETI」を3分解説!
35 モザンビーク共和国月報(2022年7月)
16 第1節 足下の原油価格下落の要因分析と今後の展望
17 第150回 ~サウジアラビア原油の調整金って何?~の巻
36 輸入原油価格の決まり方
6 各国のエネルギー安全保障政策と実態の調査分析
37 今後のインフラファンド市場の在り方研究会 報告書
18 石油備蓄の現状について
15 LNGアジアプレミアム
28 太陽光発電の経済効果シミュレーション完全チェックリスト
12 太陽光 蓄電池シミュレーションの決定版「エネがえる」
13 太陽光発電と蓄電池の経済効果:シミュレーションと結果保証の重要性
38 シミュレーションの結果はあくまで概算なんだけど推計された発電
39 政府クリーンエネルギー戦略で電気代はどこまで上がる
27 Solar Pro 太陽光発電システム シミュレーションソフト
40 電力分野のトランジション・ロードマップ
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