BaaS²(BaaSの二乗)革命:バッテリーと金融APIが融合する「エネルギー金融プラットフォーム」発明構想

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

むずかしいエネルギー診断をカンタンにエネがえる
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目次

BaaS²(BaaSの二乗)革命:バッテリーと金融APIが融合する「エネルギー金融プラットフォーム」発明構想

なぜ今、Battery as a ServiceBank as a Serviceを融合する必要があるのか?本記事は、2025年11月時点の最新グローバル動向を徹底解析し、日本の脱炭素停滞を打破する革新的なBaaS²事業モデル(収益シミュレーション付)を構想する。

エネルギーの未来は「発電」から「調整」へと移行し、その鍵はバッテリーにある。しかし、バッテリーという「資産」の価値を誰がどう担保するのか?この問いに、世界はまだ明確な答えを出せずにいる。

本レポートは、まず「Battery as a Service (BaaS-Battery)」「Bank as a Service (BaaS-Bank)」という2つの巨大な潮流を、実装済み事業からR&Dの最前線まで、網羅的かつ高解像度に解析・構造化する。

その分析の先に、日本が直面する「再エネ普及の停滞」という根源的な課題が、技術の問題ではなく「金融(ファイナンス)」の問題であることを突き止める 1

そして、この本質的課題を解決するために、我々は革新的な事業コンセプト「BaaS² (BaaS-Battery × BaaS-Bank)」を発明・構想する。これは、バッテリーの「物理的価値(SOH)」をAIでリアルタイムに証明し、その価値を「金融API(BaaS-Bank)」で即座に資金化する、全く新しいエネルギー金融プラットフォームの設計図である。


第1部:【徹底解剖】Battery as a Service (BaaS-Battery) の最前線

1-1. BaaSの3つの潮流: なぜバッテリーは「所有」から「利用」へ移行するのか

2025年現在、バッテリー、特に電気自動車(EV)のバッテリーは、急速に「所有」するモノから「利用」するサービスへと移行している。この背景には3つの明確なドライバーが存在する。

  1. 技術の急速な陳腐化とSOH(健康状態)リスク: バッテリー技術は日進月歩であり、今日最高性能のバッテリーも3年後には見劣りする。消費者は、購入した高額なバッテリーが時間と共に「SOH (State of Health:健康状態)」が劣化し、資産価値がゼロになるリスクを本能的に恐れている 2

  2. 財務的メリットの明確化: EVの総コスト(TCO)において、バッテリーが占める割合は依然として高い。2025年現在、米国市場ではEVをローンで購入するよりもリースする方が、月々の支払いが平均で$198も安価になるというデータもある 4。消費者は、高額な初期費用(CAPEX)と劣化リスクを回避できるリース(利用)を合理的に選択し始めている 5

  3. 資産価値の再定義: バッテリーはもはや「使い捨て」ではない。EVでの利用(第一寿命)を終えたバッテリーは、「セカンドライフ」として定置型蓄電池などで再利用できる 7新品の30~70%安価で提供できる可能性があり 9、この「ライフサイクル全体での価値(LTV)」を最大化できる事業体(消費者個人ではない)がバッテリーを「所有」する方が、経済合理性が高い

この「所有から利用へ」という不可逆的なシフトが、BaaS-Batteryの3つの主要なビジネスモデル、(1)バッテリースワッピング、(2) VPP(仮想発電所)、(3) V2X(Vehicle-to-Grid)を生み出す土壌となっている。

1-2. モデル分析(1) EVバッテリースワッピング

バッテリースワッピングは、BaaSの概念を最も早く具現化したモデルである。

[事例] Nio(蔚来):

中国のEVメーカーNioは、「Battery as a Service (BaaS)」という名称で、車両本体とバッテリーを分離して販売する革新的なモデルを導入した 10。

  • コンセプト: ユーザーは車両本体のみを購入し、バッテリーは月額サブスクリプションで「利用」する。

  • ビジネスモデルの核心: このモデルの肝は、Nio本体とは法的に分離された「Battery Asset Company(電池資産会社)」の存在にある 10BaaSを選択した顧客のバッテリーは、Nio本体からこの資産会社に「販売」される。

  • 収益と財務の構造: このスキームにより、Nio本体はバッテリーの売上を車両販売時に一括計上することが可能になる 12。一方、電池資産会社は、Nio本体へのバッテリー購入代金(数千億円規模)を負債として背負い、ユーザーからの月額サブスクリプション料(例えば7年~10年)でこれを長期的に回収する。この結果、Nio本体のバランスシートには、この電池資産会社からの巨額の「未収金(Accounts Receivable)」が計上される。2024年末時点で、この未収金は76億人民元(約1,500億円)に達しているとの指摘もある 12

このNioのBaaSモデルが示唆する事実は極めて重要である。これは表面的には「サービス」だが、その実態は「バッテリーという高額資産をオフバランス化し、本体のP/L(損益計算書)を良く見せる」ための高度な金融(ファイナンス)スキームに他ならない。このモデルが持続可能であるためには、電池資産会社がNio本体の信用力とは独立して、巨額の資金調達を継続する必要があり、BaaS-Batteryがいかに「金融(Bank)」と不可分であるかを強く示している。

[事例] Gogoro

台湾を拠点とする電動スクーター企業Gogoroは、ハードウェア販売からサービス(サブスク)収益への移行を見事に体現している 13。

  • コンセプト: ユーザーはスクーター本体を購入するが、バッテリーは購入せず、台湾中に高密度に設置された「GoStation」で「Swap & Go(交換)」するサブスクリプションに加入する 14

  • 収益モデル: 収益は「ハードウェア販売(スクーター本体、交換ステーション機器等)」「バッテリー交換サービス(BaaSサブスク)」の2本柱で構成される 15

  • 財務(2024-2025年): 2024年通期の決算では、ハードウェア売上が$172.6M(前年比-20.8%)と落ち込む一方で、BaaS(交換サービス)売上は$137.9M(同+4.6%)と安定成長を見せた 15。この傾向は2025年第2四半期(Q2)で決定的となり、ハードウェア売上が$28.2M(同-39.1%)と急減する一方、BaaS売上は$37.6M(同+8.5%)と安定的に成長 16ついにBaaSのサービス収益がハードウェア販売収益を逆転した

Gogoroの2025年の財務諸表 16 は、BaaSビジネスの「未来」を明確に示している。すなわち、ハードウェア(スクーター)はもはや利益源ではなく、高収益なBaaSサブスク契約を獲得するための「顧客獲得チャネル(Acquisition Cost)」として機能している。一度インフラ(GoStation)を構築すれば、サブスクライバー(2025年Q2時点で64.8万人 16)が増えるほど利益率が向上する、典型的な「ネットワーク型インフラ事業」へと変貌を遂げた。これは、BaaS-Batteryが「製造業」から「SaaS(Software as a Service)」に類似したストック型ビジネスへ移行可能であることを証明した。

1-3. モデル分析(2) VPP(仮想発電所)

BaaS-Batteryの第二の潮流は、個々のバッテリーを「移動手段」としてだけでなく、「電力網の安定化装置」として活用するVPP(Virtual Power Plant)である。

  • コンセプト: VPPとは、地域に点在する小規模なDER(分散型エネルギーリソース:家庭用太陽光、蓄電池、EV、工場の自家発電など)を、高度なソフトウェア(AI、IoT)を用いてアグリゲート(束ねる)し、あたかも一つの大規模な発電所のように機能させる仕組みである 18

  • 市場成長性: この市場は爆発的な成長期にある。世界市場は2025年の$3.94B(約6,000億円)から2030年には$13.56B(約2兆円)へと、年率27.63%(CAGR)で急成長すると予測されている 20。特にアジア太平洋(APAC)地域が、中国やオーストラリア、日本におけるVPPパイロットの進展により、最速(CAGR 28.62%)で成長すると見られている 20

  • 収益モデルの二層構造: VPPの収益モデルは、大きく分けて2つの層がある。

    1. [層1] エネルギー(kWh)販売: VPPが集約した電力を、卸売市場や顧客に販売するモデル。ドイツのsonnenは、テキサス州のVPP参加家庭に対し、太陽光発電の電力を12¢/kWhという市場価格(19-20¢/kWh)よりも大幅に安価なレートで提供するプログラムを開始した 22。これはVPPが最適なタイミングでエネルギーを融通するため、従来の単純な売電(バイバック)プログラムよりも経済的優位性があることを示している 22

    2. [層2] グリッドサービス(ΔkW)販売: VPPの真の価値であり、高付加価値な収益源は、「kWh(電力量)」ではなく「ΔkW(調整力)」にある。これは、電力網の需給バランスが崩れた際(例:大規模発電所の停止、再エネの急変動)、瞬時に充放電を制御して周波数を安定させる「アンシラリーサービス(Ancillary Services)」「デマンドレスポンス(DR)」を提供する対価である 18。米国ではFERC(連邦エネルギー規制委員会)のOrder 2222により、DERアグリゲーションが卸売市場に直接参加し、これらの高価値なサービスを提供して収益を得る道が制度的に開かれた 20

VPPのビジネスモデルは、「安い電気を売る(kWh)」モデルから、「電力網の“安定性”というサービスを売る(ΔkW)」モデル 26 へと進化している。後者の「グリッドサービス」は、はるかに高い付加価値を生む。しかし、この高付加価値な契約(例:周波数応答)を得るには、VPP事業者は「系統運用者(TSO)からの指令に対し、数秒以内に、何MWを確実に供給/吸収できる」という、極めて高い「応答信頼性」を保証しなくてはならない。

1-4. モデル分析(3) V2X(Vehicle-to-Grid)

BaaS-Batteryの第三の潮流は、EVを「走る蓄電池」として本格的に電力網に組み込むV2X(Vehicle-to-Grid)である。

  • コンセプト: EVは、その大半の時間(90%以上)を駐車して過ごしている。この駐車時間を活用し、EVのバッテリーから家庭(V2H)、ビル(V2B)、さらには電力網(V2G)へ電力を逆潮流させる技術の総称である 27

  • 潜在価値: V2Xのポテンシャルは計り知れない。EUの試算によれば、もし域内のEVの30%が双方向充電(V2G)を採用するだけで、2030年までに年間€11B~€29B(約1.8兆~4.7兆円)もの巨額な配電網の増強投資を削減(または先送り)できるとされている 28

  • R&DとPoC(実証実験): 米国エネルギー省(DOE)はV2XのR&Dに$51.7M(約80億円)を投資 29 するなど、世界中で実証実験が進んでいる。欧州ではThe Mobility HouseRenaultが商用V2Gソリューションの実証を行い 30、米国マサチューセッツ州ではMassCEC V2X実証プロジェクトが、顧客の募集や充電器の相互運用性の課題に取り組んでいる 30

  • 「パイロットの罠」という現実: しかし、V2Xはその巨大な潜在価値とは裏腹に、2025年現在、深刻な「パイロット(実証)の罠」に陥っており、商用化が全く進んでいない。その障壁は技術的なものではなく、制度的・経済的なものである。

    1. 二重課税(Double Taxation)の問題: EVオーナーが電力網から電気を「購入」し、それを再度、電力網に「販売」する際、両方の取引に税金や送配電コストが課金され、経済性が著しく悪化する問題が指摘されている 28

    2. SOH劣化への懸念とインセンティブの欠如: V2Gはバッテリーの充放電サイクルを増加させるため、EVオーナーは自身の車の「SOH劣化」を最も恐れる。この「SOH劣化コスト」を正確に算出し、それを上回るだけの十分な「グリッドサービスからの収益」をオーナーに“金融的に”還元する仕組みが確立されていない。

V2Gが「パイロットの罠」を脱するためには、V2GによるバッテリーのSOH劣化コストをAIなどで正確に定量化し、そのコストを上回る収益(ΔkW)を確実に生み出し、その差益をEVオーナーに還元する「インセンティブ設計」が不可欠である。

1-5. R&Dトレンド:BaaSの「資産価値」を担保するAIデジタルツイン

Nio、Gogoro、VPP、V2X——これら全てのBaaSビジネスモデルが、共通して直面する最大の経営課題は、バッテリーの「SOH(健康状態)」という、時々刻々と変化し劣化していく「資産価値」にいかに向き合うか、である 2

この課題に対する唯一の解として、AIとデジタルツインを活用したSOHのリアルタイム予測技術が、R&Dの最前線となっている。

  • デジタルツイン(Digital Twin): 物理世界に存在するバッテリーと対になる「デジタルの双子」をサイバー空間に構築する 32。このデジタルツイン上で、充放電、温度変化、V2Gによる負荷など、様々なシミュレーションを行い、物理バッテリーのSOHや残存寿命(RUL)を予測する 33

  • AI/MLによる高精度予測: 従来のSOH推定は、バッテリーを一度フル充放電させる必要があり、リアルタイム性に欠けていた 33。これに対し、最新の研究では、AI(機械学習)やディープラーニングを活用し、部分的な充放電データや動的な運用データからでも、リアルタイム(on the fly)でSOHを高精度に推定する技術が開発されている 33

  • 注目の技術(PINNs): 特に注目されているのが、物理法則(電気化学反応など)の数式をニューラルネットワークに組み込んだ「Physics-informed Neural Networks (PINNs)」である 34。これにより、純粋なデータ駆動型AIよりも少ないデータで、かつ物理的に一貫性のある(あり得ない予測をしない)高精度なSOH予測が可能になると期待されている 35

  • XAI(説明可能なAI): さらに、AIが「なぜこのバッテリーのSOHが劣化したのか」という要因を特定・提示する「説明可能なAI(XAI)」の研究も進んでおり、BaaS事業者が劣化要因を特定し、運用方法を改善(最適化)するために不可欠な技術となりつつある 36

これらのR&D(33)は、単なる技術開発に留まらない。BaaS事業の「根幹」を揺るがすゲームチェンジャーである。AIによる高精度なSOH予測が可能になれば、以下の変革が起きる。

  1. VPP/V2Xの信頼性向上: VPP事業者は、個々のバッテリーのSOHを正確に把握することで、電力網に対し「確実な応答(ΔkW)」を保証できるようになり、より高単価なグリッドサービス契約が可能になる。

  2. セカンドライフ市場の開拓: 使用済みEVバッテリー 38 のSOHを「お墨付き」で客観的に評価でき、安価 9 かつ信頼性の高いセカンドライフ蓄電池市場 7 を創出できる。

  3. 金融(BaaS-Bank)との結合: これが最も重要である。バッテリーの「将来の資産価値(SOHの劣化曲線)」をAIが正確に予測できるということは、そのバッテリーを「担保(アセット)」とした「アセットファイナンス」の組成を可能にすることを意味する。これこそが、BaaS²への「鍵」である。


第2部:【金融のAPI化】Bank as a Service (BaaS-Bank) とは何か

BaaS-Batteryの核心に「金融」の問題があったように、もう一方のBaaSである「Bank as a Service (BaaS-Bank)」は、まさにその金融の在り方自体をAPIによって変革するムーブメントである。

2-1. 「BaaS-Bank」と「組込型金融」の関係性

この分野では2つの用語が密接に関連している。「BaaS-Bank」「組込型金融(Embedded Finance)」である。

  • BaaS-Bank (銀行機能のAPI化): 伝統的な銀行(または銀行ライセンスを持つフィンテック企業)が、自らの「銀行機能」(決済、口座開設、本人確認(KYC)、AML、融資、カード発行など)を、API(Application Programming Interface)を通じて、銀行ライセンスを持たないサードパーティ企業(非金融事業者)に「部品」として提供するビジネスモデル 39

  • 組込型金融 (Embedded Finance): BaaS-Bankが提供するAPI(部品)を利用し、非金融事業者(例:ECサイト、SaaSプラットフォーム、ライドシェアアプリ)が、自社のサービスやアプリの「顧客体験(UX)の内部」に、金融機能(決済、融資、保険など)をシームレスに組み込むこと 39

その関係性は明快である。BaaS-Bankは「インフラ(製造元)」であり、組込型金融は「ユースケース(最終製品)」である 39。2025年現在、非金融SaaSプラットフォームが自社顧客に金融サービスを組み込む市場機会は、SaaSビジネス全体の$185B(約28兆円)規模に上ると試算されている 39

2-2. 収益モデルの構造

BaaS-Bankと組込型金融は、どのようにして収益を生み出しているのか。

[事例] Marqeta / Stripe(決済・カード発行):

  • Stripe 開発者フレンドリーな決済APIの先駆け 43。あらゆるWebサイトやアプリに数行のコードで決済機能を「組み込む」ことを可能にした 44。主な収益源は、決済ごとに発生する「トランザクション手数料」である 44

  • Marqeta 決済の中でも「カード発行」APIのパイオニアであり、Uber、DoorDash、Squareといった急成長企業の決済インフラを支えている 45。Marqetaの主な収益源は、カード決済時に加盟店(店側)がカード発行会社(銀行)に支払う「インターチェンジ手数料(交換手数料)」である。Marqetaは提携銀行との特別な契約により、この手数料の100%(または高い割合)を受け取ることで収益を上げている 45

[事例] Shopify Capital(組込型融資):

BaaS-Bankの真の破壊的ポテンシャルは、決済(手数料ビジネス)に留まらない。「組込型融資(Embedded Lending)」こそが、その核心である。

  • コンセプト: ECプラットフォームのSaaS企業であるShopifyが、自社の加盟店(マーチャント)に対し、運転資金の融資(Merchant Cash Advance)やローンを、Shopifyの管理画面内でシームレスに提供する 47

  • 与信(アンダーライティング)の革新: 最大の革新は「与信(融資審査)」にある。従来の銀行融資のような、担保、保証人、煩雑な財務諸表の提出は不要である。Shopifyは、マーチャントの「プラットフォーム上の過去から現在に至るまでの売上データ、入出金データ」というオルタナティブ・データ(47)をAIでリアルタイムに分析し、そのマーチャントの「将来の売上」を高精度に予測して与信枠(融資可能額)を決定する。

  • BaaSの活用: Shopifyは銀行ではない。実際の融資(資金の出し手)は、提携するBaaSプロバイダー(例:WebBank)が実行する 47。Shopifyはあくまで、自社のSaaS顧客体験の中にBaaS-Bankの融資機能を「組み込み」、自社の持つ「データ」で与信リスクを評価している。

BaaS-Bankの真の価値は、単なる決済(Stripe)やカード発行(Marqeta)ではない。「Shopify Capital」モデル 47 こそが、その本質を示す。これは、「金融リスク(与信)の評価軸」を、従来の「過去の静的な財務諸表(バランスシート)」から、「プラットフォームが保有するリアルタイムなオペレーション・データ(キャッシュフロー)」へと、根本的にシフトさせたことを意味する。

2-3. エネルギー分野への応用の可能性

この「BaaS-Bank(組込型金融)」のロジックは、エネルギー分野に何を(もたらすのか?

  1. マイクロトランザクションの実現: EVの充電 48、家庭間のP2P電力取引、VPPによるグリッドサービスなど、エネルギー分野で発生する無数の「マイクロトランザクション(少額決済)」において、BaaS-Bankの決済API 43 は、シームレスで低コストな自動決済(マイクロペイメント)を実現する 48

  2. アセットファイナンスの革新: これが本丸である。「Shopify Capital」モデル 47 のロジックを、そのままエネルギー分野に適用する。

    • 「Shopifyのプラットフォーム売上データ」 を、「BaaS-BatteryのAI/SOH予測データ(33) + VPPのΔkW運用実績データ(18)」 に置き換える。

この置き換えこそが、「Battery as a Service」と「Bank as a Service」を融合させる「BaaS²」の核心的なアイデアである。BaaS-Batteryプラットフォームが収集する「物理的な資産(バッテリー)のリアルタイム・パフォーマンス・データ」を、BaaS-Bankの「組込型融資(Embedded Lending)API」39 の与信モデルにインプットする。

これにより、「バッテリーの将来の収益性(SOHの残存価値とVPPによるΔkW収益)」を担保(アセット)とした、全く新しいアセットファイナンス 49 をシームレスに組成することが可能になる。


第3部:【日本の本質的課題】なぜ日本の再エネは「調整力不足」で普及が止まるのか

第1部と第2部で解析したBaaS-BatteryとBaaS-Bankのグローバルな潮流。これを踏まえ、我々は日本のエネルギー問題に目を向ける。日本は2050年カーボンニュートラルを掲げる 50 が、その再エネ普及の道は、2025年現在、深刻な「壁」に突き当たっている。

新エネルギー財団(NEF)の最新(2025年6月)の分析レポート 1 は、この「壁」の正体を明確に指摘している。

3-1. 根源的課題(1):「kWh」の普及と「ΔkW」の枯渇

  • ファクト: 日本では、FIT(固定価格買取制度)の成果もあり、再エネ、特に太陽光発電の「発電量(kWh:キロワットアワー)」の導入は世界でもトップクラスに進んだ 50

  • 課題: しかし、太陽光や風力は天候次第で出力が不安定(変動性再エネ)である 1。この再エネ比率が高まるにつれ、従来の電力システム(大規模な火力や水力発電)が担ってきた、短時間での需給のズレ(例:太陽が雲に隠れた際の発電量急減)を埋める「調整力(ΔkW:デルタキロワット)」や「周波数維持機能」が、相対的に不足している 1

  • 本質: 日本の電力網の課題は「発電量(kWh)の絶対的な不足」から「需給バランスを維持する調整能力(ΔkW)の不足」へと、質的に変化した。再エネが増えれば増えるほど、この「瞬間的な需給バランスの調整役」の価値(ΔkW)が爆発的に高まっている

3-2. 根源的課題(2):「系統混雑」と「DXのジレンマ」

  • ファクト: 再エネ発電所(太陽光、風力)は、地価が安く日照・風況が良い「地方」(例:北海道、九州、東北)に集中して建設される。一方で、電力の「大消費地」は依然として「都市部」(東京、大阪)である 1

  • 課題: この「地理的ミスマッチ」により、地方から都市部へ電力を送る「送電網」がパンク状態になる「系統混雑」が発生している 1

  • 結果: 系統混雑の結果、せっかく地方で発電したクリーンな再エネの電力を都市部に送れず、強制的に発電を停止させる「出力抑制」が常態化している 1

  • DXのジレンマ: さらに悪いことに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展が、この問題を悪化させている。AIの普及に伴うデータセンターや半導体工場の新設ラッシュ 1 は、新たな電力の大口需要を生んでいるが、その立地は利便性の高い「都市部・近郊」に集中している 1。この「DX需要」が都市部の電力インフラに更なる負荷をかけ、系統混雑を悪化させるというジレンマに陥っている 1

3-3. 処方箋としての「DER」と、その「導入障壁」

この「調整力不足(ΔkW)」「系統混雑(地理的ミスマッチ)」という二重苦。

  • 処方箋: この二重苦を同時に解決する鍵こそが、第1部で見たVPPの構成要素、すなわち「分散型エネルギーリソース(DER)」(特に蓄電池やEV)である 1。DER(蓄電池)は、

    1. 需要地(都市部)に直接設置できるため、「系統混雑(地理的ミスマッチ)」を回避できる。

    2. ミリ秒単位での高速な充放電応答が可能なため、「調整力(ΔkW)不足」の決定的な担い手となる。

  • 導入障壁: 日本の電力システムがDER(VPP)の活用を必要としているのは明白である 51。にもかかわらず、その導入は遅々として進んでいない。なぜか?

    NEFのレポート 1 が指摘する理由は、技術的なものではない。

    1. 制度的障壁: DERが調整力(ΔkW)として機能するための、応答精度や通信仕様といった「標準規格」が未整備である 1

    2. 市場的障壁: 日本の電力取引市場は、2027年の「同時市場(リアルタイム市場)」の開設を控えるなど、取引ルール自体が「過渡期」にある。

  • 日本の「本質的課題」の特定:

    これらの障壁 1 が意味する「本質的な課題」は、もはや技術(蓄電池の性能)の不足ではない。それは、「DER(蓄電池)という高額な初期投資(CAPEX)を、将来の収益(VPP事業)が不確実な(=1が示す市場の不予見性)状況下で、一体“誰が”ファイナンスするのか?」という、純粋な「金融(ファイナンス)」の問題である。

日本の再エネ普及を阻むボトルネックは、技術ではなく、高額なDER(蓄電池)への「初期投資(CAPEX)の壁」であり、その壁を越えるための「新しい金融(ファイナンス)モデル」が不在であることだ。


第4部:【世界初・発明構想】BaaS² (Battery as a Service × Bank as a Service)

日本の本質的課題が「技術」ではなく「金融」にあるならば、その解決策は「金融」の力を使わなければならない。

第1部では、BaaS-Batteryの核心に「AIによるSOH(資産価値)の可視化」33 があることを見た。

第2部では、BaaS-Bankの核心に「リアルタイム・データに基づく組込型融資」47 があることを見た。

第3部では、日本のエネルギー問題の核心に「DER導入の金融的障壁」1 があることを特定した。

これら3つの点を結び付け、我々はここに、日本の課題を解決する事業コンセプト「BaaS² (Battery as a Service × Bank as a Service)」を発明・構想する。

4-1. 事業コンセプト: 「AIエネルギー金融プラットフォーム」

  • 定義: BaaS²とは、「BaaS-Battery(AIによるDERの物理的価値の可視化・最適化)」「BaaS-Bank(APIによる組込型アセットファイナンス)」をデジタルに融合させた、「エネルギー金融プラットフォーム」である。

  • 目的: 日本の本質的課題(第3部)を正面から解決する。すなわち、BaaS-Bank(金融)の力でDER(蓄電池)の「初期導入の壁(CAPEX)」を破壊し、BaaS-Battery(AI/VPP)の力でDERの「運用価値(ΔkW収益)」を最大化する。

4-2. なぜ「BaaS × BaaS」なのか?(核心的ロジック)

BaaS²が、なぜ日本の「金融的障壁」1 を突破できるのか。その核心的なロジックは以下の通りである。

  1. 課題の再確認: 「DER(蓄電池)が必要」だが、「初期投資が高額」な上に、日本の電力市場が過渡期(1)であるため「将来のVPP(ΔkW)収益も不透明」である。この状況では、従来の銀行は「将来の不確実な収益」を担保に融資(ファイナンス)することはできない。

  2. BaaS-Batteryの回答(価値の証明): ここにBaaS-BatteryのAI/デジタルツイン技術 33 を投入する。このAIは、導入する蓄電池の「物理的資産価値(現在のSOH、将来の劣化曲線)」と、その立地における「将来的収益性(VPPシミュレーションによるΔkW収益予測)」を、リアルタイムで高精度に「可視化」し、「証明」する。

  3. BaaS-Bankの回答(価値の資金化): ここにBaaS-Bankの組込型融資モデル 47 を投入する。Shopifyが「マーチャントの売上データ」を与信の根拠にしたように 47、BaaS²プラットフォームは、BaaS-BatteryのAIが「証明」した「DER(蓄電池)の将来の収益性(SOH+ΔkW)」という“動的データ”を与信の根拠(=アセット)とする。

  4. BaaS²のソリューション(金融革新):

    BaaS-Batteryの「AI/SOHデータAPI」33 を、BaaS-Bankの「組込型融資API」39 の与信モデルにダイレクトに接続する。

    これにより、「DERの将来のVPP収益性」という“動的なパフォーマンス・データ”を担保(アセット)とした、革新的な「アセットファイナンス」49 を、DER導入時にシームレスに(組み込み型で)組成する。

これは、日本のエネルギーファイナンスにおけるパラダイムシフトである。従来の「(銀行による)静的な企業与信(導入企業の財務諸表を審査する)」から、「(プラットフォームによる)動的な資産与信(導入されるバッテリー“そのもの”の収益性を審査する)」への根本的な転換である。

この金融革新によって、1が示す「市場の不予見性」というリスクを、AIによる「資産価値の予見可能性」で乗り越え、DER(蓄電池)への民間投資(ファイナンス)を爆発的に加速させることが可能となる。


第5部:【BaaS²事業計画書】エネルギー金融プラットフォーム「EnerFi」構想

上記BaaS²のロジックに基づき、具体的な事業計画「EnerFi(エナーファイ)」を構想する。

5-1. ビジョン・ミッション・バリュー

ミッション主導型のブランディング 52 に基づき、EnerFiは以下の理念を掲げる。

  • ビジョン (Vision):

    エネルギーの「物理的価値(ΔkW)」と「金融的価値(Asset Value)」の境界を溶解させ、誰もがクリーンエネルギーの恩恵を安全かつ公正に享受できる社会インフラを構築する 54。

  • ミッション (Mission):

    AIデジタルツインと金融API(BaaS²)を用いて、分散型エネルギーリソース(DER)の「資産価値」をリアルタイムで証明する 33。これにより、DERの「初期投資ゼロ($0 CAPEX)」での社会実装を可能にし、日本の脱炭素 50 とエネルギー安全保障 55 を達成する。

  • バリュー (Values):

    1. Data-Driven Underwriting(データが信用を創造する)

    2. Seamless Integration(物理と金融のシームレスな融合)

    3. Radical Transparency(SOHと金融の徹底的な透明性)

5-2. ビジネスモデルキャンバス(BMC)

EnerFiプラットフォームは、DERの「導入」と「運用」と「金融」を仲介するツーサイドプラットフォーム(Two-Sided Platform)56 として機能する。(OsterwalderのBMC 58 をエネルギー分野向けに拡張 59

  • 価値提案 (Value Propositions):

    • [顧客A:電力需要家](例:工場、商業ビル、自治体、データセンター):

      1. 初期投資ゼロ($0 CAPEX)での高性能蓄電池(DER)の導入。

      2. VPP運用から得られるレベニューシェア(または電気代削減)。

      3. AIによるSOHの透明な監視。

    • [顧客B:アグリゲーター・VPP事業者](例:小売電力事業者、IT関連事業者):

      1. 高精度なSOHデータ 33 が付与され、信頼性が担保された(応答信頼性の高い)、制御可能なDER(蓄電池群)の調達。

      2. 制御シグナル(ΔkW指令)に対するDER群の応答実績データ。

    • [顧客C:金融機関・投資家](例:銀行、リース会社、インパクト投資家):

      1. AIによるリアルタイムSOH監視 33 で資産価値が保全・可視化された、小口化・証券化された「グリーンアセット(DER)」への投資機会。

      2. 日本のエネルギー転換 50 に直接貢献するESG投資の実行。

  • キーアクティビティ (Key Activities):

    1. AI/デジタルツインによる全DER(資産)のSOHリアルタイム監視・予測 33

    2. BaaS-Bank API 39 を活用した組込型ファイナンス・プラットフォームの運営・管理。

    3. VPP 18 としてのDER群の最適制御と、日本の電力市場(JEPX, EPRX)1 での「ΔkW」販売(またはアグリゲーター(顧客B)への機能提供)。

  • 収益の流れ (Revenue Streams):(5-3で詳述)

    1. 金融サービス手数料(融資組成フィー、資産管理手数料)47

    2. VPPグリッドサービス(ΔkW)収益のレベニューシェア 24

    3. SOHデータAPIのSaaS利用料。

  • 主要パートナー (Key Partners):

    1. 蓄電池メーカー(例:Panasonic 60, CATL 61 など)。

    2. BaaS-Bankプロバイダー(例:Stripe 43, BBVA 62, Finastra 62 のような金融API提供者)。

    3. VPPアグリゲーター事業者(顧客Bでもある)。

  • コスト構造 (Cost Structure):

    • AIプラットフォーム(SaaS)の開発・運用費。

    • BaaS-Bank API利用料。

    • 顧客獲得コスト(CAC)。

このEnerFiモデルの最大の強みは、「資本効率(Capital-Light)」にある。Nio 12 のように「自らバッテリー資産(負債)を保有する」リスクを一切負わない。Gogoro 15 のように「自らハードウェアを販売する」必要もない。

EnerFiは、DER(資産)、VPP事業者(運用者)、投資家(資金)という3者を、「SOHデータ(信頼)」と「金融API(決済/融資)」というデジタルな接着剤でマッチングさせる、極めて資本効率の高いプラットフォーマー 57 に徹する。

5-3. 収益モデルとシミュレーション

EnerFiの収益は、単一障害点(Single Point of Failure)を持たない、多層的なストック型収益で構成される。

  1. 収益源(1):金融サービス手数料

    • フロー収益: 導入希望者(顧客A)がDERを導入する際、プラットフォームが金融(リース/ローン)を組成する。その組成額に対し、オリジネーション・フィー(例:組成額の2%)を金融機関(顧客C)から徴収する。

    • ストック収益: プラットフォームが管理するDER資産(AUM:Asset Under Management)の時価総額に対し、AI/SOH監視・資産管理手数料(例:年率0.5%)を投資家(顧客C)から徴収する。

  2. 収益源(2):VPP収益シェア

    • ストック収益: プラットフォーム上のDER群がVPPとして稼働し、電力市場(ΔkW市場)から得たグリッドサービス収益(24)のうち、一定割合(例:20%)をシステム利用料(成功報酬)として徴収する。

  3. 収益源(3):SOHデータAPI利用料

    • ストック収益: VPPアグリゲーター(顧客B)や、セカンドライフ事業者 38、バッテリーメーカーに対し、高精度なSOH予測API 33 をSaaSモデル(月額課金)で提供する。

【表1:EnerFi 収益シミュレーション(5カ年計画)】

  • 前提: 日本のVPP市場 21 およびBESS(蓄電池)市場 64 の高い成長率(CAGR 20-30%超)を背景とする。

  • KGI(最重要指標): プラットフォーム上で稼働するDER(蓄電池)の導入容量(MW)

年度 KGI: 導入容量 (MW) 収益源1 (金融手数料) 収益源2 (VPP収益シェア) 収益源3 (データSaaS) 合計収益
1年目 (PoC) 10 MW 1.0億円 0.5億円 0.1億円 1.6億円
2年目 50 MW 5.0億円 2.5億円 0.5億円 8.0億円
3年目 200 MW 20.0億円 10.0億円 2.0億円 32.0億円
4年目 500 MW 50.0億円 25.0億円 5.0億円 80.0億円
5年目 1,000 MW (1GW) 100.0億円 50.0億円 10.0億円 160.0億円

注:本シミュレーションは事業コンセプトのポテンシャルを示すための概算であり、実際のDER資産価格、ΔkW市場価格、金融手数料率によって変動する。

5-4. 多面的な事業性評価

EnerFi(BaaS²)構想は、単なる絵空事ではなく、極めて高い事業性と社会性を両立する。

  • 成長性 (Growth):

    • 根拠: EnerFiの成長は、日本のVPP市場 21 およびBESS(蓄電池)市場 64 の急成長(CAGR 20-30%超)に直結する。EnerFiは、これらの市場成長の「障壁」であるファイナンス問題 1 を解決する「Enabler(実現要因)」であるため、市場成長率を上回るJカーブの成長が期待できる。

  • 収益性 (Profitability):

    • 根拠: 圧倒的な高収益構造。EnerFiは物理的なバッテリー資産を(Nio 12 とは対照的に)一切保有しない。固定費はAIプラットフォームの維持費(SaaS型コスト)のみ。収益は「金融手数料」「VPPレベニューシェア」「データSaaS」という、すべてが高マージンなストック型収益で構成される 46

  • 生産性・実装可能性 (Productivity / Feasibility):

    • 根拠: すべての構成要素は、2025年時点で「R&D完了」または「実装済」の段階にある。BaaS-Bank API 39、AI/SOH技術 33、VPP制御技術 18 は、すべて個別に存在する。EnerFiは、これらの既存技術を「金融」という接着剤で「統合」するビジネスモデル・イノベーションであり、ゼロからの技術開発リスクは低く、実装可能性は極めて高い。

  • 社会貢献性 (Social Impact):

    • 根拠: EnerFiは、日本のエネルギー安全保障 55 と脱炭素 50 という国家的課題(1)に対し、民間の資金(投資家C)を活用して、DER(蓄電池)という「社会インフラ」を(初期投資ゼロで)整備する、極めて社会貢献性(インパクト)の高い事業である。

    • 再エネの出力抑制 1 を解消し、電力網のレジリエンス(災害耐性)51 を向上させ、将来的には地方のDER活用(コミュニティ電力)66 を通じた地方創生にも寄与する。


結論:BaaS²は、エネルギーの「物理的な課題」を「金融工学」で解決する

2025年のエネルギー転換の本質は、もはや太陽光パネルや蓄電池の「技術」の課題ではない。それは、「高額なCAPEX(初期投資)を、不確実な未来のOPEX(運用収益)でいかに回収するか」という、純粋な「金融(ファイナンス)」の課題である。

BaaS-Battery(Nio、Gogoro、VPP)は、「モノ売り」から「サービス(利用)」への移行を示したが、結局は「誰がその高額な資産リスクを負うのか?」という金融問題に直面した 12

BaaS-Bank(Shopify Capital)は、「リアルタイム・データ」が「従来の信用(担保)」を代替し、静的な銀行審査では不可能だった新しい金融(組込型融資)を生み出せることを証明した 47

本レポートで発明・構想した「BaaS²(EnerFi)」は、BaaS-Batteryの「AI/SOHデータ(物理的価値の証明)33 を、BaaS-Bankの「組込型融資API(金融的価値の資金化)39 にダイレクトに接続する。

これにより、日本のエネルギーインフラ 1 における「ファイナンスのミッシング・ピース」を埋め、DER(蓄電池)の導入を阻む「初期投資の壁」を破壊する。

これは、物理インフラ(バッテリー)と金融インフラ(Bank)が、APIによって初めて「リアルタイムで」融合する革命であり、日本の脱炭素を加速する唯一無二のソリューションであると結論づける


FAQ(よくある質問と回答)

Q1. NioのBaaS 10 と、このEnerFi構想は何が違うのですか?

A1. 資産リスクの所在が決定的に違います。NioのBaaSは、Nio自身(またはその関連会社)がバッテリー資産の「リスク」を(オフバランス化しつつも実質的に)負う「重い(Capital-Heavy)」モデルです 12。EnerFiは、自ら資産リスクを負わず、AI/SOHデータ(信頼)33 と金融API(資金)39 を提供して「投資家」と「導入者」を繋ぐ「軽い(Capital-Light)」プラットフォーム 57 です。EnerFiは金融・データの中間インフラに徹します。

Q2. なぜ今、VPP 18 と金融 47 を組み合わせる必要があるのですか?

A2. 日本の根源的課題 1 が答えです。VPPに必要なDER(蓄電池)の導入が進まない最大の理由は、技術ではなく「初期投資の高さ」と「将来収益の不確実性」(市場の過渡期 1)という「金融的な壁」だからです。この壁を(Shopify Capital 47 のように)データドリブンな金融(BaaS-Bank)で突破しない限り、VPP(BaaS-Battery)は普及しません。物理的な課題(ΔkW不足)を解決するために、金融的な革新が必要なのです。

Q3. BaaS²事業の最大のリスクは何ですか?

A3. 最大のリスクは2つあります。(1)「AI/SOH予測モデル 33 の精度」と、(2)「日本の電力市場制度の変更 1」です。AIの予測精度が低ければ、金融の与信(アセット価値評価)が崩壊し、投資家(顧客C)が離れます。また、2027年に予定される同時市場 1 の制度設計次第で、VPPの収益性(ΔkWの価値)が大きく変動する可能性があります。EnerFiは、この制度リスクをヘッジするため、特定の市場(例:周波数応答)に依存しない、分散型ポートフォリオ(例:容量市場+需給調整市場+DRなど)をAIで最適に組む戦略が重要になります。

Q4. なぜ「BaaS²(BaaSの二乗)」と呼ぶのですか?

A4. Battery as a Service (BaaS) と Bank as a Service (BaaS) という、2つの異なる「as a Service」モデルを「掛け合わせる(BaaS × BaaS)」ことで、単体のBaaSでは解決できなかった「高額な資産(バッテリー)のファイナンス」という課題を解決するからです。1+1を2にするのではなく、掛け合わせることで指数関数的な(二乗の)インパクトを生み出す、というビジョンを込めています。


ファクトチェックサマリー

本レポートの信憑性を担保するため、主要な分析と構想の根拠となったファクト(事実)の概要と出典を以下にまとめます。

  • NioおよびGogoroのBaaSモデルと財務分析: NioのBaaSサブスクリプション 10、およびBattery Asset Companyを通じた金融スキーム 12 に関する分析、ならびにGogoroの2024年通期 15 および2025年Q2 16 の財務報告に基づく、BaaS(サービス)収益とハードウェア収益の比較分析に基づいています。

  • VPPおよびV2Xの収益モデルと課題: VPPの収益源としてのエネルギー販売(sonnenの事例 22)とグリッドサービス(ΔkW)24 の分析、およびV2Xの「パイロットの罠」の要因(二重課税 28、インセンティブ不足 30)に関する2025年時点の業界レポートに基づいています。

  • AI/デジタルツインのR&D動向: バッテリーのSOH(健康状態)をリアルタイムで高精度に推定するためのAI(機械学習)33、デジタルツイン 32、PINNs(物理情報ニューラルネットワーク)34、XAI(説明可能なAI)36 に関する、arXiv、IEEE、NREL(米国国立再生可能エネルギー研究所)の最新の研究論文および公表資料(2022年~2025年)に基づいています。

  • BaaS-Bankと組込型金融のモデル分析: BaaS-Bankと組込型金融の定義と関係性 39、Marqeta 45 やStripe 44 の収益モデル、そしてShopify Capital 47 におけるオルタナティブ・データ(プラットフォームデータ)を活用した組込型融資の事例に基づいています。

  • 日本のエネルギー課題の特定: 本レポートの核心的課題である「ΔkW(調整力)の不足」「系統混雑」「DER導入の金融的障壁」に関する分析は、新エネルギー財団(NEF)が2025年6月30日に公表した最新の解説資料 1 に全面的に基づいています。

  • 市場規模に関するデータ: VPPの世界市場 20、日本のBESS(蓄電池)市場 64、バッテリースワッピング市場 61 に関する市場規模および成長率(CAGR)の予測値は、Mordor Intelligence、Grand View Research、Precedence Researchなど複数の市場調査会社が2025年に公表した最新の予測データをクロス参照しています。

  • BaaS²(EnerFi)構想の理論的支柱: 本構想のビジネスモデルは、Osterwalderのビジネスモデルキャンバス 58 およびツーサイドプラットフォームの理論 56 を、エネルギー分野 59 に適用しています。また、ビジョン・ミッションは最新のクライメートテック(Climate Tech)企業のミッションドリブン経営 52 を参考にしています。

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著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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