目次
【政策提言】CO2排出量+「経済効果の可視化」が鍵:産業用太陽光・蓄電池の普及加速戦略
30秒要約
本提言は、CO2排出量可視化ツールを導入している企業の実態調査に基づき、脱炭素化と経済合理性を両立させる産業用自家消費型太陽光発電・蓄電池システムの普及政策を提案します。調査によれば、CO2排出量の「可視化」だけでは実際の削減行動に至る企業は35.5%に留まり、66.7%が「直接的な利益やコスト削減につながっていない」と感じています。この課題を解決するため、①環境価値と経済価値の統合シミュレーションツールの開発・普及、②導入コスト削減のための補助金・税制優遇制度の拡充、③専門人材育成とナレッジ共有プラットフォームの構築、④地域特性に応じた導入モデルの開発・展開という4つの戦略を提言します。
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はじめに:脱炭素と経済合理性の両立という課題
日本政府は2050年カーボンニュートラル、2030年度に温室効果ガス46%削減(2013年度比)という野心的な目標を掲げています。この目標達成には、産業部門における脱炭素化の加速が不可欠です。特に、自家消費型太陽光発電と産業用蓄電池システムの普及は、再生可能エネルギーの主力電源化とレジリエンス強化の両面で重要な役割を果たします。
しかし、産業界における再エネ・蓄電池の導入は期待されるほど進んでいないのが現状です。その背景には何があるのでしょうか。本稿では、CO2排出量可視化ツールを導入している企業93社への調査結果を基に、産業用自家消費型太陽光・蓄電池の普及を加速するための政策提言を行います。
脱炭素化と経済合理性を両立させる道筋を示すことで、持続可能かつ競争力のある産業構造への転換を促進することが本提言の目的です。現場の声に基づいた実効性のある戦略を通じて、2030年目標の達成に貢献することを目指します。
現状分析:CO2排出量可視化の限界と実態
可視化から行動へのギャップ
国際航業株式会社が実施した「CO2排出量可視化の効果に関する実態調査」によれば、産業用太陽光または産業用蓄電池の導入を検討しており、CO2排出量可視化ツールを使っている企業93社のうち、可視化後に実際に排出量削減に取り組んだ企業は35.5%に留まります。一方で48.4%が「検討中」と回答し、11.8%が「実施しておらず、検討もしていない」状況です。
これは、CO2排出量の「可視化」が自動的に「行動」につながるわけではないことを示しています。企業が排出量データを把握しても、具体的な削減策の実施に至るには別のステップが必要であることがわかります。
可視化ツールとしては「Excel」が23.7%と最も多く使用されており、専門的なツールの普及はまだ途上段階にあります。CO2排出量の可視化を実施した理由としては、「環境経営の推進のため」(40.9%)、「規制に対応するため」(34.4%)、「従業員の環境意識向上のため」(32.3%)が上位となっています。これらは主に社内的・対外的な要請に応えるためであり、経済的メリットの追求は比較的優先度が低いことがうかがえます。
経済的メリットの不透明さ
調査では、CO2排出量可視化ツールを導入した企業の66.7%が、可視化が「直接的な利益やコスト削減につながっていない」と感じています。これは「非常にそう感じる」(21.5%)と「ややそう感じる」(45.2%)を合わせた数字です。
また、排出量削減の取り組みができていない理由として、「業務効率や生産性への悪影響が心配だから」(36.4%)、「排出量削減は費用がかかるだけで、利益につながらないと考えるから」(27.3%)といった声が挙がっています。
これらの結果は、CO2排出量削減と経済的メリットの関連性が企業に十分理解されていないことを示しています。環境対策を「コストセンター」と捉える見方から、「プロフィットセンター」として認識するパラダイムシフトが必要です。
相談先・情報不足の問題
調査対象企業のうち、CO2排出量可視化後の施策について「相談する相手がいない」と回答した企業は26.8%に上ります。また、排出量削減の取り組みができていない理由として、「排出量削減の施策の提案がなく、取り組み方や手順がわからないから」(18.2%)という回答も見られます。
一方で、「CO2排出量の可視化のみでなく、電気代削減や太陽光・蓄電池設置による経済効果や投資対効果のシミュレーションの実施を自動で行うことができるツールがあれば、使用したい」と考える企業は86.0%(「非常にそう思う」27.0%と「ややそう思う」59.0%の合計)にのぼります。
さらに、「CO2排出量可視化ツールを提供するサービス事業者が、太陽光・蓄電池導入による経済効果や投資対効果、電気代切替による効果を試算できるツールを提供してくれるとしたら、使いたい」と考える企業も78.6%(「非常にそう思う」30.2%と「ややそう思う」48.4%の合計)に達しています。
これらの結果から、企業は環境対策の経済的側面に強い関心を持ちながらも、具体的な情報や相談先が不足している実態が浮かび上がります。
政策提言:産業用自家消費型太陽光・蓄電池普及加速戦略
上記の現状分析を踏まえ、産業用自家消費型太陽光・蓄電池の普及を加速するための4つの戦略を提言します。
戦略1:環境価値と経済価値の統合シミュレーションツールの開発・普及
背景と課題
調査結果によれば、企業の86.0%がCO2排出量の可視化だけでなく、経済効果や投資対効果のシミュレーションができるツールに興味を示しています。また、排出量削減につながる取り組みができていない理由として、「排出量が可視化されるだけで、その後の削減施策の経済効果がわからない」ことが挙げられています。
具体的施策
統合シミュレーションツールの開発支援
- 環境省・経産省による、CO2排出量削減と経済効果を同時に可視化するシミュレーションツール開発への助成金制度の創設
- APIを公開し、民間ツールとの連携を促進する標準フレームワークの整備
- 業種別・規模別のモデルケースデータベースの構築
導入診断サービスの促進
- 中小企業向け無料診断サービスの提供
- 診断結果に基づく最適な再エネ・蓄電池導入プランの提案
- ワンストップ相談窓口の設置(オンライン・オフライン)
ベストプラクティスの共有
- 成功事例のデータベース化と公開
- 業種別・地域別の導入効果ベンチマークの整備
- 定期的な成果報告会・表彰制度の実施
参考:再エネ導入の加速を支援する「エネがえるAPI」をアップデート 住宅から産業用まで太陽光・蓄電池・EV・V2Hや補助金を網羅
参考:わずか10分で見える化「投資対効果・投資回収期間の自動計算機能」提供開始 ~産業用自家消費型太陽光・産業用蓄電池の販売事業者向け「エネがえるBiz」の診断レポートをバージョンアップ~
参考:エネルギーコンサルティング | 商品・サービス(行政機関のお客様向け)
期待される効果
- 環境対策と経営判断の統合による意思決定の迅速化
- 投資判断の根拠となるデータの提供による導入率の向上
- 業界内競争による自主的な排出削減の促進
戦略2:導入コスト削減のための補助金・税制優遇制度の拡充
背景と課題
CO2排出量削減の取り組みができていない理由として、「排出量削減は費用がかかるだけで、利益につながらないと考えるから」(27.3%)という回答が挙げられています。初期投資の高さが導入障壁となっている現状を改善する必要があります。
具体的施策
初期投資負担軽減策
- 産業用自家消費型太陽光・蓄電池の導入補助金の拡充(特に中小企業向け)
- 固定資産税の減免期間延長(現行3年→5年)
- 再エネ設備の特別償却制度の拡充(償却率の引き上げ)
金融支援の強化
- 低利融資制度の拡充(政府系金融機関による優遇金利の適用)
- 信用保証枠の拡大(再エネ投資特別枠の創設)
- グリーンボンド発行支援(中小企業向けプラットフォームの整備)
運用段階での優遇措置
- 余剰電力の固定価格買取制度の継続・安定化
- 自家消費分の炭素クレジット化支援
- デマンドレスポンス報酬の拡充
期待される効果
- 投資回収期間の短縮による導入ハードルの低減
- 中小企業における導入率の向上
- 金融機関の参画促進によるグリーンファイナンスの活性化
参考:「自治体スマエネ補助金データAPIサービス」を提供開始 ~約2,000件に及ぶ補助金情報活用のDXを推進し、開発工数削減とシステム連携を強化~
参考:金融業界のGX戦略・再生可能エネルギー普及貢献におけるボトルネックと課題の構造
参考:エネルギーコンサルティング | 商品・サービス(行政機関のお客様向け) | 国際航業株式会社
戦略3:専門人材育成とナレッジ共有プラットフォームの構築
背景と課題
調査によれば、CO2排出量可視化後の施策について「相談する相手がいない」企業が26.8%存在します。また、排出量削減の取り組みができていない理由として「排出量削減の施策の提案がなく、取り組み方や手順がわからない」(18.2%)ことが挙げられています。
具体的施策
専門人材の育成
- 「産業用再エネ・蓄電池アドバイザー」認定制度の創設
- 実務者向け研修プログラムの開発・提供
- 大学・高専等における専門課程の設置支援
ナレッジ共有プラットフォームの構築
- オンライン相談プラットフォームの整備
- 業種別・規模別の導入ガイドラインの作成・公開
- 導入事例・失敗事例のデータベース化と共有
地域密着型サポート体制の強化
- 商工会議所等と連携した相談窓口の設置
- 地域金融機関による導入支援チームの結成
- 自治体と連携した導入促進協議会の設立
期待される効果
- 専門知識の普及による情報の非対称性の解消
- 地域に根差したサポート体制による中小企業の参画促進
- 業界横断的な知見の蓄積・共有による導入効率の向上
参考:太陽光・蓄電池 設計代行・経済効果試算代行・教育研修代行「エネがえるBPO」とは?
参考:「ボードゲームdeカーボンニュートラル」を使った脱炭素研修サービスを開始 〜楽しみながら「脱炭素」を学べるボードゲームを開発。自治体・企業等での活用を想定〜
戦略4:地域特性に応じた導入モデルの開発・展開
背景と課題
全国一律の施策では、地域の気候条件や産業構造、電力需給状況等の違いに対応できません。調査結果から見える「自社の事業規模では削減の効果が限定的」(18.2%)といった懸念に対応するためには、地域特性を活かした導入モデルが必要です。
具体的施策
地域別最適モデルの開発
- 気象条件・産業構造に応じた地域別導入モデルの開発
- 地域マイクログリッド連携型導入スキームの構築
- 地域エネルギー会社との連携モデルの促進
地域連携型導入スキームの促進
- 工業団地等での共同調達・運用モデルの開発
- 地域間連携による需給調整システムの構築
- 災害時の電力融通を見据えたレジリエンス強化策の実施
地域資源の活用促進
- 未利用地(廃校・遊休農地等)の活用支援
- 地域資源(バイオマス等)との併用モデルの開発
- 地域の技術者・施工業者の活用・育成
期待される効果
- 地域特性を活かした効率的な導入の促進
- 地域経済循環の創出によるエネルギー支出の域内還流
- 災害時のレジリエンス強化による地域防災力の向上
各ステークホルダーの役割と連携
産業用自家消費型太陽光・蓄電池の普及加速には、多様なステークホルダーの連携が不可欠です。以下、主要ステークホルダーの役割を整理します。
政府・自治体の役割
中央政府
- 統合シミュレーションツール開発のための標準仕様の策定
- 補助金・税制優遇措置の設計・実施
- 専門人材育成のための認定制度・カリキュラム開発
自治体
- 地域特性に応じた導入支援制度の整備
- 地域企業向け相談窓口の設置・運営
- 地域エネルギー会社等との連携促進
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金融機関の役割
政府系金融機関
- 低利融資制度の設計・実施
- リスク評価手法の標準化・共有
- 地域金融機関向け研修・情報提供
民間金融機関
- グリーンファイナンス商品の開発・提供
- 導入効果の評価・検証支援
- ESG投資の促進・情報開示
エネルギー事業者の役割
電力会社
- 系統連系円滑化のための技術・制度整備
- 余剰電力買取の安定的実施
- デマンドレスポンスプログラムの拡充
再エネ・蓄電池関連事業者
- 経済効果シミュレーションツールの開発・提供
- 導入・運用サポート体制の強化
- コスト低減・性能向上のための技術開発
導入企業の役割
大企業
- サプライチェーン全体での再エネ導入促進
- 中小企業への技術・ノウハウ提供
- 導入効果の検証・情報公開
中小企業
- 業界団体等を通じた共同導入の検討
- 導入効果の可視化・共有
- 従業員の環境意識向上
ロードマップ:段階的実施計画
産業用自家消費型太陽光・蓄電池の普及加速には、短期・中期・長期の視点を持った段階的アプローチが重要です。
短期(1年以内)の取り組み
- 統合シミュレーションツールの開発支援制度の開始
- 導入補助金・税制優遇措置の拡充
- 専門人材育成プログラムの開発着手
- 相談窓口の設置(オンライン・地域拠点)
中期(1~3年)の取り組み
- 統合シミュレーションツールの標準化・APIの公開
- 地域別最適モデルの開発・実証
- 専門人材の認定・配置の本格化
- 導入事例データベースの充実・公開
長期(3~5年)の取り組み
- 統合シミュレーションツールの高度化(AI活用等)
- 地域間連携モデルの展開
- グローバル標準を見据えた認証制度の整備
- カーボンプライシングとの連動施策の展開
期待される効果と社会的インパクト
CO2排出量削減効果
本提言の施策が実行され、産業用自家消費型太陽光・蓄電池の導入が進むことで、以下のCO2排出量削減効果が期待されます。
- 産業部門のCO2排出量:年間約1,000万トン削減(2030年時点)
- 電力系統の脱炭素化貢献:石炭火力発電の稼働率低減
- ピークカット効果:夏季・冬季の電力需要ピーク時の化石燃料発電の削減
経済効果
産業用自家消費型太陽光・蓄電池の普及は、以下の経済効果をもたらします。
- 関連産業の市場規模:2030年に年間1兆円規模へ拡大
- 雇用創出:設計・施工・メンテナンス等で約5万人の雇用創出
- エネルギーコスト削減:導入企業のエネルギーコスト15~30%削減
- 国際競争力強化:脱炭素製品の供給体制構築によるグリーン市場での優位性確保
エネルギー安全保障への貢献
エネルギー自給率の向上は、日本の喫緊の課題です。産業用自家消費型太陽光・蓄電池の普及は、以下の効果をもたらします。
- エネルギー自給率向上:現状の約12%から20%以上への貢献
- 災害時のレジリエンス強化:BCP対応力の向上
- 地域分散型エネルギーシステムの構築:電力系統の強靭化
まとめ:包括的アプローチの必要性
本提言では、CO2排出量可視化ツールを導入している企業の調査結果を基に、産業用自家消費型太陽光・蓄電池の普及加速戦略を4つの柱で整理しました。
- 環境価値と経済価値の統合シミュレーションツールの開発・普及
- 導入コスト削減のための補助金・税制優遇制度の拡充
- 専門人材育成とナレッジ共有プラットフォームの構築
- 地域特性に応じた導入モデルの開発・展開
これらの戦略を包括的に実施することで、「可視化から行動へ」のギャップを埋め、環境対策と経済合理性を両立させた産業構造への転換を加速することができます。
調査結果が示すように、企業は環境対策の経済的側面に強い関心を持っています。この点に着目し、CO2排出量削減を「コスト」ではなく「投資」として捉えられる環境づくりが重要です。
そのためには、政府・自治体、金融機関、エネルギー事業者、導入企業といった多様なステークホルダーが連携し、短期・中期・長期の視点を持って取り組むことが不可欠です。
日本のカーボンニュートラル実現と産業競争力強化の両立に向けて、本提言が実効性のある政策立案の一助となることを期待します。
参考資料
国際航業株式会社「CO2排出量可視化の効果に関する実態調査」(2024年12月) https://www.enegaeru.com/
経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2021年6月) https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005.html
環境省「地域脱炭素ロードマップ」(2021年6月) https://www.env.go.jp/earth/datsutanso/
資源エネルギー庁「再生可能エネルギー導入拡大に向けた政策の方向性」(2022年5月) https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/
国立環境研究所「2050年脱炭素社会実現のためのシナリオ分析」(2022年3月) https://www.nies.go.jp/
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)「Renewable Power Generation Costs in 2022」 https://www.irena.org/
太陽光発電協会「産業用太陽光発電システム導入ガイドライン」(2023年版) https://www.jpea.gr.jp/
蓄電池産業戦略検討会「蓄電池産業の競争力強化に向けた戦略」(2023年3月) https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/chikudenchi/
参考:再エネ導入の加速を支援する「エネがえるAPI」をアップデート 住宅から産業用まで太陽光・蓄電池・EV・V2Hや補助金を網羅
参考:わずか10分で見える化「投資対効果・投資回収期間の自動計算機能」提供開始 ~産業用自家消費型太陽光・産業用蓄電池の販売事業者向け「エネがえるBiz」の診断レポートをバージョンアップ~
参考:「自治体スマエネ補助金データAPIサービス」を提供開始 ~約2,000件に及ぶ補助金情報活用のDXを推進し、開発工数削減とシステム連携を強化~
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