「一次エネルギー消費量基準」と「外皮基準」の教科書:2025年脱炭素住宅への完全ロードマップ

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。お仕事・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

太陽光
太陽光

目次

「一次エネルギー消費量基準」と「外皮基準」の教科書:2025年脱炭素住宅への完全ロードマップ

はじめに:持続可能な未来への架け橋

2025年4月からすべての新築建築物に省エネ基準適合が義務付けられることで、日本の建築・不動産業界は歴史的な転換点を迎えています。この変革は単なる規制強化ではなく、気候変動対策と持続可能な社会の実現に向けた重要なステップです。本記事では、「一次エネルギー消費量基準」と「外皮基準」について、最新の技術動向と政策分析を踏まえた包括的解説と革新的な提案を行います。

建築分野は日本のエネルギー消費の約1/3を占め、CO2排出削減において極めて重要なセクターです。省エネ基準適合義務化は、2050年カーボンニュートラル実現への具体的な取り組みとして位置づけられています。しかし、日本の省エネ基準は国際的に見ればまだ発展途上であり、今後さらなる高みを目指すための道筋を描く必要があります。

1. 省エネ基準の基本構造:二つの柱を理解する

1.1 現代の省エネ基準の全体像

現代の建築物省エネ法における省エネ性能評価は、「一次エネルギー消費量基準」と「外皮基準」という二つの柱で成り立っています。これらの基準は相互に関連しながらも、異なる側面から建築物のエネルギー効率を評価します。

一次エネルギー消費量基準は建物が使用するエネルギー全体を評価する「運用性能」に関する基準であり、外皮基準は建物自体の断熱性能という「物理的性能」を評価する基準です。この二重構造によって、建物自体の性能と使用時のエネルギー効率の両面から総合的な評価が可能になっています。

1.2 一次エネルギー消費量基準とは何か

一次エネルギー消費量とは、建築物で使用される設備機器のエネルギー消費を熱量(MJ/年・㎡)に換算した値です。冷暖房だけでなく、換気、給湯、照明なども含めた合計値を一次エネルギーという統一指標で評価します。

一次エネルギー消費量基準では、実際の建築物の仕様で算定した「設計一次エネルギー消費量」が、標準的な仕様で算定された「基準一次エネルギー消費量」以下であることが求められます。この関係性は以下の式で表されます:

設計一次エネルギー消費量 ≦ 基準一次エネルギー消費量

つまり、計画している建物が標準的な建物よりもエネルギー効率が良いことを証明する必要があるのです。

BEI(Building Energy Index)の重要性

BEIは、建築物のエネルギー性能を数値化した指標で、以下の計算式で求められます:

BEI = 設計一次エネルギー消費量 ÷ 基準一次エネルギー消費量

BEIが1.0以下であれば省エネ基準に適合していることになります。さらに、数値が小さいほど省エネ性能が高いことを示します。

  • BEI ≦ 0.8:ZEH基準
  • BEI ≦ 0.9:誘導基準
  • BEI ≦ 1.0:省エネ基準

これらのランクは、建築物の性能レベルを示すとともに、各種補助金や優遇制度の適用条件にもなっています。注目すべきは、BEIの計算には再生可能エネルギーによる創エネ分は含まれないという点です。これは純粋に消費エネルギーの削減効果を評価するためです。

1.3 外皮基準の本質と重要性

外皮基準は、建築物の断熱性能を評価するための基準です。「外皮」とは、住宅の室内と屋外を区分する「熱的境界」を構成する部位を指します。具体的には:

  • 外壁
  • 天井、屋根、床
  • 開口部(窓・玄関ドアなど)
  • 基礎

これらの部位の断熱性能を総合的に評価するのが外皮基準です。外皮性能は、暖房・冷房エネルギー消費量に直接影響するだけでなく、居住者の快適性や健康にも関わる重要な要素です。

1.4 UA値とηAC値の理解

住宅の外皮性能は、主に「UA値」と「ηAC値」という二つの指標で評価されます:

UA値(外皮平均熱貫流率)住宅の断熱性能を数値化したもので、室内外の熱がどれだけ出入りしやすいかを表します。単位は「W/(㎡・K)」で表され、値が小さいほど断熱性能が高くなります。これは冬季の暖房負荷に特に影響します。

ηAC値(冷房期の平均日射熱取得率)夏季に太陽熱がどのくらい室内に入りやすいかを示す数値です。値が小さいほど遮熱性能が高く、夏の冷房負荷を減らすことができます。

これらの値は、地域区分によって基準値が異なります。例えば、UA値は北海道や東北などの寒冷地では厳しい基準(低い値)が設定されていますが、沖縄では基準値自体が設定されていません。一方、ηAC値は暑い地域ほど厳しい基準値が設定されています。

地域区分12345678
UA値 [W/(㎡・K)]0.460.460.560.750.870.870.87
ηAC値3.02.82.76.7

これらの数値は、住宅が各地域の気候条件に適した性能を持つように設定されています。ただし、注目すべきは、これらの基準値が国際的に見ると決して厳しくないという点です。例えば、ドイツのパッシブハウス基準では、UA値は0.15 W/(㎡・K)以下という非常に厳しい基準が設定されています。

2. 省エネ基準2025:何が変わるのか

2.1 適合義務の範囲と期限

2025年4月から施行される「改正建築物省エネ法」により、すべての新築建築物(政令で定める10m²以下の小さい建築物は適用除外)に省エネ基準適合義務が課されます。

具体的には、2025年4月以降に建築確認を取得したすべての建築物が対象となります。それ以前に建築確認を取得していれば2025年4月以降に竣工しても対象外となりますが、実質的には法施行前から来年4月以降の省エネ基準に適合している建築物でないと市場で受け入れられない状況です。

2.2 適合基準の具体的内容

2025年4月以降に適合していなければならない省エネ基準とは、「断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上の住宅」です。これは1999年に制定された基準(当時は次世代省エネ基準)で、窓や玄関など住宅の開口部も断熱しなければならないというレベルのものです。

注目すべきは、2022年3月まではこの等級4が最高等級であったのに対し、2022年4月以降には等級5~7が新たに設定され、現状ではこの等級4が省エネ基準適合の”最低等級”になっているという点です。これは、日本の省エネ基準が今後さらに厳しくなっていく可能性を示唆しています。

2.3 既存ストックへの影響と対応

2025年の省エネ基準適合義務化は新築建築物が対象ですが、既存の建築物にも間接的な影響があります。具体的には、省エネ性能の高い新築物件が増えることで、省エネ性能の低い既存建築物の資産価値が相対的に低下する可能性があります。

このため、既存建築物の所有者も省エネ改修を検討する必要性が高まります。特に、断熱性能向上のためのリフォームや、設備の高効率化は、光熱費削減と資産価値維持の両面でメリットがあります。

3. 世界標準から見た日本の省エネ基準

3.1 EU指令(EPBD)と日本の基準比較

欧州連合(EU)では、2003年に「建築物のエネルギー性能に係る欧州指令(EPBD: Energy Performance of Buildings Directive)」が施行されました。このEPBDは、新築および大規模改修時のエネルギー性能要求事項の最低基準の適用や、建築物の取引時のエネルギー性能評価証書の取得などを定めています。

特に注目すべきは、EU指令では2018年までに新築公共建築物をNZEB(ニアリーZEB)とし、2020年までにすべての新築建築物をNZEBとする目標を掲げていたことです。これに比べると、日本の2025年からの省エネ基準適合義務化は、かなり遅れていると言わざるを得ません。

また、EUの「Renovation Wave Strategy」では、2030年までに既存建築物の年間改修率を現在の2倍に引き上げることを目標としており、既存ストックの省エネ改修にも積極的に取り組んでいます。

3.2 パッシブハウス基準との断層

ドイツ発祥のパッシブハウス基準は、世界的に見ても非常に厳しい省エネ基準の一つです。パッシブハウスには以下の3つの基準があります:

  • 年間の冷暖房負荷が各15kWh/m²以下
  • 家電も含む一次エネルギー消費量が120kWh/m²以下
  • 気密性能として、50Paの加圧時の漏気回数が0.6回以下

これらの基準を満たすためには、高い断熱性能や気密性能が必要であり、例えば断熱材の厚さは一般的な住宅の2倍以上(300mm以上)が必要とされます。

一方、日本の省エネ基準(断熱等性能等級4)は、パッシブハウス基準と比較するとかなり緩い基準です。実際、パッシブハウス基準は日本の省エネ基準の3倍以上の断熱性能を求めているとされています。

3.3 北欧モデルから学ぶ高性能住宅の設計思想

北欧諸国、特にスウェーデンやフィンランドでは、厳しい冬の気候条件に対応するため、高い断熱性能と気密性能を持つ住宅が一般的です。これらの国々では、「熱回収型換気システム」や「トリプルガラス窓」が標準装備となっています。

北欧モデルの特徴は、単に断熱性能を高めるだけでなく、自然光の取り入れ方室内の空気質にも配慮した総合的なアプローチにあります。例えば、冬でも室内に十分な日光を取り入れるための窓の配置や、健康的な室内環境を維持するための自然素材の活用などが挙げられます。

また、北欧では「サーキュラーエコノミー」の考え方を取り入れた建築材料の選択も進んでおり、解体時のリサイクル性や環境負荷の低減を考慮した設計が行われています。

4. 高性能住宅の評価指標と認証制度

4.1 ZEH/ZEBとは何か

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは、住宅において消費するエネルギーよりも生成するエネルギーが多い住宅を指します。一方、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)は、オフィスビルやテナント、公共施設などの業務用施設を対象にしています。

ZEBには、エネルギー削減率に応じて以下のようなランクが設けられています:

ランク条件
ZEB Oriented・再生可能エネルギー導入不要
・基準一次エネルギー消費量削減率30~40%
・延べ床面積10,000㎡以上の施設が対象
ZEB Ready・再生可能エネルギー導入不要
・基準一次エネルギー消費量削減率50%以上
Nearly ZEB・再生可能エネルギー導入必須
・基準一次エネルギー消費量削減率50% (再生可能エネルギーを除く)
・基準一次エネルギー消費量削減率75%以上100%未満の削減 (再生可能エネルギーを含む)
ZEB・再生可能エネルギー導入必須
・基準一次エネルギー消費量削減率50%以上 (再生可能エネルギーを含まず)
・基準一次エネルギー消費量削減率(再生可能エネルギーを含む)100%以上

このような段階的なランクを設けることで、建築物の規模や用途に応じた現実的な目標設定が可能になっています。

4.2 BELS評価制度の理解

BELS(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System)は、建築物エネルギー性能表示制度の略称で、2014年に国土交通省により制定された省エネルギー性能に特化した評価・表示制度です。

BELSでは、建築物の一次エネルギー消費量に基づき、第三者評価機関が星マークの数(最大6つ)で評価します。BELSの評価ランクは以下のとおりです:

評価非住宅(事務所・学校・工場等)非住宅(ホテル・病院・百貨店等)ZEBとの関係
☆☆☆☆☆☆BEI≦0.5(削減率50%以上)BEI≦0.5(削減率50%以上)ZEB基準 (ZEB Ori.以外)
☆☆☆☆☆0.6≧BEI>0.5(削減率40~50%)0.6≧BEI>0.5(削減率40~50%)ZEB Oriented基準 (工場・事務所・学校等)
☆☆☆☆0.7≧BEI>0.6(削減率30~40%)0.7≧BEI>0.6(削減率30~40%)ZEB Oriented基準 (ホテル・百貨店・病院・飲食店等)
☆☆☆0.8≧BEI>0.7(削減率20~30%)0.8≧BEI>0.7(削減率20~30%)大規模建築の省エネ基準 (工場・事務所・学校・ホテル・百貨店等)
☆☆0.9≧BEI>0.8(削減率10~20%)0.9≧BEI>0.8(削減率10~20%)大規模建築の省エネ基準 (病院・飲食店等)
1.0≧BEI>0.9(削減率0~10%)1.0≧BEI>0.9(削減率0~10%)中小規模建築の省エネ基準

このように、BELSはZEBの基準とも連動した評価体系となっており、建築物の省エネ性能を客観的に示す重要な指標となっています。

4.3 HEAT20・HEATプラス基準とその意義

HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)は、2009年に設立された民間の有志団体で、将来的な住宅の断熱性能の目標値を提案しています。HEAT20では、G1、G2、G3という3段階の断熱性能基準を設定しています。

グレード内容UA値の目安
G1単層ガラス窓を使用した場合でも窓面に結露が生じない程度の断熱性能0.34~0.56 W/(㎡・K)
G2外気温が-10℃の環境下で暖房を停止しても室温が0℃以下にならない断熱性能0.26~0.34 W/(㎡・K)
G3外気温が-10℃の環境下で暖房を停止しても室温が15℃以下にならない断熱性能0.19~0.26 W/(㎡・K)

HEAT20基準は、日本の気候条件を考慮した上で、実際の生活の質を向上させることを目的とした基準です。特に、G2、G3レベルの性能を持つ住宅では、ヒートショックのリスク低減などの健康面でのメリットも大きいとされています。

さらに、2022年からは「HEATプラス」という新しい基準が提案されており、これは断熱性能だけでなく、健康・快適性、環境性、省エネ性、レジリエンス性を総合的に評価する基準となっています。

5. 省エネ基準適合のための技術と方法論

5.1 断熱性能向上のための技術選択

断熱性能を向上させるためには、以下のような技術選択が重要です:

5.1.1 断熱材の選択と厚み

断熱材の種類と厚みは、UA値に大きく影響します。例えば、パッシブハウスレベルの性能を目指す場合、グラスウールならば300mm以上の厚みが必要になります。一方、一般的な省エネ基準(等級4)であれば、グラスウール100~150mm程度で対応可能です。

断熱工事の費用の目安としては、関東の在来木造2階建て・延床面積約32.5坪の住宅で、天井と床を国の省エネ基準に適合させる場合、約73万円程度かかります。内訳としては、天井がm²あたり4,300円、床がm²あたり12,000円程度です。

5.1.2 高性能窓の導入

窓は住宅の中で最も熱の出入りが大きい部位です。したがって、UA値を下げるためには高性能な窓の導入が不可欠です。

トリプルサッシ(3重窓)は、断熱性能や防音性を大幅に向上させる効果がありますが、コストは複層ガラス窓の1.5~2倍程度になります。具体的な価格の目安は以下のとおりです:

  • 小型窓(600×600mm程度):10~15万円
  • 中型窓(1200×1200mm程度):20~30万円
  • 大型窓(2000×2000mm程度):50万円以上

ただし、トリプルサッシの導入により冷暖房効率が大幅に向上するため、長期的には費用対効果が期待できます。

5.2 エネルギー消費削減のための設備選択

エネルギー消費量を削減するためには、高効率な設備の導入も重要です:

5.2.1 高効率設備の選択

一次エネルギー消費量を削減するためには、以下のような高効率設備の導入が効果的です:

  • 高効率エアコン(APF値の高いもの)
  • 熱交換型換気システム(熱回収率75%以上)
  • LED照明
  • 高効率給湯器(エコキュート、エネファームなど)

これらの設備を導入することで、BEIを大きく改善することができます。

5.2.2 エネルギー管理システム(EMS)の活用

エネルギー管理システム(EMS:Energy Management System)は、建物のエネルギー使用状況を「見える化」し、効率的な運用を支援するシステムです。

EMSの主な機能は以下の3つです:

  1. エネルギー使用状況の「見える化」
  2. エネルギー使用状況の分析
  3. 経費削減のためのエネルギー利用の改善

EMSを導入することで、どの機器がどれだけの電力を消費しているのか、電気使用量が多い箇所はどこなのかといった詳細情報をリアルタイムで把握することができます。

5.3 省エネ設計のプロセスと留意点

省エネ基準に適合する住宅を設計する際のプロセスと留意点について解説します:

5.3.1 設計初期段階での検討事項

設計の初期段階では、以下の点について十分に検討することが重要です:

  1. 地域特性の考慮: 建設予定地の気候条件(寒冷地か温暖地か)を考慮し、UA値とηAC値のバランスを検討します。
  2. 建物形状の最適化: コンパクトな形状(表面積と容積の比率を小さくする)が熱損失を減らす上で有利です。
  3. 窓の配置と大きさ: 日射取得と断熱性能のバランスを考慮した窓の配置と大きさを検討します。
  4. 自然エネルギーの活用可能性: 太陽光発電や地中熱利用など、再生可能エネルギーの活用可能性を検討します。

5.3.2 施工品質の確保

省エネ基準適合のためには、設計通りの性能を実現するための施工品質の確保も重要です:

  1. 断熱材の施工品質: 断熱材の隙間や圧縮は性能を大きく低下させるため、適切な施工が不可欠です。
  2. 気密施工: 高い断熱性能を活かすためには、気密性能の確保も重要です。気密テープや専用シーリング材の適切な使用が必要です。
  3. 熱橋(ヒートブリッジ)対策: 柱や梁などの構造部材を通じた熱損失を防ぐための対策が必要です。
  4. 設備配管の断熱: 給湯配管や暖房配管の断熱も重要な要素です。

6. 省エネ基準適合のコストと投資回収

6.1 初期投資コストの分析

省エネ基準に適合するための追加コストは、一般的な住宅と比較して1~2割増しになるケースが多いです。例えば、通常2,500万円の住宅であれば、省エネ基準に適合させるためには2,750~3,000万円程度の費用がかかる計算になります。

ただし、このコストは工務店や設計事務所によって大きく異なり、また採用する断熱材や設備によっても変動します。

詳細な内訳としては、一般的に以下のような追加コストが発生します:

  1. 断熱材の強化: +100~200万円程度
  2. 高性能窓の導入: +50~200万円程度
  3. 高効率設備の導入: +50~150万円程度
  4. 気密施工の強化: +30~50万円程度

6.2 長期的な費用対効果

高い断熱性能と省エネ設備を備えた住宅は、初期投資は高くなりますが、以下のようなメリットがあります:

  1. 光熱費の削減: エネルギー消費量が少ないため、月々の光熱費が大幅に削減されます。一般的には年間で10~20万円程度の削減効果が見込まれます。

  2. 健康面のメリット: 住宅内の温度差が少なくなり、ヒートショックのリスクが低下します。また、結露の防止によりカビやダニの発生も抑制されます。これらの健康面のメリットは金銭換算が難しいものの、医療費の削減や生活の質の向上につながります。

  3. 耐久性の向上: 適切な断熱・気密施工により、建物の耐久性が向上します。結露による建材の劣化が防止されるため、メンテナンスコストの削減にもつながります。

  4. 資産価値の維持: 省エネ性能の高い住宅は、将来的な資産価値の維持にも寄与します。特に2025年以降は、省エネ基準に適合していない住宅は中古市場での評価が低くなる可能性があります。

これらの要素を総合的に考えると、初期投資の回収期間は一般的に10~15年程度と見込まれます。また、健康面のメリットなど、金銭的に換算しづらい価値も大きいと言えるでしょう。

6.3 補助金・減税制度の活用

省エネ住宅の普及を促進するため、国や地方自治体は様々な補助金や減税制度を設けています:

  1. ZEH関連補助金: ZEHの新築や改修に対する補助金制度があり、一般的に60~125万円程度の補助が受けられます。

  2. 住宅ローン減税: 省エネ性能の高い住宅は、住宅ローン減税の控除率や控除期間が優遇されることがあります。

  3. 固定資産税の減額: 省エネ性能が高い住宅は、固定資産税が一定期間減額される場合があります。

  4. 地方自治体独自の補助金: 多くの自治体では、高性能の省エネ住宅や再生可能エネルギー設備の導入に対する独自の補助金制度を設けています。

これらの制度を上手く活用することで、省エネ住宅の初期コストを大幅に軽減することができます。ただし、これらの制度は年度ごとに内容が変更されることがあるため、最新の情報を確認することが重要です。

7. 未来の省エネ基準:技術と政策の展望

7.1 より厳しくなる国際的な省エネ要求

国際的に見ると、建築物の省エネ基準は年々厳しくなる傾向にあります。特にEUでは、すでに全ての新築建築物をNearly ZEBにする目標を掲げており、日本もこの流れに追随せざるを得なくなるでしょう。

現在の日本の省エネ基準(断熱等性能等級4)は、国際的に見れば決して厳しいものではありません。今後は、断熱等性能等級5以上やZEH基準が標準になっていく可能性が高いと考えられます。

さらに、EUでは「エンボディドカーボン(建材製造から建設、解体までのライフサイクル全体でのCO2排出)」の規制も検討されており、この観点からも日本の基準は見直しが必要になるでしょう。

7.2 AI・IoTを活用した次世代エネルギーマネジメント

これからの省エネ住宅では、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を活用したエネルギーマネジメントが重要になります。例えば:

  1. AIによる居住者の生活パターン学習と最適な設備運転: AIが家族の生活リズムを学習し、在宅時間や好みの温度に合わせて冷暖房を自動制御します。予測型の制御によって、快適性を損なわずにエネルギー消費を最小化します。

  2. IoTデバイスによる詳細なエネルギー消費の見える化と自動制御: 各機器ごとの消費電力をリアルタイムで把握し、無駄を自動的に削減します。スマートスイッチやスマートプラグの活用により、個別機器の電力管理が可能になります。

  3. 気象データと連動した予測型エネルギー制御: 天気予報データをリアルタイムで取得し、翌日の日射量や気温を予測して、最適な冷暖房運転や蓄電池の充放電を計画します。

  4. V2H(Vehicle to Home)による電気自動車からの電力供給と最適運用: 電気自動車を家庭用の蓄電池として活用し、ピークシフトや非常時のバックアップ電源として利用します。AIが電気料金の変動や電力需給状況を予測して、最適な充放電タイミングを決定します。

これらの技術を統合することで、省エネと快適性を両立させた住環境が実現できます。また、これらのシステムはクラウドベースで常に進化し、新しい省エネアルゴリズムや機能が自動的に追加されていく仕組みが一般的になるでしょう。

7.3 革新的断熱材と再生可能エネルギーの融合

将来的な省エネ住宅では、以下のような技術革新が期待されます:

  1. 先進断熱材の普及: 真空断熱材エアロゲルなど、薄くても高い断熱性能を発揮する先進断熱材の普及が進むでしょう。これらの材料は従来の断熱材の1/10程度の厚さで同等の断熱性能を発揮するため、リフォームや狭小住宅での活用が期待されます。

  2. 相変化材料(PCM)の活用: 蓄熱性能の高い相変化材料を活用した温度変動の緩和技術が普及するでしょう。PCMは温度変化に応じて固体と液体の間で状態変化し、大量の熱を吸収・放出するため、室内温度の安定化に寄与します。

  3. 建材一体型太陽電池: 屋根材や外壁材と一体化した太陽電池による創エネシステムが普及するでしょう。特に、ペロブスカイト太陽電池などの新世代太陽電池は、軽量・フレキシブルな特性を活かして様々な形状の建材に組み込めるようになります。

  4. 地中熱などの未利用エネルギーの活用: 地中熱や排熱などを活用した高効率な冷暖房システムが標準化するでしょう。地中熱ヒートポンプは、年間を通じて比較的安定している地中の温度を利用することで、空気熱源ヒートポンプよりも高い効率を実現できます。

これらの技術が普及することで、現在のZEHよりもさらに高い性能を持つ「ZEH+(プラス)」や「ZEH++(ダブルプラス)」が標準になっていくでしょう。また、蓄電システムと組み合わせることで、レジリエンス(災害時の回復力)も向上します。

8. 新たなビジネスチャンスと投資機会

8.1 省エネ診断・コンサルティングサービスの拡大

省エネ基準が厳格化されることで、適合するための専門知識がより重要になります。そのため、以下のようなサービスが拡大すると予想されます:

  1. 省エネ性能評価・診断サービス: 既存住宅や新築計画の省エネ性能を詳細に診断し、改善提案を行うサービス。サーモグラフィーブロアドアテストなどの先進的な測定技術を活用した高精度な診断が価値を持ちます。

  2. 最適な断熱・設備選定のコンサルティング: 建築主の予算と優先事項に応じて、最適な断熱仕様や設備の組み合わせを提案するコンサルティングサービス。シミュレーションツールを用いた定量的な分析と費用対効果の提示が差別化ポイントになります。

  3. リフォーム時の省エネ改修提案サービス: 既存住宅の断熱性能向上や設備更新のための改修提案サービス。特に部分改修ステップアップ改修など、予算に応じた段階的な改善策の提案が求められます。

  4. 省エネ住宅の資産価値評価サービス: 省エネ性能が住宅の資産価値に与える影響を評価するサービス。不動産鑑定士や金融機関と連携した、省エネ住宅の適正な市場価値評価システムの構築が期待されます。

特に、既存住宅の省エネ改修市場は今後大きく拡大する可能性があります。日本の住宅ストックの多くは断熱性能が低いため、2025年以降は特に中古住宅の省エネ改修需要が高まるでしょう。

8.2 エネルギーマネジメントサービスの普及

単に省エネ基準に適合させるだけでなく、継続的にエネルギー消費を最適化するサービスも重要になります:

  1. HEMS(Home Energy Management System)の提供と運用支援: 家庭向けエネルギー管理システムの導入・設定・運用をサポートするサービス。AIを活用した自動最適化や異常検知機能など、高度な分析と制御機能が差別化ポイントになります。

  2. エネルギーデータ分析に基づく改善提案: 収集したエネルギー消費データを詳細に分析し、節電・節ガスのための具体的な改善提案を行うサービス。季節ごとの最適運用方法の提案や、設備更新タイミングの提案なども含まれます。

  3. 電力の最適調達支援(再エネ電力の活用など): 家庭や事業者向けに、最適な電力契約の選択再生可能エネルギー電力の調達をサポートするサービス。変動型料金プランの活用や、自家消費型太陽光発電の最適設計なども含まれます。

    参考:再エネ導入の加速を支援する「エネがえるAPI」をアップデート 住宅から産業用まで太陽光・蓄電池・EV・V2Hや補助金を網羅 ~大手新電力、EV充電器メーカー、産業用太陽光・蓄電池メーカー、商社が続々導入~ | 国際航業株式会社 

  4. 需要側の柔軟性(デマンドレスポンス)による収益化支援: 家庭の電力使用をシフトすることで電力市場から収益を得る仕組みを提供するサービス。アグリゲーターとして複数の家庭の需要調整能力を束ねて取引する新たなビジネスモデルが普及するでしょう。

これらのサービスは、省エネと経済性を両立させるための重要な要素となります。また、リアルタイムデータ分析やAIの活用により、よりパーソナライズされたサービスが可能になります。

8.3 高性能建材・設備のイノベーション

省エネ基準の強化は、建材・設備メーカーにとっても大きな挑戦であり、チャンスでもあります:

  1. 高性能・低コストの断熱材開発: より薄く、施工しやすく、かつ高性能な断熱材の開発競争が活性化します。バイオマス由来の環境配慮型断熱材や、ナノテクノロジーを活用した次世代断熱材など、新素材の開発が進むでしょう。

  2. 高断熱・遮熱性能を持つ窓システムの開発: 窓は住宅の熱損失の大きな要因であるため、高性能かつ手頃な価格の窓システムへのニーズが高まります。真空ガラスや調光ガラス、断熱サッシなど、革新的な窓技術の開発が進むでしょう。

  3. AIを活用した省エネ制御システム: 家電や設備機器をAIで統合制御し、居住者の快適性を維持しながら最小のエネルギー消費を実現するシステムの開発が進みます。特に既存住宅への後付けが容易なプラグアンドプレイ型のシステムが求められるでしょう。

  4. 再生可能エネルギーと蓄電池を統合した家庭用エネルギーシステム: 太陽光発電、家庭用蓄電池、V2H(Vehicle to Home)を統合的に制御するシステムの開発が進むでしょう。特に、レジリエンス(災害時対応力)と経済性を両立させるシステムへのニーズが高まります。

    参考:住宅用太陽光発電+定置型蓄電池+EV+V2Hの導入効果を誰でもカンタン5分で診断 クラウド型SaaS「エネがえるEV・V2H」の有償提供を開始 | 国際航業株式会社のプレスリリース 

これらの領域では、従来の建設・住宅産業だけでなく、IT企業やエネルギー企業など異業種からの参入も増えていくでしょう。業界の垣根を越えた協業や買収・合併が活発化し、新たな総合住宅ソリューションプロバイダーが誕生する可能性があります。

8.4 循環型建築材料と再生可能資源の活用

脱炭素化の流れの中で、建築材料自体の環境負荷低減も重要なテーマとなります:

  1. 木材を中心とした自然素材の活用: 木材は炭素を固定し、製造時のCO2排出量が少ない建材です。CLT(直交集成板)やLVL(単板積層材)など、高性能木質建材の普及が進むでしょう。国産材の活用を促進する政策と連動して、地域の森林資源を活用した住宅建設が増加すると考えられます。

  2. リサイクル材料を活用した建材開発: プラスチック廃棄物や産業副産物を活用した建材の開発が進むでしょう。リサイクルプラスチックを利用した断熱材や、産業廃棄物を原料とするセメント代替材料など、環境負荷の低い建材へのニーズが高まります。

  3. 建材のトレーサビリティシステム: 建材の製造過程における環境負荷や、使用されている化学物質などの情報を追跡・管理するシステムが普及するでしょう。環境認証制度と連動し、サプライチェーン全体での持続可能性を評価する仕組みが整備されていきます。

  4. 解体・リサイクルを前提とした設計手法: 将来の解体時に建材を分別・再利用しやすいよう設計する「デザイン・フォー・ディスアセンブリ」の考え方が普及するでしょう。モジュール化された建築システムや、接着剤を使わない組立方法など、循環型社会に適した建築手法が発展すると考えられます。

これらの取り組みは、建築物の運用時のエネルギー消費だけでなく、材料製造から廃棄までのライフサイクル全体での環境負荷を低減することに貢献します。今後の省エネ基準は、こうした「エンボディドカーボン」の視点も含めた総合的な環境性能評価へと発展していくでしょう。

9. 一次エネルギー消費量基準と外皮基準の最適バランス:未来への提言

9.1 パッシブファースト原則の重要性

持続可能な省エネ住宅を実現するためには、「パッシブファースト」の原則が重要です。これは、まず建物の外皮性能(パッシブ性能)を高め、その上で高効率設備を導入するという考え方です。

外皮性能を高めることで、設備に頼らない快適性が実現でき、将来の設備更新時にも性能が維持されます。また、災害時など設備が使えない状況でも一定の居住環境を確保できる利点があります。

具体的には、以下のようなアプローチが推奨されます:

  1. 高断熱・高気密化を最優先: まず外皮性能(UA値、ηAC値、気密性能)を可能な限り高め、暖冷房負荷自体を削減します。HEAT20のG2レベル(UA値0.34 W/(㎡・K)以下)を目指すことで、少ないエネルギーで快適な室内環境が実現できます。

  2. パッシブデザインの活用: 太陽熱や自然風などの自然エネルギーを活用するパッシブデザインを積極的に取り入れます。南面の日射取得夏季の日射遮蔽夜間の自然換気など、地域の気候特性を活かした設計手法を活用します。

  3. 設備の適正容量設計: 外皮性能が高まれば、暖冷房設備の容量を適正化(ダウンサイジング)できます。過大な設備容量は初期コストと運用効率の両面で不利になるため、外皮性能と設備容量のバランスを最適化します。

  4. 再生可能エネルギーの導入: 外皮性能と設備効率の改善の後に、太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入します。発電した電力を自家消費することで、さらなるエネルギー自立度の向上を目指します。

このパッシブファーストのアプローチは、単にエネルギー消費を削減するだけでなく、住まいの快適性、健康性、レジリエンスを高める統合的な解決策です。短期的な初期コストだけでなく、長期的な視点での持続可能性を重視する考え方と言えるでしょう。

9.2 地域特性に応じた柔軟な基準設定

日本は南北に長く、気候条件が大きく異なります。そのため、全国一律の基準ではなく、地域特性に応じた柔軟な基準設定が重要です。

例えば、寒冷地では断熱性能(UA値)を重視し、温暖地では遮熱性能(ηAC値)を重視するなど、地域ごとに最適な性能バランスを定義することが望ましいでしょう。

具体的な提案としては:

  1. 気候区分のさらなる細分化: 現在の8区分をさらに細分化し、地域特性をより詳細に反映した基準設定を行います。特に、夏季と冬季の両方で厳しい条件となる地域(例:関東内陸部や東海地方)では、冷暖房バランスを考慮した特別な基準が必要かもしれません。

  2. 季節変動を考慮した動的基準: 現在の基準は静的な外皮性能を評価していますが、将来的には季節や気象条件の変動に対応できる動的な性能評価も導入すべきでしょう。例えば、夏季と冬季で最適な窓性能が異なる場合、可変型の遮熱システムなどの評価方法を整備します。

  3. 地域資源を活用した基準の多様化: 地域で調達可能な断熱材や建材を活用しやすい基準設定も重要です。例えば、豊富な森林資源がある地域では、木材や木質繊維断熱材の活用を促進する基準を設けるなど、地域の特性や資源を活かした多様な達成ルートを認めることで、地域の産業振興にも貢献します。

  4. マイクログリッドとの連携を考慮した基準: 地域単位でのエネルギーマネジメントシステムが普及する中、個々の住宅だけでなく、地域全体でのエネルギーバランスを考慮した基準設定も重要になります。例えば、地域熱供給システムとの連携や、地域マイクログリッドへの貢献度を評価する指標などが考えられます。

このような地域特性に応じた柔軟な基準設定により、それぞれの地域に最適な住宅が普及し、全体としてのエネルギー効率と居住性の向上が期待できます。

9.3 ライフサイクルアセスメントの視点導入

建築物の真の環境性能を評価するためには、運用時のエネルギー消費だけでなく、建設から解体までのライフサイクル全体での環境負荷を考慮することが重要です。

今後の省エネ基準では、以下のような要素も考慮すべきでしょう:

  1. 建材の製造・輸送時のCO2排出量: 断熱材や建材の製造過程でのCO2排出(エンボディドカーボン)も評価対象とし、総合的な環境負荷を最小化する選択を促します。特に、高性能断熱材の中には製造時のCO2排出量が多いものもあるため、性能と環境負荷のバランスを考慮する必要があります。

  2. 建設・解体時のエネルギー消費: 建設工事や将来の解体・廃棄時のエネルギー消費も評価に含めることで、工期短縮や解体容易性にも配慮した設計・施工を促進します。プレファブ工法や組立式構造など、省力化・省エネ化につながる建設技術の普及が期待されます。

  3. 材料のリサイクル可能性: 建材のリサイクル性や再利用可能性を評価基準に加えることで、循環型の建築システムを促進します。解体時の分別容易性や、モジュール化された部材の再利用性などが評価ポイントとなります。

  4. 建物の長寿命化技術: 住宅の寿命を延ばす技術や設計手法を評価することで、建替え頻度の低減とそれに伴う資源・エネルギー消費の削減を促します。可変性の高い間取りや、メンテナンス性に優れた構造など、長期使用を前提とした設計が評価されるべきです。

これらを総合的に評価する「ライフサイクルカーボンマイナス(LCCM)」の視点が重要になります。LCCMは、建物のライフサイクル全体でのCO2排出量が正味でマイナス(CO2吸収量が排出量を上回る)になることを目指す考え方であり、将来的な省エネ基準の方向性として注目されています。

9.4 革新的な複合指標の提案

将来の省エネ基準は、エネルギー消費や断熱性能だけでなく、快適性、健康性、レジリエンス、経済性なども総合的に評価する複合指標へと発展していくべきでしょう。

以下のような新たな評価指標が考えられます:

  1. 健康性能指標(HPI: Health Performance Index): 室内の温熱環境や空気質が居住者の健康に与える影響を評価する指標です。温度むらの少なさ、結露リスクの低さ、換気性能、化学物質放散量などを総合的に評価し、ヒートショックリスクの低減や呼吸器疾患の予防効果を定量化します。

  2. レジリエンス指標(RPI: Resilience Performance Index): 災害時や停電時の居住継続性を評価する指標です。断熱性能による室温維持能力、太陽光発電と蓄電池による電力自給能力、雨水利用システムの有無など、非常時のサバイバビリティを総合的に評価します。

  3. 総所有コスト指標(TCI: Total Cost Index): 初期投資だけでなく、光熱費や維持管理費、将来のリフォーム費用なども含めた住宅の総所有コストを評価する指標です。省エネ投資の経済性を長期的視点で評価することで、適切な投資判断を促進します。

  4. 適応性指標(API: Adaptability Performance Index): 将来の気候変動や居住者のライフステージの変化に対する適応性を評価する指標です。可変性の高い間取り、設備の更新容易性、将来の断熱強化の可能性などを評価し、長期的な視点での持続可能性を担保します。

このような複合指標を導入することで、単にエネルギー消費を減らすだけでなく、真に持続可能で人間中心の住環境を実現するための基準となることが期待されます。

10. 2025年以降の省エネ住宅選択のためのFAQ

最後に、2025年以降の省エネ住宅選択に関するよくある質問とその回答をまとめます。

Q1: 2025年4月以降、すべての新築住宅は省エネ基準に適合する必要があるのですか?

A1: はい、2025年4月以降に建築確認を取得するすべての新築住宅(政令で定める10m²以下の小さい建築物を除く)は、断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上の基準に適合する必要があります。

この規制により、日本のすべての新築住宅で一定レベルの省エネ性能が確保されることになります。ただし、等級4は現在の基準としては最低レベルであり、より高い性能(等級5以上やZEH基準)を目指すことが推奨されます。

Q2: 省エネ基準適合住宅のコストはどれくらい高くなりますか?

A2: 一般的には、省エネ基準に適合させるために通常の住宅と比較して1~2割程度のコスト増加が見込まれます。例えば、2,500万円の住宅であれば、2,750~3,000万円程度になると考えられます。ただし、工務店や採用する断熱材・設備によって大きく異なります。

コスト増加の内訳としては、断熱材の強化、高性能窓の採用、気密施工の強化、高効率設備の導入などが主な要因です。ただし、これらの追加投資は光熱費削減効果や健康面のメリットなどにより、長期的には回収可能と考えられます。

Q3: 省エネ住宅の投資回収期間はどれくらいですか?

A3: 光熱費削減効果だけで考えると、一般的に10~15年程度の投資回収期間が見込まれます。ただし、健康面のメリットや資産価値の維持など、金銭換算しづらい価値も大きいことを考慮する必要があります。

例えば、高断熱住宅ではヒートショックによる健康リスクが低減されるため、医療費の削減効果もあります。また、2025年以降は省エネ基準適合が新築の最低条件となるため、基準を上回る性能を持つ住宅は中古市場での評価が高くなる可能性があります。

Q4: UA値とηAC値はどのような関係がありますか?

A4: これらの指標は相互に関連していますが、独立して評価されます。例えば、高性能な断熱材を使用することでUA値は低下しますが、窓の日射遮蔽性能を高めることでηAC値が低下します。

寒冷地と温暖地では最適な外皮性能のバランスが異なります。北海道などの寒冷地では、UA値を極力小さくして暖房負荷を減らすことが重要です。一方、沖縄などの温暖地では、ηAC値を小さくして冷房負荷を減らすことが優先されます。中間地域では、両方のバランスを考慮した設計が必要です。

Q5: 既存住宅の省エネ改修はどのように進めるべきですか?

A5: 既存住宅の省エネ改修は、まず現状の断熱性能を診断し、費用対効果の高い部位から順に改修していくことが推奨されます。一般的には、天井・屋根の断熱、窓の断熱改修、床の断熱、外壁の断熱の順に進めることが多いです。また、設備の更新時には高効率機器を選択することも重要です。

具体的な改修のステップとしては:

  1. エネルギー診断の実施: まず専門家による現状診断を行い、熱損失の大きい部位を特定します。サーモグラフィ調査や気密測定などが有効です。

  2. 天井・屋根の断熱強化: 熱は上昇するため、まず天井や屋根の断熱を強化することで効果が大きいです。吹き込み断熱材の追加や、屋根裏への断熱シートの敷設などが比較的容易に実施できます。

  3. 開口部の性能向上: 窓は熱損失の大きい部位であるため、内窓の追加や既存窓の交換が効果的です。費用対効果の高い順に、冬季は北面の窓、夏季は西面・南面の窓から改修を進めるとよいでしょう。

  4. 床下・基礎の断熱: 床下からの冷気流入を防ぐため、床下断熱や基礎断熱を施します。床下収納がある場合は、そこからの熱損失も考慮しましょう。

  5. 外壁の断熱強化: 外壁の断熱強化は工事規模が大きくなりますが、外装リフォームのタイミングで外張り断熱を追加するなどの方法があります。

  6. 設備の高効率化: 暖冷房機器や給湯器の更新時に、高効率機器を選択することも重要です。ヒートポンプ式エアコンやエコキュートなどが候補となります。

省エネ改修は一度にすべてを行う必要はなく、計画的に段階的な改修を進めることも有効な戦略です。

Q6: ZEHとパッシブハウスの違いは何ですか?

A6: ZEHは「エネルギー収支をゼロ以下にする」ことを目的としており、断熱性能の向上と太陽光発電などの創エネを組み合わせています。一方、パッシブハウスは断熱・気密性能などのパッシブ技術を極限まで高め、設備に頼らずに快適な室内環境を実現することを重視しています。ZEHは日本発の基準、パッシブハウスはドイツ発の基準という違いもあります。

具体的な違いとしては:

  1. 断熱性能の基準: パッシブハウスは、UA値0.15 W/(㎡・K)以下という非常に厳しい基準を設定しています。一方、ZEHの断熱基準はHEAT20の G1~G2レベル(UA値0.34~0.56 W/(㎡・K)程度)であり、パッシブハウスほど厳しくありません。

  2. 気密性能の基準: パッシブハウスでは、C値(相当隙間面積)が0.6 cm²/m²以下という非常に高い気密性能が求められます。ZEHでは明確な気密基準は設定されていませんが、一般的には1.0~2.0 cm²/m²程度が目安とされています。

  3. 創エネの位置づけ: ZEHでは太陽光発電などの創エネが必須要素となっていますが、パッシブハウスでは創エネは必須ではなく、パッシブ技術による省エネが中心です。

  4. 評価基準: ZEHは一次エネルギー消費量の収支(消費量-創エネ量)でゼロを目指すのに対し、パッシブハウスは暖冷房需要そのものを極小化することを目指しています。

どちらも高性能な住宅基準ですが、アプローチが異なります。日本の気候条件や住宅事情を考慮すると、両者の良い点を取り入れた「日本型高性能住宅」が理想的かもしれません。

Q7: 断熱等性能等級5~7とは何ですか?どのレベルを目指すべきですか?

A7: 断熱等性能等級5~7は、2022年4月に新設された上位の断熱性能等級です。等級4が省エネ基準(次世代省エネ基準)に相当するのに対し、等級5~7はより高い断熱性能を評価するものです。

各等級の概要は以下の通りです:

  • 等級5: HEAT20 G1グレード相当。UA値は地域区分1・2地域で0.30、3~5地域で0.40、6・7地域で0.50 W/(㎡・K)以下が目安です。現行の省エネ基準より20~30%高い断熱性能が要求されます。

  • 等級6: HEAT20 G2グレード相当。UA値は地域区分1・2地域で0.23、3~5地域で0.26、6・7地域で0.32 W/(㎡・K)以下が目安です。北欧やカナダの断熱基準に近い高い性能レベルです。

  • 等級7: HEAT20 G3グレード相当。UA値は地域区分1・2地域で0.16、3~5地域で0.19、6・7地域で0.24 W/(㎡・K)以下が目安です。パッシブハウス基準に近い非常に高い断熱性能です。

どのレベルを目指すべきかは、建設地の気候条件や予算によりますが、健康面や快適性、将来の資産価値を考慮すると、少なくとも等級5以上を目指すことが推奨されます。寒冷地では等級6以上、その他の地域でも等級5以上が理想的です。初期コストは上がりますが、光熱費削減や健康面のメリットを考えると、長期的には費用対効果の高い選択と言えるでしょう。

Q8: 省エネ基準適合を証明するには、どのような手続きが必要ですか?

A8: 省エネ基準適合を証明するには、大きく分けて「モデル住宅法」「仕様基準」「性能基準(計算による方法)」の3つの方法があります。

  1. モデル住宅法: あらかじめ用意された標準的な住宅モデルをベースに、断熱材や窓などの仕様を当てはめて適合性を判断する方法です。比較的簡易に判断できますが、対応できる住宅の形状や仕様に制限があります。

  2. 仕様基準(省エネ基準告示に定められた仕様): 壁や窓などの部位ごとに、最低限必要な断熱性能が定められており、それをすべて満たせば基準適合とみなされます。中小規模の住宅で用いられることが多い方法です。

  3. 性能基準(計算による方法): UA値やBEIなどを実際に計算して基準値以下であることを証明する方法です。最も正確ですが、専門的な知識や計算ツールが必要です。WEBプログラムなどの公的な計算ツールを用いて算出します。

実際の手続きとしては、以下のような流れになります:

  1. 設計段階での検討: 設計者が上記いずれかの方法で省エネ基準適合を確認します。

  2. 第三者機関による評価: 住宅性能評価機関や建築確認検査機関などの第三者機関による評価を受けます。「設計住宅性能評価書」の取得や「BELS評価書」の取得などがあります。

  3. 建築確認申請時の提出: 2025年4月以降は建築確認申請時に省エネ基準適合を示す書類の提出が必要になります。

  4. 完成時の検査: 施工が設計通りに行われたことを確認するための完成検査も行われます。

なお、2025年の省エネ基準適合義務化に向けて、手続きの簡素化や計算ツールの整備も進められており、今後変更される可能性もあります。最新の情報を確認することをお勧めします。

11. おわりに:持続可能な住宅への転換点

2025年の省エネ基準適合義務化は、日本の住宅・建築業界にとって大きな転換点となります。これまで任意だった省エネ対策が義務となることで、業界全体の技術レベルの底上げが期待されます。

しかし、本当に重要なのは、単に基準に適合するだけでなく、人と地球の健康を両立させる持続可能な住宅づくりを目指すことです。高い断熱性能と適切なエネルギーマネジメントは、快適性・健康性・経済性・環境性能のすべてに寄与します。

今後は、一次エネルギー消費量基準と外皮基準を単なる規制として捉えるのではなく、より良い住環境を実現するための指針として活用し、技術革新と普及促進に取り組むことが求められます。

その過程で、省エネ住宅の建設・運用・評価に関わる新たなビジネスモデルや専門サービスが生まれ、持続可能な住宅市場の形成につながることを期待します。

世界的な脱炭素化の流れの中で、2025年の基準適合義務化はあくまでもスタート地点です。日本独自の気候風土と文化を活かしながら、世界をリードする持続可能な住宅モデルを構築していくことが、これからの住宅産業の大きな挑戦であり、可能性でもあります。

参考文献・資料

  1. 一次エネルギー消費量の基準をマスターしよう!~まるわかり解説
  2. 住宅の外皮とは?省エネ基準や外皮性能を向上させる方法をわかりやすく解説
  3. 今さら聞けない!?省エネ基準適合住宅の”基準”ってなんだ
  4. 建築物省エネ法の性能基準と計算方法 – 中野区
  5. パッシブハウスとは – PASSIVE HOUSE JAPAN
  6. ZEBのメリット・デメリットは?最新の補助金制度も解説
  7. BELSの計算方法とは?評価ランクや一次エネルギー消費量(BEI)を徹底解説
  8. 脱炭素に向かう建築・住宅 エネルギーの効率化と自然エネルギーの活用
  9. 断熱方法と参考価格
  10. リクシルのトリプルサッシ(3重窓)、価格はどのくらい?
  11. エネルギーの見える化を実現!EMS(エネルギーマネジメントシステム)徹底解説
  12. 一次エネルギー消費量の基準「BEI」とは
  13. パッシブハウスの基準とは?気になる建設費や費用対効果
  14. 海外における住宅・建築物の低炭素化対応
  15. エネルギー消費性能 | ラベル項目の解説 – 国土交通省
  16. パッシブハウスの基準を知ろう!HEAT20・ZEH・高気密高断熱住宅との違い
  17. 建築物の基準一次エネルギー消費量の算定方法について(案)
  18. 日本型パッシブハウス設計指針の提案
  19. 省エネ住宅の基本用語「一次エネルギー消費量」とは?
  20. passive house とは

【無料DL】独自調査レポート全11回・200ページ・パワポ生データ

【無料DL】独自調査レポート全11回・200ページ・パワポ生データを今すぐダウンロードしませんか?
太陽光・蓄電池・EVの購入者意識調査や営業担当の課題調査など、貴社の事業戦略・営業戦略、新規事業開発等の参考に。

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。お仕事・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

コメント

たった15秒でシミュレーション完了!誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!
たった15秒でシミュレーション完了!
誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!