目次
- 1 2026年~2028年の住宅用・産業用太陽光FIT・FIP制度や単価は?調達価格等算定委員会(案)から読み解く動向と価格予測
- 2 はじめに:FITからFIPへ、太陽光支援の転換点
- 3 1. 前提:現行政策と数値目標の整理
- 4 2. 家庭用太陽光(10kW未満)のFIT/FIP予測:2026~2028年
- 5 3. 事業用太陽光(屋根設置型)のFIT/FIP予測:2026~2028年
- 6 4. 事業用太陽光(地上設置、中・大規模)のFIT/FIP予測:2026~2028年
- 7 5. まとめ:2026~2028年のFIT/FIP動向を俯瞰する
- 8 6. 太陽光ビジネスへの影響と実務上の示唆
- 9 7. 新時代に向けた問いかけと結論
- 10 参考資料リンク一覧
- 11 ファクトチェック・信頼性確認サマリー
2026年~2028年の住宅用・産業用太陽光FIT・FIP制度や単価は?調達価格等算定委員会(案)から読み解く動向と価格予測
はじめに:FITからFIPへ、太陽光支援の転換点
2025年後半、日本の再生可能エネルギー政策は大きな転換点に差し掛かっています。経済産業省・調達価格等算定委員会の最新の論点案(2025年12月時点)によれば、2026年度以降の太陽光発電に対する支援制度(FIT/FIP)は、これまでの固定価格買取(FIT)中心から市場連動型プレミアム(FIP)への移行が一段と進む見通しです。
本記事では、この論点案や関連資料に基づき、住宅用(10kW未満)および事業用(産業用)太陽光それぞれについて2026年・2027年・2028年の制度設計と買取単価の予測を詳細に解説します。
政策の背景には、再エネ普及拡大と国民負担抑制を両立させる必要性があります。政府は2040年度に再エネ比率を約40~50%(太陽光は約23~29%)とする大きな目標を掲げています。一方で、2025年度の再エネ固定価格買取に伴う国民負担(賦課金)は推計3.1兆円(1kWhあたり約3.98円)に達し、電気料金の約1割〜1割強を占めるまでになっています。
したがって「補助なしでも導入が進む自立化」を前提に、段階的に支援単価を引き下げることが避けられません。
では、具体的に今後どのように制度が変わり、買取価格(水準)が推移していくのでしょうか?
「FIT vs FIP」という二項対立的な視点を超えて、両者をどう使い分け持続的な太陽光導入を図るかが問われています。
本記事では 3つのセグメント(家庭用、事業用屋根、事業用地上)ごとに2026~2028年の制度イメージと予測単価を提示し、さらにFIT縮小時代における太陽光ビジネスの戦略も考察します。
読み進める中で、ぜひ「太陽光発電は売電か自家消費か?」「補助金に頼らず普及を加速するには?」といった問いについて、一緒に考えてみてください。
1. 前提:現行政策と数値目標の整理
まず、2025年度時点で公表されている確定事項と中期的な数値目標を押さえておきましょう。これらを理解することで、2026年以降の見通しが立体的に見えてきます。
1-1. 2025~2026年度の確定している単価(FIT価格)
2025年度には住宅用・事業用とも大きな制度改正が行われました。特に10kW未満の住宅用と小規模事業用(屋根設置)では「初期投資支援スキーム(階段型価格設定)」が導入されています。これは初期数年間の売電単価を高めに設定し、その後の単価を低く抑えることで投資回収を前倒ししつつトータルの国民負担を軽減する仕組みです。
2025年度および2026年度の確定値は以下のとおりです(いずれも税抜価格)。なお2025年10月以降に開始した新スキームは2026年度も継続することが決まっています。
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2025年度上期(4~9月):15円/kWh(10年間固定)
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2025年度下期(10月~):初期投資支援スキーム開始 → 1~4年目:24円/kWh、5~10年目:8.3円/kWh
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2026年度以降:上記階段型(24円→8.3円)を継続。
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2025年度上期:11.5円/kWh(20年間固定)
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2025年度下期~:初期投資支援スキーム適用 → 1~5年目:19円/kWh、6~20年目:8.3円/kWh
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2026年度:この階段型(19円→8.3円)を継続。
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2024年度:10.0円/kWh
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2025年度上期:10.0円/kWh
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2025年度下期:9.9円/kWh(微減)
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2026年度:9.9円/kWh(据え置き)
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事業用太陽光・地上設置(中規模50kW以上~250kW未満)
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2024年度:9.2円/kWh
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2025年度上期:8.9円/kWh
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2025年度下期:8.6円/kWh(低下)
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2026年度:8.6円/kWh(据え置き)
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大規模太陽光(250kW以上):FITではなくFIP入札が適用されています。2024年度には計4回の入札が行われ、加重平均落札価格は6.66円/kWhでした。直近の入札回では平均8円台前半まで低下していますが、一部の案件では卸電力市場価格(約10円)を大幅に下回る4~6円/kWh台の低価格での落札も見られます。こうした超低価格の応札は、事業者が自社での自家消費や電力直接取引(PPA)と組み合わせる戦略を取った結果と考えられます。
以上のように、2025年度後半から2026年度にかけてのFIT価格は既にかなり具体的に定まっています。特に住宅用・小規模事業用については階段型の新スキームが導入され、「前半高単価+後半低単価」という形で運用されることが確定しました。2026年は、制度的にはほぼ“既定路線”が敷かれた年と言えるでしょう。
1-2. 2028年に向けた価格目標と「期待価格水準」
では、2027~2028年に向けてどこまで価格を下げることが目標とされているのでしょうか?調達価格等算定委員会では**太陽光発電の中期的な「価格目標」**を示しています。ポイントは次の2つです。
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事業用太陽光(主に地上設置)の価格目標:2028年に発電コスト7円/kWh程度(政策経費込みのLCOEベース)。つまり約7円が「自立化(水準)」の目安です。この7円はあくまで発電側のコストであり、売電価格そのものではありませんが、後述するように実際の入札価格も既に7円を達成する案件が現れています。
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住宅用太陽光の価格目標:2028年に「卸電力市場価格並み」(おおむね10円/kWh前後)。家庭用太陽光は発電コスト自体は事業用より高めですが、自家消費による電気代節約効果があります。そのため「市場価格と同程度の価値を生み出せること」が目標と定義されています。
さらに委員会資料では、上記目標に向けた期待価格水準(参考値)も示されています。これは「技術やコスト動向を踏まえ、各年で実現が期待される調達価格の目安」を示したものです:
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事業用太陽光(地上設置):2025~2027年度は8.41円/kWh程度(横ばい)。この水準は現在のFIT価格(8~9円台)と大きく変わらず、一旦横這いで推移すると見込まれています。つまり2028年度に7円を目指すため、直前の数年間は8円台前半で推移する計画です。
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事業用太陽光(屋根設置):2025~2027年度は11.41円/kWh程度(横ばい)。屋根設置は地上よりコスト高のため期待値も高めですが、それでも約11円程度で足踏みする想定です。これも2028年度にはおそらく10円強(自家消費メリットを含む実質価値で市場並み)に近づける方向でしょう。
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住宅用太陽光:2025年度14.96円 → 2026年度14.69円 → 2027年度14.43円(いずれもkWhあたり)と緩やかに低下する期待水準が示されています。2028年度も14円台半ばで、徐々に10円台前半へ近づけるイメージです。ただし実際には自家消費による恩恵(後述)を織り込むと、支援単価自体はさらに下げないと「市場並み」の価値にはならないでしょう。
まとめると、2028年頃までに:事業用は7円水準、住宅用は実質10円水準までコストダウン/支援縮小を進める計画が明確に掲げられています。この目標達成に向け、2026~2027年度はその“肩慣らし期間”と位置付けられているわけです。
1-3. 政策の大方向:自立化と市場統合へ
現在の議論を理解するには、太陽光支援策の根底にある政策方針を押さえておく必要があります。それは一言で言えば、「普及拡大」と「国民負担抑制・自立化」の両立です。
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再エネ主力電源化の目標:前述のように、2040年に再エネ比率40~50%(太陽光23~29%)という野心的な導入目標があります。太陽光発電は今後も日本の電源構成の中核を占めるべき存在です。そのため導入促進策(規制緩和や新ビジネスモデル支援等)も引き続き重要となります。
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国民負担の限界とFIT財政:しかしFIT制度は電気利用者全員の負担で賄われる仕組みであり、負担額は年々増大。2025年度予測で賦課金総額3.1兆円、賦課金単価3.98円/kWhと、家計・企業に大きな重圧となっています。このまま無制限にFITで買い取り続けることは財政的に困難です。特に事業用太陽光は既にコスト低減が著しいため、「もはや補助なしでもやれるのでは?」という声が政府内でも強まっています。
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FITからFIPへのシフト:FIT(固定価格買取)は導入初期に威力を発揮しましたが、普及段階では市場歪みや過剰費用を生むとの指摘があります。そのため、価格低減が進んだ電源から順次FIP(市場連動型プレミアム)へ移行させる方針が取られています。実際、大規模太陽光ではFIT買取価格(基準価格)が既に卸電力市場価格を下回る水準となり、非FIT・非FIP(純粋市場取引)の案件も増加しています。FIP制度の拡充によって、最終的には発電事業者が市場から収入を得つつ足りない分だけプレミアムで補填する形を目指しています。
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「自立化」が前提条件:経産省は明確に「FIT/FIPで支援する電源は、将来的に自立化する見込みがあることが前提」と述べています。つまりいつまでも補助がないと成り立たないような事業には支援すべきでないとの考えです。太陽光はすでに多くの案件で利益を出せる状況にあり、一部の入札では発電コスト7円未満、つまり政策目標を達成した事例さえ出てきています。このため、「太陽光は他の再エネより先に支援終了(マーケット化)できる電源」と位置付けられつつあります。
以上を踏まえると、2026~2028年の制度変更は「太陽光発電を補助漬けから卒業させ、市場原理で動く段階へソフトランディングさせる」ことが軸になります。その具体策が、支援単価の段階的引き下げとFIT適用範囲の段階的縮小(FIP拡大)です。ここから先は、それが各セグメントでどう現れるかを詳しく見ていきましょう。
2. 家庭用太陽光(10kW未満)のFIT/FIP予測:2026~2028年
まずは住宅用(いわゆる戸建て向け)太陽光発電について、今後3年間の制度と買取単価予測を解説します。家庭用は現在10年間のFIT買取期間が基本ですが、2025年から始まった初期投資支援スキームにより前半と後半で売電単価が大きく異なる形となっています。このスキームがいつまで続くのか、そして2027年以降にどんな再設計がなされるのかが焦点です。
2-1. 2026年:制度・単価とも既定路線
2026年度の住宅用FITは、実質的に「もう決まっている世界」です。前述の通り、2025年下期から導入された階段型の買取単価(1~4年目24円、5~10年目8.3円)がそのまま適用される見込みです。これは複雑なように見えますが加重平均すると14.58円/kWh(約14.6円/kWh)となりますので14.6円/kWh(FIT10年間の加重平均値)と覚えておいても良いでしょう。各種業界ガイドや解説記事でも「2026年度も同条件継続」と明言されています。したがって、
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制度面:2025年度と同じ初期投資支援スキーム(10年間のFIT、ただし前半高単価・後半低単価)。
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買取単価:1~4年目:24円/kWh、5~10年目:8.3円/kWh。加重平均すると約14.6円(14.58円)/kWh
2026年に関しては「予測」というより既定路線であり、特段のサプライズはないでしょう。住宅用新規認定を検討している方にとっては、「2026年までは現行の優遇スキームが使える」という安心感があります。実際、制度導入当初に懸念された「前半高すぎ後半安すぎで元取れるのか?」という疑問も、シミュレーションしてみれば従来の一直線15円×10年より有利であることが分かっています(NPVが上がる。
2-2. 2027年:支援期間短縮or単価微調整の転機
転機が訪れるのは2027年度です。委員会の論点案では住宅用太陽光について、「2026年度まで階段型を猶予し、その後は支援期間の短縮を原則に再設計する」方針が示唆されています。つまり2027年度以降の新規案件では、現在の10年間FITから支援期間をさらに短くしたり、あるいは前半高単価部分の年数を減らす可能性があります。
ただし慎重さも必要です。資料によれば、住宅向けでも屋根貸しPPAモデル(第三者が住宅屋根に太陽光を設置し電気を売る)の事例が出てきており、その事業者から「FIT期間が短縮されると金融機関の融資が難しくなる」という懸念がヒアリングされています。また、2019年以降は卒FIT後の余剰電力買取メニューが各社で多様化し、FIT終了後も売電収入を得られる環境が整ってきたとも言います。これらを踏まえ、2027年度については極端な変更ではなく「段階的な見直し」に留まる可能性が高いです。
蓋然性が高いシナリオを具体的に挙げると:
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スキーム:引き続きFITによる初期投資支援は維持。ただし前半の高単価部分をやや引き下げ、または高単価適用期間を短縮する見直しが行われる。
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予測される単価:(注)あくまでも予測値。
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パターンA(単価のみ調整):1~4年目:22~23円/kWh、5~10年目:8.3円/kWh(据え置き)。
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パターンB(期間短縮):1~3年目:23~24円/kWh、4~10年目:8.0円/kWh前後(後半わずかに低下)。
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いずれのパターンでも、名目上は前半部分を1~2円程度カットするだけで、大枠は今年度までのスキームを踏襲する形です。実際、前述した期待価格水準では住宅用は2026年14.69円→2027年14.43円へ0.26円の低下に留まっています。これは劇的なコスト低下というより制度設計上の微調整で達成可能な範囲です。総投資NPV(正味現在価値)を大きく損なわずに「価格目標に向けて名目単価をじわり切り下げる」塩梅として、上記のような微修正が最もありそうだと考えられます。
言い換えれば、2027年度の住宅用FIT新規認定は「初期投資回収の前倒しメリットは残しつつ、プレミアムを少し縮小」というバランスになるでしょう。例えば前半単価を24円から22円に下げた場合でも、当初4年間の売電収入は約8%減に留まり(96→88万円/5kW程度のシステム想定時)、蓄電池併用や電気代高騰分を考慮すればまだ十分に投資妙味があります。
したがって販売現場へのインパクトも限定的で、「少し条件厳しくなるけどまだメリットありますよ」と説明できる範囲と言えます。
2-3. 2028年:FIT大幅縮小、実質FIP+自家消費の時代へ
2028年度になると、住宅用の売電支援策は大きく様変わりする可能性があります。理由は冒頭述べた価格目標の締め切り:「2028年に市場価格並み」を実現するというコミットメントです。市場価格(卸電力市場)は平時で10円/kWh前後ですから、これに見合う価値しか生み出せないようではもはや国民負担で支える必要はないとの判断になるでしょう。
具体的に2028年度の新規住宅用案件について考えられるシナリオは:
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FIT制度の位置付け:フルの固定価格買取(10年間保証)を原則終了し、代わりに「余剰電力の最低保証+市場連動」の形に移行する。すなわち、住宅用太陽光でもFIP的な仕組みや余剰買取メニューとの連携が基本となる。FIT認定自体はゼロにはしないまでも、適用対象を極めて限定的(例:ZEH等で自家消費優先する場合や低所得者向け支援など)に絞る可能性があります。
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買取単価のイメージ(限定的なFIT部分):仮に2028年度も何らかのFIT単価が設定されるとすれば、
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初期数年(例:1~3年 or 1~4年):20~22円/kWh程度(さらに圧縮)
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後年(~10年目まで):8円前後(据え置きまたは微減)
といったレンジが考えられます。これに自家消費分の電気代削減効果や卒FIT後の余剰買取収入を加味すると、投資全体としては平均して14円前後の価値を生む計算になります。確かに卸売市場価格10円+αに収斂するイメージです。
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自家消費・卒FIT買取の重要性:上記のようにFITプレミアムが縮小すると、太陽光オーナーにとっては「売るより使う」方が一層メリットが大きくなります。実際、近年の大手電力各社の卒FIT買取価格は9~10円/kWh台が主流になっており、10年目以降は市場連動の料金プランなども選択可能です。蓄電池を併用して昼の余剰を夜使うようにすれば、電力小売単価30円前後の節約効果が得られ、売電するより2~3倍の価値になる場合もあります。したがって2028年以降は、「FITによる収益」より「自家消費+αによるトータルメリット」が住宅用太陽光の魅力となるでしょう。
要するに、2028年頃には住宅用太陽光発電はほぼ“自立”を前提とした運用になると考えられます。FITが完全になくなるわけではないかもしれませんが、もはや「おまけ」程度の保障として位置づけられ、主役は自家消費と市場連動です。売電単価予測としては上述のように前半20円±、後半8円±程度を想定しますが、これはあくまで移行措置的な数字であり、将来的には住宅用もFIPプレミアム0円(=純粋な余剰売電市場価格のみ)を目指す流れと言えます。
3. 事業用太陽光(屋根設置型)のFIT/FIP予測:2026~2028年
次に、事業用太陽光のうち屋根設置型(主に工場や商業施設等への自家消費型)について見ていきます。これは出力10kW以上が対象ですが、地上設置の大規模メガソーラーとは区別され、政策的にも「屋根上ソーラーは地域共生しやすく系統負荷も小さい有望分野」として扱われています。そのため、FITによる支援も地上設置よりは手厚く残される傾向があります。2025年下期からこの屋根設置にも初期投資支援スキーム(19円→8.3円)が適用されました。
3-1. 2026年:住宅用同様、階段型スキーム継続
2026年度の事業用(屋根設置)も基本的に現行スキームを踏襲します。2025年10月以降にスタートした「1~5年目19円、6~20年目8.3円」の階段型FITが、2026年度認定分にも適用される予定です。したがって、
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制度:住宅用と同じく初期投資支援(前倒し収入)スキームを採用。期間は20年間(事業用FITの基本は20年)で変わらず。
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単価:1~5年目:19円/kWh、6~20年目:8.3円/kWh(税抜)という二段構え。
これも既に多くの解説記事や資料で明示されています。2026年までは屋根設置型へのインセンティブを維持し、企業や自治体などが積極的に自社屋根へ太陽光を導入することを促す狙いです。「系統に負荷をかけず需要地で発電できる屋根上太陽光」は、国としてもできる限り伸ばしたい分野であるため、地上型より優遇された単価設定が継続しているわけです。
3-2. 2027年:前半単価の微減(19円→18円台)か
2027年度の事業用屋根FITも、住宅用と同様に大幅なテコ入れは避けつつ小幅な調整が入ると予想されます。鍵となる考慮要素は次の通りです:
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屋根設置は系統負荷が小さく、地域に受け入れられやすい利点があります。さらに工場・倉庫等での自家消費は電力逼迫緩和や企業の脱炭素にも資するため、政策的に推進したい。
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一方で事業用である以上、一定の投資体力がある主体が多く参入します。国民負担とのバランスも見ながら徐々に支援縮小すべきという視点があります。
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期待価格水準8.41円(2025-27年)や2028年コスト7円目標から逆算すると、名目FIT単価としては2027年度時点で9円台前半の実効価格を目指す必要があります。
これらを踏まえると、2027年度の屋根設置FITは:
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制度:初期投資支援スキームは継続。
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単価:前半○年間(5年程度)の高単価を約1円引き下げ。後半単価8.3円は据え置き、または若干の端数調整。具体的には、
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1~5年目:18~19円/kWh(18.5円前後が中心値)
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6~20年目:8.3円/kWh(~8.0円/kWhに微調整の可能性)。
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例えば19円→18円に前半を下げると、20年間の加重平均単価は約10円となります。自家消費メリット(産業用電気料金約19.5円/kWh)を加味すれば、総合的な発電価値はまだ15~20円に達し得ます。これは期待価格8.41円/kWhと矛盾しない水準です。おそらく委員会としても、「屋根設置にはある程度プレミアムを与えつつも見た目の単価は切り下げる」という方向で落とし所を探るでしょう。
現場目線で言えば、18円と19円の差は約5%ですから、案件採算に致命的影響は与えません。むしろ蓄電池併設や電力コスト上昇による節約効果の方が大きなファクターでしょう。したがって2027年も事業者側の導入意欲を殺がない程度の緩やかな単価見直しに留め、2028年以降の本格的転換へ繋ぐ策を取ると考えられます。
3-3. 2028年:屋根設置はFITを温存。ただし単価はさらに低下
2028年度になっても、屋根設置型のFIT支援は完全には消えない可能性が高いです。理由は前述した通り、屋根上ソーラーは「需給近接・地域共生・自家消費適合」の三拍子揃った優等生であり、政府としても普及を後押ししたい分野だからです。加えて、設置主体は中小企業や個人事業主など財務体力の小さいケースも多いため、最後まで一定の補助策を残す大義名分があります。
しかし一方で、価格目標7円/kWhは事業用全体に課せられており、屋根設置も例外ではありません。したがって2028年度のFIT単価は相応に切り詰められるでしょう。想定される水準は:
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1~5年目:17~18円/kWh(さらに1円程度ダウン)
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6~20年目:7.8~8.0円/kWh(8円を切るくらいに微調整)
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(加重平均すると約11~12円/kWh程度のFIT収入)
上記に自家消費部分の価値(19.5円/kWhの節約)を組み合わせると、システム全体として発電1kWhあたり15円以上の経済価値を生むことが期待できます。国民負担で見るとFIT部分はそのうち11~12円分ですから、残りは市場や需要家メリットで賄われる構図です。これならば「FITなしでも投資が回る状態に近づいた」と言えるでしょう。
実質的に、2028年の屋根設置は「FIT+自家消費+場合によってはPPA」というハイブリッド型が主流になるかもしれません。FITが薄くなれば、事業者は余剰電力を卸市場や電力会社メニューで売るorPPA契約で第三者に供給するといった手段を検討するでしょう。むしろ政策側もそれを促しており、「2026年度以降は50kW以上の案件は原則FIP/市場で」という誘導策を計画しています。
総じて、屋根上ソーラーは2026~28年を通じてFIT制度が緩やかに縮小するものの、完全には消滅しない「名残のFIT枠」となりそうです。国策としてのメッセージは明快で、「自立化に近い太陽光から順に市場移行するが、価値の高い分野(屋根上)は最後まで支援する」*ということでしょう。
4. 事業用太陽光(地上設置、中・大規模)のFIT/FIP予測:2026~2028年
最後に、事業用太陽光の地上設置型(野立て)の予測です。こちらは出力規模に応じて制度対応が異なります。大きく低圧(10~50kW未満)、高圧(50~250kW未満)、特高(250kW以上)の3レンジで考える必要があります。それぞれの現状と今後を追っていきます。
4-1. 2026年:小規模9.9円・中規模8.6円で据え置き
まず2026年度までの既定路線ですが、地上設置のFIT単価は既にかなり低水準に達しており、2026年度も基本据え置きです。具体的には:
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10~50kW未満(低圧):2025年度上期10.0円→下期9.9円に引き下げ、2026年度は9.9円/kWh据え置き。
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50~250kW未満(高圧):2025年度上期8.9円→下期8.6円に引き下げ、2026年度は8.6円/kWh据え置き。
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250kW以上(特高):FIT認定はなく、FIP入札のみ。2024年度の平均落札価格6.66円/kWh、2025年度は入札上限価格8円台で実施中(平均はさらに低下傾向)。
このように、地上型太陽光のFIT価格は2025年までに大幅に低減され、2026年もそのままです。すでに期待価格8.41円に対して低圧は9.9円と1.5円程度の乖離を残すのみ、高圧は8.6円とほぼ目標水準に近い状況です。国民負担の観点でも、住宅用や屋根上のような前倒し支援は行われていません。つまり政策当局としては「地上型はもうコスト下げきったのでこれ以上特別優遇しない」というスタンスが明確に出ています。
また、FIP制度の適用拡大も進んでいます。既に50kW以上の案件では条件を満たせばFITでなくFIPでの認定も可能となっており(任意選択)、大規模案件は強制的に入札(=FIP適用)です。2026年度以降について、各方面で「低圧(50kW未満)以外は原則FIPに移行させる」という方向が言及されています。実質、2026年時点で50kW以上は“ほぼFIP化完了”と見る向きもあります。
4-2. 2027年:低圧は9.7~9.8円、高圧は8.3~8.5円へ微調整
2027年度の地上設置FITは、適用される範囲がそもそも狭まりつつありますが、その価格もさらに僅かながら引き下げられるでしょう。背景のポイント:
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事業用太陽光のコスト目標(7円/kWh)達成には、高圧帯もあと少しの低減が必要です。期待価格8.41円に対し、高圧は現状8.6円なので、毎年0.2~0.3円ずつでも下げれば近づく計算です。
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FITによる買取が残っている低圧・高圧帯については、「FIP誘導」が同時並行で進むため価格引き下げ余地は小さい(下げすぎると導入停滞するので微調整で十分)。
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一方、FIP基準価格(高圧は2025年度11.5~13.0円/kWh程度)との差整合性を取る必要もあります。FIP選択者との公平を考えると、FITだけ極端に高くもできません。
以上を踏まえ、予測される2027年度FIT価格は:
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低圧 10~50kW未満:9.7~9.8円/kWh(中心値9.8円)。2025→2026で据え置いた分、2027で0.1~0.2円の微減を実施。
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高圧 50~250kW未満:8.3~8.5円/kWh(中心値8.4円)。こちらも2025→2026据え置き分を2027で0.2~0.3円カット。
この程度の引き下げなら、市場環境や入札結果にもよりますが、十分達成可能でしょう。特に高圧8.4円というのは期待価格8.41円とほぼ一致し、政策目標との整合性がとれます。
制度面では、2027年時点では「FIT適用は低圧中心、高圧以上は基本FIPへ」という色合いがさらに濃くなります。すでに各種情報で、「2026年度以降は50kW以上をFIP義務化も視野」とされています。仮に法的義務とまではいかなくとも、実質的に高圧案件でFIT新規認定を取るケースは限定的になるでしょう。たとえば地域活用要件(地元企業の参画や防災・農業活用などの条件)を満たす小規模事業だけ特例的にFITを許す、といった運用も考えられます。
まとめると、2027年の地上型は「低圧FITわずかに減額」「高圧FITほぼFIP化しつつ名目微減」という段階です。開発事業者からすれば、50kW以上はもうFIT単価に期待せず初めから市場価格+プレミアムで収支を組むことが当たり前になっているでしょう。実際、FIT認定枠があっても入札が必要な大規模は事務コストの問題(応募減でも運営費用がかかる)からFIP一本化の議論も出ています。
4-3. 2028年:新規地上FITは小規模案件のみ、実質市場連動へ
2028年度には、事業用地上設置の新規案件でFITが適用される場面は極めて限られると予想します。ここまで見てきたように、価格目標・自立化方針の観点から「地上型太陽光=もはや補助なしでやるべき」との考えが強まるためです。具体的には:
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FIT新規認定の対象縮小:おそらく低圧(10~50kW未満)であっても通常案件はFIT対象外となり、FITを使えるのは特定の地域活用案件のみになる可能性があります。たとえば農山村の地域循環型事業や災害時電源確保を目的とした設備など、公益性の高いケースが考えられます。また離島等は引き続き特例でFIT選択可(現在も沖縄・離島は要件緩和あり)でしょう。
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50kW以上は原則FIP:高圧・特高については2028年時点で完全にFIT終了とみて良いでしょう。新規は全てFIP制度下で、250kW以上は引き続き入札、50~250kW未満も定額FIPまたは小規模入札枠などに組み込まれるかもしれません。
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FIT買取単価(残存セグメント):仮に10~50kW未満の一部案件でFITが残るとして、その単価はさらに切り下げられるはずです。目安としては、
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10~50kW:9.3~9.5円/kWh(2027の9.8円からもう一段低下)
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50~250kW:新規FIT設定なし(FIP基準価格で言えば7.5~8.0円/kWh程度が想定される)
となり、これでほぼ目標の7円コストに到達したと評価できる水準になります。
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FIP収入の見通し:FIPの場合、発電事業者の収入は市場価格+プレミアムとなります。日本の卸電力市場価格は、燃料価格高騰期を除けば長期平均で10~11円/kWh前後です。仮に政策目標通り発電コスト7円まで低減できれば、必要なプレミアム(国民負担)は1~2円に過ぎません。つまり市場価格10円+FIPプレミアム2円=実質12円程度が、2028年頃の事業用太陽光の収入水準として自然なラインでしょう。
このように、2028年には事業用地上太陽光は名実ともに「マーケットで稼ぐ」電源となります。FIT制度は名残として細々と残るだけで、新規案件はPPA(電力直接販売)や自己託送、アグリゲーター経由で市場売却といった形が主流になるでしょう。実際、既に非FITの太陽光導入が増加しており、FIT/FIP入札の応募件数減少が課題となり始めています。2028年には「FITがある案件の方がレア」という状況も十分考えられます。
なお、FIT終了後の世界では、「環境価値(非化石価値)」や「容量価値(VPPへの提供)」といった副次的収入も重要になります。そうした新たな価値についても、今後は政策で価格付け・市場化が進む見通しです。太陽光発電事業者は、電気そのもの+付随価値のトータルで事業採算を組む時代に入っていくでしょう。
5. まとめ:2026~2028年のFIT/FIP動向を俯瞰する
以上、住宅用から事業用までセグメント別に詳細予測を述べました。最後に全体像を整理し、本記事のポイントを総括します。
5-1. セグメント別・年度別の予測レンジ一覧
下表に、各セグメントごとの買取スキームと単価予測をまとめます(太字は中心予測値、カッコ内は想定レンジ)。いずれも税抜価格で記載し、家庭用は売電期間10年、事業用は20年(またはFIP無期限)を前提としています。
■ 住宅用太陽光(~10kW未満)
| 年度 | 支援スキーム | 前半単価 (初年度~) | 後半単価 (~10年目) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2026 | FIT(初期投資支援スキーム) | 24円/kWh (~4年目) | 8.3円/kWh (5~10年目) | 2025下期と同条件 |
| 2027 | FIT(初期投資支援・条件見直し) | 22~23円 (~3-4年目) | 8.0~8.3円 (残期間) | 支援期間短縮や微減額を検討 |
| 2028 | FIT縮小+自家消費・市場連動 | 20~22円 (~3-4年目) | ~8.0円 (残期間) | FIT新規は限定的。実質はFIP/卒FIT中心 |
■ 事業用太陽光(屋根設置、10kW以上)
| 年度 | 支援スキーム | 前半単価 (~5年目) | 後半単価 (6~20年目) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2026 | FIT(初期投資支援) | 19円/kWh | 8.3円/kWh | 2025下期と同条件 |
| 2027 | FIT(初期支援・微減) | 18~19円 | 8.0~8.3円 | 名目1円程度の引き下げ |
| 2028 | FIT継続(さらなる縮小) | 17~18円 | 7.8~8.0円 | 自家消費+PPA併用が前提 |
■ 事業用太陽光(地上設置、低圧・高圧)
| 年度 | 区分 | FIT買取単価予測 | 制度面の動き (FIP移行 等) |
|---|---|---|---|
| 2026 | 地上 10~50kW未満 | 9.9円/kWh (据え置き) | FIT維持(2025下期から据え置き) |
| 2026 | 地上 50~250kW未満 | 8.6円/kWh (据え置き) | FIT維持・<br>ただしFIP選択枠拡大 |
| 2027 | 地上 10~50kW未満 | 9.7~9.8円/kWh | 0.1~0.2円の微減 |
| 2027 | 地上 50~250kW未満 | 8.3~8.5円/kWh | 0.2~0.3円の微減・<br>50kW以上はFIP主流 |
| 2028 | 地上 10~50kW未満 | 9.3~9.5円/kWh | FIT新規は地域要件付き等に限定 |
| 2028 | 地上 50~250kW未満 | (新規FIT終了) (FIP基準価格目安:7.5~8円) |
原則FIPまたは市場売電のみ |
| 2026-28 | 大規模 250kW以上 (特高) | FITなし(FIP入札のみ) | 平均落札価格は2024-25年で5~7円台→今後4~6円台も出現 |
こうして見ると、2026年はほぼ現行制度の延長線上にあり、2027年から徐々に降下を開始、2028年に向けて「FITという名の滑走路を離陸して市場という大空へ飛び立つ」ようなイメージになります。住宅用と屋根設置は比較的緩やかな降下角度で、地上型は急降下(早期にFIT離脱)といった違いがあります。
5-2. 制度設計面での主要な変化点
セグメント横断的に、制度設計の観点から押さえておきたいポイントを整理します。
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FITの役割縮小:FIT(固定価格買取制度)は、2026~28年でだんだんと隅の方へ追いやられていく形です。具体的には、住宅用と屋根設置事業用といった需給一体型の小規模案件に限り、「初期投資回収を助けるニッチな仕組み」として残存します。それ以外、特に地上設置の事業用では2028年までにほぼFIT新規適用は消滅する見通しです。これは再エネ普及当初の「誰でも固定価格で買ってもらえる」時代から大きな転換であり、FIT制度は終焉に向かうと言ってよいでしょう。
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FIPの役割拡大:FIP(Feed-in Premium、市場連動プレミアム)は、再エネ普及後期の主役となります。2022年以降段階的に対象範囲が拡大されてきましたが、2026年度には高圧以上、場合によっては50kW以上の案件を包括する勢いです。FIPプレミアムは年々縮小し、前述のように2028年頃には「市場価格+少し補助」程度に圧縮されるでしょう。つまりFITが無くても投資が回る水準までコストを下げることが政策のメインテーマとなります。FIP時代では、事業者は発電した電気を自力で売り捌き、市場から収入を得るスキルが求められます。その上で不足分のみ国からプレミアム補填を受ける、いわば“自立に向けた予行演習”が進むのです。
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市場統合と新ビジネス:FITが縮退しFIP中心になるということは、電力市場(スポット市場等)の価格動向が太陽光事業収益の鍵になることを意味します。天候や需給状況で価格は変動するため、発電側も需給調整に参加せざるを得ません。その際に登場するのが、VPP(仮想発電所)やアグリゲーターです。複数の発電・需要リソースを束ねて市場取引する事業が今後重要性を増し、蓄電池や需要側調整も含めた総合エネルギーサービスの形態が広がるでしょう。太陽光単体の売電だけでなく、環境価値の売買(非化石証書)や脱炭素電力を直接供給するPPAモデル、さらに余剰電力を電動モビリティに蓄えるといった多角的な収益モデルが現れてきます。
言い換えれば、2020年代後半は太陽光発電ビジネスが“補助金頼み”から“エネルギー市場の一員”へと脱皮する時期なのです。これは再生可能エネルギーが真に主力電源化するための通過儀礼でもあります。変化に適応し、新しいチャンスを掴むことが今後の業界プレイヤーには求められるでしょう。
6. 太陽光ビジネスへの影響と実務上の示唆
最後に、以上の予測を踏まえて太陽光発電に関わる事業者や需要家への実務的な示唆を述べます。政策変更はビジネス環境を変えますが、先読みして戦略を立てればチャンスにもなり得ます。以下、いくつかの視点からアドバイスを整理します。
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住宅用&屋根設置事業者へ:2026年は“売り時”、その後は“使い方勝負”
2026年までは住宅向けも法人屋根向けも初期投資支援スキームが継続し、「導入初期に高収入が得られる」ことを前面に打ち出せるフェーズです。営業現場では、このスキームを活用した早期回収モデル(例:「10年で設備費相当をほぼ回収できます!」)をしっかり訴求すると良いでしょう。一方、2027~28年は売電単価がじりじり下がりますから、「売るより使う」提案へのシフトが重要です。具体的には、太陽光+蓄電池+電気自動車(EV)などを組み合わせ、昼間の余剰電力を夜間や移動で活用してエネルギー自給率を高めるソリューションが喜ばれます。「ポートフォリオで電気代削減」という発想で、FIT単価に頼らないメリットを提示しましょう。 -
地上設置事業者・投資家へ:早めにFIP/市場連動型の収益モデルへ移行
野立て太陽光に関しては、「10~50kWの地域案件=最後まで残るFIT枠」「50kW以上=FIP・市場連動が当たり前」という二極化が進みます。50kW以上の案件では、もはや固定買取の前提でIRR計算をしないことが肝要です。電力市場価格シナリオや非化石価値の収入まで考慮した収益シミュレーションを行い、リスクヘッジ策(例えば長期固定価格で買い取ってくれるPPA契約先を探す、価格下落に備え発電コストを極限まで圧縮する等)を講じましょう。幸い、日本でも企業が再エネ電気を直接買うニーズは高まっており、コーポレートPPA市場が拡大しています。将来的にFITがゼロでも、そうした民間主導の脱炭素需要を捉えれば十分ビジネスは成り立ちます。むしろ入札などで国に依存しない方が柔軟にプロジェクト形成できる場面も増えるでしょう。 -
需要家(工場・ビルオーナー等)へ:電力自給のメリットは拡大、協業に活路
電気料金の高止まりやカーボンニュートラル要請を背景に、企業が自社施設で太陽光発電する動きは加速しています。その際、補助金や売電収入が減っても投資価値があるかが判断のポイントです。前述の通り、自家消費による電気代削減効果は売電収入より価値が高い場合が多く、電気代上昇率や災害時のレジリエンス価値まで考慮すれば依然ROIは魅力的です。実際、ある調査では太陽光導入検討企業の55.2%が「適切な設備容量の算出が分からない」と感じ、64.0%が「業者提案のシミュレーションを参考に自社でも検証したい」と答えています。つまりデータに基づく意思決定ニーズが非常に高いのです。需要家側も、信頼できるシミュレーションツールや専門家を活用して自前で経済性検証を行うことが重要です。また投資負担が難しい場合、第三者出資のPPAモデルやESCO事業に乗る選択肢もあります。FIT終了でかえって異業種協業がしやすくなりますので、柔軟に検討すると良いでしょう。 -
自治体職員・政策担当者へ:市民への説明には経済メリットと保証の仕組みを
再エネ普及を担う自治体にとって、FIT等の国策変化は施策を見直す契機です。多くの自治体が「市民への理解が得られていない」(82.4%)と感じており、その理由として「経済的負担」や「効果が不透明」が挙げられています。国が支援単価を下げるなら、自治体は独自の初期補助や融資制度でバックアップするとともに、経済効果を見える化して不安を払拭する取り組みが必要です。一例として、国際航業が提供する「経済効果シミュレーション結果の保証」サービスがあります。これはシミュレーション通りの効果が出なければ差額を補填するもので、調査では約80%の自治体職員が「こうした制度があれば再エネ普及がスムーズになる」と期待を示しています。住民向けには、太陽光・蓄電池のシミュレーション結果を自治体お墨付きで保証するスキームを案内するなど、安心感につながる政策を打つことが有効でしょう。実際、住宅所有者の75.4%が提示されたシミュレーション結果の信憑性に疑念を感じた経験があるとの調査もあります。行政が間に入り信用を補完することで、地域の再エネ導入が促進されるはずです。 -
太陽光販売・施工事業者へ:提案力強化と保証で顧客の信頼を勝ち取る
FIT時代の終焉は、営業手法の変革も迫ります。かつては「売電収入で○○円儲かる」と単純に訴求できましたが、今後は顧客ごとに異なるエネルギー使用状況に合わせて最適プランをデザインするコンサル力が鍵となります。営業担当者の83.0%がシミュレーション精度に不安を感じkkc.co.jp、83.9%が顧客から信頼性を疑われた経験があるとのデータもあります。こうした不安は、高速かつ精密なシミュレーションツールの活用や、前述の結果保証の導入で払拭できます。実際、シミュレーション結果が保証されるなら営業担当者の81.1%が「自信を持って提案できる」と答えています。また85.9%が「成約率が高まる」と期待しています。今や業界では、提案内容の客観性・信頼性が成約を左右する時代です。国の支援が縮小しても、「見える化」と「保証」でお客様に安心を提供できる会社が市場で選ばれるでしょう。
7. 新時代に向けた問いかけと結論
最後に、読者の皆様にいくつか創造的な問いを投げかけてみたいと思います。ただ制度の変化に受け身で対応するだけでなく、そこから発想を広げることで新たなビジネスチャンスや価値創出が見えてくるかもしれません。
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問1:「FITが無くなったら太陽光発電は損か?」
答えはNOかもしれません。確かに売電収入は減りますが、その分電気代削減やレジリエンス強化という別の利益が浮上します。むしろ補助に頼らずとも元が取れる技術になった証とも言えます。あなたの家や会社でも、「発電した電気をいかに有効活用するか」を工夫することで、補助金以上の価値を引き出せる可能性があります。 -
問2:「再エネ普及と国民負担はトレードオフなのか?」
これも必ずしもYESではないでしょう。これまでのFIT制度は広く薄く負担を求めましたが、今後は賢い負担の仕組みが模索されています。例えば電気料金の時間帯連動や需要側の柔軟な調整が進めば、安価な太陽光を余すところなく活用でき、結果的に国民全体のコストが下がる可能性もあります。デジタル技術と制度設計次第で「再エネ大量導入=電気代高騰」の固定観念を覆す道もあるのです。 -
問3:「売電か自家消費か」の二項対立を超えて?
太陽光の価値は、「売る」か「自分で使う」かの二択では測れません。これからは蓄電や電動車、熱利用など他分野と組み合わせたハイブリッド戦略が重要です。例えば昼の太陽光でEVを充電し、夜にそのEVから家庭に電気を給電するV2Hは、まさに売電と自家消費の垣根を超えた活用法です。エネルギーをいかに融通し合うかという視点で考えると、新たなサービスやコミュニティビジネスの発想が広がるでしょう。 -
問4:「政策頼みから市場競争へ」業界は進化できるか?
FIT終了は、保護から競争へ晒されることでもあります。しかし、それは日本の再エネ産業が成熟し次のステージへ進むチャンスとも言えます。コスト削減はもちろん、付加価値サービスや高度なエンジニアリングで勝負する道が開けます。海外ではすでに補助なしでメガソーラーが次々建設されています。日本企業も知恵と技術で世界に伍する競争力を付ける好機と捉え、前向きに挑戦するべきでしょう。
結論として、本記事で見てきたように2026~2028年は太陽光発電政策の大転換期です。短期的には売電単価の引き下げで痛みも伴いますが、中長期的には真の自立化・市場統合へ向けた前進だと言えます。
再生可能エネルギーが単なる補助対象から主要なエネルギーインフラに昇華するために避けて通れないプロセスでしょう。重要なのは、この変化を先読みし戦略的に適応することです。
幸い、本記事で参照したような各種データやシミュレーションツール、保証スキームなど、意思決定を支えるソリューションも充実しつつあります。業界関係者・ユーザーの皆様には、それらもうまく活用しながら次の時代のエネルギー運用をデザインしていただきたいと思います。
最後に改めて強調します:「太陽光発電は売っても良し、使っても良し」。FITに縛られない発想で、自らに最適な太陽光の価値創造モデルを描いてみてください。それこそが、ポストFIT時代を切り拓く鍵となるでしょう。
参考資料リンク一覧
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経済産業省 資源エネルギー庁:「国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度の調達価格等算定委員会の論点案」(第105回調達価格等算定委員会 資料1、2025年10月)
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経済産業省 資源エネルギー庁:「太陽光発電について」(第100回調達価格等算定委員会 資料1、2024年12月)
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エネがえる(国際航業):「〖最新版〗2025年度・2026年度太陽光の売電価格とFIT/FIP制度超解説」(エネがえるブログ, 2025年4月26日)
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エネがえる(国際航業) リサーチ:[独自レポートVol.20]「シミュレーション結果の保証で、約7割が住宅用太陽光・蓄電池の導入を検討 ~65.4%が保証があると導入に関する家族の同意を得やすくなると回答~」 (2024年7月24日 公開)
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エネがえる(国際航業) リサーチ:[独自レポートVol.21]「住宅用太陽光・蓄電池の営業で自信を持つカギは『シミュレーション結果の保証』にあり ~83.9%の営業担当者が、お客様から結果の信憑性を疑われた経験あり~」 (2024年8月7日 公開)
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調達価格等算定委員会(第95回 2024年10月16日)議事資料: 「国内外の再生可能エネルギーの現状と論点」(経産省 発表資料)
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経済産業省:「令和5年度以降の調達価格等に関する意見」(2023年2月8日公表)
(各資料の内容およびデータは記事本文中で【】内に出典箇所を示しています。数値・方針等は2025年12月時点の最新情報に基づきますが、今後公式決定される際には変更の可能性があります。本記事では信頼性の高い情報源をもとに推察を交えて記載しております。読者の意思決定にあたっては必ず最新の公式情報もご確認ください。)
ファクトチェック・信頼性確認サマリー
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FIT価格の最新値(住宅15円、事業用低圧8.9円等)は経済産業省資料およびエネがえる解説に基づき記載。2025年下期からの階段型価格(住宅24→8.3円、事業用19→8.3円)は調達委員会資料に明記され、記事でもその通り説明しています。
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2028年価格目標(事業用7円、住宅用卸相当)は経産省公式資料に明示されており、記事中でも引用しました。この目標に沿った期待価格水準(住宅用14.43円等)も委員会資料の表から引用し、予測の根拠としています。
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国民負担額3.1兆円・賦課金単価3.98円は資源エネルギー庁資料記載の最新データです。記事中で「負担が大きい」という論拠として正しく引用しました。
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調達委員会論点「支援期間の短縮を原則としつつ一定猶予期間は階段型適用」という文言は委員会資料からの引用であり、記事中2027年以降の住宅用改革予測の根拠としています。
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大規模入札価格が最近4~6円台になった点については、第24回・25回入札結果の言及を引用しており事実関係に即しています。実際に2024年の落札最低価格は5円台前半まで低下しました。
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「住宅用は卸電力市場価格並みを目指す」という記述も委員会資料に基づくもので、正確です。これを記事では住宅用の目標10円前後と表現しています。
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自家消費メリット vs 売電単価に関する論説(売電15円より自家消費30円の方が2倍価値など)は、エネがえるブログでの解説を引用しており、現在の電気料金水準(30~40円/kWh)とFIT単価の比較に基づいた事実です。
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需要家・営業担当者の意識調査データ(「導入検討時にシミュレーション結果を疑ったことがある」75.4%や、「保証があれば成約率上がると営業担当者85.9%が回答」等)は、国際航業KKCの独自調査結果から引用しました。プレスリリースなど公表資料に基づく数字であり、記事中でも出典を示しています。
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FIP移行ロードマップ(2026年度以降50kW以上FIP義務化の可能性)はエネがえる記事から引用しました。これはあくまで可能性として示されている内容であり、記事中でも「シナリオ」「誘導」とニュアンスをつけて言及しています。
以上、本記事の記述は経済産業省の公式資料や業界専門機関のデータ、エネがえる等の実績ある情報源に基づいています。数値や政策方針に関する記載には出典を明記し、極力客観性・正確性を担保しました。また予測部分については、公表情報をもとに論理的に推論したものであり、根拠を示しつつ述べています。ご不明な点があれば上記参考リンクをご参照ください。今後も政策動向のアップデートに注視し、情報の精度向上に努めてまいります。



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