日本のEV普及を加速するボトルネックと戦略 – 不都合な真実となる売り手の行動変容が鍵

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

エネがえる アイデア
エネがえる アイデア

日本のEV普及を加速するボトルネックと戦略 – 不都合な真実となる売り手の行動変容が鍵

はじめに:EV普及の現状と見えない課題

世界的に電気自動車(EV)の普及は加速しており、新車販売に占めるEV比率は2024年時点で22%に達しました。しかし日本では同年時点でわずか2.8%と、主要国の中でも普及率が著しく低い状況です。

この差はどこから生じるのでしょうか?従来、日本でEV普及が進まない理由としては充電インフラの不足や車両価格の高さなど消費者側の要因が指摘されてきました。しかし実は、それ以上に「売り手」側の戦略や提案プロセスに潜むボトルネック普及を阻む大きな原因となっている可能性があります。

本記事では、多数の調査データや事例から、日本の再生可能エネルギー(再エネ)普及・脱炭素化の本質的課題を洗い出し、特にEV普及において売り手側の行動変容が鍵であることを明らかにします。そして、その課題を乗り越えるための戦略を提言します。自動車メーカー・ディーラーの幹部、住宅メーカー・電力会社の担当者、政策立案者の方々に、新たな洞察を提供できれば幸いです。

従来のボトルネック:なぜEVが売れにくいのか

EV普及の遅れについて一般に語られるのは、消費者側の課題です。例えば「航続距離や充電時間への不安」「購入価格が高い」「充電設備が整っていない」といった点です。あるいは根源的な要因に「リセールバリューの低さがあるため手を出しづらいという点」もあるでしょう。確かにこれらは重要な課題ですが、一方でユーザー調査を見ると、多くの購入検討者は既にEVのメリットを理解し始めていることも読み取れます。

例えば、電気代高騰を受けた調査ではEV購入を検討する人の95.5%が、自宅での再エネ自家消費による電気代削減に意欲を示し8割以上がガソリン代と電気代の両方の削減効果をシミュレーションで確認したいと回答しています。つまり、潜在顧客は「EV+太陽光発電」でガソリン代も電気代も節約できるという経済メリットに強い関心を持っているのです。

では、なぜそのようなメリットがあるにもかかわらず販売が伸び悩むのか?

そこには売り手側の提案力・プロセス上の問題が横たわっています。顧客はメリットを求めていますが、売り手がそれを的確かつ迅速に示せなければ契約には至りません。

ここに、従来あまり注目されてこなかったボトルネックが存在します。

売り手側の「見えない負担」と提案プロセスのボトルネック

太陽光発電や蓄電池、EV・V2Hを販売する企業の現場では、提案業務そのものに大きな負荷や課題が生じています。

ある調査によれば、太陽光・蓄電池システムの販売・提案に携わる担当者の88.2%が現在の提案活動に課題を感じていると回答しました。具体的にどんな負担があるのでしょうか?同調査では、提案業務で時間や労力が特にかかるフェーズとして、「顧客へのヒアリングや現地調査」(41.8%)や「電力需要データの入手」(37.3%)が上位に挙げられています。さらに経済効果や投資回収のシミュレーション作成にも27.3%が負担を感じている状況です。

加えて、多くの販売会社では社内の知識・人材不足にも直面しています。太陽光・蓄電池販売企業の調査では、「社内の知識が十分でない」と感じる担当者が44.6%にのぼりました。理由としては「製品や技術の進化が速く知識のアップデートが追いつかない」(44.9%)、「専門知識のある人材を採用できていない」(38.8%)などが挙げられています。

資格保有者など技術職人材の採用難も深刻で、太陽光・蓄電池施工店の人事担当者の90.7%が技術職の人材確保に困難を感じているというデータもあります(資格保有者の応募が少ないのが最大の理由)。結果として、営業担当者自身がエネルギーや機器の専門知識を十分持たないまま提案を行わざるを得ないケースも多いのです。

※V2H…Vehicle to Home。EVの蓄電池を家庭用電源として活用する技術。

こうした状況下で、売り手は「見えない負担」を抱えています。提案のために事前ヒアリングから設計、経済効果試算、補助金調査、資料作成まで膨大な作業が発生し、一件の提案に数時間〜数日を費やすことも珍しくありません。

実際、産業用太陽光の営業現場を比較した調査では、営業目標を達成した担当者の40.1%が「1件の提案書作成に1時間未満」しかかからないと答えたのに対し、目標未達の担当者ではそれが26.0%に留まり、多くがより時間を要していました。つまり提案作成に手間取るほど営業効率が下がり、成績にも影響しているのです。

また、提案内容にも差が出ています。別の比較調査によれば、営業目標を達成した担当者の48.2%が商談時に経済効果シミュレーションツールを活用していたのに対し、未達成者でそれを使っていたのは26.9%(21.3ポイント差)に過ぎません。反対に、未達成者ほどパワーポイントの資料やメーカーのカタログだけに頼り、「提案書に満足していない」という割合も高いという実態が明らかになっています。

精緻なシミュレーションによる根拠提示が不足している提案は、営業本人も自信が持てず、顧客にも響きにくいという悪循環に陥っているのです。

顧客が求めるもの:「具体的な数字」と「信頼性」

一方で顧客側の意識を見てみると、提案段階で具体的な数値データを強く求めていることがわかります。産業用太陽光発電を検討中の企業に聞いた調査では、「初期段階からある程度具体的な数値を示してほしい」と回答した企業が約7割にのぼりました。さらに詳細を問うと、「多少時間がかかっても最初から詳細な経済効果の見積もりを示してほしい」という回答が61.3%を占めています。逆に「精度は粗くても早めに概算を提示してほしい」は34.2%にとどまりました。この結果から、多くの顧客は初回提案時にスピードはもちろんだが、それよりも、初回の提案での精度・具体性を重視していることが見て取れます。

もっとも、中には「概算でも早く出してほしい」という声も3割強あります。その理由としては「詳細情報を揃える手間を抑えたい」(55.3%)「社内検討を早く始められるから」(42.1%)などが挙がっており、スピードと精度のバランスも重要です。いずれにせよ、顧客はいきなり契約を迫られることを望んでいるわけではなく、納得感のあるデータをもとに素早く社内で検討した上で導入判断をしたいと考えているのです。

では、売り手がせっかく具体的な数値を提示しても、そこで課題は解消されるのでしょうか。実は「提示された数値の信憑性」に対する顧客の不安が大きな壁となっています。

住宅用太陽光・蓄電池の営業担当者の83.9%が、顧客からシミュレーション結果の信頼性を疑われた経験があるといいます(※調査Vol.21)。産業用の現場でも、営業担当者の84.2%「シミュレーション結果の保証があれば成約率が高まる」と期待しており、8割強が実際に顧客から試算精度を疑問視されて失注や成約長期化を経験しているのです。

さらに導入を見送った顧客側に目を転じると、太陽光や蓄電池を導入しなかった需要家の約7割が試算の信憑性を疑った経験があり、「もし信頼できるシミュレーション結果の保証があれば購入に前向きになった」と考える人が約6割に達していました。このように、提示された数値そのものの信用度が低ければ、どれだけ経済メリットを訴求しても顧客の心は動かないわけです。

顧客の不安は「本当にシミュレーション通りの効果が出るのか?」という点に集約されます。

太陽光や蓄電池では天候や利用状況による発電・蓄電量の変動がありますし、EVも走行距離や充電パターン次第で経済効果が変わります投資に見合うリターンが得られなかったらどうしよう——このリスクへの懸念が、せっかくの提案を阻む心理要因となっているのです。

経済メリットと脱炭素を両立する提案への期待

もう一つ見逃せないのは、環境貢献だけでは企業・家庭は動かないという現実です。CO2排出量の「見える化」ツールを導入した企業への調査では、可視化ツール導入企業のうち実際に排出量削減に取り組めているのは3社に1社に過ぎず、約7割の企業が「排出量を見える化しただけでは直接的な利益やコスト削減につながっていない」と感じていました。つまり、環境データの提示だけでは具体的行動に結び付かないケースが多いのです。

一方で、86.0%もの企業が「電気代削減効果や投資対効果も自動でシミュレーションできるツールがあれば使いたい」と回答しています。これは、環境と経済の両面価値を同時に示せるツールへの強い期待を表しています。

太陽光・蓄電池・EVといった再エネ関連商材は、本来環境メリット(CO2削減)と経済メリット(電気代削減等)を兼ね備えるものです。しかし、従来この二つが分断されて伝えられることが多く、環境施策の担当者と経営・財務担当者の間でも温度差がありました。「脱炭素は大事だが具体的な行動に移せていない」自治体職員が37.1%、大企業でも40.9%いるというデータもあります(調査Vol.11・Vol.10)。その原因として「コスト負担がネック」「効果が不透明」という声が上がっており、結局経済合理性が示されないと実行に踏み切れないのです。

しかしここに変化の兆しがあります。東京都では住宅への太陽光パネル設置義務化など踏み込んだ政策が進められていますが、都民の84.7%が都の脱炭素施策を「評価する」と回答する一方、今後望む支援策の1位は「補助金の増額」でした。つまり経済インセンティブへの期待です。また約8割の都民が太陽光・蓄電池の経済効果シミュレーションを利用したいと回答しており、

一般消費者レベルでも「脱炭素=まず経済効果をシミュレーション」という発想が広がりつつあります。

さらに特徴的なのは、「経済効果シミュレーション結果を保証する制度」への期待です。

自治体職員への調査では、80.4%シミュレーション結果を保証する制度があれば再エネ普及はよりスムーズに進むと回答しました。同様に、住宅用・産業用の販売現場や顧客からも前述のようにシミュレーション保証への強い要望が出ています。

これは裏を返せば、現状の保証スキームが不足していることを示します。機器そのものの製品保証や施工保証は一般的になりつつありますが、「経済効果」に踏み込んだ保証は斬新です。実際、2024年には日本初の試みとして太陽光発電・蓄電システムの経済効果シミュレーション保証サービスが提供開始されました。このサービスでは、シミュレーションに基づき導入した太陽光が想定より発電量不足となった場合、その損失を補填する仕組みを提供しています。先述の調査結果(シミュレーション提示企業の経営層の4割超が効果を十分想像できず、一方でシミュレーションが信頼できれば導入したかった人が半数超)があり、まさに市場のニーズに応えたものです。

保証による安心感は顧客だけでなく金融機関にもメリットがあります。

太陽光・蓄電池への融資審査を行う担当者の86.0%が現在の評価業務に課題を感じ、将来予測の不確実性やデータ収集の手間を主な悩みとして挙げています。73.0%は外部の専門支援を有益と考えており、客観的な保証付きデータがあれば融資判断もしやすくなるでしょう。経済効果のシミュレーション保証は、販売会社にとって成約率向上の切り札であると同時に、顧客の不安と金融側のリスク懸念を和らげるゲームチェンジャーになり得るのです。

ボトルネック解消の戦略:(1) デジタルツールによる提案力強化

以上の課題を踏まえ、まず必要なのは売り手側の提案プロセスをデジタル技術で高度化・効率化することです。

参考:「エネがえるEV‧V2H」の有償提供を開始~無料で30日間、全機能をお試しできるトライアル実施~(住宅用太陽光発電+定置型蓄電池+EV+V2Hの導入効果を誰でもカンタン5分で診断/クラウド型SaaS) | 国際航業株式会社 

参考:再エネ導入の加速を支援する「エネがえるAPI」をアップデート 住宅から産業用まで太陽光・蓄電池・EV・V2Hや補助金を網羅 ~大手新電力、EV充電器メーカー、産業用太陽光・蓄電池メーカー、商社が続々導入~ | 国際航業株式会社 

幸い、昨今はクラウド型のシミュレーションツールやAPIが登場し、従来手作業に頼っていた試算・設計業務を大幅に省力化できるようになっています。

例えば、とある大手太陽光企業では最近、社内のシミュレーションシステムにクラウドAPIを導入した結果、1件あたり2~3時間かかっていた試算作業が5~10分程度で完了するようになり、複数パターンの比較提案も迅速に行えるようになりました。提案準備時間の劇的短縮によって営業担当者の効率は飛躍的に向上し、より最適なプランを迅速に提示できるようになっています。

実際、その企業では「提案の幅が広がり、お客様により適切な提案が実現できている。システムが使いやすくなったことで活用する営業も増え、提案品質の底上げにつながった」との声が上がっています。

また、こうしたツールは提案の精度向上にも寄与します。最新のAPI連携により、全国の電力会社の料金プランデータが自動更新で反映されるため、常に正確な電気料金・燃料調整費を織り込んだ試算が可能です。手作業で電気料金表を調べて入力するといった人的ミスのリスクも減り、複雑化する料金体系にもスムーズに対応できます。さらに、顧客の詳細な電力デマンドデータがなくとも、業種や建物規模を入力すれば30秒ほどで仮想的な需要データ(デマンド)を自動生成できる機能も登場しています。これにより、初期アプローチの段階でもそこそこの精度の試算を即座に提示でき、「まず概算でも早く知りたい」というニーズにも応えられるようになりました。

住宅分野でも、EVと家のエネルギーを統合的にシミュレーションする動きが進んでいます。例えばパナソニックは家庭向けの新サービス「おうちEV充電サービス」を開発するにあたり、外部のエネルギーシミュレーションAPIを採用しました。この結果、全国の電力会社の数千に及ぶ料金プラン情報を自社で管理する負担を省き、ユーザーごとに電気料金プランを比較シミュレーションして最適な充電スケジュールを提案することを実現しています。ユーザーは夜間など割安な時間帯に自動で充電する設定が可能となり、家庭の電気代節約に直結しています。これはEVそのものの販売促進にも大きな意味を持ちます。なぜなら、EV購入検討者が期待する「ガソリン代+電気代削減」のシミュレーションを、購入後も継続して提供し最適運用につなげることで、EVの経済メリットを最大化し満足度を高められるからです。自動車メーカーやディーラーも、単に車を売って終わりではなく、エネルギーまで含めたトータル提案をデジタル技術でサポートすれば、顧客との長期的な関係構築と新たな収益機会(例:エネルギーサービス料など)につながるでしょう。

さらに、提案段階で作成する資料(見積書や提案書)の自動化も重要です。先のツール導入企業では、試算結果から発電量や経済効果が一目でわかるレポートをExcelで自動生成する機能を実装し、資料作成の手間を大幅に削減しました。これにより営業はデータ入力やグラフ作成に追われることなく、提案内容そのものの検討や顧客対応に時間を割けるようになります。結果として提案の質も上がり、顧客満足度向上に直結します。

ポイント:デジタルツール戦略

  • 最新のシミュレーションSaaSやAPIを活用し、提案準備のリードタイムを極小化する(例:試算時間を従来比1/10以下に短縮)。

  • 自動データ連携で常に最新の料金・制度情報を反映した正確な試算を実現し、人的ミスを排除。

  • 仮想データ生成などにより、十分な情報がなくても初期提案のスピードを確保する。

  • レポート自動作成等で営業資料の標準化・高速化を図り、提案品質の平準化と担当者負担軽減を両立。

デジタル活用によって、売り手側の「見えない負担」は確実に軽減できます。何より、スピーディかつエビデンスに基づいた提案は顧客の心証を大きく改善します。提案を受けた企業経営者の声として、「提示されたシミュレーションが信頼できるもので、なおかつ早期に出てきたなら、社内稟議も通しやすかった」という趣旨のコメントが見られます。迅速さと信頼性を兼ね備えた提案こそ、潜在需要を確実な成約へと転換する原動力なのです。

参考:「エネがえるEV‧V2H」の有償提供を開始~無料で30日間、全機能をお試しできるトライアル実施~(住宅用太陽光発電+定置型蓄電池+EV+V2Hの導入効果を誰でもカンタン5分で診断/クラウド型SaaS) | 国際航業株式会社 

ボトルネック解消の戦略:(2) 専門アウトソーシング(BPO)の活用

デジタルツールの導入と並んで効果的なのが、提案業務の一部を専門家にアウトソーシング(BPO)することです。前述の通り、多くの販売会社が人材・ノウハウ不足に直面しています。実際、EV・V2H関連の販売・提案業務について社内スキルに課題を感じる担当者の80.6%が業務の外部委託に興味を示し、そのうち半数以上が「専門知識・ノウハウの高さ」を外注先に求めています。また、金融機関においても7割超が外部の知見活用を有益と考えていました。これは社内にないスキルやリソースを補完してでも効率化・高度化したいという強いニーズの表れです。

こうした需要に応えるサービスも登場しています。提案業務のBPO/BPaaSとして、再エネ導入のシミュレーション作成から設計図面作成、補助金申請代行、さらに営業研修まで、ワンストップで支援するサービスが提供されています。例えば国際航業とエコリンクスの提携によるサービスでは、経済効果試算1件あたり1万円からという価格で専門チームにアウトソーシングでき、最短1営業日で納品すると謳われています。繁忙期に案件が重なって手が回らない場合や、社内に経験者が少なく複雑なシミュレーションが難しい場合でも、外部のプロに任せてしまえば迅速かつ高品質な提案資料が手に入るわけです。

BPO活用の利点は明白です。まず、営業担当者はコア業務である顧客対応やクロージングに注力できるようになります。細かな試算や書類作成は外注し、自社営業は提案ストーリーを組み立てたり関係構築に専念したりと、本来の営業力発揮に時間を割けます。次に、属人的なスキル差を補填できます。新人や経験の浅い担当者でも、外部の専門家が作った確度の高い試算・設計をもとに提案できるため、提案レベルの底上げが可能です。実際、経済効果シミュレーションツールを導入して営業を戦力化することで技術職の負荷軽減につながると期待する声が85.3%にも上った調査があります(調査Vol.24)。営業がしっかり役割を果たせば、施工現場の人手不足も補えるという考えです。

さらに、BPOサービス提供側は多数の案件を扱う中でデータや知見が蓄積されるため、個社では得られないベンチマークや最適化ノウハウを提供してくれる可能性があります。例えば「同業他社ではこれくらいの削減効果を示している」「この地域ではこの補助金を組み合わせるケースが多い」といった情報は、外部に任せればこそ見えてくる強みです。それを各クライアント企業にフィードバックしてもらえれば、自社提案の改善にもつながります。

もっとも、何でも外注すれば良いというものではなく、自社で抱えるべき中核はどこかを見極めることが重要です。経営層や営業マネージャーは、提案プロセスの中で自社がバリューを発揮できる部分(例えば顧客との信頼関係構築や最終提案のカスタマイズ)にリソースを集中し、それ以外(データ収集・計算・書類作成など定型部分)は柔軟に社外リソースを使う、といった発想が求められます。“フル内製”にこだわらず、社外の力を借りてでも提案スピードと精度を上げることが、結果的に成約率向上と社内人材育成の好循環を生むでしょう。

ポイント:BPO活用戦略

  • 専門BPOサービスに相談し、試算・設計・補助金手続きなど負荷の大きい工程をアウトソーシング。コストに見合うスピードと品質で提案力強化。

  • 繁閑差の激しい業務量を平準化し、繁忙期の提案漏れや対応遅れを防ぐ(必要に応じ1件単位から依頼可能なサービスを活用)。

  • 自社営業の役割を再定義し、対顧客折衝や提案方針策定に注力させる。一方、定型的技術作業は外部リソースでカバーし人材不足を補完。

  • BPO提供企業との連携で市場横断的な知見を獲得し、自社提案のブラッシュアップに活かす。定期的に成果をレビューしノウハウを社内共有する。

BPOの導入に抵抗がある企業もあるかもしれませんが、調査では販売・提案業務に課題を感じる企業の92.5%が何らかの課題を抱え、その多くが外部委託に関心を寄せています。既に動き始めた企業が競合優位性を獲得しつつある今、 “他社に任せられるところは任せる”戦略はEVや再エネ商材の普及ビジネスにおいてもはや必須の選択肢と言えるでしょう。

参考:国際航業、エコリンクスと提携し、再エネ導入・提案業務を支援する 「エネがえるBPO/BPaaS」を提供開始 経済効果の試算・設計・補助金申請・教育研修を1件単発から丸ごと代行まで柔軟に提供 ~経済効果試算は1件10,000円から 最短1営業日でスピード納品~ | 国際航業株式会社 

ボトルネック解消の戦略:(3) 売り手のビジネスモデルと意識の転換

ツールやアウトソーシングによって提案業務の効率・精度が上がっても、最終的にその価値を伝えるのは「人」である点は不変です。したがって、売り手企業の経営層から現場スタッフに至るまで、ビジネスモデルとマインドセットの転換を図ることがEV普及加速の根幹となります。

まず、自動車メーカーやディーラーは「クルマを売ったら終わり」という発想から脱却し、EVを起点としたエネルギーサービス提供者へと進化する必要があります。EVは単なる移動手段ではなく、“走る蓄電池”としてエネルギーインフラの一部となり得ます。例えば日産自動車は家庭用V2H機器と組み合わせたEV活用をいち早く提唱しましたが、今後はトヨタやホンダなど他の国内メーカーも含め、住宅・電力会社と連携した包括提案が鍵を握ります。住宅メーカーにとってもEVは住宅設備の一部と捉え、太陽光+蓄電池+EV充放電設備をセットで設計・販売するようなモデルが求められます。実際、欧州では自動車ディーラーが再エネ設備の知識を持ち家庭向けに「PVソーラーとEVのパッケージ」を提案する事例も出てきています。日本でも異業種間の壁を越えたコラボレーションが必要でしょう。

そのためには、組織横断的な教育・研修も重要です。前述のように社内知識不足を感じる声が多い中、単に個人任せにせず体系的にスキル習得を支援する仕組みづくりが急務です。例えば太陽光・蓄電池の基礎や電力システム、補助金制度などについてeラーニングや定期研修を導入し、営業・技術問わず社員全体の底上げを図ることです。

国際航業が開発した「ボードゲームdeカーボンニュートラル」という研修サービスは、遊びながら脱炭素を学べるユニークな試みですが、こうした創造的な学習手法も取り入れて社員のモチベーションを高めると良いでしょう。お客様と営業担当が一緒になってボードゲームで遊びながら購買検討をするようなコミュニティ型マーケティング手法も展開できるはずです。

調査でも「研修に時間を割く余裕がない」(30.6%)や「社内で教育の仕組みがない」(26.5%)といった声が多く聞かれました。ここを経営戦略として変えていく覚悟が、長期的には他社との差別化につながります。

また、売り手自身の評価指標(KPI)の見直しも検討すべきです。従来の自動車販売では月間販売台数や利益率など短期的な指標が重視されがちですが、EVや再エネ商品では顧客のライフタイムバリューやエネルギーコスト削減額といった中長期の価値にも目を向ける必要があります。

例えば「自社が提案した再エネソリューションで顧客が●万円のコストを削減できた」といった成果を社内で称賛・共有する文化を作れば、営業担当者も顧客視点で本当に役立つ提案にフォーカスするようになるでしょう。これはひいてはブランドイメージ向上にもつながり、紹介やリピートといった追加ビジネスも生まれやすくなります。

最後に、政策立案者や業界団体も売り手の変革を後押しする役割を果たせます。例えば、政府や自治体がシミュレーション結果保証への補助標準化を進めれば、販売会社は安心して保証付き提案ができます。補助金制度についても、単に設備導入費を補助するだけでなくシミュレーション費用やコンサル費用も補助対象にするなど、見えない部分の支援を拡充するのも一案でしょう。

現に、業界では国や自治体の補助金情報をAPIで提供する仕組みも登場し、2,000件超の補助金データを自動取得できるようになっています。こうしたデータインフラは行政と民間をシームレスにつなぎ、提案スピードを損なうことなく公的支援を活用する上で不可欠です。政策側もデジタル活用を前提に制度設計することで、現場の売り手がより動きやすい環境を整備していくことが期待されます。

ポイント:意識改革とビジネスモデル転換

  • EVを核としたサービス化: 車両販売+エネルギー(電力プラン、PV、V2H機器など)のセット提案を自社ビジネスモデルに組み込み、新たな収益源とする。

  • 異業種連携: 自動車メーカー×住宅メーカー×電力会社など業界の垣根を越え、共同商品や相互紹介スキームを構築。顧客にワンストップサービス提供。

  • 社員教育への投資: エネルギーやファイナンス知識を社内標準スキルと位置づけ、全社員研修や資格取得支援を実施。ゲーム研修なども活用し楽しく学ぶ文化醸成。

  • 顧客志向のKPI設定: 短期売上だけでなく、提案による顧客のコスト削減額・満足度・紹介件数など長期価値を評価軸に追加。組織として「顧客の成功」を祝う風土づくり。

  • 政策・制度の利活用: シミュレーションや保証を支援する政策を提言・活用。補助金情報APIなどオープンデータを積極活用し提案に組み込む。

おわりに:売り手が変われば、日本のEV市場は動き出す

本稿で見てきたように、日本のEV普及を真に加速させるカギは、売り手側の行動変容にあります。顧客は環境と経済の両立を望み、具体的な数字と信頼性を求めています。その期待に応えるには、売り手が古い慣習や手作業から脱却し、データドリブンで提案価値の高い営業へと進化しなくてはなりません。幸い、デジタルツールやアウトソーシングという解決策は既に手の届くところにあり、実践して成果を上げている企業も出てきました。あとは勇気をもって従来の枠を超え、ビジネスモデルとマインドセットをアップデートできるかどうかです。

売り手が変われば、買い手である顧客の心も動きます。適切な提案によってEVや太陽光の「本当の価値」が伝われば、価格やインフラの課題は乗り越えられるでしょう。

実際、蓄電池は元が取れないから損だという従来の常識がありながらも、購入者の85.6%が満足しているとの調査結果もあります(調査Vol.16)。彼らの購入理由のトップは「太陽光とセットで電気代が下がるから」(44.2%)であり、適切に価値を理解すれば顧客は納得し行動するのです。

EVは日本の自動車産業にとっても大きな変革ですが、それは同時にエネルギー産業や住宅産業との融合を促すチャンスでもあります。世界最高水準の解像度で問題を分析し、業界の常識に埋もれたモヤモヤをえぐり出すような視点で戦略を練り直す時期が来ています。売り手が変われば市場が変わる——この信念を持って、業界全体で脱炭素社会へのシフトを加速させていきましょう。日本のEV普及は、決して遅れたままでは終わらないはずです。


ファクトチェック・出典まとめ(主要な調査・データの出典を記載):

  • 日本のEV新車販売比率: 2024年時点で約2.8%と低水準(世界平均22%)。

  • EV購入検討者の意識: 95.5%が再エネ自家消費による電気代削減に関心、8割超がガソリン代+電気代の試算希望。

  • 販売現場の課題: 太陽光・蓄電池提案担当者の88.2%が業務に課題感。特にヒアリング・現調(41.8%)やデータ収集(37.3%)に時間。経済効果試算も27.3%が負担。

  • 社内知識不足: 担当者の44.6%が「社内の太陽光・蓄電池知識は不十分」と回答(製品技術進化早く知識追いつかず44.9%等が理由)。

  • 提案スピードと成約: 営業トップ層は提案書作成「1時間未満」が40.1%と高率、未達層は26.0%。シミュレーションツール活用は達成者48.2%・未達26.9%。

  • 顧客の要望: 企業検討者の約7割が初期提案で「ある程度具体的数値」を要求。61.3%が「詳細な見積もりを最初から希望」。

  • 信頼性への不安: 営業の8割超が顧客に試算精度を疑問視された経験あり。導入見送り企業の7割が試算の信憑性を疑い、保証あれば約6割が購入意欲

  • CO2可視化の現状: 可視化ツール導入企業の約66.7%が「可視化だけでは直接利益につながらず」と認識。86.0%が経済効果シミュレーション統合ツールを望む

  • シミュレーション結果保証: 自治体職員の80.4%「結果保証制度あれば普及スムーズ」。2024年に国内初の経済効果シミュレーション保証サービス開始(発電量不足時に損失補填)。

  • デジタル導入効果: シミュレーションAPI導入で計算時間が2–3時間→5–10分に短縮(従来比1/10以下)。仮想データ生成で30秒程度で需要予測、初期提案を迅速化。

  • アウトソーシングニーズ: EV/V2H提案担当の80.6%が外部委託に関心。金融機関でも73.0%が専門支援を有益と回答。再エネ提案BPOサービスも登場(試算1件1万円~)。

無料30日お試し登録
今すぐエネがえるEV・V2Hの全機能を
体験してみませんか?

無料トライアル後に勝手に課金されることはありません。安心してお試しください。

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

コメント

たった15秒でシミュレーション完了!誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!
たった15秒でシミュレーション完了!
誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!