放射冷却×遮熱×バイオ緑化で創る「涼風のまち」GXまちづくり事業アイデア 「熱」と「停滞」を価値に変える

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

むずかしいエネルギーをかんたんに
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放射冷却×遮熱×バイオ緑化で創る「涼風のまち」GXまちづくり事業アイデア 「熱」と「停滞」を価値に変える

プロローグ:2025年、都市の「熱」と「停滞」という二つの病

2025年夏、日本の都市はかつてないほどの猛暑という喫緊の課題に直面しています。日本気象協会が発表する酷暑予測1は、もはや日常的なリスクとなり、ヒートアイランド現象は都市の快適性を著しく低下させています。この「熱」の問題は、単なる不快感に留まらず、熱中症リスクの増加、労働環境の悪化2、そしてそれに伴う生産性の低下を引き起こし、経済活動の停滞を招く深刻な病理へと変化しています。

一方で、日本政府は「GX(グリーントランスフォーメーション)」を、この危機を乗り越え、経済成長の機会へと転換する国家戦略として位置づけています4

しかし、その道のりは決して平坦ではありません。特に、国内の約4割を占める温室効果ガス排出部門である家庭や業務部門では、老朽化した建築ストックの改修が喫緊の課題とされています5。しかし、断熱材などの省エネ設備追加が既存の建築規制(建ぺい率・容積率)に抵触し、改修が困難となる致命的な障壁が存在します6。さらに、脱炭素化を推進しようにも、中小企業にとってはマンパワーやノウハウの不足が大きな足枷となり、取り組みが進まないのが現状です7

本レポートは、これらの複合的な課題に対し、最新の冷却技術とバイオ技術をシステム思考で創造的に組み合わせることで、「涼しさ」を単なるコストではなく、収益を生む新たな都市価値へと転換させる「涼風の街」構想を提案します。

科学的、学術的な根拠に基づき、多角的な視点から現状を解き明かし、ありそうでなかった実効性の高いソリューションを提示します。


第1章:現状の「高解像度」分析 — 冷却と緑化の最前線、そして見過ごされてきた課題

1.1. 科学的基礎原理の再解釈:熱力学から解き明かす「放射冷却」と「蒸散作用」

都市の熱問題を根本的に解決するためには、まず熱をどのように除去するかという科学的原理を深く理解する必要があります。鍵となるのは「放射冷却」「蒸散作用」という二つの自然現象です。

放射冷却の解説:宇宙空間への熱輸送

熱力学の基本原理の一つに、シュテファン=ボルツマンの法則があります。この法則は、熱輻射により物体から放出される単位時間あたりのエネルギー(放射発散度)Eが、その物体の絶対温度Tの4乗に比例するというものです8。式で表すと、$${E = \epsilon \sigma T^4}$$となります。ここで、

は放射率(0から1の間の値)、はシュテファン=ボルツマン定数です。

この原理に基づき、物体は常に周囲に熱を放射しています。しかし、その熱をどこに放出するかが重要です。地球上の物体から放出された熱輻射のうち、波長が8-13 µmの特定の波長帯は、大気に吸収されずに透過し、極低温(-270℃)の宇宙空間へと直接放出されます。この波長帯は「大気の窓」と呼ばれており、この窓を通じて熱を効率的に放出する技術が「放射冷却」です10

最新の放射冷却素材は、この「大気の窓」波長域で高い放射率を達成し、同時に太陽光スペクトル(0.3-4 µm)の光を極力吸収しない遮熱機能を両立させることで、日中でも冷却効果を発揮するという革新的な技術を実現しています11

蒸散作用の定量的解説:植物が創出する気化熱のクーラー

緑化が都市の熱を緩和するメカニズムの中心にあるのが、植物の「蒸散作用」です。植物は根から吸い上げた水分を、葉の気孔から水蒸気として放出します。この際、水が蒸発する際に周囲の熱を奪う「気化熱」の原理により、周辺の気温が低下します。

この冷却効果は、驚くほど定量的です。ある試算によると、芝生1平方メートルあたり、1日に5ミリリットルの水分を蒸散させることが可能であり、その冷却効果は家庭用エアコンを約3時間稼働させる効果に匹敵するとされています12コンクリートやアスファルトが熱を蓄積するのに対し、緑地が涼しさを保つのは、この蒸散作用による物理的な冷却効果が原因です。

1.2. 冷却技術の現在地:最新冷却素材・塗料の性能と市場動向(2025年版)

都市の熱対策として、近年急速に進化を遂げているのが冷却技術です。

放射冷却素材の革新と最新動向

日中でもエネルギーを使わずに物体を冷却できる放射冷却素材は、2025年における最先端技術の一つです。出光エナジーソリューションズ株式会社は、北海道幌加内町の自治体庁舎に放射冷却素材「Radi-Cool(ラディクール)」を全国で初めて導入し、「ゼロカーボンシティ実現」に向けたゼロエネルギーでの支援を開始しました13。また、株式会社SPACECOOLは、2025年大阪・関西万博のパビリオンに採用されるなど、その技術が酷暑対策の切り札として注目を集めています14。

実際の導入事例では、日産サービスセンターの屋根にRadi-Cool塗料を塗装したところ、施工された屋根面の温度が従来の塗装板に比べて約7℃低下したという効果が報告されています2。さらに、商社の配送センターでは、塗装後に天井内部の温度が最大20.7℃も低下し、夏場の労働環境改善に大きく貢献した事例も存在します3

遮熱塗料の市場拡大と見過ごされがちな課題

高反射率塗料として知られる遮熱塗料の市場も拡大を続けています。日本の遮熱屋根用コーティング市場は、2024年の2億3,938万米ドルから、2033年までに4億32万米ドルに達し、2025年から2033年の間に年平均成長率(CAGR)5.88%で成長すると予測されています15。この成長は、環境に配慮した都市計画や、建物の効率化を奨励する政府のエネルギー政策に後押しされています15。

2025年版の遮熱塗料ランキングでは、アステックペイントの「スーパーシャネツサーモSi」日本ペイントの「サーモアイSi」などが高い遮熱性能と耐候性で評価されています16。しかし、これらの塗料にはいくつかの見過ごされがちな課題があります。遮熱塗料の単体での輻射熱反射率は、一般的に60〜80%前後と限定的であり、全ての熱を反射できるわけではありません17。また、太陽光を反射することで表面温度の上昇を防ぐ効果はありますが、熱の伝導を妨げる「断熱」効果はないため、室温の急激な変化を防ぐことは難しいという根本的な弱点があります17。さらに、塗膜表面が汚れると反射率が低下し、遮熱効果が落ちてしまうという課題も存在します17

1.3. バイオ技術による緑化の進化:在来植物とIoTが拓く新しい可能性

従来の屋上緑化は、猛暑への耐性やコスト、管理の難しさといった課題を抱えていました1。しかし、バイオ技術の進化は、これらの課題を克服し、緑化の可能性を大きく広げています。

在来植物の活用と省エネ緑化技術

大成建設株式会社が開発した室内緑化技術「T-バイオフィリックグリーン」は、日本の在来植物約60種を選定し、温度変化の少ない室内でも四季の移り変わりを再現できる画期的な技術です19。従来の室内緑化が熱帯性の観葉植物に偏っていたのに対し、この技術は屋外の自然な形態を室内に持ち込むことを可能にしました19。さらに、植物の生育に最適な潅水頻度と土壌配合を最適化することで、潅水量を従来の室内緑化より約80%も削減し、環境負荷を大幅に低減できることが実証されています19。

緑化による定量効果と心理的効果

緑化は、蒸散作用による物理的な冷却効果に加え、都市の熱問題に多角的に貢献します。シミュレーション研究では、高層ビル外壁に素焼きパイプをまとった「バイオスキン・システム」が、表面温度を外気より10℃低下させ、周辺温度を2℃も下げる効果が確認されています20。また、国土交通省のシミュレーションでは、都市全体の緑被率を27.3%から39.5%に増加させることで、日平均気温が0.3℃低下し、熱帯夜となっている区域が約972ha減少する効果が示されています21。

さらに、名古屋市の調査では、緑被率が高まるにつれて夏季の温度が低下する明確な相関関係が示され、緑被率が10%増加するごとに平均温度が約0.7℃低減することが明らかになっています22

物理的な効果だけでなく、バイオフィリックデザイン(自然とのつながりを重視したデザイン)は、人間の精神にも良い影響を与えることが科学的に証明されています。植物や自然光、木目デザインに触れることで、心拍数や呼吸が安定し、ストレスが軽減される効果23や、フィトンチッドの香りによるリラックス効果24が明らかになっています。オフィスや居住空間にバイオフィリックデザインを導入することで、幸福度が最大15%上昇し、集中力や生産性も向上するというデータも存在します23

1.4. 日本のまちづくりGXにおける「根本的・本質的な課題」の特定

前述の先進技術にもかかわらず、日本のGX推進が加速しない背景には、構造的な課題が横たわっています。

老朽化建築ストックの改修障壁

日本には多くの既存建築物が存在しますが、これらの省エネ改修が思うように進んでいません。その最大の原因の一つは、建築基準法です。断熱材の追加や高効率な設備の設置は、建物の高さや建築面積を増加させることがあり、これにより既存の容積率や建ぺい率の上限を超えてしまうケースが多々指摘されています6。これは、省エネ性能を向上させようとするインセンティブが、現行の法規制によって妨げられるという、根本的なジレンマを生んでいます。

社会的価値の「見える化」不足

都市緑化や省エネ改修がもたらす価値は、光熱費の削減だけに留まりません。熱中症リスクの低減、睡眠障害の回避25、快適な居住空間の提供、周辺地価の上昇26、そして地域コミュニティの活性化など、多岐にわたります26。しかし、これらの多面的な価値は、これまで客観的に評価し、貨幣価値に換算することが困難でした。そのため、民間事業者や投資家は、これらの取り組みを収益を生み出しにくい「コスト」と認識し、投資に踏み切れないという課題を抱えています26。

中小企業のGX推進課題

2025年度には、建築GX・DX推進事業に65億円の予算が計上されるなど、政府の政策的な後押しは拡大しています4。しかし、脱炭素化の取り組みを進めている中小企業への調査では、マンパワーやノウハウ不足を課題として挙げる割合が最も多いことが明らかになっています7。複雑な補助金制度の申請や、最新技術の導入・運用に関する専門知識の不足が、大規模な投資を伴うGXへの取り組みを躊躇させているのです。


第2章:システム思考に基づく「涼風の街」構想 — 複合ソリューションの創造

2.1. 「ありそうでなかった」ソリューション:冷却技術と緑化のハイブリッドデザイン

都市の熱問題と前述の課題を根本から解決するためには、単一の技術に頼るのではなく、複数の技術を相互に補完し、相乗効果を生み出すシステム思考が必要です。本レポートが提案するのは、以下の3つの要素を統合した「冷却の三位一体(Cooling Trinity)」モデルです。

  1. 遮熱(高反射率): まず、建物の屋根や外壁に2025年最新版の高性能遮熱塗料を塗布し、日中の太陽光エネルギーを最大限に「反射」することで、熱の侵入を物理的に防ぎます16

  2. 放射冷却(熱放射): 次に、遮熱塗料の上に放射冷却素材(または両方の機能を併せ持つハイブリッド素材)を重ね、反射しきれなかった熱を「大気の窓」を通じて積極的に「放射」し、宇宙空間へと逃がします10。これにより、遮熱塗料単体では防げない塗膜自体の温度上昇や、夜間の蓄熱・再放射も抑制され、断熱効果の不足という弱点が補完されます28

  3. バイオ緑化(蒸散作用): 最後に、冷却された屋根や壁面をバイオ技術による緑化で覆います。これにより、植物の「蒸散作用」による気化熱で、屋内外の周辺空気と体感温度をさらに低下させ、冷却効果を増幅させます12。また、緑化が物理的に塗膜表面を保護することで、遮熱塗料の弱点である「汚れによる効果低減」も緩和される可能性があります18

この「冷却の三位一体」戦略は、それぞれの技術の利点を最大限に引き出し、弱点を補い合う、まさにシステム思考に基づいたハイブリッドソリューションです。

街路樹と低木の植樹帯を組み合わせることで、歩行空間のWBGT(暑さ指数)を低減する効果が期待されるなど、このコンセプトは建物の外壁だけでなく、都市のランドスケープ全体に拡張可能です29

表1:都市型パッシブ冷却技術比較(2025年最新版)

技術名 冷却メカニズム 主なキー企業/製品(2025年版) 主な効果 主な課題
遮熱塗料 太陽光の反射

アステックペイント、日本ペイント、関西ペイント 16

表面温度低下、室内温度上昇抑制

汚れによる効果低減、断熱効果なし17

放射冷却素材 赤外線の放射

Radi-Cool、SPACECOOL 13

表面温度低下、室内温度上昇抑制、夜間冷却 初期コスト、技術の普及途上
バイオ緑化 蒸散作用(気化熱)

大成建設 T-バイオフィリックグリーン 19

表面温度・周辺温度低下、体感温度低下、心理的効果 潅水管理、初期コスト、設置スペース
複合ソリューション 反射+放射+蒸散 単体技術の相乗効果、持続的な冷却 統合的な設計と施工ノウハウの確立

2.2. マクロ冷却システムの構築:建築からランドスケープへの拡張

「冷却の三位一体」モデルを個々の建物だけでなく、都市の面的な(エリア全体)なGX事業として展開することが、この構想の核心です。老朽化が進む工業団地31や住宅団地をモデルケースとし、街区全体を一つの巨大な冷却システムとして再構築します。

全ての建築物の屋根をこのハイブリッドモデルで改修し、共用スペースや公園にはバイオ技術による緑化と冷却・遮熱素材を組み合わせたパーゴラなどを配置することで、都市全体の熱収支を根本から改善する「都市冷却インフラ」を構築します。

これは、単一の企業や個人による取り組みを、スケールメリット31を活かした地域一体のプロジェクトへと昇華させ、政府のGX関連補助金4や民間金融の活用を容易にする効果があります。面的インフラとしての冷却システムは、単なる省エネだけでなく、地域全体のレジリエンス強化33にもつながります。

2.3. ソーシャルインパクトの「定量化」モデル:カーボンクレジットと自然資本評価

本事業の実現可能性を高めるためには、その多面的な価値を客観的・定量的に「見える化」することが不可欠です。

カーボンクレジットの創出

株式会社Linkholaは、遮熱塗料による空調エネルギー削減効果を定量評価し、カーボンクレジットとして収益化する世界初のプロジェクトを開始しました34。これにより、企業は電力コスト削減に加え、クレジットの販売収入または自社オフセットという二重のメリットを得られます。

本構想では、このモデルを、遮熱・放射冷却・バイオ緑化を組み合わせた「冷却の三位一体」システム全体へと拡張します。この複合的な効果をIoT等で計測・可視化することで、創出されるカーボンクレジットの量を最大化し、事業の収益性を高めることが可能です。

自然資本評価の導入

都市緑化がもたらす多面的な価値を「見える化」するため、国土交通省のグリーンインフラ評価手法27や、ライフサイクルアセスメント(LCA)の手法の一つである日本版被害算定型影響評価手法(LIME)25を活用します。これにより、熱中症や睡眠障害といった健康被害の回避価値を貨幣価値に換算し、都市の快適性向上という定性的な価値を客観的な指標で示すことが可能になります。

表2:まちづくりGXにおける多面的価値の定量化モデル

インパクトカテゴリ 定量化手法 関連ファクト/出典
エネルギー削減効果

電力消費量(kWh)の削減、ヒートアイランド現象の緩和による冷房エネルギー消費の低減25

屋根面温度約7℃低下、天井内部温度約20℃低下事例2

CO2排出削減価値

削減されたCO2排出量(t-CO2eq)をカーボンクレジットとして創出34

遮熱塗料によるCO2削減効果の定量評価方法論の開発34

地域経済波及効果

産業連関表による分析、雇用創出、企業のバリューチェーン全体の効率化26

大阪府への経済波及効果が年間639億円26

社会・健康価値

LCA/LIME(被害算定型影響評価手法)による熱中症、睡眠障害等の回避価値の貨幣換算25

東京23区における熱中症回避価値1.8億円、睡眠障害回避価値114億円25

不動産・資産価値向上

周辺地価の上昇率、CVM(仮想価値法)による支払意思額の試算26

シビックプライドの向上による周辺地価3.4-19.4%上昇26

このフレームワークにより、投資家は光熱費削減、クレジット収益、資産価値向上という複数の収益チャネルを客観的に評価でき、投資リスクを分散させつつ高いリターンを期待できるようになります。


第3章:事業アイデア「涼風の街」の具体的な実装ロードマップ

3.1. モデルケースの提案:老朽化団地・工業団地の再構築GX

多くの老朽化した団地や工業団地は、人口減少や企業の撤退35といった課題に直面しながら、ヒートアイランド現象の深刻化に悩まされています。個別の建物単位での改修では効果が限定的であり、包括的な再構築が求められています。

本事業構想では、工業団地をモデルケースとします。団地全体を対象とした「冷却の三位一体」システムを実装することで、工場建屋の省エネ化だけでなく、労働環境の改善2や生産性向上23といった多面的な効果を創出します。これにより、工業団地は単なる生産拠点から、環境性能とウェルネスを両立した、働く人々にとって魅力的な場所へと変貌します。工業団地全体として、再エネ・クリーンエネルギー供給などの共有インフラ31と合わせて冷却・緑化システムを構築することで、個々の企業が単独で取り組むよりも大きなスケールメリットを享受でき、GX投資を加速させることが可能です31

3.2. 政策インセンティブを逆手に取った「容積率GX」モデル

既存の建築物の改修を阻む建ぺい率・容積率の規制6は、見方を変えれば、GXを促進する強力なインセンティブとなり得ます。これは、既存の都市計画制度に存在する「容積率緩和」のロジックを応用した、ありそうでなかった「地味だが実効性のある」ソリューションです。

「GX容積率緩和制度」の提案

現行の法律には、公開空地や地下室、駐車場などを設けることで容積率を緩和する特例が存在します36。また、一部自治体では、太陽光発電パネルの水平投影面積を緑化面積とみなす取り組みも始まっています38。この既存の枠組みを応用し、以下の基準を満たす改修に対して、容積率ボーナスを付与する制度を創設します。

  • 冷却の三位一体システムの導入: 屋根・外壁への遮熱塗料、放射冷却素材、バイオ緑化の組み合わせを導入した場合。

  • 再生可能エネルギーの設置: 屋上や壁面に太陽光パネルなどを設置した場合。

これにより、デベロッパーや不動産所有者は、容積率を増やすことで新たな収益源を確保でき、初期投資のハードルが大幅に下がります。自治体にとっても、補助金に頼りきりではない、民間活力を引き出す強力な武器となり、まちづくり全体のGXを加速させることが期待できます。

3.3. ステークホルダー別のメリットとビジネスモデル

この「涼風の街」構想は、多様なステークホルダーに具体的なメリットを提供します。

  • 投資家・デベロッパー:

    • 収益性: 電力コスト削減に加え、カーボンクレジット34による新たな収益源、容積率緩和による不動産価値の向上、自然資本評価によるブランド価値向上26など、複数の収益チャネルを確保できます。

    • 資金調達: GX経済移行債5や成長志向型カーボンプライシング40といった政策的後押しを活用し、円滑な資金調達が可能です。

  • 自治体・地域住民:

    • 安全性: 都市全体の熱中症リスクが低減し、公衆衛生とQOL(生活の質)が向上します21

    • 持続可能性: 災害レジリエンスが強化されるとともに33、緑豊かな街並みが形成され、地域コミュニティの活性化27とシビックプライドの醸成につながります。

  • 建築・施工業界:

    • 事業機会: 老朽化建築ストックの改修需要を喚起し、新たな事業機会を創出します。

    • 競争力: 建築GX・DX推進事業4の補助金を活用しながら、BIMなどのデジタルツールと連携することで、新しい技術と事業モデルに関するノウハウを蓄積し、競争力を強化できます。


エピローグ:次なるGXへの飛躍と、持続可能な未来への提言

本レポートで提案した「涼風の街」構想は、単一技術の導入に留まらない、都市の熱問題と経済停滞という二つの課題を同時に解決する、システム思考に基づく創造的な事業アイデアです。遮熱、放射冷却、バイオ緑化という3つの技術を組み合わせることで、それぞれの技術の弱点を補い、相乗効果を最大化します。

そして、最も重要なのは、「GX容積率緩和制度」のように、既存の規制を転換させることで、巨額な資金を必要とする新規インフラ投資に頼らず41、既存の建築ストックという社会資産を最大限に活用した、持続可能でレジリエンスの高いまちづくりが可能になる点です。

このアプローチは、経済成長(攻めのGX)と環境配慮(守りのGX)の両立を目指す、GXの真髄を突くものであり、日本の都市が直面する課題を乗り越え、持続可能な未来を築くための強力な提言となります。

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