目次
2020年エネルギー業界の俯瞰図と解説Vol.2
-電力制度の主な施策の時系列整理(ESP加藤氏)
※本記事はエネがえるBLOGへの寄稿記事です。
前回Vo.1は【寄稿】2020年エネルギー業界図解解説Vol.1?からご覧ください。
今回はエネルギー業界で屈指のエネルギー制度・審議会などの情報収集と分析力に長け、日経エネルギーNextなどでもエネルギー政策関連記事を提供されているエネルギーアドシステムプランニング加藤さんからの寄稿。
前回記事が大好評。トップクラスの閲覧数となりました。さすが加藤さん。
特にLinkedInにシェアしたらかなり反応が良かったです。今回の記事も皆さんの周りの方に是非シェアしてくださいね。
みなさん、こんにちは!ESPの加藤です。
前回は自己紹介とエネルギー事業のおおまかな流れ、事例についてお話させていただきました。
簡単におさらいです。
①エネルギー業界は、外部要因をきっかけに政策や制度に落とし込まれビジネスが創出されている。
②非常にカオスな状態だが、時代や制度の流れを早めにキャッチアップし、先行して始めることが大事。
③ただし、時代の流れは変化するので、柔軟にシフトすることも大切。
④実は同じようなビジネスが数年おきに繰り返し起きているので、成功と失敗をよく見極め参入するとよい。?
前回記事:【寄稿】2020年エネルギー業界図解解説Vol.1(ESP加藤氏)
さて、今回から本題である電力制度についてお話を少しずつしていきます。
まず、制度をみていくにあたっての心得のようなものについてお伝えします。
と、偉そうなことをつらつら書いていますが、前回お話したように、私もきちんと電力制度・ビジネスに向き合ったのはこの数年。
2016年4月に電力小売全面自由化が始まるにあたり、色々な方々が新規参入しようとして一生懸命、調べて、聞いて、企画して、準備してといったことをしていた時期と同じ頃にあたります。
なので、私がここ数年、制度を勉強し、色々な会社さんと少しずつやり取りができるようになったコツをお教えします。
大手の電力会社や新電力、ガス会社は、企画などの部署で電力事業制度を専門的にみていて、業界内で横の連携をとり作戦立てをしたり、時に政策提言などしています。
私が東電の企画部に在籍していた時に、隣のグループの若手が、日中、ずっと国会中継を見て何やらメモを取っていたりする姿をみたこともありますが、ここまでやるのかと感じたものです。
通信会社は、総務省対応で、専門の制度渉外部門があり、その対応能力は電力を凌ぐものがあります。
では、大半の会社で電力制度を専門的に見ているかと言うと、そんなに多くはないでしょう。
経営企画のような部署があればその担当者がみていることが多いですが、他の業務との兼任とか、片手間でやっていることが多いと思います。難しそうなので、「お前やっておけ」的に、それなりに事業がわかっている方に振られるのがおちでしょう。。
まず、いきなり制度と言ってもアレルギー反応を起こしてしまうので、前提として、電気事業そのものについて基本的なことを身につけておくことは必要です。
「そもそも、電力ってどのように作られ、どのようなルートで送られ、最終消費者である私たちに届くのか」、「電気事業をするにはサプライチェーン上にどのような事業者がいて、どういった条件をクリアすれば参入できるのか」、「電気料金ってどのような構造でできていて、どうやったら利益が出るのか」等々、事業の構造や仕組みは勉強しておいてください。
また、電気事業の基本のキとなる電気事業法や小売電気事業者の営業ガイドラインはざっと目を通しておくとよいと思います。興味があれば全文しっかり読むとよいですが、ざっとどんなことが書いてあるのか、目次くらいは読んでおくことをお薦めします。
小売全面自由化が始まり、異業種を含め640者を超える方々が小売電気事業に参入していることもあり、初心者向けの書籍もけっこう出ています。最近ではYouTube動画で基礎的な話を配信している方もいるので、そうしたものを活用するのもいいでしょう。
そして、実際に事業を始めてみると、色々とルールがあることが判明します。そのルールは、毎年のように新設されたり、変更されたり、終了したりと、その動きには目まぐるしいものがあります。
私が電力制度に関わるきっかけとなったのは、上司が国の審議会のオブザーバーになったことです。
その付き添いで経産省の方から事前レクを受けたり、意見交換したり、審議会に同行して論点整理したり、議事録書いたり、社内展開したりということが続きました。
最初のうちは、よく分からず、その場しのぎで対応、審議会の傍聴も委員の言っていることがよくわからずに居眠りといったことも多々ありました。
また、国(経産省)の出す資料は、文字も分量も多く、そしてあえて難しく書いてあるのか、読んで理解するのには時間が大変かかります。
しかし、1つの審議会の話を聞いて資料を読んでいると、色々なことがわかってきます。
例えば、「これ他の委員会でも議論されていたなー」とか「この組織の議論がこの制度につながっているんだ!」とか「パブコメって毎度やっているけど、一般の意見が制度に反映されることって案外少ないなー」とか「いつの間にかこんな大事なことが審議されている!気づいてよかった!」とかとか。
なので、私の場合は、それぞれの制度の中身を把握することはもちろんなのですが、まずはどういった分野でどんな制度が動いているのか、マッピングしてみることにしました。図1をみてください。
図1:2019年~2024年:主な施策の時系列整理(2019年11月時点)
これは、昨年11月時点で作成したものなので少し古いですが、電力事業のサプライチェーンである、発電・送配電・小売の各分野で今後5年程度に何が起きるのかをプロットしたものになります。
もちろん、全てを入れるとそれこそカオスになるので主要なものにしています。
こうみると、今年、2020年度から先にたくさんの制度が動くんだなということがわかります。
今日のところは、短期間で複数の制度が検討され実行されるんだということを覚えておいてください。
次に図2をみてください。
図2:2019年~2024年:主な施策の時系列整理(取引細分化)
制度は、各審議会等で議論、決議され、法改正や省令改正、通達などにより実施に移されます。
一つの制度が実行されるまでに複数年かかる場合もありますし、ある制度が違う施策に影響を与えることもあります。
こうした縦横の関係を整理しておくと、全体像がわかり、理解も少し進みやすくなります。
ちょうど、大学受験の社会科で日本史と世界史を学ぶ際、どちらか一方だけを学んでも歴史全体の流れは把握できませんが、両方学ぶことで、同じ時代に起きたこと、海外のある事象が日本でも影響があったなど初めて理解できることと一緒だと考えています。
私が昔、東電の子会社に出向していたとき、そこの副社長からコピーを頼まれ、つまらなそうにコピーをしていたことがあるのですが、その副社長から「加藤君、ただ単にコピーを取っていやしないか。コピーを取りながら、先輩たちの作った資料に何が書いてあるのかを見て、あとで調べてみるなどしないと駄目だぞ。今すぐに理解できなくても、いつか『あの時のことはこういうことだったんだ』とわかるようになるから。」と諭されたことを思い出しましたが、それを同じことかもしれません(今は上司から言われてコピーを取ることは少なくなりましたが)。
あとは、制度一つひとつの内容を理解していくことになります。
私が心掛けているのは、「5W1H+2」での整理です。
①その制度が検討・導入されることになった背景と目的は何か。【Why?】
②その制度は具体的に何をするものなのか。【What?】
③その制度はどのように実行されるのか。【How?】
④その制度はいつから始まるのか(またはいつ終わるのか)。【When?】
⑤その制度はどのプレイヤーに関わってくるのか。【Who?】
⑥その制度はどの場で実行(取引)されるのか。【Where?】
+その制度を行うことで各事業者にどんな影響があるのか。
+他の制度との関連性はないか。
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これを実際の事業を進める部署に説明・展開して、事業上のリスク回避や新たな事業創出に繋げていくことができれば、それで役目を果たせます。
なかなか、最初は難しいことですが、「後で気づいて対応が遅れた」、「事業機会を逃した」ということがないよう、少しずつ興味を持ってもらい、まずは「見て・聞いて・まとめる」ことを始めてみてはいかがでしょうか。
それでも難しい、人が割けない、時間がない、という方は、ご相談いただければと思います。
●まとめ資料
●著者プロフィール
加藤 真一 氏(エネルギーアンドシステムプランニング・事業統括本部長)
1999年東京電力入社。オンサイト発電サービスのマイエナジーに出向し、事業立ち上げ期から撤退まで経験。
出向後は事業開発部にて新事業会社や投資先管理等に従事。2012年から丸紅にてメガソーラー開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を手掛ける。2015年からはソフトバンクで小売電気事業に係る電源調達・卸売や制度調査を行い、2019年1月より現職。現在は、企業のエネルギー調達戦略策定・実行支援や新電力向けの制度情報配信サービスを手掛けている。
今回の寄稿記事いかがでしたでしょうか?
最近、VPPとMVPの違いがやっとわかってきたエネがえるチームのわたくし樋口は、
加藤さんのことを「歩く電力ウィキペディア」と尊敬の念を込めて呼んでいます。今後の連載も楽しみですね!
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