目次
- 1 太陽光発電における影シミュレーション完全ガイド:無料でできる簡易試算の計算式付き
- 2 1. 太陽光発電における影の影響メカニズム
- 3 2. 日陰が発電量に与える影響:科学的根拠と数理モデル
- 4 3. 無料で利用できる太陽光影シミュレーションツール
- 5 4. シミュレーションソフトの比較と選定基準
- 6 5. シミュレーションの活用方法と導入効果
- 7 6. 実務で役立つシミュレーション活用テクニック
- 8 7. 日陰対策の最新技術と今後の展望
- 9 8. 住宅用・事業用における日陰ロスの相場観
- 10 9. 日陰以外の主要な発電ロス要因とその規模・計算式
- 11 10. 日陰リスク評価の推奨方針・ベストプラクティス
- 12 11. よくある質問(FAQ)
- 13 12. まとめ:発電効率を最大化する日陰対策
太陽光発電における影シミュレーション完全ガイド:無料でできる簡易試算の計算式付き
太陽光発電システムの設計・導入において「影(日陰)」の問題は見過ごせない重要要素です。パネルの一部に影がかかるだけで発電量が半減することもあり、事前の影響予測は必須といえます。本記事では、無料で利用できるシミュレーションツールから科学的な影響メカニズム、最新の対策技術まで徹底解説します。
1. 太陽光発電における影の影響メカニズム
太陽光パネル(太陽電池モジュール)は複数の太陽電池セルが直列・並列に接続された構造になっています。この構造が日陰問題の核心部分です。
直列接続の落とし穴
直列回路中の一部のセルに影がかかると、その回路全体の電流が制限され、想像以上に発電量が低下します。具体的な事例では、パネル表面の影の面積が小さくても、影のかかり方次第では出力が半分以下に落ちることもあります。
これが起こる理由は、日陰部分のセルが電流のボトルネックとなり、発電した電力がそこで消費されてしまう(熱となる)ためです。この現象によって、日陰の面積以上に発電量低下が大きくなることが科学的に確認されています。
実証実験:影の影響度
実際の実験データから影の影響を見てみましょう。大手モジュールメーカーの3.6kWシステム(240Wパネル15枚、3回路構成)での検証では:
- 影なしの場合: 2.4kWの発電
- パネル1枚に部分影: 2.3kW(約4%減)
- 一つの回路5枚すべてに影: 1.6kW(約33%減)
- 3つの回路にまたがって3枚に影: 1.1kW(約54%減)
特に注目すべきは、影響を受けたパネル枚数が少ないにもかかわらず、複数回路に影響した場合の方が発電低下が大きいという点です。これは太陽光発電システムの回路構造に起因する「影の非線形影響」を示しています。
バイパスダイオードの役割
こうした深刻な問題に対処するため、太陽電池モジュール内部には通常「バイパスダイオード」が組み込まれています。このデバイスは、部分的に影が生じたセルを迂回して電流を流すことで、影による極端な出力低下やセルの損傷(ホットスポット)を防止します。
バイパスダイオードが動作すると、影がかかったセル群(直列回路)は切り離され、他のセルによる発電だけで出力を維持しようとします。この仕組みにより、パネル全体が完全に機能停止するという最悪の事態は避けられます。
しかし、このシステムがあるとはいえ、影部分の出力は失われるため、日陰の発生自体を避けることが最善策である点に変わりはありません。バイパスダイオードは「損害を最小限に抑える」技術であり、発電ロスそのものをなくすわけではないのです。
ワンポイント解説: 太陽光パネルでは、セルが直列につながっているため、1つのセルでも影に入ると電流がストップし、回路全体の発電にブレーキがかかります。このため「パネルの端っこに少し影があるだけなのに発電量がガクッと落ちる」現象が起こります。バイパスダイオードはそのブレーキを迂回させますが、それでも影の部分の発電は失われます。したがって「影を作らない配置」が何より大切です。
2. 日陰が発電量に与える影響:科学的根拠と数理モデル
数理モデルと計算式
日陰の影響を定量化するために、専門家は日陰補正係数という概念を用います。日本産業規格JIS C 8907:2005では年間発電量推定式の中で「日陰補正係数 (K_HS)」を定義し、影による発電量低下を係数で表しています。
遠方の山や地平線による日射カットのような遠距離の遮蔽物による影はパネルを点とみなして扱い、日射量ベースでの減少率を計算します:
K_HS,m = H_s / H_f
ここでH_fは影が無い場合のある期間の日射量、H_sは影がある場合の日射量です。
一方、建物や樹木など近距離の遮蔽物による影はパネルを面として扱い、発電電力量ベースで影響を評価します:
K_HS,a = E_s / E_f
E_fは影が無い場合の発電量、E_sは影がある場合の発電量です。
このように、日陰による発電損失=1-K_HSの割合で表せます。例えば、K_HSが0.7なら発電量は30%減少することになります。
発電量予測の基本式
太陽光発電システムの年間発電量を簡易に見積もるための計算式(JIS C 8907:2005)は以下の通りです:
E = H × K × P × 365
ここでEは年間予想発電電力量 [kWh/年]、Hは日平均日射量 [kWh/m²・日]、Pは太陽電池アレイ公称出力 [kW]、Kは総合設計係数です。
このKが各種ロス要因をまとめたもので、日陰の影響も含まれています:
K = K_TD × η_inv × K_wire × K_HS × K_deg...
- K_TD: 温度補正係数
- η_inv: インバータ効率
- K_wire: 配線損失係数
- K_HS: 日陰補正係数
- K_deg: 経年劣化係数
標準的な設計指針では「日陰ができないよう設計することが通常」という前提から、新規設置時の計画では日陰補正係数は1.0(影なし)として扱うことが多くなっています。しかし、明らかに影が避けられない場合には設計者の判断でK_HSに例えば0.95(5%ロス)等の値を入れて見積もることが推奨されます。
より高度な数理モデルでは、部分影下での太陽光発電アレイの出力を正確に予測するためのアルゴリズムも開発されています。これらのモデルでは、影の影響を受けた太陽電池セルの電気的特性変化を考慮し、バイパスダイオードの動作を含めた電流・電圧特性をシミュレーションします。より精密なモデルでは、直達日射・散乱日射・反射日射の各成分を分けて計算し、影がかかった部分でも散乱光による発電を考慮することで、より現実に近い予測が可能になっています。
3. 無料で利用できる太陽光影シミュレーションツール
実際の設計では、影の影響を事前に予測するためのシミュレーションツールが不可欠です。ここでは無料で利用できる代表的なツールを紹介します。海外製品が多いため、実際の利用時には国内案件で活用できるかどうか等、ご自分で試してご判断ください。
1. PV*SOL online
PV*SOL onlineは市場をリードする太陽光シミュレーションソフトウェアPVSOLの開発者が提供する無料ツールです。基本的な入力データでPVシステムの計算が可能です。
主な特徴:
- 地図上でクリックするだけで位置情報を入力可能
- 世界中どこでもシミュレーション可能
- 豊富なモジュール・インバータデータベース
- 年間発電量、性能比、自家消費率などの結果を表示
2. NREL’s PVWatts
PVWattsは米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が提供する無料の太陽光発電シミュレーションツールです。世界中の気象データを活用した発電量予測が可能です。
主な特徴:
- シンプルで使いやすいインターフェース
- 影による損失も含めた各種損失要因を考慮可能
- 時間別の発電量データを提供
- 経済効果も簡易計算
3. SAM (System Advisor Model)
SAMはNRELが提供するより高度なシミュレーションソフトウェアです。PVWattsよりも詳細なモデリングが可能で、無料で利用できます。
主な特徴:
- 詳細な3Dシェーディング分析機能
- 自己遮蔽(Self-shading)の計算も可能
- 高度な経済性分析
- 様々な損失要因の詳細設定
使用上の注意点: SAMでは2軸追尾システムの場合、自己遮蔽は考慮されないため、必要に応じて手動で損失を設定する必要があります。
4. サンクル(Suncle)
Suncleは、住所を入力するだけで、太陽光パネルの設置費用や補助金、発電量を瞬時にシミュレーションできる無料ウェブサービスです。
主な特徴:
- Google地図と連携した屋根の日射量評価
- 簡単な操作性
- 初期検討段階での利用に最適
6. Shadowmap
Shadowmapは3D都市モデルを利用した日影シミュレーションが可能な無料ウェブサービスです。世界中の主要都市をカバーしており、建物や地形による影響を視覚的に確認できます。
主な特徴:
- インタラクティブな3Dマップ上で日影を可視化
- 任意の時間・日付での日影シミュレーション
- ウェブブラウザで手軽に利用可能
7. エネがえる
エネがえるでは、JIS C 8907:2005に基づく発電量計算式を採用しており、総合設計係数の初期値は0.85に設定されています。日陰の影響を考慮する場合、この設計係数を調整する(例:0.85→0.80など下げる)ことで、簡易的にはなりますが日陰ロスを加味した発電量推計が可能です。また、年間発電量を直接指定して、月別・時間帯別の発電量推計を自動的に算出する機能もあり、日影ロスを加味した年間発電量を直接したうえで、必要な月別・時間帯別(産業用の場合は365日時間帯別)の発電量や自家消費量、蓄電池の充放電量や導入後の経済効果を推計することができます。特に住宅用太陽光発電の概算シミュレーションには十分な精度を提供します。
参考:JIS C 8907:2005に基づく太陽光発電量推計とMETPV20日射量データの専門解説
主な特徴:
- JIS規格に基づく信頼性の高い発電量予測
- 基本設計係数の微調整による日陰影響の簡易反映
- 年間発電量を指定した月別・時間帯別の発電量パターン自動生成(産業用は、365日1時間毎の推計)
- 発電量をベースにした自家消費率や売電量の計算
- 蓄電池併設時の充放電シミュレーション
- 上記を反映した長期経済効果シミュレーション(パワコン変換効率、蓄電池PCS変換効率等の加味や電気代上昇率加味が可)
産業用エネがえるBizでは、Solar Proやi-Palsなどの専門的シミュレーションツールで算出した日陰影響を含む詳細な発電量データ(30分値または60分値)をCSVでインポートする機能も提供しており、より高精度な経済性評価が可能です。
4. シミュレーションソフトの比較と選定基準
適切なシミュレーションソフトを選ぶことは、正確な発電量予測と最適設計につながります。以下の観点から選定を行いましょう。
1. 精度と信頼性
シミュレーションの精度は実際の発電量予測において最も重要な要素です。以下の点を確認しましょう:
- 日射量データの精度: NEDOのMETPV-20やMONSOLA-20のような高精度データを使用しているか
- 影の計算モデル: 直達日射と散乱日射を分けて計算しているか
- モジュールの特性: 実際のパネル特性を反映できるか
特に重要なのは影の計算アルゴリズムです。単純に影があるかないかだけでなく、バイパスダイオードの動作や部分影の電気的影響まで考慮できるモデルがより正確です。部分影下でのPVアレイ出力を予測するには数学的モデリングが重要になります。
2. 機能の充実度
必要な機能が揃っているかをチェックしましょう:
- 3D建物モデリング: Solar Proのように建物の3Dモデルを自動作成できる機能
- 日影アニメーション: 影の動きを時間経過で確認できる機能
- 経済性計算: 発電量だけでなく、投資回収やROIも試算
- 各種レポート出力: 提案用資料としても活用できる出力機能
3. 使いやすさとサポート
- UI/UXの分かりやすさ: 直感的に操作できるインターフェース
- 日本語対応: 国内での使用を考えると重要
- 技術サポート: 問題発生時のサポート体制
- マニュアルや解説資料: 使い方を学ぶための資料の充実度
4. コストパフォーマンス
無料ツールでも基本的な機能は利用できますが、精度や機能面での制約があります:
- 無料版の機能制限: どの程度の機能が使えるのか
- 有料版との差異: 追加費用に見合う機能があるか
- トライアル利用: 有料ソフトの試用期間の有無
ワンポイント解説: 無料ツールでは「時間別影評価」機能が限定的なことが多いです。PVWattsやAurora Solarなどでは時間別の影損失入力に対応していないケースがあり、年間または月間の平均影損失として扱われます。正確な評価には、Ladybug Toolsのようなオープンソースソフトウェアと組み合わせるなどの工夫も検討すべきです。住宅用太陽光発電であれば、エネがえるのようなツールでJIS基準の設計係数を調整することで、簡易的ながらも十分な精度の日陰ロス評価が可能です。
5. シミュレーションの活用方法と導入効果
1. 設計段階での活用
設計段階でシミュレーションを活用することで、以下のメリットが得られます:
- 最適なパネル配置の決定: 影の影響を最小限に抑えるレイアウト設計
- 発電量の正確な予測: 年間を通じた発電量変動の予測
- 経済性の事前評価: 投資回収期間やROIの算出
- 影対策の効果検証: 様々な対策案のシミュレーション比較
例えば、Solar Proではモジュール単位での影の影響を考慮した正確なシミュレーションが可能で、平置きや壁面設置などの配置方法や、追尾型やメガソーラーなどのシステムに幅広く対応しています。
住宅用太陽光発電の場合、厳密な影シミュレーションが必要ない状況も多く、エネがえるのようなツールでJIS発電量計算式の総合設計係数を調整することで、簡易的ながら十分な精度の経済性評価が可能です。特に初期検討やラフプランニングの段階では、複雑なシミュレーションよりも、設計係数を調整した簡易計算の方が作業効率の面で優れています。
2. 提案・営業活動での活用
シミュレーション結果を提案時に活用することで、説得力ある提案が可能になります:
- 視覚的な説明資料: 日影図やアニメーションによる分かりやすい説明
- 根拠のある発電量予測: 科学的根拠に基づいた予測値の提示
- 複数プランの比較: 様々な設置案の比較提示
i-Palsのような太陽光発電システムのシミュレーション・提案業務を効率化するソフトウェアを使えば、ボタン一つで日影図の作成や自家消費や蓄電池のシミュレーションが可能です。
産業用非FIT自家消費型太陽光と蓄電池の提案では、エネがえるBizを活用することで、クロージングまでの時間が1/2〜1/3に短縮された事例もあります。特に影シミュレーションによる発電量予測と経済効果を組み合わせた提案は顧客の理解を促進します。エネがえるBizでは、JISの基本設計係数を調整したり年間発電量を直接指定したりすることで、日陰の影響を加味した経済性評価が可能です。またSolarProやi-Palsで日影を加味した発電量を計算してCSVインポートする機能もあり、官公庁自治体での自家消費試算や大手EPC、大手不動産、大手商社、大手太陽光・蓄電池メーカーでも多数エネがえるBizが導入されています。
3. 運用後の検証・改善
設置後もシミュレーションを活用することで、継続的な改善が可能になります:
- 実績値との乖離分析: 予測と実績の差の原因特定
- 異常検知: 期待値よりも発電量が低い場合の原因究明
- 改善策の検討: パネル配置や清掃計画などの最適化
エネがえるを使うと推計した発電量を基準にしたシミュレーション保証をオプションで使えます。これによりシミュレーションした発電量と実績値に一定以上の差分が出た際に需要家に対して金銭的に補償をすることが可能です。
エネがえる 太陽光発電量を基準とした経済効果シミュレーション保証サービス(オプション)サービス資料
6. 実務で役立つシミュレーション活用テクニック
1. ツール不要の簡易試算法
専門的なシミュレーションソフトがなくても、現場で日陰の影響を概算するための実用的な方法があります。
影の大きさ・角度からおおまかに評価
基本は「遮蔽物の高さと距離から太陽高度との関係をみる」ことです。
遮蔽物仰角 = arctan(高さ÷距離)
例えば障害物が高さ10m、パネルからの距離が20mの場合:
遮蔽物仰角 = arctan(10÷20) = arctan(0.5) ≈ 26.6°
この仰角と太陽高度を比較することで、影の影響を評価できます。東京付近(北緯35度)では、真南に向けたパネルに対し冬至の正午で約30°前後、夏至なら約78°程度になります。
したがって、この例では冬至の日には日中でも太陽高度が26.6°を下回る時間帯(朝夕)に影がかかると予測できます。
Excelによる簡易シミュレーション
Excelを使って太陽の位置計算を自動化し、より精度の高い予測が可能です:
- 日時から太陽赤緯と時角を求める
- 緯度と組み合わせて高度角を算出
- 遮蔽物の方位・仰角データと比較
- 各時間ごとに「直射日光が遮られるか否か」を判定
- 時間別日射量データと掛け合わせて影響を試算
簡易係数による目安算定
現場では「影のかかる時間割合×発電量」でおおまかなロスを掴む方法も使われます:
影のかかる時間割合 = (影響時間×影響月数)/(日照可能時間×12か月)
例えば「冬場は朝9時まで隣家の陰、夏は影なし」と見積もれば、年間で影の影響時間が約(3時間×冬の月数)/(日照可能時間×12か月)の割合から、年間発電量の○%ロスと推計します。
さらに、影に入っても散乱光である程度発電する点を考慮し、影の間も20~30%程度は発電する(薄い影ならもっと発電)と仮定して補正します。
また、エネがえるでは、JIS C 8907:2005に基づく発電量計算式を採用しており、基本設計係数(初期値0.85)を調整することで日陰の影響を簡易的に反映できます。例えば、影による損失が5%程度と推定される場合、基本設計係数を0.85から0.81(0.85×0.95)に調整することで、概算にはなりますが日陰の影響を加味した発電量予測が可能です。この方法は特に住宅用太陽光発電において、高度なシミュレーションを行わなくても十分な精度が得られるケースが多く、初期検討や提案段階で有効です。
ワンポイント解説: 高度な日射シミュレーションが難しい場合でも、影が何時間発生するかとその時間帯の日射の強さを考えれば、おおまかな影響度を計算できます。現場では”朝夕1時間ずつ影”なら年間○%ロスというざっくり計算法も使われています。ただし影の濃さ(薄い影か完全な影か)で発電への影響も異なるため、慣れや安全率をもって評価します。住宅用太陽光発電では、エネがえるを使ってJIS発電量計算式の総合設計係数を調整する、または年間発電量を直接指定するなどの簡易法で、概算には十分な精度が得られます。
2. 高精度シミュレーションの基本手順
より精度の高いシミュレーションを行うための基本手順を紹介します:
位置・方位・傾斜角の設定
- システムの地理的位置(緯度・経度)
- パネルの方位角と傾斜角
- 設置面の形状データ
気象データの選択
- NEDOのMETPV-20やMONSOLA-20などの高精度データ
- 直達日射・散乱日射の時間別データ
- 地域の気温・風速データ
周辺環境のモデリング
- 建物や樹木などの3Dモデル作成
- 地形データの取り込み
- 将来的な環境変化の予測
システム構成の設定
- パネル・インバータの選定とその特性
- 回路構成(ストリング・MPPT)
- バイパスダイオードの配置
日影シミュレーション
- 時間別・季節別の日影状況
- 直達光と散乱光の分離計算
- バイパスダイオードの影響考慮
発電量計算と検証
- 日射変換効率の計算
- 温度や配線ロスなど他要因の考慮
- 過去実績データとの比較検証
3. 影を考慮した最適設計のポイント
太陽光発電システムの設計において影を考慮する際の重要なポイントです:
- 影を徹底的に避ける設計思想: 可能な限り日陰要因を排除する工夫が最優先
- 影に強いハードウェアの活用: マイクロインバータやパワーオプティマイザなどで影響を局所化
- 回路設計の工夫: 影の影響を受けやすい部分と受けにくい部分で系統を分離
- 定期メンテナンスの計画: 清掃や点検の頻度・方法を事前に設定
また、壁面太陽光パネル設置のような特殊なケースでは、通常の屋根設置と比べて影の影響を受けやすいため、より綿密なシミュレーションが必要です。
7. 日陰対策の最新技術と今後の展望
1. 影に強いモジュール技術
ハーフカットセル: セルを半分に分割することで、一部陰影時でも非影部で発電を継続しやすくなります。従来品より出力低下を緩和できる特徴があります。
九分割セル: さらに細かく分割することで、影の影響をより局所化します。小さな影による全体への影響を最小化します。
2. スマート最適化技術
マイクロインバータ: 各パネルごとに独立したインバータを設置することで、影がかかったパネルだけ出力低下する構成にできます。他のパネルへの影響を遮断できる利点があります。
パワーオプティマイザ: パネルごとに最大出力点追従を行い、影の影響を局所化します。従来型の一括ストリング方式より効率的に発電できます。
AIによる発電予測・制御: 気象予測と組み合わせた発電予測と最適制御が可能になります。過去の実績データから学習し、より精度の高い予測と制御を実現します。
3. シミュレーション技術の進化
高解像度3Dモデリング: ドローンなどを活用した周辺環境の詳細なモデリングが可能になっています。数cmレベルの精度で建物や樹木をモデル化できます。
リアルタイムシミュレーション: 実際の気象条件に基づいたリアルタイム予測が可能になりつつあります。刻々と変化する条件に合わせた即時予測ができます。
AR/VRを活用した可視化: 拡張現実や仮想現実を活用した影響の可視化技術も登場しています。現場での直感的な理解を助けるツールとして注目されています。現場で太陽光パネル設置後の日陰状況をARゴーグルで確認できるサービスも実用化されつつあります。
機械学習による予測精度向上: 膨大な実測データとシミュレーション結果を機械学習アルゴリズムで分析し、予測精度を向上させる取り組みが進んでいます。Googleが機械学習をベースに開発した太陽光発電シミュレーション技術では、住所情報のみから屋根の方角、形、傾き、影の状況等を考慮して発電量を予測できるようになっています。
8. 住宅用・事業用における日陰ロスの相場観
太陽光発電システムの種類や設置状況によって、日陰による発電ロスの平均的な値には一定の傾向があります。
一般的な数値の目安
住宅用システム: 5~10%程度のロスが生じるケースが少なくありません。特に住宅街では朝夕に隣家の影が屋根にかかることが多いです。
産業用・事業用システム: 設計段階で徹底的に日陰対策(間隔確保や伐採等)を行うため、日陰ロスはゼロ~数%程度に抑えられるのが通常です。NEDOのフィールドテストによる69サイトの実測データでも、日陰損失は平均約5%と見積もられています。
極端なケース: 樹木などで冬季ほとんど日当たりが無いような劣悪条件では発電量が半減近くになることもあります(北向き屋根で冬は終日日陰などの場合)。
季節変動の傾向
日陰によるロスは季節によって影響度が変わる点にも注意が必要です:
夏季: 太陽高度が高いため地上物による影はできにくい反面、真上に近い日射が多いので一旦影ができると直射成分が強い分ロスも大きくなります。
冬季: 太陽高度が低く長い影が生じやすいものの、もともとの日射強度や時間が少ないため、影によるロス割合は意外と小さく年トータルでは夏季より影響が小さいこともあります。
ある試算では、年間平均で日陰等も含めた総合損失15%のシステムにおいて、季節別では夏20%、冬10%の損失割合になるという報告があります。「夏の影は発電ロス大きめ、冬の影は発電量自体少ないので影響小さめ」と覚えておくと設計の勘所になります。
地域性による差異
- 都市部: 建物による日陰リスクが高くロスも大きめになる傾向があります。
- 農村部・工業団地: 周囲が開けていてロスが小さい傾向があります。
- 北日本: 冬季の太陽高度が特に低いため建物影が伸びやすく、また積雪によるパネル日陰(覆雪)リスクも大きくなります。
- 南日本: 太陽高度が高く比較的影が生じにくい特徴があります。
様々な地域での太陽光・蓄電池導入シミュレーションを行うなら、エネがえるの経済効果シミュレーターが便利です。全国700社以上のエネルギー事業者に展開されており、地域特性を考慮した精度の高い試算が可能です。
住宅用太陽光発電の場合、エネがえるではJIS C 8907:2005発電量計算式を採用しており、基本設計係数の初期値0.85を適宜調整することで日陰ロスを加味した計算が可能です。例えば日陰による影響が8%と想定される場合、基本設計係数を0.85から0.782(0.85×0.92)に調整することで簡易的に反映できます。特に住宅用では複雑なシミュレーションよりも、この簡易法で十分な精度が得られるケースが多く、概算検討に最適です。
また産業用エネがえるBizでは、Solar Proやi-Palsなどの専門的シミュレーションツールで計算した日陰影響を含む詳細な発電量データ(30分値または60分値)をCSVでインポートする機能も提供しており、精密な日影シミュレーション結果に基づいた経済性評価、自家消費率試算、蓄電池併設効果の分析、長期収支・投資回収期間の算出など、高度な経済性評価が簡単に実施できます。
9. 日陰以外の主要な発電ロス要因とその規模・計算式
太陽光発電システムには日陰以外にも様々なロス要因があります。主なものを紹介します:
1. パワーコンディショナ(インバータ)損失
パネルから得た直流電力を交流に変換する際のロスです。
- 典型値: 約2~5%(変換効率95~98%)
- 計算式: ロス係数 = 1 – η(変換効率)
- 実測値: NEDOデータでは平均7%程度(待機損失やMPPT効率低下含む)
2. 温度による出力低下
太陽電池はセル温度が高くなると出力が下がります。
- 温度係数: -0.3~-0.5%/℃(シリコン系)
- 計算式: P = P_STC×[1 + β×(T_cell – 25℃)] (β:温度係数、P_STC:標準試験条件での出力)
- 実影響: 年平均で約15%の発電量が温度上昇により失われるという試算も
3. 配線・回路の電気抵抗損失
パネルとパワコン、パワコンと受電点を結ぶケーブルでの抵抗損です。
- 典型値: 1~3%程度
- 計算式: P_loss = I²R(I:電流、R:配線抵抗)
- 対策: 配線太さを上げる(抵抗を下げる)ことでロス低減可能
4. 受光角度による損失(反射ロス)
太陽光がパネル面に斜めに当たると一部が反射してセルに届かないロスです。
- 典型値: 年間平均で3%程度
- 特徴: 日射入射角が大きい朝夕ほどロス大
- 補正: IAM(入射角補正係数)曲線で補正
5. 経年劣化
パネルの性能は経年で徐々に低下します。
- 初期低下: 初年度に2~3%(光照射による出力初期低下/LID)
- 年次劣化: 年0.3~0.7%程度
- 長期影響: 20年稼働で合計10~15%程度の出力低下
6. 汚れ・埃(ソイリング)による損失
パネル表面の汚染は常時薄い日陰を作るのと同じ効果があります。
- 典型値: 数%規模
- 地域差: 乾燥地域や海岸地域では影響大
- 対策: 定期的な雨である程度洗い流されるが、清掃も重要
総合的なロス
以上をまとめると、主要ロス要因のランキングは概ね:
- 温度ロス: 数%~15%
- インバータ効率: 5~7%
- 日陰損失: 0~10%(立地次第)
- 汚れ: 数%
- 反射損失: 3%程度
- 配線損失: 1~3%
- 経年劣化: 累積的に増加
設計時にはこれらを踏まえ、総合損失係数Kとして0.7~0.8程度(逆に言えば20~30%ロス)を乗じて年間発電量を見積もることが一般的です。エネがえるでは、これらすべての要素を含むJIS C 8907:2005に基づく発電量計算式を採用しており、総合設計係数の初期値は0.85に設定されています。実際のプロジェクトでは、これらの損失要因の影響度を個別に評価し、適切な設計係数に調整することで、より正確な発電量予測と経済効果の試算が可能です。
特に複数の損失要因が関連する場合(例えば日陰と温度、汚れと反射角度など)、個々の要因を別々に評価するよりも、総合設計係数として一括で調整するほうが現実的なケースも多いです。エネがえるでは各種パラメータを柔軟に調整できるため、シミュレーション結果と実測値の差分を分析し、設計係数をチューニングすることで、より精度の高い予測モデルを構築できます。
ワンポイント解説: カタログ値どおりに発電しないのは、「影があるから発電しない」のではなく「影がなくても様々な損失がある」ためです。太陽光発電の性能を表す指標に「性能比(PR, Performance Ratio)」がありますが、理想=100%に対して普通は80%前後です。これは20%分が上述のロスで失われていることを意味します。影のロスはこの中の一つに過ぎませんが、影は人間の工夫でゼロにもできる特殊なロスと言えます。エネがえるのようなシミュレーションツールを使えば、これらの損失要因を考慮した上で、より現実的な発電量予測と経済性評価が可能になります。
10. 日陰リスク評価の推奨方針・ベストプラクティス
太陽光発電システムにおける日陰リスクの評価と発電量見積もりに関するベストプラクティスをまとめます。
1. 影の有無を最優先で確認・対策
設置計画段階で、まず年間を通じて影が生じないかを入念にチェックします。現地調査では方位・高度ごとに潜在的な遮蔽物(建物、樹木、地形)を洗い出し、影が予想される場合は設置位置や角度の修正、障害物の処理などを検討します。
特に冬至時期の朝夕や、将来的に建ちそうな建造物も想定に入れて「影ゼロ化」できるのがベストです。どうしても解消できない影については、「○時~○時にパネル列○が影」と特定し、次のステップで定量評価します。
2. 影の影響度を定量的に評価
回避不能な影がある場合、その影響を発電量シミュレーションに織り込んで評価します。簡易には経験に基づく補正係数を適用し、詳細には専用ソフトで時間別・季節別の日影シミュレーションを行います。
評価時は悲観的すぎず楽観的すぎず、妥当な係数設定を心掛けます。例えば「午前中ずっと影」なら大きめのロス、「夏の正午に一瞬影」なら極小のロス、といったケースバイケースの知見を反映します。
この評価結果は必ず発電量見積書や提案資料に明記し、発注者と共有しておくことが望ましいです。後々「思ったより発電しない」といったトラブルを防ぐ意味でも、影による減少見込みを透明化します。
住宅用太陽光発電の場合、エネがえるのようなJIS C 8907:2005発電量計算式をベースとしたシミュレーションツールを活用することで、総合設計係数の調整を通じて日陰の影響を簡易的に反映できます。例えば、影による発電量減少が7%と推定される場合、総合設計係数の初期値0.85を0.79(0.85×0.93)に調整することで、概算にはなりますが日陰の影響を加味した発電量予測が可能です。この手法は特に初期検討段階や、複雑な影の影響が少ない一般的な住宅用システムにおいて効率的です。
3. 影に強いシステム設計を採用
避けられない影があると判明したら、その影響を最小化するよう機器選定・配線計画を工夫します:
- 影がかかるパネルだけ別系統のMPPTに接続
- 影部分にオプティマイザを付加
- 部分影に強いパネル(CIS系等)を使用
多少のコスト増にはなりますが、長期の発電ロスを考えれば有効な投資です。特に住宅などでは屋根形状的に影を完全になくせないケースも多いため、影対策機器の導入は近年一般的になっています。
4. 運用時の監視とケア
稼働後も定期的に発電データを監視し、影の影響が拡大していないか注意します。樹木の生長などで年々影が広がる可能性もあります。その際は早めに剪定交渉を行うなど手を打ちます。
パネルの汚れについても、年間1~2回の清掃や点検を実施し、汚れによる”影”を除去します。雪国では冬季のパネル雪下ろしも検討します(人件費との兼ね合いですが、融雪装置や撥水コート等の手段もあります)。
5. 影リスクを織り込んだ経済評価
最後に、発電量評価だけでなく経済性評価にも影のリスクを反映させます。例えば、影による年間◯%発電量減少が予想されるなら、その分売電収入が減ることを収支計画に織り込みます。場合によっては影を避けるためにパネル枚数を減らす決断もありえます。
影がある状態で無理に設置容量を増やすより、影を避けてやや容量控えめでも効率よく発電する方が投資効率が良いこともあります。特に住宅用では余剰買取だったり自家消費だったりするため、発電ロス分の経済効果も精査しましょう。
エネがえるのような経済効果シミュレーションツールを活用することで、日陰影響を考慮した上での発電量予測、自家消費率、電気代削減効果、売電収入、投資回収期間などを総合的に評価できます。産業用エネがえるBizでは、さらに専門的な日影シミュレーションで計算した30分値・60分値の発電量データをCSVでインポートし、より精度の高い経済性評価、長期収支分析、投資判断のための資料作成が可能です。
11. よくある質問(FAQ)
Q1: 太陽光パネルの一部に影がかかるだけでも発電量は大きく下がりますか?
A1: はい、パネルの構造によっては一部に影がかかるだけでも大きく発電量が低下することがあります。実験データによると、パネル1枚の一部に影をかけた場合は約4%の発電量低下に留まりますが、一つの回路内の複数パネルに影がかかると約33%、複数回路にまたがって影がかかると約54%もの発電低下が生じることがあります。これは太陽電池セルの直列接続構造が原因です。
Q2: 無料のシミュレーションツールでどこまで正確な予測ができますか?
A2: 無料のシミュレーションツールでも基本的な発電量予測は可能ですが、PV*SOL onlineのような専門ツールのほうが精度は高くなります。無料ツールでは、気象データの精度、影計算のアルゴリズム、パネルやインバータの詳細モデルなどが制限される場合があります。精度を求める場合は、Solar Proのようなプロフェッショナル向けのソフトを検討することをお勧めします。
住宅用太陽光発電であれば、エネがえるのようなツールでJIS C 8907:2005に基づく発電量計算式を利用し、設計係数を適切に調整することで、簡易的ながらも十分な精度の予測が可能です。複雑な建物形状や特殊な設置条件がない場合、この簡易法で5~10%程度の誤差範囲におさまることも多いです。
Q3: 日陰による発電量低下を防ぐ最も効果的な方法は何ですか?
A3: 最も効果的な対策は「影をそもそも作らない」ことです。設置場所や角度を工夫して影を避けるのが基本です。それが難しい場合は、マイクロインバータやパワーオプティマイザなどの「影に強いシステム構成」を採用したり、CIS系パネルやハーフカットセルなどの「影に強いパネル」を選定したりすることが効果的です。
Q4: 日陰シミュレーションと実際の発電量にはどれくらいの誤差がありますか?
A4: シミュレーションの精度は使用するソフトや入力データの質に大きく依存します。高精度なソフトや詳細なデータを使用すれば、年間誤差は5〜10%程度に抑えられることが多いです。ただし、予期せぬ影の発生や気象条件の変化によって、実際の発電量は予測値から乖離することもあります。
エネがえるのようなJIS計算式ベースのツールを使用した場合でも、適切に設計係数を調整すれば概ね10%以内の誤差に収めることが可能です。特に住宅用太陽光発電では、太陽光パネルメーカーが提示する標準的な年間発電量予測値との差は、多くの場合5~8%程度に収まるという報告もあります。
Q5: 屋根の形状や向きが複雑な場合、どのようにシミュレーションすればよいですか?
A5: Solar Proのようなソフトでは、平置きや壁面設置など様々な配置方法に対応しており、入り組んだ設置場所を想定したシミュレーションも可能です。屋根形状が複雑な場合は、まず正確な3Dモデルを作成し、その上でパネルの配置や向きを調整しながらシミュレーションを行うのが効果的です。i-Palsでは、豊富な作図ツールを駆使し、野立てや屋根設置でも柔軟に対応できるとされています。
複雑な形状の屋根の場合でも、エネがえるでは複数の方位角と傾斜角の組み合わせで屋根を分割して設定することが可能です。各セクションの容量配分と年間発電量を個別に設定することで、複雑な屋根形状にも対応できます。その後、月別・時間帯別の発電パターンを自動生成し、自家消費率や蓄電池の充放電シミュレーションを行うことができます。
Q6: 影のシミュレーションと経済効果の計算を一括で行えるツールはありますか?
A6: はい、太陽光発電の影シミュレーションと経済効果計算を一括で行えるツールがいくつかあります。例えば「エネがえる」は太陽光・蓄電池・EV・V2Hの経済効果シミュレーターとして国内700社以上のエネルギー事業者に展開されています。システム全体の経済性を考慮した提案が可能です。
住宅用太陽光発電の場合、エネがえるではJIS C 8907:2005発電量計算式の総合設計係数を調整することで、簡易的ながら日陰の影響を加味した経済効果シミュレーションが可能です。年間発電量を直接指定することもでき、月別・時間帯別の発電量パターンを自動生成した上で、自家消費率や売電量、蓄電池の充放電パターンとその経済効果までを一括でシミュレーションできます。
一方、産業用エネがえるBizでは、Solar Proやi-Palsなどの専門的シミュレーションツールで計算した日陰影響を含む詳細な発電量データ(30分値または60分値)をCSVでインポートする機能も提供しており、より高精度な経済性評価、自家消費率試算、蓄電池併設効果の分析、長期収支・投資回収期間の算出などが簡単に実施できます。
Q7: JIS発電量計算式を使う場合、日陰の影響をどう反映させるべきですか?
A7: JIS C 8907:2005の発電量計算式を使用する場合、日陰の影響は総合設計係数K内の日陰補正係数K_HSで反映させます。標準的には日陰がない場合K_HS=1.0ですが、日陰の影響が想定される場合は適切に値を下げて調整します。例えば5%の発電ロスが想定される場合はK_HS=0.95、10%のロスなら0.9のように設定します。
エネがえるでは総合設計係数の初期値は0.85に設定されていますが、日陰の影響を加味する場合は、推定される日陰ロス率(%)に応じて総合設計係数を比例的に調整します。例えば8%の日陰ロスが予想される場合、0.85×(1-0.08)=約0.782に総合設計係数を調整することで、簡易的に日陰の影響を反映できます。
住宅用太陽光発電であれば、この簡易法で十分な精度が得られるケースが多く、特に初期検討段階では効率的です。より高精度な予測が必要な場合や産業用・事業用の大規模システムでは、専門的な日影シミュレーションと組み合わせることをお勧めします。
12. まとめ:発電効率を最大化する日陰対策
太陽光発電システムにおける日陰問題は、単なる「光が当たらないから発電しない」という単純な現象ではありません。セルの直列構造とバイパスダイオードの特性から、部分的な影でも発電量に大きな影響を及ぼします。このメカニズムを理解することが、効果的な対策の第一歩となります。
最も効果的な対策は**「影をそもそも作らない」**ことですが、住宅用システムや既存環境への設置では完全に避けられないケースも多くあります。そうした場合に重要なのは以下の3つの視点です:
1. 影の影響を正確に予測・評価する
- 発電量への影響を過大評価も過小評価もせず、科学的に評価する
- 簡易手法から精密シミュレーションまで、状況に応じた適切な手法を選ぶ
- 季節変動や時間帯特性も考慮した影響評価を行う
JIS C 8907:2005発電量計算式を基準としたエネがえるのようなツールでは、総合設計係数(初期値0.85)を適切に調整することで、簡易的ながら日陰の影響を加味した発電量予測が可能です。住宅用太陽光発電の場合、この手法で十分な精度が得られるケースが多いです。より高精度な予測が必要な産業用・事業用システムでは、専門的な日影シミュレーションを活用し、その結果をCSVデータとしてエネがえるBizにインポートすることで、詳細な経済効果分析が可能になっています。
2. 影に強いシステム設計を採用する
- マイクロインバータやパワーオプティマイザなどの部分影対策技術を活用する
- 影の影響を受けにくいモジュール(CIS系や分割セル構造など)を選定する
- 影がかかる部分と影のない部分で系統を分離するなど、配線設計を工夫する
3. 運用段階でも継続的に日陰管理を行う
- 定期的な点検・清掃で汚れによる発電ロスを低減する
- 樹木の成長や周辺環境の変化による新たな影を監視する
- 異常な発電低下がないか発電データを継続的にモニタリングする
これらの取り組みを総合的に実施することで、日陰によるロスを最小限に抑え、システムの発電効率を最大化することができます。設計段階で影をゼロにできない場合でも、予測と対策を組み合わせることで十分な発電量を確保できます。
日陰だけでなく温度上昇やインバータ効率、配線損失といった他のロス要因も含めた総合的な視点が重要です。太陽光発電の性能を示す「性能比(PR)」は、理想値の100%に対して実際は80%前後というのが一般的です。この20%のロスの中で、日陰は工夫次第でゼロにできる特殊なファクターです。システム全体の効率を高める視点で、最適な設計・運用を目指しましょう。
太陽光発電は今後も再生可能エネルギーの主力として普及が進みます。設置環境の制約が厳しくなる中、日陰対策技術の重要性はますます高まっていくでしょう。無料のシミュレーションツールを活用しながら、科学的アプローチで最適な太陽光発電システムを実現していきましょう。
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