目次
JIS C 8907:2005に基づく太陽光発電量推計とMETPV20日射量データの専門解説
【10秒で読める要約】
日本の太陽光発電システムの発電量推計は「JIS C 8907:2005」規格に基づいています。その核心は「Ep = K’ × K × P × H ÷ G」という推計式で、基本設計係数(K’)と温度補正係数(K)が重要です。K’は通常0.75~0.85の範囲で、システム効率を示し、Kは季節や素材による温度影響を補正します。NEDOのMETPV-20日射量データベースを活用することで、予測精度が向上します。実務では影・汚れ・積雪などJIS式に含まれない要因も考慮する必要があります。
参考:エネがえるの太陽光発電量算出の根拠は? | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え)
JIS発電量推計式(Ep式)の詳細解説
JIS C 8907:2005「太陽光発電システムの発電電力量推定方法」は、日本国内の太陽光発電システムの年間発電量を標準的に推定するための規格です。日本の気候条件や典型的な設置環境を考慮して策定されており、国内での性能評価に特に適した信頼性の高い手法を提供しています。
JIS C 8907では、太陽光発電システムの仕様・設置場所の確認から、気象データの取得、各種補正係数の算出、月別および年間発電量の推定に至るまで、系統立った手順が定められています。
その中核となる推計式がEp式と呼ばれるものです。Ep式は太陽光発電システムの発電量(エネルギー量)を推定する基本式であり、以下のように表されます:
Ep = K' × K × P × H ÷ G
ここで各項目の意味は次の通りです:
Ep(推定発電電力量)
推定される発電電力量です。期間あたりのエネルギー、例えば時間別発電量なら1時間あたりの発電量、月間発電量なら1か月の総発電量を指します。用途に応じて「時間別」「月別」「年間」など集計期間を設定できます。JISでは通常、月別の発電電力量EPmを算出し、それを合計して年間発電量EPyを求めます。Ep式はその基礎となる計算で、時間分解シミュレーションにも応用可能です。
K’(基本設計係数)
基本設計係数です。太陽電池モジュールやシステムの基本性能を表す無次元係数で、温度要因を除く設計上の損失・効率をまとめたものです。詳細は後述しますが、モジュールの経年劣化や配線損失、インバータ効率など複数の要素を乗じて算出されます。JIS推奨値はおよそ0.7562(結晶系・系統連系形の場合)で、理論上の上限は1.0ですが実用上は0.99程度が最大値です。エネルギーシミュレータ「エネがえる」では初期値0.85が設定されています。
K(温度補正係数)
温度補正係数です。モジュール温度による出力変化を補正する無次元係数で、後述の温度補正係数(KPT)に相当します。太陽電池の種類(素材)ごとの最大出力温度係数(%/℃)と、モジュール設置形態による温度上昇量に基づき算定されます。標準状態(25℃)からの温度差に応じて1未満の値となることが多く、夏季などモジュール温度が高いほど出力低下を補正するため小さくなります。
P(太陽電池アレイ出力)
太陽電池アレイ出力です。太陽電池モジュールの公称出力と枚数から得られるシステムの直流公称出力値(kW)を指します。JISではこれを**PAS(標準太陽電池アレイ出力)**とも呼び、標準試験条件(STC)におけるモジュール1枚あたり出力PMSにモジュール枚数nを乗じて算出します。例えば、300Wのパネルを10枚接続した場合 P = 0.3kW×10 = 3kW となります。
H(日射量)
日射量(積算日射エネルギー)です。設置地点・傾斜角・方位角に対応する単位面積当たりの日射エネルギー量を表します。期間に応じて日積算傾斜面日射量(kWh/m²/日)や月積算傾斜面日射量(kWh/m²/月)などを用います。例えば月間発電量を推定する場合、その月のモジュール面への総日射量 HAm を使用します。JIS規格制定当時はCD-ROM収録の気象データから取得するとされましたが、現在ではNEDOや気象協会の公開データベースからオンラインで得るのが一般的です。
G(標準日射強度)
標準日射強度です。標準試験条件(STC)における基準日射強度として 1 kW/m² (1000W/m²)という定数を用います。式中でH (kWh/m²)に乗じるP (kW)から発電量(kWh)を得るには、この標準日射強度で割ることで単位整合を取ります。簡単に言えば、1kW/m²を基準に「どれだけの日射があったか」に比例して発電量を計算するための項目です(実質的には単位変換の役割)。
以上の式によって、**理想的な発電量(P×H)**に対し、システム設計上の損失係数K’と温度による損失係数Kを順次掛け合わせることで、実際の発電電力量Epを推計します。JIS C 8907では、このEp式を用いて各月の発電量EPmを求め(Kは月別に算出)、その総和を年間発電量EPyと定義しています。
適用範囲として、システム容量1kW以上・開放電圧750V以下の系統連系形・独立形システムが対象であり、結晶系シリコン太陽電池を主な想定としています。日射量・温度・システム効率・各種損失など主要因を考慮した包括的なモデルであり、日本全国どの地域でもこの手法で標準的な年間発電量を算定することが可能です。
ただしシミュレーションの適用範囲として留意すべき点もあります。Ep式自体は平均的な気象条件下での長期平均的な発電量を求めるための式であり、瞬時の出力や逐次の電力変動を精密に予測するものではありません。したがって、日射の急変動や出力制御(PCSの出力制限)など短時間スケールの挙動はこの式には含まれていません。また、JIS推計式には影や積雪による発電低下、計画外の停止、出力抑制、灰や汚れの影響等は織り込まれておらず、そうした要因は別途考慮する必要があります。この推計式は、遮蔽物のない開けた環境で太陽電池が設置され、標準的なメンテナンスが行われる場合の理想化された年間エネルギー評価と理解するとよいでしょう。
初心者向けワンポイントレッスン:Ep式のイメージ
難しい数式に見えますが、Ep式の基本的な考え方は「太陽光パネルの容量 × 日射エネルギー量 × 各種効率」で発電量を求めているだけです。仮に太陽光がたっぷり降り注ぎ(Hが大きい)で損失がなければ(K’=K=1)、発電量Epはパネル容量Pと日射量Hの積に等しくなります。しかし実際には配線ロスや機器効率、パネル温度上昇による性能低下があるため、それらをまとめた係数K’やKで理想値から差し引いているのです。例えば:「4kWの太陽光システムに夏の強い日射が1日5kWh/m²当たった場合」を考えます。理想状態なら4kW×5kWh/m²=20kWhの発電ですが、システムロスや高温による5割程度の効率低下があるとすれば、20×0.5=10kWh程度の発電量になる、というイメージです。Ep式はこれを定量的に計算する公式と言えます。
基本設計係数(K’)の解説
基本設計係数(K’)は、太陽光発電システムにおける温度以外の設計上の損失要因を総合して表す係数です。言い換えれば、「モジュール温度が標準条件(25℃)の場合における、システム全体の性能ロスをひとまとめにした効率」と考えることができます。K’が1.0であれば理論上損失ゼロ・100%の性能を示し、例えばK’=0.80であれば20%程度の発電ロスが設計上見込まれることを意味します。
JIS C 8907では、K’を以下の要素の積によって算出します:
K' = KHD × KPD × KPA × KPM × ηINO
それぞれの項目は次の通り定義されています:
KHD(日射量年変動補正係数)
日射量年変動補正係数 – 年ごとの日射量の自然変動による影響を見込む係数です。JIS推奨値は0.97で、10年に1度程度訪れる日射量の低い年を想定してやや減少させています。長期平均ではなくやや保守的な値となっており、例えば平均的な年を前提にする場合は1.00と置くケースもあります。
KPD(経時変化補正係数)
経時変化補正係数 – 太陽電池モジュールの経年劣化による出力低下を見込む係数です。結晶系シリコンモジュールの場合、JIS推奨値は0.95で、約10年間の使用による性能低下を平均的に5%程度見込んだ値です。実際の劣化率はメーカー保証値で0.5%/年程度が一般的ですが、初年度の初期劣化を含め10年で5%減少とする考え方になります。なお、設計寿命を20年・30年と取る場合はさらに低い係数とするなど、ケースに応じて調整します。
KPA(アレイ回路補正係数)
アレイ回路補正係数 – 太陽電池アレイ内部の配線抵抗損失やダイオード等の保護素子による電圧降下損失を見込む係数です。JIS推奨値は0.97で、通常の配線設計における損失(3%程度)を見込んだものです。配線が長い、大電流によるケーブル発熱が大きい、といった場合にはこの値をやや低め(損失大きめ)に設定することもあります。
KPM(アレイ負荷整合補正係数)
アレイ負荷整合補正係数 – 太陽電池アレイの動作点(電圧・電流)が常に最大出力点に一致しないことによるロスを見込む係数です。MPPT(最大電力点追従制御)の性能やシステム形態によって異なり、JIS推奨値は系統連系形で0.94、独立型システムの場合は負荷特性により0.89~0.91程度が提示されています。例えば、系統連系のインバータであれば負荷にかかわらずMPPTで最大出力を引き出せるため0.94(6%損失)ですが、蓄電池に直接充放電する独立系ではバッテリー電圧とのマッチングロスが大きく、安定供給重視なら0.89、日射に応じた負荷変動型なら0.91といった値が示されています。
ηINO(インバータ実効効率)
インバータ実効効率 – パワーコンディショナ(インバータ)の変換効率を表す係値です。JIS推奨値は0.90(90%)で、これは定格負荷時の一般的なインバータ効率を踏まえた値です。ただし現在市販されているPCSの多くは変換効率95~98%と高性能であるため、実際の設計では使用機種の仕様に合わせてこの値を置き換えます。例えばカタログ値で変換効率96%の機種を使うならηINO=0.96とします。なお、部分負荷(低出力時)では効率が若干下がる特性もありますが、長期エネルギー計算上は定格近辺の平均効率で概ね代表させます。
以上の係数を全て乗じ合わせたものが基本設計係数K’です。結晶系・系統連系・蓄電池なしのシステムを想定したJIS推奨の組合せでは K’ ≈ 0.756 程度となります。実際の計算例として、前述の標準係数を掛け合わせると 0.97×0.95×0.97×0.94×0.90 ≈ 0.75 となり、おおよそ75%の値になります。JISではこの値を基本ケースとしていますが、機器性能の向上や設計見直しにより、より高いK’を設定することも可能です。
エネがえるにおけるK’の扱いを見てみましょう。クラウド型シミュレータ「エネがえる」では住宅用・産業用ともに基本設計係数の初期値を0.85に設定しています(数値はユーザーが可変)。これはJIS推奨値0.7562より高めの値です。理由として、近年の高効率インバータ(η>95%)や損失低減技術により従来より損失が減少していること、またメーカー公称値ベースで試算すると実績発電量がJIS値よりやや上振れする傾向があることが挙げられます。エネがえるではユーザーが詳細設定でK’を0.70~0.99の範囲で任意に変更でき、シミュレーション結果に反映できます。デフォルト値0.85は「比較的効率の良いシステム」を仮定した値と言えるでしょう。
では業界全体の相場観として、K’はどの程度の値が使われているのでしょうか。実はメーカーや試算ツールによって前提が異なるため、一概には言えませんが0.75~0.90前後が一つの目安です。JIS基準はやや保守的(安全側)で0.75程度、実際の初年度実績値に近づけるなら0.8~0.85程度、最新の高性能機器や楽観ケースなら0.9近くまで用いるケースもあります。例えば、某国内大手モジュールメーカーの試算条件では基本設計係数相当の値として0.926が示されています。一見JIS値より高すぎるようですが、これは温度補正やインバータ効率を別扱いとした定義によるものであり、総合的に見れば0.8台後半のパフォーマンスを想定していることになります。逆に公共の省エネ計画などでは、安全率を見込んで0.7台前半の保守的な係数を使う例もあります。
基本設計係数をいかに設定すべきかは、設計者の裁量と経験に委ねられる部分でもあります。指針としては以下の点が挙げられます。
JIS推奨値をベースに:不確実性要因が多い場合や長期保証評価では、JIS推奨の0.756前後を採用することで過大見積りを避けられます。特に保証値算定では安全側の値が好ましいでしょう。
実機性能で補正:設計するシステムが高性能機器で構成される場合、例えば高効率PCS採用や配線損失の極小化などJISより有利な条件があれば、そのぶんK’を引き上げます。インバータ効率の差(例:90%→95%でK’が約1.05倍に向上)や、劣化保証が優れているモジュール(年0.25%劣化なら10年後97.5%でKPD=0.975相当)など、各要素を見直して再計算します。
メーカー仕様との差異:メーカーが独自に予測する発電量(カタログシミュレーション値など)とJIS試算に差がある場合、その差異要因を分析します。例えばモジュール実出力が公称値以上出る(プラス公差)分をメーカーは見込んでいるかもしれません。その場合K’で微調整することで辻褄を合わせられます。エネがえるでも「特定メーカーの実発電量に近づけたい場合はK’を0.76~0.9程度で補正してください」と案内されています。
過大評価と過小評価のバランス:K’を高く設定しすぎると実発電量が予測を下回った場合にトラブルとなり得ます。一方、低く設定しすぎればシミュレーション値が実際より低く出てしまい、導入メリットを過小評価することになります。経験的には**実績PR値(後述)**に近い0.8前後に設定しておき、案件毎に数%調整する手法が現実的です。(エネがえるでは国内初となる経済効果シミュレーション保証を提供しており、基本設計係数0.85で推計した発電量の70-80%を10年間保証し、差分発生時に売電単価or買電単価での換算で需要家に保険金を支払えるサービスをオプション提供しているようです。※提供はSolvvy社への取次紹介型)
最後に、**Performance Ratio(PR値)**との関係について触れておきます。PR値は国際的によく使われる指標で、実発電量が理論発電量の何割かを示す値ですが、その定義はEp式とほぼ同じです。すなわち PR ≒ K’×K(年平均) と考えて差し支えありません。例えば年間PRが80%なら、K’×K=0.8程度のシステム性能だったと言えます。K’は温度以外のロスをまとめたもので、温度補正Kと掛け合わせれば総合効率となる点で、PRの概念に一致します。したがってK’設定の背景には、「このシステムの年間PRはどのくらいになりそうか?」という設計者の経験則が反映されるとも言えるでしょう。
初心者向けワンポイントレッスン:K’って結局なに?
K’は専門的な係数ですが、平たく言えば「太陽光発電システムの損失見込みの総合パーセンテージ」です。もしK’=1.0なら損失ゼロですが、現実には配線ロス・機器ロス・劣化などで発電量が目減りします。そのトータルが25%ならK’=0.75となるわけです。初心者の方は、K’を**「システムの基本効率」**と捉えてみてください。例えば旧型のパネルや機器だと75%程度、新型高効率機器なら85%程度、といった具合です。カタログを見ても分からない隠れたロスもK’にまとめて含まれるので、経験的な値を使う部分でもあります。最初はJIS推奨値(約75%)を基準にして、慣れてきたら自社実績や新技術動向に合わせて調整してみましょう。
温度補正係数(K)の解説
温度補正係数(K)は、太陽電池モジュールの温度上昇による発電性能の変化を補正するための係数です。前述のEp式ではKと表記しましたが、JIS手順ではKPT(モジュール温度補正係数)と呼ばれることもあります。ここでは式中のK(=KPT)として解説します。この係数は主に太陽電池の素材ごとの温度特性とモジュールの設置条件によって決まります。
まず、太陽電池の素材によってセル温度が出力に与える影響(温度係数)が異なるため、Kの値も変わります。太陽電池モジュールの性能カタログには通常「最大出力温度係数(αPmax)」が**%/℃**で記載されており、セル温度が1℃上昇すると出力が何%低下するかを示しています。代表的な素材別の温度係数は以下の通りです:
素材別の温度係数
結晶系シリコン(単結晶・多結晶):約 -0.44%/℃ (エネがえる既定値)。シリコン系は温度上昇により出力低下が比較的大きく、一般に -0.4~-0.5%/℃ 程度の係数を持ちます。例えばセル温度が25℃から35℃に上昇すると約4~5%出力が低下します。
化合物系(CIS/CIGS、CdTe等):およそ -0.31%/℃ (エネがえる設定値)。CIGSやCdTeなどの薄膜化合物系はシリコンに比べ温度特性が良く、出力低下率が小さいのが特徴です。高温下で有利なため、夏場の発電量では結晶系を上回るケースもあります。
薄膜ハイブリッド(アモルファス/微結晶シリコンのタンデムなど):約 -0.35%/℃。シャープ社の薄膜ハイブリッドや、アモルファスと結晶の複合構造を持つモジュールなどが該当します。純粋な結晶系よりは温度ロスが小さく、化合物系よりはやや大きい中間的な値です。
アモルファスシリコン:約 -0.21%/℃。シリコンを非結晶状態で薄膜にしたアモルファス太陽電池は、非常に温度係数が小さいことが特徴です。セル温度が10℃上がっても2%程度の出力低下に留まります。ただしアモルファスは初期劣化(ライトソーキング現象)による出力低下もあるため、トータルで見た性能比較が必要です。
次に、モジュールの設置形態も温度補正係数Kに影響します。これは、モジュール裏面の放熱条件が異なることで動作時のセル温度が変わるためです。JIS C 8907では、設置条件ごとの加重平均モジュール温度上昇量 ΔT(気温に対しセル温度が何℃高くなるか)に標準値を設けています。代表的な値は次の通りです。
設置形態別の温度上昇量
架台設置(裏面開放形):ΔT = 18.4℃。地上や屋上に架台を組んで設置し、モジュール裏面に十分な通風間隔がある場合です。風通しが良いため熱がこもりにくく、セル温度上昇は最も小さくなります。
屋根置き形(傾斜屋根上に金具固定、若干の通風あり):ΔT = 21.5℃。一般住宅の屋根上など、モジュール裏に数cm~十数cmの空間を設けて設置する形態です。架台ほどではないもののある程度の放熱は期待でき、標準的な温度上昇量が設定されています。実務上この屋根置きが最も多いケースです。
屋根一体形(建材一体型、モジュール裏面が屋根に密着・小空間のみ):ΔT = 25.4℃。太陽電池モジュール自体が屋根材の一部となるよう埋め込まれた形態です。裏面にわずかな隙間しかないか、断熱材等で密閉されるため放熱性が悪く、温度上昇が大きくなります。
裏面密閉形(壁面設置や屋根裏密閉など放熱ほぼなし):ΔT = 28.0℃。モジュール裏に空気層がなく完全に密閉された場合の極端なケースです。高層ビルの壁面一体型や、熱がこもる構造での設置を指し、最も大きな温度上昇が見込まれます。
エネがえるのシミュレーション設定では、実用上多い3形態(架台18.4℃・屋根置き21.5℃・建材一体28.0℃)が選択肢となっており、屋根一体形25.4℃は屋根密着型として28℃に統合されているようです。いずれにせよ、設置形態に応じてセル温度が約18~28℃上昇するというのが一般的な設計想定になります。
以上、素材別の温度係数と設置形態別の温度上昇量が決まれば、温度補正係数K(=KPT)は次式で算出できます:
K = 1 + αPmax × (TCR - 25) / 100
ここで αPmax はモジュールの最大出力温度係数(%/℃)、TCR は動作時のセル温度(℃)です。TCRは環境温度に前述のΔTを足したもの、すなわち TCR = 気温(℃) + ΔT で計算します。式を見ると、セル温度が25℃より高ければ (TCR-25) が正となり、αPmaxが負値なので K < 1 となる(出力減少)のがわかります。
温度補正係数(K)の解説(続き)
逆にセル温度が25℃を下回ればKは1より大きくなり、低温下では定格以上の出力が出る(発電量が増える)ことも示されます。
具体例で考えてみましょう。例えば結晶系モジュール (α=-0.44%/℃) を屋根置き形で設置した場合、真夏のある月の平均気温TAVが30℃だとします。そのときセルの加重平均温度 TCR は 30 + 21.5 = 51.5℃ となります。これを温度補正係数式に当てはめると、
K = 1 + (-0.44) × (51.5 - 25) / 100
= 1 - 0.44 × 26.5 / 100
= 1 - 0.1166
= **0.8834**
となり、約0.88の係数となります。つまり真夏の月では温度要因だけで12%程度発電量が減少する計算です。一方で真冬の月(例えば平均気温5℃と仮定)では TCR = 5 + 21.5 = 26.5℃、K = 1 + (-0.44)×(26.5-25)/100 ≈ 0.9936 とほぼ1に近い値になります。寒冷時には温度ロスがほとんど無視できることがわかります。薄膜系であればこの温度ロス幅はさらに小さくなります。例えば同じ条件でα=-0.21%/℃のアモルファスなら、夏でも K ≈ 0.945 (5.5%減)程度となり、高温時の優位性が見て取れます。
なお、上記は月平均気温で計算した月別K値の例ですが、実際には日中の気温変化や放射冷却、風速などで瞬時のモジュール温度は変動します。JISでは「加重平均温度」として一日の発電寄与に応じ平均化していますが、簡易には月平均気温で近似しています。高度なシミュレーションでは時間毎の気温と日射から逐次Kを計算することもあります(エネがえるは時間別計算を採用)。何れにせよ、温度補正係数Kは1よりやや小さい値となり、特に高温期に発電量を減ずる係数と覚えておきましょう。
最後に、エネがえるで採用されている温度補正係数の仕様について触れます。同サービスでは、ユーザーがモジュール素材(結晶系/化合物/薄膜Hyb/アモルファス)と設置形態(架台/屋根/建材一体)を選ぶことで、それに対応したα値とΔTが自動設定されます。これらの値は基本的にJIS推奨値(前述の標準値)を採用しており、特定メーカーの仕様差によって変更されることはありません。例えば結晶系・屋根置き形を選べば α=-0.44%/℃, ΔT=21.5℃ が適用され、上の計算通りのKが得られます。一般にメーカー毎の温度係数差はせいぜい±0.05%/℃程度で発電量全体への影響は小さいため、シミュレーション上は代表値を用いる合理性があります。もし特定モジュールの正確な温度係数を反映させたい場合は、K’側で微調整する方針(発電量が上下する分をK’で補正)を取ると説明されています。
初心者向けワンポイントレッスン:温度による発電ダウンを理解しよう
太陽光パネルは暑さに弱い—これは現場でもよく言われるポイントです。温度補正係数Kはその「暑さに弱い度合い」を数値化したものです。例えば、夏にパネル表面が50℃にもなれば、結晶シリコンパネルは約15%も出力ダウンします。一方、薄膜パネルなら5~10%程度のダウンで済むこともあります。逆に冬の寒い日はパネルも冷えているので性能が上がり、定格以上の発電が出ることもあります(Kが1を少し超える)。このように季節や素材で発電効率が変わることを、Kという係数一つで表現できるのです。初心者の方は、「夏は発電ロス大、冬はロス小」「素材によって暑さへの強さが違う」という点をまず押さえましょう。そして設置の仕方でも温度が変わるので、風通し良く設置する方が有利という現場の知恵にも繋がります。温度補正係数は難しそうですが、要は**「パネル温度〇℃で△%パワーダウン」**という日常感覚を計算式にしただけなのです。
JIS推計式にまつわるTIPS・ノウハウ・落とし穴
ここでは、JIS推計式(Ep式)を実務で活用する際に役立つ知識や陥りやすい点について、専門家のノウハウをまとめます。設計・営業担当者が現場で留意すべき事項や、発電量予測の精度を高めるポイントを整理しましょう。
気象データ(日射量データベース)の選択
発電量推計には正確な日射量データが不可欠です。JIS C 8907制定当時は気象庁平年値等から算出されたCD-ROMデータが使われましたが、現在ではNEDOや気象協会の詳細データベースが利用可能です。特にNEDOのMETPV-20データは近年エネがえる等で採用されている最新のもので、2010~2018年の観測値を元に各地域の「平均年」および「多日照年」「寡日照年」の1時間ごとの日射データを収録しています。これは各月で最も平均的な年を繋ぎ合わせて人工的な1年分の時系列データを構成したもの(代表年)であり、全国835地点について提供されています。
旧来のMONSOLA-11(月別平均値データベース)と異なり、METPV-20は時間別の変動パターンも含むため、時間帯ごとの出力変動やピークをシミュレートできる利点があります。シンプルな計算なら月平均日射量でも年エネルギーは出せますが、ピーク時のPCS出力制限や時間別料金メニューとの組合せ効果などを評価するには時間別データが必要です。したがって、最新のシミュレーションではエネがえるのように極力METPV-20のような高精度データを用いることが推奨されます。もちろん、過去の観測データを基にしている以上「平均年」であっても天候年次変動はありますので、実際の年間発電量は±数%ぶれる可能性も念頭に置きましょう。
日射角度と設置方位の最適化
JIS推計式では入力として傾斜面日射量Hを与えますが、その値はパネルの傾斜角・方位角によって変わります。一般に真南・傾斜角30°が年間発電量最大の条件となり、南向きから東西に15°程度ずれても発電量は99%以上維持されます。例えば南30°を100%とすると、南15°/傾斜30°で約99.5%、真東30°や真西30°でも85%程度は確保できます。傾斜角についても、水平0°で91%、20°で98%、40°で94%(何れも南向き時)と20~30°付近がピークで、多少のズレでは大差ありません。
重要なのは北向きは避けることです。北面は年間発電量が著しく低下するうえ(南比で50%以下)、反射光トラブルの懸念もあります。実務では屋根形状など制約もありますが、設置可能な範囲でできるだけ南寄り・適度な傾斜にすることが基本です。JISの式自体はそうした角度要因をHに含める形で対処しますが、入力データの選択ミス(例:方位を真南と誤って設定)はそのまま結果の過大/過小推計に繋がるため注意しましょう。
影・汚れ・積雪の影響
前節でも触れたとおり、JIS推計式には影による部分的な発電低下やパネル汚れ(汚損)、積雪被覆等の項目が明示的に含まれていません。実プロジェクトでは、周辺建物や樹木による影が生じる場合、該当時間帯のH(日射入力)を減ずるか、K’に追加の減衰係数(例:影で年間5%ロスならK’×0.95)を掛けるなどして補正する必要があります。
また、鳥の糞や黄砂・火山灰等でパネルが汚れると出力低下しますが、定期清掃の頻度次第で影響度は変わります。一般的な環境下では年間2~3%程度の汚れロスが報告されていますので、必要に応じK’を僅かに下げて見込むこともあります。
積雪地域では、冬季にパネルが雪で覆われて発電しない期間を見積もり、例えば12月~2月のH値を実質0にする(あるいは日射量データ自体が平均的に織り込み済みならそのまま)などの対応を取ります。
重要なのは、現場特有のマイナス要因はJISのデフォルトには含まれないと理解することです。シミュレーション結果を鵜呑みにせず、「この値は影や汚れゼロの理想状態。実際は○○%引きかな?」と補正発想を持つことが現場対応力につながります。
システム過積載とPCS容量
近年、太陽光パネルの総出力(kW)をパワコン容量(kW)より大きく設計する「DC過積載」が広く行われています。例えばパネル合計10kWに対しPCS8kWなどとするケースです。この場合、日射が非常に強い時には発電可能な10kWのうちPCS容量上限の8kWまでしか送電できず、クリッピングロス(出力飽和による切り捨て)が発生します。
しかしJIS推計式で用いるK’やKにはこのPCS飽和損失は直接織り込まれていません。なぜならKPM(負荷整合係数)はMPPTロスまで考慮していますが、PCS容量制限は設計次第で可変なためです。従って、過積載を行う場合は別途発電ロス評価が必要です。
方法の一つは時間別シミュレーションで飽和をチェックすることで、例えばエネがえるでは内部的に時間毎の発電量を積み上げてPCS容量でカットしています。もう一つは経験式で補正する方法で、年間の飽和ロス率(例:過積載1.25倍で年間3~5%ロス)を予め見込んでK’を下げる手法があります。
メーカー提供のシミュレーション結果には実はこうした飽和ロスが含まれていることも多く、単純比較するとJIS式より低いK’相当になっているケースもあります。この点でもK’の値合わせは有用です。つまり、過積載ありの実システムをJIS式で評価するには、状況に応じK’を少し低め(ロス大きめ)に設定することで辻褄を合わせるのです。
バッテリー併設時の注意
蓄電池を備えた独立電源型(または自家消費型で蓄電)システムでは、太陽光発電だけのケースとはロス要因が異なります。JIS C 8907でも独立形の場合KPMを低く設定するなど差別化されていますが、蓄電池には充放電効率や容量制約といったファクターがあります。
エネルギーを一旦蓄える際に5~10%ロスするほか、バッテリー満充電で発電が無駄になる(カットされる)可能性もあります。JIS式に直接バッテリー効率項を掛けることもできますが(JISでは別途定義あり)、実務上は時間別シミュレーションで詳細に評価することが多いです。営業段階で概算する場合、太陽光発電量×充放電効率×利用率程度で粗く見積もることになりますが、厳密には専門ソフトの活用をおすすめします。
その他実務ノウハウ
太陽光発電量推計に関する現場の知見として、「現実の発電量はシミュレーション通りにいかない」という前提でモニタリングすることが重要です。運用開始後、予測と実績を比較して乖離が大きい場合は、上記のどの要因が原因かを調査します。パネルの不具合や影の発生など早期発見にもつながります。
また、メンテナンスで発電量を維持する視点も持ちましょう。パネル洗浄や草刈りによる影防止、雪下ろしなど、手を入れればK’相当のロスを改善できるポイントは多々あります。推計式はあくまで静的なモデルですが、実際の発電所は動的な環境に置かれます。**「設計値K’=0.8をいかに維持・向上させるか」**が現場力であり、推計式の数字と実データを突き合わせることでそのノウハウが蓄積されていきます。
以上、JIS推計式の枠組みを踏まえた上で現場で考慮すべき事項を列挙しました。要約すると、**「正確なデータ入力」「適切な係数設定」「現場要因の補正」**が発電量予測を的中させる鍵となります。
初心者向けワンポイントレッスン:発電量シミュレーションの心得
システム設計初心者の方へ。太陽光発電のシミュレーションは、完璧に見えても所詮シミュレーションです。大事なのは「どんな前提で計算しているか」を知ること。例えば、「このソフトは影を考慮していないな」「このデータは平均的な年だから、日照不良の年はもう少し少ないかな」などと想像できるようになると一人前です。
経験豊富な設計者ほど、「この数値は信用しすぎないように」と言います。それは天気や現場環境が毎回違うからです。シミュレーション結果はあくまで参考値であり、余裕を持った設計やお客様説明を心がけましょう。そして実際に発電所が動き始めたら、予測とのズレをチェックしてみてください。そのプロセスが、次のより正確なシミュレーションに繋がっていきます。
販売・設計・営業担当が覚えておくべき発電量推計の重要ポイントTOP10
最後に、太陽光発電の発電量推計について販売・設計・営業担当者が押さえておくべき重要ポイント10選をまとめます。日々の提案や設計業務の中で役立つ知識のチェックリストとしてご活用ください。
1. Ep推計式の基本構造
発電量 = 容量 × 日射量 × 損失係数で決まることを理解する。式中の K’(基本設計係数)と K(温度補正係数)がシステム性能を左右する重要パラメータです。これらを適切に設定することで予測精度が高まります。
2. JIS C 8907:2005準拠の安心感
JIS規格の推計方法は日本の実情に合わせた信頼性ある手法です。まずはJIS推奨値(K’≈0.756など)を基準に試算すれば、極端に外れた予測にはなりません。業界標準のアプローチであることを念頭に置きましょう。
3. 基本設計係数K’の設定
損失見込みの総和であるK’は約0.75~0.85が一般的です。保守的に見積もるなら低め、実績ベースに近づけるなら0.8超を設定します。エネがえるの初期値0.85は高性能システム想定、JIS値0.756は安全側と覚えておき、ケースに応じて調整してください。
4. 温度補正係数Kの影響
真夏と真冬で発電効率が数%~十数%変化することを念頭に。結晶系パネルでは夏場に10%以上のロスが発生しうる一方、薄膜系ではロスが小さい。設置形態も温度に影響するため、屋根一体型では架台設置より不利になります。季節変動込みで年間発電量を評価しましょう。
5. 最新の日射量データの活用
NEDOのMETPV-20など高精度な気象データを使うことで予測精度が向上します。特に時間別シミュレーションでは必須です。古い平年値データ(MONSOLA-11等)よりも地域実態に近い結果が得られるため、可能な限り最新データベースに更新してください。
6. 角度方位の最適化
**南向き・傾斜20~30°**が発電量最大となる基本事項を把握しておきます。お客様への提案時には「東西に振ってもそんなに大差ないですが、北向きは大幅減です」と説明できると◎です。影の影響も含め、設置場所の条件を十分調査し反映しましょう。
7. シミュレーション結果の前提確認
出力制御や影・雪など考慮外の要因をチェックします。ツールが自動で見ていない要素(例: 近隣の影)は手動で補正する必要があります。また、結果を示す際には「これは理想条件下での値」と断りを入れると信頼性の高い説明になります。
8. 過積載時の発電ロス
パネル過積載でPCS出力制限が生じる場合、クリッピングロスを考慮に入れます。おおよそのロス率を経験的に掴み、見積もりに反映しましょう(例:「過積載1.3倍で年間5%ロス見込みなので発電量×0.95」など)。ツールによっては自動計算されるので、仕様を確認してください。
9. 実測値との突合
稼働中システムの**PR値(性能比)**を定期的に確認し、シミュレーションとのズレを把握します。例えば予測PR80%に対し実績75%なら、未考慮ロスがある可能性があります。原因究明と対策(清掃や機器点検等)につなげ、次回予測時にはフィードバックしましょう。
10. お客様への伝え方
発電量予測は専門的ですが、お客様には平易に伝えることが大切です。例えば「このシステムだと年間○○kWh発電し、これは一般家庭○世帯分の消費電力量です」といった形で結果を共有します。その際、過度に楽観的な数字を出さないことも重要です。JISに基づく計算であること、天候により±5-10%変動し得ることなどを説明し、信頼性のある提案を心がけましょう。
以上、専門的な解説とポイントを網羅しました。太陽光発電の発電量推計式(Ep=K’×K×P×H÷G)と各種係数の意味、そして最新データの活用方法まで理解することで、より正確で説得力のあるシミュレーションが可能になるはずです。技術・設計責任者の方はもちろん、新人技術者や営業担当の方も、本記事を参考に実践的な知識を深めていただければ幸いです。
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