暦はアルゴリズムだった?古代知識を現代シミュレーションに翻訳する

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

むずかしいエネルギー診断をカンタンにエネがえる
むずかしいエネルギー診断をカンタンにエネがえる

暦はアルゴリズムだった?古代知識を現代シミュレーションに翻訳する

私たちの日々の生活を支える「(カレンダー)」は、実は古代から伝わる高度なアルゴリズムとも言える存在です。太陽や月、星の運行に基づき季節を正確に予測する暦は、古代の人々にとって 自然のサイクルを読み解く知恵の結晶 でした。

それを現代の科学技術でシミュレーションし直すことで、古の知識を活かしながら持続可能な未来へのヒントを得ることができます。本記事では、古代暦に秘められたアルゴリズムの正体と、現代のシミュレーション技術との融合について深掘りし、日本の再生可能エネルギー普及や脱炭素化への示唆を世界最高水準の知見から読み解きます

古代の知恵×最新テクノロジーという切り口から、気候変動時代を生き抜くための構造的課題と実効性あるソリューションを探ってみましょう。

古代の暦に秘められたアルゴリズム – 自然を数式化した先人の知恵

古代文明の暦づくりは、現代で言うアルゴリズム開発と表現できるほど体系立ったものでした。太陰暦・太陽暦・太陰太陽暦など様々な暦法がありますが、いずれも天体の周期現象を精緻に観察し、数理モデルとして組み立てる試みでした。

例えば古代中国では、紀元前から数多くの暦法が考案されました。中でも前漢の頃に用いられた「顓頊暦(せんぎょくれき)」では、19年に7回の閏月を挿入する太陰太陽暦の手法が確立されていました。この「19年7閏月」という周期は、古代ギリシャのメトン(Meton)が提唱したメトン周期と一致します。

顓頊暦は紀元前600年頃には既に運用されていたとされ、ギリシャよりも先んじて高度な暦アルゴリズムを実用化していた可能性があります。月の満ち欠け(朔望月)と太陽年のズレを調整するために複雑な周期を導入したこの手法は、まさに観測データに基づくアルゴリズム的発明でした。

日本も中国伝来の太陰太陽暦を古代より使用し、季節の把握に工夫を凝らしました。1年を春夏秋冬の四季に分け、さらに各季節を6つに細分した二十四節気はその代表例です。春分・夏至・秋分・冬至などお馴染みの節気語は今でも使われますが、本来は太陰太陽暦で閏月を挿入する基準となる重要な計算単位でした。二十四節気で1太陽年を24等分し季節区分する発想は、中国戦国時代(紀元前4世紀)に生まれたとされます。さらに各節気を3分割した七十二候まで定義し、わずか5日程度の気候の変化をも捉えていたことには驚かされます。微細な季節の移ろいを体系化した暦法は、農耕の暦でもあり、古代人が長年の経験をデータベース化して未来予測に活かした例と言えるでしょう。

古代ギリシャにも天文学と数学に支えられた高度な暦計算装置が存在しました。その代表がアンティキティラ島の機械です。紀元前2世紀頃に作られたこの歯車機械は、発見当初「謎の塊」でしたが解析の結果、太陽や月の位置、日食のタイミング、さらには古代オリンピックの開催周期(4年周期)までも計算できる世界最古のアナログコンピュータであることが判明しました。複数の青銅製ギアを組み合わせた精巧な機構によって天体の運行を再現し、数十年先の日食や惑星の位置を予測できたのです。アンティキティラの機械は、人類が2000年以上前に既に「装置化された暦アルゴリズム」を持っていたことを示す貴重な遺物です。これは観測→モデル化→予測という科学的手法の原型が、古代にも存在したことを物語っています。

以上のように、古代の暦作成には天文学的観測に裏付けられた高度な数理的知見が活かされており、それらは現代の視点から見るとアルゴリズム(手順化された計算ルール)の集合体だったのです。

古の知識を現代科学で再現 – シミュレーション技術が解き明かす暦の原理

時は流れ、私たちはコンピュータを手に入れました。現代では、かつて人力で編み出された暦の計算もデジタルシミュレーションによって容易に再現・拡張することができます。つまり、古代の知恵を現代の数学モデルに翻訳し直す作業です。

暦の根底にある天文学的現象は、ニュートン力学や天体力学の方程式で記述できます。地球の公転や月の運行をコンピュータでシミュレートすれば、古代人が苦労して求めた暦も一瞬で計算可能です。実際、二十四節気・七十二候についても、現代では国立天文台が地球の軌道計算に基づき各節気が始まる日時を毎年算出しています。有志の天文ファンがブラウザ上で動く二十四節気時計を制作し、入力日時に対応する節気・候を瞬時に表示する、といった取り組みもされています。かつて暦算に必要だった天文学や数学の知識は、いまやプログラムに織り込まれ、誰もが恩恵を受けられる形で公開されているのです。

さらに、コンピュータシミュレーションは古代の暦知識を超えて新たな発見をもたらす段階に来ています。例えば、近年の高精度な天文計算により、古代の暦に残された記録(皆既日食の年代など)が現代の理論と矛盾しないか検証されたり、地球自転のわずかな減速が古代と現在で暦に与える影響が議論されたりもしています。シミュレーションによって、古代の人々が気付かなかった微小なズレすら検出できるようになったのです。

このような「古代 → 現代」への知識継承気候科学の分野でも見られます。気候科学とは突き詰めれば、昔から人々が経験的に知っていた季節変化のパターンを、現代の精密観測データと物理モデルで形式知に置き換えた学問だと言えます。農民が何世代にもわたって「この地域では毎年○月に雨が多い」と知っていたことを、気候学者は長期の降水・気温データを解析して統計的に証明します。また古来より伝わる「○○の花が咲いたら種まきの時期」などの知恵は、今やフェノロジー(生物季節学)として体系化され、気候変動の指標にもなっています。現代の気候モデルは、過去の気象データや氷床コア・年輪などの古気候の証拠も取り入れて地球システムを再現し、将来の姿を予測します。これはまさに、古代から蓄積された知識をコンピュータが継承し、さらに先の未来へ活かしている好例でしょう。

一方で、現代のシミュレーション技術は私たちの日常生活にも浸透しています。身近な例では、太陽光発電の発電量シミュレーションがあります。1960年代に開発されたリュー&ジョーダンのモデルを皮切りに、逐次改良が加えられてきた太陽光発電予測アルゴリズムは、今やインターネット上で誰もが使える「エネがえる」のようなツールとして公開されています。かつて専門家だけのものだった高度なシミュレーションが民主化され、住宅の屋根にパネルを置いたら年間どれだけ発電し電気代が浮くか――といった計算を専門知識のないでも数分でできるようになりました。これは裏を返せば、シミュレーションという現代の暦を使いこなすことで、個人でもエネルギー計画を立てられる時代になったということです。

この章をまとめると、現代のシミュレーション技術は古代の暦=アルゴリズムの再現装置であると同時に、それを発展させた強力な未来予測エンジンです。過去の知見を正確に踏襲しつつ、ビッグデータと計算力で新たな洞察を得る――私たちはいま、古代の知恵を凌駕するツールを手にしているのです。

自然のリズムに学ぶ持続可能性 – 暦が示唆する再生可能エネルギー活用

暦が教えてくれる最大の教訓の一つは「自然のリズムに合わせて行動する」ことでした。農耕社会では暦に従って種まきをし、収穫祭の日取りさえ決めてきました。同様に現代のエネルギー社会でも、自然エネルギーのリズムに寄り添う発想が持続可能性への鍵となります。

太陽光や風力など再生可能エネルギーは、天候や季節によって発電量が大きく左右されます。まさに季節変化という「暦のリズム」がエネルギー供給を支配しているのです。例えば日本では夏至の頃が太陽高度も日照時間も最大で太陽光発電のポテンシャルがピークになります。一方、冬至の季節は日射も弱く太陽光発電量は大幅に落ち込みます。風力についても日本海側の冬季には季節風で発電好調だが夏場は風が弱まる、といった季節特性があります。このように再エネの供給力は暦と共に変動するため、エネルギー利用の側を賢く調整することが求められます。

古代の知恵にならえば、夏にエネルギーが潤沢なときに蓄えて冬に備えるのは当然の戦略です。農民が夏秋に収穫した穀物を貯蔵して冬を越したように、現代もまた夏場の太陽エネルギーを何らかの形で保存し冬場に使う技術が重要になります。これがまさに季節間エネルギー貯蔵(Seasonal Storage)の考え方で、水素やアンモニア燃料への変換、大規模な蓄電池、揚水発電など様々なアプローチが研究・実用化されています。日本でも再エネ由来のグリーン水素製造や、それをアンモニアに転換して火力発電と混焼する試みが進められています(エネルギーミックスの一部として2030年にアンモニア発電1%目標など)。効率やコストの課題はありますが、夏の恵みを冬に活かすという発想は古来変わらぬ持続可能な社会の柱でしょう。

また需要側の工夫として、需要のタイミングを供給にシンクロさせることも重要です。例えば日本の伝統的な暮らしでは、暑い夏には朝早く活動して昼は日陰で休み、涼しい時間帯にまた仕事をする、といった知恵がありました。現代社会でも「クールビズ」のように冷房負荷を減らす工夫や、電力需要ピークをずらすデマンドレスポンスが進んできています。今後はAIによる需要予測と制御技術を導入し、太陽光発電が盛んな真昼には工場やEV充電を積極稼働、一方で日没後は蓄電池や水素で補う、といった需要と供給のダイナミックな調整が不可欠になります。この考え方は一種の「エネルギーの暦」を作ることです。すなわち、一日の中で、また一年の中で、再エネの供給カレンダーに応じて経済活動や生活パターンを最適化するという発想です。

さらに、先人たちが地域ごとの自然環境に合わせた知恵(例えば季節風を読み漁をする、山の木々の開花で水源の変化を察知する等)を持っていたように、地域固有の再エネ活用知識も培っていく必要があります。日本各地で地方自治体や市民主体のエネルギー事業が増えていますが、地域の風土に根差した成功例を共有することで「この土地ならではの再エネカレンダー」を作ることができます。例えば豪雪地帯では冬の小水力発電+夏の太陽光、沿岸部では潮汐や洋上風力の活用、南西諸島では太陽熱の利用など、多様な自然条件に即した組み合わせが考えられます。各地の気象データをシミュレーション解析し最適ミックスを探る取り組みは、現代版の“暦づくり”と言えるでしょう。

要するに、暦の視点から持続可能なエネルギー利用を眺めると、「時間軸の最適化」が浮かび上がります。空間的な設備拡大(どこに何を建てるか)だけでなく、いつ何をするかの計画が極めて重要なのです。太陽と地球のリズムに合わせ、人間社会の活動リズムを再調整していく――脱炭素社会への移行は、現代文明がもう一度暦の知恵に学ぶプロセスでもあるのです。

日本の再エネ普及と脱炭素化の現状 – 立ちはだかる課題の解剖

日本は2050年カーボンニュートラル、2030年に温室効果ガス46%削減(2013年比)という目標を掲げ、再生可能エネルギーを主力電源にする方針を打ち出しています。しかし、現状の歩みは目標に比して鈍く、課題が山積しています。ここでは日本の再エネ普及と脱炭素化を阻む根源的な障壁を洗い出してみましょう。

  • 電力業界の構造的問題: 日本の電力は10地域の大手電力会社が送配電網を握る構造で、再エネ導入に慎重な姿勢が指摘されています。実際、大手電力(旧一般電気事業者)は日本の発電設備容量の約75%を支配しながら、国内の太陽光・風力には最低限の投資しか行っていません。むしろ既存の火力発電や原子力資産の維持に注力し、再エネは海外プロジェクトへの出資に留まる傾向があります。政府が小売電気事業者に2030年までに非化石電源比率44%以上を義務付けていますが、違反しても罰則がないため実効性を欠いています。また**非化石価値証書(NFC)**の制度も活用が進まず、原子力由来のNFC購入でお茶を濁すケースが大半です。こうした業界の消極姿勢と制度運用の甘さが、大胆な再エネ転換を阻む大きな要因です。

  • 電力グリッドの制約と需給調整: 再エネ拡大には送電網インフラの整備が不可欠ですが、日本では送電網の容量不足や運用ルールの制約がボトルネックになっています。太陽光や風力の適地は北海道・東北・九州など地方に偏在する一方、需要の大半は都市部にあります。しかし地域間連系線が脆弱で、遠隔地から大消費地への大規模送電が十分ではありません。例えば北海道北部や九州南部で発電しても、本州の需要地に送れずに出力抑制(カーテイルメント)される事例が増えています。実際、再エネ電力の年間抑制量は近年記録的に増加し、2023年度にはかつてない高水準に達しました。また日本の電力系統運用ルールでは、火力発電に一定の出力保証(最低出力保証枠)があり、再エネ側が優先的に停められる仕組みになっています。こうしたグリッドの容量・運用両面の問題が、せっかくの再エネ設備をフル活用できない原因となっています。

  • 政策・計画の不備: エネルギー基本計画などで再エネ目標は掲げられるものの、それを実現する詳細なプランや規制改革が追いついていません。特に送電網の拡充については、誰が費用負担するかの議論や許認可の簡素化などが進んでおらず、全国規模の送電計画が描けていない状況です。欧州のように系統運用者が将来を見据えて“マスタープラン”を作成し系統増強する、といった仕組みが日本には未整備です。さらに再エネ開発に伴う環境アセスメントや許認可プロセスも長期化・複雑化しており、風力発電所一つ作るのに着工まで10年近くかかることもあります。この制度的・計画的遅延は、再エネのタイムリーな導入を妨げ、結果として2030年の36-38%目標達成を危うくしています。

  • 土地利用と地域社会の課題: 日本は国土の約7割が山地で平野が少なく、太陽光や風力の大規模適地が限られます。平地が少ない分、メガソーラー開発では森林伐採や農地転用が問題化し、景観・環境への懸念から地域住民の反対運動が起きるケースもあります。風力でも騒音や景観影響でいわゆるNIMBY(近隣迷惑)問題が各地で見られます。これは単に住民の理解不足ではなく、事業者側の説明や利益共有策の不十分さも一因です。地域によっては再エネ事業の収益が地元に落ちず、外部の事業者だけが潤う構図への不満も指摘されています。こうした地域との摩擦を減らし、「地域と共生する再エネ」を実現することが普及加速の前提条件となっています。

  • 経済性と投資環境: 再エネ導入には初期投資が必要ですが、日本では欧州に比べ設備コストや資金調達コストが高めとされます。住宅用太陽光はFIT(固定価格買取制度)導入で普及しましたが、その買取費用の賦課金が国民負担増となり批判も受けました。一方、FITからFIP(市場連動のプレミアム)や入札制に移行した結果、事業用大型案件の採算がシビアになり、開発が伸び悩む局面もあります。金融機関は再エネ事業への融資に慎重な傾向が残り、特に新興の地域新電力等には資金が集まりにくい現状があります。長期安定的な政策と金融支援が欠ければ、再エネへの大規模投資は進みにくいでしょう。

以上、主な課題を整理しましたが、要するに日本の場合「技術というより制度・構造上の壁」が大きい状況です。再エネそのもののコストは下がり技術も成熟してきましたが、それを活かす受け皿(市場設計・送電網整備・産業構造改革・社会合意形成)が追い付いていないのです。次章では、こうした課題を乗り越えるためのアプローチを考えます。

課題解決へのアプローチ – システム思考で描く脱炭素への道筋

日本が再エネ主力電源化と脱炭素を実現するには、前章で洗い出した複合的な課題に対しシステム思考でアプローチすることが重要です。個別の技術導入だけではなく、政策・経済・社会・技術が有機的に噛み合う全体像(システム)を設計する必要があります。ここでは幾つかのソリューションの方向性を提示します。

1. エネルギー政策・市場改革によるインセンティブ設計: 電力業界の体質改善には、政策介入と市場メカニズムの活用が有効です。具体的には、非化石電源義務の実効性向上(未達時の罰則導入やNFC市場の透明化)、送配電分離の徹底と系統への第三者参入促進、容量市場・卸市場の設計見直しなどが挙げられます。欧州では再エネ比率目標を厳格に守らせる仕組みや、送電網への優先接続ルールなどが機能しています。日本も思い切った制度設計で、既存電力会社が再エネ拡大に背を向けられない環境を作ることが必要です。また、長期のPower Purchase Agreement (PPA)を促進し民間資金を呼び込むこと、炭素税や排出量取引で相対的に再エネ有利にすることも重要なインセンティブとなるでしょう。

2. 送電網・貯蔵への戦略的投資: 系統制約を解消するため、政府主導で全国レベルの送電網拡充計画を策定・実行すべきです。地域間連系線の増強やスマートグリッド化、新規送電ルートの開拓(海底ケーブル含む)など、将来の高再エネ比率を見据えたインフラ投資は急務です。資金面では官民ファンドの活用や送電コストを広く国民負担する仕組み(全国均一料金化など)も検討すべきでしょう。また、大容量の蓄電・貯蔵システムにも投資が必要です。リチウムイオン電池だけでなくレドックスフロー電池や水素など、季節・長期スパンでエネルギーを融通できる技術開発を強化します。これにより、再エネ変動を平滑化し、需要地への安定供給を実現します。

3. 地域主導型プロジェクトと土地利用計画(ゾーニング): 再エネ設備の設置には地域の理解と主体性が不可欠です。成功例として、福島県や秋田県では地域が主導する再エネプロジェクトが成果を上げています。福島では原発事故後に官民ファンドで大規模太陽光や風力を誘致し、地元企業の参画も進みました。秋田では漁業者と洋上風力事業者が協定を結び、漁業補償や雇用創出でウィンウィンを図っています。政府はこうしたモデルを全国に広げるため、プロアクティブなゾーニング(適地の指定と早期環境アセス簡略化)、利益共有スキームの推奨、地域金融機関を巻き込んだ資金調達支援などを進めるべきです。地域が誇りを持って「うちの町は再エネ先進地」と言えるような成功体験を積み重ねることが、全国的な意識変革にもつながります。

4. 技術イノベーションとその実装: 再エネ拡大を後押しする技術革新も重要です。例えば、日本が得意とするペロブスカイト太陽電池は柔軟・軽量で建物の壁面など従来パネル設置が難しかった場所にも適用可能で、国として開発を支援しています。これが実用化すれば限られた国土を有効活用できるでしょう。また洋上風力は欧州から技術を取り入れながら、ガスタービン製造など日本企業の強みも活かせます。蓄電技術では、次世代電池や水素エネルギーのコスト低減・効率向上がカギです。政府の「グリーン成長戦略」やGX(グリーントランスフォーメーション)でもこれら技術開発が柱になっています。大事なのは、研究開発だけでなく社会実装まで一気通貫で進めることです。実証プロジェクトで得られたデータをシミュレーションで解析し、早期に課題を洗い出して改良するフィードバック体制を強化します。

5. デジタル技術・AIのフル活用: システム全体の効率を上げるには、デジタル技術が強力な武器になります。スマートメーターやIoTで需要側データを集め、AIで需要予測を行い、エネルギーマネジメントシステム (EMS) が最適に制御する――こうしたデジタルグリッドの構築が進めば、再エネの不安定さを需給両面から補完できます。さらに、AIは気象予測の精度向上にも貢献しており、数時間先から数ヶ月先までの発電量予測を高度化しています。これにより、電力取引市場での価格変動を平準化したり、需給逼迫の事前警告が可能になります。また、ブロックチェーン技術を使って分散型エネルギーリソース同士がP2Pで電力取引する仕組みも各国で実証されています。日本でも地域単位でのバーチャルパワープラント (VPP) 実証が進んでおり、災害時の自立電源ネットワークとしても期待されています。デジタルと再エネの融合は、「見えざるエネルギーの暦」をリアルタイムで描き出し、最適運用するものと言えます。

6. 社会・文化の転換と参加促進: 最後に、人々の意識と行動の面での変革も不可欠です。脱炭素は技術だけの問題ではなく、ライフスタイルやビジネススタイルの変化を伴います。省エネの徹底需要シフトへの協力、さらには地域の再エネ事業への市民出資やグリーン電力選択など、一人ひとりがエネルギー転換に参加する仕組みを広げる必要があります。教育現場でエネルギーや気候変動を教える機会を増やし、次世代に暦と気候への理解を伝えることも重要でしょう。日本には季節行事や二十四節気にまつわる文化が今も息づいています。例えば「八十八夜」(立春から数えて88日目)にお茶を摘む習慣や、土用の丑の日にウナギを食べて夏バテを防ぐ風習など、生活と自然周期が結びついた伝統があります。こうした暦文化のリスペクトを現代の環境意識と融合させ、「季節を感じ、エネルギーを大切に使う」ムーブメントにつなげることもできるでしょう。

以上、システム全体を俯瞰したアプローチを述べましたが、要は「技術×制度×コミュニティ×文化」の統合がカギということです。古代の暦作りが天文・農業・宗教・社会を包括した知恵だったように、現代のエネルギー転換もまた多面的な統合知を要します。部分最適ではなく全体最適を目指すシステム思考で、日本の脱炭素への道筋を描いていくことが重要です。

古代知識×最新技術で拓く未来 – おわりに

「暦はアルゴリズムだった」という視点から、現代のシミュレーション技術、さらにはエネルギー問題までを考察してきました。古の人々が空を見上げ試行錯誤して編み出した知恵は、形を変えながら今も生きています。気候科学は古代からの知見を形式知として結晶化したものですし、日本の暦文化は私たちに季節と調和する生活のヒントを与えてくれます。その知恵に現代の最先端技術を掛け合わせれば、気候危機という未知の荒波も乗り越えていけるでしょう。

日本の再生可能エネルギー普及が思うように進まない背景には、多くの課題が絡み合っていました。しかし、それらを一つ一つ解きほぐし、もう一度全体を俯瞰すれば、解決への筋道も見えてきます。暦に学ぶならば、大局を見通し長期視点で計画を立てること、そして自然の声に耳を傾け柔軟に対応することが重要です。脱炭素社会への移行は決して一朝一夕では成し遂げられませんが、

無料30日お試し登録
今すぐエネがえるBizの全機能を
体験してみませんか?

無料トライアル後に勝手に課金されることはありません。安心してお試しください。

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

コメント

たった15秒でシミュレーション完了!誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!
たった15秒でシミュレーション完了!
誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!