軽EV・軽トラックEV・ペロブスカイト・V2Hが切り拓く日本独自の勝ち筋とGX・脱炭素戦略

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

エネがえるEV/V2H
エネがえるEV/V2H

軽EV・軽トラックEV・ペロブスカイト・V2Hが切り拓く日本独自の勝ち筋とGX・脱炭素戦略

はじめに:日本の脱炭素に向けたユニークな挑戦

日本の脱炭素戦略において、世界でも独特な組み合わせが注目されています。

それが「軽EV(軽自動車の電気自動車)」「軽トラックEV」「ペロブスカイト太陽電池」「V2H(Vehicle to Home:車両電力を家に供給)」の4つを掛け合わせたソリューションです。

2025年現在、これらを組み合わせることで、日本ならではの“勝ち筋”とも言える戦略ストーリーが見えつつあります。

本記事では、この戦略が生まれる背景と各要素の最新動向、そして組み合わせによる相乗効果について、豊富なファクトと共に徹底解説します。日本の再生可能エネルギー普及加速と脱炭素に向けた根源的・本質的課題を洗い出しながら、世界最高水準の知見をもとにした解析と洞察を提供します。


日本のエネルギー課題と「軽」戦略の台頭

日本のエネルギー事情と脱炭素課題

日本はエネルギー自給率が低く、多くを化石燃料輸入に頼っています。2050年カーボンニュートラル実現に向け、再エネ拡大と電動化が必須ですが、国土が狭く平地も少ない日本では、欧米のように大規模な太陽光・風力発電所や大型EV普及だけでは課題解決が容易でありません。そこで注目されるのが、日本独自のモビリティ文化である「軽自動車」に焦点を当てた戦略です。

軽自動車という日本独自のモビリティ文化

軽自動車(いわゆる「軽」)は、日本独自規格の小型車で、全長3.4m・排気量660cc以下(現在はガソリン車基準)の制約内で作られる車両です。庶民の足として地方から都市まで広く浸透し、新車販売の約4割(全国平均で40.4%)を占める主要マーケットになっています。特に地方部では軽への依存度が高く、和歌山県では56%、秋田県でも47%超が軽というデータもあります一方で東京都の軽比率は22%程度ですが、それでも5台に1台が軽と決して無視できませんこのように「軽」は日本の交通インフラを支える存在であり、ここを電動化することは日本全体の脱炭素に大きなインパクトを与えるのです。

最初の量産EVも軽から:広がる軽EV市場

実は日本初の量産EV乗用車も軽でした。三菱自動車の「i-MiEV」(2009年発売)世界に先駆けた軽規格EVです。その後しばらく軽EV市場は低調でしたが、2022年に日産と三菱が共同開発した軽EV「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が登場し状況が一変します。これらは実用的な航続と装備を備え、価格も補助金適用で200万円前後に収まることからヒット商品となりました。実際、日産サクラは2022~2024年度の3年連続で日本国内EV販売台数No.1を獲得し、2024年度(2024年4月~2025年3月)にはサクラだけで20,832台を販売しています。日本のEV市場ではテスラなど輸入車よりも、この軽EVが主役なのです。

国内各社と新規参入の動き

軽EV市場には国内大手各社が参入を始めています。ホンダは2024年10月に商用バン型軽EV「N-VAN e:」を発売し、2025年秋には乗用タイプの「N-ONE e:」投入も予定しています。トヨタ/ダイハツ/スズキ連合も軽バンEVを共同開発中ですが、発売時期は未定と報じられました。また中国EV大手BYDも「2026年後半に日本市場専用の軽乗用EVを投入する」と表明し、人材募集を始めています軽規格という日本独自市場の魅力に海外勢も注目し始めており、軽EVの競争はこれから本格化しそうです。

軽EVが支持される理由

なぜこれほど軽EVが注目されるのでしょうか?背景には以下の利点があります。

  • 経済性と手頃なサイズ:軽EVは普通車EVより価格が150万円以上安く(車種にもよりますが、例えば日産リーフ約400万円に対し日産サクラ約260万円~)、補助金適用で200万円程度から購入可能です。また車体が小さいため日本の狭い道路や駐車環境に適し、日常の足として扱いやすい

  • 十分な航続距離サクラやeKクロスEVの航続距離はWLTC値で180km程度ですが、日常利用では実質120km前後といわれます。しかし日本人の1日の平均走行は50km未満と言われ、近距離移動が主のユーザーには120kmで必要十分です。遠出はレンタカーや新幹線に任せ、日常は軽EVという割り切りが可能

  • 維持費の安さ電費(電力消費効率)が良くガソリン軽よりエネルギー代が安くなります日産サクラの電費は124Wh/kmと、普通EVの日産アリア(166Wh/km)より優秀で、小型ゆえ消費エネルギーが少ない利点があります。また税制面でもエコカー減税や軽自動車税の優遇があり、トータルコストで見ればガソリン軽と遜色ないレベルに近づいています。

  • ダウンサイザー需要子育て等が終わり大型車から小型車に乗り換える層(ダウンサイザー)にとって、質感の高い軽EVは魅力ですサクラのように内装や走りに上質さがあるモデルは、「小さいけど安っぽくない車」を求める層の支持を得ています。

このような理由から、軽EVは「経済的で日常ユースにちょうど良いEV」として市場に受け入れられつつあります。今後は商用軽バン・軽トラックのEV化が物流や業務用途で進み、それが生産規模拡大によるコスト低下を招き、個人向け軽EVも更に普及…という好循環が期待されています。

軽という日本独自カテゴリをテコにEV化を拡大することが、日本の勝ち筋の一つなのです。


軽トラックEVとV2H:動く蓄電池で地域を支える

軽トラック:地方と産業を支える働くクルマ

軽自動車には乗用車だけでなく、軽トラックと呼ばれる小型トラックがあります。農業や工事、配送など幅広い現場で使われる日本の働くクルマで、その数は全国で数百万台規模に上ります。軽トラはシンプルで安価、狭い農道にも入れる機動力から、農家や中小事業者にとって欠かせない存在です。この軽トラックも電動化が始まっており、日本独自の「軽トラEV」が新たな展開を見せています。

スズキの実証実験:「動く蓄電池」としての軽トラEV

2025年5月、スズキは横浜で開催された技術展にて独自開発の軽トラックEV試作車を公開しました。これは同社の軽トラ「キャリイ」をベースにエンジンをモーターと電池に換装したコンバージョンEVで、特徴は家庭用電源(AC100V)充電非対応という割り切り仕様です。では充電をどうするかというと、「自宅や作業場に太陽光パネルを設置している農家」を対象に、スズキが貸与するV2Hスタンド経由で太陽光エネルギーを車両に直接チャージします。つまり「自家太陽光で軽トラEVを充電し、必要に応じて軽トラ側から家庭や倉庫に電力供給する」仕組みです。

この軽トラEVは急速充電(CHAdeMO規格)のみに対応し、ゆっくり充電する普通充電ポートを持ちません。日中は太陽光で一気に充電し、夜間は車の電力を家庭に供給する――そんなオフグリッド的な自給自足を狙っています。この実証で使われるV2Hスタンドと車載バッテリーは、国内蓄電池メーカーのエリーパワー社製リチウムイオン電池(LFP:リン酸鉄リチウム)です。バッテリー容量は非公開ですが、スズキは「あえて過剰な容量を積まないエネルギーリーンな電動車」を目指しており、農業用途に必要最小限の容量で足りるか検証する狙いがあります。要するに、「電池を積みすぎず軽量・低コスト化した軽トラEV」を模索しているのです。

さらにこの軽トラEVは、駐車時間が長く稼働時間が短いという軽トラ特有の使われ方に着目し、「動く蓄電池」として活用することも想定されています日中農作業で数時間走った後は長時間畑や納屋に停まっていることが多いため、その間に蓄電や給電に機能させようという発想です。実際、農作業中の休憩時に工具や冷蔵庫を動かすために軽トラから100V電源を取りたいというニーズもあり、今後は車側にもコンセントを備える検討をするといいます。

スズキのこの取り組みは、「地方の農家が自前の太陽光+軽トラEV+V2Hでエネルギー自給する」未来像を示すものです。まさに軽トラEV × 太陽光発電 × V2Hのコンセプトを実証するプロジェクトであり、日本独自の勝ち筋戦略の一端といえます。

「動く蓄電池」の威力:災害時にも強み

車両を家庭用蓄電池のように使う概念は「V2H(Vehicle to Home)」と呼ばれ、近年注目度が増しています。特に日本は地震や台風による停電リスクが高く、非常用電源としてEVを活用する動きがあります。EVの車載バッテリー容量は、軽EVで20kWh前後、普通乗用EVで40~100kWhにも達し、家庭用の定置蓄電池(多くは5~10kWh程度)を大きく上回ります。例えば軽EVの20kWhでも一般家庭の2日分程度の電力を賄える計算で、普通EVなら数日~1週間分もの電力になります。実際、日産リーフ(62kWh)は災害時に3日間程度の電力供給が可能とされ、2011年の東日本大震災以降、防災用途でのEV活用が推進されてきました。

V2Hシステムがあれば、停電時にEVから家庭の分電盤へ直接給電し、家中の照明・冷蔵庫・通信機器などを動かせます。EVはガソリンが要らず「移動もできる蓄電池」ですから、避難先に電力を持ち運ぶことも可能です。まさにEVは「動く蓄電池」と呼ばれるゆえんです。停電復旧に数日かかるような災害でも、太陽光さえあれば自給できる体制は大きな安心となります。

現在、日本政府もV2H普及を後押ししています。2025年度のCEV補助金では、個人住宅向けV2H充放電設備に対し機器・工事費込み最大65万円(機器価格の1/2上限50万+工事上限15万)の補助が設定されています。またEV購入補助金についても、「外部給電機能など災害時の地域協力」に貢献する車両には重点配分する方針が示されており、軽EVは上限58万円普通EVは上限90万円と大幅な補助が出ます。軽トラEVも補助対象(小型・軽カテゴリー)となり得ます。こうした制度を活用すれば、たとえば「軽トラEV+V2H」の導入コストはかなり軽減されます。前述のように軽EVは補助後200万円弱、V2Hは実質60万円台で導入できるケースもあります。自治体補助を組み合わせれば、東京都では補助総額が最大150万円(国55万+都95万)に達し、軽EVをガソリン軽並みの100万円台前半で購入できる試算もあります

以上のように、軽トラックEVに代表される商用軽EVとV2Hの組み合わせは、日本の地域社会におけるエネルギー自給と防災力向上に直結するソリューションです。

地方の農漁村から都市部の物流拠点まで、動く蓄電池たちが電力インフラの一部となっていく――それが日本独自戦略の重要なピースと言えるでしょう。


ペロブスカイト太陽電池:軽く曲がる次世代ソーラーの衝撃

従来太陽光発電の課題とペロブスカイトへの期待

太陽光発電は再エネ主力として世界で急拡大しましたが、日本では用地不足や景観・環境破壊の懸念が課題となっています。山林を切り開いてメガソーラーを作れば土砂災害の不安、住宅地の空き地に林立すれば景観や近隣トラブル…と、「設置場所の制約と地域共生」が大きな問題でした。

そこで登場した救世主がペロブスカイト太陽電池です。ペロブスカイトとは結晶構造の名称で、特定の有機金属ハライド材料を使った薄膜型の太陽電池を指します。2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授らが初めて作製し、その後爆発的に効率が向上した新技術です。

日本発の技術ということもあり、政府は「太陽電池産業の競争力強化の切り札」と位置づけ、実用化に向けた支援を行っています2025年度から国内企業が本格的な事業化開始予定であり、日本が再び世界をリードすべく官民で取り組む重点分野です。

ペロブスカイト太陽電池の強み

ペロブスカイト太陽電池には従来のシリコン系にはない魅力が満載です。

  • 薄くて軽い・曲げられる:ペロブスカイトはガラス基板ではなくプラスチックフィルムや金属箔上に成膜でき、厚さ数百μm以下、重量はシリコンパネルの1/10以下にもなります。例えばスタートアップPXP社のフィルムは厚さ0.6mm・重量0.9kg/㎡しかなく、強化ガラス不使用で割れる心配もありません。壁面や曲面、屋根の耐荷重が低い建物にも貼り付け可能で、これまで太陽電池設置が難しかった場所を活用できます。日本が得意とするのはこのフィルム型で、耐久性や大面積化で世界トップクラスの技術力を持っています。実際、積水化学工業はフィルム型で屋外10年相当の耐久性を確認し、ロールツーロール量産技術を確立。既に15%の変換効率で30cm幅フィルムの製造に成功し、1m幅ラインへ向け開発加速中です。

  • 製造が低コスト・低環境負荷:シリコンは高純度化に1400℃以上の高温と長い工程を要しますが、ペロブスカイトは150℃程度で作れ、製造日数も大幅短縮可能です。材料も原料の約30%に日本が世界シェア2位を持つ「ヨウ素」が使われるなど、調達面でも強みがあります。大量生産によるコストダウン余地が大きく、将来的に発電コスト14円/kWh(2030)→10円/kWh(2040)を目指す政府目標もあります。

  • 発電性能のポテンシャル:実験室レベルではシリコン単接合を上回る効率が報告され、シリコンと重ねるタンデム型では早くも29.7%に達しました。シリコン太陽電池が理論限界に近づく中、ペロブスカイトは更なる高効率化の余地があります。また特性として、曇天や斜光(角度の浅い日射)でも出力低下が小さいとされ、シリコンとは発電ピークのタイミングがずれるため発電量の平準化にも寄与すると言われます(朝夕や曇りで相対的に発電しやすい)。

  • 設置の柔軟性(美観・リサイクル性など):薄膜ゆえ建物の壁・窓ガラスへの建材一体型太陽電池(BIPV)にも適します。半透明にもできるため、室内照明や植物育成との両立も可能です。将来、大都市のビル群すべての窓が発電するようになれば莫大なエネルギー源となるでしょう。また軽量な分、撤去やリサイクルもしやすく、廃棄時の負荷低減も期待されています(ただし微量の鉛を含むため適切な処理が必要)。

ペロブスカイトが開く新たな再エネ導入先

これらの特長により、ペロブスカイト太陽電池は「太陽光パネルを貼れなかったあらゆる場所に電力を生み出す」可能性を持ちます。日本政府の分析では、既に太陽光導入量は国土面積あたりで主要国最大級となりましたが、その反面上記のような設置適地制約や地域摩擦が顕在化しています。ペロブスカイトは生活環境や景観に配慮しつつ、新たな設置場所を生み出せると期待されています。具体例として:

  • 既存建築物への導入:ビルや住宅の壁面、工場や倉庫の薄い屋根上、学校の校舎・屋上、駅舎の上屋など、耐荷重や美観上パネル設置が難しかった場所にも、フィルムを貼る・塗る形で太陽電池を設置可能になります。東京都など都市部でも、“貼れるソーラー”によって再エネ拡大が図れます。

  • 農業施設への応用(ソーラーシェアリング・営農型発電):農地上空に太陽電池を設置し農業と発電を両立する「営農型太陽光(ソーラーシェアリング)」は注目分野ですが、従来はパネルや架台の重量で施工が困難でした。ペロブスカイトなら軽量で支柱への負担が小さく、また光透過型にすることで作物生長への影響を調整できます。実際、2024年8月には国内初のペロブスカイト営農型発電の実証実験が千葉県で始まりました(積水化学工業とTERRA社による共同プロジェクト)。積水化学は自社開発フィルムで曲面レンズ型パネルを構成し、発電効率と作物成長への影響を検証しています。このように農地やビニールハウスも発電所化できれば、エネルギーと食料の地産地消「創エネ農業」の可能性も広がります。

  • 車両への搭載(ソーラーカー):従来、車の屋根に搭載されるソーラーパネルは小面積・重量制約からせいぜい数百W程度で、一部のPHV/EV(プリウスPHVやリーフ等)のオプションに留まってきました。しかしペロブスカイトであれば車体の曲面に沿って大面積に貼り付け可能で、より高出力化できます。NEDOの実証では高効率(34%)の化合物太陽電池で車載860Wを実現し、1日50km強の走行に寄与した例があります。ペロブスカイトもタンデム型で30%以上が視野に入っており、車体全面をソーラー化すれば“太陽光で走る車”も夢ではありません

実際、日本のベンチャー企業PXP社は曲がるペロブスカイト太陽電池を軽自動車EVに貼り付け、太陽光のみで走行できる試作車を公開しています。その軽EVの屋根(2㎡)には18%効率の薄型パネルが332枚貼られ、晴天で1日16kmの走行が可能とされました

今後、セルをタンデム型(ペロブスカイト+カルコパイライト系)28%効率版に置き換えれば1日37km走行も見込めるとの試算です。16km~37kmといえば日常の買い物や通勤の距離をほぼ賄えます。しかも車体への貼付は見た目にも違和感がなく、同社は電極が見えない漆黒の高意匠セル技術でデザイン性を両立しています。「曲がる太陽電池」が軽EV普及の架け橋になるかもしれない、とメディアも期待を寄せています。

こうした動きは、日本の強みであるペロブスカイト技術と小型EVを組み合わせた差別化戦略そのものです。

軽自動車というコンパクトなプラットフォームだからこそ、少ない太陽電池でも走行に寄与しやすく、また重量増のデメリットも小さくて済みます。大型EVで車体全面に貼っても走行距離に占める割合は限られますが、軽EVなら「晴れた日は充電いらず」の可能性さえ見えてくるのです。


4つの要素が生むシナジー:日本独自のエネルギー循環モデル

ここまで、軽EV(乗用・商用)、軽トラEV、V2H、ペロブスカイト太陽電池それぞれの特徴と最新動向を見てきました。では、これらを組み合わせるとどんな相乗効果が生まれるのでしょうか?

キーワードは「分散型エネルギー循環システム」です。日本独自の勝ち筋戦略として描けるストーリーを整理してみます。

分散エネルギーリソースの融合によるレジリエントな社会

① 家庭・コミュニティ単位でのエネルギー自給

ペロブスカイト太陽電池により、住宅や小規模施設でもあらゆる面が発電所になります。壁・窓・屋根・カーポートなどから発電された電力は、日中は軽EVや定置蓄電池に蓄え、夜間や停電時に取り出せます。各家庭が「発電+蓄電+消費」を自己完結できれば、災害時でも地域で電力を融通し合うことが可能です。例えば太陽光が余った家はV2H経由で隣家のEVに充電し、夜にそのEVから隣家へ給電するといったマイクログリッド的協調も技術的には実現できます。

② 軽トラEVが創る農村マイクログリッド

地方の農村では、太陽光付き農業ハウスやソーラーシェアリングで日中発電し、軽トラEVに充電しておきます。夕方以降、軽トラEVは家に戻ってV2Hで家庭に電力供給し、必要に応じて近隣ともシェアします。農繁期には畑で電動農機に電力を供給し、閑散期には地域の集会所へ電気を届ける――軽トラEVが「エネルギーの運び屋」となるわけです。離島や中山間地でもこの仕組みなら大規模送電線に頼らず生活インフラを維持できます。燃料を運ぶコストもかからずカーボンフリーです。

③ 物流・商業と再エネの融合

都市部でも配送業者が軽バンEVを使い、各配送センターや店舗でソーラーカーポートに停めて充電すれば、日中のピーク電力を軽減しつつ自社 fleet を動かせます配送車は夜間は事業所の電源として防災拠点を支えることもできます。商業施設の屋上駐車場にペロブスカイトソーラーを張り巡らせ、買い物客のEVへワイヤレス給電…など将来的なスマートシティ像も描けます。車両・建物・エネルギーがシームレスにつながる世界です。

軽だから実現できるサステナブルな電動化

① 資源効率の高いモビリティ

巨大バッテリーを搭載したEVは走行距離こそ長いですが、生産時に多くの資源とCO2を要します。その点、軽EVは小容量電池で済み製造環境負荷も小さめです。さらにペロブスカイトで日々の充電を補えば、バッテリー寿命を延ばし交換周期を伸ばす効果も期待できます。つまり「小型EV+再エネ」ライフサイクル全体で見てもサステナブルな移動手段と言えます。日本のように資源制約が厳しい国では、限られたリチウムやレアメタルを大排気量SUVより軽自動車に配分する方が多くの人の移動を電化できます。

② 地域産業の活性化と雇用創出

軽自動車産業は日本国内生産比率が高く、地方工場も多い分野です。EV化により新たな部品(モーター、インバータ、電池パック等)産業が国内で育てば、従来エンジン関連の雇用をシフトできます。またペロブスカイト太陽電池も国内メーカー・スタートアップが続々参入しています。製造装置から材料(フィルム・透明電極・封止材など)まで日本企業の強みを発揮できる領域です。これら新産業の育成は地方の雇用創出や国際競争力強化にもつながり、日本経済にプラスとなるでしょう。

③ エネルギー安全保障の向上

ロシア・ウクライナ危機でエネルギー安全保障の重要性が再認識されましたが、日本は石油やガスの他、太陽電池モジュールでも中国依存が高い現状です。ペロブスカイトは国産技術であり、主要原料のヨウ素は日本が世界有数の産出国です。国内製造体制を整えれば、エネルギー源と機器の両面で自立性を高められます。また車の燃料が電気になり、しかも地域でまかなえれば、有事にタンカーや精油所が止まっても生活を維持できます。分散型で相互融通できる仕組みは、集中型インフラよりも破壊に強くリスク分散になります。

課題と今後の展望

もちろん、この戦略にも克服すべき課題はあります。

  • ペロブスカイトの耐久性・量産化: 実用化目前とはいえ、まだシリコンほどの20年以上耐用や大規模量産実績はありません。屋外での長期安定性や鉛の封じ込め、広幅フィルム製造技術の確立が課題ですが、国内企業・研究機関が官民協議会を組み加速開発中です。2025年から数年以内に商用製品が建材や屋根材として市場投入され、性能向上とコスト低減が進む見込みです。

  • 軽EVの航続・充電インフラ: 軽EVは航続が短く急速充電にも非対応のケースが多いです(現状サクラ等は急速充電可だが20kWh電池ゆえ充電間隔が短い)。しかし日常利用では問題少ないものの、ユーザーの不安を解消するには職場や商業地での充電器整備、あるいはソーラーカーポート設置など環境整備が必要です。またバッテリーコストがまだ高く、補助金が減ると価格競争力が落ちる懸念もあります。今後電池技術の進歩(例えば全固体電池)や大量生産効果で価格が下がれば、自立普及が期待できます。

  • 制度・規制面: V2Hによる売電や電力シェアリングを広げるには制度整備も重要です。現行ではEVから電力系統への直接逆潮流(V2G)は実証段階で、家庭内自家消費が主な用途です。しかし将来、複数住宅やコミュニティで融通し合う仕組みや、系統ピークカットにEV電力を活用する仕組みが普及すれば、経済インセンティブも高まり導入が進むでしょう。政府は次世代型電池戦略の中で「車両を活用し他分野に貢献」という目標も掲げており、災害協力だけでなく日常のエネルギーシステム改革として位置づけが強まる可能性があります。

課題はありますが、日本には「軽自動車文化」「高度な材料・電池技術」「防災意識」「政策支援」と、この戦略を進める下地が揃っています。他国が巨大EVや大規模発電所で進もうとする中、日本は小さな車と分散電源のネットワークで勝負するという独自路線を取ることで、新たな産業と持続可能な社会モデルを世界に示せるでしょう。それこそが日本独自の勝ち筋となり得るのです。


よくある質問(FAQ)

Q1: 軽EVと普通のEVは何が違うのですか?

A1: 最大の違いは車体の大きさとバッテリー容量です。軽EVは全長3.4m以内・定員4名の日本の軽自動車規格を満たすEVで、バッテリー容量も20〜30kWh程度と比較的小さいです。一方、普通EV(登録車)はサイズもバッテリーも大きく航続距離も長い傾向にあります。例えば日産サクラ(軽EV)は一充電180kmに対し、日産アリア(普通EV)は450km前後です。ただ、その分軽EVは価格が安く(補助金後200万円前後)、維持費も軽自動車税などで有利です。日常の近距離移動が中心なら軽EVで十分というユーザーも多いでしょう。

Q2: 軽トラックEVはもう市販されていますか?

A2: 2025年現在、主要メーカーから市販された軽トラックEVはありません。ただしホンダが商用バン「N-VAN e:」を2024年発売済みで、これをベースにした派生モデルの可能性や、将来的な軽トラEV投入も示唆されています。また三菱自動車は以前「ミニキャブMiEV」という軽バンEVを限定販売していました(現在は新型「ミニキャブEV」を商用向けにリリース)。スズキやダイハツも実証実験段階ですが、農業用途などニーズが高いため、数年内に各社から軽トラEVが出てくると期待されます。

Q3: ペロブスカイト太陽電池はいつ家庭で使えるようになりますか?

A3: 早ければ2025年度から国内企業が製品販売を開始する予定です。まずはビルの壁材や屋根材と一体になった製品、駐車場のソーラーカーポートシート、看板や車両用のフィルム型パネルなどから実用化が進むと見られます。家庭向けにも、既存屋根に後貼りできる軽量パネルや窓に貼る発電フィルムなどが開発されています。ただ初期製品は耐用年数がシリコンほど長くない可能性があり、保証期間やコスト面の検討が必要です。2020年代後半~2030年頃には一般家庭でも選択肢に入ってくるでしょう。それまではシリコンパネルとハイブリッドで使う形も考えられます(例:屋根上はシリコン、壁面はペロブスカイトなど)。

Q4: V2Hを導入すると普段の電気代は安くなりますか?

A4: 条件によっては節約効果があります。V2HはEVの電気を家庭で使えるので、太陽光発電と組み合わせれば昼の余剰電力を夜に回したり、電気代の安い深夜電力でEVを充電して朝夕の高い時間帯に給電するといったピークシフトが可能です。太陽光なしでも、深夜割引プランを活用してEVに蓄電し日中に使えば電気代を削減できます(この場合、EVの走行に使う電力が減るので走行分の電気代は別途かかります)。ただしV2H機器の導入コストと寿命も考慮が必要です。現状機器は工事費含め100~150万円ほどしますが、補助金や売電収入も加味して長期的にペイするか検討するとよいでしょう。

Q5: 軽EVのバッテリー劣化と寿命は大丈夫でしょうか?

A5: 最近のEVバッテリーは寿命が伸びており、8年/16万km程度のメーカー保証が一般的です。軽EVの場合、走行距離がそれほど伸びないユーザーが多いと考えられるため、10年以上使っても容量80%程度を維持できる可能性が高いです。実例として、先行する日産リーフでは10年で容量残存8割前後の報告があります。軽EVでも急速充電の頻度を減らし、満充電・空っぽにし過ぎないよう使えば劣化を抑えられます。また走行用として寿命を迎えても、V2H用など定置蓄電に転用する道もあります(実際、使い終わったEV電池を家庭用蓄電池に再利用する試みも進んでいます)。メーカーも電池交換サービスや下取りリサイクル計画を用意しつつあるので、適切にケアすれば電池寿命は大きな心配はいらないでしょう。


ファクトチェックと記事の信頼性

本記事は最新の情報に基づき執筆されており、各種データや事例には信頼できる出典を明記しています。主要なファクトの出典は以下の通りです。

  • 軽EV市場動向: 日産サクラの販売台数や軽自動車依存率の統計は東洋経済オンラインの記事【19】に基づきました。またホンダやトヨタ連合の軽EV計画は東京電力EV DAYSやニュースリリースに沿っています【3】【5】。価格・補助金の具体例は東京電力の解説記事【26】のデータを引用しています。

  • 軽トラックEV実証: スズキの軽トラEVプロジェクトに関する詳細は、自動車メディア「Motor-Fan」記事【7】からの情報です。実証内容(太陽光連携V2Hや急速充電のみ対応など)をそのまま紹介しています。

  • V2Hと補助金: V2H機器およびEV購入に関する2025年度補助金額は、太陽光発電専門サイトの記事【18】に掲載された公式資料を参照しました。EVのバッテリー容量比較や非常時電源利用の利点は東京電力EV DAYSの記事【20】から引用し、EVが「動く蓄電池」と呼ばれる背景を示しています。

  • ペロブスカイト太陽電池: 技術概要と政府の支援状況、2025年実用化の見通し等は朝日新聞(ツギノジダイ)の解説記事【10】【12】に基づいています。国内企業の開発状況(積水化学の耐久性10年確認など)は同社ニュースリリース【28】からファクトを取得しました。

  • ソーラーカー・PXP社事例: 軽EVに曲がる太陽電池を貼った事例については、自動車ライフスタイルメディア「KURU KURA」の現地取材記事【22】を参照しています。発電量16km/日や今後の37km/日という数値も該当記事からの引用です。

各出典元は信頼性が高く、メーカー公式発表や大手メディアの記事、専門サイトの解説を使用しています。記事内のリンクから元情報にアクセスできるようにし、データの裏付けを取っています。不明点があれば出典記事も合わせて確認いただければ幸いです。

本提案された戦略は現状の技術・政策動向に根差したものであり、すべて実在のプロジェクトや数値に基づいています。今後も技術革新や市場変化により状況はアップデートされる可能性がありますが、2025年8月時点で入手可能な情報としては最新かつ正確であるよう努めました。日本の軽EV×ペロブスカイト戦略が本当に“勝ち筋”となるか、引き続き注視していきたいと思います。

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国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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たった15秒でシミュレーション完了!誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!
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