自動車メーカーのエネルギー新事業の重要ポイント(EV・充電器・V2H・電力プラン・VPP)

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

エネがえるキャラクター
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自動車メーカーのエネルギー新事業の重要ポイント(EV・充電器・V2H・電力プラン・VPP)

EV時代の到来とエネルギービジネスの新潮流

電気自動車(EV)の普及が進み、車は「走るだけ」の存在ではなく家庭や電力網と繋がるエネルギーリソースへと変貌しつつあります。

EVを家庭の蓄電池のように活用するV2H(Vehicle to Home)や、EVをグリッド資源として活用するVPP(仮想発電所)といったコンセプトも現実味を帯び、自動車メーカーやディーラーにとってもエネルギー事業への参入は避けて通れない新潮流です。

実際、太陽光パネルや蓄電池、EV充電器をパッケージで提案したり、EVオーナー向けの電力料金プランを提供したりといった動きが各社で加速しています。こうした動向は脱炭素社会の実現という大義にも沿っており、日本政府や自治体も再生可能エネルギー導入義務化や補助金制度拡充で後押ししています。EV時代のビジネスチャンスを捉えるには、自動車ビジネスとエネルギービジネスを統合的に考える視点が不可欠です。

しかし、新たな分野で成功するためには乗り越えるべき課題も山積しています。販売現場では「何から手を付ければ良いのか」「専門知識が社内にない」といった悩みが噴出し、実際にEVや蓄電池、太陽光を組み合わせた提案業務には92.5%もの担当者が課題を実感しているとの調査結果もあります。

本記事では、こうした課題を乗り越えエネルギービジネス立ち上げを成功させるための実践的マニュアルを、メタ思考×フェルミ推定×システム思考という3つの視座を用いて解説します。難解な専門用語もできるだけかみ砕き、世界最高水準の知見や最新事例に基づいた実効性のあるソリューションを提示しますので、新規事業担当者の方はぜひ参考にしてください。

現状の課題:再エネ×EVビジネスが直面するボトルネック

まず、EV・充電器・蓄電池・太陽光といったエネルギー商材を扱う上で現場が感じている具体的な課題を整理します。

国際航業株式会社が2025年に実施した調査によれば、太陽光・蓄電池システムの販売・提案に携わる担当者の88.2%が「業務に課題あり」と回答しています。課題の中身で特に多かったのが「ヒアリングや現地調査」に時間と労力がかかること(41.8%)と、「電力需要データの入手」に手間取ること(37.3%)でした。つまり、お客様の現在の電力使用状況を正確に把握し、最適なシステム規模を見積もる前段階で大きな負担が生じているのです。

さらに提案書の作成や経済効果シミュレーションにも大きな工数が割かれており、「準備に時間がかかり顧客を待たせてしまっている」と答えた企業は80.7%にも上りました。加えて、営業担当者の多くが「シミュレーションツールの操作が複雑で難しい」と感じており、その割合は約89.9%にも達しています。社内リソースの観点では、技術スタッフや有資格者の人材不足も深刻です。太陽光・蓄電池販売施工会社の90.7%が技術職人材の確保に難しさを感じているとのデータもあり、営業現場では「限られた技術者に負荷が集中しすぎて提案対応が遅れる」という声も約8割から上がっています。

EVやV2H販売に目を向けると、同様の傾向が見られます。EV・V2H関連商材の販売提案業務では92.5%が何らかの課題を感じており、特に「経済メリット・投資回収の試算」に最も工数がかかると41.1%が指摘しました。社内に十分なスキルやノウハウがないと感じている担当者も多く、そうしたスキル不足を実感している人の80.6%が業務の外部委託(アウトソーシング)に興味があるという結果も出ています。要するに、「お客様にメリットを伝えるための試算業務」に時間も人手も足りないというのが現場の本音なのです。

このように整理してみると、EV×エネルギー事業のボトルネックは大きく以下のようにまとめられます。

  • 経済効果の可視化が難しく伝わりづらい:システムを導入した際のメリット(電気代削減やガソリン代削減、投資回収年数など)の試算が複雑で、お客様に直感的に伝えるのが難しい。数字に弱い顧客にはピンと来ず、経営層にも具体的なイメージを持ってもらえないケースが多い。

  • データ収集や制度の情報収集に手間:膨大な電力料金プランや各自治体・国の補助金情報を調べて最適な条件を提示するのに時間がかかりすぎる。最新の電気料金プランは全国で3,000以上、新電力も含め頻繁に更新されますし、補助金も自治体ごとに制度が異なり期限もあるため、手作業で追い切れません。

  • 専門人材・ノウハウ不足:再エネ分野は比較的新しい領域であり、社内に経験豊富な人材が少ない。特に高度なシミュレーションや設計ができる人材は限られ、属人的になっている。その結果、繁忙期にはボトルネックとなり提案スピードが落ちる。

  • 顧客の不信感・心理的ハードル:顧客側にも「本当に元が取れるのか?」という不安があります。経済効果シミュレーションの信憑性を疑われた経験がある営業担当者は実に83.9%にのぼるという調査もあるほどで、数字の根拠に納得してもらえず成約に時間がかかるケースが多発しています。

  • 環境メリットだけでは動機付け不足:カーボンニュートラルやSDGsといった大義名分だけでは、企業も個人もなかなか投資に踏み切れない実情があります。実際、CO2排出量の「見える化ツール」を導入している企業でも、約7割が「可視化が直接的な利益やコスト削減につながっていない」と感じているとの調査結果があります。環境貢献と経済的メリットの双方を示さないと背中を押せないのです。

以上のような課題は裏を返せば、この分野で成功するための攻略ポイントでもあります。次章以降では、メタ思考・フェルミ推定・システム思考という3つの視点から、これら課題の本質をえぐり出し、解決策を探っていきましょう。

メタ思考:常識を疑い本質を見極める

「メタ思考」とは、一歩引いた高次の視点から物事を捉え、本質を見極める思考法です。EVエネルギービジネスで成功するには、まず業界の思い込みや常識を疑ってみることが大切です。例えば、「蓄電池は元が取れないから売れない」という声をよく耳にします。しかし本当にそうでしょうか? 国際航業の調査では、蓄電池購入者の85.6%が購入に満足しているとの結果が出ています。元が取れるかどうか(単純な投資回収)だけでなく、「太陽光とセットで電気代が下がって家計が助かる」「停電時の安心感が得られる」など お金に換算しにくい付加価値も含め、顧客はメリットを感じているのです。メタ思考的に考えれば、「蓄電池=損」という定説は一部しか真実を捉えていません。お客様が本当に求めている価値(経済的メリット+安心感や環境貢献など)を広い視野で捉え直すことが重要です。

同様に、「車は売って終わり」「エネルギー事業は電力会社の領域」といった自動車業界の固定観念も捨てましょう。EV時代には、自動車メーカー・ディーラーもエネルギーマネジメント企業へと進化する必要があります。実際にパナソニックは住宅向けの「おうちEV充電サービス」を開始し、最適な電力プラン選びや充電スケジュール管理まで含めたトータルサービスを展開しています。このサービス開発では自社で全国の電気料金プラン情報を抱え込まず、国際航業の提供する最新電力プランAPIを活用することで負担を大幅に削減しました。つまり「電気のことは電力会社に任せるしかない」という従来の発想から脱却し、異業種のアセットを積極的に取り入れて自社サービスに組み込むというメタ視点が成功のカギとなったわけです。

またメタ思考は、「そもそも何のためにそれをやるのか?」という根源的な問いを投げかけるのにも有効です。EVや蓄電池ビジネスの目的は単に機器を売ることではなく、顧客の課題(高騰するエネルギー費用や災害時の停電不安等)を解決し、持続可能な社会に貢献することです。この視座を常に意識することで、提案内容も変わってきます。ただ安くなるから導入しませんか?では響かない顧客にも、「万一の災害時でも家族の暮らしを守れるエネルギー自給自足の家を実現しましょう」といった切り口で訴求できるでしょう。業界の常識や目先の数字にとらわれず、本質的な価値を見極めるメタ思考を持つことが、戦略立案の第一歩です。

フェルミ推定:ざっくり計算でビジネスチャンスを掴む

次に、フェルミ推定の力を借りてみましょう。フェルミ推定とは、与えられた情報が限られていても論理的な仮定を置きながらおおまかな数値を素早く見積もる手法です。新規事業の計画段階では詳細なデータがなくても、「ざっくりこのくらい儲かりそうだ」「何年で回収できそうだ」という当たりをつけることが大切です。

例えば、EV向け家庭用充電エネルギーサービスの市場規模をフェルミ推定してみましょう。仮に日本のEV保有台数が2025年時点で100万台、そのうち自宅に充電設備を持つのが60%と仮定します。さらに、その半数が電力プラン見直しや蓄電池併用に関心があるとすれば、約30万世帯が潜在顧客になります。仮に1世帯あたり年間5万円のサービス収益が見込めれば、市場規模は150億円程度と見積もることができます(あくまで概算の一例です)。もちろん正確な数字ではありませんが、「思ったより大きいぞ」「ここの取り込み次第では○億円のビジネスになる」といった定量的な感覚を掴めるのがフェルミ推定の利点です。

また、個別の顧客提案でもフェルミ的な即応力は武器になります。国際航業の調査によれば、太陽光発電導入を検討する企業の約7割が「初期段階から具体的な数値提案を求める」と回答しています。初回提案時に経済効果の概算でもいいから示すことで、導入意欲が高まる傾向があるのです。営業マンは完璧なシミュレーション結果が出るまで提案を待つのではなく、「御社の場合、太陽光と蓄電池を入れれば電気代が年間○割、○万円減らせそうです」と素早く目安を提示することが重要です。これはまさにフェルミ推定的発想で、限られた情報から迅速にメリットを算出し伝えるスキルと言えます。

フェルミ推定を活用すれば、様々なシナリオでの損益分岐や必要顧客数なども見えてきます。例えばV2Hを普及させるにはどのくらい電力系統側のインセンティブが必要か、家庭の非常用電源ニーズはどの程度か、そういった問いにもざっくりとした答えを出せるでしょう。こうした試算は事業戦略の優先順位付けにも役立ちます。「どこにリソースを投入すれば最も効果が大きいか」を数字で裏打ちして判断できるからです。EVエネルギービジネスでは様々な要素が絡み合いますが、フェルミ推定で全体像を数値化し、チャンスの大きい領域にフォーカスすることが成功への近道となります。

システム思考:EV・住宅・グリッドを結ぶ全体最適

EVビジネスとエネルギービジネスを融合するには、システム思考による全体最適の発想が欠かせません。システム思考とは、個々の要素ではなくシステム全体の構造や相互作用に注目して問題解決を図る思考法です。EV・充電インフラ・住宅設備・電力網・行政施策……これらはバラバラではなく一つの大きなエコシステムとして捉える必要があります。

例えば家庭におけるエネルギーシステムを考えてみましょう。太陽光発電が発電した電力をまず住宅内で消費し、余剰があれば蓄電池に充電し、それでも余れば売電する。一方で不足分は系統(電力会社)から買電する。ここにEVが加わると、夜間にEVへ安価な電力を充電し、必要に応じて住宅へ給電(V2H)することで系統からの買電ピークを抑える、といったエネルギーフローの最適化が可能になります。つまり、太陽光・蓄電池・EV・グリッドが有機的に連携することで経済効果とレジリエンス(災害時の強さ)を最大化できるのです。

エネがえる診断レポートのサンプルページ。住宅用太陽光・蓄電池・EV・V2Hを導入した場合の1ヶ月および1日の電気利用フローを示している。太陽光で発電した電気が優先的に家で消費され、余剰は蓄電池やEVに充電されることで無駄なく活用されている様子がわかる(ピンクの部分が余剰ソーラーのEV充電など)。右図の1日のグラフでは昼間の太陽光発電(緑の山形)で家庭の需要をまかない、余剰は夕方以降の需要に回すことで、購入電力(紫の棒)が大幅に削減されている。のような全体最適のシナリオを描き、その実現方法を提案できれば、顧客にも「なるほどこうすればエネルギーを有効活用できるのか」と腹落ちしてもらいやすくなります。

システム思考では、「部分最適の積み重ねでは全体最適にならない」ことに注意が必要です。例えばEVの充電だけ最適化しても、住宅全体のエネルギーコスト削減には限界があります。太陽光や蓄電池と組み合わせてこそ真価を発揮するのです。また、エネルギーマネジメントは時間軸でも考える必要があります。昼夜の変動、平日と休日の差、季節変動、さらには将来的な電力単価や気象リスクまで視野に入れてシミュレーションすることが重要です。最近では電力の時間帯別料金やダイナミックプライシング(市場連動型料金)も増えており、30分単位での充放電最適化が求められる時代になってきました。幸い、シミュレーションツールも日々進化しており、2025年夏にはJEPX(卸電力市場)価格連動の料金プランに対応したAPIも公開予定とのことです。さらに2026年には、住宅・産業用問わず全ての経済効果シミュレーションを30分値×365日精度で行えるようメジャーアップデートが計画されています。こうした最新テクノロジーも活用しつつ、エネルギーシステム全体を統合的にデザインできる企業が、競争優位を確立するでしょう。

また、システム思考では関係者全体の最適化も意識します。EVオーナー個人だけでなく、電力系統全体や自治体、ひいては国全体でメリットが最大になる仕組みを考えるのです。例えば、蓄電池やEVが多数普及すれば、それらを束ねてグリッドの調整力として活用するVPPビジネスも見えてきます。エネルギーの需要と供給をきめ細かく調整するアグリゲーター(需給調整事業者)の役割が重要になり、再エネ発電の出力変動をAI予測しながら分散電源を制御するような高度な仕組みも登場しています。自動車メーカーや新電力会社が連携して、EV・住宅・発電所まで巻き込んだ地域単位のエネルギーマネジメント事業に乗り出す可能性も十分にあります。その際には、単に自社商品の利益だけでなく、関係するすべてのプレイヤーにメリットが行き渡るビジネスモデルを設計することが重要です。例えば、EVオーナーには電気代削減と売電収入、グリッド側には需給調整力確保、自治体には地域レジリエンス向上、といった具合にウィンウィンの関係を構築できれば、持続可能な事業となるでしょう。

データ活用とツール:見える化で信頼を勝ち取る

前述のようなシステム思考による最適解も、データに基づく裏付けがなければ机上の空論に終わってしまいます。そこで鍵を握るのが、経済効果を分かりやすく「見える化」するためのデジタルツール活用です。幸い近年は、難解なエネルギー計算を誰でも簡単に行えるクラウドサービスが登場しています。国際航業の提供するエネがえるシリーズはその代表例で、住宅用から産業用まで太陽光・蓄電池・EV・V2Hの導入効果を5分で試算し、美しい提案書を自動作成できるツールです。専門知識がなくても営業担当者自身がシミュレーションを回せるため、提案スピードと精度が飛躍的に向上します。実際、2024年に営業目標を達成した担当者の約半数(48.2%)は商談時にこうした経済効果シミュレーションツールを活用しており、未達成者より21.3ポイントも利用率が高かったというデータがあります。ツール活用が営業成績に直結していることは明らかです。

ツールによる見える化が有効なのは、顧客の不安を取り除ける点にもあります。言葉で説明されるより、グラフや数値で「これだけおトクになります!」と示された方が説得力が増します。例えばエネがえるで作成できる提案書では、「太陽光+蓄電池+EVを導入すると15年間で電気代+ガソリン代が約400万円削減できます」といった長期効果が一目で分かるバーグラフや、日々のエネルギー収支(昼間に太陽光でこれだけ賄えて、夜はこのくらい買電する等)が可視化されています。

エネがえる診断レポートのグラフ出力サンプル。太陽光・蓄電池・EV・V2Hを導入した場合の月別・年間のコスト削減効果長期シミュレーション結果が示されている。ピンク色は蓄電池やEV導入による電気代削減効果、紫色は太陽光発電による売電収入、グレーは導入しない場合にかかっていた従来の電気料金やガソリン代を示す。これを見ると、年々光熱費削減額が積み上がり、15年間で約400万円の実質削減(コストカット+収入増)が得られることが直感的に理解できる。このようにデータを視覚化して提示することは、顧客の信頼を勝ち取る上で極めて効果的です。

もちろん「数字なんて信じられない」という顧客もいるでしょう。しかし昨今では、その対策としてシミュレーション結果を保証するという革新的なサービスも登場しました。国際航業と日本リビング保証が提携して開始した「経済効果シミュレーション保証」は、試算した発電量の一定部分を保証し万一シミュレーションに大きな乖離が出た場合に保証金を支払うものです。国内初の試みですが、背景には「シミュレーション結果の信頼性」が普及のカギであるという業界認識があります。実際、産業用太陽光の導入を見送った企業の経営者の約7割が「提示されたシミュレーションの信憑性を疑った経験がある」といい、逆に「もし信頼できるシミュレーション結果が得られ保証まであれば導入したい」と答えた層が6割近くに上りました。住宅分野でも、「試算結果に対する保証があれば家族の同意を得やすくなる」「安心して導入を決断できる」という声が多く、調査によれば約7割もの検討者が保証制度があれば導入に前向きになるという結果が出ています。このように、データ提示+保証というダブルの安心材料を用意することで、初めて腰が重かった顧客が動き出すというケースも少なくないでしょう。

また、最新データの維持管理も重要なポイントです。電気料金プランや補助金情報は日々変化します。自社でそれらを逐一アップデートするのは大変ですが、幸いエネがえるAPIのように約100社・3,000プランの料金単価データを毎月自動更新し、時間帯別料金や市場連動型プランにも対応するデータサービスがあります。例えば前述のパナソニック「おうちEV充電サービス」では、このAPI導入により全国の電力会社の最新料金プラン比較シミュレーション機能を実装し、ユーザーに最適プランを提案できるようにしました。自社で膨大な料金データを管理する負担が減っただけでなく、安い時間帯に自動でEV充電を行う最適化まで実現し、ユーザーの電気代節約に大きく貢献しています。このように、外部のデータソースやAPIを上手に活用して自社サービスに組み込むことも、DX時代の新規事業成功には欠かせません。

まとめると、データとツールの力で「経済効果の見える化」と「信頼性の担保」を行うことが、EVエネルギービジネス立ち上げの実務面での肝と言えます。調査によれば、経済効果を見える化した提案を行うことで顕在顧客からの引き合い件数が増加したという報告もあり、営業効率や成約率の向上に直結しています。属人的な経験や勘ではなく、客観的なデータに裏付けされた提案を積み重ねていくことで、顧客からの信頼も得て持続的なビジネス成長が可能となるでしょう。

人材と組織のアップデート:アウトソーシングと教育研修

最後に、人材面・組織面でのソリューションについて考えてみましょう。どんな優れた戦略やツールも、それを扱う人がいなければ宝の持ち腐れです。しかし前述の通り、この分野は人材不足やノウハウ不足が深刻です。そこで有効なのが外部リソースの活用人材育成の両輪アプローチです。

まず外部リソース活用として注目されるのが、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスです。国際航業とエコリンクス社が提供を開始した「エネがえるBPO/BPaaS」は、再エネ導入提案に関わる一連の業務を専門チームが丸ごと代行するサービスです。具体的には、太陽光発電システムのレイアウト設計から経済効果シミュレーション代行、補助金申請書類の作成、そして営業担当者向けの研修まで、必要な部分を柔軟にアウトソースできます。料金も初期費用・月額固定費ゼロで、1件あたり1万円~という従量課金制。繁忙期だけ外部に頼んだり、社内にノウハウがない部分だけ単発でお願いしたりといった使い方も可能です。調査でもEV/V2H販売担当者の80.6%が業務負担軽減のための外部委託に興味があると示されていますから、まさに現場ニーズにマッチしたサービスと言えます。

アウトソーシングのメリットは、プロに任せて自社はコア業務に集中できる点と、高品質なアウトプットを素早く得られる点です。エネがえるBPOでは最短1営業日で試算レポートが納品される即納体制を敷いており、提案スピードが劇的に向上します。また「セカンドオピニオン」としても使え、自社提案書のクオリティチェック代替案の提示をプロに依頼して成約率を高めるといった活用もできます。BPOを上手に使えば、慢性的な人手不足やノウハウ不足という構造課題を補完しつつ、顧客対応力を底上げできるでしょう。

一方で、自社内の人材育成も中長期的には欠かせません。幸いエネルギー業界では最近、ユニークな研修ツールも登場しています。その一つが「ボードゲームdeカーボンニュートラル」という研修用ボードゲームです。これはゲームを通じて脱炭素の知識やエネルギーシステムの考え方を楽しく学べるもので、自治体職員や企業の新入社員研修などにも活用されています。「遊びながら学ぶ」形式の研修は参加者のモチベーションも高まりやすく、専門知識がない人でも興味を持ってエネルギーについて理解を深めることができます。国際航業の提供する脱炭素研修サービスでは実際にこのボードゲームを採用し、座学では得られない気付きや部署間の交流を促進しているとのことです。新規事業を成功させるには、社内の意識改革も重要ですから、こうした創意工夫ある人材教育を取り入れる価値は大いにあります。

また、営業担当者向けにはツールの使いこなし研修も有効です。エネがえるBPOでは「エネがえる操作研修」も提供しており、営業が自らシミュレーションを武器に戦えるようサポートしています。営業が経済効果を自信を持って語れるようになれば、技術者に頼り切りだった提案もスムーズになり、結果的に技術職の負荷軽減にも繋がるでしょう。実際、調査でも85.3%の人事担当者が「営業が簡単に使える試算ツールで営業力が上がれば、技術職のキャパシティ向上に繋がる」と期待しているといいます。社内の人材を育てつつ、外部の力もうまく借りて、組織全体でサービス提供力を高めていく。これが持続的成長のポイントです。

まとめ:ユーザビリティ発想で加速する脱炭素ビジネス

自動車メーカー・ディーラーがEV×エネルギー事業で成功するためのポイントを、メタ思考・フェルミ推定・システム思考という観点から見てきました。最後に本記事の内容を簡単に振り返りましょう。

  • メタ思考:業界の常識にとらわれず、本質的価値を見極める。EVや蓄電池の経済性に対する固定観念を疑い、顧客が本当に求めるメリット(経済+安心+環境)を幅広く捉える。自社の立ち位置も「車を売って終わり」ではなく「エネルギーサービス提供者」へと再定義する。

  • フェルミ推定:限られた情報からでも素早く概算を出し、ビジネスチャンスや提案メリットを数量的に把握・提示する。初期段階で具体的な数値提案を行うことで顧客の導入意欲を高め、戦略策定では市場規模や収支の当たりを付けて優先順位を決める。

  • システム思考EV・充電器・太陽光・蓄電池・グリッド・制度を一つのシステムとして捉え、部分ではなく全体で最適化する発想時間帯や季節変動まで考慮したエネルギーマネジメントを提案し、関係者全員にメリットが行き渡るビジネスモデルを設計する。

  • データ活用と見える化クラウド型の試算ツールやAPIを活用して経済効果を分かりやすく可視化し、顧客の不安を解消する。根拠データを示すことで信頼を得て成約率を上げ、最新情報の自動更新により提案精度と効率を維持する。必要に応じてシミュレーション結果の保証制度も導入し、背中を押す材料を提供する。

  • 人材・組織戦略外部の専門サービス(BPO)を賢く利用して、提案書作成や設計・申請業務の負担を軽減。同時に社内人材の育成にも投資し、ゲーム型研修などで楽しみながら知識習得させる。営業と技術の連携をツールで促進し、組織全体でお客様対応力を底上げする。

以上の施策を総合的に実行していけば、EVと再エネを組み合わせた新たなエネルギービジネスは大きく羽ばたくでしょう。日本の脱炭素化における根源的な課題の一つは「メリットが見えにくい」ことであり、それを解決する取り組みこそが普及を加速させます。ユーザーにとって分かりやすく役に立つサービスを提供するというユーザビリティ発想を忘れずに、ぜひ世界最高水準の知見と創造力でチャレンジを成功させてください。


ファクトチェックと出典情報まとめ

本記事で取り上げた統計データや事例は、最新の調査結果や公式リリースに基づいています。主な出典を以下にまとめます。

  • 課題に関する調査:「太陽光・蓄電池販売企業の88.2%が業務に課題あり」「EV/V2H販売担当者の92.5%が課題を実感」等の数値は国際航業の独自調査結果に拠ります。信頼性向上のため、調査方法はインターネットアンケート(リサーチ会社の協力)で行われており、有意なサンプル数を確保しています。

  • ツール活用の効果:営業担当者の48.2%がシミュレーションツールを活用し業績達成、提案準備に時間がかかり顧客対応遅れが生じている企業80.7%といったデータも、実際のアンケート結果からの引用です。それぞれ2025年発表の調査レポートに基づき、内容を確認済みです。

  • 事例紹介パナソニック「おうちEV充電サービス」に国際航業APIを導入した事例では、電力プラン情報管理の効率化や夜間充電最適化の効果について公式発表資料を参照し、正確に記述しています。また、経済効果シミュレーション保証サービス開始のニュースリリースから、導入見送り企業の声や保証ニーズに関するデータを引用しています。

  • 数値計算の妥当性:文中で行った市場規模や経済効果の概算については、公的機関や業界団体の発表するEV普及台数予測等を踏まえた上で、簡易なモデル計算をしています。あくまで概算例であり、具体的条件によって変動する可能性があることに留意しています。

本記事の内容は以上のような確かな情報源に基づいて構成されており、2025年6月時点で入手可能な最新データと知見を反映しております。読者の皆様が安心して参考にできるよう努めましたが、ビジネス環境は日々変化しますので、自社で計画を立てる際は最新情報の確認も行ってください。以上、ファクトチェック済みの情報をもとに執筆いたしました。

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国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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