EV充電効率85%が家庭の電気代に与える影響と実質走行コストの関係

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

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エネがえるEV/V2H
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EV充電効率85%が家庭の電気代に与える影響と実質走行コストの関係

電気自動車(EV)の普及が進むにつれ、家庭でEVを充電する機会が増えています。しかし「EVの充電効率は約85%程度」と言われることがあります。この数字は、コンセントから供給した電力量のうち15%ほどが充電時にロス(無駄)になることを意味します。では、この充電効率85%という事実は、家庭の電気代にどれほど影響するのでしょうか?またEVの実質的な走行コスト(1km走行あたりの費用)はどの程度上昇するのでしょうか?

本記事では2025年9月時点の最新データと知見に基づき、EV充電効率と電気代・走行コストの関係を徹底解説します。充電ロスが生じるメカニズム、その影響度合い、効率を高める方法、再生可能エネルギーとの連携による解決策などを網羅し、専門的な内容もわかりやすく解説します。EVユーザーの家計へのインパクトだけでなく、日本の再エネ普及・脱炭素における本質的課題にも踏み込み、世界最高水準の知見で分析します。EV充電の 「見えない損失」 に迫り、電気代節約と脱炭素双方に有益なヒントを探ってみましょう。

EV充電効率とは何か?その基本と85%の意味

EV充電効率とは、コンセントなどから供給した電力エネルギーのうち、実際に車載バッテリーに蓄えられる割合を指します。例えば充電効率が85%であれば、100kWhの電力を充電に使ってもバッテリーに蓄電できるのは85kWhで、残り15kWh分は熱などの損失として失われるという意味です。言い換えれば、投入したエネルギーの15%が走行には使われずにロスすることになります。

多くの家庭用EV充電(AC充電)の場合、充電効率は概ね85%〜95%程度に収まるとされています。効率が良い条件なら90%台に達することもありますが、状況によっては80%前後、場合によってはそれ以下に低下するケースもあります。充電効率85%という値はこの一般的な範囲の下限に近く、やや非効率な状態といえます。では、なぜ100%にはならずこのようなロスが発生するのでしょうか?次章で充電ロスの原因を詳しく見ていきます。

充電ロスの原因とメカニズム – なぜ電力の一部が無駄になるのか

EV充電時に生じるエネルギーロスには、さまざまな要因が関与しています。主な原因を整理すると以下の通りです。

  • 充電器の変換効率: 家庭用コンセントから供給される交流(AC)電流を、車のバッテリーに適した直流(DC)電流に変換する際にロスが発生します。オンボードの充電器(車載充電装置)の変換効率は100%ではなく、最新のEVでも約85〜95%程度です。変換部品で発熱が起き、その分のエネルギーが失われます。この充電器の損失が、充電ロスの最も大きな要因です。

  • ケーブルの抵抗: 充電ケーブルにも抵抗があり、電流が流れると発熱して一部エネルギーが熱損失します。特に長い延長ケーブルや細いケーブルを使うと抵抗値が高くなり、ロスが増加します。家庭用の短い太めケーブルでは損失はごくわずかですが、それでもゼロではありません。

  • バッテリーの温度状態: バッテリーセルの温度が高過ぎたり低過ぎたりすると、充電を受け付ける効率が落ちます。例えば猛暑でバッテリーが高温のときは、バッテリー保護のため充電電流を制限したり冷却ファンを回したりするため、充電に余計なエネルギーを要します。極端な低温下でも内部抵抗の増加で効率低下が起こります。高温時には平常時より5%程度効率が低下するとの報告もあります

  • 充電速度(出力): 急速充電(高出力充電)ではロスが増える傾向があります。バッテリーに短時間で大量の電気を詰め込もうとすると、内部で発熱が大きくなり、熱として失われるエネルギーも増加します。また充電器自体も高出力時には変換効率がやや低下する場合があります。一般に急速充電時の効率は通常の(ゆっくりした)充電に比べ数%〜十数%低下し、場合によってはロスが20%近く発生することもあります。つまり同じ電力量を充電するにも、急速充電だと余計に電力を消費することになります。

  • 充電の完了に近づいた状態: バッテリー残量が80%を超えて満充電に近づくと、充電電流が絞られ充電効率が悪化します。特に満充電付近ではロスが顕著に増え、効率が70%程度まで落ちることもあるとされています。充電後半はエネルギーの受け入れが渋くなり、電圧調整やバランス充電のためのエネルギーが多く消費されてしまうためです。

  • 車載機器の消費: 充電中、EV本体でも様々な補助システムが動作します。バッテリーの冷却(または加熱)用のポンプ・ファン、充電制御用コンピュータやシステム待機電力などもわずかながら電力を使います。このような充電プロセスを支える機器の電力も、最終的には充電ロスとして計上されます。例えば真夏に急速充電すると車両の冷却システムがフル稼働し、その電力消費が全体の数%に及ぶこともあります。

以上のように複数の要因が重なり、コンセントから供給した電力すべてが走行エネルギーに変わるわけではないのです。特に充電器自体の変換ロス高速・満充電時のバッテリー受入れ効率低下が大きな割合を占めます。言い換えれば、ゆっくり適温で80%程度まで充電するのが最もロスが少ない条件となります。とはいえ実用上、急速充電や満充電が必要な場面もあるため、ある程度のロスは割り切らざるを得ません。

普通充電と急速充電の効率比較 – 85%は高い?低い?

前節の原因からも分かるように、充電方法によって典型的な効率には差があります。一般に家庭や街中で使われる「普通充電」(AC200Vのゆっくりした充電)と、高出力の「急速充電」(DCチャージャーによる短時間充電)では、次のような効率目安が知られています

充電方式 一般的な充電効率の目安 特徴・解説
普通充電(AC充電) 約85%〜90%程度 家庭用コンセントや200V充電器での充電。時間はかかるがロスが小さく効率が良い。電力量あたりのコストも安い傾向。
急速充電(DC充電) 約70%〜80%程度 高出力の急速充電器による充電。短時間で充電できる反面、ロスが大きく効率が低下しがち。充電終盤では特に効率低下。

※上記は典型例です。実際の効率は車種や充電器性能、気温などにより前後します。

こうして見ると、85%という効率は普通充電の平均的な値と言えます。急速充電と比べれば遙かに高効率ですが、理論上の100%には届かないレベルです。実際、「充電効率90%出ていればかなり良好、80%台前半だとややロス多め、70%台は急速充電時や条件の悪いケース」という感覚になります。

特に日本の家庭では注意すべき点として、100Vコンセントからの充電があります。日本の家庭用コンセントは通常100Vですが、この100VでEVを充電すると効率が大幅に低下することが報告されています。実測例では、あるテスラ車で100V充電時の効率は約75%しかなく、「30円分の電気を使ったつもりが実際には40円分消費していた」という結果が得られました。一方で同じ車を200Vで充電した場合は約86%の効率が確認されています。つまり、家庭でも可能であれば200Vの充電設備を使用した方がロスを減らせるわけです。100Vは充電に非常に時間もかかるうえロスも大きいため、現実的にはEVオーナーは200Vコンセントや200V対応の充電器を自宅設置するケースがほとんどでしょう。

以上をまとめると、85%という充電効率は「普通充電としては許容範囲だがベストではない」程度の水準です。効率90%台を目指すには、良好なコンディション(適温、適切な設備)で充電する必要があります。一方、急速充電や不利な条件下では85%を下回ることも珍しくなく、場合によっては充電エネルギーの3割程度がロスすることもあります。充電効率85%は決して悪すぎる値ではありませんが、このロスを無視できない規模のエネルギー損失として捉えることが重要です。

EV充電効率85%の場合、家庭の電気代にどれほど影響するか

それでは、本題である家庭の電気代への影響を具体的に見てみましょう。充電効率85%とは、必要な電力量の約1.176倍(=100/85)を購入しなければならないことを意味します。平たく言えば、15%多く電気を買う=電気代が約15〜18%余計にかかる可能性があるということです。

電力量ベースの考え方と計算例

まず電力量ベースで考えます。例えばバッテリーに実際入れたいエネルギーが40kWhあるとします(40kWhはEVの中型バッテリー1台分の容量に相当)。効率100%なら40kWhそのままですが、効率85%では実際には約47.1kWh(=40÷0.85)の電力を使う必要があります。電気料金単価を仮に31円/kWhとすると、充電にかかる電気代は約1,460円(47.1×31円)です。一方、もしロスなく40kWhで済めば1,240円(40×31円)で済む計算なので、約220円の差, 率にして18%増となります。

実際の使用シーンでも確認してみましょう。ある試算では、バッテリー容量40kWhのEVを満充電する際、充電効率を約90%と仮定して1回あたり約1,376円の電気代がかかるとしています(電力量44.4kWh×31円/kWh=1,376円)。85%の場合はそれよりももう少し増え約1,460円となる計算です。1回の充電あたり80〜100円程度の差ですが、積み重ねれば無視できません。

月間・年間の電気代増加シミュレーション

電気代への影響は、走行距離(=使用電力量)にほぼ比例します。当然ながらEVにたくさん乗れば乗るほどロスによる余計な支払い額も増えます。典型的な例を考えてみましょう。

  • 中程度の走行: 毎日の通勤や買い物で1日あたり30〜40km走行する場合、EVの消費電力量は約5kWh/日と見積もられます(電費6km/kWh程度の場合)。月間では約150kWh、年間では1,800kWh程度の消費です。これを電気代に換算すると、単価31円/kWh・効率100%なら月4,650円・年55,800円ですが、効率85%では月5,470円・年65,640円となります。年間で約1万円の差が生じる計算です。月ベースでは800円程度(約15%)電気代が余計にかかるイメージになります。

  • 走行距離が長い場合: 例えば月に2,000km走るようなヘビーユースでは(月間の実バッテリー消費がおよそ500kWhに達する規模)、効率85%による消費電力量は約588kWhになります。電力単価25円/kWhで計算すると、電気代は通常なら12,500円のところが約14,700円に増加し、差額2,200円(18%増)ほど余計に支払うことになります。年間では約26,000円、数年乗れば数十万円規模にもなり得ます。走行距離が多い方ほど、充電ロスが電気代に与えるインパクトも大きくなります。

  • 走行距離が短い場合: 仮に週末だけEVを使う程度で月に50〜100kWh(数百km程度)の充電で済むライフスタイルなら、月額の差額は数百円〜1,000円未満に留まるでしょう。例えば月50kWh消費なら、85%効率時は約59kWh購入が必要で、単価30円なら電気代は1,770円(効率100%なら1,500円)となり、その差は月270円ほどです。小さい額ですが、年間では3,000円超となります。このようにわずかな使用でも、年間で見ると確実に数千円以上のロスコストが発生します。

以上から、充電効率85%による電気代増加分は「だいたい2割弱増し」と考えておくとよいでしょう。「EVの電費(電気代)は○円/km」といった試算をする際には、この係数を掛けておく必要があります。

さらに電力料金制度にも目を向ける必要があります。日本の多くの電力会社の従量電灯プランでは、月間使用量が300kWhを超えると料金単価が割高になる段階制を採用しています(第3段階料金)。EV充電によって家庭の月間使用量が300kWhを超過するケースでは、ロス以前に単価上昇で電気代が跳ね上がる可能性もあります。例えば普段月250kWhだった家庭がEV充電で+150kWh使って400kWhになった場合、300kWh超過分の100kWhは最高単価が適用されるため、思った以上に電気代が増えたと感じることがあるでしょう。電気代そのものを抑える工夫(後述の夜間プラン活用など)も合わせて検討が必要です。

また、電気契約の基本料金(契約アンペア)にも影響があります。家庭に200V充電設備を導入する際、多くは30A→50A契約など上位アンペアへの契約変更を伴います。例えば東京電力管内では30A契約の基本料金約990円/月に対し、50A契約では約1,650円/月(※地域やプランで異なる)となり、毎月数百円の固定費増となります。これは充電ロスとは別のコスト要因ですが、EV導入後の電気代全体として把握しておきたいポイントです。

EV充電効率と実質走行コストの関係 – 1kmあたりいくらになる?

充電ロスは**走行1kmあたりのエネルギーコスト(電費)にも影響します。EVはガソリン車に比べ燃料代が安いことが魅力ですが、ロスを含めた「実質走行コスト」**を正確に把握してみましょう。

EVとガソリン車の走行コスト簡易比較

まず、EVとガソリン車のエネルギーコストを単純比較してみます。一般的な数値として、EVは1kWhで5〜6km走行し、電気代は約30円/kWhとします。ガソリン車は燃費10km/L、ガソリン160円/L程度とします。この条件での1kmあたりコストは以下のようになります。

  • EV(理論値、ロス無し): 1km走行に必要な電力量は約0.167kWh(=1/6kWh)。電気代30円/kWhで計算すると、約5円/kmとなります

  • EV(充電効率85%の場合): 上記の0.167kWhはバッテリーに実際使われたエネルギー量です。効率85%では、1km走行あたり0.167÷0.85 ≈ 0.196kWhを消費します。したがって電気代は0.196kWh×30円 ≈ 5.9円/kmに上昇します。約0.9円/km(18%)のコスト増です。

  • ガソリン車: 1km走行に0.1L消費(=10km/L)し、ガソリン代160円/Lなら16円/kmとなります。燃費や燃料単価によって前後しますが、おおよそEVの3倍前後のコストです。

この比較から、充電ロスを考慮してもEVのエネルギーコスト優位性は明確です。EVはガソリン車より走行1kmあたりの費用が半分以下で済むケースが多く、仮に効率が悪い状況(例えば急速充電主体でトータル効率70%台になった場合)でも概ねガソリン車より割安でしょう。

しかし、EV同士で比較すれば充電ロス分だけ走行コストに差が生じるのも事実です。上記の例では5円/kmが5.9円/kmに増えています。仮に電費が極めて良い軽EV(10km/kWh)なら理論値3円/kmが3.5円/kmに電気代が高騰して40円/kWhの場合は6.7円/kmが7.9円/kmになる、といった具合に率として約2割弱の増加が発生します。特に電気料金が高い地域・時間帯ではロスによるコスト増も重くのしかかります。

「実質電費」が悪化することへの留意点

電気自動車のカタログ値やユーザー口コミでは「◯円/kmで走れる」という話が語られることがありますが、それらは多くの場合バッテリーに給電された電力量ベースの計算です。実際にはそこに充電ロス分の電力量と電気代が上乗せされるため、実質の電費(燃費に相当)はやや悪化することになります。例えば先述の5円/kmのケースでは、実質電費は約5.9円/kmとなります。

とはいえ、EVはメンテナンス費用や税金など総合的なランニングコストでも有利な面が多いため、この充電ロスによるコスト増だけを理由に経済性が損なわれることはありません。「想定より少し電気代が多くかかる」程度の違いですが、長期的なコスト試算をする際には織り込んでおくと現実に即した計画が立てられるでしょう。特に事業で多数のEVを運用する場合などは、全車でのロス分を合計すると無視できない額になり得ますので、効率向上策を講じておく価値があります。

家庭全体の電力使用量への影響 – EV導入で電気代はどれくらい増える?

EVを家庭で充電するようになると、家全体の電力使用量・電気代に占めるEVの割合が大きくなります。ここでは家庭内エネルギー消費の観点から、EV充電がどの程度インパクトを持つか整理します。

日本における一般家庭の平均的な電力使用量は、東京電力のデータによれば月約290kWh(30A契約の標準的家庭)です。オール電化住宅の場合で月660kWh程度が平均とされています。この中にEV充電が加わると考えてみましょう。

  • 中程度の利用の場合: 月150kWh(=約30km/日の走行)のEV充電を行うと、家庭の使用量は290→440kWh程度に増加します。単純計算で電力使用量が1.5倍になり、電気代も他の条件が同じなら1.5倍近くになります。上でも触れたように、300kWhを超える部分は電気単価自体が上がる料金体系が多いため、電気代はそれ以上に跳ね上がる可能性があります。具体には、東京電力の従量電灯Bでは300kWh超の単価は最も安い120kWhまでの単価より5割近く高く設定されています(地域により異なります)。つまりEVなしでは適用されなかった高単価帯まで突入してしまうわけです。

  • ヘビーユースの場合: 月300〜500kWhもEV充電に使うようなケースでは、月間使用量が800〜1000kWhといった従来では考えにくいレベルに達することもあります。ここまで来ると電気代も相当額(月2〜3万円超)となり、家庭のエネルギー支出の中でEV関連が大きなウエイトを占めます。また契約容量も見直し必須でしょう。例えば月1000kWh使う家庭だと契約容量60A以上が推奨されます(30A契約では同時使用電力の制約でまず支障が出る)。契約容量を上げれば基本料金も上がるため、電気代の固定費も増加します。

  • ライトユーザーの場合: 月50〜100kWhのEV充電なら、家庭の使用量は300→350-400kWh程度です。電気代に占めるEVの割合は2割〜3割増し程度ですが、絶対額としては月1,500〜3,000円前後の範囲でしょう。ただし年間では1.8〜3.6万円の負担増となり、決して軽視できません。特に燃料代から電気代への付け替えで家計管理する際、ガソリン代が減った分以上に電気代が増えていないか定期的にチェックすると良いでしょう。

以上のように、EV導入は家庭の電力使用量を大幅に押し上げる可能性があります。これは裏を返せば、家庭のエネルギー管理・節電意識をより一層高める必要があることも意味します。電気代が思ったより増えて家計を圧迫する事態を避けるため、次章で述べるような電力プランの見直し充電方法の工夫が重要となってきます。

再生可能エネルギー・脱炭素との関係 – 充電効率問題が浮き彫りにする課題

EVは走行時にCO2を排出しないクリーンな乗り物ですが、電力を大量に消費することで間接的に発電由来のCO2排出やエネルギー需給に影響を与えます。充電効率の問題は、単なる家計の損得に留まらず、エネルギーの有効活用や脱炭素という観点からも重要な論点です。

エネルギーロスがもたらすマクロな影響

充電ロスとして失われた15%の電力は、発電サイドから見ると無駄に発電し無駄に放出されたエネルギーです。仮にそれが火力発電由来であれば、本来必要なかった追加の燃料燃焼とCO2排出が発生したことになります。再生可能エネルギー由来であっても、せっかく作ったクリーン電力の一部を徒労に終わらせたことになります。EV一台あたりでは年間数百kWh程度のロスかもしれませんが、仮に100万台のEVが普及してそれぞれ年間200kWhをロスしたとすれば、合計2億kWh(0.2TWh)もの電力量が無駄に消費される計算です。将来的にEVが数百万台規模で普及すれば、このロス電力量も発電所何基分もの規模となり、無視できないインパクトとなります。

したがって、社会全体で見てもEVの充電効率を向上させることはエネルギーの有効活用とCO2排出削減につながる課題です。効率が10%向上して95%になれば、同じ走行のための発電量を約5〜10%減らせる計算になり、大きな効果があります。

充電効率向上の技術と取り組み

この課題に対処すべく、技術開発面と運用面の両方からアプローチが進んでいます。

まず技術開発面では、充電器および電力変換回路の高効率化が鍵となります。近年、電力変換用の半導体デバイスに従来のシリコンに代えてSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった新素材を用いることで、損失を大幅に減らす技術が登場しています。これにより充電器自体の変換効率を飛躍的に高め、95〜99%に近づけることも可能になりつつあります。実際、テスラをはじめ各メーカーが新世代のオンボードチャージャー開発にこれらの技術を取り入れており、将来的には**「充電ロス1割以下」が当たり前**になるかもしれません。

またワイヤレス充電のような新技術にも効率向上の余地があります。地面に埋めた充電パッドの上に車を停めるだけで充電できるシステムは便利ですが、従来は効率低下が課題でした。ところが最新の試験では11kW級のワイヤレス充電で85%前後の効率を達成し、有線充電に匹敵するレベルに近づいています。今後さらなる改良で90%台に乗せる計画もあり、利便性と効率を両立すべく技術革新が進んでいます。

運用面では、充電の仕方やエネルギーの使い方の工夫が脱炭素に直結します。例えば、再生可能エネルギーの余剰電力を利用してEVを充電する取り組みです。日中太陽光発電が盛んな時間帯にEVに充電すれば、仮に15%ロスしてもその電力はクリーンな太陽光由来なので追加のCO2排出を招きません。それどころか、家庭や地域で余って捨てられるはずだった再エネ電力を有効活用できます。実際、EVを保有する家庭は太陽光発電との相性が良く、自家消費率(発電した電気を自宅で使う割合)が大幅に向上するため電気代削減メリットも大きいとの報告がありますある試算では、太陽光5kWと蓄電池5kWhを導入しEVも活用する家庭では、年間12〜18万円もの電気代削減効果が見込まれるといいます。これはEV自体のガソリン代節約と、太陽光の有効利用が相乗効果を生んだ結果です。

さらに、V2H/V2G(Vehicle to Home/Grid)といった技術も注目されます。これはEVのバッテリーを住宅や電力系統に逆に供給(放電)する仕組みで、蓄電池としてのEV活用法です。再エネが余っているときにEVに蓄電し、需要ピーク時にEVから電力を取り出せば、電力網全体の効率化や安定化につながります。日本でもCHAdeMO規格を使ったV2H機器が販売され始めており、災害時のバックアップ電源やピークシフトへの活用が期待されています。ただし、充電時と放電時の両方で変換ロスが生じるため(往復で概ね15〜20%のロス)、現時点では効率面の損失を補って余りあるメリットがあるか慎重な検討が必要です。それでも、エネルギー全体を俯瞰して最適に制御するシステム思考の下では、EVの充放電効率も許容範囲内で活躍できる場面が多いでしょう。

抜本的課題: クリーンな電力を無駄なく使う仕組みづくり

総括すると、EV充電効率85%問題の本質的課題は「貴重なエネルギー資源をいかに無駄なく、環境負荷少なく使うか」にあります。技術面では効率95%・99%を目指しつつ、社会システムとしてはEVと再エネを組み合わせてカーボンフリーかつロス最小のエネルギー循環を構築することが目標となります。

日本の脱炭素戦略においても、運輸部門の電化(EV化)は再エネ拡大とセットで考える必要があります。EVが増えても電力が化石燃料発電中心では効果半減ですし、せっかく再エネ発電してもEV充電が非効率ではもったいないです。両者をいかに効率よく結びつけるか——例えば「再エネ電力100%で動くEV」を実現する——ことが、日本の再エネ普及加速・脱炭素化における根源的課題と言えるでしょう。

そのために必要なのは、エネルギーマネジメントの最適化です。各家庭やビルが太陽光や蓄電池、そしてEVを賢く連携させ、必要なときに必要なだけ充電・放電するスマート充電の仕組みが鍵となります。また、電力会社や自治体レベルでもEVの充電をコントロールしてグリッド全体の効率を上げる実証が進んでいます。将来的には、夜間の余剰原子力・風力でEVを充電し昼間は走行、夕方の需要ピークには一部電力を家に戻す、といったことが当たり前になるかもしれません。

充電効率85%という一見地味な数字の裏側には、このようにエネルギー政策・技術革新・ユーザー行動の総合的な課題が横たわっています。私たちユーザー一人一人も、自宅での効率的な充電や再エネ活用に取り組むことで、脱炭素社会に向けた大きな歯車の一部を担うことができるでしょう。

充電ロスを減らすための実践ポイント – 賢い充電でコスト&CO2ダウン

ここまでの解説で、充電ロスのメカニズムと影響はご理解いただけたと思います。では、ユーザーの工夫で充電効率を高め、電気代負担や環境負荷を減らすには具体的にどうすれば良いか、いくつかポイントをまとめます。

  • 200V充電器を活用する: 前述の通り、日本の家庭用100V充電は大きなロスと長時間化を招きます。専用の200Vコンセントやウォールボックス型充電器を設置し、可能な限り200Vで充電しましょう。初期投資はかかりますが、充電効率向上(75%→85%以上)と時短のメリットは大きく、長期的な電気代節約や利便性向上に繋がります。

  • 高効率な充電設備を選ぶ: 車種によってオンボードチャージャーの性能は異なります。購入時に公表されている充電器の効率や、ユーザーの実測レビューなどを調べ、なるべくロスの少ない車種・充電器を選ぶのも一策です。また後付けの家庭用充電器(EVSE)でも、品質の良いものは発熱が少なくロスも抑えられています。発熱が大きい安価な充電器は効率面でも不利になりがちです。

  • 充電電流は適正に: 一部の充電器や車では電流値を調整できます。「ゆっくり充電すれば効率が上がるのでは?」と思うかもしれませんが、極端に電流が少ないとかえって効率が落ちる場合もあります。充電器の待機消費やバッテリー自己放電補填など一定の固定ロスがあるため、ダラダラ長時間よりは適度な電流で充電した方がトータル損失が減ることもあります。あるユーザーの報告では、200V環境で13A(約2.6kW)と15A(3kW)で充電した比較では効率に差は見られず、いずれも約85%だったとのことです。むしろ電圧を確保することの方が重要で、100Vより200Vの方が効率が良いのは確実です。家庭ではメーカー推奨の適正な電流値で、安全かつ効率よく充電しましょう。

  • 満充電を控えめに: 毎回バッテリーを100%まで充電する運用は、充電後半の非効率なロスを増やす原因となります。日常利用では80%〜90%程度までの充電で切り上げることを習慣づけると良いでしょう。例えば80%までなら充電効率90%前後で済んだものが、100%まで粘るとトータル効率が70%台に落ちることもあります。必要な分だけ充電するのが無駄を省くコツです(バッテリー寿命の観点からも満充電を控えるメリットがあります)。

  • 急速充電の頻度を減らす: 急ぎの長距離移動時などは仕方ないですが、普段から急速充電ばかり使っていると効率面でも経済面でもデメリットが大きいです。急速充電は1回あたりの電力単価も自宅より割高(※後述)ですし、ロスも増えます。基本は自宅や職場での普通充電をメインとし、急速充電は旅先など必要な時だけに絞るのが理想です。どうしても急速充電する場合も、短時間で切り上げる(例えば80%になったら止める)だけで無駄なロスと時間を減らせます。

  • 充電するタイミングと気温に配慮: バッテリー温度が高い直後(高速走行後や猛暑日はバッテリーが熱を持っています)より、少しクールダウンしてから充電開始した方が効率が良いです。逆に極寒の屋外では、駐車後すぐはバッテリーが冷えて効率が落ちているかもしれません。その場合は走行直後のほうがバッテリーが温まっていて効率的なこともあります。季節によって最適なタイミングを図るのも上級テクニックです。また夜間は気温が下がりやすく、充電中の熱損失が逃げやすい(冷却しやすい)利点もあります。総じてバッテリーに負担の少ないタイミングを見計らって充電することが、効率アップとバッテリー寿命維持に繋がります。

  • 電力プランと組み合わせる: 直接的な効率とは異なりますが、電気料金単価を下げる工夫も重要です。多くの地域でEVユーザー向けの夜間割引プラン時間帯別料金プランが提供されています。夜間の安価な時間に集中的に充電すれば、ロス分を含めても電気代を大幅に抑えられます。例えば深夜電力が昼間の半額なら、15%のロスがあっても実質的な走行コストは昼間充電の約半分にできます。契約プランを見直していない方は、一度電力会社のEV向けメニューを調べてみると良いでしょう。

  • 太陽光発電など自家電源の活用: 自宅に太陽光パネルがある場合は、できるだけ日中の発電電力でEVを充電するようスケジューリングすると経済的です。売電するより自家消費したほうが得なご時世ですし、ロス分まで含めても無料の太陽光でまかなえれば痛手はありません。蓄電池があれば、昼に貯めた電気を夜EVに充電することもできます(その際充放電ロスは発生しますが、それでも購入電力を減らせます)。太陽光×EVの組み合わせは非常に相性が良く、先述のように電気代削減効果も大きいので、導入可能な家庭は検討してみる価値があります。

  • 車両のメンテナンス: 充電効率と直接関係は薄いですが、車両のメンテナンス(タイヤ空気圧やブレーキ調整など)を適切に行い走行効率(電耗)自体を良好に保つことも、広義には「充電あたりの走行距離を伸ばす=実質効率向上」に繋がります。また充電ポートやケーブルの汚れ・腐食を防ぐことで接触抵抗によるロスや発熱を防ぐ効果もあります。常に機器をベストコンディションに保つことが結果的にエネルギーロス低減にも寄与します。

以上のポイントを実践することで、充電ロスによる無駄な出費やエネルギー浪費を最小限に抑えることができます。言い換えれば、「EVを上手に使いこなす」ためのコツとも言えるでしょう。続いて、よくある質問形式で今回のテーマをおさらいし、疑問点を解消していきます。

よくある質問(FAQ)

Q1. EVの充電効率が85%とはどういう意味ですか?

A1. 充電効率85%とは、充電に使った電力量のうち85%がバッテリーに蓄えられ、15%がロスする(無駄になる)ことを意味します。例えば家庭から10kWh電気を供給しても、EVのバッテリーには実質8.5kWhしか入りません。残り1.5kWh分は、充電器の発熱やケーブルの抵抗、バッテリー充電時の熱放散などで失われています。効率100%が理想ですが、現実の充電ではこのようなロスが必ず発生します。一般的な家庭用充電では効率85〜95%程度なので、85%はその下限寄りの値です。

Q2. どうして充電ロスが発生するのですか?

A2. 主な原因は機器とバッテリーの物理的性質によります。家庭用コンセントの交流電気を車載バッテリーの直流に変換する際、充電器内部の電子部品で抵抗やスイッチング損失が生じ熱になります。また充電ケーブルにもわずかな抵抗があり、電流が流れると発熱ロスがあります。バッテリー自体も充電時に化学反応で熱を持ち、特に急速充電時や満充電付近では熱損失や反応ロスが増えます。さらに冷却ファンやポンプなど補機類も電力を消費します。要するに電気を移し替えるプロセスで起こる「摩擦」のようなものとお考えください。理論上は超伝導や理想デバイスを使えばロスゼロも夢ではありませんが、現実の機器では多少のロスは避けられません。

Q3. 自分のEVの充電効率はどうすれば分かりますか?

A3. いくつか方法があります。一つは車載の電力計と家庭の電力計を比較する方法です。多くのEVは充電量(何kWh充電したか)を車の表示画面やアプリで確認できます。その数値と、実際に家の電力量計(スマートメーター)で増えた使用量を比べれば、おおよその効率が計算できます(車側表示÷家の増加量)。例えば車が20kWh入ったと表示し、家のメーターが24kWh増えていれば効率約83%です。また家庭用の電力モニターを充電回路に設置し、充電器に流れた電力量を測る方法もあります。最近はIoT対応コンセントなどで簡易に計測できます。さらに、高度な方法ですがEVのOBD-II端子などからバッテリーへの実エネルギー流入量を取得し、家の消費電力量との差分から計算する手法もあります。いずれにせよ、「バッテリーに入った量」と「コンセントから取った量」を比較できれば効率算出が可能です。市販のEV用充電ケーブルにメーターが付いた製品もあります。

Q4. 充電ロスを減らすにはどうすればいいですか?

A4. ポイントは3つあります。(1) 設備面では、高効率な200V充電器を使い、ケーブルやコネクタの状態を良好に保つこと。100V充電は非効率なので避けましょう。(2) 充電運用面では、なるべくバッテリーに優しい充電を心がけること。具体的には急速充電の乱用を控え、満充電まで充電し過ぎないようにします。80%程度でストップすればロスを大幅に減らせます。(3) 環境面では、バッテリー温度に配慮し、極端な高温・低温時の充電を必要以上に行わないことです。夏場は走行直後ではなく少し冷めてから充電開始する、冬場は逆に走行直後に充電してしまうなど、工夫できます。また夜間や涼しい場所で充電するのも効率向上に寄与します。これらを実践することでロスは最小限に抑えられます。

Q5. EVを家庭で充電すると電気代はどのくらい上がりますか?

A5. 走行距離や電力単価によって大きく異なりますが、目安をお答えします。例えば月1,000km走行する場合(電費6km/kWh程度)、月に約167kWh消費します。電気代単価を30円/kWhとすると理論上5,010円ですが、効率85%なら約5,900円かかります(約900円増加)。年間では1万円強の差です。月500km程度なら増加分は月450円・年5,000円前後、月2,000km走行なら月1,800円・年2万円超の差、といったイメージです。「EVを充電した分の電気代」の約15〜20%がロスによる上乗せと見込めます。また先述の通り、EV充電で使用量が増えると電気料金の単価区分が上がる可能性もあり、その影響も加味すると家全体の電気代は平均で数千円〜1万円以上増えるケースが多いです。ただしその分ガソリン代は減っていますので、トータルの家計支出ではEVの方が安くなるケースがほとんどです。

Q6. EVの電気代はガソリン代より本当に安いのですか?充電ロスを入れてもお得?

A6. 一般的には圧倒的に安いです。例えばガソリン車がリッター15km・ガソリン160円/Lの場合、1kmあたり約10.7円の燃料代です。一方EVは電費5km/kWh・電気代30円/kWhなら理論値6円/km、効率85%を加味しても約7.1円/kmです。EVの方が3〜4割安い計算になります。ガソリン代が高騰すれば差はさらに開きます。ただし、電気代も地域や契約によっては高いため、深夜電力を使うなど工夫しないと想像より電気代がかかるという声もあります。総合的には車両価格やメンテナンス費用を含めてもEVの方がトクになりやすいですが、電力契約を最適化するかどうかで「お得度」に差が出ます。充電ロス分を入れてもEV優位は揺るぎませんが、なるべくロスを減らし安価な電力で充電することでメリットを最大化できます。

Q7. 急速充電ばかり使うと電気代的に損ですか?

A7. はい、割高になるケースが多いです。急速充電器(公共のEVスタンドなど)は、多くの場合1回あたりの料金設定が自宅充電より高めです。例えば30kWhの充電に、自宅なら電気代約900円で済むところ、急速充電だと1,500円以上かかる、といったことは珍しくありません。これは充電事業者の設備維持費等も含まれるためです。さらに効率面でも、急速充電はロスが多くバッテリーにも負担がかかります。頻繁に使うと電池劣化も進みやすく、長期的な費用増(バッテリー交換など)にもつながりかねません。したがって急速充電は本当に必要なときだけに留め、普段は自宅や職場での普通充電を主体にするのが経済的です。ただし遠出の際に高速道路の急速充電を使うのは便利さとのトレードオフなので、そこは割り切って使いましょう(旅行のガソリン代と思えば、それでも安く済むことも多いです)。

Q8. EV充電の電気代を節約するコツはありますか?

A8. 電力契約の見直しとフリー充電スポットの活用がポイントです。まず、ご自宅の電力プランを確認してください。各社がEV所有者向けに夜間割安プランを出していたり、深夜電力料金が大幅に安いメニューがあります。そういったプランに切り替え、可能な限り夜間(または安価な時間帯)に充電するだけで電気代を大きく減らせます。次に、商業施設や道の駅などに設置されている無料または安価な充電スポットを賢く利用しましょう。買い物中に無料充電できれば自宅電気代を減らせます。ただし遠回りして充電のために出かけるようでは本末転倒なので、あくまで「ついで充電」を心がけると良いでしょう。また前述の通り、太陽光発電をお持ちなら日中の自家充電が最安・最クリーンです。逆に、ピーク時間帯(夕方〜夜早い時間)の充電は電気代単価も高く電力需給的にも負荷が大きいので避けるのが望ましいです。要は**「安い電気を使い、高い電気を使わない」工夫ですね。こうした対策で、同じ走行をしていても電気代を年間数万円単位で節約**できる可能性があります。

Q9. 充電ロスはバッテリー劣化にも関係ありますか?

A9. 間接的には関係します。充電ロスの大部分は熱として発生しますが、この熱がバッテリーセルを高温にさらすと劣化を早める原因となります。急速充電や満充電付近で効率が悪いときは、同時にバッテリーへストレスがかかっている状態でもあります。ですから効率の良い充電=穏やかな充電は、そのままバッテリー寿命にも優しいと言えます。逆に効率の悪い充電(高速・満充電・高温)はバッテリーにも負担大です。ただし充電ロスそのものが劣化させるというより、劣化要因とロス要因が共通しているイメージです。充電ロスを減らすような工夫(ゆっくり目に、80%くらいまで等)はそのまま電池を長持ちさせるコツにもなっています。

Q10. 家庭でEVを充電するとブレーカーが落ちたりしませんか?

A10. 適切な設備と契約を整えれば問題ありません。EV充電器(普通充電)はだいたい3kW前後の電力を連続で使います。家庭の契約アンペア数が小さい(例えば30A契約だと約6kWまで)場合、他の家電と同時使用でブレーカーが落ちる可能性があります。そのため多くのEVオーナーは50Aや60Aなど大きめの契約に変更しています。また200Vコンセントも専用回路を設け、安全ブレーカーでしっかり保護すれば、充電中に電子レンジを使っても落ちるようなことは基本ありません。もし契約容量に余裕がなく心配な場合、充電時間帯を工夫する手もあります。例えば深夜に充電すれば他の電気製品はあまり使わないでしょうから、既存契約のままでもやりくりできます。さらに高度な充電器では、家の消費電力をモニターしてピークを避ける充電(負荷制御)を行うものもあります。このように設備と運用で対応すれば、ブレーカー落ちの心配は過度にいりません。設置時に電気工事業者と相談し、最適な設定にしてもらいましょう。

まとめ:充電効率を理解し、EVを賢く使おう

EVの充電効率85%というテーマから、電気代や走行コスト、さらにはエネルギー政策にまで話を広げてきました。最後に要点を整理して締めくくります。

  • 充電効率85%とは、投入電力の15%がロスすることを意味し、電気代にして約18%前後の上乗せコストとなります。EVの電費計算や家計管理ではこのロス分を織り込む必要があります。

  • 充電ロスの主因は充電器の変換損失バッテリー充電時の発熱であり、急速充電や満充電では特にロスが増大します。普通充電で適温・適度な充電を行えば効率90%前後も可能で、ロスを大幅に減らせます。

  • 家庭の電気代はEV導入で確実に増えますが、それ以上にガソリン代が削減されるため、多くの場合トータルコストはEVの方が安くなります。ただし電力プランや充電方法によって電気代負担は変動するため、安い電気を使う工夫が重要です。

  • EVの実質走行コスト(円/km)は充電ロス分だけ悪化しますが、それでもガソリン車より割安です。例えば5円/kmが5.9円/kmになる程度の差で、依然として同クラスのガソリン車の半分以下の燃料費と言えます。

  • 充電ロス削減のために、200V高効率充電設備の利用無駄のない充電習慣(急速充電や100%充電の控えめ化)電力契約の最適化などが有効です。ユーザーのちょっとした心がけで、電気代もバッテリー寿命も良い方向に向かいます。

  • 日本の脱炭素や再エネ普及という観点では、EV普及と同時に電力のクリーン化・効率化が重要課題です。充電効率向上技術の開発や、EVと再エネを組み合わせたエネルギーシステム(例:太陽光でEV充電、V2Hで住宅に給電)が鍵を握っています。

  • 最終的に、EVを賢く使いこなすことが家計にも環境にもプラスになります。充電効率という一見地味な数字にも目を向け、正しく理解して対策すれば、「電気代が高くて大変だ」といった不安も和らぐでしょう。幸いEVは使い方次第でメリットを最大化できる乗り物です。本記事の知見がお役に立ち、皆様のEVライフがより経済的かつエコロジーなものになれば幸いです。

参考文献・出典リンク一覧

  1. Japan Energy Times (2025年7月22日). 「電気自動車の充電ロスは何%?実際の電力消費量と請求額の差」. 充電ロスの原因やロスが電気代に与える影響について解説した記事。<br>URL: https://japan-energy-times.com/electric-vehicle-charging-loss-percent-power-consumption/

  2. ikehouse「チューチューマウスと仲間たち」ブログ (2025年3月22日更新). 「EV充電効率を最大化するコツ | 電気自動車のコストと時間を節約」. 筆者がテスラ車で100V・200V充電効率を実測し、効率改善のポイントを紹介した記事。<br>URL: https://www.ikehouse.co.jp/car/ev-charge-efficiency/

  3. コバデン(株式会社コバデン)公式ブログ (2025年5月10日). 「電気自動車を家で充電!電気代の目安と節約法を徹底解説」. 家庭充電の具体的な電気代計算例や、急速充電との費用比較、電力プランの解説など。<br>URL: https://kobaden.biz/blog/ev/189018

  4. 東京都環境科学研究所 年報2022 (陸田雅彦 他). 「使用過程における電気自動車の電費計測について」 (PDF). シャシダイナモ上でEVの公定モード走行試験後に普通充電を行い、充電エネルギーのロスを測定した研究報告。約12%の充電ロスを確認と記載。<br>URL: https://www.tokyokankyo.jp/kankyoken/wp-content/uploads/sites/5/2022/12/2-1.pdf

  5. クルマの大辞典 (2024年6月20日). 「電気自動車の寿命を決める?充放電効率を徹底解説」. EVの充電・放電効率の基本概念や影響要因、高効率充電器の設計について解説した記事。<br>URL: https://kuruma-jisho.com/electrical-parts/understanding-ev-battery-efficiency-charge-and-discharge/

  6. エネチェンジ (2020年10月28日). 「電気使用量は『電気使用量のお知らせ』で確認!一般家庭の電気使用量の平均ってどのくらいなの?」. 家庭の平均的な月間電力使用量や従量電灯の料金区分に関する解説記事(東京電力のデータ引用)。<br>URL: https://enechange.jp/articles/electricity-usage

  7. エネがえるブログ (国際航業 株式会社, 2025年4月25日). 「2025年最新 家庭の電気・ガス使用量完全ガイド:太陽光、蓄電池を導入するとお得になるモデル世帯とは?」. 再エネ設備導入効果シミュレーションの専門家による記事。EV保有世帯の電力消費モデルや太陽光+EVでの電気代削減効果、投資回収年数などを分析。<br>URL: https://www.enegaeru.com/2025demand-pv-strageguide

  8. BestChargers.co.uk (2024年, 英語). 「How EV Charging Will Change by 2035: Trends and Transformations Ahead」. EV充電インフラの将来展望をまとめた記事。現行のワイヤレス充電技術について**「Qualcomm Haloは11kWで85%効率を達成し多くの有線AC充電器に匹敵する」**等の記述あり。<br>URL: https://www.bestchargers.co.uk/how-ev-charging-will-change-by-2035-ultra-fast-networks-smart-grid-revolution/

ファクトチェックと信頼性の確保

本記事の内容は、2025年時点で入手可能な最新のデータや信頼性の高い情報源を基に作成されており、各所に引用を明示しています。充電効率や電力消費量に関する数値、電気代試算の前提などは、実測報告【4】【1】や専門メディアの記事【2】【3】、公的研究機関の発表【4】、エネルギー関連企業のデータ【6】【7】を組み合わせて検証しました。例えば「家庭用充電効率は85%〜95%」という記述はJapan Energy Timesの記事【1】に基づき、「100V充電で効率75%」はユーザーブログの実測【2】に基づくものです。費用試算に用いた電力単価やEVの電費も複数の出典から妥当性を確認しています。

また、記事末尾に参考文献リンクを一覧で掲載し、読者が各情報の出典に直接あたれるようにしました。これにより透明性を確保し、事実に裏付けられた解説となるよう努めています。引用したデータは日本国内だけでなく海外の技術レポート【8】も含めてクロスチェックし、矛盾や大きな開きがないことを確認済みです。専門用語や技術についても可能な限り平易な説明を加え、誤解を招かない表現に留意しました。

以上のファクトチェックと出典明示により、本記事の信憑性を担保しています。読者の皆様にはぜひ参考文献もご覧いただき、ご自身でも情報の確かめを行っていただければと思います。正確な知識に基づき、安心してEVライフをお楽しみください。

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著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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