OTA/SDVで変わるBEVの価値 市場動向とソフト課金の未来予測

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

むずかしいエネルギー診断をカンタンにエネがえる
むずかしいエネルギー診断をカンタンにエネがえる

OTA/SDVで変わるBEVの価値 市場動向とソフト課金の未来予測

はじめに:クルマの価値が変わる転換期

電気自動車(BEV)市場は、世界的な電動化の波とともに100年に一度の大変革期を迎えています。特に近年注目されるのがOTA(Over-The-Air)アップデートSDV(Software-Defined Vehicle、ソフトウェア定義型自動車)による「クルマのソフトウェア化」です。

これにより、自動車の価値の源泉がハードウェア中心からソフトウェア・サービスへとシフトしつつあります。一方、世界のBEV販売は年々加速し、2024年には新車販売の2割超が電動車となり、2030年には世界全体で新車の4割以上がEVになる見通しです。こうした中、車載ソフトの課金ビジネスや、クルマをエネルギーインフラと統合する新たな取り組みも始まっています。本記事では2025~2030年のBEV市場動向を分析し、OTA/SDV化によって生まれる価値の変化ソフトウェア課金モデルの展望、さらに日本発の「つなぐ設計」による脱炭素ソリューションまで、世界最高水準の知見をもとに解説します。

OTAとSDVとは何か?車を定義し直すソフトウェアの力

まず、OTAとSDVが何を意味するか整理しましょう。OTAアップデートとは、スマートフォンと同様にクルマのソフトウェアを無線経由で更新できる技術です。これによりユーザーはディーラーに行かずとも車の機能改善や不具合修正を受けられます。SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)「ソフトウェアで定義される車」のことで、車載ソフトウェアによって車両の性能や振る舞いが決定づけられるコンセプトです。代表的な例が米テスラで、2012年からOTAを導入しナビ性能、バッテリー制御、モーター出力、ブレーキ制御、自動運転支援に至るまで、ソフト更新で車両性能を向上させてきました。これは「走るスマホ」とも評され、購入後も車が進化し続けるモデルです。

SDVの登場により、自動車業界は「製品(ハード)販売」から「製品+サービス販売」への転換を図っています。ユーザーにとっては買った後も常に最新機能を享受できるメリットがあり、メーカーにとってはソフトウェア機能のオンデマンド販売やサブスクリプション提供による新たな収益源が生まれます従来は新車を買い替えないと得られなかった性能向上が、OTAにより続々と提供されるため、車の価値はソフトウェア次第で高められる時代になったのです。

2025~2030年BEV市場の世界動向

世界のEV市場は爆発的な成長を遂げています。IEA(国際エネルギー機関)の報告によれば、2024年の電気自動車(バッテリーEV)世界販売台数は初めて年間1,700万台を超え、市場シェアは20%強に達しました。さらに2025年には2,000万台超(新車販売の25%以上)に到達する見通しです。このまま成長が続けば、2030年末には新車の「5台に2台」以上、すなわち40%以上がEVになると予測されています

地域別に見ると、中国がEV普及を牽引しており、2024年に新車販売の約50%が電動車でした。中国1国で2024年に販売されたEV台数(1,100万台超)は、2022年の世界全体のEV販売に匹敵します。欧州も市場シェア約20%と高い水準ですが、補助金政策の変動で成長が一時足踏みしています。米国は2024年時点でシェア10%強ですが、急速な追い上げが期待されています。一方、日本のEV比率は現状数%台と低めですが、2035年ガソリン車新車販売ゼロ目標(ハイブリッド含む)に向けてこれから本格化する段階です。各国でEV価格の低下やモデル拡充が進み、EVは「高価な特殊車」から「手の届く主流車」へと変わりつつあります。実際、中国では補助なしでもガソリン車より安いEVが増えており、欧米でも電池コスト低下により価格差は縮小しています。加えてEVは燃料代・メンテ費用が安く、総所有コストで有利なケースが増えています。

2025~2030年は「EV普及の第2章」とも言える段階で、普及台数の拡大だけでなくEVが電力インフラ・デジタルサービスと結びつくことで新たな価値創出が加速するでしょう。本記事のテーマであるOTA/SDVやエネルギーとの統合も、その鍵を握るトレンドです。

ソフトウェア課金ビジネスの台頭:車載ソフトは新たな収益源

SDV化が進む中、自動車メーカー各社は車載ソフトウェアの課金ビジネスを戦略の中心に据え始めています。これは、スマホアプリのように車の機能追加やサービス利用に対してユーザーから料金を得るモデルです。例えば米ゼネラルモーターズ(GM)は2021年の投資家説明会で、2030年にサブスクリプションサービスで年間200~250億ドル(約2.3~2.8兆円)の増収が可能との見通しを示しました。実際、GMの車載コネクテッドサービス「OnStar」には420万人が加入し、15ドル/月(約1,700円)の有料アプリを提供するなど、既に安定収益を上げています。

新興勢力もこの流れに乗っています。米リヴィアン(Rivian)はIPO申請資料で、1台の車が生涯でもたらすソフトウェア起因の収益は15,500ドル(約177万円)に上る可能性があると試算しました。この中には自動運転機能、インフォテインメント、車内Wi-Fiや診断サービスなどが含まれます。独BMWも2022年にシートヒーター等を月額課金で提供すると発表し話題になりました(のちに一部方針転換しましたが、今後の収益化余地を示す例です)。

特筆すべきはテスラの事例です。テスラは高度運転支援「オートパイロット」と、将来的な完全自動運転を目指す「FSD(Full Self-Driving)」をソフトウェア商品として販売しています。FSDオプションの価格は2010年代後半に5,000ドルだったものが段階的に値上げされ、2022年には15,000ドル(約210万円)に達しました。これは性能向上や需要を反映したもので、イーロン・マスク氏は「真の自動運転が実現すればFSDの価値は10万ドルに相当する」とも述べています(ソフトウェア価値の飛躍的高騰を示唆)。もっとも2023年末には北米でFSD価格を一時12,000ドルに引き下げる動きもあり、市場の反応を見ながら柔軟に調整しているようです。テスラはまた月額サブスク(現在199ドル/月)でもFSD機能を提供し、ユーザーの選択肢を広げています

このように「車載ソフト=収益源」という発想は業界に浸透しつつあり、2030年に向けて各社とも1台あたり数千ドル規模のソフト収入を見込む戦略を描いています。ソフトの課金対象は自動運転だけでなく、加速性能アップグレード、航続距離延長(電池容量アンロック)、車内エンタメ、コネクテッドサービス、運行データ分析など多岐にわたります。重要なのは、OTAによってそれらを後付け提供できる点です。SDV化と組み合わせることで、メーカーは車両販売後の長期にわたり収益を得られる継続課金モデルを確立できるのです。これは低収益体質と言われた自動車ビジネスの構造改革にも繋がる、大きなパラダイムシフトといえるでしょう。

FSD×BEV:自動運転と電動化のシナジー

ここで、ソフトウェアの最先端領域である自動運転(Autonomous Driving)BEVの組み合わせに注目します。FSD(完全自動運転)を目指す技術とBEVが融合すると、単なる「運転の自動化」を超えたエネルギーマネジメントの最適化が可能になります。

まず、自動運転車は人間の都合に縛られず柔軟に行動できるため、充電と走行をダイナミックに調整できます。例えば、自律走行タクシーを想像してください。乗客を降ろした後、自動的に最寄りの充電スポットへ行き、電力が安価な時間帯に充電を済ませる、といったことが可能です。これにより人が運転しているときには難しい深夜電力の活用や細切れ充電が実現します。また、走行ルート上に太陽光発電やワイヤレス給電設備があれば、自動運転車は適切に減速・停車して効率的にエネルギー補給を行えるでしょう。

さらに、自動運転×コネクテッドの組み合わせで、車両は電力系統や他のインフラとリアルタイム通信しながら動作できます。例えば電力需要が逼迫しているときにはFSD車両が自発的に充電を控え、逆に余剰再エネが出ているときには積極的に充電する、といった需給調整行動が人手介在なく行えます。これは後述するV2G/VPPとも連携し、多数のEVが協調してグリッドを安定化させる一助となります。

テスラがFSD開発を急ぐ背景にも、この「ソフトウェアでエネルギー最適化」のビジョンがあります。自動運転が実現すれば、テスラ車は走行パターンから充電スケジュールまでソフト制御で最適化し、性能や効率を飛躍的に高める余地があります。加えてロボタクシーなど新たなサービス展開も可能になります。つまりFSDとBEVの融合は、移動の在り方だけでなくエネルギーの使い方自体を変革しうるのです。

このように、自動運転というソフトウェアの最先端機能とBEVの電力デバイスとしての側面が掛け合わさると、車両は単なる移動手段を超えて「走るエネルギー管理ユニット」になります。OTAで配信される高度なアルゴリズムによって、車両群全体が効率良く電力を融通し合う未来像も描かれ始めています。FSD×BEVはソフトウェアの価値とエネルギー価値を同時に高めるキーテクノロジーと言えるでしょう。

走行中給電:道路を走りながら充電する未来

EV普及における課題の一つが充電インフラです。充電時間や充電器不足による「充電渋滞」は、ユーザーの不安材料となっています。この解決策の一つとして注目されるのが「走行中給電」、すなわち道路を走りながらワイヤレスで充電できる技術です。

走行中給電(ダイナミックワイヤレス充電)の原理自体はシンプルで、地面下に埋設した送電コイルと車両底部の受電コイル間で電磁誘導や磁界共振を利用して非接触給電するものです。スマホの置くだけ充電を拡大したような仕組みですが、車両が高速・高出力で移動する条件下では効率維持が難しく、長年実用化の壁がありました。しかし近年、日本発の技術ブレークスルーがありました。それが「バネ下(サスペンションより下側)に受電コイルを搭載する方式」です。東京大学の研究グループが中心となって開発したこの方式では、コイル間距離が車両荷重の変化でブレないため、常に最大出力で安定給電できます。従来は荷重で車高が変わりコイル間隔も変動するため、余裕を見て低出力に抑える必要がありましたが、この課題をクリアしたわけです。

日本では2023年10月、千葉県柏の葉スマートシティで公道上の走行中給電実証実験がスタートしました。東京大学やブリヂストン、デンソーなど産学協同プロジェクトにより、改造したトヨタ・ハイエースEVとRAV4 PHVに受電装置を取り付けて走行し、5年間(2028年実用化目標)で技術検証が行われます。同実験では地中コイルを100m区間設置し、車両が近づくと車両と路側装置が通信して送電スタンバイ、直上に来たら自動給電を開始する仕組みです。これにより車両がいない時はコイルに通電しない制御を実現し、無駄な待機電力ゼロを達成しています。実験で使用する送電コイルは「10秒の充電で1km走行可能」という仕様で、高効率(給電時の効率96.4%以上)を誇ります。

では実際、走行中給電を整備すればどの程度EV運用が容易になるのでしょうか?東大グループが神奈川県の道路交通データを分析したところ、信号停止線手前30m以内に車がいる時間が全体の25%に及ぶと判明しました。シミュレーションによると、「全ての信号前30mに給電コイルがあれば、エネルギー効率7km/kWh程度のEVはワイヤレス給電だけで走行エネルギーを賄える」との結果が出ています。実際、柏の葉のシャトルバスルートでも理論上は走行中給電のみで連続運行可能と試算されました。これは充電のために長時間停車する必要からの解放を意味し、EVの使い勝手を飛躍的に向上させるポテンシャルがあります。

もちろん、交差点が少ない地域や長距離高速移動では恩恵が薄いなど課題もありますが、その場合でもサービスエリアや駐車場に給電レーンを敷設し停車中に充電する、といった応用が可能です。走行中給電は都市部の混雑解消や商用車の連続稼働に強みを発揮し、「小容量電池+頻繁充電」でEVの軽量化・低コスト化にも貢献します。実際、同プロジェクトは車載電池容量を現在の1/10まで小さくできると試算しています(車両軽量化による電費改善や電池コスト低減が期待できます)。加えて、道路下に給電設備を埋設するため景観を損なわず、都市部でも用地制約なくインフラ展開できる利点があります。

耐久性・安全性も順調にクリアしつつあります。柏の葉実証のコイルは道路プレキャストブロック一体型で、11トン荷重の車両で40万回の走行試験を行い、年間10万回相当の設計要件を大きく上回る耐久性を確認しました。漏電検知や温度異常監視も組み込まれ、さらに磁界の人体・機器影響も基準以下で総務省の認可済みと、安全面も確保されています。こうした技術的ハードル克服により、走行中給電はEV新時代を切り拓くゲームチェンジャーとして現実味を帯びてきました

道路法面ソーラー:未活用空間で発電するインフラ一体型太陽光

EVを走らせる電気をどこから持ってくるか――この問いへの答えとして重要なのが再生可能エネルギーの活用です。日本のように国土が限られる国では、大規模なメガソーラー用地の確保が難しい場合もあります。そこで注目されるのが「道路インフラ一体型太陽光発電」、特に道路法面(のり面)や防音壁を利用した太陽光パネル設置です。

国土交通省の「道路脱炭素化基本方針案」では、高速道路の法面や遮音壁へのペロブスカイト太陽電池設置が有望例として挙げられています。ペロブスカイト太陽電池はフィルム状にできる新型パネルで、シリコンに比べ重量1/10程度と軽量です。そのため既存の壁や斜面に追加しても構造的負荷が小さく、補強工事なしで設置できる可能性があります。実際、JR東海は新幹線の防音壁にフィルム型ペロブスカイトパネルを貼り付ける実証を開始しました。これは「インフラそのものを発電所化」する切り札になり得る技術です。ペロブスカイトはかつて耐久性が課題でしたが、近年は屋外10年相当の耐久試験にも合格するなど着実に改善しています。2025年度中には幅1mの実用シートが登場し、2030年までに変換効率18%・耐候性向上を目指す計画もあります。

また、道路法面は日当たりが良く広大な面積を持つケースが多々あります。高速道路沿いの南向き斜面や高架下の空間など、これまで未活用だった場所を太陽光発電スペースとして活用できれば、かなりの発電量が期待できます。例えば、高速道路法面に沿って延々とパネルを敷設すれば、その道路沿線のサービスエリアやトンネル照明に必要な電力をまかなうだけでなく、余剰電力を近隣に供給することも可能でしょう。愛知県では2025年7月、幸田町の菱池遊水地堤防法面にペロブスカイト太陽電池を組み込んだコンクリートブロックを敷設し、発電機能や構造影響を検証する実証実験が始まりました。雑草抑制効果や感電リスクなども含めて総合評価するとのことで、今後インフラ一体型ソーラーの標準仕様策定に繋げる狙いです。

道路インフラ太陽光の利点は、土地の二重利用による効率化だけではありません。発電した電力をそのまま道路設備(照明・信号・EV給電レーンなど)に使えば送電ロスが減り、災害時にも道路が自立電源を持つことでレジリエンス向上にも寄与します。さらに景観上も調和を図れる余地があります。例えば法面太陽光に加えて地域特産の花を植栽すれば、「発電しつつ観光資源にもなる道路」として一石二鳥です。道路は全国津々浦々に広がる社会インフラですから、そこに再エネを宿すことは、日本全体の再エネ導入量拡大にも直結します。

課題としては、ペロブスカイトの量産コストや施工・保守の手間、盗難防止策などがあります。しかしこれらも実証を重ねることで解決策が見えてくるでしょう。国交省も実証を通じて発電量・コストデータを集め、投資判断の指針を示すことが重要だとしています。まさに2020年代後半は、このインフラ一体型太陽光が実用段階へ進むかの正念場です。日本が得意とするインフラ・土木技術と次世代太陽電池を組み合わせ、「道路を巨大な太陽光発電所に変える」ようなダイナミックな発想が現実味を帯びています。

VPP(バーチャルパワープラント)によるエネルギー統合

EVと再エネを繋ぐもう一つのキーテクノロジーがVPP(Virtual Power Plant)です。VPPとは分散したエネルギーリソースを統合制御し、あたかも一つの発電所のように機能させる仕組みのことです。具体的には、家庭やビルの太陽光発電・蓄電池、工場の自家発電、EVの車載電池、需要家の需要削減量(ネガワット)などをネットワークで束ねて制御し、電力の需給バランス調整に活用するものです。IoTと高度なエネルギーマネジメント技術の進展により、こうした「アグリゲーション(リソース束ね)」が近年現実的になってきました。

日本では東日本大震災以降、需給逼迫や再エネ変動対策の観点からVPPの実証が積極的に行われ、2016年頃から経産省主導で大型実証プロジェクトがスタートしました。そして2022年頃からは電力系統の調整力市場や容量市場といった制度整備も進み、VPP事業がビジネスとして成り立つ環境が整いつつあります。現在、日本の送配電各社は需給調整市場を運営しており、数分〜秒単位で応動できる調整力リソースを広く募集しています。ここに家庭用蓄電池やEV、需要家のデマンドレスポンスが参加し始めているのです。

VPPの担い手となるのがリソースアグリゲーターやアグリゲーションコーディネーターと呼ばれる事業者です。前者は各需要家と契約して機器を制御し、後者は束ねたエネルギーをまとめて電力会社や市場と取引します。日本ではこれらを総称してERAB(エネルギーリソースアグリゲーション事業)という事業類型が創設され、登録制のもと新電力やベンチャー、ガス会社など多様な主体が参入しています。

この流れの中で、EVは大容量バッテリーを積んだ移動可能なリソースとして期待の星です。EVが走行や充電を調整して需要を増減させる(DR:デマンドレスポンス)こともできますし、V2Gにより電力を供給することもできます。大量のEVを束ねれば巨大な仮想発電所となり得るのです。海外では既に、ドイツで家庭蓄電池とEVによるVPP実運用が始まり、米カリフォルニアではテスラの大型蓄電池群が秒単位で周波数調整を行い収益を上げています。日本でも関西電力送配電が2025年9月に蓄電池の運用代行サービスを開始し、分散蓄電池を市場取引に活用して「収益2倍・寿命2倍」を目指すと発表しました。このサービスでは蓄電池を安価な時に充電・高価な時に放電して差益を得る(卸電力市場)だけでなく、急な電力不足時に即応して電力を供給し報酬を得る(調整力市場)仕組みを組み合わせています。さらに将来の供給力として待機するだけでも収入になる容量市場も活用し、3つの収益源をフル活用する計画です。このように「蓄える・売る・支える」のハイブリッド運用により、蓄電池やEVへの投資採算性を飛躍的に高めようとしているのです。

要するに、VPPの登場でエネルギーシステムは集中制御から分散協調制御へとシフトしつつあります。EVはその重要なピースであり、走る蓄電池として電力ネットワークの安定化にお金を稼ぎながら貢献できる存在なのです。この文脈は次に述べる「つなぐ設計」、すなわちEV×インフラ×エネルギーの統合において極めて重要となります。

“つなぐ設計”がもたらす脱炭素への新価値

ここまで述べた自動運転(ソフトウェア)走行中給電(インフラ)道路ソーラー(再エネ)VPP(エネルギー制御)――これらを統合的に組み合わせることで、どんな価値が生まれるでしょうか?

キーワードは本テーマの肝でもある「つなぐ設計」です。単体でも有益な各技術をシステム思考でつなぎ合わせることで、相乗効果によって飛躍的なメリットが得られます。その具体例として、次の4つの効果が同時に実現可能になります。

  • ① 車両の電費改善:走行中給電と自律走行の組み合わせにより、EVは必要な時に必要な電力だけを補給できるため、大容量バッテリーを積む必要性が低下します。例えば電池容量を従来の1/3や1/5にできれば、その分車重が減り走行効率(電費)は向上します。実証ではバッテリー容量1/10でも走行可能との試算もあるほどです。軽量化に加え、頻回充電でバッテリーの放充電深度を浅く保てれば劣化も抑えられます。結果としてEVのエネルギー消費量削減ライフサイクルでの省資源化につながります。

  • ② 外部充電エネルギーの逓減:道路ソーラーで発電した電気を走行中や停車中に車両へ供給できれば、グリッド(系統)から供給される充電電力量を大幅に減らせます。つまりEVが外部から買う電気が減るということです。ユーザー視点では電気代節約になり、電力会社視点では系統負荷の軽減になります。極端な場合、地域内で車両への給電が完結しエネルギーローカライゼーション(地産地消)が進むかもしれません。実際、太陽光余剰電力でEVを動かせれば、エネルギーの自給率も高まります。

  • ③ 系統ピーク削減:EVの充電が分散制御され、なおかつ走行中給電で適宜補充される状況では、従来ように皆が夕方に一斉に急速充電して系統ピークを押し上げるといった事態を避けられます。むしろ日中の太陽光発電ピーク時に道路給電で車にエネルギーを貯め、夜間走行に備えることもできるでしょう。さらにV2Gを通じて、EVが蓄えた電力を夕方の家庭需要ピークに一部戻すことも可能です。要はEVが移動する蓄電池群として需給バランス調整に活躍し、ピークカット・谷間充填を行うのです。これにより発電所側のピーク対応設備(火力や大容量蓄電池)の新増設負担を減らせ、電力システム全体の効率向上・安定化につながります。

  • ④ 調整力マネタイズ:上記③の延長ですが、EVや道路インフラが提供できる調整力(需給調整サービス)は、そのまま経済的価値に転換できます。つまりVPP経由で周波数調整や予備力提供の報酬を得ることです。例えば、走行中給電インフラを持つ事業者は、自社が給電する車両群の充電タイミングを調整することで周波数維持に貢献し、報酬を得られるでしょう。同様にEVオーナーも、車載電池を必要時にグリッドへ供給する契約を結べばインセンティブを受け取れます。これらは既に欧州などで実証が始まり、日本でも市場ルールが整備されてきた新たなマネタイズ手段ですエネルギー販売+調整力サービスという二層の収入は、従来のガソリン販売モデルにはなかったEV時代ならではの強みです。

以上の①~④が同時に成立する状態を考えてみましょう。

例えば、ある高速道路を走る自動運転EVトラック隊列がいるとします。道路脇の太陽光パネルが発電する昼は走行レーン下からワイヤレスで充電を受け、電池残量を十分に保ちながら進みます。夕方のピーク時には積んだ電力の一部を路側からグリッドに供給し、地域の電力需給を助けます。トラックは夜間も運行を続けますが、信号や休憩で停まる間にこまめに充電し、大容量電池無しでも長距離を走破します。運行会社は車両への給電サービス料を支払いつつ、一方で調整力提供の報酬を受け取るため、エネルギーコストは実質相殺か黒字になるかもしれません

道路事業者(またはサービス提供会社)は売電益と調整力収益の両方を得てインフラ投資を回収します。結果、CO2排出は劇的に減り(太陽光由来電力で走るため)、経済的にもウィンウィンの仕組みが成り立つのです。

このような複合ソリューションは、単体技術の導入と比べて桁違いの脱炭素効果を発揮します。EV導入だけでは車の排出が減るに留まりますが、再エネやVPPと組み合わせればエネルギー供給側の脱炭素と需要側柔軟化にも波及します。財務面でも、例えば走行中給電インフラ単独では投資回収が難しくても、そこに太陽光発電と調整力収入が加わればビジネスモデルは一気に現実味を帯びます。日本はエネルギー自給率の低さや再エネ導入拡大の壁といった構造課題を抱えますが、この“つなぐ設計”こそそれを打破する鍵となるでしょう。

日本における実現性と課題

上述のビジョンを実現する上で、日本にはどんな強みと課題があるでしょうか。まず強みとして、既に要素技術の実証と制度基盤が揃いつつある点が挙げられます。

  • 技術実証の進展: 柏の葉での走行中給電実験開始、各地のペロブスカイト太陽光実証、そしてVPP実証から実サービスへの移行など、世界的にも先進的な試みが動いています。日本の公道上でワイヤレス給電車両が走っている事実は大きな一歩です。また、自動運転についてもレベル4解禁に向けた法整備が進み、モビリティサービスの実験が各地で展開中です。これらを統合する視点さえ持てば、要素技術はほぼ出揃っていると言えます。

  • 制度・政策の後押し: 経産省・資源エネルギー庁はVPPやDRを推進する施策を展開し、調整力市場やネガワット取引スキームを整備しました。国交省も道路脱炭素化方針案で走行中給電やインフラ太陽光を具体策に盛り込みました。また2050年カーボンニュートラルや2030年温室ガス46%削減の国家目標達成に向け、省庁横断でモビリティとエネルギーの統合策を模索し始めています。規制の緩和・支援という観点でも土壌は整いつつあります。

  • 産業競争力: 車載用パワーエレクトロニクスや無線給電、次世代太陽電池、制御システムなど、本稿で扱った分野はいずれも日本企業・研究者が強みを持つ領域です。世界初のバネ下給電技術やフィルム太陽電池、精緻なエネルギー制御はまさに“日本のお家芸”です。これらを組み合わせたソリューションは国際的にも競争力のある輸出産業に育つ可能性があります。

一方、課題も多岐にわたります。

  • 初期コストと収益分配: 走行中給電設備の整備、法面ソーラー設置、通信・制御インフラ構築など、莫大な初期投資が必要です。これを誰が負担し、どう回収するかが最大のハードルでしょう。シナリオとしては、高速道路会社や電力会社、自動車メーカー、自治体などが連携し、国の補助金やグリーンボンド発行で資金調達することが考えられます。エネルギー販売収入+調整力収入+付加サービス収入を合わせて長期に回収するビジネスモデルの構築が求められます。収益分配についても、新たなエコシステム内で公平性・インセンティブ設計を行う必要があります。

  • 標準化と相互運用: 技術面では、走行中給電の方式標準化(コイル周波数や通信プロトコル統一)や、車両側インターフェースの普及が課題です。現状、実証では専用改造していますが、将来的にはメーカー各社が車両標準装備として受電コイルを搭載するかもしれません。その際の規格づくりに日本が関与できれば国際標準をリードできます。またV2Gやエネルギー取引のプロトコル標準化も重要です。

  • 運用の複雑さ: 車両・道路・発電・電力系統を統合制御するため、非常に高度なITシステムが必要です。リアルタイム通信、秒単位の最適化、膨大なデータ処理とAI活用など、まさにスマートシティ/スマートグリッドの集大成と言えます。サイバーセキュリティも含めてクリアすべき技術課題がありますが、これは裏を返せばデジタル産業の新たな市場機会です。プラットフォーマーが台頭する可能性もあります。

  • 社会受容性とユーザー体験: 新技術への理解醸成も大切です。例えば走行中給電については「道に埋めたコイルは壊れないか?」「電磁波は大丈夫か?」といった不安も出るでしょう。それに対しては柏の葉実証で耐久性・安全性が確認済みであること(11t車で40万回走行試験クリア、漏電検知や磁界防護策あり)を示しつつ、丁寧な説明が必要です。またユーザーにとって使いやすいサービス設計も重要です。自動運転やワイヤレス給電が組み合わさると技術的には高度ですが、ユーザーは意識せず快適になるのが理想です。**「知らないうちに充電されていた」「気づけばエネルギー収入が入っていた」**くらいシームレスであることが望まれます。

  • 全体最適の視点: 最後に、縦割りの壁を超えた全体設計が必要です。自動車業界、電力業界、インフラ業界、それぞれ単独では完結しない複雑系のプロジェクトになります。日本では組織横断のプロジェクトは得てして調整コストがかさみがちですが、ここを政府のリーダーシップや明確なビジョン提示で乗り越えることが重要です。官民連携の新しい成功モデルを作るくらいの気概が求められるでしょう。

以上を踏まえると、日本でこの「つなぐ設計」を実現する鍵は、試行的なモデルケースを早期に構築することではないでしょうか。例えば「柏の葉スマートシティ」をさらに発展させ、自動運転EVシャトル+走行充電道路+法面PV+VPPを組み合わせた実証エリアを作る、といった取り組みです。そこで技術・運用・ビジネスの検証を行い、得られた知見を全国に水平展開する戦略が考えられます。日本には幸いにも技術者・研究者ネットワークや、協調的に課題解決を図る企業文化があります。これを最大限活用し、世界に先駆けた統合エネルギー・モビリティシステムを作り上げることは十分射程に入っていると言えるでしょう。

ありそうでなかったソリューションの提案

本稿で描いたソリューションは、一見SF的ですが、要素は既に現実に存在するものばかりです。ただ「それを繋ぎ合わせる」という発想の転換が、従来は不足していました。電動化も再エネもそれぞれ単独で進められてきましたが、両者を融合すればもっと大きな効果が得られるはずなのです。まさにありそうでなかった切り口として、本提案は地味ながら実効性の高い解決策になるでしょう。

重要なのは、このアプローチがユーザー・産業・環境の全てにメリットをもたらす点です。EVユーザーは充電の手間や時間から解放され、運用コストも下がる可能性があります。産業界は新たなマーケット(インフラ投資やサービス収益)を獲得し、関連製品の需要創出につながります。環境面では言うまでもなくCO2排出削減とエネルギー自給率向上に資するでしょう。さらに言えば、道路という公共インフラの価値を再発見・最大化する取り組みでもあります。道路は人と物を運ぶだけでなくエネルギーも運び・生み出す存在へと進化できます。

ソリューション実現へのロードマップとしては、まず限定エリアで技術統合検証を行い、その成果を踏まえて制度整備や事業性評価を進める段階に入るでしょう。2030年頃までに少なくとも一つ、大規模なモデルケースが日本に出現することを期待したいところです。それが成功すればグローバルスタンダードになり、他国へ輸出できる日本発モデルとなる可能性もあります。

21世紀の脱炭素化は複雑なパズルですが、今回取り上げたモビリティとエネルギーの融合はそのピースの一つです。EVシフト、再エネ拡大、デジタル変革という大潮流を捉え、日本ならではのシステム思考で組み合わせれば、世界に先駆けた持続可能社会の実現も夢ではありません。その意味で、本稿の考察が日本における新たなイノベーションの一助となれば幸いです。

FAQ(よくある質問と回答)

Q1. OTAアップデートで本当に車はどんどん良くなるの?

A1. はい、OTAアップデートにより車両性能や機能が継続的に向上する実例が既に出ています。例えばテスラではソフト更新によって加速性能が向上したり、航続距離が伸びたケースがあります。ブレーキ制御やハンドリングがアップデートで改善された例も報告されています。また、自動運転関連ではソフトウェアの進化で車線維持や駐車の精度が向上しました。フォードやトヨタなど他メーカーも今後OTAでの機能追加を本格化させる計画で、「買った後も育つクルマ」が業界の新常識になりつつあります。ただし全てのOTAがユーザーに歓迎されているわけではなく、一部のメーカーで有料機能解除をOTAで行う手法が議論を呼んだこともあります。重要なのは、ユーザー体験を向上させる方向でOTAを活用することです。

Q2. EVが普及すると電力需要が増えて停電のリスクが高まらない?

A2. EVの普及は確かに電力需要を増加させますが、適切にマネジメントすれば停電リスクをむしろ低減できると考えられています。EVは**「充電するだけでなく放電もできる蓄電池」でもあります。V2G技術を使えば、電力が余る時間帯にEVに貯め、足りない時間帯にEVから戻すことが可能です。これを大量のEVで行えばピークシフトや非常時電源として機能し、停電を防ぐ一助となります。実際、欧州ではEVをグリッドと繋いで周波数調整に使う試みが始まっています。日本でもEVの充電をデマンドレスポンスでコントロールする実証が進み、電力ひっ迫時に一斉に充電を止めるなどの対策が検討されています。将来的には、EV普及=リスク増ではなく、EV普及=グリッド強化と捉えるべきでしょう。もちろん、電力供給側の再エネ拡大や送配電網の整備も並行して進める必要があります。しかしEV自体が需給調整リソースになる**ことで、その課題解決に貢献できるのです。

Q3. 走行中給電の技術は安全ですか?電磁波の影響は?

A3. 柏の葉での実証実験では安全性に十分配慮されています。まず道路に埋設する送電コイルは頑丈なコンクリートブロックと一体化しており、大型車が何十万回通過しても壊れない耐久性を確認済みです。送電時以外は基本的にコイルに電気を流さず、車両接近時にだけオンになる制御を採用しているため、車がいないのに電磁波を出し続けることもありません。実際、磁界は車両検知用に微弱な待機レベルがあるのみで、送電開始と同時に強まりますが、その際も人が車外に出て直接コイル上に立つ状況は通常ありません。測定でもコイル上30cmの磁界強度は一般的なIH調理器の近傍程度で、人体への影響は基準値以下に収まっています。さらにシステムには異常時に即停止する安全装置や、漏電ブレーカーも備わっています。総務省の高周波利用設備の認可も取得しており、公的なお墨付きも得ています。要約すると、走行中給電は適切に設計・制御すれば安全であり、実証段階でもその点は重視されクリアされています。

Q4. 道路に太陽光パネルを貼ってどのくらい発電できるの?

A4. 道路法面や防音壁に設置する太陽光発電は、場所によりますが大きなポテンシャルがあります。国交省の試算では、高速道路の遮音壁・法面など未活用空間への太陽光パネル導入で相当量の発電容量を確保できるとしています。具体的な数字はケースバイケースですが、一例を挙げると、新東名高速のある区間(数十km)の南向き防音壁にパネルを敷き詰めれば数十MW規模の発電所に匹敵するとの試算もあります。発電電力量として年間数千万kWh(数万世帯分)以上になる可能性があります。もちろん影や方位角の制約で一般の太陽光ほど発電効率が出ない場所もあります。しかしペロブスカイト太陽電池のように弱照度下でも発電しやすいタイプを使えば、曇りや朝夕の条件でも一定の出力が期待できます。また、各所に分散しているため天候リスクが局所分散するメリットもあります。一方で課題はメンテナンスです。高速道路沿いなど人が近寄りにくい場所の清掃・点検をどう効率化するか、破損時の安全対策をどうするか、といった点です。これについてはドローン巡視や自己清掃コーティングなどの技術活用が検討されています。総合的に見て、道路インフラ太陽光は相当量のクリーン電力を生み出す潜在力を持ちながら、土地追加取得ゼロで展開可能な魅力的手法と言えます。

Q5. こうしたインフラ整備には莫大な費用が掛かりませんか?

A5. 初期投資は確かに巨額になります。ただし長期的視点で見れば十分回収可能であるとする試算もあります。前述のとおり、エネルギー販売とグリッドサービス提供という二重の収益モデルが構築できるため、単なるインフラ投資より収益性は高まります。例えば、走行中給電道路1kmあたりの整備費用を仮に数億円と見積もっても、そこで毎日何千台ものEVに電力を供給すれば電気代収入が得られます。加えて、それらEVの充電制御を通じて調整力市場から得られる収入も加わります。さらにEV利用者側も充電待ち時間の短縮や電池小型化による車両価格低減といったメリットを享受します。社会全体で見れば経済効果が大きく、投資する価値があります。資金調達面では、政府による補助や規制緩和、グリーンボンド発行支援などが考えられます。また民間でも、電力・自動車・インフラ各業界が出資し合うアライアンス型事業体を作りリスク・リターンを共有するといったスキームもあり得ます。要は初期費用はみんなで出し合い、利益もみんなで分け合う形にすればよいのです。確かに億単位の投資案件ですが、脱炭素社会への必要投資と捉え戦略的に資本を投下すれば、将来的には黒字化し得ると考えられます。

おわりに:未来への展望

OTA/SDVによる車両ソフトウェア化と、BEV×再エネ×インフラ統合による新価値創造は、これからの自動車産業・エネルギー産業にとって避けて通れないテーマです。日本は高度な技術力と社会インフラを有し、それらを巧みに組み合わせることで世界に先駆けたイノベーションを起こせるポテンシャルがあります。本稿で提言したようなソリューションは、一朝一夕で実現するものではありませんが、2030年という節目は明確な目標となります。この5~6年で各要素の成熟と統合を進め、まずは試験的にでも形にしてみることが重要でしょう。

世界を見渡しても、運輸とエネルギーの融合はまだ始まったばかりです。欧州がV2Gで先行し、米国が巨大蓄電池で調整力を提供していますが、走行中給電インフラと自動運転を含めた統合ソリューションは日本ならではの切り口です。これが実現すれば、EV普及や再エネ大量導入に悩む他国にとってもモデルケースとなり得ます。まさに輸出可能な社会システムとして、日本発の標準を築くチャンスです。

今後、この分野で鍵を握るのは異分野コラボレーション制度設計です。技術はあるのに組織の壁で実装できない、という事態は避けねばなりません。国も企業もアジャイルに動き、実証→評価→本格展開のサイクルを迅速に回す必要があります。その際には、本稿で示したような**システム思考(全体最適)ラテラル思考(新結合の発想)**が指針となるでしょう。幸い、日本には問題解決に挑む優秀な人材と意欲的な自治体・企業が多数存在します。あとは共通のビジョンのもと、それぞれのピースを繋ぎ合わせるだけです。

最後に、読者の皆様も是非この壮大なビジョンに関心を寄せ、自分事として捉えてみてください。私たちの移動やエネルギーの使い方がどう変わるのか、その最前線がここにあります。クルマがエネルギーを運び、道が発電し、街が一つの発電所になる未来――それは決して遠い絵空事ではなく、今この瞬間にも形作られつつある現実です。日本発のイノベーションで持続可能な社会を実現するために、共に知恵を出し合い行動していきましょう。

出典・参考資料

  1. 国際エネルギー機関(IEA)「More than 1 in 4 cars sold worldwide this year is set to be electric as EV sales continue to grow」ニュースリリース(2025年5月14日)世界のEV販売台数と市場シェア動向(2024年実績と2030年予測)を報告

  2. WIRED日本版「クルマの追加機能にも『サブスク』の時代がやってきた」(2021年11月1日)ソフトウェアによる機能課金モデルの台頭について解説。GMが2030年にサブスク収入2兆円超を見込む件や、リヴィアンの1台あたり$15,500収益予測、BMWの機能サブスク事例などを紹介

  3. 自動運転ラボ「テスラの自動運転(Autopilot, FSD)とロボタクシー計画を徹底解説」(2025年4月17日)テスラ社の自動運転戦略の変遷をまとめた記事。FSDオプション価格が当初$5,000から$10,000、さらに$15,000へと値上げされてきた歴史や、月額$99/$199のサブスクリプション導入について触れている

  4. ウイングアーク1st データのじかん「ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)とは? どんなメリットや課題があるのか?」(2024年10月13日)SDVの概念と利点を解説。OTAで車両性能が継続向上し、メーカーは購入後も機能販売やサブスク提供で新収益を得られると指摘

  5. スマートモビリティJP「日本初、走行中給電の公道実証実験開始、世界初の『バネ下搭載』技術に注目」(2023年10月7日)柏の葉スマートシティで始まった走行中ワイヤレス給電実験の詳細レポート。車両に世界初のサスペンション下搭載コイルを採用し、荷重によるコイル間距離変動を解消。2028年商用化目標で、日本の走行中給電技術が一気に世界標準を狙う状況を報告

  6. スマートモビリティJP「走行/停止中の充電時間で足りるのかという問題」(上記記事の2ページ目)走行中給電の有効性をデータで検証。神奈川の幹線道路での車両停止時間分析に基づき、信号前30mに給電設備があれば電費7km/kWhの車はワイヤレス給電のみで走行可能とのシミュレーション結果。給電待機電力を極小化する制御や給電効率96.4%達成など技術的工夫も紹介

  7. エネがえる(国際航業)「『道路脱炭素化基本方針案』と改正道路法の現状・課題・解決策を徹底解説」(2025年8月15日)国交省の道路脱炭素化施策に関する専門記事。高速道路防音壁や法面へのペロブスカイト太陽電池活用に触れ、JR東海での実証や重量1/10の軽さによる設置容易性を解説。道路インフラ発電所化の切り札になり得る技術として注目されている

  8. 資源エネルギー庁「VPP・DRとは」公式解説ページバーチャルパワープラントの概念を紹介する政府資料。従来は需要に合わせて供給していた電力システムを、需要側資源を束ねて需給調整に活用する仕組みに転換する意義を説く。IoTで蓄電池やEVを遠隔制御し、一つの発電所のように機能させることで再エネ変動吸収や負荷平準化に貢献できると説明

  9. 飯田欽次「関西電力が挑む『日本版VPP』への第一歩」(Noteブログ, 2025年9月16日)関西電力送配電が開始した蓄電池の市場取引サービスに関する解説記事。蓄電池の収益を「卸電力市場での差益」「調整力市場への提供」「容量市場での価値担保」の3つに分散し組み合わせることで、収益と電池寿命を2倍に高める狙い。複数蓄電池を束ねて秒単位で制御し、日本版VPPの第一歩になると評している

ファクトチェックと出典確認

本記事の内容は2025年9月時点で入手可能な最新情報に基づいて構成されています。市場動向データは国際エネルギー機関(IEA)などの公的機関による報告値を参照し、技術的記述は大学・企業のプレスリリースや専門メディアの記事に基づいています。例えば走行中給電の性能値や実証状況は東京大学や柏市による公式発表および現地報道から引用し、太陽光法面発電の計画も国交省資料の解説記事に拠りました。VPPや調整力市場についても経産省の公式ページや実証事業のレポートを出典とし、信頼性の高いファクトに基づいて論じています。また、数値や固有名詞の記載にあたっては複数情報源でクロスチェックを行い、正確性を期しています。記事末尾に主要な出典を一覧で示しました(実在のURLリンク付き)ので、詳細を確認したい読者は参照してください。今後も新たな情報アップデートがあり次第、適宜内容を見直し、常に最新でファクトに即した発信に努めます。

無料30日お試し登録
今すぐエネがえるEV・V2Hの全機能を
体験してみませんか?

無料トライアル後に勝手に課金されることはありません。安心してお試しください。

著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

コメント

たった15秒でシミュレーション完了!誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!
たった15秒でシミュレーション完了!
誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!