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今後30年間(2025~2054年)のガソリン価格予測
これからの30年、ガソリン代を取り巻く環境は劇的に変化する可能性があります。鍵を握る要素は大きく二つあります。一つは自動車の電動化(EVシフト)の進展で、もう一つはエネルギー政策・国際情勢です。以下では、これらを踏まえた価格予測をいくつかのシナリオに沿って考察します。
EVシフトによるガソリン需要減と価格への影響
まず最も確実視されるトレンドは、電気自動車(EV)など次世代車の普及によるガソリン需要の長期的な減少です。日本政府は2030年までに新車販売に占める電動車(EV・プラグインハイブリッド車など)の比率を20~30%に引き上げ、2035年にはガソリン車の新車販売を実質禁止する方針を掲げました。さらに2040年までには合成燃料対応車も含め、新車販売を100%脱炭素化する目標です。この政策が予定通り進めば、2040年代にはガソリン車の数自体が大幅に減少していると考えられます。
EVシフトが進めば、当然ながら国内のガソリン消費量は減っていきます。ガソリン需要が減少すれば、従来の需給バランスが変化し、供給過剰による価格低下圧力が生じる可能性があります。ただしここで重要なのは、価格は需要だけでなく供給側の動向にも左右されるという点です。ガソリンの原料である原油の生産国は、需要減少に合わせて減産を行うことが予想されます。実際、世界の石油需要が2030年代にピークアウトし2050年に向け減少するとの見通しはIEA(国際エネルギー機関)などでも示されています。需要減に合わせて産油国が供給調整すれば、原油価格はそれほど暴落せず、ガソリン価格も大崩れはしないというシナリオが考えられます。
一方、日本国内ではガソリンの小売価格の半分近くが税金(ガソリン税・地球温暖化対策税・消費税)です。仮に需要減で原油価格や精製マージンが下がっても、政府が燃料税制を見直して税負担を増やせば価格が下支えされる可能性があります。実際、将来的にEV普及でガソリン税収が減ることを懸念し、「走行距離課税」などの新たな税制導入が議論されています。移行期にはガソリン税の暫定税率を維持したり、炭素税を上乗せするといった措置で、ガソリン代自体は一定水準を保つことも考えられます。
以上を踏まえ、EVシフトによる需給変化だけを見ると「緩やかな下落または安定化」というのが基本線でしょう。2040年頃までにレギュラーガソリン全国平均でリッター150円未満の水準に落ち着く可能性があります。ただし、これはあくまで他要因が平穏であればの話で、次に述べる政策・国際情勢によって上下に振れる余地があります。
政策・国際情勢シナリオ:カーボン税と原油市場の展望
ガソリン価格の将来を考える上でもう一つ重要なのが、各国のエネルギー政策や国際原油市場の動向です。まず気候変動対策としてのカーボン税・炭素価格の導入が与える影響があります。日本でも2050年カーボンニュートラル実現に向け、化石燃料に段階的に高い炭素価格を付ける可能性があります。仮に2030年代以降に強力なカーボン税が導入されれば、ガソリン1リットル当たり数十円規模で上乗せされるかもしれません。これは需要抑制が目的ですが、消費者視点では「税が上がるからガソリン代は下がらない」状況となります。
国際的には、原油価格の長期見通しもシナリオを分ける要因です。需要減少が緩やかなケースでは、産油国(OPECプラスなど)は協調して減産し原油価格を一定レンジに維持すると予想されます。例えば中東産油国は原油依存経済からの転換を模索しており、過度な安値は避けたいところです。一方で技術革新や代替エネルギーの普及で原油の買い手が大幅に減るケースでは、1980年代のような原油安時代が訪れる可能性もゼロではありません。この場合、2030年代後半には原油価格が現在の半分以下になり、ガソリンも大幅安という極端なシナリオも考えられます。
また、国際情勢のリスク要因として地政学的緊張や産油国の政策があります。中東で大規模紛争が発生したり、主要産油国で政変が起きたりすると、短期的に供給不足から原油急騰・ガソリン高騰が再燃するリスクは常に存在します。気候変動によるハリケーン・台風等で産油設備が被災するケースも含め、短期ショック要因は今後もあり得るでしょう。
以上を踏まえ、本命シナリオとしては「緩やかなEV移行+政策的価格維持」による安定価格帯、リスクシナリオとして「地政学ショックで一時高騰」、そして技術革命シナリオとして「需要激減で大幅下落」が考えられます。おそらく複数の要因が絡み合うため、実際の価格パスは一直線ではなく上下動を伴うものとなるでしょう。
複数シナリオによる2050年前後の価格見通し
それでは、具体的に今後30年のガソリン価格がどの程度になるか、いくつか節目の年で予測してみます(※あくまで想定シナリオです)。
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2030年: EV・ハイブリッド比率が新車の半数近くになる一方、既存車両ではまだエンジン車が多数派。原油価格は気候対策の影響でやや軟調と仮定。ガソリン全国平均価格は140~160円/L程度。政府補助や税制により150円前後を維持する可能性。カーボン税が本格化すればその分上乗せも。
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2040年: 新車販売はほぼ100%電動車(EV/PHEV/FCV等)となり、ガソリン車の市場シェア縮小が顕著。原油需要減で産油国は減産調整中。ガソリン価格は需要減少のペースによるが、120~150円/L程度に下がっているシナリオが主流。ガソリンスタンドの統廃合が進み地域差は拡大も。
- 2050年: 乗用車の大部分が電動化され、残るガソリン需要は一部の古い車や特定用途車のみ。原油は依然需要あるもののピークより大幅減。もし化石燃料への強い規制がなければ、需給ゆるみ価格安定。100~130円/L前後まで低下する可能性。ただし、この頃にはガソリン自体が「特殊燃料」のような位置づけになり、流通コスト増で価格が逆に割高になる可能性も否定できません。
要約すると、今後30年でガソリン代が現在より劇的に上昇し続ける可能性は低く、むしろ需要減に伴う穏やかな低下圧力がかかると見られます。ただし政策的な価格維持や、供給側の思惑、インフレ率などで名目価格が高止まりすることもあり得ます。したがって「今後下がるからといってガソリン車に安心して乗り続けられる」ほど単純ではなく、EVシフトの潮流に合わせた計画が必要でしょう。
次章では、そのEVや充電インフラ、V2H/V2Xといった技術・設備の普及シナリオについて掘り下げます。これらはガソリン代の将来だけでなく、日本のエネルギー戦略全体に関わるテーマです。
EV・充電インフラ・V2H/V2X導入シナリオ
ガソリン代の将来を考える上で、電気自動車(EV)の普及と充電インフラ整備、そしてV2H・V2X技術の展開は切り離せません。ここでは、日本におけるEV普及目標と現状を確認し、充電器の導入計画やV2H/V2Xの可能性について展望します。これらの動向は、ガソリン需要やエネルギー需給構造を大きく変えるため、実質的に「ガソリン代の代替要素」として注目されます。
日本における電気自動車(EV)普及目標と現状
日本はハイブリッド車(HV)の普及では世界をリードしてきましたが、純粋な電気自動車(EV)の普及率は諸外国に比べ遅れ気味と指摘されています。2022年時点で世界の新車販売に占めるEV比率は10%を超えましたが、日本は5%未満に留まっています。しかし今後は政策誘導と技術革新により、その差を徐々に埋めていく方針です。
政府の目標としては前述のとおり2030年に新車販売の20~30%をEV・PHEVに、2035年までにガソリン専用車の新車販売ゼロ(実質EV/PHEV/FCVのみ)というマイルストーンがあります。また2050年カーボンニュートラルに向けて、自家用車も含め輸送部門を根本的に電化していくことが求められています。国際エネルギー機関(IEA)のシナリオでも2035年に世界新車の半数以上がEVになると予測されており、日本も例外ではいられないでしょう。
自動車メーカー各社もEVシフトに向けた戦略を加速しています。欧米の自動車メーカーが「2030年以降はEVのみ発売」といった宣言を出す中、日本のトヨタ自動車や日産自動車も大規模なEV投資計画を発表しています。トヨタは2020年代後半から新型EVプラットフォームを導入し、2030年に350万台のEV販売を目指すとしていますし、日産も看板EV「リーフ」に続く新モデルを拡充しています。また、HV技術で先行する日本勢は、当面はハイブリッドやプラグインハイブリッド(PHV)も含めた電動車普及を図りつつ、徐々にBEV(バッテリーEV)へ移行する戦略を取ると見られます。
こうしたEV普及シナリオが現実化すれば、2030年代半ば以降のガソリン需要急減は避けられません。ガソリンスタンド業界もそれを見越し、充電サービス併設や業態転換を模索し始めています。次節では、そのEVを支える充電インフラの現状と計画について詳しく見てみましょう。
充電インフラ拡充計画とEV充電器の展開
EV普及のボトルネックの一つが充電インフラの整備です。日本は2010年代前半に政府補助で急速充電器の整備を進め、一時は「充電器の数はガソリンスタンド数より多い」と報じられたこともありました。しかし、それは200V普通充電器まで含めた数であり、使い勝手や稼働率の課題もありました。
2020年代に入り、再び政府は充電インフラ整備に本腰を入れています。グリーン成長戦略(2021年改定)では「2030年までに公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラ15万基設置」との目標が掲げられました。さらに経済産業省は2030年までにEV充電器の設置数を約40,000口(2024年時点)から300,000口へ増やす方針も示しています。これには高速道路のサービスエリア等への高出力充電器増設や、都市部の商業施設・駐車場への普通充電網拡充が含まれます。
現状(2024年)では、日本国内のEV充電スポット数は約21,549拠点(充電器台数はそれ以上)となっており、2023年以降再び増加傾向にあります。民間企業や新興スタートアップも参入しており、例えば国内スタートアップのTerra Charge社は事業開始3年で累計15,668口のEV充電器を設置したと発表しています。このように官民あげてインフラ整備が加速しつつあります。
重要なのは、充電インフラの質と配置です。地方では未だに「充電難民」ならぬ「充電空白地帯」が存在し、特にアパート・マンション住まいのユーザー向けの充電設備不足が課題です。政府の補助金は、戸建て住宅向けの充電器設置やマンションへの充電設備導入にも拡大されています。また最近はサービスエリアの急速充電器を高出力・複数台化する動きも出ています。今後はワイヤレス充電やバッテリー交換ステーションなど新技術の導入も見据え、利便性向上が図られるでしょう。
充電インフラが整えば、ガソリンスタンドで燃料を入れる代わりに駐車中に電気を入れるライフスタイルが一般化します。特に深夜電力や再エネ電力が活用できれば、「燃料費」としてのエネルギー代はガソリン代より安価に抑えられる可能性があります。太陽光発電+家庭充電で実質的に燃料代ゼロを目指す動きもあり、後述するV2Hと絡めてエネルギー自給自足の流れも見えてきました。
V2H・V2X:クルマと住宅・電力系統の連携
EV時代が進むと、「車は走る蓄電池」としての価値が高まります。そこで注目されるのがV2H(Vehicle to Home)やV2X(Vehicle to Everything)技術です。V2HとはEVに搭載されたバッテリーから家庭に電力を供給することで、停電時の非常用電源や太陽光発電との組み合わせによる電力自給などを可能にします。V2Xはさらに広く、EVを電力系統に繋いで電力のやり取りを行う概念で、V2G(Vehicle to Grid)とも呼ばれ、仮想発電所(VPP)のリソースとしてEVを活用する試みです。
日本ではすでに日産リーフなどが「EVを家の蓄電池にする」V2Hシステムを商品化しています。専用の充放電器(例:ニチコン社製など)を設置すれば、EVから家庭の分電盤に給電し、冷蔵庫や照明を数日間賄える容量があります。自治体も防災の観点から、EV・V2Hを避難所の電源に活用する実証を進めています。経済産業省もV2H設備の導入補助金を用意し、個人・法人が導入しやすい環境整備を進めています。
一方、V2G(Vehicle to Grid)については、日本ではまだ2022年時点で実証段階にあります。欧米ではすでに商用のV2Gサービスが始まりつつありますが、日本は制度面(電力市場や周波数調整のルール)や経済性の課題で普及が遅れています。ただ、東京電力や中部電力など電力会社と自動車メーカー(トヨタ・日産など)が共同でV2G実証実験を行っており、EVを蓄電リソースとして再エネの出力変動対応や需給調整に使う試みが進んでいます。将来的には、EVが大量に普及した際にその蓄電池群を束ねて電力系統安定化に貢献し、EVオーナーは協力の対価として報酬を得るといったビジネスモデルも見据えられています。
V2H/V2Xの普及が進むと、エネルギーの姿は大きく変わります。昼は太陽光で発電しEVに充電、夜はEVから家に給電という双方向エネルギー管理が一般家庭で可能になれば、ガソリンどころか商用電力への依存も減り、エネルギーコストを最適化できます。企業でも社用車EVをV2B(Vehicle to Building)で活用し、ピーク電力カットや非常電源に充てる動きが出てくるでしょう。
総じて、EV普及と充電インフラ・V2H/V2X技術の展開は相互に関連しながら加速することが期待されます。政府も「EV・V2H機器等のさらなる普及促進策が有用」としており、今後は制度整備も進む見通しです。これらが進展すれば、ガソリン代への依存度はますます低下し、人々は「電気代(あるいはソーラー発電)」で車を走らせる時代が本格化するでしょう。
次の章では、地域によって異なるガソリン代とEV導入の状況に目を向け、どの地域でどういったチャンス・課題があるかを見ていきます。
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