既設太陽光・蓄電池住宅におけるEV+V2H導入の経済効果シミュレーション (太陽光・蓄電池導入済み世帯がEV・V2Hを導入すると?)

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国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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既設太陽光・蓄電池住宅におけるEV+V2H導入の経済効果シミュレーション (太陽光・蓄電池導入済み世帯がEV・V2Hを導入すると?)

はじめに

既に家庭用の太陽光発電と定置型蓄電池を導入済みの住宅で、ガソリン車から電気自動車(EV)へ乗り換え、さらにV2H(Vehicle to Home)システムを導入した場合、一体どれほどの経済効果が得られるのでしょうか。

留意事項と試算前提

エネがえるEV・V2Hでは、太陽光既設向けの試算は可能ですが、現状ではまだ既設蓄電池向けのEV・V2Hの試算は未対応です。そのためAIを用いた机上の試算やロジックを検証中です。本シミュレーション結果は生成AIによる机上のシミュレーションとなりますので予めご了承ください。

本記事では、全国平均的な条件を前提に、ガス併用住宅(給湯や調理にガスを使用)とオール電化住宅(給湯も電気=エコキュート等を使用)の2パターンそれぞれについて、EV+V2H導入によるガソリン代削減効果電気代削減効果を詳細にシミュレーションします。

さらに、3つの代表的な世帯ペルソナ(車の走行距離や在宅パターンが異なるモデル世帯)ごとに具体的な試算を行い、計算過程と根拠データを透明性高く示します。最後に、こうした経済効果シミュレーションの結果を太陽光・蓄電池ユーザーに提示することが、EV・V2H導入の成約率アップにつながるかどうか考察し、成約を後押しするための戦略・施策も提案します。

V2Hとは?主要メーカーと導入補助

V2H(Vehicle to Home)は、電気自動車の大容量バッテリーと家庭をつなぎ、クルマ⇔家間で電力の融通を可能にするシステムです。日中は太陽光発電の余剰電力でEVを充電し、夜間や停電時にはEVから家庭へ給電することで、自家消費率向上や非常用電源確保に寄与します。近年、国内でもニチコン、シャープ、オムロンといったメーカーから様々なV2H機器が発売されており、例えばシャープの「EV用コンバータ(JH-WE2301)」は壁掛け可能な小型V2Hで希望小売価格165万円(税込)、ニチコンの「EVパワー・ステーション」シリーズは高機能かつ低価格で89.8万円から購入可能との報告もあります。導入費用は機種や工事条件によりますが概ね100~180万円ほどが相場です。しかし現在は国のCEV補助金制度によりV2H機器は最大65万円、EV車両は車種に応じ約80~90万円の補助が受けられます(※別途自治体補助も併用可)。補助金を活用すれば、V2H導入の初期負担は大幅に軽減できます。こうした背景も踏まえ、次章から具体的な経済メリットの試算に入りましょう。

シミュレーション前提条件

◎ 世帯モデルの設定(3パターンのペルソナ)
日本における自家用乗用車の年間平均走行距離は公的統計上約1万kmですが、実態調査では平均6~7,000km前後との報告もあります。そこで本記事では走行距離と利用パターンの異なる以下3タイプのモデル世帯を想定します。

  • ペルソナA(低走行・在宅型): 年間走行距離約7,000km。平日は在宅勤務またはリタイア世帯で日中も車が自宅にあることが多い(週末も近場の買い物程度)。

  • ペルソナB(平均的なファミリー型): 年間走行距離約10,000km。平日は通勤・通学で昼間は車が不在(夜間帰宅)、週末は買い物や郊外レジャーで日中も車を利用することがある。

  • ペルソナC(高走行・外出型): 年間走行距離約15,000km。平日は長距離通勤や営業で昼間はほぼ不在、週末もドライブ旅行など日中に遠出することが多いアクティブ世帯。

上記3ペルソナは、それぞれガソリン車からEVへ置き換わるケースを比較します。走行距離以外の自動車スペックは共通とし、従来ガソリン車の燃費=15km/L、EVの電費(電力消費効率)=6km/kWhと仮定します。例えば日産リーフ40kWhモデルのカタログ電費は約6.5km/kWhですが、実走行やエアコン使用を踏まえ6km/kWh程度(1kWhあたり6km走行)と保守的に設定しています。またレギュラーガソリン価格は175円/L(2025年春時点の全国平均小売価格)、電気料金単価は全国平均モデルとして以下を採用しました。

  • ガス併用住宅: 従量電灯相当の標準プラン(昼夜問わず一律単価と仮定し約27円/kWhで計算)。プロパン等ではなく都市ガス併用を想定し、深夜電力割引は適用なし。

  • オール電化住宅: 電力会社のオール電化向け夜間プラン(例:東京電力「スマートライフプラン」)を利用。昼間料金35.76円/kWh、深夜(午前1~6時)料金27.86円/kWhを適用します(燃料調整費や再エネ賦課金は考慮外)。加えて夜間電力で稼働するエコキュート(家庭用蓄熱式電気温水器)を使用している前提とします。このためオール電化住宅ではガス併用住宅よりも電力使用量は多いものの、深夜帯の安価な電力を活用可能です。

◎ 太陽光発電・蓄電池システムの前提
いずれの世帯も既築住宅で太陽光発電と定置型蓄電池を導入済みです。太陽光パネル容量は平均的な5kW程度、年間発電量は約5,000kWh(地域によって変動しますが全国平均の日射量ベースで1kWあたり年間1,000kWh程度と想定)とします。昼間の太陽光電力はまず家庭内負荷に優先利用され、余剰電力は定置型蓄電池(容量10kWh程度を想定)に充電、蓄電池が満充電になった時点でさらに余剰があればグリッドへ売電されます。FIT期間満了後の余剰電力買取単価は約8円/kWhが一般的で、売電収入より自家消費メリットの方が大きいため、当シミュレーションでも太陽光はできる限り自家消費(蓄電・EV充電)に回す運用を前提とします。

◎ EV充電・V2H運用ルール
V2H機器(ニチコンやシャープ、オムロン製など)の導入により、EVは家庭用蓄電池と並んで家のエネルギー管理に組み込まれるものとします。具体的な運用イメージは以下の通りです。

  • 日中(太陽光余剰あり): 家庭用蓄電池が満充電になった後、EVを太陽光余剰電力で充電します(EVが自宅にいる場合に限る)。EVが不在の場合、余剰はやむなく売電。

  • 夕方~夜間: 太陽光発電が止まった夕方以降は、まず家庭用蓄電池→次にEVから放電(V2H給電)し、可能な限りグリッドからの購入電力量を削減します。特にオール電化プランでは夜間1時までが割高時間帯のため、例えば20時~24時をEV放電時間帯に設定し、その間の家の電力をEV供給でまかなう運用を想定します。

  • 深夜帯: オール電化プランでは1~6時が安価な時間帯なので、この間に不足分をグリッド充電します(家の蓄電池とEVの双方を必要に応じ深夜電力で充電)。特に翌日走行のためEVバッテリー残量が必要な場合、1時~2時にEVを充電する、といった設定を想定します。

以上の条件設定により、各モデル世帯でEV・V2H導入前(ガソリン車+太陽光+蓄電池)と導入後(EV+V2H+太陽光+蓄電池)の年間エネルギー収支を比較し、ガソリン代の削減額および電気代の増減を算出します。次章より、ペルソナA~Cそれぞれについて詳しい試算結果を見ていきましょう。

ペルソナA:低走行・在宅型の場合の試算結果

  • 世帯像: リタイアまたは在宅ワーク中心の夫婦世帯など。車の年間走行距離は約7,000kmと少なめで、平日日中は車が自宅駐車場にある時間が長い。買い物等で週に数回、近距離ドライブに使う程度で、休日も遠出はほとんどしない。

● ガソリン車 → EV 切り替えによる燃料費差(年間)
ペルソナAの年間走行7,000kmをガソリン車で走行した場合、燃費15km/Lなら約467L/年のガソリン消費となります。ガソリン代は1Lあたり175円として約81,700円/年がかかります。

これをEVに置き換えると、必要な電力量は走行7,000km ÷ 電費6km/kWh = 約1,167kWh/年です。EV充電に要する電気代は、太陽光自家消費と深夜充電を組み合わせることで大幅に抑えられます。平日昼間は車が常に自宅にあるため、太陽光発電の余剰が生じれば即座にEVへ充電可能です。ペルソナAは走行距離が少なくEVバッテリー容量にも余裕があるため、年間1,167kWhの大部分を太陽光でまかなえると期待できます。例えば太陽光5kWの平均発電量5,000kWhのうち、蓄電池満了後の余剰が約1,000kWh発生していれば、そのほとんどをEV充電へ振り向け可能です。

したがってEV充電のために新たに購入する電力量はごく一部(冬季や夜間の不足分)で済み、電気代増加は年数千円程度に留まるでしょう。一方でガソリン代約8.17万円/年がゼロになる効果は絶大です。電気代増を差し引いても年間約8万円前後の純削減が実現すると見込まれます。燃料費が完全に電気代に置き換わる場合でも、ガソリン走行1kmあたりの費用は約11.7円(175円/L÷15km/L)ですがEV走行1kmあたりは約4.6円(27円/kWh÷6km/kWh)半分以下で済む計算です。自家消費による実質燃料費はさらに低減できます。

● V2H導入による電気代削減効果
太陽光・蓄電池のみの場合、夜間や悪天時には蓄電池残量が尽き次第グリッド電力に頼らざるを得ません。ペルソナAは日中在宅時間が長いため日中の消費電力量もそれなりにあり、蓄電池に充電しきれない太陽光余剰が生じやすい一方、夜間の電力購入もある程度発生していました。

そこにV2H対応EVが加わることで「もう1台の大容量蓄電池」が出現します。昼間余剰電力をEVへ蓄えて夜に放電することで、従来は賄いきれなかった夜間電力もカバー可能になります。ペルソナAではEVが常に自宅にあるため、夕方~翌朝にかけてほぼグリッド電力ゼロで生活できる日が多くなるでしょう。年間で見れば、EV+V2H導入前に比べて購入電力量を大幅カットでき、電気代も削減されます。

例えば太陽光・蓄電池のみでは年間1,000kWhを電力会社から買っていたものが、EV蓄電のおかげで半分以下の300~500kWh程度まで減少する、といったイメージです(天候や季節によります)。仮に年間500kWhの購入削減が達成できれば、27円/kWhで13,500円/年の電気代節約です。加えて本来余剰売電していた電力を自家利用することになるため売電収入は減りますが、売電単価8円/kWhで500kWhならわずか4,000円程度の減少に留まります。よってトータルでは約1万円/年の電気代プラス効果が見込まれます。

以上より、ペルソナA(ガス併用)のケースではガソリン代約8.1万円→EV電気代ほぼゼロ年約8万円の節約、電力自給率向上で電気代も年1万円前後節約と、ダブルの経済メリットが得られる試算です。オール電化住宅の場合も傾向は同様ですが、もともと深夜電力を活用している分、電気代削減効果はやや少なくなります。オール電化ではEV充電も深夜帯に行えば単価27.86円と割安なため、太陽光利用メリットがガス併用より相対的に低下します。それでも日中在宅型であれば太陽光でEVを無料充電できる恩恵は大きく、ガソリン代とのネット差引で年間約7~8万円の節約は十分可能です。電気代も、深夜電力主体とはいえV2Hで蓄電池不足分を補えるため年5千円~1万円程度の追加削減が期待できます。

ペルソナB:平均的ファミリー型の場合の試算結果

  • 世帯像: 共働きまたは通勤・通学ありのファミリー世帯。車の年間走行距離は約10,000kmで、平日昼間は車が職場や学校にあり不在。夜間と休日に自宅で充電・給電に利用可能。週末は買い物やレジャーで日中に車を使う日も多い。

● ガソリン代 vs EV電気代の差(年間)
年間1万km走行をガソリン車でこなす場合、燃費15km/Lなら約667L/年の給油が必要で、ガソリン代約116,700円/年の負担です。EVに切り替えると必要電力は10,000km ÷ 6km/kWh = 約1,667kWh/年になります。ペルソナBは平日日中に車がないため、太陽光余剰でEVを充電できるのは主に週末となります。平日は蓄電池が満充電になると余剰は売電せざるを得ず、EVへの充電はできません。

その結果、1,667kWhのEV充電電力のうち太陽光で賄えるのは土日など限られた時間のみで、全体の3割程度(仮に500kWh/年程度)は太陽光から直接充電できても、残り約1,100~1,200kWhはグリッドからの充電に頼る必要があります。とはいえオール電化プランであれば深夜帯にEVを充電すれば単価約28円/kWhと昼間より安く抑えられます。仮に1,200kWhを27.86円で購入すると約33,400円/年の電気代です。

一方太陽光から充電できた500kWh分は本来8円で売っていたものを自家利用する形なので、売電収入の逸失分はわずか4,000円。これで500kWh分の走行(約3,000km分)を賄えています。総合すると、EV充電のため追加で支払う電気代は約33,000円/年+売電逸失4,000円37,000円弱です。

これと比較して削減されたガソリン代は約116,700円ですから、ネットでは年間約80,000円の支出減となります。つまりペルソナBでもガソリンからEVへの切り替えだけで年間8万円前後のコスト削減が実現します。なおガス併用住宅の場合は電気料金プランがフラット単価(約27円/kWh想定)なので、深夜割引がなく充電コストは若干上振れします。それでも1,200kWh×27円≒32,400円で済み、結果的な差引節約額は約84,000円/年とオール電化よりわずかに大きくなります。

● V2Hによる電力自家消費率アップの効果
ペルソナBでは平日昼間に太陽光余剰が生じてもEVが不在のためその分は売電となり、自家消費率向上には貢献できません。しかしV2Hが真価を発揮するのは夜間の電力需要です。共働き家庭では夕方以降に帰宅してエアコンや照明、調理家電などを使うため18~23時頃の使用電力量が多めです。この時間帯、家の蓄電池だけでは賄いきれずにグリッドから買電していたケースも多いでしょう。

V2H導入後はEVが夜間帯の追加電源として機能します。ペルソナBの場合、平日はEV帰宅後に20時~24時をめどにEVから家庭へ放電し(蓄電池と併用)、深夜1時以降に安価な電力でEVを再充電する運用が考えられます。これにより電力単価の高い時間帯の買電を極力ゼロにできるため、電気料金の削減につながります。オール電化プランでは特に19~23時の単価が割高なので、そこの買電削減メリットは大きいです。

具体例として、平日1日あたり夕方~夜に10kWh消費し蓄電池で5kWh賄っても残り5kWhを35.76円で買っていたケースが、V2HによりEVから5kWh供給され買電ゼロになれば1日約179円の節約年間平日ベースで約45,000円の節約になります(※その分EVは深夜に充電し直す必要がありますが、1kWhあたり約8円安い電力に置き換えられる計算です)。

もっとも実際には蓄電池残量との兼ね合いで完全に買電ゼロは難しい日もありますが、EVの放電によって月数百~数千円規模で電気代を圧縮できるのは確実です。ガス併用プランでは元々昼夜単価差がないため、この効果は「深夜安価電力へのシフト」ではなく「純粋に買電量を減らす効果」となります。ペルソナBの場合、蓄電池+EVで夜間需要をほぼまかない、さらに週末日中にEVが余剰電力を吸収できれば、年間トータルの購入電力量を30~40%程度削減できる可能性があります。その場合の電気代節約額は先述の通り深夜割引有無で差がありますが年間2~4万円程度となるでしょう。

総じてペルソナBでは、ガソリン→EVで約8万円/年節約+電気代で数万円節約という結果が期待できます。既設の太陽光・蓄電池をフル活用しつつ、EVとV2Hが不足部分を埋め合わせることでエネルギーコストを大幅に圧縮できるわけです。

ペルソナC:高走行・外出型の場合の試算結果

  • 世帯像: 車好き・旅行好きな家庭や、地方在住で通勤距離が長い世帯。車の年間走行距離は約15,000kmと多めで、平日昼間は長時間外出、週末も遠出ドライブなど車が家にいない時間帯が多い。必要に応じ公共充電スポットも利用。

● ガソリン車とEVのランニングコスト比較
年間1.5万kmを走ると、ガソリン車では燃費15km/Lの場合1,000L/年を消費しガソリン代は約175,000円/年に達します。EVの場合、電費6km/kWhで2,500kWh/年を要します。ペルソナCは平日も休日も日中は家に車がないケースが多く、太陽光余剰でEVを充電できるチャンスは極めて限られます。蓄電池満充電後の太陽光余剰はほぼ全て売電に回らざるを得ず、EVの充電は主に夜間電力や外出先での充電に依存するでしょう(※本試算では家庭内での充電コストに焦点を当て、公共充電の費用は一旦考慮しません)。

自宅で2,500kWhすべてを充電すると仮定すると、ガス併用プランでは約27円×2,500=67,500円/年、オール電化プランでは深夜帯充電主体で約28円×2,500=70,000円/年の電気代がかかります。実際にはこれに加え遠出時の急速充電(有料)の利用もあるかもしれませんが、本稿では自家充電分のみ比較します。ガソリン代175,000円→EV充電費用70,000円への置き換えで、年間約105,000円のコスト減が実現します。

ペルソナCでは走行距離が長いぶんEV化による燃料費節減額が最も大きい(10万円超)ことが分かります。他方、太陽光からの直接充電が期待できないため、ペルソナA・Bに比べEV充電費用(電気代)はかさみます。それでも走行1kmあたりコストは、ガソリン約11.7円に対し自宅充電EVでは4~5円程度に収まり依然安価です。なお遠出時に高速道路の急速充電器を利用する場合は1kWhあたり50円前後かかることもありますが、仮に全電力量の2割(500kWh)を高単価充電に充てたとしても追加コスト25,000円程度トータルではガソリン代よりなお大幅に安く済むでしょう。

● V2Hによる電気代メリット
ペルソナCはEVのエネルギー需要が大きいため、太陽光・蓄電池だけでは日々の電力自給が追いつかない可能性があります。平日昼間はEV不在かつ在宅者も少ない前提では、太陽光発電の多くが売電に回り、蓄電池には最低限の充電しかできません。夕方以降は蓄電池が早々に空となり、深夜電力での補充が必要になるでしょう。

V2Hがあっても、EV自体が長距離走行で電欠に近い状態で戻れば、家庭へ放電する余裕はありません。つまりペルソナCではEVを走行に優先利用するため、家庭への電力供給には限定的にしか使えない場面も多いと考えられます。とはいえ、毎日フル放電ではバッテリーに負荷がかかるため、夜間に一定量は余裕を持って充電しておくでしょう。その結果、例えば平日夜間にEVから2~3kWhだけ放電して家の高単価時間帯消費を一部補うといった使い方は可能です。蓄電池と合わせて賄えればベストですが、不足時は深夜電力で即充電し直す運用になるため、電気代節約効果はペルソナBほど顕著ではありません。

それでも月々数百円でも節約できれば御の字程度の貢献はするでしょう。週末については、遠出しない日在宅していればペルソナB同様にV2H放電で夕方~夜の買電を削減できます。ただし遠出する日は日中不在かつ走行でEV電力消費も多く、帰宅後に放電余力が少ない可能性があります。総じて、ペルソナCではEV・V2Hによる電気代削減効果は小さめ(年間1万円以下)で、経済メリットの大半は燃料費(ガソリン代)の削減によるものになります。ただしこれは裏を返せば、「走行距離が長いユーザーほどEV化メリット(燃料費節約額)は大きい」ことを意味します。太陽光自家消費が追いつかなくても、購入電力で走らせてもガソリンより安いのですから、EV普及にとって追い風と言えます。

まとめ: ペルソナCではガソリン代約17.5万円/年→EV電気代約7万円/年に圧縮され、年間10万円超の節約となります。電気代側の追加メリットは数千円~高くても1万円程度と見込まれ、ペルソナA・Bほどではありません。とはいえ年間合計で約11~12万円の支出減は無視できない大きな効果です。

EV・V2H経済効果シミュレーション結果の比較

上記ペルソナA~Cの試算結果を整理すると表1のようになります(年間ベースの概算値)。それぞれガス併用/オール電化で大きな差異はありませんが、細部で異なるポイントも併せてまとめます。

表1:既設PV・蓄電池住宅におけるEV+V2H導入の年間経済効果(試算まとめ)

ペルソナ 年間走行距離 ガソリン代削減額(A) EV充電増加電気代(B) 電気代削減額(C) 年間総経済効果(A+C-B)
A(低走行) 7,000km 約81,700円 数千円程度(PV余剰ほぼ充当) 約10,000円(買電大幅減) 約80,000円の削減
B(平均) 10,000km 約116,700円 約33,000円(深夜充電主体) 約20,000~30,000円(買電3~4割減) 約80,000~90,000円の削減
C(高走行) 15,000km 約175,000円 約67,500円(ほぼ全量購入) 約5,000~15,000円(買電一部減) 約110,000~120,000円の削減

注: 上表は全国平均的な単価前提で試算した概算値です。実際の経済効果は地域の日射量・電気料金プラン・走行パターンなどで変動します。本試算では売電収入の減少分も考慮しています(太陽光余剰をEV充電へ充当するため)。例えばペルソナBでPV余剰500kWhを充電に回した場合、8円/kWhの売電収入が4,000円減少していますが、その分を夜間購入(約28円)で賄うと14,000円かかるところを無料充電できたとも言えます。そうした効果を含めトータルメリットを評価しています。

上表より、どのペルソナにおいてもEV+V2H導入は年間約8~12万円規模のコスト削減につながることが分かります。特にガソリン代から電気代へのシフトによる節約効果(A-B)がメインで、これはガソリン単価の高さとEVのエネルギー効率の高さによるものです。実際、エネルギー価格が同程度まで高騰した欧州では「EVの方が燃料代が割高になる」現象も一時報告されましたが、日本では現状ガソリン価格が高止まりする一方、EVの電費性能が向上し電力料金も深夜帯を中心に割安に供給されているため、1kmあたりの燃料コストはEVがガソリン車を大きく下回っています

本試算ではEV走行コストはガソリン車の約半分以下3分の1程度で済む計算でした。さらに太陽光発電が余剰電力を供給できればコストはゼロに近づきます。太陽光・蓄電池を既に導入済みの世帯では、この「追加の燃料費がほぼかからない」という恩恵を享受しやすいわけです。

一方で、電気代削減効果(C)は各世帯の消費パターンや電力プランによって差が出ました。日中在宅時間が長いペルソナAや、一部在宅日のあるペルソナBではV2H+EVが自家消費率を最大化し、購入電力量の大幅削減につながりました。逆にペルソナCのように終日不在が多い場合、太陽光余剰を活かしきれず売電となってしまうため自家消費率向上効果は限定的です。それでも夜間の電力を深夜帯に振り替える調整弁としてV2Hが機能する余地はあり、完全に無駄になることはありません。また停電時のバックアップ電源としても、EV+V2Hは既存の蓄電池と合わせて安心感を高めてくれます(経済効果では測れない付加価値と言えます)。

経済効果試算の提示は成約率アップにつながるか?

以上のシミュレーション結果から明らかなように、太陽光発電・蓄電池を設置済みの家庭がEVとV2Hを導入すると大きな経済メリットが得られる可能性があります。この情報を住宅メーカーの営業担当者やV2H機器メーカーの販社がエンドユーザーに提示した場合、契約成約率の向上に寄与するでしょうか?

結論から言えば、適切な試算結果の提示は成約率アップに寄与し得ると考えられます。その理由をいくつか挙げます。

  • 根拠のある数字が背中を押す: 顧客は高額なEVやV2H導入に際し「本当に元が取れるのか?」という不安を抱きます。そこに具体的な節約額やシミュレーション結果を示すことで、漠然とした不安が定量的な理解に転換されます。「我が家の場合、年間◯万円おトク」と示されれば、投資回収の見通しが立ち購買意欲が増すでしょう。実際、営業現場ではデータに基づく提案を行うことで顧客の信頼を得て成約率が向上するケースが多々報告されています(定性的な説明より説得力が増すため)。

  • 既存設備とのシナジーを強調: 太陽光と蓄電池を既に導入済みということは、顧客はもともと省エネ・創エネに関心が高く投資も行ってきた層です。この層に対し、「せっかくの太陽光・蓄電池をさらに有効活用できます」「EV・V2Hを組み合わせればエネルギー自給率が飛躍的に高まります」といったシナジー効果を数字とともに示すことで、「導入済み設備の価値最大化」という付加価値提案になります。 sunk cost(埋没費用)をより活かせるとなれば、提案を前向きに検討してもらいやすくなります。

  • 環境貢献と補助金情報もプラス: 経済効果試算には直接現れませんが、CO2排出削減量など環境面の効果も合わせて提示すれば、SDGsや脱炭素に関心のある顧客の共感を得られます。さらに前述のような国・自治体の補助金情報(「今なら国から◯◯万円の補助が出ます」)も添えることで、「今が買い時」という心理的な後押し材料になります。経済メリット+環境メリット+支援策を総合的にアピールすることで、成約率アップにつながる可能性が高まります。

もっとも、注意すべき点もあります。シミュレーション結果はあくまでモデルケースであり、実際の各家庭で同じ効果が得られる保証はありません。過大な期待を抱かせすぎると後の不満につながる恐れもあります。そのため提示する試算は保守的かつレンジ(幅)をもって示す、前提条件も丁寧に説明するといった配慮が必要です。「最低でもこのくらい、条件が良ければこのくらい節約できそうです」と伝えることで、顧客も理解した上で判断できます。

成約を促進するための戦略・施策

EV・V2H導入の提案を成功させるには、単に試算結果を示すだけでなく、顧客の心に響く提案工夫が求められます。以下に成約しやすくするための具体的戦略をいくつか提案します。

  • ① パーソナライズしたシミュレーション提案: 本記事では3つの代表モデルで試算しましたが、実際の営業では顧客ごとの生活パターンに合わせたシミュレーションを行うことが重要です。例えば平日日中不在が多い家庭にはペルソナC型の収支を、在宅がちな家庭にはペルソナA型の収支を、といった具合にカスタマイズした試算結果を提示しましょう。国際航業の「エネがえるEV・V2H」シミュレーターのような専用ツールを活用すれば、短時間で精緻な試算が可能です。(注:蓄電池導入済み世帯への提案はまだ未対応。太陽光導入済み世帯には対応済み。)自宅の屋根に何枚パネルが載っているか、蓄電池容量はいくらか、車種は何か、といった細かな条件まで反映したリアルな数字を示せれば、顧客の納得感は一層高まります。

  • ② 成功事例・他ユーザーの声を共有: データとともに、既にEV・V2Hを導入した他ユーザーの体験談や満足度を紹介するのも効果的です。例えば「〇〇市のA様邸では、EV導入後に電気代とガソリン代で年間10万円以上節約できています。『太陽光の余りを無駄なく使えて嬉しい』とご好評です。」といった具体的な声を伝えると、顧客は自分ごととしてイメージしやすくなります。これはバンドワゴン効果(他者もやっている安心感)にも通じ、購買意欲を後押しします。

  • ③ トータルエネルギーサービスとして訴求: 単なる設備売りではなく、「お宅のエネルギー収支をトータルで最適化しましょう」というコンサルティング的アプローチを取ります。太陽光・蓄電池・V2H・EV・エコキュート等を含めたエネルギーエコシステム全体の最適提案を行うことで、顧客は将来の電気代高騰リスクや停電不安への包括的な対策として捉えられます。「エネルギー自給自足に近づき、電力会社やガソリンにあまり頼らない暮らしが実現できます」という将来像を示し、その中でEV・V2Hが果たす役割(経済性+安心感)を位置付けましょう。

  • ④ 購入ハードルを下げる施策: 金銭面のハードルには、前述の補助金情報提供のほか、分割払い・リースプランの提案も有効です。例えばEVの残価設定ローンやV2H機器のリース・レンタル制度があれば、「月々◯円で導入でき、その範囲で燃料代が浮きます」と伝えられます。実質的なキャッシュフローがプラスになるように見せられれば、導入を即決しやすくなります。またアフターサービス(長期保証やメンテナンス)の充実も購買意欲に影響するため、「〇年間の保証付きで安心です」と訴求しましょう。

  • ⑤ 製品信頼性と技術優位性をアピール: V2Hはまだ新しい機器ゆえ、「本当に大丈夫か?」という心配もあります。そこでメーカーの信頼性(ニチコンやシャープといった実績ある企業の製品であること)や、具体的な性能(「停電時にはEVから最大◯kW供給でき、家中の電気を〇日間まかなえます」等)を丁寧に説明することが大切です。特にシャープの新型V2Hは世界最小サイズで既存パワコンと連携可能など利点があるため、住宅メーカーと親和性が高い点を強調するなど、商品知識の向上を図りましょう。

以上の戦略を組み合わせ、「データで納得→共感や安心感で背中押し→具体的な導入像が描ける」状態を作ることができれば、太陽光・蓄電池ユーザーへのEV・V2H提案の成約率は大いに向上するはずです。営業担当者は科学的根拠とストーリー性の双方を備えた提案を心がけてください。

おわりに

太陽光発電と蓄電池を導入済みのご家庭にとって、EV+V2Hの組み合わせ経済性とエネルギー自立をさらに高める最強タッグと言えます。全国平均モデルのシミュレーションでは、年間で数万円から十数万円規模のコスト削減が見込まれる結果となりました。もちろん地域やライフスタイルによって効果は異なりますが、少なくとも「メリットゼロ」というケースは考えにくく、大なり小なりプラスの経済効果が期待できるでしょう。また、環境への貢献度や非常時の備えといった付加価値も加味すれば、EV・V2H導入の意義はさらに高まります。

こうした定量的エビデンスをもとに提案を行うことは、ユーザーの不安解消と購買意欲向上につながり、結果的に成約率アップに寄与すると考えられます。本記事で紹介した試算モデルや営業戦略が、住宅メーカー営業担当者やV2Hメーカー各社(ニチコン、シャープ、オムロン等)の皆様のお役に立てば幸いです。再生可能エネルギー×電動モビリティの連携によるスマートなエネルギー循環が、一層多くの家庭で実現していくことを期待しましょう。

引用・参考文献

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著者情報

国際航業株式会社カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG

樋口 悟(著者情報はこちら

国際航業 カーボンニュートラル推進部デジタルエネルギーG。環境省、トヨタ自働車、東京ガス、パナソニック、オムロン、シャープ、伊藤忠商事、東急不動産、ソフトバンク、村田製作所など大手企業や全国中小工務店、販売施工店など国内700社以上・シェアNo.1のエネルギー診断B2B SaaS・APIサービス「エネがえる」(太陽光・蓄電池・オール電化・EV・V2Hの経済効果シミュレータ)のBizDev管掌。再エネ設備導入効果シミュレーション及び再エネ関連事業の事業戦略・マーケティング・セールス・生成AIに関するエキスパート。AI蓄電池充放電最適制御システムなどデジタル×エネルギー領域の事業開発が主要領域。東京都(日経新聞社)の太陽光普及関連イベント登壇などセミナー・イベント登壇も多数。太陽光・蓄電池・EV/V2H経済効果シミュレーションのエキスパート。Xアカウント:@satoruhiguchi。お仕事・新規事業・提携・取材・登壇のご相談はお気軽に(070-3669-8761 / satoru_higuchi@kk-grp.jp)

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たった15秒でシミュレーション完了!誰でもすぐに太陽光・蓄電池の提案が可能!
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